説明

絶縁積層材のろう付方法

【課題】絶縁板と金属層との剥離を防止しうるとともにコストの安い絶縁積層材のろう付方法を提供する。
【解決手段】絶縁積層材のろう付方法は、パワーモジュール用ベースにおける絶縁積層材としての絶縁回路基板4と応力緩和部材8とのろう付に適用される。絶縁回路基板4は、絶縁板5、絶縁板5の一面に形成されたアルミニウム製配線層、および絶縁板5の他面に形成されたアルミニウム製伝熱層7とからなる。絶縁回路基板4の伝熱層7をAl−Mg合金で形成し、伝熱層7の周囲に、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を存在させておく。この状態で、絶縁回路基板4の伝熱層7と応力緩和部材8とを、フラックスを使用して炉中でろう付する。伝熱層7をAl−Mg合金で形成しておき、伝熱層7の周面7aの表層部をフラックスと反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は絶縁積層材のろう付方法に関し、さらに詳しくは、絶縁板および絶縁板の少なくとも片面に設けられた金属層よりなる絶縁積層材を金属部材にろう付する方法に関する。
【0002】
この明細書において、「アルミニウム」という用語には、「純アルミニウム」と表現する場合を除いて、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0003】
たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子からなるパワーデバイスを備えたパワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。そこで、従来、パワーデバイスを実装するパワーモジュール用ベースとして、セラミックス製絶縁板、絶縁板の一面に形成されたアルミニウム製配線層(金属層)、および絶縁板の他面に形成されたアルミニウム製伝熱層(金属層)からなる絶縁回路基板(絶縁積層材)と、絶縁回路基板の伝熱層がろう付されたアルミニウム製放熱部材と、放熱部材における絶縁回路基板にろう付された側と反対側の面にろう付されかつ内部に冷却液流路が形成されたアルミニウム製ヒートシンクとからなるものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1記載のパワーモジュール用ベースにおいては、絶縁回路基板の配線層上にパワーデバイスが実装されてパワーモジュールとして用いられる。そして、パワーデバイスから発せられた熱は、配線層、絶縁板、伝熱層および放熱部材を経てヒートシンクに伝えられ、冷却液流路内を流れる冷却液に放熱されるようになっている。
【0005】
ところで、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースにおいては、絶縁回路基板の伝熱層と放熱部材とのろう付は、真空雰囲気中で行われている(特許文献1の段落0023参照)。しかしながら、真空雰囲気中で行う真空ろう付は、コストが高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、フラックスを使用する一般的な炉中ろう付法により、絶縁回路基板の伝熱層と放熱部材とのろう付を行うことが考えられる。この方法では、フラックスを放熱部材に塗布しておくことが一般的である。しかしながら、フラックスを使用する炉中ろう付法により、絶縁回路基板の伝熱層と放熱部材とのろう付を行う場合、溶融したフラックスが絶縁回路基板の伝熱層の周面に沿って絶縁板側に流れて絶縁板と伝熱層との界面の周縁に至り、その結果溶融フラックスが絶縁板と伝熱層との界面に悪影響を及ぼして、絶縁板と伝熱層とが剥離するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−86744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記問題を解決し、絶縁板と金属層との剥離を防止しうるとともにコストの安い絶縁積層材のろう付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0010】
1)絶縁板および絶縁板の少なくとも片面に設けられた金属層よりなる絶縁積層材の金属層を金属部材にろう付する方法であって、
金属部材にろう付される絶縁積層材の金属層の周囲に、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を存在させておき、フラックスを使用して炉中でろう付することを特徴とする絶縁積層材のろう付方法。
【0011】
2)絶縁積層材の金属層をAl−Mg合金で形成しておき、当該金属層の周面の表層部をフラックス侵入防止物として機能させる上記1)記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0012】
3)絶縁積層材の金属層を形成するAl−Mg合金が、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなる上記2)記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0013】
