説明

箔状導体及び配線部材並びに配線部材の製造方法

【課題】金めっきといった表面層が薄くても耐食性に優れる箔状導体、この箔状導体を具える配線部材、及びこの配線部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明箔状導体は、FFCやFPCといった配線部材に利用されるものであり、箔状の基材10の表面の少なくとも一部に、異種の金属で構成される表面層(例えば、金)とこの表面層の下に配される中間層(例えば、ニッケル)11とを具え、中間層11における表面側領域を構成する金属の平均結晶粒径が0.001μm以上0.3μm以下である。表面層の直下を微細組織とすることで、表面層を0.1μm未満と薄くしてもピンホールを低減することができ、耐食性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FFC(Flexible Flat Cable,フラットケーブル)やFPC(Flexible
Printed Circuits,フレキシブルプリント配線板)といった箔状導体を具える配線部材、及びこの配線部材の製造方法、並びにこの配線部材に利用される箔状導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器の接続用、接点用の配線部材としてFFCやFPCが利用されている。FFCやFPCは、一般に、複数の箔状導体が並べられた状態で絶縁フィルムに挟まれて一体化された構成であり、導体の一部を露出させて、この露出箇所に半田を塗布したり、この露出箇所がコネクタの弾性接触片と接触できるようにしている。上記導体の構成材料には、導電率が高い銅や銅合金が汎用されている。
【0003】
上記露出箇所の耐食性の向上などを目的として、銅表面にニッケルめっきを介して金めっきを施したり(特許文献1,2)、銅表面にニッケルめっきを施し、更にその上に防錆剤を塗布すること(特許文献2実施例3)が行われている。銅に直接金めっきを施すと、経時的に銅と金とが合金化して、接点材料として好ましい金の特性(耐食性や柔軟性など)を損なう恐れがあるため、金めっきを行う場合、通常、ニッケルめっきを介在させる。金めっきは、その厚さの下限値を0.1μmとして(特許文献2実施例3)、平均厚さが0.2μm程度となるように形成している。
【0004】
【特許文献1】特開2006-49185号公報
【特許文献2】特開2006-92819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コストの低減などを目的として、金めっきを薄くすることが望まれている。しかし、金めっきを薄くする、特に0.1μm未満とすると、ピンホールが多くなり易く、ピンホールの増加に伴って導体の耐食性が低下し、所望の耐食性を満たさなくなる。例えば、48時間の塩水噴霧試験(例えば、JIS
C 0023(1998))において、腐食生成物が形成されてしまう。特に、表面層が下地金属(ニッケル)よりも貴な金属(金)からなる場合、この表面層にピンホールが存在すると、腐食環境では、下地金属と表面層の構成金属とが局部的な電池を形成し、下地金属が加速的に溶解される異種金属接触反応が起こり得る。従って、金めっきといった表面層が薄くてもピンホールが少なく、耐食性に優れる箔状導体の開発が望まれる。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、その目的は、表面層が薄くても耐食性に優れる箔状導体、及びこの箔状導体を具える配線部材、並びに配線部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
FFCやFPCなどに具える箔状導体において、その表面に設けられた金めっきなどの表面層のピンホール量がある程度少なければ、その上に防錆剤などの封孔処理剤を塗布してピンホールを塞ぐことで(封孔処理を行うことで)、所望の耐食性を満たすことができる。しかし、従来、金めっきといった表面層のピンホール量は、塩水噴霧試験などによる定性的な評価(腐食生成物の目視確認)を行っているものの、定量的な評価を行っていない。そのため、封孔処理により所望の耐食性を維持可能なピンホール量が明らかにされていなかった。そこで、本発明者らは、まず、ピンホール量を定量的に評価し、所望の防食性を満たすピンホールの限界量を求め、表面層が薄い場合でもこの限界量を満たす構造を検討した結果、表面層直下の下地金属(中間層の表面側領域)が特定の微細組織であることが好ましい、との知見を得た。本発明は、この知見に基づくものである。
