説明

耐久性を有し変色しにくい多層セラミックコーティングを有するプレーンな銅製のフードウェアおよび金属製物品およびその製造方法

物理蒸着法によって、柔らかく多孔質の材料に多層セラミックコーティングをコーティングする。このようにしてコーティングされた材料は、フードウェア、具体的にはプレーンな銅の基板、基コーティング、および、セラミックコーティングを含む銅製フードウェア物品として使用するのに適している。基コーティングは、スパッタリングと陰極アークとの組み合わせによって堆積され、優れた耐食性、および、基板への付着を提供することができる。セラミックコーティングは物理蒸着窒化物または炭窒化物層を含み、変色しにくい表面、優れた耐久性、および、熱安定性を提供することができる。コーティングされた銅製フードウェア物品は、純銅と同じ熱伝導性、優れた耐食性、高い耐久性、優れた調理性能、および、クリーニングの容易さを示す。また、多層コーティングを有する金属製物品、および、このような金属製物品の製造方法も説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には金属製物品に関し、より具体的には、多層コーティングを有する金属製物品およびこのような金属製物品の製造方法に関する。一実施態様において、本発明は、全般的に、純銅のような付着耐性および優れた熱伝導性を有するプレーンな銅製のフードウェア物品に関し、より具体的には、多層の耐久性および付着耐性を有するセラミックコーティングを有するプレーンな銅製のフードウェア物品、および、このようなフードウェア物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理器具は、例えば鋳鉄、アルミニウム、クラッドアルミニウム、ステンレス鋼、および、クラッドステンレス鋼、および、クラッド銅などの様々なベース材料を用いて製造することができる。
【0003】
シーズニングした鋳鉄の調理器具は、強靭で摩耗に強い表面を有する。しかしながら、鋳鉄はさびやすく、調理器具の表面にダメージを与えないように慎重にクリーニングしなければならない。加えて、食物中の酸は、表面からの鉄の滲出を引き起こす可能性があり、そのために、場合によっては健康問題が生じる恐れがある。
【0004】
銅製調理器具は、優れた熱伝達性を有する。しかしながら銅製調理器具は、鋳鉄またはステンレス鋼などのその他の調理器具原料よりもかなり柔らかいため、かき傷がつきやすい。また銅は酸化しやすく、それにより変色が起こる。銅は、変色部分を除去するために磨いてもよいが、それには、表面仕上げを維持するためにかなりの努力が必要である。さらに銅イオンは食物に滲み出す可能性がある。
【0005】
アルミニウム製調理器具は、優れた熱伝達性を有する。しかしながらアルミニウムもイオンの滲出を起こしやすい。この問題を少なくする一つの方法は、アルミニウムの表面をコーティングすることである。陽極処理アルミニウムは、酸化アルミニウムでコーティングされている。このようなアルミニウムは、酸化物層によって、未処理アルミニウムよりも硬度がかなり高くなる。(未処理アルミニウムは、空気中の酸素との反応によって生じた酸化アルミニウムの薄層を有する)。しかしながら、一般的には、調理中に油を使用しない限り、食物は陽極処理アルミニウム製調理器具に付着すると予想される。加えて陽極処理アルミニウム製調理器具は、典型的な自動食器洗いで生じる産物によって変色したり、または、腐食したりする可能性があるため、安心して食器洗い機で使用できない。
【0006】
またアルミニウムは、滲出を予防するために溶射処理してもよい。しかしながらこのプロセスでは粗い表面が生じ、食物は、一般的に、処理されていない限り表面に付着すると予想される。
【0007】
ステンレス鋼製調理器具が広く用いられている。ステンレス鋼製調理器具は、その強度および耐久性で知られている。ステンレス鋼はクリーニングが比較的簡単であり、銅よりも優れた輝きを保持する。しかしながら、ステンレス鋼は、シーズニングした鋳鉄よりもかなり食物が付着しやすい傾向を有する。過熱、塩水での調理、または、平鍋を「加熱料理により乾燥させること」によって、表面の変色が起こる。加えて、鉄、クロム、マンガンおよびニッケルのようなイオンの滲出は、一般的には極めて低い程度であるが、ステンレス鋼に関する懸念となる可能性がある。
【0008】
加えてステンレス鋼は、あまりいい熱の伝導体ではない。225℃におけるステンレス鋼の熱伝導率はわずか19W/mKであるが、一方で、同じ温度で、銅は398W/mKであり、アルミニウムは250W/mKである。従って、銅は、ステンレス鋼よりも約20倍高い熱伝達率を有する。
【0009】
ステンレス鋼製調理器具の性能は、大部分は、どの程度よく平鍋に熱が広がるか、それによって「ホットスポット」をどれだけ減少させるか、または、なくすことができるかによって決定される。ステンレス鋼製調理器具の熱を分散させるため、ろう付けまたは高圧圧接を用いてアルミニウムまたは銅製のディスクを平鍋の底部に取り付けることができる(側壁はステンレス鋼である)。熱伝導性は改善されるが、平鍋全体の熱の分布は均一ではない。さらに、使用者が長時間過熱させながら食物を調理したり、または、平鍋が煮詰まって乾燥したりすると、ディスクが平鍋から分離する恐れがある。
【0010】
ステンレス鋼製調理器具の熱を分散させるその他のアプローチは、調理器具のベース材料としてクラッドステンレス鋼を使用することである。クラッド材料は、ステンレス鋼と、それを間に挟んだアルミニウムまたは銅とで作製される。このような平鍋は、底部だけでなく側壁の上まで熱を均一に伝達する。クラッドステンレス鋼製調理器具は急速に熱くなるが、冷えるのも急速であり、これはなぜなら、銅またはアルミニウムのコアが、熱および冷気の優れた導体だからである。例えば、図1で示されるように、1.87mmの全体の厚さを有する5層の材料で作製されたクラッドステンレス鋼の平鍋5は、内部の304ステンレス鋼層(0.336mm)10、アルミニウム層(0.140mm)15、銅のコア(0.940mm)20、アルミニウム層(0.140mm)25、および、外部の430ステンレス鋼層(0.31mm)30を有していてもよい。一例として、2.71mmの全体の厚さを有する3層の材料は、内部の304ステンレス鋼層(0.394mm)、アルミニウムのコア(1.930mm)、および、外部の430ステンレス鋼層(0.386mm)を含む。クラッドステンレス鋼の熱伝導性は、全体の厚さの約28〜35%であるステンレス鋼層の不十分な伝導率と、アルミニウムまたは銅の優れた伝導率との組み合わせである。
【0011】
3層および5層のステンレス鋼製調理器具は、調理面の変色およびかき傷といった一般的なステンレス鋼製調理器具と同じ不利益を有する。調理器具は高温で調理する際に焦げやすく、焦げた内部表面のクリーニングには長時間を要する。加えて、内部のステンレス鋼の表面層がこすり洗い中に剥がれる可能性がある。要求の多いレストランの多くでは、5層の深鍋(skillet)はわずか約7〜8ヶ月しかもたないそうであり、これはなぜなら、銅のコアが露出し始めるためである。
【0012】
