説明

脱離基を有する[1]ベンゾチエノ[3,2‐b][1]ベンゾチオフェン誘導体および[1]ベンゾチエノ

【課題】キャリア移動度、酸化安定性、高い溶解性および製膜性を有する有機電子デバイス、有機薄膜トランジスタ材料の提供。
【解決手段】一般式(I)で表される[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。


(ここで、X、Yは水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基、直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基のいずれかを部分構造として有する官能基のいずれかから選択される。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱離可能な溶解性基を有する[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物前駆体から簡便に形成可能な[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物およびその製造方法、それを用いた有機電子デバイスに関する。本発明の化合物は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の有機エレクトロニクス用素材として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機薄膜トランジスタの研究開発が盛んである。有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタと比し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
これまでに、低分子化合物の有機半導体材料としてペンタセン等のアセン系材料が報告されている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。このペンタセンを有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらアセン系材料は汎用溶媒に対し極めて溶解性が低く、それを有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層として薄膜化する際には、真空蒸着工程を経る必要がある。ゆえに、前述したような塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
ところで、ペンタセンと同様のアセン系材料の一つとして、[1]ベンゾチエノ[3, 2−b]ベンゾチオフェンの誘導体である下記式(1)の構造の2,7―ジフェニル[1]ベンゾチエノ[3, 2−b][1]ベンゾチオフェン(特許文献2、非特許文献2)は、オクタデシルトリクロロシランで処理した基板上に蒸着することにより、ペンタセンに匹敵する移動度(約2.0cm/V・s程度)を示し、また大気下での長期安定性も有する。
また、同じく誘導体である下記式(2)の構造の2,7―ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(非特許文献3)は、液晶相を有し、かつ高い溶解性を有し、スピンコート、キャストなどで塗布可能であり、比較的低温の熱処理により、同じくペンタセンに匹敵する移動度(約2.0cm/V・s程度)を示す。しかしながら、前者はペンタセン同様真空蒸着工程を経る必要があり、塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではなく、後者は液晶相への転移温度が100℃程度と比較的低く、製膜後も熱処理により膜構造の変化が生じ得るため、有機半導体デバイス作製におけるプロセス適応性に問題がある。
近年、溶媒溶解性の高い低分子化合物を半導体前駆体(以下前駆体)とし、これを溶剤などに溶解し塗布プロセスで膜を形成し、そののち半導体に変換して有機半導体膜を得、電界効果トランジスタを作製する方法が報告されている。例えば、ペンタセンあるいは類似の芳香族炭化水素(非特許文献5、6)、ポルフィリン(例えば、非特許文献7、8)等を用いた例がある。
また、この例におけるペンタセン前駆体からはテトラクロロベンゼン分子が脱離するが、テトラクロロベンゼンは、沸点が高く反応系外に取り除くことが難しいことに加え、その毒性が懸念される。
加えて、これらのいずれの例も変換後の半導体分子が酸素や水に対して安定ではないため、大気下での取り扱いが難しいという問題点がある。
上記の理由から、従来公知である上記した化合物およびそれらの前駆体では、プロセス適応性に問題があることは明らかであり、新たな前駆体およびその製造方法が求められていた。
【0003】
【化1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、キャリア移動度、溶解性、酸化安定性に優れた[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン骨格を有し、さらに高い溶解性および製膜性を有する新規な前駆体を提供し、さらに該前駆体に対してエネルギーを印加することで容易に形成することが可能である新規な化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。これらの新規な化合物は、有機電子デバイス、特に有機薄膜トランジスタへの応用に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記(1)〜(9)によって解決される。
(1) 一般式(I)で表わされる[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
【0006】
【化2】

(ここで、X、Yは水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基、直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基のいずれかを部分構造として有する官能基のいずれかから選択され、X、Yは同一であってもそれぞれ異なっていても良いが、少なくともX、Yのいずれか一つ以上は直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基からなる群より選択される基を部分構造として有する。)
(2) 前記直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基を有する官能基が下記一般式(II)乃至(IV)に記載される構造であることを特徴とする前記第(1)項に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
【0007】
【化3】

【0008】
【化4】

【0009】
【化5】

(ここでArは二価の官能基であり、nは0以上の整数であり、nが2以上の場合、Arはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基から選択される基である。)
(3) 前記一般式(II)乃至(IV)において、Arが置換基を有していてもよい、ベンゼン、チオフェン、ナフタレン、チエノチオフェンから構成される群から選択されることを特徴とする前記第(1)項および第(2)項に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
(4) 前記nが0〜2の範囲である前記第(1)項乃至第(3)項に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
(5) 脱離性基を有する[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物前駆体から変換させることを特徴とする前記第(1)項乃至第(4)項に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物の製造方法。
(6) 前記脱離性基が、下記一般式(V)乃至(VII)で表わされる部分構造を有する基から選択されるものであることを特徴とする前記第(5)項に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物の製造方法。
【0010】
【化6】

