説明

繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法、燃料、再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】繊維で補強された不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、繊維成分を不飽和ポリエステル樹脂成分からの分離回収するとともに、回収した不飽和ポリエステル樹脂成分から、各種用途に適した再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、前記分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程と分解液に二塩基酸を加えて、分解液中のグルコール成分と二塩基酸を縮重合反応させて二塩基酸グルコールエステルを得る縮重合工程とを含む再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維で補強された不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、不飽和ポリエステル樹脂成分を繊維成分から分離、回収するとともに、回収した不飽和ポリエステル樹脂成分の分解液に二塩基酸を加えて生成される二塩基酸グリコールエステルを含む再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維で補強された不飽和ポリエステル樹脂(以下、「FRP」ともいう。)は、不飽和ポリエステル樹脂中に、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などで補強されたものをいう。ここで不飽和ポリエステル樹脂は、熱硬化性樹脂であり、三次元網目構造を有する。このため、上記の不飽和ポリエステル樹脂の廃棄物は、溶媒に溶解せず、再溶融して再成形することができない。この点においてポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)で例示される飽和ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂と異なり回収および再生が困難である。しかもFRPは、ガラス繊維、カーボン繊維などで補強されているため、これらの繊維から樹脂成分を分離、回収することは極めて困難である。
【0003】
従来、FRP廃棄物の再利用の方法は、FRP廃棄物を微粉砕してフィラーとし、これを新しい、ゴム充填剤或いは樹脂充填剤として用いるマテリアルリサイクルがあるが、この方法では、得られたゴム組成物或いは樹脂組成物の強度が低下する問題がある。
【0004】
また、ケミカルリサイクルとして、不飽和ポリエステル樹脂に、炭酸カルシウムを加えて、グリコール分解することにより、二塩基酸グリコールエステルを製造する方法がある(特許文献1)。
【0005】
さらに、不飽和ポリエステル樹脂を290℃、水酸化ナトリウム等の触媒存在下でグリコール分解することにより二塩基酸のグリコールエステルを得る方法が知られている(特許文献2)。
【0006】
また、飽和ポリエステル樹脂廃棄物に不活性ガスの雰囲気下、酸化防止剤の存在下でグリコールを反応させてグリコール分解液を製造し、該グリコール分解液に二塩基酸を反応させる不飽和ポリエステル樹脂の製造方法が開示されている(特許文献3)。
【0007】
しかし、上記特許文献1〜3はいずれも、FRPから不飽和ポリエステル成分を分離し、回収し、各種用途に適したものに再生するものではない。
【特許文献1】特開2000−178230号公報
【特許文献2】特許第2701012号公報
【特許文献3】特開2002−317039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維で補強された不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、繊維成分を不飽和ポリエステル樹脂成分から分離回収する繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法、燃料、再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、前記分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、前記分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、前記第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程とを含むことを特徴とする繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法である。前記第2分離工程の後、得られる前記分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる前記分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程がさらに1〜2回繰り返されることが好ましい。
【0010】
また本発明は、前記繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法により得られる分解液を含む燃料である。
【0011】
