説明

管継手用シール体

【課題】互いに対向配備される一対の流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体の一層の改良により、管継手構造部分における異音発生を回避させる。
【解決手段】互いに対向配備される一対の流体移送用管1,2のフランジ面5a,9aどうしの間に介装されて、それら両流体移送用管1,2を密封接合する管継手部Tを構成すべく環状に形成される管継手用シール体において、一対の流体移送用管1,2どうしの角度変位を可能とすべく一方のフランジ面5aに球面当接する摺動面10と、他方のフランジ面9aと摺動面11の軸心P方向で当接する側端面11とを備えるとともに、潤滑材jの保持が可能となる凹部Bを側端面11に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気管等において適用される管継手に用いられるシール体、即ち管継手用シール体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管継手用シール体やそれを用いた管継手の例としては、特許文献1や特許文献2にて開示されるものが知られている。即ち、互いに対向配備される一対の流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体であり、そのシール体と一対の流体移送用管とで管継手部(管継手構造)が構成されている。
【0003】
特許文献1においては、上流側排気管(32)のフランジ部材(34)と、下流側排気管(44)のフランジ部(42)〔凹球面部(41)〕との間に、シールリングである球帯状シール体(1)を介装する構造が示されている。帯状シール体(1)は、膨張黒鉛を含む耐熱材と金網から成る補強材とが圧縮混合されることで形成されている。そして、特許文献2においては、上流側排気管(15)のフランジ(19)と、下流側排気管(7)のフランジ(21)〔球面座(25)〕との間に、シールリングである球面ガスケット(23)を介装する構造が示されている。
【0004】
つまり、一方のフランジとシールリングとを球面当接させながらばねによって常時押圧付勢させる構造により、対向配備される流体移送用管どうしがある程度は折れ曲がり変位できるようになっている。従って、振動や熱膨張及び収縮が繰り返される自動車の排気管等には好都合な構成であり、良好なシール性の維持が可能となっている。
【0005】
上記のように、従来の管継手構造及びそのシール構造は比較的振動に強いものであるが、振動が強いとか頻度が多い等の不利な条件によっては、管継手構造部分から異音の生じることがあった。そこで、前述の特許文献1にて記載されているように、シール体を単純な材料ではなく、複合材料を用いて形成することにより、振動を減衰して異音の発生を回避させようとする手段が知られている。
【0006】
しかしながら、複合材料から成るシール体を用いた管継手構造としても、前述した異音発生が若干減ることはあるが、十分に改善されるレベルではなかった。従って、異音解消に向けてはさらなる改善の余地が残されているものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−097713号公報
【特許文献2】特開2008−303828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、互いに対向配備される一対の流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体の一層の改良により、管継手構造部分における異音発生の回避を可能とさせる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、互いに対向配備される一対の流体移送用管1,2のフランジ面5a,9aどうしの間に介装されて、それら両流体移送用管1,2を密封接合する管継手部Tを構成すべく環状に形成される管継手用シール体において、
前記一対の流体移送用管1,2どうしの角度変位を可能とすべく一方の前記フランジ面5aに球面当接する摺動面10と、他方の前記フランジ面9aと前記摺動面11の軸心Z方向で当接する側端面11とを備えるとともに、潤滑材jの保持が可能となる凹部Bが前記側端面11に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の管継手用シール体において、前記凹部Bが、前記側端面11における内径側及び外径側のいずれにも開通しない独立凹み20の複数が周方向に間欠的に分散配備されることで構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の管継手用シール体において、前記独立凹み20が前記軸心Zに関して均等角度毎に配されるとともに、各前記独立凹み20が前記軸心Z方向視で円形を為していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の管継手用シール体において、前記凹部Bが、前