説明

絶縁不良検出装置

【課題】絶縁正常時の誤検出を防止でき、昇圧回路作動時においても継続検出可能な絶縁不良検出装置を提供する。
【解決手段】絶縁不良検出装置1は、所定周波数の信号を発生する信号発生部13と、一端が信号発生部13の出力端子に接続される抵抗部14と、一端が抵抗部14の他端に接続され、他端が昇圧回路4の低電位側に接続される第一カップリングコンデンサ11と、一端が抵抗部14の他端に接続され、他端が昇圧回路4の高電位側に接続される第二カップリングコンデンサ12と、抵抗部14の他端を測定点Bとし、測定点Bで測定する電圧の所定周波数成分における振幅レベルに基づいて絶縁不良を検出する絶縁不良検出部15とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧回路を含む高圧系の対地絶縁車載回路に適用される絶縁不良検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁不良検出装置は、車体に対して絶縁された対地絶縁車載回路の絶縁不良を検出する装置である。対地絶縁車載回路は、主に、バッテリ、インバータ回路、および、モータを備えており、電気自動車やハイブリッド車両などに搭載される。絶縁不良検出装置は、カップリングコンデンサを介して対地絶縁車載回路に交流信号を発信し、予め決められた測定点における信号の振幅レベルによって絶縁不良を検出する。例えば、特開2004−347372号公報(特許文献1)に記載の漏電検出装置では、カップリングコンデンサの一端をバッテリの負極に接続し、漏電(絶縁不良)を検出している。
【0003】
一般に、絶縁不良検出装置は、測定点における振幅レベルが所定値よりも低下した際に、絶縁が不良であると判定し、絶縁不良を検出する。そして、絶縁不良が検出されると、警告ランプが点灯したり、高電圧が遮断されるなどの対応がなされる。
【0004】
ここで、絶縁が正常であるにもかかわらず、ノイズ等により瞬間的に振幅レベルが低下し、絶縁不良として検出された場合、上記のような対応がなされ、スムーズな運転に支障をきたしてしまう。一方、絶縁が不良の場合、振幅レベルが低下し、その時点で絶縁不良とされる(上記対応がなされる)ため、ノイズ等による振幅レベルの瞬間的な変動は悪影響となりにくい。つまり、絶縁不良検出装置では、絶縁が正常であるときには、絶縁不良を検出しない(誤検出しない)ことが望まれる。
【0005】
ここで、例えば、特開2004−104923号公報(特許文献2)では、バッテリの正極と負極とにカップリングコンデンサを接続した絶縁抵抗検出装置が開示されている。これにより、リレーによりバッテリ電圧が変動しても、測定点における信号の振幅レベルが安定し、検出誤差を防ぐことができる。
【特許文献1】特開2004−347372号公報
【特許文献2】特開2004−104923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電気自動車やハイブリッド車両において、高速道路への進入時など、加速を必要とする際、バッテリ電圧を昇圧し、インバータ回路を介して高い電圧をモータに提供している。つまり、対地絶縁車載回路には、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路が備えられている。昇圧回路は、主に、一端がバッテリにリレーを介して接続され、他端がインバータ回路に接続されている。
【0007】
昇圧回路を備えた対地絶縁車載回路では、昇圧作動時(昇圧電圧が変化した際)、絶縁不良を検出する測定点に絶縁抵抗(対地インピーダンス)を介してコモンモード電流が流れる。これにより、絶縁が正常であっても振幅レベルが低下してしまい、誤検出を生じる虞があった。従って、従来、昇圧回路の作動時から昇圧電圧が安定するまでの間は、絶縁不良の検出を行わないよう設定されていた。つまり、高速加速時に一度絶縁不良検出を停止し、昇圧電圧安定後、再度検出を開始していた。ここで、検出の再開には多少の時間がかかるため、絶縁不良検出装置の停止/開始が行われるほど、検出時間にロスが生じてしまう。
【0008】
上記絶縁抵抗検出装置(特許文献2)では、検出対象が昇圧回路を備えていないため、当然、昇圧回路の作動による振幅レベルの低下は起こりえない。仮に、検出対象に昇圧回路を備えた場合、通常、配置や冷却の関係上、昇圧回路はインバータ(直近)に接続される。そして、ここでのカップリングコンデンサは、バッテリの正極と負極にそれぞれ接続されている。
【0009】
