説明

繊維配向強度の較正方法

【課題】 紙の表裏の繊維配向性をほぼ同時に繊維配向測定装置により測定する場合に、それぞれの繊維配向測定装置毎に繊維配向強度の誤差が異なることに鑑みて、繊維配向測定装置による測定データを較正する繊維配向強度の較正方法を提供する。
【解決手段】 それぞれが異なる繊維配向強度を有する複数の標準試料11a〜11eについて、較正対象となる繊維配向測定装置で繊維配向強度を測定し、標準試料11a〜11eの繊維配向強度と測定された繊維配向強度との関係から、当該繊維配向測定装置により測定される繊維配向強度を較正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、抄紙機により製造される紙等の被測定対象物の繊維配向性を評価する指針となる繊維配向強度を、抄紙機上でオンラインにて非接触で測定する場合に、測定された繊維配向強度を実際のものに補正するための繊維配向強度の較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の寸法安定性や力学的特性を決定する因子として紙を組成する繊維の配向性がある。この繊維配向性は、紙を構成する繊維の方向が抄紙機の走行方向に対してなす繊維配向角と、繊維の本数分布の配向を楕円近似した場合に、その楕円の長軸/短軸とした比(配向比)で示される繊維配向強度とがパラメータとされて表されることがある。
【0003】
他方、長網式などの抄紙機では、ワイヤパートにおいて、移動する金網で形成されたワイヤに製紙材料が分散された水が噴射され、ワイヤの走行に伴われて水分が脱水されながら紙層が形成される。その後、プレスパートで搾水され、ドライパートで乾燥される。このような製紙工程において、紙の繊維配向性はワイヤパートにおける紙層の形成時にほぼ決定される。このため、製造された紙について繊維配向性を測定し、その測定結果に基づいて製紙材料のワイヤパートへの供給条件を調整すれば、適正な物性を備えた抄紙を果たすことができる。
【0004】
繊維配向性は、図5に示すように、試料Sの紙面に直交する方向の検出光を投光手段1より照射し、紙を構成する繊維の側面(法面)で反射した反射光を受光手段2にて捕捉できる。この反射光の強度は、等しい方向に配列した繊維Qの本数が多くなれば大きくなる。したがって、試料Sを1回転させながら反射光を捕捉し、それにより得られる反射光強度の分布は、繊維の本数の配列方向の分布を反映するものとなる。このような繊維による反射光を捕捉して、繊維の配向の分布を取得することにより、繊維配向角と繊維配向強度とを求めて繊維配向性の評価に資するための装置として繊維配向測定装置がある。
【0005】
ところで、本願出願人は、抄紙機を走行中の紙の繊維配向角と繊維配向強度とを取得することができるようにした紙の繊維配向測定方法及び繊維配向測定装置を開発した(特許文献1参照)。この繊維配向測定装置は、図6に示すように、紙Pの表面に対して垂直に無偏光からなる検出光を照射する投光手段1と、この投光手段1の入射光軸を中心として少なくとも8個の受光手段2を同一円上に配置させて、前記受光手段2により測定された反射光強度を求めるようにしたものである。
【0006】
また、前記8個の受光手段2には個体差が存しているため、あるいは経時変化により、個々の受光手段2により測定された反射光強度にばらつきが生じてしまうおそれがあることに鑑みて、受光手段2に用いられる受光素子の特性にバラツキがあっても、これを補償して正確な配向性を得られる繊維配向計の信号正規化装置が、本願出願人により提供された(特許文献2参照)。
【0007】
このような繊維配向測定装置は抄紙機で製造される紙に対して抄紙機上で用いることにより、繊維配向性の良好な紙の製造に供することができる。すなわち、抄紙機のリールパートの上流側に配して、製造された紙Pの繊維配向性を測定し、その測定データに基づいてワイヤパートへ供給する製紙原料の調整やストックインレットのスライスリップ等を調整することにより、製造される紙の繊維配向性の適正化を図ることが可能となる(特許文献3、4参照)。
【0008】
前記繊維配向測定装置により抄紙機上を走行する紙の繊維配向性について測定を行う場合、通常、紙のワイヤ面(W面)とフェルト面(F面)のそれぞれについて測定し、これらの表裏差(例えばF面−W面)の測定データを取得するようにしている。このため、表裏のそれぞれについて繊維配向測定装置が設けられている。これら繊維配向測定装置により測定され、取得される測定データは、繊維配向測定装置の光軸のズレや、受光手段2の受光素子の配置角度の誤差などが、受光素子により検出される反射光強度の分布が影響を受け、例えば、F面側とW面側の繊維配向測定装置で出力される繊維配向角と繊維配向強度に差異を生じるおそれがあり、取得された測定データに信頼性を欠くおそれがある。図3と図4には試料の表裏面について、基準となる繊維配向装置により計測して取得した配向強度の実測値を「−●−」で表示し、較正対象となる繊維配向測定装置による測定値を「−○−」で表示して示してある。これら実測値と測定値とを比較すれば、試料の表裏面のそれぞれについて、繊維配向測定装置の測定値と実測値との差が異なっていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−311142号
