説明

粒子ビーム輸送装置及び小さなビームスポットサイズを有する粒子ビームの輸送方法

本発明は、荷電粒子ビームを輸送するための装置(10)に関する。装置は、ターゲット(3)上で荷電粒子を走査するための走査手段(12)と、走査手段の上流に配置された双極磁石(15)と、双極磁石と走査手段との間に配置された少なくとも3つの四重極レンズ(17)と、荷電粒子ビームの走査角度の関数として3つの四重極レンズの磁界の強度を調整する調整手段とを備える。この装置は、少なくとも単一の収色性を有するように製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを輸送するための装置(ビーム輸送ライン)、及び荷電粒子ビームの輸送方法に関する。特に、本発明は、ビームの軌道を曲げる双極磁石(dipole magnet)と、ターゲット上に荷電粒子で走査するスキャナーとを備える装置に関する。本発明に係る装置及び方法は、非破壊スクリーニング(non−destructive screening)及び殺菌に用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
ビームが生成されるソース(例えば、ロードトロン(商標)、シンクロトロン、サイクロトロン、直線加速器(LINAC)、又はそれに類するもの)からビームが当たるターゲットまで、一般的にビーム輸送ラインとして呼ばれる装置を用いて電子ビーム又はプロトンビームのような荷電粒子ビームを輸送することは、本技術分野において公知である。ビーム輸送ライン(beam transport lines)は、一般的に、ビームの軌道を偏向(deflection)させる偏向磁石(bending magnet)と、ビーム形状(beam profile)又はビームの大きさを調整する四重極レンズ(quadrupole lenses)とを備える。四重極レンズは、磁気デバイス又は電気デバイスとすることができる。ターゲット領域上を粒子ビームで走査するスキャナーを備えても良い。
【0003】
スキャナーは、荷電粒子ビームに対して角度偏向(angular deflection)を与える。角度偏向は時間に依存し得る。ビーム輸送ラインの分散関数(カーブ)は走査角度の関数で異なる。これは、ターゲット領域の幾つかの位置上において大きすぎるビームスポットをもたらす。
【0004】
ビーム発生器により生成された荷電粒子は一般的に単一エネルギーのものではない。ビームの特定のエネルギー分布は考慮されなければならない。荷電粒子ビームが広い角(例えば、±45°)にわたって走査されると、ビーム中の僅かに異なるエネルギーを有する粒子の偏向は等しくない。更に、大部分のビーム輸送ラインは、曲げ(双極子)磁石を備え、これらの磁石によってビーム粒子に与えられる角度偏向は、粒子のエネルギーに依存して異なる場合がある。このような現象は、ターゲットの位置におけるビームスポットサイズの増加をもたらす。
【0005】
特許文献1には、イオンビーム走査システムが開示されている。そのイオンビーム走査システムには、イオンビームの焦点特性を動的に調整する焦点調整装置が備えられている。特許文献2には、2つのスイーパーマグネット(sweeper magnets)と動的な4極子コレクタ(dynamic quadrupole corrector)とを備えるターゲットの体積にプロトンビームを当てるためのビーム輸送システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6903350号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1584353号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記システムにおいて、広い角にわたって走査するときは、ターゲットでのビーム焦点特性が、未だ不十分な場合がある。更に、一つの焦点特性だけが調整される。
【0008】
本発明の目的は、従来の装置と比較して装置の出力において少なくとも同等のビーム形状特性又は改善されたビーム形状特性(より小さなビームスポットサイズ)をもたらす荷電粒子ビーム輸送装置に関する。
【0009】
本発明の目的は、よりコンパクトな寸法(特に、ビームラインの長さに関連して)を有するものの、従来の装置と比べて小さなビーム形状をもたらす荷電粒子ビーム輸送装置を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、ビーム形状特性が悪化されることなく荷電粒子ビームが走査される角度の範囲を増加させることである。
