説明

縮合多環芳香族化合物を含有する混合物,縮合多環芳香族化合物薄膜,及びその製造方法

【課題】膜厚,膜質等の均一性に優れ高い移動度を発現する有機半導体薄膜及びその製造方法、並びに該有機半導体薄膜をウェットプロセスによって製造するための材料を提供する。また、電子特性の優れた有機半導体素子を提供する。
【解決手段】ペンタセンと環状ポリオレフィンと1,2,4−トリクロロベンゼンとの混合物を加熱して、均一溶液を調整した。ソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成したシリコン基板を140℃に加熱し、その表面にペンタセン溶液を展開した。1,2,4−トリクロロベンゼンが蒸発することによってペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜が形成され、トランジスタが形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜を製造するための材料に関する。また、有機半導体薄膜及びその製造方法、並びに有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を用いたデバイスは、従来の無機半導体デバイスに比べて成膜条件がマイルドであり、各種基板上に半導体薄膜を形成したり、常温で成膜したりすることが可能であるため、低コスト化や、ポリマーフィルム等に薄膜を形成することによるフレキシブル化が期待されている。
有機半導体材料としては、ポリフェニレンビニレン,ポリピロール,ポリチオフェン等の共役系高分子化合物やそのオリゴマーとともに、アントラセン,テトラセン,ペンタセン等のポリアセン化合物を中心とする芳香族化合物が研究されている。特に、ポリアセン化合物は分子間凝集力が強いため高い結晶性を有していて、これによって高いキャリア移動度と、それによる優れた半導体デバイス特性とを発現することが報告されている。
【0003】
そして、ポリアセン化合物のデバイスへの利用形態としては蒸着膜又は単結晶があげられ、トランジスタ,太陽電池,レーザー等への応用が検討されている(非特許文献1〜3を参照)。
また、蒸着法以外の方法でポリアセン化合物の薄膜を形成する方法として、ポリアセン化合物の一種であるペンタセンの前駆体の溶液を基板上に塗布し、加熱処理してペンタセン薄膜を形成する方法が報告されている(非特許文献4を参照)。この方法は、ポリアセン化合物のような縮合多環芳香族化合物は一般的な溶媒に対する溶解性が低く、ウェットプロセスによって溶液から薄膜を形成することが困難であるため、溶解性の高い前駆体の溶液を用いて薄膜を形成し、熱により前駆体をポリアセン化合物に変換するというものである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−307172号公報
【非特許文献1】「アドバンスド・マテリアルズ」,2002年,第14巻,p.99
【非特許文献2】ジミトラコポウラスら,「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」,1996年,第80巻,p.2501
【非特許文献3】クロークら,「IEEE・トランザクション・オン・エレクトロン・デバイシス」,1999年,第46巻,p.1258
【非特許文献4】ブラウンら,「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」,1996年,第79巻,p.2136
【非特許文献5】高橋ら,「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー」,2000年,第122巻,p.12876
【非特許文献6】グラハムら,「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー」,1995年,第60巻,p.5770
【非特許文献7】ミラーら,「オーガニック・レターズ」,2000年,第2巻,p.3979
【非特許文献8】「アドバンスド・マテリアルズ」,2003年,第15巻,p.1090
【非特許文献9】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー」,2003年,第125巻,p.10190
【非特許文献10】シリングハウスら,「ネイチャー」,1999年,第401巻,p.685
【非特許文献11】ミナカタら,「合成金属国際会議プロシーディング(ICSM−2004)」,2004年,AC17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のような前駆体を利用してポリアセン化合物の薄膜を形成する方法は、前記前駆体をポリアセン化合物に変換するために高温処理が必要であるという問題点を有していた(例えば、ペンタセンの場合であれば150℃程度)。また、ポリアセン化合物への変換反応を完全に行うことが難しいため未反応部分が欠陥として残ったり、高温により変性が生じて欠陥となったりするという問題点も併せて有していた。
【0006】
このように、ポリマー系有機半導体においては溶液塗布により薄膜を形成した例や半導体素子化した例が数多く報告されているが、低分子系有機半導体においては溶液塗布により薄膜を形成した例は極めて限られている。例えば、チオフェン誘導体やナフタレンテトラカルボン酸イミドの溶液を塗布して薄膜を形成することや、縮合多環芳香族化合物の溶液塗布により薄膜を形成することが困難であることが、特許文献1に報告されている。
【0007】
ポリアセン化合物のような縮合多環芳香族化合物の薄膜を溶液塗布により形成した例もあるが、作製条件によって膜厚,膜質等の均一性が不十分となる場合がある。この理由としては、ポリアセン化合物の溶液の粘度が低く、溶媒の粘度と同等であるため、溶液が流動しやすく成膜時の溶液保持性が不十分であることが考えられる。このため、膜厚,膜質等の均一性に優れた薄膜やその製造方法が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、前述のような従来技術が有する問題点を解決し、膜厚,膜質等の均一性に優れ高い移動度を発現する有機半導体薄膜及びその製造方法、並びに該有機半導体薄膜をウェットプロセスによって製造するための材料を提供することを課題とする。また、電子特性の優れた有機半導体素子を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、縮合多環芳香族化合物と、前記縮合多環芳香族化合物を溶解可能であり且つ前記縮合多環芳香族化合物よりも高い蒸気圧を有する有機化合物と、前記有機化合物に溶解可能な高分子材料と、を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る請求項2の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記縮合多環芳香族化合物の含有量が0.05質量%以上1質量%以下、前記有機化合物の含有量が94質量%以上99.94質量%以下、前記高分子材料の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る請求項3の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項1又は請求項2に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記高分子材料が絶縁性を有することを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記高分子材料がオレフィン系樹脂であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る請求項5の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項4に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記オレフィン系樹脂が環状オレフィン系樹脂であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