記側端面11と同心となる単数の環状溝、又は互いに同心で、かつ、前記側端面11とも同心となる複数の環状溝m1,m2によって構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の管継手用シール体において、前記凹部Bが、前記側端面11を径内外に貫通する単数又は複数の溝mによって構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜5の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、側端面とこれに対応するフランジ面との当接箇所から異音が発生することが判り、従って、潤滑材の保持が可能となる凹部を側端面に形成したのである。側端面とフランジ面との間に潤滑材が介装されることで摺動摩擦が低減されて異音が解消又は抑制されるとともに、凹部に保持される潤滑材の持続供給が可能になり、異音解消又は抑制効果が長期に亘って発揮されるようになる。その結果、互いに対向配備される一対の流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体の一層の改良により、管継手構造部分における異音発生を回避することができる。
【0015】
凹部の形態としては、請求項2のように、複数の独立凹みを周方向に並べて構成するとか、請求項3のように、それら独立凹みを円形として均等角度毎に配備する手段がある。また、請求項4のように、側端面と同心となる単数の環状溝、又は互いに同心で、かつ、側端面とも同心となる複数の環状溝によって構成したり、請求項5のように、側端面を径内外に貫通する単数又は複数の溝によって構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】外摺動タイプの管継手部を示す断面図
【図2】実施例1による管継手用シール体を示し、(a)は側面図、(b)は図2(a)のZ部の拡大図
【図3】管継手用シール体の製造方法を示し、(a)は複合テープ作成工程、(b)は巻回工程、(c)は巻ロール体の斜視図
【図4】凹部の実施例2〜4を示し、(a)は環状周溝、(b)は放射線状開通溝、(c)は斜め開通溝
【図5】シール体別の異音発生に関する特性表
【図6】内摺動タイプの管継手部を示す断面図
【図7】図6の管継手用シール体を示し、(a)は断面図、(b)は側面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明による管継手用シール体、並びにその管継手用シール体を用いた管継手部の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。尚、図4(a),(b),(c)は、図2(a)の破線で囲まれたQ部分に相当する図である。
【0018】
〔実施例1〕
実施例1による管継手用シール体(以下、単に「シール体」と略称する)Aは、図1に示すように、自動車の排気系における管継手部Tに用いられているものである。管継手部Tは、鋼管製で下流側の第1排気管(流体移送用管の一例)1に形成される第1フランジ1Fと、鋼管製で上流側の第2排気管(流体移送用管の一例)2に形成される第2フランジ2Fと、第1フランジ1Fと第2フランジ2Fとをこれら両フランジ1F,2F間に環状のシール体Aが介装される状態で圧接させる圧接機構3とを有して構成されており、第1排気管1とこれに対向配備される第2排気管2とが相対角度変位(相対折れ曲り変位)可能に気密接合(封接合)されている。
【0019】
板金材製の第1フランジ部1Fは、第1排気管1の先端部に溶着等で気密状に外嵌固定される基端筒部4と、基端筒部4に続く拡径湾曲部5、拡径湾曲部5から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部6とを有して形成されている。第2排気管2は直管丸パイプで成り、その基端部に第2フランジ2Fが固着されている。板金材製の第2フランジ2Fは、第2排気管2の先端部に溶着等によって気密状に外嵌固定される胴部7と、胴部7から径外側にて第1排気管1側に凸となるように湾曲形成される当接周部9と、当接周部9から立ち上がり形成されるフランジ部8とを有して形成されている。
【0020】
拡径湾曲部5は、その内周面(フランジ面の一例)5aが管軸心Pにおける第2排気管2側に入り込んだ位置に配される第1点Xを中心とする半径Rの球面(凹球面)となるように形成されており、組付状態(図1に示す状態)においては第2排気管2側に侵入配置されるように設定されている。内周面5aは、シール体A(後述)との当接面として機能する箇所であり、また、当接周部9の外周面(フランジ面の一例)9aも、シール体A(後述)との当接面として機能する箇所に設定されている。第1排気管1の管軸心Pと第2排気管2の管軸心Zとは、両排気管1,2が一直線上に並ぶ図1に示す状態では一致している(P=Z)ので、以後、基本的には管軸心Pを代表として用いることとする。
【0021】
