説明

絶対速度推定装置

【課題】速度出力のためのデータを所得した時間にずれが存在しても、検出対象物の絶対速度を正確に推定することができる絶対速度推定装置を提供する。
【解決手段】取得したデータから対象物Tの相対速度Ttを出力する相対速度出力手段104と、センサ13〜15から出力されるデータから自車両1の絶対速度Vmを出力する自車速度出力手段105と、手段104,105が同期して出力した相対速度Vt及び自車速度Vmを求めるためにそれぞれ利用したデータを取得した時間の推定ずれ量Dを取得するずれ量取得手段106と、推定ずれ量Dだけ時間をずらせて相対速度Vsに自車速度Vmを加算して求めた対象物Tの推定絶対速度Vを出力する絶対速度推定手段107とを備える。ずれ量取得手段106は、複数の対象物Tiのうち、各対象物Tiの相対速度Vtiと自車速度Vmとの差が0となる対象物Tiの数が最大となるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体から検出対象物の絶対速度を推定する絶対速度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの移動体に搭載され、対象物の相対速度などを検出して周辺を監視する周辺監視システムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ミリ波レーダ等のレーダ検出手段と、赤外線カメラやCCDカメラ等の画像検出手段とを組み合わせて、検出対象物の検出精度の向上を図るための技術が開示されている。
【0004】
検出対象物の絶対速度(ベクトル値)は、レーダ検出手段で求めた検出対象物の相対速度(ベクトル値)に、自車両に備わる速度センサなどの検出データに基づいて出力した自車速度(ベクトル値)を加算することにより、推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−084035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、同期して出力される検出対象物の相対速度及び自車速度を求めるために利用したデータを取得した時間にずれが存在するので、検出対象物の絶対速度を正確に推定することができない。そのため、静止物が移動していると誤って検出するなどの誤検出が生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、速度出力のためのデータを取得した時間にずれが存在しても、検出対象物の絶対速度を正確に推定することができる絶対速度推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶対速度推定装置は、取得したデータから対象物の当該装置に対する相対速度を出力する相対速度出力手段と、当該装置を備える移動体に搭載されたセンサから出力されるデータから当該装置の絶対速度である自速度を出力する自速度出力手段と、前記相対速度出力手段と前記自速度出力手段とが同期して出力した前記相対速度及び前記自速度を求めるためにそれぞれ利用した前記データを取得した時間の推定ずれ量を取得するずれ量取得手段と、前記ずれ量取得手段が取得した前記推定ずれ量だけ時間をずらせて、前記相対速度出力手段が出力した前記相対速度に前記自速度出力手段が出力した前記自速度を加算することにより、前記対象物の推定絶対速度を出力する絶対速度推定手段とを備え、前記ずれ量取得手段は、複数の対象物のうち、前記相対速度出力手段で出力した前記各対象物の相対速度と、前記自速度出力手段で出力した自速度との差が0となる対象物の数が最大となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することを特徴とする。
【0009】
相対速度を出力するために利用したデータを取得した時刻から当該データに基づいて求めた相対速度を相対速度出力手段が出力する時刻までの間の時間と、自速度を出力するために利用したデータを取得した時刻と当該データに基づいて求めた自速度を自速度出力手段が出力した時刻までの間の時間とには、時間的なずれ量が存在する。
【0010】
そこで、本発明の絶対速度推定装置では、対象物の多くは静止物であると考えられることを利用して、ずれ量取得手段は、相対速度出力手段及び自速度出力手段がそれぞれ出力した相対速度及び自速度に基づいて推定ずれ量を取得する。これにより、絶対速度推定手段から出力される対象物の推定絶対速度はずれ量を補正した正確なものとなる。
【0011】
本発明の絶対速度推定装置において、前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物の、前記相対速度出力手段が出力した各相対速度と、前記自速度出力手段が出力した自速度との差の絶対値の合計が最小となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することが好ましい。