よりよく熱を分散させるその他のアプローチは、調理器具のベース材料としてクラッド銅を使用することである。例えば図2で示されるように、2.2mmの全体の厚さを有するクラッド銅材料で作製された平鍋40は、内部の304ステンレス鋼層(0.4mm)45、アルミニウム層(0.3mm)50、および、銅の外部層(1.5mm)55を有していてもよい。この場合、ステンレス鋼の層は、全体の18%に低められている。このようにして得られたクラッド銅製調理器具の熱伝導性は、3層または5層のクラッドステンレス鋼製調理器具いずれの熱伝導性よりも優れている。しかしながら、内部のステンレス鋼表面は、変色/焦げ付きおよびかき傷といったその他のステンレス鋼製調理器具と同じ問題を有する。加えて、外部の銅表面は、容易に酸化しやすい。銅の表面仕上げを保持するには、上記で考察したようにかなりの努力が必要である。
【0013】
付着を予防する表面処理が知られている。調理器具のためのよく知られた表面処理の一つは、ペルフルオロカーボンポリマーの使用に関するものである。ペルフルオロカーボンのコーティングは焦げ付きにくい表面を提供するが、これらは容易に削り取られてしまう。現在のペルフルオロカーボンのコーティングは以前使われていたものよりも強いものの、それらはそれでもなおかなり削られやすい。表面が削られたり、または、傷が入ったりすると、ペルフルオロカーボンのコーティングの薄片が調理される食物に入り込んでしまう。ペルフルオロカーボンの薄片は健康上の危険を引き起こすことがわかっていないにもかかわらず、このような剥離は多くの人々にとって望まれていない。加えて、ペルフルオロカーボンポリマーは一般的な調理温度で安全であるが、これらは高温でダメージを受ける可能性があり、毒性の煙を発する可能性がある。
【0014】
その他の表面処理は、セラミックコーティングの使用に関するものである。米国特許第5,447,803号は、チタン層および窒化チタン層を堆積させたものを説明している。窒化チタンのコーティングは、高い硬度と金色を有する。窒化チタンのコーティングは、色を安定化するために酸化または窒化される場合があるが、これらの酸化物または窒化物コーティングは薄く、それでもなお削られる可能性があり、結果として平鍋の変色を起こす可能性がある。
【0015】
米国特許第6,197,438号は、かき傷が付きにくい、および、焦げ付きにくい特性を達成するために、プライマーまたはトップコート層として窒化クロムまたは窒化アルミニウムの厚い層(約2〜50ミクロン)を使用することを説明している。装飾的な、または、機能性トップコート層、例えば窒化ケイ素、アルミナ、または、ダイヤモンド状の炭素を追加してもよい。また、プラズマ溶射されたアルミニウム合金の基板をベースとするセラミックコーティングされたフードウェアも開示されている。
【0016】
米国特許第6,360,423号は、調理器具への窒化ジルコニウムのコーティングの堆積を説明している。その表面は、付着耐性のコーティングを得るために窒化ジルコニウム層を堆積する前に、表面が非常に滑らかになるまで磨かなくてはならない。色を安定化するために窒化ジルコニウムのコーティングは酸化または窒化する必要はないにもかかわらず、窒化ジルコニウムは、過熱によって、または、塩を含む食物によって程度は様々だが変色する可能性がある。
【0017】
米国特許第6,906,295号および7,462,375号は、多層のセラミックコーティングを有するフードウェア物品を説明しており、これは、付着耐性、かき傷耐性、熱に対する安定性、耐食性、および、色の安定性を有する。このようなフードウェア物品は、内部の食物接触面と外面とを有する金属製フードウェア物品を含む。食物接触面上に堆積させた接着層が存在し、これは、典型的には金属層である。(Ti,Al,Cr)Nの層は、接着層と隣接して堆積される。このようなコーティングは、任意にCrNと(Ti,Al,Cr)Nとが交互になった層を含んでいてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6,197,438号
【特許文献2】米国特許第6,360,423号
【特許文献3】米国特許第6,906,295号
【特許文献4】米国特許第7,462,375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
クラッドステンレス鋼製調理器具またはクラッド銅製調理器具よりも優れた熱伝導性を有するが、クラッドステンレスおよびクラッド銅製調理器具の内部のステンレス面に伴う変色/焦げ付きおよびかき傷の問題を有さない調理器具への必要性がある。加えて、純銅と同じ熱伝導性を有する調理器具への必要性があり、さらに、金属の外観を有し、高い調理温度での使用に適しており、ベースに酸および塩を含む食物のいずれとも使用することができる、かき傷が付きにくい、付着耐性、熱に対する安定性を有するセラミックコーティングへの必要性がある。
【0020】
さらに、柔らかく多孔質のベース材料に対する付着が優れており、さらに、耐食性に優れたセラミックコーティングに対する必要性もある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、多層で、付着耐性を有し、変色しにくいコーティングを有する銅製フードウェア物品を提供することによってその必要性を満たすものである。このような銅製フードウェア物品は、銅の基板;銅の基板の第一の表面上に堆積させる基コーティング(ここで該基コーティングは、金属、金属の合金またはそれらの組み合わせから選択される材料を含む、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層を含む);および、基コーティングに隣接して堆積させたセラミックコーティング(ここで該セラミックコーティングは、物理蒸着窒化物または炭窒化物層を含む)、を含む。
【0022】
本発明のその他の形態は、付着耐性を有し、変色しにくい多層セラミックコーティングを有する金属製物品である。このような金属製物品は、金属基板;金属基板の第一の表面上に堆積させる基コーティング(ここで該基コーティングは、金属、金属の合金またはそれらの組み合わせから選択される材料を含む、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層を含む);および、基コーティングに隣接して堆積させたセラミックコーティング(ここで該セラミックコーティングは、物理蒸着窒化物または炭窒化物層を含む)を含む。
【0023】
本発明のその他の形態は、多層で、付着耐性を有し、変色しにくいコーティングを有する金属製物品の製造方法である。本方法は、金属基板を提供すること;金属基板の第一の表面上に基コーティングを堆積させること(ここでこの堆積は、陰極アークプロセスとスパッタリングプロセスとの組み合わせを用いて、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層を堆積させることを含み、ここで陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層は、金属、合金またはそれらの組み合わせから選択される材料で作製される);および、基コーティングに隣接してセラミックコーティングを堆積させること(ここでこの堆積は、物理蒸着プロセスを用いて物理蒸着窒化物または炭窒化物層を堆積させることを含む)を含む。
【0024】
