説明

粉末からなるイオン性水溶性高分子とその製造方法およびその用途

【課題】 輸送コストや環境負荷の小さいイオン性の水溶性高分子とその製造法を提供することであり、凝集剤用途さらに詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して優れた機能を発揮するイオン性の水溶性高分子を提供する。
【解決手段】 界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を、乾燥工程を経ることによって造粒し製造したイオン性水溶性高分子であって、特定のイオン性を発現する粉末からなるイオン性水溶性高分子を提供することで本課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末からなるイオン性水溶性高分子とその製造方法および用途に関するものである。さらに詳しくは、特定のイオン性を発現する粉末からなるイオン性水溶性高分子とその製造方法および用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン性の水溶性高分子は水分散性スラリーや水溶液の増粘剤、分散剤、紙力増強剤、汚泥脱水剤、製紙原料の歩留向上剤、抄紙時の濾水性向上剤などさまざまな分野で使用されており、その形態は、粉末、ペースト状水溶液、油中水型エマルジョンあるいは水性分散液など様々である。
【0003】
汚泥の脱水処理の分野においては、汚泥の発生量の増加、汚泥性状の悪化による難脱水化が進んでおり、汚泥脱水性の改善、脱水ケーキの含水率の低下が強く求められており、製紙工業の分野では、古紙配合量の増加による原料事情の悪化、抄紙速度の増大による生産性の向上などが求められている。
【0004】
このような要望に対し、イオン性の水溶性高分子は様々な改良が進められてきた。特許文献1には、架橋されたカチオン性の油中重合性分散体の汚泥への適用が例示されている。特許文献2には、電荷内包率35%以上のビニル重合系架橋性水溶性イオン性高分子と、電荷内包率5以上、35%未満のビニル重合系架橋性水溶性イオン性高分子を組み合わせた汚泥脱水剤としての適用が例示されている。
【0005】
また、特許文献3には、架橋された水溶性カチオン性の単量体重合物の油中水型エマルジョンを歩留向上剤および濾水性向上剤として抄紙工程に適用する方法が例示されている。
【0006】
一方で、粉末状のイオン性水溶性高分子は、その他の形態のものと比較し疎水性溶媒、水あるいは分散剤といった不純物が少ない特徴があり、輸送コストや環境負荷の面で優位性があるが、改良の柔軟性が小さいといった欠点がある。
【0007】
特許文献4には、カチオン性水溶性高分子の噴霧乾燥物について記載されており、特許文献5には、噴霧乾燥により得られた架橋されたカチオン性水溶性高分子と凝集剤としての適用が例示されている。
【0008】
これらの噴霧乾燥で得られる粉末状のイオン性水溶性高分子について電荷内包率についての記載は無く、考慮の範疇外であることが明白である。また、一般的に油中水型エマルジョン状のイオン性水溶性高分子は水に溶解して使うことが多く、含まれる疎水性溶媒を都合よく分散させるためにHLB10以上の界面活性剤を含有することが多いが、イオン性水溶性高分子の機能とは無関係であり、環境への負荷を高める一因である。
【特許文献1】特公平08−164号公報
【特許文献2】特開2005−144346号公報
【特許文献3】特開平10−140496号公報
【特許文献4】米国特許 第4035317号
【特許文献5】特表2001−516773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、輸送コストや環境負荷の小さいイオン性水溶性高分子とその製造法を提供することであり、凝集剤用途さらに詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して優れた機能を発揮する粉末からなるイオン性水溶性高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、驚くべきことに特定のイオン性を発現する水溶性高分子が汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して特に優れた機能を発揮し、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を噴霧乾燥し造粒した粉末からなるイオン性の水溶性高分子が上記課題を解決するものであることを見出した。
【0011】
すなわち請求項1の発明は、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を、乾燥工程を経ることによって造粒し製造したイオン性水溶性高分子であって、イオン性水溶性高分子の電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子である。
【0012】
請求項2の発明は、前記乾燥工程が、噴霧乾燥であることを特徴とする請求項1に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子である。
【0013】
請求項3の発明は、前記乾燥工程が、前記油中水滴型エマルジョン状液体を液状のまま直接乾燥することを特徴とする請求項1に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子である。
【0014】
請求項4の発明は、前記イオン性水溶性高分子が、下記一般式(1)及び/または(2)で表わされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)で表わされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を共重合して得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子である。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

