説明

義歯洗浄用液体組成物

【解決手段】使用時に水で希釈して義歯に適用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物であって、
(A)HLB値12〜17のポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)プロテアーゼ
(C)カチオン性殺菌剤
(D)水
を含有し、(A)/(C)の質量比が2.5〜15で、かつ(A)成分の濃度が0.03〜0.5質量%及び(C)成分の濃度が0.005〜0.1質量%となるように水で希釈して使用する。
【効果】本発明の義歯洗浄用液体組成物は、希釈状態でもデンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力及び殺菌力を発揮し、使用時に義歯浸漬液が高い防腐力を有し、かつ組成物の保存安定性が良好であり、化学的方法により義歯のデンチャーバイオフィルムを効果的に除去して殺菌することができ、義歯を清潔に維持することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力と殺菌力を発揮し、義歯浸漬液の殺菌力にも優れ、かつ良好な保存安定性を有する、希釈して使用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の到来にともない義歯の使用者は年々増加する傾向にある。義歯の使用者は、義歯と口腔粘膜や健全歯との間に食べかすが溜まり易く、健常人に比べて口腔内微生物が繁殖し易い環境におかれている。
【0003】
義歯の汚れとしては、食物残渣、デンチャーバイオフィルム、歯石様沈着物、色素などが挙げられる。ここで、デンチャーバイオフィルムとは、口腔内微生物が義歯表面に定着し、粘着性多糖類等の産生物、唾液や血清成分等と共に凝集したバイオフィルムである。このデンチャーバイオフィルムには様々な微生物が存在するために、義歯性口内炎、口臭・義歯臭の発生が起こる、あるいは部分義歯については残存歯の虫歯や歯周病が発症し易くなる。
【0004】
また、デンチャーバイオフィルムの微生物学的特徴としてカンジダ菌の比率が高いことが挙げられるが、カンジダ菌が肺カンジダ症や誤嚥性肺炎等の呼吸器系の感染症と密接に関係していることが報告されている(非特許文献1,2参照)。従って、日頃の手入れにより義歯に付着したデンチャーバイオフィルムを除去し、義歯を清潔に維持することが重要である。
【0005】
デンチャーバイオフィルムを除去するための方法としては、ブラッシングによる機械的除去と義歯洗浄剤やみがき剤の使用による化学的除去がある。しかし、ブラッシングによる機械的除去では狭い隙間や入れ歯表面に付着したデンチャーバイオフィルムを完全に除去することは困難であり、従って、機械的除去と化学的除去の2つの方法を併用することが効果的な手入れ法としては望ましい。
【0006】
化学的除去を目的に市販されている義歯洗浄剤としては、錠剤タイプと粉末タイプのものが主流である。一般的に、これらの洗浄剤には、過炭酸塩や過ホウ酸塩等の過酸化物、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)、界面活性剤、キレート剤等が洗浄成分として配合されており、使用時に水に溶かし、発生する過酸化水素と酵素の分解作用、界面活性剤やキレート剤の作用によりデンチャーバイオフィルムを除去するという洗浄システムを活用している。しかし、このような洗浄システムでは、発生する過酸化水素によりある程度の殺菌力が発揮されるが、デンチャーバイオフィルムに対する除去力は不十分である。
【0007】
また、上記の固体タイプの洗浄剤は、液量に合わせて使用量を調節するという面で問題点がある。特に、錠剤タイプの洗浄剤は1回分単位で包装されており、義歯の大きさが使用者間で大きく異なる部分義歯の洗浄に対しては、使用量調節の面で使用者の不満となる。固体タイプの洗浄剤はこのような問題点があるのに対して、液体製剤は使用量の調整が容易であるというメリットがある。更には、使用時に使用量に合わせて水で希釈する濃縮タイプの製剤は、原液製剤を使用する場合と比べて1回使用量が少なくて済むために容器の容量を小さくすることができ、持ち運びや保管スペースの面でメリットとなる。
【0008】
しかしながら、使用時に水で希釈する濃縮タイプの製剤は、製剤と水の混合割合に応じて配合成分の濃度が下がることから、希釈した段階でデンチャーバイオフィルムに対する十分な除去力と殺菌力をいかに発揮させるかが課題となる。従って、使用時に水で希釈する濃縮タイプの液体組成物で、デンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力と殺菌力を発揮する濃縮液体組成物の開発が望まれてきた。
【0009】
デンチャーバイオフィルムやデンタルプラークを除去する成分としては、プロテアーゼ酵素と界面活性剤が挙げられ、プロテアーゼと界面活性剤を併用することでバイオフィルムを効果的に除去することができる。しかし、酵素は一般的に安定性が低く、液体組成物中で長期間保管すると失活してしまうという問題がある。また、使用する界面活性剤の種類によっては酵素活性が大きく低下してしまう場合がある。従って、製品としての品質を維持するためには、優れた洗浄力に加えて酵素安定性に対する影響が少ない界面活性剤を使用することが重要である。酵素安定性が良好な界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が良く用いられている。
【0010】
一方、デンチャーバイオフィルムに対して殺菌力を発揮させるためには、殺菌剤の配合が不可欠である。しかしながら、洗浄力の付与や、香料等の油性成分の可溶化のために配合するノニオン性界面活性剤等の界面活性剤は、殺菌剤をミセルに取り込むために殺菌剤の効力を低下させてしまうという問題がある。また、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤を含有する組成物では、カチオン性殺菌剤を使用するとコンプレックスが形成されるために殺菌剤の効力が消失してしまうという問題もある。このため、殺菌剤の効力を極力阻害しないような界面活性剤の種類やその配合量を設定することが重要となってくる。
【0011】
以上のように、デンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力と殺菌力を発揮する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物を得るためには、プロテアーゼ、殺菌剤の配合が不可欠であり、これらの効果を発揮させつつ洗浄力に優れた界面活性剤を選択、それぞれの使用時の濃度及び質量比を決定することが重要となってくるが、従来の技術ではプロテアーゼ及び殺菌剤を液体組成中で安定配合して上記効果を満足に発揮させることは困難であった。
【0012】
プロテアーゼとノニオン性界面活性剤を配合した液体組成物は公知である(特許文献1参照)が、この液体組成物は、殺菌成分が配合されていないために殺菌力は発揮されず、義歯洗浄用組成物としては不十分である。
【0013】
また、デンタルプラークのような微生物の集合体に対して優れた殺菌力を発揮する組成物について開示されている(特許文献2参照)が、これはカチオン性殺菌剤と特定のノニオン系界面活性剤とを併用することで優れた殺菌効果が発揮されるものである。当該技術は、プロテアーゼを必須成分とせず、その配合量についての記載もなく、デンチャーバイオフィルムのような強固な汚れに対する十分な除去力は発揮されず、デンチャーバイオフィルムに対する高い殺菌力と除去力を満足に両立させることは難しい。また、使用時に希釈する濃縮タイプの組成物ではない上、組成物の外観安定性及びプロテアーゼ安定性の向上に関する記載もない。
【0014】
酵素の安定性を確保したまま洗浄力を高めた化粧料用組成物として、多価アルコール含有水溶液に蛋白分解酵素及び界面活性剤、更にカチオン性殺菌剤を配合した技術が提案されている(特許文献3,4参照)が、選択された界面活性剤はコンタクトレンズ用の洗浄成分として用いられているもので、デンチャーバイオフィルムのような強固な汚れに対して洗浄力は発揮されない。なお、特許文献3,4に記載された実施例3は、カチオン性殺菌剤の塩化ベンザルコニウムが配合されているが、このカチオン性殺菌剤の濃度及びカチオン性殺菌剤に対するノニオン性界面活性剤の質量比の範囲内では十分な殺菌力が発揮されず、デンチャーバイオフィルムに対する優れた殺菌力は発揮されない。
