説明

純水製造方法及び装置

【課題】電気脱イオン装置を用い、電気脱イオンによる純水製造と、イオン交換による純水製造とを実行できるようにすることを目的とする。
【解決手段】陽極32と陰極31との間にイオン交換膜33’,34,33を配置することにより、濃縮室兼陰極室35、脱塩室37及び陽極側濃縮室40を設け、各室にイオン交換樹脂を充填してなる電気脱イオン装置を有する純水製造装置において、通電を停止するかもしくは電流密度1000mA/dm以下となるようにして通電制御した状態で濃縮室40に被処理水を通水し、該濃縮室40内のイオン交換樹脂38,39によってイオン交換して該濃縮室から純水を流出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水製造装置に関する。好適には、本発明は、発電反応により生成した水蒸気および改質器における燃焼排ガス中の水蒸気の凝縮水を回収し、この回収水を水蒸気改質用の水蒸気源として使用するために、電気脱イオン装置を設けた燃料電池発電装置の純水製造装置に関する。また、本発明は、この純水製造装置を用いた純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池発電装置は、例えば都市ガス、LPガス、メタノール等の原燃料ガスを、水蒸気改質して水素に富むガスに改質する改質器と、この改質器で得られた改質ガスを燃料として発電を行う燃料電池本体とを備えている。
【0003】
改質器で生成した改質ガスは、燃料電池の負荷及び水素利用率に応じて、燃料電池内部で消費され、余剰の水素を含むガスはオフガス(燃料排ガス)として改質器へ導かれた上でバーナーで燃焼され、改質エネルギーとして消費されるように構成されることが多い。
【0004】
第5図は、特開2001−176535号の従来技術の欄に記載された、リン酸型燃料電池発電装置における水処理装置の基本的な系統図である。
【0005】
燃料電池本体1は、リン酸電解質層を挟持する燃料極1b及び空気極1aからなる単位セルと、該単位セルを複数個重ねる毎に配設される冷却管を有する冷却板1cとを備えている。
【0006】
改質器2は、原燃料供給系を経て供給される天然ガス等の原燃料を、水蒸気分離器5で分離されて水蒸気供給系を経て供給される水蒸気とともに、触媒層2aの触媒の下で、バーナでのオフガス燃焼による燃焼熱により加熱して、水素に富むガスに改質して改質ガスを生成する。
【0007】
改質器2で生成された上記改質ガスは、CO変成器4を有する改質ガス供給系を経由して燃料電池本体1の燃料極1bに供給される。燃料極1bから流出する、電池反応に寄与しなかった水素を含むオフガスは、オフガス供給系を経て改質器2のバーナに燃料として供給される。
【0008】
また、改質器2のバーナへは、図示しない燃焼空気供給用のブロワが接続されている。改質器2から出た燃焼排ガスは、水回収用の凝縮器6へと送られ、水回収後、排出される。回収水は、回収水タンク7へ送られる。
【0009】
また、燃料電池本体1には、空気極1aに空気を供給するブロワ23を備えた空気供給系と、電池反応後の水蒸気を含む空気を前記水回収用の凝縮器6へ供給する空気排出系とが接続されている。
【0010】
燃料電池本体1の冷却板1cの冷却管には、燃料電池本体1の発電時に冷却水を循環するため、水蒸気分離器5、冷却水循環ポンプ22を備えた冷却水循環系が接続されている。
【0011】
前記水蒸気分離器5では、燃料電池本体1の冷却管から排出された水と蒸気との二相流を、水蒸気と冷却水とに分離する。ここで分離された水蒸気は、前記改質器2に向かう原燃料と混入するように送出される。その際、元圧の低い原燃料との混合を行うために、エゼクタポンプ3を使用している。このエゼクタポンプ3は、蒸気を駆動流体とするとともに、原燃料を被駆動流体とする。原燃料供給系は、一般に、図示しない脱硫器を備える。
【0012】
上記のように、水蒸気改質には、純水が必要となる。また、りん酸型の燃料電池では、燃料電池の冷却水として、純水の加圧水を使用するのが一般的であり、その際、冷却水は、電気伝導度が低く、またシリカ等の鉱物系異物が少ない純水が使用される。
【0013】
燃料電池の冷却には水以外の冷媒を用いる場合もあるが、少なくとも、改質器での改質用水蒸気として純水が消費される為、常時、純水を供給する必要がある。そのため、燃料電池の空気オフガスと改質器の燃焼排ガス中の水蒸気を、凝縮器により、凝縮水として回収した後、水純化装置に通水して純水化するのが一般的である。
【0014】