一般式(3)
は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【0015】
請求項5の発明は、HLB値が10以上の界面活性剤を含まないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子である。
【0016】
請求項の発明は、6請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした汚泥の脱水方法である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした製紙スラッジの脱水方法である。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用することを特徴とした製紙方法である。
【0019】
請求項9の発明は、無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことを特徴とした、請求項8記載の製紙方法である。
【0020】
請求項10の発明は、前記アニオン性物質がコロイダルシリカあるいはベントナイトであることを特徴とする、請求項9記載の製紙方法である。
【0021】
請求項11の発明は、前記アニオン性物質が、下記一般式(3)で表わされる単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の重合物であることを特徴とする、請求項9記載の製紙方法である。
【化3】

一般式(3)
は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
前記乾燥工程が、前記油中水滴型エマルジョン状液体を液状のまま直接乾燥することを特徴とする請求項1に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【発明の効果】
【0022】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、不純物の少ない粉末状の水溶性高分子であるため、輸送コストを低減することが可能であり、さらには輸送で生じる二酸化炭素の排出を低減することも可能である。また、油中水型エマルジョン状のイオン性水溶性高分子と比較し疎水性分散媒や界面活性剤の環境への排出量を削減できる。さらには、電荷内包率35%以上の粉末からなるイオン性水溶性高分子であることから、凝集剤用途、詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して特に優れた機能を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、電荷内包率が35%以上90%以下であるイオン性の水溶性高分子である。ここで、カチオン性水溶性高分子および両性でかつカチオン性単量体とアニオン性単量体のモル濃度の差が正である水溶性イオン性高分子の電荷内包率とは以下のように計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整したイオン性水溶性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(Meutek PCD 03、Meutek PCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mvにて滴定し、求めた滴定量である。βは酢酸にてpH4.0に調整したイオン性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を電荷の中和を行うに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mvにて滴定し、ブランク値とこの滴定量との差である。ブランク値とは酢酸にてpH4.0に調整した前記1/400N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液と同量のポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を、同様にPCD滴定装置により滴下液:1/1000N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mvにて滴定し、求めた滴定量である。
【0024】
本発明において、両性でかつカチオン性単量体とアニオン性単量体のモル濃度の差が負である水溶性イオン性高分子では、電荷内包率とは以下のように計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整した水溶性イオン性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(Meutek PCD 03、Meutek PCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mvにて
滴定し、求めた滴定量である。βはアンモニアにてpH10.0に調整したイオン性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を電荷の中和を行うに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mvにて滴定し、この滴定量をブランク値から差し引いた値とする。ブランク値とはアンモニアにてpH10.0に調整した前記サンプルと同濃度のジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mvにて滴定し、求めた滴定量である。
【0025】
本発明におけるイオン性水溶性高分子の電荷内包率は、イオン性の発現効率に関するパラメーターであり、イオン性物質のポリビニルスルホン酸カリウムによる正滴定と逆滴定との間に大きな差が生じることが汚泥、製紙スラッジおよび製紙原料に添加した場合、効果との間に明確な相関が生じるものである。
【0026】
電荷内包率35%より小さいイオン性水溶性高分子を汚泥あるいは製紙スラッジに添加した場合、比較的低い添加量で凝集し含水率は低下するが、添加量の増大とともに汚泥あるいは製紙スラッジが再分散し、粘性を帯び、汚泥含水率が増大する。電荷内包率35%以上のものを添加した場合、幅広い添加量範囲で添加の増大とともに巨大で強固なフロックを形成し、著しく汚泥あるいは製紙スラッジの含水率を低下させる。また、90%より大きいものを添加した場合は、それ以外のものの数倍以上の薬品を添加せねば汚泥あるいは製紙スラッジの凝集挙動に全く寄与しない。
【0027】