この構成によれば、カップリングコンデンサによって、バッテリ電圧の変動による影響は抑えられる。しかし、昇圧時に、コモンモード電流が高電位側の絶縁抵抗を介して測定点に流れてしまう。従って、従来同様、昇圧回路作動時に装置の停止/開始を行う必要がある。また、リレーがオンされた直後に昇圧回路が作動した場合、車両起動時であっても、その影響を抑えられない。
【0010】
このように、従来、検出対象に昇圧回路を備えた絶縁不良検出装置にあっては、誤検出回避のため、昇圧回路作動時に装置の検出状態を継続できないという問題があった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、絶縁正常時の誤検出を防止でき、昇圧回路作動時においても継続検出可能な絶縁不良検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、直流電源と直流電源の電圧を昇圧する昇圧回路とを備え且つ車体に対して絶縁された高圧系の対地絶縁車載回路に対して適用され、対地絶縁車載回路と車体との間の絶縁不良を検出する絶縁不良検出装置であって、所定周波数の信号を発生する信号発生部と、信号発生部の出力端子に一端が接続される抵抗部と、一端が抵抗部の他端に接続され、他端が昇圧回路の低電位側に接続される第一カップリングコンデンサと、一端が抵抗部の他端に接続され、他端が昇圧回路の高電位側に接続される第二カップリングコンデンサと、抵抗部の他端を測定点とし、測定点で測定する電圧の上記所定周波数成分における振幅レベルに基づいて絶縁不良を検出する絶縁不良検出部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
これにより、昇圧回路作動による昇圧電圧は、第一カップリングコンデンサおよび第二カップリングコンデンサと、対地絶縁車載回路の対地インピーダンス(絶縁抵抗)とにかかる。このため、昇圧時であっても抵抗部両端の電位に変動が生じにくく、測定点にコモンモード電流が流れにくくなる。従って、昇圧回路作動時における振幅レベルの低下は抑制される。つまり、本発明の絶縁不良検出装置によれば、絶縁正常時の誤検出が防止され、昇圧回路作動時においても継続作動可能となる。
【0014】
ここで、第一カップリングコンデンサの他端は、昇圧回路の低電位側に接続されればよい。つまり、第一カップリングコンデンサの他端は、直流電源の正極または負極に接続されてもよい。
【0015】
第一カップリングコンデンサの他端が直流電源の正極に接続される場合、上記同様、昇圧回路作動時の誤検出を防止できる。ただし、この場合、第一カップリングコンデンサにかかる電圧がプラス側とマイナス側とを変動するため、フィルムコンデンサ等を用いる。
【0016】
第一カップリングコンデンサの他端に直流電源の負極が接続される場合、上記効果に加えて、バッテリ電圧の変動に対しても振幅レベルの低下を抑えることができる。さらに、第一カップリングコンデンサにかかる電圧が一極(マイナス側)となるため、第一カップリングコンデンサに電界コンデンサを用いることができ、コスト削減および小型化が可能となる。
【0017】
ここで、第一カップリングコンデンサと第二カップリングコンデンサの容量比は、所定周波数における昇圧回路の低電位側と車体との間の低電位側対地インピーダンスと、所定周波数における昇圧回路の高電位側と車体との間の高電位側対地インピーダンスの比に等しいことが好ましい。所定周波数は、信号発生部が発生する信号の周波数である。
【0018】
本構成によれば、等価回路で見ると、抵抗部を中心に、第一カップリングコンデンサおよび第二カップリングコンデンサと、低電位側対地インピーダンス(低電位側絶縁抵抗)および高電位側対地インピーダンス(高電位側絶縁抵抗)とがブリッジ回路を形成している。
【0019】
従って、第一カップリングコンデンサと第二カップリングコンデンサの容量比(C1:C2)と、低電位側対地インピーダンスと高電位側対地インピーダンスの比(Z1:Z2)を等しくすることで、抵抗部にかかる電圧がバランスし、測定点にコモンモード電流が流れないようにできる。
【0020】
ここで、第一カップリングコンデンサと第二カップリングコンデンサとは、同容量であることが好ましい(C1:C2=1:1)。容量成分を含むブリッジ回路では、カップリングコンデンサの比(C1:C2)を1:1とし、対地インピーダンス比(Z1:Z2)を1:1とすることにより、電圧のばらつきを抑え、誤検出防止精度をより高めることができる。
【0021】
