説明

耐熱性及び耐食性を有するガラス

【課題】高温条件で維持することができ、排気凝集水による腐食への耐性が高く、かつ熱膨張係数が低いという特性を有する、排気ガスに曝される環境での使用に適したガラスを提供する。
【解決手段】ガラスは、80℃の排気凝集水に520時間浸漬した場合の質量減少率が0.1%以下であり、熱膨張係数が50×10−7/℃未満であり、転移点が650℃以上である。ガラスは、酸化物換算で、SiOを25〜65wt%、Alを5〜30wt%、アルカリ土類酸化物を5〜25wt%、ZrOを5〜25wt%、希土類酸化物を0〜20wt%含有する。ガラスは、排気ガスに曝される環境で使用される部材の被覆、接着等の用途に好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガスに曝される環境で使用可能な、耐熱性及び耐食性を有するガラス及び前記ガラスを用いた、排気ガスに曝される環境で用いるための部品を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる内燃機関からの排気ガスに曝される部品には、排気ガス中のすす(Particulate Matter,以下PMと略記)が付着することが知られている。一方、排気ガスが冷却され、温度が露点より低くなると、酸成分等を含む排気凝集水が形成される。このため、排気ガスに曝される部品は、排気凝集水に起因した腐食を受け易い。更に、排気凝集水により周辺の金属材料から金属成分が溶出され、排気ガスに曝される部品に付着する。
【0003】
排気ガスに曝される部品の例として、熱式ガス流量計又は熱式ガス温度計の検出部である抵抗体素子や、ガス濃度計の検出部が挙げられる。これらの部品を用いて排気ガスの流量、温度、ガス濃度などの測定を行う場合、長期間にわたり決められた精度を維持して動作することが望まれる。しかし上述のようなPMの付着、排気凝集水による腐食、金属成分の付着等の問題が生じると正確な測定を長期間維持することがむずかしい。内燃機関の排気ガス再循環システムにおいて排気ガス流量を測定するための熱式ガス流量計においては特に、長期間にわたる高精度な測定が求められる。
【0004】
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation 以下EGRと略記)システムは、自動車などの内燃機関から排出された排気ガスを吸気側に戻すシステムであり、排気ガス中に含まれる比熱比の小さなCOガス成分を吸気に混合することにより、燃焼温度を低下させて排気ガス中のNO量の低減を図るものである。NO量を低減するためには、EGR量を精度よく制御する必要がある。ディーゼルエンジンの場合、過剰なEGR量は排ガス中のすす(PM)の増加をたらすため、PMの発生を抑制しつつNO量を削減するためには高精度なEGR量の制御が必要である。
【0005】
現行のEGRは、吸気側の空気量を測定するエアフローセンサやスロットルの開度情報など吸気側の情報を基にEGR量を推定する間接方式で制御を行っている。今後益々厳しくなる国内外の排気ガス規制をクリアするためにはEGR量を直接計測するガス流量計の開発が必要となる。
【0006】
EGR流量を直接計測するガス流量計の開発にあたって、排気ガス中に含まれるPMが計測素子表面に付着して測定精度を劣化させるという問題が報告されている。これに対して、素子を所定の温度に加熱することによりPMの付着を防止する方法が特開2007−101426(特許文献1)及び特開2007−285738号公報(特許文献2)に記載されている。特許文献2に記載の計測素子は、表面がガラスの保護コートにより被覆されており、排気凝集水による金属部材の腐食が抑制される。
【0007】
また、排気ガス中における特定の気体成分(例えば酸素)の濃度を検出するためにガス濃度計が用いられる。ガス濃度検出計のガス濃度検出部には、濃度検出原理を十分な感度で発生させるために白金や白金合金を利用したヒーター(加熱素子)を備えたものがあるが、応答性や省電力化をするためには検出部を小型化するとともに、熱容量を増大させずにヒーターをガスや腐食物質から保護する必要がある。ヒーター以外の部分でも安定で強度が高く取り扱いの容易なガラス材料が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−101426号公報
【特許文献2】特開2007−285738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
排気ガスの場合、その温度によって排気ガスの構成成分などの性状が異なり、これに応じて素子の汚損機構も異なる。例えば排気ガス温度が露点以上の場合は、PMが汚損の主成分であるが、排気ガス温度が露点より低い場合、排気ガスが冷やされて排気凝集水を形成し、この排気凝集水に起因した腐食が発生する。
【0010】
本発明の発明者らはこれまでに、上述の通り、計測素子等の部品自体を高温に保持することにより、PMの付着を抑制する技術を開発している(特許文献1及び2)。排気ガスに曝される計測素子の外表面をガラスの保護コートにより被覆する技術も既に提供している(特許文献2)。
【0011】
しかしながら、保護コートを構成するガラス自体が排気凝集水により腐食するという問題がある。この問題を解決するための手段は従来提供されていない。
【0012】
しかも、PMの付着を抑制することを意図して高温に加熱されたガラス被覆部品に排気凝集水が衝突した場合、該部品のガラス被覆層が急激に冷却され破損する(クラックが発生する)という問題もある。この問題点を解決するための手段もまた従来提供されていない。
【0013】
本発明の課題は、高温条件で維持することができ、排気凝集水による腐食への耐性が高く、かつ熱膨張係数が低いという特性を有する、排気ガスに曝される環境での使用に適したガラス及び該ガラスを用いた部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)80℃の排気凝集水に520時間浸漬した場合の質量減少率が0.1%以下であり、熱膨張係数が50×10−7/℃未満であり、転移点が650℃以上であることを特徴とするガラス。
(2)酸化物換算で、SiOを25〜65wt%、Alを5〜30wt%、アルカリ土類酸化物を5〜25wt%、ZrOを5〜25wt%、希土類酸化物を0〜20wt%含有することを特徴とする、(1)のガラス。
(3)ホウ素(B)を実質的に含有しない、(1)又は(2)のガラス。
(4)排気ガスに曝される環境で用いられる部材の形成に使用するための、(1)〜(3)のいずれかのガラス。
