説明

耐力壁の制震構造

【課題】 柱や間柱等の縦軸材と梁や土台等の横軸材からなる構造軸材に面材を張設してなる耐力壁において、地震や風圧に対して優れた制震作用を奏することできる制震構造を提供する。
【解決手段】 構造軸材1に張設した面材2の両側部に面材2の上下端部間に亘って棒状の受材6、6を固着し、これらの受材6の上下端部と構造軸材1の上下端部の内面間を、制震作用に方向性を有しない粘弾性ダンパー3Aや摩擦系ダンパー3Cからなる制震装置によって連結して上下左右方向の揺動に対する制震作用を発揮させ、受材6の長さ方向の中央部と構造軸材1の対向内面間を、オイルダンパー3Bや鋼材系ダンパー3Dからなる方向性を有する制震装置によって連結して上下方向の震動エネルギーを吸収させるように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柱や間柱などの縦軸材と、土台や梁などの横軸材とによって矩形枠状に組み立てられた構造軸材に壁パネルとして面材を張設してなる耐力壁の制震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
縦軸材と横軸材とを組み合わせてなる構造軸材に面材を張設するに際して、構造軸材と面材間に制震部材を介装させることによって地震や風圧などの水平方向の力に対向する壁構造を構成することが行われている。このような制震構造を構成するための上記制震装置としては、例えば、特許文献1に記載されているように、軸材取付部と面材取付部とを備えた制震部材を使用してその上記軸材取付部を構造軸材における上記面材に直交する面に釘によって固定し、面材取付部を面材の裏面における上記軸材取付部に沿った部分に釘によって固定してなり、地震発生時にはそのエネルギーを制震部材によって吸収させるように構成した装置が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−308940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制震装置に用いられている制震部材は粘弾性ダンパーと称される部材であって、例えば、高分子ポリマーの粘弾性体を剪断変形させことによって分子間の摩擦力により震動エネルギーを熱エネルギーに変換し、震動エネルギーを吸収して震動を減衰させる機能を有するものである。従って、比較的少量で大きな減衰力が得られると共に断面積や厚さを調整できるため、木造住宅の耐力壁構造の設計に適した硬さ調整が行い易く、且つ、粘弾性体の変形による減衰であるため、方向性を有していなく、どの方向にも対応できるといったメリットを有しているが、使用される高分子ポリマーは樹脂であって、低温時には剛性が高くなり、高温時には剛性が低くなるといった温度依存性を有していると共に発生する減衰力は速度に対する依存性をもつといった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、制震部材として粘弾性ダンパーを使用する以外に、粘弾性ダンパーとは異なる制震作用を奏するオイルダンパー、摩擦ダンパー、鋼材ダンパー等の制震部材を互いに組み合わせ、互いのメリットを活用させることによって優れた制震機能を発揮する耐力壁の制震構造を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載した耐力壁の制震構造は、柱や間柱などの縦軸材と土台や梁などの横軸材とからなる構造軸材と、この構造軸材に張設された面材とからなる耐力壁において、上記構造軸材と面材との間に制震装置を介装してなる耐力壁の制震構造であって、上記制震装置は、構造軸材における上記面材に直交する面に固定した軸材取付部と面材の裏面における上記軸材取付部に沿った部分に固定した面材取付部とを有するオイルダンパー、摩擦系ダンパー、鋼材系ダンパー、粘弾性ダンパーのうちのいずれかのダンパーからなり、これらのダンパーから選択される2種類以上のダンパーを構造軸材と面材間の複数箇所に介装していることを特徴とする。
【0007】
