脂質代謝改善剤
【課題】 サツマイモの水可溶性成分を含む抽出液(特には澱粉回収後の廃液)から、優れた生理活性作用を有する組成物を簡便に製造すること、を目的とする。
【解決手段】 原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物の製造方法、;前記医薬用途を有する薬剤、;を提供する。
【解決手段】 原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物の製造方法、;前記医薬用途を有する薬剤、;を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物(特に、特定ペプチドを含有するもの)を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有する薬剤、内臓脂肪蓄積抑制作用を有する薬剤)に関する。
また、本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、特定ペプチドを含有する組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモは、江戸時代に日本に伝来して以来、重要な作物であり数々の飢饉を救った救荒作物としても知られている。
南九州地域では、食用以外にも澱粉や焼酎原料として多く利用されているが、澱粉や焼酎を製造する際に廃棄される残渣の処理が問題となっている。澱粉や焼酎滓には、サツマイモ由来の有用成分が多く含まれており、これらを有効利用する方法が検討されている。
【0003】
サツマイモの可溶性有機成分である糖類、タンパク質、ポリフェノール類などは、澱粉製造時に排水とともに排出されている。
この可溶性成分には、澱粉の糖化酵素であるβ−アミラーゼ(特許文献1参照)や、血糖値の低減効果を示すトリプシンインヒビター(非特許文献1参照)などのタンパク質が含まれる。また、ポリフェノール類としては、ラジカル消去活性(特許文献2参照)、抗糖尿病(特許文献3参照)、抗高血圧効果(特許文献4参照)、などが報告されている。
しかし、澱粉廃液中に占めるこれら可溶性有用成分は、相当希釈されているため、実用的に利用されていないのが現状である。
【0004】
そこで、澱粉廃液中に含まれる可溶性成分の有効利用方法を開発し、新規の需要創出をはかることは、廃液処理費および環境への負荷の軽減に寄与すると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−046110号公報
【特許文献2】特開2005−278596号公報
【特許文献3】特開2007−119346号公報
【特許文献4】特開2005−330240号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Clin. Biochem. Nutr., 43 Suppl. 1, 410-412, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、サツマイモの水可溶性成分を含む抽出液(特に澱粉回収後の廃液)から、優れた生理活性作用を有する組成物を簡便に製造することを目的とする。また、本発明は、得られた当該組成物を含有する、優れた生理活性作用を有する薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物に、脂質代謝改善作用があることを見出した。
詳しくは、まず、サツマイモに水を加えた磨砕液(水可溶性成分抽出液)から固形分(澱粉等)を除去し、タンパク質分解酵素で処理して、ペプチドを主成分とする組成物を得た。そして、これをマウスに経口摂取させたところ、優れた脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有する薬剤、内臓脂肪蓄積抑制作用)があることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤に関するものである。
請求項2に係る本発明は、前記タンパク質分解酵素処理物が、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有するものである、請求項1に記載の薬剤に関するものである。
請求項3に係る本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有する組成物の製造方法に関するものである。
請求項4に係る本発明は、前記抽出液が、サツマイモから澱粉を回収した後に得られる廃液である、請求項3に記載の組成物の製造方法に関するものである。
請求項5に係る本発明は、請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を含有してなる飲食品に関するものである。
請求項6に係る本発明は、請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を有効成分として含有してなる、脂質代謝改善作用を有する薬剤に関するものである。
請求項7に係る本発明は、前記脂質代謝改善剤が、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤に関するものである。
請求項8に係る本発明は、前記脂質代謝改善剤が、内臓脂肪蓄積抑制作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、サツマイモの水可溶性成分を含む抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)から、簡便な操作によって、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物を得ることを可能とする。また、当該脂質代謝改善作用を有する薬剤を提供することを可能とする。
【0011】
従って、本発明は、高脂血症、肥満、メタボリックシンドローム、に対して有効な薬剤の提供を可能とする。
また、ひいては高脂血症の悪化により引き起こる動脈硬化、さらには心筋梗塞や脳梗塞の予防に有効な薬剤の提供を可能とする。
また、本発明は、原料がサツマイモ由来であり、製造工程において有害な化学薬品等を用いないため、経口摂取において安全性に優れた組成物を提供することを可能とする。
また、本発明は、サツマイモからの澱粉回収後の廃液の有効利用を可能とし、廃液処理費および環境への負荷の軽減することを可能とする。さらには、焼酎滓、廃棄されている規格外イモやトリミング残渣などの有効利用も可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】サツマイモ(Ipomoea batatas)のスポラミンアミノ酸配列において、ITP、GQY、STYQTが含まれる部位を示した図である。
【図2】実施例2におけるマウスの給餌飼育日程を示した図である。
【図3】実施例2における餌摂取量の累計を示した図である。
【図4】実施例2における体重の測定結果を示した図である。
【図5】実施例2における肝臓重量の測定結果を示した図である。
【図6】実施例2における腸間膜脂肪重量の測定結果を示した図である。
【図7】実施例2における精巣上体周囲脂肪重量の測定結果を示した図である。
【図8】実施例2における血中の総コレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図9】実施例2における血中の中性脂肪の測定結果を示した図である。
【図10】リポタンパク質の粒径と密度の相関関係を示した図である。
【図11】実施例2における各種リポタンパク質(4分画)中のコレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図12】実施例2における各種リポタンパク質(4分画)中の中性脂肪含量の測定結果を示した図である。
【図13】実施例2における各種リポタンパク質(20分画)中のコレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図14】実施例2における各種リポタンパク質(20分画)中の中性脂肪含量の測定結果を示した図である。
【図15】実施例2における血中のアディポネクチン濃度を示した図である。
【図16】実施例2における血中のレプチン濃度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物の製造方法に関する。また、本発明は、前記医薬用途を有する薬剤に関する。
【0014】
<サツマイモ原料>
本発明に原料として用いる「サツマイモ」としては、サツマイモ植物体の地下部、特に養分を蓄えて肥大化したイモである「塊根」(以下、単に‘イモ’を記載する場合がある)を用いるものである。
本発明におけるサツマイモの種類としては、サツマイモ(薩摩芋、甘藷:Ipomoea batas)に属する品種、亜種、系統のものであれば如何なるものも用いることができる。
