説明

管厚計測装置

【課題】 超音波探触子を管軸方向及び管軸回り方向にスムースに走査させることが可能で、作業性良く管内の管厚計測を行うことができる。
【解決手段】 超音波探触子11を内部に格納すると共に、被計測面と超音波探触子11との間に充填される接触媒質を放出する放出口12Aを備えた探触子格納部12と、探触子格納部12の導入方向前後に延設され、探触子格納部12を管内に導入する導入部材13と、導入部材13の内部に備えられ接触媒質を放出口12Aに供給する供給ホース14とを備え、探触子格納部12の導入方向前後における導入部材13の外周に、接触媒質を吸収して膨張することで管内面に密着して、被計測面と超音波探触子11との間に充填される接触媒質を保持する接触媒質保持部材16を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子を用いて管内から管厚を計測する管厚計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管の管厚を非破壊で計測する装置としては、超音波探触子を用いるものが各種提案されている(下記特許文献1〜3参照)。
【0003】
下記特許文献1に記載のものは、超音波探触子を備え管内に挿入される本体に磁石を装備させ、コイルバネからなる導入手段の先端に本体を取り付けて管内に導入し、本体を磁石の吸着力で管内面に密着させた状態で、管の肉厚計測を行うものである。
【0004】
下記特許文献2に記載のものは、超音波探触子を内蔵した接触ブロックを管内面に押し付けるアームを設け、管内の中心位置に調芯された状態で導入された検査ヘッドからアームを介して管内面の対向位置に接触ブロックを押し付けた状態で管の肉厚計測や欠陥探傷を行うものである。
【0005】
また、下記特許文献3に記載のものは、細管内面への探傷プローブ挿入棒を屈曲自在な中空棒として、その内部に給水チューブと,信号ケーブルを収納し、挿入棒を螺旋走査させながら、探傷プローブによる超音波探傷試験を行うものである。この従来技術では、探傷プローブの探触子を挟むように管内面に密着する一対の水シールを設けて、その水シール間に接触媒質となる水を供給することが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−273922号公報
【特許文献2】特開2001−4603号公報
【特許文献3】特開平8−86774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波探触子を用いた管厚計測では、超音波探触子と被計測面との間に空気間隙が存在すると、超音波が空気間隙で反射されて計測対象の管厚内に進入しないので、管厚計測を行うことができない。これを防ぐためには、超音探触子と被計測面との間を水等の接触媒質で充満させることが一般に行われている。
【0008】
前述した特許文献1,2に示されたものでは、超音波探触子を格納した部材を磁力やアームによる反力で被計測面に密着させ、その際に生じる微小間隙に接触媒質を供給して空隙を埋めることがなされていると考えられるが、これらの従来技術のように、超音波探触子を格納した部材を磁力やアームによる反力で被計測面に密着させると、その部材を管内で移動させるのに大きな摩擦力が生じることになり、例えば管軸方向及び管軸回り方向に自在に走査させることができなくなるという問題が生じる。また、水等の接触媒質を常時垂れ流し状態で供給することになるので、流出する接触媒質に気泡が混入しやすく、良好な計測結果が得られないという問題も生じる。
【0009】
また、特許文献3に記載されるように、探触子を挟むように管内面に密着する一対のシール部材を設けて、そのシール部材間に接触媒質となる水を供給するようにしたものでは、シール部材が管内面と常時接触して大きな摩擦を生むことになるので、やはり前述した従来技術と同様に、超音波探触子を管軸方向及び管軸回り方向にスムースに走査させることが困難になり、作業性良く管内の管厚計測を行うことができないという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものであって、超音波探触子を管軸方向及び管軸回り方向にスムースに走査させることが可能で、作業性良く管内の管厚計測を行うことができること、超音波探触子と被計測面との間に安定した状態で接触媒質を保持することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明の管厚計測装置は以下の特徴を具備している。