また本発明は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、前記分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、前記分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、前記第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程と、前記分解液に二塩基酸を加えて、前記分解液中のグルコール成分と二塩基酸とを縮重合反応させて二塩基酸グルコールエステルを得る縮重合工程とを含むことを特徴とする再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法である。前記繊維補強不飽和ポリエステル樹脂には、炭酸カルシウムが3〜70質量%含まれていることが好ましい。
【0012】
前記繊維補強不飽和ポリエステル樹脂はガラス繊維で補強されていものが好適に採用される。また本発明は、第2分離工程の後、さらに1〜2回の分解工程及び分離工程が繰り返され、第3分解工程および第3分離工程、第4分解工程および第4分離工程を含む再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、前記再合成不飽和ポリエステル樹脂に、さらにビニル化合物を加えて混合して得られる高温硬化性の再生不飽和ポリエステル樹脂を製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る分解工程と、前記分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程とを少なくとも2回繰り返すことで、再生不飽和ポリエステル樹脂中における分解した不飽和ポリエステル樹脂成分の割合を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法を示すフローチャートである。以下、このフローチャートにしたがって本発明の製造方法を説明する。
【0016】
<繊維補強不飽和ポリエステル樹脂(FRP)>
本発明において繊維補強不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂が繊維で補強された複合体であり、FRPと略称されることがある。そしてこれらの成形品の使用済み廃棄物が使用されるが、たとえば加工端材や切削カス等などを含む工場でのスクラップ製品も同様に使用できる。
【0017】
ここで繊維はガラス繊維、炭素繊維、ウイスカ等の無機繊維、アラミド、ナイロン等の有機繊維などがある。そして繊維は製品の要求特性に応じて長繊維、短繊維などが使用されており、さらに繊維は製品の用途に応じて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の10〜60質量%の範囲で用いられている。
【0018】
また前記不飽和ポリエステル樹脂は、その分子構造の一部に二重結合を有し、これが架橋して網目構造を形成することで溶媒に溶解せず、加熱しても流動しない。本発明では、不飽和ポリエステル樹脂に一部の飽和ポリエステル樹脂が含まれていても採用することができる。同様に、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂廃棄物に重量比で10%程度の断熱用として使用されるウレタンおよび船舶などで補強に使用される木材が混入されていても採用することができる。
【0019】
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂は、炭酸カルシウムが3〜70質量%、好ましくは5〜50質量%含むことが好ましい。炭酸カルシウムを含んでおれば、グリコール分解工程において繊維と不飽和ポリエステル樹脂との分離、さらに不飽和ポリエステルのグリコール分解が促進され、回収効率を高めることができ、再生不飽和ポリエステル樹脂の貯蔵安定性も向上する。特に、炭酸カルシウムは、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂に均一に分散しているため、グリコール分解の際に添加する場合に比べて、その分解効率は高い。炭酸カルシウムは、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂中、3質量%未満の場合は、上述の効果は十分ではなく、70質量%を超えると再生不飽和ポリエステル樹脂の特性を損なうことになる。
【0020】
<繊維補強不飽和ポリエステル樹脂(FRP)の破砕>
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の廃棄物は破砕され、必要に応じて洗浄処理、篩掛けなどの前処理を行なう。破砕はハンマー或いはチェーン等の衝撃式破砕機、せん断式破砕機、切断式破砕機、圧縮式破砕機(ロール、コンベア、スクリュ)、スタンプミル破砕機、ボールミル破砕機、ロッドミル粉砕機を用いて、一般的な技術に基づいて行なう。破砕後の粒子径は分解効率を高めるため、10mm以下、好ましくは5mm以下のものが使用される。
【0021】
なお、破砕時の不飽和ポリエステル樹脂の酸化を防止し再生樹脂の着色を抑制するため、不活性ガスの雰囲気下、酸化防止剤の存在下で処理することが好ましい。不活性ガスとしては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等であるが、特に窒素ガスが好ましい。
【0022】
<第1分解工程>
本発明では、前記破砕された、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂廃棄物の粒子をグリコール分解し、分解生成物を得る。ここでグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコールなどが挙げられる。ここで再生樹脂のスチレンとの溶解性、価格が安い点で、プロピレングリコールが好ましい。
【0023】
