説明

絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブル

【課題】摺動性、および難燃性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】フラットケーブル1は、複数の導体2と、樹脂フィルム5と樹脂フィルム5上に積層されたアンカーコート層7とアンカーコート層7上に積層された接着剤層4とからなり、導体2の両面を被覆する絶縁フィルム3とを備えている。接着剤層は、有機リン化合物を必須成分とするとともに、有機リン化合物を、接着剤層の樹脂成分100重量部に対して、20重量部以上250重量部以下含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車載カーナビゲーションシステムやオーディオ機器等の電子機器の内部配線材として、複数の平板状導体の両面を、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムと、当該樹脂フィルム上に形成された接着剤層とからなる絶縁フィルムにより被覆した構造のフラットケーブルが使用されている。
【0003】
また、一般に、フラットケーブルを製造する際には、導体の両面を絶縁フィルムで挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体を絶縁フィルムの接着剤層により、連続的にラミネート接着して、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆する方法が採用される。
【0004】
ここで、一般に、フラットケーブルの難燃性を向上させるために、難燃剤を含有する構成としている。より具体的には、例えば、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの表面に設けられたアンカーコート層と、アンカーコート層の表面に設けられた接着剤層とを備える絶縁フィルムにより、導体の両面を被覆したフラットケーブルにおいて、アンカーコート層にリン系難燃剤であるポリリン酸アンモニウムを含有させるとともに、接着剤層に窒素系難燃剤を含有させたものが開示されている。そして、このような構成により、良好な絶縁性と難燃性を両立することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば、ポリイミド樹脂を主成分とする樹脂塗布層と、樹脂塗布層の表面に設けられた樹脂フィルムと、樹脂フィルムの表面に設けられた接着剤層とを備える絶縁フィルムにより、導体の両面を被覆したフラットケーブルが開示されている。そして、樹脂塗布層と接着剤層に、ポリリン酸アンモニウム等のリン系難燃剤を含有させることにより、難燃性に優れたフラットケーブルを提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−109769号公報
【特許文献2】特開2006−120432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献に記載のフラットケーブルに使用されるリン系難燃剤は、難燃性を向上させることはできるものの、加水分解や吸水が起こり易いため、接着剤層の絶縁性が低下するという問題があった。また、その他に、可塑化効果を有するため、接着剤層が軟化して、接着剤層の耐熱性が低下するという問題があった。また、リン系難燃剤は、加水分解が起こり易いため、接着剤層の耐熱性が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、絶縁性、耐熱性、および難燃性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの表面に設けられたアンカーコート層と、アンカーコート層の表面に設けられた接着剤層とを備える絶縁フィルムにおいて、接着剤層は、下記一般式(1)で示される有機リン化合物を必須成分とするとともに、有機リン化合物を、接着剤層の樹脂100重量部に対して、20重量部以上250重量部以下含有することを特徴とする。
【0009】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6の炭化水素基、又はハロゲン化炭化水素基を表し、m及びnは0〜4の整数を表し、Aは下記式(2)〜(4)で示されるいずれかの化合物を表す。)
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
同構成によれば、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物の加水分解や吸水が起こり難くいため、絶縁性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。また、難燃剤の可塑化効果が起こり難くなるため、接着剤層が軟化することがなく、耐熱性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能となる。また、フラットケーブルを加工する際の熱処理で、難燃剤が揮発することがないため、異臭を防ぐことができる。更に、難燃性および導体接着力に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の絶縁フィルムであって、接着剤層は、窒素含有有機難燃剤を含有することを特徴とする。同構成によれば、絶縁フィルムの絶縁性を一層向上させることが可能になる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の絶縁フィルムであって、接着剤層の樹脂が、飽和共重合ポリエステル樹脂、または不飽和共重合ポリエステル樹脂であることを特徴とする。同構成によれば、接着剤層において接着性と耐熱性を両立させることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、導体の両面が、絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブルである。同構成によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁フィルムを備えるため、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明と、同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフラットケーブルにおいて、耐熱性、加工性、絶縁性、難燃性、および導体接着力に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図であり、図2は、図1のA−A断面図である。また、図3は、図1のB−B断面図である。