4)絶縁積層材の金属層の周面に沿って、金属層とは別個に形成されたAl−Mg合金からなるフラックス流動防止物、金属層とは別個に形成されたMg合金からなるフラックス流動防止物、および金属層とは別個に形成されたMg化合物からなるフラックス流動防止物のうちの少なくとも1つを存在させておく上記1)記載の絶縁積層材の製造方法。
【0014】
5)フラックス流動防止物が箔または線材であり、当該箔または線材を金属層の周囲に配置しておく上記4)記載の絶縁積層材の製造方法。
【0015】
6)フラックス流動防止物が粒子状であり、当該粒子状フラックス流動防止物とバインダとの混合物を金属層の周面に塗布しておく上記4)記載の絶縁積層材の製造方法。
【0016】
7)Al−Mg合金が、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなる上記4)〜6)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0017】
8)Mg合金が、Mgを90質量%以上含む上記4)〜6)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0018】
9)Mg化合物が、FおよびKのうちの少なくとも1つを含む上記4)〜6)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0019】
10)絶縁積層材の絶縁板の周縁部が、金属部材にろう付される金属層よりも外方に張り出しており、絶縁板における当該外方張り出し部における金属部材側を向いた面に沿ってフラックス流動防止物を配置しておく上記1)〜9)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0020】
11)絶縁積層材の両面に金属層が設けられており、金属部材にろう付される金属層とは反対側の金属層の周囲に、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を存在させておく上記1)〜10)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0021】
12)フラックスとしてKAlFを用いる上記1)〜11)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【0022】
13)絶縁板および絶縁板の両面に金属層が設けられた絶縁積層材と、絶縁積層材の一方の金属層がろう付されたヒートシンクとを備えた放熱装置であって、
絶縁積層材の一方の金属層とヒートシンクとが、上記1)〜12)のうちのいずれかに記載の方法によりろう付されており、ヒートシンクにろう付された金属層の周面に、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が残存している放熱装置。
【0023】
14)絶縁板および絶縁板の両面に金属層が設けられた絶縁積層材と、絶縁積層材の一方の金属層がろう付された応力緩和部材と、応力緩和部材における絶縁積層材の一方の金属層とろう付された面とは反対側の面がろう付されたヒートシンクとを備えた放熱装置であって、
絶縁積層材の一方の金属層と応力緩和部材とが、上記1)〜12)のうちのいずれかに記載の方法によりろう付されており、応力緩和部材にろう付された金属層の周面に、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が残存している放熱装置。
【0024】
15)フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が、KMgF、MgF、KMgFおよびAlFの少なくとも1つからなる上記13)または14)記載の放熱装置。
【発明の効果】
【0025】
上記1)〜12)の絶縁積層材のろう付方法によれば、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を、金属部材にろう付される金属層の周囲に存在させておくので、フラックス流動防止物が溶融フラックスと反応することにより、溶融フラックスの流れを止められ、溶融フラックスが金属層の周面に沿って絶縁板と金属層の界面まで流れることが防止される。したがって、溶融フラックスが絶縁板と伝熱層との界面に悪影響を及ぼすことがなくなり、絶縁積層材の絶縁板と金属層との剥離が防止される。
【0026】
上記2)および3)の絶縁積層材のろう付方法によれば、絶縁積層材の金属層と別個にフラックス流動防止物を形成する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の方法によりろう付された絶縁回路基板および応力緩和部材を備えたパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されることにより構成されたパワーモジュールを示す垂直断面図である。
【図2】図1のパワーモジュールに用いられている応力緩和部材の斜視図である。
【図3】図1のパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板と応力緩和部材とのろう付方法の他の実施形態を示す部分拡大垂直断面図である。
【図4】図1のパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板と応力緩和部材とのろう付方法のさらに他の実施形態を示す部分拡大垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。この実施形態は、この発明によるろう付方法を、パワーモジュール用ベースにおける絶縁積層材としての絶縁回路基板と、応力緩和部材とのろう付に適用したものである。なお、以下の説明において、図1の上下を上下というものとする。