項6の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記縮合多環芳香族化合物がポリアセン化合物及びその誘導体の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る請求項7の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物において、前記縮合多環芳香族化合物がペンタセン及びその誘導体の少なくとも一方であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項8の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物をベース上に配した後に、前記混合物から前記有機化合物を除去することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る請求項9の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法は、請求項8に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法において、前記混合物及び前記ベースの少なくとも一方を加熱することにより、前記混合物から前記有機化合物を蒸発させることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項10の縮合多環芳香族化合物薄膜は、請求項8又は請求項9に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法により製造された縮合多環芳香族化合物薄膜であって、前記縮合多環芳香族化合物と前記高分子材料とがそれぞれ層状に積層されてなることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る請求項11の縮合多環芳香族化合物薄膜は、請求項10に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜において、前記縮合多環芳香族化合物の層が前記ベースに隣接し、前記高分子材料の層が表面側に配されていることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項12の有機半導体素子は、請求項10又は請求項11に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜で少なくとも一部を構成したことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明に係る請求項13のディスプレイ装置は、多数の画素からなる画素面を備えるディスプレイ装置において、前記各画素は、請求項12に記載の有機半導体素子を備えることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項14のディスプレイ装置は、請求項13に記載のディスプレイ装置において、前記有機半導体素子が備える電極,誘電体層,及び半導体層を、液体の印刷又は塗布によって形成したことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項15のインクは、請求項1〜7のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物及び本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法によれば、一般的な溶媒に対する溶解性が低い縮合多環芳香族化合物の薄膜を、ウェットプロセスによって形成することができ、しかも膜厚,膜質等の均一性に優れた薄膜を形成することができる。
また、本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜は、膜厚,膜質等の均一性に優れ、且つ、高い移動度を有している。さらに、本発明の有機半導体素子は、素子性能の安定性が高く、優れた電子特性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜は、縮合多環芳香族化合物と、縮合多環芳香族化合物を溶解可能であり且つ縮合多環芳香族化合物よりも高い蒸気圧を有する有機化合物と、有機化合物に溶解可能な高分子材料と、を含有する混合物(分散液又は均一溶液)から、ウェットプロセスによって製造されるものである。本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜は、縮合多環芳香族化合物と高分子材料とからなり、各成分からなる層が積層した構造を有している。なお、有機化合物は、常温よりも高い温度で縮合多環芳香族化合物を溶解可能であることが好ましい。まず、縮合多環芳香族化合物について説明する。
【0019】
本発明において用いられる縮合多環芳香族化合物としては、2個以上15個以下のベンゼン環が縮合した多環構造の芳香族化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、アントラセン,テトラセン,ペンタセン,ヘキサセン,オバレン,コロネン,ジベンゾコロネン,ヘキサベンゾコロネン,テリレン,クオテリレン,イソビオラントレン,ビスアンテン,アンタンスレン,サーカムアントラセン,テトラベンゾコロネン,ジコロニレン,サーコビフェニル,ターフェニレン,クオターフェニレン,ペンタフェニレン,セクシフェニレンがあげられる。
【0020】
また、芳香環を構成する炭素の一部がイオウ(S),セレン(Se),テルル(Te)等のカルコゲン元素で置換された複素環を備える縮合多環芳香族化合物も好ましい。このような化合物としては、例えば、テトラチアフルバレン,テトラセレナフルバレン,ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン,オリゴチオフェン(ターチオフェン,クオターチオフェン,ペンタチオフェン,セクシチオフェン等)があげられる。
【0021】
さらに、窒素を有する複素環を備える縮合多環芳香族化合物も好ましい。窒素を有する複素環としては、例えば、ピロール環,ピリジン環,ピロリドン環,イミダゾール環,ピラジン環等があげられる。
これらの縮合多環芳香族化合物は、ベンゼン環に結合する水素原子の一部又は全部が官能基で置換された分子構造を有する誘導体であってもよい。官能基としては、例えば、アルキル基,アルケニル基,アルキニル基等の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、エーテル基、ハロゲン基、ホルミル基、アシル基、エステル基、メルカプト基、チオアルキル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、アミド基があげられる。
【0022】
これらの縮合多環芳香族化合物のうち、テトラセン,ペンタセン,ヘキサセン等のポリアセン化合物及びポリアセン化合物の誘導体は、高い移動度を発現するため好ましい。この理由としては、ポリアセン化合物が分子同士でスタックして導電面が2次元的ネットワークを有するヘリンボン構造を取りやすいため、π電子軌道の重なりが大きくなり、キャリアが分子間を移動しやすいことがあげられる。また、移動度の安定性を考慮すると、ペンタセン及びペンタセン誘導体がさらに好ましい。
【0023】
ペンタセン等の縮合多環芳香族化合物は、粉末状態,薄片,針状結晶等の形態のものを用いることができる。また、高品質の有機半導体薄膜を得るためには、高純度の縮合多環芳香族化合物を用いることが好ましい。ペンタセン等の縮合多環芳香族化合物を高純度化する方法としては、例えば、一般的な精製方法である昇華精製法や、再結晶法がある。再結晶法は、縮合多環芳香族化合物を溶解可能な有機化合物(溶媒に相当する)に縮合多環芳香族化合物を溶解し、この縮合多環芳香族化合物溶液から再結晶することにより高純度の縮合多環芳香族化合物を得る方法である。
【0024】
