説明

緩衝装置

【課題】 車両における乗り心地を向上することができる緩衝装置を提供することである。
【解決手段】 車体側部材1と車軸側部材2との直線運動を回転運動に変換する運動変換機構Hと、上記回転運動が伝達されるモータMを備え、モータMにおける磁石に対向する巻線に作用する電磁力で上記直線運動を抑制する緩衝装置D1において、車体側部材1と車軸側部材2との直線運動により回転する1つもしくは複数の回転体Wを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に緩衝装置にあっては、相対運動をする2つの部材間に介装され、上記部材の相対運動を減衰力で抑制する。
【0003】
そして、特に、上記減衰力の発生源として磁石に対向させた巻線に作用する電磁力を利用しているものにあっては、螺子軸とボール螺子ナットとで構成されるボール螺子機構を使用して車両の車体と車軸との相対運動を回転運動に変換可能としておき、螺子軸をモータの出力軸に連結しておくことで、モータの出力する電磁力に起因するトルクでボール螺子ナットの上下運動を抑制するもの(たとえば、特許文献1参照)が知られている。
【0004】
そして、この種緩衝装置にあっては、伸縮時に減衰力を発揮するだけでなく、巻線に電流供給を行うことによりアクチュエータとして機能も発揮することができる。
【特許文献1】特開平08−197931号公報(段落番号0023,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような従来の緩衝装置にあっては、車両等に適用されて使用される場合、油圧緩衝装置と異なり、モータの回転子や、螺子軸といった伸縮に伴って回転する回転側部材を備えており、これら回転側部材が緩衝装置に伸縮に伴って回転すると、緩衝装置の伸縮加速度に応じた慣性モーメントが発生する。
【0006】
そして、この慣性モーメントは、緩衝装置の伸縮速度の変化を妨げる力として作用することから、緩衝装置は、上記慣性モーメントによる上記力と電磁力による力の合力を発生することになり、また、上記回転側部材の質量が大きい場合には、慣性モーメントによる力も大きなものとなる。
【0007】
ここで、慣性モーメントによる力について少し説明すると、上記慣性モーメントは、回転側部材の角加速度が、上記緩衝装置の伸縮加速度に比例することから、緩衝装置の伸縮加速度に比例して大きくなる。
【0008】
そして、この慣性モーメントが上述の通り緩衝装置の伸縮加速度に比例するので、緩衝装置は路面等から緩衝装置に入力される緩衝装置の軸方向の力に対しモータの電磁力に依存しない力を発生することになり、従来緩衝装置にあっては、回転側部材の慣性質量を調整することができなかったので、この緩衝装置が適用される車両によっては、車両における乗り心地を悪化させてしまう場合がある。
【0009】
そこで、本発明は、車両における乗り心地を向上させることができる緩衝装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、車体側部材と車軸側部材との直線運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備え、モータにおける磁石に対向する巻線に作用する電磁力で上記直線運動を抑制する緩衝装置において、車体側部材と車軸側部材との直線運動により回転する1つもしくは複数の回転体を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転体の慣性質量を変化させることで慣性モーメントの大きさを調節することができるので、緩衝装置が適用される車両に合わせてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材の加速度に対する伝達ゲインのピーク値を減少せしめることが可能となる。
【0012】
すなわち、この緩衝装置にあっては、適用される車両にあわせて最適な慣性モーメントによる力を発生できるので、車両における乗り心地を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に基づき説明する。図1は、第1の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。図2は、車両モデルを示す図である。図3は、振動周波数に対する車体側部材の加速度の伝達ゲインを示した図である。図4は、第2の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。図5は、第3の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。図6は、第4の実施の形態の緩衝装置における回転体およびその周辺部分の側面図である。
【0014】