【0008】
本発明箔状導体は、箔状の基材表面の少なくとも一部に、異種の金属で構成される表面層と、この表面層の下に配される中間層とを具える。表面層は、金、金合金、白金族金属、及び白金族金属合金から選択される少なくとも1種の金属からなる。中間層は、ニッケル、ニッケル合金、錫、及び錫合金から選択される少なくとも1種の金属からなる。また、中間層は、その表面側領域を構成する金属の平均結晶粒径が0.001μm以上0.3μm以下である。上記構成を具える本発明箔状導体は、表面層が薄くても耐食性に優れ、表面層を薄くすることでコストも低減できる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0009】
基材は、本発明導体の主要部を構成する箔状体であり、導電率が高く、延性に富み、適度な強度を有し、他の金属による被覆が容易な銅(Cu)やCu合金からなるものが好適である。Cu合金は、Cu-Ni合金、Cu-Sn合金、Cu-Zn合金、Cu-Ag合金などが挙げられる。基材は、本発明導体の用途に応じて選択するとよく、例えば、本発明導体をFFCに利用する場合、平角線といった薄肉の線材、FPCに利用する場合は、金属箔が利用できる。これらの線材や金属箔の表面にニッケルや錫、及びこれらの合金が被覆された被覆線材や被覆箔、例えば、めっき線材なども基材に利用できる。被覆線材や被覆箔は、銅や銅合金からなる線材や箔にめっきなどの被覆を行った後、圧延したものが挙げられる。基材の厚さは、0.01〜0.05mmが挙げられ、より具体的には、FFCは、0.025〜0.050mm、FPCは、0.018mm程度が挙げられる。本発明導体は、このような基材の長手方向の少なくとも一部に表面層及び中間層を有する。
【0010】
表面層の具体的な構成金属は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、及びこれら金属の合金が挙げられる。Au合金は、Au-Co合金やAu-Ni合金といったいわゆる硬質金などが挙げられる。白金族金属合金は、例えば、Pd-Ni合金が挙げられる。表面層は、単層でもよいし、上記金属から選択された異なる金属からなる複数層でもよく、例えば、Au層の上にAu合金層を具えた積層構造でもよい。
【0011】
表面層は、比較的高価な金属により構成されることから、コストの低減を考慮すると、薄い方が好ましく、その厚さ(複数層の場合、合計厚さ)は、0.1μm未満、特に0.05μm以下が好ましく、コネクタなどとの接触抵抗の確保を考慮すると0.01μm以上が好ましい。表面層及び後述の中間層の厚さは、形成条件(例えば、めっき法で形成する場合、めっき時間や電流密度など)によって調節できる。本発明導体は、後述のように表面層の下の中間層を特定の組織とすることで、表面層の厚さを0.1μm未満と薄くしてもピンホール量が少ないので(具体的にはピンホール率が3%以下)、封孔処理を行うことで、塩水噴霧試験(48時間)に対して十分な耐食性を有することができる。また、本発明導体は、表面層の厚さや中間層の組織状態などを制御することによって、金めっきの厚さが0.1μm以上である従来の導体のピンホール率(約1%)と同等、或いはそれ以下(1%以下)とすることができる。
【0012】
ピンホール率は、箔状導体と、特定の電解液とを用いた電気化学測定セルを作製し、電解液中での金属の溶解反応に伴う電流値をピンホール量と評価し、このピンホール量が表面層に占める割合とする。具体的には、箔状導体を電解液に浸漬し、この導体に電位を変化させながら印加したとき、ピンホールから露出した金属が電解液中で酸化されることで生じる電流の変化を計測し、この計測結果に基づいてピンホール量(面積)を算出し、ピンホール量(面積)/表面層の面積をピンホール率とする。電解液は、表面層の構成金属と実質的に反応せず、ピンホールから露出される金属(主として中間層の構成金属)と反応し易い特定濃度の酸溶液、具体的には、2〜7Mの硫酸や塩酸を用いる。このような電解液に対して、金、金合金、白金族金属、及び白金族金属合金は実質的に反応せず、ニッケル、ニッケル合金、錫、及び錫合金は反応する(溶解する)ことを確認している。また、表面層のピンホールが中間層に連通して基材まで達しており、基材が露出されることもあるが、銅や銅合金も上記電解液と反応すると共に、ニッケルなどの中間層の構成金属と同様の電流変化をとるため、上記電気化学測定セルを利用することで、このようなピンホールも合わせて定量することができる。