【0015】
プロテアーゼと殺菌剤を配合した濃縮液体組成物も検討されている(特許文献5参照)が、この提案では、カチオン性殺菌剤に対してノニオン性界面活性剤の質量比が記載されている範囲内では良好な殺菌力が発揮されるものの、洗浄力が不十分であり、よって、デンチャーバイオフィルムを除去する効果は弱い。また、殺菌力を発揮させるために殺菌剤を高濃度に配合しており、その結果、酵素活性の低下が起こり、除去力が著しく低下してしまう。つまり、このような技術では、殺菌と除去の両立が困難であるという問題があった。
【0016】
また、ノニオン性界面活性剤とプロテアーゼを含む洗浄液を、イオン性抗菌剤を含む希釈用溶液にて希釈して使用する2液タイプの洗浄液も検討されている(特許文献6参照)。しかしながら、当該技術はコンタクトレンズ用の洗浄に関するものであり、記載されている内容の範囲内では、デンチャーバイオフィルムのような強固な汚れに対して十分な洗浄力・殺菌力を発揮することはできない。また、当該技術を義歯の洗浄用に応用する場合には、大量の希釈用溶液が必要となる。このため、使用時や持ち運び、更には保管スペースの点から使用者にとって不便である。
【0017】
更に、従来の使用時に希釈して使用する濃縮タイプの液体組成物は、高温保存時及び低温保存時で共に良好な経時安定性を保つことも難しかった。
【0018】
このように従来の技術では、デンチャーバイオフィルムに対する優れた除去力と殺菌力とを兼ね備え、義歯浸漬液の防腐力にも優れ、更には、高温保存及び低温保存時における良好な保存安定性も有する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物を得ることは困難であった。
【0019】
【特許文献1】特開2002−69487号公報
【特許文献2】特開平11−255629号公報
【特許文献3】特開2000−273489号公報
【特許文献4】特開2001−114624号公報
【特許文献5】特表2003−530447号公報
【特許文献6】特許第3697294号公報
【非特許文献1】補綴誌 43:636〜639,1999.
【非特許文献2】日大歯学 79,117−123,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、デンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力と殺菌力を発揮すると共に、希釈後に義歯を浸した場合、義歯浸漬液の防腐力に優れ、保存安定性も良好な濃縮液体タイプの義歯洗浄用液体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、水で希釈して使用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物に、ノニオン性界面活性剤として(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)プロテアーゼ、(C)カチオン性殺菌剤、(D)水を配合し、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてHLB値が12〜17であるポリグリセリン脂肪酸エステルを選択して特定割合で配合し、かつ、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びカチオン性殺菌剤の濃度がそれぞれ特定の範囲となるように水で希釈して使用することにより、希釈した状態でデンチャーバイオフィルムに対する除去力に優れる上、デンチャーバイオフィルムに対して優れた殺菌力が発揮され、優れた除去力と殺菌力の両立を図ることができ、しかも、水で希釈後の希釈液に義歯を浸した場合、この義歯浸漬液が高い防腐力を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0022】
更に、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールを配合することにより、デンチャーバイオフィルムに対する殺菌力をより増強させることができる。
【0023】
特に、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとして炭素数8〜16の脂肪酸残基を有し、平均重合度が6〜12のポリグリセリン脂肪酸エステルを5〜30質量%、(D)水を30〜50質量%含有し、更に(F)ポリオール、(G)pH調整剤を含有してなり、かつ25℃におけるpHが6.0〜8.5であることにより、より良好な保存安定性、特に組成物中の酵素安定性、高温保存及び低温保存における外観安定性をより向上させることができる。
【0024】
また、(G)pH調整剤としてリン酸又はその塩を含む場合、(H)クエン酸塩、エデト酸塩及び水溶性ポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤を、(B)プロテアーゼ/(H)キレート剤が1〜10の質量比で配合することにより、組成物の保存安定性をより改善することができる。
【0025】
なお、上記したように従来技術では、希釈して使用する濃縮タイプの義歯洗浄用の液体組成物においては、選択された界面活性剤がデンチャーバイオフィルムを除去するのに不適であったり、各成分の配合量、カチオン性殺菌剤に対するノニオン性界面活性剤の配合比が不適であることから、上記の課題を解決することは難しく、プロテアーゼ及び殺菌剤を安定に配合し、これらの効果を十分に発揮させ、希釈後にデンチャーバイオフィルムに対する優れた除去力と殺菌力を両立させること、加えて、義歯浸漬液(希釈液)が高い防腐力を有するものを得ることは困難であった。これに対して、出願人は、特定のポリオキシエチレンアルキルエーテル、プロテアーゼ、カチオン性殺菌剤、水を配合し、適当な濃度に希釈して使用することによって、上記課題を解決でき、バイオフィルムに対する優れた除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が発揮されることを特願2007−327184号に提案した。本発明者らは、上記課題を解決するため更に検討を進めた結果、新たな技術として、特定の(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルと、(B)〜(D)成分を配合し、(A)/(C)の配合比を特定の割合とし、かつ(A)、(C)成分の濃度が特定範囲となるように水で希釈して使用することによって、デンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力と殺菌力を発揮すると共に義歯浸漬液の防腐力が高く、保存安定性が良好な濃縮液体タイプの義歯洗浄用液体組成物を得ることができたものである。
【0026】
従って、本発明は、下記の義歯洗浄用液体組成物を提供する。
請求項1; 使用時に水で希釈して義歯に適用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物であって、
(A)HLB値が12〜17のポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)プロテアーゼ
(C)カチオン性殺菌剤
(D)水
を含有してなり、(A)/(C)の質量比が2.5〜15であり、かつ(A)成分の濃度が0.03〜0.5質量%及び(C)成分の濃度が0.005〜0.1質量%となるように水で希釈して使用することを特徴とする義歯洗浄用液体組成物。
請求項2; 更に、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールを含有する請求項1記載の義歯洗浄用液体組成物。
請求項3; (A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとして炭素数8〜16の脂肪酸残基を有し、平均重合度が6〜12のポリグリセリン脂肪酸エステルを5〜30質量%、(D)水を30〜50質量%含有し、更に、(F)ポリオール、(G)pH調整剤を含有してなり、かつ25℃におけるpHが6.0〜8.5である請求項1又は2記載の義歯洗浄用液体組成物。
請求項4; (G)pH調整剤がリン酸又はその塩であり、更に、(H)クエン酸塩、エデト酸塩及び水溶性ポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤を(B)プロテアーゼ/(H)キレート剤の質量比が1〜10の範囲で配合した請求項3記載の義歯洗浄用液体組成物。