【0019】
本実施形態におけるフラットケーブル1は、図1、図2に示すように、所定の幅及び厚さを有する、複数の平板状の導体2の両面を、絶縁フィルム3により被覆した構造を有する。また、絶縁フィルム3は、樹脂フィルム5と、当該樹脂フィルム5上に積層されたアンカーコート層7と、アンカーコート層7上に積層された接着剤層4により構成されており、フラットケーブル1は、2枚の絶縁フィルム3の間に、複数の導体2が挟まれた状態で、当該2枚の絶縁フィルム3を貼り合わせた構成となっている。
【0020】
また、図3に示すように、フラットケーブル1の端部(以下、「ケーブル端部」という。)1aにおいては、導体2をプリント基板や電機電子部品等に設けられた接続端子(不図示)と接続すべく、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させる構成となっている。
【0021】
フラットケーブル1の製造方法としては、まず、導体2の両面を絶縁フィルム3で挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2を接着剤層4により、連続的にラミネート接着して、導体2の両面を絶縁フィルム3により被覆した長尺品を製造する。また、この際、ケーブル端部1aにおいて、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させた露出部を設けるべく、打ち抜き加工によって、一方の絶縁フィルム3に穴部を形成しながら、当該絶縁フィルム3を導体2とラミネートし、その後、長尺品を一定の長さに切断することにより、フラットケーブル1が製造される。
【0022】
導体2は、銅箔、錫メッキ軟銅箔、ニッケルメッキ軟銅薄等の導電性金属箔からなり、導体2の厚みは、使用する電流量に対応するが、フラットケーブル1の摺動性等を考慮すると、20μm〜50μmが好ましい。
【0023】
樹脂フィルム5としては、柔軟性に優れた樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる、フラットケーブル用として汎用性のある樹脂フィルムがいずれも使用可能である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートポリアリレート樹脂などが挙げられる。
【0024】
なお、これらの樹脂フィルムのうち、電気的特性、機械的特性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂フィルム5が好適に使用される。また、ポリイミド樹脂からなる樹脂フィルム5を使用することにより、UL(Underwriters Laboratories inc.)規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性を有するとともに、鉛を含有しないはんだによる電子部品の実装作業にも対応できる絶縁フィルム3を提供することが可能になる。また、本実施形態においては、樹脂フィルムの厚みが、12μm〜50μmのものが、好適に使用できる。
【0025】
接着剤層4を構成する樹脂としては、耐熱性と接着性に優れた樹脂材料を主成分とするものが使用され、本実施形態においては、共重合ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物を主成分とするものが使用される。この共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、飽和共重合ポリエステル樹脂や不飽和共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。なお、本実施形態においては、接着剤層4の厚みが、20μm〜50μmのものが、好適に使用できる。
【0026】
また、上述の飽和共重合ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物を必須成分として接着剤層4を形成した場合、当該樹脂組成物の難燃性が乏しいため、フラットケーブル1全体の難燃性が低下するという問題がある。従って、接着剤層4に、難燃剤を含有させて、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格する難燃性を付与する構成としている。
【0027】
そして、本実施形態においては、当該難燃剤としては、下記一般式(1)で示される有機リン化合物を使用する構成としている。
【0028】
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6の炭化水素基、又はハロゲン化炭化水素基を表し、m及びnは0〜4の整数を表し、Aは下記式(2)〜(4)で示されるいずれかの化合物を表す。)
【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
一般式(1)で示される有機リン化合物は、リン−酸素結合を1つしか有していないため、難燃剤として、このような有機リン化合物を使用することにより、難燃剤の加水分解と吸水が起こり難くなる。従って、難燃剤を含有する接着剤層4の絶縁性の低下を防止できることになる。また、一般式(1)で示される有機リン化合物は、可塑化効果が起こり難いため、接着剤層4が軟化することを防止できる。従って、接着剤層4の耐熱性の低下を防止できることになる。また、フラットケーブルを加工する際の熱による難燃剤の揮発を防止できるため、異臭の発生を防止することができる。従って、絶縁フィルム3の加工性が向上する。
【0033】
そして、本実施形態においては、接着剤層4が、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物を、接着剤層4の樹脂100重量部に対して、20重量部以上250重量部以下含有する構成としている。これは、難燃剤の含有量が20重量部未満の場合は、フラットケーブル1全体の難燃性を十分に向上することができない場合があり、また、難燃剤の含有量が250重量部より多い場合は、導体2と接着剤層4の接着強度が低下し、絶縁フィルム3の導体接着力が低下する場合があるからである。
