説明

経皮投与装置

【課題】 本発明は,新規な経皮投与装置を提供することなどを目的とする。
【解決手段】 本発明の経皮投与装置(1)は,基板(2)と,前記基板上に設けられた1又は複数の突起部(3)を具備し,前記突起部は糖類又は生分解性ポリマーを主成分とし,前記突起部の高さは10μm〜3mmであり,前記突起部の先端が平坦か,丸みを帯びているか,又は平坦形状でありさらに1又は複数の微小突起を有する,経皮投与装置である。突起部を角質層内に貫通させなくても,表皮を引き伸ばすことができれば,表皮の保護特性を低下させることができるので,突起に付着しているか又は突起に含まれる化粧料,医薬,糖類などの化合物を投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規な経皮投与装置に関する。より詳しく説明すると,本発明は,経皮系ドラッグデリバリーシステム(DDS)用の微細突起を有する経皮投与装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与方法として,経口投与と注射による投与が主であった。しかし,経口投与は,消化器系を経由するので,患部へ効果的に到達しないなどの問題がある。また,注射による投与は,通常痛みを伴うなどの問題や,皮膚が損傷するなどの問題がある。また,薬剤の投与方法として,塗り薬や貼り薬などの経皮投与がある。これらの経皮投与は,簡便であり,かつ投与量を容易に調整できるという利点がある。しかし,これらの方法では,角質内に化合物を迅速に浸透させることは困難である。
【0003】
近年,マイクロニードルなどによる経皮系DDSの開発が進み,実用段階に入っている(下記特許文献1参照)。しかし,マイクロニードルなどによる経皮投与では,皮膚が損傷するという問題がある。また,皮膚に穴などの傷が生ずるので、傷から菌が進入する可能性があるなどの問題がある。
【特許文献1】特開2003-238347
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,新規な経皮投与装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は,化粧料などを効果的に投与できる新規な経皮投与装置を提供することを上記とは別の目的とする。
【0006】
本発明は,痛みを伴わず,かつ皮膚に傷を残さない,新たな剤型を提供することを上記とは別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,上記の課題のうち少なくともひとつ以上を解決するためのものであり,基本的には,突起部を角質層内に貫通させなくても,表皮を引き伸ばすことができれば,表皮の保護特性を低下させることができるので,突起に付着しているか又は突起に含まれる化粧料,医薬,糖類などの化合物を投与することができるという知見に基づくものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は,突起部が皮膚の角質層を貫通しないが,加圧されて薄くなった角質層などを通して,突起部に付着するか突起部に含まれる化合物を投与できるという,新規な経皮投与装置を提供することを目的とする。
【0009】
美容液などは効果的に投与することが期待されるが,本発明は,顔など特定の位置の皮膚を引き伸ばした状態で,化粧料などを投与できるので,化粧料などを効果的に投与できる新規な経皮投与装置を提供することができる。
【0010】
本発明の経皮投与装置は,通常の加圧において皮膚の角質層を貫通しないので,痛みを伴わず,かつ皮膚に傷を残さない,新たな剤型を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.経皮投与装置
図1は,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。図1に示されるように,本発明の経皮投与装置(1)は,基板(2)と,前記基板上に設けられた1又は複数の突起部(3)を具備する。具体的には,基板(2)と,前記基板上に設けられた1又は複数の突起部(3)を具備し,前記突起部は糖類又は生分解性ポリマーを主成分とし,前記突起部の高さは10μm〜3mmであり,前記突起部の先端が平坦か,丸みを帯びているか,又は平坦形状でありさらに1又は複数の微小突起を有する,経皮投与装置である。なお,図中,符号4は,突起部の先端部に設けられてもよい微小突起である。
【0012】