次に、縮合多環芳香族化合物の溶液を形成する際には溶媒に相当する有機化合物について説明する。本発明において用いられる有機化合物は、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素の少なくとも一方であり、縮合多環芳香族化合物よりも高い蒸気圧を有する必要がある。そして、常温よりも高い温度において縮合多環芳香族化合物を溶解して、均一な溶液を形成可能であることが好ましい。
【0025】
ハロゲン化炭化水素の例としては、クロロベンゼン,ブロモベンゼン,ヨードベンゼン,フルオロベンゼン,ジクロロベンゼン,ジブロモベンゼン,ジヨードベンゼン,ジフルオロベンゼン,トリクロロベンゼン,クロロトルエン,ブロモトルエン,ヨードトルエン,ジクロロトルエン,ジブロモトルエン,ジフルオロトルエン,クロロキシレン,ブロモキシレン,ヨードキシレン,クロロエチルベンゼン,ブロモエチルベンゼン,ヨードエチルベンゼン,ジクロロエチルベンゼン,ジブロモエチルベンゼン,クロロナフタレン,ブロモナフタレン,ジクロロナフタレン,ジクロロアントラセン,テトラクロロベンゼン,トリブロモベンゼン,テトラブロモベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素や、ジクロロエタン,トリクロロエタン,ジフルオロエタン,テトラクロロエタン,テトラフルオロエタン,フルオロクロロエタン,クロロプロパン,ジクロロプロパン,クロロペンタン,クロロヘキサン,クロロシクロペンタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素があげられる。
【0026】
また、炭化水素の例としては、トルエン,キシレン,メシチレン,ナフタレン,メチルナフタレン等の芳香族炭化水素や、デカヒドロナフタレン,オクタン,ノナン,デカン,アンデカン,ドデカン,シクロヘプタン等の脂肪族炭化水素があげられる。さらに、ジフェニルエーテル等のエーテル類、炭酸プロピレン等のカーボネート、エステル類(ブチルラクトン,プロピオラクトン等)、ケトン類(シクロヘキサノン,メチルイソブチルケトン等)、スルフォン類(ジメチルスルホキシド,ジフェニルスルフォン等)もあげられる。
【0027】
これらの有機化合物の中では、縮合多環芳香族化合物の溶解性の高さ及び形成された薄膜の特性を考えると、芳香族ハロゲン化炭化水素が好ましい。また、混合物を常温よりも高い温度に加熱して、縮合多環芳香族化合物を有機化合物に溶解させて溶液を形成するためには、有機化合物の沸点は100℃以上であることが好ましい。さらに、混合物から有機化合物を除去して薄膜を形成するために、有機化合物の蒸気圧は縮合多環芳香族化合物のそれよりも高い必要があるので、有機化合物の沸点は250℃以下であることが好ましい。なお、加圧下で溶液を調整する場合には、有機化合物の沸点は特に限定されない。
【0028】
次に、高分子材料について説明する。この高分子材料は、前述の溶媒に相当する有機化合物により膨潤可能であることが好ましく、該有機化合物に対する溶解性が高いことがより好ましい。溶解性が高いと、縮合多環芳香族化合物と有機化合物との混合物から均一溶液が調整しやすく、溶液塗布により得られた薄膜の膜厚均一化や溶液の流動抑制につながる。また、印刷製法を用いた溶液塗布においても、高分子材料の混合によって好適な溶液粘度に調整できるため好ましい。
【0029】
基板等のベース上に均一溶液を展開し有機化合物を蒸発させると、ベース上に縮合多環芳香族化合物と高分子材料が析出し薄膜が形成される。この薄膜は、縮合多環芳香族化合物がベースに隣接して層状に析出し、高分子材料が表面側に層状に析出した積層構造を有することが好ましい。縮合多環芳香族化合物と高分子材料とが層状に分離して析出する理由は明らかではないが、縮合多環芳香族化合物の有機化合物に対する溶解度は高分子材料に比べて低いため、有機化合物の蒸発過程において高分子材料よりも縮合多環芳香族化合物が先に析出し、高分子材料を含有する溶液が表面側に残るためであると考えられる。
【0030】
この高分子材料は、絶縁性であることが好ましい。特に、縮合多環芳香族化合物薄膜を半導体素子として用いる場合に、高分子材料が半導体であると、縮合多環芳香族化合物薄膜の半導体層からキャリアリークが発生するため好ましくない。例えば、高分子材料としてポリチオフェンやポリビニルカルバゾールなどの半導体を用いると、得られた縮合多環芳香族化合物薄膜の半導体特性は、高分子材料を用いなかった場合に比較して低くなる。高分子材料の体積抵抗率は、106 Ω・cm以上であることが好ましく、108 Ω・cm以上であることがさらに好ましい。
【0031】
高分子材料の具体例としては、ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブタジエン等のオレフィン系樹脂や、ノルボルネン樹脂,シクロペンタジエン系樹脂,ジシクロペンタジエン系樹脂,シクロヘキサジエン系樹脂,水素添加ポリスチレン樹脂等の環状オレフィン系樹脂があげられる。このような樹脂は前記有機化合物に対する溶解性が優れるだけでなく、縮合多環芳香族化合物への密着性,絶縁性に優れるため好ましい。なお、これらの樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、好ましくは数平均分子量5000以上500万以下である。また、これらの樹脂は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて、他の高分子材料を混合してもよい。
【0032】
また、前述のように、縮合多環芳香族化合物薄膜においては、縮合多環芳香族化合物の層の上に高分子材料の層が配されているので、高分子材料の層は縮合多環芳香族化合物の層の保護層として作用する。例えば、縮合多環芳香族化合物薄膜を電界効果トランジスタに利用する場合には、高分子材料の含水率が低いことが好ましい。そうすれば、電界効果トランジスタのオフ電流の低減に寄与する。高分子材料の含水率は、1%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
次に、上記のような縮合多環芳香族化合物と有機化合物と高分子材料とを含有する混合物(分散液又は均一溶液)から、縮合多環芳香族化合物薄膜をウェットプロセスによって製造する方法について説明する。
縮合多環芳香族化合物と有機化合物と高分子材料とを含有する混合物をベース上に配し、混合物から有機化合物を除去すると、縮合多環芳香族化合物と高分子材料とからなる縮合多環芳香族化合物薄膜がベース上に形成される。有機化合物を除去する方法は特に限定されるものではないが、混合物を常温よりも高い温度に加熱して、混合物から有機化合物を蒸発させる方法が好ましい。ただし、前記混合物が分散液(縮合多環芳香族化合物が有機化合物中に分散しているもの)である場合には、混合物中の縮合多環芳香族化合物のうち少なくとも一部を有機化合物に溶解させた後に、有機化合物を混合物から除去する。
【0034】
なお、前記混合物を常温よりも高い温度に加熱して得られた溶液を、加熱したベース上に配して、有機化合物を蒸発させて薄膜を形成させてもよい。このように、縮合多環芳香族化合物薄膜を製造する方法には、縮合多環芳香族化合物と有機化合物と高分子材料とを含有する混合物を常温よりも高い温度に加熱して溶液を形成する工程を含んでいてもよい。したがって、例えば縮合多環芳香族化合物と常温よりも高い温度で該化合物を溶解可能な有機化合物と高分子材料とを、それぞれベース上に逐次供給して混合物を形成し、加熱により溶液化した後に有機化合物を蒸発させて縮合多環芳香族化合物薄膜を形成する方法も採用可能である。
【0035】
これらの縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法のうち、前記混合物を加熱して形成した溶液を加熱したベース上に配し、有機化合物を蒸発させて縮合多環芳香族化合物薄膜を形成する方法は、縮合多環芳香族化合物薄膜の均一性に優れるため好ましい。前記混合物を加熱して溶液を形成する際には、一部の縮合多環芳香族化合物が固形分として残存してもよいが、残存分のない均一溶液を形成することがより好ましい。なお、薄膜の形成過程においては、高分子材料は混合物中で均一溶解していることが必要である。
【0036】
