脚式移動ロボット及びその制御方法
【課題】ロボットが着床の際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和する。
【解決手段】脚式移動ロボットは、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する。移動ロボットは、離床期間を検出する検出手段と、離床期間中に関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻す制御手段とを備える。離床期間中に関節アクチュエータのインピーダンスを低下させ、関節アクチュエータが緩衝材として機能するような状態で着床を待機する。
【解決手段】脚式移動ロボットは、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する。移動ロボットは、離床期間を検出する検出手段と、離床期間中に関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻す制御手段とを備える。離床期間中に関節アクチュエータのインピーダンスを低下させ、関節アクチュエータが緩衝材として機能するような状態で着床を待機する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体のメカニズムや動作をモデル化して構成されるリアリスティックなロボットのメカニズムに係り、特に、ヒトやサルなどの脚式移動型動物の身体メカニズムをモデル化した脚式移動型ロボットのメカニズムに関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、2以上の可動脚の各々が着床及び離床動作を協調的に繰り返し実行することにより、歩行、走行、ジャンプなどの動作パターンを実現するタイプの脚式移動型ロボットのメカニズムやその制御方法に係り、特に、ジャンプその他の動作パターンを実行した際にロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる脚式移動型ロボットのメカニズムやその制御方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ロボットの語源は、スラブ語のROBOTA(奴隷機械)に由来するといわれている。わが国では、ロボットが普及し始めたのは1960年代末からであるが、その多くは、工場における生産作業の自動化・無人化などを目的としたマニピュレータや搬送ロボットなどの産業用ロボット(industrial robot)であった。
【0004】
最近では、ヒトやサルなどの2足直立歩行を行う動物の身体メカニズムや動作を模した脚式移動ロボットに関する研究開発が進展し、実用化への期待も高まってきている。2足直立による脚式移動は、クローラ式や、4足又は6足式などに比し不安定で姿勢制御や歩行制御が難しくなるが、階段の昇降や障害物の乗り越えなど、柔軟な歩行・走行動作を実現できるという点で優れている。
【0005】
例えば、脚式歩行ロボットのうち、胴体より下に相当する構造体に適用される関節構造について提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0006】
ヒトの生体メカニズムや動作をエミュレートした脚式移動ロボットのことを、特に、「人間形」、若しくは「人間型」のロボット(humanoid robot)と呼ぶ。人間型ロボットは、例えば、生活支援、すなわち住環境その他の日常生活上の様々な場面における人的活動の支援などを行うことができる。
【0007】
人間形若しくは人間型と呼ばれるロボットを研究・開発する意義を、例えば以下の2つの視点から把握することができよう。
【0008】
1つは、人間科学的な視点である。すなわち、人間の下肢及び/又は上肢に似た構造のロボットを作り、その制御方法を考案して、人間の歩行動作をシミュレートするというプロセスを通じて、歩行を始めとする人間の自然な動作のメカニズムを工学的に解明することができる。このような研究成果は、人間工学、リハビリテーション工学、あるいはスポーツ科学など、人間の運動メカニズムを扱う他のさまざまな研究分野の進展に大いに還元することができるであろう。
【0009】
もう1つは、人間のパートナーとして生活を支援する、すなわち住環境その他の日常生活上の様々な場面における人的活動の支援を行うロボットの開発である。この種のロボットは、人間の生活環境のさまざまな局面において、人間から教わりながら個々に個性の相違する人間又は環境への適応方法を学習し、機能面でさらに成長していく必要がある。このとき、ロボットが「人間形」すなわち人間と同じ形又は同じ構造をしている方が、人間とロボットとのスムースなコミュニケーションを行う上で有効に機能するものと考えられる。
【0010】
例えば、踏んではいけない障害物を避けながら部屋を通り抜ける方法を実地においてロボットに教示するような場合、クローラ式や4足式ロボットのように教える相手が自分と全く違う構造をしているよりも、同じような格好をしている2足歩行ロボットの方がはるかに教え易く、またロボットにとっても教わり易い筈であろう(例えば、非特許文献1を参照のこと)。そもそも、人間の住環境のほとんどは人間が持つ形態や行動様式に合わせて形成されたものであるから、ロボットが人間型の形態を有していることは人間の住環境との親和性を高める上で必須であるとも言える。
【0011】
人間型ロボットの用途の1つとして、産業活動・生産活動等における各種の難作業の代行が挙げられる。例えば、原子力発電プラントや火力発電プラント、石油化学プラントにおけるメンテナンス作業、製造工場における部品の搬送・組立作業、高層ビルにおける清掃、火災現場その他における救助といったような危険作業・難作業の代行などである。但し、この種の産業利用に特化したロボットは、特定の用途若しくは機能を実現することが設計・製作上の至上の主題であり、2足歩行を前提とはするものの、ヒトやサルなど直立歩行動物が本来持つ身体メカニズムや動作を機械装置として忠実に再現する必要は必ずしもない。例えば、特定用途を実現するために手先の自由度や動作機能を強化する一方で、用途には比較的関係が低いとされる頭部や体幹部(脊椎など)、腰部などの自由度を制限し又を省略することはある程度許容すべきである。この結果、2足歩行と謂えども、ロボットの作業や動作の外観上で、ヒトとしては不自然さが残ることがあるが、かかる点は妥協せざるを得ない。
【0012】
また、人間型ロボットの他の用途として、難作業の代行などの生活支援というよりも、生活密着型、すなわち人間との「共生」という用途が挙げられる。この種のロボットは、ヒトやサルなどの2足の直立歩行を行う動物が本来持つ、全身協調型の動作メカニズムを忠実に再現し、その自然に円滑な動作を実現することを至上の目的とする。また、ヒトやサルなどの知性の高い直立動物をエミュレートする以上、四肢を用いた動作の表現力が豊かであることが望ましい。さらに、予め入力された動作パターンを単に忠実に実行するだけではなく、相手の言葉や態度(「褒める」とか「叱る」、「叩く」など)に呼応した、生き生きとした動作表現を実現することも要求される。この意味において、ヒトを模したエンターティンメント・ロボットは、まさに「人間型ロボット」と呼ぶに相応しい。
【0013】
既に周知のように、人体は数百の関節すなわち数百に上る自由度を備えている。限りなくヒトに近い動作を脚式移動ロボットに付与するためには、ほぼ同じ自由度を与えることが好ましいが、これは技術的には極めて困難である。何故ならば、1つの自由度に対して少なくとも各1つのアクチュエータを配設する必要があるが、数百のアクチュエータをロボットという機械装置上に実装することは、製造コストの点からも、重量やサイズなど設計の観点からも不可能に等しい。また、自由度が多いと、その分だけロボットの位置・動作パターン制御や姿勢安定制御等のための計算量が指数関数的に増大してしまう。
【0014】
このため、人体よりもはるかに少ない数十程度の関節自由度で人間型ロボットを構成するのが一般的である。したがって、少ない自由度を用いてより自然な動作を如何にして実現するかが、人間型ロボットの設計・制御において重要な課題の1つといえる。
【0015】
例えば、脊椎などのように柔軟性を持つ機構が人間の生活の場で多様で複雑な動作をするために重要であることは、人間工学などの観点から既に明らかである。脊椎を意味する体幹関節自由度は、産業的な用途上は存在価値が低いが、エンターティンメントやその他の生活密着型の人間型ロボットには重要である。なお且つ、状況に応じて柔軟さを能動的に調節できることが求められている。
【0016】
また、2足直立歩行を行う脚式移動ロボットは、柔軟な歩行・走行動作(例えば階段の昇降や障害物の乗り越え等)を実現できる点で優れている反面、重心位置が高くなるため、その分だけ姿勢制御や安定歩行制御が難しくなる。特に、生活密着型のロボットの場合、ヒトやサルなどの知性動物における自然な動作や感情を豊かに表現しながら姿勢や安定歩行を制御しなければならない。
【0017】
2足歩行による脚式移動を行うタイプのロボットに関する姿勢制御や安定歩行に関する技術は既に数多提案されている。ここで言う安定な「歩行」とは、転倒することなく、脚を使って移動すること、と定義することができよう。
【0018】
歩行時には、重力と歩行運動に伴なって生じる加速度によって、歩行系から路面には重力と慣性力、並びにこれらのモーメントが作用する。いわゆる「ダランベールの原理」によると、それらは路面から歩行系への反作用としての床反力、床反力モーメントとバランスする。力学的推論の帰結として、足底接地点と路面の形成する支持多角形の辺上あるいはその内側にピッチ及びロール軸モーメントがゼロとなる点、すなわち「ZMP(Zero Moment Point)」が存在する。
【0019】
ロボットの安定歩行に関する提案の多くは、このZMPを歩行の安定度判別の規範として用いている。ZMP規範に基づく2足歩行パターン生成は、足底着地点を予め設定でき、路面形状に応じた足先の運動学的拘束条件を考慮し易いなどの利点がある。
【0020】
例えば、脚式移動ロボットの歩行制御装置について提案がなされている(例えば、特許文献2を参照のこと)。同公報に記載の歩行制御装置は、ZMPすなわち歩行するときの床反力によるモーメントがゼロとなる床面上の点を目標値に一致させるように制御するものである。
【0021】
また、ZMPが支持多面体(多角形)内部、又は、着地、離床時にZMPが支持多面体(多角形)の端部から少なくとも所定の余裕を有する位置にあるように構成した脚式移動ロボットについて提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。この結果、外乱などを受けても所定距離だけZMPの余裕があり、歩行の安定性の向上を図ることができる。
【0022】
また、脚式移動ロボットの歩き速度をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献4を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、予め設定された歩行パターン・データを用い、ZMPを目標位置に一致させるように脚部関節を駆動するとともに、上体の傾斜を検出して、その検出値に応じて設定された歩行パターン・データの吐き出し速度を変更するようにしている。この結果、予期しない凹凸を踏んでロボットが例えば前傾するときは吐き出し速度を速めることで姿勢を回復できる。またZMPが目標位置に制御できるので、両脚支持期において吐き出し速度を変更しても支障がない。
【0023】
また、脚式移動ロボットの着地位置をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献5を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、ZMP目標位置と実測位置とのずれを検出して、それを解消する様に脚部の一方または双方を駆動するか、又は、ZMP目標位置まわりにモーメントを検出してそれが零になる様に脚部を駆動することで安定歩行を行うようになっている。
【0024】
また、脚式移動ロボットの傾斜姿勢をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献6を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、ZMP目標位置まわりのモーメントを検出し、モーメントが生じているときは、それが零になるように脚部を駆動することで安定歩行を行うようになっている。
【0025】
マニピュレータのような据置き型ロボットやクロール式の移動ロボットとは異なり、脚式移動ロボットは複数の可動脚の各々が着床及び離床動作を強調的に繰り返すことにより、ロボット全体として歩行動作を実現する。着床時には、可動脚やロボット全体に対して床面からの反力が衝撃として印加される。度重なる衝撃や角の衝撃は、当然にして、関節(アクチュエータ)その他の部位の疲労や破損の原因となる。
【0026】
また、人間の脚式移動は、歩行動作に限定されず、さらに走行やジャンプなどの離床期間の比較的長い動作を含む。上述した人間型ロボットに関する従来技術はいずれも歩行動作に対する提案にとどまるが、走行やジャンプなど、ロボットの離床期間を含む動作パターンの実現は、住空間におけるヒトの自然若しくは当然にして行う代表的な動作パターンの1つである。ジャンプや高所からの落下という動作パターンが、脚式若しくは人間型ロボットの設計目標に含まれることは言うまでもない。
【0027】
例えば、前述したエンターティンメント向けの人間型ロボットの場合、ダンスをする、スポーツなどのゲームをする等、娯楽志向の強い作業を行う。このため、ヒトの代行作業上に発生する歩行や階段の昇降などの動作パターン以外に、走行する、ジャンプする、高所から飛び降りるなど、長い離床期間を伴う動作パターンを実行する頻度が極めて高いと予想される。また、離床期間が長いということは、より高い位置から落下することを意味する。ロボット自体が重量物であるから、落下時には、通常歩行時における可動脚が着床時に受けるよりもはるかに大きな衝撃が印加される。
【0028】
エンターティンメント志向の人間型ロボットは、着床によってより大きな衝撃を受ける回数がより多いと言える。このため、関節アクチュエータの損傷や故障、その他の部位の破損を起こし易い。
【0029】
例えば、脚式移動ロボットが転倒しそうな状況で、その転倒によりロボットが受ける損傷や、その転倒時にロボットが衝突する相手側の物体の損傷を可能な限り軽減することができる脚式移動ロボットの制御装置について提案がなされている(例えば、特許文献7を参照のこと)。
【0030】