【0012】
また、本発明の絶対速度推定装置において、前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物ごとに、前記相対速度出力手段が出力した前記各対象物の相対速度と前記自速度出力手段が出力した自速度との差が0となるずれ量をそれぞれ求め、求めた前記ずれ量のうち最頻値となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することが好ましい。
【0013】
これらの場合、簡易な計算で推定ずれ量を取得することができる。
【0014】
なお、対象物の数が少ないと、対象物の多くが静止物であるという前提が成立しないおそれが生じ、ずれ量取得手段が取得する推定ずれ量の信頼性が低くなる。
【0015】
そこで、本発明の絶対速度推定装置において、前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物が予め定めた数を超えたときにのみ、前記推定ずれ量を取得することが好ましい。
【0016】
また、本発明の絶対速度推定装置において、取得したデータから領域内の対象物が移動体であると判定した領域を設定する移動体領域設定手段を備え、前記ずれ量取得手段は、前記移動体領域設定手段が設定した前記領域内に存在する前記対象物を除外して、前記推定ずれ量を取得することが好ましい。
【0017】
この場合、移動体領域設定手段が設定した領域内の移動体を予め対象物から除外するので、ずれ量取得手段でずれ量を取得する際に対象となる対象物の多くが静止物になる。よって、ずれ量取得手段が取得する推定ずれ量の信頼性がより高くなる。
【0018】
例えば、前記移動体領域設定手段は、所定サイズ以上の対象物が当該装置から所定距離以内に存在する場合、当該対象物を移動体であると判定し、当該対象物の存在する領域を前記領域として設定することが好ましい。
【0019】
この場合、当該装置の前方を走行する前走車などの移動体を、ずれ量取得手段でずれ量を取得する際に対象とする対象物から除外することができる。
【0020】
また、例えば、前記移動体領域設定手段は、当該装置から所定距離以内に複数の対象物が存在する場合に、当該複数の対象物を移動体であると判定し、当該複数の対象物の存在する領域を前記領域として設定することが好ましい。
【0021】
この場合、当該装置の前方を走行する複数の前走車などの移動体を、ずれ量取得手段でずれ量を取得する際に対象とする対象物から除外することができる。
【0022】
また、例えば、前記移動体領域設定手段は、前記取得したデータから移動体の部分的特徴を検出した場合に、当該検出した部分的特徴を含む近傍に存在する対象物を移動体であると判定し、当該対象物の存在する領域を前記領域として設定することが好ましい。
【0023】
この場合、当該装置の前方を走行する移動体のテールランプやリフレクタ等の特徴的部分を含む近傍に存在する前走車などの対象物を、ずれ量取得手段でずれ量を取得する際に対象とする対象物から除外することができる。
【0024】
また、本発明の絶対速度推定装置において、前記相対速度出力手段は、電磁波又は弾性振動波を送信し、前記電磁波又は前記弾性振動波の反射波を受信して取得したデータに基づいて前記対象物の当該装置に対する相対速度を出力することが好ましい。
【0025】
これにより、対象物の当該装置に対する高精度の相対速度を出力することができる。
【0026】
そして、この場合、前記反射波を受信して得たデータから前記対象物を検出するレーダ対象物検出手段を備え、前記相対速度出力手段は、前記レーダ対象物検出手段が検出した対象物の当該装置に対する相対速度を出力することも好ましい。
【0027】
これにより、相対速度出力手段が対象物の相対速度を求めるために用いた電磁波又は弾性振動波の反射波を受信したデータによって、対象物を検出することができる。よって、対象物を検出する他の構成を必要としないので、構成を簡易化することが可能となる。
【0028】
また、本発明の絶対速度推定装置において、前記反射波を受信して得たデータから前記対象物を検出するレーダ対象物検出手段と、画像により対象物を検出する画像対象物検出手段と、前記レーダ対象物検出手段により検出した対象物と、前記画像対象物検出手段により検出した対象物とを照合する照合手段とを備え、前記相対速度出力手段は、前記照合手段が照合した対象物の当該装置に対する相対速度を出力することが好ましい。
【0029】
この場合、レーダ対象物検出手段により検出した対象物と画像対象物検出手段により検出した対象物とを照合手段で照合するので、対象物の検出精度を向上させることが可能となる。
【0030】