【0013】
中間層の具体的な構成金属は、ニッケル(Ni)、Ni合金、錫(Sn)、及びSn合金が挙げられる。Ni合金は、Ni-P合金,Ni-Bi合金,Ni-Sn合金,Ni-Co合金などが挙げられる。Sn合金は、Sn-Ag合金やSn-Bi合金といった鉛フリー半田などが挙げられる。Sn-Ag合金やSn-Bi合金は、Snウイスカが生じ難い。中間層も単層でも上記金属から選択された異なる金属からなる複数層でもよく、例えば、Sn層の上にNi層を具えた積層構造でもよい。
【0014】
中間層の厚さ(複数層の場合、合計厚さ)は、0.5μm以上5μm以下が好ましく、1.0μm以上2.0μm以下がより好ましい。中間層の厚さが0.5μm以上であると、中間層自体のピンホールが低減され、中間層の下に存在する基材が露出され難い。そのため、露出した基材の上に直接表面層が形成されて両者が合金化することで、表面層の特性が劣化することを抑制できる。一方、中間層の厚さが5μm以下であると、本発明導体を具える配線部材とコネクタとの嵌合時の応力などで中間層が剥離することを防止できる。
【0015】
本発明導体の最も特徴とするところは、中間層における少なくとも表面側領域の構成金属の平均結晶粒径が0.001μm以上0.3μm以下であることにある。より好ましい範囲は、0.01μm以上0.20μm以下である。表面側領域は、中間層が単層の場合、表面層と中間層との境界から、中間層の厚さ方向に中間層の厚さの半分までの領域とし、複数層の場合、表面層の直下の層とする。中間層の全体に亘って、平均結晶粒径が上記範囲を満たすことが好ましい。平均結晶粒径が0.001μm未満では、中間層の表面の硬度が大きくなり、本発明導体を具える配線部材をコネクタに挿入する際やコネクタから引き抜く際に、中間層が十分に変形できず、接点不良となる恐れがある。一方、平均結晶粒径が0.3μm超では、表面層が薄くなるにつれてピンホールが形成され易くなる。本発明導体は、表面層と接する中間層の表面側領域の平均結晶粒径を上記範囲に制御することで、表面層の直下が緻密で平滑な状態となり、この上に表面層を形成することで、表面層にピンホールが形成され難くなると考えられる。平均結晶粒径の測定方法の詳細は後述する。
【0016】
表面層及び中間層の形成方法は、電解めっきや無電解めっきといっためっき法の他、CVD法やPVD法といった蒸着法(ドライプロセス)などが挙げられる。形成方法は、金属の種類により適宜選択できる。例えば、金やニッケルは電解めっきにより、Ni-P合金は無電解めっきにより形成可能である。めっきは、通常、C,S,Oなどの不純物が含まれる。従って、上記各層がめっき法により形成されたものである場合、上記不純物の含有を許容する(但し、合計で0.1質量%以下とする)。
【0017】
中間層を上述のような微細組織にするには、例えば、めっき法により形成する場合、光沢剤を含有しためっき浴を用いることが挙げられる。ここで、本発明導体は、中間層の上に更に表面層を施すことから、中間層の形成に当たり、装飾性の向上を主たる目的とする光沢剤は必要ない。しかし、本発明導体は、表面層のピンホールの低減を目的として、中間層を微細組織とするために敢えて光沢剤を利用する。例えば、ニッケルやニッケル合金といったニッケル系めっきを行う場合、ニッケル系めっきで一次光沢剤、二次光沢剤として利用されている種々のものが利用できる。一次光沢剤のみでも、結晶粒を微細化することができ半光沢の外観が得られるが、一次光沢剤及び二次光沢剤の双方を用いると、結晶粒をより微細化し易く、平滑な表面が得られ、高い光沢を有する。二次光沢剤のみであると、電流密度の適用範囲が小さい。具体的な一次光沢剤は、サッカリン、ビニルスルホン酸、1,3,6ナフタレントリスルホン酸ナトリウムなど、具体的な二次光沢剤は、2ブチン1,4ジオール、プロパギルアルコール、クマリンなどが挙げられる。また、例えば、錫めっきや錫めっき合金といった錫系めっきを行う場合、具体的な光沢剤は、芳香族有機アミンと脂肪族アルデヒドとケトンとを酸又はアルカリ触媒下で合成した物、芳香族アルデヒド、ケトン類が挙げられる。或いは、光沢剤を用いないで中間層を微細化する一手法として、パルスめっき法(高電流密度の通電と休止とをミリ秒単位で繰り返す方法)を利用することが挙げられる。一方、中間層を蒸着法により形成する場合、成膜条件を調整して、急冷凝固に近い条件にすることが挙げられる。例えば、スパッタリング法の場合、基板を冷却したり、スパッタリング時の電圧を高くするなどが挙げられる。これら特定のめっき浴を用いたり、めっき条件や蒸着条件などを制御することで、中間層全体を均一的な微細粒子からなる微細組織とすることができる。
