脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末素材及びその製造方法
【課題】油脂−糖質粉末素材、その製造方法、及びその応用製品を提供する。
【解決手段】脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質(脂溶性ビタミン等)を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミン等分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に乾燥することにより、油脂−糖質被覆分散液、又は油脂−糖質粉末素材とすることからなる油脂−糖質素材の製造方法、その素材、及びその応用製品。
【効果】脂溶性ビタミン等を粉末化することができ、物理的及び化学的に安定化でき、本製造法により、脂溶性ビタミン等を使用した食品の品質が向上し、退色が抑制され、色調が保持され、味や香りの変質が抑制され、保存安定性が向上され、日持ちが延長されるので、該油脂−糖質素材を、食品分野、化粧品、医薬品などの分野で広く利用できる。
【解決手段】脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質(脂溶性ビタミン等)を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミン等分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に乾燥することにより、油脂−糖質被覆分散液、又は油脂−糖質粉末素材とすることからなる油脂−糖質素材の製造方法、その素材、及びその応用製品。
【効果】脂溶性ビタミン等を粉末化することができ、物理的及び化学的に安定化でき、本製造法により、脂溶性ビタミン等を使用した食品の品質が向上し、退色が抑制され、色調が保持され、味や香りの変質が抑制され、保存安定性が向上され、日持ちが延長されるので、該油脂−糖質素材を、食品分野、化粧品、医薬品などの分野で広く利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化、溶解及び/又は均質分散技術と、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末素材の製造法、及びその油脂−糖質粉末素材に関するものであり、更に詳しくは、親油性乳化剤と油脂を混合したものに、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を溶解及び/又は均質に分散し、一方、親水性乳化剤を、水に溶解及び/又は分散し、これら二種の液を、せん断、撹拌、振盪などの方法で混合して溶解及び/又は分散させ、任意に、これを乾燥することからなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又は脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末素材の製造方法、それらの素材、及びその応用製品に関するものである。尚、本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が液状になったものを、「脂溶体」と表現する。
【背景技術】
【0002】
食品素材として、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を食品製造に用いる際には、これらの脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質は、不溶性で水に溶けないために、配合しにくい、また、酸化や光酸化を受けやすく不安定である、また、加熱や冷凍によって分解しやすい、などの性質が、問題となる。
【0003】
ここで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質とは、疎水性、親油性であり、水に不溶又は難溶で、有機溶媒に可溶又は分散しやすいものを意味し、具体的には、脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、があり、化学名は、それぞれ、レチノール、カルシフェロール、トコフェロール、フィロキノン、である。また、脂溶性ビタミン様物質としては、CoQ10、α−リポ酸、ヘスペリジン、がある。
【0004】
そこで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化と水への溶解性を高めて、利用しやすい素材にする方法を開発することが強く求められており、これまでに、幾つかの方法が提案されている。例えば、その一つに、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質に、レシチン、硬化ヒマシ油のような界面活性を持つ化合物を添加し、脂溶性成分を可溶化する方法、がある。また、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質に、アラビアガムを添加して、保護コロイドを形成し、脂溶性成分を可溶化する方法、がある(特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルや、ショ糖脂肪酸エステルを用いて、脂溶性ビタミン、魚油などを水溶性にする方法、が開発されている(特許文献2参照)。この他に、類似技術として、各種素材のカプセル化、がある。例えば、親水性のグルタミンを、疎水性タンパク質のツェインでマイクロカプセル化した例、がある。この方法では、グルタミン+レシチンの混合液と、ツェイン+エタノール+界面活性剤の混合液を、トウモロコシ油
に分散させた後に、エタノールを蒸発除去している(非特許文献1参照)。
【0006】
更に、ヘム鉄製品に対する黒色の遮蔽、不快味・臭のマスキング、耐水性の付与などを目的とした、ヘム鉄粒子のマイクロカプセル化の例、がある。この方法では、脂肪酸を加熱融解して、ヘム鉄製品を分散させ、一方、別に調製した分散安定剤、メチルセルロース、カゼインナトリウムの水溶液を、脂肪酸融解温度に加温して、この融解状態の脂肪酸をヘム鉄分散液に添加して、撹拌後、室温にまで冷却して、マクロカプセル化している(非特許文献2参照)。
【0007】
しかし、これらの方法は、工程が煩雑であり、製造に多くのプロセスと時間が必要とされ、また、界面活性剤、増粘安定剤、サイクロデキストリン(CD)などは、食品素材としては、やや高価で、実用化には不利な点がある。そこで、より安価・安全な原料を用い、簡単な方法で、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の不安定性や水不溶性を改善して、安定化する又は粉末化して溶解性を改善する方法などが見出されれば、それらの利用は、これまで以上に拡大するものと期待される。
【0008】
【特許文献1】特開昭48−49917号公報
【特許文献2】特開2003−55688号公報
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、53巻、pp.244−254(2006)
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌、53巻、pp.255−260(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、親油性乳化剤、油脂、親水性乳化剤を用い、親油性乳化剤と油脂の混合物に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を添加して、その分散液を作製し、一方、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散して、糖質溶液又は分散液を作製し、これら二種の液を合わせて、撹拌するなどして混合し、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を水溶性及び/又は水分散性とし、更に要すれば、これを乾燥・粉末化することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、安定に、溶解及び/又は均質分散させた脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材を製造できることを見出し、かかる知見に基づいて、本発明を完成するに至った。本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材からなる油脂−糖質素材、それらの製造方法、及びその応用製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とする脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の製造方法。
(2)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(3)油脂として、ナタネ油、又はパーム油を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(4)油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(5)糖質として、グルコース当量(DE)5〜15の澱粉加水分解物を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(6)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とする油脂−糖質被覆分散液からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材。
(7)上記油脂−糖質被覆分散液を乾燥することにより、油脂−糖質粉末素材とした、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(8)糖質が、DE5〜15の澱粉加水分解物である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(9)油脂が、ナタネ油、又はパーム油である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(10)油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド含む油脂である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(11)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(12)前記(6)から(11)のいずれかに記載の油脂−糖質素材を含み、耐光性、酸化防止効果、耐熱性及び冷凍下での保存性を向上させたことを特徴とする食品。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を製造する方法であって、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、上記脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆素材であって、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化と水への溶解性を高めて、利用しやすい素材とするために、乳化剤として、親油性乳化剤と親水性乳化剤を組み合わせて用いる。乳化剤の化学構造は、水に対して親和性を持つ親水基と、油(水以外のもの)に対して親和性を示す親油基(疎水基)とからなっている。乳化剤は、同一分子中に親水基と親油基を同時に備えているために、それが、親水性となるか親油性となるかは、同一分子中での親水基と親油基の相対的な強さによって決まる。