前記混合物全体における高分子材料の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。0.01質量%未満であると、高分子材料の添加効果が不十分となる。一方、5質量%超過であると、縮合多環芳香族化合物との相分離が生じにくくなるため、縮合多環芳香族化合物薄膜の連続性が遮断されやすくなる。
また、前記混合物全体における有機化合物の含有量は、94質量%以上99.94質量%以下とすることが好ましい。94質量%未満であると、混合物中の縮合多環芳香族化合物の溶解が不十分となるため好ましくない。良好な薄膜の形成には、縮合多環芳香族化合物の含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、また高分子材料の含有量の下限値が0.01質量%であるため、有機化合物の含有量の上限値は99.94質量%となる。
【0037】
なお、前記混合物には、縮合多環芳香族化合物の分散性や均一性を向上させる目的で、分散助剤,界面活性剤,酸化防止剤,安定化剤を混合してもよい。これらの添加剤は、縮合多環芳香族化合物薄膜が形成される際に、薄膜から分離されたり、加熱により除去されるようなものであることが好ましい。したがって、有機化合物に対する添加剤の溶解度は優れていることがより好ましく、また添加剤の蒸気圧は縮合多環芳香族化合物よりも高いことがより好ましい。
【0038】
前記混合物全体における添加剤の含有量は、5ppm(0.005質量%)以上20質量%以下とすることが好ましい。5ppm未満では添加剤の効果が不十分となり、20質量%超過では縮合多環芳香族化合物の溶解性が低下するおそれがある。なお、混合物に添加剤を混合した場合には、その分だけ有機化合物の含有量を削減する。例えば、添加剤の含有量が20質量%である場合には、有機化合物の含有量は、74質量%以上79.94質量%以下となる。
【0039】
また、前記混合物の調整,加熱,前記混合物のベース上へ供給,有機化合物の蒸発等の薄膜製造のための操作は、縮合多環芳香族化合物の構造によっても異なるが、通常は大気下又は窒素,アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。ただし、ペンタセンやペンタセン誘導体の場合は、高移動度の薄膜を製造するためには、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0040】
さらに、前記混合物の加熱温度(縮合多環芳香族化合物や高分子材料を前記有機化合物に溶解させる温度)は、60℃以上250℃以下が好ましい。加熱温度が60℃未満であると、縮合多環芳香族化合物の溶解度が低いため、縮合多環芳香族化合物薄膜が不連続的に形成されやすくなる。また、ベース(基板)の温度が室温等の低温である場合は、前記混合物をベース上に配した際に結晶が生成して前記混合物中に浮遊するおそれがあるため、連続的な縮合多環芳香族化合物薄膜が形成されにくい。一方、加熱温度が250℃超過であると、縮合多環芳香族化合物を溶解可能な有機化合物が蒸発しやすくなるので、縮合多環芳香族化合物薄膜が均一に形成されにくくなる。さらに、固体状の縮合多環芳香族化合物が急速に析出するため、前記混合物の搬送や前記混合物のベースへの展開の不均一化などのようなプロセス上の問題が生じるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、前記混合物の加熱温度は80℃以上220℃以下がより好ましく、90℃以上180℃以下が最も好ましい。
【0041】
さらに、縮合多環芳香族化合物を含有する混合物を基板等のベース上に配する方法としては、塗布,噴霧の他、ベースを前記混合物に接触させる方法等があげられる。具体的には、スピンコート,ディップコート,スクリーン印刷,インクジェット印刷,ブレード塗布,印刷(平版印刷,凹版印刷,凸版印刷等)等の公知の方法があげられる。なお、高分子材料の添加により、混合物の粘度を前記各方法に適したものに調整することができる。また、これらの印刷方法には、本発明の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物に粘度等を調節するための添加物を加えたインクを用いることができる。
【0042】
このような方法で縮合多環芳香族化合物を含有する混合物をベース上に配し、ベースを加熱することが好ましい。加熱温度としては、60℃以上230℃以下が好ましい。この温度範囲から外れると、前述した混合物の加熱温度と同様の理由により、縮合多環芳香族化合物薄膜の不均一化やプロセス上の問題が生じやすくなる。
【0043】
ベースに配する混合物の温度とベースの温度とは、前述の範囲内であれば同一であってもよいし異なっていてもよい。加熱温度とベースの表面に生成する結晶の形態との相関性を調査したところ、縮合多環芳香族化合物の溶液から縮合多環芳香族化合物の結晶が析出する際、過冷却度が結晶の析出に影響することが分かった。すなわち、過冷却度が大きすぎると、結晶核が多数発生して、縮合多環芳香族化合物薄膜中に分離した結晶が生成しやすくなり、この結晶の粒界が電子やホールの輸送を妨げるという悪影響が生じる。前述の温度範囲にベースを加熱すれば、過冷却度が低減されて均一な縮合多環芳香族化合物薄膜が形成されやすくなる。ただし、加熱温度が高すぎると、混合物から縮合多環芳香族化合物の微結晶が析出し、縮合多環芳香族化合物薄膜の均一性が損なわれるおそれがある。これは、前記有機化合物の蒸発により、混合物の過冷却度が大きくなることが原因であると考えられる。
【0044】
なお、縮合多環芳香族化合物の層と高分子材料の層とが積層した縮合多環芳香族化合物薄膜に、溶媒への浸漬やエッチング等の処理を施して、高分子材料の層の一部又は全部を除去又は変性させてもよい。さらに、高分子材料の層の上に、さらに別の材料からなる層を積層してもよい。
このように、本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜は、ウェットプロセスで製造することが可能である。よって、従来の真空プロセスと比較して簡便且つ短時間に薄膜を製造できるので、生産性が高く低コストである。本発明によれば、これまで不溶又は難溶とされていた縮合多環芳香族化合物の薄膜をウェットプロセスで製造することができるので、ウェットプロセスにより製造可能な材料の数を増加させることができる。
また、縮合多環芳香族化合物の層の上に積層される高分子材料の層は、縮合多環芳香族化合物の層の保護層として利用することも可能であるが、通常の方法で縮合多環芳香族化合物の層と保護層とを積層する場合に比べると、本発明は製造工程数を削減できるため好ましい。
【0045】
また、縮合多環芳香族化合物薄膜を形成するためのベースの素材には、各種材料が利用可能である。例えば、ガラス,石英,酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,シリコン,ガリウム砒素,インジウム・スズ酸化物(ITO),酸化亜鉛,マイカ等のセラミックスや、アルミニウム,金,ステンレス鋼,鉄,銀等の金属があげられる。また、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等),ポリカーボネート,ノルボルネン系樹脂,ポリエーテルスルフォン,ポリイミド,ポリアミド,セルロース,シリコーン樹脂,エポキシ樹脂等の樹脂や、炭素や、紙等があげられる。あるいは、これらの複合体でもよい。ただし、ベースが有機化合物によって膨潤や溶解を起こし、不都合が生じる場合には、有機化合物がベースに拡散することを抑制するためバリア層を設けることが好ましい。
【0046】
さらに、ベースの形状は特に限定されるものではないが、通常はフィルム状のベースや板状のベース(基板)が用いられる。さらに、線状体や繊維構造体をベースとして用いることもできる。
このようにして製造された縮合多環芳香族化合物薄膜は高い結晶性を有し、薄膜内において、縮合多環芳香族化合物の分子の長軸がベースの表面に対して垂直方向に配向した構造を有している。そして、広角X線回折パターンの(00n)面の回折ピーク(nは1以上の整数)のうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅が、0.05deg以上0.3deg以下である。よって、該薄膜は結晶が大きく成長しており、半導体特性に優れている。