前記突起部の高さは10μm〜3mmであり,好ましくは先端に向かうに従って先が細くなっている形状のものである。突起部の先端形状として,平坦か,丸みを帯びているか,又は平坦形状があげられる。このような形状を有するので,通常の使用状況の下では,突起部が角質層を貫通しないので,表皮にダメージを与える事態を防止でき,表皮を伸ばすことができるので効果的に化合物を投与できる。
【0013】
なお,突起部の高さは用途に応じて適宜調整すればよいが,10μm〜3mmがあげられ,100μm〜2mmでもよく,200μm〜1mmでもよい。特に顔などに化粧料を投与するために投与装置を用いる場合は,表皮が薄いので,突起部の長さを短くすることが望ましく,具体的には20μm〜500μmとすればよい。
【0014】
図2は,突起部の先端が平坦である場合における,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。突起部の先端が平坦である場合の「平坦」とは,たとえば,少なくとも突起部の先端を中心とした10μm四方の領域において,基準長さを1μmとしたときの算術平均粗さ(Ra)が,0.01μm以上1μm以下であるものがあげられ,0.01μm以上0.5μm以下でもよい。また,少なくとも突起部の先端を中心とした10μm四方の領域において,最大高さ(Ry)が5μm以下となるものがあげられ,4μm以下であればより好ましく,3μm以下であればさらに好ましい。このような平坦な領域を有することで,突起部が表皮に侵入する自体を効果的に防止できる。なお,平坦な領域は,たとえば,突起部の先端を中心とした10μm四方の領域があげられるが,1μm以上1000μm以下であってもよく,10μm以上500μm以下であってもよい。
【0015】
突起部の先端が丸みを帯びている場合の「丸み」とは,たとえば,突起部の頂点部がなだらかに変化していることを意味する。なお,本明細書において,直径2rの丸みとは,突起部の太さが2rの位置において,その中心から,突起部の頂点までの距離がr以下の場合を意味する。たとえば,直径20μmの丸みとは,突起部の平均直径が20μmの位置において,その部位の中心から,突起部の頂点までの距離が10μm以下の場合を意味する。このように突起部の先端が丸みを帯びている場合,突起部の先端が表皮に完全には突き刺さらず,表皮を引き伸ばす効果がある。なお,突起部の先端が丸みを帯びている場合の「丸み」は,たとえば,直径20μm以上の丸みがあげられるが,直径が20μm以上1mm以下でもよく,直径が30μm以上200μm以下でもよい。
【0016】
図3は,突起部の先端が,平坦形状であり,さらに1又は複数の微小突起(4)を有する場合における,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。突起部の先端が,平坦形状であり,さらに1又は複数の微小突起を有する場合,微小突起の先端が,直径20μm以上の丸みを有するものが好ましい。この場合において,「平坦」及び「丸み」は先に定義したものを適宜採用できる。また,微小突起として,たとえば,先に説明した突起部の1/100〜1/2の大きさのものがあげられ,1/10〜1/3の大きさのものでもよい。
【0017】
図4は,複数の突起部を有する本発明の経皮投与装置の概略構成図である。図4に示されるように,前記複数の突起部は,好ましくは,基板の格子点の位置に設けられるものがあげられる。図5は,基板が網状のものである本発明の経皮投与装置の概略構成図である。基板として,図5に示されるように,網のように網目のあるものを用いてもよい。この場合,たとえば,突起部は網目の位置に設けられればよい。
【0018】
前記突起部は,通常使用において皮膚の角質層を貫通しないものが好ましい。ここで「通常使用」とは,本発明の経皮投与装置を皮膚において軽くたたく程度の加圧を意味する。具体的には,用途に応じて1g重/cm〜100g重/cm程度(より具体的には,たとえば,10g重cm)の加圧条件を意味する。
【0019】
基板は,前記突起部を支持できるものであれば特に限定されず,公知の基板を用いることができる。基板としてテープのようなかとう性(フレキシビリティ)のあるものを用いてもよいし,プラスチックのような定型性を有するものを用いてもよい。基板と突起部とは同じ素材を用いたものを用いてもよい。基板の大きさや厚さは用途に応じて適宜調整すればよい。基板と突起部と一体成形されてもよいし,別々に成形されてもよい。基板の厚さは用途に応じて適宜調整すればよいが,たとえば0.1mm〜5mmがあげられ,0.1mm〜1mmでもよく,0.2mm〜0.8mmでもよい。
【0020】