一つには、管内面の被計測面に対して超音波の送受信を行う超音波探触子を内部に格納すると共に、前記被計測面と前記超音波探触子との間に充填される接触媒質を放出する放出口を備えた探触子格納部と、前記探触子格納部の導入方向前後に延設され、前記探触子格納部を管内に導入する導入部材と、該導入部材の内部に備えられ前記接触媒質を前記放出口に供給する供給ホースと、を備え、前記探触子格納部の導入方向前後における前記導入部材の外周に、前記接触媒質を吸収して膨張することで管内面に密着して、前記被計測面と前記超音波探触子との間に充填される前記接触媒質を保持する接触媒質保持部材を設けたことを特徴とする。
【0012】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、前記探触子格納部は湾曲した管内を導通可能な外径と幅を有し、前記導入部材は弾性屈曲可能な可撓性部材からなることを特徴とする。
【0013】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、計測対象の管外に、前記導入部材を導入方向に沿って走査する導入走査手段と該導入部材を管軸回りに回転走査する回転走査手段を備え、前記導入走査手段と前記回転走査手段によって、前記探触子格納部を管軸方向と管軸回り方向に走査することを特徴とする。
【0014】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、前記導入部材は前記回転走査手段の回転走査を前記探触子格納部の管軸回り方向の走査に伝える捩り剛性を備えることを特徴とする。
【0015】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、前記導入走査手段と前記回転走査手段によって設定された走査位置に応じて前記超音波探触子による超音波の送受信を行い、当該走査位置毎の管厚値を計測する管厚値計測手段と、計測された管厚値を評価する管厚値評価手段と、前記管厚値評価手段の評価結果に基づいて計測結果を表示手段に出力する表示出力手段を備えることを特徴とする。
【0016】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、前記表示出力手段は、前記管厚値評価手段の評価結果によって管厚値が設定肉厚より薄いと評価された場合には、前記表示手段に警告表示をすることを特徴とする。
【0017】
また一つには、前述した特徴を有する管厚計測装置おいて、前記表示出力手段は、前記走査位置毎の管厚値を表示画面上にマトリクス表示させ、前記警告表示する場合は、前記走査位置に対応した表示画面位置を警告色で表示することを特徴とする。
【0018】
このような特徴を有する管厚計測装置によると、以下の作用を得ることができる。
探触子格納部の放出口から接触媒質を放出すると、探触子格納部内部に格納された超音波探触子と被計測面との間に接触媒質が充填されることになるが、それと同時に、探触子格納部の導入方向前後に設けられた接触媒質保持部材が放出された接触媒質を吸収して膨張し、これが管内面に密着することになる。そうすると、一対の接触媒質保持部材間に形成された間隙は接触媒質で満たされることになり、その中に探触子格納部内部に格納された超音波探触子が配置されることになる。
【0019】
これによると、接触媒質を放出する前には、接触媒質保持部材は管内面に密着しない状態にして、摩擦抵抗無く探触子格納部を管内に挿入することができる。また、接触媒質を放出した後にも、接触媒質保持部材は接触媒質を吸収して膨張するものであるから、吸収された接触媒質が管内面に密着した接触媒質保持部材の滑材になり、大きな摩擦抵抗を生むことなく、探触子格納部を移動させることができる。また、屈曲した管や扁平状の管内でも管内形状に対応して接触媒質保持部材が変形するため、管内形状の如何に関わらず、大きな抵抗無く探触子格納部を移動させることができる。
【0020】
そして、接触媒質保持部材間には密閉された間隙に接触媒質が供給されるので、安定した状態で接触媒質が超音波探触子と被計測面との間に介在することになり、安定した超音波の送受信を可能にして、精度の高い計測が可能になる。また、膨張した接触媒質保持部材が導入部材を介して探触子格納部を管内で支持することになるので、探触子格納部をほぼ管内中心位置に安定した状態で支持することができ、これによっても、安定した超音波の送受信を可能にして、精度の高い計測が可能になる。