また、本発明の絶対速度推定装置において、前記相対速度出力手段は、前記対象物を撮像して得た画像データに基づいて前記対象物の当該装置に対する相対速度を出力することが好ましい。
【0031】
これにより、対象物の当該装置に対する高精度の相対速度を出力することができる。また、画像データから対象物の特徴などを抽出して対象物の種別などを判定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る絶対速度推定装置を備えた車両周辺監視システムを搭載した車両の全体構成を示す図。
【図2】車両の構成説明図。
【図3】推定ずれ量取得処理を示すフローチャート。
【図4】絶対速度推定処理を示すフローチャート。
【図5】本発明の他の実施形態に係る絶対速度推定装置を備えた車両周辺監視システムを搭載した車両の構成説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施形態に係る絶対速度推定装置を備えた車両周辺監視システム10を搭載した車両1について図面を参照して説明する。
【0034】
図1に示すように、車両1は、四輪自動車であり、車両周辺監視システム10と、単一の赤外線カメラ11と、レーダ装置12とが搭載されている。
【0035】
また、図2に示すように、車両1には、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の種々のセンサが搭載されている。さらに、車両1には、音声出力装置16及び画像出力装置17が搭載されている。画像出力装置17としては、車両1のフロントウィンドウに画像を表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)のほか、車両1の走行状況を示す表示計又はナビゲーション装置を構成するディスプレイ装置等が採用されてもよい。
【0036】
赤外線カメラ11は、車両1の前方を撮像する撮像手段であり、車両1の前側に取り付けられている。なお、撮像手段として赤外線カメラ11に代えて可視光等、他の波長領域に感度が調節されたカメラが採用されてもよい。
【0037】
レーダ装置12は、車両1の前側に赤外線カメラ11の上方に位置するように取り付けられている。レーダ装置12は、ミリ波(電磁波)のビームを車両1の前方に送信する。レーダ装置12は、このミリ波の反射波、すなわち、車両1の前方に存在する対象物により反射されたミリ波を上下方向に配列された図示しない受信アンテナにより受信する。
【0038】
そして、レーダ装置12は、受信アンテナが受信した反射波の強度データや周波数データなどを車両周辺監視システム10に出力する。なお、レーダ装置としてミリ波等の電磁波(レーザー光など)のほか、超音波等の弾性振動波を用いるレーダ装置が採用されてもよい。
【0039】
ヨーレートセンサ13は、車両重心の上下方向軸回りの回転角であるヨー角及びヨー角の変化量(ヨーレート)等を検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0040】
速度センサ14は、図示しない車輪の回転速度等に基づいて所定の単位処理時間ごとにおける車両移動距離、すなわち車両1の速度(1次元数値)を検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0041】
舵角センサ15は、図示しないステアリングシャフトに設けられたロータリエンコーダ等からなり、運転者が入力した操舵角度の方向と大きさを検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0042】
車両周辺監視システム10は、赤外線カメラ11、レーダ装置12などを用いて車両1の周辺を監視する。車両周辺監視システム10は、コンピュータ(CPU,ROM,RAM並びにI/O回路及びA/D変換回路等の電子回路等により構成されている。)により構成されている。
【0043】
車両周辺監視システム10には、赤外線カメラ11、ヨーレートセンサ13、車速センサ14及び舵角センサ15等から出力されたアナログ信号がA/D変換回路を介してデジタル化されて入力されるとともに、レーダ装置12により取得された反射波の強度データや周波数データなども入力される。
【0044】
これら入力データに基づき、ROMに格納されている「車両周辺監視プログラム」に従って、人間や他車両などの対象物の存在を認識する処理、車両1と認識した対象物との接触可能性の高低を判定する処理、及び、この判定結果に応じて音声を音声出力装置16に出力させたり、画像を画像出力装置17に出力させたりする処理が当該コンピュータにより実行される。
【0045】
なお、プログラムは、任意のタイミングでサーバからネットワークや衛星を介して車載コンピュータに配信又は放送され、そのRAM等の記憶装置に格納されてもよい。車両周辺監視システム10は、単一のECUにより構成されていてもよいが、分散制御システムを構成する複数のECUにより構成されていてもよい。