この基板又は突起部の主成分として,ポリ乳酸などの生体分解性ポリマー;ブドウ糖,マルトース,フルクトース,プルランなどの糖類があげられるが,好ましくはマルトース又はプルランである。さらに,それらを主成分として,薬剤又はその医薬的に許容される塩,化粧料などの化合物や,医薬的に許容される担体などを含むものであってもよい。薬理学的に許容される担体として,賦形剤,希釈剤,滑沢剤,結合剤,安定剤,及び矯臭剤から適宜選択されるものがあげられる。
【0021】
先に説明したとおり,本発明の経皮投与装置は,糖類などの他に所定の化合物を含有してもよい。所定の化合物は,本発明の経皮投与装置により投与されることとなる。ただし,従来の注射などのように,表皮を突き破り所定の化合物が投与されるのではなく,好ましくは表皮が引き伸ばされた状態で,その表皮に化合物が接触するか,化合物を含有する突起部が溶解することにより皮膚に化合物が皮膚に付着し,表皮内へ浸透することにより所定の化合物が投与される。
【0022】
所定の化合物として,ペプチド類,核酸,薬剤又はその医薬的に許容される塩,化粧料,又は色素があげられ,ペプチド類として,ポリペプチドなどがあげられ,核酸として,DNA,RNAがあげられ,薬剤として,公知の薬剤を適宜用いることができ,鎮痛剤,解熱剤,消毒薬,糖尿病の治療剤,サプリメントなどがあげられ,具体的には,シンバスタチン,アトルバスタチン,プラバスタチンなどの高脂血症薬;オメプラソール,ランソプラゾールなどの抗潰瘍剤;アムロジピン,ロサルタンなどの抗圧剤;エボエテンアルファ,エポエチンアルファなどの腎性貧血治療・予防剤;ロラタジン,セチリジン,フェキソフェナジンなどの抗ヒスタミン剤;セレコキシブ,ロフェコキシブなどのCox2阻害剤;オランバピンなどの精神分裂病薬;メトフォルミンなどの糖尿病薬;エストロゲン製剤などの更年期障害治療・予防剤;アモキシシリンなどの抗生物質;クロピドグレルなどの抗血小板薬;アレンドロン酸ナトリウムなどの骨粗鬆症薬;ガバペンチンなどの抗てんかん薬;ゾルビテムなどの睡眠薬;その他,7−クロロ−1,3−ジヒドロー1−メチル−5−フェニル−2H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オン(ジアゼパム),クロナゼパム,エスタゾラム,オキサゾラム,ハロキサゾラム,プロカイン,リドカイン(リンドカイン),シブカイン,プロプラノロール,ピンドロール,カルテオロール,レボトバ,レボフロキサシン,デキストロフメトルファン,オキサプロジン,チアミンジスルフィド,トリクロルメチアジド,ブロムペリドール,リトドリン,メリルエルゴメトリン,パクリタキセル,ドセタキセル,リンドカイン,インドメタシン,エストロディオール,ぺパリン又はインシュリンなどの薬剤や,ビタミンC,ビタミンB,ビタミンEなどのビタミン類があげられる。これらの中では,リンドカイン,インドメタシン,エストロディオール,ぺパリン又はインシュリンなどを好適に用いることができる。後述の実施例で示されたとおり,本発明によれば,突起部による皮膚へのダメージが迅速に回復するので,本発明の経皮投与装置は,薬剤や化粧料(特に美容液)の投与装置として有効に利用できる。なお,所定の化合物として色素を用いれば,無痛の刺青や,比較的短期間で消える刺青,簡易マーキング装置などとしても利用できる。
【0023】
本発明の経皮投与装置の好ましい別の態様は,突起部には,所定の化合物が塗布されることで,前記突起部の表面にはその化合物による層が形成され,その突起部をヒト又はヒト以外の動物(特に哺乳動物)に押し当てることで,前記動物内に前記糖類と化合物とが投与される経皮投与装置である。化合物を塗布する場合,突起部の全体に化合物(化合物を含む溶液であってもよい)を塗布してもよいし,先端部に塗布してもよい。また,塗布には,浸漬塗布,刷毛などによる塗布,スプレー塗布,化合物を付着させる塗布方法など公知の塗布方法を適宜利用することができる。また,突起部には,化合物が塗布され,前記基板及び突起部は,糖類と前記化合物とを含有し,前記突起部の少なくとも先端部は,動物に挿入され,溶解することにより前記動物内に前記糖類と化合物とが投与される経皮投与装置であってもよい。このように突起部に塗布される化合物は,60℃以上の熱により効能が変化するものがあげられる。突起部に塗布される化合物と,経皮投与装置の原料とされる化合物とは同一でも異なってもよいが,好ましくは同一の化合物を用いるものである。別々の化合物を用いて,別々の薬効を期待してもよく,たとえば,塗布する化合物を鎮痛剤を含むものとし,経皮投与装置の原料とされる化合物に治療剤を含むものとしてもよい。また,50℃以上の温度で薬効が10%以上減少する薬剤と,塗布し,50℃でも薬効が10%以上減少しない薬剤を経皮投与装置の原料としてもよい。また,たとえば,突起部にDNAなどの核酸(又はDNAなどの核酸を含有する液)を塗布することによりDNAを搭載すること望ましい。これによりDNAなどの核酸を用いた予防剤,及び治療剤として本発明の経皮投与装置(経皮投与装剤)は利用されうることとなる。