【0047】
また、このようにして製造されたペンタセン薄膜は高い結晶性を有し、薄膜内において、ペンタセン分子の長軸がベースの表面に対して垂直方向に配向した構造を有している。特に、薄膜の結晶構造が、一般的な薄膜形成法である真空蒸着法により形成した薄膜の構造とは異なる。
真空蒸着法により形成したペンタセン薄膜は、分子の長軸がベースの表面に対してほぼ垂直方向に配向した、いわゆる薄膜相((001)回折面の面間距離が1.50〜1.53nm)から形成され、安定化されたバルク相(面間距離が1.40〜1.45nm)が部分的に混在した結晶構造を有している。このようなペンタセン薄膜は、結晶性は高いが、結晶が準安定な構造であり、安定性の高い結晶構造ではない。
【0048】
これに対して、本発明の方法により製造されたペンタセン薄膜は、真空蒸着法により形成されたペンタセン薄膜とは結晶構造が異なり、安定化されたバルク相のみから形成されており、安定性の高い結晶構造を有する薄膜である。すなわち、本発明のペンタセン薄膜は、その広角X線回折パターンに存在する回折ピークのうちの大部分が、1.4nm以上1.5nm未満の面間距離に対応する(001)面に相当する回折ピークであり、1.5nm以上1.6nm未満の面間距離に対応する(001)面に相当する回折ピークは非常に小さい。そして、1.4nm以上1.5nm未満の面間距離に対応する(001)面に相当する回折ピークの強度Iと、1.5nm以上1.6nm未満の面間距離に対応する(001)面に相当する回折ピークの強度I’との比I/I’は、10超過である。
【0049】
また、本発明のペンタセン薄膜は結晶性が高いので、(00n)面(nは1以上の整数)に相当する回折ピークは高次にまで存在し、真空蒸着法で得られるペンタセン薄膜に比べて、より高い次数の回折ピークが観測される。
さらに、本発明の薄膜の製造方法によれば、従来法の真空蒸着法に比べて、結晶をより大きく成長させることができ、薄膜形態は原子間力顕微鏡(AFM),電子顕微鏡,光学顕微鏡により判別できる。
【0050】
本発明のペンタセン薄膜の形態(結晶の組織構造)は、粒子状の結晶からなる組織構造を一部有するとともに、板状結晶からなる組織構造や、板状結晶がベースの表面に広く成長したシート状の組織構造を有する形態である。この板状結晶からなる組織構造やシート状の組織構造は、真空蒸着法で形成したペンタセン薄膜には観測されず、本発明の薄膜の製造方法により得られたペンタセン薄膜に特異な組織構造である。本発明のペンタセン薄膜におけるシート状の組織構造は、表面が比較的平坦で、結晶の段差部分が平行な線状をなして同一平面内に形成され、粒界組織はほとんど存在しない。
【0051】
これらの各組織構造を有するペンタセン薄膜から電界効果トランジスタを作製して性能を比較したところ、粒子状の結晶からなる組織構造を有するペンタセン薄膜をチャネルに有するトランジスタと比べて、板状結晶からなる組織構造やシート状の組織構造を有するペンタセン薄膜をチャネルに有するトランジスタの方が、電界効果移動度,敷居電圧安定性等の性質が優れることが分かった。特に、シート状の組織構造を有するペンタセン薄膜をチャネルに有するトランジスタは、on電流が高く敷居電圧が0Vに漸近すること、on/off電流比が高くなること等、好ましい性質を有している。
【0052】
本発明のペンタセン薄膜においては、板状結晶はその粒子径が3μm以上の大きさに成長しており、薄膜形成条件によっては数mm〜数cmの大きさのシート状の組織構造に成長している。さらに、ベースの表面一面にシート状の結晶が成長した単結晶に近い薄膜を製造することもできる。このように板状結晶やシート状の組織構造が大きいと、ペンタセン薄膜を用いて製造された有機半導体素子の輸送特性が均一化,高性能化されるため好ましい。
【0053】
このような縮合多環芳香族化合物薄膜を用いることにより、エレクトロニクス,フォトニクス,バイオエレクトロニクス等の分野において有益な半導体素子を製造することができる。このような半導体素子の例としては、ダイオード,トランジスタ,薄膜トランジスタ,メモリ,フォトダイオード,発光ダイオード,発光トランジスタ,センサ等があげられる。
【0054】
トランジスタ及び薄膜トランジスタは、液晶ディスプレイ,分散型液晶ディスプレイ,電気泳動型ディスプレイ,粒子回転型表示素子,エレクトロクロミックディスプレイ,有機発光ディスプレイ,電子ペーパー等の種々の表示素子に利用可能であり、これらの表示素子を用いて様々なディスプレイ装置を製造することができる。トランジスタ及び薄膜トランジスタは、これらの表示素子において表示画素のスイッチング用トランジスタ,信号ドライバ回路素子,メモリ回路素子,信号処理回路素子等に利用される。
【0055】
半導体素子がトランジスタである場合には、その素子構造としては、例えば、基板/ゲート電極/絶縁体層(誘電体層)/ソース電極・ドレイン電極/半導体層という構造、基板/半導体層/ソース電極・ドレイン電極/絶縁体層(誘電体層)/ゲート電極という構造、基板/ソース電極(又はドレイン電極)/半導体層+絶縁体層(誘電体層)+ゲート電極/ドレイン電極(又はソース電極)という構造等があげられる。このとき、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極は、それぞれ複数設けてもよい。また、複数の半導体層を同一平面内に設けてもよいし、積層して設けてもよい。
【0056】
トランジスタの構成としては、MOS(メタル−酸化物(絶縁体層)−半導体)型及びバイポーラ型のいずれでも採用可能である。縮合多環芳香族化合物は、通常はp型半導体であるので、ドナードーピングしてn型半導体とした縮合多環芳香族化合物と組み合わせたり、縮合多環芳香族化合物以外のn型半導体と組み合わせたりすることにより、素子を構成することができる。
また、半導体素子がダイオードである場合には、その素子構造としては、例えば、電極/n型半導体層/p型半導体層/電極という構造があげられる。そして、p型半導体層に本発明の縮合多環芳香族化合物薄膜が使用され、n型半導体層に前述のn型半導体が使用される。
【0057】
半導体素子における縮合多環芳香族化合物薄膜内部又は縮合多環芳香族化合物薄膜表面と電極との接合面の少なくとも一部は、ショットキー接合及び/又はトンネル接合とすることができる。このような接合構造を有する半導体素子は、単純な構成でダイオードやトランジスタを作製することができるので好ましい。さらに、このような接合構造を有する有機半導体素子を複数接合して、インバータ,オスシレータ,メモリ,センサ等の素子を形成することもできる。
【0058】
さらに、本発明の半導体素子を表示素子として用いる場合は、表示素子の各画素に配置され各画素の表示をスイッチングするトランジスタ素子(ディスプレイTFT)として利用できる。このようなアクティブ駆動表示素子は、対向する導電性基板のパターニングが不要なため、回路構成によっては、画素をスイッチングするトランジスタを持たないパッシブ駆動表示素子と比べて画素配線を簡略化できる。通常は、1画素当たり1個から数個のスイッチング用トランジスタが配置される。このような表示素子は、基板面に二次元的に形成したデータラインとゲートラインとを交差した構造を有し、データラインやゲートラインがトランジスタのゲート電極,ソース電極,ドレイン電極にそれぞれ接合されている。なお、データラインとゲートラインとを分割することや、電流供給ライン,信号ラインを追加することも可能である。
【0059】
また、表示素子の画素に、画素配線,トランジスタに加えてキャパシタを併設して、信号を記録する機能を付与することもできる。さらに、表示素子が形成された基板に、データライン及びゲートラインのドライバ,画素信号のメモリ,パルスジェネレータ,信号分割器,コントローラ等を搭載してディスプレイ装置とすることもできる。
また、本発明の有機半導体素子は、ICカード,スマートカード,及び電子タグにおける演算素子,記憶素子としても利用することができる。その場合、これらが接触型であっても非接触型であっても、問題なく適用可能である。このICカード,スマートカード,及び電子タグは、メモリ,パルスジェネレータ,信号分割器,コントローラ,キャパシタ等で構成されており、さらにアンテナ,バッテリを備えていてもよい。