【0014】
こうした関係を定量的に表現した指標が、親水−親油バランス(HLB)、である。このHLB値を用いて表現すれば、親油性乳化剤とは、HLB値が0〜11未満、望ましくはHLB値が1〜5の乳化剤、である。一方、親水性乳化剤とは、HLB値が11〜20、望ましくはHLB値が14〜18の乳化剤、である。
【0015】
本発明において使用できる乳化剤は、食用のものであればよく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、レシチン類など、である。尚、グリセリン脂肪酸エステル類とは、グリセリン脂肪酸モノエステル(モノグリセリド)、グリセリン脂肪酸有機酸エステル(有機酸モノグリセリド)、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど、である。
【0016】
また、レシチン類とは、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、酵素修飾レシチンなど、である。本発明においては、同族で、種々のHLB値を有する乳化剤が作り分けられているショ糖脂肪酸エステルならびにポリグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。これらは、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができ、また、このままでも、利用することができる。
【0017】
油としては、植物起源のナタネ油、ダイズ油、トウモロコシ油、コメ油、パーム油、ヤシ油などの油脂、動物起源の各種魚油、鯨油、豚脂、牛脂、乳脂など、がある。これらは、経済性、作業性、効果を考慮して選択すべきであり、この他、不飽和脂肪酸含有トリグリセリドを含む油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など、があり、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂は、効果、作業性に優れているので、本発明の方法では、特に、有利である。
【0018】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質としては、各種のものを用いることができ、具体的には、例えば、脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、を用いることができ、化学名は、それぞれレチノール、カルシフェロール、トコフェロール、フィロキノン、である。脂溶性ビタミン様物質としては、ヘスペリジン、CoQ10、α−リポ酸、を用いることができる。
【0019】
糖質としては、粉末化しやすいもの、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の物理的・化学的な安定化に効果のあるものを選択すべきであり、澱粉の一部加水分解物、例えば、α−アミラーゼ、サイクロデキストリン合成酵素などで加水分解したもの、市販粉あめ、サイクロデキストリン製品など、も利用できる。
【0020】
次に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、及びその油脂−糖質粉末素材の製造方法について説明する。図1に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、及びその油脂−糖質粉末素材の製造工程の概要を示す。本発明では、まず、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、油及び親油性乳化剤を撹拌、混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油(油相)を作製する。また、糖質と、水及び親水性乳化剤を、撹拌、混合して、糖質水分散液(水相)を作製する。
【0021】
次いで、これら二種の液を、せん断、撹拌、振盪などの方法で混合して、油脂−糖質被覆分散液を作製し、必要に応じて、これを乾燥して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を安定化させた脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外側が糖質で被覆された構造を有する油脂−糖質粉末素材を作製する。
【0022】
次に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の実際の製造法について説明する。先ず、製造の前段階として、油相と水相を作製する。油相は、油脂(パーム油、ナタネ油、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など)、又は脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が分散している油脂に、親油性乳化剤、例えば、「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、例えば、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、脂溶性ビタミン及び脂溶性ビタミン様物質を分散させる。
【0023】
その後、例えば、液温を50℃に上げて、乳化剤を溶解させる。また、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、粉体の場合は、乳化剤が分散溶解した油脂に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を添加、撹拌して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を液中に分散させることで、分散油を調製する。一方、水相では、水に親水性乳化剤、例えば、「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、例えば、30分間撹拌して分散させ、温度50℃で溶解させる。
【0024】
次に、糖質として、例えば、デキストリン(DE5〜15)を添加して、分散溶解させて、デキストリン分散液を調製する。水相を撹拌しながら油相を徐々に添加して、均質な反応液を調製する。これにより、脂溶性機能成分を、油脂で被覆し、その周りをデキストリンで被覆させた、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を製造することができる。
【0025】
一般的に、油と水を分散均一化させるためには、両親媒性(水と油どちらにも馴染みやすい性質)を持つ乳化剤などを、油と水に添加して行う方法、があり、油中水滴(W/O)型乳化と、水中油滴(O/W)型乳化、の2つの方法がある。いずれの方法も、両親媒性物質である乳化剤が、油相と水相との界面に存在することで、両者の分散均一化を実現している。しかし、乳化剤では、分散した油、又はその油に含まれる成分の安定性を向上させる効果は、認められない。
【0026】
一方、本発明では、脂溶性成分を油脂で被膜し、その外側を、更に、糖質で被膜した構造としている。この構造の中で、脂溶性成分を被膜している油脂は、脂溶性成分の酸素、光、熱による変質を抑制する役割、その外側を被膜している糖質は、水との分散性を向上させる役割を担っている。これらのことから、本発明で製造される油脂−糖質素材は、従来にない構造、及び効果を備えていることから、該油脂−糖質素材を、新たに「リポソルブ」と呼称する。
【0027】
本発明によって得られる油脂−糖質素材は、脂溶性成分の物理的、及び化学的安定化にも効果があり、例えば、粉末は、溶解性に優れ、各種の加工食品に利用できるなど、利用範囲が広く、主に食品分野において、また、化粧品、医薬品などの分野においても、利用することができる。
【0028】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の種類に応じて、添加する油脂の量、及び糖質の種類、及び量を、適宜調整することができる。例えば、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンEの場合は、耐熱性や冷凍下での保存安定性が弱く、それらを有効に残存させた商品を製造することは困難とされていた。
【0029】
そこで、本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を多量に必要な場合でも、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の分散性、又は溶解性の向上、酸化の抑制、を達成することを目的として、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末、及びその製造方法を開発した。
【0030】
本発明では、親油性乳化剤と油脂の混合物に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ヘスペリジン、CoQ10、α−リポ酸など)を添加して、油脂中に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させた液を作製し、一方で、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質溶液、又は分散液を作製する。
【0031】
次に、これら二種の液を合わせて撹拌し、水溶液中で、油脂で被覆された脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を糖質で被覆した分散液とし、また、この分散液を乾燥することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を油脂で被覆してその周りに、糖質で被覆した粉末を製造する、技術を確立した。
【0032】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を油で被膜することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の酸化を防ぎ、油被膜を、更に糖質で被膜することで、水分散又は溶解性を向上させる二重の効果が得られる。本発明により、多量に脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用する場合でも、水に対する溶解・分散性、及び酸化防止効果を向上させる、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末を製造することが可能となる。
【0033】
また、本発明の製造法により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用した食品の品質が向上し、日持ちが延長される。また、水分散性又は溶解性の向上により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が利用しにくかった水分含量の多い食品(飲料、羊羹、水産練り製品など)への、該脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の利用範囲が拡大する。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)親油性乳化剤と油脂を混合・分散、又は溶解させた液に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させることができ、一方、親水性乳化剤を、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができる。
(2)また、上述の両方の乳化剤を、同時に水に加え、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、分散又は可溶化させることもできる。