(5)(1)〜(3)のいずれかのガラスにより少なくとも一部分が形成されていることを特徴とする、排気ガスに曝される環境で用いるための部品。
(6)(1)〜(3)のいずれかのガラスの層により外表面の少なくとも一部が被覆されていることを特徴とする、(5)の部品。
(7)自動車用部品である、(5)又は(6)の部品。
(8)電気絶縁性の基体と該基体上に形成された金属抵抗体とを備える発熱部、及び、該発熱部の両端に固定され、前記金属抵抗体に電気接続された一対のリードからなるリード部を備える抵抗体素子であって、
前記発熱部が、(1)〜(3)のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする前記抵抗体素子。
(9)(8)の抵抗体素子を備える、内燃機関の排気ガスの流路管内の排気ガス流量を測定するための熱式ガス流量計。
(10)(9)の熱式ガス流量計であって、
内燃機関の排気ガスの流路管の内部に露出した一対の支持部材と、
前記一対の支持部材による支持によって前記管の内部に固定配置された前記抵抗体素子とを備え、
前記一対の支持部材の一方が前記抵抗体素子の一対のリードの一方に接合され、前記一対の支持部材の他方が前記一対のリードの他方に接合されており、
前記抵抗体素子のリードと前記支持部材とが接合された接合部が、(1)〜(3)のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする熱式ガス流量計。
(11)前記抵抗体素子が600℃以上の温度に制御されることを特徴とする、(9)又は(10)の熱式ガス流量計。
(12)内燃機関の吸気管と排気管とを結び、前記排気管の排気ガスを前記吸気管へ還流する還流管に設置された、(9)〜(11)のいずれかの熱式ガス流量計を備え、前記熱式ガス流量計が、前記還流管による吸気管への排気ガスの還流量を測定することを特徴とする、排気ガス再循環システム。
(13)(12)の排気ガス再循環システムであって、
前記熱式ガス流量計からの出力値に基づいて、前記排気ガスの還流量の目標値を演算する制御手段と、
前記制御手段から出力される制御信号により弁開度が制御される、前記還流量を調節する流量調節バルブと
を備えることを特徴とする排気ガス再循環システム。
(14)(12)又は(13)の排気ガス再循環システムであって、
前記還流管内の排気ガスを冷却する冷却手段を備え、
前記熱式ガス流量計が前記冷却手段に対して前記還流管の上流側の位置と下流側の位置とに設置されていることを特徴とする排気ガス再循環システム。
(15)(8)の抵抗体素子を備える、内燃機関の排気ガスの流路管内の排気ガス温度を測定するための熱式ガス温度計。
(16)(15)の熱式ガス温度計であって、
内燃機関の排気ガスの流路管の内部に露出した一対の支持部材と、
前記一対の支持部材による支持によって前記管の内部に固定配置された前記抵抗体素子とを備え、
前記支持部材の一方が前記抵抗体素子の一対のリードの一方に接合され、前記支持部材の他方が前記一対のリードの他方に接合されており、
前記抵抗体素子のリードと前記支持部材とが接合された接合部が、(1)〜(3)のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする熱式ガス温度計。
(17)排気ガス中における特定の気体成分の濃度を検出するためのガス濃度検出部を備えるガス濃度計であって、
前記ガス濃度検出部が、加熱によりガス濃度検出の原理を発生させるガス濃度検出素子と、前記検出素子を加熱するための加熱素子と、前記検出素子及び前記加熱素子を保持する基板とを備え、
前記加熱素子が(1)〜(3)のいずれかのガラスにより被覆されていること、及び/又は、前記ガス濃度検出素子及び前記加熱素子の少なくとも一方と前記基板とが前記ガラスを介して保持されていることを特徴とするガス濃度計。
(18)(1)〜(3)のいずれかのガラスの粉砕物と有機溶媒とを含むペースト状組成物を1100℃以下の温度において焼成することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかのガラスにより形成される被膜を作製する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラスは、排気凝集水に対する腐食耐性、熱衝撃に対する耐性、及び高温に対する耐性が高い。このため本発明のガラスは、排気ガスに曝される環境において使用される部材を形成するための用途に適している。例えば排気ガス流路内に設置される熱式ガス流量計、熱式ガス温度計、ガス濃度検出部等の外表面を被覆して保護するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】素子1(抵抗体素子)の断面図。
【図2】ガス流量計7の断面図。
【図3】EGRシステム30の構成図。
【図4】制御手段の内部構成図。
【図5】EGRシステム50の構成図。
【図6】EGRシステム60の構成図。
【図7】加熱式ガス濃度計のガス濃度検出部70の概略図。
【図8】発熱体の加熱温度と付着量の関係。
【図9】広がり比率の測定方法模式図。
【図10】広がり比率とAl/SiO比の関係。
【図11】広がり比率とMgO/SiO比の関係。
【図12】広がり比率とCaO/SiO比の関係。
【図13】広がり比率とSrO/SiO比の関係。
【図14】広がり比率とBaO/SiO比の関係。
【図15】ガス温度計1507の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.耐熱性、耐食性ガラス
本発明のガラスは、排気凝集水に対する腐食耐性を有する。具体的には、本発明のガラスは、80℃の排気凝集水に520時間浸漬した際の質量減少率が0.1%以下である。この構成の確認のためには、排気凝集水として模擬排気凝集水(水1000mlあたり、塩酸(塩酸35〜37mass%水溶液)0.018ml、硝酸(硝酸60〜61mass%水溶液)0.137ml、硫酸(硫酸95mass%水溶液)0.719ml、蟻酸(純度99mass%)0.086ml、酢酸(純度99.7mass%)0.817ml、ホルムアルデヒド(ホルムアルデヒド36〜38mass%水溶液)0.543ml、亜硝酸ナトリウム198mg、亜硫酸ナトリウム133mgを添加したもの)が使用できる。
【0018】
本発明において「質量減少率」とは以下の算式:
質量減少率(%)=100×[(浸漬前のガラス試料質量)−(浸漬後のガラス試料質量)]/(浸漬前のガラス試料質量)
により算出されたものである。
【0019】
本発明のガラスは、熱膨張係数が50×10−7/℃未満、好ましくは30×10−7/℃未満であるため、排気凝集水の熱衝撃によるガラスの破損を防止することができる。