図1に示すように、第1の実施の形態における緩衝装置D1は、車体側部材1と車軸側部材2の直線運動を回転運動に変換する運動変換機構Hと、上記回転運動が伝達されるモータMと、車体側部材1と車軸側部材2との直線運動により回転する回転体Wを備えて構成され、この実施の形態の場合、運動変換機構Hは、螺子軸3と螺子軸3に回転自在に螺合された螺子ナットたるボール螺子ナット4とで構成されたボール螺子機構とされている。
【0015】
また、この緩衝装置D1は、本実施の形態の場合、ボール螺子ナット4をその内周側に保持する外筒5の図1中下端に設けたアイ6を介して車両の車軸側部材2に連結し、他方、マウント7を介してモータMを車体側部材1に連結し、この緩衝装置D1を車軸側部材1と車体側部材2との間に介装している。
【0016】
そして、緩衝装置D1が伸縮するとき、すなわち、車体側部材1と車軸側部材2が相対直線運動を呈するとき、この運動変換機構Hによりボール螺子ナット4の上下方向の直線運動が螺子軸3の回転運動に変換され、上記回転運動がモータMのシャフト8に伝達される。
【0017】
このとき、当該モータMに電磁力が生じてシャフト8の回転を抑制するトルクが発生され、このトルクをボール螺子ナット4の軸方向の直線運動を抑制する力として利用し、上記緩衝装置D1の伸縮、すなわち、車体側部材1と車軸側部材2の直線運動を抑制することが出来るものである。
【0018】
また、モータMは、図1に示すように、ケース9と、上記シャフト8と、シャフト8の外周に取付けられケース9内に収納された図示しない磁石と、ケース9の内周に上記磁石と対向するように取付けられた図示しない巻線とを備え、いわゆるブラシレスモータとして構成されている。
【0019】
なお、図示しない磁石は、環状に成形されており、N極とS極が円周に沿って交互に現れる分割磁極パターンを有しているが、複数の磁石を接着等して環状となるように形成してもよい。
【0020】
そして、モータMは、シャフト8の回転トルクを制御可能なように図示しない制御装置および外部電源に接続されており、所望の力を得られるよう調整されるとともに、モータMを積極的に駆動してこの緩衝装置D1を緩衝装置のみならずアクチュエータとして機能させるようにしてある。
【0021】
ちなみに、モータMには、回転子の位置検出手段が設けられており、回転子の回転運動の状況(回転角や角速度等)に応じて緩衝装置が発生する力を制御できるようにしてある。この位置検出手段としては、具体的にたとえば、ホール素子、磁気センサや光センサ等を用いればよい。
【0022】
なお、本実施の形態においてはモータMをブラシレスモータとしているが、電磁力発生源として使用可能であれば、様々なモータ、たとえば直流モータや交流モータ、誘導モータ等が使用可能である。
【0023】
さらに、シャフト8の下端には、螺子軸3がカップリング10を介して連結されており、この螺子軸3は、その外周に螺子溝が設けられ、上述の外筒5に保持されたボール螺子ナット4内に回転自在に螺合されている。なお、モータMのシャフト8と螺子軸3とを一体的に形成してもよい。
【0024】
また、シャフト8の下端近傍には、歯車12が取付けられており、この歯車12は、歯車13に噛合している。
【0025】
したがって、車体側部材1と車軸側部材2とが相対直線運動を呈すると、螺子軸3とボール螺子ナット4も軸方向に相対的な直線運動を呈し、螺子軸3およびシャフト8が回転し、この回転運動は、歯車12を介して歯車13に伝達されることとなる。
【0026】
そして、この歯車13には、回転体Wが取付けられている。この回転体Wは、歯車13の軸心に取付けられた回転軸14と、回転軸14に着脱自在に取付けられた環状の複数の錘16とを備えて構成されている。詳しくは、回転軸14は、歯車13に連結されていない端部から略中間部に渡り軸方向に沿って溝15が形成されるとともに、溝15の終端に円板状のストッパ20が設けられ、他方、錘16は、内周側に上記溝15内に係合する突起部17を備え、上記溝15と突起部17との係合により回転軸14に対し錘16が空転してしまうことが防止されている。
【0027】
また、回転軸14の歯車13に連結されていない端部外周から略中間部外周に渡り螺子溝19が設けられており、この螺子溝19によりナット18を回転軸14に螺着することが可能とされ、錘16は、ナット18と上記ストッパ20とで挟持されることにより回転軸14に着脱自在に固定される。
【0028】
なお、上記のように錘16が回転軸14に固定されているので、図示するところでは3つの錘16が回転軸14に固定されているが、錘16の数は適宜増減することが可能なようになっている。
【0029】
他方、運動変換機構Hは、上述のように螺子軸3とボール螺子ナット4とで構成されおり、ボール螺子ナット4が螺子軸3に対し図1中上下方向の直線運動をすると、ボール螺子ナット4は、車軸側部材2に固定される外筒5により回転運動が規制されているので、螺子軸3は強制的に回転駆動され、逆に、モータMを駆動して螺子軸3を回転させると、ボール螺子ナット4の回転が規制されているので、これによりボール螺子ナット4を上下方向に移動せしめることができる。