電荷内包率35%より小さいイオン性水溶性高分子を製紙原料に添加し抄紙した場合、比較的低い添加量で緩やかに凝集し製紙原料の歩留率、濾水性は向上する。電荷内包率35%以上のものを添加し抄紙した場合、より高シェアの混合条件で強固で緻密なフロックを形成し、特に製紙原料中の填料歩留率を向上させる。90%より大きいものを添加した場合は、数倍以上の薬品を添加しても凝集挙動はそれ以外のものに大きく劣る。すなわち、好適な電荷内包率の範囲は35%以上90%以下の範囲である。
【0028】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を噴霧乾燥し造粒し得ることが出来る。一般式(1)で表されるカチオン性単量体の例としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドやこれらのハロゲン化水素、硫酸、硝酸、有機酸等による中和塩、ハロゲン化アルキル、ベンジルハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等による四級化物、一般式(2)で表されるカチオン性単量体の例としては、ジメチルジ(メタ)アリルアンモニウム塩化物、ジ(メタ)アリルメチルベンジルアンモニウム塩化物等が挙げられ、単独で使用することも複数を同時に使用することも可能である。カチオン性単量体の量としては、重合後の水溶性高分子がカチオン性を有する範囲であれば特に制限は無いが、前記多官能性単量体を除く全単量体に対してカチオン性単量体の量が5〜95mol%の範囲であることが好ましい。
【0029】
前記多官能性単量体は複数の不飽和二重結合を複数有していれば特に制限はないが、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−ビニル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。多官能性単量体の量としては、多官能性単量体を除く全単量体重量に対して0.1〜100ppmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.2〜50ppmの範囲である。
【0030】
本発明における単量体混合物水溶液は、上記単量体のほかに共重合可能なアニオン性単量体および/または水溶性の非イオン性単量体を含むことが出来る。一般式(3)で表されるアニオン性単量体の例としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはp−カルボキシスチレンなどが挙げられる。アニオン性単量体の量としては、前記多官能性単量体を除く全単量体に対して0〜50mol%の範囲であることが好ましい。
【0031】
水溶性の非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペラジンなどが挙げられ、その量としては前記多官能性単量体を除く全単量体に対して0〜95mol%の範囲であることが好ましい。
【0032】
単量体水溶液混合物には前記単量体の他に、連鎖移動性を有する化合物を含むことが出来る。連鎖移動性を有する化合物の例としては、2−プパノール、2−メルカプトエタノール、メタリルスルホン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウムなどが上げられ、目的とする重合物の組成、重合速度および分子量に応じて適宜添加する。
【0033】
連続相を形成する水に非混和性有機液体としては、水と混合した際相分離を生じ、界面活性剤により乳化可能な有機液体であれば特に制限はないが、パラフィン類あるいは灯油、軽油、中油などの鉱油、あるいはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度などの特性を有する炭化水素系合成油、あるいはこれらの混合物があげられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20重量%〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0034】
乳化に必要な界面活性剤の例としては、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB3〜10のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレ−ト、ソルビタンジオレ−ト、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノステアレ−ト、ソルビタンジステアレ−ト、ソルビタンモノラウレ−ト、ソルビタンジラウレ−ト、ソルビタンモノパルミテ−ト、ソルビタンジパルミテ−ト、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンステアリルエ−テル、ポリオキシエチレンラウリルエ−テル、ポリオキシエチレンセチルエ−テル、ポリオキシエチレントリデシルエ−テル、ポリオキシエチレンオレイルエ−テル、高分子非イオン性界面活性剤類などがあげられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%の範囲である。
【0035】
重合条件は通常、使用する単量体や共重合モル%によって適宜決めていき、温度としては0〜100℃の範囲で行う。特に油中水型エマルジョン重合法を適用する場合は、20〜80℃、好ましくは20〜60℃の範囲で行う。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性あるいは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネ−ト)、4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどがあげられる。
【0036】
水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などがあげられる。またレドックス系の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせがあげられる。さらに過酸化物の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウム、過酸化水素,ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエ−トなどをあげることができる。
【0037】
単量体の重合濃度は、乳化液重量に対して、20〜50重量%の範囲であり、好ましくは25〜40重量%の範囲であり、単量体の組成、重合法、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。これらの単量体を重合して得られるイオン性水溶性高分子の分子量は、好ましくは300万〜2000万の範囲である。
【0038】