シール体Aは、図1に示すように、第1排気管1側に向かって先細りとなる外周形状を有して第2排気管2の先端部2aに外嵌装備されるリング状のものであり、拡径湾曲部5の内周面5aに当接する湾曲外周面状の摺動面10と、当接周部9の外周面9aに当接する環状の側端面11と、先端部2aに密外嵌される内周面12とを有している。つまり、第1,第2排気管1,2どうしの角度変位を可能とすべく一方のフランジ面である内周面5aに球面当接する摺動面11と、他方のフランジ面である外周面9aと摺動面の軸心P方向で当接する側端面11とを備えるとともに、潤滑材17の保持が可能となる凹部Bが側端面11に形成されている。
【0022】
摺動面10は、第1点Xから距離aで第1排気管1側に寄り、かつ、第1点Xから距離bで管軸心Pの径外側に寄る第2点Yを中心とする半径rの管軸心Pに沿う方向の断面形状を、管軸心Pの回りに回転させて成る回転体としての球面状の面に形成されている。この場合、r<Rであって内周面5aと摺動面10とは線接触(円線接触)するものとなっている。そして、平面状の側端面11と湾曲面状の外周面9aとも線接触している。
【0023】
圧接機構3は、図1に示すように、第1及び第2フランジ1F,2Fに形成されている孔1k、2kに挿通される鍔13a、中間フランジ13b、及び根元大径部13cを有する段付ボルト13と、ナット14と、段付ボルト13に嵌装されるコイルバネ15とを図示のように組付けることにより構成されている。ナット14は第1フランジ部1Fに溶着されていても良い。コイルバネ15の弾性力によって第1及び第2フランジ1F,2Fを互いに接近する方向に常時押圧付勢することにより、第1排気管1と第2排気管2との相対角度変位が可能な管継手部Tを形成及び維持している。
【0024】
段付ボルト13とナット14との締付操作により、コイルバネ15のセット長を変えて第1及び第2フランジ1F,2Fの押圧付勢力を調節設定可能である。この圧接機構3は複数箇所、例えば、管軸心P,Zを中心とする円周上の均等角度毎の複数箇所(2〜4箇所等)に設けられる。圧接機構3により、シール体Aの摺動面10と第1フランジ部1Fの内周面5aとが押圧付勢され、かつ、シール体Aの側端面11と第2フランジ2Fの外周面9aとが押圧付勢される。
【0025】
つまり、一対の流体移送用管どうし1,2の角度変位を可能とすべく一方のフランジ面5aに球面当接する摺動面10と、摺動面10の軸心P方向において他方のフランジ面9aと当接する側端面11とを備えるとともに、潤滑材jの保持が可能となる凹部Bが側端面11に形成されているシール体Aを持つ管継手部Tである。シール体Aの摺動面10と拡径湾曲部5の内周面5aとが互いに線接触しての気密状態を維持しながら角度変位可能であり、走行振動やエンジンの回転振動等によって第1及び第2排気管1,2どうしを相対角度変させるような応力が生じた場合には、管継手部Tにおける前述の相対角度変位によってその応力を吸収させることができるのである。このように、シール体Aの外周面がシール構造における摺動面11となる構造を「外摺動タイプ」と定義する。
【0026】
次に、シール体Aの凹部Bについて詳述する。図2(a),(b)に示すように、側端面11に形成される凹部Bは、側端面における内径側及び外径側のいずれにも開通しない独立凹み(ディンプル)20の多数(複数)が周方向に間欠的に分散配備されることで構成されている。実施例1においては、24箇所の独立凹み20が軸心Zに関して均等角度毎(15度毎)に配されるとともに、各独立凹み20は軸心P方向視で円形を為している。独立凹み20の断面形状は、球面等の湾曲形状、一定深さ持つ矩形形状、その他でも良い。各独立凹み20には耐熱性の潤滑材jが充填される。尚、図2(b)は、図2(a)の破線で囲まれたQ部分の拡大図である。
【0027】
シール体Aの製造方法について説明する。先ず、図3(a)に示すように、膨張黒鉛テープ(幅47mm、厚さt=0.38mm)16aの周りをステンレス線(ステンレス製糸状体の一例)16bでニット編みすることで複合テープ16〔図3(b)参照〕を作成し、例えば、長さ670mmに切断する複合テープ作成工程を行う。次に、図3(b)に示すように、別途作成されている膨張黒鉛シート(幅60mm、長さ310mm、厚さt=0.38mm)18と複合テープ16とを重ねて巻き、図3(c)に示す巻きロール体19を作成する巻回工程を行う。そして、巻きロール体19を、金型(図示省略)に投入して成形工程を行うことにより、シール体A(図2参照)が作成される。金型における側端面11に対応する箇所に加工(凸部形成加工、シボ加工等)を施しておくことにより、成形工程においてシール体Aの側端面11に凹部Bを形成することができる。
【0028】
シール体Aが作成されたら潤滑材jを塗る塗布工程を行う。塗布工程は、耐熱性潤滑材jを摺動面10及び側端面11に塗布し、乾燥させる工程であり、摺動面10と側端面11とに潤滑材を有する(保持する)シール体Aが作成される。尚、側端面11において24箇所の独立凹み20のみに潤滑材jを塗布充填させることで十分であるが、側端面11の全体に塗布させても良い。耐熱性潤滑材jとしては、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物で成るものが好ましいが、それ以外でも良い。潤滑材jの作り方は次に述べる。
