説明

絶縁形直接電力変換器の制御装置

【課題】入出力波形の制御を容易化し、高周波トランスの漏れインダクタンスのエネルギーを簡単に処理可能とした制御装置を提供する。
【解決手段】コンバータ2A,4及び高周波トランス3を備え、コンバータ2A,4により交流電圧を任意の大きさ、周波数を有する交流電圧に直接変換して負荷5に供給する高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器10を、整流器7、高周波リンク部8、インバータ部9の組合せとして仮想する。その制御装置は、仮想整流器制御手段20、仮想高周波リンク部制御手段30、仮想インバータ部制御手段40と、各制御手段から出力されるパルスを合成してコンバータ2A,4のパルスに変換するパルス合成手段50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大形のエネルギーバッファを用いずに交流を交流に直接変換する直接電力変換器の制御装置に関し、特に、入力側と出力側とを高周波トランスにより絶縁した高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、この種の電力変換器及びその制御装置の構成図であり、後述する非特許文献1に記載されているものと実質的に同一の従来技術である。
図4において、1は太陽電池及び昇圧チョッパ等により一定の直流電圧に維持された直流電源、2は半導体スイッチSap,San,Sbp,Sbnからなる高周波コンバータ(高周波インバータ)、3はコンバータ2の交流側に一次巻線が接続された高周波トランス、4は高周波トランス3の二次巻線に接続された双方向性の半導体スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnからなる高周波コンバータであり、その三相の出力端子には発電機(電力系統)等の負荷5が接続されている。
この絶縁形直接電力変換器は、例えば、電力系統に連系した太陽光発電システム、燃料電池発電システム等に適用可能である。
【0003】
以下、上記電力変換器の動作を、その制御装置の構成と共に以下に説明する。
まず、トランスを用いて電源側と系統側とを絶縁する場合、商用周波数ではトランスの重量や体積が大きくなるのに対し、周波数が高くなるほど鉄心の磁束が小さくなって鉄心を小形化でき、トランスの重量、体積を大幅に軽減できることから、交流電圧を高い周波数に変換した後にトランスにより絶縁する方法が採られている。これは高周波リンク方式と呼ばれており、トランスを小形軽量化するための有力な手段である。
【0004】
図4の従来技術では、上記の点に鑑み、高周波コンバータ2を用いて商用周波数より高い周波数の交流電圧を生成し、これを高周波トランス3により絶縁して高周波コンバータ4に伝達している。高周波コンバータ4では、高周波トランス3の二次側電圧を半導体スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnにより直接チョッピングし、高周波の交流電圧から所望の大きさ及び周波数を有する三相交流電圧を生成する。
【0005】
高周波コンバータ2は、方形波パルス発生器101により、高周波トランス3に印加する高周波電圧の周波数を決定し、半導体スイッチSap,San,Sbp,Sbnをスイッチングして高周波トランス3に電圧を印加する。
一方、出力電圧指令発生手段105から出力された出力電圧指令に基づき、出力電圧の角度及び大きさをベクトルアナライザ102により演算し、前記角度に基づきベクトル選択手段103により使用する電圧ベクトル(空間ベクトル)を決定すると共に、所望の電圧ベクトルが出力されるように各ベクトルの出力時間をパルス出力時間演算手段104により演算する。その後、タイマを用いて、ベクトル選択手段103にて決定された順番でパルスを発生することにより、高周波コンバータ4の半導体スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnをスイッチングしている。
【0006】
【非特許文献1】大葉 育,北野 達也,松井 幹彦,「高周波リンクソフトスイッチングコンバータの空間ベクトルに基づくスイッチングパターン発生法」,平成11年電気学会産業応用部門全国大会,論文NO.182,p.25−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示した高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器では、高周波トランス3の二次側の電圧を半導体スイッチにより直接チョッッピングするため、トランス3の漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーにより、スイッチングの際に半導体スイッチの両端にサージ電圧が発生する。このサージ電圧はスナバ回路等を用いて抑制することが可能であるが、損失が増加するという不都合がある。
そこで、上述した非特許文献1では、トランス3の二次側の高周波コンバータ4により自然転流が行えるように制約を設けながら出力電圧ベクトルを選択し、電圧を出力させている。このため、高周波コンバータ4に対するパルスパターンや運転動作領域に制約が生じる。