一般的な、イオン性水溶性高分子の油中水滴型エマルジョンを、凝集剤用途として水に溶解して使用する場合、親水性の強い両親媒性共重合物や親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中のイオン性水溶性高分子が溶解しやすくする処理を行い、水で希釈しそれぞれの用途に用いる。本発明における、油中水滴型エマルジョンにおいても、両親媒性共重合物および親水性界面活性剤を含有することも可能であるが、噴霧乾燥して得られる粉末を製造する場合、不純物が含まれることおよび、噴霧乾燥して得られる粉末を水に溶解して使用する場合、特にHLB値が10以上の親水性界面活性剤を含有する場合、理由は明らかではないがおそらくは界面活性剤とカチオン性高分子が複合体を形成するために溶解速度が遅くなるので、含まない物のほうが好ましい。また油中水滴型エマルジョン状液体を液状のまま直接乾燥する場合、乾燥工程中に粒子同士が結着しやすくなり、粗大化し、後の粉砕工程において余分のエネルギーを費やし好ましくない。乾燥方法としては、通常の箱型乾燥機に一定時間保持し乾燥することも可能である。あるいはベルトコンベア上に油中水滴型エマルジョンを載せ、乾燥機の中を一定の滞留時間通し、乾燥することも可能である。乾燥温度は、低温で長時間乾燥するよりも、比較的高温で
短時間乾燥するほうが、不溶化などが起きにくい。すなわち120〜70℃で
数分から数十分程度である。
【0039】
本発明の汚泥の脱水方法は、請求項1〜3に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水する方法である。汚泥の種類としては特に制限はなく、製紙排水、化学工業排水、食品工業排水などの生物処理したときに発生する余剰汚泥、あるいは都市下水の生汚泥、混合生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥などの有機汚泥に使用することができる。
【0040】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、水に溶解した後、汚泥脱水および製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水する方法である。汚泥脱水および製紙スラッジの脱水に用いる脱水機の種類としては特に制限はなく、ベルトプレス、スクリュープレス、ロータリープレス、フィルタープレスなどの圧搾脱水装置、または遠心分離機、真空濾過機などの圧力脱水装置が例として挙げられる。
【0041】
本発明の汚泥の脱水方法および製紙スラッジの脱水方法において、特に好適に使用できる脱水機としては、請求項1〜3に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子の電荷内包率と脱水効果の挙動を考慮すると、電荷内包率が35%以上90%以下の範囲では、添加量の増大とともに巨大で強固なフロックを形成する特徴があり、それに伴って脱水の初期濾水量が増大することから、強固なフロックや初期脱水性能が要求されるスクリュープレス脱水機およびロータリープレス脱水機が挙げられる。
【0042】
本発明の汚泥の脱水方法および製紙スラッジの脱水方法は、請求項1〜3に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子の他に有機もしくは無機の凝結剤を併用することが可能である。有機凝結剤の例としてはとしてはカチオン性を有する高分子が挙げられ(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドといった、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウムハライド類やジアリルジメチルアンモニウムクロリドといったジアリルアミン化合物などが挙げられ、無機凝結剤の例としては、ポリ塩化アルミニウムや塩化第二鉄、硫酸第二鉄といった金属塩が挙げられる。
【0043】
本発明の製紙方法は、請求項1〜3に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用する方法である。製紙原料の種類に特に制限はなく、クラフトパルプ、BKP、TMP、DIPなどのパルプを用いることができ、電荷内包率が35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子に対して、DIPなどの短繊維分を多いパルプ、TMPなどのアニオン性物質を多く含有するパルプ、あるいはパルプの他に填料を多く含む原料を用いる場合、特に好適である。
【0044】
填料の種類は特に制限は無く、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、酸化チタンなどが挙げられる。また、抄紙時のpHにも制限はなく酸性、中性条件での抄紙も可能である。本発明のイオン性水溶性高分子を用いる場合、特に炭酸カルシウムを多く使用する中性抄紙条件での填料歩留率の向上に用いることが好適である。
【0045】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子の水溶液をパルプスラリーに添加して抄造し、紙を製造することができるが、添加場所は特に制限されないが、種箱、マシンチェスト、スクリーンの入り口あるいは出口等が想定される。イオン性水溶性高分子をパルプ重量に対し10〜500ppm添加して使用することが好ましい。
【0046】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子の水溶液を用いた製紙方法は、無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことが可能である。無機のアニオン性物質の例としては、コロイダルシリカあるいはベントナイトが例示され、有機のアニオン性物質としては、一般式(3)で表せるアニオン性単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の共重合物が例示できる。
【0047】
一般式(3)で表されるアニオン性単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の共重合物の形態に特に制限は無く、ペースト状水溶液、油中水滴型エマルジョン、水性分散液等が挙げられ、いずれも水に溶解した水溶液として添加できる。添加場所については特に制限はなく、イオン性水溶性高分子の添加前あるいは添加後あるいは同時に添加することが可能であるし、両者の水溶液もしくは分散液を混合して用いることも可能である。
【0048】
(実施例)以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【実施例1】
【0049】