【0018】
本発明箔状導体は、FFCやFPCといった配線部材、即ち、箔状導体と、この箔状導体を挟むように覆う絶縁被覆層とを具え、箔状導体の一部が上記絶縁被覆層から露出されて電気的接続が可能な接続領域を有する配線部材の導体に好適である。本発明配線部材は、導体が本発明箔状導体で構成され、この箔状導体における接続領域は、腐食環境で腐食され易いため、上記中間層及び表面層を具えて耐食性を高める。
【0019】
表面層の上に、更に封孔処理剤を塗布して封孔処理膜を有する導体とすることで、耐食性を更に高められる。特に、上記接続領域の表面層は、上述のように微細組織からなる中間層の上に設けられているため、厚さが0.1μm未満と薄くてもピンホールが少なく、例えば、塩水噴霧試験(48時間)に対して十分な耐食性を有することができる。封孔処理剤は、種々の有機材料が利用できる。水溶性のものでも、油性のものでもよいし、箔状導体を封孔処理剤に浸漬するだけで被覆可能なものや封孔処理剤に浸漬すると共に通電処理を行うことで被覆可能なものなどから適宜選択するとよい。本発明配線部材を電子機器の接続や接点に用いる場合、部材表面の電気抵抗が大きいと好ましくないため、膜厚が薄くても防食効果の高い封孔処理剤が好ましい。このような封孔処理剤として、水溶性のチオール系有機物が挙げられる。
【0020】
上記本発明配線部材は、以下の工程を具える本発明製造方法により製造することができる。
(1)箔状の基材と、この基材を挟むように覆う絶縁被覆層とを具え、この基材の表面の一部が絶縁被覆層から露出されたプレ素材を準備する工程。
(2)上記プレ素材の基材において絶縁被覆層から露出された領域に、中間層を形成する工程。
(3)上記中間層の上に表面層を形成する工程。この工程において、上述のように特定のめっき浴を用いたり、めっき条件や蒸着条件を制御することで、中間層における表面側領域を構成する金属の平均結晶粒径を0.001μm以上0.3μm以下にする。
【0021】
なお、従来のFFCの導体として、銅線材にニッケルめっきを施した後、伸線及び圧延した圧延線材の一部が絶縁フィルムから露出されるように絶縁フィルムで挟まれ、露出部分に金めっきが施されたものがある。この導体では、ニッケルめっきが圧延されるため、圧延後においてニッケルめっきの平均結晶粒径を0.001〜0.3μmの範囲に制御することが難しい。これに対し、本発明配線部材は、上述のように中間層の形成後に圧延などの塑性加工を施さないため、中間層の形成条件を制御することで、平均結晶粒径を0.001〜0.3μmの範囲にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明箔状導体は、表面層が薄くてもピンホールが少ないため、本発明導体を具える本発明配線部材は、耐食性に優れる。本発明配線部材の製造方法は、耐食性に優れる本発明配線部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
基材上にニッケルめっき(中間層)及び金めっき(表面層)が順に形成された箔状導体を具えるFFCを作製し、表面層のピンホール率の測定、及び塩水噴霧試験の評価を行った。
【0024】
ここでは、めっき条件を変えて中間層の組織が異なる試料を以下のようにして作製した。まず、複数の基材が並列された状態で絶縁フィルム(絶縁被覆層)に挟まれたプレ試料を作製した。基材は、厚さ:0.035mm、幅:0.3mmの銅平角線(JIS H 3100 タフピッチ銅)とし、100芯の基材を互いに接触しないように離間して並列させた状態で、これら基材の両面を絶縁フィルムで挟み、フィルムの接合面に塗布された接着剤を圧接又は溶融してフィルム同士を接合し、基材間を電気的に絶縁すると共に100芯を一体にしたプレ素材を作製した。絶縁フィルムは、ポリエステル系樹脂からなるもの、接着剤は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなるものが挙げられ、市販品が利用できる。ここでは、一方の絶縁フィルムとして、複数の窓(幅:100芯が露出する大きさ、長さ:5mm)がフィルムの長手方向に等間隔に設けられたもの、他方の絶縁フィルムを窓の無いものをそれぞれ利用し、100芯の基材の一面が上記各窓から露出されるようにした。
【0025】