例えば、シロユタカ、ダイチノユメ、コナホマレ、シロサツマ、コガネセンガン、クイックスイート、ベニアズマ、ベニコマチ、べにはるか、べにまさり、高系14号、パープルスイートロード、アヤムラサキ(アントシアニン色素を多く含む)、アヤコマチ(カロテン色素を多く含む)などを挙げることができる。
特に、原料のサツマイモは、スポラミンを代表するサツマイモ特有のタンパク質やポリペプチドの含有量が多い品種系統を用いることが好ましく、例えば、シロユタカなどを用いることが好適である。
また、タンパク質含有量が高くなる栽培条件、例えば長期多肥栽培のものが好適である。
【0015】
また、本発明では、サツマイモからの澱粉回収後の廃液の有効利用の観点から、澱粉生産用のイモ(例えば、シロユタカ、ダイチノユメ、コナホマレ、シロサツマ、コガネセンガンなど)を原料として用いることも好適である。また、栽培過程で廃棄される規格外のイモやトリミングされた未発達のイモ、さらには、食品加工において廃棄されるイモの残渣を有効に用いることも望ましい。
【0016】
<水可溶性成分の抽出工程>
本発明では、前記原料であるサツマイモから水抽出することによって、水可溶性成分を抽出する工程を含むものである。
水抽出工程は、原料であるサツマイモを、生のまま用いることもできるが、乾燥、冷蔵、冷凍状態で保存したものを用いることもできる。
また、当該原料は、そのままの形状のまま用いることもできるが、磨砕等の処理(例えば、細断、細砕、磨砕、擂潰、粉末化、など)を行ってから、水を加水し、攪拌、混合、などを行って水抽出を行うものである。また、加水してから前記磨砕等の処理を行い、水抽出を行うことができる。なお、加える水の量としては、原料から水可溶成分を抽出できる量(例えば、6倍量程度以下)であればよい。
なお、抽出成分の濃度が薄くなると、後述の濃縮処理や粉末化処理の効率が悪くなるため、無加水(0倍量)もしくは低加水(1倍量程度以下)で行うことが望ましいが、抽出効率を踏まえると、好ましくは0.5〜1倍量程度の水を加えて行うことが望ましい。
水抽出は、室温程度で行うことがきるが、例えば、20〜45℃で、10秒〜5分、30秒〜3分間行うことで、「水可溶性成分を多く含む抽出液」を得ることができる。
【0017】
また、本発明では、工業的なサツマイモ澱粉の生産における‘廃液’を回収して利用することで、当該「水可溶性成分を含む抽出液」として用いることもできる。当該澱粉回収後の廃液を有効利用することは、環境負荷や廃棄物有効利用の観点で望ましい。
【0018】
上記より得られた水可溶性成分を含む抽出液は、タンパク質の含有量の高いものであることが望ましいため、当該含有量を高める処理を行うことが望ましい。
例えば、遠心分離(例えばフィルター付きの遠心脱水機、高速遠心分離機)、濾過、などを行って、固形分(澱粉等を多く含む画分)を除去することが好ましい。
また、限外濾過、逆浸透、イオン交換カラム処理などを行うことで、水可溶性成分の濃縮、糖や色素などの低分子も除去、を行うことも好ましい。
また、煮沸処理(約10〜60分、例えば約30分)を行い、抽出した多糖類を除去することも好ましい。
なお、さらには、UF膜、ゲルろ過、アルコール沈殿、などによって糖や色素などの低分子を除去したり、等電点沈殿法を利用してβ−アミラーゼを除去してもよい。
また、これらの各分離処理の後に、必要に応じては、さらにメッシュ等(例えば200〜800μmメッシュ)で濾過を行って不純物を除去してもよい。
【0019】
なお、当該工程で除去された固形分(澱粉を多く含む)、色素成分、β−アミラーゼなどは、廃棄することなく、有効に用いることが望ましい。
【0020】
<タンパク質分解酵素処理工程>
本発明においては、前記抽出液に含有される水可溶性成分を、タンパク質分解酵素で処理する工程を含むものである。
タンパク質分解酵素処理は、具体的には、前記抽出液(もしくはこの希釈液、濃縮液、乾燥物の再溶解液)にタンパク質分解酵素を添加し反応させることで、行うことができる。
【0021】
本工程で用いるタンパク質分解酵素としては、耐熱性を有するもの、サツマイモタンパク質を効率よく分解する性質を有するものであれば、基本的に如何なるものを用いることができるが、例えば、Bacillus属から精製された酵素製剤を用いることができる。
具体的には、Bacillus stearothermophilusから精製された酵素製剤(特にプロテアーゼS〔天野エンザイム(株)〕)、Bacillus subtilisから精製された酵素製剤(特にプロレザーFG−F〔天野エンザイム(株)〕)、Bacillus thermoproteolyticus由来のエンドプロテアーゼ製剤(サモアーゼ〔天野エンザイム(株)〕)、を用いることができ、さらには、これら3種類の酵素を混合して用いることが望ましい。
また、これらの酵素の添加量としては、例えば、抽出液1kgあたり、プロテアーゼSは2.5g程度、プロレーザーFG-Fは2.5g程度、サモアーゼは0.25g程度を添加すればよい。
【0022】
本工程のタンパク質分解酵素処理は、前記抽出液のpHを、タンパク質分解酵素の活性に合わせたpHに調整してから行うことが望ましい。pHの調整は、緩衝液やpH調整剤を用いて行うことができる。例えば、pH7〜9、前記酵素製剤を用いた場合は、pH8〜9(具体的にはpH8.5付近)、に調整して、行うことができる。
また、本工程のタンパク質分解酵素処理は、50〜75℃、前記酵素製剤を用いた場合は、60〜70℃(具体的には65℃付近)で、行うことが望ましい。
また当該処理は、1〜72時間、好ましくは8〜24時間(具体的には約16時間)、反応で行うことで、十分な量のタンパク質分解酵素処理物を得ることができる。
【0023】
反応終了後、得られた反応液(「タンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)」)は、煮沸処理(具体的には30分程度)、などを行い、添加したタンパク質分解酵素を失活させることが望ましい。
また、濾過や遠心分離によって残渣を取り除くことや、活性炭処理(具体的には活性炭濾過)を行って、脱色、脱臭を行うことが望ましい。
また、得られた反応液は、乾燥処理(具体的にはスプレードライ)を行うことで、乾燥物(具体的には乾燥粉末)にすると、様々な形態への利用がしやすい点で好適である。
【0024】
<サツマイモ由来の4種類のペプチド>
このようにして得られた「タンパク質分解酵素処理物」は、サツマイモ由来のペプチドを極めて高い含有量(具体的には、上記工程を好適範囲で行った場合、乾燥物換算で50%以上)で含むものである。
なお、当該組成物は、イオン交換樹脂やUF膜で処理することによって、当該ペプチドを単離精製したもの(単離精製物)とすることもできる。
具体的には、前記組成物を、吸着カラムクロマトグラフィーにアプライし、10〜30%エタノール(具体的には20%エタノール)での溶出画分をODSカラムクロマトグラフィーにアプライし、アセトニトリル濃度勾配によりメジャーピークの分取を繰り返すことで、4種類のペプチドとして単離することができる。
【0025】
ここで得られる、4種類のペプチドとしては、具体的には、アミノ酸配列が「ITP」、「GQY」、「IIP」、「STYQT」からなるペプチドである。
なお、これらのうちのITP、GQY、STYQTは、スポラミン(サツマイモ塊根中のタンパク質の60〜80%を占める)のアミノ酸配列に含まれることから、これらはスポラミンに由来するものと考えられる。
【0026】
<脂質代謝改善作用>
上記工程を経て得られたタンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)は、優れた「脂質代謝改善作用」を有するものである。
具体的には、「血中脂質の低減作用」と「内臓脂肪の蓄積抑制作用」に対して、優れた有効性を示すものであり、特には、血中脂質の低減作用に極めて優れた有効性を示すものである。
【0027】
前記血中脂質の低減作用としては、具体的には、血中における‘悪玉コレステロール’(VLDLとLDLに多く含まれるコレステロール)と‘中性脂肪’の低減に優れた有効性を示すものである。なお、善玉コレステロール(HDLに多く含まれるコレステロール)に対しては、大きな変動を与えないものである。
また、前記内臓脂肪の蓄積抑制作用としては、例えば、肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、などへの脂肪の蓄積を抑制することに、優れた有効性を示すものである。また、特に脂肪肝や脾臓の血腫が形成されるのを抑制することにも有効性を示す。
【0028】
なお、当該タンパク質分解酵素処理物は、肝臓脂肪組織における肥満関連因子の発現にも影響を与えるものである。
例えば、善玉アディポサイトカイン(例えばアディポネクチン)、摂食抑制因子(例えば、MSH−α、Kiss1、Neuromedin U)には、発現が増加するように作用する。一方、悪玉アディポサイトカイン(例えばTNF−α)には発現が減少するように作用する。