【0024】
なお,突起部に化合物を塗布する場合,医学的に許容される溶媒に化合物を溶解させたものを塗布すればよい。このような溶媒として,ヘキサン,ヘプタンのような脂肪族炭化水素類;トルエン,キシレンのような芳香族炭化水素類;クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピル,酢酸ブチル,炭酸ジエチルのようなエステル類;ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン,ジメトキシエタン,ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル類;メタノ−ル,エタノ−ル,n−プロパノ−ル,イソプロパノ−ル,n−ブタノ−ル,イソブタノ−ル,t−ブタノ−ル,イソアミルアルコ−ル,ジエチレングリコール,グリセリン,オクタノール,シクロヘキサノール,メチルセロソルブのようなアルコ−ル類;アセトニトリル,イソブチロニトリルのようなニトリル類;ホルムアミド,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミドのようなアミド類;のうち1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのうち,有機溶媒として,好ましくは,メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール,ペンタノール,酢酸エチル,又はアセトンであり;さらに好ましくはエタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール,ペンタノール,酢酸エチル,又はアセトンである。なお,有効成分として用いられる化合物の濃度として,0.01重量%〜90重量%があげられ,好ましくは1重量%〜80重量%,さらに好ましくは10重量%〜70重量%である。
【0025】
3.経皮投与装置の製造方法
本発明の経皮投与装置の製造方法は,基板上に1又は複数の突起部とを具備し,前記突起部は高さが50μm〜3mmであり,先端は丸みをもつ金型を用いて射出成型によって経皮投与装置を得る非侵襲経皮投与装置の製造方法である。詳細な工程や条件などは,たとえば,特開2003-238347号公報などに記載されるものを適宜用いればよい。金型(鋳型)は,公知の方法を用いて製造できる。この製造方法を用いれば,経皮投与装置を製造できる。また,金型のうち基板部に相当する部位を網状にするなどすれば,網状の基板を有する経皮投与装置を製造できる。
【0026】
糖類を含む組成物は,経皮投与装置の原料となるものであり,糖類のみからなる組成物であってもよいし,糖類のほかに所定の化合物を有するものであってもよい。いずれにせよ,ある程度の流動性が必要なので,糖類を含む組成物は,溶液とされていることが好ましい。ただし,粉末状態の原料を混合したものを用いてもよい。溶液とする場合は,具体的には,糖類を加熱するか,水又は有機溶媒に糖類を加えるか,水又は有機溶媒に糖類を加えた後加熱すればよい。この際に加熱する温度として,10℃〜150℃があげられ,好ましくは40℃〜120℃であり,より好ましくは70℃〜90℃であり,さらに好ましくは75℃〜85℃である。水や有機溶媒を用いない場合は,加熱温度として50℃〜130℃があげられ,100℃〜120℃が好ましい。このような温度であれば,容易に糖分が溶解し,化合物も溶解することとなる。化合物が溶解しない場合は,公知の溶媒を加えてもよい。溶解時間は,適宜調整すればよく,1分〜1日があげられ,10分〜5時間でもよく,30分〜2時間でもよい。なお,水分や有機溶媒を用いると,固化する際にこれらが蒸発し,経皮投与装置の形状が変化する場合があるので,好ましくは糖類のみ又は糖類と所定の化合物のみを組成物とするものがあげられる。すなわち,本明細書において,組成物とは,所定の糖類のみを含むものをも含むものとする。
【0027】