【0046】
車両周辺監視システム10は、図2に示すように、画像対象物検出手段101、レーダ対象物検出手段102、対象物照合手段103、相対速度出力手段104、自車速度出力手段(自速度出力手段)105、ずれ量取得手段106及び絶対速度推定手段107を備えている。
【0047】
画像対象物検出手段101は、赤外線カメラ11から得られた画像データに基づき、対象物Tを検出する。
【0048】
レーダ対象物検出手段102は、レーダ装置12から出力された反射波の強度データなどに基づき、対象物Tを検出する。
【0049】
対象物照合手段103は、画像対象物検出手段101とレーダ対象物検出手段102とがそれぞれ検出した対象物Tを照合する。
【0050】
相対速度出力手段104は、ドップラー効果を利用して、レーダ装置12が出力した反射波の周波数データなどに基づき、対象物照合手段103で照合された対象物Tの車両1に対する相対速度Vt(ベクトル値)を時系列的に出力する。なお、レーダ装置12がレーザレーダである場合には、相対速度出力手段104は、自車両1及び対象物T間の距離の時間変化率に基づき、対象物Tの相対速度Vtを出力する。ただし、ドップラー効果を利用して演算するため、相対速度Vtの精度が高いので、レーダ装置12はミリ波レーダ装置であることが好ましい。
【0051】
自車速度出力手段105は、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の各センサから出力された検出データに基づき、車両1の絶対速度(以下、「自車速度」という)Vm(ベクトル値)を時系列的に出力する。
【0052】
ずれ量取得手段106は、相対速度出力手段104と自車速度出力手段105とが同期して出力した相対速度Vt及び自車速度Vmを出力するためにそれぞれ利用したデータを取得した時間のずれ量dの推定値である推定ずれ量Dを取得する。
【0053】
相対速度Vtを出力するために利用したデータを取得した時刻から当該データに基づいて求めた相対速度Vtを相対速度出力手段104が出力する時刻までの間の時間と、自車速度Vmを出力するために利用したデータを取得した時刻と当該データに基づいて求めた自車速度Vmを自車速度出力手段105が出力した時刻までの間の時間との間には、ずれ量dが存在する。よって、相対速度出力手段104及び自車速度出力手段105から同期して出力された相対速度Vtに自車速度Vmを加算しても、対象物Tの絶対速度Vを正確に推定することができない。
【0054】
ただし、ずれ量dは、車両周辺監視システム10、赤外線カメラ11、レーダ装置12、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の構成、構造などに依存するので、車両1ごとに一意的に定まる。
【0055】
以下、推定ずれ量D取得処理について図3を参照して説明する。
【0056】
まず、画像対象物検出手段101及びレーダ対象物検出手段102がそれぞれ対象物Tを検出する(STEP01)。そして、対象物照合手段103が、これら対象物検出手段101,102が検出した対象物Tを照合して、両対象物検出手段101,102で共通して検出されたN個(Nは任意の整数)の対象物Ti(ただし、i=1、2、…、N)を拾い上げる(STEP02)。この対象物Tiには、車両や人間(歩行者)などの移動体のほか、建物、標識、樹木などの静止体も含まれる。
【0057】
次に、相対速度出力手段104が、レーダ装置12から出力された反射波の周波数データなどに基づき、N個の各対象物Tiの車両1に対する相対速度Vtiを時系列的に出力する(STEP04)。
【0058】
さらに、自車速度出力手段105が、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の各センサから出力された検出データなどに基づき、自車速度Vmを時系列的に出力する(STEP05)。
【0059】
ここで、対象物Tiの個数Nが多い場合、対象物Tiの多くは静止物であると考えられる。そこで、ずれ量取得手段106は、N個の対象物Tiのうち、相対速度出力手段104で出力した各対象物Tiの相対速度Vtidと、自車速度出力手段105で出力した自車速度Vmとの差が0となる対象物Tiの数が最大となるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得する(STEP06)。取得した推定ずれ量Dは、前記RAMに格納される。
【0060】
なお、Vtidは、自車速度出力手段105から自車速度Vmが出力された時刻からずれ量d(正負の値を含む)だけ遅れて相対速度出力手段104から出力された各対象物Tiの相対速度Vtiを意味している。
【0061】
