説明

絶縁層付基板および薄膜太陽電池

【課題】薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる薄膜太陽電池用の絶縁層付基板、およびこの絶縁層付基板を用いた薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】本発明の絶縁層付基板は、絶縁層と少なくとも1つの金属基材とが積層された基板であって、絶縁層を構成する材料の線膨張係数が8ppm/K以下であり、金属基材を構成する材料の線膨張係数が17ppm/K以上であり、絶縁層において金属基材と反対側の絶縁層の表面における線膨張係数が6〜15ppm/Kである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池用の絶縁層付基板および薄膜太陽電池に関し、特に、薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる薄膜太陽電池用の絶縁層付基板、およびこの絶縁層付基板を用いた薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、太陽電池の研究が盛んに行われている。太陽電池を構成する太陽電池モジュールは、光吸収により電流を発生する半導体の光電変換層を裏面電極(下部電極)と透明電極(上部電極)とで挟んだ積層構造の光電変換素子を基板上に多数直列に接続してなる太陽電池サブモジュールを有する。
現在、太陽電池モジュール市場において、太陽電池モジュール価格の低価格化が課題になっている。
【0003】
次世代の太陽電池モジュールとしては、光電変換層にCIGS層を用いた太陽電池モジュールが検討されている。このCIGS層を用いた太陽電池モジュールは、効率が比較的高く、光吸収率が高いため薄膜化できることから、材料費を抑えることができる。このため、コストが低い太陽電池モジュールの候補の一つとして盛んに研究されている。
また、太陽電池モジュールを構成する基板として、アルミニウム基板上に、Al、またはSiOからなる絶縁層が1層以上形成された基板を用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示された太陽電池には、例えば、図4に示されているように、アルミニウム基板上に、Alの絶縁層が形成されており、このAlの絶縁層の上にモリブデン製の裏面金属コンタクト層が形成されている。更にこの裏面金属コンタクト層の上にCIGS薄膜が形成されている。このCIGS薄膜上にII−VIフィルムが形成されている。このII−VIフィルム上に透明導電性酸化物層(TCO層)が形成されている。さらに、透明導電性酸化物層の上に、グリッド電極が形成されている。このAlの絶縁層は、アルミニウム基板を陽極酸化して形成するものが例示されている。
また、特許文献1のアルミニウム基板はフレキシブルなものであることが記載されている。
【0005】
特許文献1に開示されている太陽電池のように、基板に、Alを絶縁層にすることにより集積化が可能となるため、太陽電池の製造コストを下げることができる。また、特許文献1に開示された基板は、フレキシブルなものであるため、ロールツーロールプロセスを採用することができ、さらなるコストの低減が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7053294号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、太陽電池モジュールに、特許文献1に記載のAlの絶縁層を有する基板を用いる場合、特許文献1の基板のAl(アルミナ)の絶縁層の上に裏面電極としてモリブデン膜を形成した後に、CIGS層を形成した場合、モリブデン膜またはCIGS層が剥離するという問題がある。
これは、モリブデン膜、CIGS層は、線膨張係数がガラスと同程度の約10ppm/Kであると考えられる。これに対して、基板を構成するアルミニウムは、線膨張係数が約25ppm/K、陽極酸化により形成されたAlは、線膨張係数が約5ppm/Kと大きく異なる。
このため、モリブデン膜を形成する際の温度上昇と温度降下、CIGS層を形成する際の温度上昇と温度降下により、歪が生じ、モリブデン膜またはCIGS層が剥離してしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる薄膜太陽電池用の絶縁層付基板、およびこの絶縁層付基板を用いた薄膜太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、絶縁層と少なくとも1つの金属基材とが積層された基板であって、前記絶縁層を構成する材料の線膨張係数が8ppm/K以下であり、前記金属基材を構成する材料の線膨張係数が17ppm/K以上であり、前記絶縁層において、前記金属基材と反対側の前記絶縁層の表面における線膨張係数が6〜15ppm/Kであることを特徴とする絶縁層付基板を提供するものである。
【0010】
本発明においては、前記絶縁層は、アルミナにより構成されていることが好ましい。
また、本発明においては、前記絶縁層と接する前記金属基材は、アルミニウムにより構成されていることが好ましい。
また、本発明においては、前記絶縁層は、アルミニウムからなる金属基材を陽極酸化して形成されたものであることが好ましい。
さらに、本発明においては、前記金属基材は、可撓性を有するものにより構成されていることが好ましい。
また、本発明においては、前記アルミニウムからなる金属基材を陽極酸化して形成された陽極酸化膜は、厚さが5〜18μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の絶縁層付基板上に、裏面電極および光電変換層が少なくとも形成されていることを特徴とする薄膜太陽電池を提供するものである。
【0012】
本発明においては、前記絶縁層付基板と前記裏面電極との間にソーダライムガラス層が形成されていることが好ましい。
また、本発明においては、前記絶縁層付基板の絶縁層において、金属基材と反対側の前記絶縁層の表面における線膨張係数が7〜12ppm/Kであることが好ましい。
また、本発明においては、前記裏面電極は、モリブデンにより構成されていることが好ましい。
さらに、本発明においては、前記光電変換層は、CIGS系の半導体化合物からなり、前記光電変換層は、Na濃度が1018(atms/cm)以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁層付基板について、絶縁層を構成する材料の線膨張係数を8ppm/K以下とし、金属基材を構成する材料の線膨張係数を17ppm/K以上とし、金属基材とは反対側の絶縁層の表面における線膨張係数を6〜15ppm/Kとすることにより、薄膜太陽電池に適用して、裏面電極および光電変換層等の薄膜太陽電池を構成する層を形成する際に昇温および降温されても、線膨張係数の違いによる応力の発生が抑制されて、薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】縦軸に規格化基板長をとり、横軸に温度をとって、陽極酸化によって形成されたアルミナの線膨張係数の温度依存性を示すグラフである。
【図2】縦軸に線膨張係数をとり、横軸に陽極酸化膜の膜厚をとって、陽極酸化膜の線膨張係数の膜厚依存性を示すグラフである。
【図3】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る絶縁層付基板を示す模式的断面図であり、(b)は、本発明の第1の実施形態の絶縁層付基板の変形例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールに設けられる太陽電池サブモジュールを示す模式的断面図である。
【図5】縦軸にナトリウム濃度ならびに銅、ガリウム、セレンおよびインジウムの2次イオン強度をとり、横軸にCIGS層の深さをとって、CIGS層のSIMS(二次イオン質量分析計)による分析の結果を示すグラフである。