【0060】
さらに、本発明の有機半導体素子でダイオード,ショットキー接合構造を有する素子,トンネル接合構造を有する素子を構成すれば、その素子は光電変換素子,太陽電池,赤外線センサ等の受光素子,フォトダイオードとして利用することもできるし、発光素子として利用することもできる。また、本発明の有機半導体素子でトランジスタを構成すれば、そのトランジスタは発光トランジスタとして利用することができる。これらの発光素子の発光層には、公知の有機材料や無機材料を使用することができる。
【0061】
さらに、本発明の有機半導体素子はセンサとして利用することができ、ガスセンサ,バイオセンサ,血液センサ,免疫センサ,人工網膜,味覚センサ等、種々のセンサに応用することができる。通常は、有機半導体素子を構成する縮合多環芳香族化合物薄膜に測定対象物を接触又は隣接させた際に生じる縮合多環芳香族化合物薄膜の抵抗値の変化によって、測定対象物の分析を行うことができる。
【0062】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔実施例1〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)30mgと、環状ポリオレフィン(JSR株式会社製のアートン)の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液(環状ポリオレフィンの濃度は0.2質量%)30gとの混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.1質量%、環状ポリオレフィンの濃度は0.2質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は99.7質量%である。
【0063】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を作製した。基板を破断して断面構造を観察した結果、基板の表面上にペンタセンの層が形成され、その上に環状ポリオレフィンの層が形成されており、ペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜は2層が積層した構造を有していることが分かった。
【0064】
得られた薄膜の広角X線回折パターン(図1を参照)は、面間距離1.46nmに対応する(00n)面(n=1 〜6)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.09degであった。
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。
【0065】
シリコン基板をゲート電極、表面の金電極をソース・ドレイン電極、ペンタセン薄膜を半導体層として、該トランジスタの電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、移動度は0.84cm2 /V・sで、on/off電流比は1×106 であった。
次に、前述と同様の電極パターンが形成されたシリコン基板を170℃又は180℃に加熱し、表面に200℃に加熱した前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。上記と同様にして電界効果トランジスタ特性を評価した結果、基板温度170℃の場合の移動度は0.92cm2 /V・s、基板温度180℃の場合の移動度は1.50cm2 /V・s、on/off電流比はいずれの場合も1×106 であった。
【0066】
〔実施例2〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)10mgと、ポリオレフィン(水素添加ポリスチレン)のo−ジクロロベンゼン溶液(ポリオレフィンの濃度は0.5質量%)10gとを混合して、ペンタセンが均一に分散した分散液を調整した。このペンタセン分散液のペンタセンの濃度は0.1質量%、ポリオレフィンの濃度は0.5質量%、o−ジクロロベンゼンの濃度は99.4質量%である。
【0067】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン分散液を120℃のシリコン基板上に展開すると、温度の上昇に伴ってペンタセンがo−ジクロロベンゼンに溶解し、ペンタセン分散液が青紫色に変化した。そして、その後にo−ジクロロベンゼンが蒸発し、シリコン基板表面にペンタセン−ポリオレフィン薄膜が形成された。
基板を破断して断面構造を観察した結果、基板の表面上にペンタセンの層が形成され、その上にポリオレフィンの層が形成されており、ペンタセン−ポリオレフィン薄膜は2層が積層した構造を有していることが分かった。
【0068】
得られたペンタセン−ポリオレフィン薄膜の広角X線回折パターン(図2を参照)は、面間距離1.45nmに対応する(00n)面(n=1 〜5)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.08degであった。また、1.5nm以上1.6nm未満の面間距離に対応する(001)面に相当する回折ピークは、観測されなかった。
【0069】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を120℃に加熱し、表面に前記ペンタセン分散液を展開してペンタセン−ポリオレフィン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。実施例1と同様にして電界効果トランジスタ特性を評価したところ、移動度は0.26cm2 /V・sで、on/off電流比は1×105 であった。
【0070】
〔実施例3〕
2,3−ジメチルペンタセン粉末10mgと、環状ポリオレフィン(JSR株式会社製のアートン)のo−ジクロロベンゼン溶液(環状ポリオレフィンの濃度は0.5質量%)10gとの混合物を、窒素雰囲気下で120℃に加熱して、均一溶液を調整した。この2,3−ジメチルペンタセン溶液の2,3−ジメチルペンタセンの濃度は0.1質量%、環状ポリオレフィンの濃度は0.5質量%、o−ジクロロベンゼンの濃度は99.4質量%である。
【0071】
窒素雰囲気下において、該2,3−ジメチルペンタセン溶液を100℃のシリコン基板上に展開し、o−ジクロロベンゼンを蒸発させて2,3−ジメチルペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を作製した。
基板を破断して断面構造を観察した結果、基板の表面上に2,3−ジメチルペンタセンの層が形成され、その上に環状ポリオレフィンの層が形成されており、2,3−ジメチルペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜は、2層が積層した構造を有していることが分かった。
【0072】
得られた2,3−ジメチルペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜の広角X線回折パターンは、面間距離(c軸格子定数)1.67nmに対応する(00n)面の回折ピーク(n=1 ,2,3,4)を有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.10degであった。このc軸格子定数は、2,3−ジメチルペンタセン分子の長軸方向の長さとファンデルワールス半径との和(1.70nm)にほぼ一致することから、2,3−ジメチルペンタセン分子は薄膜内において、分子の長軸を基板の表面に対して垂直方向に配向させて結晶を形成していることが分かった。
【0073】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を100℃に加熱し、表面に前述の2,3−ジメチルペンタセン溶液を展開して2,3−ジメチルペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。実施例1と同様にして電界効果トランジスタ特性を評価したところ、移動度は0.8cm2 /V・sで、on/off電流比は1×104 であった。