【0030】
すなわち、この場合の運動変換機構Hにおける回転側部材は螺子軸3ということになる。
【0031】
なお、本実施の形態においては、運動変換機構Hがボール螺子ナットと螺子軸とで構成されているが、これを他の構成、たとえば、ラックアンドピニオンで構成されてもよく、また、ボール螺子ナットを単なるナットに置き換えるとしてもよく、その場合には、ピニオンギアをモータMのシャフト8に連結すればよい。
【0032】
さて、以上のように本発明の緩衝装置D1は構成されるが、以下その作用について説明する。
【0033】
まず、車体側部材1と車軸側部材2とが相対直線運動を呈する、すなわち、緩衝装置D1が伸縮する場合、外筒5に連結されているボール螺子ナット4の上下への直線運動はボール螺子ナット4と螺子軸3のボール螺子機構により、螺子軸3の回転運動に変換され、上記螺子軸3に連結されたモータMのシャフト8も回転する。
【0034】
モータMのシャフト8が回転運動を呈すると、モータM内の巻線には磁石の移動により誘導起電力が生じ、すなわち、運動エネルギが回生されて電気エネルギとなり、モータMのシャフト8には誘導起電力に起因する電磁力によるトルクが作用し、上記トルクがシャフト8の回転運動を抑制することとなる。
【0035】
このシャフト8の回転運動を抑制する作用は、上記螺子軸3の回転運動を抑制することとなり、螺子軸3の回転運動が抑制されるのでボール螺子ナット4の直線運動を抑制するように働き、緩衝装置は上記電磁力によって螺子軸3とボール螺子ナット4の直線運動を抑制する力を発生し振動エネルギを吸収緩和する。
【0036】
このとき、積極的に巻線に電流供給する場合には、シャフト8に作用する電磁力に起因するトルクを調節することで緩衝装置の伸縮を自由に制御、すなわち、緩衝装置の発生制御力を発生可能な範囲で自由に制御することが可能であるので、緩衝装置の減衰特性を可変としたり、緩衝装置をアクチュエータとして機能させたりすることも可能である。
【0037】
また、この緩衝装置D1にあっては、伸縮時に上記歯車12,13を介して回転体Wも回転運動することになり、この緩衝装置D1が発生する力は、モータMが出力する電磁力に起因する螺子軸3とボール螺子ナット4の直線運動を抑制する力と、回転体Wの慣性モーメントによる力と、緩衝装置D1における螺子軸3、モータMの回転子、歯車12,13等の回転する部材の慣性モーメントによる力の合力となる。
【0038】
そして、慣性モーメントによる上記車体側部材1と車軸側部材2の直線運動を抑制する力は、回転体Wおよび上記回転する部材の回転角速度に比例し、すなわち、緩衝装置D1の伸縮運動の加速度に比例して発生されることになる。
【0039】
以下、回転体Wの慣性モーメントが車両における乗り心地に対しどのように影響するかについて、車体側部材1と車軸側部材2との間に上記緩衝装置D1を介装するとともに、懸架バネSを並列に介装した図2に示す車両モデルを用いて説明する。
【0040】
路面から入力される振動周波数に対する車体側部材1の加速度の伝達ゲインは、図3に示すように、バネ上共振周波数領域(概ね1Hz近傍)とバネ下共振周波数領域(概ね4〜5Hz近傍)でピークがあらわれる。
【0041】
そして、モータMの電磁力に起因する力によって緩衝装置D1が発生する減衰特性を伸縮速度に依存する線形でパッシブなものとした場合、バネ上共振周波数領域における伝達ゲインピーク値は、回転体Wの慣性質量を増加していくと、単調に低減し、これに対し、バネ下共振周波数領域における伝達ゲインピーク値は、回転体Wの慣性質量を増加していくと、徐々に小さくなって極小値をとり、その後は増加する傾向を示し、バネ下共振周波数領域における伝達ゲインピーク値を採る際の周波数も低周波側に移動する。
【0042】
上記のようになることについて詳しく説明すると、モータMの電磁力に起因する力は、緩衝装置D1の伸縮速度に対し逆位相の関係となり、慣性モーメントによる力は、上記伸縮速度に対し90度位相進みの関係となる。そして、振動周波数が高れば高くなるほど車体側部材1の上下方向速度に対して緩衝装置D1の伸縮速度は位相遅れとなる。
【0043】
したがって、モータMの電磁力に起因する力は、振動周波数が高れば高くなるほど車体側部材1の上下方向速度に対して緩衝装置D1の伸縮速度の位相が遅れる傾向となる一方、周波数が高くなればなるほど伸縮速度慣性モーメントが大きくなることから、緩衝装置D1がトータルとして出力する力に占める慣性モーメントによる力の割合が大きくなる。
【0044】
すなわち、回転体Wの慣性質量の増加は、緩衝装置D1が発生するトータルの力の位相を車体側部材1の上下方向速度に対し進ませるに方向に作用する。