【0011】
また、本発明は、荷電粒子ビームをターゲット領域上に輸送して走査する方法を提供することであり、その方法は、従来の方法と比べてより良いビーム形状特性(例えば、ビームスポットサイズ)をもたらす。
【0012】
本発明の目的は、ターゲット位置でのビームスポットサイズにおけるビームエネルギー広がりの影響に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、添付された特許請求の範囲において見出されているように、荷電粒子ビーム輸送装置、その装置の利用及び荷電粒子ビームの輸送方法を提供することで実現される。
【0014】
本発明の第1側面によれば、(例えば、ビーム生成器又は他のソースから)ターゲットに荷電粒子ビームを輸送する装置を提供する。その装置は、前記ターゲット上で前記荷電粒子ビームを走査する走査手段と、好ましくは前記走査手段の上流に配置された双極磁石と、好ましくは前記双極磁石と前記走査手段との間に配置された少なくとも3つの四重極レンズと、前記少なくとも3つの四重極レンズの場の強度を前記荷電粒子ビームの走査角度の関数として調整する調整手段と、を備える。
【0015】
四重極レンズは、磁気デバイスとすることができる。この場合、場の強度(field strength)とは磁場の強度を意味する。四重極レンズは、電気デバイスとすることができる。この場合、場の強度とは電場の強度を意味する。更に、四重極レンズは、電気−磁気デバイスとすることができる。この場合、場の強度とは電磁場の強度を言及する。
【0016】
場の強度は、動的に調整され得る(すなわち、時間に依存する方法で)。好ましくは、場の強度を調整するための調整手段は、線上又は面上の複数の位置において所定の大きさ以下のビームスポットサイズを得るために配置される。好ましくは、その線又は面は、ターゲット上に位置する。より好ましくは、場の強度を調整する調整手段は、上記の一つまたはそれ以上の位置で、大きくても20mm、好ましくは大きくても10mmのビームスポットサイズを得るために配置される。
【0017】
好ましくは、前記場の強度を調整する調整手段が、既定の位置で前記装置の少なくとも単一の収色性(single achromatism)を得るように配置される。前記既定の位置は、線上又は面上に存在し得る。前記線又は前記面が前記ターゲット上にあることが好ましい。
【0018】
好ましくは、装置は、双極磁石と走査手段との間の3つの四重極レンズを備える。好ましくは、場の強度を調整するための調整手段は、3つの四重極レンズの場の強度を調整するために配置される。
【0019】
前記場の強度を調整する調整手段が、既定の走査角度に対して前記四重極レンズの場の強度と関連付けられた既定の情報を記録するように構成された参照テーブル(lookup table)を備えることが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記装置は、前記荷電粒子ビームを走査する前記走査手段の下流に配置された追加的な四重極レンズを備える。前記追加的な四重極レンズは、前記荷電粒子ビームが前記走査角度と関係なく同じ方向を有するよう前記荷電粒子ビームの方向を調整するように配置されているか、又は前記荷電粒子ビームの方向を他の任意の(既定の)角度分布に調整するように配置されている。
【0021】
好ましくは、前記走査手段及び/又は前記少なくとも1つの四重極レンズが、磁石を備え、前記磁石が電気的に絶縁性の磁気材料からなるヨークを含む。その磁気材料は、好ましくはフェライトである。
【0022】
好ましくは、前記走査手段及び/又は前記四重極レンズの一つ又はそれ以上が、磁石を備え、前記磁石が薄板状のヨークを含む。
【0023】
好ましくは、前記装置は真空チャンバを備え、真空チャンバが少なくとも部分的に電気的に絶縁性の材料からなる。前記走査手段及び/又は一つ又はそれ以上の四重極レンズが、好ましくは前記真空チャンバの外部に設けられている。
【0024】
好ましくは、走査手段及び/又は一つ又はそれ以上の四重極レンズは、真空チャンバの内部に設けられている。
【0025】
前記走査手段が、好ましくは90°にわたって、より好ましくは100°を超える角度にわたって、前記荷電粒子ビームを走査するように配置されている。
【0026】