【0021】
これに併せて、探触子格納部が湾曲した管内を導通可能な外径と幅を有し、導入部材が弾性屈曲可能な可撓性部材からなることで、屈曲管に対しても、探触子格納部をスムースに移動させて作業性よく管内を走査させることができる。また、探触子格納部を管内面に密着させる機構や管内に支持する複雑な機構が不要になるので、小口径の屈曲管に対しても、その口径に応じて探触子格納部の外径と幅を設定するだけで、簡単に対応することができる。
【0022】
また併せて、探触子格納部を管内でスムースに移動させることができるので、計測対象の管外に前述した導入走査手段と回転走査手段を配備して、この導入走査手段と回転走査手段によって管内の探触子格納部を走査することができる。すなわち、管外からの走査で、導入部材を介して探触子格納部をスムースに管軸方向と管軸回り方向に走査させることができる。
【0023】
また併せて、導入部材が回転走査手段の回転走査を探触子格納部の管軸回り方向の走査に伝える捩り剛性を備えることで、導入部材に対する回転走査手段によって探触子格納部を精度良く管軸回りに走査することができる。
【0024】
また併せて、前述した管厚値計測手段、管厚値評価手段、表示出力手段を備えることで、安定且つ高精度に計測された管厚値を、適正に評価・確認することができる。
【0025】
また併せて、管厚値評価手段の評価結果によって管厚値が設定肉厚より薄いと評価された場合に、表示出力手段が表示手段に警告表示をするので、前述の評価・確認を確実に行うことができる。
【0026】
また併せて、表示出力手段が、走査位置毎の管厚値を表示画面上にマトリクス表示させ、警告表示する場合には、走査位置に対応した表示画面位置を警告色で表示するので、より視認性の高い評価・確認を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の特徴を有することで、本発明の管厚計測装置は、超音波探触子を管軸方向及び管軸回り方向にスムースに走査させることが可能で、作業性良く管内の所望の範囲で管厚計測を行うことができる。また、超音波探触子と被計測面との間に安定した状態で接触媒質を保持することができるので、安定した精度の高い管厚計測が可能になる。これによって、安定且つ高精度の管厚計測を管内の所望の範囲で作業性良く進行させることができ、計測結果を適正に評価・確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る管厚計測装置を説明する説明図である。管厚計測装置10は、超音波探触子11、探触子格納部12、導入部材13、供給ホース14、信号線15等を構成要素として備えている。
【0029】
超音波探触子11は、管内面1Sの被計測面に対して超音波の送受信を行うものであって、この超音波の送受信によって管厚計測のデータを得るものである。探触子格納部12は、前述した超音波探触子11を内部に格納すると共に、この超音波探触子11を開放する開口穴11Aと被計測面と超音波探触子11との間に充填される接触媒質を放出する放出口12Aを備えている。
【0030】
この開口穴11Aは、図1に示すように、その中心に超音波探触子11が配置するように形成しても良いし、図2に示すように、開口穴11Aを長穴状に形成して、超音波探触子11と長穴状の開口穴11Aの中心が偏芯(偏芯量e)するように形成しても良い。曲がり管部の測定では、湾曲面で反射した超音波が超音波探触子11に戻って来ないことがあり、超音波測定が困難になる場合があるが、このような場合には、前述した偏芯量eを曲がり管の湾曲面の曲率に応じて設定することで超音波測定が可能になる。
【0031】
また、図1において、導入部材13は探触子格納部12の導入方向前後に延設されており、少なくとも一方側に延設された導入部材13には、供給ホース14或いは信号線15等が備えられている。この導入部材13は管軸に沿って導入可能な線状部材であって、これに装着された探触子格納部12を管内に導入するものである。
【0032】
供給ホース14は、導入部材13の内部に備えられ、接触媒質を放出口12Aに供給するものであって、先端が放出口12Aに連通し、基端側が接触媒質の供給源に接続されている。信号線15は超音波探触子11に接続されて発振信号の送信或いは受信信号の伝送を行うものである。
【0033】
そして、本発明の実施形態に係る管厚計測装置10においては、探触子格納部12の導入方向前後における導入部材13の外周に、接触媒質を吸収して膨張することで管内面1Sに密着して、被計測面と超音波探触子11との間に充填される接触媒質を保持する接触媒質保持部材16が設けられている。