具体的には、各対象物Tiの絶対速度Vsi(=Vtid−Vm)の絶対値の合計、又は絶対速度Vsiの二乗値の合計等が最小となるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得すればよい。
【0062】
また、N個の対象物Tiごとに、相対速度出力手段104で出力した各対象物Tiの相対速度Vtidと自速度出力手段105で出力した自速度Vmとの差である絶対速度Vsiが0(又は0に近い閾値以下)となるずれ量dをそれぞれ求め、求めたずれ量dのうち最頻値(ヒストグラムピーク)となるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得してもよい。また、前記求めたずれ量dの頻度として中央になるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得してもよい。
【0063】
なお、対象物Tiの個数Nが予め設定されたN0未満である場合(STEP03:NO)には、推定ずれ量Dを取得しない。これは、対象物Tiの多くが静止物であるという前提が成立しないおそれがあり、求めた推定ずれ量Dの信頼性が低くなるためである。
【0064】
また、ずれ量取得手段106は、複数の対象物Tiのうち、相対速度出力手段104で出力した各対象物Tiの相対速度Vtiと、自車速度出力手段105で出力した自車速度Vmdとの差が0となる対象物Tiの数が最大となるずれ量dを、推定ずれ量Dとして取得してもよい。ここで、Vmdは、相対速度出力手段104から相対速度Vtiが出力された時刻からずれ量d(正負の値を含む)だけ遅れて自車速度出力手段105から出力された自車速度Vmを意味している。
【0065】
また、車両1が加速中に推定ずれ量D取得処理を行うことが好ましい。これは、一定速度で走行している車両が多いとき、これら同一速度の車両が対象物Tiの中で大きな頻度を占めるおそれがあるためである。
【0066】
絶対速度推定手段107は、相対速度出力手段104が出力した相対速度Vtに、ずれ量取得手段106で取得した推定ずれ量Dだけ時間をずらせて、自車速度出力手段105が出力した自車速度Vmを加算して、対象物Tの推定絶対速度V(ベクトル値)を出力する。
【0067】
以下、対象物Tsの絶対速度Vsを推定する処理について図4を参照して説明する。
【0068】
まず、画像対象物検出手段101及びレーダ対象物検出手段102で、特定の対象物Tsを検出する(STEP11)。特定の対象物Tsは、移動体でも静止体であってもよい。また、特定の対象物Tsは単数であっても複数であってもよい。
【0069】
そして、対象物照合手段103は、画像対象物検出手段101とレーダ対象物検出手段102とがそれぞれ検出した対象物Tsを照合する(STEP12)。
【0070】
次に、相対速度出力手段104が、レーダ装置12から出力された反射波の周波数データなどに基づき、特定の対象物Tsの車両1に対する相対速度Vtsを時系列的に出力する(STEP13)。
【0071】
さらに、自車速度出力手段105が、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の各センサから出力された検出データに基づき、自車速度Vmを時系列的に出力する(STEP14)。
【0072】
ずれ量取得手段106は、前記RAMに格納されている推定ずれ量Dを読み出す(STEP15)。RAMに推定ずれ量Dが格納されていない場合、ずれ量取得手段106は、前述した方法に従って推定ずれ量Dを取得する。
【0073】
そして、絶対速度推定手段107が、相対速度出力手段104が出力した相対速度Vtsに、ずれ量取得手段106が取得した推定ずれ量Dだけずらせて、自車速度出力手段105が出力した自車速度Vmを加算して求めた対象物Tsの推定絶対速度Vsを出力する(STEP16)。
【0074】
上述したように、ずれ量取得手段106は、対象物Tiの多くは静止物であることを利用して、相対速度出力手段104及び自車速度出力手段105がそれぞれ出力した相対速度Vi及び自車速度Vmに基づいて推定ずれ量Dを取得する。よって、絶対速度推定手段107から出力される対象物Tsの推定絶対速度Vsはずれ量dを修正した正確なものとなる。
【0075】
以下、本発明の他の実施形態に係る絶対速度推定装置を備えた車両周辺監視システム10Aを搭載した車両1Aについて図面を参照して説明する。
【0076】
車両周辺監視システム10Aは、図5に示すように、前述した車両周辺監視システム10がさらに移動体領域設定手段108を備えている。
【0077】
移動体領域設定手段108は、赤外線カメラ11から得られた画像データから対象物Tが移動体であるか否かを判定し、移動体であると判定した対象物Tが存在する領域を移動体領域Rとして設定する。そして、ずれ量取得手段106は、移動体領域設定手段108が設定した移動体領域R内に存在する対象物Tを除外して、推定ずれ量Dを取得する。