【発明の効果】
【0027】
本発明の義歯洗浄用液体組成物は、使用時に水で希釈して義歯に適用する濃縮タイプであり、希釈した状態でもデンチャーバイオフィルムに対して優れた除去力及び殺菌力を発揮し、使用時に希釈液に義歯を浸した場合、義歯浸漬液が高い防腐力を有し、かつ組成物の保存安定性が良好であり、更には高温保存及び低温保存時の保存安定性や酵素安定性も良好であり、化学的方法により義歯のデンチャーバイオフィルムを効果的に除去して殺菌することができ、義歯を清潔に維持することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について更に詳細な説明をする。本発明の義歯洗浄用液体組成物は、使用時に水で希釈して義歯に適用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物であって、(A)HLB値が12〜17のポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)プロテアーゼ、(C)カチオン性殺菌剤、(D)水を含有してなり、更に(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモール、(F)ポリオール、(G)pH調整剤、(H)キレート剤などを含有することができる。
【0029】
本発明では、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、(A)HLB値が12〜17のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は12〜17、好ましくは13〜16、より好ましくは14〜16である。HLB値が12未満では、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が低下し、また水への溶解性の低下による外観安定性上の問題が発生する。17を超えるものは一般には市販されていない。
なお、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとしてアトラス法(HLB値=20(1−S/A))を用いて算出した値である。
【0030】
このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸残基の炭素数8〜18で、平均重合度5〜12のポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく用いられる。具体的にはカプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸デカグリセリル、パルミチン酸デカグリセリル、オレイン酸デカグリセリル、ステアリン酸デカグリセリル、カプリル酸ヘキサグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリル、ミリスチン酸ヘキサグリセリル、パルミチン酸ヘキサグリセリル、オレイン酸ヘキサグリセリル、ステアリン酸ヘキサグリセリル、ラウリン酸ペンタグリセリル、ミリスチン酸ペンタグリセリル、オレイン酸ペンタグリセリル、ステアリン酸ペンタグリセリル等が挙げられ、太陽化学(株)、三菱化学フーズ(株)等から市販されているものを使用できる。中でも、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリル、ミリスチン酸ヘキサグリセリル、ラウリン酸ペンタグリセリル、ミリスチン酸ペンタグリセリルを用いることが好ましく、特にカプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸デカグリセリルを用いることがより好ましい。
【0031】
例えば、太陽化学(株)社製のカプリル酸デカグリセリル(サンソフトQ−10Y、HLB17)、ラウリン酸デカグリセリル(サンソフトM−12J、HLB16)、ラウリン酸デカグリセリル(サンソフトQ−12Y、HLB17)、ミリスチン酸デカグリセリル(サンソフトQ−14Y、HLB17)、オレイン酸デカグリセリル(サンソフトQ−17Y、HLB16)、ステアリン酸デカグリセリル(サンソフトQ−18Y、HLB17)、カプリル酸ヘキサグリセリル(サンソフトQ−81F、HLB13)、ラウリン酸ペンタグリセリル(サンソフトA−12E、HLB16)、ミリスチン酸ペンタグリセリル(サンソフトA−14E、HLB15)、ミリスチン酸ペンタグリセリル(サンソフトA−141E、HLB12)、オレイン酸ペンタグリセリル(サンソフトA−17E、HLB15)、ステアリン酸ペンタグリセリル(サンソフトA−18E、HLB15)、三菱化学フーズ(株)社製のラウリン酸デカグリセリル(L−10D、HLB15)、ラウリン酸デカグリセリル(L−7D、HLB16)、ミリスチン酸デカグリセリル(M−10D、HLB15)などがあり、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して使用できる。
【0032】
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に、脂肪酸残基の炭素数が8〜16,とりわけ10〜14で、平均重合度が6〜12、とりわけ8〜10のものを用いることが好ましく、これによりデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力に加えて、組成物及びプロテアーゼの安定性にも優れたものを得ることができる。脂肪酸残基の炭素数が8未満であると油溶性の香料や殺菌剤等を配合する場合に高温及び低温時の外観安定性が十分得られなかったり、プロテアーゼの安定性が十分得られない場合がある。16を超えると低温時の外観安定性が満足に向上しない場合がある。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの平均重合度が6未満では低温時の外観安定性が満足に向上しない場合がある。12を超えると油溶性の香料や殺菌剤等を配合する場合に高温及び低温時の外観安定性が十分向上しなかったり、プロテアーゼの安定性が十分得られない場合がある。
このような脂肪酸残基の炭素数,平均重合度を有するポリグリセリン脂肪酸エステルとして具体的には、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸デカグリセリル、パルミチン酸デカグリセリル、カプリル酸ヘキサグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリル、ミリスチン酸ヘキサグリセリルから選ばれるもの、特にカプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸デカグリセリルが好ましい。
【0033】
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、組成物全体に対して2〜50質量%が好適である。配合量が2質量%未満では、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力が満足に発揮されない場合があり、50質量%を超えると希釈後のカチオン性殺菌剤の効果が低下し、デンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が十分発揮されない場合がある。また、組成物中でのプロテアーゼの安定性が低下し、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力が満足に発揮されない場合がある。
【0034】
特に、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は5〜30質量%、とりわけ8〜25質量%とすることがより好ましく、これにより組成物の保存安定性やプロテアーゼの安定性も向上させることができる。5質量%未満では、油溶性の香料や殺菌剤等を配合する場合に高温及び低温時の保存安定性が満足に向上しない場合があり、30質量%を超えると高温及び低温保存下での安定性を満足に高めることができない場合があり、いずれも十分な外観安定性向上効果が得られないことがある。またプロテアーゼの安定性向上効果が十分に得られない場合もある。