窒化物または炭窒化物層は、窒化物または炭窒化物の合金を意味する。このような窒化物および炭窒化物は、一般的に、周期表の第4族、第5族および第6族からの1種またはそれより多くの元素、AlまたはBであると予想される。典型的には、窒化物または炭窒化物は、Ti、Al、Cr、Zr、Nb、V、MoまたはBのうち少なくとも1種を含むと予想される。窒化物および炭窒化物としては、これらに限定されないが、TiN、CrN、NbN、ZrN、BN、AlCrN、TiAlN、(Ti,Al,Cr)N、(Al,Cr,X)N、および、TiCN、CrCN、ZrCN、BCN、AlCrCN、TiAlCN、(Ti,Al,Cr)CN、(Al,Cr,X)CNが挙げられる。
【0025】
(Al,Cr,X)N、または、(Al,Cr,X)CNは、追加の元素を含む、窒化物または炭窒化物とアルミニウムおよびクロムとの合金を意味する。Xは、一般的に、
周期表の第4族、第5族および第6族からの1種またはそれより多くの元素、または、Bであると予想される。Xは、典型的には、Ti、Zr、Nb、V、MoまたはBのうちの1種である。窒化物および炭窒化物と、アルミニウム、クロムおよび追加の元素との合金としては、これらに限定されないが、窒化アルミニウムXと、窒化クロムまたはその他の組み合わせとの超格子構造を有するコーティングが挙げられる。
【0026】
(Ti,Al,Cr)N、または、(Ti,Al,Cr)CNは、窒化物または炭窒化物と、チタン、アルミニウムおよびクロムとの合金を意味する。窒化物と、チタン、アルミニウムおよびクロムとの合金としては、これらに限定されないが、窒化チタンアルミニウムと窒化クロムとの超格子構造を有するコーティングが挙げられる。炭窒化物と、チタン、アルミニウムおよびクロムとの合金としては、これらに限定されないが、炭窒化チタンアルミニウムと、炭窒化クロムとの超格子構造を有するコーティングが挙げられる。
【0027】
生体適合性の、とは、コーティングが、ISO10993−1に従って行われた生体適合性試験を満たしていなければならないことを意味する。生体適合性のコーティングの例としては、これらに限定されないが、TiN、CrN、TiN/TiCN、AlTiN、TiAlN、ZrN、(Ti,Al,Cr)Nが挙げられる。
【0028】
プレーンな銅は、クラッド層をまったく有さない銅を意味する。
「〜に堆積させる」は、間にまったく層を介在させないでその前の層に直接堆積させることを意味する。「〜に隣接して堆積させる」は、前の層の次に堆積させることを意味するが、必ずしも直接でなくてもよい。前の層に直接堆積させてもよいし、または、互いに隣接して堆積させた層と間に1またはそれより多くの介在層が存在していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、5層のクラッドステンレス鋼で作製された平鍋の断面である。
【図2】図2は、クラッド銅で作製された平鍋の断面である。
【図3】図3は、本発明の物品の一実施態様の断面である。
【図4】図4は、本発明の物品のその他の実施態様の断面である。
【図5】図5は、本発明に従って作製された平鍋のその他の実施態様の断面である。
【図6】図6は、本発明において有用な堆積チャンバーの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、具体的には、銅およびアルミニウムのような柔らかく多孔質の基板を多層セラミックコーティングを堆積させることによってコーティングすることに関して設計されている。多層セラミックコーティングは、基コーティング、および、セラミックコーティングを含む。基コーティングおよびセラミックコーティングは、異なる機能を有する。基コーティングは、基板材料への優れた付着強度、および、優れた耐食性を提供する。セラミックコーティングは、例えば優れた耐久性、付着耐性、または、焦げ付きにくい性能、変色しにくい特性、および、熱に対して安定な特性などの望ましい機能性を提供する。
【0031】
銅およびアルミニウムのような非鉄材料は、柔らかく多孔質である。このような材料に関する主な問題は、腐食である。従って、厚く、密度が高く、且つ滑らかな基板上に堆積させる基コーティングが必要である。スパッタリングプロセスは、優れた耐食性を提供することに関して、陰極アークプロセスよりも優れている。これらに限定されないが、DCスパッタリング、反応性スパッタリング、または、マグネトロンスパッタリングなどのスパッタリングプロセスは、滑らかで高密度のフィルムを製造するために、既定のコーティングパラメーター(例えばバイアス電圧)と適切な装置によって正確に制御することができる。陰極アークは、微粒子、いわゆる液滴を生じるが、それにより高密度のフィルムが破断する可能性があり、結果的に耐食性が悪くなる。しかしながら、陰極アークプロセスでは、基板を貫通できるほどの高エネルギーの金属イオンによって基板に衝撃を与えるため、結果として優れた基板への付着強度が得られる。
【0032】
それに続く考察はフードウェアに多層セラミックコーティングを使用することに主眼をおいているが、このようなコーティングはさらに他の物品にも用いることができる。例としては、これらに限定されないが、装飾用の物品、衛生器具、ハードウェアなどが挙げられる。
【0033】
「フードウェア」は、調理器具、食品調理用品を意味し、例えば、刃物類、およびその他の手動の食品加工用品(例えば水切り器、ろ過器など)、食品配膳用品(例えば皿、ボウルなど)、および、食物を食べるための器具が挙げられる。「調理器具」は、レンジ上面で調理するための深鍋および平鍋、耐熱皿、鉄板、グリル、調理器具(例えばスプーン、へらなど)、ならびに、食物を調理するのに用いられる食品調理装置(例えば電気フライパン、炊飯器など)を意味する。「付着耐性を有する」は、フードウェア物品が少なくとも付着耐性を有することを意味し、それに加えて焦げ付きにくい特性を有していてもよい。
【0034】
図3は、本発明の物品の一実施態様100の断面を示す。これは、金属製物品100である。金属基板105は、第一の表面110、および、第二の表面115を有する。金属基板は様々な材料であってよく、このような材料としては、これらに限定されないが、鋼、ステンレス鋼、プレーンな銅、アルミニウム、クラッドアルミニウム、鋳鉄、クラッド材、マグナリウム合金および合金類、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。金属基板は、固体金属または固体合金であってもよく、または、例えば金属表面を有する多層構造のようなクラッド材料であってもよい。多層構造の例としては、これらに限定されないが、ステンレス鋼被覆アルミニウムまたは銅、プラズマ溶射によるステンレス鋼皮膜を有するアルミニウム、または、例えばグラファイトなどの非金属のコア材料で囲まれた金属外層が挙げられる。
【0035】
基板105の第一の表面110上に堆積させた基コーティング120、および、基コーティング120に隣接して堆積させたセラミックコーティング125が存在する。基コーティング全体の厚さは、典型的には約2〜約20ミクロンであり、セラミックコーティング全体の厚さは、一般的には約1〜約20ミクロンである。
【0036】