【0020】
本発明のガラスは転移点が650℃以上、好ましくは700℃以上であるため、PMの付着を抑制することを目的として600℃以上の高温で保持される部品での用途に適する。なお、従来エアフローセンサに用いられている保護コートでは転移点が450℃程度のガラス材が用いられており耐熱温度が不十分であった。
【0021】
より具体的には、本発明のガラスは酸化物換算で、SiO2を25〜65wt%、Al23を5〜30wt%、アルカリ土類酸化物を5〜25wt%、ZrO2 を5〜25wt%、希土類酸化物を0〜20wt%少なくとも含有することを特徴とする。
【0022】
SiO2量は25重量%以上、65重量%以下が好ましく、さらに30重量%以上、60重量%以下であればより好ましい。これは、25重量%より少ないと転移点が650℃より小さくなるためであり、65重量%より多いと焼成温度が1100℃より高くなるためである。
【0023】
Al23はガラスの転移点を上昇させる効果があるが、その量は5量%以上、30重量%以下が好ましい。これは、5重量%より少ないと転移点を上昇させる効果がないためであり、30重量%より多いと焼成温度が1100℃より高くなるためである。
【0024】
アルカリ土類酸化物はガラスの高温粘性を低下させ、熱膨張係数を大きくする効果があるが、その量は5重量%以上、25重量%未満が好ましい。これは、5重量%より少ないと、焼成温度が1100℃より高くなるためであり、25重量%より多いと熱膨張係数が50×10-7/℃以上となるためである。
【0025】
ZrO2はガラスの耐食性を向上させる効果があるが、その量は5重量%以上、25%以下が好ましい。これは、5重量%より少ないと耐食性向上に効果がないためであり、25%より多いと熱膨張係数が50×10-7/℃以上となるためである。
【0026】
希土類酸化物の添加はガラスの転移点を上昇させるとともに、熱膨張係数を大きくする効果があるが、その量は20重量%以下が好ましく、さらに10重量%以下であればより好ましい。これは20重量%より大きいと熱膨張係数が50×10-7/℃より大きくなるためである。
【0027】
また、本ガラスは必要に応じてZnOなどを添加することができる。ZnOは耐食性を改善するのに効果的であるが、20重量%より多いと転移点が650℃より低くなるため好ましくない。
【0028】
本発明のガラスは、典型的には、Bを含有しない。Bは高温粘性を低下させるため、ガラスの塗布性を向上させる効果があるが、熱膨張係数を大きくするとともに、耐食性を低下させるため、添加しないことが好ましい。
【0029】
また後述するガラスペーストの焼成により均一なガラスの層を形成するためには、酸化物換算で、Al/SiO重量比は0.6以下が好ましく、(アルカリ土類金属元素としてMgを含む場合)MgO/SiO重量比は0.6以下が好ましく、(アルカリ土類金属元素としてCaを含む場合)CaO/SiO重量比は0.7以下が好ましく、(アルカリ土類金属元素としてSrを含む場合)SrO/SiO重量比は0.3以下が好ましく、(アルカリ土類金属元素としてBaを含む場合)BaO/SiO重量比は1.5以下が好ましい。
【0030】
次に、本発明のガラスの製造方法について説明する。本発明のガラスを構成する成分を含む原料を、組成に応じて配合する。原料としては、鉱物や精製物等のガラスの製造に通常用いられる原料を使用することができる。
【0031】
配合された原料を溶融炉中で加熱し、溶融して、ガラス化させる。ガラス化は例えば、1400〜1800℃の温度で行うことができる。溶融ガラスを通常の方法により所望の形態に成形して使用する。
【0032】
本発明のガラスを自動車用部品等の微細な部材の被覆、接合、絶縁などの用途に用いるためには、ガラスを粉砕し、有機溶媒とともに混練したガラスペーストの形態で利用することが好ましい。有機溶媒としてはテルピネオール、ブチルカルビトールなどが使用できる。ガラスペーストには更にエチルセルロース等のバインダーを添加することができる。ガラスペーストを作製する際の粉砕したガラスの粒径は200μm以下がよく、100μm以下であればより好ましい。
【0033】
本発明のガラスを含むガラスペーストは、1100℃以下の温度で焼成し、ガラスを形成することができる。1100℃以下の温度であれば、金属部材等の他の部材の強度劣化を惹き起す危険性が低いことから、本発明のガラスを用いたガラスペーストは、金属等の他の部材をガラスにより被覆する用途や、金属等の他の部材同士をガラスにより接合する用途に用いることができる。
【0034】
2.抵抗体素子
本発明のガラスを保護コート層に備える抵抗体素子は、発熱部と、該発熱部に電気的に接続されるリード部よりなる。発熱部は、電気絶縁性の基体(電気絶縁基体)と、該基体上に形成された金属抵抗体と、金属抵抗体が形成された電気絶縁基体の表面を被覆する保護コート層とを含む。発熱部の両端には各々リードが固定されており、金属抵抗体の一端は一方のリードに、金属抵抗体の他端は他方のリードにそれぞれ溶接等により電気的に接続されている。
【0035】
図1は本発明のガラスからなる保護コートを備えた代表的な抵抗体の素子1の断面模式図である。素子1は、中空形状を有する電気絶縁基体5と、該電気絶縁基体の両端に、接合材6a,6bを介して固定された一対のリード2a,2bとを備える。更に、電気絶縁基体5の表面には金属抵抗体4が所定の抵抗値になるように巻かれており、金属抵抗体4の一端はリード2aに他端はリード2bにそれぞれ電気的に接続されている。素子1の発熱部の外表面には本発明のガラスからなる保護コート3が形成されており、金属抵抗体4,接合材6a,6b及びリード2a,2bの基部が被測定ガス又は凝集水から保護される。なお、本構造は素子の一例であり、この構造に限定されるものではない。
【0036】
電気絶縁基体5はアルミナ、石英などの絶縁性無機材や金属材料の表面に絶縁性無機材を形成した材料が好ましい。電気絶縁基体5は円筒形状、円柱形状、平板形状、多角形形状等の形状が採用可能である。
【0037】
円柱形状又は円筒形状の場合、外径は0.1mm〜1.0mm、長さ1.0〜5.0mmであることが好ましく、特に円筒形状の場合、外径は0.3mm〜0.7mm、長さ2.0〜3.0mmであることが好ましい。
【0038】
リード2a,2b、金属抵抗体4には白金、イリジウム、ロジウム、パラジウム、金、銀などの貴金属及びこれらの合金、ならびにこれら貴金属とニッケル、コバルトなどの非貴金属との合金を用いることができる。さらに、非貴金属材料表面に貴金属を形成した材料を用いることもできる。
【0039】