【図6】縦軸にナトリウム濃度ならびに銅、ガリウム、セレンおよびインジウムの2次イオン強度をとり、横軸にCIGS層の深さをとって、CIGS層のSIMS(二次イオン質量分析計)による分析の結果を示すグラフである。
【0015】
以下、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の絶縁層付基板および薄膜太陽電池を詳細に説明する。
【0016】
本願発明者等は、薄膜太陽電池に絶縁層が形成された絶縁層付基板を用いた場合、太陽電池を構成する裏面電極、CIGS層(光電変換層)等の各層が剥離することについて、鋭意実験研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
本願発明者等は、まず、絶縁層が形成された基板について検討した。この検討には、純度99.5%のAl板に対して、それぞれ、陽極酸化の時間を変えて陽極酸化アルミナ膜の膜厚が9、14、21、33、40μmになるように陽極酸化を行い、各膜厚で陽極酸化アルミナ膜が全面に形成されたAl板を用いた。
【0017】
各膜厚で陽極酸化アルミナ膜が形成されたAl板を、それぞれ、3cm角に切り出し、ホットプレート上で室温から500℃まで加熱し、線膨張係数の温度依存性を測定した。
各Al板の陽極酸化アルミナ膜の表面上にマーキングした2点間の距離を、各温度で測定することにより、規格化基板長を測定した。この規格化基板長の温度依存性を測定した。各温度での規格化基板長に基づいて、線膨張係数を求めることができ、これにより、線膨張係数の温度依存性を求めることができる。
この場合、陽極酸化アルミナ膜の表面上にマーキングした2点間の距離を測定しているため、陽極酸化アルミナ膜が形成されたAl板の最表面、すなわち、陽極酸化アルミナ膜の表面の線膨張係数が得られている。このため、膜厚方向の線膨張係数の分布は考慮しなくても良い。
【0018】
ここで、Al板単体の線膨張係数は25ppm/Kであり、温度依存性はほとんどない。一方、陽極酸化アルミナ膜は、線膨張係数がアモルファスのアルミナ基材と略同等であり、4ppm/Kである。
図1に、陽極酸化アルミナ膜の膜厚が9μmの規格化基板長(線膨張係数)の温度依存性の測定結果を示す。図1の矢印Uは昇温していることを示し、矢印Dは降温していることを示す。
Alとアルミナの線膨張係数の差が大きいため、図1に示すように、昇温したときにおける規格化基板長の変化、降温したときにおける規格化基板長の変化、すなわち、陽極酸化アルミナ膜の線膨張係数(規格化基板長)の温度依存性は複雑な挙動を示し、ヒステリシスになる。これは、陽極酸化アルミナ膜に挟まれたAl板が塑性変形していることが原因と考えられる。
さらに、昇温時の線膨張係数(規格化基板長)の温度依存性は、熱履歴によって変化するが、降温時の線膨張係数(規格化基板長)は熱履歴の影響がなく、略一定値となることを発見した。
【0019】
さらに、図2に示す折線Aのように、陽極酸化アルミナ膜の膜厚を厚くするにしたがって、Alの線膨張係数25ppm/Kからアルミナの線膨張係数4ppm/Kに変化することを知見した。なお、図2において、横軸の陽極酸化膜の膜厚が0のプロットは、陽極酸化膜が形成されていないことを示す。
このように、本願発明者は、陽極酸化アルミナ膜の膜厚を調整することにより、線膨張係数を調整できることを見出した。
さらに、本願発明者は、陽極酸化アルミナ膜が形成された基板を薄膜太陽電池に用いて、この基板上に、裏面電極、光電変換層としてCIGS層を形成する際、線膨張係数の差が大きいと剥離が生じるが、成膜中の高温状態から室温まで降温させるときに剥離が発生し、このため、降温時の線膨張係数が重要となることも見出した。このことから、必要な線膨張係数は、降温時の線膨張係数である。
【0020】
また、Al板の厚さが0.2mmの板材において、同様に陽極酸化アルミナ膜の膜厚を変えて形成し、各基板について線膨張係数を測定した結果、図2の点Bに示すように、陽極酸化アルミナ膜の膜厚が9μmで降温時の線膨張率が7ppm/Kであった。Al板が薄くなった分、陽極酸化膜の比率が大きくなり、0.3mmのAl板よりも薄い膜厚で低い線膨張係数が得られることも見出している。
【0021】
さらに、Alに不純物としてMgを約4質量%含有する厚さが0.3mmのAl板について、同様に陽極酸化アルミナ膜の膜厚を変えて形成し、各基板について線膨張係数を測定した。この結果、図2に示す直線Cのように、他のものとは大きく異なる線膨張係数であることがわかった。これは、不純物濃度によって、Al板材のヤング率、塑性変形の傾向などが変わるためである。図2に示す直線Cのように、線膨張係数の膜厚依存性の傾きは大きく異なるものの、Al板厚と陽極酸化アルミナの厚みの比率を変えることにより、所望の線膨張率の基板を得ることができる。
本発明の太陽電池用の絶縁層付基板は、以上のような知見に基づいてなされたものである。
【0022】
以下、本発明の絶縁層付基板について説明する。
図3(a)に示すように、絶縁層付基板10(以下、単に基板10という)は、金属基材12と、電気的に絶縁する絶縁層14とを有する。
基板10においては、金属基材12の表面12aおよび裏面12bに、それぞれ絶縁層14が形成されている。
本実施形態の基板10は、薄膜太陽電池の基板に利用される。このため、基板10の形状、大きさは適用される薄膜太陽電池の大きさに応じて適宜決定される。
【0023】
基板10において、金属基材12は、構成する材料の線膨張係数が17ppm/K以上である。金属基材12としては、線膨張係数が17ppm/K以上であれば、その組成は、特に限定されるものではない。金属基材12としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金が用いられる。アルミニウムの場合、線膨張係数は25ppm/K(±3ppm/K)である。このため、金属基材12の線膨張係数の上限値は、28ppm/Kである。
【0024】
金属基材12に、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いた場合、金属間化合物が起点となって絶縁不良を起こす可能性があり、金属間化合物が多いと、その可能性が増える。このため、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、不要な金属間化合物を含まないことが好ましい。具体的には不純物の少ない、99質量%以上の純度のアルミであることが好ましい。例えば、純度が99.99質量%Al、99.96質量%Al、99.9質量%Al、99.85質量%Al、99.7質量%Al、99.5質量%Al等が好ましい。また、アルミニウム合金には、金属間化合物を作りにくい元素を添加したものを用いることができる。例えば、純度99.9%のAlにマグネシウムを2.0〜7.0質量%添加したアルミニウム合金である。マグネシウム以外では、Cu、Siなど、固溶限界の高い元素を添加することができる。
【0025】
金属基材12の厚さは、フレキシブルなものにするために、過度の剛性不足を伴わない範囲で薄くすることが好ましい。
本実施形態の基板10においては、金属基材12の厚さは、例えば、5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。より好ましくは20〜50μmである。
また、金属基材12の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで1μm以下である。好ましくは、0.5μm以下、より好ましくは、0.1μm以下である。
【0026】
絶縁層14は、絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止するためのものである。この絶縁層14を構成する材料は、線膨張係数が8ppm/K以下である。
絶縁層14の表面14a上に薄膜太陽電池を構成するソーダライムガラス層、裏面電極、光電変換層等が形成される。