(イオン性水溶性高分子粉末の製造例1)イオン交換水45.85g、50重量%アクリルアミド水溶液220.06g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液93.71g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液0.19gおよび2−プロパノール0.19gを仕込んだ水溶液混合物に、ソルビタンモノオレート5.00gおよび沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン135.00gからなる混合物を加え、モノジナイザーにて1000rpmの回転数のもとで15分間強攪拌しモノマー乳化液を得た。このものを、十字攪拌ペラを取り付けた攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管および冷却装置を備えた四つ口セパラブルフラスコに仕込み、十字攪拌ペラで400prmの攪拌条件下内温30℃で30分間窒素置換を行った。窒素置換が完了した後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.148g加え窒素雰囲気下30℃で20時間保持し重合を行い、イオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを得た。この油中水型エマルジョンを造粒乾燥装置内に噴霧し、造粒した粉末の水分が5重量%以下になるまで乾燥造粒し、イオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを製造例1とし物性を表1に示す。
【0050】
(イオン性水溶性高分子粉末の製造例2)イオン交換水99.90g、50重量%アクリルアミド水溶液72.72g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液185.80g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液1.39gおよび2−プロパノール0.19gを仕込んだ水溶液混合物に、ソルビタンモノオレート5.00gおよび沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン135.00gからなる混合物を加え、モノジナイザーにて1000rpmの回転数のもとで15分間強攪拌しモノマー乳化液を得た。このものを、十字攪拌ペラを取り付けた攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管および冷却装置を備えた四つ口セパラブルフラスコに仕込み、十字攪拌ペラで400prmの攪拌条件下内温50℃で30分間窒素置換を行った。窒素置換が完了した後、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)を0.148g加え窒素雰囲気下50℃で20時間保持し重合を行い、イオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを得た。この油中水型エマルジョンを造粒乾燥装置内に噴霧し、造粒した粉末の水分が5重量%以下になるまで乾燥造粒し、イオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを製造例2とし物性を表1に、このものを0.2重量%濃度となるよう水に溶解した場合の粘度の変化を図1に示す。
【0051】
(イオン性水溶性高分子粉末の製造例3)イオン交換水を114.12g、50重量%アクリルアミド水溶液を31.09g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液を211.82g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を2.78gに変えたこと以外は、イオン性水溶性高分子粉末の製造例2と同様な方法でイオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを製造例3とし物性を表1に示す。
【0052】
(イオン性水溶性高分子粉末の製造例4)イオン性水溶性高分子粉末の製造例3と同様な方法でイオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを得た。その後、前記油中水型エマルジョンをステンレス製の浅い容器に深さ3mmに注ぎ込み、乾燥機中において100℃で1時間乾燥した。生成した乾燥物を粉砕機により粉砕し、イオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを製造例4とし物性を表1に示す。
【0053】
(イオン性水溶性高分子粉末の比較製造例1)イオン交換水を45.99g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.05gに変えたこと以外は、イオン性水溶性高分子粉末の製造例1と同様な方法でイオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを比較製造例1とし物性を表1に示す。
【0054】
(イオン性水溶性高分子粉末の比較製造例2)イオン交換水を101.10g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.19gに変えたこと以外は、イオン性水溶性高分子粉末の製造例2と同様な方法でイオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを比較製造例2とし物性を表1に示す。
【0055】
(イオン性水溶性高分子粉末の比較製造例3)イオン交換水を116.71g、0.2重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.19gに変えたこと以外は、イオン性水溶性高分子粉末の製造例2と同様な方法でイオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを比較製造例3とし物性を表1に示す。
【0056】
(イオン性水溶性高分子粉末の比較製造例4)イオン性水溶性高分子粉末の製造例2で示したイオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンにHLB13.3のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加混合した後、このものを造粒乾燥装置内に噴霧し、造粒した粉末の水分が5重量%以下になるまで乾燥造粒し、イオン性水溶性高分子の粉末を得た。このものを比較製造例4とし物性を表1に、このものを0.2重量%濃度となるよう水に溶解した場合の粘度の変化を図1に示す。
【0057】
(表1)