本発明の第2側面によれば、ターゲットに荷電粒子ビームを輸送する方法が提供される。この方法は、ビーム生成器から前記荷電粒子ビームを走査する走査手段までに前記荷電粒子ビームを輸送する段階を備える。前記走査手段の上流の位置において前記荷電粒子ビームがゼロ度以外の角度で曲がる。次の段階では、前記上流の位置と前記走査手段との間の3つ又はそれ以上の位置において、前記荷電粒子ビームの前記走査角度の関数で磁場及び/又は電場の強度が(動的に)調整される。次の段階では、前記ターゲット上に前記荷電粒子ビームが走査される。
【0027】
好ましくは、方法は、走査段階後、ビームの方向を調整して、走査角度と関係なくビームが同じ方向を有するようにする段階を備える。ビームの方向は、他の(既定の)角度分布にも調整され得る。
【0028】
本発明の第3側面によれば、材料、製品及び/又はデバイスの非侵入式検査のための本発明に係る装置の利用が提供される。好ましくは、その利用は、貨物のスクリーニングに結びつく。
【0029】
本発明の別の側面によれば、殺菌のための本発明に係る装置の利用が提供される。
【0030】
本発明の更なる別の側面によれば、材料特性の変更のための本発明に係る装置の利用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】僅かに異なるエネルギーを有する2つの荷電粒子の軌道を表す図である。
【図2】ビーム生成器からターゲットに荷電粒子ビームを輸送して、ターゲット上でビームを走査するための本実施形態に係る装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。説明された図は、単なる概略図であり、非限定のものである。図において、幾つかの構成要素のサイズは図示目的のために誇張されている場合があり、実際の縮尺で描かれているわけではない。寸法及び相対的な寸法は、本発明の実施品に必ずしも対応していない。当業者は、本発明の範囲に属する本発明の数多い変形及び修正を理解するであろう。従って、好適な実施形態の説明は本発明の範囲を限定するものとみなされてはならない。
【0033】
更に、明細書及び特許請求の範囲において第1、第2等の用語は、類似の構成要素間を区別するために用いられており、必ずしも順次的な順序又は時系列的な順序のために用いられるものではない。そのように用いられる用語は、適切な状況の下、入れ替えることができ、以下において説明される本発明の実施形態は、以下において説明又は描写されている以外にも、順番が異なっても動作することができることを理解されたい。
【0034】
更に、明細書及び特許請求の範囲において「上部の」、「下部の」、「左側の」、「右側の」、「下側の」等の用語は、説明の目的に用いられており、必ずしも相対的な位置を説明するために用いられるものではない。これらの用語は、適切な状況の下、互いに入れ替えることができる。以下において説明される実施形態は、以下において説明又は描写された方向以外にも、別の方向で動作することができる。例えば、構成要素の「左側」及び「右側」は、この構成要素における反対側に位置し得ることを示している。
【0035】
「備える」との用語は、その後に挙げられている手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の構成要素又は他の段階を排除しないことに留意されたい。従って、「手段A及び手段Bを備える装置」との表現の範囲は、手段A及び手段Bのみからなるデバイスに限定されるべきものではない。これは、本発明に対して、手段A及び手段Bがその装置において必要な構成であることを意味する。
【0036】
数値が量の限定又は測定の結果に関連して与えられている場合、これらの値の評価のためには、不純物による変動、測定するために用いられた方法、ヒューマンエラー、統計的な分散等が考慮されるべきである。
【0037】
数値の範囲が下限と上限との間に亘って定義されている場合には、特に記載がない限り、その範囲は上限値及び下限値を含むものと解釈されるべきである。
【0038】
本実施形態は、ビームのエネルギー広がり及び輸送ライン分散に関する問題に取り組み、所定の限界内において所定の位置(主として、ターゲット上又はコリメータ上において)におけるビームスポットサイズを維持することができる。採用された解決法は、色収差の無いビームの輸送装置の製造に有効である。荷電粒子の光学ための収色性(achromatism)という用語については、1987年にアカデミックプレス社によって出版されており、著者がH. Wolnikである「Optics of charged particles」において説明されている。