絶縁層14は、線膨張係数が8ppm/K以下であれば、その組成は、特に限定されるものではない。絶縁層14としては、例えば、アルミナが用いられる。このアルミナは、例えば、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の金属基材12を陽極酸化して得られる陽極酸化アルミナである。この陽極酸化アルミナは、線膨張係数が3〜8ppm/Kである。このため、絶縁層14は、線膨張係数が3〜8ppm/Kであることが好ましい。
【0027】
絶縁層14は、絶縁性能を確保するために厚さが5μm以上であることが好ましい。一方、基板10全体としてフレキシブル性を確保するためには、絶縁層14の厚さは18μm以下であることが好ましい。
また、絶縁層14の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで1μm以下であり、好ましくは、0.5μm以下、より好ましくは、0.1μm以下である。
【0028】
基板10においては、金属基材12と絶縁層14との界面ではなく、金属基材12とは反対側の絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6〜15ppm/Kである。より好ましくは、絶縁層14の表面14aの線膨張係数は7〜12ppm/Kである。
絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6ppm/K未満では、絶縁層14の表面14a上に形成されるソーダライムガラス層、裏面電極、CIGS層(光電変換層)、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極等の薄膜太陽電池を構成するもののうち、いずれかに剥離が生じる。
また、絶縁層14の表面14aの線膨張係数が15ppm/Kを超えても、上述の薄膜太陽電池を構成するソーダライムガラス層、裏面電極、CIGS層(光電変換層)、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極のうち、いずれかに剥離が生じる。
【0029】
絶縁層14の表面14aの線膨張係数は、上述のように、6〜15ppm/Kであり、より好ましくは7〜12ppm/Kである。絶縁層14は、アルミニウムの陽極酸化膜の場合、絶縁層材料は単体としては、典型値が5ppm/Kであり、大きくとも8ppm/Kである。このとき、基板10において、絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6ppm/Kであれば良いが、フレキシブル基板として用いることを考えると、金属基材12は薄膜にすることが必要である。このため、絶縁層14の表面14aの線膨張係数は、絶縁材料単体の線膨張係数とは逆側である方が望ましい。すなわち、絶縁層14の表面14aの線膨張係数は大きい方が好ましい。金属基材12をより薄膜化しようとする場合には、絶縁層14の表面14aの線膨張係数は12ppm/Kよりも大きいほうが好適である。
【0030】
基板10において、絶縁層14の表面14aの線膨張係数を6〜15ppm/Kとするには、図2に示すように、絶縁層14の膜厚により線膨張係数が変わること(図2、折線A参照)、および金属基材12の厚さを変えることにより線膨張係数が変わること(図2、点B参照)、組成により線膨張係数が変わること(図2、直線C参照)を利用する。このことから、例えば、金属基材12の厚さtと絶縁層14の厚さtとの比率を変えることにより、絶縁層14の表面14aの線膨張係数を6〜15ppm/Kとすることができる。
なお、金属基材の組成、絶縁層の組成によって、線膨張係数の膜厚依存性が異なるため、予め、金属基材の各組成、絶縁層の各組成による線膨張係数の膜厚依存性を調べておき、これに基づいて、図3(a)に示す基板10の場合、金属基材12の厚さtと絶縁層14の厚さtとの比率を決定して基板を構成することが好ましい。
【0031】
本実施形態の基板10においては、金属基材12の両面に絶縁層14を形成したが、これに限定されるものではなく、基板10においては、絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6〜15ppm/Kを満たせば、金属基材12の表面12aだけに絶縁層14を設ける構成でもよい。
また、本実施形態の基板10においては、金属基材12を1層の構成としたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、図3(b)に示す基板10aのように、第2の金属基材16を金属基材12の裏面12bに設け、この第2の金属基材16の裏面16bに金属基材12を設け、更にこの金属基材12の表面12aに絶縁層14を設ける構成としてもよい。この場合、第2の金属基材16は、金属基材12と同じく線膨張係数が17ppm/K以上である。しかも、5層構造の基板10aにおいては、絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6〜15ppm/Kを満たす必要がある。
【0032】
基板10aのように、金属基材を多層とする場合でも、例えば、予め、多層構造とした金属基材の線膨張係数の膜厚依存性、絶縁層の各組成による線膨張係数の膜厚依存性を調べておき、これに基づいて、金属基材12の厚さt、第2の金属基材16の厚さtと多層構造の金属基材の厚さと絶縁層14の厚さtとの比率を決定して基板10aを構成する。
なお、基板10aにおいても、基板10と同様に、絶縁層14の表面14aの線膨張係数が6〜15ppm/Kを満たせば、第2の金属基材16の裏面16b側に金属基材12および絶縁層14を設けない構成としてもよい。
【0033】
本実施形態においては、基板10について、構成する材料の線膨張係数が17ppm/K以上の金属基材12と、構成する材料の線膨張係数が8ppm/K以下である絶縁層14とが積層されており、この絶縁層14の表面14aにおける線膨張係数を6〜15ppm/Kとしている。これにより、薄膜太陽電池を構成するソーダライムガラス層、裏面電極、CIGS層(光電変換層)、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極等を形成する場合に、昇温および降温されても、形成される各層の線膨張係数の違いによる応力の発生を抑制することができ、薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる。
また、基板10aでも、基板10と同様の効果を得ることができる。更には、基板10において、金属基材12の表面12aだけに絶縁層14を設ける構成でも、基板10aにおいて、第2の金属基材16の裏面16b側に金属基材12および絶縁層14を設けない構成でも、基板10と同様の効果を得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態の基板10の製造方法について説明する。
基板10を製造する場合、予め、金属基材の各組成、絶縁層の各組成による線膨張係数の膜厚依存性を調べておき、これに基づいて、金属基材12の厚さと絶縁層14の厚さとの比率が決定される。
次に、決定された組成および厚さを有する金属基材12を用意する。
次に、絶縁層14を陽極酸化膜とする場合、形成する絶縁層14の厚さに応じた陽極酸化処理条件を設定し、その条件で、以下に詳細に説明する陽極酸化処理をする。これにより、基板10の両面に所定の膜厚の絶縁層14を得る。このようにして、基板10を製造することができる。
また、絶縁層14の形成方法は、陽極酸化処理に限定されるものではない。例えば、スパッタ法、CVD法により、絶縁層14を所定の組成および厚さで形成してもよい。
【0035】
以下、陽極酸化処理について詳細に説明する。
絶縁層14を陽極酸化処理により形成する場合、金属基材12を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することにより陽極酸化膜を形成することができる。このとき、金属基材12において、絶縁層14を形成したくない領域には電解液と接触しないように保護シート(図示せず)により、マスクして絶縁しておく必要がある。すなわち、金属基材12の端面、および裏面12bを保護シート(図示せず)を用いて絶縁しておく必要がある。