(3)脂溶性、水分散性を付与し、粉末化、安定化させるには、糖質の添加が効果的であり、このようにして調製された素材は、使いやすく、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質も安定化されているので、これまでより広い用途に利用することができる。尚、本発明では、このように糖質添加で製造したものを、「リポソルブ」と呼称する。
(4)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質には、異味や異臭のあるものがあるが、これを油脂−糖質粉末素材化することで、食品の異味、異臭を軽減することができる。
(5)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用した食品の品質が向上し、例えば、味や香りの変質が抑制され、保存安定性が向上され、日持ちが延長される。
(6)水分散性又は溶解性の向上により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が利用しにくかった水分含量の多い食品(飲料、羊羹、水産練り製品など)への、該脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の利用範囲が拡大する。
(7)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質素材を添加した食品の、耐熱性、冷凍下での保存性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ヘスペリジンを用いて、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を作製し、これを食品に添加して、各種試験を試みた。
1.脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末の作製
油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)100gを使用し、これに、親油性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、これらを分散させ、分散液を調製した。
【0037】
次に、上記分散液の液温を、50℃に上げて、上記乳化剤を溶解させた。乳化剤を溶解させた油脂に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ヘスペリジン(キシダ化学(株)製)100gを加え、これを撹拌して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を液中に分散させた分散油を調製した。この分散油を、「O液」と呼称する。
【0038】
次に、水500gに、親水性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、30分間撹拌して、これらを分散させ、これを温度60℃で溶解させた。これに、糖質として、デキストリン(DE7〜9)60gを添加して、デキストリン分散液を調製した。この分散液を、「W液」と呼称する。上記W液を撹拌しながら、これに、上記O液を徐々に添加して、均質になるように、室温で、約30分間撹拌した。この操作により、脂溶性ビタミン様物質のヘスペリジンを含有した分散液を調製した。
【0039】
このヘスペリジンを含有した分散液は、分散性に優れ、4ヶ月間の冷蔵庫保存でも、分離しなかった。この分散液を、凍結乾燥、又は噴霧乾燥により乾燥処理することにより、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を製造した。油脂として、上記中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂の「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)とは別に、「ナタネ油」、中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)、及び「パーム油」を用いて、上記と同様の操作により、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を製造した。
【0040】
2.油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率、残存率及びその溶解度についての試験結果
このヘスペリジン油脂−糖質粉末は、水分散性、安定化に優れていた。図2に、油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジンの含有率(%)を、図3に、油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン残存率(%)を、示す。また、図4に、ヘスペリジンの油脂−糖質粉末の水に対する溶解度(%)、を示す。尚、図2〜4では、上記ヘルシーリセッタを「リセッタ」、ナタネ油を「ナタネ」、パナセート800を「P800」、パーム油を「パーム」と略記して示した。
【0041】
これらの図において、対照は、無処理のヘスペリジンを示す。溶解度(%)は、水100mlに対して、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を10g添加して、10分間撹拌した後に、遠心分離(1500×g、10分間)して、沈殿した量から算出したものである。
【0042】
図2〜4の各試験結果から、使用する油脂によって、油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率、残存率、及びその溶解度に差が見られるが、水に対する分散性を示す溶解度については、対照と比較して、全ての油脂の場合において、溶解度が向上しており、ヘスペリジン油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【0043】
3.ヘスペリジン油脂−糖質粉末の耐熱性試験
1)各試験区の試験配合
食品として、水産練り製品(蒲鉾)を用いて、該食品へ添加した場合のヘスペリジン油脂−糖質粉末の耐熱性について試験した。油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂を使用した。各試験区の試験配合は、表1に示した通りである。蒲鉾の調合肉へ配合するヘスペリジンの終濃度は、250mg/100gとした。表中のC及び1〜6の各試験区は、C:ヘスペリジン無添加、1:ヘスペリジン添加、2〜6:ヘスペリジン糖質ラップ添加である。表1において、ヘスペリジン糖質ラップとは、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を意味する。
【0044】
試験区2〜6で用いた油脂は、以下の通りである。試験区2:中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)、試験区3:中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)、試験区4:ナタネ油、試験区5:中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)、試験区6:パーム油。
尚、表1では、ヘルシーリセッタを「リセッタ」、ナタネ油を「ナタネ」、パナセート800を「P800」、パーム油を「パーム」と略記して示し、また、他の試料区と比べて、デキストリンの量を1/2にした試験区2では、「リセッタ D1/2」と表記した。
【0045】
【表1】
【0046】
蒲鉾の調合肉の調製では、ヘスペリジン濃度が、250mg/100gになるように各試料を添加して、調合肉を調製した。この調合肉を、48mm塩化ビニリデンケーシングに充填し、ケーシングに充填した蒲鉾を、温度90℃で、20分間加熱した。加熱後、流水中で冷却した。
【0047】
2)ヘスペリジンの定量
ヘスペリジンの定量は、石川県農業総合研究センター提供の資料に基づいて、「総合感冒薬のヘスペリジンの比色定量法」によって行なった。なお、調合肉については、ヘスペリジンの抽出が困難であったため、調合肉中のヘスペリジン濃度は、250mg/100gとした。この手法の原理は、微アルカリ性でフェリシアン化カリウムを酸化剤として、ヘスペリジンにジエチルパラフェニレンジアミンをインドフェノール反応させて比色定量する方法であり、以下の手順で、試料溶液のヘスペリジンの定量を行った。
【0048】
試料溶液3ml、水3mlに、緩衝液5ml加え、指示薬として、0.1%塩酸ジエチルパラフェニリンジアミン溶液1mlを加え、呈色体の抽出溶液として、イソブタノール10mlを加え、酸化剤として、1%フェリシアン化カリウム溶液1ml加え、これらを、激しく振り混ぜ、遠心分離により、イソブタノール層を採取し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、吸光度(650nm)を測定した。対照として、空試験液を用いた。
【0049】
4.結果
各試験区のヘスペリジンの分析結果として、図5に、油脂別のヘスペリジンを添加した蒲鉾中のヘスペリジン残存率(%)を示した。図5において、「リセッタ」、「ナタネ」、「P800」、「パーム」は、表1の場合と同様の油脂を意味し、「標準」は、ヘスペリジン標準品を使用した場合、「対照」は、ヘスペリジン無添加の場合、を意味する。ヘスペリジンの定量の結果、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)以外の油脂を使用した場合のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジンについては、ヘスペリジン標準品を添加した「標準」に比べて、残存率が高かった。特に、パーム油を使用したヘスペリジン油脂−糖質粉末を添加した蒲鉾では、非常に高い割合でヘスペリジンが残存していた。
【実施例2】
【0050】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、α−トコフェロール(ビタミンE)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ビタミンE油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。ビタミンEの定量は、以下の方法により行った。
【0051】
1.ビタミンEの定量
試料10gを、エタノール100mlで振とう(30分)し、遠心分離(3000rpm、5分間)を施し、エバポレーターで10mlに濃縮して、ケン化試料とした。
【0052】
2.ケン化
試料液10ml、1%NaCl20ml、3%ピロガロール/エタノール液100ml、60%水酸化カリウム液10mlを、スクリューキャップ付き試験管に入れて、温度70℃で、30分間加熱した。放冷後、試料混液と酢酸エチル/n−ヘキサン(1:9、v/v)100mlを共栓付き三角フラスコ500mlに入れて、5分間振とうし、遠心分離(3000回転、5分間)により、酢酸エチル/ヘキサン層を集めた。
【0053】
以上の操作を2回行った後、エバポレーターで2〜3ml程度に濃縮して、N2ガスで溶媒を留去し、ナスフラ中の乾物を、ヘキサン3ml(この量は、随意)で溶解して、定量用試料とした。
【0054】
3.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件
HPLC条件は、以下の通りとした。
分離カラム:Wakosil 5SIL
サイズ:φ4mm×250mm
カラム温度:30℃
移動層:n−ヘキサン/ジイソプロピルエーテル=90:10(v/v) 1ml/min
検出器:UV295nm
【0055】
