説明

管端シール溶接方法および管端シール溶接装置

【課題】溶接作業の放置化と溶接不良の低減とを図ることができる管端シール溶接方法および管端シール溶接装置を提供する。
【解決手段】鉛直に設けられた管板4の各管穴41に水平に伝熱管5を挿入し、その管穴41周りの管端51をティグ溶接する管端シール溶接方法において、予め上記管端51に対する電極21の距離を設定すると共に、その電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶し、その後、溶接時に、アーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器や熱交換器などの製作に適用される管端シール溶接方法および装置に係り、電極消耗の判定及びこれに伴う溶接中の自動停止機能に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧力容器や熱交換器として、対向配置された一対の管板間に多数の管を配置したものが知られている。その熱交換器を製作する場合、管板に設けられた挿通穴に管を嵌め込み、その管の端部をシール溶接するようにしている。
【0003】
そのような管端を溶接する管端シール溶接装置が、特許文献1や特許文献2などで提案されている。
【0004】
その管端シール溶接装置では、例えば、タングステン電極から母材にアークを発生させると共に、溶接ワイヤ(溶加材)を加えて溶接を行うGTAW(Gas Tungsten Arc Welding、ティグ溶接)が行われている。
【0005】
そのティグ溶接において、電極が溶接ワイヤと接触することなどで消耗および劣化し、電極の先端部分に欠損が発生する場合がある。そのように欠損が発生すると、溶接アークの集中性が損なわれてしまい、しばしば、溶接不良や溶接欠陥が発生してしまう。
【0006】
したがって、品質を確保する上では、電極の先端部分が正常な形状に保たれていることが必要となる。
【0007】
従来、ティグ溶接では、溶接士が、溶接中に電極の先端部分を絶えず目視にて確認するようにしていた。
【0008】
【特許文献1】特開2003−88956号公報
【特許文献2】特開2001−150132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、そのように溶接士が直接目視により溶接状態を監視するので、例えば、管端シール溶接装置そのものを自動化したとしても、電極の常時監視は自動化できず、このことが、管端シール溶接装置の放置化を妨げる大きな要因となってしまう。
【0010】
また、監視を人的要因に頼るため、監視能力に限界があり、電極先端の欠損状態の見落としが発生してしまう。
【0011】
例えば、上述した熱交換器などにおける管端溶接作業では、個々の継手一つ当たりの溶接時間は90秒程度であるが、一つの管板には、二万本もの多数の継手がある。その管端溶接作業において、電極先端の欠損状態を見落としたまま溶接作業が継続して行われると、不具合に気がついた時点では溶接不良が多発してしまう。このような手遅れになるケースはしばしば見られる。
【0012】
そこで、本発明の目的は上記課題を解決し、溶接作業の放置化と溶接不良の低減とを図ることができる管端シール溶接方法および管端シール溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、鉛直に設けられた管板の各管穴に、水平に伝熱管を挿入し、その管穴周りの管端をティグ溶接する管端シール溶接方法において、予め上記管端に対する電極の距離を設定すると共に、その電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶し、その後、溶接時に、アーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断するものである。
【0014】
好ましくは、上記管端をその伝熱管の周方向に複数に区分して溶接領域を設定し、それら各溶接領域ごとに上記基準アーク電圧を記憶するものである。
【0015】
好ましくは、上記サンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧との差が上記判定電圧差を超える状態が、所定時間以上継続したときに、溶接を中断するものである。
【0016】
好ましくは、上記溶接は、上記電極に、ピーク部とベース部とを有する矩形波パルスを供給して行われ、アーク電圧は、上記矩形波パルスのベース部における中央部からピーク部への立ち上がりまでの区間にて検出されるものである。