陽極酸化処理前には、必要に応じて金属基材12の表面に洗浄処理・研磨平滑化処理等を施す。
【0036】
陽極酸化時の陰極としてはカーボンまたはAl等が使用される。電解質としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸を、1種または2種以上含む酸性電解液を用いる。陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより特に限定されるものではない。陽極酸化条件としては、例えば、電解質濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.005〜0.60A/cm、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲にあれば適当である。電解質としては、硫酸、リン酸、シュウ酸またはこれらの混合液が好ましい。このような電解質を用いる場合、電解質濃度4〜30質量%、液温10〜30℃、電流密度0.002〜0.30A/cm、および電圧20〜100Vとすることが好ましい。
【0037】
陽極酸化処理時には、金属基材12の表面12aおよび裏面12bから略垂直方向に酸化反応が進行し、金属基材12の表面12aおよび裏面12bに陽極酸化膜が生成される。上述の酸性電解液を用いた場合、陽極酸化膜は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体が隙間なく配列し、各微細柱状体の中心部には丸みを帯びた底面を有する微細孔が形成され、微細柱状体の底部にはバリヤ層(通常、厚さ0.02〜0.1μm)が形成されたポーラス型となる。
このようなポーラス構造の陽極酸化膜は、非ポーラス構造の酸化アルミニウム単体膜と比較して膜のヤング率が低いものとなり、曲げ耐性および高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高いものとなる。
なお、酸性電解液を用いず、ホウ酸等の中性電解液で電解処理すると、ポーラスな微細柱状体が配列した陽極酸化膜でなく緻密な陽極酸化膜(非ポーラスな酸化アルミニウム単体膜)となる。酸性電解液でポーラスな陽極酸化膜を生成後に、中性電解液で再電解処理するポアフィリング法によりバリヤ層の層厚を大きくした陽極酸化膜を形成してもよい。バリヤ層を厚くすることにより、より絶縁性の高い被膜とすることができる。
【0038】
陽極酸化により形成された絶縁層14について、特に絶縁性を高めたい場合、ホウ酸液中で封孔処理する。
封孔処理は、電気化学的な方法、化学的な方法が知られているが、アルミニウム、アルミニウム合金を陽極にした電気化学的な方法(陽極処理)が特に好ましい。
電気化学的な方法は、アルミニウムまたはその合金を陽極にして直流電流を加え、封孔処理する方法が好ましい。電解液はホウ酸水溶液が好ましく、ホウ酸水溶液にナトリウムを含むホウ酸塩を添加した水溶液が好ましい。ホウ酸塩としては、八ほう酸二ナトリウム、テトラフェニルほう酸ナトリウム、テトラフルオロほう酸ナトリウム、ペルオキソほう酸ナトリウム、四ほう酸ナトリウム、メタほう酸ナトリウムなどがある。これらのホウ酸塩は、無水または水和物として入手することができる。
【0039】
封孔処理に用いる電解液として、0.1〜2mol/Lのホウ酸水溶液に、0.01〜0.5mol/Lの四ほう酸ナトリウムを添加した水溶液を用いることが特に好ましい。アルミニウムイオンは0〜0.1mol/L溶解していることが好ましい。アルミニウムイオンは、電解液中へ封孔処理により化学的または電気化学的に溶解するが、予めホウ酸アルミニウムを添加して電解する方法が特に好ましい。また、アルミニウム合金中に含まれる微量元素が溶解していても良い。
好ましい封孔処理条件は、液温10〜55℃(特に好ましくは10〜30℃)、電流密度0.01〜5A/dm(特に好ましくは0.1〜3A/dm)、電解処理時間0.1〜10分(特に好ましくは1〜5分)である。
【0040】
電流は、交流、直流、交直重畳電流を用いることが可能であり、電流の与え方は、電解初期から一定でも漸増法を用いてもよいが、直流を用いる方法が特に好ましい。電流の与え方は、定電圧法、定電流法どちらを用いても良い。
このときの基板と対極間の電圧は、100〜1000Vであることが好ましく、電圧は電解浴組成、液温、アルミニウム界面の流速、電源波形、基板と対極との間の距離、電解時間などによって変化する。
基板表面の電解液流速並びに流速の与え方、電解槽、電極、電解液の濃度制御方法は、前記陽極酸化処理に記載の公知の陽極酸化処理方法、並びに封孔処理の方法を用いることが可能である。ホウ酸ナトリウムを含むホウ酸水溶液中で陽極酸化処理する際の膜厚は100nm以上が好ましく、更に好ましくは300nm以上である。上限は多孔質陽極酸化皮膜の膜厚になる。これにより、特に高温強度が必要で、可撓性のメリットがある、薄膜太陽電池の基板に用いることができる。
【0041】
また、化学的な好ましい方法は、陽極酸化処理後にポアおよび・または空孔にSi酸化物を充填した構造にすることも可能である。Si酸化物による充填はSi−O結合を有する化合物を含む溶液を塗布、または、珪酸ソーダ水溶液(1号珪酸ソーダまたは3号珪酸ソーダ、1〜5質量%水溶液、20〜70℃)に、1〜30秒間浸漬後に水洗・乾燥し、更に200〜600℃で1〜60分間焼成する方法も可能である。
化学的な好ましい方法として、前記珪酸ソーダ水溶液のほかに、フッ化ジルコン酸ソーダおよび・またはリン酸2水素ナトリウムの単体または混合比率が重量比で5:1〜1:5の混合水溶液の、濃度1〜5質量%の液に、20〜70℃で1〜60秒浸漬することで封孔処理をおこなう方法を用いることもできる。
【0042】
なお、陽極酸化処理については、例えば、公知のいわゆるロール・ツー・ロール方式の陽極酸化処理装置により行うことができる。
このため、本実施形態の基板10は、金属基材12がロール・ツー・ロール方式で搬送することができるものであれば、ロール・ツー・ロール方式で製造することができる。これにより、低コストで製造することができる。
【0043】
また、図3(b)に示すような基板10aを製造する場合には、多層の金属基材について、予め、多層構造とした金属基材の線膨張係数の膜厚依存性、絶縁層の各組成による線膨張係数の膜厚依存性を調べておき、これに基づいて、金属基材12の厚さt、第2の金属基材16の厚さtと多層構造の金属基材の厚さと絶縁層14の厚さtとの比率が決定される。
【0044】
次に、それぞれ組成および厚さを有する各金属基材を用意する。
次に、各金属基材を、例えば、各金属基材の表面を清浄した後、ロール圧延等による加圧接合法により一体化する。これにより、多層の金属基材を得る。
なお、多層の金属基材の形成法としては、コストと量産性の観点からロール圧延等による加圧接合が好ましい。しかし、蒸着、スパッタ等の気相法、メッキなどにより、多層の金属基材を形成してもよい。
絶縁層14の形成方法については、1層の金属基材と同様であるため、その詳細な説明は省略する。このようにして、図3(b)に示す基板10aを得ることができる。
また、基板10aにおいても、金属基材12および第2の金属基材16を一体化させた状態で、基板10と同様に、金属基材12がロール・ツー・ロール方式で搬送することができるものであれば、ロール・ツー・ロール方式で製造することができる。これにより、低コストで製造することができる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールに設けられる太陽電池サブモジュールを示す模式的断面図である。
なお、本実施形態において、図1に示す第1の実施形態に係る基板10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施形態の薄膜太陽電池モジュールは、第1の実施形態の基板10を基板に用いたものであり、この基板10に太陽電池サブモジュール30が形成されている。
この太陽電池サブモジュール30は、複数の光電変換素子40と、第1の導電部材42と、第2の導電部材44とを有する。