また、当該タンパク質分解酵素処理物は、血中における悪玉アディポサイトカイン(例えばレプチン)を減少させるように作用する。
本発明における前記脂質改善作用は、これらの肥満関連因子の発現の影響によって、発揮されているものと考えられる。
【0029】
<薬剤、飲食品>
本発明における当該タンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)は、経口摂取することによって、前記した優れた生理活性を奏するものである。
前記血中脂質の低減作用を期待する場合、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物の有効量としては、当該処理物に含有される‘サツマイモペプチド’の量に換算して、体重60kgの成人一人一日あたり、0.1g以上、好ましくは1g以上経口摂取することにより、上記のような優れた生理活性作用が得られる。
また、前記内臓脂肪の蓄積抑制作用を期待する場合、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物の有効量としては、当該処理物に含有される‘サツマイモペプチド’の量に換算して、体重60kgの成人一人一日あたり、0.5g以上、好ましくは10g以上経口摂取することにより、上記のような優れた生理活性作用が得られる。(なお、これらの値は、後記した実施例におけるマウスの有効投与量のデータから、マウスからヒトへの換算係数を12.3、サツマイモペプチド含量を約50%として、算出した値である。)
従って、この必要量を確保できる形態や摂取方法(回数、量)で、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物を摂取すればよい。
【0030】
本発明における当該タンパク質分解酵素処理物は、薬剤や飲食品に含有させる形態にすることができる。
すなわち、上記工程で得られるタンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)、もしくはサツマイモペプチドの単離物、を、各種原料に混合することで、薬剤や飲食品の形態として製造することができる。
なお、本発明における有効成分である前記タンパク質分解酵素処理物は、サツマイモ由来であるため、経口摂取の上で安全性に優れたものである。
【0031】
また、薬剤の形態としては、粉末状、細粒状、顆粒状、などとすることができ、カプセルに充填する形態の他、水に分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態、などにすることができる。
また、飲食品としては、如何なるものにも含有させることができるが、例えば、タブレット、レトルト食品、スナック菓子、ドリンク、スープ、ゼリー、ビスケット、調味料、などの形態にすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
<実施例1> サツマイモペプチド含有組成物の製造
まず、サツマイモの塊根(品種:シロユタカ、100kg)に水(50kg)を加え、高速磨砕機を用いて磨砕した。
得られた磨砕液(150kg)は、遠心脱水機(800メッシュのフィルター)で遠心することによって、澱粉を含む固体部と搾汁液(約90kg)を分離し、さらに搾汁液を限外濾過により約1.8倍に濃縮した濃縮液(48kg)を得た。
この濃縮液(2kg)を2倍に希釈し、煮沸処理を30分行って多糖類を抽出させた後、200メッシュのフィルターを用いて濾過し、変性沈殿したタンパク質を含む残渣を得た。
これに4Lの水を加え、サモアーゼPC10F(大和化成、1g),プロテアーゼS(天野エンザイム、10g),プロレーザーFG-F(天野エンザイム、10g)を加え、pH8.5、65℃で16時間反応させることで、タンパク質分解酵素処理を行った。その後、煮沸処理を30分行って酵素を失活させた。
得られた反応液(タンパク質分解酵素処理物=‘サツマイモペプチド含有組成物’)を、活性炭濾過(特選白鷲、武田キリン)を行って脱色・脱臭し、スプレードライにより噴霧乾燥することで、‘サツマイモペプチド含有組成物’の乾燥粉末(30g)を得た。
そして、得られた粉末の成分組成を調べた。その結果、表1が示すように、当該粉末には、ペプチドが50.3%と大量に含有されることが示され、ペプチドを主成分とする組成物であることが分った。
【0033】
【表1】
【0034】
(2)ペプチドの単離
上記で得た乾燥粉末を、吸着カラムクロマトグラフィー(セパビーズSP825)にアプライし、エタノール濃度0,20,40,80,100%で溶出させて分画した。
20%溶出画分をODSカラムクロマトグラフィー(コスモシール 5C18-AR-300)にアプライし、アセトニトリル濃度勾配によりメジャーピークの分取を繰り返し、4つのペプチドを単離してアミノ酸配列を決定した。
【0035】
その結果、4つのペプチドは、「ITP」、「GQY」、「IIP」、「STYQT」からなるペプチドであることが明らかになった(I:イソロイシン、T:トレオニン、P:プロリン、G:グリシン、Q:グルタミン、Y:チロシン、S:セリン、を表す)。
なお、図1が示すように、これらのうちのITP、GQY、STYQTは、スポラミン(サツマイモ塊根中のタンパク質の60〜80%を占める)のアミノ酸配列に含まれることから、これらはスポラミンに由来することが示唆された。
【0036】
<実施例2> 脂質代謝改善作用の検証
サツマイモペプチド含有組成物の、体重、血中脂質、内臓脂肪、に対する影響を調べた。
(1)マウスの給餌飼育
マウス(C57BL/6系統、オス、5週齢、日本SLC(株))を、1週間の予備飼育後、表2に示す3群(各5匹ずつ)に分けて、28日間給餌飼育を行った。なお、開始日(1日目)と終了日(28日目)の前日には、午後10時から絶食させた。
各飼料は、サツマイモペプチド含有組成物としては、実施例1で得られたスプレードライ粉末を、高脂肪食としては、High Fat Diet 32(日本クレア〕を用いて、表2に示す処方により混合して調製した。また、飼育条件は、表3に示す条件で行った。飼育日程をまとめたものを、図2に示す。
なお、飼育期間が終了するまで、異常な行動や変化を示した個体や死亡した個体はみられなかった。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
(2)体重の測定
給餌飼育の開始日(1日目)および終了日(28日目)の午前10時に、パーソナル電子天秤EK1200i((株)エー・アンド・デイ)で測定した。なお、給餌毎に摂取した餌の摂取残量と、新たに加える餌の量を測定することで、餌摂取量の累計を算出した。
餌摂取量の結果を図3に、給餌飼育終了日に測定した体重の結果を図4に示す。(なお、以降の測定結果のグラフを示す図において、「*」は5%の危険率で、「**」は1%の危険率で、対照に対して有意差があることを示す。)
その結果、餌摂取量については、各群間に相違が見られなかったにも関わらず、体重については、サツマイモペプチド含有組成物の添加量の増加に依存して、体重が有意に減少することが示された。
【0040】
(3)臓器重量の測定
給餌終了日(28日目)後、肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪を摘出し、それぞれの重量を測定した。重量測定には、ベーシック天秤アドベンチャープロAV213C(OHAUS社)を使用した。各重量の測定結果について、肝臓の結果を図5に、腸間膜脂肪の結果を図6に、精巣上体周囲脂肪の結果を図7にそれぞれを示す。なお、解剖所見を行い、特に肝臓については脂肪肝について判定した。結果を表4に示す。
その結果、サツマイモペプチド含有組成物の添加量の増加に依存して、内臓脂肪を蓄積する臓器である肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪の重量が、有意に減少することが示された。また、脂肪肝の程度も軽減することが示された。
特に、当該組成物を5%含有する飼料を摂取させた群(B群)では、上記臓器重量に大幅な減少がみられ、さらに肝臓も脂肪肝になっていないことが示された。また、脾臓に血腫が生じる個体も見られなくなった。
【0041】
【表4】
【0042】
(4)血中脂質の測定
i )採血
給餌飼育開始日(1日目)と終了日(28日目)の午前10時に採血を行った。なお、前記したように、これらの日の前日の午後10時からは絶食させた。
給餌飼育開始日(1日目)の採血は、尾静脈よりヘパリン処理済の毛細管で、約160μlを採血した。また、給餌飼育終了日(28日目)の採血は、前記臓器摘出の前にマウスをケタミンで麻酔し、心臓採血を行った。全頭の採血を行った後、血清分離を行って、得られた血清を−80℃で凍結保存した。
【0043】
ii)血中総コレステロールおよび中性脂肪の測定
血中の総コレステロールおよび中性脂肪の測定は、上記採血により得た血清を、コレステストCHO(第一化学薬品(株))とコレステストTG(第一化学薬品(株))にて、(株)スカイライト・バイオテック解析センター内で測定した。給餌飼育終了日における血中の総コレステロール含量の値を図8に、中性脂肪含量の値を図9に示す。
