説明

粉体焼成用縦型焼成炉

【課題】燃焼効率がよく、かつ、ヒートカーブの制御性に優れた粉体焼成用縦型焼成炉を提供する
【解決手段】円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張した第一ユニット1と、円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、更に加熱手段を備えた第二ユニット2と、円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、ガス導入口と、ガス排出口を備えた第三ユニット3とを複数段積み上げて構成され、予熱域18・焼成域19・冷却域20からなる所望のヒートカーブを実現する粉体焼成用縦型焼成炉であって、焼成炉の最上段に位置し、第一ユニットから構成される被焼成物入口部4と焼成炉の最下段に位置し、第一ユニットまたは第三ユニットから構成される被焼成物出口部5を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉体焼成用縦型焼成炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原料物質等の粉体を工業規模で焼成する手段としては、ローラーハースキルンと呼ばれる連続炉を用いる方法(例えば、特許文献1)や、シャトルキルンと呼ばれる単独炉を用いる方法が採用されていた。
【0003】
しかし、ローラーハースキルンを用いる場合には、粉体の被焼成物を匣鉢と呼ばれるセラミック容器に充填した上で、該匣鉢をセッターと呼ばれるセラミック板に乗せて焼成が行われていた。また、シャトルキルンを用いる場合にも、被焼成物を匣鉢と呼ばれるセラミック容器に充填した上で、棚板と呼ばれるセラミック板に乗せて焼成が行われていた。従って、いずれの場合にも、大量の燃焼熱が被焼成物以外に吸収されてしまうため、焼成効率が低く、省エネルギーの観点から好ましくない問題があった。
【0004】
さらに、ローラーハースキルンは広い設営面積が必要である問題や、炉内を通過した後キルン出口部から搬出された匣鉢やセッター等の窯道具をキルン入口部に再送するための循環型搬送装置が必要であるため設備機構が複雑になる問題や、設備導入に際して多額のコストが必要である問題がある。特に、循環型搬送装置のコストは設備全コストの10%〜25%を占めるため、循環型搬送装置を用いずに粉体の焼成を行う技術への需要があった。
【0005】
また、近年、製品精度向上のため、その原料粉体の焼成処理段階においても精密な温度制御が求められており、客先所望のヒートカーブに速やかに対応可能な粉体焼成用縦型焼成炉が求められている。
【特許文献1】特許3798923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記問題を解決し、循環型搬送装置が不要であり、燃焼効率がよく、かつ、ヒートカーブの制御性に優れた粉体焼成用縦型焼成炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る粉体焼成用縦型焼成炉は、円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張した第一ユニットと、円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、更に加熱手段を備えた第二ユニットと、円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、ガス導入口とガス排出口のうち少なくとも一方を備えた第三ユニットとを複数段積み上げて構成され、予熱域・焼成域・冷却域からなる所望のヒートカーブを実現する粉体焼成用縦型焼成炉であって、焼成炉の最上段に位置し、第一ユニットから構成される被焼成物入口部と、焼成炉の最下段に位置し、第一ユニットまたは第三ユニットから構成される被焼成物出口部を有することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の粉体焼成用縦型焼成炉において、粉体焼成用縦型焼成炉を構成するユニットが、出没自在な支えとして構成される加重分散機構を備えることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の粉体焼成用縦型焼成炉において、加熱手段が、直接ヒーター加熱手段又は誘電加熱手段であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の粉体焼成用縦型焼成炉を用いる粉体焼成方法であって、被焼成物がプレス成型または吸