基コーティング120は、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層130を含む。この組み合わせ層は、陰極アークプロセスとスパッタリングプロセスとの組み合わせを同時に稼働させることによって堆積される。このような組み合わせ層は、基コーティングの付着強度を高め、同時に、耐食性を妨げる可能性を減少させる。陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層は、金属、金属の合金またはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。このような層を形成するのに用いられるスパッタリングプロセスにおいて、金属および金属合金が用いられる可能性がある。適切な金属および金属合金としては、これらに限定されないが、チタン、クロム、ジルコニウム、ニオブ、および、ハフニウム、加えて様々な種類のステンレス鋼、例えば304または316、TiAlおよびAlCrが挙げられる。このような層を形成するのに用いられる陰極アークプロセスにおいて、金属および金属合金が用いられる可能性がある。適切な金属および金属合金としては、これらに限定されないが、チタン、クロム、ジルコニウム、ニオブ、および、ハフニウムが挙げられる。望ましくは、陰極アークプロセスには純金属が用いられるが、なぜなら、このような金属はより優れた基板への貫通を可能にするためである。
【0037】
陰極アークプロセスからの液滴を制御するために、陰極アークの(1またはそれより多くの)ターゲットによる全ての堆積は、陰極アークターゲットと(1またはそれより多くの)スパッタリングのターゲットとの組み合わせによる全ての堆積の約5〜約40%である。
【0038】
基コーティング120は、必要に応じて単一の層であってもよい。あるいは、例えば図3で示されるように1またはそれより多くの追加の層を含む。追加の層は、1またはそれより多くの追加の組み合わせ層、および/または、1またはそれより多くのスパッタ層、および/または、1またはそれより多くの陰極アーク層を含んでいてもよい。
【0039】
図3で示されるように、基コーティング120は、スパッタ層135を含み、これは、スパッタリングプロセスによって陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層に隣接して堆積される。このようなスパッタ層のためのスパッタリングプロセスにおいて、金属および金属合金が用いられる可能性がある。適切な金属および金属合金としては、これらに限定されないが、チタン、クロム、ジルコニウム、ニオブ、および、ハフニウム、加えて様々な種類のステンレス鋼、例えば304または316、TiAl,および、AlCrが挙げられる。
【0040】
また、第一のスパッタ層に隣接して堆積させた、第二の陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層140も存在する。第二の組み合わせ層は、第一の組み合わせ層と同じ一般的なプロセスおよび材料を用いて作製される。しかしながら、これら2つの層のためのプロセスおよび材料は、必ずしも同一でなくてもよい(例えば、第一の組み合わせ層は、第二の組み合わせ層とは異なる金属を使用していてもよいし、および/または、異なるタイプのスパッタリングプロセスまたは陰極アークプロセスを使用していてもよい)。
【0041】
組み合わせ層またはスパッタ層におけるスパッタリングプロセスのどちらにも適切なスパッタリングプロセスとしては、これらに限定されないが、反応性スパッタリング、DCスパッタリング、および、マグネトロンスパッタリングが挙げられる。必要に応じて、追加のスパッタ層と組み合わせ層との交互の層を堆積させることができる。基コーティングの一番上の層は、必要に応じて、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層であってもよい。
【0042】
最適な耐食性のために、基コーティングにおいて、スパッタ層は、組み合わせ層よりも厚い。また、スパッタ層と組み合わせ層との交互の層は、多層セラミックコーティングのための土台として役立つ基コーティングの硬度および靭性を高めることもできる。
【0043】
基コーティングに隣接してセラミックコーティング125が存在する。セラミックコーティング125は、1またはそれより多くの層であってもよい。これらの層のうち少なくとも1つは、物理蒸着窒化物または炭窒化物である。
【0044】
物理蒸着窒化物または炭窒化物層145は、基コーティング120に隣接して堆積される。物理蒸着窒化物または炭窒化物層は、優れた耐久性および熱安定性を有する変色しにくい表面を提供する。窒化物または炭窒化物の合金にとって適切な材料としては、これらに限定されないが、TiN、CrN、NbN、ZrN、BN、AlCrN、TiAlN、(Ti,Al,Cr)N、(Al,Cr,X)N、および、TiCN、CrCN、ZrCN、BCN、AlCrCN、TiAlCN、(Al,Cr,X)CNが挙げられる。Xとしては、これらに限定されないが、Ti、Zr、Nb、V、MoまたはBのうちの1種が挙げられる。
【0045】
物理蒸着窒化物または炭窒化物層は、望ましくは生体適合性の材料で作製される。それにより、物品をフードウェアなどに用いることが可能になる。
必要に応じて、以下で説明されているような追加の窒化物または炭窒化物層が存在していてもよい。
【0046】
様々な物理蒸着窒化物または炭窒化物層の組成は同じであってもよいし、または、必要に応じて層ごとに異なっていてもよい。例えば、(Ti,Al,Cr)Nが用いられる場合、Ti、AlおよびCrの量は層により異なっていてもよい。あるいは、例えば(Ti,Al,Cr)N、および、(Zr,Al,Cr)Nのような異なる元素が用いられる可能性がある。この組成は、当業界でよく知られているように、各層に使用しようとするターゲットの数およびタイプを変更することによって様々にすることができる。
【0047】
適切な物理蒸着窒化物層の一例は、(Ti,Al,Cr)Nである。滑らかな(Ti,Al,Cr)N層は表面に反応性がないという特徴を有し、その結果として少なくとも付着耐性が得られ、さらに多くの場合において焦げ付きにくい性能も得られる。必要に応じて、超格子の概念である(Ti,Al)N/CrN系は、例えばフードウェア物品のような基板への適用に適切な(Ti,Al,Cr)Nのコーティングを作製するのに利用することができる。
【0048】
交互の(Ti,Al,Cr)N/CrN層のコーティングは、多層コーティングの靭性をさらに改善するために望ましい。それにより、薄い多層コーティングを有する金属板を、成形プロセス中にコーティングに亀裂を入れることなく延伸することが可能になる。
【0049】
第一の(Ti,Al,Cr)N層145は、基コーティング120に隣接して堆積される。第一の(Ti,Al,Cr)N層145は、強く、かき傷が付きにくく、付着耐性を有し、熱に対する安定性を有するベース層を提供する。第一の(Ti,Al,Cr)N層は、この実施態様において基コーティング上に堆積されているように示されているが、必要に応じて、基コーティング120と第一の(Ti,Al,Cr)N層145との間に1またはそれより多くの層が存在していてもよい。第一の(Ti,Al,Cr)N層145の厚さは、典型的には約0.1〜約1.5ミクロンの範囲である。
【0050】
任意に、第一の(Ti,Al,Cr)N層145に隣接して堆積させた第一の窒化クロム層150が存在していてもよい。第一の窒化クロム層150は、第一の(Ti,Al,Cr)N層145上に堆積されているように示されているが、この実施態様において、必要に応じて、第一の(Ti,Al,Cr)N層145と第一の窒化クロム層150との間に1またはそれより多くの層が存在していてもよい。第一の窒化クロム層150の厚さは、一般的に約2ミクロン未満である。上部の層が浸食されたような状況においても、第一の窒化クロム層は、耐食性および耐酸化性を提供する。