【0034】
また、絶縁フィルム3の絶縁性を一層向上させるとの観点から、接着剤層4に含有させる難燃剤として、窒素含有有機難燃剤を配合する構成としても良い。この窒素含有有機難燃剤としては、メラミンシアヌレート、トリアジン、イソシアヌレート、尿素、グアニジン等の窒素化合物等が挙げられる。そして、本実施形態においては、接着剤層4が、当該窒素含有有機難燃剤を、接着剤層4の樹脂100重量部に対して、20重量部以上150重量部以下含有する構成としている。これは、窒素含有有機難燃剤の含有量が20重量部未満の場合は、窒素含有有機難燃剤によるフラットケーブル1の絶縁性の向上効果が十分に発揮されない場合があり、また、窒素含有有機難燃剤の含有量が150重量部より多い場合は、導体2と接着剤層4の接着強度が低下し、絶縁フィルム3の導体接着力が低下する場合があるからである。
【0035】
また、アンカーコート層7は、樹脂フィルム5と接着剤層4の接着性を向上させるために使用されるものである。このアンカーコート層7としては、特に限定はなく、例えば、主剤であるポリウレタン樹脂に、イソシアネート系の硬化剤を混合した常温硬化型の樹脂組成物を主成分とするアンカーコート剤を使用したウレタン系のアンカーコート層が使用できる。なお、上記特許文献1に記載のフラットケーブルにおいては、リン系難燃剤の加水分解や吸水が起こり易く、接着剤層の絶縁性が低下するため、絶縁性の低下を抑制する観点から、アンカーコート層の厚みを厚くする必要があるが、本実施形態においては、上述のごとく、一般式(1)で示される有機リン化合物の加水分解や吸水が起こり難いため、接着剤層4の絶縁性の低下を防止できる。従って、アンカーコート層7の厚みを厚くする必要がなく、本実施形態においては、アンカーコート層7の厚みが、0.5μm〜5μmのものが、好適に使用できる。
【0036】
また、絶縁フィルム3を作製する際には、まず、接着剤層4を構成する共重合ポリエステル樹脂に、難燃剤を配合した樹脂組成物を、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等の混練機により混練して接着性樹脂組成物を作製する。次いで、樹脂フィルム5の表面上に上述のアンカーコート剤を塗布するとともに、アンカーコート剤の表面上に作製した接着性樹脂組成物を塗布する。次いで、所定温度で、所定時間、放置し、塗布したアンカーコート剤と接着性樹脂組成物を乾燥させることにより、絶縁フィルム3を作製する。
【0037】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、接着剤層4が、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物を必須成分とするとともに、有機リン化合物を、接着剤層4の樹脂100重量部に対して、20重量部以上250重量部以下含有する構成としている。従って、一般式(1)で示される有機リン化合物は、加水分解と吸水が起こり難いため、接着剤層4の絶縁性が低下することがなくなり、絶縁性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。また、難燃剤の可塑化効果が起こり難く、接着剤層4が軟化することがなくなるため、接着剤層4の耐熱性が低下せず、耐熱性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。また、フラットケーブルを加工する際の熱処理で、難燃剤が揮発することがないため、異臭を防ぐことができる。更に、難燃性および導体接着力に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。
【0038】
(2)本実施形態においては、接着剤層4が、窒素含有有機難燃剤を含有する構成としている。従って、絶縁フィルム3の絶縁性を一層向上させることが可能になる。
【0039】
(3)本実施形態においては、接着剤層4の樹脂として、飽和共重合ポリエステル樹脂、または不飽和共重合ポリエステル樹脂を使用する構成としている。従って、接着剤層4において耐熱性と接着性の両立が可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態には以下のように変形しても良い。
・図4(図1のB−B断面図)に示すように、ケーブル端部1aにおいて、導体2と接続端子の接続信頼性を高めるために、ケーブル端部1aにおける導体2の露出部の表面をめっき層6により被覆する構成としても良い。
【0041】
この際、環境への配慮から、鉛を含有しないめっき層6を使用する構成とすることが好ましく、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を防止するとの観点から、鉛を含有しないめっき層6として金めっき層を使用することが好ましい。導体2の表面へのめっき処理は、無電解めっき法、または電解めっき法により行われ、金めっき層を設ける際には、露出した導体の表面に対して、まず、拡散防止層としてのニッケルめっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層の表面上に金めっき層を形成する方法が採用される。このような構成により、導体2を、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続する際に、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を効果的に防止することができる。
【0042】
・また、接着剤層4に、酸化防止剤、着色剤(例えば、酸化チタン)、隠蔽剤、加水分解抑制剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等の既知の配合剤を添加する構成としても良い。また、これらの配合剤の混合は、溶融成形法でフィルムとする場合は、単軸混合機、二軸混合機等を使いて溶融混合する方法で行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0044】
(実施例1)