【0029】
図1はパワーモジュールの全体構成を示し、図2は応力緩和部材を示す。
【0030】
図1において、パワーモジュール(1)は、パワーモジュール用ベース(2)と、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)とよりなる。
【0031】
パワーモジュール用ベース(2)は、方形のセラミックス製絶縁板(5)、絶縁板(5)の上面に形成された方形のアルミニウム製配線層(6)、および絶縁板(5)の下面に形成された方形のアルミニウム製伝熱層(7)(金属層)からなる絶縁回路基板(4)(絶縁積層材)と、絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)がろう付されたアルミニウム製応力緩和部材(8)と、応力緩和部材(8)における絶縁回路基板(4)にろう付された側と反対側の面にろう付されたアルミニウム製ヒートシンク(9)とからなる。
【0032】
絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)は、必要とされる絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al、Siなどにより形成される。配線層(6)は、導電性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、電気伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。伝熱層(7)は、熱伝導性に優れたアルミニウム、ここではMg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるAl−Mg合金により形成されている。配線層(6)および伝熱層(7)の大きさは同一であるとともに、絶縁板(5)よりも小さくなっており、絶縁板(5)の周縁寄りの部分は配線層(6)および伝熱層(7)の周縁から外側に張り出している。張り出し部を(5a)で示す。
【0033】
応力緩和部材(8)は、図2に示すように、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなり、複数の円形貫通穴(11)が千鳥配置状に形成されている。
【0034】
ヒートシンク(9)は、複数の冷却流体通路(12)が並列状に設けられた扁平中空状であり、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムにより形成されていることが好ましい。冷却流体としては、液体および気体のいずれを用いてもよい。
【0035】
パワーデバイス(3)は、絶縁回路基板(4)の配線層(6)上にはんだ付けされており、これによりパワーモジュール用ベース(2)に実装されている。パワーデバイス(3)から発せられる熱は、配線層(6)、絶縁板(5)、伝熱層(7)および応力緩和部材(8)を経てヒートシンク(9)に伝えられ、冷却流体通路(12)内を流れる冷却流体に放熱されるようになっている。
【0036】
パワーモジュール用ベース(2)は、絶縁回路基板(4)と応力緩和部材(8)とヒートシンク(9)とを一括してろう付することによりつくられる。
【0037】
絶縁回路基板(4)と応力緩和部材(8)とヒートシンク(9)とのろう付方法は、次の通りである。
【0038】
まず、絶縁板(5)の一面に配線層(6)が形成されるとともに、他面に伝熱層(7)が形成された絶縁回路基板(4)と、応力緩和部材(8)と、ヒートシンク(9)とを用意する。ここで、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるAl−Mg合金により形成されている伝熱層(7)の周面(7a)の表層部が、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物となっている。伝熱層(7)を形成するAl−Mg合金において、Mg含有量を0.005〜0.2質量%としたのは、Mg含有量が少ないとフラックスとの反応による溶融フラックスの流れを止める効果が十分ではなく、多すぎると応力緩和部材(8)とのろう付性が低下するとともに、熱伝導性が低下するおそれがあるからである。Mg含有量は0.01〜0.15質量%であることが好ましい。
【0039】
ついで、ヒートシンク(9)上に応力緩和部材(8)を配置するとともに、応力緩和部材(8)にフッ化物系のフラックス、たとえばKAlFの懸濁液を塗布した後、応力緩和部材(8)上に絶縁回路基板(4)を配置する。
【0040】
その後、ヒートシンク(9)、応力緩和部材(8)および絶縁回路基板(4)を適当な手段で仮止めし、不活性ガス雰囲気、たとえば窒素ガス雰囲気とされた炉中において、適当な温度に適当な時間加熱し、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)をろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
【0041】