【0029】
平均粒子径7μmの窒化ホウ素30重量%とイオン交換水70重量%とをボールミルにて分散させ、窒化ホウ素懸濁液を作る。次に、固形分30重量%の四フッ化エチレン樹脂ディスパージョン30重量%に、前記窒化ホウ懸濁液70重量%を少量ずつ分け加えながら、攪拌・混合を行うことにより耐熱性潤滑材jが作製される。この耐熱性潤滑材jの乾燥後の重量比は、窒化ホウ素の重量比が60〜90%で、かつ、フッ素樹脂の重量比が10〜40%の範囲に設定される。実施例1においては、窒化ホウ素70重量%及び四フッ化エチレン樹脂30重量%である。補強材が15〜80重量%で、潤滑材及び膨張黒鉛が20〜85重量%であり、膨張黒鉛の密度は1.2〜2.0g/cm3、側端面11に塗布される潤滑材は摺動面10に塗布される潤滑材に対して30重量%以下、潤滑材の深さは0.1〜1mmに設定される。
【0030】
〔実施例2〕
実施例2によるシール体Aは、図4(a)に示すように、凹部Bが、互いに同心で、かつ、側端面11とも同心となる内外二つ(複数の一例)の環状溝m1、m2によって構成されているものであり、凹部B以外は実施例1によるシール体Aと同じである。内環状溝m1と外環状溝m2とにより、側端面11は内環状面11a、中環状面11b、外環状面11cに区切られている。図示は省略するが、単一の環状溝でなる凹部Bでも良い。
【0031】
〔実施例3〕
実施例3によるシール体Aは、図4(b)に示すように、凹部Bが、側端面11を径内外に開通する複数の溝mによって構成されている。この場合の溝mは、軸心Z(図2を参照)を中心とする放射状に形成されており、かつ、均等角度毎に側端面11に配置されており、それら放射状溝mには潤滑材jが充填されている。
【0032】
〔実施例4〕
実施例4によるシール体Aは、図4(c)に示すように、凹部Bが、側端面11を径内外に開通する複数の斜め溝m3によって構成されており、実施例3の派生構造である。溝m3の内側開通口21と外側開通口22とは互いに軸心Z(図2を参照)に関する周方向で位置ずれしており、側端面11を斜めに横切るように形成されている。斜め溝m3には潤滑材jが充填されている。
【0033】
次に、外周面9aと側端面11との当接箇所における異音に関する性能評価について説明する。実施例1,2、及び比較例それぞれのシール体Aを排気管の管継手部Tに装着し、排気管上流側を固定して下流側を駆動装置に取付けて上下させることで、角度±3度、周波数12Hzにて100万回の揺動を行った。この時に排気管上流側の開管部からガスバーナーにて加熱し、管継手部Tの温度を550℃に保っている。このテスト結果を図5に示す。尚、図5において、実施例1とは図2に示す実施例1のシール体Aであり、実施例2とは図4(a)に示す実施例2のシール体Aである。比較例のシール体は、側端面11に凹部Bが無く、かつ、側端面11に潤滑材が塗布されない以外は、実施例1によるシール体Aと同じである。
【0034】
100万回の揺動の間にて、所定の回数で周波数4Hzとし、摩擦音の確認と漏洩量の測定を行った。摩擦音の大きさは、摩擦異音が聞こえる管継手部Tから離れた最大の距離にて表した。漏洩量は排気管上流部及び下流部をゴム栓にて塞ぎ、コンプレッサーにて0.03MPaの圧縮空気を加圧した後、コンプレッサーと排気管を繋ぐ配管の間に設置した流量計にて測定し、毎分当りの流量で表した。
【0035】
〔考察〕
異音発生テストの結果、前述の管継手部Tの異音の正体は、第1排気管1のフランジ面5aと摺動面10との擦れによる場合はあまりなく、第2排気管2の第2フランジ面9aと側端面11との擦れによる摩擦音が主原因であることが判明した。つまり、自動車の走行振動や排気ガスの流動に起因して管継手部Tが振動するが、それによってシール体Aが周方向(円周方向)に回動移動し、そのフランジ面9aと側端面11との擦れ、即ち摩擦によって異音(摩擦異音)が発生するのである。
【0036】
比較例のシール体を用いた場合は、25万回の揺動によって異音が発生し、かつ、その異音は10m離れても確認できる大きなものである。これに対して、実施例1,2のシール体を用いたものでは異音発生回数がそれぞれ90万回、95万回であり、シールとしての耐久性を十分カバーする回数であるとともに、可聴範囲が1mというものであって異音の大きさ自体が非常に小さいことが判る。また、管継手部Tとしての漏洩量(漏れ量)はいずれも0.3L/minであり、特に問題とはならない値であった。
【0037】
この新たな知見に基づき、本発明は側端面11に、潤滑材jの保持が可能となる凹部Bを設ける構成を採るに至ったのであり、それによって、管継手部Tにおける異音が解消又は抑制されることを確認した次第である。即ち、フランジ面9aと側端面11との間に潤滑材jが介装されることより、第1フランジ1Fやシール体Aの振動が減衰されて異音が解消又は抑制されるとともに、それら両者9a,11の摺動による摩擦並びにそれによる磨耗を減少させることができる。加えて、凹部Bに潤滑材が保持されていて潤滑材jをフランジ9aと側端面11との当接箇所に持続的に供給可能であるから、前述の異音発生解消又は抑制効果が長期に亘って発揮されるようになる。