しかしながら、この提案された制御装置は、ロボット本体若しくは筐体の損傷を軽減することができるが、関節アクチュエータに印加される衝撃の軽減を図ったものではない。
【0031】
また、この提案された制御装置は、転倒に伴う着床時に単にロボットの重心を下げるように制御するのみであり、離床から着床に至る期間全体を通した動作によって床面から受ける衝撃を緩和するような点については言及していない。そもそも、脚式移動ロボットの転倒時のみを考慮したものであり、ジャンプ動作や高所からの落下などのように比較的離床期間の長い動作パターンとは無関係である。
【0032】
また、この提案された制御装置は、転倒に伴う着床時にロボットの重心を下げるように制御するが、着床後のロボットの姿勢は転倒状態しか想定されていない。言い換えれば、ジャンプ動作により離床し、再び着床する際に転倒しないようにロボットの姿勢を安定制御するという技術的課題とは無縁なのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開平3−184782号公報
【特許文献2】特開平5−305579号公報
【特許文献3】特開平5−305581号公報
【特許文献4】特開平5−305583号公報
【特許文献5】特開平5−305585号公報
【特許文献6】特開平5−305586号公報
【特許文献7】特開平11−481705号公報
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】高西著「2足歩行ロボットのコントロール」(自動車技術会関東支部<高塑>No.25,1996APRIL)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、上述したような技術的課題を鑑みたものであり、その目的は、2以上の可動脚の各々が着床及び離床動作を協調的に繰り返し実行することにより、歩行、走行、ジャンプなどの動作パターンを実現するタイプの脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0036】
本発明の更なる目的は、ジャンプ動作その他ロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0037】
本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後に着床する際に関節アクチュエータが床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0038】
本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプその他の離床動作をした後着床に至る期間全体を通した一連の動作を以って、床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0039】
また、本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後で着床する際にロボットが転倒しないように姿勢を安定制御することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
少なくとも下肢に設けられたインピーダンス可変な関節アクチュエータと、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
離床期間中であることを検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを着床動作前の元の値に戻すなど所定の制御を行う制御手段と、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0041】
本発明の第1の側面に係る脚式移動ロボットによれば、離床期間中においてロボットは自らの関節アクチュエータのインピーダンスを低下させることで、関節アクチュエータ自体が緩衝材として機能するような状態で着床を待機することができる。
【0042】
また、着床時においては、関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間を以って元の状態に回復することで緩衝効果を確保することができる。
【0043】
また、関節アクチュエータのインピーダンスが回復し、通常の制御状態に復帰した後は、ZMPによる安定度判別規範に基づきロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボットが転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0044】
また、本発明の第2の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、
前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
離床期間中であることを検出したことに応答して、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、及び/又は、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するとともに、
着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0045】
本発明の第2の側面に係る脚式移動ロボットによれば、離床期間中においてロボットは鉛直方向に伸展したような姿勢をとり(後述:図8を参照のこと)、重心位置が着床する足底から極力高い位置になる状態で着床を待機する。さらに、着床時においては、所定加速度の範囲内で重心位置が次第に低くなるような動作パターンをとることによって、着床時に床面から受ける最大衝撃力を緩和することができる。
【0046】
また、着床時においては、脚式移動ロボットのZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボットが転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0047】
ここで、前記制御手段は、着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するようにしてもよい。
【0048】
また、前記制御手段は、着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行するようにしてもよい。
【0049】
また、本発明の第3の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢の各関節を駆動する第1の駆動手段と、
前記上体の各関節を駆動する第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
離床期間中であることを検出したことに応答して、仮想床平面上における仮想ZMPが仮想安定領域内にあるか否かを判定するとともに、
該判定結果が否定的であったことに応答して、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0050】
本発明の第3の側面に係る脚式移動ロボットによれば、ロボットは、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床するまで待機することができる。この結果、着床時にバランスを失ってロボットが転倒する、ひいては転倒によってロボットの一部又は全部が破損するといった可能性を限りなく排除することができる。
【0051】
前記の制御手段は、離床期間中であることを検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことにより、着床時の衝撃吸収動作を行ってもよい。あるいは、制御手段は、ロボットが着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるようにして、着床時の衝撃吸収動作を行ってもよい。
【0052】
また、本発明の第4の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータはインピーダンス可変であり、
(a)離床期間中に前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、
(b)着床時に前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すなど所定の制御を行うステップと、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0053】
本発明の第4の側面に係る制御方法において、前記ステップ(b)では、所定時間の間で連続的にインピーダンスを元の値に向かって連続的に戻すようにしてもよい。
【0054】
また、本発明の第4の側面に係る制御方法は、
(c)着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
をさらに備えてもよい。
【0055】
また、本発明の第5の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、前記脚式移動ロボットは前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段とを含み、
(a)離床期間中に、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、及び/又は、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
(b)着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
ことを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0056】
本発明の第5の側面に係る制御方法において、前記ステップ(b)では、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するようにしてもよい。
【0057】
また、本発明の第5の側面に係る制御方法は、
(c)着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
をさらに備えてもよい。
【0058】
また、本発明の第6の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、
(a)前記脚式移動ロボットが離床期間中か否かを判別するステップと、
(b)前記脚式移動ロボットの重力方向を検出するステップと、
(c)前記脚式移動ロボットの仮想床平面を設定するステップと、
(d)前記脚式移動ロボットの仮想安定領域を設定するステップと、
(e)前記脚式移動ロボットの仮想ZMPを算出するステップと、
(f)仮想ZMPが仮想安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(g)前記ステップ(f)における判定結果が否定的であったことに応答して、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように前記脚式移動ロボットの姿勢を変更するステップと、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0059】
本発明の第6の側面に係る制御方法は、離床期間中であることを検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すステップとをさらに備えてもよい。
【0060】
また、着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように姿勢制御するステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、ジャンプ動作その他ロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0062】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後に着床する際に関節アクチュエータが床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0063】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプその他の離床動作をした後着床に至る期間全体を通した一連の動作を以って、床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0064】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後で着床する際に、ロボットが転倒しないようにその姿勢を安定制御することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0065】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施に供される人間型ロボット100を前方から眺望した様子を示した図である。
【図2】本発明の実施に供される人間型ロボット100を後方から眺望した様子を示した図である。
【図3】本実施例に係る人間型ロボット100が具備する自由度構成モデルを模式的に示した図である。
【図4】本実施例に係る人間型ロボット100の制御システム構成を模式的に示した図である。
【図5】ロボット100が着床する際の処理手順の一例を示したフローチャートである。
【図6】ロボット100に用いられる1つのアクチュエータに関するサーボ回路とその制御系とを示したブロック図である。
【図7】ロボット100が着床する際の処理手順に関する他の例を示したフローチャートである。
【図8】離床期間中のロボット100が両手・両足が伸展し、着床を果たす足先からロボット100全体の重心位置までの距離(高さ)が極力長くなる姿勢を取った様子を示した図である。
【図9】着床時にロボット100がとる姿勢の具体例を示した図である。
【図10】着床時にロボット100が床面から受ける衝撃力を示したチャートである。
【図11】着床時にロボット100の重心位置を点G0から点GFに移動させる速度と床面から受ける衝撃力との関係を示したチャートである。
【図12】ロボット100が着床する際の処理手順に関する他の例を示したフローチャートである。
【図13】離床時におけるロボット100に対する仮想床平面を図解したものである。