【0008】
また、図4の回路構成では、太陽電池や燃料電池等の直流電源から系統側の三相交流電源へ電力を供給する場合には適用可能であるが、風力発電機やエンジン発電機等の三相発電機から三相交流電源へ電力を供給することができない。これらの三相発電機を用いる場合には、高周波トランス3の一次側の高周波コンバータを二次側の高周波コンバータ4と同様に三相化することも考えられるが、前述したように、高周波コンバータ4を制御するに当たっては、場合により自然転流が可能なパルスパターンのみを選択しなくてはならず、制御が複雑化し、運転動作領域にも制約がある。
加えて、電源が交流の場合には、この電源を構成する交流発電機の効率や騒音の観点から、系統に連系する高周波コンバータ4だけでなく、電源側の交流発電機に接続される高周波コンバータについても電流を正弦波状に制御する必要がある。上述した高周波コンバータ4のスイッチングの制約と併せて、直接電力変換器の入出力波形の制御を両立させることは非常に困難であるため、制御装置の回路構成や制御動作が一層複雑化するおそれがある。
【0009】
更に、高周波トランス3の漏れインダクタンスのエネルギー処理を無視して高周波コンバータ4を制御する場合、制御装置は入出力波形の制御だけに注力できるので、ある程度回路構成や動作を簡略化できるが、その場合には、漏れインダクタンスのエネルギーを処理するためのスナバ回路が大形化し、電力変換効率も低下するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の解決課題は、三相入出力が可能な高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器において、入出力波形の制御を容易に行うことができ、しかも、高周波トランスの漏れインダクタンスのエネルギーを処理するに当たってスイッチングパターン等の制約を受けないようにした、小形化及び低価格化が可能な制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、交流電源に接続された第1のコンバータと、このコンバータに一次側が接続された高周波トランスと、この高周波トランスの二次側に接続され、かつ、出力側が負荷に接続された第2のコンバータとを備え、第1,第2のコンバータを構成する半導体スイッチの動作により、交流電圧を任意の大きさ及び周波数を有する交流電圧に直接変換して負荷に供給する高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器を、
交流電源に接続された整流器と、この整流器に直流リンク部を介して接続され、かつ高周波トランスを備えた高周波リンク部と、この高周波リンク部に直流リンク部を介して接続され、かつ交流側に負荷が接続されるインバータ部と、の組合せとして仮想し、
前記絶縁形直接電力変換器を制御する制御装置が、
前記整流器の半導体スイッチを制御する仮想整流器制御手段と、
前記高周波リンク部の半導体スイッチを制御する仮想高周波リンク部制御手段と、
前記インバータ部の半導体スイッチを制御する仮想インバータ部制御手段と、
前記各制御手段からそれぞれ出力されるパルスを合成して第1,第2のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換するパルス合成手段と、を備えたものである。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1において、
前記パルス合成手段は、
前記仮想整流器制御手段の出力パルスと前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスとを合成し、これを第1のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換する手段と、
前記仮想インバータ部制御手段の出力パルスと前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスとを合成し、これを第2のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換する手段と、を備えたものである。
【0013】
請求項3に記載した発明は、請求項2において、
前記パルス合成手段は、
前記仮想整流器制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数と前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数とに基づいて第1のコンバータの半導体スイッチに対するスイッチング関数を生成する手段と、
前記仮想インバータ部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数と前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数とに基づいて第2のコンバータの半導体スイッチに対するスイッチング関数を生成する手段と、を備えたものである。