【0039】
収色性の概念は、図1を参照して説明される。粒子全てがエネルギーEを有する、単一エネルギーの荷電粒子ビームを仮定する。粒子は、曲がった軌道Pに沿って同じポイントPからポイントFに移動するようになる。単一エネルギーのビーム中のすべての粒子は、同じポイントSから出発した場合、同じ曲がった軌道Pに追従する。しかし、ビームが散布されたエネルギーを有すると、一般的に状況が変わる。それぞれエネルギーE及びE+ΔEを有するビームを2つの荷電粒子を考慮しよう。エネルギーEを有して、Sから動いて同じ曲がった軌道Pに追従する粒子は、Fを通過する。エネルギーE+ΔEを有して同じ初期方向にSにおいて出発する荷電粒子は、一般的にエネルギーEを有する粒子の軌道Pに追従しない。その結果、ポイントFを通過せず、Fの近辺のF+ΔFを通過する。その結果、SとFとの間においてビームスポットのサイズが大きくなる。
【0040】
色収差の無いビーム(achromatic beam)の輸送ラインでは、同じポイントSから出発したそれぞれエネルギーE及びエネルギーE+ΔEを有する2つの荷電粒子が、また同じ既定のポイントFに終端する。一般的に、2つの粒子は同じ軌道に追従せず、Fを通過する2つの軌道は互いに異なる方向を有する。そのようなビーム輸送ラインは単一の収色性を有すると言われる。2つの荷電粒子が同じ方向の動きでFを更に通るとき、ビーム輸送ラインは二重の収色性を有する(double achromatic)と言われる。以下において、「収色性を有する」との用語は、少なくとも単一の収色性を有することを意味する。
【0041】
ビーム輸送ラインにおける荷電粒子ビームの軌道が固定されており、時間に依存しないとき、静的磁場及び/又は静的電場を印加してビーム輸送ラインを(単一の)収色性を有するようにすれば十分である。しかし、スキャナーがビーム輸送ラインの終わりに設けられる場合には、ビームの軌道は時間に依存するため、ビーム輸送ラインにおける場の強度を動的に調整してすべての走査角度に対してビーム輸送ラインを色収差の無い状態に維持する必要がある。
【0042】
そのため、収色性は、ビーム輸送ラインにおける分散に関連し、分散関数で決定される。所定のエネルギー広がりを有するビームにおいて、ビーム輸送ラインの分散(関数)は、一般的にビームスポットサイズの増加をもたらし、分散関数に対してその増加が大きくなればなるほど、ビームスポットサイズもより大きくなる。ターゲットにおけるビームのサイズは一般的に仕様内に入らなければならないので、低分散(小さな値の関数)を有するビーム輸送ラインは、ビームエネルギー広がりを考慮しつつ仕様のビーム生成器を選択することを可能とする。
【0043】
分散関数はビームエネルギー広がりに比例する量におけるビームスポットサイズに寄与する。特定の位置での関数の値は単位ビームエネルギー広がり当たりのビームスポットサイズへの絶対的な寄与(absolute contribution)に関連する。単位ビームエネルギー広がりはmm/%で表される。好ましくは、既定位置での分散関数は既定範囲内に、より好ましくはスキャナーの下流の位置に収まる。その結果、分散関数は、ビーム輸送ラインの一つの焦点特性としてみなされ得る。しかし、分散は、焦点特性の一つに過ぎない。他の焦点特性は、ビームスポットサイズに直接関連する。ビームスポットサイズは、2つの直交する方向に沿ったビームスポットの寸法によって特色付けられる。2つの直交する方向は、通常、水平方向のX及び縦方向の(軸上の、横断線の)Yとして呼ばれる。好ましくは、X及びYにおけるビームスポットサイズは既定の位置、好ましくはスキャナーの下流における既定の範囲内に収まる。X及びYにおけるビーム分散及びビームスポットサイズを評価するための既定の位置は、好ましくは同じである。
【0044】
+45°と−45°との間のように、大きな角にわたって走査するとき、一つのみの焦点特性の動的な調整では、特定の用途のために要求される高品質のビームを得るために十分ではないことが観察されてきた。従って、上記において特定された3つの焦点特性を走査角度の関数で動的に調節して、走査角度にわたって殆ど変化しないビームの質を得ることが好ましい。
【0045】
走査角度の範囲に言及するとき、これらはスキャナーによって走査される多数の不連続的な角として理解され得る。従って、走査角度の範囲は連続的な範囲である必要はない。
【0046】