【0034】
この接触媒質保持部材16は、例えば、高分子吸収ポリマー等の吸水基材を用い、この吸水基材を布などの透水性収容材に収めて導入部材13外周に装着したもの等を採用することができ、接触媒質を吸収する前は図1(a)に示すように管内面1Sに密着しない状態を維持することができ、放出口12Aから放出される水等の接触媒質を吸収して膨張し、同図(b)に示すように管内面1Sに密着するものである。
【0035】
接触媒質保持部材16が膨張して管内面1Sに密着すると、一対の接触媒質保持部材16,16の間に形成される探触子格納部12周囲の間隙17には、接触媒質が貯まって満たされた状態になり、安定した状態で保持されるようになる。したがって、超音波探触子11と被計測面との間には常時気泡の生じない安定した接触媒質が満たされた状態になる。
【0036】
この際、接触媒質保持部材16は周方向に膨張して管内面1Sに密着するので、多少管内面が扁平な断面形状をしているものであっても、その形状に柔軟に対応して接触媒質保持部材16が変形しながら膨張することになり、管内面1Sの形状に拘わらず十分な接触媒質の保持性能を維持することができる。
【0037】
また、膨張した接触媒質保持部材16は、管内面1Sに密着することになるが、接触媒質保持部材16自体が水等の接触媒質を吸収して膨張したものであるから、管内面1Sと接触媒質保持部材16との接触面で接触媒質が滑材として機能することになり、大きな摩擦力を生じることなく管内面1Sに沿って摺動することが可能になる。したがって、接触媒質保持部材16が膨張した状態では、接触媒質保持部材16が、導入部材13を介して探触子格納部12を管内の略中央部に支持した状態で、管内面1Sに沿って管軸方向或いは管軸回り方向にスムースに移動できることになる。
【0038】
このような実施形態に係る管厚計測装置10による操作手順を概略説明すると、図1(a)に示す状態で導入部材13を管内に導入して、探触子格納部12を所望の計測位置に導く。そして、その位置で放出口12Aから接触媒質を放出させ、探触子格納部12の導入方向前後に配備された接触媒質保持部材16に放出した接触媒質を吸収させ膨張させる。
【0039】
その後は、図1(b)に示すように、接触媒質保持部材16が膨張して管内面1Sに密着した状態になり、一対の接触媒質保持部材16,16間の間隙17が接触媒質で充満された状態になり、この状態で超音波探触子11から超音波の送受信を行い、これによって、被計測面における管厚計測データを得る。その後は、接触媒質保持部材16が管内面1Sに密着した状態で、接触媒質を適宜供給しながら、探触子格納部12を移動させて被計測面の位置を変えて同様に管厚計測データを得る。
【0040】
図3は、本発明の他の実施形態に係る管厚計測装置10aを示したものである(図1に示した実施形態と同一の部位に対しては同一符号を付して重複説明を一部省略する)。この実施形態は、導入部材13の外周に設けられる一対の接触媒質保持部材16の前後両側に一対の支持部材18を設けたものである。この支持部材18を設けることで、探触子格納部12を更に安定な状態で支持することが可能になる。この支持部材18は、管内径よりやや小径の円柱状部材で形成することができ、外周面と管内面1Sとの接触面に大きな摩擦が生じない材質を選択することが望ましい。
【0041】
図4は、U字状の湾曲した管を計測対象として、管厚計測装置10の全体構成を示した説明図である(図1に示した実施形態と同一の部位に対しては同一符号を付して重複説明を一部省略する)。
【0042】
ここで、探触子格納部12は、湾曲した管1内を導通可能な外径と幅を有し、導入部材13は、弾性屈曲可能な可撓性部材からなり、探触子格納部12の外径より若干小さい外径を有している。
【0043】
そして、計測対象の管1外に、導入部材13を導入方向に沿って走査する導入走査手段2と導入部材13を管軸回りに回転走査する回転走査手段3を備え、この導入走査手段2と回転走査手段3によって、探触子格納部12を管軸方向(X方向)と管軸回り方向(θ方向)に走査する。
【0044】
導入走査手段2は、例えば、図示のように、矢印20a方向に回転駆動される回動ローラ20と案内ローラ21a〜21eとからなり、図示省略した駆動手段で回動ローラ20を回転駆動して、導入部材13を導入方向に沿って走査するもの等を採用することができる。また、回転走査手段3は内蔵された図示省略の駆動手段によって導入部材保持部30を軸回りに回転駆動することで、導入部材13を回転走査するもの等を採用することができる。図示された導入走査手段2及び回転走査手段3の構成は一例であって、本発明の実施形態としてはこれに限定されるものではない。