また、カップリングコンデンサを互いに同容量とすることは、上記のような対地インピーダンス比を考慮しない場合であっても効果がある。一般に、対地絶縁車載回路の対地インピーダンスは、高電圧側と低電圧側とでほぼ等しい値となっていることが多い(Z1:Z2≒1:1)。従って、第一カップリングコンデンサと第二カップリングコンデンサとを同容量にすることにより、容易に測定点のコモンモード電流を抑制できる。
【0022】
ここで、少なくとも所定周波数において、低電位側対地インピーダンスと高電位側対地インピーダンスとが等しくなるように、昇圧回路の低電位側と車体との間には、第一抵抗素子と、第一抵抗素子に対して並列接続される第一コンデンサとが設置され、昇圧回路の高電位側と車体との間には、第二抵抗素子と、第二抵抗素子に対して並列接続される第二コンデンサとが設置されることが好ましい。
【0023】
すなわち、少なくとも所定周波数における対地インピーダンスが互いに一致するように、低電位側対地インピーダンスとして第一抵抗素子と第一コンデンサを設置し、高電位側対地インピーダンスとして第二抵抗素子と第二コンデンサを設置する。これにより、両対地インピーダンスを直接的に設定できるため、少なくとも所定周波数における互いの対地インピーダンスを確実に等しくすることができる。
【0024】
ここで、第一抵抗素子と第二抵抗素子とが同抵抗であり、第一コンデンサと第二コンデンサとが同容量であることが好ましい。これにより、容易且つ確実に両対地インピーダンスを一致させることができる。また、信号の周波数が変動した場合であっても、周波数特性が一致しているため互いに同インピーダンスとなり、誤検出防止精度は維持される。
【0025】
ここで、第一カップリングコンデンサの他端と昇圧回路の間にリレースイッチが配置されることが好ましい。換言すると、リレースイッチは、第一カップリングコンデンサと第二カップリングコンデンサの間に配置されることが好ましい。
【0026】
これにより、リレースイッチがオフのときであっても、第一カップリングコンデンサがリレースイッチで切断された一方側にあり、第二カップリングコンデンサがその他方側にあるため、リレースイッチの両側に対して絶縁不良を検出できる。また、第一カップリングコンデンサの他端が直流電源の負極に接続されている場合、リレースイッチがオン/オフされた直後の電圧変動に対しても、振幅レベルの低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の絶縁不良検出装置によれば、絶縁正常時の誤検出を防止でき、昇圧回路作動時においても継続検出可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0029】
<第一実施形態>
第一実施形態の絶縁不良検出装置1について図1を用いて説明する。図1は、第一実施形態の回路構成を示す図である。図1に示すように、絶縁不良検出装置1は、対地絶縁車載回路2と車体Aの間の絶縁不良を検出する装置である。対地絶縁車載回路2は、バッテリ3と、昇圧回路4と、平滑コンデンサ5と、インバータ回路6と、モータ7とを備えている。ここで、昇圧回路4は、コイル41と、電界効果トランジスタ(以下、トランジスタと略称する)42、43とを備えている。
【0030】
コイル41は、一端がバッテリ3の正極に接続され、他端がトランジスタ42のソースおよびトランジスタ43のドレインに接続されている。トランジスタ42のドレインは、平滑コンデンサ5の一端およびインバータ回路6に接続されている。トランジスタ43のソースは、バッテリ3の負極、平滑コンデンサ5の他端、および、インバータ回路6に接続されている。
【0031】
また、各トランジスタ42、43のゲートには図示しない制御部が接続されており、制御部がトランジスタ42、43のスイッチング制御を行っている。そして、昇圧回路4は、バッテリ3の電圧を昇圧(例えば、最大DC650V)する。なお、トランジスタ42、43のドレイン−ソース間には、素子保護のためのダイオードが接続されている。
【0032】
バッテリ3は、正極が昇圧回路4のコイル41の一端に接続され、負極が昇圧回路4のトランジスタ43のソースに接続されている。後述するが、バッテリ3の負極とトランジスタ43のソースとの間には、第一カップリングコンデンサ11の他端および低電位側対地インピーダンス部8の一端が接続されている。また、トランジスタ42のドレインとインバータ回路6の間には、第二カップリングコンデンサ12の他端および高電位側対地インピーダンス部9の一端が接続されている。
【0033】