リード2a,2bは、断面形状が円形形状、楕円形状、平板形状、多角形状などである線とすることができ、特に円形、楕円形状であることが好ましい。上記のようにリード2a,2bを電気絶縁基体5の両端に挿入する場合、リード2a,2bの断面寸法は電気絶縁基体5の内径より小さくする必要がある。
【0040】
金属抵抗体4は電気絶縁基体の外表面に設置される。金属抵抗体4は図1に示すような金属線材の形態には限定されず、金属の膜の形態であってもよい。金属抵抗体4は、電気絶縁基体の外表面に線材を巻線形成する方法のほか、スパッタリング、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)又はメッキなどの方法を用いて電気絶縁基体5の外表面に膜を形成する方法により製造できる。
【0041】
電気絶縁基体と金属抵抗体とは直接接する必要はなく、その間に応力緩和層や反応抑制層などの中間層を形成することもできる。このような中間層は、金属抵抗体が膜の形状である場合だけなく、線材の形状である場合にも設けることができる。
【0042】
金属抵抗体を線材で形成する場合、電気絶縁基体の表面に金属線材を巻線形成するが、その抵抗値は線材の材質、直径及び巻線の長さにより所定の値になるように調整を行う。線材の直径は金属抵抗体の材質や直径、巻線時の線材に負荷される張力などにより異なるが、0.1〜100μm であることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
【0043】
金属抵抗体を膜で形成する場合、金属抵抗体の膜は、スパイラル状や蛇行形状など電気絶縁基体の形状に適した形状で形成することができる。抵抗値は膜の材質、形成した形状及びその厚さなどにより所定の値になるように調整を行うことができる。膜の厚さは、形成方法、材質、形状などにより異なるが、0.1〜100μmが好ましい。
【0044】
保護コート3は、本発明のガラスの粉砕物をテルピネオール、ブチルカルビトールなどの有機溶媒中で混練して得られたペースト状物を、電気絶縁基体5と、該電気絶縁基体の両端に固定されたリード2a,2bと、電気絶縁基体5の表面に形成された金属抵抗体4とを備える抵抗体素子の発熱部の外表面に塗布し、焼成することにより形成される。ガラスペーストの粘度は溶媒や混合するバインダーの量により調整することが可能である。バインダーとしてはエチルセルロースが挙げられる。ガラスペーストを作製する際の粉砕したガラスの粒径は200μm以下がよく、100μm以下であればより好ましい。ガラス粒径が200μmより大きいと、焼成する際にガラスが十分に軟化せず、焼成後の保護コートに凹凸を生じることがある。
【0045】
保護コート3の形成のための焼成温度は1100℃以下とすることが好ましい。これは1100℃より高い温度では、リードや金属抵抗体の強度劣化をもたらし、断線や破損の原因となる可能性が高くなるためである。本発明のガラスは、1100℃以下の焼成温度において被膜を形成することができる。
【0046】
保護コート3の厚さは、0.5μm〜500μmであることが好ましい。これは、0.5μmより小さいと金属抵抗体や接合部を十分にコートすることができないためであり、500μmより大きいと、測定感度が低下するためである。
【0047】
接合材6a,6bにはガラス、あるいはアルミナ、ジルコニアなどのセラミックスとガラスとを混合したものが用いられる。粉末状のこれらのガラスやセラミックスにテルピネオール、スクリーンオイル、ブチルカルビトールなどの溶媒を混合して作成されるペーストをリード及び/又は電気絶縁基体に塗布し、焼成してリードと電気絶縁基体の接合を行うことができる。接合材6a,6bに用いられるガラスの例としては、非晶質又は結晶質のホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸ガラス、アルミナホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。セラミックスの例としてはアルミナ、ジルコニア、シリコンナイトライド、シリコンカーバイドなどが挙げられる。また溶媒やエチルセルロースのようなバインダーの量によりペーストの粘度を調整することが可能である。
【0048】
3.抵抗体素子の用途
上記抵抗体素子は、熱式ガス流量計又は熱式ガス温度計の素子として利用することができる。
熱式ガス流量計の素子として用いられる場合、上記抵抗体素子は発熱抵抗体として被測定ガスの流れのなかに設置され、電気抵抗変化に基づきガスの質量流量が検出される。熱式ガス流量計は更に、抵抗体素子の発熱を制御するとともに、排気ガスの流量に応じた信号をエンジン制御装置等に出力する制御回路を外部回路として備える。上記抵抗体素子は、測温抵抗体として熱式ガス流量計に用いることもできる。
【0049】
排気ガスを吸気に還流する排気ガス再循環(EGR)システムにおける排気側から吸気側に還流した排気ガス流体の流量を、本発明の熱式ガス流量計を用いて計測し、該計測量に基づき、流量調整バルブの制御を行って吸気側に還流する排気ガス量を調整することができる。
【0050】
また、還流した排気ガスを冷却する冷却装置を備えている排気ガス再循環システムにおいては、冷却装置で排気ガスを冷却する際に、排気ガス中のPM成分他が固化して冷却装置に付着し、目詰まりを起こして流量が低下することがある。冷却装置の前後の流量を本発明の熱式ガス流量計により計測することにより、目詰まりの程度を計測することが可能となる。
【0051】
熱式ガス温度計の素子として用いられる場合、上記抵抗体素子は被測定ガスの流れのなかに設置され、被測定ガスの流量に応じた発熱抵抗体の抵抗変化に基づきガスの温度が検出される。熱式ガス流量計は更に、被測定ガスの温度に応じた信号をエンジン制御装置等に出力する出力回路を外部回路として備える。
【0052】
図2は本発明に係るガス流量計の構成の一例を示す。図2は、図1の抵抗体の素子1と同様の構造を有する素子8,9を用いたガス流量計7の断面図である。ガス流量計7は素子2つを1組として、一方は流体温度を測定する素子9(測温抵抗体)として、一方は流量を測定する素子8(発熱抵抗体)として、被測定流体である排気ガスを通過させる流路20内に設置されている。素子8は素子9に対して常に一定の温度差に保たれるように常時加熱されており、制御回路10により定温度制御されている。流量測定はこの素子8から熱伝導で流体に奪われた熱量を電気信号に変換することにより行う。
【0053】