その結果、血中の総コレステロール含量と中性脂肪含量は、サツマイモペプチド含有組成物の添加によって減少することが示された。特に、中性脂肪含量は当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな効果があることが示された。
【0044】
(5)リポタンパク質中のコレステロールおよび中性脂肪の測定
i )粒径の異なる4種類のサブクラスへの分画
血液中のコレステロールと中性脂肪は、リポタンパク質中に含有されている。リポタンパク質は、粒径の違いにより大まかに、カイロミクロン(以下、CMやCHYLOと略す),VLDL,LDL,HDLの4種類のサブクラスに分類される(図10参照)。
そこで、上記段落(4)で給餌飼育終了日に採血した血清を、ゲルろ過カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、各種リポタンパク質を分離し、分離されたリポタンパク質中のコレステロールと中性脂肪の含量を試薬反応により測定した。給餌飼育終了日におけるコレステロール含量の結果を図11に、中性脂肪含量の結果を図12に示す。
その結果、‘コレステロール’は、VLDL、LDLにおいて当該組成物の摂取量依存的に減少し、特にVLDLにおけるコレステロールの減少は、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、顕著であることが示された。また、HDLについては、大きな減少がみられなかった。
また、‘中性脂肪’は、CM、VLDL、LDL、HDLの全てにおいて当該組成物の摂取量依存的に減少し、特にVLDL、LDL、HDL(即ち、CMを除く残り3分画のリポタンパク質)においては、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな低減作用があることが示された。
【0045】
ii)粒径の異なる20種類のサブクラスへの分画
さらに、粒径を、上記4種類よりもさらに細かい20種類のサブクラスに分類して、各分画におけるコレステロールと中性脂肪の含量を測定した。リポタンパク質の分離およびコレステロールと中性脂肪の含量の測定は、粒径が大きい順にG01〜20に分離したことを除いては、前段落と同様にして行った。
20分画のうち、G05(粒径44.5nm=large VLDL),G06(粒径36.8nm=medium VLDL),G08(粒径28.6nm=large LDL),G13(粒径16.7nm=very small LDL),G16(粒径12.1nm=large HDL),G20(粒径7.6nm=very small HDL)についてのコレステロール含量の値を図13に示す。
また、G05(粒径44.5nm=large VLDL),G06(粒径36.8nm=medium VLDL),G09(粒径25.5nm=medium LDL),G12(粒径18.6nm=very small LDL),G17(粒径10.9nm=medium HDL),G19(粒径8.8nm=very small HDL)についての中性脂肪含量の値を図14に示す。
【0046】
その結果、‘コレステロール’は、VLDL(G05,G06)、およびLDL(G08,G13)において、当該組成物の摂取量依存的に減少することが示された。特にVLDL(G05,G06)におけるコレステロールの減少は、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、顕著であることが示された。また、HDLにおいては、当該組成物を5%含有した飼料を給餌した群(B群)では粒子径の大きいHDL(G16)では減少したが、粒子径の小さいHDL(G20)ではむしろ増加する傾向が示された。
‘中性脂肪’は、VLDL(G05,G06)、LDL(G09,G12)、HDL(G17,G19)において、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな低減作用があることが示された。
【0047】
iii)考察
これらのことより、当該サツマイモペプチド含有組成物は、‘悪玉コレステロール’(LDLとVLDLに含まれるコレステロール)を、大幅に減少させる作用を有することが示された。そして、その中の超悪玉コレステロール(very small LDLに含まれるコレステロール)についても、大幅に減少させる作用を有することが示された。
また、善玉コレステロール(HDLに含まれるコレステロール)の中の特にvery small HDLに含まれるコレステロールについては、5%摂取群(B群)においてむしろ増加させる作用を有することが示唆された。
なお、‘中性脂肪’については、いずれのリポタンパク質(CM、VLDL、LDL、HDL)に含まれるものに対しても、大幅に減少させる作用を有することが示された。
【0048】
(6)各種肥満関連因子の解析
i )血中アディポサイトカインの測定
血液中において、善玉アディポサイトカインである‘アディポネクチン’と、悪玉アディポサイトカインである‘レプチン’の濃度を測定した。
測定は、上記段落(4)で給餌飼育終了日に採血した血清を用いて、ELISA法によりアディポネクチンとレプチン濃度を定量した。
血中のアディポネクチン濃度の値を図15に、レプチン濃度の値を図16に示す。
その結果、血中におけるアディポネクチン(善玉アディポサイトカイン)の濃度は、各群で差違が見られなかったが、レプチン(悪玉アディポサイトカイン)の濃度は、当該組成物を5%摂取した群(B群)で有意に低下することが示された。
【0049】
ii)肝臓脂肪組織における各種肥満関連因子の解析
肝臓脂肪組織において、表5に示す各種肥満関連因子の発現量を測定した。
測定は、上記段落(3)で摘出した肝臓組織から、タンパク質を抽出し、Obesity Peptide Biomarker Array(Phoenix社製)による、網羅的肥満関連因子解析によって測定した。結果を表5に示す。
その結果、善玉アディポサイトカインである‘アディポネクチン’、;摂食抑制因子である‘MSH−α’、‘Kiss1’、‘Neuromedin U’、;の発現に当該組成物の摂取量依存的な増加(5%摂取群での増加)が見られた。一方、悪玉アディポサイトカインである‘TNF−α’の発現には、摂取量依存的な減少(5%摂取群での減少)が見られた。
【0050】
【表5】
【0051】
iii)考察
これらの結果から、サツマイモペプチド含有組成物は、脂肪組織(肝臓)における‘アディポサイトカイン’の発現を調節(善玉促進、悪玉抑制)する作用、‘摂食抑制因子’の発現を促進する作用、を有することが示された。
そして、これによって、血中における悪玉コレステロール含量と中性脂肪含量が低減され、また内臓への脂肪蓄積も抑制させることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が多すぎる高脂血症や、内臓脂肪の蓄積、に対する予防や治療について、医薬分野における広範な利用が期待される。また、食品分野での利用も期待される。
なお、サツマイモは、アレルゲンを含まず、植物防疫法により青果物としての輸入が禁止されている。そのため、本発明のサツマイモ由来の組成物は、安全性に優れるとともに、国産サツマイモが原料という優位性を有している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物(特に、特定ペプチドを含有するもの)を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有する薬剤、内臓脂肪蓄積抑制作用を有する薬剤)に関する。
また、本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、特定ペプチドを含有する組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモは、江戸時代に日本に伝来して以来、重要な作物であり数々の飢饉を救った救荒作物としても知られている。
南九州地域では、食用以外にも澱粉や焼酎原料として多く利用されているが、澱粉や焼酎を製造する際に廃棄される残渣の処理が問題となっている。澱粉や焼酎滓には、サツマイモ由来の有用成分が多く含まれており、これらを有効利用する方法が検討されている。
【0003】
サツマイモの可溶性有機成分である糖類、タンパク質、ポリフェノール類などは、澱粉製造時に排水とともに排出されている。
この可溶性成分には、澱粉の糖化酵素であるβ−アミラーゼ(特許文献1参照)や、血糖値の低減効果を示すトリプシンインヒビター(非特許文献1参照)などのタンパク質が含まれる。また、ポリフェノール類としては、ラジカル消去活性(特許文献2参照)、抗糖尿病(特許文献3参照)、抗高血圧効果(特許文献4参照)、などが報告されている。
しかし、澱粉廃液中に占めるこれら可溶性有用成分は、相当希釈されているため、実用的に利用されていないのが現状である。