平滑コンデンサ5は、直流電圧を平滑する。インバータ回路6は、一方に昇圧回路4および平滑コンデンサ5が接続され、他方にモータ7が接続されている。インバータ回路6は、昇圧回路4で昇圧された高電圧直流電流をモータ7へ供給するために交流電流へ変換する。また、モータ7が発電する交流電流を直流電流に変換する。モータ7は、例えばハイブリッド車において、エンジン出力を補助し出力を高め、減速時に発電する(MG)。
【0034】
ここで、本実施形態では、対地絶縁車載回路2と車体Aとの間に低電位側対地インピーダンス部8および高電位側対地インピーダンス部9が設置されている。低電位側対地インピーダンス部8は、抵抗の大きい第一抵抗素子8a(例えば、2MΩ)と、第一抵抗素子8aに対して並列接続された第一コンデンサ8bとからなっている。低電位側対地インピーダンス部8は、一端がバッテリ3の負極とトランジスタ43のソースとの間に接続され、他端が車体Aに接続されている。つまり、低電位側対地インピーダンス部8は、昇圧回路4の低電位側(対地絶縁車載回路2の低電位側)と車体Aとの間の絶縁抵抗として機能する。なお、昇圧回路4の低電位側には、バッテリ3の正極とコイル41との間も含まれる。
【0035】
高電位側対地インピーダンス部9は、第一抵抗素子8aと同抵抗の第二抵抗素子9aと、第一コンデンサ8bと同容量で且つ第二抵抗素子9aに対して並列接続された第二コンデンサ9bとからなっている。つまり、高電位側対地インピーダンス部9のインピーダンスは、低電位側対地インピーダンス部8のインピーダンスと等しくなっている。
【0036】
高電位側対地インピーダンス部9は、一端がトランジスタ42のドレインとインバータ回路6との間に接続され、他端が車体Aに接続されている。つまり、高電位側対地インピーダンス部9は、昇圧回路4の高電位側(対地絶縁車載回路2の高電位側)と車体Aとの間の絶縁抵抗として機能する。なお、モータ7と車体Aとの間にも絶縁抵抗が存在するが、ここでは対地インピーダンス部Cとして図示し、説明は省略する。
【0037】
絶縁不良検出装置1は、第一カップリングコンデンサ11と、第二カップリングコンデンサ12と、信号発生部13と、抵抗部14と、絶縁不良検出部15とを備えている。信号発生部13は、一方端子(出力端子)が抵抗部14の一端に接続され、他方端子が車体Aに接続されている。信号発生部13は、所定周波数の信号(ここでは、5V、2.5Hz)を発生する。
【0038】
第一カップリングコンデンサ11は、電界コンデンサであり、一端が抵抗部8の他端に接続され、他端がバッテリ3の負極とトランジスタ43のソースとの間(昇圧回路4の低電位側)に接続されている。
【0039】
第二カップリングコンデンサ12は、第一カップリングコンデンサ11と同容量の電界コンデンサである。第二カップリングコンデンサ12は、一端が抵抗部8の他端に接続され、他端がトランジスタ42のドレインとインバータ回路6との間(昇圧回路4の高電位側)に接続されている。
【0040】
本実施形態は、両カップリングコンデンサ11、12により昇圧回路4(およびバッテリ3)を挟み込むような回路構成となっている。ここで、信号発生部13からの信号の経路(信号経路)は、信号発生部13の出力端子→抵抗部14→カップリングコンデンサ11、12→対地インピーダンス部8、9→車体Aとなる。
【0041】
絶縁不良検出部15は、抵抗部14の他端を測定点Bとし、測定点Bで測定する電圧の所定周波数成分(2.5Hz)における振幅レベルに基づいて、絶縁不良を検出する。詳細には、絶縁不良検出部15は、まず、測定点Bにおける電圧を2.5Hz帯域フィルタにかける。そして、フィルタを通過した2.5Hzの波を半波整流し増幅する。そして、半波整流および増幅された波の振幅レベル(波高値(V))を基に、絶縁不良を検出する。振幅レベルが所定値以下となると絶縁不良と判定され、絶縁不良が検出される。
【0042】
本実施形態において、振幅レベルは、絶縁が正常であれば5V付近となる。そして、所定値を3.4Vとしている。本実施形態では、絶縁抵抗100kΩ以下を絶縁不良としている。そこで、抵抗部14の抵抗を100kΩとし、絶縁が100kΩ付近まで低下したときの検出精度を高くしている。
【0043】
なお、上記した低電位側対地インピーダンス部8および高電位側対地インピーダンス部9は、絶縁不良検出装置1の構成の一部としてもよい。つまり、この場合、絶縁不良検出装置1は、低電位側対地インピーダンス部8および高電位側対地インピーダンス部9をも備える。
【0044】