【0045】
つまり、振動周波数がバネ下共振周波数領域程度まで高くなると、車体側部材1の上下方向速度に対して逆位相よりもさらに位相遅れとなるモータMの電磁力に起因する力と、振動周波数が高くなると大きくなる慣性モーメントによる力との合計である緩衝装置D1の発生するトータルの力は、回転体Wの慣性質量を適当なものとすることにより、車体側部材1の上下方向速度に対し逆位相に近い関係を維持することができるようになり、これにより上記伝達ゲインのピーク値を低減させることができるのである。
【0046】
これに対し、回転体Wの慣性質量をさらに増加させると、今度は、緩衝装置D1が発生するトータルの力の位相が車体側部材1の上下方向速度に対し逆位相近傍から離れて位相進みが激しくなるので、上記伝達ゲインのピーク値が上記減少から転じて増大する傾向となるのである。
【0047】
なお、振動周波数がバネ上共振周波数領域においては、慣性モーメントが比較的小さいことおよびモータMの電磁力に起因する力の車体側部材1の上下方向速度に対する位相遅れも小さいので、回転体Wの質量増加の影響が小さいので、回転体Wの慣性質量を極度に大きくしなければ、バネ上共振周波数領域における伝達ゲインのピーク値は単調に減少する傾向を示す。
【0048】
したがって、回転体Wの慣性質量を適当なものとして慣性モーメントの大きさを調節することで、バネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材1の加速度に対する伝達ゲインピーク値を減少せしめることが可能となる事が理解できよう。
【0049】
そして、この緩衝装置D1によれば、上述のごとく、回転体Wの慣性質量を、錘16の数、形状や質量を変化させることで慣性モーメントの大きさを調節することができるので、緩衝装置D1が適用される車両に合わせてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材1の加速度に対する伝達ゲインのピーク値を減少せしめることが可能となる。
【0050】
すなわち、この緩衝装置D1にあっては、適用される車両にあわせて最適な慣性モーメントによる力を発生できるので、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0051】
また、回転体Wの慣性質量の変更だけでなく、歯車12,13のギア比によっても慣性モーメントにより生じる力を調節することができるので、回転体Wの慣性質量変更に伴う慣性モーメントによる力の調整幅を変更することができ、きめ細かい力の設定も可能となる。
【0052】
なお、上述したところでは、モータMの電磁力に起因する力を線形でパッシブなものとしているが、上記モータMによる力を制御装置等で制御する場合にあっても、使用される制御則との兼ね合いにおいて、車両制御上最適となるように回転体Wの慣性質量を設定しておくことにより、車両における乗り心地を向上できることは勿論である。
【0053】
また、上述したところでは、1つの回転体Wを設けるとしているが、歯車13とは別に歯車12に噛合する歯車を設けて、該歯車に回転体Wを連結して、回転体Wを複数設けてもよいことは勿論であり、またさらに、歯車12をモータMのシャフト8ではなく螺子軸3側に設けておくとしてもよい。
【0054】
つづいて、第2の実施の形態における緩衝装置D2について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については、以下同一の符号を付するのみとして、その詳しい説明を省略する。
【0055】
この第2の実施の形態における緩衝装置D2では、図4に示すように、第1の実施の形態における緩衝装置D1のモータMのシャフト8を螺子軸3に連結するのではなく、シャフト8の先端に設けた歯車22とボール螺子ナット4の外周に設けた歯車21とを噛合させてボール螺子ナット4の回転運動がモータMに伝達できるようにしてある。
【0056】
以下、詳しく説明すると、ボール螺子ナット4は、筒23内にボールベアリング24,24を介して回転自在に固定してあり、筒23の図4中上端は、車体側部材1にマウント25を介して連結してある。
【0057】
また、このボール螺子ナット4は、車軸側部材2にアイ26を介して連結された螺子軸3に回転自在に螺合させてあり、車体側部材1と車軸側部材2とが相対的な直線運動を呈すると、螺子軸3が車軸側部材2によって回転が規制されているので、第1の実施の形態とは異なり、ボール螺子ナット4が回転運動を呈するようになっている。
【0058】
すなわち、この場合の運動変換機構Hにおける回転側部材はボール螺子ナット4ということになる。
【0059】