作製した上記プレ素材に、以下の各処理を施した後、適宜切断して試料を作製した。各試料は、窓を一つ有し、窓から100芯の基材の一部が露出している。ここでは、プレ素材は、フープ材(長尺材)のままめっきなどの各処理が可能な設備を使用し、封孔処理後に所望の長さに適宜切断して試料としたが、上記長尺なプレ素材を切断してからめっきなどの各処理を施してもよい。
【0026】
浸漬脱脂→電解脱脂→ソフトエッチング→酸活性→Niめっき→Auストライクめっき→Au-Coめっき→封孔処理
上記各工程間には、水洗を行う(後述する試料No.200についても同様)。
【0027】
Niめっき工程を除く、各工程の条件を以下に示す。
浸漬脱脂は、NG-30(キザイ株式会社製)を用い、40g/L、50℃、1分で行った。
電解脱脂は、EBR(中央化学株式会社製):35g/L+硫酸:200g/Lを用い、45℃、電流密度5A/dm2で行った。
ソフトエッチングは、アクタン97(メルテックス株式会社製);アクタン97A:90g/L,アクタン97B:150g/Lを用い、室温、30秒で行った。
酸活性は、硫酸を用い、100g/L、40℃、10秒で行った。
Auストライクめっきは、金めっき液としてアシドストライク(日本高純度化学株式会社製)を用い、Au濃度:1.0g/L、40℃、電流密度0.7A/dm2×7秒で行った。
Au-Coめっきは、金めっき液としてオーロブライト-HS2(日本高純度化学株式会社製)、Au濃度:8g/L、Co濃度:0.2g/L、50℃、電流密度1A/dm2×14秒で行った。
Auストライクめっき及びAu-Coめっきの合計目標めっき厚さは、0.05μm(50nm)とした。
封孔処理は、CT-3(日鉱金属株式会社製)を用い、40℃、30秒浸漬して行った(封孔処理膜の厚さ:約20Å、オージェ電子分光装置を用いた公知の手法により測定)。
【0028】
Niめっきは、以下の条件で行った。
(試料No.1)
めっき液の組成 スルファミン酸Ni:450g/L、ホウ酸:35g/L、塩化Ni:10g/L、NSF-X(日本化学産業株式会社製):5mL/L
通電条件 電流密度5A/dm2×1分(目標めっき厚さ:1μm)
【0029】
(試料No.2)
試料No.1で用いためっき液と同じめっき液を用い、通電条件を電流密度5A/dm2×2分(目標めっき厚さ:2μm)とした。
【0030】
(試料No.3)
試料No.1で用いためっき液と同じめっき液を用い、通電条件を電流密度10A/dm2×30秒(目標めっき厚さ:1μm)とした。
【0031】
(試料No.101)
試料No.1で用いためっき液において、光沢剤(NSF-X)を含有していないめっき液を用い、通電条件を電流密度10A/dm2×30秒(目標めっき厚さ:1μm)とした。
【0032】
(試料No.102)
試料No.1で用いためっき液において、光沢剤(NSF-X)を含有していないめっき液を用い、通電条件を電流密度20A/dm2×30秒(目標めっき厚さ:2μm)とした。
【0033】
(試料No.200)
この試料は、直径φ0.58mmの銅線(JIS H 3100 タフピッチ銅)にニッケルめっき(厚さ5μm)を施した後、直径φ0.117mmまで伸線し、圧延ロールで厚さ0.035mm×幅3mmに平角化した圧延線材を基材とし、この基材と上述した窓付きの絶縁フィルムとを用いて100芯の長尺材を作製し、この長尺材に、浸漬脱脂→電解脱脂→ソフトエッチング→酸活性→Auストライクめっき→Au-Coめっき→封孔処理という処理を順に施した後、適宜切断して試料を作製した。この試料No.200は、試料No.1などと同様に窓を一つ有し、窓から100芯の基材の一部が露出している。試料No.200のニッケルめっきは、めっき液にスルファミン酸Niを用いて行った(光沢剤使用せず)。Auストライクめっき及びAu-Coめっきは、試料No.1と同様のメッキ液を用い、めっき時間を長くして、合計目標めっき厚さを0.1μmとした。
【0034】
得られた各試料No.1〜3,101,102,200について、ニッケルめっきの厚さ、金めっきの厚さ、ニッケルめっきの平均結晶粒径、金めっきのピンホール率、及び塩水噴霧試験の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
金めっきの厚さは、市販の蛍光X線膜厚計を用いて、ニッケルめっきの厚さ、及びニッケルめっきの平均結晶粒径は、各試料のFIB-SIM像を用いて測定した。FIB-SIM像は、各試料の表面層の上に保護材(材質:Pt)を配置した状態でFIB(Focused