このように構成した耐力壁の制震装置において、請求項2に係る発明は、面材の裏面における両側部に縦方向に長い棒状の受材を固着し、この受材の上下端部と中間部とにそれぞれ制震装置の面材取付部を固定していることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、上記面材の四方隅角部とこれらの隅角部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有しない制震装置によって連結し、面材の四方における少なくとも互いに平行する両側辺の中央部とこれらの中央部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有する制震装置によって連結していることを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項4に係る発明は、上記面材の外周部と構造軸材間に介装している複数個の制震装置において、面材の面の中心に対して同一種類の制震装置を点対称に配設していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、構造軸材と面材間の複数箇所に介装している制震部材として、オイルダンパー、摩擦系ダンパー、鋼材系ダンパー、粘弾性ダンパーから選択される2種類以上のダンパーを用いているので、お互いのダンパーのメリットを効果的に活用し、揺れの大小にかかわらず、優れた制震作用を奏する耐力壁の制震構造を形成することができる。
【0011】
さらに、上記耐力壁の制震構造において請求項2に係る発明によれば、面材の裏面における両側部に縦方向に長い棒状の受材を固着し、この受材に制震装置の面材取付部を固定しているので、受材に対する制震装置の面材取付部の取付作業が簡単に行えるのは勿論、この受材と対向する構造軸材に対する制震装置の軸材取付部の取付作業も容易に行えて、構造軸材と面材間に対する制震装置の取付作業が能率よく行えると共に、受材は面材の側端面から一定間隔を存した位置に該側端面に平行に固着されるので、制震装置を正確の位置に配設することができて、全ての制震装置の制震作用を均一に且つ安定的に行わせることができる制震構造を得ることができる。その上、上記受材の上下端部と中間部との複数箇所に制震装置を配設するので、それぞれ異なった制震機能を発揮する制震装置を設けて、所望の減衰効果を奏する耐力壁の制震構造を得ることができると共に、これらの複数個の制震装置の制震作用を一本の共通した受材を介して均一に行わせることができる。
【0012】
そして、請求項3に係る発明によれば、上記面材の四方隅角部とこれらの隅角部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有しない制震装置によって連結し、面材の四方における少なくとも互いに平行する両側辺の中央部とこれらの中央部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有する制震装置によって連結しているので、地震が発生した場合には構造軸材と面材との四方隅角部が上下左右方向に大きく揺動するが、その四方隅角部に方向性を有しない粘弾性ダンパーや摩擦系ダンパー等からなる制震装置を設けているから、これらの制震装置の制震機能を全面的に有効に発揮させて震動エネルギーを確実に吸収させることができる一方、一方方向の揺れが大きく発生する構造軸材と面材との四辺中央部には、方向性を有するオイルダンパーや鋼材系ダンパー等からなる制震装置を設けているので、その方向の震動エネルギーを集中的に吸収しながら制震作用を奏することができ、制震機能を適正に発揮することができる耐力壁の制震構造を構成することができる。
【0013】
その上、請求項4に係る発明によれば、上記面材の外周部と構造軸材間に介装している複数個の制震装置において、面材の面の中心に対して同一種類の制震装置を点対称に配設しているので、上記請求項3に記載した制震構造による作用効果に加えて、全面に亘って均等に且つ優れた減衰力を奏する耐力壁の制震構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の具体的な実施の形態を図面について説明すると、耐力壁は、左右方向に所定間隔毎に立設している柱或いは間柱などの縦軸材1a、1aに土台や胴差、梁、桁などの横軸材1b、1bを組み合わせてなる矩形枠状の構造軸材1と、裏面における四方周縁部をこの構造軸材1の正面側の四方周縁部に当接させて釘着等で固着することにより矩形枠状の空間部に張設してなる面材2とから構成してあり、この耐力壁構造において、上記構造軸材1と面材2間に複数個の制震装置3を介装してこれらの構造軸材1と面材2との対向周縁部間を制震装置3によって連結することにより、耐力壁の制震構造を構成している。
【0015】
制震装置3としては、制震部材として粘弾性ダンパー3A、オイルダンパー3B、摩擦系ダンパー3C、或いは、鋼材系ダンパー3Dのいずれかを使用し、この制震部材に構造軸材1側に固定するための軸材取付部4と、面材2側に固定するための面材取付部5とを一体に設けてなる構造を有している。面材2の両側部には、該面材2の両側端から内側方に一定の間隔を存して縦方向に長い角棒状の木質材からなる受材6、6を互いに平行に固着してあり、この受材6に上記面材取付部5を固定させるように構成している。