化合物を混合する場合は,溶媒の温度を一定に保った状態で,攪拌しながら,又は攪拌せずに化合物を添加すればよい。このような工程は,常圧環境下において反応を進めればよく。たとえば,目視により原料が溶解した時点で,溶解工程を終了すればよい。また,所定の化合物が液体の場合は単に溶解させた糖類又は糖類を含む組成物に攪拌下所定の化合物を添加すればよい。化合物と糖類の割合は,投与量や経皮投与装置の強度などを考慮して適宜調整すればよく,化合物と糖類との重量比として,1:100〜1:1があげられ,1:10〜1:5であってもよい。この溶解したものを金型に入れてもよいし,いったん固化させたものを金型に入れてもよい。後者の場合,たとえば,常温,常圧とすることで,迅速に固化する。また,冷却することにより固化速度をあげてもよい。こかした塊を所定の大きさに分割し,分割したものを金型に入れて,金型を過熱し(又は金型を含む系を加熱し)溶解させればよい。より具体的には,金型又は系の温度として50℃〜130℃があげられ,好ましくは80℃〜120℃であり,90℃〜110℃とすればよく,加熱時間として1秒〜1時間があげられ,好ましくは5秒〜1分があげられる。
【0028】
液状の組成物を金型に注入する場合は,液状の組成物を,金型に注ぎ込めばよい。また,組成物を固化させるためには,常温,常圧下で放置してもよいし,冷却を行ってもよい。冷却を行う場合は,金型の外側から冷却してもよいし,金型を含む系全体を冷却してもよい。固化工程における圧力は,常圧で行えばよいが,溶媒を蒸発させることにより結晶化を行う場合は,減圧下(たとえば,0.1気圧〜0.9気圧にて)行うことが好ましい。結晶化時間として,10秒〜24時間があげられ,好ましくは1分〜1時間であり,より好ましくは1分〜30分である。
【0029】
このようにして得られた投与装置は,好ましくは密閉容易に乾燥剤と共に封入する。水分があると,突起部が溶けるためである。なお,突起部の先端を丸くするためには,そのような形状を有する金型又は鋳型を用いてもよいが,比較的鋭利な先端を有するものを製造した後,所定時間(たとえば1分〜20分),通常の湿度環境下にさらした後に,乾燥剤入りの密閉容器に封入すればよい。
【0030】
4.経皮投与剤
本発明の経皮投与装置は,基板上に設けられた 1又は複数の突起部と具備し,前記基板及び突起部は,糖類と化合物とを含有し,一体として成形され,前記突起部の高さは50μm〜3mmであり,前記突起部の先端部そのものは,動物に挿入されず,前記動物内に前記糖類と化合物とが投与される経皮投与剤として利用されうる。すなわち,本発明によれば,注射,塗布薬など同様の新たな経皮投与剤が提供されることとなる。この態様における化合物として,先に説明したもののうち,薬剤を効果的に用いることができる。
【0031】
経皮投与剤の製造方法は,上記した経皮投与装置の製造方法に従って製造できる。本発明の経皮投与剤による投与方法は,患部又は任意の皮膚に本発明の経皮投与剤をあてて軽く押すなどして,突起部を皮膚表面に加圧すればよい。
【0032】
経皮投与装置を新規剤型として用いる場合,経皮投与装置に含まれる有効成分である所定の化合部の投与量は,対象疾患,投与対象などにより差異はあるが,例えば,一日につき化合物を約0.01〜30mg程度,好ましくは約0.1〜20mg程度,より好ましくは約0.1〜10mg程度を投与すればよい。糖類が溶解する温度で変性などを起こさない化合物を投与するためには,糖類と共に溶解させて経皮投与装置として用いればよい。また,糖類が溶解する温度で変性を起こすなど物性が大きく変化する化合物については,たとえば,皮膚に塗布した状態で,本発明の経皮投与装置を押し当てることにより投与してもよい。ヒト以外の動物の場合も,体重60kg当たりに換算した,上記の量を投与することができる。投与回数は有効成分によって適宜調整すればよく1日あたり1回〜数回又は隔日など適当な周期とすればよい。
【0033】
本発明の経皮投与装置は,顔,手,足又は頭皮(特に顔)に化粧料を投与するために好ましく用いることができる。いわゆる美容液などを顔に塗布する場合であっても顔の皮膚を傷つけることなく効果的に化粧料を浸透させることができる。糖類が溶解する温度で変性などを起こさない化合物を化粧料として投与するためには,糖類と共に溶解させて経皮投与装置として用いればよい。また,糖類が溶解する温度で変性を起こすなど物性が大きく変化する化合物を化粧料として投与するためには,たとえば,皮膚に塗布した状態で,本発明の経皮投与装置を押し当てることにより投与してもよい。
【0034】