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、鉛直に設けられた管板の各管穴に、水平に伝熱管を挿入し、その管穴周りの管端をティグ溶接する管端シール溶接装置において、電極と上記管端間のアーク電圧を検出するための検出手段と、予め上記管端に対する上記電極の距離を設定する電極設定手段と、その電極設定手段にて設定された電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶するための記憶手段と、溶接時に、上記検出手段にてアーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記記憶手段にて記憶した上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断する異常停止手段とを備えるものである。
【0018】
好ましくは、上記異常停止手段に、上記記憶手段を作動させるための記憶スイッチと、上記判定電圧差を入力して設定するための入力装置と、溶接の中断を知らせるための表示装置とが設けられたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶接作業の放置化と溶接不良の低減とを図ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
本実施形態の管端シール溶接装置および管端シール溶接方法は、例えば、対向配置された一対の管板間に多数の伝熱管(以下、管という)を配置した圧力容器や熱交換器などを製作する際に、管を管板に管端シール溶接するために用いられる。
【0022】
まず、図1および図2に基づき本実施形態の管端シール溶接装置を説明する。
【0023】
図1に示すように、管端シール溶接装置1は、電極21を有する溶接ヘッド2と、その溶接ヘッド2に電力、シールドガスおよび冷却水などを供給すると共に管端シール溶接装置1を制御するための制御電源装置(電源)3とを備える。
【0024】
その制御電源装置3から溶接ヘッド2の電極21に電力を供給することで、その電極21と母材間にアークを発生させて、母材を溶接する。より具体的には、図2に示すように、管端シール溶接装置1は、鉛直に設けられた管板4の各管穴41に水平に伝熱管5を挿入し、その管穴41周りの管端51をティグ溶接する。
【0025】
溶接ヘッド2は、鉛直に設けられた管板4に嵌め込まれた管5に挿入される心金22と、その心金22の周りに旋回自在に設けられたトーチ23と、そのトーチ23に保持された電極21と、その電極21およびトーチ23を鉛直面内で旋回させるための電極旋回装置24(図1参照)と、トーチ23の先端部にワイヤ(溶加材)251を供給するワイヤコイル搭載部25(図1参照)とを備える。
【0026】
電極旋回装置24には、電極21の旋回位置を検出するための電極旋回位置センサ(図示せず)が設けられ、その電極旋回位置センサの検出信号が、制御電源装置3に入力される。
【0027】
トーチ23は、電極21を保持する電極ホルダー231と、その電極ホルダー231を前後方向(心金22の軸方向、図2において左右方向)に移動するための電極設定手段232とを備える。
【0028】
その電極設定手段232は、電極ホルダー231が固定され前後方向に移動可能なスライダ233と、そのスライダ233および電極21を前後方向に駆動するため駆動手段(図例ではモータ)234とを有する。
【0029】
以上の電極設定手段232により、管端51に対する電極21の位置が設定される。
【0030】
本実施形態では、電極21がタングステン電極からなり、ティグ溶接が行われる。ティグ溶接は、電極21から母材4、5にアークを発生させると共に、溶接ワイヤ251(溶加材)を加えて行われる。
【0031】
その溶接に際して、図4に示すような電極21の欠損や、図5に示すような電極21への溶接ワイヤ251の付着(付着片を符号211で示す)など、電極21の先端に異常が生じる場合がある。
【0032】
ここで、図4に示すように、電極21が消耗、欠損すると電極−母材間のアーク長が長くなりアーク電圧は高くなる。他方、図5に示すように、電極21に溶接ワイヤ251が付着すると電極−母材間が短絡に近い状態となり、アーク電圧が低くなる。
【0033】
このことから、本願発明者は、電極21の先端の異常(欠損や溶接ワイヤ251の付着)が溶接電圧信号(アーク電圧)に影響を与えることに着目し、その溶接電圧信号の変化を利用してアーク電圧値が適正範囲から逸脱したとき、電極21の異常発生を検知して、自動停止する管端シール溶接装置1および方法を考案した。
【0034】
すなわち、本実施形態の管端シール溶接装置1は、電極21と上記管端51間のアーク電圧を検出するための検出手段と、上記管端51に対する上記電極21の距離を設定する電極設定手段232と、その電極設定手段にて設定された電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶するための記憶手段と、溶接時に、上記検出手段にてアーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記記憶手段にて記憶した上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断する異常停止手段とを備える。