素子8は、排気ガス流路20の内部に露出した一対の支持部材16a,16bの支持によって、排気ガス流路20の内部に固定配置される。素子9も同様に一対の支持部材17a,17bの支持によって、排気ガス流路20の内部に固定配置される。支持部材は導電性を有し、導電路としての機能も兼ね備える。支持部材16a,16bは基部側の端が制御回路10に電気接続され、排気ガス流路側の端が素子8に電気接続される。同様に支持部材17a,17bは基部側の端が制御回路10に電気接続され、排気ガス流路側の端が素子9に電気接続される。素子8の一対のリードは、一対の支持部材16a,16bと電気的に接続するように接合される。素子9の一対のリードは、一対の支持部材17a,17bと電気的に接続するように接合される。素子のリード部と支持部材との接合部201〜204は白金ペースト等の導電性ペースト等により接合されることが好ましい。更に、接合部201〜204の表面は、抵抗体素子の発熱部と同様に、本発明のガラスからなる保護コート層により被覆されることが好ましい。接合部を本発明のガラスにより被覆することにより、排気ガス又は排気凝集水による導電性ペースト等の劣化が抑制される。被覆の方法としては、保護コート3の形成方法と同様の方法が採用できる。
【0054】
図3はガス流量計7を用いたEGRシステム30の構成である。内燃機関13で燃焼された排気ガスが排気管33からEGR流路(還流管)31に流入し、EGRクーラ15で冷却されたのち、EGR流量調節バルブ14にてEGR量を制御して再び内燃機関13の吸気側に戻され燃焼に再利用される。現行のEGR量の制御は、例えば吸気側のエアフローセンサ11及び電制スロットル12の開度情報などの出力をエンジン制御装置(コントロールユニット)300に入力し、演算を行い、EGR量を推定して制御を行っている。この方法では定常的な状態での制御は可能であるが、過渡的な状況では高精度な制御を行うことが出来ない。図3等に記載のように、EGR流路31にガス流量計7を設置し、この装置で検出した値に基づいてEGR流量調節バルブ14の制御を行うことにより、過渡的な状況においても高精度な制御を行うことが可能となる。
【0055】
エンジン制御装置(コントロールユニット)300の内部構成について図4に基づき説明する。コントロールユニット300は、演算手段301、入力回路302、出力回路303等からなる。入力回路302は、アナログ電圧をA/D変換器でデジタルに変換して取り込むアナログ入力回路等からなる。演算手段301は、数値・論理演算を行う演算装置(CPU)310、CPUが実行するプログラム及びデータを格納したROM311、データを一時的に格納するRAM312等からなり、入力手段によって入力されたデータに基づいて、吸気管への還流量の目標値及びこれに応じたEGR流量調節バルブ14の弁開度を演算する。演算結果は、出力回路303からEGR流量調節バルブ14の弁開度を制御する制御信号として出力される。
【0056】
ガス流量計7の設置位置は、EGRクーラ15の下流側(吸気側)、EGR流量調節バルブ14の上流側が最適である。図5はEGRクーラ15の下流側、EGR流量調節バルブ14の上流側の位置に加えて、EGRクーラ15の上流側にもガス流量計7を設置した実施形態を示す。図6はEGRクーラ15の下流側、EGR流量調節バルブ14の上流側の位置に加えて、EGR流量調節バルブの下流側の位置にもガス流量計7を設置した実施形態を示す。設置位置は、流量計に用いる部材の耐熱温度を考慮して設定する必要がある。高温の排気ガスにより劣化する樹脂部材などが用いられている場合は、EGRクーラ15の下流側(吸気側)に設置した方が好ましいが、そのような制約がない場合は、排気側の任意の位置に設置可能である。また、排気ガスの主通路から分岐した分流路を設け、該分流路内にガス流量計7を設けてもよい。
【0057】
従来の流量計に比べ、本発明のガス流量計は耐熱性に優れている。また、ガス流量計を高温に加熱することにより汚損物質の付着を抑制することができる。このため本発明のガス流量計は吸気側の流量測定の精度向上にも有効である。
【0058】
なお、図5、6に示す実施形態におけるコントロールユニット300を含む制御部分は、複数の流量計7からの出力値に基づいて演算を行う点を除いて図3,4のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0059】
図15は、本発明に係るガス温度計の構成の一例を示す。図15は、図1の抵抗体の素子1と同様の構造を有する素子1508を用いたガス温度計1507の断面図である。ガス温度計1507では、素子1508が、被測定流体である排気ガスを通過させる流路1520内に設置されている。外部回路1510は、素子1508により検出された被測定ガスの温度に応じた信号をエンジン制御装置等に出力する。
【0060】
素子1508は、排気ガス流路1520の内部に露出した一対の支持部材1516a,1516bの支持によって、排気ガス流路1520の内部に固定配置される。支持部材は導電性を有し、導電路としての機能も兼ね備える。支持部材1516a,1516bは基部側の端が制御回路1510に電気接続され、排気ガス流路側の端が素子1508に電気接続される。素子1508の一対のリードは、一対の支持部材1516a,1516bと電気的に接続するように接合される。素子のリード部と支持部材との接合部1521,1522は白金ペースト等の導電性ペースト等により接合されることが好ましい。更に、接合部1521〜1522の表面は、抵抗体素子の発熱部と同様に、本発明のガラスからなる保護コート層により被覆されることが好ましい。接合部を本発明のガラスにより被覆することにより、排気ガス又は排気凝集水による導電性ペースト等の劣化が抑制される。被覆の方法としては、保護コート3の形成方法と同様の方法が採用できる。
【0061】
4.ガス濃度計への応用
本発明のガラスは、排気ガスに曝される環境に設置され、排気ガス中における特定の気体成分の濃度を検出するためのガス濃度検出部を備えるガス濃度計の製造のために使用することができる。ガス濃度検出部は、一般的に、基板と、基板上に保持されたガス濃度検出素子とを備える。ガス濃度検出素子がガス濃度を検出する方式は特に限定されない。例えばガス濃度検出素子としてジルコニアなどの固体電解質を用いたものが一般的に使用できる。ジルコニアは低温条件では内部のイオン伝導性が十分でないため、ガス濃度検出素子として用いるためには300℃以上に加熱することが必要である。加熱の手段としては加熱素子(ヒーター)によりガス濃度検出素子を加熱することが一般的である。このように、濃度検出の原理を発生させるためにガス濃度検出素子の加熱が必要なガス濃度計を本発明では「加熱式ガス濃度計」と呼ぶ。加熱式ガス濃度計において、加熱素子はどのように設置してもよい。応答性、省電力化、小型化などの観点から、ガス濃度検出素子を板型基板の一方の面に配置し、該基板の他方の面に加熱素子を配置する形態や、該ガス濃度検出素子が配置されているのと同一面上であって該ガス濃度検出素子の近傍領域に加熱素子を配置する形態が好ましい。加熱素子としては温度制御の容易さから白金等の金属が使われる。白金は温度抵抗変化率が高く、ブリッジ回路などにより容易に低温度制御が可能であるためである。このとき重要なのは加熱素子の抵抗値や温度抵抗変化率が長時間安定であることであり、このために、加熱素子が被測定ガスや腐食性凝集水と直接触れて腐食しないように、本発明のガラスによる保護コートで加熱素子を保護することが好ましい。保護コートに本発明のガラスを使用することにより、大きく熱容量を増大させることなく、高い温度まで腐食を防止し、加熱素子をより確実に保護することができる。また、本発明のガラスを選択的に使用すれば、ガス濃度検出部の他の部分の保護や電極などの絶縁も可能である。