上記試験の結果を、図6〜8に示す。図6〜8において、油脂は、実施例2で使用した場合の油脂と同様に、略記して示した。図6〜8に示されるように、ビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE含有率、残存率については、油脂別に、ほぼ同様の結果が示された。また、ビタミンE油脂−糖質粉末の溶解度については、P800、リセッタ、ナタネ、バームの順に、高い溶解度を示した。
【実施例3】
【0056】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、α−リポ酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、α−リポ酸油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)を用いた。α−リポ酸の定量は、以下の方法により行った。
【0057】
1.α−リポ酸の定量
密封ガラス試験管に、α−リポ酸粉末を20mg(サンプル1種類につき2点分析)精秤し、メタノール:純水=2:1(v/v)溶液3mlを加え、試験管に蓋をし、超音波処理、振とう、遠心後、セルロースアセテート製0.45μmフィルターを用いて、濾過し、濾液を、HPLC分析に供した。
【0058】
2.HPLC分析条件
HPLC分析条件は、以下の通りとした。
使用装置:東ソーシステム1
プレカラム:4.6mmφ×10mm
分離カラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×150mm
移動相:0.04%酢酸の50(v/v)%メタノール溶液
流速:1.0ml/min
カラム温度:35℃
検出器:UV−8020 波長330nm インテレンジ0.5(インテグレーター出力)
注入量:20μl(オートサンプラ)
α−リポ酸の標準溶液:0.5、1.0、1.5、2.0mg/mlメタノール溶液
【0059】
上記試験の結果を、図9〜11に示す。対照は、無処理のα−リポ酸を示す。対照と比べて、α−リポ酸油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【実施例4】
【0060】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、CoQ10を用いた以外は、実施例1と同様にして、CoQ10油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。CoQ10の定量は、以下の方法により行った。
【0061】
1.外観評価
目視により、黄白色〜橙黄色の粉末であることを確認した。
2.CoQ10の定量
10ml容ガラス製メスフラスコに、AQURIA CoQ10粉末を10mg秤取し、ジメチルスルホキシド5mlを入れて、70℃に加温して、粉末を完全に溶解させた。これを冷却させて、室温に戻した後、0.01%塩化第二鉄(無水)含有2−プロパノールを入れて、10mlに定容した。
【0062】
CoQ10には、酸化型と還元型があり、この分析条件では、酸化型しか測定できないため、試料中に還元型が存在する場合、塩化第二鉄で酸化型に変換して、総CoQ10量として測定した。酸化型CoQ10のみを測定する場合は、塩化第二鉄の入らない2−プロパノールを用いた。PTFE製0.45μmフィルターで濾過した濾液を、下記のHPLC分析条件にて分析した。調製した分析溶液は、遮光させて保存した。
【0063】
3.HPLC分析条件
HPLC分析条件は、以下の通りとした。
プレカラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×10mm
分離カラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×150mm
移動相:メタノール/エタノール=8/2(v/v)
流速:1.0ml/min
カラム温度:35℃
検出器:UV検出器 測定波長275nm
注入量:20μl
CoQ10の標準溶液:100、200、300、400μg/mlエタノール溶液
【0064】
上記CoQ10の標準溶液を調製して、分析し、外部標準法により、定量計算を行った。CoQ10のエタノール溶液の調製では、ガラス製メスフラスコに、CoQ10を秤取し、エタノールを入れて、温度50〜60℃に加温して、CoQ10を完全に溶解させた。これを冷却して、室温に戻した後、エタノールで定容した。調製した溶液は、遮光冷蔵保存した。
【0065】
上記試験の結果を、図12〜14に示す。対照は、無処理のCoQ10を示す。対照と比べて、CoQ10油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【実施例5】
【0066】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンDを用いた以外は、実施例1と同様にして、ビタミンD油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。ビタミンDの定量は、以下の方法により行った。
【0067】
1.ビタミンDの定量
試料2g、1%塩化ナトリウム3ml、1%ピロガロール−エタノール溶液10ml、60%水酸化ナトリム5mlを、各々添加し、加熱けん化(70℃、60分間)し、1%塩化ナトリウム15mlを添加し、抽出を3回(酢酸エチル−ヘキサン溶液(1:9(v/v))15ml)した後、溶媒を留去し、溶解(アセトニトリル−メタノール溶液(1:9(v/v)200μl)し、HPLC用試料とした。
【0068】
2.HPLC条件
HPLC条件は、以下の通りとした。
分離カラム:オクタデシルシリカ(ODS)(250×4.5mm)
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル−メタノール溶液(1:9(v/v)
試料量:10μl
流速:1.5ml/min
波長:265nm
【0069】
上記試験の結果を、図15〜17に示す。対照は、無処理のビタミンDを示す。対照と比べて、ビタミンD油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上詳述したように、本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末素材、その製造方法、及びその応用製品に係るものであり、本発明により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を粉末化することができ、しかも、これらを物理的、かつ化学的に安定化できるので、該素材を、食品分野をはじめとして、化粧品、医薬品などの分野で広く利用することができる。
【0071】
本発明によれば、親油性乳化剤と油脂を混合・分散又は溶解させた液に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させることができ、一方、親水性乳化剤を、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができる。
【0072】
また、脂溶性、水分散性を付与し、粉末化、安定化させるには、糖質の添加が効果的であり、本発明では、このように糖質添加で製造したものを、「リポソルブ」と呼称する。本発明は、このようにして調製された脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を提供するものとして、また、該素材は、使いやすく、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質も安定化されているので、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、これまでより広い用途に利用することを可能とするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の油脂−糖質被覆分散液及び油脂−糖質粉末素材の製造工程の概要を示す。
【図2】油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率を示す。
【図3】油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン残存率(%)を示す。
【図4】ヘスペリジン油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図5】油脂別のヘスペリジンを添加した蒲鉾中のヘスペリジン残存率(%)を示す。
【図6】油脂別のビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE含有率(%)を示す。
【図7】油脂別のビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE残存率(%)を示す。
【図8】ビタミンE油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図9】α−リポ酸油脂−糖質粉末のα−リポ酸含有率(%)を示す。
【図10】α−リポ酸油脂−糖質粉末のα−リポ酸の残存率(%)を示す。
【図11】α−リポ酸油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図12】CoQ10油脂−糖質粉末のCoQ10含有率(%)を示す。
【図13】CoQ10油脂−糖質粉末のCoQ10残存率(%)を示す。
【図14】CoQ10 油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図15】油脂別ビタミンD油脂−糖質粉末のビタミンD含有率(%)を示す。
【図16】油脂別ビタミンD油脂−糖質粉末のビタミンD残存率(%)を示す。
【図17】ビタミンD油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化、溶解及び/又は均質分散技術と、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末素材の製造法、及びその油脂−糖質粉末素材に関するものであり、更に詳しくは、親油性乳化剤と油脂を混合したものに、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を溶解及び/又は均質に分散し、一方、親水性乳化剤を、水に溶解及び/又は分散し、これら二種の液を、せん断、撹拌、振盪などの方法で混合して溶解及び/又は分散させ、任意に、これを乾燥することからなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又は脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末素材の製造方法、それらの素材、及びその応用製品に関するものである。尚、本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が液状になったものを、「脂溶体」と表現する。
【背景技術】
【0002】
食品素材として、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を食品製造に用いる際には、これらの脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質は、不溶性で水に溶けないために、配合しにくい、また、酸化や光酸化を受けやすく不安定である、また、加熱や冷凍によって分解しやすい、などの性質が、問題となる。
【0003】
ここで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質とは、疎水性、親油性であり、水に不溶又は難溶で、有機溶媒に可溶又は分散しやすいものを意味し、具体的には、脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、があり、化学名は、それぞれ、レチノール、カルシフェロール、トコフェロール、フィロキノン、である。また、脂溶性ビタミン様物質としては、CoQ10、α−リポ酸、ヘスペリジン、がある。