光電変換素子40は、太陽電池セルとして機能するものであり、ソーダライムガラス層31、裏面電極32、光電変換層34、バッファ層36および透明電極38により構成されている。
絶縁層14の表面14aにソーダライムガラス層31が形成されており、このソーダライムガラス層31の表面31aに、裏面電極32と光電変換層34とバッファ層36と透明電極38とが順次積層されている。
【0047】
裏面電極32は、隣り合う裏面電極32と分離溝(P1)33を設けてソーダライムガラス層31の表面31aに形成されている。分離溝(P1)33を埋めつつ光電変換層34が裏面電極32の上に形成されている。この光電変換層34の表面にバッファ層36が形成されている。これらの光電変換層34とバッファ層36とは、裏面電極32にまで達する溝(P2)37により、他の光電変換層34とバッファ層36と離間されている。この溝(P2)37は、裏面電極32の分離溝(P1)33とは異なる位置に形成されている。
【0048】
また、この溝(P2)37を埋めつつバッファ層36の表面に透明電極38が形成されている。
透明電極38、バッファ層36および光電変換層34を貫き裏面電極32に達する開口溝(P3)39が形成されている。各光電変換素子40は、裏面電極32と透明電極38により、基板10の長手方向Lに直列に接続されている。
【0049】
本実施形態の光電変換素子40は、集積型の光電変換素子(太陽電池セル)と呼ばれるものであり、例えば、裏面電極32がモリブデン電極で構成され、光電変換層34が、光電変換機能を有する半導体化合物、例えば、CIGS層で構成され、バッファ層36がCdSで構成され、透明電極38がZnOで構成される。
なお、光電変換素子40は、基板10の長手方向Lと直交する幅方向に長く伸びて形成されている。このため、裏面電極32等も基板10の幅方向に長く伸びている。
【0050】
図4に示すように、右側の端の裏面電極32上に第1の導電部材42が接続されている。この第1の導電部材42は、後述する負極からの出力を外部に取り出すためのものである。本来、右側の端の裏面電極32上には光電変換素子40が形成されるが、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクラブにより、光電変換素子40を取り除いて、裏面電極32を表出させている。
【0051】
第1の導電部材42は、例えば、細長い帯状の部材であり、基板10の幅方向に略直線状に伸びて、右端の裏面電極32上に接続されている。また、図4に示すように、第1の導電部材42は、例えば、銅リボン42aがインジウム銅合金の被覆材42bで被覆されたものである。この第1の導電部材42は、例えば、超音波半田により裏面電極32に接続される。
【0052】
この第2の導電部材44は、後述する正極からの出力を外部に取り出すためのものである。第2の導電部材44も、第1の導電部材42と同様に細長い帯状の部材であり、基板10の幅方向に略直線状に伸びて、左端の裏面電極32に接続されている。本来、左端の裏面電極32上には光電変換素子40が形成されるが、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクラブにより、光電変換素子40を取り除いて、裏面電極32を表出させている。
【0053】
第2の導電部材44は、第1の導電部材42と同様の構成のものであり、例えば、銅リボン44aがインジウム銅合金の被覆材44bで被覆されたものである。
第1の導電部材42と第2の導電部材44とは、錫メッキ銅リボンでもよい。また、第1の導電部材42および第2の導電部材44、それぞれの接続も超音波半田に限定されるものではなく、例えば、導電性接着剤、導電性テープを用いて接続してもよい。
【0054】
なお、本実施形態の光電変換素子40は、例えば、公知のCIGS系の太陽電池の製造方法により製造することができる。
また、裏面電極32の分離溝(P1)33、裏面電極32にまで達する溝(P2)37、裏面電極32に達する開口溝(P3)39は、レーザースクライブまたはメカニカルスクライブにより形成することができる。
【0055】
太陽電池サブモジュール30では、光電変換素子40に、透明電極38側から光が入射されると、この光が透明電極38およびバッファ層36を通過し、光電変換層34で起電力が発生し、例えば、透明電極38から裏面電極32に向かう電流が発生する。なお、図4に示す矢印は、電流の向きを示すものであり、電子の移動方向は、電流の向きとは逆になる。このため、光電変換部48では、図4中、左端の裏面電極32が正極(プラス極)になり、右端の裏面電極32が負極(マイナス極)になる。
【0056】
本実施形態において、太陽電池サブモジュール30で発生した電力を、第1の導電部材42と第2の導電部材44から、太陽電池サブモジュール30の外部に取り出すことができる。
なお、本実施形態において、第1の導電部材42が負極であり、第2の導電部材44が正極である。また、第1の導電部材42と第2の導電部材44とは極性が逆であってもよく、光電変換素子40の構成、太陽電池サブモジュール30構成等に応じて、適宜変わるものである。
また、本実施形態においては、各光電変換素子40を、裏面電極32と透明電極38により基板10の長手方向Lに直列接続されるように形成したが、これに限定されるものではない。例えば、各光電変換素子40が、裏面電極32と透明電極38により幅方向に直列接続されるように、各光電変換素子40を形成してもよい。
【0057】
光電変換素子40において、裏面電極32および透明電極38は、いずれも光電変換層34で発生した電流を取り出すためのものである。裏面電極32および透明電極38は、いずれも導電性材料からなる。光入射側の透明電極38は透光性を有する必要がある。
【0058】
ソーダライムガラス層31は、光電変換層34(CIGS層)にアルカリ金属元素(Na元素)を拡散させるためものである。これは、アルカリ金属元素(Na元素)が光電変換層34に拡散されると光電変換効率が高くなることが報告されていることによるものである。光電変換素子40では、ソーダライムガラス層31を設けることにより、アルカリ金属が光電変換層34に拡散し、光電変換効率を高くすることができる。
【0059】
本実施形態においては、このアルカリ金属元素を光電変換層34に拡散することができれば、ソーダライムガラス層31を設けることに限定されるものではない。
例えば、アルカリ金属元素を含有する層を、裏面電極32上に蒸着法またはスパッタ法によって形成してもよい。また、裏面電極上に、例えば、浸漬法によりNaS等からなるアルカリ層を形成してもよい。また、裏面電極32上に、In、CuおよびGa金属元素を含有成分としたプリカーサを形成した後、このプリカーサに対して、例えば、モリブデン酸ナトリウムを含有した水溶液を付着させて層を形成してもよい。
さらには、ソーダライムガラス層31に代えて、裏面電極32の内部に、NaS、NaSe、NaCl、NaF、およびモリブデン酸ナトリウム塩等の1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含む層を設ける構成としてもよい。
なお、本実施形態の太陽電池サブモジュール30においては、ソーダライムガラス層31を設けることなく、裏面電極32を絶縁層14の表面14aに形成する構成でもよい。
【0060】
裏面電極32は、例えば、Mo、Cr、またはW、およびこれらを組合わせたものにより構成される。この裏面電極32は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。裏面電極32はMoで構成することが好ましい。
裏面電極32は、厚さが100nm以上であることが好ましく、0.45〜1.0μmであることがより好ましい。
また、裏面電極32の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法により形成することができる。
【0061】