【0014】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3の何れか1項において、
仮想した前記インバータ部の出力のゼロ電圧を検出する検出手段と、
この手段により検出したゼロ電圧の出力時に、仮想した前記高周波リンク部の前記高周波トランスの一次側を短絡する短絡手段と、を備えたものである。
【0015】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4の何れか1項において、
前記絶縁形直接電力変換器が、三相入力−三相出力形の電力変換器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜3の発明によれば、第1,第2のコンバータ(高周波コンバータ)及び高周波トランスからなる高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器を、整流器と高周波リンク部とインバータ部の組み合わせからなる電力変換器として仮想し、これらの各部をそれぞれ個別に制御するのと等価な制御パルス(PWMパルス)を生成して第1,第2のコンバータを制御することにより、制御回路の構成や制御動作を簡略化することができる。
これにより、高周波トランスの漏れインダクタンスのエネルギーを処理するためにコンバータのスイッチングパターンや運転動作領域が制約されることもなく、入出力波形を正弦波状に保つ波形制御動作も支障なく行うことができる。また、上記漏れインダクタンスのエネルギーの処理はコンバータのスイッチングパターンの自由度により解決可能であるため大型のスナバ回路も不要になる。
【0017】
請求項4に記載した発明において、仮想したインバータ部がゼロ電圧ベクトルを出力するときには、大きなサージ電圧が発生するが、その際に高周波トランスの一次側を短絡するようなパルスパターンを生成して第1のコンバータの半導体スイッチをスイッチングすることにより、高周波トランスの漏れインダクタンスに蓄積されるエネルギーを低減してスナバ回路を小形化することができる。
また、請求項5の発明によれば、風力発電機やエンジン発電機等の三相発電機と三相交流電源との連系も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の第1実施形態を示す構成図であり、請求項1〜3及び5の発明に相当する。ここで、図4と同一の構成要素には同一の参照符号を付してある。
図1に示す絶縁形直接電力変換器10において、6は系統側の三相交流電源であり、その各相出力端子は第1のコンバータとしての三相高周波コンバータ2Aの入力側に接続され、その出力側には高周波トランス3の一次巻線が接続されている。なお、この高周波トランス3の二次巻線には図4と同様に第2のコンバータとしての三相高周波コンバータ4が接続され、その各相出力端子には発電機等の負荷5が接続されている。
ここで、高周波コンバータ2A,4はそれぞれ高速スイッチングが可能なIGBT等の半導体スイッチSrp,Srn,Ssp,Ssn,Stp,Stn及びSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnにより構成されている。
【0019】
系統側の高周波コンバータ2Aは、そのスイッチング動作により入力電流波形を正弦波状に制御すると共に、高周波トランス3に印加する高周波の単相電圧を生成する。同時に、負荷5側の高周波コンバータ4は、高周波トランス3から出力された単相電圧を任意の大きさ及び周波数を有する三相電圧に変換して負荷5に供給する。
以下に、本実施形態における制御装置の構成と併せて、その制御動作を詳細に説明する。なお、ここでは、理解を容易にするため、負荷5が発電機であると仮定してその駆動動作(電動機動作、すなわち高周波コンバータ4から負荷5に電力を供給する動作)について説明する。発電動作については、エネルギーフローが逆になるだけで実質的に同一である。
【0020】
まず、一般に電力変換器の入力電圧と出力電圧との関係はスイッチング関数により表すことができ、図1に示す高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器10では、入力側の高周波コンバータ2Aの入出力電圧(高周波トランス3の一次側の入出力電圧)の関係は数式1により、出力側の高周波コンバータ4の入出力電圧(高周波トランス3の二次側の入出力電圧)の関係は数式2により、それぞれ表される。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
数式1において、epi,eniは高周波トランス3の一次側電圧、v,v,vは三相交流電源6の各相電圧、数式2において、v,v,vは高周波コンバータ4の各相出力電圧、epo,enoは高周波トランス3の二次側電圧である。
また、数式1,2では各コンバータ2A,4の半導体スイッチSmn(m,nは各半導体スイッチの記号に付した添字を示す)のスイッチング関数をsmnとして表してあり、半導体スイッチSmnがオンの状態をsmn=1、オフの状態をsmn=0とする。