図2を参照すると、本実施形態は、例えばビーム生成器2からターゲット3まで荷電粒子ビームを輸送するための装置10を提供する。装置10は、ターゲット3上に荷電粒子ビームを走査するための走査手段12を備える。走査手段12は、一つ又はそれ以上の走査磁石を備えることができる。ビーム輸送装置10を通るビーム軌道11は、少なくとも一つの(付加的な)位置14において曲がる。そのため、装置10は、位置14における荷電粒子ビームの軌道11を偏向させる手段15を更に備える。手段15は、双極磁石とも呼ばれる偏向磁石とすることができる。双極磁石15及び位置14は、走査手段12の上流に配置される。
【0047】
本実施形態の装置10は、双極磁石15と走査手段12との間に配置された少なくとも3つの四重極レンズ17を更に備える。各四重極レンズ17は、四極電磁石(quadrupole magnet)又は四極電場デバイス(quadrupole Electrical device)とすることができる。装置10は、四重極レンズ17の場の強度を調整するための手段を更に備える。場の強度は、走査角度の関数で動的に調整される。走査角度は、時間によって変化する(すなわち、時間に依存する)。そのため、場は、磁場若しくは電場、又はこれらの組み合わせとすることができる。
【0048】
四重極レンズ17それぞれの(磁気的な又は電気的な)場の強度が調整されて、時間に依存するビーム粒子の軌道をビーム粒子それぞれのエネルギーの関数として調整する。
【0049】
好ましくは、四重極レンズ17それぞれの場の強度が調節され、X軸におけるビームスポットサイズ、Y軸におけるビームスポットサイズ及び分散関数から選択された一つ又はそれ以上のような、ビームの一つ又はそれ以上の焦点特性に影響を及ぼす。
【0050】
少なくとも3つの四重極レンズ17に対する場の強度を調整する手段を用いることで、例えばターゲットのようなスキャナーの下流位置において、異なる走査角度間における焦点特性の変化を著しく低減させることができる。
【0051】
好ましくは、各々の四重極レンズ17の場の強度が調整され、ビーム輸送装置10を少なくとも単一の収色性を有するようにさせる。収色性は、既定の位置において、好ましくはターゲット上又は走査手段12の下流位置において得られる。ターゲット又は上記の下流位置において、ビームが当たる又は通過する場所は固定されておらず、走査角度に依存する。そのため、ビーム輸送装置10は、上記の既定位置において、すべての走査角度に対して収色性を有することが好ましい。既定位置は、1次元の走査の場合、線上とすることができる。また、2次元の走査の場合、面上とすることができる。
【0052】
上記の線上又は上記の面上において、走査される不連続のポイントは選択され得る。その後、ビーム形状特性がこれらの選択された不連続のポイントに対して評価され、仕様を満たしているか否かが確認される。
【0053】
各ターゲット位置において、ターゲット上に熱生成物(heat production)が広がるように、ビームスポットは振動され得る。これは、1次元の走査において、他の(直交の)方向における僅かな振動がビームに与えられることを意味する。一般的に、この振動がターゲット位置におけるビームエネルギー分布に与える影響は無視できる。
【0054】
事実上、各走査角度に対して、既定の位置において、異なるエネルギーを有する荷電粒子が既定の大きさを有する場所(spot)を通過するとき、実際にはビーム輸送装置10は、収色性を有する(achromatic)と言う。すなわち、ビームスポットサイズが、既定の許容限界内に収まるとき、ビーム輸送装置10は、収色性を有すると言われる。この許容限界は、四重極レンズの場の強度が調整されない場合よりも、実質的に小さくても構わない。既定位置(ターゲット位置)におけるビームスポットサイズの最大値は、20mm以下となり得る。好ましくは、既定位置(ターゲット位置)におけるビームスポットサイズの最大値は、10mm以下となる。
【0055】
既定の位置(ターゲット位置)におけるX方向及びY方向に沿ったビームスポット形状は、しばしばガウス分布を有するものとして仮定される。全体のビームスポットサイズは、等価なガウスビーム(equivalent Gaussian beam)の直径4σ(すなわち、直径4σは半径2σに対応する)とされることが好ましい。
【0056】