上記したとおり,所定の化合物を糖類などを共に溶解させ経皮投与装置を製造してもよいが,所定の化合物をヒト又はヒト以外の哺乳動物の表皮に化合物を塗布した後に,上記した経皮投与装置をその塗布した部位に当て,経皮投与装置を加圧することにより,経皮投与装置の突起部が表皮を伸ばすことによって,前記化合物を経皮投与するものは本発明の好ましい利用態様である。この利用態様では,特に美容液などの化粧料を効果的に投与することができる。
【0035】
上記のとおり本明細書では,薬剤をヒト又はヒト以外の動物(特に哺乳動物)に投与するための上記した経皮投与装置の使用をも提供できる。さらに,上記した経皮投与装置を用いたヒト又はヒト以外の動物(特に哺乳動物)の特定疾患の予防又は治療方法をも提供できる。
【実施例1】
【0036】
−経皮投与装置の製造−
(1) 経皮投与装置(経皮投与装剤)の作製
図4及び図5に示される経皮投与装置を製造した。なお,図4に示すような板状の基板を用いるものは,3mmの格子点ごとに突起部を設けた。図5に示すような網状の基板のものは,網の太さを1mmとし,網の目が2mm×2mmとなるように設定した。この結果,突起部の密度は図4のものと同様となった。図6は,経皮投与装置の突起部の設計例を示す図である。突起部状に微小突起を3つ設けた。突起部及び基板の原料としてマルトースを用いた。粉末マルトースに粉末リドカイン(リドカインマルトースに対する重量比10%)を均一に混合させた。その後,110℃で1時間過熱溶解させた。その後,溶解液を,冷却して10重量%リドカイン含マルトース塊を製作した。適当に分割したマルトース塊を経皮投与装置製造用の金型に設置し,その金型を100℃に10秒間過熱昇温することにより,マルトース塊を溶解した。その後,常温,常圧にて5秒放置すると,冷却凝固された。その後,金型を分離し,脆い突起部を最初に金型から取り外した。このようにして,マルトースを主成分とする経皮投与装置を製作した。なお,本実施例では,突起部の大きさや微小突起の大きさを適宜変えた鋳型を作成し,突起部や微小突起の大きさが様々な経皮投与装置を製造した。得られた突起部の高さはたとえば,500μmであり,微小突起の高さは50μmのものや,高さが500μmで微小突起の高さが100μmのもの,図6に示されるように突起部の高さが800μmで,微小突起の高さが300μmのものなどを得た。
【0037】
図7は,本実施例1で得られたひとつの突起部につき微小突起を3つ有する経皮投与装置の図面に替わる写真である。図7に示されるように,ひとつの突起部につき微小突起を3つ有する経皮投与装置を製造することができた。図8は,図7における突起部の図面に替わる写真である。図8(a)は,突起部を示す図面に変わる写真であり,図8(b)はひとつの突起部の概要を示す図である。図8から,各突起部の底面は直径が約500μmであり,高さが約500μmであったことがわかる。さらに突起部の平坦形状を有する面は直径が約500μmであった。図9は,図8における微小突起を示すための図面に替わる写真である。図9(a)は,微小突起を示す図面に変わる写真であり,図9(b)はひとつの微小突起の概要を示す図である。図9に示されるように,この微小突起は,その高さが100μmであり,底面の直径が50μmであり,先端部の丸さが直径30μmの丸みを帯びていた。
【実施例2】
【0038】
次に,本発明の経皮投与装置の皮膚へのダメージを検証する実験を行った。図10は,経皮投与装置をラットの皮膚に押し当て,ラットの皮膚の製を示す図面に代わる写真である。図10(a)は,突起部を押し当て30秒後の写真であり,図10(b)は突起部を押し当て1分後の写真である。図10(a)に示されるとおり,皮膚に経皮投与装置を押し当てた際に,皮膚に色素(Tartrazine)が付着したことがわかる。また,図10(b)に示されるとおり,突起部を押し当てた後1分後には,皮膚へのダメージが完全に回復されることがわかる。また,図10(b)に示されるとおり,機能剤(色素)が皮膚内に残留したことがわかる。
【実施例3】
【0039】
次に,本発明の経皮投与装置による薬剤の投与効率を検証する実験を行った。具体的には,化合物として10重量%のリドカインを含有する経皮投与装置を製造し,ラットの血中濃度を測定した。その結果を以下の表1に示す。なお,表中BLQは,測定基準値以下を示し,各濃度はng/mLを示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から,ラットの血中濃度にリドカインが含まれ,本発明の経皮投与装置により効果的にリドカインを投与できることがわかる。
【実施例4】
【0042】