【0004】
そこで、澱粉廃液中に含まれる可溶性成分の有効利用方法を開発し、新規の需要創出をはかることは、廃液処理費および環境への負荷の軽減に寄与すると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−046110号公報
【特許文献2】特開2005−278596号公報
【特許文献3】特開2007−119346号公報
【特許文献4】特開2005−330240号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Clin. Biochem. Nutr., 43 Suppl. 1, 410-412, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、サツマイモの水可溶性成分を含む抽出液(特に澱粉回収後の廃液)から、優れた生理活性作用を有する組成物を簡便に製造することを目的とする。また、本発明は、得られた当該組成物を含有する、優れた生理活性作用を有する薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物に、脂質代謝改善作用があることを見出した。
詳しくは、まず、サツマイモに水を加えた磨砕液(水可溶性成分抽出液)から固形分(澱粉等)を除去し、タンパク質分解酵素で処理して、ペプチドを主成分とする組成物を得た。そして、これをマウスに経口摂取させたところ、優れた脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有する薬剤、内臓脂肪蓄積抑制作用)があることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤に関するものである。
請求項2に係る本発明は、前記タンパク質分解酵素処理物が、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有するものである、請求項1に記載の薬剤に関するものである。
請求項3に係る本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有する組成物の製造方法に関するものである。
請求項4に係る本発明は、前記抽出液が、サツマイモから澱粉を回収した後に得られる廃液である、請求項3に記載の組成物の製造方法に関するものである。
請求項5に係る本発明は、請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を含有してなる飲食品に関するものである。
請求項6に係る本発明は、請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を有効成分として含有してなる、脂質代謝改善作用を有する薬剤に関するものである。
請求項7に係る本発明は、前記脂質代謝改善剤が、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤に関するものである。
請求項8に係る本発明は、前記脂質代謝改善剤が、内臓脂肪蓄積抑制作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、サツマイモの水可溶性成分を含む抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)から、簡便な操作によって、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物を得ることを可能とする。また、当該脂質代謝改善作用を有する薬剤を提供することを可能とする。
【0011】
従って、本発明は、高脂血症、肥満、メタボリックシンドローム、に対して有効な薬剤の提供を可能とする。
また、ひいては高脂血症の悪化により引き起こる動脈硬化、さらには心筋梗塞や脳梗塞の予防に有効な薬剤の提供を可能とする。
また、本発明は、原料がサツマイモ由来であり、製造工程において有害な化学薬品等を用いないため、経口摂取において安全性に優れた組成物を提供することを可能とする。
また、本発明は、サツマイモからの澱粉回収後の廃液の有効利用を可能とし、廃液処理費および環境への負荷の軽減することを可能とする。さらには、焼酎滓、廃棄されている規格外イモやトリミング残渣などの有効利用も可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】サツマイモ(Ipomoea batatas)のスポラミンアミノ酸配列において、ITP、GQY、STYQTが含まれる部位を示した図である。
【図2】実施例2におけるマウスの給餌飼育日程を示した図である。
【図3】実施例2における餌摂取量の累計を示した図である。
【図4】実施例2における体重の測定結果を示した図である。
【図5】実施例2における肝臓重量の測定結果を示した図である。
【図6】実施例2における腸間膜脂肪重量の測定結果を示した図である。
【図7】実施例2における精巣上体周囲脂肪重量の測定結果を示した図である。
【図8】実施例2における血中の総コレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図9】実施例2における血中の中性脂肪の測定結果を示した図である。
【図10】リポタンパク質の粒径と密度の相関関係を示した図である。
【図11】実施例2における各種リポタンパク質(4分画)中のコレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図12】実施例2における各種リポタンパク質(4分画)中の中性脂肪含量の測定結果を示した図である。
【図13】実施例2における各種リポタンパク質(20分画)中のコレステロール含量の測定結果を示した図である。
【図14】実施例2における各種リポタンパク質(20分画)中の中性脂肪含量の測定結果を示した図である。
【図15】実施例2における血中のアディポネクチン濃度を示した図である。
【図16】実施例2における血中のレプチン濃度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液(特に、澱粉回収後の廃液)に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、脂質代謝改善作用(特に、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用、内臓脂肪蓄積抑制作用)を有する組成物の製造方法に関する。また、本発明は、前記医薬用途を有する薬剤に関する。
【0014】
<サツマイモ原料>
本発明に原料として用いる「サツマイモ」としては、サツマイモ植物体の地下部、特に養分を蓄えて肥大化したイモである「塊根」(以下、単に‘イモ’を記載する場合がある)を用いるものである。
本発明におけるサツマイモの種類としては、サツマイモ(薩摩芋、甘藷:Ipomoea batas)に属する品種、亜種、系統のものであれば如何なるものも用いることができる。
例えば、シロユタカ、ダイチノユメ、コナホマレ、シロサツマ、コガネセンガン、クイックスイート、ベニアズマ、ベニコマチ、べにはるか、べにまさり、高系14号、パープルスイートロード、アヤムラサキ(アントシアニン色素を多く含む)、アヤコマチ(カロテン色素を多く含む)などを挙げることができる。
特に、原料のサツマイモは、スポラミンを代表するサツマイモ特有のタンパク質やポリペプチドの含有量が多い品種系統を用いることが好ましく、例えば、シロユタカなどを用いることが好適である。
また、タンパク質含有量が高くなる栽培条件、例えば長期多肥栽培のものが好適である。
【0015】
また、本発明では、サツマイモからの澱粉回収後の廃液の有効利用の観点から、澱粉生産用のイモ(例えば、シロユタカ、ダイチノユメ、コナホマレ、シロサツマ、コガネセンガンなど)を原料として用いることも好適である。また、栽培過程で廃棄される規格外のイモやトリミングされた未発達のイモ、さらには、食品加工において廃棄されるイモの残渣を有効に用いることも望ましい。
【0016】
<水可溶性成分の抽出工程>
本発明では、前記原料であるサツマイモから水抽出することによって、水可溶性成分を抽出する工程を含むものである。
水抽出工程は、原料であるサツマイモを、生のまま用いることもできるが、乾燥、冷蔵、冷凍状態で保存したものを用いることもできる。
また、当該原料は、そのままの形状のまま用いることもできるが、磨砕等の処理(例えば、細断、細砕、磨砕、擂潰、粉末化、など)を行ってから、水を加水し、攪拌、混合、などを行って水抽出を行うものである。また、加水してから前記磨砕等の処理を行い、水抽出を行うことができる。なお、加える水の量としては、原料から水可溶成分を抽出できる量(例えば、6倍量程度以下)であればよい。
なお、抽出成分の濃度が薄くなると、後述の濃縮処理や粉末化処理の効率が悪くなるため、無加水(0倍量)もしくは低加水(1倍量程度以下)で行うことが望ましいが、抽出効率を踏まえると、好ましくは0.5〜1倍量程度の水を加えて行うことが望ましい。