(接着性樹脂組成物の作製)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS、溶剤トルエン/MEK:50/50、固形分35%〕100重量部(溶剤溶液状で換算すると285重量部)に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(2)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名BCA〕60重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。
【0045】
(絶縁フィルムの作製)
次いで、100重量部のポリウレタン樹脂〔三井化学ポリウレタン(株)製、商品名タケラックA−310〕と10重量部のイソシアネート系の硬化剤〔三井化学ポリウレタン(株)製、商品名タケネートA−3〕を混合した樹脂組成物を溶剤である酢酸エチルに溶解したアンカーコート剤を用意し、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルム〔帝人デュポンフィルム(株)製、厚さ0.012mm〕の表面上に上述のアンカーコート剤を塗布し、120℃で、10分間、放置し、塗布したアンカーコート剤の溶剤を乾燥させた。次いで、アンカーコート剤の表面上に、トルエン:MEKが4:1で混合された溶剤に溶解した接着性樹脂組成物を塗布した。次いで、120℃で、10分間、放置し、塗布した接着性樹脂組成物を乾燥させることにより、アンカーコート層(厚さ0.003mm)と、アンカーコート層の表面に設けられた接着剤層(厚さ0.030mm)とを備える、全体の厚さが0.045mmの絶縁フィルムを作製した。
【0046】
(フラットケーブルの作製)
次に、導体である錫メッキ軟銅箔(厚さ0.035mm、幅0.8mm)10本を平行に並べた状態で、当該錫メッキ軟銅箔を、作製した2枚の絶縁フィルムで挟み込み、135℃に加熱された熱ラミネータを用いて加熱加圧処理を行うことにより、錫メッキ軟銅箔の両面を絶縁フィルムによりラミネートして被覆し、ケーブル状に加工することにより、フラットケーブルを作製した。なお、フラットケーブルのケーブル端部において、絶縁フィルムを形成せずに、導体の一部を外部に露出させる構成とした。
【0047】
(難燃性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、UL規格1581のVW−1に規定される垂直燃焼試験を行った。より具体的には、フラットケーブルを各々10本用意し、着火後、10本中1本以上燃焼したもの、燃焼落下物により、試料であるフラットケーブルの下方に配置した脱脂綿が燃焼したもの、または、試料であるフラットケーブルの上部に取り付けたクラフト紙が燃焼したものを不合格とし、その他を合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0048】
(耐熱性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、耐熱性評価を行った。より具体的には、作製したフラットケーブル1を、図5に示すZ字形状に折り曲げた後、136℃で168時間、自然状態にして放置し、樹脂溶解による剥離(即ち、絶縁フィルム3からの導体2の剥離)が生じていないものを合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0049】
(絶縁性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、絶縁性評価を行った。より具体的には、作製したフラットケーブル1を、60℃、95%RHの環境下に168時間放置した後、フラットケーブルにおいて互いに隣接する導体(導体長100mm)間の絶縁抵抗(印可電圧0.5kV)を測定した。そして、絶縁抵抗が1.0×10Ω以上のものを合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0050】
(加工性評価)
また、作製した絶縁フィルムに対して、加工性評価を行った。より具体的には、作製した絶縁フィルムにより、導体の両面をラミネートして被覆し、フラットケーブルを作製する際に、絶縁フィルムのカールや熱収縮などで皺や導体間隔乱れが発生せず、熱処理で異臭や黄変などを発生しないで、良好にラミネートできたものを加工性に優れているものとして合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0051】
(導体接着性評価)
次いで、作製したフラットケーブルに対して、導体接着力評価を行った。より具体的には、フラットケーブルのケーブル端部における露出した導体を、500mm/分の速度で180°剥離し、導体接着力〔g/mm〕を測定した。なお、導体接着力の測定は、引張り試験機〔INSTRON製、商品名INSTRON MODEL4301〕を使用して行った。また、導体接着力が100g/mmよりも大きいものを合格とした。以上の結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(3)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名HCA−HQ〕60重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。次いで、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(4)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名ACA〕60重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。次いで、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(2)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名BCA〕20重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(2)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名BCA〕250重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤であるリン酸塩〔アデカ(株)製、商品名FP2100〕60重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。次いで、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である芳香族縮合リン酸エステル〔大八化学(株)製、商品名PX200〕60重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。次いで、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0058】