【0035】
(B)成分のプロテアーゼとしては、微生物由来のプロテアーゼ、植物由来のプロテアーゼ、動物由来のプロテアーゼ等を挙げることができ、特に限定されないが、好ましくは洗浄液中での活性を維持することができる微生物由来のプロテアーゼ、より好ましくは洗浄液中で高い活性を維持するアルカリプロテアーゼである。また、プロテアーゼとしてプロテアーゼ製剤を用いることも可能である。ここで、プロテアーゼ製剤とは、プロテアーゼ以外に安定化剤としてプロピレングリコール、グリセリン、ホウ酸、蟻酸、カルシウム、基剤として水等を含むものである。
具体例としては、エバラーゼ16L、サビナーゼ16L、カンナーゼ、クリアレンズプロ(ノボザイムズ社)、PurafectL、アルカリプロテアーゼGL440(GENENCOR社)、ProperaseL(GENENCOR社)等が挙げられ、中でも好ましくはエバラーゼ16L、サビナーゼ16Lである。エバラーゼ16Lの力価は16EPU/g以上であり、通常16〜20EPU/gである。また、サビナーゼ16Lの力価は16KNPU/g以上であり、通常16〜20KNPU/gである。
【0036】
(B)プロテアーゼの配合量は、力価に応じて適宜調整されるが、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力、あるいは組成物の安定性の点から、組成物全体に対して0.1〜5.0質量%、特に0.5〜2.0質量%が好ましく、特にエバラーゼ16Lやサビナーゼ16Lを用いた場合には0.5〜1.2質量%がより好ましい。配合量が0.1質量%未満では希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が満足に発揮されない場合があり、5.0質量%を超えると組成物中でオリが発生し、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が満足に発揮されないことがある。また、組成物の外観安定性に問題が生じる場合がある。
【0037】
(C)カチオン性殺菌剤としては、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等のビスグアニド系、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム系等が挙げられるが、好ましくは第4級アンモニウム系、例えば塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムが好ましく、特にデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力の点で塩化ベンゼトニウムが好ましい。上記カチオン性殺菌剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
(C)カチオン性殺菌剤の配合量は、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力、更には組成物の安定性の点から、組成物全体に対して0.2〜10質量%、特に1.0〜5.0質量%が好ましい。配合量が0.2質量%未満では希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が満足に発揮されない場合があり、10質量%を超えると組成物中でプロテアーゼの安定性が低下し、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力が満足に発揮されないことがある。また、組成物の高温保存下で変色等の問題が起こる可能性がある。
【0039】
本発明において、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(C)カチオン性殺菌剤との質量比は、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力の点から(A)/(C)が2.5〜15の範囲であり、好ましくは4〜12の範囲であり、より好ましくは5〜10の範囲である。(A)/(C)の質量比が2.5未満であると希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力が弱く、15を超えるとミセル中へのカチオン性殺菌剤の取り込みが増大し、その結果、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する十分な殺菌力と義歯浸漬液中での十分な防腐力が発揮されなくなる。
【0040】
本発明の義歯洗浄用液体組成物は(D)水を配合してなるものであり、水の含有量(水分量)は希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、組成物全量に対して30〜97質量%とすることができるが、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力に加えて、組成物中でのプロテアーゼの安定性及び低温保存時の外観安定性を高める点から水分量は30〜50質量%、とりわけ35〜45質量%であることが好ましい。水分量が30質量%未満であると組成物の低温保存下で不溶物の析出が起こり外観安定性に劣る場合があり、97質量%を超えると希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が満足に発揮されないことがある。また、50質量%を超えると組成物中でのプロテアーゼの安定性に劣る場合がある。なおこの場合、組成物の水分量とは、組成中に配合されるグリセリン液等の各成分に含まれる水を含む。
【0041】
本発明の義歯洗浄用液体組成物は、希釈して使用する濃縮タイプの製剤であり、水道水、精製水等の水で希釈して得られる希釈液に義歯を浸漬することで義歯を洗浄できるものであるが、この場合、義歯洗浄用液体組成物の水による希釈倍率は、使用性及び溶解性の点から組成物の5〜500倍希釈、特に25〜200倍希釈、とりわけ50〜200倍希釈が好ましい。
【0042】
本発明の義歯洗浄用液体組成物においては、上記希釈倍率で希釈した希釈液を義歯浸漬液として使用することができ、この場合、希釈液中の各成分の濃度が下記範囲となるように希釈して使用することが好ましいが、特に本発明においては、希釈液中の(A)成分の濃度が0.03〜0.5質量%、(C)成分の濃度が0.005〜0.1質量%となるように組成物を水で希釈して使用することが、デンチャーバイオフィルムに対する優れた除去力及び殺菌力や義歯浸漬液中の高い防腐力を発揮させるために必要である。
【0043】
使用時の各成分の濃度を以下に更に詳述する。
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用時(希釈後)の希釈液中の濃度は、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、希釈液全体の0.03〜0.5質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%である。希釈後の濃度が0.03質量%未満になると、デンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が不十分になり、0.5質量%を超えるとデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の低下が起こるために好ましくない。
【0044】
なお、本発明では、上記(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル以外のノニオン性界面活性剤、特にエチレンオキサイド平均付加モル数が10〜20で、アルキル基の炭素数が12〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは配合しなくてもよいが、一方、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用時(希釈後)の希釈液中の濃度が希釈液全体の0.03〜0.1質量%となる場合には、デンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力を向上させる点から、(A’)エチレンオキサイド平均付加モル数が10〜20で、アルキル基の炭素数が12〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用して配合することができる。