この水純化装置としてイオン交換式水純化装置を用いる場合、一般的に電気伝導率が0.5〜1μS/cm以上になった時、2000h〜3000h程度の発電時間の間隔で水純化装置を交換する必要があり、煩雑な水純化装置の樹脂交換が必要となるとともに、樹脂再生コストが発生する問題があった。
【0015】
そこで、第6図では、イオン交換式水純化装置に代えて、樹脂交換が不要な電気脱イオン装置10を採用している。
【0016】
この電気脱イオン装置10の主要部は、イオン交換膜10cにより、処理室10aと濃縮室10bに分離されており、回収水タンク7からポンプ20を介して導入された回収水の陰イオンおよび陽イオンは、それぞれアニオン交換膜およびカチオン交換膜を通過して濃縮室10bに集まり、その後、濃縮排水として系外に排出されるように構成されている。その結果、処理室10aの出口側では連続的に純水が生成され、給水ポンプ21により水蒸気分離器5へ送られる。
【0017】
なお、処理室通水量を維持しつつ、純水供給量の変動に対応する目的で、ポンプ20の吸込側へ処理水(純水)をリサイクルさせている。
【0018】
この循環系に設けた逆止弁24は、回収水タンク7中の回収水が、電気脱イオン装置10を経由せずに、給水ポンプ21を介して、直接、水蒸気分離器5に供給されるのを防止するためのものである。
【0019】
濃縮排水は、処理室側通水量と比べて1/3程度と大幅に少ない為、濃縮室側系統にも、処理室側と同様に濃縮水循環ポンプ10dを設けて、濃縮水をリサイクルさせることにより、濃縮室通水量を確保しながら、濃縮排水量を適正に確保するようにしている。
【0020】
第6図においては、ミネラル除去装置9が電気脱イオン装置10の入口側に設けられている。電気脱イオン装置10はイオン交換膜を使用している為、電気脱イオン装置へ導入される処理水中のスケーリング物質は低濃度である必要があり、例えば、シリカは数ppm以下が条件となっており、スケーリング物質除去のためにミネラル除去装置9が設けられる。
【0021】
なお、この特開2001−176535号の図2には、この電気脱イオン装置と並列にイオン交換式水純化装置を設け、電気脱イオン装置からの脱イオン水の水質が低下してきた場合にイオン交換式水純化装置に通水して水質悪化を回避する構成が記載されている。
【0022】
ところで、本出願人は、電極間の印加電圧を低くしても、必要量の電流を流し、十分に膜イオン処理することができる電気脱イオン装置を特開2004−82092号にて提案している。
【特許文献1】特開2001−176535号
【特許文献2】特開2004−82092号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記第6図のように電気脱イオン装置において燃料電池発電装置回収水の水処理を行って純水を製造して燃料電池に供給する場合、燃料電池発電装置の運転立ち上げに際しては燃料電池発電装置からの排出水が無く純水を供給できない。上述のように電気脱イオン装置と並列にイオン交換式水純化装置を設けた場合には、このイオン交換式水純化装置によって純水を燃料電池発電装置に供給することが可能である。しかしながら、この場合には、電気脱イオン装置とイオン交換式水純化装置とを併設しなくてはならないため、設備が大掛りになると共に、コストも嵩む。
【0024】
本発明は、電気脱イオン装置を用い、電気脱イオンによる純水製造と、イオン交換による純水製造とを実行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1の純水製造装置は、陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置することにより、少なくとも陰極側濃縮室、脱塩室及び陽極側濃縮室を設け、各室にイオン交換体を充填してなる電気脱イオン装置を有する純水製造装置において、少なくとも一方の濃縮室に被処理水を通水し、該濃縮室内のイオン交換体によってイオン交換して該濃縮室から純水を流出させるイオン交換式純水製造運転モードの実行手段を備えたことを特徴とするものである。
【0026】
請求項2の純水製造装置は、通電を停止するか、もしくは電流密度が1000mA/dm以下となるようにしたことを特徴とするものである。
【0027】
請求項3の純水製造装置は、請求項1又は2において、前記電気脱イオン装置は、陰極と陽極との間に、第1のカチオン交換膜と、アニオン交換膜と、第2のカチオン交換膜とがこの順に配置され、該陰極と第1のカチオン交換膜との間に濃縮室兼陰極室が設けられ、第1のカチオン交換膜と該アニオン交換膜との間に脱塩室が設けられ、該アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間に濃縮室が設けられ、該第2のカチオン交換膜と該陽極との間に陽極室が設けられてなる電気脱イオン装置であることを特徴とするものである。