【0004】
そこで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化と水への溶解性を高めて、利用しやすい素材にする方法を開発することが強く求められており、これまでに、幾つかの方法が提案されている。例えば、その一つに、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質に、レシチン、硬化ヒマシ油のような界面活性を持つ化合物を添加し、脂溶性成分を可溶化する方法、がある。また、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質に、アラビアガムを添加して、保護コロイドを形成し、脂溶性成分を可溶化する方法、がある(特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルや、ショ糖脂肪酸エステルを用いて、脂溶性ビタミン、魚油などを水溶性にする方法、が開発されている(特許文献2参照)。この他に、類似技術として、各種素材のカプセル化、がある。例えば、親水性のグルタミンを、疎水性タンパク質のツェインでマイクロカプセル化した例、がある。この方法では、グルタミン+レシチンの混合液と、ツェイン+エタノール+界面活性剤の混合液を、トウモロコシ油
に分散させた後に、エタノールを蒸発除去している(非特許文献1参照)。
【0006】
更に、ヘム鉄製品に対する黒色の遮蔽、不快味・臭のマスキング、耐水性の付与などを目的とした、ヘム鉄粒子のマイクロカプセル化の例、がある。この方法では、脂肪酸を加熱融解して、ヘム鉄製品を分散させ、一方、別に調製した分散安定剤、メチルセルロース、カゼインナトリウムの水溶液を、脂肪酸融解温度に加温して、この融解状態の脂肪酸をヘム鉄分散液に添加して、撹拌後、室温にまで冷却して、マクロカプセル化している(非特許文献2参照)。
【0007】
しかし、これらの方法は、工程が煩雑であり、製造に多くのプロセスと時間が必要とされ、また、界面活性剤、増粘安定剤、サイクロデキストリン(CD)などは、食品素材としては、やや高価で、実用化には不利な点がある。そこで、より安価・安全な原料を用い、簡単な方法で、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の不安定性や水不溶性を改善して、安定化する又は粉末化して溶解性を改善する方法などが見出されれば、それらの利用は、これまで以上に拡大するものと期待される。
【0008】
【特許文献1】特開昭48−49917号公報
【特許文献2】特開2003−55688号公報
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、53巻、pp.244−254(2006)
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌、53巻、pp.255−260(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、親油性乳化剤、油脂、親水性乳化剤を用い、親油性乳化剤と油脂の混合物に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を添加して、その分散液を作製し、一方、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散して、糖質溶液又は分散液を作製し、これら二種の液を合わせて、撹拌するなどして混合し、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を水溶性及び/又は水分散性とし、更に要すれば、これを乾燥・粉末化することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、安定に、溶解及び/又は均質分散させた脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材を製造できることを見出し、かかる知見に基づいて、本発明を完成するに至った。本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材からなる油脂−糖質素材、それらの製造方法、及びその応用製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とする脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の製造方法。
(2)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(3)油脂として、ナタネ油、又はパーム油を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(4)油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(5)糖質として、グルコース当量(DE)5〜15の澱粉加水分解物を用いる、前記(1)記載の油脂−糖質素材の製造方法。
(6)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とする油脂−糖質被覆分散液からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材。
(7)上記油脂−糖質被覆分散液を乾燥することにより、油脂−糖質粉末素材とした、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(8)糖質が、DE5〜15の澱粉加水分解物である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(9)油脂が、ナタネ油、又はパーム油である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(10)油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド含む油脂である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(11)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸である、前記(6)記載の油脂−糖質素材。
(12)前記(6)から(11)のいずれかに記載の油脂−糖質素材を含み、耐光性、酸化防止効果、耐熱性及び冷凍下での保存性を向上させたことを特徴とする食品。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を製造する方法であって、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、上記脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆素材であって、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の安定化と水への溶解性を高めて、利用しやすい素材とするために、乳化剤として、親油性乳化剤と親水性乳化剤を組み合わせて用いる。乳化剤の化学構造は、水に対して親和性を持つ親水基と、油(水以外のもの)に対して親和性を示す親油基(疎水基)とからなっている。乳化剤は、同一分子中に親水基と親油基を同時に備えているために、それが、親水性となるか親油性となるかは、同一分子中での親水基と親油基の相対的な強さによって決まる。
【0014】
こうした関係を定量的に表現した指標が、親水−親油バランス(HLB)、である。このHLB値を用いて表現すれば、親油性乳化剤とは、HLB値が0〜11未満、望ましくはHLB値が1〜5の乳化剤、である。一方、親水性乳化剤とは、HLB値が11〜20、望ましくはHLB値が14〜18の乳化剤、である。
【0015】
本発明において使用できる乳化剤は、食用のものであればよく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、レシチン類など、である。尚、グリセリン脂肪酸エステル類とは、グリセリン脂肪酸モノエステル(モノグリセリド)、グリセリン脂肪酸有機酸エステル(有機酸モノグリセリド)、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど、である。
【0016】
また、レシチン類とは、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、酵素修飾レシチンなど、である。本発明においては、同族で、種々のHLB値を有する乳化剤が作り分けられているショ糖脂肪酸エステルならびにポリグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。これらは、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができ、また、このままでも、利用することができる。
【0017】
油としては、植物起源のナタネ油、ダイズ油、トウモロコシ油、コメ油、パーム油、ヤシ油などの油脂、動物起源の各種魚油、鯨油、豚脂、牛脂、乳脂など、がある。これらは、経済性、作業性、効果を考慮して選択すべきであり、この他、不飽和脂肪酸含有トリグリセリドを含む油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など、があり、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂は、効果、作業性に優れているので、本発明の方法では、特に、有利である。
【0018】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質としては、各種のものを用いることができ、具体的には、例えば、脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、を用いることができ、化学名は、それぞれレチノール、カルシフェロール、トコフェロール、フィロキノン、である。脂溶性ビタミン様物質としては、ヘスペリジン、CoQ10、α−リポ酸、を用いることができる。
【0019】
糖質としては、粉末化しやすいもの、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の物理的・化学的な安定化に効果のあるものを選択すべきであり、澱粉の一部加水分解物、例えば、α−アミラーゼ、サイクロデキストリン合成酵素などで加水分解したもの、市販粉あめ、サイクロデキストリン製品など、も利用できる。
【0020】
次に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、及びその油脂−糖質粉末素材の製造方法について説明する。図1に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、及びその油脂−糖質粉末素材の製造工程の概要を示す。本発明では、まず、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、油及び親油性乳化剤を撹拌、混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油(油相)を作製する。また、糖質と、水及び親水性乳化剤を、撹拌、混合して、糖質水分散液(水相)を作製する。
【0021】
次いで、これら二種の液を、せん断、撹拌、振盪などの方法で混合して、油脂−糖質被覆分散液を作製し、必要に応じて、これを乾燥して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を安定化させた脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外側が糖質で被覆された構造を有する油脂−糖質粉末素材を作製する。