【0045】
この場合、(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルのアルキル基は、炭素数が12〜20、特に12〜16、とりわけ12又は14が好ましく、炭素数が単独のものを用いても、あるいは異なる炭素数のものを組み合わせて用いてもよく、例えば炭素数12と炭素数14のものの混合物として用いてもよい。炭素数が12未満であると界面活性力が弱いためデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が十分向上しないことがあり、20を超えるとカチオン性殺菌剤の効力が十分発揮されずにデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が向上せず、配合効果が十分得られないことがある。また溶解性が悪くなり保存安定性が低下する場合がある。
【0046】
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイド平均付加モル数は、10〜20、特に12〜18、とりわけ12〜15が好ましい。上記平均付加モル数が10未満であるとカチオン性殺菌剤の効力が低下してデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が低下し、配合効果が十分得られないことがある。また溶解性が悪くなり保存安定性が低下する場合がある。20を超えるとデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が十分向上しないことがある。
【0047】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均付加モル数15)やポリオキシエチレンミリスチルエーテル(EO平均付加モル数15)、ポリオキシエチレンアルキル(C12,14)エーテル(EO平均付加モル数15)などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができるが、特にポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均付加モル数15)が好適に用いられる。なお、これらのポリオキシエチレンアルキルエーテルは、例えば日本エマルジョン(株)やライオンケミカル(株)から入手することができる。
【0048】
なお、(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを配合する場合、その配合量は、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの総量が2〜50質量%、特に5〜30質量%となる範囲が好ましく、8〜15質量%とすることがより好ましい。
【0049】
また、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの総量((A)+(A’))と(C)カチオン性殺菌剤との質量比((A)+(A’))/(C)は、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力の点から、2.5〜10、特に2.5〜8の範囲内が好ましい。
更に、(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを配合する場合、希釈液中での(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(A’)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの合計濃度は0.03〜0.5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0050】
(B)プロテアーゼの使用時(希釈後)の希釈液中の濃度は、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、とりわけエバラーゼ16Lやサビナーゼ16Lを使用した場合には、希釈液全体の0.001〜0.02質量%であることが好ましく、0.005〜0.015質量%であることがより好ましい。0.001質量%未満になるとデンチャーバイオフィルムに対する除去力及び殺菌力が不十分となり、0.02質量%を超えるとカチオン性殺菌剤の効果が低下し、デンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力が十分発揮されない場合がある。
【0051】
(C)カチオン性殺菌剤の使用時(希釈後)の希釈液中の濃度は、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、希釈液全体の0.005〜0.1質量%であり、0.01〜0.05質量%であることが好ましく、0.02〜0.04質量%であることがより好ましい。0.005質量%未満になるとデンチャーバイオフィルムに対する十分な殺菌力や浸漬液中の防腐力が発揮されず、0.1質量%を超えるとプロテアーゼの作用が阻害されてデンチャーバイオフィルムに対する十分な除去力が発揮できなくなる。
【0052】
また、(B)プロテアーゼと(C)カチオン性殺菌剤との使用時(希釈後)の希釈液中での質量比は、デンチャーバイオフィルムに対する殺菌力、除去力及び義歯浸漬液の防腐力の点から、とりわけエバラーゼ16Lやサビナーゼ16Lを使用した場合には、(B)/(C)の質量比が0.2〜2の範囲であることが好ましく、特に0.3〜1.0の範囲であることがより好ましい。(B)/(C)の質量比が0.2未満であると、カチオン性殺菌剤がプロテアーゼを阻害してデンチャーバイオフィルムに対する除去力が十分発揮されない場合があり、また、2を超えるとプロテアーゼがカチオン性殺菌剤の効果を阻害してデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力及び義歯浸漬液中の防腐力が十分発揮されない場合がある。
【0053】
本発明の義歯洗浄用液体組成物は、上記したように(A)〜(D)成分を含有するものであるが、更に、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールを配合することができ、これにより希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力を増強することができる。特に使用時(希釈後)の(C)カチオン性殺菌剤の濃度が0.01質量%以下の場合や、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルの濃度が0.2質量%以上の場合、更には(A)/(C)の質量比が7以上の場合には、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力を増強するために、殺菌剤として(C)カチオン性殺菌剤に加えて、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールを配合することが好ましい。これらイソプロピルメチルフェノール及びチモールは、単独で用いてもよく、あるいは2種を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(E)成分を配合する場合、(E)成分の殺菌剤の合計配合量は、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力の増強及び組成物の高温保存時及び低温保存時の外観安定性の点から、組成物全体の0.5〜2.0質量%、特に0.8〜1.5質量%とすることが好ましい。0.5質量%未満ではデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力の増強効果が弱く、2.0質量%を超えると高温保存時の変色が顕著に起こったり、低温保存時の外観安定性が悪くなる場合がある。
【0055】
更に、(E)成分を配合する場合、(E)成分の殺菌剤の使用時(希釈時)の希釈液中の濃度は、0.001〜0.1質量%であることが好ましく、0.005〜0.05質量%であることがより好ましい。0.001質量%未満ではデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力の増強効果が弱く、0.1質量%を超えると希釈時に液が白濁したり、義歯の浸け置きを繰り返し行うことによる義歯材質(樹脂)の変質が起こったりする場合がある。