【0028】
請求項4の純水製造装置は、請求項3において、前記イオン交換式純水製造運転モードにあっては、被処理水が前記アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間の前記濃縮室に通水されることを特徴とするものである。
【0029】
請求項5の純水製造装置は、請求項3において、前記イオン交換式純水製造運転モードにあっては、被処理水が前記濃縮室兼陰極室に通水され、次いで前記アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間の前記濃縮室に通水されることを特徴とするものである。
【0030】
請求項6の純水製造装置は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記濃縮室にイオン交換体としてアニオン交換体とカチオン交換体との混床が充填されていることを特徴とするものである。
【0031】
請求項7の純水製造装置は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記濃縮室に、上流側からカチオン交換体とアニオン交換体とがこの順に交互に充填されていることを特徴とするものである。
【0032】
請求項8の純水製造方法は、陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置することにより、少なくとも陰極側濃縮室、脱塩室及び陽極側濃縮室を設け、各室にイオン交換体を充填してなる電気脱イオン装置を用いて純水を製造する方法において、少なくとも一方の濃縮室に被処理水を通水し、該濃縮室内のイオン交換体によってイオン交換して該濃縮室から純水を流出させるイオン交換式純水製造運転を行うことを特徴とするものである。
【0033】
請求項9の純水製造方法は、通電を停止するか、もしくは電流密度が1000mA/dm以下となるようにしたことを特徴とするものである。
【0034】
請求項10の純水製造方法は、請求項8又は9において、前記被処理水は、市水、井水、工業用水を除濁処理及び脱塩素処理した水であることを特徴とするものである。
【0035】
請求項11の純水製造方法は、請求項8乃至10において、前記電気脱イオン装置は燃料電池発電装置の回収水の純化用であり、該燃料電池発電装置の起動時に該電気脱イオン装置によってイオン交換式純水製造を行い、製造した純水を燃料電池発電装置に供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0036】
請求項1の純水製造装置及び請求項8の純水製造方法によると、電気脱イオン装置に充填されたイオン交換体を利用して、イオン交換による純水製造を行うことができる。従って、電気脱イオン装置とイオン交換装置とを併設することなくイオン交換処理による純水を供給することができる。
【0037】
なお、イオン交換処理運転を行うことにより、電気脱イオン装置のイオン交換体にはナトリウムイオン、塩素イオン等のカチオンやアニオンが蓄積してくるが、これらのイオンは、その後、電気脱イオン装置を電気脱イオン処理運転したときに除去され、イオン交換体が再生される。
【0038】
請求項2の純水製造装置及び請求項9の純水製造方法によると、被処理水に含まれるスケール原因イオンが陰極や各イオン交換膜表面に濃縮しづらいため、陰極やイオン交換膜へのスケール付着を防止することができる。
【0039】
請求項2〜4の純水製造装置に用いられている電気脱イオン装置は、上記特開2004−82092号に記載の電気脱イオン装置であり、電極間の印加電圧を低くしても十分に電気脱イオン処理された純水を製造することができる。
【0040】
この電気脱イオン装置は、脱塩室が1室であり、且つこの脱塩室の両側にはそれぞれ陽極側濃縮室と陰極室兼濃縮室とが配置され、この陽極側濃縮室の隣りに陽極室が配置されているため、電極間距離が小さく、電極間の印加電圧が低い。
【0041】
この電気脱イオン装置では、陽極側濃縮室とは別個に陽極室が設けられ、両者が第2のカチオン交換膜で隔てられているので、陽極側濃縮室から陽極室へのClイオンの移動が阻止される。そのため、陽極室内で発生するClは、陽極室内に導入された電極水中のClにのみ由来するものとなるので、陽極室でのCl発生量が著しく少ない。このため、陽極室内に充填されたカチオン交換樹脂等の導電体や、陽極室に臨む第2のカチオン交換膜がClによって劣化することが防止される。