グリコールの配合量は繊維補強不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して50〜500質量部、特に100〜300質量部が好ましい。グリコールの配合量が50部より少ないと不飽和ポリエステル樹脂のグリコールによる分解を効率的に行なうことができず、500質量部を超えると、グリコール分解は効率的に実施できるが、過剰のグリコールが残存し、後工程において、これと反応させる二塩基酸の配合量を増加する必要がある。その結果、分解した不飽和ポリエステル樹脂成分の再生樹脂中に占める割合が小さくなり回収、再生効率が低下することになる。また、不飽和ポリエステル樹脂成分は、分解工程に投入される全成分(通常、FRPとグリコールよりなる)の3〜20質量%の範囲となるようにFRPの配合量が調整されることが好ましい。
【0024】
なお、グリコールの配合量を調整することで、グリコール分解物の分子量を調整することができる。グリコールの配合量が少ないとグリコール分解物の分子量が大きくなり、グリコールの配合量が多いとグリコール分解物の分子量は小さくなる。
【0025】
グリコール分解中の反応槽の温度は、使用するグリコールの種類によって異なるが、プロピレングリコール(沸点188℃)或いはエチレングリコール(沸点198℃)を使用する場合は、約280℃〜300℃の範囲に調整され、290℃に調整することが好ましい。280℃以上とすることによって、分解にあまり時間を要しない。そして反応槽内の圧力は0.8〜2.8MPaの範囲に調整され、通常、反応時間は1〜3時間の範囲である。グリコール分解中の反応槽の温度を290℃とすると、反応時間は約2時間となり、好適である。
【0026】
<第1分離工程>
前記第1分解工程で得られた分解生成物は、繊維などの固形分と不飽和ポリエステル樹脂のグリコール分解成分である分解液が含まれている。ここで固形分と分解液の分離方法は、公知の方法で行なうことができる。たとえば、繊維をろ過し分離した後、分解物を貯蔵槽で静置して固形分を底部に沈殿させ、上部の分解液を分離するとともに低部の固形分を回収する、いわゆる沈殿分離の方法を採用できる。なお、沈殿分離の方法では、固体成分は、真空脱水機、加圧式脱水機、遠心分離機、フィルタープレス、ベルトプレス、またはスクリュープレス等の脱水機を用いて、さらに固体成分中に含まれる液体成分を分離される。そして、分解液は後述の第2分解工程に移される。
【0027】
<第2分解工程>
本発明では、第1分解工程で得られた分解生成物を固形分と分解液に分離し、分解液の第2分解工程で再利用する。なお、本発明では分解液の全てを再利用するバッチ方式が好適に採用される。
【0028】
第2分解工程では、第1分解工程で得られた分解生成物の分解液に、さらにグリコールを加え、粉砕した繊維補強不飽和ポリエステル樹脂と混合して加熱処理する。第2分解工程は、第1分解工程で得られた分解生成物の分解液を使用すること以外は、第1分解工程と実質的に同じである。
【0029】
第1分解工程の分解液は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、50〜300質量部、好ましくは80〜200質量部の範囲で混合される。50質量部未満の場合は、分解される不飽和ポリエステル樹脂成分の再生不飽和ポリエステル樹脂成分中の割合が小さくなり回収効率は低い。一方、300質量部を越えると不飽和ポリエステル樹脂の分解効率が低下する。
【0030】
また、グリコールの配合量は繊維補強不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して30〜300質量部、好ましくは50〜150質量部であり、第1分解工程よりも少ない配合量で調整されることが好ましい。
【0031】
第2分解工程の分解条件は第1分解工程と実質的に同じ条件が採用され、反応槽の温度は、たとえば、プロピレングリコール(沸点188℃)或いはエチレングリコール(沸点198℃)を使用する場合は、分解温度が約280℃〜300℃の範囲に調整され、290℃に調整することが好ましい。そして反応槽内の圧力は0.8〜2.8MPaの範囲に調整され、通常、反応時間は1〜3時間の範囲である。
【0032】
<第2分離工程>
第2分離工程は、第1分離工程と実質的に同じ分離機が使用できる。前記第2分解工程で得られた分解生成物は、第1分解工程の分解生成物よりも粘度の高い液状物が得られる。第1分離工程と同様に、繊維などの固形分と不飽和ポリエステル樹脂のグリコール分解成分である分解液を分離する。ここで得られる分解液の不飽和ポリエステル樹脂成分は第1分解工程で得られる分解液の約2倍の濃度となっている。
【0033】
<第3分解工程、第3分離工程>
本発明は、第2分解工程および第2分離工程の後に、第3分解工程および第3分離工程さらには、第4分解工程および第4分離工程を繰り返すことができる。このように工程を繰り返すことで不飽和ポリエステル樹脂の回収率は高くなる。しかし再生不飽和ポリエステル樹脂の特性を安定化の観点からは、第2分解工程または第3分解工程を採用することが好ましい。
【0034】
なお、第3分解工程および第3分離工程を備えることについて特に限定されない。たとえば、第4分解工程および第4分離工程の後、さらに第2分離工程の後、得られる分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程をさらに繰り返してもよい。
【0035】
<縮重合工程>
縮重合工程では、グリコールで分解された分解液に不飽和二塩基酸を反応させて不飽和ポリエステル樹脂を合成する。
【0036】
二塩基酸のうち不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、クロロフマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、ムコン酸などが挙げられるが、反応性、価格及び物性の観点から無水マレイン酸が好ましい。
【0037】