【0045】
また、導入部材13の先端部13Aは必要に応じて牽引手段等に接続可能な構成を具備するものであり、導入部材13の基端部13Bからは供給ホース14と信号線15が引き出されている。
【0046】
導入部材13は、管外に設置された回転走査手段3によって回転走査されて、管内の探触子格納部12を管軸回り方向に走査するものであるから、回転走査手段3の回転走査を探触子格納部12の管軸回り方向の走査に正確に伝える高い捩り剛性を備えることが望ましい。また、湾曲管に導入される場合には、弾性屈曲可能な可撓性部材である必要がある。これらの要件を満たす部材としては、交互重ね巻き(例えば3重交互重ね巻き)したコイルバネ等を採用することができる。
【0047】
引き出された供給ホース14の基端部は接触媒質供給源4(接触媒質収容タンク40及び供給ポンプ41等からなる)に接続され、引き出された信号線15の基端部は管厚値計測手段5に接続されている。また、管厚値計測手段5には、導入走査手段2及び回転走査手段3からそれぞれ走査位置信号が入力される構成になっている。また、管厚値計測手段5には制御手段6が接続されており、制御手段6にはディスプレイ等の表示手段7が接続されている。
【0048】
図5は、管厚値計測手段5及び制御手段6によって計測結果を表示手段7に出力するためのシステム構成例を示した、本発明の実施形態に係る管厚計測装置のブロック図である。
【0049】
ここで、管厚値計測手段5は、導入走査手段2と回転走査手段3によって設定された走査位置に応じて超音波探触子11による超音波の送受信を行い、走査位置毎の管厚値を計測して出力する。すなわち、管厚値計測手段5は、超音波探触子11から得たデータを演算処理(超音波の戻りの時間差から管厚を算出)して管厚値tを得るものであるが、この管厚値tを設定された探触子格納部12の走査位置(X,θ)に対応する値として制御手段6に出力するものであり、制御手段6では、この値を走査位置(X,θ)毎のテーブルデータとして記憶手段に一旦記憶させるようにしてもよい。
【0050】
また、制御手段6は、計測された管厚値tを評価する管厚値評価手段61とこの管厚値評価手段61の評価結果に基づいて計測結果を表示手段に出力する表示出力手段62を備えている。管厚値評価手段61では、例えば、計測された走査位置毎の管厚値t(X,θ)を設定肉厚と比較して、設定肉厚より薄い場合と設定肉厚以上の場合とに分別する等によって、計測結果を評価する。また、設定肉厚との差を等級的に分別して評価するようにしてもよい。この場合設定肉厚は制御手段6の記憶手段に計測対象毎のデータとして予め記憶させておくことができる。
【0051】
管厚値計測手段5から出力される走査位置毎の管厚値t(X,θ)と管厚値評価手段61の評価結果は、表示出力手段62に送られる。表示出力手段62は、一つには、走査位置毎の管厚値t(X,θ)を表示手段7の表示画面上にマトリクス表示させる。また、管厚値評価手段61の評価結果によって管厚値t(X,θ)が設定肉厚より薄いと評価された場合には、表示手段7に警告表示をする。この警告表示をする場合には、例えば、走査位置(X,θ)に対応した表示手段7の表示画面位置を赤色等の警告色で表示する。
【0052】
図6は、このようなシステム構成を有する管厚計測装置10を用いた管厚計測方法のフロー例を示した説明図である。なお、ここで示した管厚計測方法のフローは一例であって、特にこれに限定されるものではない。
【0053】
先ず、導入走査手段2を駆動して、探触子格納部12を計測開始の管軸方向(X方向)位置(Xi)に設定する(S1)。そして、その設定された管軸方向位置(Xi)で管軸回り方向(θ方向)の走査を行い(S2)、管厚値計測手段5で、得られた基データを演算処理して管厚値tを計測する(S3)。そして、設定されたXiにおいて任意のθ位置で計測された管厚値t(Xi,θ)を記憶手段に記憶させる(S4)。
【0054】