【0042】
イオン交換処理による純水製造のために被処理水が通水される濃縮室は、アニオン交換体とカチオン交換体の混床とするか、又は上流側からカチオン交換体とアニオン交換体とを交互に充填するのが好ましい。交互積層方式の長所については、後に図面を参照して詳述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係る電気式脱イオン装置の概略的な縦断面図である。
【0044】
陰極31と陽極32との間に、第1のカチオン交換膜33と、アニオン交換膜34と、第2のカチオン交換膜33’とを1枚ずつ配置し、陰極31と第1のカチオン交換膜33との間に濃縮室兼陰極室35を形成し、第1のカチオン交換膜33とアニオン交換膜34との間に脱塩室37を形成し、アニオン交換膜34と第2のカチオン交換膜33’との間に濃縮室40を形成し、第2のカチオン交換膜33’と陽極32との間に陽極室36を形成している。
【0045】
濃縮室兼陰極室35、濃縮室40及び陽極室36にはそれぞれイオン交換樹脂38,39が充填されている。この濃縮室兼陰極室35、濃縮室40にはイオン交換樹脂はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を交互に配置した積層型で充填されているが、混床型でも構わない。陽極室36にはカチオン交換樹脂が充填されている。脱塩室37にはカチオン交換樹脂38とアニオン交換樹脂39とが混床型にて充填されているが、積層型でも構わない。
【0046】
脱塩室37の一端側には原水(凝縮水)の流入口が設けられ、他端側には脱イオンされて生成した純水の流出口が設けられている。
【0047】
陽極室36の一端側には電極水の流入口が設けられている。この実施の形態では、脱塩室37から流出した純水の一部を分取し、この電極水として用いている。
【0048】
陽極室36の流出水は濃縮室40へその一端側から流入し、他端側から流出する。濃縮室40の流出水は、濃縮室兼陰極室35へその一端側から流入し、他端側から濃縮水兼陰極電極水として排出される。
【0049】
純水供給効率を上げるためには、被処理水(前処理した市水等)の補給工程はできるだけ短時間で済ませて通常運転工程に戻すことが望ましい。従って、補給工程における被処理水の濃縮室への通水速度は高い方が好ましく、例えばSV20[h−1]以上であることが好ましい。ただしSV100[h−1]を超過すると、被処理水の脱塩が十分に行われなくなってしまうので、SVは20〜100[h−1]であることが好ましい。
【0050】
このような通水速度で被処理水を濃縮室に供給するにあたり、濃縮室内のイオン交換樹脂が単一型でなく混床型や積層型である場合は、被処理水の濃縮室への通水方向は下向流であることが好ましい。上向流で通水してしまうと、混床型や積層型に充填していた樹脂の配置が崩れてしまう恐れがあるので好ましくない。
【0051】
各室35,37,40,36の流入口及び流出口には、弁を有した配管が接続され、この弁の開閉や流路切替により各室への通水が制御される。この弁の制御手段と、通電制御手段とによって、純水製造装置の運転実行手段が構成されている。この運転実行手段は、手動操作されてもよく、コンピュータ等によって操作されてもよい。
【0052】
この電気脱イオン装置では、イオン交換樹脂の充填構造を積層型にすることにより、通電時の電気抵抗が小さくなるので、処理効率が向上し、装置の小型化を図ることができる。そのため混床型より積層型の方がより好ましい。また、この場合、積層型のアニオン樹脂、カチオン樹脂混合の各層は純粋なアニオン樹脂層やカチオン樹脂層であることが好ましいが、電圧が上がり過ぎない程度であればアニオンリッチの樹脂層やカチオンリッチの樹脂層であっても構わない。
【0053】
また、積層型の場合、上流側からカチオン交換樹脂→アニオン交換樹脂→カチオン交換樹脂→アニオン交換樹脂→・・・の順番にする方が好ましい。アニオン交換樹脂が最上流であると、イオン交換処理運転モードにおいて生成したOHイオンが被処理水中に含まれるMgイオンと反応して、アニオン交換樹脂中にMg(OH)スケールが生成する恐れがあるからである。
【0054】
次に、この装置の運転モードについて説明する。
<電気脱イオン処理運転モード>