【0056】
本発明の義歯洗浄用液体組成物は、更に、組成物全体の保存安定性(組成物の外観安定性、プロテアーゼ安定性)を高めるために、(F)ポリオール、(G)pH調整剤を配合することができる。
【0057】
本発明に用いられる(F)ポリオールとしては、例えば1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールや、エリスリトール,ソルビット等の糖アルコールなどが挙げられる。中でも、プロテアーゼ安定性の点からグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを用いることが好ましく、特にグリセリンを用いることがより好ましい。なお、これらのポリオールは単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
(F)ポリオールを配合する場合、(F)ポリオールの本発明組成物への配合量は、特に制限されないが、プロテアーゼの安定性の点から組成物全量に対して合計で20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。20質量%未満であるとプロテアーゼの安定性を向上できない場合があり、60質量%を超えると低温保存時の外観安定性に劣る場合がある。
【0059】
更に、(F)ポリオールを配合する場合、(F)ポリオールの使用時(希釈時)の希釈液中の濃度は、0.04〜12質量%であることが好ましい。
【0060】
本発明の組成物は、外観安定性及びプロテアーゼ安定性の点から25℃におけるpHが6.0〜8.5、特に6.5〜8.0であることが好ましく、7.0〜7.8であることがより好ましい。25℃におけるpHが6.0未満ではプロテアーゼの安定性が低くなり、また8.5を超えると高温保存品の変色が生じて外観安定性が悪くなったり、義歯の浸け置きを繰り返し行うことによる義歯材質(樹脂)の変質が起こったりする場合がある。なお、pH調整の手段として、必要に応じて(G)pH調整剤を配合することができる。この場合のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸又はその塩等が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸又はその塩、クエン酸又はその塩を用いることが好ましい。リン酸塩としては、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられる。クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸三カリウム等が挙げられる。これらpH調整剤の配合量は、pHを上記範囲に調整できればよい。
【0061】
pH調整剤として、これらの中でリン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のリン酸又はその塩を配合する場合には、プロテアーゼの安定性及び外観安定性の点から、更に(H)クエン酸塩、エデト酸塩及び水溶性ポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤を併用して配合することが好ましい。クエン酸塩、エデト酸塩及び水溶性ポリリン酸塩から選ばれるキレート剤を配合すると、(B)プロテアーゼ、とりわけエバラーゼ16Lやサビナーゼ16Lを使用した場合に、(B)プロテアーゼ原料中に含まれるカルシウムとリン酸又はその塩が反応し不溶物が析出し、外観上の問題となることを防止することができる。
【0062】
キレート剤としては、例えばクエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム(EDTA−2Na)、トリポリリン酸ナトリウム等が配合でき、特にクエン酸ナトリウムが、プロテアーゼ安定性や高温及び低温保存時の外観安定性の点で著しく優れていることからより好ましく使用される。なお、クエン酸塩については、pH調整剤及びキレート剤の何れの目的で配合しても構わない。
【0063】
この場合、pH調整剤としてリン酸又はその塩を配合する場合、その配合量は、組成物のpH安定性、プロテアーゼ安定性及び外観安定性の点から、組成物全体の0.1〜1.0質量%が好ましく、0.2〜0.5質量%がより好ましい。0.1質量%未満であるとpH安定性が低下してプロテアーゼの安定性が低下する場合がある。1.0質量%を超えると高温又は低温保存時にオリや変色の発生が起こる場合がある。
【0064】
また、(H)キレート剤を配合する場合、その配合量は、プロテアーゼの安定性及び外観安定性の点から、組成物全体の0.1〜1.0質量%が好ましく、0.2〜0.5質量%がより好ましい。0.1質量%未満であると高温及び低温保存時のオリの発生を抑制する効果が低くなる場合があり、1.0質量%を超えるとプロテアーゼの安定性が低下する場合がある。
【0065】
また、(H)キレート剤を配合する場合、プロテアーゼ安定性や高温保存時及び低温保存時の外観安定性の点から、組成物中の(B)プロテアーゼと(H)キレート剤との質量比((B)/(H))が1〜10の範囲であることが好ましく、2〜5の範囲がより好ましい。1未満であると、プロテアーゼ安定性が低下することがあり、10を超えると高温保存時及び低温保存時にオリ等が発生して外観安定性が低下することがある。
【0066】
本発明の義歯洗浄用液体組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて上記成分に加えて他の公知成分を更に配合することができる。任意成分としては、例えば香料、ポリオール以外の溶剤、着色剤、カチオン性殺菌剤,イソプロピルメチルフェノール及びチモール以外の他の殺菌剤、上記(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル,更には(A’)ポリプロピレンアルキルエーテル以外のノニオン性界面活性剤等の界面活性剤などが挙げられる。
【0067】
香料としては、スペアミント油、ペパーミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、シンナモンバーク油等の天然香料、及び、メントール、メントン、カルボン、エチルブチレート、バニリン、エチルマルトール、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、シネオール、オイゲノール、エチルバニリン、マルトール、リモネン、シトロネロール、リナロール、リナリールアセテート、メンチルアセテート、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、ジンジャーオレオレジン、クレオソール、dl−カンファー等の単品香料、更に、エチルアセテート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール等の単品香料及び/又は天然香料も含む各種調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料を使用することができる。
【0068】
本発明の義歯洗浄用液体組成物では、香料を配合することにより清涼感を付与することができ、使用者がより快適に義歯を洗浄したり、義歯を装着した時にサッパリ感を実感することができる。清涼感と外観安定性の点から香料は組成物全体の1〜4質量%配合することが好ましい。配合量が1質量%未満では義歯を装着した時に、清涼感、サッパリ感が不十分である場合がある。4質量%を超えると、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルを30質量%配合しても、良好な外観安定性を保つことができなかったり、高温保存品の変色が顕著に起こったりする場合がある。
【0069】
本発明組成物には、溶剤として、油溶性香料やイソプロピルメチルフェノール等の難溶性成分を溶解させるためにエタノールを配合できる。エタノールを配合する場合は組成物中に4〜20質量%配合することが好ましく、6〜12質量%であるとより好ましい。エタノールを上記濃度範囲で配合すると、香料やイソプロピルメチルフェノールやチモール等の油溶成分が溶解し易く、またプロテアーゼの安定性を阻害しない。
【0070】