透明電極38は、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO、ITO(インジウム錫酸化物)、またはSnOおよびこれらを組合わせたものにより構成される。この透明電極38は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、透明電極38の厚さは、特に制限されるものではなく、0.3〜1μmが好ましい。
また、透明電極38の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。
【0062】
バッファ層36は、透明電極38の形成時の光電変換層34を保護すること、透明電極38に入射した光を光電変換層34まで透過させるために形成されている。
このバッファ層36は、例えば、CdS、ZnS、ZnO、ZnMgO、またはZnS(O、OH)およびこれらの組合わせたものにより構成される。
バッファ層36は、厚さが、0.03〜0.1μmが好ましい。また、このバッファ層36は、例えば、CBD(ケミカルバス)法により形成される。
【0063】
光電変換層34は、透明電極38およびバッファ層36を通過して到達した光を吸収して電流が発生する層であり、光電変換機能を有する。本実施形態において、光電変換層34の構成は、特に制限されるものではなく、例えば、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体である。また、光電変換層34は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であってもよい。
【0064】
さらに光吸収率が高く、高い光電変換効率が得られることから、光電変換層34は、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、S、Se、およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。この化合物半導体としては、CuAlS、CuGaS、CuInS、CuAlSe、CuGaSe、CuInSe(CIS)、AgAlS、AgGaS、AgInS、AgAlSe、AgGaSe、AgInSe、AgAlTe、AgGaTe、AgInTe、Cu(In1−xGa)Se(CIGS)、Cu(In1−xAl)Se、Cu(In1−xGa)(S、Se)、Ag(In1−xGa)Se、およびAg(In1−xGa)(S、Se)等が挙げられる。
【0065】
光電変換層34は、CuInSe(CIS)、および/又はこれにGaを固溶したCu(In、Ga)Se(CIGS)を含むことが特に好ましい。CISおよびCIGSはカルコパイライト結晶構造を有する半導体であり、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。また、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
【0066】
光電変換層34には、所望の半導体導電型を得るための不純物が含まれる。不純物は隣接する層からの拡散、および/又は積極的なドープによって、光電変換層34中に含有させることができる。光電変換層34中において、I−III−VI族半導体の構成元素および/又は不純物には濃度分布があってもよく、n型、p型、およびi型等の半導体性の異なる複数の層領域が含まれていても構わない。
例えば、CIGS系においては、光電変換層34中のGa量に厚み方向の分布を持たせると、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御でき、光電変換効率を高く設計することができる。
【0067】
光電変換層34は、I−III−VI族半導体以外の1種又は2種以上の半導体を含んでいてもよい。I−III−VI族半導体以外の半導体としては、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素およびVb族元素からなる半導体(III−V族半導体)、およびCdTe等のIIb族元素およびVIb族元素からなる半導体(II−VI族半導体)等が挙げられる。光電変換層34には、特性に支障のない限りにおいて、半導体、所望の導電型とするための不純物以外の任意成分が含まれていても構わない。
また、光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、特に制限されるものではない。光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、75質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0068】
本実施形態の光電変換層34をCIGS層とした場合、CIGS層の成膜方法としては、1)多源同時蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、及び5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
【0069】
1)多源同時蒸着法としては、
3段階法(J.R.Tuttle et.al,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.等)と、ECグループの同時蒸着法(L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.等)とが知られている。
前者の3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、及びSeを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着する方法である。後者のECグループの同時蒸着法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着する方法である。
【0070】
CIGS膜の結晶性を向上させるため、上記方法に改良を加えた方法として、
a)イオン化したGaを使用する方法(H.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、
b)クラッキングしたSeを使用する方法(第68回応用物理学会学術講演会 講演予稿
集(2007秋 北海道工業大学)7P−L−6等)、
c)ラジカル化したSeを用いる方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集
(2007春 青山学院大学)29P−ZW−10等)、
d)光励起プロセスを利用した方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−14等)等が知られている。
【0071】
2)セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層または(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プリカーサをスパッタ法、蒸着法、または電着法などで成膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1−xGax)Se等のセレン化合物を生成する方法である。この方法を気相セレン化法と呼ぶ。このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法がある。
【0072】
セレン化法においては、セレン化の際に生ずる急激な体積膨張を回避するために、金属プリカーサ膜に予めセレンをある割合で混合しておく方法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.等)、及び金属薄層間にセレンを挟み(例えばCu層/In層/Se層…Cu層/In層/Se層と積層する)多層化プリカーサ膜を形成する方法(T.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890. 等)が知られている。
【0073】