次に,本発明の経皮投与装置による薬剤が,効果的に浸透することを検証する実験を行った。具体的には,化合物として10重量%のリドカインを含有する突起部を1つ有する経皮投与装置を製造し,その突起部を突き刺した部分を中心とした10mm四方で深さが2mmのラットの皮膚を切り出し,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて,リドカインの濃度を測定した。その結果を以下の表2に示す。なお,表中BLQは,測定基準値以下を示し,各濃度はngを示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から,本発明の経皮投与装置による薬剤は,投与後40分後には,突起部を押し当てた付近に多く存在したが,時間と共にラットの体内に浸透し,1時間20分以降は突起部を押し当てた付近の濃度が時間とともの減少したことがわかる。よって,上記の結果から,本発明の本発明の経皮投与装置によれば,効果的に薬剤成分を生体内に浸透させることができることがわかる。
【実施例5】
【0045】
リドカイン1%あるいは2%含有マルトースの塊を製造した。1cm幅に100個の長さ500μmの突起部付きの経皮投与装置を製造した。この経皮投与装置を用いて,ヒトの皮膚表面に突起部を押し当てたところ,投与箇所中心として,約2cm円形領域において,麻酔効果を確認できた。
【実施例6】
【0046】
女性ホルモンの一種であるエストロディオールを2%含有させたマルトースを素材とする,1cm幅に25個の長さ500μmの突起部付きの経皮投与装置を製造した。この経皮投与装置を用いて上腕皮膚に投与したところ,更年期障害を被る女性に無痛で投与調整ができることが確認できた。
【実施例7】
【0047】
ペパリン2%含有マルトースを素材として,1cm幅に100個の長さ500μmの突起部(針)付き経皮投与装置を製造した。この経皮投与装置を用いて,皮膚表面に投与したところ,投与箇所中心に1cm円形領域において,炎症の軽減が確認できた。
【実施例8】
【0048】
経皮投与装置を常温,常湿,常圧雰囲気下においた際の,突起部の先端が丸くなる様子を検証した。図11は,20分間放置した場合の,突起部を示す図面に替わる写真である。図11に示すとおり,当初突起部の先端が鋭いものを製造しても,一定時間放置すると,溶解して,先端が丸くなることがわかる。図11の場合は,突起部が,直径50μmの丸みを有していた。突起部の先端部分の丸みと,時間との関係を以下の表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示されるとおり,突起部の先端が鋭い鋳型を用いて経皮投与装置を製造し,一定時間放置した後に,乾燥容器に密封することで,所定の丸みを帯びた先端部の突起部を有する経皮投与装置を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の経皮投与装置は,新たな医療装置,化粧装置,サプリメント供給装置などとして利用されうる。また,本発明の金型は上記のような装置を製造するための製造業などにおいて好適に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。
【図2】図2は,突起部の先端が平坦である場合における,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。
【図3】図3は,突起部の先端が,平坦形状であり,さらに1又は複数の微小突起を有する場合における,本発明の経皮投与装置の概略構成図である。
【図4】図4は,複数の突起部を有する本発明の経皮投与装置の概略構成図である。
【図5】図5は基板が網状のものである本発明の経皮投与装置の概略構成図である。
【図6】図6は,経皮投与装置の突起部の設計例を示す図である。
【図7】図7は,本実施例1で得られたひとつの突起部につき微小突起を3つ有する経皮投与装置の図面に替わる写真である。
【図8】図8は,図7における突起部の図面に替わる写真である。図8(a)は,突起部を示す図面に変わる写真であり,図8(b)はひとつの突起部の概要を示す図である。
【図9】図9は,図8における微小突起を示すための図面に替わる写真である。図9(a)は,微小突起を示す図面に変わる写真であり,図9(b)はひとつの微小突起の概要を示す図である。
【図10】図10は,経皮投与装置をラットの皮膚に押し当て,ラットの皮膚が回復する様子を示す図面に代わる写真である。図10(a)は,突起部を押し当て30秒後の写真であり,図10(b)は突起部を押し当て1分後の写真である。