着色剤としては、赤色2号、赤色3号、赤色225号、赤色226号、黄色4号、黄色5号、黄色205号、青色1号、青色2号、青色201号、青色204号、緑色3号等の法定色素、カラメル色素、ベニバナ色素、クチナシ色素、コチニール色素、アナトー色素、雲母チタン、酸化チタン等が挙げられる。
【0071】
本発明では、上記(C)カチオン性殺菌剤、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールに加えて、これら以外の殺菌剤として、トリクロサン、安息香酸又はその塩、サリチル酸又はそのエステルもしくはその塩、パラベン類、フェノール等を用いることができる。
【0072】
界面活性剤としては、他のノニオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリル酸モノ又はジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を配合することができる。なお、これら他の界面活性剤の配合量は、通常、上記(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含めた組成物中のノニオン性界面活性剤と(C)カチオン性殺菌剤との質量比が2.5〜15を超えない範囲で、組成物全体の0〜2質量%、特に0.1〜1質量%とすることができる。
【0073】
また、本発明組成物を収容する容器としては特に制限はなく、通常、口腔用組成物に適用されている容器に充填して用いることができる。このような容器として具体的には、ポリエチレン層、エチレンメタクリル酸共重合体層、ポリエチレンテレフタレート層、アルミニウム層、ガラス蒸着層、ポリビニルアルコール層、エチレンビニルアルコール共重合体層、アクリロニトリル共重合体層、紙、リサイクルプラスチック層等からなるラミネート容器、又はポリエチレン容器、ポリエチレンテレフタレート容器、ポリプロピレン容器等が使用でき、チューブ状容器、機械的又は差圧によるディスペンサー容器、ピロー包装等のフィルム包装容器等、口腔用組成物として通常使用される各種容器を使用可能である。好ましくはポリエチレンテレフタレート容器である。
【0074】
本発明の濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物で義歯を洗浄するには、例えばコップ等の容器に本発明の組成物を入れ、組成物を水道水又は精製水にて希釈して希釈液を調製し、その中に義歯を一晩浸漬すればよく、浸漬後は義歯を取り出し、水ですすいでから装着することができる。なお、歯ブラシ等で軽く汚れを落としてから義歯を上記希釈液に浸漬すると更に効果的である。
【実施例】
【0075】
以下、実験例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において、%は特に断らない限り質量%を意味する。表中の配合品(義歯洗浄用液体組成物)中の各配合成分の配合量は、(A),(C)及び(F)成分については純分換算した量を示した。また、表1,3,5,7においてpH調整剤として配合している水酸化ナトリウムは微量であるため、配合量をゼロとみなして(D)水分量を算出した。
【0076】
また、原料の各成分としては、以下のものを使用した。
ラウリン酸デカグリセリル(HLB16);太陽化学(株)製(商品名サンソフトM−12J)
ラウリン酸デカグリセリル(HLB17);太陽化学(株)製(商品名サンソフトQ−12Y)
ミリスチン酸デカグリセリル(HLB15);三菱化学フーズ(株)製(商品名リョートーポリグリエステルM−10D)
カプリル酸デカグリセリル(HLB17);太陽化学(株)製(商品名サンソフトQ−10Y)
ミリスチン酸ペンタグリセリル(HLB12);太陽化学(株)製(商品名サンソフトA−141E)
ポリオキシエチレン(POE)ラウリルエーテル(エチレンオキシド(EO)付加モル数15);日本エマルジョン(株)製(商品名エマレックス715)
トリラウリン酸デカグリセリル(HLB10)(比較品);太陽化学(株)製(商品名サンソフトQ−123Y)
ショ糖ステアリン酸エステル(HLB15)(比較品);三菱化学フーズ(株)製(商品名リョートーシュガーエステルS−1570)
アルキル(C12,14)グリコシド(比較品);ヘンケル社製(商品名プランタケア2000UP)
【0077】
プロテアーゼ;ノボザイムズ社製(商品名エバラーゼ16L)
ノボザイムズ社製(商品名サビナーゼ16L)
塩化ベンゼトニウム;三井ライフテック(株)製(商品名ハイアミン)
塩化セチルピリジニウム;和光純薬工業(株)製
塩化ベンザルコニウム;日本油脂(株)製
塩化クロルヘキシジン;和光純薬工業(株)製
塩化アルキル(C12,14)ジアミノグリシン(比較品);山洋化成(株)製(商品名レボンLAG−40、40%品)
感光素201号(比較品);感光社製(商品名ピオニン)
イソプロピルメチルフェノール;大阪化成(株)製
チモール;大阪化成(株)製
グリセリン;阪本薬品工業(株)製(85%品)
プロピレングリコール;昭和電工(株)製
ソルビット;70%ソルビット液、東和化成工業(株)製
エリスリトール;三菱化学フーズ(株)製
リン酸一水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム;太平化学産業(株)製
クエン酸ナトリウム;磐田化学(株)製
・その他任意成分;全て日本薬局方もしくは医薬部外品原料規格適合品を使用。
【0078】
[実施例、比較例]
下記表1,3,5,7,9,11,13に示す組成の配合品(義歯洗浄用液体組成物)を下記製造法により調製し、下記方法にてデンチャーバイオフィルム除去力、殺菌力、義歯浸漬液の防腐力及び保存安定性を評価した。結果を表2,4,6,8,10,12,14に示す。
<製造法>
(1)精製水中にカチオン性殺菌剤、ポリオール、プロテアーゼ等の水溶性成分を混合溶解しA相を調製した。必要があればpH調整剤を添加した。
(2)エタノールと加温融解したポリグリセリン脂肪酸エステルを混合しB相を調製した。添加する場合は香料やイソプロピルメチルフェノール、チモール等の油溶性成分を添加した。
(3)撹拌しながらA相にB相を添加混合し、義歯洗浄用液体組成物を得た。
【0079】
<pH測定方法>
ガラス製容器に移した配合品についてpH計(東亜電波工業(株)製、HM−30V)及びpH電極(東亜電波工業(株)製、GST−5421C)にて25℃における3分後の値を測定した。
【0080】
<HLB値の測定方法>
(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとしてアトラス法(HLB値=20(1−S/A)を用いて算出した。
【0081】
<サンプル溶液の調製>
下記表1,3,5,7の配合品(義歯洗浄用液体組成物)を表2,4,6,8に記載の希釈倍率にするために、水道水で希釈した。この希釈液をサンプル溶液として下記の試験例1〜3に用いた。試験に用いるサンプル液(希釈液)の容量はいずれも1.8mLとした。
【0082】
試験例1.デンチャーバイオフィルムに対する除去力試験
本発明の義歯洗浄用液体組成物のデンチャーバイオフィルムに対する除去力を検証するため、デンチャーバイオフィルムモデルを作成し、in vitroでの評価を行った。
【0083】
<デンチャーバイオフィルムモデルの作成方法>
重合アクリル板1×1cmを24ウェルプレートに入れ、そこに0.5%ムチン溶液、0.5%アルブミン溶液混液を0.5mLのせ、37℃で1時間静置した。1時間後ムチンアルブミン溶液を除去した。次に、カンジダアルビカンス(Candida albicans IFO1594)とストレプトコッカスミュータンス(Streptococcus mutans ATCC25175)を前培養菌液から集菌しPBSに分散した菌液(濁度OD=660nmで1.0の濃度)を各50μLのせ、37℃で2時間静置した。その後、トリブチカーゼ・ソイ・ブロス(TSB)培地を1.8mL加えて37℃にて20時間培養しデンチャーバイオフィルムを作成した。20時間後、ウェルから培地を除き、水1mLを加えて洗浄し、水を除去する操作を2回繰り返した。
【0084】
<除去力試験>