ヒートシンク(9)、応力緩和部材(8)および絶縁回路基板(4)を加熱した際に、溶融したフラックスが絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)の周面(7a)に流れてくるが、伝熱層(7)の周面(7a)の表層部がフラックス侵入防止物として機能し、伝熱層(7)に含まれるMgとフラックスとが、たとえば
3Mg+2KAlF→2KMgF+MgF+2Al・・・(a)
という反応を起こす。したがって、溶融フラックスの流れが止められることになり、溶融フラックスが伝熱層(7)の周面(7a)に沿って伝熱層(7)と絶縁板(5)との界面まで流れることが防止される。その結果、溶融フラックスが絶縁板(5)と伝熱層(7)との界面に悪影響を及ぼすことがなくなって、絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)と伝熱層(7)との剥離が防止される。
【0042】
そして、伝熱層(7)の周面(7a)には、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物であるKMgFおよびMgFという反応生成物(図示略)が残存する。
【0043】
図3は、パワーモジュール用ベースの絶縁回路基板と応力緩和部材とのろう付方法の他の実施形態を示す。
【0044】
まず、絶縁板(5)、配線層(6)および導電性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成され伝熱層(15)を有する絶縁回路基板(4)を用意する。絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)は、電気伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。
【0045】
ついで、ヒートシンク(9)上に応力緩和部材(8)を配置するとともに、応力緩和部材(8)にフッ化物系のフラックス、たとえばKAlFの懸濁液を塗布した後、応力緩和部材(8)上に絶縁回路基板(4)を配置する。
【0046】
また、絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)の周面(15a)に沿って、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物からなり、かつ伝熱層(15)とは別個に形成された箔(16)を配置する。箔(16)を形成するフラックス流動防止物としては、Al−Mg合金、Mg合金またはMg化合物が用いられる。箔(16)を形成するフラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり0.1〜20g/mであることが好ましい。フラックス流動防止物の量が少ないとフラックスとの反応による溶融フラックスの流れを止める効果が十分ではなく、多すぎるとコストが高くなるおそれがあるからである。
【0047】
Al−Mg合金としては、図1に示す絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)と同様に、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるものが用いられる。Mg合金としては、Mgを90質量%以上含むものが用いられる。Mg合金中のMg含有量が90質量%未満であると、不純物量が過剰になり、加工性が低下したり、応力緩和部材(8)と伝熱層(15)とのろう付性が低下したりするおそれがある。Mg化合物としては、MgF、KMgFなどのFおよびKのうちの少なくとも1つを含むものが用いられる。
【0048】
その後、ヒートシンク(9)、応力緩和部材(8)および絶縁回路基板(4)を適当な手段で仮止めし、不活性ガス雰囲気、たとえば窒素ガス雰囲気とされた炉中において、適当な温度に適当な時間加熱し、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)(7)をろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
【0049】
ヒートシンク(9)、応力緩和部材(8)および絶縁回路基板(4)を加熱した際に、溶融したフラックスが絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)の周面(15a)に流れてくるが、箔(16)を構成するフラックス侵入防止物とフラックスとが反応を起こす。したがって、溶融フラックスの流れが止められることになり、溶融フラックスが伝熱層(15)の周面(15a)に沿って伝熱層(15)と絶縁板(5)との界面まで流れることが防止される。その結果、溶融フラックスが絶縁板(5)と伝熱層(15)との界面に悪影響を及ぼすことがなくなって、絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)と伝熱層(15)との剥離が防止される。
【0050】
箔(16)を形成するフラックス流動防止物としてAl−Mg合金を用いる場合のフラックスとの反応は、上記式(a)の通りである。
【0051】
箔(16)を形成するフラックス流動防止物としてMg化合物を用いる場合、フラックスとは、次の反応を起こす。
【0052】
MgF+KAlF→KMgF+AlF・・・(b)
KMgF+KAlF→KMgF+AlF・・・(c)
箔(16)を形成するフラックス流動防止物としてMg合金を用いる場合、フラックスとは、次の反応を起こす。