【図14】離床時におけるロボット100の仮想安定領域を図解したものである。
【図15】人間型ロボットについての関節モデル構成の一例を模式的に示した図である。
【図16】人間型ロボットについての関節モデル構成の他の例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳解する。
【0068】
図1及び図2には本発明の実施に供される人間形又は人間型ロボット100を前方及び後方の各々から眺望した様子を示している。さらに、図3には、この人間型ロボット100が具備する関節自由度構成を模式的に示している。
【0069】
図3に示すように、人間型ロボット100は、2本の腕部と頭部1を含む上体と、移動動作を実現する2本の脚部からなる下肢と、上肢と下肢とを連結する体幹部とで構成される。
【0070】
頭部1を支持する首関節は、首関節ヨー軸2と、首関節ピッチ軸3と、首関節ロール軸4という3自由度を有している。
【0071】
また、各腕部は、肩関節ピッチ軸8と、肩関節ロール軸9と、上腕ヨー軸10と、肘関節ピッチ軸11と、前腕ヨー軸12と、手首関節ピッチ軸13と、手首関節ロール軸14と、手部15とで構成される。手部15は、実際には、複数本の指を含む多関節・多自由度構造体である。但し、手部15の動作自体は、ロボット100の姿勢安定制御や歩行動作制御に対する寄与や影響が少ないので、本明細書ではゼロ自由度と仮定する。したがって、各腕部は7自由度を有するとする。
【0072】
また、体幹部は、体幹ピッチ軸5と、体幹ロール軸6と、体幹ヨー軸7という3自由度を有する。
【0073】
また、下肢を構成する各々の脚部は、股関節ヨー軸16と、股関節ピッチ軸17と、股関節ロール軸18と、膝関節ピッチ軸19と、足首関節ピッチ軸20と、関節ロール軸21と、足部(足底)22とで構成される。股関節ピッチ軸17と股関節ロール軸18の交点は、本実施例に係るロボット100の股関節位置を定義するものとする。人体の足部(足底)22は、実際には多関節・多自由度の足底を含んだ構造体であるが、本実施例に係る人間型ロボット100の足底はゼロ自由度とする。したがって、各脚部は6自由度で構成される。
【0074】
以上を総括すれば、本実施例に係る人間型ロボット100全体としては、合計で3+7×2+3+6×2=32自由度を有することになる。但し、エンターティンメント向けの人間型ロボット100が必ずしも32自由度に限定される訳ではない。設計・製作上の制約条件や要求仕様等に応じて、自由度すなわち関節数を適宜増減することができることは言うまでもない。
【0075】
上述したような人間型ロボット100が持つ各自由度は、実際にはアクチュエータを用いて実装される。外観上で余分な膨らみを排してヒトの自然体形状に近似させること、2足歩行という不安定構造体に対して姿勢制御を行うことなどの要請から、アクチュエータは小型且つ軽量であることが好ましい。本実施例では、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニットに内蔵したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータを搭載することとした。なお、この種のACサーボ・アクチュエータに関しては、例えば本出願人に既に譲渡されている特願平11−33386号明細書に開示されている。
【0076】
図4には、人間型ロボット100の制御システム構成を模式的に示している。同図に示すように、人間型ロボット100は、ヒトの四肢を表現した各機構ユニット30,40,50R/L,60R/Lと、各機構ユニット間の協調動作を実現するための適応制御を行う制御ユニット80とで構成される(但し、R及びLの各々は、右及び左の各々を示す接尾辞である。以下同様)。
【0077】
人間型ロボット100全体の動作は、制御ユニット80によって統括的に制御される。制御ユニット80は、CPU(Central Processing Unit)チップやメモリ・チップ等の主要回路コンポーネント(図示しない)で構成される主制御部81と、電源装置やロボット100の各構成要素とのデータやコマンドの授受を行うインターフェース(いずれも図示しない)などを含んだ周辺回路82とで構成される。
【0078】
本実施例では、電源装置は、ロボット100を自立的に駆動するためのバッテリを含んだ構成(図4には図示しない)となっている。自立駆動型であれば、人間型ロボット100の物理的な行動半径は、電源ケーブルによる制限を受けず、自由に歩行することができる。また、歩行やその他の上肢を含めた各種の運動時に、電源ケーブルとの干渉を考慮する必要がなくなり、動作制御が容易になる。
【0079】
図3に示したロボット100内の各関節自由度は、それぞれに対応するアクチュエータによって実現される。すなわち、頭部ユニット30には、首関節ヨー軸2、首関節ピッチ軸3、首関節ロール軸4の各々を表現する首関節ヨー軸アクチュエータA2、首関節ピッチ軸アクチュエータA3、首関節ロール軸アクチュエータA4がそれぞれ配設されている。
【0080】
また、体幹部ユニット40には、体幹ピッチ軸5、体幹ロール軸6、体幹ヨー軸7の各々を表現する体幹ピッチ軸アクチュエータA5、体幹ロール軸アクチュエータA6、体幹ヨー軸アクチュエータA7がそれぞれ配備されている。
【0081】
また、腕部ユニット50R/Lは、上腕ユニット51R/Lと、肘関節ユニット52R/Lと、前腕ユニット53R/Lに細分化されるが、肩関節ピッチ軸8、肩関節ロール軸9、上腕ヨー軸10、肘関節ピッチ軸11、肘関節ロール軸12、手首関節ピッチ軸13、手首関節ロール軸14の各々を表現する肩関節ピッチ軸アクチュエータA8、肩関節ロール軸アクチュエータA9、上腕ヨー軸アクチュエータA10、肘関節ピッチ軸アクチュエータA11、肘関節ロール軸アクチュエータA12、手首関節ピッチ軸アクチュエータA13、手首関節ロール軸アクチュエータA14がそれぞれ配備されている。
【0082】
また、脚部ユニット60R/Lは、大腿部ユニット61R/Lと、膝ユニット62R/Lと、脛部ユニット63R/Lに細分化されるが、股関節ヨー軸16、股関節ピッチ軸17、股関節ロール軸18、膝関節ピッチ軸19、足首関節ピッチ軸20、足首関節ロール軸21の各々を表現する股関節ヨー軸アクチュエータA16、股関節ピッチ軸アクチュエータA17、股関節ロール軸アクチュエータA18、膝関節ピッチ軸アクチュエータA19、足首関節ピッチ軸アクチュエータA20、足首関節ロール軸アクチュエータA21がそれぞれ配備されている。
【0083】
各アクチュエータA2,A3…は、より好ましくは、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニット内に搭載したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータ(前述)である。
【0084】
頭部ユニット30、体幹部ユニット40、腕部ユニット50、各脚部ユニット60などの各機構ユニット毎に、アクチュエータ駆動制御用の副制御部35,45,55,65がそれぞれ配備されている。さらに、各脚部60R,Lの足底が着床したか否かを検出する接地確認センサ91及び92を装着するとともに、体幹部ユニット40内には、姿勢を計測する姿勢センサ93を装備している。本実施例では、姿勢センサ93として加速度センサを用いるものとする。これら各センサ91〜93の出力により、足底22の着床及び離床期間、体幹部分の傾きなどを検出して、制御目標をダイナミックに補正することができる。
【0085】
主制御部80は、各センサ91〜93の出力に応答して副制御部35,45,55,65の各々に対して適応的な制御を行い、人間型ロボット100の上肢、体幹、及び下肢の協調した動作を実現することができる。主制御部81は、ユーザ・コマンド等に従って、足部運動、ZMP軌道、体幹運動、上肢運動、腰部高さなどを設定するとともに、これらの設定内容に従った動作を指示するコマンドを各副制御部35,45,55,65に転送する。
【0086】
そして、各々の副制御部35,45…では、主制御部81からの受信コマンドを解釈して、各アクチュエータA2,A3…に対して駆動制御信号を出力する。ここで言う「ZMP」とは、歩行中の床反力によるモーメントがゼロとなる床面上の点のことであり、また、「ZMP軌道」とは、例えばロボット100の歩行動作期間中などにZMPが動く軌跡を意味する。
【0087】
次に、上述した人間型ロボット100における、ジャンプなどの離床期間を経て落下して着床する際の処理手順について説明する。
【0088】
図5には、着床時の処理手順の一例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0089】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS11)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS12)、主制御部81において離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、その動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0090】
離床動作を検出したことに応答して、各関節アクチュエータの制御パラメータ値を変更する(ステップS13)。より具体的には、アクチュエータのインピーダンスが低下するように、制御パラメータを変更する。インピーダンスの低いアクチュエータは、柔軟な状態となるので、着床時には緩衝材として機能し、床面から受ける衝撃を吸収することができる。特に、足首関節や膝関節など、床面に近く大きな衝撃を受けるアクチュエータのインピーダンスを変更することが好ましい。
【0091】
図6には、ロボット100に用いられる1つのアクチュエータに関するサーボ回路とその制御系200のブロック図を示している。同図に示すように、該制御系は、位置指令と速度指令を入力にして、位置検出をフィードバックするタイプの制御系である。位置指令は位置制御器201に入力され、位置制御器201の出力と速度指令とが速度制御器202,203に入力され、速度制御器203の出力がアクチュエータ204に供給され、アクチュエータ204が駆動する。また、アクチュエータ204に付設されたエンコーダ(図示しない)からの位置検出信号が位置制御器201にフィードバックされるとともに、その時間微分した信号が速度制御器202にフィードバックされる。
【0092】
図6に示すKpp,Kvi,Kvpの各々は、このサーボ制御系についての制御パラメータである。これらパラメータのうち少なくとも1つを小さな値に変更することにより、アクチュエータ200のインピーダンスは低下する。
【0093】
なお、アクチュエータ200は、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニットに内蔵したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータであり、例えば本出願人に既に譲渡されている特願平11−33386号明細書に開示されている。
【0094】
再び図5に戻って処理手順について説明する。ステップS14では、両足の接地センサ91及び92がともにオンになり(あるいは一方のセンサがオンになり)、ロボット100が床面に着床するまで待機する。
【0095】
そして、ロボット100の着床が検出されると、ステップS13において変更した関節アクチュエータの制御パラメータ値を元の値に戻す(ステップS15)。この結果、アクチュエータのインピーダンスが回復されて、ロボット100の動作制御が可能な離床前の状態となる。但し、インピーダンスを急峻に回復させてしまうと、緩衝材としての効果が失われるので、所定の時間T(例えば数百ミリ秒程度)をかけて元の値に戻す。
【0096】
次いで、ロボット100のZMPが安定領域、例えば着床した足底にあるか否かを判断する(ステップS16)。ZMPが安定領域になければ、安定領域に入るようにロボット100全体の姿勢を変更する(ステップS17)。
【0097】
他方、ZMPが安定領域にあれば、この処理手順全体を終了する。
【0098】
図5に示すような着床処理手順に従えば、離床期間中においてロボット100は自らの関節アクチュエータのインピーダンスを低下させ、アクチュエータが緩衝材として機能する状態でロボット100の着床を待機することができる。
【0099】
また、ロボット100の着床時においては、所定時間を以ってインピーダンスを元の状態に回復することで緩衝効果を確保することができる。
【0100】
また、ロボット100が着床して、関節アクチュエータのインピーダンスが回復し、通常の制御状態に復帰した後は、ZMPによる安定度判別規範に基づきロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボット100が転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0101】
図7には、着床時の処理手順に関する他の例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0102】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS21)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS22)、主制御部81においてロボット100の離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0103】
離床動作を検出したことに応答して、ロボット100の上肢及び体幹部の各関節におけるピッチ軸を重力方向とは逆方向に回転駆動するとともに、下肢・脚部を重力方向に伸展する(ステップS23)。
【0104】
図8には、ロボット100の上肢及び体幹部の各関節におけるピッチ軸を重力方向とは逆方向に回転駆動するとともに、下肢・脚部を重力方向に伸展する姿勢の一例を模式的に図解している。同図に示すように、ロボット100の両手・両足が伸展するようにロボット100を姿勢制御する。この結果、足先からロボット100全体の重心位置Gまでの距離(高さ)hが、手足を伸展する前の重心位置G'よりも長くなる。
【0105】
ステップS24では、両足の接地センサ91及び92がともにオンになり(あるいは一方のセンサがオンになり)、ロボット100が床面に着床するまで待機する。
【0106】
そして、ロボット100の着床が検出されると、ロボット100の重心が下がるようにロボットの上肢、下肢、及び体幹部関節の各ピッチ軸を駆動する(ステップS25)。
【0107】