【0016】
なお、面材2の上下端部には、構造軸材1の上下横軸材1b、1bの対向内面に嵌め込む上下横桟材8、9が固着されていると共に、これらの上下桟材8、9の長さ方向の中央部対向面間に補強縦桟材10が固着されているが、面材2の上端部にも制震装置3を装着する場合には、これらの上下桟材8、9を設けることなくこの面材2の上端部に上記受材6と同様に横方向に長い角棒状の木質材からなる受材6'(図7に示す)を固着しておけばよい。
【0017】
上記制震部材として粘弾性ダンパー3Aを使用した制震装置3の具体的な構造は、図8〜図10に示すように、所定厚みを有する矩形板状に形成された高分子ポリマーの粘弾性体からなる粘弾性ダンパー3Aを金属板製の軸材取付部4と面材取付部5とで挟着してなる構造を有している。軸材取付部4はL字状に屈曲、形成されてあり、粘弾性ダンパー3Aの裏面に接着した長方形状の挟着片4aと構造軸材1の縦軸材1a又は横軸材1bの内面に釘又はネジ7によって固着される取付片4bとを互いに直角に連設してなる形状を有する一方、面材取付部5は面材2に固定した上記受材6の突出端面から両側面に亘って被嵌したコ字状に屈曲、形成されてあり、受材6の内面を被覆している板片5aを該受材6の内面に釘又はネジ7によって固着するように構成している。なお、軸材取付部4と面材取付部5と粘弾性ダンパー3Aとは略同一長さに形成されている。
【0018】
制震部材としてオイルダンパー3Bを使用した制震装置3の具体的な構造は、図11〜図13に示すように、内部にオイルを収容しているシリンダ3b1 を、該シリンダ3b1 よりも長い長方形状の金属板からなる軸材取付部4に固着する一方、ピストンロッド3b2 の先端を金属製の面材取付部5の一端部(上端部)に突設した固定片5bに連結、固定した構造を有している。この面材取付部5は上記同様に、面材2に固定した上記受材6の突出端面から両側面に亘って被嵌したコ字状に屈曲、形成されてあり、受材6の突出端面を被覆している頂部板片5cを該受材6の突出端部に釘又はネジ7によって固着するように構成している。この頂部板片5c上に上記ピストンロッド3b2 を連結、固定した固定片5bを突設してあり、頂部板片5cは上記軸材取付部4に対して直角に設けられている。軸材取付部4はシリンダ3b1 の両端側から露出している板部を釘又はネジ7によって構造軸材1の縦軸材1a又は横軸材1bの内面に固着するように構成している。
【0019】
制震部材として摩擦系ダンパー3Cを使用した制震装置3は図14〜図16に示すように、面材2に固定した上記受材6の突出端面から両側面に亘って被嵌したコ字状に屈曲、形成されている金属製の面材取付部5において、構造軸材1の縦軸材1a又は横軸材1bの内面と対向する稜角部に該軸材の内面に平行する突出板部5'を突設し、この突出板部5'の両面に一定厚みを有する金属板からなる摩擦制動板3c、3cを重ね合わせ、突出板部5'の外面側に重ねている摩擦制動板3cを構造軸材1の内面に当てがった状態で、これらの摩擦制動板3c、3c及び突出板部5'の複数箇所に穿設している挿通孔8を通じてネジ7を構造軸材1の内面に固着するように構成している。
【0020】
上記ネジ7の挿通孔8はネジ7よりも大径に形成されていると共に、構造軸材1に当てがっている摩擦制動板3cの長さを突出板部5'やこの突出板部5'に重ねているもう一つの上記摩擦制動板3cよりも長く形成し、その上下端部をこれらの突出板部5'や摩擦制動板3cの上下端から上下方向にそれぞれ突出させ、その突出部をネジ7によって構造軸材1に固着するように構成している。従って、この長い摩擦制動板3cは、軸材取付部4を兼備している。
【0021】
制動部材3として鋼材系ダンパー3Dを使用した制震装置3は図17〜図19に示すように、金属製の軸材取付部4はL字状に屈曲、形成されていて構造軸材1の縦軸材1a又は横軸材1bの内面に釘又はネジ7によって固着される取付片41と、この取付片41に直角に連設していて、コ字状に屈曲、形成されている面材取付部5の突出端面に固定させる連結片42とからなり、金属製の面材取付部5は、面材2に固定している上記受材6の突出端面から両側面に亘って被嵌したコ字状に屈曲、形成されていると共に、受材6の突出端面を被覆している頂部板片5cにおける構造軸材1側に面した一半部分を全長に亘って上記軸材取付部4の連結片42の厚みと幅に等しい深さと幅を有する段部5dに形成し、この段部5d内に軸材取付部4の連結片42を配設して、この連結片42と該連結片42に対して面一状に対向している上記頂部板片5cにおける他半部分との面間を面材取付部5の長さ方向に小間隔毎に配設した複数枚の低降伏点を有する鋼板材(鋼材ダンパー)3dによって連結した構造を有している。