【0053】
3Mg+2KAlF→2KMgF+MgF+2Al・・・(d)
したがって、溶融フラックスの流れが止められることになり、溶融フラックスが伝熱層(15)の周面(15a)に沿って伝熱層(15)と絶縁板(5)との界面まで流れることが防止される。その結果、溶融フラックスが絶縁板(5)と伝熱層(15)との界面に悪影響を及ぼすことがなくなって、絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)と伝熱層(15)との剥離が防止される。
【0054】
そして、伝熱層(15)の周面(15a)には、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物である2KMgF、MgF、KMgF、AlF、KMgFなどの反応生成物(図示略)が残存する。
【0055】
図4は、パワーモジュール用ベースの絶縁回路基板と応力緩和部材とのろう付方法のさらに他の実施形態を示す。
【0056】
図4に示す方法においては、フラックス流動防止物からなる箔(16)の代わりに、絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)の周面(15a)に沿って、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物からなり、かつ伝熱層(15)とは別個に形成された線材(20)を配置する。その他は、図3に示す方法と同様である。線材(20)は、箔(16)と同様な材料からなり、箔(16)と同様にして溶融フラックスと反応を起こす。
【0057】
さらに、図3および図4に示すパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板と応力緩和部材とのろう付方法において、フラックス流動防止物からなる箔(16)または線材(20)の代わりに、伝熱層(15)の周面(15a)に、粒子状のフラックス流動防止物を付着させておいてもよい。フラックス流動防止物としては、MgF、KMgFなどのF、KおよびAlのうちの少なくとも1つを含むMg化合物が用いられる。伝熱層(15)の周面(15a)に付着させる粒子状フラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり0.1〜20g/mであることが好ましい。フラックス流動防止物の量が少ないとフラックスとの反応による溶融フラックスの流れを止める効果が十分ではなく、多すぎるとコストが高くなるおそれがあるからである。
【0058】
粒子状フラックス流動防止物は、バインダと混合して塗布することにより伝熱層(15)の周面(15a)に付着させられる。ここで、粒子状フラックス流動防止物の平均粒径は3〜100μm程度であることが好ましい。また、バインダとしてはアクリル系のものが用いられる。粒子状フラックス流動防止物とバインダとの混合比は、粒子状フラックス流動防止物100重量部に対して、バインダ30〜300重量部とすることが好ましい。
【0059】
上記において、絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)(15)は応力緩和部材(8)にろう付されているが、応力緩和部材(8)は必ずしも必要とせず、絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)(15)が直接ヒートシンク(9)にろう付されていてもよい。
【0060】
次に、この発明の具体的実施例を比較例とともに述べる。
【0061】
実施例1
厚みが0.6mmの窒化アルミニウム製絶縁板(5)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなり、かつ絶縁板(5)の一面に形成された厚みが0.6mmの配線層(6)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなり、かつ絶縁板(5)の他面に形成された厚みが0.6mmの伝熱層(15)とよりなる絶縁回路基板(4)を用意した。また、アルミニウム製ヒートシンク(9)と、両面にろう材層が設けられ、かつ複数の円形貫通穴(11)が形成されたアルミニウムブレージングシート製応力緩和部材(8)とを用意した。
【0062】
ついで、ヒートシンク(9)上に応力緩和部材(8)を配置するとともに、応力緩和部材(8)にKAlFの懸濁液を、KAlFの付着量が5g/mとなるように塗布した。KAlFの塗布は、KAlFを水に懸濁させた懸濁液をスプレーで塗布することにより行った。
【0063】
ついで、応力緩和部材(8)上に絶縁回路基板(4)を配置し、絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)の周囲に、Al3質量%、Zn1質量%を含み、残部Mgおよび不可避不純物からなるMg合金で形成され、かつ伝熱層(15)とは別個に形成された箔(16)を配置した。箔(16)を形成するフラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり10g/mとした。なお、上記Mg合金中のMg含有量は当然のことながら90質量%以上である。
【0064】