圧造形された粉体であって、炉内に積層配置された該成型体を、該入口部から該出口部へ間欠的に降下移動させながら焼成することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の粉体焼成用縦型焼成炉を用いる粉体焼成方法であって、被焼成物が匣鉢に充填された粉体であって、炉内に匣鉢に充填された粉体を、該入口部から該出口部へ間欠的に降下移動させながら焼成することを特徴とする粉体焼成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る粉体焼成用縦型焼成炉は、複数の円筒状ユニットからなる構成を採用し、各ユニットを円筒状のシェルの内面に断熱材層を設けて耐火壁を内張した第一ユニットと、円筒状のシェルの内面に断熱材層を設けて耐火壁を内張し、更に加熱手段を備えた第二ユニットと、円筒状のシェルの内面に断熱材層を設けて耐火壁を内張し、ガス導入口と、ガス排出口を備えた第三ユニットとして、それぞれ構成しているため、客先の仕様変更にも、ユニットの組み換えまたは増減という簡便な手段で、柔軟に対応することができる。また、焼成のための加熱手段として、電力による加熱手段としたことにより、温度制御の精度を向上させることができ、客先所望の粉体焼成ヒートカーブを、より速やかに、かつ良好な制御性をもって実現することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、粉体焼成用縦型焼成炉を構成するユニットが、出没自在な支えとして構成される加重分散機構を備えたことにより、当該焼成炉内に被焼成物を積層する際に、積層下部の被焼成物に負荷される加重を分散することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、加熱手段として直接ヒーター加熱手段又は誘電加熱手段を採用することにより、被加熱物を急速かつ均一に加熱することができ、ヒートカーブ制御精度が向上する。また、誘電加熱手段は被加熱物自体を発熱させるため、炉体や雰囲気などを加熱するエネルギーが不要となり、焼成効率を改善することができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、プレス成型または吸圧造形された粉体を被焼成物とすることにより、被焼成物載置用のセッターが不要となり、燃焼効率を向上させることができる。更に、炉内に積層配置された該成型体を、該入口部から該出口部へ間欠的に降下移動させながら焼成することにより、搬送機構を用いずに粉体の焼成を行うことができ、設備導入コストを低減することができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、粉体性状のままであっても均一な加熱を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態における粉体焼成用縦型焼成炉の全体構成説明図を示している。図1において、1は第一ユニット、2は第二ユニット、3は第三ユニットであり、4は被焼成物入口部、5は被焼成物出口部である。本実施形態の被焼成物21は、粉体を円形鉢形状にプレス成型したものである。図1に示すように、焼成炉内には、該被焼成物21が複数積層配置されている。該被焼成物21は、入口部4から導入され、出口部5へ向けて間欠的に降下移動される。当該降下移動は、間欠的
【0018】
図2には、各ユニットの構成説明図を示している。
第一ユニット1は、シェル11となる鉄板の内側に、セラミックボード13a、ファイバーブランケット13bからなる耐火断熱層を設け、炉内側に円筒状のアルミナ純度の高い緻密な耐火材12を設けた構造を有している。円筒状耐火材の内径はφ100〜500mm程度とする。焼成する製品の成形性の観点から、より好ましい内径はφ100mm〜300mmである。
【0019】
第二ユニット2は、シェル11となる鉄板の内側に、セラミックボード13a、ファイバーブランケット13bからなる耐火断熱層を設け、炉内側に円筒状のアルミナ純度の高い緻密な耐火材12を設けた構造に加えて、円筒状のアルミナ耐火材12の外部に電力ヒーター14を配置し、その外部を断熱材シェル11となる鉄板でカバーした構造を有している。本発明では、焼成のための加熱手段として、電力による加熱手段を採用したことにより、温度制御の精度を向上させることができ、客先所望の粉体焼成ヒートカーブを、より速やかに、かつ良好な制御性をもって実現することを可能としている。ヒーターのメンテナンス性の観点からは、 半割上のセラミックボードに埋め込まれたニクロムヒーター、鉄クロムヒーター、モリブデンシリコニットヒーターの何れかを採用することが好ましい。