そして、このボール螺子ナット4の回転運動が、上記歯車21,22の歯車機構によってモータMのシャフト8に伝達されるようになっており、モータMの電磁力に起因する力で螺子軸3とボール螺子ナット4の軸方向の直線運動を抑制、すなわち、車体側部材1と車軸側部材2との直線運動を抑制することができるようになっている。
【0060】
また、上記ボール螺子ナット4の外周側に設けられた歯車21は、モータMのシャフト8に連結された歯車22以外に、歯車27に噛合しており、この歯車27には、第1の実施の形態と同様の回転体Wが取付けられている。
【0061】
さらに、この第2の実施の形態における緩衝装置D2にあっては、螺子軸3の螺子溝に噛合する歯車28が設けられており、この歯車28にも第1の実施の形態と同様の回転体Wが取付けられている。
【0062】
つまり、この緩衝装置D2にあっては、螺子軸3とボール螺子ナット4とが軸方向の相対的な直線運動を呈すると、この直線運動が歯車21と歯車27との歯車機構により、さらには、螺子軸3と歯車28の機構により、二つの回転体Wが回転運動を呈するようになっている。
【0063】
したがって、この緩衝装置D2にあっては、その発生する力は、おおよそ、モータMの電磁力に起因する力と、2つの回転体Wの慣性モーメントによる力と、モータMの回転子およびボール螺子ナット4および各歯車21,22,27,28の慣性モーメントによる力の合力となる。
【0064】
ここで、上記回転体Wについては、その慣性質量の変更が可能となっているので、慣性モーメントの大きさを調節することができ、第1の実施の形態と同様に、緩衝装置D2が適用される車両に合わせてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材1の加速度に対する伝達ゲインのピーク値を減少せしめることが可能となる。
【0065】
すなわち、この緩衝装置D2にあっても、適用される車両にあわせて最適な慣性モーメントによる力を発生できるので、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0066】
なお、上述したところでは、この第2の実施の形態における緩衝装置D2では、回転体Wを2つ設けているが、いずれか1つを歯車と共に省略しても上記作用効果は失われないが、回転体Wを2つ設けることにより慣性モーメントによる力に影響を与える回転体W,Wの全体の質量の変更幅を大きくすることができる利点がある。
【0067】
また、いずれか1つの回転体Wのみを備える緩衝装置D2にあっては、1つの回転体Wおよび歯車を省略するので、その分緩衝装置D2を小型化できるメリットがあり、車両への搭載性が向上することになる。
【0068】
なお、どちらの回転体Wを省略するかについては、緩衝装置D2の搭載スペースを考慮した上で選択することができる。
【0069】
さらに、図5に示した緩衝装置D3について説明する。この緩衝装置D3は、車体側部材1と車軸側部材2の直線運動を回転運動に変換する運動変換機構Hと、上記回転運動が伝達されるモータMと、車体側部材1と車軸側部材2との直線運動により回転する回転体W2とを備えて構成されている。
【0070】
運動変換機構HおよびモータMについては、第1の実施の形態における緩衝装置D1と同様の構成である。
【0071】
したがって、この第3の実施の形態の緩衝装置D3における第1の実施の形態の緩衝装置D1と異なる部分は、回転体W2の構成である。
【0072】
この回転体W2は、モータMのシャフト8に連結される腕30と、腕30に移動可能に取付けられる錘31とで構成されており、詳しくは図示しないが、錘31には、腕30が挿通可能なように、図示しない孔が設けられており、錘31は、腕30上を、図5中左右に移動できるようになっている。
【0073】
また、錘31には、錘31の外周から上記孔に貫通する図示しない螺子孔が設けてあり、この螺子孔に図示しない螺子を螺着し、腕30に螺子の先端を圧接させるなどして錘31を腕30上の任意の位置に固定できるようになっている。
【0074】
なお、錘31の腕30への固定については、上記した方法以外の方法を利用してもよいことは勿論である。
【0075】
したがって、この回転体W2にあっても、車体側部材1と車軸側部材2とが相対的な直線運動を呈すると、モータMのシャフト8とともに回転することができるようなっている。
【0076】
そして、この回転体W2は、腕30への錘31の取付位置を変化させることにより回転体W2の慣性質量を変化させて、慣性モーメントの大きさを調節できる。
【0077】
無論、錘31を複数腕30に装着して、回転体W2の慣性質量を変化させることにしてもよい。
【0078】
この第3の実施の形態における緩衝装置D3にあっては、回転体W2の質量自体を変化させることによって、慣性モーメントの大きさを調節するのみならず、質量を変化させることに換えて腕30への錘31の取付位置の調節により慣性質量を変化させることによっても回転体W2の慣性モーメントの大きさを調節できる。