その後、ヒートシンク(9)、応力緩和部材(8)および絶縁回路基板(4)を適当な手段で仮止めし、窒素ガス雰囲気とされた炉中において、600℃に5分間加熱し、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。
【0065】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、MgF、KMgF、KMgFが残存していた。
【0066】
実施例2
フラックス流動防止物として、粒子状のMgFを使用し、粒子状MgFをアクリル系バインダと混合して塗布することによって、伝熱層(15)の周面(15a)に付着させた。フラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり10g/mとした。その他は、上記実施例1と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。
【0067】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、KMgFおよびAlFが残存していた。
【0068】
実施例3
フラックス侵入防止物として、粒子状のKMgFを使用し、粒子状KMgFをアクリル系バインダと混合して塗布することによって、伝熱層(15)の周面(15a)に付着させた。フラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり10g/mとした。その他は、上記実施例1と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。
【0069】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、KMgFおよびAlFが残存していた。
【0070】
実施例4
フラックス侵入防止物として、Mg0.1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物よりなるAl−Mg合金からなり、かつ伝熱層(15)とは別個に形成された箔(16)を配置した。箔(16)を形成するフラックス流動防止物の量は、伝熱層(15)の周面(15a)の単位面積当たり10g/mとした。その他は、上記実施例1と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。
【0071】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、KMgFおよびMgFが残存していた。
【0072】
実施例5
絶縁回路基板(4)として、厚みが0.6mmの窒化アルミニウム製絶縁板(5)と、純度99.99wt%の純アルミニウムで形成された厚みが0.6mmの配線層(6)と、Mg0.01質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物よりなるAl−Mg合金で形成された厚みが0.6mmの伝熱層(7)を有するものを用いた。
【0073】
そして、伝熱層(7)の周囲にフラックス流動防止物を配置しなかったことを除いては上記実施例1と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(7)をろう付した。
【0074】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、KMgFおよびMgFが残存していた。
【0075】
実施例6
絶縁回路基板(4)の厚みが0.6mmである伝熱層(7)を、Mg0.002質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物よりなるAl−Mg合金で形成しておいた。
【0076】
その他は、上記実施例5と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。
【0077】
ろう付後の伝熱層(15)の周面(15a)には、KMgFおよびMgFが残存していた。
【0078】
比較例
絶縁回路基板の伝熱層の周囲にフラックス流動防止物を配置しなかったことを除いては、上記実施例1と同様な条件で、ヒートシンク(9)と応力緩和部材(8)、および応力緩和部材(8)と絶縁回路基板(4)の伝熱層(15)をろう付した。なお、当然のことながら、伝熱層(15)はフラックス流動防止物として機能するAl−Mg合金で形成されていない。
【0079】
評価試験
応力緩和部材(8))にろう付された絶縁回路基板(4)を観察し、伝熱層(7)(15)の絶縁板(5)からの剥離の有無および剥離が生じた場合の剥離量を調べた。剥離量は、伝熱層(7)(15)の周縁部からの剥離の距離を測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例1〜6においては、表1に、用いたフラックス流動防止物の種類も記入した。
【表1】

【0080】
表1の評価の欄において、○は、伝熱層(7)(15)の絶縁板(5)からの剥離が認められなかったものを示し、△は、剥離量(伝熱層(7)(15)の周縁部からの剥離距離)が100μm未満のもとを示し、×は、剥離量(伝熱層(7)(15)の周縁部からの剥離距離)が100μmのものを示す。
【産業上の利用可能性】
【0081】
この発明による積層絶縁材のろう付方法は、パワーデバイスが実装されてパワーモジュールとされるパワモジュール用ベースの製造に適用される。
【符号の説明】
【0082】
(4):絶縁回路基板(絶縁積層材)