ロボット100の重心が下がる姿勢の一例は、例えば図9に示すように、両足や股関節、体幹関節を屈曲させて屈み込んだ状態である。着床した足平から重心位置までの距離が充分短いことを理解できるであろう。
【0108】
ステップS25における屈曲動作により、ロボット100の重心位置は、着床時G0から着床動作終了時(安定時)GFまで移動することになる(但し、G0>GF)。この一連の着床動作に所定時間Tだけ費やすことで、ロボット100が床面から受ける衝撃力は、図10のチャートに示すように、時間Tの間で緩やかに分散され、最大衝撃力も軽減される。
【0109】
但し、ステップS25における屈曲動作は、加速度センサ93の値が許容加速度の値を超えないように各関節軸の駆動速度を強調して制御する(すなわち姿勢を屈曲させる)必要がある。何故ならば、許容加速度を越える値で屈曲動作を行うと、ロボット100に印加される衝撃はむしろ増幅されるからである。
【0110】
図11には、着床時にロボット100の重心位置を点G0から点GFに移動させる速度と床面から受ける衝撃力との関係をチャート上で示している。より具体的には、重心位置が点G0から点GFまで移動させる所要時間(すなわち着床から安定に至るまでの所要時間)TがそれぞれT1、T2、及びT3(但し、T1<T2<T3)となる場合をプロットしている。同図からも判るに、所要時間が短いほど重心位置の移動加速度が速くなり、これに比例して床面から受ける衝撃力Fの最大値は増大する。逆に、重心移動の所要時間が長いほど加速度が低くなり、着床時のインパクトが重心移動によって吸収され、衝撃力Fの最大値は軽減される。
【0111】
次いで、ロボット100のZMPが安定領域、例えば着床した足底にあるか否かを判断する(ステップS26)。ZMPが安定領域になければ、安定領域に入るようにロボット100全体の姿勢を変更する(ステップS27)。
【0112】
他方、ZMPが安定領域にあれば、この処理手順全体を終了する。
【0113】
図7に示すような着床処理手順に従えば、離床期間中においてロボット100は鉛直方向に伸展したような姿勢をとり(図8を参照のこと)、重心位置が着床する足底から極力高い位置になる状態で着床を待機することができる。さらに、着床時においては、所定加速度の範囲内で重心位置が次第に低くなるような動作パターンをとることによって、床面から受ける最大衝撃力を緩和することができる。
【0114】
また、着床時においては、ロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボット100が転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0115】
図12には、着床時の処理手順に関する他の例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0116】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS31)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS32)、主制御部81において離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0117】
離床動作を検出したことに応答して、主制御部81では、姿勢センサ93の出力を基に、重力方向を算出して(ステップS33)、仮想床平面を設定する(ステップS34)。本明細書中において、「仮想床平面」とは、現在のロボット100の姿勢において着床したと想定される平面のことを言う。ロボット100の最下点(ジャンプなど通常の離床動作では左右いずれか一方又は両方の足平)における重力ベクトルを法線ベクトルとする平面が仮想床平面に相当する(図13を参照のこと)。
【0118】
次いで、仮想床平面上における仮想安定領域を設定する(ステップS35)。本明細書中において、「仮想安定領域」とは、ロボット100の現在の姿勢において仮想床平面に着床したときに、ロボット100が安定を保つことができる該床面上に領域のことである。例えば、仮想床平面上に着床した両足平に相当する(図14を参照のこと)。
【0119】
次いで、仮想ZMPを算出する(ステップS36)。「仮想ZMP」とは、仮想床平面における床反力によるモーメントがゼロとなる仮想床平面上の点のことである。
【0120】
判断ブロックS37では、仮想ZMPが仮想安定領域内に入っているか否かを判断する。
【0121】
判断結果が否定的であれば、ロボット100の上肢、下肢、体幹部の少なくとも一部の関節アクチュエータを駆動させて、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように、ロボット100の姿勢を変更する(ステップS38)。
【0122】
上述したような姿勢制御の結果、ロボット100は、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床を待機することができる。着床時には仮想床平面が現実の床平面と一致するが、上述のステップS39では、ロボット100は安定した姿勢で着床することができる。なお、着床動作には、図5や図7を用いて説明したような衝撃吸収動作を含んでもよい。
【0123】
要するに図12に示すような姿勢制御処理手順に従えば、ロボット100は、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床するまで待機することができる。この結果、着床時にバランスを失って転倒する、ひいては転倒によってロボット100の一部又は全部が破損するといった可能性を、限りなく排除することができる。さらに、上述した衝撃吸収動作を組み込むことによって、万全な着床動作を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上、特定の実施例を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施例の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0125】
本明細書では、2足の下肢により脚式移動を行う人間型ロボットを例に本発明を説明したが、本発明の要旨は2足歩行ロボットに限定されるものではない。例えばイヌをモデル化したペット型ロボットのような4足歩行ロボット、あるいはその他の本数の下肢を持つ脚式移動ロボットに対しても、当然にして本発明を好適に適用することができる。また、本実施例で示したように、胴体(体幹部ユニット)に上肢や頭部を搭載していないタイプのロボットに対しても本発明を適用することができる。
【0126】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、限定的に解釈されるべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0127】
なお、本発明の要旨を判断する上で、2足歩行のロボット100についての関節等の呼び名は、図3を厳格に適用するのは妥当ではなく、現実のヒトやサルなどの2足直立歩行動物の身体メカニズムとの対比により柔軟に解釈されたい。
【0128】
参考のため、人間型ロボットの関節モデル構成を図15に図解しておく。同図に示す例では、肩関節5から上腕、肘関節6、前腕、手首7及び手部8からなる部分を「上肢」と呼ぶ。また、肩関節5から股関節11までの範囲を「体幹部」と呼び、ヒトの胴体に相当する。また、体幹部のうち特に股関節11から体幹関節10までの範囲を「腰部」と呼ぶ。体幹関節10は、ヒトの背骨が持つ自由度を表現する作用を有する。また、股関節11より下の大腿部12、膝関節14、下腿部13、足首15及び足部16からなる部分を「下肢」と呼ぶ。一般には、股関節より上方を「上体」と呼び、それより下方を「下体」と呼ぶ
【0129】
また、図16には、人間型ロボットの他の関節モデル構成を図解している。同図に示す例は、体幹関節10を有しない点で図14に示した例とは相違する。各部の名称については図を参照されたい。背骨に相当する体幹関節が省略される結果として人間型ロボットの上体の動きは表現力を失う。但し、危険作業やなお作業の代行など、産業目的の人間型ロボットの場合、上体の動きを要しない場合がある。なお、図15及び図16で用いた参照番号は、図3などそれ以外の図面とは一致しない点を理解されたい。
【符号の説明】
【0130】
1…頭部,2…首関節ヨー軸
3…首関節ピッチ軸,4…首関節ロール軸
5…体幹ピッチ軸,6…体幹ロール軸
7…体幹ヨー軸,8…肩関節ピッチ軸
9…肩関節ロール軸,10…上腕ヨー軸
11…肘関節ピッチ軸,12…前腕ヨー軸
13…手首関節ピッチ軸,14…手首関節ロール軸
15…手部,16…股関節ヨー軸
17…股関節ピッチ軸,18…股関節ロール軸
19…膝関節ピッチ軸,20…足首関節ピッチ軸
21…足首関節ロール軸,22…足部(足底)
30…頭部ユニット,40…体幹部ユニット
50…腕部ユニット,51…上腕ユニット
52…肘関節ユニット,53…前腕ユニット
60…脚部ユニット,61…大腿部ユニット
62…膝関節ユニット,63…脛部ユニット
80…制御ユニット,81…主制御部
82…周辺回路
91,92…接地確認センサ
93…姿勢センサ
100…人間型ロボット
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体のメカニズムや動作をモデル化して構成されるリアリスティックなロボットのメカニズムに係り、特に、ヒトやサルなどの脚式移動型動物の身体メカニズムをモデル化した脚式移動型ロボットのメカニズムに関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、2以上の可動脚の各々が着床及び離床動作を協調的に繰り返し実行することにより、歩行、走行、ジャンプなどの動作パターンを実現するタイプの脚式移動型ロボットのメカニズムやその制御方法に係り、特に、ジャンプその他の動作パターンを実行した際にロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる脚式移動型ロボットのメカニズムやその制御方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ロボットの語源は、スラブ語のROBOTA(奴隷機械)に由来するといわれている。わが国では、ロボットが普及し始めたのは1960年代末からであるが、その多くは、工場における生産作業の自動化・無人化などを目的としたマニピュレータや搬送ロボットなどの産業用ロボット(industrial robot)であった。
【0004】
最近では、ヒトやサルなどの2足直立歩行を行う動物の身体メカニズムや動作を模した脚式移動ロボットに関する研究開発が進展し、実用化への期待も高まってきている。2足直立による脚式移動は、クローラ式や、4足又は6足式などに比し不安定で姿勢制御や歩行制御が難しくなるが、階段の昇降や障害物の乗り越えなど、柔軟な歩行・走行動作を実現できるという点で優れている。
【0005】
例えば、脚式歩行ロボットのうち、胴体より下に相当する構造体に適用される関節構造について提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0006】
ヒトの生体メカニズムや動作をエミュレートした脚式移動ロボットのことを、特に、「人間形」、若しくは「人間型」のロボット(humanoid robot)と呼ぶ。人間型ロボットは、例えば、生活支援、すなわち住環境その他の日常生活上の様々な場面における人的活動の支援などを行うことができる。
【0007】
人間形若しくは人間型と呼ばれるロボットを研究・開発する意義を、例えば以下の2つの視点から把握することができよう。
【0008】
1つは、人間科学的な視点である。すなわち、人間の下肢及び/又は上肢に似た構造のロボットを作り、その制御方法を考案して、人間の歩行動作をシミュレートするというプロセスを通じて、歩行を始めとする人間の自然な動作のメカニズムを工学的に解明することができる。このような研究成果は、人間工学、リハビリテーション工学、あるいはスポーツ科学など、人間の運動メカニズムを扱う他のさまざまな研究分野の進展に大いに還元することができるであろう。
【0009】
もう1つは、人間のパートナーとして生活を支援する、すなわち住環境その他の日常生活上の様々な場面における人的活動の支援を行うロボットの開発である。この種のロボットは、人間の生活環境のさまざまな局面において、人間から教わりながら個々に個性の相違する人間又は環境への適応方法を学習し、機能面でさらに成長していく必要がある。このとき、ロボットが「人間形」すなわち人間と同じ形又は同じ構造をしている方が、人間とロボットとのスムースなコミュニケーションを行う上で有効に機能するものと考えられる。
【0010】
例えば、踏んではいけない障害物を避けながら部屋を通り抜ける方法を実地においてロボットに教示するような場合、クローラ式や4足式ロボットのように教える相手が自分と全く違う構造をしているよりも、同じような格好をしている2足歩行ロボットの方がはるかに教え易く、またロボットにとっても教わり易い筈であろう(例えば、非特許文献1を参照のこと)。そもそも、人間の住環境のほとんどは人間が持つ形態や行動様式に合わせて形成されたものであるから、ロボットが人間型の形態を有していることは人間の住環境との親和性を高める上で必須であるとも言える。
【0011】
人間型ロボットの用途の1つとして、産業活動・生産活動等における各種の難作業の代行が挙げられる。例えば、原子力発電プラントや火力発電プラント、石油化学プラントにおけるメンテナンス作業、製造工場における部品の搬送・組立作業、高層ビルにおける清掃、火災現場その他における救助といったような危険作業・難作業の代行などである。但し、この種の産業利用に特化したロボットは、特定の用途若しくは機能を実現することが設計・製作上の至上の主題であり、2足歩行を前提とはするものの、ヒトやサルなど直立歩行動物が本来持つ身体メカニズムや動作を機械装置として忠実に再現する必要は必ずしもない。例えば、特定用途を実現するために手先の自由度や動作機能を強化する一方で、用途には比較的関係が低いとされる頭部や体幹部(脊椎など)、腰部などの自由度を制限し又を省略することはある程度許容すべきである。この結果、2足歩行と謂えども、ロボットの作業や動作の外観上で、ヒトとしては不自然さが残ることがあるが、かかる点は妥協せざるを得ない。
【0012】