本発明では、不飽和二塩基と共に、飽和二塩基酸を使用できる。飽和二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クロロコハク酸、ブロモコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、フタル酸、クロロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、クロレンド酸、フェニルコハク酸、o−カルボキシフェニル酢酸、o−フェニレン二酢酸などが使用できる。なお、反応性、価格、および物性の観点から、飽和二塩基酸には無水フタル酸を使用することが好ましい。
【0038】
不飽和二塩基酸(A1)と飽和二塩基酸(A2)の混合割合(A1/A2)は、モル比で通常、0.1〜10の範囲で調整される。二塩基酸の配合量は、分解液の水酸基価の値に基づき調整される。即ち、二塩基酸の配合量X(モル)は、
X(モル)=[OH価(mol/kg)]×[反応槽の分解液(kg)]
として決定される。
【0039】
ここで、水酸基価(OH価)の測定は、OH基を無水フタル酸と反応させてエステル化した後に残存するフタル酸を定量するフタル化法により測定される。
【0040】
縮重合工程における不飽和ポリエステルの合成は、反応条件を2段階に分けることが好ましい。第1段階の反応は、温度が130〜160℃で0.4〜2.5時間、好ましくは140〜155℃で1〜1.5時間である。また、引き続き第2段階の反応は190〜230℃で2〜8時間、200〜220℃で3〜6時間が好ましい。
【0041】
第1段階、第2段階とも、窒素気流下で反応することが好ましく、たとえば、窒素の吹き込み量は、0.1〜2.0リットル/分で行なう。そして縮合反応は回転速度10〜100rpmの攪拌条件下で行なうことが望ましい。
【0042】
なお、反応と共に生成水を除去できるが、反応溶液の攪拌により、特に攪拌速度が大きいほど、また窒素流量が大きいほど、合成時の生成する水を除去しやすく、再合成不飽和ポリエステル樹脂は高分子量のものが得られ、また反応時間の短縮が可能となる。
【0043】
得られた再合成不飽和ポリエステル樹脂は、後述の再生工程を経て再生不飽和ポリエステル樹脂の製造に使用するほか、各種の成形品の原料として用いることができる。
【0044】
<再生工程>
前記縮重合工程で不飽和ポリエステル樹脂を製造した後、不飽和ポリエステル樹脂の分子骨格に含まれる二重結合と、反応可能なビニルモノマー、たとえばスチレン、メタクリル酸メチル、ビニルトルエン、酢酸ビニルなど、またはジアリルフタレート、ジ(メタ)アクリレート等の他官能基を有するモノマーを重合開始剤の存在下で不飽和ポリエステル樹脂を架橋させて再生不飽和ポリエステル樹脂を得る。この場合、ガラス繊維、カーボン繊維などで補強することで、再生の繊維補強不飽和ポリエステル樹脂(FRP)を製造することもできる。
【0045】
なお、本発明の製造方法においては、第1分解工程で得られる分解液を精製することなく、第2分解工程に使用される。さらに第2分解工程で得られた分解液は、そのまま再生の不飽和ポリエステル樹脂の製造に供することができる。
【0046】
また、得られた分解液を、燃料として用いることもできる。すなわち、得られた分解液は、燃料としてのサーマルリサイクル、および再合成によるケミカルリサイクルのいずれにも再利用できる。
【0047】
以上説明したように、実施例における繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程とを含む。分解工程を2回以上行なうことにより、分解液は有用となる。また、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を再利用できるため、環境負荷が低く、経済性が高い。
【0048】
上記繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法において好ましくは、第2分離工程の後、得られる分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程がさらに1〜2回繰り返される。これにより、分解液の有用性および当該方法の経済性がより高くなる。そのため、分解液を繰り返し分解工程で再使用することにより、廃棄物の含有量を高めることができる。なお、分解工程および分離工程は、分解反応を安定して行なう観点から、それぞれの合計が3回〜4回となるように繰り返されることが好ましい。
【0049】
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法により得られる分解液を含む燃料とすることが好ましい。分解液を燃料にリサイクルすることにより、経済性がより高くなる。
【0050】
実施例における再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法は、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程と、分解液に二塩基酸を加えて、分解液中のグルコール成分と二塩基酸を縮重合反応させて二塩基酸グルコールエステルを得る縮重合工程とを含む。これにより、得られた再合成不飽和ポリエステル樹脂が有用となる。
【0051】
上記再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法おいて好ましくは、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂には、炭酸カルシウムが3〜70質量%含まれている。これにより、グリコール分解を効率よく行うことができる。
【0052】