【0051】
第二の(Ti,Al,Cr)N層155は、任意に、第一の窒化クロム層150上に堆積させてもよい。第二の(Ti,Al,Cr)N層の厚さは、一般的に約10ミクロン未満である。
【0052】
必要に応じて、追加の窒化クロムと(Ti,Al,Cr)Nとの交互の層を堆積させることができる。(Ti,Al,Cr)N層および窒化クロムはそれぞれ、典型的には0.1〜約2.0ミクロンの範囲である。薄い層のほうが多層コーティングの物理的な耐性および耐食性が改善されるため、望ましい。
【0053】
(Ti,Al,Cr)N層は高い耐食性を有しているため、96hr ASTM B368−975の耐食性のための苛酷試験である試験(銅によって促進された酢酸塩噴霧試験)に合格している。
【0054】
(Ti,Al,Cr)N多層コーティングを有する調理器具は、酸性の食物と塩を含む食物のいずれを調理するのにも適しており、変色しない。加えてこのような調理器具は、調理器具に与えるダメージを心配することなく、どのような高い調理温度でも使用可能である。
【0055】
(Ti,Al,Cr)Nコーティングは(Ti,Al)NおよびCrNよりもかなり硬いため、結果として高い耐摩耗性が得られる。(Ti,Al,Cr)N層は、極めて高い硬度と高い耐食性とを兼ね備えているため、調理器具の調理面に、かき傷耐性、付着耐性および耐久性を持たせることができる。それにより、調理器具のベース材料からのイオン滲出の問題がなくなる。一般的に、多層コーティングの一番上の層は、(Ti,Al,Cr)N層である。
【0056】
この例は、(Ti,Al,Cr)Nおよび窒化クロム層を使用しているが、当然のことながら、本発明はこれらの層に限定されない。上記で考察したように、その他の層を用いてもよい。
【0057】
1またはそれより多くのセラミックコーティングの層は、物理蒸着法、例えば蒸着、スパッタリング、陰極アーク、または、イオンビームを用いて堆積される。米国特許第6,906,295号および7,462,375号(これらは参照により本明細書に含める)は、陰極アークによる堆積法を説明している。
【0058】
図4は、本発明の金属製物品のその他の実施態様の断面を示す。これは、第一の表面210と第二の表面215とを有する金属基板205である。基コーティング220は、第一の表面210上に堆積させ、セラミックコーティング225は、基コーティング220に隣接して堆積させる。
【0059】
基コーティング220は、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層230、スパッタ層235、および、第二の陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層240を有する。さらに、追加のスパッタ層270、および、組み合わせ層275も存在する。
【0060】
基コーティング220とセラミックコーティング225との間に追加の層280が存在する。層280は、例えば陰極アーク法によって堆積させたCr層のような金属層であってもよい。
【0061】
追加の層280上に堆積させた(Ti,Al,Cr)Nの第一の層245、および、窒化クロムの第一の層250、および、(Ti,Al,Cr)N255の第二の層が存在する。追加の窒化クロム層285、および、(Ti,Al,Cr)N290層が存在する。
【0062】
図5は、本発明の平鍋のその他の実施態様の断面を示す。これは、第一の表面310と第二の表面315とを有する金属基板305である。基コーティング320、および、セラミックコーティング325は、基板305の両側310および315に堆積される。
【0063】
一例として、フードウェア物品にコーティングを堆積させる1つの方法を説明する。当業者によく知られているように、その他のプロセスまたは工程を用いてもよい。
まずフードウェア物品を成形し、その次にコーティングしてもよいし、または、平坦な金属板をコーティングして、その次に平鍋に成形してもよい。このようなプロセスは、予め成形された平鍋のコーティングについて説明する。
【0064】
滑らかな表面を作るために、堆積の前に、プレーンな銅製の平鍋を磨いてもよい。当業者によく知られているようなバフ磨きまたは研磨用のコンパウンドまたはその他の研磨媒体を用いてもよい。このような表面は可能な限り滑らかであるべきであり、一般的に、表面上の同心の基準線に直角に測定した場合に、約20マイクロインチ未満であるか、または、約16マイクロインチ未満であり、典型的には約10〜約16ミクロンインチの範囲であり、必ずしも過剰に輝く表面仕上げを達成しなくてもよいが、例えば約2〜約4ミクロンインチである。
【0065】
続いてプレーンな銅製の平鍋を徹底的にクリーニングし、乾燥して、グリース、研磨の際に残留したり、はがれたり、および埋まったりした粒子、残留した酸化物、塩またはその他の異物をすべて除去する。典型的なクリーニングは、超音波クリーニングと共に、水を用いたクリーニングシステムを含むと予想される。
【0066】
陰極アークによる堆積プロセスとスパッタリングによる堆積プロセスとは、堆積させる層に応じて、別々に稼働させてもよいし、または、同じ減圧室で両方同時に稼働させてもよい。陰極アーク陰極およびスパッタリング陰極はいずれも、それら自身の望ましい、金属または合金を含むターゲットを有していてもよい。このようなコーティングチャンバーで、真空ポンプシステム、ガス供給システム、パーツホルダー、プラネタリー式ローテーションシステム、動力源および様々な電気的なシステムなどの、望ましい工程を行うのに必要な本発明に係る方法を実行することができる。
【0067】
図6は、本発明の一実施態様を実施するのに用ることができる堆積チャンバー400の実施例の略図である。これは、例えば陰極アークシステム、および、スパッタリングシステムを含む多陰極システムである。図6で示されるように、このようなチャンバー中に適切な陰極アーク陰極415が設置される。例えば、純クロムの圧縮粉末の金属ターゲットと共に、50%チタン/50%アルミニウム(at)の圧縮粉末の金属ターゲットを用いてもよい。同じチャンバー中に、適切な長方形のスパッタリング陰極420が設置される。例えば、ステンレス鋼ターゲットまたはチタンターゲットを用いてもよい。陰極アーク陰極およびスパッタリング陰極の数およびタイプ、加えて用いられるターゲットの材料は、チャンバーのサイズ、および、堆積されるコーティングによって様々であると予想される。
【0068】
平鍋405(例えばプレーンな銅製の平鍋)を適切な取り付け具に搭載し、望ましい回転のプラネタリー式動力装置410中に置く。示した通り、堆積中に全ての平鍋を回転させることができる。また、必要に応じて平鍋405を個々に回転させるすることもできる。
【0069】
チャンバーの圧力をポンプで約10−3Paに下げる。平鍋を、平鍋を作製する材料のタイプに応じて約350°F〜約450°Fの範囲の温度に加熱する。
平鍋をミクロレベルでクリーニングするために、平鍋を約800〜約1200Vの負電圧でバイアスをかけることによってグロー放電を形成する。
【0070】