(比較例3)
まず、飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である芳香族縮合リン酸エステル〔アデカ(株)製、商品名FP700〕60重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製した。次いで、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0059】
(比較例4)
飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(2)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名BCA〕10重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0060】
(比較例5)
飽和共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡(株)製、商品名バイロン65HS〕100重量部に、難燃剤である一般式(1)で示される有機リン化合物(Aは式(2)で示される化合物を表す)〔三光(株)製、商品名BCA〕300重量部、および窒素含有有機難燃剤〔日産化学(株)製、商品名MC4000〕30重量部を加え、ダイノミル混合機を用いて、均一に混合して、接着性樹脂組成物を作製したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁フィルム、およびフラットケーブルを作製し、上述の実施例1と同一の条件により、難燃性評価、耐熱性評価、絶縁性評価、加工性評価、および導体接着力評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1〜5のフラットケーブルは、いずれの場合においても、難燃性、耐熱性、絶縁性、加工性、および導体接着力に優れていることが判る。一方、表1に示すように、比較例1のフラットケーブルは、絶縁性に劣ることが判る。これは、比較例1のフラットケーブルにおいては、加水分解や吸水が起こり易いリン酸塩を難燃剤として使用したためであると考えられる。また、比較例2のフラットケーブルは、耐熱性、および加工性に劣ることが判る。これは、比較例2のフラットケーブルにおいては、使用した芳香族縮合リン酸エステルの可塑化効果により接着剤層が軟化し、接着剤層の樹脂溶解による剥離が発生したためであると考えられる。また、ケーブル加工性においては、熱処理により、芳香族縮合リン酸エステルの低分子量部分が揮発したためであると考えられる。また、比較例3のフラットケーブルは、耐熱性に劣ることが判る。これは、比較例3のフラットケーブルにおいては、芳香族縮合リン酸エステルの可塑化効果により、接着剤層が軟化して、接着剤層の樹脂溶解による剥離が発生したためであると考えられる。また、比較例4のフラットケーブルは、難燃性に劣ることが判る。これは、比較例4のフラットケーブルにおいては、難燃剤として使用した有機リン化合物の含有量が、接着剤層の樹脂100重量部に対して、20重量部未満(即ち、10重量部)であるためと考えられる。更に、比較例5のフラットケーブルは、導体接着力に劣ることが判る。これは、比較例5のフラットケーブルにおいては、難燃剤として使用した有機リン化合物の含有量が、接着剤層の樹脂100重量部に対して、250重量部よりも大きい(即ち、300重量部)ためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の活用例としては、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】図1のB−B断面図であって、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの変形例の構成を示す概略図である。
【図5】実施例における耐熱性評価を行う際の、フラットケーブルの状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0065】
1…フラットケーブル、1a…ケーブル端部、2…導体、3…絶縁フィルム、4…接着剤層、5…樹脂フィルム、6…めっき層、7…アンカーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの表面に設けられたアンカーコート層と、前記アンカーコート層の表面に設けられた接着剤層とを備える絶縁フィルムにおいて、
前記接着剤層は、下記一般式(1)で示される有機リン化合物を必須成分とするとともに、前記有機リン化合物を、前記接着剤層の樹脂100重量部に対して、20重量部以上250重量部以下含有することを特徴とする絶縁フィルム。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6の炭化水素基、又はハロゲン化炭化水素基を表し、m及びnは0〜4までの整数を表し、Aは下記式(2)〜(4)で示されるいずれかの化合物を表す。)
【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
前記接着剤層は、窒素含有有機難燃剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
前記接着剤層の樹脂が、飽和共重合ポリエステル樹脂、または不飽和共重合ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、前記導体の両面が、前記絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−272249(P2009−272249A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123828(P2008−123828)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】