【特許文献2】特開平11−269789号
【特許文献3】特許第3925676号
【特許文献4】特願2006−74001号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、繊維配向測定装置毎に異なる誤差を生じることから、表裏を測定するそれぞれの繊維配向測定装置により測定される測定データにおいても、同様に誤差を生じることになる。このため、表裏を測定するそれぞれの繊維配向測定装置について基準を一致させる必要があり、それぞれの繊維配向測定装置の配向角と繊維配向強度とについて、それぞれの繊維配向測定装置毎に較正する必要がある。
【0011】
そこで、この発明は、測定対象物の表面に検出光を照射し、その反射光を捕捉することにより該測定対象物の繊維配向性を取得する繊維配向測定装置により測定された繊維配向強度の較正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る繊維配向強度の較正方法は、被測定対象物の表面に検出光を照射し、反射光を捕捉することにより反射光強度を測定して繊維配向性を求める繊維配向測定装置により測定された繊維配向強度の較正を行う繊維配向強度の較正方法において、反射光分布が楕円形で近似可能な異方性を有し、前記楕円形の短軸方向と長軸方向の反射光強度比から、予めそれぞれの繊維配向強度が既知の複数の標準試料を用い、前記複数の標準試料についてそれぞれ測定して得られた反射光強度分布に基づく繊維配向強度と、該標準試料の既知の繊維配向強度とから較正を行うことを特徴としている。
【0013】
すなわち、繊維配向強度が既知の標準試料について、較正の対象となる繊維配向測定装置により繊維配向強度を測定する。測定された繊維配向強度と標準試料の既知の繊維配向強度とを比較して、測定された繊維配向強度を標準試料の配向強度へと較正するようにしたものである。
【0014】
前記標準試料は、前記長軸と短軸の比が1.00を超える楕円形で近似できる配向性を有しているものとしてある。反射光分布は、例えば、長軸と短軸との比が1.10、1.20、1.30、…、2.00等のように、0.1刻みで種々のものを準備しておけば好ましい。また、標準試料としては、反射光の異方性を備えているものであればよく、紙や不織布、または、平面を有する板材の該平面に繊維に代えて人工的に凹凸を形成して、反射光の異方性を具備させたものを用いることもできる。
【0015】
また、請求項2の発明に係る繊維配向強度の較正方法は、前記標準試料について測定して得られた繊維配向強度を、該標準試料について既知の繊維配向強度と一致させることにより行うことを特徴としている。
【0016】
すなわち、繊維配向測定装置で測定された標準試料の繊維配向強度と、該標準試料の既知の繊維配向強度とが異なる場合に、測定された繊維配向強度を標準試料の繊維配向強度と一致させる処理を行うことにより較正するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る繊維配向強度の較正方法によれば、複数の異なる繊維配向強度を有する標準試料について、較正の対象となる繊維配向測定装置で繊維配向強度を測定し、その測定データを標準試料の繊維配向強度と比較することから、確実に繊維配向測定装置により取得される繊維配向強度の較正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る繊維配向強度の較正方法に係る用いる標準試料の一例を示す図である。
【図2】繊維配向強度を較正するための手順により作成される較正用のグラフを示している。
【図3】試料の表面について、繊維配向強度の実測値と、繊維配向測定装置による測定値とを比較するものであり、測定値を較正前の値と較正後の値とを比較してある。
【図4】試料の裏面について、繊維配向角の実測値と、繊維配向測定装置による測定値とを比較するものであり、測定値を較正前の値と較正後の値とを比較してある。
【図5】繊維配向性を測定する原理を説明する図である。