【図11】図11は,20分間放置した場合の,突起部を示す図面に替わる写真である。
【符号の説明】
【0053】
1 経皮投与装置
2 基板
3 突起部
4 微小突起


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と,
前記基板上に設けられた1又は複数の突起部を具備し,
前記突起部は糖類又は生分解性ポリマーを主成分とし,
前記突起部の高さは10μm〜3mmであり,
前記突起部の先端が平坦か,丸みを帯びているか,又は平坦形状であり,さらに1又は複数の微小突起を有する,
経皮投与装置。
【請求項2】
前記突起部の先端は丸みを帯びており,その丸みは直径20μm以上の丸みである請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項3】
前記突起部の先端は平坦形状であり,さらに1又は複数の微小突起を有し,
前記微小突起の先端が,直径20μm以上の丸みを有する請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項4】
前記突起部は,複数の突起部であり,
前記複数の突起部は,基板上の格子点の位置に設けられる請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項5】
前記基板と前記突起部とは一体として成形される請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項6】
前記基板は網目上の基板であり,
前記突起部は,複数の突起部であり,
前記複数の突起部は,基板の網目の位置に設けられる請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項7】
前記突起部は,通常使用において皮膚の角質層を貫通しない請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項8】
前記突起部は糖類又は生分解性ポリマーの他に,所定の化合物を含有し,
前記突起部は,通常使用において皮膚の角質層を貫通しない請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項9】
前記突起部は糖類又は生分解性ポリマーの他に,所定の化合物を含有し,
前記所定の化合物は,リドカイン,インドメタシン,エストロディオール,ぺパリン,インシュリン,ビタミン類,ホルモン類,又はヒアル酸,及びコラーゲンから選ばれる1種又は2種以上の化合物であり,
前記突起部は,通常使用において皮膚の角質層を貫通しない請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項10】
前記突起部の表面には,所定の化合物の層を有する請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項11】
前記突起部の表面には,所定の化合物の層を有し,
前記突起部は,糖類により構成される代わりに,
糖類と所定の化合物とにより構成され,
前記所定の化合物は,リドカイン,インドメタシン,エストロディオール,ぺパリン,インシュリン,ビタミン類,ホルモン類,又はヒアル酸,及びコラーゲンから選ばれる1種又は2種以上の化合物であり,
前記突起部は,通常使用において皮膚の角質層を貫通しない請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項12】
顔,手,足又は頭皮に化粧料を投与するために用いる請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項13】
前記基板の前記突起部が設けられていない面にはハップ剤塗布シートが設けられる請求項1に記載される経皮投与装置。
【請求項14】
ヒト又はヒト以外の哺乳動物の表皮に所定の化合物を塗布した後に,
請求項1に記載される経皮投与装置をその塗布した部位に当て,
請求項1に記載される経皮投与装置を加圧する,
前記化合物の経皮投与方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−89792(P2007−89792A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282531(P2005−282531)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(501206493)株式会社ナノデバイス・システム研究所 (7)
【Fターム(参考)】