【0022】
次に、本発明の脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の実際の製造法について説明する。先ず、製造の前段階として、油相と水相を作製する。油相は、油脂(パーム油、ナタネ油、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など)、又は脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が分散している油脂に、親油性乳化剤、例えば、「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、例えば、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、脂溶性ビタミン及び脂溶性ビタミン様物質を分散させる。
【0023】
その後、例えば、液温を50℃に上げて、乳化剤を溶解させる。また、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、粉体の場合は、乳化剤が分散溶解した油脂に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を添加、撹拌して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を液中に分散させることで、分散油を調製する。一方、水相では、水に親水性乳化剤、例えば、「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、例えば、30分間撹拌して分散させ、温度50℃で溶解させる。
【0024】
次に、糖質として、例えば、デキストリン(DE5〜15)を添加して、分散溶解させて、デキストリン分散液を調製する。水相を撹拌しながら油相を徐々に添加して、均質な反応液を調製する。これにより、脂溶性機能成分を、油脂で被覆し、その周りをデキストリンで被覆させた、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を製造することができる。
【0025】
一般的に、油と水を分散均一化させるためには、両親媒性(水と油どちらにも馴染みやすい性質)を持つ乳化剤などを、油と水に添加して行う方法、があり、油中水滴(W/O)型乳化と、水中油滴(O/W)型乳化、の2つの方法がある。いずれの方法も、両親媒性物質である乳化剤が、油相と水相との界面に存在することで、両者の分散均一化を実現している。しかし、乳化剤では、分散した油、又はその油に含まれる成分の安定性を向上させる効果は、認められない。
【0026】
一方、本発明では、脂溶性成分を油脂で被膜し、その外側を、更に、糖質で被膜した構造としている。この構造の中で、脂溶性成分を被膜している油脂は、脂溶性成分の酸素、光、熱による変質を抑制する役割、その外側を被膜している糖質は、水との分散性を向上させる役割を担っている。これらのことから、本発明で製造される油脂−糖質素材は、従来にない構造、及び効果を備えていることから、該油脂−糖質素材を、新たに「リポソルブ」と呼称する。
【0027】
本発明によって得られる油脂−糖質素材は、脂溶性成分の物理的、及び化学的安定化にも効果があり、例えば、粉末は、溶解性に優れ、各種の加工食品に利用できるなど、利用範囲が広く、主に食品分野において、また、化粧品、医薬品などの分野においても、利用することができる。
【0028】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の種類に応じて、添加する油脂の量、及び糖質の種類、及び量を、適宜調整することができる。例えば、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンEの場合は、耐熱性や冷凍下での保存安定性が弱く、それらを有効に残存させた商品を製造することは困難とされていた。
【0029】
そこで、本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を多量に必要な場合でも、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の分散性、又は溶解性の向上、酸化の抑制、を達成することを目的として、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末、及びその製造方法を開発した。
【0030】
本発明では、親油性乳化剤と油脂の混合物に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ヘスペリジン、CoQ10、α−リポ酸など)を添加して、油脂中に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させた液を作製し、一方で、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質溶液、又は分散液を作製する。
【0031】
次に、これら二種の液を合わせて撹拌し、水溶液中で、油脂で被覆された脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を糖質で被覆した分散液とし、また、この分散液を乾燥することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を油脂で被覆してその周りに、糖質で被覆した粉末を製造する、技術を確立した。
【0032】
本発明では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を油で被膜することで、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の酸化を防ぎ、油被膜を、更に糖質で被膜することで、水分散又は溶解性を向上させる二重の効果が得られる。本発明により、多量に脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用する場合でも、水に対する溶解・分散性、及び酸化防止効果を向上させる、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末を製造することが可能となる。
【0033】
また、本発明の製造法により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用した食品の品質が向上し、日持ちが延長される。また、水分散性又は溶解性の向上により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が利用しにくかった水分含量の多い食品(飲料、羊羹、水産練り製品など)への、該脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の利用範囲が拡大する。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)親油性乳化剤と油脂を混合・分散、又は溶解させた液に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させることができ、一方、親水性乳化剤を、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができる。
(2)また、上述の両方の乳化剤を、同時に水に加え、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、分散又は可溶化させることもできる。
(3)脂溶性、水分散性を付与し、粉末化、安定化させるには、糖質の添加が効果的であり、このようにして調製された素材は、使いやすく、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質も安定化されているので、これまでより広い用途に利用することができる。尚、本発明では、このように糖質添加で製造したものを、「リポソルブ」と呼称する。
(4)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質には、異味や異臭のあるものがあるが、これを油脂−糖質粉末素材化することで、食品の異味、異臭を軽減することができる。
(5)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を使用した食品の品質が向上し、例えば、味や香りの変質が抑制され、保存安定性が向上され、日持ちが延長される。
(6)水分散性又は溶解性の向上により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が利用しにくかった水分含量の多い食品(飲料、羊羹、水産練り製品など)への、該脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の利用範囲が拡大する。
(7)脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質素材を添加した食品の、耐熱性、冷凍下での保存性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ヘスペリジンを用いて、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を作製し、これを食品に添加して、各種試験を試みた。
1.脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末の作製
油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)100gを使用し、これに、親油性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、これらを分散させ、分散液を調製した。
【0037】
次に、上記分散液の液温を、50℃に上げて、上記乳化剤を溶解させた。乳化剤を溶解させた油脂に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ヘスペリジン(キシダ化学(株)製)100gを加え、これを撹拌して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を液中に分散させた分散油を調製した。この分散油を、「O液」と呼称する。
【0038】
次に、水500gに、親水性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、30分間撹拌して、これらを分散させ、これを温度60℃で溶解させた。これに、糖質として、デキストリン(DE7〜9)60gを添加して、デキストリン分散液を調製した。この分散液を、「W液」と呼称する。上記W液を撹拌しながら、これに、上記O液を徐々に添加して、均質になるように、室温で、約30分間撹拌した。この操作により、脂溶性ビタミン様物質のヘスペリジンを含有した分散液を調製した。
【0039】
このヘスペリジンを含有した分散液は、分散性に優れ、4ヶ月間の冷蔵庫保存でも、分離しなかった。この分散液を、凍結乾燥、又は噴霧乾燥により乾燥処理することにより、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を製造した。油脂として、上記中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂の「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)とは別に、「ナタネ油」、中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)、及び「パーム油」を用いて、上記と同様の操作により、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を製造した。
