説明

網膜投影ディスプレイ装置

【課題】 小型軽量であって、ユーザの頭部に日常的に装着可能であり、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、映像や文字情報を見ることができる網膜投影ディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】 瞳孔2を通して網膜3に直接画像を投影するマクスウエル視を利用した網膜投影ディスプレイ装置1であって、ディジタル化された画像データを出力する画像データ出力部10と、画像データ出力部10から出力された画像データに応じてレーザ光を出力するレーザ光源部20と、画像データ出力部20から出力された画像データに応じて駆動され、レーザ光源部20から出力されたレーザ光をユーザの瞳孔に向けて反射するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)走査ミラー部30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクスウエル視を利用した網膜投影ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば特許文献1に記載されているように、マクスウエル視を利用して、瞳孔を通して網膜に直接画像を投影する網膜投影ディスプレイ装置が提案されている。マクスウエル視は、いわゆるピンホールカメラの原理を応用しており、画像を一旦眼の瞳孔内で収束させて、水晶体による焦点機能を用いずに、網膜上に直接画像を投影するものである。そのため、マクスウエル視を利用した網膜投影ディスプレイ装置を用いれば、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、映像や文字情報を見ることができる。ところが、上記特許文献1の網膜投影ディスプレイ装置は、ユーザが手に持ってビューファインダをのぞき込むスコープ型であるため、操作性が悪いという問題を有している。
【0003】
一方、非特許文献1には、ユーザの頭部に装着して使用し、実際の光景とレーザ光の走査によって描かれた仮想映像とを重ね合わせて見ることができるヘッドマウント型網膜投影ディスプレイ装置が提案されている。しかしながら、非特許文献1に記載されたディスプレイ装置では、レーザ光源から出力されたレーザ光をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーを用いて走査し、走査されたレーザ光をレンズ及ハーフミラーなどで構成された光学系を用いて網膜上に投影している。そのため、網膜投影ディスプレイ装置の構成が複雑であり、大型化及び重量の増加により使用感が悪くなり、ユーザが日常的に長時間装着して使用するには難点がある。また、光学系としてマクスウエル視を利用していないため、視力障害を有するユーザが使用するには、光学系の調節が必要である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−71849号公報
【非特許文献1】IEEE SPECTRUM May 2004 P24-28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来例の問題を解決するためになされたものであり、小型軽量であって、ユーザの頭部に日常的に装着可能であり、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、映像や文字情報を見ることができる網膜投影ディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ディジタル化された画像データを出力する画像データ出力部と、前記画像データ出力部から出力された画像データに応じてレーザ光を出力するレーザ光源部と、前記画像データ出力部から出力された画像データに応じて駆動され、前記レーザ光源部から出力されたレーザ光をユーザの瞳孔に向けて反射するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)走査ミラー部を備え、前記MEMS走査ミラー部によりレーザ光を走査して、瞳孔を通して直接網膜上に画像を投影することを特徴とする網膜投影ディスプレイ装置である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置において、前記レーザ光源部と前記MEMS走査ミラー部との間に設けられ、前記レーザ光の光路に平行に位置調節が可能であり、前記レーザ光をユーザの網膜上に収束させるためのフォーカシングレンズをさらに備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置において、前記画像データ出力部は、撮像装置を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置において、ユーザの頭部に装着され、少なくとも前記レーザ光源部及び前記MEMS走査ミラー部を収納するハウジングをさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、撮像装置により撮像された映像やパーソナルコンピュータから出力される文字情報などの画像データを用いて、指向性の高いレーザ光を、瞳孔を通して網膜上に直接走査させ、特に、マクスウエル視を利用しているため、水晶体による焦点機能を用いずにユーザの網膜上に直接画像を描くことができるので、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、映像や文字情報を見ることができる。また、マクスウエル視を利用しているため、焦点深度が深く、レンズやミラーなどを用いた光学系が不要であり、網膜投影ディスプレイ装置の構成が簡単になる。その結果、網膜投影ディスプレイ装置の小型軽量化が可能であり、ユーザの頭部に日常的に長時間装着可能である。