また、人間型ロボットの他の用途として、難作業の代行などの生活支援というよりも、生活密着型、すなわち人間との「共生」という用途が挙げられる。この種のロボットは、ヒトやサルなどの2足の直立歩行を行う動物が本来持つ、全身協調型の動作メカニズムを忠実に再現し、その自然に円滑な動作を実現することを至上の目的とする。また、ヒトやサルなどの知性の高い直立動物をエミュレートする以上、四肢を用いた動作の表現力が豊かであることが望ましい。さらに、予め入力された動作パターンを単に忠実に実行するだけではなく、相手の言葉や態度(「褒める」とか「叱る」、「叩く」など)に呼応した、生き生きとした動作表現を実現することも要求される。この意味において、ヒトを模したエンターティンメント・ロボットは、まさに「人間型ロボット」と呼ぶに相応しい。
【0013】
既に周知のように、人体は数百の関節すなわち数百に上る自由度を備えている。限りなくヒトに近い動作を脚式移動ロボットに付与するためには、ほぼ同じ自由度を与えることが好ましいが、これは技術的には極めて困難である。何故ならば、1つの自由度に対して少なくとも各1つのアクチュエータを配設する必要があるが、数百のアクチュエータをロボットという機械装置上に実装することは、製造コストの点からも、重量やサイズなど設計の観点からも不可能に等しい。また、自由度が多いと、その分だけロボットの位置・動作パターン制御や姿勢安定制御等のための計算量が指数関数的に増大してしまう。
【0014】
このため、人体よりもはるかに少ない数十程度の関節自由度で人間型ロボットを構成するのが一般的である。したがって、少ない自由度を用いてより自然な動作を如何にして実現するかが、人間型ロボットの設計・制御において重要な課題の1つといえる。
【0015】
例えば、脊椎などのように柔軟性を持つ機構が人間の生活の場で多様で複雑な動作をするために重要であることは、人間工学などの観点から既に明らかである。脊椎を意味する体幹関節自由度は、産業的な用途上は存在価値が低いが、エンターティンメントやその他の生活密着型の人間型ロボットには重要である。なお且つ、状況に応じて柔軟さを能動的に調節できることが求められている。
【0016】
また、2足直立歩行を行う脚式移動ロボットは、柔軟な歩行・走行動作(例えば階段の昇降や障害物の乗り越え等)を実現できる点で優れている反面、重心位置が高くなるため、その分だけ姿勢制御や安定歩行制御が難しくなる。特に、生活密着型のロボットの場合、ヒトやサルなどの知性動物における自然な動作や感情を豊かに表現しながら姿勢や安定歩行を制御しなければならない。
【0017】
2足歩行による脚式移動を行うタイプのロボットに関する姿勢制御や安定歩行に関する技術は既に数多提案されている。ここで言う安定な「歩行」とは、転倒することなく、脚を使って移動すること、と定義することができよう。
【0018】
歩行時には、重力と歩行運動に伴なって生じる加速度によって、歩行系から路面には重力と慣性力、並びにこれらのモーメントが作用する。いわゆる「ダランベールの原理」によると、それらは路面から歩行系への反作用としての床反力、床反力モーメントとバランスする。力学的推論の帰結として、足底接地点と路面の形成する支持多角形の辺上あるいはその内側にピッチ及びロール軸モーメントがゼロとなる点、すなわち「ZMP(Zero Moment Point)」が存在する。
【0019】
ロボットの安定歩行に関する提案の多くは、このZMPを歩行の安定度判別の規範として用いている。ZMP規範に基づく2足歩行パターン生成は、足底着地点を予め設定でき、路面形状に応じた足先の運動学的拘束条件を考慮し易いなどの利点がある。
【0020】
例えば、脚式移動ロボットの歩行制御装置について提案がなされている(例えば、特許文献2を参照のこと)。同公報に記載の歩行制御装置は、ZMPすなわち歩行するときの床反力によるモーメントがゼロとなる床面上の点を目標値に一致させるように制御するものである。
【0021】
また、ZMPが支持多面体(多角形)内部、又は、着地、離床時にZMPが支持多面体(多角形)の端部から少なくとも所定の余裕を有する位置にあるように構成した脚式移動ロボットについて提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。この結果、外乱などを受けても所定距離だけZMPの余裕があり、歩行の安定性の向上を図ることができる。
【0022】
また、脚式移動ロボットの歩き速度をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献4を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、予め設定された歩行パターン・データを用い、ZMPを目標位置に一致させるように脚部関節を駆動するとともに、上体の傾斜を検出して、その検出値に応じて設定された歩行パターン・データの吐き出し速度を変更するようにしている。この結果、予期しない凹凸を踏んでロボットが例えば前傾するときは吐き出し速度を速めることで姿勢を回復できる。またZMPが目標位置に制御できるので、両脚支持期において吐き出し速度を変更しても支障がない。
【0023】
また、脚式移動ロボットの着地位置をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献5を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、ZMP目標位置と実測位置とのずれを検出して、それを解消する様に脚部の一方または双方を駆動するか、又は、ZMP目標位置まわりにモーメントを検出してそれが零になる様に脚部を駆動することで安定歩行を行うようになっている。
【0024】
また、脚式移動ロボットの傾斜姿勢をZMP目標位置によって制御する点について提案がなされている(例えば、特許文献6を参照のこと)。すなわち、同公報に記載の脚式移動ロボットは、ZMP目標位置まわりのモーメントを検出し、モーメントが生じているときは、それが零になるように脚部を駆動することで安定歩行を行うようになっている。
【0025】
マニピュレータのような据置き型ロボットやクロール式の移動ロボットとは異なり、脚式移動ロボットは複数の可動脚の各々が着床及び離床動作を強調的に繰り返すことにより、ロボット全体として歩行動作を実現する。着床時には、可動脚やロボット全体に対して床面からの反力が衝撃として印加される。度重なる衝撃や角の衝撃は、当然にして、関節(アクチュエータ)その他の部位の疲労や破損の原因となる。
【0026】
また、人間の脚式移動は、歩行動作に限定されず、さらに走行やジャンプなどの離床期間の比較的長い動作を含む。上述した人間型ロボットに関する従来技術はいずれも歩行動作に対する提案にとどまるが、走行やジャンプなど、ロボットの離床期間を含む動作パターンの実現は、住空間におけるヒトの自然若しくは当然にして行う代表的な動作パターンの1つである。ジャンプや高所からの落下という動作パターンが、脚式若しくは人間型ロボットの設計目標に含まれることは言うまでもない。
【0027】
例えば、前述したエンターティンメント向けの人間型ロボットの場合、ダンスをする、スポーツなどのゲームをする等、娯楽志向の強い作業を行う。このため、ヒトの代行作業上に発生する歩行や階段の昇降などの動作パターン以外に、走行する、ジャンプする、高所から飛び降りるなど、長い離床期間を伴う動作パターンを実行する頻度が極めて高いと予想される。また、離床期間が長いということは、より高い位置から落下することを意味する。ロボット自体が重量物であるから、落下時には、通常歩行時における可動脚が着床時に受けるよりもはるかに大きな衝撃が印加される。
【0028】
エンターティンメント志向の人間型ロボットは、着床によってより大きな衝撃を受ける回数がより多いと言える。このため、関節アクチュエータの損傷や故障、その他の部位の破損を起こし易い。
【0029】
例えば、脚式移動ロボットが転倒しそうな状況で、その転倒によりロボットが受ける損傷や、その転倒時にロボットが衝突する相手側の物体の損傷を可能な限り軽減することができる脚式移動ロボットの制御装置について提案がなされている(例えば、特許文献7を参照のこと)。
【0030】
しかしながら、この提案された制御装置は、ロボット本体若しくは筐体の損傷を軽減することができるが、関節アクチュエータに印加される衝撃の軽減を図ったものではない。
【0031】
また、この提案された制御装置は、転倒に伴う着床時に単にロボットの重心を下げるように制御するのみであり、離床から着床に至る期間全体を通した動作によって床面から受ける衝撃を緩和するような点については言及していない。そもそも、脚式移動ロボットの転倒時のみを考慮したものであり、ジャンプ動作や高所からの落下などのように比較的離床期間の長い動作パターンとは無関係である。
【0032】
また、この提案された制御装置は、転倒に伴う着床時にロボットの重心を下げるように制御するが、着床後のロボットの姿勢は転倒状態しか想定されていない。言い換えれば、ジャンプ動作により離床し、再び着床する際に転倒しないようにロボットの姿勢を安定制御するという技術的課題とは無縁なのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開平3−184782号公報
【特許文献2】特開平5−305579号公報
【特許文献3】特開平5−305581号公報
【特許文献4】特開平5−305583号公報
【特許文献5】特開平5−305585号公報
【特許文献6】特開平5−305586号公報
【特許文献7】特開平11−481705号公報
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】高西著「2足歩行ロボットのコントロール」(自動車技術会関東支部<高塑>No.25,1996APRIL)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、上述したような技術的課題を鑑みたものであり、その目的は、2以上の可動脚の各々が着床及び離床動作を協調的に繰り返し実行することにより、歩行、走行、ジャンプなどの動作パターンを実現するタイプの脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0036】
本発明の更なる目的は、ジャンプ動作その他ロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0037】
本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後に着床する際に関節アクチュエータが床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0038】
本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプその他の離床動作をした後着床に至る期間全体を通した一連の動作を以って、床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【0039】
また、本発明の更なる目的は、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後で着床する際にロボットが転倒しないように姿勢を安定制御することができる、脚式移動型ロボットのための優れた制御メカニズムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
少なくとも下肢に設けられたインピーダンス可変な関節アクチュエータと、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
離床期間中であることを検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを着床動作前の元の値に戻すなど所定の制御を行う制御手段と、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0041】
本発明の第1の側面に係る脚式移動ロボットによれば、離床期間中においてロボットは自らの関節アクチュエータのインピーダンスを低下させることで、関節アクチュエータ自体が緩衝材として機能するような状態で着床を待機することができる。
【0042】
また、着床時においては、関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間を以って元の状態に回復することで緩衝効果を確保することができる。
【0043】
また、関節アクチュエータのインピーダンスが回復し、通常の制御状態に復帰した後は、ZMPによる安定度判別規範に基づきロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボットが転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0044】
また、本発明の第2の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、
前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
離床期間中であることを検出したことに応答して、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、及び/又は、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するとともに、
着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0045】
本発明の第2の側面に係る脚式移動ロボットによれば、離床期間中においてロボットは鉛直方向に伸展したような姿勢をとり(後述:図8を参照のこと)、重心位置が着床する足底から極力高い位置になる状態で着床を待機する。さらに、着床時においては、所定加速度の範囲内で重心位置が次第に低くなるような動作パターンをとることによって、着床時に床面から受ける最大衝撃力を緩和することができる。
【0046】
また、着床時においては、脚式移動ロボットのZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボットが転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0047】
ここで、前記制御手段は、着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するようにしてもよい。
【0048】
また、前記制御手段は、着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行するようにしてもよい。
【0049】
また、本発明の第3の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢の各関節を駆動する第1の駆動手段と、