基コーティングの組み合わせ接着層は、同時に稼働させたスパッタリングプロセスと陰極アークプロセスによって堆積させた混合型の層である。例えばチタン、クロムまたはステンレス鋼などがターゲットのスパッタリングは、約200〜約500Vの基板のバイアス電圧および約0.3〜約1.0Paに制御された真空レベルにおける、希ガスのアルゴンの高エネルギーイオンを用いた衝撃によって達成される。スパッタリングのターゲットから放出された原子が基板上に堆積し、滑らかで高密度のフィルムが形成される。スパッタリングのパラメーターは、当業界でよく知られているように、様々なスパッタリングシステムに基づき正確に制御することができる。
【0071】
同時に、陰極アークプロセスのターゲット、例えばクロムまたはチタンが、同じアルゴン雰囲気および真空レベルで、高電流低電圧のアークによって衝撃を受け、その結果として高レベルのイオン化多価イオン、中性粒子、クラスターおよび微粒子を含むプラズマジェットが形成される。高エネルギーイオン(Cr,Ti)は、基板への優れた付着強度を提供する深さにまで、基板に浸透することができる。、スパッタリングからの堆積と陰極アークプロセスからの堆積とによって、組み合わせ接着層中で多層が形成される。一般的に、組み合わせ接着層において、陰極アークプロセスからの蓄電したイオンよりも、スパッタリングプロセスからの蓄電した原子を多く含み、それにより、基板へ付着が優れた、滑らかで高密度の組み合わせ層が生じる。陰極アークプロセスからの堆積の量は、滑らかな接着層に対する微粒子の負の作用を制限しつつ、望ましい付着強度を提供するのに十分な量であるべきである。望ましくは、陰極アークプロセスによる堆積は、組み合わせ層の全ての堆積の約40%以下である。組み合わせ層の厚さは、一般的に約0.1〜約3.0ミクロンの範囲である。
【0072】
組み合わせ層に隣接して堆積させた基コーティングの一方の層は、スパッタ層である。これは、陰極アークプロセスのターゲットの全てへの印加を止めることによって作製することができる。スパッタリングは、必要に応じて、組み合わせ層の場合と同じ運転パラメーターを用いて連続的に行ってもよい。第一のスパッタ層の厚さは、典型的には約0.1〜約3ミクロンである。
【0073】
基コーティングのもう一方の層は、第一の層に隣接して堆積させたその他の組み合わせ層である。この組み合わせ層は、上記で考察したようにスパッタリングプロセスと陰極アークプロセスとを用いて作製される。基コーティングの第二の組み合わせ層の厚さは、一般的に約0.1〜約3ミクロンである。
【0074】
基コーティングに隣接して、機能性セラミックコーティング、例えば(Ti,Al,Cr)Nを陰極アークプロセスによって堆積させる。
全てのスパッタリングのターゲットに印加される場合、例えばAlのような金属の層を基コーティングに隣接して堆積させることもできる。平鍋に、約600〜約1000Vのバイアス電圧および約10−2Paの真空レベルでイオン(Cr)の衝撃を与える。このような金属層は、約1ミクロン未満の厚さを有していてもよい。
【0075】
全てのTiAlおよびCrターゲットに印加されると、この系に窒素を導入して、(Ti,Al,Cr)Nコーティングを形成することができる。印加した電圧は、約0.4〜約1.5Paの真空レベルで約80〜約200Vである。
【0076】
TiAl陰極は止められるが、一方で、Cr陰極は、約80〜約200Vのバイアス電圧および約0.4〜約1.5Paの真空レベルで窒化クロム層への堆積を継続する。
続いて、その他の(Ti,Al,Cr)N層に堆積させるために、TiAl陰極を再び作動させる。この手法によれば、要求に応じて多数の窒化クロム層と(Ti,Al,Cr)N層とを繰り返し堆積させることができる。堆積温度は、作製される平鍋の材料に応じて、堆積の最後の時点で約600°F〜約900°Fまで上げてもよい。
【0077】
平鍋に、埋まった微粒子やコーティングの残留物がない表面を得るために、酸化鉄(III)(Jeweler Rouge)、ダイヤモンドコンパウンド、または、当業者によく知られているようなその他の研磨媒体を用いて最終的な研磨仕上げを施してもよい。
【0078】
それぞれの(Ti,Al,Cr)N層の組成は、同じでもよいし、または、必要に応じて層ごとに異なっていてもよい。この組成は、当業界でよく知られているように、各層に使用しようとするターゲットの数およびタイプを変更することによって様々にすることができる。
【0079】
陰極アーク堆積プロセスにおいて、Crターゲットの数は、組み合わされたコーティング全体の物理特性(すなわち、付着耐性、耐酸化性、靭性、色安定性など)のバランスがとれるように、望ましくは(Ti,Al,Cr)N層の堆積で用いられるTiAlターゲットの数よりも多いか、または、それに等しい。TiAlの数がCrターゲットの数よりも多い場合、(Ti,Al,Cr)Nコーティングは、塩を含む食物を調理している間にわずかな変色を示すが、結果得られた(Ti,Al,Cr)Nコーティングは、それでもなお付着耐性コーティングとして使用するのに十分適している。このような変色は、ある種の用途では外見的な理由で望ましくない場合があるが、その他の用途にとっては問題にならない場合もある。これは、バー・キーパーズ(Bar Keepers)クリーナー、または、数滴のレモン果汁を用いて容易に除去することができる。
【0080】
例えば、図5に示される銅の平鍋は、本発明のコーティングで(一方の側で)30ミクロン未満の厚さにコーティングされた、1.4mmの全体の厚さを有するプレーンな銅の原料から構成することができる。このように銅材料の全体の厚さ1.4mmと比較してコーティングが薄い(0.003mm)ため、平鍋の熱伝導率に対するコーティングの影響は無視することができる。従ってPCP(プレーンな銅の物理蒸着)調理器具は、純銅と同じ熱伝導率を有し、これは、特有の特徴である。
【0081】
表1では、本発明のコーティングの硬度を、3層および5層のクラッドステンレス鋼製調理器具における304ステンレス鋼の内部層と比較した。本発明のコーティングの硬度は、304ステンレス鋼の内部層よりもおよそ5〜7倍硬い。その結果として、PCP調理器具の調理面の耐久性は、3層または5層のクラッドステンレス鋼の調理面よりも約5〜7倍優れており、これは、PCP調理器具特有のその他の特徴である。
【0082】
加えて、PCP調理器具は、優れた熱安定性を示す。PCP調理器具は、(Ti,Al,Cr)Nの機能性多層コーティングの結果として、約700℃までの温度に耐えることができる。一般的な調理において、調理温度は典型的には約300℃未満である。PCP銅の平鍋と、5層クラッドステンレス製平鍋とを、両方の平鍋を350℃で15分加熱することによって比較した。PCP平鍋は色の変化は示さず、表面全体にわたってもとの光沢のある表面を維持した。5層のクラッド平鍋は、表面全体にわたり変色または焦げ付き(茶色)示し、これは、ステンレス鋼が高温で調理する際に熱に耐えられなかったことを示す指標である。
【0083】
PCP調理器具のその他の特有の特徴は、その優れた耐食性であり、すなわち変色しにくいということである。銅材料は変色しやすいことがよく知られている。本発明のコーティングでコーティングされたプレーンな銅製の調理器具は、変色しにくい。
【実施例】
【0084】
実施例1