水抽出は、室温程度で行うことがきるが、例えば、20〜45℃で、10秒〜5分、30秒〜3分間行うことで、「水可溶性成分を多く含む抽出液」を得ることができる。
【0017】
また、本発明では、工業的なサツマイモ澱粉の生産における‘廃液’を回収して利用することで、当該「水可溶性成分を含む抽出液」として用いることもできる。当該澱粉回収後の廃液を有効利用することは、環境負荷や廃棄物有効利用の観点で望ましい。
【0018】
上記より得られた水可溶性成分を含む抽出液は、タンパク質の含有量の高いものであることが望ましいため、当該含有量を高める処理を行うことが望ましい。
例えば、遠心分離(例えばフィルター付きの遠心脱水機、高速遠心分離機)、濾過、などを行って、固形分(澱粉等を多く含む画分)を除去することが好ましい。
また、限外濾過、逆浸透、イオン交換カラム処理などを行うことで、水可溶性成分の濃縮、糖や色素などの低分子も除去、を行うことも好ましい。
また、煮沸処理(約10〜60分、例えば約30分)を行い、抽出した多糖類を除去することも好ましい。
なお、さらには、UF膜、ゲルろ過、アルコール沈殿、などによって糖や色素などの低分子を除去したり、等電点沈殿法を利用してβ−アミラーゼを除去してもよい。
また、これらの各分離処理の後に、必要に応じては、さらにメッシュ等(例えば200〜800μmメッシュ)で濾過を行って不純物を除去してもよい。
【0019】
なお、当該工程で除去された固形分(澱粉を多く含む)、色素成分、β−アミラーゼなどは、廃棄することなく、有効に用いることが望ましい。
【0020】
<タンパク質分解酵素処理工程>
本発明においては、前記抽出液に含有される水可溶性成分を、タンパク質分解酵素で処理する工程を含むものである。
タンパク質分解酵素処理は、具体的には、前記抽出液(もしくはこの希釈液、濃縮液、乾燥物の再溶解液)にタンパク質分解酵素を添加し反応させることで、行うことができる。
【0021】
本工程で用いるタンパク質分解酵素としては、耐熱性を有するもの、サツマイモタンパク質を効率よく分解する性質を有するものであれば、基本的に如何なるものを用いることができるが、例えば、Bacillus属から精製された酵素製剤を用いることができる。
具体的には、Bacillus stearothermophilusから精製された酵素製剤(特にプロテアーゼS〔天野エンザイム(株)〕)、Bacillus subtilisから精製された酵素製剤(特にプロレザーFG−F〔天野エンザイム(株)〕)、Bacillus thermoproteolyticus由来のエンドプロテアーゼ製剤(サモアーゼ〔天野エンザイム(株)〕)、を用いることができ、さらには、これら3種類の酵素を混合して用いることが望ましい。
また、これらの酵素の添加量としては、例えば、抽出液1kgあたり、プロテアーゼSは2.5g程度、プロレーザーFG-Fは2.5g程度、サモアーゼは0.25g程度を添加すればよい。
【0022】
本工程のタンパク質分解酵素処理は、前記抽出液のpHを、タンパク質分解酵素の活性に合わせたpHに調整してから行うことが望ましい。pHの調整は、緩衝液やpH調整剤を用いて行うことができる。例えば、pH7〜9、前記酵素製剤を用いた場合は、pH8〜9(具体的にはpH8.5付近)、に調整して、行うことができる。
また、本工程のタンパク質分解酵素処理は、50〜75℃、前記酵素製剤を用いた場合は、60〜70℃(具体的には65℃付近)で、行うことが望ましい。
また当該処理は、1〜72時間、好ましくは8〜24時間(具体的には約16時間)、反応で行うことで、十分な量のタンパク質分解酵素処理物を得ることができる。
【0023】
反応終了後、得られた反応液(「タンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)」)は、煮沸処理(具体的には30分程度)、などを行い、添加したタンパク質分解酵素を失活させることが望ましい。
また、濾過や遠心分離によって残渣を取り除くことや、活性炭処理(具体的には活性炭濾過)を行って、脱色、脱臭を行うことが望ましい。
また、得られた反応液は、乾燥処理(具体的にはスプレードライ)を行うことで、乾燥物(具体的には乾燥粉末)にすると、様々な形態への利用がしやすい点で好適である。
【0024】
<サツマイモ由来の4種類のペプチド>
このようにして得られた「タンパク質分解酵素処理物」は、サツマイモ由来のペプチドを極めて高い含有量(具体的には、上記工程を好適範囲で行った場合、乾燥物換算で50%以上)で含むものである。
なお、当該組成物は、イオン交換樹脂やUF膜で処理することによって、当該ペプチドを単離精製したもの(単離精製物)とすることもできる。
具体的には、前記組成物を、吸着カラムクロマトグラフィーにアプライし、10〜30%エタノール(具体的には20%エタノール)での溶出画分をODSカラムクロマトグラフィーにアプライし、アセトニトリル濃度勾配によりメジャーピークの分取を繰り返すことで、4種類のペプチドとして単離することができる。
【0025】
ここで得られる、4種類のペプチドとしては、具体的には、アミノ酸配列が「ITP」、「GQY」、「IIP」、「STYQT」からなるペプチドである。
なお、これらのうちのITP、GQY、STYQTは、スポラミン(サツマイモ塊根中のタンパク質の60〜80%を占める)のアミノ酸配列に含まれることから、これらはスポラミンに由来するものと考えられる。
【0026】
<脂質代謝改善作用>
上記工程を経て得られたタンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)は、優れた「脂質代謝改善作用」を有するものである。
具体的には、「血中脂質の低減作用」と「内臓脂肪の蓄積抑制作用」に対して、優れた有効性を示すものであり、特には、血中脂質の低減作用に極めて優れた有効性を示すものである。
【0027】
前記血中脂質の低減作用としては、具体的には、血中における‘悪玉コレステロール’(VLDLとLDLに多く含まれるコレステロール)と‘中性脂肪’の低減に優れた有効性を示すものである。なお、善玉コレステロール(HDLに多く含まれるコレステロール)に対しては、大きな変動を与えないものである。
また、前記内臓脂肪の蓄積抑制作用としては、例えば、肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、などへの脂肪の蓄積を抑制することに、優れた有効性を示すものである。また、特に脂肪肝や脾臓の血腫が形成されるのを抑制することにも有効性を示す。
【0028】
なお、当該タンパク質分解酵素処理物は、肝臓脂肪組織における肥満関連因子の発現にも影響を与えるものである。
例えば、善玉アディポサイトカイン(例えばアディポネクチン)、摂食抑制因子(例えば、MSH−α、Kiss1、Neuromedin U)には、発現が増加するように作用する。一方、悪玉アディポサイトカイン(例えばTNF−α)には発現が減少するように作用する。
また、当該タンパク質分解酵素処理物は、血中における悪玉アディポサイトカイン(例えばレプチン)を減少させるように作用する。
本発明における前記脂質改善作用は、これらの肥満関連因子の発現の影響によって、発揮されているものと考えられる。
【0029】
<薬剤、飲食品>
本発明における当該タンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)は、経口摂取することによって、前記した優れた生理活性を奏するものである。
前記血中脂質の低減作用を期待する場合、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物の有効量としては、当該処理物に含有される‘サツマイモペプチド’の量に換算して、体重60kgの成人一人一日あたり、0.1g以上、好ましくは1g以上経口摂取することにより、上記のような優れた生理活性作用が得られる。
また、前記内臓脂肪の蓄積抑制作用を期待する場合、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物の有効量としては、当該処理物に含有される‘サツマイモペプチド’の量に換算して、体重60kgの成人一人一日あたり、0.5g以上、好ましくは10g以上経口摂取することにより、上記のような優れた生理活性作用が得られる。(なお、これらの値は、後記した実施例におけるマウスの有効投与量のデータから、マウスからヒトへの換算係数を12.3、サツマイモペプチド含量を約50%として、算出した値である。)
従って、この必要量を確保できる形態や摂取方法(回数、量)で、本発明における当該タンパク質分解酵素処理物を摂取すればよい。
【0030】
本発明における当該タンパク質分解酵素処理物は、薬剤や飲食品に含有させる形態にすることができる。
すなわち、上記工程で得られるタンパク質分解酵素処理物(サツマイモペプチド含有組成物)、もしくはサツマイモペプチドの単離物、を、各種原料に混合することで、薬剤や飲食品の形態として製造することができる。