前記上体の各関節を駆動する第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
離床期間中であることを検出したことに応答して、仮想床平面上における仮想ZMPが仮想安定領域内にあるか否かを判定するとともに、
該判定結果が否定的であったことに応答して、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0050】
本発明の第3の側面に係る脚式移動ロボットによれば、ロボットは、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床するまで待機することができる。この結果、着床時にバランスを失ってロボットが転倒する、ひいては転倒によってロボットの一部又は全部が破損するといった可能性を限りなく排除することができる。
【0051】
前記の制御手段は、離床期間中であることを検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことにより、着床時の衝撃吸収動作を行ってもよい。あるいは、制御手段は、ロボットが着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるようにして、着床時の衝撃吸収動作を行ってもよい。
【0052】
また、本発明の第4の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータはインピーダンス可変であり、
(a)離床期間中に前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、
(b)着床時に前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すなど所定の制御を行うステップと、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0053】
本発明の第4の側面に係る制御方法において、前記ステップ(b)では、所定時間の間で連続的にインピーダンスを元の値に向かって連続的に戻すようにしてもよい。
【0054】
また、本発明の第4の側面に係る制御方法は、
(c)着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
をさらに備えてもよい。
【0055】
また、本発明の第5の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、前記脚式移動ロボットは前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段とを含み、
(a)離床期間中に、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、及び/又は、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
(b)着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
ことを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0056】
本発明の第5の側面に係る制御方法において、前記ステップ(b)では、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するようにしてもよい。
【0057】
また、本発明の第5の側面に係る制御方法は、
(c)着床時に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
をさらに備えてもよい。
【0058】
また、本発明の第6の側面は、少なくとも下肢と、該下肢の上方に配設された上体とで構成され、下肢の運動により各種の動作パターンを実現する脚式移動ロボットの制御方法であって、
(a)前記脚式移動ロボットが離床期間中か否かを判別するステップと、
(b)前記脚式移動ロボットの重力方向を検出するステップと、
(c)前記脚式移動ロボットの仮想床平面を設定するステップと、
(d)前記脚式移動ロボットの仮想安定領域を設定するステップと、
(e)前記脚式移動ロボットの仮想ZMPを算出するステップと、
(f)仮想ZMPが仮想安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(g)前記ステップ(f)における判定結果が否定的であったことに応答して、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように前記脚式移動ロボットの姿勢を変更するステップと、
を具備することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法である。
【0059】
本発明の第6の側面に係る制御方法は、離床期間中であることを検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、着床を検出したことに応答して関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すステップとをさらに備えてもよい。
【0060】
また、着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように姿勢制御するステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、ジャンプ動作その他ロボットが離床動作した後に着床する際に床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0062】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後に着床する際に関節アクチュエータが床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0063】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプその他の離床動作をした後着床に至る期間全体を通した一連の動作を以って、床面から受ける衝撃を可能な限り緩和することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0064】
また、本発明によれば、ロボットがジャンプやその他の離床動作をした後で着床する際に、ロボットが転倒しないようにその姿勢を安定制御することができる、優れた脚式移動型ロボット及びその制御方法を提供することができる。
【0065】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施に供される人間型ロボット100を前方から眺望した様子を示した図である。
【図2】本発明の実施に供される人間型ロボット100を後方から眺望した様子を示した図である。
【図3】本実施例に係る人間型ロボット100が具備する自由度構成モデルを模式的に示した図である。
【図4】本実施例に係る人間型ロボット100の制御システム構成を模式的に示した図である。
【図5】ロボット100が着床する際の処理手順の一例を示したフローチャートである。
【図6】ロボット100に用いられる1つのアクチュエータに関するサーボ回路とその制御系とを示したブロック図である。
【図7】ロボット100が着床する際の処理手順に関する他の例を示したフローチャートである。
【図8】離床期間中のロボット100が両手・両足が伸展し、着床を果たす足先からロボット100全体の重心位置までの距離(高さ)が極力長くなる姿勢を取った様子を示した図である。
【図9】着床時にロボット100がとる姿勢の具体例を示した図である。
【図10】着床時にロボット100が床面から受ける衝撃力を示したチャートである。
【図11】着床時にロボット100の重心位置を点G0から点GFに移動させる速度と床面から受ける衝撃力との関係を示したチャートである。
【図12】ロボット100が着床する際の処理手順に関する他の例を示したフローチャートである。
【図13】離床時におけるロボット100に対する仮想床平面を図解したものである。
【図14】離床時におけるロボット100の仮想安定領域を図解したものである。
【図15】人間型ロボットについての関節モデル構成の一例を模式的に示した図である。
【図16】人間型ロボットについての関節モデル構成の他の例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳解する。
【0068】
図1及び図2には本発明の実施に供される人間形又は人間型ロボット100を前方及び後方の各々から眺望した様子を示している。さらに、図3には、この人間型ロボット100が具備する関節自由度構成を模式的に示している。
【0069】
図3に示すように、人間型ロボット100は、2本の腕部と頭部1を含む上体と、移動動作を実現する2本の脚部からなる下肢と、上肢と下肢とを連結する体幹部とで構成される。
【0070】
頭部1を支持する首関節は、首関節ヨー軸2と、首関節ピッチ軸3と、首関節ロール軸4という3自由度を有している。
【0071】
また、各腕部は、肩関節ピッチ軸8と、肩関節ロール軸9と、上腕ヨー軸10と、肘関節ピッチ軸11と、前腕ヨー軸12と、手首関節ピッチ軸13と、手首関節ロール軸14と、手部15とで構成される。手部15は、実際には、複数本の指を含む多関節・多自由度構造体である。但し、手部15の動作自体は、ロボット100の姿勢安定制御や歩行動作制御に対する寄与や影響が少ないので、本明細書ではゼロ自由度と仮定する。したがって、各腕部は7自由度を有するとする。
【0072】
また、体幹部は、体幹ピッチ軸5と、体幹ロール軸6と、体幹ヨー軸7という3自由度を有する。
【0073】
また、下肢を構成する各々の脚部は、股関節ヨー軸16と、股関節ピッチ軸17と、股関節ロール軸18と、膝関節ピッチ軸19と、足首関節ピッチ軸20と、関節ロール軸21と、足部(足底)22とで構成される。股関節ピッチ軸17と股関節ロール軸18の交点は、本実施例に係るロボット100の股関節位置を定義するものとする。人体の足部(足底)22は、実際には多関節・多自由度の足底を含んだ構造体であるが、本実施例に係る人間型ロボット100の足底はゼロ自由度とする。したがって、各脚部は6自由度で構成される。
【0074】
以上を総括すれば、本実施例に係る人間型ロボット100全体としては、合計で3+7×2+3+6×2=32自由度を有することになる。但し、エンターティンメント向けの人間型ロボット100が必ずしも32自由度に限定される訳ではない。設計・製作上の制約条件や要求仕様等に応じて、自由度すなわち関節数を適宜増減することができることは言うまでもない。
【0075】
上述したような人間型ロボット100が持つ各自由度は、実際にはアクチュエータを用いて実装される。外観上で余分な膨らみを排してヒトの自然体形状に近似させること、2足歩行という不安定構造体に対して姿勢制御を行うことなどの要請から、アクチュエータは小型且つ軽量であることが好ましい。本実施例では、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニットに内蔵したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータを搭載することとした。なお、この種のACサーボ・アクチュエータに関しては、例えば本出願人に既に譲渡されている特願平11−33386号明細書に開示されている。
【0076】
図4には、人間型ロボット100の制御システム構成を模式的に示している。同図に示すように、人間型ロボット100は、ヒトの四肢を表現した各機構ユニット30,40,50R/L,60R/Lと、各機構ユニット間の協調動作を実現するための適応制御を行う制御ユニット80とで構成される(但し、R及びLの各々は、右及び左の各々を示す接尾辞である。以下同様)。
【0077】
人間型ロボット100全体の動作は、制御ユニット80によって統括的に制御される。制御ユニット80は、CPU(Central Processing Unit)チップやメモリ・チップ等の主要回路コンポーネント(図示しない)で構成される主制御部81と、電源装置やロボット100の各構成要素とのデータやコマンドの授受を行うインターフェース(いずれも図示しない)などを含んだ周辺回路82とで構成される。
【0078】
本実施例では、電源装置は、ロボット100を自立的に駆動するためのバッテリを含んだ構成(図4には図示しない)となっている。自立駆動型であれば、人間型ロボット100の物理的な行動半径は、電源ケーブルによる制限を受けず、自由に歩行することができる。また、歩行やその他の上肢を含めた各種の運動時に、電源ケーブルとの干渉を考慮する必要がなくなり、動作制御が容易になる。
【0079】
図3に示したロボット100内の各関節自由度は、それぞれに対応するアクチュエータによって実現される。すなわち、頭部ユニット30には、首関節ヨー軸2、首関節ピッチ軸3、首関節ロール軸4の各々を表現する首関節ヨー軸アクチュエータA2、首関節ピッチ軸アクチュエータA3、首関節ロール軸アクチュエータA4がそれぞれ配設されている。
【0080】
また、体幹部ユニット40には、体幹ピッチ軸5、体幹ロール軸6、体幹ヨー軸7の各々を表現する体幹ピッチ軸アクチュエータA5、体幹ロール軸アクチュエータA6、体幹ヨー軸アクチュエータA7がそれぞれ配備されている。
【0081】
また、腕部ユニット50R/Lは、上腕ユニット51R/Lと、肘関節ユニット52R/Lと、前腕ユニット53R/Lに細分化されるが、肩関節ピッチ軸8、肩関節ロール軸9、上腕ヨー軸10、肘関節ピッチ軸11、肘関節ロール軸12、手首関節ピッチ軸13、手首関節ロール軸14の各々を表現する肩関節ピッチ軸アクチュエータA8、肩関節ロール軸アクチュエータA9、上腕ヨー軸アクチュエータA10、肘関節ピッチ軸アクチュエータA11、肘関節ロール軸アクチュエータA12、手首関節ピッチ軸アクチュエータA13、手首関節ロール軸アクチュエータA14がそれぞれ配備されている。
【0082】
また、脚部ユニット60R/Lは、大腿部ユニット61R/Lと、膝ユニット62R/Lと、脛部ユニット63R/Lに細分化されるが、股関節ヨー軸16、股関節ピッチ軸17、股関節ロール軸18、膝関節ピッチ軸19、足首関節ピッチ軸20、足首関節ロール軸21の各々を表現する股関節ヨー軸アクチュエータA16、股関節ピッチ軸アクチュエータA17、股関節ロール軸アクチュエータA18、膝関節ピッチ軸アクチュエータA19、足首関節ピッチ軸アクチュエータA20、足首関節ロール軸アクチュエータA21がそれぞれ配備されている。
【0083】