【0022】
この鋼板材3dは、長さ方向の中央部が小幅でこの中央部から両端に向かうに従って幅広く形成してあり、その一端部を釘又はネジ7により面材取付部5の頂部板片5cの他半部に固着し、他端部を釘又はネジ7により軸材取付部4における連結片42と一体に段部5d上に固着している。なお、この連結片42に対して直角に連設している軸材取付部4における上記取付片41は構造軸材1の縦軸材1a又は横軸材1bの内面に釘又はネジ7により固着され、面材取付部5における頂部板片5cから直角に屈折した内側の板片5aを受材6の内側面に釘又はネジ7によって固着するように構成している。
【0023】
次に、上記粘弾性ダンパー3A、オイルダンパー3B、摩擦系ダンパー3C、鋼材系ダンパー3Dの物性や機能等を簡単に説明する。
【0024】
粘弾性ダンパー3Aは、高分子系のゴム組成物からなる高粘性材料の剪断抵抗と復元力を利用しているもので、速度依存型の減衰機構として、小振幅から大振幅まで、大小の振幅に応じた減衰力を発揮する作用を行い、速度に比例した減衰力を仮定することで簡単に減衰性能を設定することができるので、応答スペクトル等を介して効果の把握を行い易いというメリットがある。また、方向性が少ないため、上下左右に大きく揺動する面材2の四方隅角部に配置することが好ましい。一方、発生する減衰力は速度、温度などに対する依存性を持ち、特に、粘性体に対する依存性を有している。
【0025】
オイルダンパー3Bは、車両用ダンパーとして広く使用されているショックアブソーバーと同じであり、上記粘弾性ダンパー3Aと同様に、速度に比例した減衰力を仮定することによって簡単に減衰性能を設定することができるので、応答スペクトル等を介して効果の把握を行い易いというメリットがある。その反面、発生する減衰力は速度、温度などに対する依存性を持つといったデメリットがある。また、油圧の調整や油汚れ、塵埃の進入などに対して何らかの対策を講じる必要がある。さらに、方向性があるため、取り付ける際には、一方方向の力のかかり易い面材の幅方向、長さ方向の中央部付近に配設することが好ましい。
【0026】
摩擦系ダンパー3Cは、互いに接合した2面間の固体摩擦によって減衰作用を発揮させるように構成している。2面間の摩擦面に与える面圧や摩擦面の滑り抵抗により滑り耐力を調整することができると共に、摩擦面の種類を選択することによって多くの繰り返しに対して安定した性能を発揮することができ、振幅や振動数に依存せず、コンスタントな摩擦力を得ることができる。さらに、方向性を制限することもなく、設計次第ではどこにでも適正に配置できるといったメリットがある。その反面、摩擦面の磨耗、腐食や塵埃の進入等に対する配慮が必要である。その上、摩擦面に滑りが発生するまではダンパーとしての機能を行わないといったデメリットもある。
【0027】
鋼材系ダンパー3Dは鋼材の塑性変形を利用している。鋼材は建材としても広く利用されており、力学的特性や耐久性は広く理解されているため、例えば、剛性や降伏荷重などの特性を容易に設定することが可能である。さらに、特殊な設備を用いることなく製造が可能で、比較的コンパクトなものでは大きな減衰効果を得ることができる。その反面、素材の塑性変形により減衰効果を発揮するので、変形以前はダンパーとして機能しないといったデメリットがある。また、粘弾性ダンパー3Aや摩擦系ダンパー3Cと比較すると方向性があるため、取り付ける際には一方方向の力のかかり易い面材の幅方向、長さ方向の中央部付近に配設することが好ましい。但し、オイルダンパー3Bほど、方向性は顕著ではないので、隅角部に使用してもよい。
【0028】
耐力壁における制震装置3の制震部材として使用される上記粘弾性ダンパー3A、オイルダンパー3B、摩擦系ダンパー3C、鋼材系ダンパー3Dにおいて、粘弾性ダンパー3Aやオイルダンパー3Bは一般的に粘性減衰付加型と呼ばれ、建物の揺れが比較的小さい段階から減衰力を発揮するものが多い一方で、温度や速度による依存性が高いという性能を有している。これらのダンパーに対して、上記摩擦系ダンパー3Cや鋼材系ダンパー3Dは履歴減衰付加型と呼ばれ、材料の塑性変形によって大きなエネルギー吸収力を発揮する一方で、ダンパーが効き始めるまでは制震機能を発現しないため、材料の剛性やサイズを適切に設定する必要がある。
【0029】
また、上記粘弾性ダンパー3A、オイルダンパー3B、摩擦系ダンパー3C、鋼材系ダンパー3Dのうち、2種類以上のダンパーを制震装置3として使用する場合には、粘性減衰付加型のダンパー3A、3Bと、履歴減衰付加型のダンパー3C、3Dとの両方の型のダンパーを組み合わせて使用することにより、各種依存性や制震効果の発現変形域などのデメリットの影響を小さくした耐力壁の制震構造を構成することが可能となる。次に、上記構造軸材1に制震面材2を張設してなる面材張り耐力壁の剛性との兼ね合いを含めて、性能面から上記各種のダンパー3A〜3Dを選択すると、次のような実施例が挙げられる。