【0040】
2.油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率、残存率及びその溶解度についての試験結果
このヘスペリジン油脂−糖質粉末は、水分散性、安定化に優れていた。図2に、油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジンの含有率(%)を、図3に、油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン残存率(%)を、示す。また、図4に、ヘスペリジンの油脂−糖質粉末の水に対する溶解度(%)、を示す。尚、図2〜4では、上記ヘルシーリセッタを「リセッタ」、ナタネ油を「ナタネ」、パナセート800を「P800」、パーム油を「パーム」と略記して示した。
【0041】
これらの図において、対照は、無処理のヘスペリジンを示す。溶解度(%)は、水100mlに対して、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を10g添加して、10分間撹拌した後に、遠心分離(1500×g、10分間)して、沈殿した量から算出したものである。
【0042】
図2〜4の各試験結果から、使用する油脂によって、油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率、残存率、及びその溶解度に差が見られるが、水に対する分散性を示す溶解度については、対照と比較して、全ての油脂の場合において、溶解度が向上しており、ヘスペリジン油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【0043】
3.ヘスペリジン油脂−糖質粉末の耐熱性試験
1)各試験区の試験配合
食品として、水産練り製品(蒲鉾)を用いて、該食品へ添加した場合のヘスペリジン油脂−糖質粉末の耐熱性について試験した。油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂を使用した。各試験区の試験配合は、表1に示した通りである。蒲鉾の調合肉へ配合するヘスペリジンの終濃度は、250mg/100gとした。表中のC及び1〜6の各試験区は、C:ヘスペリジン無添加、1:ヘスペリジン添加、2〜6:ヘスペリジン糖質ラップ添加である。表1において、ヘスペリジン糖質ラップとは、ヘスペリジン油脂−糖質粉末を意味する。
【0044】
試験区2〜6で用いた油脂は、以下の通りである。試験区2:中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)、試験区3:中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)、試験区4:ナタネ油、試験区5:中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)、試験区6:パーム油。
尚、表1では、ヘルシーリセッタを「リセッタ」、ナタネ油を「ナタネ」、パナセート800を「P800」、パーム油を「パーム」と略記して示し、また、他の試料区と比べて、デキストリンの量を1/2にした試験区2では、「リセッタ D1/2」と表記した。
【0045】
【表1】
【0046】
蒲鉾の調合肉の調製では、ヘスペリジン濃度が、250mg/100gになるように各試料を添加して、調合肉を調製した。この調合肉を、48mm塩化ビニリデンケーシングに充填し、ケーシングに充填した蒲鉾を、温度90℃で、20分間加熱した。加熱後、流水中で冷却した。
【0047】
2)ヘスペリジンの定量
ヘスペリジンの定量は、石川県農業総合研究センター提供の資料に基づいて、「総合感冒薬のヘスペリジンの比色定量法」によって行なった。なお、調合肉については、ヘスペリジンの抽出が困難であったため、調合肉中のヘスペリジン濃度は、250mg/100gとした。この手法の原理は、微アルカリ性でフェリシアン化カリウムを酸化剤として、ヘスペリジンにジエチルパラフェニレンジアミンをインドフェノール反応させて比色定量する方法であり、以下の手順で、試料溶液のヘスペリジンの定量を行った。
【0048】
試料溶液3ml、水3mlに、緩衝液5ml加え、指示薬として、0.1%塩酸ジエチルパラフェニリンジアミン溶液1mlを加え、呈色体の抽出溶液として、イソブタノール10mlを加え、酸化剤として、1%フェリシアン化カリウム溶液1ml加え、これらを、激しく振り混ぜ、遠心分離により、イソブタノール層を採取し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、吸光度(650nm)を測定した。対照として、空試験液を用いた。
【0049】
4.結果
各試験区のヘスペリジンの分析結果として、図5に、油脂別のヘスペリジンを添加した蒲鉾中のヘスペリジン残存率(%)を示した。図5において、「リセッタ」、「ナタネ」、「P800」、「パーム」は、表1の場合と同様の油脂を意味し、「標準」は、ヘスペリジン標準品を使用した場合、「対照」は、ヘスペリジン無添加の場合、を意味する。ヘスペリジンの定量の結果、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)以外の油脂を使用した場合のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジンについては、ヘスペリジン標準品を添加した「標準」に比べて、残存率が高かった。特に、パーム油を使用したヘスペリジン油脂−糖質粉末を添加した蒲鉾では、非常に高い割合でヘスペリジンが残存していた。
【実施例2】
【0050】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、α−トコフェロール(ビタミンE)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ビタミンE油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。ビタミンEの定量は、以下の方法により行った。
【0051】
1.ビタミンEの定量
試料10gを、エタノール100mlで振とう(30分)し、遠心分離(3000rpm、5分間)を施し、エバポレーターで10mlに濃縮して、ケン化試料とした。
【0052】
2.ケン化
試料液10ml、1%NaCl20ml、3%ピロガロール/エタノール液100ml、60%水酸化カリウム液10mlを、スクリューキャップ付き試験管に入れて、温度70℃で、30分間加熱した。放冷後、試料混液と酢酸エチル/n−ヘキサン(1:9、v/v)100mlを共栓付き三角フラスコ500mlに入れて、5分間振とうし、遠心分離(3000回転、5分間)により、酢酸エチル/ヘキサン層を集めた。
【0053】
以上の操作を2回行った後、エバポレーターで2〜3ml程度に濃縮して、N2ガスで溶媒を留去し、ナスフラ中の乾物を、ヘキサン3ml(この量は、随意)で溶解して、定量用試料とした。
【0054】
3.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件
HPLC条件は、以下の通りとした。
分離カラム:Wakosil 5SIL
サイズ:φ4mm×250mm
カラム温度:30℃
移動層:n−ヘキサン/ジイソプロピルエーテル=90:10(v/v) 1ml/min
検出器:UV295nm
【0055】
上記試験の結果を、図6〜8に示す。図6〜8において、油脂は、実施例2で使用した場合の油脂と同様に、略記して示した。図6〜8に示されるように、ビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE含有率、残存率については、油脂別に、ほぼ同様の結果が示された。また、ビタミンE油脂−糖質粉末の溶解度については、P800、リセッタ、ナタネ、バームの順に、高い溶解度を示した。
【実施例3】
【0056】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、α−リポ酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、α−リポ酸油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)を用いた。α−リポ酸の定量は、以下の方法により行った。
【0057】
1.α−リポ酸の定量
密封ガラス試験管に、α−リポ酸粉末を20mg(サンプル1種類につき2点分析)精秤し、メタノール:純水=2:1(v/v)溶液3mlを加え、試験管に蓋をし、超音波処理、振とう、遠心後、セルロースアセテート製0.45μmフィルターを用いて、濾過し、濾液を、HPLC分析に供した。
【0058】
2.HPLC分析条件
HPLC分析条件は、以下の通りとした。
使用装置:東ソーシステム1
プレカラム:4.6mmφ×10mm
分離カラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×150mm
移動相:0.04%酢酸の50(v/v)%メタノール溶液
流速:1.0ml/min
カラム温度:35℃
検出器:UV−8020 波長330nm インテレンジ0.5(インテグレーター出力)
注入量:20μl(オートサンプラ)
α−リポ酸の標準溶液:0.5、1.0、1.5、2.0mg/mlメタノール溶液
【0059】
上記試験の結果を、図9〜11に示す。対照は、無処理のα−リポ酸を示す。対照と比べて、α−リポ酸油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【実施例4】
【0060】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、CoQ10を用いた以外は、実施例1と同様にして、CoQ10油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。CoQ10の定量は、以下の方法により行った。
【0061】
1.外観評価
目視により、黄白色〜橙黄色の粉末であることを確認した。
2.CoQ10の定量
10ml容ガラス製メスフラスコに、AQURIA CoQ10粉末を10mg秤取し、ジメチルスルホキシド5mlを入れて、70℃に加温して、粉末を完全に溶解させた。これを冷却させて、室温に戻した後、0.01%塩化第二鉄(無水)含有2−プロパノールを入れて、10mlに定容した。
【0062】
CoQ10には、酸化型と還元型があり、この分析条件では、酸化型しか測定できないため、試料中に還元型が存在する場合、塩化第二鉄で酸化型に変換して、総CoQ10量として測定した。酸化型CoQ10のみを測定する場合は、塩化第二鉄の入らない2−プロパノールを用いた。PTFE製0.45μmフィルターで濾過した濾液を、下記のHPLC分析条件にて分析した。調製した分析溶液は、遮光させて保存した。
【0063】
3.HPLC分析条件
HPLC分析条件は、以下の通りとした。
プレカラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×10mm
分離カラム:Wakosil−II5C18AR 4.6mmφ×150mm
移動相:メタノール/エタノール=8/2(v/v)
流速:1.0ml/min
カラム温度:35℃
検出器:UV検出器 測定波長275nm
注入量:20μl
CoQ10の標準溶液:100、200、300、400μg/mlエタノール溶液
【0064】
上記CoQ10の標準溶液を調製して、分析し、外部標準法により、定量計算を行った。CoQ10のエタノール溶液の調製では、ガラス製メスフラスコに、CoQ10を秤取し、エタノールを入れて、温度50〜60℃に加温して、CoQ10を完全に溶解させた。これを冷却して、室温に戻した後、エタノールで定容した。調製した溶液は、遮光冷蔵保存した。
【0065】