【0035】
本実施形態では、制御電源装置3が、検出手段と記憶手段と異常停止手段とをなす。
【0036】
制御電源装置3は、溶接ヘッド2に、信号を送受信すべく、かつ電力、冷却水およびシールドガスなどを供給すべく、複数のケーブルを介して接続される。
【0037】
より具体的には、図1に示すように、制御電源装置3は、電極21および母材への電力の供給するための一対のパワーケーブル31、32と、各パワーケーブル31、32にニップル311、321を介して各々接続され、電極21および母材4、5間のアーク電圧を検出する一対の検出用ケーブル33、34と、図示しない信号用ケーブル、冷却水用ケーブル、シールドガス用ケーブルなどを備える。
【0038】
その制御電源装置3は、例えば、図6に示すような矩形波パルスとして、電力(電流)を供給すると共に、その供給した電力と同期した矩形波パルス(図7参照)としてアーク電圧を検出する。
【0039】
図1に戻り、制御電源装置3には、その検出されたアーク電圧や所定の判定電圧差を記憶するためのメモリ35が設けられる。そのメモリ35には、アーク電圧の検出と、基準アーク電圧の記憶と、電極異常時の溶接停止を行うためのプログラムが格納される。
【0040】
制御電源装置3には、上記記憶手段を作動させるための記憶スイッチと、上記判定電圧差を入力して設定するための入力装置と、溶接の中断を知らせるための表示装置とが設けられる。具体的には、制御電源装置3に、入力装置および表示装置をなすタッチパネル36が設けられる。また、制御電源装置3には、制御電源装置3に電極21の交換を認識させるための電極交換スイッチ371が設けられたリモコンBOX37が接続され、その電極交換スイッチ371が上記記憶スイッチをなす。
【0041】
次に、図2から図7に基づき、本実施形態の管端シール溶接装置1を用いた管端シール溶接方法について説明する。
【0042】
まず、本実施形態の管端シール溶接方法の概略を説明する。
【0043】
図2に示すように、本実施形態の管端シール溶接方法は、鉛直に設けられた管板4の各管穴41に水平に伝熱管5を挿入し、その管穴41周りの管端51をティグ溶接する。具体的には、予め上記管端51に対するタングステン電極21の距離を設定すると共に、その電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶し、その後、溶接時に、アーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断する。
【0044】
さらに、本実施形態では、上記サンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧との差が上記判定電圧差を超える状態が、所定時間以上継続したときに、溶接を中断する。
【0045】
これにより、電極21の異常を確実に検知することができ、その異常時に溶接を中断するので溶接不良を低減することができる。
【0046】
本実施形態では、管端溶接は、鉛直な管板4に挿入された管5に、心金22を挿入し、その心金22の周りに電極21を鉛直面内で旋回させて行われる。
【0047】
ここで、電極21を鉛直面内で旋回させて管端51を溶接する場合、電極21の旋回角度(管5の周方向位置)により母材の溶融池に作用する重力の影響が異なる。例えば、図3において、下側(符号w6や符号w7)の位置では、重力のため溶融池は垂れ気味となり、溶融池(母材)と電極21との距離が短くなる。一方、上側(符号w2や符号w3)の位置では、溶融池(母材)と電極21との距離が長くなる。
【0048】
このように、電極21の旋回角度により溶融池(母材)の状態が異なるため、電極21が正常であっても、旋回角度により電極21と母材4、5間とのアーク電圧が各々異なることになる。
【0049】
そこで、本実施形態では、上記管端51をその管5の周方向に複数(図例では、8つ)に区分して溶接領域w1〜w8を設定し、それら各溶接領域w1〜w8ごとに上記基準アーク電圧を記憶する。
【0050】
これにより、管端溶接時に、電極21の旋回位置によるアーク電圧の変化と、電極異常によるアーク電圧の変化とを判別することができ、電極異常を誤検出してしまうことを防止できる。
【0051】
次に、本実施形態の管端シール溶接方法により電極異常を検知する一例を説明する。
【0052】
以下に説明する例では、タングステン電極21の消耗を検知するため、電極交換後からのアーク電圧の変動を検出し、そのアーク電圧の変動幅が予め定めた設定値(判定電圧差)を超えた場合に、電極消耗と判定して異常状態と認識し、管端シール溶接装置1を自動停止する。
【0053】