【0062】
図7に、加熱式のガス濃度計の検出部の構造の一例を示す。加熱式ガス濃度計のガス濃度検出部70は、板状の基板72と、該基板の一方の面上に配置されたガス濃度検出素子71と、他方の面上に配置された加熱素子73とを備える。加熱素子73は基板72を介してガス濃度検出素子71を昇温させ検出感度を向上させる。基板72の、加熱素子73が形成された側の表面は、本発明のガラスからなる保護コート層3aにより被覆されている。この構成により、被測定ガス及び腐食性凝集水と加熱素子73との直接接触が阻止されるため、加熱素子73が保護される。一方、本発明のガラスからなる保護コート3bはガス濃度検出素子71の外周縁に形成され、基板72とガス濃度検出素子71とを固定するとともにガス濃度検出素子71の周縁部を保護する役割を果たす。
【0063】
なお、図7は板型のガス濃度検出部を例にしているが、円筒型などその他の形状のガス濃度検出部にも本発明のガラスの保護コートを用いることができる。また、濃度検出方法は固体電解質による検出方法には限定されず、放熱量を検出するガス濃度検出部や、触媒反応を複合的に利用して検出を行うガス濃度検出部においても、構成部材を保護することを目的として本発明のガラスによる保護コート層を同様に設けることができる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
本発明のガラスにより抵抗体素子の発熱部を保護する実施形態について具体的に説明する。
表1に示す定められた量の原料粉末を白金製のるつぼに秤量して入れ、混合した後、電気炉中で、組成により1000〜1600℃に加熱して溶解した。原料を十分に溶解させた後、白金製の撹拌羽をガラス融液に挿入し約40分撹拌した。その後撹拌羽を取り出し20分静置した後、黒鉛製の治具にガラス融液を流し込んで急冷することにより、重量約100gのガラスブロックを得た。その後、各ガラスを再加熱し、1〜2℃/分の冷却速度で徐冷することにより歪とり処理を行った。
【0065】
得られたガラスブロックより、4×4×15mmの試験片を切り出し、熱膨張係数及び転移点の測定を行った。熱膨張係数はJIS R3102に準拠して測定した。転移点はJIS R3103−3に準拠して測定した。
【0066】
更に、得られたガラスブロックを粉砕し、得られた粉末にテルピネオールを1:1の割合で混合してガラスペーストを作製した。別途、電気絶縁基体5(材料:アルミナ、形状:円筒、寸法:φ1.0mm)と、該電気絶縁基体の両端に接合材6a,6bにより接合固定されたリード2a,2bと、該電気絶縁基体の外周面に巻かれ、両端がそれぞれリード2a,2bに電気的に接続された金属抵抗体4(材料:Pt線、寸法:φ0.2mm)からなる、保護コート層を有さない素子を作製した。この素子の、電気絶縁基体5の外表面に、上記ガラスペーストを塗布し、焼成することにより、図1に示すガラスによる保護コート層3を備えた素子1を作製した。
【0067】
焼成温度は次の手順により求めた。ガラス粉末をハンドプレスで加圧成形して、φ10mm、高さ5mmのペレットを作製した。このペレットを所定の温度で加熱して、ガラスの軟化性を評価するボタンフロー試験を行い、焼成温度を決定した。
【0068】
表1に各実験例のガラス組成、測定された熱膨張係数、転移点、焼成温度を示す。実験例1から11にはSiO2量を、実験例12から19にはAl23 量を、実験例20から26にはアルカリ土類酸化物量を、実験例27から33にはZrO2量を、実験例34から39にはGd23量を変化させたガラス組成を示す。
【0069】
ここに示すように、SiO2を25〜65wt%、Al23を5〜30wt%、アルカリ土類酸化物を5〜25wt%、ZrO2 を5〜25wt%、希土類酸化物を0〜20wt%配合した組成範囲において、転移点が650℃より高く、保護コートの形成温度(焼成温度)が1100℃以下であり、熱膨張係数が50×10-7/℃未満のガラスが得られた。
【0070】
本発明のガラスは排気ガス中で使用されるため、排気ガスが冷却されて生成する排気凝集水に対する耐食性が要求される。そこで、排気凝集水の成分分析を行って排気凝集水を模擬した模擬排気凝集水を作製し、これを用いて耐食性の評価を行った。模擬排気凝集水の成分は、水1000mlあたり、塩酸(塩酸35〜37mass%水溶液)0.018ml、硝酸(硝酸60〜61mass%水溶液)0.137ml、硫酸(硫酸95mass%水溶液)0.719ml、蟻酸(純度99mass%)0.086ml、酢酸(純度99.7mass%)0.817ml、ホルムアルデヒド(ホルムアルデヒド36〜38mass%水溶液)0.543ml、亜硝酸ナトリウム198mg、亜硫酸ナトリウム133mgである。80℃に加熱した前記模擬排気凝集水50cc中に表1ガラス材(4mm×4mm×15mm)を520時間浸漬して重量変化を計測した。その結果、表1に示すように、本発明のガラス材の重量変化率は0.1%以下であった。なお、従来エアフローセンサに用いられているPbO系のガラスを同様の試験に供した結果、20時間時点で1.5%の重量変化率を示しており、本発明ガラス材が耐食性に優れていることを示している。
【0071】
上記の模擬排気凝集水及び素子1を用いて、熱衝撃試験を行った。通電加熱した素子1に模擬排気凝集水を滴下して、クラック発生率を評価した。ここで加熱温度は600℃、液滴の滴下量は0.2mg/滴であり、連続して100滴滴下した。液滴の温度は20℃、滴下高さは10mmである。結果を表1に示す。熱膨張係数が50×10−7/℃未満のガラスではクラックが発生していないが、保護ガラスの熱膨張係数が50×10−7/℃以上のとき、クラックの発生が確認された。
【0072】
【表1】