ここで、昇圧回路4の作動時の電流の経路について説明する。本実施形態によれば、経路は2つとなる。第一の経路は、車体A→信号発生部13→抵抗部14→測定点B→第一カップリングコンデンサ11→バッテリ3→昇圧回路4→高電位側対地インピーダンス部9→車体Aである。第二の経路は、車体A→低電位側対地インピーダンス部8→バッテリ3→昇圧回路4→第二カップリングコンデンサ12→測定点B→抵抗部14→信号発生部13→車体Aである。
【0045】
これによれば、測定点Bには、各カップリングコンデンサ11、12を介する2つの経路それぞれから、互いに逆向きの電圧が加わる。つまり、測定点Bにおいて、昇圧回路作動による電圧変動の影響がキャンセルされる。このため、昇圧回路4の作動時であっても、絶縁不良検出部15は影響を受けず、絶縁正常時に振幅レベルが低下することがない。
【0046】
ここで、昇圧回路をもつ対地絶縁車載回路に対して、特許文献1に記載の漏電検出装置を適用した場合を考える。この場合、昇圧回路4の作動時には、本実施形態の第一の経路に相当する経路で電流が流れ、絶縁不良検出に影響が出てしまう。つまり、この構成では、昇圧回路をもつ対地絶縁車載回路に対して、昇圧回路作動時に、測定点におけるコモンモード電流をキャンセルできず、振幅レベルが低下してしまう。このため、絶縁が正常であるにもかかわらず、誤検出が生じてしまう。しかし、絶縁不良検出装置1によれば、上記のように、絶縁正常時における誤検出を防止することができる。
【0047】
ここで、昇圧された電圧(昇圧電圧)と抵抗部14にかかる電圧との関係について、図2を参照して説明する。図2は、昇圧電圧に対する簡略化した等価回路を示す図である。図2に示すように、本実施形態によれば、カップリングコンデンサ11、12および対地インピーダンス部8、9は、昇圧電圧に対してブリッジ回路を形成している。そして、抵抗部14は、このブリッジ回路の中心(中間点)に位置している。
【0048】
このブリッジ回路では、第一カップリングコンデンサ11と第二カップリングコンデンサ12の容量比(1:1)が、低電位側対地インピーダンス部8と高電位側対地インピーダンス部9のインピーダンス比(1:1)と一致している。つまり、このブリッジ回路は、平衡状態となっている。従って、抵抗部14にかかる電圧は、絶縁が正常であれば昇圧電圧の変動にかかわらずバランスする。
【0049】
抵抗部14にかかる電圧は、信号経路を流れる信号発生部13の信号に基づいて変動する。そして、本実施形態によれば、昇圧時に、抵抗部14にコモンモード電流が流れず、振幅レベルの低下を防ぐことができる。なお、上記効果は、ブリッジ回路が平衡とすればよく、上記容量比とインピーダンス比を等しくすることにより得られる。ただし、本実施形態のように、1:1=1:1とするほうが精度がよく、確実且つ容易に上記効果を得ることができる。
【0050】
また、振幅レベルに影響が出易いのは、信号発生器13が発生する信号の周波数であるため、少なくともその周波数におけるインピーダンス比が影響する。従って、インピーダンス比は、少なくとも当該周波数において、容量比と一致すればよい。
【0051】
ここで、比較例と本実施形態とを比較するための実験を行った。絶縁不良検出部15が検出する振幅レベルの実験値について図3を参照して説明する。図3は、昇圧電圧(F1)、絶縁正常時における比較例の出力(F2)、絶縁正常時における本実施形態の出力(F3)、および、絶縁不良時における本実施形態の出力(F4)を示す図である。図3は、縦軸が電圧(V)であり、横軸が時間(1目盛間0.5s)である。
【0052】
実験では、比較例と本実施形態とにおいて、絶縁正常時の振幅レベルを比較している。比較例の回路としては、本実施形態から第二カップリングコンデンサ12を取り除いたものとした。すなわち、比較例の回路では、第二カップリングコンデンサ12がないため、第二の経路が存在しない。また、本実施形態における絶縁不良時の振幅レベルについても実験を行った。実験は、絶縁不良検出部15を、比較例の回路または本実施形態を再現した評価ベンチに接続し、昇圧電圧を0Vから200Vに変更して行った。
【0053】
この実験において、各カップリングコンデンサ11、12は容量1.1μF、各対地インピーダンス部8、9は抵抗2MΩ、容量100nF、とした。一方、比較例の回路では、第一カップリングコンデンサ11の容量を2.35μFとした。そして、絶縁不良時としては、高電位側対地インピーダンス部9の抵抗を100kΩとした。
【0054】