【0030】
〔実施例1〕面材張り耐力壁に粘性減衰力を重点的に付加する場合
この場合には粘弾性ダンパー3Aとオイルダンパー3Bとを図1〜図3に示すように組み合わせて使用する。面材張り耐力壁が十分な剛性を保持している場合には、変形依存性である摩擦系ダンパー3Cや鋼材系ダンパー3Dを使用すると、これらのダンパーが制震効果を発揮するまで耐力壁に変形が加わらないことになるが、速度依存型の粘弾性ダンパー3Aやオイルダンパー3Bであれば、ダンパーの剛性はそれほど大きくなくても、制震効果は小さな変形域から発揮されるため、耐力壁に減衰力のみ付加しやすい。その際、方向性がなくて取付箇所の制限を受け難い粘弾性ダンパー3Aと大きな減衰力が得られるオイルダンパー3Bとを組み合わせると、一つの耐力壁部分でより大きな減衰力が得られる。
【0031】
この組み合わせは、面材2の四方隅角部に上記方向性のない粘弾性ダンパー3Aを有する制震装置3を配してその軸材取付部4の取付片4aを構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の端部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着し、面材取付部5を軸材取付部4と対向する受材6の長さ方向の端部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との四方隅角部間を粘弾性ダンパー3Aを有する制震装置3によって連結する。さらに、面材2の両側部に固着している互いに平行な受材6、6の長さ方向の中央部にオイルダンパー3Bを有する制震装置3、3における面材取付部5を被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で受材6の中央部に固着すると共に平板形状の軸材取付部4を構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の中央部に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との両側部中央部間をオイルダンパー3Bを有する制震装置3、3によって連結する。
【0032】
このように構成したので、地震が発生した場合には、構造軸材1と面材2との四方隅角部が上下左右方向に大きく揺動するが、その四方隅角部に方向性を有しない粘弾性ダンパー3Aを備えた制震装置3を配設して構造軸材1と面材2との隅角部間を連結しているので、これらの制震装置3の制震機能を全面的に有効に発揮させて震動エネルギーを確実に吸収させることができる一方、一方方向の揺れが発生する構造軸材1と面材2との両側辺の中央部に方向性を有するオイルダンパー3Bを設けているので、その方向の震動エネルギーを集中的に吸収して制震を行うことができる。
【0033】
〔実施例2〕面材張り耐力壁に不足している剛性を補う場合
この場合には、オイルダンパー3Bと鋼材系ダンパー3Dとを図4に示すように組み合わせて使用する。この際、地震が発生した場合に、大きな震動力が作用する四方隅角部に剛性が大きくて大きな減衰効果を得ることができる鋼材系ダンパー3Dを配設して、その軸材取付部4の取付片41を構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の端部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着し、面材取付部5を軸材取付部4と対向する受材6の長さ方向の端部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との四方隅角部間を複数枚の低降伏点を有する鋼板材3dからなる鋼材系ダンパー3Dによって連結する一方、上記鋼材系ダンパー3Dの剛性力によって地震が発生しても比較的小さい変形域となる構造軸材1と面材2との両側辺の中央部には、オイルダンパー3Bを配して上記実施例1と同様に構造軸材1と面材2とを連結する。
【0034】
このように構成したので、地震が発生した場合には、構造軸材1と面材2との四方隅角部、即ち、耐力壁の四方隅角部に不足している剛性・減衰力を鋼材系ダンパー3Dによって補って強力な耐震作用を発揮させることができると共に、小さい変形域においてはオイルダンパー3Bによって制震効果を得ることができる。
【0035】
〔実施例3〕屋外や外気に接するような温湿条件の厳しい環境下