また、グレーデッドバンドギャップCIGS膜の成膜方法として、最初にCu−Ga合金膜を堆積し、その上にIn膜を堆積し、これをセレン化する際に、自然熱拡散を利用してGa濃度を膜厚方向で傾斜させる方法がある(K.Kushiya et.al, Tech.Digest 9th Photovoltaic Science and Engineering Conf. Miyazaki, 1996(Intn.PVSEC-9,Tokyo,1996)p.149.等)。
【0074】
3)スパッタ法としては、
CuInSe多結晶をターゲットとした方法、CuSeとInSeをターゲットとし、スパッタガスにHSe/Ar混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic SpecialistsConf.(1985)1655-1658.等)、および
Cuターゲットと、Inターゲットと、SeまたはCuSeターゲットとをArガス中でスパッタする3源スパッタ法(T.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)が知られている。
【0075】
4)ハイブリッドスパッタ法としては、前述のスパッタ法において、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)が知られている。
【0076】
5)メカノケミカルプロセス法は、CIGSの組成に応じた原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得、その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施して、CIGSの膜を得る方法である(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)。
【0077】
その他のCIGS成膜法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、及びスプレー法(ウェット成膜法)などが挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)またはスプレー法(ウェット成膜法)等で、Ib族元素、IIIb族元素、及びVIb族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、VIb族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施するなどにより、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0078】
次に、本実施形態の太陽電池サブモジュール30の製造方法について説明する。
まず、基板となる基板10を用意する。この基板10の製造方法は、第1の実施形態と同様にロール・ツー・ロール方式で製造されたものであるため、その詳細な説明は省略する。
次に、基板10の絶縁層14の表面14aに、ソーダライムガラス層31を、例えば、成膜装置を用いて、RFスパッタ法により形成する。
次に、ソーダライムガラス層31の表面31aに裏面電極32となるモリブデン膜を、例えば、成膜装置を用いて、DCスパッタ法により形成する。
次に、モリブデン膜を、例えば、レーザースクライブ法を用いて第1の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた分離溝(P1)33を形成する。これにより、分離溝(P1)33により互いに分離された裏面電極32が形成される。
【0079】
次に、裏面電極32を覆い、かつ分離溝(P1)33を埋めるように、光電変換層34(p型半導体層)となる、例えば、CIGS層を上述のいずれかの成膜方法により、成膜装置を用いて形成する。
次に、CIGS層上にバッファ層36となるCdS層(n型半導体層)を、例えば、CBD(ケミカルバス)法により形成する。これにより、pn接合半導体層が構成される。
次に、レーザースクライブ法を用いて分離溝(P1)33の第1の位置とは異なる第2の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた、裏面電極32にまで達する溝(P2)37を形成する。
【0080】
次に、バッファ層36上に、溝(P2)37を埋めるように、透明電極38となる、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO層を、成膜装置を用いて、スパッタ法または塗布法により形成する。
次に、レーザースクライブ法を用いて分離溝(P1)33の第1の位置および溝(P2)37の第2の位置とは異なる第3の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた、裏面電極32にまで達する開口溝(P3)39を形成する。
【0081】
次に、基板10の長手方向Lにおける左右側の端の裏面電極32上に形成された各光電変換素子40を、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクラブにより取り除いて、裏面電極32を表出させる。次に、右側の端の裏面電極32上に第1の導電部材42を、左側の端の裏面電極32上に第2の導電部材44を、例えば、超音波半田を用いて接続する。
これにより、図4に示すように、複数の光電変換素子40が直列に接続された太陽電池サブモジュール30を製造することができる。
【0082】
次いで、得られた太陽電池サブモジュール30の表面側に封止接着層(図示せず)、水蒸気バリア層(図示せず)および表面保護層(図示せず)を配置し、太陽電池サブモジュール30の裏面側、すなわち、基板10の裏面側に封止接着層(図示せず)およびバックシート(図示せず)を配置して、例えば、真空ラミネート法によりラミネート加工してこれらを一体化する。これにより、薄膜太陽電池モジュールを得ることができる。
【0083】
本実施形態においては、上述の構成の基板10を用いており、この基板10により、薄膜太陽電池を構成するソーダライムガラス層、裏面電極、CIGS層(光電変換層)、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極等を形成する場合に、昇温および降温されても、形成される各層の線膨張係数の違いによる応力の発生を抑制することができ、薄膜太陽電池を構成する各層の剥離を抑制することができる。
【0084】
さらに、本実施形態においては、基板10を用いており、絶縁層14が形成されているため、絶縁性が優れるとともに、金属基材12の腐食が防止される。しかも、基板10は耐熱性に優れる。これにより、耐久性、および保存寿命に優れた太陽電池サブモジュール30を得ることができる。このため、薄膜太陽電池モジュールについても耐久性、および保存寿命が優れる。
また、本実施形態においては、基板10は、ロール・ツー・ロール方式で製造されるものであり、可撓性を有する。このため、太陽電池サブモジュール30も、例えば、基板10を長手方向Lに搬送しつつ、ロール・ツー・ロール方式で製造することができる。このように、太陽電池サブモジュール30を安価なロール・ツー・ロール方式で製造することができるため、太陽電池サブモジュール30の製造コスト低くすることができる。これにより、薄膜太陽電池モジュールのコストを低くすることができる。
【0085】
本発明は、基本的に以上のようなものである。以上、本発明の絶縁層付基板および薄膜太陽電池について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例1】
【0086】
以下、本発明の絶縁層付基板の実施例について具体的に説明する。
本実施例においては、純度99.5%、板厚が0.3mmの鏡面仕上げのAl板を用いた。Al板をアセトン、エタノールにて洗浄した後、0.5Mシュウ酸水溶液を16℃に温調し、印加電圧40Vにて、Al板の両面に陽極酸化を実施した。陽極酸化する場合、対極には、同じAl板を用いた。陽極酸化の時間を変えて、形成する陽極酸化アルミナ膜の膜厚が5、7、9、14、21、33、40、70μmになるように陽極酸化を行った。このようにして、各膜厚で陽極酸化アルミナ膜が形成されたAl板を得た。これを基板として用いた。
【0087】