【0073】
本発明のガラスを用いて保護コートを形成する場合、前記のように溶媒などと混合したガラスペーストを塗布、焼成して保護コートを形成する。ここで、保護コートの形成性を簡便に評価する方法として、図9に示す、広がり比率の測定を行った。150μm以下で分級したガラス粉末から、ハンドプレスを用いて直径10mm、高さ5mmのガラスペレットを作製した。このガラスペレットをAl板のうえに載せて大気中で1時間加熱した。加熱後の濡れ広がり面積を算出し、基準材に対する面積比を算出した。「基準材」とは日本電気硝子製GA−1ガラスである。ここで、広がり比率が1より大きい場合、良好な保護コートを形成することができたが、1より小さいとコートの厚さが不均一となり、良好な保護コートを形成することはできなかった。
【0074】
表1の実験例6をベースにして、原材料の比率が異なる複数のガラス試料を調製し、得られたガラス試料からガラスペレットを形成し、1100℃で加熱した場合の広がり比率を求めた。実験例6の組成においてAlとSiOとの合計量を一定値(65.0重量%)に保ちながら、Al/SiO比が異なる複数の試料(Al/SiO比=0.05〜0.95を調製し、各試料からガラスペレットを形成して広がり比率を求め、Al/SiO比と広がり比率との関係を検討した。同様に、実験例6の組成をベースにMgO/SiO比が異なる複数の試料(MgOとSiOとの合計量=48.0重量%一定、MgO/SiO比=0.05〜0.90を調製し、広がり比率を求めた。同様に、実験例6の組成をベースにCaO/SiO比が異なる複数の試料(CaOとSiOとの合計量=49.0重量%一定、CaO/SiO比=0.15〜0.98を調製し、広がり比率を求めた。同様に、実験例6の組成をベースにSrO/SiO比が異なる複数の試料(SrOとSiOとの合計量=46.0重量%一定、SrO/SiO比=0.02〜0.50を調製し、広がり比率を求めた。同様に、実験例6の組成をベースにBaO/SiO比が異なる複数の試料(BaOとSiOとの合計量=55.0重量%一定、BaO/SiO比=0.20〜2.45を調製し、広がり比率を求めた。
【0075】
図10から図14に各構成酸化物とSiOとの重量比と、広がり比率との関係を示す。
図10に示すように、Al/SiO比が0.6より大きくなると、広がり比率は1より小さくなるため、Al/SiO比は0.6以下が好ましい。
【0076】
図11に示すように、MgO/SiO比が0.4より大きくなると、広がり比率は1より小さくなるため、MgO/SiO比は0.6以下が好ましい。
【0077】
図12に示すように、CaO/SiO比が0.7より大きくなると、広がり比率は1より小さくなるため、CaO/SiO比は0.7以下が好ましい。
【0078】
図13に示すように、SrO/SiO比が0.3より大きくなると、広がり比率は1より小さくなるため、SrO/SiO比は0.3以下が好ましい。
【0079】
図14に示すように、BaO/SiO比が1.5より大きくなると、広がり比率は1より小さくなるため、BaO/SiO比は1.5以下が好ましい。
【0080】
なお、加熱温度が1100℃より高くなると、広がり比率が1より小さくなる各構成酸化物とSiOの重量比は1100℃の場合より大きくなる。その増加割合は0.2〜0.5/100℃である。
【0081】
(実施例2)
次に、本発明材を用いたEGRシステムについて説明する。従来方法では、エアフローセンサ11及び電制スロットル12の開度情報をもとにEGR量を推定する間接方式でEGR量の制御を行っていた。これに対して、図3に示す、本発明材を用いたEGRシステム30のように、本発明のガラスを用いたガス流量計7をEGR流路31内のEGRクーラ15とEGR流量調節バルブ14の間に配置して流量測定を行い、EGR量の制御を行った。従来方法に比べ、同様の走行条件(状態),運転モードで、NOx量を1/10以下に、PM量を1/50以下に低減することが可能であった。
【0082】
EGRクーラ15は排気ガスの冷却を行うことを目的に設置されている。このEGRクーラ15が排気ガスのPMにより目詰まりすると、内燃機関13に安定してEGRガスを供給できなくなる。図5に示すように本発明のガラスを用いたガス流量計7をEGR流路31内でEGRクーラ15の前後に配置して排気ガス流量の測定を行うことにより、EGRクーラの目詰まり状況の検知を行うことが可能である。
【0083】
EGR流量調節バルブ14は内燃機関13へ供給するEGR量の調整を行っている。このEGR流量調節バルブ14に排気ガスのPMが付着すると、供給量の精度が低下する。そのため、図6に示すようにEGR流量調節バルブ14の前後に発明のガラスを用いたガス流量計7を配置してEGR流路31内での排気ガス流量の測定を行い、バルブの開閉情報と併せてEGR流量調節バルブ14に付着したPMの検知を行うことが可能である。
【0084】
(参考例)
円柱形のアルミナ基体(直径0.5mm、長さ2mm)に、白金よりなる金属線を巻きつけ、リードと金属線を接続した後、表面にガラスコート層を形成することにより、図1に示す構造の抵抗体素子1を作製した。ガラスコート層は、次の組成:
【表2】

を有するガラスの粉末をテルピネオールと混練してペースト状としたものを素子表面に塗布し、1100℃で焼成することにより形成した。
【0085】
図5に示すように、排ガス再循環システムにEGRクーラ15を配置し、上記の素子を備えたガス流量計7,7をEGRクーラの前段と後段に配置した。前段側の排気ガス温度は約200℃、後段側の排気ガス温度は約80℃である。1日間、実際の運転条件を想定して内燃機関13を運転した。表3に排気ガス温度80℃の後段における発熱体の加熱温度と素子表面の付着物の状態との関係を示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示すように、排気ガス温度が露点以下の80℃の場合、発熱体の加熱温度が350℃では表面に排気凝集水により配管から溶出した金属成分付着していたが、600℃では何も付着していない。
なお、排気ガス温度が露点以上の200℃の場合も、発熱体を600℃に加熱すると何も付着していなかった。
【0088】
また、図8に排気ガス温度80℃の後段における発熱体の加熱温度とPM付着量との関係を示す。発熱体の加熱温度の上昇に伴い付着量は減少し、600℃以上ではほとんど付着していないことがわかる。
【0089】
以上より、発熱体へのPMの付着を抑制するためには、発熱体を600℃以上に加熱することが好ましいといえる。
【符号の説明】
【0090】
1,8,9,1508・・・素子(抵抗体素子)
2a,2b・・・リード