上記再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法において好ましくは、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂はガラス繊維で補強されている。これにより、ガラス繊維で補強されている繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を再合成不飽和ポリエステル樹脂に容易に製造できる。
【0053】
上記再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法において好ましくは、第2分離工程の後、得られる分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程がさらに1〜2回繰り返される。これにより、製造される再合成不飽和ポリエステル樹脂の有用性および再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法の経済性がより高くなる。
【0054】
上記再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法で得られた再合成不飽和ポリエステル樹脂に、ビニル化合物を加えて混合する再生工程を含む再生不飽和ポリエステル樹脂とすることが好ましい。これにより、容易に再合成不飽和ポリエステル樹脂を製造できる。
【実施例1】
【0055】
本発明の実施例を再合成不飽和ポリエステル樹脂および再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法に用いられる装置の概念図である図2にしたがって詳細に説明する。
【0056】
前記装置は、不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解する分解槽1、分解液を二塩基酸と縮合反応させてエステルを合成する再合成反応槽13さらに、このエステルにビニルモノマーを混合する混合槽20を備えている。これら分解槽などは、いずれも加熱装置2が付設されている。
【0057】
<FRPの破砕>
ガラス繊維補強不飽和ポリエステル樹脂よりなる組立式水槽パネルを、破砕機を用いて、1〜5mm粒子径の破砕粉(以下、「FRP粉末」という。)を作成した。
【0058】
<第1分解工程>
FRP粉末100gとプロピレングルコール(PG)220gの合計320gを、FRP粉末投入口5、グリコール投入口6からそれぞれ分解槽1に投入した。図において、分解槽1には、攪拌羽4を供えた攪拌装置3を備え、攪拌羽の回転速度は15rpmに設定した。ここでFRP粉末には、不飽和ポリエステル樹脂が20g、ガラス繊維が40g、炭酸カルシウムが40g含まれている。分解槽1は密閉状態で、290℃の温度で2時間、圧力は温度の上昇と共に、約2.3MPaまで上昇する。第1分解工程における反応槽の温度と圧力の履歴を図3に示している。所定時間の後加熱を停止し、分解槽1の温度をほぼ室温まで低下する。ここで不飽和ポリエステル樹脂成分は、全投入量の6.25質量%である。
【0059】
<第1分離工程>
分解生成物を分解槽1から取り出し、分解物タンク7に移し、これをさらに沈殿分離、ベルトプレスを用いた分離機10によって、固形物と分解液に分離して前者は固形物タンク8に後者は分解液タンクに移送される。ここで固形分は150.1g(全体の46.9質量%)であり、その内訳はガラス繊維が40g、炭酸カルシウムが40g、プロピレングリコールが70.1gである。また分解液は144.3g(全体の45.1質量%)であり、その内訳は不飽和ポリエステル樹脂成分が20g、プロピレングリコールが124.3gである。さらに気体分は25.6g(全体の8.0質量%)であり、これはすべてプロピレングリコールである。
【0060】
<第2分解工程、第2分離工程>
FRP粉末100gとプロピレングルコール75.7g、第1分解工程の分解液144.3gの合計320gを、FRP粉末投入口5、グリコール投入口6、分解液返送パイプ11からそれぞれ分解槽1に投入した。
【0061】
なお前記分解液144.3gの内訳は、不飽和ポリエステル樹脂成分が20g、プロピレングリコールが124.3gである。そして不飽和ポリエステル樹脂成分は、全投入量の12.5質量%であり、第1分解工程の約2倍となっている。そして第2分解工程の温度、圧力などの反応条件は、第1分解工程の反応条件と同じに設定した。得られた分解液を、第1分離工程の同じ方法で固液分離を行った。
【0062】
<縮重合工程>
第2分解工程で得られた分解液を冷却後に水酸基価を測定し、3.59mol/kg、酸価が111の値が得られた。この分解液を濾過機12を通して合成反応槽13に送りこむ。さらに無水フタル酸193g(1.3mol)を投入口14、無水マレン酸128g(1.3mol)を投入口15から投入する。なお、前記分解槽1と合成反応槽13の間には、パーシャルコンデンサ16、コンデンサ17およびドレーン槽18が付設されている。
【0063】
縮重合反応は、図3に示すように、2段階の反応条件とし、第1段階は150℃で1時間、攪拌羽の回転数は30rpm、窒素ガスの吹き込み量は0.5リットル/分であった。第2段階は210℃で4時間、攪拌羽の回転数は60rpm、窒素ガスの吹き込み量は1.0リットル/分であった。なお、第2段階の残り1時間は攪拌羽の回転数を100rpmと速くし、窒素の吹き込み量を1.5リットル/分に設定した。第2段階の後、窒素の吹き込みを停止し、攪拌速度を60rpmに調整して、合成反応槽13の温度を約150℃まで下げた。縮重合反応物は、再合成不飽和ポリエステル樹脂として合成物タンク19に一次保管される。
【0064】
得られた再合成不飽和ポリエステル樹脂は、FRPなどの再生材料として有用であることが確認された。そのため、燃料もしくは後述する再生工程により得られる再生不飽和ポリエステル樹脂とすることにより再利用できることが確認された。