さらに、光学系が不要であるため装置の低コスト化が可能であり、ゲーム装置のディスプレイ装置など幅広い用途に使用することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、調節可能なフォーカシングレンズをさらに備えているため、簡単な操作により、網膜上に鮮明なレーザ光スポットを走査させることができ、網膜上に描かれる画像の解像度を高くすることができる。また、このフォーカシングレンズは、レーザ光源部とMEMS走査ミラー部の間、すなわちレーザ光が走査される前の位置に設けられているため、フォーカシングレンズの直径が小さくて済み、網膜投影ディスプレイ装置の大型化を回避することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、画像データ出力部として撮像装置を用いているため、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、眼前に展開される状況をリアルタイムで見ることができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、ユーザの頭部に装着され、少なくとも前記レーザ光源部及び前記MEMS走査ミラー部を収納するハウジングをさらに備えているので、ユーザの頭部に日常的に長時間装着可能な網膜投影ディスプレイ装置を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る網膜投影ディスプレイ装置について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る網膜投影ディスプレイ装置の構成を示す図である。
【0015】
本実施形態に係る網膜投影ディスプレイ装置1は、瞳孔を通して網膜に直接画像を投影するマクスウエル視を利用しており、図1に示すように、例えばCCDなどの撮像装置11を備え、ディジタル化された画像データを出力する画像データ出力部10と、画像データ出力部10から出力された画像データに応じてレーザ光を出力する半導体レーザなどのレーザ光源を備えたレーザ光源部20と、画像データ出力部10から出力された画像データに応じて駆動され、レーザ光源部20から出力されたレーザ光をユーザの瞳孔2に向けて反射するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)走査ミラー部30と、ユーザの頭部に装着され、画像データ出力部10、レーザ光源部20、MEMS走査ミラー部30及び電源(図示せず)などを収納するハウジング40を備えている。
【0016】
マクスウエル視は、上記のように、画像を一旦眼球5の瞳孔2内で収束させて、水晶体による焦点機能を用いずに、網膜3に直接画像を投影するものである。従って、指向性の高いレーザ光を、瞳孔の直前に配置したミラーで網膜に向けて反射させ、スポット光を走査して画像を投影する場合、レーザ光源部20から出力されたレーザ光を網膜3上に収束させるためのレンズやミラーなどで構成された光学系は、基本的に不要である。しかしながら、レーザ光源部20から出力されたレーザ光は、そのビーム径が若干広がる傾向にあるため、一般的に、レーザ光源部20は、レーザ光を平行光化するためのコリメータレンズを備えている。本実施形態では、レーザ光源部20とMEMS走査ミラー部30との間に、レーザ光の光路に対して平行に位置調節が可能なフォーカシングレンズ21を設けており、このフォーカシングレンズ21により、レーザ光を平行光化し又はレーザ光をユーザの網膜3上に収束させる。
【0017】
図2は、画像データ出力部10のブロック構成を示す。画像データ出力部10は、ユーザがハウジング40を頭部に装着したときに、それぞれ左右の眼球5に対向する位置(ユーザが正面を見つめたときの瞳2の前方又はその上方)に設けられた左右の撮像装置11と、パーソナルコンピュータ15などから送信された画像データを受信するための無線通信装置12と、メモリカード16に記憶された画像データを読み出すためのメモリカードリーダ13と、撮像装置11で撮像した画像データ、無線通信装置12を介して受信した画像データあるいはメモリカード16から読み出したディジタル化された画像データを用いてレーザ光源部20及びMEMS走査ミラー部30を駆動制御するための、CPU、ROM、RAMなどで構成された制御装置14を備えている。なお、本発明はこの実施形態の構成に限定されるものではなく、左右の眼の中央、すなわち鼻の上部に対応する位置に、単一の撮像装置11を設けてもよい。
【0018】
レーザ光源部20は、左右の眼球5に対応して2箇所に設けられており、それぞれ半導体レーザなどのレーザ光源と、その半導体レーザを駆動するための駆動ICなどで構成されている。各レーザ光源部20は、単色のレーザ光を出力するものであってもよいし、三原色に対応した波長の異なる3つのレーザ光を混合して出力するものであってもよい。後者の場合、レーザ光源としては、波長変換可能なレーザ装置又はそれぞれ波長の異なる複数の半導体レーザなどを用いることができる。
【0019】
MEMS走査ミラー部30は、マイクロマシニング技術を用いて成形される半導体構造を有する小型の光走査ミラーであり、図3に示すように、ミラー面31aを有する可動部31と、第1ヒンジ32を介して可動部31を支持する可動フレーム33と、第1ヒンジ32と直交する方向に設けられた第2ヒンジ34を介して可動フレーム33を支持する固定フレーム35と、可動部31と可動フレーム33との間及び可動フレーム33と固定フレーム35の間にそれぞれ設けられ、互いに噛合う各一対の櫛歯電極36及び37などで構成されている。櫛歯電極36及び37は、例えば互いの電極が2μm乃至5μm程度の間隔で噛み合うように形成されており、互いの電極間に電圧が印加されることにより静電力を発生する。可動部31及び可動フレーム33は、それぞれ櫛歯電極36及び37が発生する駆動力により、第1ヒンジ32及び第2ヒンジ34をそれぞれ捻りながら、可動フレーム33及び固定フレーム35に対し回動し、第1ヒンジ32及び第2ヒンジ34を軸として2軸回りに揺動することにより、スキャン動作を行う。
【0020】