Ion Beam)加工して得られた断面をSIM(Scanning Ion Microscopy)で観察した像である。図1は、各試料(No.200を除く)のFIB-SIM像を示す(1万倍)。図1に示す各試料において下方側から順に、領域10は基材(銅平角線)、領域11は中間層(ニッケルめっき)、領域12は保護材を示す。表面層(金めっき)は、領域11と領域12との間に存在する。
【0036】
ニッケルめっきの厚さは、図1に示すFIB-SIM像の全域に亘って厚さを測定し、その平均値とした。試料No.200は、ニッケルめっき後に圧延を行うため、ニッケルめっきに厚さ分布(中央部分及び端縁近傍が厚く、中央部と端縁との間が薄い)が生じているため、最も厚い箇所と最も薄い箇所の範囲を表1に示す。
【0037】
ニッケルめっきの平均結晶粒径は、以下のように測定する。図1に示す各FIB-SIM像において、基材(銅平角線)の表面に平行に、長さ5μmの直線を引き、この直線上に存在する粒界の数を測定し、以下の式で求めたものをこの像における結晶粒径とする。そして、各試料における任意の3個の断面のFIB-SIM像について結晶粒径を求め、これら結晶粒径の平均を平均結晶粒径とする。
結晶粒径=5μm÷(測定した粒界数+1)
【0038】
ピンホール率は、試料と電解液とを用い、三電極方式の電気化学測定セルを構成して、以下のように測定した。セルは、電解液が注入される容器と、電解液に浸漬される基準電極及び対極並びに測定対象(試料)とを具え、両極及び測定対象の一端(各導体の一端)がそれぞれ、ポテンショスタット/ガルバノスタット装置(市販品)に接続される。ここでは、電解液に5Mの硫酸、基準電極にAg/AgCl、対極にPtを用い、装置をポテンショスタットモードとし、酸化方向に掃引速度:1mV/sで電位を掃引する。装置には、入力手段、記憶手段、演算手段、比較手段、判断手段、表示手段などを具える制御装置(図示せず)を接続させており、電位の掃引、測定結果(電位-電流曲線)の取得などを自動的に行える。
【0039】
表面層にピンホールが存在する場合、測定対象に印加する電位の増大に伴って、ピンホールから露出した金属(ここでは主としてニッケル)が電解液中で酸化されて電流が流れ、ある電位以上になると、この金属の表面が不働化して電流が小さくなる。その結果、ピークを有する電位-電流曲線(アノード分極曲線)が得られる。このピーク電流は、ピンホールから露出する金属の量、即ち、ピンホールの量(面積)に依存するため、ピーク電流を測定することで、ピンホールを定量できる。そこで、各試料のピーク電流を測定する。
【0040】
一方、ピンホールから露出される金属(主として中間層の構成金属)からなる複数の金属板(ここでは、中間層を構成するニッケルと同様の組成のもの)を用意し、各板の一部を露出させてエポキシ樹脂でマスキングし、露出面積(電解液との接触面積)が異なる複数の試料(以下、対照試料と呼ぶ)を作製する。これら対照試料を用いて電気化学測定セルを作製し、測定対象と同じ条件(同じ電解液、同じ濃度、同じ掃引速度)で電流の変化を計測し、ピーク電流と露出面積との相関データを取得する。そして、取得した相関データに各試料のピーク電流を照合し、相関データにおける電流値に対応した露出面積をピンホールの面積として評価する。そして、ピンホールの面積/表面層の面積(ここでは、箔状導体における窓から露出した箇所の合計面積)をピンホール率とする。
【0041】
塩水噴霧試験は、JIS C 0023(1998)に準じ、試験時間:48時間とし、箔状導体の表面を目視により確認して評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図1に示すように、光沢剤を含有するめっき液を用いた試料No.1〜3は、中間層(ニッケルめっき)が表面側領域だけでなく、その全体に亘って均一的な微細粒子から構成されていることが分かる。これに対し、例えば、試料No.101,102は、中間層11に基材10の結晶に倣ったような大型の粒子が存在することが分かる。
【0044】