各アクチュエータA2,A3…は、より好ましくは、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニット内に搭載したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータ(前述)である。
【0084】
頭部ユニット30、体幹部ユニット40、腕部ユニット50、各脚部ユニット60などの各機構ユニット毎に、アクチュエータ駆動制御用の副制御部35,45,55,65がそれぞれ配備されている。さらに、各脚部60R,Lの足底が着床したか否かを検出する接地確認センサ91及び92を装着するとともに、体幹部ユニット40内には、姿勢を計測する姿勢センサ93を装備している。本実施例では、姿勢センサ93として加速度センサを用いるものとする。これら各センサ91〜93の出力により、足底22の着床及び離床期間、体幹部分の傾きなどを検出して、制御目標をダイナミックに補正することができる。
【0085】
主制御部80は、各センサ91〜93の出力に応答して副制御部35,45,55,65の各々に対して適応的な制御を行い、人間型ロボット100の上肢、体幹、及び下肢の協調した動作を実現することができる。主制御部81は、ユーザ・コマンド等に従って、足部運動、ZMP軌道、体幹運動、上肢運動、腰部高さなどを設定するとともに、これらの設定内容に従った動作を指示するコマンドを各副制御部35,45,55,65に転送する。
【0086】
そして、各々の副制御部35,45…では、主制御部81からの受信コマンドを解釈して、各アクチュエータA2,A3…に対して駆動制御信号を出力する。ここで言う「ZMP」とは、歩行中の床反力によるモーメントがゼロとなる床面上の点のことであり、また、「ZMP軌道」とは、例えばロボット100の歩行動作期間中などにZMPが動く軌跡を意味する。
【0087】
次に、上述した人間型ロボット100における、ジャンプなどの離床期間を経て落下して着床する際の処理手順について説明する。
【0088】
図5には、着床時の処理手順の一例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0089】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS11)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS12)、主制御部81において離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、その動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0090】
離床動作を検出したことに応答して、各関節アクチュエータの制御パラメータ値を変更する(ステップS13)。より具体的には、アクチュエータのインピーダンスが低下するように、制御パラメータを変更する。インピーダンスの低いアクチュエータは、柔軟な状態となるので、着床時には緩衝材として機能し、床面から受ける衝撃を吸収することができる。特に、足首関節や膝関節など、床面に近く大きな衝撃を受けるアクチュエータのインピーダンスを変更することが好ましい。
【0091】
図6には、ロボット100に用いられる1つのアクチュエータに関するサーボ回路とその制御系200のブロック図を示している。同図に示すように、該制御系は、位置指令と速度指令を入力にして、位置検出をフィードバックするタイプの制御系である。位置指令は位置制御器201に入力され、位置制御器201の出力と速度指令とが速度制御器202,203に入力され、速度制御器203の出力がアクチュエータ204に供給され、アクチュエータ204が駆動する。また、アクチュエータ204に付設されたエンコーダ(図示しない)からの位置検出信号が位置制御器201にフィードバックされるとともに、その時間微分した信号が速度制御器202にフィードバックされる。
【0092】
図6に示すKpp,Kvi,Kvpの各々は、このサーボ制御系についての制御パラメータである。これらパラメータのうち少なくとも1つを小さな値に変更することにより、アクチュエータ200のインピーダンスは低下する。
【0093】
なお、アクチュエータ200は、ギア直結型で且つサーボ制御系をワンチップ化してモータ・ユニットに内蔵したタイプの小型ACサーボ・アクチュエータであり、例えば本出願人に既に譲渡されている特願平11−33386号明細書に開示されている。
【0094】
再び図5に戻って処理手順について説明する。ステップS14では、両足の接地センサ91及び92がともにオンになり(あるいは一方のセンサがオンになり)、ロボット100が床面に着床するまで待機する。
【0095】
そして、ロボット100の着床が検出されると、ステップS13において変更した関節アクチュエータの制御パラメータ値を元の値に戻す(ステップS15)。この結果、アクチュエータのインピーダンスが回復されて、ロボット100の動作制御が可能な離床前の状態となる。但し、インピーダンスを急峻に回復させてしまうと、緩衝材としての効果が失われるので、所定の時間T(例えば数百ミリ秒程度)をかけて元の値に戻す。
【0096】
次いで、ロボット100のZMPが安定領域、例えば着床した足底にあるか否かを判断する(ステップS16)。ZMPが安定領域になければ、安定領域に入るようにロボット100全体の姿勢を変更する(ステップS17)。
【0097】
他方、ZMPが安定領域にあれば、この処理手順全体を終了する。
【0098】
図5に示すような着床処理手順に従えば、離床期間中においてロボット100は自らの関節アクチュエータのインピーダンスを低下させ、アクチュエータが緩衝材として機能する状態でロボット100の着床を待機することができる。
【0099】
また、ロボット100の着床時においては、所定時間を以ってインピーダンスを元の状態に回復することで緩衝効果を確保することができる。
【0100】
また、ロボット100が着床して、関節アクチュエータのインピーダンスが回復し、通常の制御状態に復帰した後は、ZMPによる安定度判別規範に基づきロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボット100が転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0101】
図7には、着床時の処理手順に関する他の例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0102】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS21)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS22)、主制御部81においてロボット100の離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0103】
離床動作を検出したことに応答して、ロボット100の上肢及び体幹部の各関節におけるピッチ軸を重力方向とは逆方向に回転駆動するとともに、下肢・脚部を重力方向に伸展する(ステップS23)。
【0104】
図8には、ロボット100の上肢及び体幹部の各関節におけるピッチ軸を重力方向とは逆方向に回転駆動するとともに、下肢・脚部を重力方向に伸展する姿勢の一例を模式的に図解している。同図に示すように、ロボット100の両手・両足が伸展するようにロボット100を姿勢制御する。この結果、足先からロボット100全体の重心位置Gまでの距離(高さ)hが、手足を伸展する前の重心位置G'よりも長くなる。
【0105】
ステップS24では、両足の接地センサ91及び92がともにオンになり(あるいは一方のセンサがオンになり)、ロボット100が床面に着床するまで待機する。
【0106】
そして、ロボット100の着床が検出されると、ロボット100の重心が下がるようにロボットの上肢、下肢、及び体幹部関節の各ピッチ軸を駆動する(ステップS25)。
【0107】
ロボット100の重心が下がる姿勢の一例は、例えば図9に示すように、両足や股関節、体幹関節を屈曲させて屈み込んだ状態である。着床した足平から重心位置までの距離が充分短いことを理解できるであろう。
【0108】
ステップS25における屈曲動作により、ロボット100の重心位置は、着床時G0から着床動作終了時(安定時)GFまで移動することになる(但し、G0>GF)。この一連の着床動作に所定時間Tだけ費やすことで、ロボット100が床面から受ける衝撃力は、図10のチャートに示すように、時間Tの間で緩やかに分散され、最大衝撃力も軽減される。
【0109】
但し、ステップS25における屈曲動作は、加速度センサ93の値が許容加速度の値を超えないように各関節軸の駆動速度を強調して制御する(すなわち姿勢を屈曲させる)必要がある。何故ならば、許容加速度を越える値で屈曲動作を行うと、ロボット100に印加される衝撃はむしろ増幅されるからである。
【0110】
図11には、着床時にロボット100の重心位置を点G0から点GFに移動させる速度と床面から受ける衝撃力との関係をチャート上で示している。より具体的には、重心位置が点G0から点GFまで移動させる所要時間(すなわち着床から安定に至るまでの所要時間)TがそれぞれT1、T2、及びT3(但し、T1<T2<T3)となる場合をプロットしている。同図からも判るに、所要時間が短いほど重心位置の移動加速度が速くなり、これに比例して床面から受ける衝撃力Fの最大値は増大する。逆に、重心移動の所要時間が長いほど加速度が低くなり、着床時のインパクトが重心移動によって吸収され、衝撃力Fの最大値は軽減される。
【0111】
次いで、ロボット100のZMPが安定領域、例えば着床した足底にあるか否かを判断する(ステップS26)。ZMPが安定領域になければ、安定領域に入るようにロボット100全体の姿勢を変更する(ステップS27)。
【0112】
他方、ZMPが安定領域にあれば、この処理手順全体を終了する。
【0113】
図7に示すような着床処理手順に従えば、離床期間中においてロボット100は鉛直方向に伸展したような姿勢をとり(図8を参照のこと)、重心位置が着床する足底から極力高い位置になる状態で着床を待機することができる。さらに、着床時においては、所定加速度の範囲内で重心位置が次第に低くなるような動作パターンをとることによって、床面から受ける最大衝撃力を緩和することができる。
【0114】
また、着床時においては、ロボット100のZMPが安定領域に入るように姿勢制御を行うことで、着床後にロボット100が転倒してしまうという2次的な危険な事態を回避することができる。
【0115】
図12には、着床時の処理手順に関する他の例をフローチャートの形式で図解している。以下、このフローチャートの各ステップについて説明する。
【0116】
ロボット100が離床動作を行うと(ステップS31)、両足の足底に設けられた接地確認センサ91及び92がともにオフ状態となって(ステップS32)、主制御部81において離床状態が検出される。ここで言う離床動作は、ジャンプ動作や高所から飛び降りる動作など、動作パターンは特に特定されないので、本明細書中では説明を省略する。
【0117】
離床動作を検出したことに応答して、主制御部81では、姿勢センサ93の出力を基に、重力方向を算出して(ステップS33)、仮想床平面を設定する(ステップS34)。本明細書中において、「仮想床平面」とは、現在のロボット100の姿勢において着床したと想定される平面のことを言う。ロボット100の最下点(ジャンプなど通常の離床動作では左右いずれか一方又は両方の足平)における重力ベクトルを法線ベクトルとする平面が仮想床平面に相当する(図13を参照のこと)。
【0118】
次いで、仮想床平面上における仮想安定領域を設定する(ステップS35)。本明細書中において、「仮想安定領域」とは、ロボット100の現在の姿勢において仮想床平面に着床したときに、ロボット100が安定を保つことができる該床面上に領域のことである。例えば、仮想床平面上に着床した両足平に相当する(図14を参照のこと)。
【0119】
次いで、仮想ZMPを算出する(ステップS36)。「仮想ZMP」とは、仮想床平面における床反力によるモーメントがゼロとなる仮想床平面上の点のことである。
【0120】
判断ブロックS37では、仮想ZMPが仮想安定領域内に入っているか否かを判断する。
【0121】
判断結果が否定的であれば、ロボット100の上肢、下肢、体幹部の少なくとも一部の関節アクチュエータを駆動させて、仮想ZMPが仮想安定領域内に入るように、ロボット100の姿勢を変更する(ステップS38)。
【0122】
上述したような姿勢制御の結果、ロボット100は、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床を待機することができる。着床時には仮想床平面が現実の床平面と一致するが、上述のステップS39では、ロボット100は安定した姿勢で着床することができる。なお、着床動作には、図5や図7を用いて説明したような衝撃吸収動作を含んでもよい。
【0123】
要するに図12に示すような姿勢制御処理手順に従えば、ロボット100は、離床期間中は常に仮想床平面に対して安定した姿勢を維持しながら着床するまで待機することができる。この結果、着床時にバランスを失って転倒する、ひいては転倒によってロボット100の一部又は全部が破損するといった可能性を、限りなく排除することができる。さらに、上述した衝撃吸収動作を組み込むことによって、万全な着床動作を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上、特定の実施例を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施例の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0125】
本明細書では、2足の下肢により脚式移動を行う人間型ロボットを例に本発明を説明したが、本発明の要旨は2足歩行ロボットに限定されるものではない。例えばイヌをモデル化したペット型ロボットのような4足歩行ロボット、あるいはその他の本数の下肢を持つ脚式移動ロボットに対しても、当然にして本発明を好適に適用することができる。また、本実施例で示したように、胴体(体幹部ユニット)に上肢や頭部を搭載していないタイプのロボットに対しても本発明を適用することができる。
【0126】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、限定的に解釈されるべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0127】