この電気脱イオン処理運転モードの一態様にあっては、通電した状態にて原水(凝縮水)を脱塩室37に導入し、純水として取り出す。上記の通り、純水を陽極室36に導入し、順次に濃縮室40及び濃縮室兼陰極室35に流通させる。原水中のカチオンは第1のカチオン交換膜33を透過し、陰極電極水に混入して排出される。原水中のアニオンはアニオン交換膜34を透過して濃縮室40に移動し、濃縮室流出水に混入して濃縮室兼陰極室35を経て排出される。
【0055】
なお、電気脱イオン運転を行う通水態様としては、第2図の通りとしてもよい。
【0056】
この第2図では、原水(凝縮水)を脱塩室37に通水し、脱塩室37の流出水の主要部を純水として得、一部を分取し、それぞれ濃縮室兼陰極室35、濃縮室40及び陽極室36に通水する。
【0057】
<イオン交換処理運転モード>
この電気脱イオン装置を用い、イオン交換処理によって純水を製造する方法について次に説明する。
【0058】
この場合にあっては、通電を停止するかもしくは電流密度が1000mA/dm以下となるように通電量を調整した状態で第3図、第4図、又は第5図のように通水を行う。電流密度が000mA/dmを超過すると陰極やイオン交換膜の表面にスケール発生の原因となるイオンが濃縮すると推定され、これにより陰極やイオン交換膜の表面にスケールが付着する恐れがあるので好ましくない。同様の理由で電流密度は600mA/dm以下であることがより好ましい。ただし通電を停止するのがより確実にスケール発生を防止できる上、通電量の制御が簡易となるため、最も好ましい。
【0059】
第3図では、被処理水を陽極側の濃縮室40に通水し、陽極側の濃縮室40の流出水を純水として得ている。
【0060】
また、より高純度の純水が求められている場合は、第4図のように通水してもよい。第4図では、被処理水を陽極側の濃縮室40に通水し、陽極側の濃縮室40の流出水をさらに濃縮室兼陰極室35に通水し、濃縮室兼陰極室35の流出水を純水として得ている。
【0061】
第5図では、被処理水を濃縮室兼陰極室35に通水した後、陽極側の濃縮室40に通水し、この濃縮室40の流出水を純水として得る。ただし、第5図のように、濃縮室兼陰極室35に先に被処理水を供給するようにした場合、被処理水に含まれるMgイオンが陰極室兼陰極濃縮室のイオン交換樹脂に捕獲され、その後電気脱イオン処理運転すると、濃縮室兼陰極室35内のpHがアルカリ側になり、濃縮室兼陰極室35内でスケールを形成する恐れがある。一方、第4図の通水方式とした場合、このようなスケールが防止される。即ち、被処理水をそのまま濃縮室兼陰極室35に供給するのではなく、陽極側の濃縮室40に通水して酸性とした後に濃縮室兼陰極室35に供給することにより、濃縮室兼陰極室35のpHが中和され、スケール生成条件のpH領域にならないようになるのでより好ましい。
【0062】
なお、このように2室に通水すると、圧力損失が大きく、ポンプにかかる負荷が大きくなるので、2室に通水するのは必要な場合だけとするのが好ましい。
【0063】
被処理水を脱塩室37に通水しないのは、脱塩室37のイオン交換樹脂を汚さないためである。
【0064】
<交互運転>
上記のイオン交換による純水製造運転を行った後、電気脱イオンによる純水製造運転に戻る。これにより、イオン交換樹脂を電気的に再生することができる。
【0065】
この電気脱イオン運転モードの途中で、燃料電池発電装置の純水保有量が低下してきた場合には、イオン交換運転を行って純水を補給し、次いで電気脱イオン運転モードに戻る。
<燃料電池発電装置の純水供給システムとしての利用>
この場合、電気脱イオン装置の現場据え付けに先立って、電気脱イオン装置を試運転し、各室のイオン交換樹脂を再生して電気脱イオン装置を立ち上げておくことが好ましい。
【0066】
現場据え付け後、上記第3図、第4図又は第5図のように通水して純水を製造し、この純水を用いて燃料電池発電装置を起動させる。起動後は、電気脱イオン装置を電気脱イオン運転する。
【0067】
この起動時に電気脱イオン装置に供給する被処理水としては、市水、井水、工業用水等を前処理したものが好適であり、前処理としては少なくとも脱塩素処理と除濁処理を行うのが好ましく、具体的には例えば活性炭処理と、精密濾過又は限外濾過等の膜濾過とを行う。
【0068】
<その他の形態>
上記電気脱イオン装置は、室35,37,40,36の4室構造となっているが、濃縮室兼陰極室、脱塩室、濃縮室兼陽極室の3室構造の電気脱イオン装置を用いてもよい。この場合、イオン交換による純水製造モードでは、いずれか一方の濃縮室兼電極室に被処理水を流す。もちろん、双方の濃縮兼陰極室に直列に通水してもよい。この場合、先に濃縮室兼陽極室に通水すれば、濃縮室兼陰極室でのスケール生成を防止することができる。