【0024】
ここで、図1の絶縁形直接電力変換器10を制御するに当たり、図2に示すような直流リンク部を有する高周波リンク方式の三相−三相電力変換器を考える。この電力変換器は、三相交流電源6の交流電圧を直流電圧に変換する整流器7(図1の高周波コンバータ2Aと回路構成は同一)と、直流電圧から高周波の方形波電圧を生成してトランスにより絶縁する高周波リンク部8と、その出力である直流電圧を所望の大きさ及び周波数の交流電圧に変換するインバータ部9(図1の高周波コンバータ4と回路構成は同一)とから構成されている。なお、高周波リンク部8内のSap,San,Sbp,Sbn,Scp,Scn,Sdp,Sdnは半導体スイッチ、8aは高周波トランスである。
【0025】
図1の場合に準じて、高周波トランス8aの一次側及び二次側について、入出力電圧の関係をそれぞれ求めると、数式3,4となる。
【0026】
【数3】

【0027】
【数4】

【0028】
ここで、前述した数式1における右辺のスイッチング関数の行列と数式3における右辺のスイッチング関数の行列積とが等しくなれば、図1,図2で電力変換器の形は異なっていても、三相交流電源6からの各相入力電圧と高周波トランス3または8aの一次側電圧との関係は等しくなる。
従って、図1における高周波トランス3の一次側のスイッチングパターン(高周波コンバータ2Aのスイッチングパターン)を数式5に従って変換し、そのスイッチングパターンに従って高周波コンバータ2Aをスイッチングすれば、図1の絶縁形直接電力変換器10についても図2の電力変換器と同様に制御することができる。
【0029】
【数5】

【0030】
同様に、数式2における右辺のスイッチング関数の行列と数式4における右辺のスイッチング関数の行列積とが等しくなれば、図1,図2で電力変換器の形は異なっていても、高周波トランス3または8aの二次側電圧と各相出力電圧との関係は等しくなる。
よって、図1における高周波トランス3の二次側のスイッチングパターン(高周波コンバータ4のスイッチングパターン)を、数式4の右辺のスイッチング関数の行列積に従って数式5と同様に変換し、そのスイッチングパターンに従って高周波コンバータ4をスイッチングすれば、図1の絶縁形直接電力変換器10を図2の電力変換器と同様に制御することが可能になる。
【0031】
図2に示した回路は、整流器7、高周波リンク部8、及びインバータ部9によって区分されていてこれら各回路の境界部に直流リンク部を有するため、各回路をそれぞれ個別に制御することが可能であり、図1の電力変換器10のように入出力側を同時に制御する必要がない。
上記の点に着目し、本実施形態の制御装置は、図1に示した絶縁形直接電力変換器10に対して図2のような構成の電力変換器を仮想し、高周波トランス8aの一次側、二次側に対するパルスパターンを図1の電力変換器10用に変換することで電力変換器10を簡単に制御可能としたものである。
【0032】
すなわち、図1の制御装置は、三相交流電源6側の電流を制御するための仮想整流器制御手段20と、図2の高周波リンク部8を制御するための仮想高周波リンク部制御手段30と、負荷側の出力電圧を制御するための仮想インバータ部制御手段40と、これらの制御手段20,30,40から出力されたPWMパルスを合成し、かつ変換して出力するパルス合成手段50と、から構成されている。
パルス合成手段50は、仮想整流器制御手段20の出力と仮想高周波リンク部制御手段30の出力とを合成するPWMパルス合成手段51と、仮想インバータ部制御手段40の出力と仮想高周波リンク部制御手段30の出力とを合成するPWMパルス合成手段52とからなっている。
【0033】
仮想整流器制御手段20は、実質的に図2の整流器7の半導体スイッチを制御するものであり、電源短絡を防止するために電流形整流器の制御を行う。電流形整流器の制御方法は周知であり、一例を挙げると、図1の電源電圧検出手段21により電源電圧を検出し、電流指令生成手段22により、電源電圧に対して力率1で正弦波の電流を流すような電流指令を生成する。
また、キャリア発生手段23により三角波キャリアを発生し、このキャリアと前記電流指令とを比較手段24により比較して電圧形PWM整流器のPWMパルスを生成する。そして、このPWMパルスをパルスパターン変換手段25に入力し、電圧形整流器用のPWMパルスから電流形整流器用のPWMパルスにパターン変換する。
【0034】
仮想インバータ部制御手段40は、実質的に図2のインバータ部9の半導体スイッチを制御するものであり、キャリアと三相の出力電圧指令とを比較してPWMパルスを生成する制御方法が周知である。
図1では、出力電力指令生成手段41により生成した所望の大きさ及び周波数の出力電圧指令と、キャリア発生手段42により生成したキャリアとを比較手段43により比較してPWMパルスを得る。
なお、仮想インバータの制御には三つの相が常にスイッチングする三相変調だけでなく、一つの相はスイッチングせずに残りの二相のスイッチングによって波形整形する二相変調を使用することもできる。また、キャリア発生手段42が発生するキャリアは、入力電流の歪みを防止するため、仮想整流器制御手段20の出力パルスに応じて傾きを変化させてもよい。