なお、本発明の要旨を判断する上で、2足歩行のロボット100についての関節等の呼び名は、図3を厳格に適用するのは妥当ではなく、現実のヒトやサルなどの2足直立歩行動物の身体メカニズムとの対比により柔軟に解釈されたい。
【0128】
参考のため、人間型ロボットの関節モデル構成を図15に図解しておく。同図に示す例では、肩関節5から上腕、肘関節6、前腕、手首7及び手部8からなる部分を「上肢」と呼ぶ。また、肩関節5から股関節11までの範囲を「体幹部」と呼び、ヒトの胴体に相当する。また、体幹部のうち特に股関節11から体幹関節10までの範囲を「腰部」と呼ぶ。体幹関節10は、ヒトの背骨が持つ自由度を表現する作用を有する。また、股関節11より下の大腿部12、膝関節14、下腿部13、足首15及び足部16からなる部分を「下肢」と呼ぶ。一般には、股関節より上方を「上体」と呼び、それより下方を「下体」と呼ぶ
【0129】
また、図16には、人間型ロボットの他の関節モデル構成を図解している。同図に示す例は、体幹関節10を有しない点で図14に示した例とは相違する。各部の名称については図を参照されたい。背骨に相当する体幹関節が省略される結果として人間型ロボットの上体の動きは表現力を失う。但し、危険作業やなお作業の代行など、産業目的の人間型ロボットの場合、上体の動きを要しない場合がある。なお、図15及び図16で用いた参照番号は、図3などそれ以外の図面とは一致しない点を理解されたい。
【符号の説明】
【0130】
1…頭部,2…首関節ヨー軸
3…首関節ピッチ軸,4…首関節ロール軸
5…体幹ピッチ軸,6…体幹ロール軸
7…体幹ヨー軸,8…肩関節ピッチ軸
9…肩関節ロール軸,10…上腕ヨー軸
11…肘関節ピッチ軸,12…前腕ヨー軸
13…手首関節ピッチ軸,14…手首関節ロール軸
15…手部,16…股関節ヨー軸
17…股関節ピッチ軸,18…股関節ロール軸
19…膝関節ピッチ軸,20…足首関節ピッチ軸
21…足首関節ロール軸,22…足部(足底)
30…頭部ユニット,40…体幹部ユニット
50…腕部ユニット,51…上腕ユニット
52…肘関節ユニット,53…前腕ユニット
60…脚部ユニット,61…大腿部ユニット
62…膝関節ユニット,63…脛部ユニット
80…制御ユニット,81…主制御部
82…周辺回路
91,92…接地確認センサ
93…姿勢センサ
100…人間型ロボット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下肢を有する脚式移動ロボットであって、
少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータと、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記検出手段が離床期間中であることを検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスに所定の制御を行う制御手段と、
を具備する脚式移動ロボット。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間の間で連続的に元の値に向かって連続的に戻すことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項4】
前記制御手段は、前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻した後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行することを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項5】
上体と、前記上体に接続された下肢を有する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、
前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
前記検出手段が離床期間中であることを検出したことに応答して、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するとともに、
前記検出手段が着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボット。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御することを特徴とする請求項4に記載の脚式移動ロボット。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ロボット全体の重心位置を下げた後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行することを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項8】
少なくとも下肢を有する脚式移動ロボットの制御方法であって、少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータはインピーダンス可変であり、
(a)離床期間中に前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、
(b)着床時に前記関節アクチュエータのインピーダンスに所定の制御を行うステップと、
を有することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)では、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)では、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間の間で連続的に元の値に向かって連続的に戻すことを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項11】
さらに、
(c)前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻した後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項12】
上体と、前記上体に接続された下肢を有する脚式移動ロボットの制御方法であって、前記脚式移動ロボットは前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段とを含み、
(a)離床期間中に、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
(b)着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
を有することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)では、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御することを特徴とする請求項12に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項14】
さらに、
(c)前記ロボット全体の重心位置を下げた後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項12に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項1】
少なくとも下肢を有する脚式移動ロボットであって、
少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータと、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記検出手段が離床期間中であることを検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるとともに、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスに所定の制御を行う制御手段と、
を具備する脚式移動ロボット。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間の間で連続的に元の値に向かって連続的に戻すことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項4】
前記制御手段は、前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻した後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行することを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項5】
上体と、前記上体に接続された下肢を有する脚式移動ロボットであって、
前記ロボットが離床又は着床いずれの期間中かを検出する検出手段と、
前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、
前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段と、
前記第1及び第2の駆動手段の駆動を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
前記検出手段が離床期間中であることを検出したことに応答して、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するとともに、
前記検出手段が着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御する、
ことを特徴とする脚式移動ロボット。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出手段が着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御することを特徴とする請求項4に記載の脚式移動ロボット。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ロボット全体の重心位置を下げた後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定する処理と、該判定結果が否定的な場合にはZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更する処理とを実行することを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項8】
少なくとも下肢を有する脚式移動ロボットの制御方法であって、少なくとも下肢に設けられた関節アクチュエータはインピーダンス可変であり、
(a)離床期間中に前記関節アクチュエータのインピーダンスを低下させるステップと、
(b)着床時に前記関節アクチュエータのインピーダンスに所定の制御を行うステップと、
を有することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)では、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻すことを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)では、着床を検出したことに応答して前記関節アクチュエータのインピーダンスを所定時間の間で連続的に元の値に向かって連続的に戻すことを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項11】
さらに、
(c)前記関節アクチュエータのインピーダンスを元の値に戻した後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項8に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項12】
上体と、前記上体に接続された下肢を有する脚式移動ロボットの制御方法であって、前記脚式移動ロボットは前記下肢を伸展及び屈曲させる第1の駆動手段と、前記上体を伸展及び屈曲させる第2の駆動手段とを含み、
(a)離床期間中に、前記上体が重力方向とは逆方向に伸展し、前記下肢が重力方向に伸展するように、前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
(b)着床を検出したことに応答して、前記ロボット全体の重心位置が下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御するステップと、
を有することを特徴とする脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)では、前記ロボット全体の重心位置が許容加速度以内で下がるように前記第1及び第2の駆動手段の各々を制御することを特徴とする請求項12に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【請求項14】
さらに、
(c)前記ロボット全体の重心位置を下げた後に、前記ロボットのZMPが安定領域内にあるか否かを判定するステップと、
(d)前記ステップ(c)における判定結果が否定的な場合には、ZMPが安定領域内に入るように前記ロボットの姿勢を変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項12に記載の脚式移動ロボットの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−115780(P2010−115780A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16308(P2010−16308)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【分割の表示】特願平11−316715の分割
【原出願日】平成11年11月8日(1999.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【分割の表示】特願平11−316715の分割
【原出願日】平成11年11月8日(1999.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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