図3のF1に示すように、昇圧電圧は、t1からt2すぎまでの間に上昇している。ここで、F2に示すように、比較例の回路では、絶縁が正常であるにもかかわらず、t1からt2の間で振幅レベルが低下または0となっている。なお、絶縁正常の場合、t1〜t2以外の時間帯で示されたとおり、振幅レベルはおよそ5Vとなる。つまり、比較例の回路では、昇圧回路4が作動し昇圧電圧が上昇した際、振幅レベルが低下し誤検出が生じてしまう。また、t3前の波形が変形している。
【0055】
一方、F3に示すように、本実施形態では、昇圧電圧が変動したt1からt2すぎにおいても、振幅レベルはおよそ5Vで維持され、低下していない。つまり、本実施形態では、昇圧回路4が作動し、昇圧電圧が上昇しても、絶縁正常時に絶縁不良であるとの誤検出が生じない。従って、昇圧回路作動時であっても、継続検出可能である。
【0056】
また、F4に示すように、絶縁不良時の本実施形態の出力は、t1からt3間において、出力が低下しておらず、波形が変形している。しかし、他の時間帯では振幅レベルが所定値(3.4V)以下まで低下しており、絶縁不良であることは正確に検出されている。従って、運用上での影響はほとんどなく、継続した検出が可能である。ただし、t1からt3間においても、波形の変形度や、振幅レベルの平均値を利用して、絶縁不良と判定するようにしてもよい。
【0057】
以上、本実施形態によれば、絶縁正常時の誤検出を防止でき、昇圧回路4の作動時においても継続検出可能となる。また、バッテリ3のオン/オフによる影響も防止できる。
【0058】
なお、本実施形態では、低電位側および高電位側に対地インピーダンス部を設置し、積極的にインピーダンスを調整したが、それらを設置していないものでもよい。多くの対地絶縁回路は、高電位側と低電位側との絶縁抵抗がほぼ等しくなっており、上記同様の効果を得ることができる。ただし、対地インピーダンス(絶縁抵抗)を調整することで、精度は向上する。
【0059】
また、第一カップリングコンデンサ11の他端は、バッテリ3の正極とコイル41との間(昇圧回路4の低電位側)に接続されてもよい。この場合であっても、上記同様、昇圧回路4の作動時における誤検出を防止できる。ただし、バッテリ3のオン/オフによる影響は受ける虞がある。また、第一カップリングコンデンサ11として、電界コンデンサではなくフィルムコンデンサを用いる必要がある。
【0060】
<第二実施形態>
第二実施形態について図4を参照して説明する。図4は、第二実施形態の回路構成を示す図である。第二実施形態は、第一実施形態にリレースイッチDを追加したものである。従って、その他の構成については、第一実施形態と同符号を付して説明を省略する。
【0061】
第二実施形態では、図4に示すように、バッテリ3と昇圧回路4との間にリレースイッチDが配置されている。そして、第一カップリングコンデンサ11の他端は、バッテリ3の負極とリレースイッチDとの間に接続されている。すなわち、リレースイッチDは、第一カップリングコンデンサ11の他端と昇圧回路4との間に設置されている。
【0062】
リレースイッチDは、イグニッションのオン/オフに基づいてオン/オフする。リレースイッチDがオンすると、バッテリ3と昇圧回路4が接続され、オフすると当該接続が切断される。
【0063】
第二実施形態によれば、リレースイッチDがオン/オフされた直後の電圧変動に対しても、振幅レベルの低下を防ぐことができる。また、リレースイッチDがオフのときであっても、各カップリングコンデンサ11、12により、リレースイッチDで切断された両方の回路に対して絶縁不良を検出できる。
【0064】
なお、昇圧回路4の作動時はリレースイッチDがオンされた状態である。このため、低電位側対地インピーダンス部8は、リレースイッチDと昇圧回路4(トランジスタ43のソース)との間であっても、リレースイッチDとバッテリ3の負極との間であっても、接続が昇圧回路4の低電位側となり、第一実施形態同様の効果を得ることができる。ただし、リレースイッチDがオフのときの低電位側の絶縁不良検出対象は、低電位側対地インピーダンス部8の一端がリレースイッチDとバッテリ3の負極との間に接続される場合、低電位側インピーダンス部8となり、リレースイッチDと昇圧回路4との間に接続される場合、元々の絶縁抵抗となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第一実施形態の回路構成を示す図である。
【図2】昇圧電圧に対する簡略化した等価回路を示す図である。
【図3】昇圧電圧(F1)、絶縁正常時における比較例の出力(F2)、絶縁正常時における本実施形態の出力(F3)、および、絶縁不良時における本実施形態の出力(F4)を示す図である。