その後、再び導入走査手段2を駆動して、探触子格納部12を次の管軸方向(X方向)位置に移動させる(S5)。そして、その移動によって計測終端位置に到達しない場合(NO)には、移動後のX方向位置に基づいて前述したステップS1〜S5を繰り返し、計測終端位置に到達した場合(YES)には、次の評価ステップ(S7)に移行する(S6)。計測終端位置に到達すると、記憶手段には、全走査位置に対応した管厚値t(Xi,θj)が記憶されることになる。ここでは、管軸方向位置(Xi)を固定して、管軸回り方向(θi)を走査するフローを説明したが、これに限らず、管軸回り方向(θi)を固定して、管軸方向位置(Xi)を走査するフローであっても良い。
【0055】
その後、管厚値評価手段61によって、管厚値t(Xi,θj)を設定肉厚と比較して管厚値の評価を行う(S7)。ここでは、設定肉厚との比較を基に、薄厚計測位置(走査位置)及びその位置での管厚値が抽出されることになる(S8)。そして、表示出力手段62では、この薄厚計測位置とその管厚値に対して警告表示設定を行い(S9)、計測結果及びその評価結果に基づいて表示出力がなされる(S10)。
【0056】
図7には、表示手段7による表示例を示している。ここでは、表示画面を二つの表示領域6A,6Bに区分しており、表示領域6Aには、縦方向にX方向位置を対応させ、横方向にθ方向位置を対応させて、管厚値t(Xi,θj)の評価結果をマトリクス表示させている。すなわち、管厚値t(Xi,θj)を設定肉厚と比較して、設定肉厚より薄い管厚値tの走査位置(Xi,θj)に対応した表示位置を色分け又は濃淡表示で表示区分している。そして、表示領域6Bには、表示領域6Aで選択されたXi位置(6A)における管厚値tを、横軸にθ位置を対応させて棒グラフ表示している。
【0057】
このような表示例によると、計測対象における薄厚位置の分布を画面表示で確認することが可能になり、また、どの程度の薄厚状態になっているかを一見して把握することができる。
【0058】
以上説明した本発明の実施形態に係る管厚計測装置の特徴をまとめると以下のとおりである。
【0059】
(1)探触子格納部12における放出口12Aから接触媒質を放出する前は、接触媒質保持部材16は管内面1Sに密着しない状態であり、摩擦抵抗無く探触子格納部12を管内に挿入することができる。また、放出口12Aから接触媒質を放出した後にも、接触媒質保持部材16は接触媒質を吸収して膨張するものであるから、吸収された接触媒質が管内面1Sに密着した接触媒質保持部材16の滑材になって大きな摩擦抵抗を生むことなく、探触子格納部12を移動させることができる。
【0060】
(2)接触媒質保持部材16,16間の密閉された間隙17に接触媒質が供給されるので、安定した状態で接触媒質が超音波探触子11と被計測面との間に介在することになり、安定した超音波の送受信を可能にして、精度の高い管厚値の計測が可能になる。
【0061】
(3)膨張した接触媒質保持部材16が導入部材13を介して探触子格納部12を管内で支持することになるので、探触子格納部12をほぼ管内中心位置に安定した状態で支持することができ、これによっても、安定した超音波の送受信を可能にして、精度の高い管厚値の計測が可能になる。
【0062】
(4)探触子格納部12が湾曲した管内を導通可能な外径と幅を有し、導入部材13が弾性屈曲可能な可撓性部材からなることで、屈曲管に対しても、探触子格納部12をスムースに移動させて作業性よく管内を走査させることができる。
【0063】
(5)探触子格納部12を管内面に密着させる機構や管内に支持する複雑な機構が不要になるので、小口径の屈曲管に対しても、その口径に応じて探触子格納部12の外径と幅を設定するだけで、簡単に対応することができる。
【0064】
(6)探触子格納部12は低摩擦で管内を移動可能であるから、管外に配備された、導入部材13に対する走査手段である導入走査手段2と回転走査手段3によって、探触子格納部12を管軸方向(X方向)と管軸回り方向(θ方向)にスムースに走査させることが可能になる。
【0065】
(7)導入部材13は、回転走査手段3の回転走査を探触子格納部12の管軸回り方向(θ方向)の走査に正確に伝える高い捩り剛性を備えるので、管外からの走査で探触子格納部12を精度良く管軸回りに走査することができる。
【0066】
(8)管厚値計測手段5、管厚値評価手段61、表示出力手段62を備えることで、安定且つ高精度に計測された管厚値tを適正に評価・確認することができる。
【0067】
(9)管厚値評価手段61の評価結果によって管厚値tが設定肉厚より薄いと評価された場合に、表示出力手段62が表示手段7に警告表示をするので、計測結果の評価・確認を確実に行うことができる。
【0068】