【0074】
〔実施例4〕
実施例1で調整したペンタセン粉末と環状ポリオレフィンと1,2,4−トリクロロベンゼンとの混合物を、170℃に加熱して均一溶液とし、ディスペンサ(武蔵エンジニアリング株式会社製)の吐出液リザーバ(150℃に加熱してある)に装填した。そして、ディスペンサから150℃に加熱したシリコン基板上に均一溶液を吐出して、ペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜パターンを形成した。
【0075】
得られたパターン薄膜の構造をX線回折により評価した結果、面間距離1.48nmに対応する(00l)面(l=1,2,3,4,5)の回折ピークが観測され、ペンタセン分子は薄膜内において、分子の長軸を基板の表面に対して垂直方向に配向させて結晶を形成していることが分かった。なお、(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.09degであった。
【0076】
次に、ディスペンサを用いて溶液を塗布したことを除いては実施例1と同様にしてシリコン基板の表面に前記均一溶液を展開し、電界効果トランジスタチャネル部分にペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜をパターン形成してトランジスタアレイを形成した。この際には、基板上に展開した均一溶液は基板上で流動することなく、所望の薄膜パターンが得られた。なお、薄膜パターンは縦横1mmピッチで、直径500μmの円形状に形成した。
実施例1と同様にして電界効果トランジスタ特性を評価したところ、移動度は0.15cm2 /V・sで、on/off電流比は3×105 であった。また、トランジスタアレイ内の素子毎の性能を測定した結果、移動度のばらつきは10%以内であった。
【0077】
〔比較例1〕
環状ポリオレフィンを含有しない点を除いては実施例4で用いた均一溶液と同様の溶液を170℃に加熱して、ディスペンサ(武蔵エンジニアリング株式会社製)の吐出液リザーバ(150℃に加熱してある)に装填した。そして、ディスペンサから150℃に加熱したシリコン基板上に均一溶液を吐出して、実施例4と同様にペンタセン薄膜パターンを形成した。しかしながら、基板上に展開した均一溶液が基板上で不規則に流動しながら乾燥し薄膜形成されたので、不均一な薄膜パターンが得られた。
【0078】
次に、実施例4と同様にして、電界効果トランジスタチャネル部分にペンタセン薄膜をパターン形成してトランジスタアレイを形成し、電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、溶液の流動に伴う膜厚の変動により素子間において膜厚のばらつきが大きいため、動作しない素子が多数存在した。また、動作した一部の素子の移動度は0.02〜0.1cm2 /V・sで、on/off電流比は1×105 であった。
【0079】
〔比較例2〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)30mgと、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(アルドリッチ社製)の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液(ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の濃度は0.2質量%)30gとの混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.1質量%、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の濃度は0.2質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は99.7質量%である。
【0080】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン−ポリ(3−ヘキシルチオフェン)薄膜を作製した。基板を破断して断面構造を観察した結果、ペンタセンのドメインとポリ(3−ヘキシルチオフェン)のドメインとが不規則に分離して形成されていることが分かった。
得られた薄膜の広角X線回折パターンは、面間距離1.46nmに対応する(00n)面(n=1 〜6)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.25degであった。
【0081】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−ポリ(3−ヘキシルチオフェン)薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。
シリコン基板をゲート電極、表面の金電極をソース・ドレイン電極、ペンタセン薄膜を半導体層として、該トランジスタの電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、移動度は1×10-4cm2 /V・sで、on/off電流比は約100であった。
【0082】
〔比較例3〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)と、ポリビニルカルバゾールの1,2,4−トリクロロベンゼン溶液(ポリビニルカルバゾールの濃度は0.2質量%)との混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.2質量%、ポリビニルカルバゾールの濃度は0.2質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は99.6質量%である。
【0083】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン−ポリビニルカルバゾール薄膜を作製した。基板を破断して断面構造を観察した結果、ペンタセンのドメインとポリビニルカルバゾールのドメインとが不規則に分離して形成されていることが分かった。
得られた薄膜の広角X線回折パターンは、面間距離1.46nmに対応する(00n)面(n=1 〜6)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は約0.4degであった。
【0084】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−ポリビニルカルバゾール薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。
シリコン基板をゲート電極、表面の金電極をソース・ドレイン電極、ペンタセン薄膜を半導体層として、該トランジスタの電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、移動度は1×10-5cm2 /V・sで、on/off電流比は約3であった。
【0085】
〔実施例5〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)30mgと、環状ポリオレフィン(JSR株式会社製のアートン)の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液(環状ポリオレフィンの濃度は0.01質量%)30gとの混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.1質量%、環状ポリオレフィンの濃度は0.01質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は99.89質量%である。
【0086】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を作製した。この際には、基板上に展開した均一溶液は基板上で流動することなく、均一な薄膜が形成された。基板を破断して断面構造を観察した結果、基板の表面上にペンタセンの層が形成され、その上に環状ポリオレフィンの層が形成されており、ペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜は2層が積層した構造を有していることが分かった。