【図4】第二実施形態の回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1:絶縁不良検出装置、
11:第一カップリングコンデンサ、12:第二カップリングコンデンサ、
13:信号発生部、14:抵抗部、15:絶縁不良検出部、
2:対地絶縁車載回路、
3:バッテリ、4:昇圧回路、5:平滑コンデンサ、6:インバータ回路、
7:モータ、
8:低電位側対地インピーダンス部、8a:第一抵抗素子、8b:第一コンデンサ、
9:高電位側対地インピーダンス部、9a:第二抵抗素子、9b:第二コンデンサ、
A:車体、B:測定点、D:リレースイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と前記直流電源の電圧を昇圧する昇圧回路とを備え且つ車体に対して絶縁された高圧系の対地絶縁車載回路に対して適用され、前記対地絶縁車載回路と前記車体との間の絶縁不良を検出する絶縁不良検出装置であって、
所定周波数の信号を発生する信号発生部と、
一端が前記信号発生部の出力端子に接続される抵抗部と、
一端が前記抵抗部の他端に接続され、他端が前記昇圧回路の低電位側に接続される第一カップリングコンデンサと、
一端が前記抵抗部の他端に接続され、他端が前記昇圧回路の高電位側に接続される第二カップリングコンデンサと、
前記抵抗部の他端を測定点とし、前記測定点で測定する電圧の前記所定周波数成分における振幅レベルに基づいて前記絶縁不良を検出する絶縁不良検出部と、
を備えることを特徴とする絶縁不良検出装置。
【請求項2】
前記第一カップリングコンデンサの他端は、前記直流電源の正極に接続される請求項1に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項3】
前記第一カップリングコンデンサの他端は、前記直流電源の負極に接続される請求項1に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項4】
前記第一カップリングコンデンサと前記第二カップリングコンデンサの容量比は、前記所定周波数における前記昇圧回路の低電位側と前記車体との間の低電位側対地インピーダンスと、前記所定周波数における前記昇圧回路の高電位側と前記車体との間の高電位側対地インピーダンスの比に等しい請求項1〜3の何れか一項に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項5】
前記第一カップリングコンデンサと前記第二カップリングコンデンサとは、同容量である請求項1〜4の何れか一項に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項6】
少なくとも前記所定周波数において、前記昇圧回路の低電位側と前記車体との間の低電位側対地インピーダンスと、前記昇圧回路の高電位側と前記車体との間の高電位側対地インピーダンスとが等しくなるように設定されている請求項5に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項7】
少なくとも前記所定周波数において、前記低電位側対地インピーダンスと前記高電位側対地インピーダンスとが等しくなるように、
前記昇圧回路の低電位側と前記車体との間には、第一抵抗素子と、前記第一抵抗素子に対して並列接続される第一コンデンサとが設置され、
前記昇圧回路の高電位側と前記車体との間には、第二抵抗素子と、前記第二抵抗素子に対して並列接続される第二コンデンサとが設置される請求項6に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項8】
前記第一抵抗素子と前記第二抵抗素子とは同抵抗であり、前記第一コンデンサと第二コンデンサとは同容量である請求項7に記載の絶縁不良検出装置。
【請求項9】
前記第一カップリングコンデンサの他端と前記昇圧回路の間にリレースイッチが配置される請求項1〜8に記載の絶縁不良検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−109278(P2009−109278A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280519(P2007−280519)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】