プレーンな銅で作製された1.4mmの厚さを有する10インチ平鍋の調理面全体に本発明のコーティングをコーティングした。多層セラミックコーティングは、約3〜5ミクロンの基コーティングを含んでいた。基コーティングは、Al、Tiおよびステンレス鋼で作製された陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層(0.2〜0.4ミクロン)、Tiおよびステンレス鋼のスパッタ層(0.3〜0.5ミクロン)、続いて4対の交互の陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層、および、前の層と同じ組成で作製されたスパッタ層であった。基コーティングの一番上の層は、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層であった。セラミックコーティングは約5〜6ミクロンであり、6対の交互の超格子(Ti,Al,Cr)N、および、CrN、続いてトップコーティングとして(Ti,Al,Cr)Nを含んでいた。基コーティングおよびセラミックコーティングを含む全体のコーティング厚さは、約10〜12ミクロン(片側)であった。同じ多層セラミックコーティングを平鍋の外側にも施した。
【0085】
PCP平鍋を試験し、5層のステンレス鋼製調理器具(5層クラッド)、および、クラッド銅製調理器具(銅クラッド)と比較した。
表2は、10インチPCP平鍋と、10インチ5層クラッド平鍋との比較の結果を示す。それぞれの平鍋で同じ食物を調理した。これらの平鍋を、予熱時間、調理時間、平鍋に食物が付着したかどうか、および、クリーニングの容易さに関して評価した。
【0086】
サンプル1−ストリップステーキ
PCP平鍋は、より短い予熱時間を有し、合計調理時間は、より低温での加熱設定でも、5層クラッド平鍋よりもほぼ2分短かった。加えて、PCP平鍋にステーキは付着しなかった。
【0087】
サンプル2−パスタ・プリマヴェーラ
PCP平鍋は、より低温での加熱設定でも、5層平鍋よりも速く熱くなり、さらにそれよりも速く調理できた。PCP平鍋の場合、調理中に変色または焦げ付きはなかった。5層クラッド平鍋の調理面はひどく焦げ付いた。一般的な消費者によるクリーニング方法では、焦げた表面のクリーニングは困難であった。工業用のスコッチ(scotch)パッドを用いてクリーニングしたところ全面にかき傷ができ、無理矢理こすり洗いすれば、材料の304層が除去される可能性がある。工業用スコッチパッドを用いてPCP平鍋の調理面をこすり洗いしても、かき傷は生じなかった。
【0088】
サンプル3−レイクトラウト
PCP平鍋は、5層クラッド平鍋よりも速く調理できた。トラウトは、PCP平鍋の方がよりよく焼き色がつき、そのクリーニングも簡単であった。5層クラッド平鍋は、クリーニングのために多少のこすり洗いが必要であった。
【0089】
サンプル4−フィレミニョン
平鍋で肉を焼き、続いて平鍋を350°Fのオーブンに10分間置いた。PCP平鍋の場合、フィレミニョンを焼いて望ましい焼き色を得るのに35秒かかったが、5層クラッドでは同じ焼き色を得るのに1分かかった。次に両方の平鍋をオーブンに入れた。PCP平鍋で調理したフィレミニョンは、より多くの肉汁を有していたが、これはなぜならPCP平鍋ではより短時間で焼き色が付くため、肉汁と水分が中に閉じこめられるためであり、さらに肉の味もより優れていた。5層クラッド平鍋で調理したフィレミニョンはわずかに乾燥していた。5層クラッド平鍋は調理中に焦げ付き、表面のこすり洗いが必要となり、多くのかき傷が生じた。
【0090】
サンプル5−バルサミコ酢のシロップ
バルサミコ酢を粘度の極めて高いシロップになるまで沸騰させた。この実験を用いて、シロップ除去に関する平鍋のクリーニング能力を研究した。PCP平鍋から全てのシロップを除去するのに、単に熱水ですすぐだけでわずか10秒しかかからなかった。しかしながら、5層クラッド平鍋では、シロップを除去するのにこすり洗いが必要であった。
【0091】
サンプル6−スターチをまぶした鶏肉の炒め物
この実験は、焦げ付きにくい性能を研究するために設計された。スターチをまぶした肉は平鍋に簡単に付着する。PCP平鍋および5層平鍋を同量の油でコーティングし、平鍋を加熱し、続いて油が沸き立ち始めたら鶏肉を平鍋に入れた。
【0092】
PCP平鍋は、平鍋の優れた熱伝導性のために非常に熱いため、PCP平鍋で炒めた鶏肉は付着しなかった。PCP平鍋では短時間で肉に焼き色が付いたため、肉が付着しなかった。同じ加熱設定を用いたにもかかわらず、5層クラッド平鍋は、その劣った熱伝導性のためにPCP平鍋ほど熱くならず、そのため肉がひどく付着した。5層クラッド平鍋は全面で焦げ付き、クリーニングが困難であった。この平鍋は、表面をこすり洗いする前に熱水に数時間浸すことが必要であった。
【0093】
サンプル7−目玉焼き
両方の平鍋に同量の食用油を噴霧した。平鍋を加熱し、油の多くをペーパータオルで拭き取った。油が沸き立ち始めたら卵を落した。PCP平鍋で焼いた卵は付着しなかった。5層クラッド平鍋で焼いた卵は付着した。
【0094】
実施例2
表3は、10インチPCP平鍋と10インチクラッド銅の平鍋との比較を示す。クラッド銅製調理器具は、現存する調理器具のなかで最良の熱伝導性を有することがわかっている。両方の平鍋で同じ食物を調理した。平鍋を、予熱時間、調理時間、平鍋に食物が付着したかどうか、および、クリーニングの容易さに関して評価した。
【0095】
サンプル8−鶏肉の揚げ物
PCP平鍋はより速く熱くなり、鶏肉にはより優れた焼き色が付いた。また、PCP平鍋のクリーニングも、クラッド銅の平鍋は2分かかったのと比較して、より速く35秒であった。
【0096】
サンプル9−エビの揚げ物
PCP平鍋はより速く熱くなり、エビにはより優れた焼き色が付いた。クラッド銅の平鍋の調理面は調理中に焦げ付いたが、PCP平鍋は変色を示さなかった。焦げた表面のこすり洗いのために、かき傷が付いた。
【0097】
サンプル10−醤油を用いた牛肉の炒め物
PCP平鍋はより速く熱くなり、肉にはより優れた焼き色が付いた。
実施例1および2によって、PCP調理器具の特有の特徴が実証された。PCP平鍋は優れた熱伝導性を有するため、結果として、それより熱伝導性が低い5層クラッドステンレス鋼の平鍋またはクラッド銅の平鍋と比較して、優れた調理性能が得られる。これらの特有の特徴は、調理器具のベース材料として柔らかくプレーンな銅の使用を可能にする多層コーティングによるものである。
【0098】
PCP調理器具は、銅の使用による高い熱伝導性を有する。結果として、平鍋は非常に迅速かつ均一に熱くなり、さらに極めて迅速に冷える。加えて、比較的低い加熱設定が用いられたとしても、なお優れた調理を維持する。
【0099】
このような多層コーティングは、304ステンレス鋼よりも5〜7倍高い硬度を有する。
それゆえに、PCP銅製調理器具は、3層および5層クラッドステンレス製調理器具や銅クラッド調理器具よりもかなり高い耐久性を有する。このようなコーティングは、優れたかき傷に対する耐性を提供するため、かき傷を作らずに研磨剤のスコッチグリット(scotch grit)を使用することが可能になる。このような調理器具は、金属製用具にとって安全であり、クリーニングが簡単であり、さらに長持ちする。
【0100】
このような調理器具は優れた耐食性を有し、変色しにくい。これらは、約700℃までの高温に耐えることができる。塩を含む食物、または、酸ベースの食物と使用しても安全である。これらは、安心して食器洗い機で使用できる。
【0101】