【0035】
仮想高周波リンク部制御手段30は、仮想整流器側のキャリアの上り下りを検出するアップ/ダウン検出手段31を備えており、キャリアの上り下りに応じて方形波を発生する方形波発生手段32により、図2の高周波リンク部8の半導体スイッチに対するPWMパルスを生成する。
【0036】
図1の高周波コンバータ2A側のPWMパルス合成手段51は、前記パルスパターン変換手段25の出力パルスと方形波発生手段32の出力パルスとを合成し、図2の高周波トランス8aの一次側と三相交流電源6との間の10個の半導体スイッチのスイッチングパターンを生成すると共に、このスイッチングパターンを、数式5に基づいて図1の電源6側の高周波コンバータ2Aのスイッチングパターンに変換して出力する。
一方、図1における高周波コンバータ4側のPWMパルス合成手段52は、前記比較手段43の出力パルスと方形波発生手段32の出力パルスとを合成し、図2の高周波トランス8aの二次側と負荷5との間の10個の半導体スイッチのスイッチングパターンを生成すると共に、このスイッチングパターンを、数式5と同様の原理に従って図1の負荷5側の高周波コンバータ4のスイッチングパターンに変換して出力する。
なお、PWMパルス合成手段51,52の出力パルスには、電源短絡や出力端開放が生じないように、インバータのデッドタイムに相当する転流パターンを付加する。
【0037】
上述した第1実施形態によれば、図1に示す絶縁形直接電力変換器10に対して、図2のような整流器7、高周波リンク部8、及びインバータ部9からなる電力変換器を仮想し、この仮想した電力変換器を制御するためのPWMパルスを生成、合成したうえで電力変換器10用にパルスパターンを変換して制御するので、実質的に整流器7、高周波リンク部8、及びインバータ部9をそれぞれ個別に制御するのと同等の制御方法を用いることができる。
これにより、制御装置の構成や制御動作が単純になり、高周波トランス3の漏れインダクタンスのエネルギーを処理するために高周波コンバータ4のスイッチングパターンや運転動作領域が制約されることもなく、入出力波形を正弦波状に保つ波形制御動作も支障なく行うことができる。また、上記漏れインダクタンスのエネルギーの処理は、高周波コンバータ4のスイッチングパターンの自由度により解決可能であるから、大形のスナバ回路も不要になる。
更に、第1実施形態によれば、風力発電機やエンジン発電機等の三相発電機と三相交流電源との連系も可能である。
【0038】
次に、図3は本発明の第2実施形態を示す構成図であり、請求項4の発明に相当するものである。
この実施形態では、図2のインバータ部9(図3の高周波コンバータ4)がゼロ電圧を発生しているときに、図2の高周波リンク部8の上アームまたは下アームの半導体スイッチを介して高周波トランス8aの一次側を短絡するように仮想的に制御することにより、高周波トランス8a、言い換えれば図3の高周波トランス3の二次側から出力される電流をゼロにして漏れインダクタンスにエネルギーが蓄積されないようにしたものである。
以下に、本実施形態の構成及び動作原理について説明する。
【0039】
高周波トランスの漏れインダクタンスに蓄積されたエネルギーは、半導体スイッチをスイッチングする際にサージ電圧となって現れる。このサージ電圧により半導体スイッチが破壊されるのを防止するため、通常はスナバ回路を設けている。
図2のインバータ部9(図3の高周波コンバータ4)がゼロ電圧ベクトルを出力するとき、インバータ部9の直流電流は強制的にゼロとなるので、サージ電圧は最も大きくなる。
【0040】
そこで本実施形態では、インバータ部9がゼロ電圧を出力するタイミングを、図3における仮想高周波リンク部制御手段30Aのゼロベクトル検出手段33が比較手段43の出力から検出し、図2の高周波トランス8aの一次側を短絡させるために上アームまたは下アームの半導体スイッチをオンさせるようなパルスパターンをトランス一次側短絡手段34が生成して、PWMパルス合成手段51に出力する。
これにより、PWMパルス合成手段51の出力パルスが与えられる高周波コンバータ2Aでは、高周波トランス3の一次側を短絡させるように半導体スイッチがオンし、その二次側から出力される電流をゼロにして漏れインダクタンスへのエネルギーの蓄積を回避することができる。
この結果、電力変換器10の出力側には同じゼロ電圧を出力しながら、漏れインダクタンスにエネルギーが蓄えられるのを防止することができ、スナバ回路を小形化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】直流リンク部を有する高周波リンク方式の三相−三相電力変換器の構成図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】従来技術を示す構成図である。
【符号の説明】
【0042】
2A,4:高周波コンバータ
3:高周波トランス
5:負荷
6:三相交流電源
7:整流器
8:高周波リンク部
8a:高周波トランス
9:インバータ部
10:絶縁形直接電力変換器
20:仮想整流器制御手段