上記方法で作成したデンチャーバイオフィルムモデルを新しい24ウェルプレートに入れ、サンプル溶液1.8mLに一晩浸漬した。翌日、プレートを振盪して壊れたデンチャーバイオフィルムを除いた後、サンプル溶液を除去し水1mLによる洗浄を2回繰り返した。アクリル板を試験管に移し、水中で超音波とボルテックスでバイオフィルムを剥がし分散させ、濁度(OD=660nm)を測定した(ODサンプル)。コントロールとして水に一晩浸漬したバイオフィルムについても同様に濁度(ODコントロール)を測定し、下記の式に従ってデンチャーバイオフィルム除去率を算出した。この試験は3回測定し、その平均値を求め、下記の基準によりデンチャーバイオフィルムに対する除去力を評価した。
除去率(%)={(ODコントロール−ODサンプル)/ODコントロール}×100
【0085】
<評価基準>
デンチャーバイオフィルム除去率 80%以上 :◎
〃 60%以上〜80%未満 :○
〃 50%以上〜60%未満 :△
〃 50%未満 :×
【0086】
試験例2.デンチャーバイオフィルムに対する殺菌力試験
本発明の義歯洗浄用液体組成物のデンチャーバイオフィルム中の微生物への殺菌力を検証するためデンチャーバイオフィルムモデルを作成し、in vitroでの評価を行った。
【0087】
<殺菌力試験>
上記方法で作成したデンチャーバイオフィルムモデルを新しい24ウェルプレートに入れ、サンプル溶液1.8mLに一晩浸漬し、翌日プレート振盪して壊れたバイオフィルムを除いた後、サンプル溶液を除去し水による洗浄を2回繰り返した。アクリル板を試験管に移し、PBS中で超音波とボルテックスでバイオフィルムを剥がし分散させた後、PBSにて段階希釈した。各希釈液100μLをトリブチカーゼ・ソイ・アガー(TSA)培地に塗抹、37℃にて4日間培養した後、コロニーの数を残存菌数として計測し、下記評価基準に照らして殺菌効果を評価した。コントロールとして水に一晩浸漬したバイオフィルムについても同様にコロニーの数を計測した。この試験は2回行い、その平均値を求め、下記評価基準によりデンチャーバイオフィルムに対する殺菌力を評価した。
【0088】
<評価基準>
コロニー数を測定し、コントロール(水)に対して減少した菌数で評価した。
減少した菌数=コントロール(水)菌数−サンプル処理菌数
0 〜 10 :×
11 〜 100 :△
101 〜 1000:○
1001〜 :◎
【0089】
試験例3.防腐力試験
本発明の義歯洗浄用液体組成物の希釈液において、義歯浸漬中の防腐力を検証するため、デンチャーバイオフィルムモデルを作成し、in vitroでの評価を行った。
【0090】
<防腐力試験>
上記方法で作成したデンチャーバイオフィルムモデルを新しい24ウェルプレートに入れ、サンプル溶液1.8mLに一晩浸漬し、翌日浸漬液を40μL採取し、レシチン・ポリソルベート添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト(SCDLP)液体培地にて100倍希釈した。希釈液100μLをSCDLP寒天培地に塗抹、37℃にて4日間培養した後、コロニーの数を残存菌数として計測した。この試験は2回行い、その平均値を求め、下記評価基準により義歯浸漬中の防腐力を評価した。
【0091】
<評価基準>
コロニー数を測定し、生育した菌数で評価した。
0 :◎
1 〜 50 :○
51 〜 300 :△
301 〜 :×
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
表1〜4の結果より、本発明の義歯洗浄用液体組成物は、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力、義歯浸漬液の防腐力に優れることがわかった。これに対して、表5〜8の結果から、本発明の必須成分のいずれかを含有しない場合、更には、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルや(C)カチオン性殺菌剤の使用時(希釈時)の濃度が所定の範囲を外れた場合、もしくは(A)/(C)の質量比が所定の範囲を外れた場合においては、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力、義歯浸漬液の防腐力のいずれかの点で十分な効果が発揮されないことがわかった。
【0101】
試験例4.保存安定性試験
表9,11,13に示す配合品(義歯洗浄用液体組成物)について、義歯洗浄用液体組成物の保存安定性を下記方法で評価した。また、上記と同様にして配合品(義歯洗浄用液体組成物)の希釈液について、デンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力、義歯浸漬液の防腐力を評価した。結果を表10,12,14に示す。
【0102】
<評価方法>外観安定性
サンプル(配合品)約40gを50mLの透明PET容器で高温(50℃)と低温(−10℃)条件下で1ヶ月保存した。保存後のサンプルを1日間室温に放置した後、外観変化(沈殿物・液分離・変色)を評価した。酵素活性を測定し保存安定性を評価した。
【0103】
<評価基準>
沈殿物・液分離・変色のいずれにおいても変化が認められない :◎
沈殿物・液分離・変色のいずれかの項目においてわずかに変化が
認められるが問題のないレベルである :○
沈殿物・液分離・変色のいずれかの項目において変化が認められる :△
沈殿物・液分離・変色のいずれにおいても変化が認められる :×
【0104】
<評価方法>酵素安定性
サンプル(配合品)約20gを20mLのガラスバイアル瓶で40℃の条件下で1ヶ月保存した。保存後のサンプルを1日間室温に放置した後、酵素活性を測定し、保存安定性を評価した。酵素活性の測定方法は、ペプチジルp−ニトロアニリンを基質とし、加水分解により放出されるp−ニトロアニリンの増加率を405nmの吸光度を測定して求めた。
【0105】
<評価基準>
40℃で1ヶ月保存後の酵素の残存率 80%以上 :◎
〃 70%以上〜80%未満 :○
〃 50%以上〜70%未満 :△
〃 50%未満 :×
【0106】
【表9】

【0107】
【表10】

【0108】
【表11】

【0109】
【表12】

【0110】
【表13】

【0111】
【表14】

【0112】
表9〜14の結果より、本発明の義歯洗浄用液体組成物は、希釈後のデンチャーバイオフィルムに対する除去力、殺菌力、義歯浸漬液の防腐力に優れ、特に(A)成分が炭素数8〜16の脂肪酸と平均重合度6〜12のポリグリセリンのエステルでその配合量が5〜30質量%、(D)水分量が30〜50質量%の組成物で、更に(F)ポリオール、(G)pH調整剤を含有し、pH6.0〜8.5であるものは、希釈前の配合品の高温保存時及び低温保存時の外観安定性、プロテアーゼ安定性により優れることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に水で希釈して義歯に適用する濃縮タイプの義歯洗浄用液体組成物であって、
(A)HLB値が12〜17のポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)プロテアーゼ
(C)カチオン性殺菌剤
(D)水
を含有してなり、(A)/(C)の質量比が2.5〜15であり、かつ(A)成分の濃度が0.03〜0.5質量%及び(C)成分の濃度が0.005〜0.1質量%となるように水で希釈して使用することを特徴とする義歯洗浄用液体組成物。
【請求項2】
更に、(E)イソプロピルメチルフェノール及び/又はチモールを含有する請求項1記載の義歯洗浄用液体組成物。
【請求項3】
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとして炭素数8〜16の脂肪酸残基を有し、平均重合度が6〜12のポリグリセリン脂肪酸エステルを5〜30質量%、(D)水を30〜50質量%含有し、更に、(F)ポリオール、(G)pH調整剤を含有してなり、かつ25℃におけるpHが6.0〜8.5である請求項1又は2記載の義歯洗浄用液体組成物。
【請求項4】
(G)pH調整剤がリン酸又はその塩であり、更に、(H)クエン酸塩、エデト酸塩及び水溶性ポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤を(B)プロテアーゼ/(H)キレート剤の質量比が1〜10の範囲で配合した請求項3記載の義歯洗浄用液体組成物。

【公開番号】特開2010−6720(P2010−6720A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165296(P2008−165296)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】