【0079】
つまり、わざわざ、錘を追加的に、もしくは錘そのものを交換して慣性モーメントを調節する必要がなくなり、錘の取付位置のみの調節で慣性モーメントを変化させることができ、その調節が簡易となる利点がある。
【0080】
そして、慣性モーメントの大きさを変化させることができることから、第1の実施の形態における緩衝装置D1と同様に、この第3の緩衝装置D3にあっても、緩衝装置D3が適用される車両に合わせてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材1の加速度に対する伝達ゲインのピーク値を減少せしめることが可能となる。
【0081】
すなわち、この緩衝装置D3にあっても、適用される車両にあわせて最適な慣性モーメントによる力を発生できるので、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0082】
なお、この実施の形態にあっては、モータMのシャフト8と螺子軸3とを連結するのにカップリング10を用いているが、カップリング10に上記腕30と同様の機能を果たす腕を一体的に設けるとすれば、部品点数を削減できて経済的である。
【0083】
最後に、図6に示した第4の実施の形態における緩衝装置について説明する。この第4の実施の形態における緩衝装置にあっては、第1の実施の形態と同様であり、図6中では、その図示を省略しているが、運動変換機構HおよびモータMは第1の実施の形態と同様に車体側部材1と車軸側部材2との間に介装されている。そして、この図6にあっては、回転体W3およびその周辺部分のみを図示している。
【0084】
この第4の実施の形態における緩衝装置は、上記した運動変換機構HおよびモータMの他に、車体側部材1に連結された車体側ラック41と、車軸側部材2に設けた車軸側ラック42と、上記車体側ラック41と車軸側ラック42とに噛合するピニオンギア43とを備えており、このピニオンギア43には回転体W3が連結されている。
【0085】
回転体W3は、ピニオンギア43の軸心に固着された回転軸44と、回転軸44に連結された腕45と、腕45に移動可能に取付けられる錘46とで構成されており、詳しくは図示しないが、腕45および錘46は、第3の実施の形態における腕30および錘31と同様の構成である。
【0086】
したがって、この回転体W3は、車体側部材1と車軸側部材2とが相対的な直線運動を呈すると、ラックアンドピニオンの機構により、ピニオンギア43が回転して、回転体W3もそれに伴って回転するようになっている。
【0087】
そして、回転体W3における錘46は、腕45の任意の位置に固定可能なようになっているので、この回転体W3による慣性モーメントの大きさを調節できるようになっている。
【0088】
すなわち、この第4の実施の形態における緩衝装置にあっても、慣性モーメントの大きさを変化させることができることから、第3の実施の形態における緩衝装置D3と同様に、第4の実施の形態における緩衝装置が適用される車両に合わせてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域における車体側部材1の加速度に対する伝達ゲインのピーク値を減少せしめることが可能となる。
【0089】
すなわち、この第4の実施の形態における緩衝装置にあっても、適用される車両にあわせて最適な慣性モーメントによる力を発生できるので、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0090】
また、この第4の実施の形態における緩衝装置にあっても、回転体W3の質量自他を変化させることによって、慣性モーメントの大きさを調節するのみならず、質量を変化させることに換えて腕45への錘46の取付位置の調節により慣性質量を変化させることによっても回転体W3の慣性モーメントの大きさを調節できるので、わざわざ、錘を追加的に、もしくは錘そのものを交換して慣性モーメントを調節する必要がなくなり、錘の取付位置のみの調節で慣性モーメントを変化させることができ、その調節が簡易となる利点がある。
【0091】
なお、上記した各実施の形態では、歯車機構を介して回転体W,W2を回転させるようにしているが、歯車機構に換えて摩擦車機構を利用してもよく、また、たとえば、歯車機構を省略し、回転体を錘のみとしてモータMの回転子や、螺子軸3、ボール螺子ナット4などの回転する部材に直接的に取付けるようにして慣性モーメントの大きさを調節するとしてもよく、その作用効果を失うことはない。
【0092】
さらに、回転体の質量の調節が煩雑にはなるが、回転体を歯車そのものや摩擦車等として、歯車等を取り替えることにして質量を変化させて、慣性モーメントの大きさを調整することにしてもよい。
【0093】
また、各実施の形態における回転体を複合して緩衝装置に適用することも可能である。