更に、既定の位置(すなわち、ターゲットの位置)における広がり関数は動的に調整され、全体のビームスポットサイズに対するエネルギー広がりの寄与が最小化され得る。ビームのエネルギー広がりがビームの運動量広がりに比例するので、上述した仕様もビームの運動量広がりの関数で表すことができる。既定の位置(すなわち、ターゲット位置)における広がり関数が動的に調整され、全体のビームスポットサイズに対するビームの運動量広がり(又は、ビームエネルギー広がりと等価な広がり)の寄与がビーム運動量広がり(ΔP/P)(%)当たりに10mm以下であることが好ましく、ΔP/P(%)当たりに5mm以下であることがより好ましい。
【0057】
より好適な実施形態において、ビーム輸送装置は一以上の双極磁石を備える。図2は、2つの双極磁石15及び16を備えるビーム輸送装置10を説明している。場の強度が調整された3つ又はそれ以上の四重極レンズ17は、双極磁石と走査手段との間に配置されることが好ましい。走査手段12は、最下流の双極磁石16の上流又は下流に設けられ得る。
【0058】
収色性を有するビームの輸送装置10の利点は、ビームスポットサイズの著しい増加を何ら伴うことなく、大きな走査角度、例えば−45°から+45°まで又はそれ以上にわたって走査するように走査手段が配置され得ることである。
【0059】
大きな走査角度のアビリティ(ability)によって、装置はよりコンパクトになる(すなわち、より短いビーム軌道を有する)。図2のような構成において、走査角度がより小さな値に限定されると、同じターゲット領域をカバーするのに走査手段はターゲットからより長い距離を以って配置される。これにより、ビーム輸送装置が大型化してしまうと共に、場合によってビーム輸送ライン(装置が設置される建物のコスト増加を含む)のコスト増加を招来することとなるであろう。
【0060】
ビーム輸送装置は、大きな四重極レンズ13を備えることができる。四重極レンズ13は、走査手段12の下流に設けられることが好ましく、走査ホーン(scan horn)の下流端に設けられることがより好ましい。大きな四重極レンズ13は、走査される荷電粒子ビームを偏向させるために配置される。ビームは大きな四重極レンズ13によって偏向されて全ての走査角度に対して既定の方向に対して平行になる。四重極レンズ13によって走査されるビームに付与された別の角度分布も可能である。四重極レンズ13としては、大きな四極電磁石が好ましい。
【0061】
ターゲット3はX線のターゲットとすることができる。ターゲットの前に、例えば、反射されたX線を平行化にするために、コリメータ(collimator)が配置され得る。
【0062】
図2の実施形態において、走査手段12は、線(一平面における偏向)上に、1次元の電荷粒子ビームを偏向させる一つの走査磁石(双極磁石)を備える。走査は、その線上において不連続な個所(複数の点)において実行され得る。代替的な実施形態では、走査手段が、面をカバーする2次元においてビームを偏向させるために配置される。従って、走査手段12(XYスキャナー)は、互いに直交する方向に沿ってビームを偏向させるための2つの走査磁石を備える。
【0063】
少なくとも3つの四重極レンズ17とその場の強度を動的に調整する手段とを備えることによる更なる利点は、3つ(又はそれ以上の)の四重極レンズ17のそれぞれの場の強度のダイナミックス(dynamics)を制限することができ、その結果、四重極レンズ(及び/又は四重極レンズの場の強度を調整する手段)の電源に要求される仕様はそれ程厳しいものでなくても良くなる。
【0064】
更に、本実施形態に係る装置は、ビームの走査を早くすると共に、上述したようにビームの高品質の基準を維持することができる。走査角度1.8°を画成するターゲット上の2つの点は、100μm、好ましくは80μm、より好ましくは60μmより短い範囲内で走査され得る。本実施形態に係る装置は、上述したようにビームの高品質の仕様を維持しながら、示されている高速ダイナミクスを可能とする。
【0065】
四重極レンズ17のダイナミクスな場は、レンズのコア材料における顕著な渦電流を生じる場合がある。好適な実施形態において、一つ又はそれ以上の四重極レンズ17は磁石であり、その磁石のヨークは、寄生場(parasitic fields)の発生を最小限にするように配置される。従って、ヨークは、フェライト(ferrite)のように電気的に絶縁性の磁気的な材料からなることが好ましい。代替的な実施形態において、ヨークは(例えば、鉄製又は鋼鉄製)薄板状のものであり、板と板との間に位置する絶縁層(例えば、コーティング層)を備えることができる。
【0066】