なお、本発明における有効成分である前記タンパク質分解酵素処理物は、サツマイモ由来であるため、経口摂取の上で安全性に優れたものである。
【0031】
また、薬剤の形態としては、粉末状、細粒状、顆粒状、などとすることができ、カプセルに充填する形態の他、水に分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態、などにすることができる。
また、飲食品としては、如何なるものにも含有させることができるが、例えば、タブレット、レトルト食品、スナック菓子、ドリンク、スープ、ゼリー、ビスケット、調味料、などの形態にすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
<実施例1> サツマイモペプチド含有組成物の製造
まず、サツマイモの塊根(品種:シロユタカ、100kg)に水(50kg)を加え、高速磨砕機を用いて磨砕した。
得られた磨砕液(150kg)は、遠心脱水機(800メッシュのフィルター)で遠心することによって、澱粉を含む固体部と搾汁液(約90kg)を分離し、さらに搾汁液を限外濾過により約1.8倍に濃縮した濃縮液(48kg)を得た。
この濃縮液(2kg)を2倍に希釈し、煮沸処理を30分行って多糖類を抽出させた後、200メッシュのフィルターを用いて濾過し、変性沈殿したタンパク質を含む残渣を得た。
これに4Lの水を加え、サモアーゼPC10F(大和化成、1g),プロテアーゼS(天野エンザイム、10g),プロレーザーFG-F(天野エンザイム、10g)を加え、pH8.5、65℃で16時間反応させることで、タンパク質分解酵素処理を行った。その後、煮沸処理を30分行って酵素を失活させた。
得られた反応液(タンパク質分解酵素処理物=‘サツマイモペプチド含有組成物’)を、活性炭濾過(特選白鷲、武田キリン)を行って脱色・脱臭し、スプレードライにより噴霧乾燥することで、‘サツマイモペプチド含有組成物’の乾燥粉末(30g)を得た。
そして、得られた粉末の成分組成を調べた。その結果、表1が示すように、当該粉末には、ペプチドが50.3%と大量に含有されることが示され、ペプチドを主成分とする組成物であることが分った。
【0033】
【表1】
【0034】
(2)ペプチドの単離
上記で得た乾燥粉末を、吸着カラムクロマトグラフィー(セパビーズSP825)にアプライし、エタノール濃度0,20,40,80,100%で溶出させて分画した。
20%溶出画分をODSカラムクロマトグラフィー(コスモシール 5C18-AR-300)にアプライし、アセトニトリル濃度勾配によりメジャーピークの分取を繰り返し、4つのペプチドを単離してアミノ酸配列を決定した。
【0035】
その結果、4つのペプチドは、「ITP」、「GQY」、「IIP」、「STYQT」からなるペプチドであることが明らかになった(I:イソロイシン、T:トレオニン、P:プロリン、G:グリシン、Q:グルタミン、Y:チロシン、S:セリン、を表す)。
なお、図1が示すように、これらのうちのITP、GQY、STYQTは、スポラミン(サツマイモ塊根中のタンパク質の60〜80%を占める)のアミノ酸配列に含まれることから、これらはスポラミンに由来することが示唆された。
【0036】
<実施例2> 脂質代謝改善作用の検証
サツマイモペプチド含有組成物の、体重、血中脂質、内臓脂肪、に対する影響を調べた。
(1)マウスの給餌飼育
マウス(C57BL/6系統、オス、5週齢、日本SLC(株))を、1週間の予備飼育後、表2に示す3群(各5匹ずつ)に分けて、28日間給餌飼育を行った。なお、開始日(1日目)と終了日(28日目)の前日には、午後10時から絶食させた。
各飼料は、サツマイモペプチド含有組成物としては、実施例1で得られたスプレードライ粉末を、高脂肪食としては、High Fat Diet 32(日本クレア〕を用いて、表2に示す処方により混合して調製した。また、飼育条件は、表3に示す条件で行った。飼育日程をまとめたものを、図2に示す。
なお、飼育期間が終了するまで、異常な行動や変化を示した個体や死亡した個体はみられなかった。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
(2)体重の測定
給餌飼育の開始日(1日目)および終了日(28日目)の午前10時に、パーソナル電子天秤EK1200i((株)エー・アンド・デイ)で測定した。なお、給餌毎に摂取した餌の摂取残量と、新たに加える餌の量を測定することで、餌摂取量の累計を算出した。
餌摂取量の結果を図3に、給餌飼育終了日に測定した体重の結果を図4に示す。(なお、以降の測定結果のグラフを示す図において、「*」は5%の危険率で、「**」は1%の危険率で、対照に対して有意差があることを示す。)
その結果、餌摂取量については、各群間に相違が見られなかったにも関わらず、体重については、サツマイモペプチド含有組成物の添加量の増加に依存して、体重が有意に減少することが示された。
【0040】
(3)臓器重量の測定
給餌終了日(28日目)後、肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪を摘出し、それぞれの重量を測定した。重量測定には、ベーシック天秤アドベンチャープロAV213C(OHAUS社)を使用した。各重量の測定結果について、肝臓の結果を図5に、腸間膜脂肪の結果を図6に、精巣上体周囲脂肪の結果を図7にそれぞれを示す。なお、解剖所見を行い、特に肝臓については脂肪肝について判定した。結果を表4に示す。
その結果、サツマイモペプチド含有組成物の添加量の増加に依存して、内臓脂肪を蓄積する臓器である肝臓、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪の重量が、有意に減少することが示された。また、脂肪肝の程度も軽減することが示された。
特に、当該組成物を5%含有する飼料を摂取させた群(B群)では、上記臓器重量に大幅な減少がみられ、さらに肝臓も脂肪肝になっていないことが示された。また、脾臓に血腫が生じる個体も見られなくなった。
【0041】
【表4】
【0042】
(4)血中脂質の測定
i )採血
給餌飼育開始日(1日目)と終了日(28日目)の午前10時に採血を行った。なお、前記したように、これらの日の前日の午後10時からは絶食させた。
給餌飼育開始日(1日目)の採血は、尾静脈よりヘパリン処理済の毛細管で、約160μlを採血した。また、給餌飼育終了日(28日目)の採血は、前記臓器摘出の前にマウスをケタミンで麻酔し、心臓採血を行った。全頭の採血を行った後、血清分離を行って、得られた血清を−80℃で凍結保存した。
【0043】
ii)血中総コレステロールおよび中性脂肪の測定
血中の総コレステロールおよび中性脂肪の測定は、上記採血により得た血清を、コレステストCHO(第一化学薬品(株))とコレステストTG(第一化学薬品(株))にて、(株)スカイライト・バイオテック解析センター内で測定した。給餌飼育終了日における血中の総コレステロール含量の値を図8に、中性脂肪含量の値を図9に示す。
その結果、血中の総コレステロール含量と中性脂肪含量は、サツマイモペプチド含有組成物の添加によって減少することが示された。特に、中性脂肪含量は当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな効果があることが示された。
【0044】
(5)リポタンパク質中のコレステロールおよび中性脂肪の測定
i )粒径の異なる4種類のサブクラスへの分画
血液中のコレステロールと中性脂肪は、リポタンパク質中に含有されている。リポタンパク質は、粒径の違いにより大まかに、カイロミクロン(以下、CMやCHYLOと略す),VLDL,LDL,HDLの4種類のサブクラスに分類される(図10参照)。
そこで、上記段落(4)で給餌飼育終了日に採血した血清を、ゲルろ過カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、各種リポタンパク質を分離し、分離されたリポタンパク質中のコレステロールと中性脂肪の含量を試薬反応により測定した。給餌飼育終了日におけるコレステロール含量の結果を図11に、中性脂肪含量の結果を図12に示す。
その結果、‘コレステロール’は、VLDL、LDLにおいて当該組成物の摂取量依存的に減少し、特にVLDLにおけるコレステロールの減少は、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、顕著であることが示された。また、HDLについては、大きな減少がみられなかった。
また、‘中性脂肪’は、CM、VLDL、LDL、HDLの全てにおいて当該組成物の摂取量依存的に減少し、特にVLDL、LDL、HDL(即ち、CMを除く残り3分画のリポタンパク質)においては、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな低減作用があることが示された。
【0045】
ii)粒径の異なる20種類のサブクラスへの分画