3,3a,3b・・・本発明のガラスによる保護コート
4・・・金属抵抗体
5・・・電気絶縁基体
6a,6b・・・接合材
7・・・ガス流量計
10・・・制御回路
11・・・エアフローセンサ
12・・・電制スロットル
13・・・内燃機関
14・・・EGR流量調節バルブ
15・・・EGRクーラ(冷却手段)
16a,16b,17a,17b,1516a,1516b・・・支持部材
20,1520・・・排気ガスの流路
30,50,60・・・EGRシステム
31・・・EGR流路(還流管)
32・・・吸気管
33・・・排気管
70・・・ガス濃度検出部
71・・・ガス濃度検出素子
72・・・基板
73・・・加熱素子
201,202,203,204,1521,1522・・・接合部
300・・・コントロールユニット(制御手段)
301・・・演算手段
302・・・入力回路
303・・・出力回路
310・・・CPU
311・・・ROM
312・・・RAM
1507・・・ガス温度計
1510・・・外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80℃の排気凝集水に520時間浸漬した場合の質量減少率が0.1%以下であり、熱膨張係数が50×10−7/℃未満であり、転移点が650℃以上であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
酸化物換算で、SiOを25〜65wt%、Alを5〜30wt%、アルカリ土類酸化物を5〜25wt%、ZrOを5〜25wt%、希土類酸化物を0〜20wt%含有することを特徴とする、請求項1のガラス。
【請求項3】
ホウ素(B)を実質的に含有しない、請求項1又は2のガラス。
【請求項4】
排気ガスに曝される環境で用いられる部材の形成に使用するための、請求項1〜3のいずれかのガラス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかのガラスにより少なくとも一部分が形成されていることを特徴とする、排気ガスに曝される環境で用いるための部品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかのガラスの層により外表面の少なくとも一部が被覆されていることを特徴とする、請求項5の部品。
【請求項7】
自動車用部品である、請求項5又は6の部品。
【請求項8】
電気絶縁性の基体と該基体上に形成された金属抵抗体とを備える発熱部、及び、該発熱部の両端に固定され、前記金属抵抗体に電気接続された一対のリードからなるリード部を備える抵抗体素子であって、
前記発熱部が、請求項1〜3のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする前記抵抗体素子。
【請求項9】
請求項8の抵抗体素子を備える、内燃機関の排気ガスの流路管内の排気ガス流量を測定するための熱式ガス流量計。
【請求項10】
請求項9の熱式ガス流量計であって、
内燃機関の排気ガスの流路管の内部に露出した一対の支持部材と、
前記一対の支持部材による支持によって前記管の内部に固定配置された前記抵抗体素子とを備え、
前記一対の支持部材の一方が前記抵抗体素子の一対のリードの一方に接合され、前記一対の支持部材の他方が前記一対のリードの他方に接合されており、
前記抵抗体素子のリードと前記支持部材とが接合された接合部が、請求項1〜3のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする熱式ガス流量計。
【請求項11】
前記抵抗体素子が600℃以上の温度に制御されることを特徴とする、請求項9又は10の熱式ガス流量計。
【請求項12】
内燃機関の吸気管と排気管とを結び、前記排気管の排気ガスを前記吸気管へ還流する還流管に設置された、請求項9〜11のいずれかの熱式ガス流量計を備え、前記熱式ガス流量計が、前記還流管による吸気管への排気ガスの還流量を測定することを特徴とする、排気ガス再循環システム。
【請求項13】
請求項12の排気ガス再循環システムであって、
前記熱式ガス流量計からの出力値に基づいて、前記排気ガスの還流量の目標値を演算する制御手段と、
前記制御手段から出力される制御信号により弁開度が制御される、前記還流量を調節する流量調節バルブと
を備えることを特徴とする排気ガス再循環システム。
【請求項14】
請求項12又は13の排気ガス再循環システムであって、
前記還流管内の排気ガスを冷却する冷却手段を備え、
前記熱式ガス流量計が前記冷却手段に対して前記還流管の上流側の位置と下流側の位置とに設置されていることを特徴とする排気ガス再循環システム。
【請求項15】
請求項8の抵抗体素子を備える、内燃機関の排気ガスの流路管内の排気ガス温度を測定するための熱式ガス温度計。
【請求項16】
請求項15の熱式ガス温度計であって、
内燃機関の排気ガスの流路管の内部に露出した一対の支持部材と、
前記一対の支持部材による支持によって前記管の内部に固定配置された前記抵抗体素子とを備え、
前記支持部材の一方が前記抵抗体素子の一対のリードの一方に接合され、前記支持部材の他方が前記一対のリードの他方に接合されており、
前記抵抗体素子のリードと前記支持部材とが接合された接合部が、請求項1〜3のいずれかのガラスにより形成される保護コート層により被覆されていることを特徴とする熱式ガス温度計。
【請求項17】
排気ガス中における特定の気体成分の濃度を検出するためのガス濃度検出部を備えるガス濃度計であって、
前記ガス濃度検出部が、加熱によりガス濃度検出の原理を発生させるガス濃度検出素子と、前記検出素子を加熱するための加熱素子と、前記検出素子及び前記加熱素子を保持する基板とを備え、
前記加熱素子が請求項1〜3のいずれかのガラスにより被覆されていること、及び/又は、前記ガス濃度検出素子及び前記加熱素子の少なくとも一方と前記基板とが前記ガラスを介して保持されていることを特徴とするガス濃度計。
【請求項18】
請求項1〜3のいずれかのガラスの粉砕物と有機溶媒とを含むペースト状組成物を1100℃以下の温度において焼成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかのガラスにより形成される被膜を作製する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−11933(P2011−11933A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155988(P2009−155988)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】