ヨークの材料としてフェライトは、例えば鉄より小さなヒステリシス効果を有するという更なる利点を有する。
【0067】
好適な実施形態において、走査手段12は少なくとも一つの走査磁石を備える。走査磁石は、ヨークを備えている。そのヨークには、四極電磁石に対する構造詳細(constructional details)と同様な構造詳細が適用され得る。従って、少なくとも一つの走査磁石は、電気的に絶縁性を有し及び/又は積層された磁気材料からなることが好ましい。ヨークは、フェライトからなることが好ましい。
【0068】
ビーム輸送装置10は、荷電粒子ビームが通過する真空チャンバを備える。一つ又はそれ以上の四極電磁石及び/又は走査手段12によって生成されると共に時間によって変化する磁場は真空チャンバのシェルにおける渦電流を引き生じる場合がある。その渦電流は、真空チャンバを加熱し、またビームに影響を与える場合がある。好ましくは、真空チャンバは真空チャンバのシェルにおける渦電流の発生を最小限化するように構成される。
【0069】
好適な実施形態によれば、一つ又はそれ以上の四重極レンズ17及び/又は走査手段12は真空チャンバの外側に設けられる。この場合、真空チャンバ(のシェル)は(全体的に又は部分的に)、例えばガラス又はセラミック材料の電気的に絶縁性の材料からなり得る。
【0070】
代替的な実施形態によれば、一つ又はそれ以上の四重極レンズ17及び/又は走査手段12は真空チャンバの内側に設けられる。その場合、真空チャンバは渦電流の影響をより少なく受けることになる。後者に場合において、真空チャンバは、鋼鉄又はステンレス鋼のように技術分野において一般的に用いられる材料からなり得る。真空チャンバのシェルの気密性(leak tight)を確保しつつ、電線及び冷却水の経路を作るのに注意が必要である。
【0071】
ビーム輸送装置10は、固定された場(静的な場)を有する追加的な四重極レンズ及び/又は追加的な双極磁石を更に備えることができる。
【0072】
収色性を有するビームの輸送装置10は、先行技術のビーム輸送装置よりもコンパクトにすることができる。従って、前者は、製品又は材料の殺菌のためのように、より小さな装置を好む分野における用途が見出され得る。
【0073】
応用の他の分野は、ケーブル線、熱収縮ホイル、宝石の色合いの調整(colour modification)のために用いられるような、材料特性の変更(modification)である。
【0074】
本実施形態の装置は、例えば、貨物輸送又はバルク輸送(bulk transport)のコンテナのスクリーニング(非侵入式検査(non−intrusive inspection))のような広い領域が走査される分野における用途が見出され得る。
【0075】
本実施形態に係る装置は、放射線療法(radiotherapy)、ポリマーの発光(irradiation)、及び荷電粒子ビームの他の公知用途にも好適である。
【0076】
更に、本実施形態は、ビーム生成器からターゲットに荷電粒子ビームを輸送する方法を提供する。荷電粒子は、ターゲットの上側において時間に依存して偏向される(走査される)。走査位置の上流において、荷電粒子ビームが通過する3つ又はそれ以上の位置における(磁気的及び/又は電気的)場の強度は、ビームの走査角度の関数として調整される。
【0077】
好適な実施形態において、ビームに対して走査ビームの方向が調整され、ビームが(全ての走査角度に対して平行な)走査角度と関係なく同じ方向を有する。代替的に、走査角度の関数として他の全ての角度分布は走査ビームに付与され得る。
【0078】
好適な実施形態において、四重極レンズ17の場の強度を調整する手段は、参照テーブルを備える。その索引表は、所定の走査角度に対して場の強度と関連付けて所定の情報を記録するように構成される。そのような参照テーブルは、例えば装置が設置された時に、一度作られ得る。参照テーブルに記録される情報は実験的に決定され得る。参照テーブルは、場強度を調整する手段の複雑性を著しく減らす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット(3)上で荷電粒子ビームを走査する走査手段(12)と、
前記走査手段の上流に配置された双極磁石(15)と、
前記双極磁石と前記走査手段との間に配置された少なくとも3つの四重極レンズ(17)と、
前記少なくとも3つの四重極レンズ(17)の場の強度を前記荷電粒子ビームの走査角度の関数として調整する調整手段と、