【0020】
これらのヒーターの他に、誘電加熱により被加熱物の昇温を行う手段を採用することも可能である。誘電加熱手段によれば、被加熱物を急速かつ均一に加熱することができるため、ヒートカーブ制御精度の観点から好ましい。また、誘電加熱手段は被加熱物自体を発熱させるため、炉体や雰囲気などを加熱するエネルギーが不要となり、焼成効率の観点でも優れている。
【0021】
第三ユニット3は、シェル11となる鉄板の内側に、セラミックボード13a、ファイバーブランケット13bからなる耐火断熱層を設け、炉内側に円筒状のアルミナ純度の高い緻密な耐火材12を設けた構造に加えて、ガス導入口16と、ガス排出口17を備えた構造を有している。ガス導入口16は、冷却の為の空気又は雰囲気ガスを炉内に導入する機能を有するものである。ガス排出口17は、ガス導入口16から吸気した空気または雰囲気ガスを高温で排気する機能を有するものである。
【0022】
図1に示す焼成炉を用いた粉体焼成方法を以下に説明する。
原料ホッパーに入った粉体6が適宜、プレス機又は吸圧造形機等の成型機7で成型される。型抜及びドーナツ炉内で引っ掛りにくくするという観点から、成型物の形状は、下部が上部より小さい円形鉢形状とすることが好ましい。本発明では、このように粉体6を積層可能な成形物に加工して焼成することにより、粉体焼成用の匣鉢が不要となり、燃焼効率を向上させることができる。
【0023】
成型物はエアーシリンダー等で、焼成炉上段の入口部4まで移送される。炉内には、入口部4から出口部5へ間欠的に降下移動される複数の被焼成物21が積層配置されており、焼成処理後に下部の出口から間欠的に降下移動されていく。
【0024】
具体的には、出口部5に到達した最下段の被焼成物21は、下部の出口部5に設置した昇降テーブル9に受け取られ、その一段上段の被焼成物21は、側面からの製品保持機8で保持される。その後、昇降テーブル9は一定速度で最下段の被焼成物21を降下させる。前記の昇降テーブル9が所定位置まで来ると、所定位置まで降りた最下段の被焼成物21は、横送りされて粉砕機10へ送られる。横送り完了後、昇降テーブル9は再上昇し、保持機8が保持していた被焼成物21を放すと、これに連動して、入口部4の被焼成物21も炉内を降下する。入口部4の被焼成物21が所定の位置まで下がった段階で、次の被焼成物21が炉入口に送り込まれるようになっている。
【0025】
このような構造とすることにより、搬送機構を用いずに粉体の焼成を行うことができ、設備導入コストを低減することができる。
【0026】
焼成する原料によっては 焼成時に被焼成物21同士が固着することがある。この場合には、被焼成物21と被焼成物21の間に円盤上のセラミックプレート又はバージンパルプを挟むことが好ましい。バージンパルプは焼成後にカーボンが残る場合があるが、粉砕前に吹き飛ばす等により除去することが可能である。
【0027】
図3には、予熱域18・焼成域19・冷却域20からなる所望のヒートカーブに対応した各ユニットの組み合わせ例を示している。予熱域18は焼成炉入口付近に設けられ、製品温度を所望の焼成温度まで昇温させる帯域である。焼成域19は予熱域の後域に設けられ、製品を所望の温度で所望の時間、焼成処理する帯域である。冷却域20は焼成域の後域に設けられ、焼成後の製品を所定の温度まで冷却する帯域である。本発明では、複数の円筒状ユニットの組み合わせにより粉体焼成用縦型焼成炉を構成するため、焼成条件変更や炉の仕様変更が生じた場合にも、ユニットの組み換えまたは増減という簡便な手段で、柔軟に対応することができる。
【0028】
(第二の実施形態)
図4は、第二の実施形態における粉体焼成用縦型焼成炉の全体構成説明図を示している。粉体原料の保形性が低い場合には、前記の実施形態のように、事前にプレス成型したものを炉内で積層する方法には適さない。従って、このような場合には、円形鉢形状の匣鉢22に粉体を収めた上、匣鉢22を炉内で積層して粉体焼成を行うことができる。粉体性状の被焼成物は熱伝導率が悪く、一般に均一加熱が困難でるが、当該方法によれば、粉体性状のままであっても均一な加熱を行うことができる。
【0029】
(その他の実施形態)