この場合には、温度に対して大きな依存性を有する粘弾性ダンパー3Aやオイルダンパー3Bを用いるのは建物の性能設計上、好ましくない。従って、温度による依存性の少ない摩擦系ダンパー3Cや鋼材系ダンパー3Dを使用する。
【0036】
この際、図5に示すように、振幅や振動数に依存せず、コンスタントな摩擦力を得ることができ、且つ、方向性に制限を受けない摩擦系ダンパー3Cを図5に示すように、耐力壁の四方隅角部に配して軸材取付部を兼備した摩擦制動板3cの上下端部を構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の上下端部の内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着し、面材取付部5を受材6の上下端部に固着することにより、構造軸材1と面材2との四方隅角部間を摩擦系ダンパー3Cを介して連結する一方、面材2の両側部に固着している互いに平行な受材6、6の長さ方向の中央部に、制震作用に方向性を有する鋼材系ダンパー3Dを配して、その軸材取付部4の取付片41を構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の中央部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着すると共に面材取付部5を受材6の長さ方向の中央部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との長さ方向の中央部間を鋼材系ダンパー3Dによって連結する。
【0037】
〔実施例4〕壁内に収めて以後のメンテナンスをフリーとする場合
オイルダンパー3Bや摩擦系ダンパー3Cは日常生活上で発生する塵埃の浸入によりその性能に悪影響を及ぼす可能性があるため、油圧の調整や清掃などのメンテナンスを必要とするが、粘弾性ダンパー3Aと鋼材系ダンパー3Dはそのようなメンテナンスが不要であるため、リビングの間仕切り壁など、点検口を設置できない部分に使用することが可能となる。
【0038】
この場合、図6に示すように、方向性がなくて取付箇所の制限を受け難い粘弾性ダンパー3Aを耐力壁の四方隅角部に配してその軸材取付部4の取付片4bを構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の端部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着すると共に面材取付部5を軸材取付部4と対向する受材6の長さ方向の端部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との四方隅角部間を粘弾性ダンパー3Aを有する制震装置3によって連結する。
【0039】
さらに、面材2の両側部に固着している互いに平行な受材6、6の長さ方向の中央部に面材2の両側部に固着している互いに平行な受材6、6の長さ方向の中央部に、制震作用に方向性を有する鋼材系ダンパー3Dを配して、その軸材取付部4の取付片41を構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の中央部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着すると共に面材取付部5を受材6の長さ方向の中央部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との長さ方向の中央部間を鋼材系ダンパー3Dによって連結する。
【0040】
〔実施例5〕水平方向の揺れが大きい耐力壁の制震構造
以上のいずれの実施例も、構造軸材1と面材2とから耐力壁において、面材2の面の中心に対して両側受材6、6の上下端部と中央部とに、同一種類の制震装置3、3を点対称に配設しているが、図7に示すように、左右対称に配設してもよい。この際、耐力壁の揺れは下端を支点として上端側が左右方向に大きく揺動するので、面材2の上端部に横方向に長い角棒状の木質材からなる受材6'を固着しておき、この受材6'に水平方向に大きく伸縮する方向性を有するオイルダンパー3Bを配設してその軸材取付部4を構造軸材1における横軸材1bの下面に、面材取付部5を受材6'に上記同様にして固着して構造軸材1の横軸材1bと面材2の上端部とをこのオイルダンパー3Bを介して連結する。
【0041】