(10)表示出力手段62が、走査位置毎の管厚値tを表示画面上にマトリクス表示させ、警告表示すべき走査位置を表示画面上に警告色で表示するので、より視認性の高い評価・確認を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係る管厚計測装置を説明する説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る管厚計測装置を説明する説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る管厚計測装置を説明する説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る管厚計測装置の全体構成を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る管厚計測装置のシステム構成を示す説明図(ブロック図)である。
【図6】本発明の実施形態に係る管厚計測装置を用いた計測方法のフローを示す説明図(フロー図)である。
【図7】本発明の実施形態における表示手段の表示例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1 管
1S 管内面
10,10a 管厚計測装置
11 超音波探触子
11A 開口穴
12 探触子格納部
12A 放出口
13 導入部材
14 供給ホース
15 信号線
16 接触媒質保持部材
17 間隙
18 支持部材
2 導入走査手段
3 回転走査手段
4 接触媒質供給源
5 管厚値計測手段
6 制御手段
61 管厚値評価手段
62 表示出力手段
7 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内面の被計測面に対して超音波の送受信を行う超音波探触子を内部に格納すると共に、前記被計測面と前記超音波探触子との間に充填される接触媒質を放出する放出口を備えた探触子格納部と、
前記探触子格納部の導入方向前後に延設され、前記探触子格納部を管内に導入する導入部材と、
該導入部材の内部に備えられ前記接触媒質を前記放出口に供給する供給ホースと、を備え、
前記探触子格納部の導入方向前後における前記導入部材の外周に、前記接触媒質を吸収して膨張することで管内面に密着して、前記被計測面と前記超音波探触子との間に充填される前記接触媒質を保持する接触媒質保持部材を設けたことを特徴とする管厚計測装置。
【請求項2】
前記探触子格納部は湾曲した管内を導通可能な外径と幅を有し、前記導入部材は弾性屈曲可能な可撓性部材からなることを特徴とする請求項1に記載された管厚計測装置。
【請求項3】
計測対象の管外に、前記導入部材を導入方向に沿って走査する導入走査手段と該導入部材を管軸回りに回転走査する回転走査手段を備え、
前記導入走査手段と前記回転走査手段によって、前記探触子格納部を管軸方向と管軸回り方向に走査することを特徴とする請求項1又は2に記載された管厚計測装置。
【請求項4】
前記導入部材は前記回転走査手段の回転走査を前記探触子格納部の管軸回り方向の走査に伝える捩り剛性を備えることを特徴とする請求項3に記載された管厚計測装置。
【請求項5】
前記導入走査手段と前記回転走査手段によって設定された走査位置に応じて前記超音波探触子による超音波の送受信を行い、当該走査位置毎の管厚値を計測する管厚値計測手段と、計測された管厚値を評価する管厚値評価手段と、前記管厚値評価手段の評価結果に基づいて計測結果を表示手段に出力する表示出力手段を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載された管厚計測装置。
【請求項6】
前記表示出力手段は、前記管厚値評価手段の評価結果によって管厚値が設定肉厚より薄いと評価された場合には、前記表示手段に警告表示をすることを特徴とする請求項5に記載された管厚計測装置。
【請求項7】
前記表示出力手段は、前記走査位置毎の管厚値を表示画面上にマトリクス表示させ、前記警告表示する場合は、前記走査位置に対応した表示画面位置を警告色で表示することを特徴とする請求項6に記載された管厚計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−24680(P2007−24680A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207280(P2005−207280)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】