画像データ出力部10の制御装置14は、所定の周波数の駆動信号を櫛歯電極36及び37の電極間へ印加して、所定の周期でMEMS走査ミラー30を走査させると共に、MEMS走査ミラー30の走査に同期するように、レーザ光源部20によるレーザ光の出射タイミングの制御を行う。なお、画像の拡大縮小は、MEMS走査ミラー部30によるレーザ光の振れ角を拡大縮小することにより、可能である。また、MEMS走査ミラー部30が、ユーザの眼の直前に位置しており、網膜3上に直接レーザ光を走査させて画像を描くので、上記可動部31の振れ角は小さくてもよい。そのため、可動部31を動かすためのアクチュエータとしての櫛歯電極36及び37の駆動電圧は小さくてもよく、消費電力の低減が可能である。
【0021】
MEMS走査ミラー部30も、左右の眼に対応して2箇所に設けられており、それぞれ、図1に示すように、ユーザが正面を見つめた状態における瞳の前方又はそのやや下方に位置するように設けられている。レーザ光源部20の位置は、特に限定されないが、ハウジング40の小型化を考慮した場合、例えばユーザの額に対応する位置などが好ましい。
【0022】
以上説明したように、本実施形態に係る網膜投影ディスプレイ装置によれば、瞳孔2を通して網膜3に直接画像を投影するマクスウエル視を利用しているので、網膜3上に収束されるレーザ光スポットの焦点深度が深く、レンズやミラーなどで構成された光学系が不要となる。その結果、網膜投影ディスプレイ装置の構造が簡単になり、網膜投影ディスプレイ装置の小型軽量化が可能になり、ユーザが日常的に長時間装着することが可能になる。特に、マクスウエル視を利用しているため、水晶体による焦点機能を用いずにユーザの網膜3上に直接画像を描くことができるので、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、撮像装置11により撮像した映像やパーソナルコンピュータなどから送信された文字情報などを見ることができる。さらに、光学系が不要になるため、網膜投影ディスプレイ装置の低コスト化が可能であり、ゲーム装置のディスプレイ装置など幅広い用途に使用することができる。さらに、調節可能なフォーカシングレンズ21を備えているため、簡単な操作により、網膜3上に鮮明なレーザ光スポットを走査させることができ、網膜3上に描かれる画像の解像度を高くすることができる。また、このフォーカシングレンズは、レーザ光源部20とMEMS走査ミラー部30の間、すなわちレーザ光が走査される前の位置に設けられているため、フォーカシングレンズの直径が小さくて済み、網膜投影ディスプレイ装置の大型化を回避することができる。さらに、画像データ出力部10として撮像装置11を用いることにより、重度の弱視、近視、老眼などの視力障害を有するユーザであっても、眼前に展開される状況をリアルタイムで見ることができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、左右の眼に対応して、2組のレーザ光源部20及びMEMS走査ミラー部30を設けたが、左右いずれかの眼球5にだけ対応する1組のレーザ光源部20及びMEMS走査ミラー部30だけを設けてもよい。また、フォーカシングレンズ21は必ずしも必要ではないため、省略することも可能である。また、光源としてレーザ光源を用いているが、そのパワーは網膜3を損傷しないレベルであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る網膜投影ディスプレイ装置の構成を示す図。
【図2】上記網膜投影ディスプレイ装置における画像データ出力部のブロック構成を示す図。
【図3】上記網膜投影ディスプレイ装置のMEMS走査ミラー部の構成を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 網膜投影ディスプレイ装置
2 瞳孔
3 網膜
5 眼球
10 画像データ出力部
11 撮像装置
12 無線通信装置
13 メモリカードリーダ
14 制御装置
15 パーソナルコンピュータ
16 メモリカード
20 レーザ光源部
21 フォーカシングレンズ
30 MEMS走査ミラー部
40 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル化された画像データを出力する画像データ出力部と、
前記画像データ出力部から出力された画像データに応じてレーザ光を出力するレーザ光源部と、
前記画像データ出力部から出力された画像データに応じて駆動され、前記レーザ光源部から出力されたレーザ光をユーザの瞳孔に向けて反射するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)走査ミラー部を備え、
前記MEMS走査ミラー部によりレーザ光を走査して、瞳孔を通して直接網膜上に画像を投影することを特徴とする網膜投影ディスプレイ装置。
【請求項2】
前記レーザ光源部と前記MEMS走査ミラー部との間に設けられ、前記レーザ光の光路に平行に位置調節が可能であり、前記レーザ光をユーザの網膜上に収束させるためのフォーカシングレンズをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置。
【請求項3】
前記画像データ出力部は、撮像装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置。
【請求項4】
ユーザの頭部に装着され、少なくとも前記レーザ光源部及び前記MEMS走査ミラー部を収納するハウジングをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の網膜投影ディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−122551(P2009−122551A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298615(P2007−298615)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】