まず、溶接士などの作業者は、制御電源装置3のタッチパネル36により、電極異常を判定するための判定電圧差を予め設定する。その判定電圧差は、制御電源装置3のメモリ35に記憶される。また、作業者は、電極設定手段232により管端51に対する電極21の距離を設定する。この距離は、溶接が適切に行われるよう、溶接士などが予め調整、決定しておく。
【0054】
次に、正常な状態の電極21(例えば、交換直後の電極21)を用いて管端溶接を行い、定常状態(図6参照)となったときのアーク電圧(電極21−母材4、5間の電圧)を基準アーク電圧として記憶する。
【0055】
具体的には、電極交換後に、作業者がリモコンBOX37の電極交換スイッチ371を押して、制御電源装置3に交換を認識させる。電極21の交換を認識した制御電源装置3は、その交換直後の電極21にて管端溶接を行うと共に、その溶接時の電極21と母材4、5間のアーク電圧を検出する。さらに、制御電源装置3は、検出されるアーク電圧が定常状態となったときに、各溶接領域w1〜w8(図3参照)でのアーク電圧を基準アーク電圧として、各々記憶する。
【0056】
このように、本実施形態の制御電源装置3は、溶接中のアーク電圧を自動的に読み取り、その読み取ったアーク電圧を電極消耗判定のための基準アーク電圧(良好な状態の電圧)として、自動的に制御電源装置3の内部(メモリ35)に設定・記憶する。
【0057】
次に、制御電源装置3は、その記憶した基準アーク電圧と、溶接中にサンプリングしたアーク電圧(以下、実アーク電圧という)とを比較し、それらの電圧差が、判定電圧差を超えるか否かを判断する。
【0058】
具体的には、制御電源装置3は、サンプリング間隔を10msecに設定して実アーク電圧をサンプリングする。制御電源装置3は、その実アーク電圧と基準アーク電圧との電圧差が、5回連続して判定電圧差以上になったときに、電極異常と判定して溶接動作(例えば、電極21および母材4、5への電力の供給や、電極21の旋回駆動)を、非常停止に準じた扱いで停止させる。
【0059】
つまり、本実施形態では、実アーク電圧と基準アーク電圧との電圧差が判定電圧差を超える状態が、50msec継続したときに、溶接を一時中断することになる。
【0060】
さらに、図1に示すように、制御電源装置3は、作業者に、電極21に異常が発生したこと知らせるべく、タッチパネル36に「タングステン電極異常消耗発生」のメッセージを表示する。
【0061】
その表示を基に、電極に異常が発生していた場合には、作業者は電極21を交換し、電極交換後、作業者がリモコンBOX37の電極交換スイッチ371を押すことで、上述した溶接動作が再開される。なお、電極に異常がなかった場合は、判定電圧差を現在の値よりも大きく設定する。
【0062】
次に、図6および図7に基づき基準アーク電圧および実アーク電圧の検出について説明する。
【0063】
図6に示すように、本実施形態の管端溶接は、電極21および母材4、5に、ピーク部61とベース部62とを有する矩形波パルス(パルス電流)を供給して行われる。例えば、図例では、ピーク時間/ベース時間が0.2sec/0.2secのパルスが用いられる。そのパルスは、溶接開始後t0、スロープアップ区間t1〜t2を経て定常状態t2〜t3となり、溶接を停止する際は、定常状態t2〜t3からスロープダウン区間t3〜t4を経て0となる。
【0064】
制御電源装置3は、電極21の異常を判定する動作の開始・終了を、定常状態のピーク電流、ベース電流区間t2〜t3のみで行い、スロープアップ区間t1〜t2、スロープダウン区間t3〜t4では、行わない。つまり、制御電源装置3は、定常状態t2〜t3にて基準アーク電圧および実アーク電圧を検出するようにしている。
【0065】
さらに、図7に示すように、制御電源装置3は、矩形波パルスのベース部62の後半621にてアーク電圧を検出する。より詳細には、アーク電圧は、上記矩形波パルスのベース部62における中央部からピーク部61への立ち上がりまでの区間621にて検出される。これにより、アーク電圧検出値から立ち下がりスロープ622を除外することができ、立ち下がり当初のノイズによる誤検出を排除できる。
【0066】
このように本実施形態では、制御電源装置3にてアーク電圧に基づき電極異常を検知し管端シール溶接装置1を自動停止することで、人による監視作業を省略することができ、溶接作業の放置化を図ることができると共に、溶接不良の低減とを図ることができる。
【0067】
その他にも、アーク電圧(溶接電圧)という溶接中に簡便に検知・取得できる電気信号を利用することで、電極21を監視するためのシステムを、管端シール溶接装置1の外部で構成した場合と比べて、簡単に構成することができる。
【0068】
また、管端シール溶接装置1が元来有する制御電源装置3やそのプログラムをそのままシステムに利用することができ、管端シール溶接装置1の単純化および低コスト化を図ることができる。
【0069】