図5は、焼成炉内の雰囲気調整が必要となる場合に用いる炉内雰囲気調整機構の説明図を示している。還元雰囲気、O2雰囲気等、炉内を要求雰囲気として焼成が必要な場合には 図5に示すように、焼成炉の最上部と最下部に置換室23を有する成型品搬入・排出装置をそれぞれ設置し、炉内に雰囲気ガスを供給、排出して、炉内の雰囲気を調整することができる。図5において、24は上部置換室のAA矢視図、25は下部置換室のBB矢視図を示している。また、26は搬入用シリンダー、27は置換室排出口、28は置換室出口扉、29は置換室入口扉、30は置換室製品搬入機、31は製品搬出装置を各々示している。なお、雰囲気炉の場合には、炉内に直接冷却空気を導入することができないため、冷却域を構成するユニットに間接冷却用ジャケット33を備える構成とする。間接冷却用ジャケットは、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットの何れでもよい。
【0030】
図6は、出没自在な支えとして構成される加重分散機構を備えるユニットの説明図を示している。加重分散機構は、当該焼成炉内に被焼成物を積層する際に積層下部の被焼成物に負荷される加重を分散することができる構造であればよく、構造は特に限定されるものではないが、例えば、図6に示すように、ユニット内に出没自在なシリンダー構造32とし、炉内の被焼成物の中心点に対し対称位置を保持可能に設けられた構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一の実施形態における粉体焼成用縦型焼成炉の全体構成説明図である。
【図2】第1〜第3ユニットの各構成説明図である。
【図3】ヒートカーブに対応した各ユニット組み合わせ例。
【図4】第二の実施形態における粉体焼成用縦型焼成炉の全体構成説明図である。
【図5】炉内雰囲気調整機構の説明図である。
【図6】加重分散機構を備えるユニットの説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 第一ユニット
2 第二ユニット
3 第三ユニット
4 被焼成物入口部
5 被焼成物出口部
6 粉体
7 成型機
8 製品保持機
9 昇降テーブル
10 粉砕機
11 シェル
12 アルミナ耐火材
13a セラミックボード
13b ファイバーブランケット
14 電力ヒーター
15 熱電対
16 ガス導入口
17 ガス排出口
18 予熱域
19 焼成域
20 冷却域
21 被焼成物
22 匣鉢
23 置換室
24 上部置換室のAA矢視図
25 下部置換室のBB矢視図
26 搬入用シリンダー
27 置換室排出口
28 置換室出口扉
29 置換室入口扉
30 置換室製品搬入機
31 製品搬出装置
32 シリンダー構造
33 間接冷却用ジャケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張した第一ユニットと、
円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、更に加熱手段を備えた第二ユニットと、
円筒状のシェルの内面に耐火壁を内張し、ガス導入口とガス排出口のうち少なくとも一方を備えた第三ユニットと
を複数段積み上げて構成され、予熱域・焼成域・冷却域からなる所望のヒートカーブを実現する粉体焼成用縦型焼成炉であって
焼成炉の最上段に位置し、第一ユニットから構成される被焼成物入口部と
焼成炉の最下段に位置し、第一ユニットまたは第三ユニットから構成される被焼成物出口部を有することを特徴とする粉体焼成用縦型焼成炉。
【請求項2】
粉体焼成用縦型焼成炉を構成するユニットが、出没自在な支えとして構成される加重分散機構を備えることを特徴とする請求項1記載の粉体焼成用縦型焼成炉。
【請求項3】
加熱手段が直接ヒーター加熱手段又は誘電加熱手段の何れかであることを特徴とする請求項1または2記載の粉体焼成用縦型焼成炉。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の粉体焼成用縦型焼成炉を用いる粉体焼成方法であって、
被焼成物が、プレス成型または吸圧造形された粉体成型体であって、
炉内に積層配置された該成型体を、該入口部から該出口部へ間欠的に降下移動させながら焼成することを特徴とする粉体焼成方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の粉体焼成用縦型焼成炉を用いる粉体焼成方法であって、
被焼成物が、匣鉢に充填された粉体であって、
炉内に匣鉢に充填された粉体を、該入口部から該出口部へ間欠的に降下移動させながら焼成することを特徴とする粉体焼成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−121856(P2010−121856A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296220(P2008−296220)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】