さらに、粒径を、上記4種類よりもさらに細かい20種類のサブクラスに分類して、各分画におけるコレステロールと中性脂肪の含量を測定した。リポタンパク質の分離およびコレステロールと中性脂肪の含量の測定は、粒径が大きい順にG01〜20に分離したことを除いては、前段落と同様にして行った。
20分画のうち、G05(粒径44.5nm=large VLDL),G06(粒径36.8nm=medium VLDL),G08(粒径28.6nm=large LDL),G13(粒径16.7nm=very small LDL),G16(粒径12.1nm=large HDL),G20(粒径7.6nm=very small HDL)についてのコレステロール含量の値を図13に示す。
また、G05(粒径44.5nm=large VLDL),G06(粒径36.8nm=medium VLDL),G09(粒径25.5nm=medium LDL),G12(粒径18.6nm=very small LDL),G17(粒径10.9nm=medium HDL),G19(粒径8.8nm=very small HDL)についての中性脂肪含量の値を図14に示す。
【0046】
その結果、‘コレステロール’は、VLDL(G05,G06)、およびLDL(G08,G13)において、当該組成物の摂取量依存的に減少することが示された。特にVLDL(G05,G06)におけるコレステロールの減少は、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、顕著であることが示された。また、HDLにおいては、当該組成物を5%含有した飼料を給餌した群(B群)では粒子径の大きいHDL(G16)では減少したが、粒子径の小さいHDL(G20)ではむしろ増加する傾向が示された。
‘中性脂肪’は、VLDL(G05,G06)、LDL(G09,G12)、HDL(G17,G19)において、当該組成物を0.5%しか含有しない飼料を給餌した群(C群)でも、大きな低減作用があることが示された。
【0047】
iii)考察
これらのことより、当該サツマイモペプチド含有組成物は、‘悪玉コレステロール’(LDLとVLDLに含まれるコレステロール)を、大幅に減少させる作用を有することが示された。そして、その中の超悪玉コレステロール(very small LDLに含まれるコレステロール)についても、大幅に減少させる作用を有することが示された。
また、善玉コレステロール(HDLに含まれるコレステロール)の中の特にvery small HDLに含まれるコレステロールについては、5%摂取群(B群)においてむしろ増加させる作用を有することが示唆された。
なお、‘中性脂肪’については、いずれのリポタンパク質(CM、VLDL、LDL、HDL)に含まれるものに対しても、大幅に減少させる作用を有することが示された。
【0048】
(6)各種肥満関連因子の解析
i )血中アディポサイトカインの測定
血液中において、善玉アディポサイトカインである‘アディポネクチン’と、悪玉アディポサイトカインである‘レプチン’の濃度を測定した。
測定は、上記段落(4)で給餌飼育終了日に採血した血清を用いて、ELISA法によりアディポネクチンとレプチン濃度を定量した。
血中のアディポネクチン濃度の値を図15に、レプチン濃度の値を図16に示す。
その結果、血中におけるアディポネクチン(善玉アディポサイトカイン)の濃度は、各群で差違が見られなかったが、レプチン(悪玉アディポサイトカイン)の濃度は、当該組成物を5%摂取した群(B群)で有意に低下することが示された。
【0049】
ii)肝臓脂肪組織における各種肥満関連因子の解析
肝臓脂肪組織において、表5に示す各種肥満関連因子の発現量を測定した。
測定は、上記段落(3)で摘出した肝臓組織から、タンパク質を抽出し、Obesity Peptide Biomarker Array(Phoenix社製)による、網羅的肥満関連因子解析によって測定した。結果を表5に示す。
その結果、善玉アディポサイトカインである‘アディポネクチン’、;摂食抑制因子である‘MSH−α’、‘Kiss1’、‘Neuromedin U’、;の発現に当該組成物の摂取量依存的な増加(5%摂取群での増加)が見られた。一方、悪玉アディポサイトカインである‘TNF−α’の発現には、摂取量依存的な減少(5%摂取群での減少)が見られた。
【0050】
【表5】
【0051】
iii)考察
これらの結果から、サツマイモペプチド含有組成物は、脂肪組織(肝臓)における‘アディポサイトカイン’の発現を調節(善玉促進、悪玉抑制)する作用、‘摂食抑制因子’の発現を促進する作用、を有することが示された。
そして、これによって、血中における悪玉コレステロール含量と中性脂肪含量が低減され、また内臓への脂肪蓄積も抑制させることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が多すぎる高脂血症や、内臓脂肪の蓄積、に対する予防や治療について、医薬分野における広範な利用が期待される。また、食品分野での利用も期待される。
なお、サツマイモは、アレルゲンを含まず、植物防疫法により青果物としての輸入が禁止されている。そのため、本発明のサツマイモ由来の組成物は、安全性に優れるとともに、国産サツマイモが原料という優位性を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素処理物が、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有するものである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有する組成物の製造方法。
【請求項4】
前記抽出液が、サツマイモから澱粉を回収した後に得られる廃液である、請求項3に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を含有してなる飲食品。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を有効成分として含有してなる、脂質代謝改善作用を有する薬剤。
【請求項7】
前記脂質代謝改善剤が、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項8】
前記脂質代謝改善剤が、内臓脂肪蓄積抑制作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項1】
サツマイモ水可溶性成分のタンパク質分解酵素処理物を有効成分として含有してなることを特徴とする、脂質代謝改善作用を有する薬剤。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素処理物が、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有するものである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
原料であるサツマイモを水抽出して、得られた抽出液に含まれる水可溶性成分をタンパク質分解酵素で処理することを特徴とする、アミノ酸配列ITP、GQY、IIP、またはSTYQTからなる4種類のペプチドを含有する組成物の製造方法。
【請求項4】
前記抽出液が、サツマイモから澱粉を回収した後に得られる廃液である、請求項3に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を含有してなる飲食品。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の製造方法から得られる組成物を有効成分として含有してなる、脂質代謝改善作用を有する薬剤。
【請求項7】
前記脂質代謝改善剤が、血中の悪玉コレステロールおよび中性脂肪の低減作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項8】
前記脂質代謝改善剤が、内臓脂肪蓄積抑制作用を有するものである、請求項1,2,6のいずれかに記載の薬剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【公開番号】特開2011−37754(P2011−37754A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186241(P2009−186241)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、「バイオマス利用モデルの構築・実証・評価」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、「バイオマス利用モデルの構築・実証・評価」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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