プレーンな銅と多層コーティングとの利点を組み合わせることによって、PCP調理器具は、純銅と同等の熱伝導性、優れた耐食性、高い耐久性、優れた調理特性、および、クリーニングの簡単さを有する。本発明により、変色しにくく、長持ちする、新しいプレーンな銅製の調理器具が現実のものとなる。
【0102】
本発明を説明するためだけに特定の代表的な実施態様および詳細を記載したが、添付の請求項で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書において開示された組成および方法の様々な変化を施すことが可能なことは、当業者には明らかであろう。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着耐性を有し、変色しにくい多層セラミックコーティングを有する金属製フードウェア物品であって、該物品は、
金属基板;
金属基板の第一の表面上に堆積させる基コーティング(ここで該基コーティングは、金属、金属の合金またはそれらの組み合わせから選択される材料を含む、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層を含む);および、
基コーティングに隣接して堆積させたセラミックコーティング(ここで該セラミックコーティングは、物理蒸着窒化物または炭窒化物層を含む)、
を含む、上記物品。
【請求項2】
前記金属基板が、プレーンな銅である、請求項1に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項3】
前記金属基板が、アルミニウム、クラッドアルミニウム、鋼、鋳鉄、ステンレス鋼、クラッド銅、クラッドステンレス鋼、または、それらの合金から選択される材料で作製される、請求項1に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項4】
陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層と、セラミックコーティングとの間に堆積させた少なくとも1つの追加の層をさらに含み、ここで該追加の層は、スパッタ層、陰極アーク層、または、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層から選択され、該追加の層は、金属、合金またはそれらの組み合わせから選択される材料を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項5】
前記陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる層は、チタン、クロム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、ステンレス鋼、または、それらの合金から選択される材料で作製される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項6】
前記物理蒸着窒化物または炭窒化物層が、第4族、5族または6族、AlまたはBのうちの少なくとも1種の元素の窒化物または炭窒化物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項7】
前記物理蒸着窒化物または炭窒化物層が、(Al,Cr)N、(Al,Cr)CN、(Al,Cr,X)N、または、(Al,Cr,X)CNを含み、ここでXは、Ti、Zr、Nb、V、MoまたはBから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項8】
前記物理蒸着窒化物または炭窒化物層が、(Ti,Al,Cr)N、または、(Ti,Al,Cr)CNを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項9】
物理蒸着窒化物または炭窒化物層に隣接して堆積させた少なくとも1つの追加の層をさらに含み、該少なくとも1つの追加の層は、CrNと(Ti,Al)N、または、CrCNと(Ti,Al)CN、または、(Ti,Al,Cr)NとCrN、または、(Ti,Al、Cr)CNとCrCNの交互の層から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項10】
前記基コーティングの厚さが、約0.2〜約20ミクロンの範囲であり、前記セラミックコーティングの厚さが、約1.0〜約20ミクロンの範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項11】
前記基板が、基コーティングの堆積の前に、約20ミクロンインチ未満の表面仕上げを有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項12】
前記陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層において、1種またはそれより多くの陰極アークのターゲットによる全ての堆積は、1種またはそれより多くの陰極アークのターゲット、および、1種またはそれより多くのスパッタリングのターゲットの組み合わせによる全ての堆積の約5%〜約40%の範囲である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項13】
前記物理蒸着窒化物または炭窒化物層が生体適合性である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項14】
前記物理蒸着窒化物または炭窒化物が、スパッタリング、反応性スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、または、陰極アークプロセスから選択される物理蒸着法プロセスによって堆積される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属製フードウェア物品。
【請求項15】
多層で、付着耐性を有し、変色しにくいコーティングを有する金属製フードウェア物品の製造方法であって、該方法は、
金属基板を提供すること;
金属基板の第一の表面上に基コーティングを堆積させること(ここでこの堆積は、陰極アークプロセスとスパッタリングプロセスとの組み合わせを用いて、陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層を堆積させることを含み、ここで陰極アークとスパッタリングとの組み合わせによる接着層は、金属、合金またはそれらの組み合わせから選択される材料で作製される);および、
基コーティングに隣接してセラミックコーティングを堆積させること(ここでこの堆積は、物理蒸着プロセスを用いて窒化物または炭窒化物層を堆積させることを含む)、
を含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−523500(P2012−523500A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504701(P2012−504701)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/028589
【国際公開番号】WO2010/117649
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(505315960)ナショナル・マテリアル・エルピー (3)
【Fターム(参考)】