また、アーク電圧を用いることで、電極21および母材4、5に供給する電源2次側のパルス信号(矩形波パルス)とサンプリングとを完全に同期することができ、異常検出に必要な信号だけを無駄なく取得すると共に不必要なノイズの混じった信号を排除することができ、これにより検出精度を向上させることができる。
【0070】
ここで、本実施形態の管端シール溶接装置1および管端シール溶接方法の動作および効果を確認すべく、溶接モックアップ試験による検証を行った。これにより、以下の(1)〜(3)の結果が得られた。
【0071】
(1)管端シール溶接装置が異常停止信号を出力することを立ち会いにて確認した。
【0072】
(2)アーク電圧の変動が1V程度であれば、十分に電極異常を検出でき正常に停止動作することを確認した。
【0073】
(3)電圧変動を、矩形波パルスのうちベース時のみ、しかも立ち下がりスロープを除外するため矩形波平行部のうち後半の半分の長さの部分で、検出することで、電極の異常をより効果的に検知できた。また、管端シール溶接装置の制御電源装置を併用することで、パルス信号制御と検出動作が協調しているため、電圧の検出が確実に同期して動作できることを確認した。
【0074】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0075】
例えば、上述した実施形態では、各溶接領域ごとに各基準アーク電圧を記憶させたが、これに限定されず、基準アーク電圧は共通とし各溶接領域ごとに判定電圧差を各々設定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態による管端シール溶接装置を示す。
【図2】図2は、図1のII部拡大詳細図である。
【図3】図3は、図2にIII方向矢視図である。
【図4】図4は、電極が欠損した状態を説明する図である。
【図5】図5は、電極に溶接ワイヤが付着した状態を説明する図である。
【図6】図6は、本実施形態の制御電源装置が供給する矩形波パルスを説明する図である。
【図7】図7は、図6のVII部対応するアーク電圧波形の拡大詳細図である。
【符号の説明】
【0077】
1 管端シール溶接装置
3 制御電源装置(検出手段、記憶手段、異常停止手段)
4 管板
5 伝熱管
21 電極
41 管穴
51 管端
232 電極設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直に設けられた管板の各管穴に、水平に伝熱管を挿入し、その管穴周りの管端をティグ溶接する管端シール溶接方法において、
予め上記管端に対する電極の距離を設定すると共に、その電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶し、
その後、溶接時に、アーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断することを特徴とする管端シール溶接方法。
【請求項2】
上記管端をその伝熱管の周方向に複数に区分して溶接領域を設定し、それら各溶接領域ごとに上記基準アーク電圧を記憶する請求項1記載の管端シール溶接方法。
【請求項3】
上記サンプリングしたアーク電圧と上記基準アーク電圧との差が上記判定電圧差を超える状態が、所定時間以上継続したときに、溶接を中断する請求項1または2記載の管端シール溶接方法。
【請求項4】
上記溶接は、上記電極に、ピーク部とベース部とを有する矩形波パルスを供給して行われ、アーク電圧は、上記矩形波パルスのベース部における中央部からピーク部への立ち上がりまでの区間にて検出される請求項1から3いずれかに記載の管端シール溶接方法。
【請求項5】
鉛直に設けられた管板の各管穴に、水平に伝熱管を挿入し、その管穴周りの管端をティグ溶接する管端シール溶接装置において、
電極と上記管端間のアーク電圧を検出するための検出手段と、
予め上記管端に対する上記電極の距離を設定する電極設定手段と、
その電極設定手段にて設定された電極位置でのアーク電圧を基準アーク電圧として記憶するための記憶手段と、
溶接時に、上記検出手段にてアーク電圧をサンプリングすると共に、そのサンプリングしたアーク電圧と上記記憶手段にて記憶した上記基準アーク電圧とを比較し、両アーク電圧の差が所定の判定電圧差を超えるときに、溶接を中断する異常停止手段とを備えることを特徴とする管端シール溶接装置。
【請求項6】
上記異常停止手段に、上記記憶手段を作動させるための記憶スイッチと、上記判定電圧差を入力して設定するための入力装置と、溶接の中断を知らせるための表示装置とが設けられた請求項5記載の管端シール溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−253196(P2007−253196A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81226(P2006−81226)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】