【0078】
これにより、移動体領域設定手段108が設定した移動体領域R内の移動体を予め対象物Tから除外するので、ずれ量取得手段106で推定ずれ量Dを取得する際に対象となる対象物Tiの多くが静止物になる。よって、ずれ量取得手段106が取得する推定ずれ量Dの信頼性がより高くなる。
【0079】
例えば、移動体領域設定手段108は、所定サイズ以上の対象物Tが車両1Aから所定距離以内に存在する場合、当該対象物Tを移動体であると判定し、当該対象物Tの存在する領域を移動体領域Rとして設定する。
【0080】
この場合、車両1Aの前方を走行する前走車等の移動体を、推定ずれ量Dを取得する際に対象とする対象物Tから除外することができる。
【0081】
また、例えば、移動体領域設定手段108は、車両1Aから所定距離以内に複数の対象物Tが存在する場合に、当該複数の対象物Tを移動体であると判定し、当該複数の対象物Tの存在する領域を移動体領域Rとして設定する。
【0082】
この場合、車両1Aの前方を走行する複数の前走車等の移動体を、推定ずれ量Dを取得する際に対象とする対象物Tから除外することができる。
【0083】
また、例えば、移動体領域設定手段108は、取得したデータから移動体の部分的特徴を検出した場合に、当該検出した部分的特徴を含む近傍に存在する対象物Tを移動体であると判定し、当該対象物Tの存在する領域を移動体領域Rとして設定する。
【0084】
この場合、車両1Aの前方を走行する前走車のテールランプやリフレクタ等の特徴的部分を含む近傍に存在する対象物Tを、推定ずれ量Dを取得する際に対象とする対象物Tから除外することができる。
【0085】
なお、実施形態では、画像対象物検出手段101とレーダ対象物検出手段102とがそれぞれ検出した対象物Tを対象物照合手段103で照合している。しかし、他の実施形態として、画像対象物検出手段101及び対象物照合手段103を備えず、レーダ対象物検出手段102で検出した対象物Tをそのまま対象物Tとしてもよい。
【0086】
また、実施形態では、単一の赤外線カメラ(単眼カメラ)を用いて、対象物Tを検出している。しかし、他の実施形態として、車両1の前側中央部を基準として左右対称に配置された一対の赤外線カメラを用いて対象物を検出してもよい。
【0087】
また、撮像装置として赤外線カメラ11に代えて可視光等、他の波長領域に感度が調節されたカメラが採用されてもよい。さらに、レーダ装置12としてミリ波等の電磁波を用いるレーダ装置のほか、超音波等の弾性振動波を用いるレーダ装置が採用されてもよい。
【0088】
また、実施形態では、相対速度出力手段104は、レーダ装置12から出力された反射波の周波数データなどに基づき対象物Tの相対速度Vtを出力している。しかし、他の実施形態として、相対速度出力手段は、赤外線カメラ11などの撮像手段から得られた画像データに基づき対象物Tの相対速度Vtを出力してもよい。
【0089】
また、実施形態では、車両周辺監視システム10が絶対速度推定装置を備えている。しかし、他の実施形態として、前方車を追尾して車両1を走行させる追尾走行システムや、車両1を白線に沿って走行させるレーンキープシステムなどが絶対速度推定装置を備えていてもよい。さらに、実施形態では、絶対速度推定装置は車両1に搭載されている。しかし、他の実施形態として、絶対速度推定装置は鉄道、ロボットなどの移動体に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,1A…車両(移動体)、 10,10A…車両周辺監視システム(絶対速度推定装置)、 11…赤外線カメラ(撮像手段)、 12…レーダ装置、 13…ヨーレートセンサ(センサ)、 14…速度センサ(センサ)、 15…舵角センサ(センサ)、 101…画像対象物検出手段、 102…レーダ対象物検出手段、 103…対象物照合手段、 104…相対速度出力手段、 105…自車速度出力手段(自速度出力手段)、 106…ずれ量取得手段、 107…絶対速度推定手段、 108…移動体領域設定定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得したデータから対象物の当該装置に対する相対速度を出力する相対速度出力手段と、
当該装置を備える移動体に搭載されたセンサから出力されるデータから当該装置の絶対速度である自速度を出力する自速度出力手段と、
前記相対速度出力手段と前記自速度出力手段とが同期して出力した前記相対速度及び前記自速度を求めるためにそれぞれ利用した前記データを取得した時間の推定ずれ量を取得するずれ量取得手段と、