上記試験の結果を、図12〜14に示す。対照は、無処理のCoQ10を示す。対照と比べて、CoQ10油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【実施例5】
【0066】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンDを用いた以外は、実施例1と同様にして、ビタミンD油脂−糖質粉末を作製し、同様の試験を行った。ビタミンDの定量は、以下の方法により行った。
【0067】
1.ビタミンDの定量
試料2g、1%塩化ナトリウム3ml、1%ピロガロール−エタノール溶液10ml、60%水酸化ナトリム5mlを、各々添加し、加熱けん化(70℃、60分間)し、1%塩化ナトリウム15mlを添加し、抽出を3回(酢酸エチル−ヘキサン溶液(1:9(v/v))15ml)した後、溶媒を留去し、溶解(アセトニトリル−メタノール溶液(1:9(v/v)200μl)し、HPLC用試料とした。
【0068】
2.HPLC条件
HPLC条件は、以下の通りとした。
分離カラム:オクタデシルシリカ(ODS)(250×4.5mm)
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル−メタノール溶液(1:9(v/v)
試料量:10μl
流速:1.5ml/min
波長:265nm
【0069】
上記試験の結果を、図15〜17に示す。対照は、無処理のビタミンDを示す。対照と比べて、ビタミンD油脂−糖質粉末の溶解度は、非常に高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上詳述したように、本発明は、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質粉末素材、その製造方法、及びその応用製品に係るものであり、本発明により、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を粉末化することができ、しかも、これらを物理的、かつ化学的に安定化できるので、該素材を、食品分野をはじめとして、化粧品、医薬品などの分野で広く利用することができる。
【0071】
本発明によれば、親油性乳化剤と油脂を混合・分散又は溶解させた液に、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を分散させることができ、一方、親水性乳化剤を、水に分散又は溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、水溶性、水分散性とすることができる。
【0072】
また、脂溶性、水分散性を付与し、粉末化、安定化させるには、糖質の添加が効果的であり、本発明では、このように糖質添加で製造したものを、「リポソルブ」と呼称する。本発明は、このようにして調製された脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材を提供するものとして、また、該素材は、使いやすく、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質も安定化されているので、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、これまでより広い用途に利用することを可能とするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の油脂−糖質被覆分散液及び油脂−糖質粉末素材の製造工程の概要を示す。
【図2】油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン含有率を示す。
【図3】油脂別のヘスペリジン油脂−糖質粉末のヘスペリジン残存率(%)を示す。
【図4】ヘスペリジン油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図5】油脂別のヘスペリジンを添加した蒲鉾中のヘスペリジン残存率(%)を示す。
【図6】油脂別のビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE含有率(%)を示す。
【図7】油脂別のビタミンE油脂−糖質粉末のビタミンE残存率(%)を示す。
【図8】ビタミンE油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図9】α−リポ酸油脂−糖質粉末のα−リポ酸含有率(%)を示す。
【図10】α−リポ酸油脂−糖質粉末のα−リポ酸の残存率(%)を示す。
【図11】α−リポ酸油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図12】CoQ10油脂−糖質粉末のCoQ10含有率(%)を示す。
【図13】CoQ10油脂−糖質粉末のCoQ10残存率(%)を示す。
【図14】CoQ10 油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【図15】油脂別ビタミンD油脂−糖質粉末のビタミンD含有率(%)を示す。
【図16】油脂別ビタミンD油脂−糖質粉末のビタミンD残存率(%)を示す。
【図17】ビタミンD油脂−糖質粉末の溶解度(%)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とする脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項2】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項3】
油脂として、ナタネ油、又はパーム油を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項4】
油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項5】
糖質として、グルコース当量(DE)5〜15の澱粉加水分解物を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項6】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とする油脂−糖質被覆分散液からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材。
【請求項7】
上記油脂−糖質被覆分散液を乾燥することにより、油脂−糖質粉末素材とした、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項8】
糖質が、DE5〜15の澱粉加水分解物である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項9】
油脂が、ナタネ油、又はパーム油である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項10】
油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド含む油脂である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項11】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項12】
請求項6から11のいずれかに記載の油脂−糖質素材を含み、耐光性、酸化防止効果、耐熱性及び冷凍下での保存性を向上させたことを特徴とする食品。
【請求項1】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質分散油と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、乾燥することにより、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材とすることを特徴とする脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項2】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質として、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項3】
油脂として、ナタネ油、又はパーム油を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項4】
油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項5】
糖質として、グルコース当量(DE)5〜15の澱粉加水分解物を用いる、請求項1記載の油脂−糖質素材の製造方法。
【請求項6】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質を、油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質と、糖質を、水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が安定化された構造を有することを特徴とする油脂−糖質被覆分散液からなる脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質油脂−糖質素材。
【請求項7】
上記油脂−糖質被覆分散液を乾燥することにより、油脂−糖質粉末素材とした、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項8】
糖質が、DE5〜15の澱粉加水分解物である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項9】
油脂が、ナタネ油、又はパーム油である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項10】
油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド含む油脂である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項11】
脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質が、ビタミンE、ビタミンD、ヘスペリジン、CoQ10、又はα−リポ酸である、請求項6記載の油脂−糖質素材。
【請求項12】
請求項6から11のいずれかに記載の油脂−糖質素材を含み、耐光性、酸化防止効果、耐熱性及び冷凍下での保存性を向上させたことを特徴とする食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−46002(P2010−46002A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212251(P2008−212251)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(302046621)
【出願人】(390021636)塩水港精糖株式会社 (11)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【出願人】(399095380)株式会社柴舟小出 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(302046621)
【出願人】(390021636)塩水港精糖株式会社 (11)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【出願人】(399095380)株式会社柴舟小出 (2)
【Fターム(参考)】
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