【0038】
〔管継手部Tの別構造、及び実施例5のシール体A〕
別構造の管継手部Tは、図6に示すように、シール体Aの内周面がシール構造における摺動面となる「内摺動タイプ」の構造を採るものであり、主に、図1に示す「外摺動タイプ」の管継手部Tと異なる部分について説明する。尚、図1に示す管継手部Tと機能的に同じ箇所には同じ符号を付し、その説明が為されたものとする。
【0039】
第1フランジ部1Fは、第1排気管1の先端部に溶着等で気密状に外嵌固定される基端筒部4と、基端筒部4に続く拡径部9、拡径部9から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部6とを有して形成されている。第2排気管2は、拡径された先端管部2bと、この先端管部2bと管本体部2aとを繋ぐテーパ管部2cとを有して成り、第2フランジ2Fは、先端管部2bの先端部に溶着等によって気密状の外嵌固定される胴部7と、胴部7から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部8と、胴部7から先端側に湾曲縮径されながら延長される先窄まり部5とを有して形成されている。
【0040】
拡径部9は、第1排気管1の軸心Pと平行な筒管部9Bと、軸心Pに直交する縦管部9Aとから成り、シール体Aは、筒管部9Aに内嵌する外周面12と、縦管部9Bに内接する側端面11とを有して拡径湾曲部5に内嵌収容されている。側端面11に当接する縦管部9Aの内面9aが「他方のフランジ面9a」に相当している。先窄まり部5の外周面5a(一方のフランジ面5aの一例)は第2排気管2の管軸心Z上に中心Xを有する半径rの凸球面状外周面に形成されており、その凸球面状外周面5aに相対角度変位可能に当接する凹球面状内周面を呈する摺動面11がシール体Aに形成されている。つまり、シール体Aの内周面が摺動面11に形成され、かつ、第2フランジ2Fの外周面9aが、摺動面11に相対角度変位可能に当接する凸球面状外周面に形成されている。
【0041】
つまり、実施例5のシール体Aは、図7(a),(b)に示すように、筒管部9Aに内嵌される外周面12と、縦管部9Bに軸心Z方向で面当接する側端面11と、フランジ面9aに球面当接する摺動面10とを有する環状のシールリングに構成されている。そして、側端面11には、例えば、独立凹み20等による凹部Bが形成されており、図示は省略するが凹部Bには潤滑材jが充填されている。
【0042】
〔別実施例〕
側端面11に形成される凹部Bの形状は、径方向及び周方向にランダムに多数形成される小さな凹みや切欠き、内径側にのみ開通する凹みや外径側にのみ開通する凹み、その他種々のものが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 流体移送用管
2 流体移送用管
5a フランジ面
9a フランジ面
10 摺動面
11 側端面
20 独立凹み
A 管継手用シール体
B 凹部
Z 軸心
T 管継手部
j 潤滑材
m 溝
m1,m2 環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配備される一対の流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体であって、
前記一対の流体移送用管どうしの角度変位を可能とすべく一方の前記フランジ面に球面当接する摺動面と、他方の前記フランジ面と前記摺動面の軸心方向で当接する側端面とを備えるとともに、潤滑材の保持が可能となる凹部が前記側端面に形成されている管継手用シール体。
【請求項2】
前記凹部が、前記側端面における内径側及び外径側のいずれにも開通しない独立凹みの複数が周方向に間欠的に分散配備されることで構成されている請求項1に記載の管継手用シール体。
【請求項3】
前記独立凹みが前記軸心に関して均等角度毎に配されるとともに、各前記独立凹みが前記軸心方向視で円形を為している請求項2に記載の管継手用シール体。
【請求項4】
前記凹部が、前記側端面と同心となる単数の環状溝、又は互いに同心で、かつ、前記側端面とも同心となる複数の環状溝によって構成されている請求項1に記載の管継手用シール体。
【請求項5】
前記凹部が、前記側端面を径内外に開通する単数又は複数の溝によって構成されている請求項1に記載の管継手用シール体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−47258(P2012−47258A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189763(P2010−189763)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】