次に、陽極酸化アルミナ膜が形成された各基板を、純水で洗浄した後、保護シートを除去し、更にアセトン洗浄、エタノール洗浄を行い、保護シートの粘着剤の成分を除去した。
次に、薄膜太陽電池を構成する各層として、以下のものを順次、陽極酸化アルミナ膜が形成された各基板に形成した。
まず、絶縁層の表面に、裏面電極として、厚さ800nmのモリブデン膜を、スパッタ法により形成した。
次に、モリブデン膜の表面に、光電変換層として、CIGS層を、1.5〜2.0μmの厚さに、多元蒸着機により、温度520℃で、Cu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着して形成した。
次に、CIGS層の表面にCdSバッファ層を、20〜100nmの厚さに、CBD法により成膜した。
次に、CdSバッファ層の表面にZnO層を、0.5〜1.5μmの厚さに、スパッタ法により形成した。
次に、ZnO層の表面に、取出し電極として、Al層を、200nmの厚さに、蒸着法により形成した。
【0088】
本実施例においては、各基板に形成された薄膜太陽電池を構成する各層を、光学顕微鏡を用いて観察した。各層のいずれかに剥離があったものを「剥離がある」とした。また、全ての層が剥離していないものを「剥離がない」とした。
この結果、絶縁層の表面の線膨張係数が6ppm/K〜15ppm/K(陽極酸化アルミナ膜の膜厚が9μm〜40μm)では、薄膜太陽電池を構成する各層に剥離がなかった。しかしながら、それ以外の膜厚では剥離が生じた。
なお、本実施例において、Al板の線膨張係数は25ppm/Kであり、陽極酸化アルミナ膜の線膨張係数は4ppm/Kである。
【0089】
【表1】

【実施例2】
【0090】
本実施例においては、上記実施例1と同じ条件で、Al板に、それぞれ、陽極酸化アルミナ膜の膜厚が5、9、12、14、21、40、70μmになるように陽極酸化を行った。各膜厚で陽極酸化アルミナ膜が両面に形成されたAl板を得た。これを基板として用いた。
各基板に、薄膜太陽電池を構成する各層として、絶縁層の表面に、厚さが200nmのソーダライムガラス層を形成した。そして、このソーダライムガラス層の上に、実施例1と同様に、順次、裏面電極としてモリブデン膜、光電変換層としてCIGS層、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極としてAl層を形成した。なお、CIGS層の成膜温度は、450℃とした。
【0091】
本実施例においては、各基板に形成された薄膜太陽電池を構成する各層を、光学顕微鏡を用いて観察した。各層のいずれかに剥離があったものを「剥離がある」とした。また、全ての層が剥離していないものを「剥離がない」とした。
この結果、陽極酸化アルミナ膜の膜厚が10μm以下と33μm以上では、薄膜太陽電池を構成する層に剥離があった。膜厚が12μm以上と27μm以下では剥離しなかった。このように、基板の絶縁層の表面の線膨張係数が7ppm/K〜12ppm/Kでは薄膜太陽電池を構成する各層に剥離がなかった。
薄膜太陽電池を構成する層に剥離がなかったものについて、CIGS層のNa濃度を調べた。この結果の一例を図5に、銅、ガリウム、セレンおよびインジウムの2次イオン強度とともに示す。図5に示すようにCIGS層のNa濃度は1018(atms/cm)以上であった。なお、図5の符号Nで示される折線がNa濃度の濃度プロファイルである。
【0092】
【表2】

【実施例3】
【0093】
次に、上記実施例1と同じ条件で、Al板に、それぞれ、陽極酸化アルミナ膜の膜厚が5、9、12、14、21、27、70μmになるように陽極酸化を行った。各膜厚で陽極酸化アルミナ膜が両面に形成されたAl板を得た。これを、基板として用いた。
各基板に、太陽電池を構成する各層として、絶縁層の表面に、厚さが200nmのソーダライムガラス層を形成した。そして、このソーダライムガラス層の上に、実施例1と同様に、順次、裏面電極としてモリブデン膜、光電変換層としてCIGS層、CdSバッファ層、ZnO層、取出し電極としてAl層を形成した。なお、CIGS層の成膜温度を、530℃とした。
【0094】
本実施例においては、各基板に形成された薄膜太陽電池を構成する各層を、光学顕微鏡を用いて観察した。各層のいずれかに剥離があったものを「剥離がある」とした。また、全ての層が剥離していないものを「剥離がない」とした。
本実施例においては、基板の絶縁層の表面の線膨張係数が12ppm/K〜27ppm/Kでは太陽電池を構成する各層は剥離せず、良好な結果が得られた。
なお、実施例3においても、薄膜太陽電池を構成する層に剥離がなかったものについて、CIGS層のNa濃度を調べた。この結果の一例を図6に、銅、ガリウム、セレンおよびインジウムの2次イオン強度とともに示す。図6に示すようにCIGS層のNa濃度は約1019(atms/cm)であった。なお、図6の符号Nで示される折線がNa濃度の濃度プロファイルである。
【0095】
【表3】

【符号の説明】
【0096】
10 絶縁層付基板(基板)
12 金属基材
14 絶縁層
16 第2の金属基材
30 太陽電池サブモジュール
31 ソーダライムガラス層
32 裏面電極
34 光電変換層
36 バッファ層
38 透明電極
40 光電変換素子
42 第1の導電部材
44 第2の導電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と少なくとも1つの金属基材とが積層された基板であって、
前記絶縁層を構成する材料の線膨張係数が8ppm/K以下であり、
前記金属基材を構成する材料の線膨張係数が17ppm/K以上であり、
前記絶縁層において、前記金属基材と反対側の前記絶縁層の表面における線膨張係数が6〜15ppm/Kであることを特徴とする絶縁層付基板。
【請求項2】
前記絶縁層は、アルミナにより構成されている請求項1に記載の絶縁層付基板。
【請求項3】
前記絶縁層と接する前記金属基材は、アルミニウムにより構成されている請求項1または2に記載の絶縁層付基板。
【請求項4】
前記絶縁層は、アルミニウムからなる金属基材を陽極酸化して形成されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層付基板。
【請求項5】
前記金属基材は、可撓性を有するものにより構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁層付基板。
【請求項6】
前記アルミニウムからなる金属基材を陽極酸化して形成された陽極酸化膜は、厚さが5〜18μmである請求項4または5に記載の絶縁層付基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁層付基板を基板に用いた薄膜太陽電池であって、
前記絶縁層付基板上に、裏面電極および光電変換層が少なくとも形成されていることを特徴とする薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記絶縁層付基板と前記裏面電極との間にソーダライムガラス層が形成されている請求項7に記載の薄膜太陽電池。
【請求項9】
前記絶縁層付基板の絶縁層において、金属基材と反対側の前記絶縁層の表面における線膨張係数が7〜12ppm/Kである請求項8に記載の薄膜太陽電池。
【請求項10】
前記裏面電極は、モリブデンにより構成されている請求項7〜9のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項11】
前記光電変換層は、CIGS系の半導体化合物からなり、前記光電変換層は、Na濃度が1018(atms/cm)以上である請求項7〜10のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−159796(P2011−159796A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20158(P2010−20158)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】