【0069】
現在ボイラーの供給水処理には、補給水処理として主に軟水器が、復水処理として純水装置が用いられている。本発明はこの両方の装置の機能を1台で具備することが可能である。すなわちボイラー用水補給時には市水を当発明で浄化処理した純水を補給し、ボイラー運転時での復水浄化でも本発明で純水を補給することが可能である。本発明を適用すれば、装置が小型化でき、また軟水器のための塩水補給、純水装置からの酸アルカリ再生廃水処理が不要になりこの結果環境負荷低減に貢献できる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例について説明する。なお、この実施例及び比較例では4室構造の電気脱イオン装置を用い、第2図に示す通水方式で電気脱イオンによる純水製造を行った。また実施例における市水浄化は第3図に示す通水方式で行った。
【0071】
[実施例]
1)電気脱イオン装置の立ち上げ
抵抗率1MΩ・cmの純水を2.3L/hで脱塩室に供給、脱塩室出口水のうち2L/hを生産水として得た。また残りの0.3L/hを3等分し、残りの各室に供給し、各出口水は排水した。電極に0.1Aの直流電流を印加して通水を開始し、生産水が16MΩ・cmに達した時点で立ち上げ完了とした。
【0072】
2)市水浄化(イオン交換処理)
必要な市水浄化を、陽極側の濃縮室に充填したイオン交換樹脂で行った。
【0073】
まず、市水を活性炭で脱塩素後、精密フィルターで除濁し、0.3L/hで陽極側の濃縮室に供給する。陽極側の濃縮室の出口水の抵抗率を測定したところ概ね3MΩ・cmと良好な水質であり、約1.0Lの純水が得られた。なお市水を浄化している間は、通電を停止した。
【0074】
3)模擬凝縮水浄化(電気脱イオン処理)
原水として、燃料電池から得られる凝縮水の模擬水を作成し、2)で市水を浄化した電気脱イオン装置にて電気脱イオン処理した。模擬液は塩化ナトリウムと炭酸ガスを純水に溶解し、電気伝導率が1mS/m程度になるように調製した。
【0075】
模擬水は脱塩室に供給し、直流電圧印加も含めて、上記1)の立ち上げ時と同様の条件で通水し、処理した。この結果6MΩ・cmの水質を得ることができた。
【0076】
模擬凝縮水の通水を約1週間継続させた。この間、良好な水質の純水を得た。
【0077】
4)市水浄化、模擬凝縮水浄化の繰り返し
工程3)模擬凝縮水浄化の後、工程2)市水浄化と工程3)模擬凝縮水浄化を交互に実施、延べ5回繰り返した。5回繰り返すことで、市水浄化で得られる純水の量は徐々に低下したが、5回目で得られた純水量は1回目の概ね75%程度であり実用的であった。
【0078】
また市水浄化で得られる純水の方が模擬凝縮水浄化で得られる純水よりも水質が悪い原因としては以下のことが推定される。すなわち模擬凝縮水浄化において、脱塩室に充填されているイオン交換樹脂は常に電気的に再生されているのに対して、陽極側の濃縮室に充填されているイオン交換樹脂は脱塩室からアニオン交換膜を透過した各種アニオンによって若干汚れており、再生効率が相対的に低いため、市水浄化におけるイオン交換の効率が相対的に低いということが考えられる。
【0079】
なお、模擬凝縮水を浄化して得られた純水水質はほぼ一定の6MΩ・cm程度と良好であり、また電気脱イオン機能は良好で、連続して純水を得ることができた。
【0080】
[比較例]
電気脱イオン装置の陽極側の濃縮室に充填しているのと同じ量の混床イオン交換樹脂約40mLを再生処理後カラムに充填し、本発明と同容量の市水、模擬凝縮水を供給して浄化性能を調べた。この結果、1回目の市水浄化後、模擬凝縮水浄化処理途中で破過し、使えなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】4室構造の電気脱イオン装置の電気脱イオンによる純水製造運転例を示す系統図である。
【図2】図1の電気脱イオン装置の電気脱イオンによる別の純水製造運転例を示す系統図である。
【図3】図1の電気脱イオン装置を用いたイオン交換方式による純水製造運転例を示す系統図である。
【図4】図1の電気脱イオン装置を用いたイオン交換方式による別の純水製造運転例を示す系統図である。
【図5】図1の電気脱イオン装置を用いたイオン交換方式による別の純水製造運転例を示す系統図である。
【図6】従来例に係る燃料電池発電装置の系統図である。
【符号の説明】
【0082】
31 陰極
32 陽極
33 第1のカチオン交換膜
33’ 第2のカチオン交換膜
34 アニオン交換膜
35 濃縮室兼陰極室
36 陽極室