【0058】
(図1)

【0059】
表1および図1で示した通り、製造例2と比較製造例4を比較すると製造例2のイオン性水溶性高分子粉末の方が、溶解開始後の0.2重量%水溶液粘度が速く上昇し、溶解速度が速いことが明白である。
【実施例2】
【0060】
製造例2で合成した粉末からなるイオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し汚泥の脱水試験を行った。し尿余剰汚泥(pH7.06、全ss分46,250mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、前記製造例2のイオン性水溶性高分子粉末の溶解液を汚泥に対する高分子の重量で370ppm、400ppmおよび430ppm添加し、それぞれビーカー移し変え攪拌20回行った後、T−1178Lのナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧2kg/mで1分間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例2) イオン性水溶性高分子粉末を比較製造例2としたこと以外は、実施例2と同様な方法で汚泥の脱水試験を行った。結果を表2に示す。
【0062】
(表2)

【0063】
表2で示した通り製造例2と比較製造例2のイオン性水溶性高分子粉末を比較すると、電荷内包率の高い製造例2イオン性水溶性高分子粉末の方が45秒後の濾液量は多く、ケーキ支持性、濾布剥離性に優れ、脱水ケーキの含水率が大きく低減することが出来ることが明白である。
【実施例3】
【0064】
製造例3および製造例4で合成した粉末からなるイオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し汚泥の脱水試験を行った。食肉余剰汚泥(pH6.64、全ss分24,000mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、前記製造例3のイオン性水溶性高分子粉末の溶解液を汚泥に対する高分子の重量で400ppm、500ppmおよび600ppm添加し、それぞれCST1000rpmで30秒間攪拌混合を行った後#202のナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧3kg/mで30秒間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
(比較例3) イオン性水溶性高分子粉末を比較製造例3としたこと以外は、実施例3と同様な方法で汚泥の脱水試験を行った。結果を表3に示す。

【0066】
(表3)

【0067】
表3で示した通り製造例3と比較製造例3のイオン性水溶性高分子粉末を比較すると、電荷内包率の高い製造例3のイオン性水溶性高分子粉末の方が特に高添加量範囲での45秒後濾液量が極度に多く、ケーキ支持性、濾布剥離性に優れ、脱水ケーキの含水率が大きく低減することが出来ることが明白である。
【実施例4】
【0068】
製造例1で合成したイオン性水溶性高分子粉末を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し製紙スラッジの脱水試験を行った。製紙スラッジ(pH6.90、全ss分11,750mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、アニオン性高分子凝集剤(ハイモロックV−320)の0.1重量%水溶液を汚泥に対して高分子の重量で5ppm、10ppmおよび20ppm添加した後、前記製造例1のイオン性水溶性高分子粉末の溶解液を汚泥に対する高分子の重量でそれぞれ10ppm、20ppm、40ppm添加し、それぞれスパチュラで50回攪拌しさらにビーカー移し変え6回行った後#202のナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧4kg/mで60秒間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0069】
(比較例4) 製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較製造例1としたこと以外は、実施例4と同様な方法で製紙スラッジの脱水試験を行った。結果を表4に示す。
【0070】
(表4)

【0071】
表4で示した通り製造例1と比較製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較すると、電荷内包率の高い製造例1のイオン性水溶性高分子粉末の方は45秒後濾液量に大きな差は無いものの、ケーキ支持性、濾布剥離性に優れ、脱水ケーキの含水率が大きく低減することが出来る、カチオン性高分子の添加量を低減することが可能であることが明白である。
【実施例5】
【0072】
製造例1で合成した粉末からなるイオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量で200ppmになるように添加した後30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表5に示す。
【0073】
LBKPを0.5%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al2O3分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料をブリット式ダイナミックジャーテスターに投入し、前記製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量で200ppmになるように添加した。2000rpmで30秒攪拌した後、攪拌回転数を800rpmに落とし白水を10秒間排出し、その後、30秒間白水を回収した。回収した白水のSS濃度および525℃で2時間灰化して得られた灰分量から、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表5に示す。
【0074】
(比較例5) 製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較製造例1としたこと以外は、実施例5と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表5に示す。
【0075】
(表5)