を備える、ターゲット(3)に荷電粒子ビームを輸送する装置(10)。
【請求項2】
前記場の強度を調整する調整手段が、前記少なくとも3つの四重極レンズの前記場の強度を調整するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記場の強度を調整する調整手段が、線上又は面上における複数の既定の位置で前記装置の少なくとも単一の収色性を得るように配置されており、前記線又は前記面が好ましくは前記ターゲット上にある、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記場の強度を調整する調整手段が、既定の走査角度に対して前記四重極レンズの前記場の強度と関連付けられた既定の情報を記録するように構成された参照テーブルを備える、請求項1〜3の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記荷電粒子ビームを走査する前記走査手段(12)の下流に配置された追加的な四重極レンズ(13)を備え、
前記追加的な四重極レンズは、前記荷電粒子ビームが前記走査角度と関係なく同じ方向を有するよう前記荷電粒子ビームの方向を調整するように配置されているか、又は前記荷電粒子ビームの方向を他の任意の角度分布に調整するように配置されている、請求項1〜4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記走査手段(12)及び/又は前記少なくとも3つの四重極レンズ(17)が、磁石を備え、前記磁石が電気的に絶縁性の磁気材料、好ましくはフェライトからなるヨークを含む、請求項1〜5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記走査手段(12)及び/又は前記少なくとも3つの四重極レンズ(17)が、磁石を備え、前記磁石が薄板状のヨークを含む、請求項1〜5の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
少なくとも部分的に電気的に絶縁性の材料からなる真空チャンバを備え、前記走査手段(12)及び/又は前記少なくとも3つの四重極レンズ(17)が、前記真空チャンバの外部に設けられている、請求項1〜7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記走査手段(12)及び/又は前記少なくとも3つの四重極レンズ(17)が、真空チャンバの内部に設けられている、請求項1〜7の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記走査手段(12)が、90°にわたって前記荷電粒子ビームを走査するように配置されている、請求項1〜9の何れか一項に記載の装置。
【請求項11】
ターゲットに荷電粒子ビームを輸送する方法であって、
ビーム生成器(2)から前記荷電粒子ビームを走査する走査手段(12)までに前記荷電粒子ビームを輸送する段階であって、前記走査手段の上流の位置(14)において前記荷電粒子ビームがゼロ度以外の角度で曲がる段階と、
前記上流の位置(14)と前記走査手段との間の3つ又はそれ以上の位置において、前記荷電粒子ビームの前記走査角度の関数で磁場及び/又は電場の強度を調整する段階と、
前記ターゲット(3)上に前記荷電粒子ビームを走査する段階と、
を備える、方法。
【請求項12】
材料、製品及び/又はデバイスの非侵入式検査のための、請求項1〜10の何れか一項に記載の装置の利用。
【請求項13】
貨物をスクリーニングするための、請求項12に記載の装置の利用。
【請求項14】
殺菌のための、請求項1〜10の何れか一項に記載の装置の利用。
【請求項15】
材料特性の変更のための、請求項1〜10の何れか一項に記載の装置の利用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−501858(P2011−501858A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526310(P2010−526310)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062955
【国際公開番号】WO2009/040424
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(509125981)
【Fターム(参考)】