37 脱塩室
38 カチオン交換樹脂
39 アニオン交換樹脂
40 濃縮室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置することにより、少なくとも陰極側濃縮室、脱塩室及び陽極側濃縮室を設け、各室にイオン交換体を充填してなる電気脱イオン装置を有する純水製造装置において、
少なくとも一方の濃縮室に被処理水を通水し、該濃縮室内のイオン交換体によってイオン交換して該濃縮室から純水を流出させるイオン交換式純水製造運転モードの実行手段を備えたことを特徴とする純水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記イオン交換式純水製造運転モードの実行手段が通電停止するか、または電流密度を1000mA/dm以下に調整する通電制御手段を備えていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記電気脱イオン装置は、
陰極と陽極との間に、第1のカチオン交換膜と、アニオン交換膜と、第2のカチオン交換膜とがこの順に配置され、
該陰極と第1のカチオン交換膜との間に濃縮室兼陰極室が設けられ、
第1のカチオン交換膜と該アニオン交換膜との間に脱塩室が設けられ、
該アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間に濃縮室が設けられ、
該第2のカチオン交換膜と該陽極との間に陽極室が設けられてなる電気脱イオン装置であることを特徴とする純水製造装置。
【請求項4】
請求項3において、前記イオン交換式純水製造運転モードにあっては、被処理水が前記アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間の前記濃縮室に通水されることを特徴とする純水製造装置。
【請求項5】
請求項3において、前記イオン交換式純水製造運転モードにあっては、被処理水が前記濃縮室兼陰極室に通水され、次いで前記アニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間の前記濃縮室に通水されることを特徴とする純水製造装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記濃縮室にイオン交換体としてアニオン交換体とカチオン交換体との混床が充填されていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記濃縮室に、上流側からカチオン交換体とアニオン交換体とがこの順に交互に充填されていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項8】
陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置することにより、少なくとも陰極側濃縮室、脱塩室及び陽極側濃縮室を設け、各室にイオン交換体を充填してなる電気脱イオン装置を用いて純水を製造する方法において、
少なくとも一方の濃縮室に被処理水を通水し、該濃縮室内のイオン交換体によってイオン交換して該濃縮室から純水を流出させるイオン交換式純水製造運転を行うことを特徴とする純水製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記イオン交換式純水製造運転が通電停止されているか、または電流密度が1000mA/dm以下になるように通電制御された状態で実行されることを特徴とする純水製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記被処理水は、市水、井水、又は工業用水を除濁処理及び脱塩素処理した水であることを特徴とする純水製造方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、前記電気脱イオン装置は燃料電池発電装置の回収水の純化用であり、
該燃料電池発電装置の起動時に該電気脱イオン装置によってイオン交換式純水製造を行い、製造した純水を燃料電池発電装置に供給することを特徴とする純水製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−161760(P2008−161760A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351564(P2006−351564)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】