【0076】
表5で示した通り製造例1と比較製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較すると、電荷内包率の高い製造例1のイオン性水溶性高分子粉末の方は地合い評価、不透明度、ISO白色度、総歩留率および灰分歩留率について比較製造例1のイオン性水溶性高分子より優位にあることが明白である。
【実施例6】
【0077】
水で2.0重量%に調整したベントナイト分散液および製造例1で合成した粉末からなるイオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%とした水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記ベントナイト分散液をパルプ重量に対してベントナイト1000ppmとなるように添加した後15秒攪拌し、次に製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した後さらに2000rpmで30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表6に示す。
【0078】
LBKPを0.5%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al2O3分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料をブリット式ダイナミックジャーテスターに投入し、前記ベントナイト分散液をパルプ重量に対してベントナイト1000ppmとなるように添加した後2000rpmで15秒攪拌し、次に製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した。次に、2000rpmで30秒攪拌した後、攪拌回転数を800rpmに落とし白水を10秒間排出し、その後、30秒間白水を回収した。回収した白水のSS濃度および525℃で2時間灰化して得られた灰分量から、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表6に示す。
【0079】
(比較例6) ベントナイトを添加しないこと以外は、実施例6と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表6に示す。
【0080】
(比較例7) 製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較製造例1としたこと以外は、実施例6と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表6に示す。
【0081】
(表6)

【0082】
表6で示したように、実施例6は比較例6および7と比較して、総歩留率、灰分歩留率を大きく向上する効果が得られることが明白である。特に、灰分の歩留向上効果が高い。
【実施例7】
【0083】
水で0.2重量%に調整したアニオン性高分子(アクリル酸ナトリウム20mol%−アクリルアミド80mol%共重合物、0.5重量%食塩水溶液粘度120.0(mPa・s)(食塩濃度4重量%、B型粘度計2号ローター、60rpm、25℃測定))および、製造例1で合成したイオン性水溶性高分子粉末を水で溶解し0.2重量%とした水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記アニオン性高分子水溶液をパルプ重量に対してアニオン性高分子100ppmとなるように添加した後15秒攪拌し、次に製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した後さらに2000rpmで30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表7に示す。
【0084】
LBKPを0.5%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al2O3分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料をブリット式ダイナミックジャーテスターに投入し、前記アニオン性高分子溶解液をパルプ重量に対してアニオン性高分子重量で100ppmとなるように添加した後2000rpmで15秒攪拌し、次に製造例1のイオン性水溶性高分子粉末溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した。次に、2000rpmで30秒攪拌した後、攪拌回転数を800rpmに落とし白水を10秒間排出し、その後、30秒間白水を回収した。回収した白水のSS濃度および525℃で2時間灰化して得られた灰分量から、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表7に示す。
【0085】
(比較例8) アニオン性高分子を添加しないこと以外は、実施例7と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表7に示す。
【0086】
(比較例9) 製造例1のイオン性水溶性高分子粉末を比較製造例1としたこと以外は、実施例7と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表7に示す。
【0087】
(表7)

【0088】
表7で示したように、実施例7は比較例8および9と比較して、総歩留率、灰分歩留率を大きく向上する効果が得られることが明白である。実施例6と同様に、本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は特に灰分の歩留向上効果が高い。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を、乾燥工程を経ることによって造粒し製造したイオン性水溶性高分子であって、イオン性水溶性高分子の電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【請求項2】
前記乾燥工程が、噴霧乾燥であることを特徴とする請求項1に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【請求項3】
前記乾燥工程が、前記油中水滴型エマルジョン状液体を液状のまま直接乾燥することを特徴とする請求項1に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【請求項4】
前記イオン性水溶性高分子が、下記一般式(1)及び/または(2)で表わされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)で表わされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を共重合して得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

一般式(3)
は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【請求項5】
HLB値が10以上の界面活性剤を含まないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした汚泥の脱水方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした製紙スラッジの脱水方法。
【請求項8】
請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用することを特徴とした製紙方法。
【請求項9】
無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことを特徴とした、請求項8記載の製紙方法。
【請求項10】
前記アニオン性物質がコロイダルシリカあるいはベントナイトであることを特徴とする、請求項9記載の製紙方法。
【請求項11】
前記アニオン性物質が、下記一般式(3)で表わされる単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の重合物であることを特徴とする、請求項9記載の製紙方法。
【化3】

一般式(3)
は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。








【公開番号】特開2009−280649(P2009−280649A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131705(P2008−131705)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】