そして、表1に示すように、中間層の構成金属の平均結晶粒径が0.001〜0.3μmである試料No.1〜3は、表面層(金めっき)の厚さが0.1μm未満と薄くても、ピンホールが3%以下と少なく、塩水噴霧試験(48時間)においても十分な耐食性を示すことが分かる。逆に、平均結晶粒径が0.3μm超である場合(試料No.200)は、表面層(金めっき)の厚さが0.1μm以上でないと、ピンホール率が低くならないことが分かる。また、ピンホール率が3%以下であれば、封孔処理を行うことで、十分な耐食性を有する箔状導体が得られることが分かる。更に、試料No.1〜3において中間層の構成金属の平均結晶粒径が小さいほど、ピンホール率が小さい傾向にあることが分かる。なお、得られた試料No.1〜3について、コネクタへの挿入及びコネクタからの引き抜きを行ったところ、中間層が十分に変形できた。
【0045】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、表面層や中間層の組成や厚さ、平均結晶粒径を変更したり、基材の組成を変更することができる。また、中間層の形成にあたり、光沢剤を用いず、パルスめっき法を利用したり、蒸着法により形成する場合、蒸着条件を制御して微細組織としてもよい。更に、中間層を錫めっきとニッケルめっきとの多層構造としてもよい。その他、基材を挟む一対の絶縁フィルムとして双方共に窓を有するものを利用し、窓部分から基材の全面が露出された長尺材を作製し、この長尺材において窓部分から露出する基材を切断し、切断片の端部に露出された基材が配されるようにし、この切断片の端部に、基材の一面と接するように絶縁性補強材を配置させたものを配線部材としてもよい。或いは、本発明導体は、FPCの導体に利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明箔状導体は、FPCやFFCの導体に好適に利用することができる。本発明配線部材は、電子機器の接続用配線、接点用配線に好適に利用することができる。本発明配線部材の製造方法は、本発明配線部材の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】試料No.1〜3,101,102のFIB-SIM像(顕微鏡写真)である。
【符号の説明】
【0048】
10 基材 11 中間層 12 保護材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箔状の基材表面の少なくとも一部に、異種の金属で構成される表面層とこの表面層の下に配される中間層とを具える箔状導体であって、
前記表面層は、金、金合金、白金族金属、及び白金族金属合金から選択される少なくとも1種の金属からなり、
前記中間層は、ニッケル、ニッケル合金、錫、及び錫合金から選択される少なくとも1種の金属からなり、中間層における表面側領域を構成する金属の平均結晶粒径が0.001μm以上0.3μm以下であることを特徴とする箔状導体。
【請求項2】
前記表面層は、厚さが0.1μm未満であり、かつピンホール率が3%以下であることを特徴とする請求項1に記載の箔状導体。
【請求項3】
箔状導体と、この箔状導体を挟むように覆う絶縁被覆層とを具え、前記箔状導体の一部が前記絶縁被覆層から露出されて電気的接続が可能な接続領域を有する配線部材であって、
前記箔状導体は、請求項1又は2に記載の箔状導体で構成されており、
前記箔状導体における接続領域は、中間層及び表面層を具えることを特徴とする配線部材。
【請求項4】
更に、前記表面層の上に封孔処理膜を有することを特徴とする請求項3に記載の配線部材。
【請求項5】
箔状の基材と、この基材を挟むように覆う絶縁被覆層とを具え、前記基材の表面の一部が絶縁被覆層から露出されたプレ素材を準備する工程と、
前記プレ素材の基材において前記絶縁被覆層から露出された領域に、ニッケル、ニッケル合金、錫、及び錫合金から選択される少なくとも1種の金属からなる中間層を形成する工程と、
前記中間層の上に、金、金合金、白金族金属、及び白金族金属合金から選択される少なくとも1種の金属からなる表面層を形成する工程とを具え、
前記中間層における表面側領域を構成する金属の平均結晶粒径が0.001μm以上0.3μm以下であることを特徴とする配線部材の製造方法。
【請求項6】
前記中間層における表面側領域は、光沢剤を含むめっき浴を用いためっき法により形成することを特徴とする請求項5に記載の配線部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−176646(P2009−176646A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15855(P2008−15855)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】