21:電源電圧検出手段
22:電流指令生成手段
23:キャリア発生手段
24:比較手段
25:パルスパターン変換手段
30,30A:仮想高周波リンク部制御手段
31:アップ/ダウン検出手段
32:方形波発生手段
33:ゼロベクトル検出手段
34:トランス一次側短絡手段
40:仮想インバータ部制御手段
41:出力電圧指令生成手段
42:キャリア発生手段
43:比較手段
50:パルス合成手段
51,52:PWMパルス合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続された第1のコンバータと、このコンバータに一次側が接続された高周波トランスと、この高周波トランスの二次側に接続され、かつ、出力側が負荷に接続された第2のコンバータとを備え、第1,第2のコンバータを構成する半導体スイッチの動作により、交流電圧を任意の大きさ及び周波数を有する交流電圧に直接変換して負荷に供給する高周波リンク方式の絶縁形直接電力変換器を、
交流電源に接続された整流器と、この整流器に直流リンク部を介して接続され、かつ高周波トランスを備えた高周波リンク部と、この高周波リンク部に直流リンク部を介して接続され、かつ交流側に負荷が接続されるインバータ部と、の組合せとして仮想し、
前記絶縁形直接電力変換器を制御する制御装置が、
前記整流器の半導体スイッチを制御する仮想整流器制御手段と、
前記高周波リンク部の半導体スイッチを制御する仮想高周波リンク部制御手段と、
前記インバータ部の半導体スイッチを制御する仮想インバータ部制御手段と、
前記各制御手段からそれぞれ出力されるパルスを合成して第1,第2のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換するパルス合成手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁形直接電力変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した絶縁形直接電力変換器の制御装置において、
前記パルス合成手段は、
前記仮想整流器制御手段の出力パルスと前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスとを合成し、これを第1のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換する手段と、
前記仮想インバータ部制御手段の出力パルスと前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスとを合成し、これを第2のコンバータの半導体スイッチに対するパルスに変換する手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁形直接電力変換器の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した絶縁形直接電力変換器の制御装置において、
前記パルス合成手段は、
前記仮想整流器制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数と前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数とに基づいて第1のコンバータの半導体スイッチに対するスイッチング関数を生成する手段と、
前記仮想インバータ部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数と前記仮想高周波リンク部制御手段の出力パルスに相当するスイッチング関数とに基づいて第2のコンバータの半導体スイッチに対するスイッチング関数を生成する手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁形直接電力変換器の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した絶縁形直接電力変換器の制御装置において、
仮想した前記インバータ部の出力のゼロ電圧を検出する検出手段と、
この手段により検出したゼロ電圧の出力時に、仮想した前記高周波リンク部の前記高周波トランスの一次側を短絡する短絡手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁形直接電力変換器の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した絶縁形直接電力変換器の制御装置において、
前記絶縁形直接電力変換器が、三相入力−三相出力形の電力変換器であることを特徴とする絶縁形直接電力変換器の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−246673(P2006−246673A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62159(P2005−62159)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】