前記ずれ量取得手段が取得した前記推定ずれ量だけ時間をずらせて、前記相対速度出力手段が出力した前記相対速度に前記自速度出力手段が出力した前記自速度を加算することにより、前記対象物の推定絶対速度を出力する絶対速度推定手段とを備え、
前記ずれ量取得手段は、複数の対象物のうち、前記相対速度出力手段で出力した前記各対象物の相対速度と、前記自速度出力手段で出力した自速度との差が0となる対象物の数が最大となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することを特徴とする絶対速度推定装置。
【請求項2】
前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物の、前記相対速度出力手段が出力した各相対速度と、前記自速度出力手段が出力した自速度との差の絶対値の合計が最小となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することを特徴とする請求項1に記載の絶対速度推定装置。
【請求項3】
前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物ごとに、前記相対速度出力手段が出力した前記各対象物の相対速度と前記自速度出力手段が出力した自速度との差が0となるずれ量をそれぞれ求め、求めた前記ずれ量のうち最頻値となるずれ量を、前記推定ずれ量として取得することを特徴とする請求項1に記載の絶対速度推定装置。
【請求項4】
前記ずれ量取得手段は、前記複数の対象物が予め定めた数を超えたときにのみ、前記推定ずれ量を取得することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の絶対速度推定装置。
【請求項5】
取得したデータから領域内の対象物が移動体であると判定した領域を設定する移動体領域設定手段を備え、
前記ずれ量取得手段は、前記移動体領域設定手段が設定した前記領域内に存在する前記対象物を除外して、前記推定ずれ量を取得することを特徴とすることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の絶対速度推定装置。
【請求項6】
前記移動体領域設定手段は、所定サイズ以上の対象物が当該装置から所定距離以内に存在する場合、当該対象物を移動体であると判定し、当該対象物の存在する領域を前記領域として設定することを特徴とする請求項5に記載の絶対速度推定装置。
【請求項7】
前記移動体領域設定手段は、当該装置から所定距離以内に複数の対象物が存在する場合に、当該複数の対象物を移動体であると判定し、当該複数の対象物の存在する領域を前記領域として設定することを特徴とする請求項5又は6に記載の絶対速度推定装置。
【請求項8】
前記移動体領域設定手段は、前記取得したデータから移動体の部分的特徴を検出した場合に、当該検出した部分的特徴を含む近傍に存在する対象物を移動体であると判定し、当該対象物の存在する領域を前記領域として設定することを特徴とする請求項5から7の何れか1項に記載の絶対速度推定装置。
【請求項9】
前記相対速度出力手段は、電磁波又は弾性振動波を送信し、前記電磁波又は前記弾性振動波の反射波を受信して取得したデータに基づいて前記対象物の当該装置に対する相対速度を出力することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の絶対速度推定装置。
【請求項10】
前記反射波を受信して得たデータから前記対象物を検出するレーダ対象物検出手段を備え、
前記相対速度出力手段は、前記レーダ対象物検出手段が検出した対象物の当該装置に対する相対速度を出力することを特徴とする請求項9に記載の絶対速度推定装置。
【請求項11】
前記反射波を受信して得たデータから前記対象物を検出するレーダ対象物検出手段と、
画像により対象物を検出する画像対象物検出手段と、
前記レーダ対象物検出手段により検出した対象物と、前記画像対象物検出手段により検出した対象物とを照合する照合手段とを備え、
前記相対速度出力手段は、前記照合手段が照合した対象物の当該装置に対する相対速度を出力することを特徴とする請求項9に記載の絶対速度推定装置。
【請求項12】
前記相対速度出力手段は、撮像手段が前記対象物を撮像して得た画像データに基づいて前記対象物の当該装置に対する相対速度を出力することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の絶対速度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15411(P2013−15411A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148475(P2011−148475)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】