得られた薄膜の広角X線回折パターンは、面間距離1.46nmに対応する(00n)面(n=1 〜6)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.10degであった。
【0087】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。
シリコン基板をゲート電極、表面の金電極をソース・ドレイン電極、ペンタセン薄膜を半導体層として、該トランジスタの電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、移動度は0.18cm2 /V・sで、on/off電流比は5×104 であった。
【0088】
〔比較例4〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)30mgと1,2,4−トリクロロベンゼン溶液30gとの混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.1質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は99.9質量%である。
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン薄膜を作製した。この際には、基板上に展開した均一溶液は溶媒蒸発とともに基板上を流動したため、やや不均一な薄膜が形成された。
得られた薄膜の広角X線回折パターンは、面間距離1.46nmに対応する(00n)面(n=1 〜6)の回折ピークを有し、このうち(001)面に相当する回折ピークの半価幅は0.09degであった。
【0089】
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン薄膜を形成し、トランジスタ構造とした。ペンタセン薄膜は溶液を展開した領域の一部分に形成され、ペンタセン薄膜が被覆されない領域も一部に存在した。
ペンタセン薄膜がチャネルに形成されたトランジスタの電界効果トランジスタ特性を評価した。その結果、移動度は0.15cm2 /V・sで、on/off電流比は3×104 であった。
【0090】
〔比較例5〕
ペンタセン粉末(アルドリッチ社製)30mgと、環状ポリオレフィン(JSR株式会社製のアートン)の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液(環状ポリオレフィンの濃度は6質量%)30gとの混合物を、窒素雰囲気下で150℃に加熱して、青紫色の均一溶液を調整した。このペンタセン溶液のペンタセンの濃度は0.1質量%、環状ポリオレフィンの濃度は6質量%、1,2,4−トリクロロベンゼンの濃度は93.9質量%である。
【0091】
窒素雰囲気下において、該ペンタセン溶液を140℃のシリコン基板上に展開し、1,2,4−トリクロロベンゼンを蒸発させてペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を作製した。しかしながら、該溶液が高粘度であったため、溶液を基板面に展開した際に溶液が盛上った状態(液膜が極めて厚い状態)が維持され、均一な薄膜は形成できなかった。
次に、n型ドーパントでヘビードープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えている)を用意し、その表面にソース・ドレイン電極として金電極のパターンを形成した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板を140℃に加熱し、表面に前記ペンタセン溶液を展開してペンタセン−環状ポリオレフィン薄膜を形成した。しかしながら、溶液粘度が高すぎたため均一な薄膜は形成されず、トランジスタ構造は形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、エレクトロニクス,フォトニクス,バイオエレクトロニクス等において好適である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例1のペンタセン薄膜の広角X線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例2のペンタセン薄膜の広角X線回折パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合多環芳香族化合物と、前記縮合多環芳香族化合物を溶解可能であり且つ前記縮合多環芳香族化合物よりも高い蒸気圧を有する有機化合物と、前記有機化合物に溶解可能な高分子材料と、を含有することを特徴とする縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項2】
前記縮合多環芳香族化合物の含有量が0.05質量%以上1質量%以下、前記有機化合物の含有量が94質量%以上99.94質量%以下、前記高分子材料の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項3】
前記高分子材料が絶縁性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項4】
前記高分子材料がオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂が環状オレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項6】
前記縮合多環芳香族化合物がポリアセン化合物及びその誘導体の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項7】
前記縮合多環芳香族化合物がペンタセン及びその誘導体の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物をベース上に配した後に、前記混合物から前記有機化合物を除去することを特徴とする縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記混合物及び前記ベースの少なくとも一方を加熱することにより、前記混合物から前記有機化合物を蒸発させることを特徴とする請求項8に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜の製造方法により製造された縮合多環芳香族化合物薄膜であって、前記縮合多環芳香族化合物と前記高分子材料とがそれぞれ層状に積層されてなることを特徴とする縮合多環芳香族化合物薄膜。
【請求項11】
前記縮合多環芳香族化合物の層が前記ベースに隣接し、前記高分子材料の層が表面側に配されていることを特徴とする請求項10に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の縮合多環芳香族化合物薄膜で少なくとも一部を構成したことを特徴とする有機半導体素子。
【請求項13】
多数の画素からなる画素面を備えるディスプレイ装置において、前記各画素は、請求項12に記載の有機半導体素子を備えることを特徴とするディスプレイ装置。
【請求項14】
前記有機半導体素子が備える電極,誘電体層,及び半導体層を、液体の印刷又は塗布によって形成したことを特徴とする請求項13に記載のディスプレイ装置。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する混合物を含有することを特徴とするインク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−344895(P2006−344895A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171162(P2005−171162)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】