【0065】
<再生工程>
前記縮重合工程で再生不飽和ポリエステル樹脂を製造した後、不飽和ポリエステル樹脂の分子骨格に含まれる二重結合と反応可能なビニルモノマーとしてスチレンを所定量配合する。図2において、合成タンク19に保管されている縮重合反応物(再合成不飽和ポリエステル樹脂)418.5gを混合槽20に移送する。さらに投入口21からスチレン278.7gを、投入口22からt−ブチルカテコール0.02gを投入口23からハイドロキノンをそれぞれ投入する。このときスチレンの重合反応を避けるため、混合槽20の温度は30℃以下に維持することが望ましい。
【0066】
このようにして得られた、再生不飽和ポリエステル樹脂は有用であることが確認された。さらに、再生不飽和ポリエステル樹脂の成形品、複合材料として有用であることも確認された。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、繊維で補強された不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、不飽和ポリエステル樹脂成分を繊維成分から分離回収するとともに、回収した不飽和ポリエステル樹脂成分を再使用するために用いること、および二塩基酸を加えて再合成不飽和ポリエステル樹脂を製造する方法、さらには、これにビニルモノマーを添加し高温で架橋硬化しうる再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。かかる再合成不飽和ポリエステル樹脂、或いは再生不飽和ポリエステル樹脂は、単独または他の材料と混合して各種用途の成形材料、或いは繊維補強プラスチックスとして採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の製造方法のフローチャート図である。
【図2】本発明の製造方法に使用される装置の概念図である。
【図3】本発明の製造方法における温度、圧力の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 分解反応槽、2 加熱装置、3 攪拌装置、8 固形物タンク、9 分解液タンク、10 分離機、12 濾過機、13 合成反応槽、20 混合槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、
前記分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、
前記分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、
前記第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程と
を含むことを特徴とする、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法。
【請求項2】
前記第2分離工程の後、得られる前記分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる前記分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程がさらに1〜2回繰り返されることを特徴とする請求項1記載の繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法。
【請求項3】
請求項1記載の繊維補強不飽和ポリエステル樹脂の分解方法により得られる分解液を含む燃料。
【請求項4】
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解して分解生成物を得る第1分解工程と、
前記分解生成物の固形分から分解液を分離する第1分離工程と、
前記分解液にグリコールを加えて、繊維補強不飽和ポリエステル樹脂をさらに分解する第2分解工程と、
前記第2分解工程により得られる分解生成物の固形分から分解液を分離する第2分離工程と、
前記分解液に二塩基酸を加えて、前記分解液中のグルコール成分と二塩基酸とを縮重合反応させて二塩基酸グルコールエステルを得る縮重合工程と、
を含むことを特徴とする再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記繊維補強不飽和ポリエステル樹脂には、炭酸カルシウムが3〜70質量%含まれていることを特徴とする請求項4記載の再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
繊維補強不飽和ポリエステル樹脂はガラス繊維で補強されていることを特徴とする請求項4記載の再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記第2分離工程の後、得られる前記分解液にグリコールを加えて繊維補強不飽和ポリエステル樹脂を分解する分解工程および得られる前記分解生成物の固形分から分解液を分離する分離工程がさらに1〜2回繰り返されることを特徴とする請求項4記載の再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項4記載の再合成不飽和ポリエステル樹脂の製造方法で得られた再合成不飽和ポリエステル樹脂に、ビニル化合物を加えて混合する再生工程を含む再生不飽和ポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−186549(P2007−186549A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3822(P2006−3822)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(505392949)CIEN株式会社 (5)
【Fターム(参考)】