さらに、面材2の両側部に固定している受材6、6の上下端部には、制震部材として粘弾性ダンパー3A、3Aを用いている制震装置3、3を配して、上記同様に、その軸材取付部4の取付片4bを構造軸材1の縦軸材1aにおける長さ方向の上下端部内側面に釘又はビス、ボルト等のネジ7でそれぞれ固着すると共に面材取付部5を軸材取付部4と対向する受材6の長さ方向の上下端部に被嵌させて釘又はビス、ボルト等のネジ7で固着することにより、構造軸材1と面材2との四方隅角部間を粘弾性ダンパー3Aを有する制震装置3によって連結すると共に、両受材6、6の下部に制震方向が上下方向に方向性を有するオイルダンパー3B、3Bを配設して、その軸材取付部4を構造軸材1における縦軸材1aの内面に、面材取付部5を受材6に上記同様にして固着する。
【0042】
〔実施例6〕低コストで制震機能を有する耐力壁を構成する場合
オイルダンパー3Bや摩擦系ダンパー3Cは、その構成上、複数の部材からなり、必要な性能を有するように部材を調整すると比較的高価につくが、粘弾性ダンパー3Aや鋼材系ダンパー3Dは、必要な性能に合わせて粘弾性体や鋼材の質、量が調整しやすいため、効率的で低コストな制震装置を構成することができる。なお、本実施例1〜6では、縦方向に3個の制震部材3を使用しているが、大きさや性能を勘案し、4〜6個程度の制震部材を使用してもよい。この場合、数が増えると取付け手間が増えるため、予め、受材にこれらの制震部材を取り付けたものを取付けるようにするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】耐力壁の制震構造の一例を示す簡略分解斜視図。
【図2】その組み立てた状態の室内側から見た正面図。
【図3】要部の縦断側面図。
【図4】耐力壁の制震構造の例2を示す正面図。
【図5】耐力壁の制震構造の例3を示す正面図。
【図6】耐力壁の制震構造の例4を示す正面図。
【図7】耐力壁の制震構造の例5を示す正面図。
【図8】粘弾性ダンパーを使用した制震装置の正面図。
【図9】その側面図。
【図10】横断面図。
【図11】オイルダンパーを使用した制震装置の正面図。
【図12】その側面図。
【図13】横断面図。
【図14】摩擦系ダンパーを使用した制震装置の正面図。
【図15】その側面図。
【図16】横断面図。
【図17】鋼材系ダンパーを使用した制震装置の正面図。
【図18】その側面図。
【図19】横断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 構造軸材
2 面材
3 制震装置
3A 粘弾性ダンパー
3B オイルダンパー
3C 摩擦系ダンパー
3D 鋼材系ダンパー
4 軸材取付部
5 面材取付部
6 受材
7 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱や間柱などの縦軸材と土台や梁などの横軸材とからなる構造軸材と、この構造軸材に張設された面材とからなる耐力壁において、上記構造軸材と面材との間に制震装置を介装してなる耐力壁の制震構造であって、上記制震装置は、構造軸材における上記面材に直交する面に固定した軸材取付部と面材の裏面における上記軸材取付部に沿った部分に固定した面材取付部とを有するオイルダンパー、摩擦系ダンパー、鋼材系ダンパー、粘弾性ダンパーのうちのいずれかのダンパーからなり、これらのダンパーから選択される2種類以上のダンパーを構造軸材と面材間の複数箇所に介装していることを特徴とする耐力壁の制震構造。
【請求項2】
面材の裏面における両側部に縦方向に長い棒状の受材を固着してあり、この受材の上下端部と中間部とにそれぞれ制震装置の面材取付部を固定していることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁の制震構造。
【請求項3】
面材の四方隅角部とこれらの隅角部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有しない制震装置によって連結し、面材の四方における少なくとも互いに平行する両側辺の中央部とこれらの中央部に対向する構造軸材間を伸縮方向に方向性を有する制震装置によって連結していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐力壁の制震構造。
【請求項4】
面材の外周部と構造軸材間に介装している複数個の制震装置において、面材の面の中心に対して同一種類の制震装置を点対称に配設していることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の耐力壁の制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−275480(P2009−275480A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130500(P2008−130500)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】