【0094】
さらに、回転体を設ける意図は、慣性モーメントの大きさを調節することを可能とし、車両における乗り心地を向上することにあることから、各実施の形態における回転体の形状、構造は上記実施の形態のものに限定されないことは勿論である。
【0095】
またさらに、各実施の形態における緩衝装置を図中天地逆にして車体側部材1と車軸側部材2との間に介装してもよい。
【0096】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】第1の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
【図2】車両モデルを示す図である。
【図3】振動周波数に対する車体側部材1の加速度の伝達ゲインを示した図である。
【図4】第2の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
【図5】第3の実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
【図6】第4の実施の形態の緩衝装置における回転体およびその周辺部分の側面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 車体側部材
2 車軸側部材
3 螺子軸
4 螺子ナットたるボール螺子ナット
5 外筒
6,26 アイ
7,25 マウント
8 シャフト
9 ケース
10 カップリング
12,13,21,22,27,28 歯車
14,44 回転軸
15 溝
16,31,46 錘
17 突起部
18 ナット
19 螺子溝
20 ストッパ
23 筒
24 ボールベアリング
30,45 腕
41 車体側ラック
42 車軸側ラック
43 ピニオンギア
D1,D2,D3 緩衝装置
H 運動変換機構
M モータ
S 懸架バネ
W,W2,W3 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材と車軸側部材との直線運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備え、モータにおける磁石に対向する巻線に作用する電磁力で上記直線運動を抑制する緩衝装置において、車体側部材と車軸側部材との直線運動により回転する1つもしくは複数の回転体を設けたことを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
少なくとも1つ以上の回転体は、モータシャフトもしくは運動変換機構の回転側部材の回転運動が伝達されて回転することを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
車体側部材に設けた車体側ラックと、車軸側部材に設けた車軸側ラックと、上記車体側ラックと車軸側ラックとに噛合するピニオンギアとを備え、該ピニオンギアの回転運動が回転体に伝達されることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
運動変換機構は、螺子軸と、螺子軸に螺合する螺子ナットを備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項5】
螺子軸の直線運動が螺子ナットの回転運動に変化され、螺子ナットの回転運動が回転体に伝達されること特徴とする請求項4に記載の緩衝装置。
【請求項6】
螺子ナットの直線運動が螺子軸の回転運動に変換され、螺子軸の回転運動が回転体に伝達されることを特徴とする請求項4に記載の緩衝装置。
【請求項7】
螺子軸に噛合する歯車を備え、該歯車に回転体を連結したことを特徴とする請求項4または6に記載の緩衝装置。
【請求項8】
少なくとも1つ以上の回転体は、回転軸と、回転軸に着脱自在に取付けられる錘とを備えていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項9】
少なくとも1つ以上の回転体は、回転軸と、回転軸に取付けられた腕と、腕上を移動可能に取付けられる錘とを備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項10】
少なくとも1つ以上の回転体は、モータのシャフトあるいは螺子軸と螺子ナットのうち回転側部材に連結される腕と、腕上を移動可能に取付けられる錘とを備えていることを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−194261(P2006−194261A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3621(P2005−3621)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】