(5):絶縁板
(6):配線層(金属層)
(7)(15):伝熱層(金属層)
(7a)(15a):周面
(8):応力緩和部材(金属部材)
(16):フラックス流動防止物からなる箔
(20):フラックス流動防止物からなる線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板および絶縁板の少なくとも片面に設けられた金属層よりなる絶縁積層材の金属層を金属部材にろう付する方法であって、
金属部材にろう付される絶縁積層材の金属層の周囲に、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を存在させておき、フラックスを使用して炉中でろう付することを特徴とする絶縁積層材のろう付方法。
【請求項2】
絶縁積層材の金属層をAl−Mg合金で形成しておき、当該金属層の周面の表層部をフラックス侵入防止物として機能させる請求項1記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項3】
絶縁積層材の金属層を形成するAl−Mg合金が、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなる請求項2記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項4】
絶縁積層材の金属層の周面に沿って、金属層とは別個に形成されたAl−Mg合金からなるフラックス流動防止物、金属層とは別個に形成されたMg合金からなるフラックス流動防止物、および金属層とは別個に形成されたMg化合物からなるフラックス流動防止物のうちの少なくとも1つを存在させておく請求項1記載の絶縁積層材の製造方法。
【請求項5】
フラックス流動防止物が箔または線材であり、当該箔または線材を金属層の周囲に配置しておく請求項4記載の絶縁積層材の製造方法。
【請求項6】
フラックス流動防止物が粒子状であり、当該粒子状フラックス流動防止物とバインダとの混合物を金属層の周面に塗布しておく請求項4記載の絶縁積層材の製造方法。
【請求項7】
Al−Mg合金が、Mg0.005〜0.2質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなる請求項4〜6のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項8】
Mg合金が、Mgを90質量%以上含む請求項4〜6のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項9】
Mg化合物が、FおよびKのうちの少なくとも1つを含む請求項4〜6のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項10】
絶縁積層材の絶縁板の周縁部が、金属部材にろう付される金属層よりも外方に張り出しており、絶縁板における当該外方張り出し部における金属部材側を向いた面に沿ってフラックス流動防止物を配置しておく請求項1〜9のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項11】
絶縁積層材の両面に金属層が設けられており、金属部材にろう付される金属層とは反対側の金属層の周囲に、溶融したフラックスと反応して溶融フラックスの流れを止めるフラックス流動防止物を存在させておく請求項1〜10のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項12】
フラックスとしてKAlFを用いる請求項1〜11のうちのいずれかに記載の絶縁積層材のろう付方法。
【請求項13】
絶縁板および絶縁板の両面に金属層が設けられた絶縁積層材と、絶縁積層材の一方の金属層がろう付されたヒートシンクとを備えた放熱装置であって、
絶縁積層材の一方の金属層とヒートシンクとが、請求項1〜12のうちのいずれかに記載の方法によりろう付されており、ヒートシンクにろう付された金属層の周面に、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が残存している放熱装置。
【請求項14】
絶縁板および絶縁板の両面に金属層が設けられた絶縁積層材と、絶縁積層材の一方の金属層がろう付された応力緩和部材と、応力緩和部材における絶縁積層材の一方の金属層とろう付された面とは反対側の面がろう付されたヒートシンクとを備えた放熱装置であって、
絶縁積層材の一方の金属層と応力緩和部材とが、請求項1〜12のうちのいずれかに記載の方法によりろう付されており、応力緩和部材にろう付された金属層の周面に、フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が残存している放熱装置。
【請求項15】
フラックスとフラックス侵入防止物との反応物が、KMgF、MgF、KMgFおよびAlFの少なくとも1つからなる請求項13または14記載の放熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−240374(P2011−240374A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115022(P2010−115022)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】