【図6】抄紙機により製造される紙の繊維配向性をオンラインで測定するための繊維配向測定装置の概略の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明に係る繊維配向強度の較正方法を具体的に説明する。
【0020】
前記図6に示す投光手段1と複数個の受光手段2を備えた繊維配向測定装置は、抄紙機のリールパートの上流側に紙Pの表裏のそれぞれを臨ませて配置されると共に、抄紙機の幅方向に移動自在とされている。この繊維配向測定装置に対して、図1に示す標準試料11を配して、W面とF面とのそれぞれについて検出光の反射光強度を測定する。このとき、反射光強度の分布は楕円形で近似することができる。
【0021】
一方、前記標準試料11は、予め繊維配向強度が既知のものとしてあり、図1に示すように、異なる繊維配向強度を有する複数の標準試料11a〜11eが用意されている。これら標準試料11のそれぞれの反射光強度は、1本々計測して取得した実測値として取得する、いわゆる直接法によるものであっても、あるいは基準とする繊維配向測定装置を選定し、当該基準繊維配向測定装置により測定する、いわゆる間接法により取得された値とすることでもよい。直接法による場合には、多大の手間を要してしまうことになる。このため、この実施形態では、基準繊維配向測定装置により測定した繊維配向強度を実測値として扱う。
【0022】
標準試料11の繊維配向強度がそれぞれ異なっているため、例えば繊維配向強度を、反射光強度分布を示す楕円形の長軸と短軸の比として捉える場合には、図1に示すように、標準試料11a〜11eのそれぞれは異なる楕円形で近似可能な反射光強度分布Ta〜Teとなり、反射光強度に異方性を有している。
【0023】
これら標準試料11a〜11eについて較正対象となる繊維配向測定装置で測定した繊維配向強度と、これら標準試料11a〜11eが有している繊維配向強度との関係を、図2に示すように、プロットしてグラフ化する。
【0024】
図2に示すように、近似直線を求めて、その傾きの値aと切片の値bとを求める。測定された繊維配向強度xと、正しい繊維配向強度yとは、これら傾きaと切片bの値から、
y = ax + b (1)
により表されることになる。
すなわち、この式(1)に基づいて、繊維配向測定装置の繊維配向強度(角)を較正すればよい。
【0025】
なお、図1には5つの較正用試料11a〜11eを示してあるが、実測する場合には、図2に示すように、較正用試料11の数は多い方がより前記(1)式を満たす傾きaと切片bとに高精度の値を得ることができ、より高精度に繊維配向強度を取得することができる。
【0026】
前述した方法により較正された繊維配向強度を、前記図3と図4とに示した実測値(●)と較正前の測定値(○)とに、さらに較正後の値を×でプロットして併記して示す。これらの図3、図4に示すように、較正された値が実測値に近似しており、この較正による値を被測定対象物の繊維配向強度として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明に係る繊維配向強度の較正方法によれば、繊維配向測定装置の有する誤差に拘わらず基準を等しくすることができるから、抄紙機上の紙の表裏をオンラインで測定する場合に、測定データの精度を向上させることにより、抄造する紙の質の向上に寄与する。
【符号の説明】
【0028】
S 試料
P 紙
1 投光手段
2 受光手段
11a〜11e 標準試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物の表面に検出光を照射し、反射光を捕捉することにより反射光強度を測定して繊維配向性を求める繊維配向測定装置により測定された繊維配向強度の較正を行う繊維配向強度の較正方法において、
反射光分布が楕円形で近似可能な異方性を有し、
前記楕円形の短軸方向と長軸方向の反射光強度比から、予めそれぞれの繊維配向強度が既知の複数の標準試料を用い、
前記複数の標準試料についてそれぞれ測定して得られた反射光強度分布に基づく繊維配向強度と、該標準試料の既知の繊維配向強度とから較正を行うことを特徴とする繊維配向強度の較正方法。
【請求項2】
前記標準試料について測定して得られた繊維配向強度を、該標準試料について既知の繊維配向強度と一致させることにより行うことを特徴とする繊維配向強度の較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237143(P2010−237143A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87518(P2009−87518)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】