【0011】
【化7】

【0012】
【化8】

(ここで、nは0以上の整数であり、Arは置換基を有していても良い二価の基であり、nが2以上の整数の場合、Arはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、Zは酸素原子または硫黄原子であり、R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基、Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上の脂肪族アルキル基および脂環式のアルキル基、炭素数1以上の直鎖または分岐のアルコキシル基、炭素数1以上の直鎖または分岐のチオアルコキシル基から選択される基であり、Rは炭素数1以上の直鎖または分岐のアルコキシル基である。)
(7) 前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物を含有することを特徴とする有機電子デバイス。
(8) 前記第(5)項又は第(6)項に記載の製造法により得られた[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物を含有することを特徴とする第(7)項に記載の有機電子デバイス。
(9) 有機電子デバイスが有機薄膜トランジスタである前記第(7)項又は第(8)項に記載の有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機半導体としての高いキャリア移動度、酸化安定性を有する[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン化合物(以下、特定化合物)を提供することができる。
また、本発明に係る特定化合物は有機溶剤に対する十分な溶解性を有する特定化合物前駆体(以下、前駆体)から簡便に製造することが可能である。
また、本発明に係る電界効果トランジスタは、キャリア移動度が大きく、オンオフ比が大きく、リーク電流が小さいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の前駆体Precursor1のIRスペクトル(室温から330℃まで温度変化)および脱離したカルボン酸のIRスペクトルである。
【図2】本発明の前駆体Precursor1のTG−DTAデータである。
【図3】本発明の前駆体Precursor2のIRスペクトル(室温から330℃まで温度変化)および脱離したカルボン酸のIRスペクトルである。
【図4】本発明の前駆体膜のアニール前後の偏光顕微鏡像(クロスニコル)である。
【図5】本発明の有機薄膜トランジスタの概略図である。
【図6】真空プロセスによって作製した本発明の有機薄膜トランジスタのI−V伝達特性図である。
【図7】溶液プロセスにより作製した本発明の有機薄膜トランジスタのI−V伝達特性図である。
【図8】実施例18で作製した本発明の特定化合物OSC2の蒸着膜の面外X線回折パターンである。
【図9】実施例18で作製した本発明の特定化合物OSC2の蒸着膜の面内X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の特定化合物およびその製造方法、それを用いた有機トランジスタについて詳細に説明する。
[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンは高度に発達したπ共役系と高い平面構造を有しており、またイオン化ポテンシャルがペンタセンなどの他のアセン系材料と比べて比較的高いため、酸化安定性に優れた有機半導体材料として用途が提案されている。具体的には、非特許文献3、4に示される。しかしながら、溶解性の置換基を有しない場合では製膜に高真空が必要である。脂肪族アルキル基などの溶解性基で置換した場合においては、比較的溶解性が得られるものの、低い温度に複数の相転移点を有することが多く、デバイス作製時の熱処理等により膜構造の乱れが生じ得ることが問題である。そこで、本発明者らは、溶解性の高い脱離性基を導入した同前駆体からエネルギーの印加により簡便に形成可能であるアルケニル基、チオール基、カルボキシル基を部分構造として含む特定化合物により上記課題を解決できることを見いだした。
【0016】
脱離性の溶解性基を付与した前駆体とすることで、有機溶媒に対する溶解性を確保しつつ、製膜後に熱、光に代表わされる外部刺激を与えることにより、アルケニル基、チオール基、カルボキシル基を部分構造として含む分子へと変換することで、結晶性の高い構造に誘導することができ、結晶化の促進を図ることが可能となった。結晶化が促進されることでこの様な状態においては、前駆体におけるアモルファス状態または微結晶状態よりも高い移動度を得ることが可能となった。
【0017】
本発明の一般式(I)乃至(VII)で示される構造を有する化合物の製造方法としては、Suzukiカップリング反応による方法、Stilleカップリング反応による方法、Kumadaカップリング反応、Negishiカップリング反応による方法、Hiyamaカップリング反応による方法、Sonogashira反応による方法、Heck反応による方法、Wittig反応による方法、などに代表わされる種々のカップリング反応を用いて行う、公知の方法が例示される。これらのうち、Suzukiカップリング反応またはStilleカップリング反応を用いる方法が、中間体の誘導体化が容易であるのと、反応性、収率の観点から特に好ましい。
【0018】
Suzukiカップリング反応およびStilleカップリング反応によって合成する例を以下に挙げる。
下記一般式(VIII)で表わされる[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体(2,7-ハロゲン化[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン)と、下記一般式(IX)で表わされるボロン酸誘導体(Suzukiカップリング反応の場合)または有機スズ誘導体(Stileカップリングの場合)と、さらにSuzukiカップリング反応においては塩基を加え、それぞれパラジウム触媒の存在下で、反応させることにより前記一般式(I)乃至(VII)で表わされる本発明の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物が製造される。
【0019】
【化9】

(上記式(VIII)中、Xは塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表わす。)
【0020】
【化10】

(上記式(IX)中、Arは置換基を有していてもよい二価の基を表わし、Yはボロン酸またはそのエステル、もしくは有機スズ官能基を示す。)
【0021】
Suzukiカップリング、Stilleカップリング反応による合成方法において、一般式(VIII)で表わされるハロゲン化[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体におけるハロゲン原子としては、特に限定はされないが、反応性の点からヨウ素あるいは臭素が好ましい。
【0022】
前記一般式(IX)で表わされる有機スズ誘導体としては、SnMe基やSnBu基などのトリアルキルスズ基を有する誘導体を用いることができる。また、同じく一般式(IX)で表わされるボロン酸誘導体としては、アリールボロン酸のほか、熱的に安定で、空気中で容易に扱えるビス(ピナコラト)ジボロンを用いハロゲン化誘導体から合成されるボロン酸エステルを用いても良い。
【0023】
Stilleカップリング反応においては、特に塩基は不要であるが、Suzukiカップリング反応においては塩基が必ず必要となり、NaCO、NaHCOなどの比較的弱い塩基が良好な結果を与える。立体障害等の影響を受ける場合には、Ba(OH)やKPO、NaOHなどの強塩基が有効である。
【0024】
その他、苛性カリ、金属アルコシド等、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシドなどももちいることができる。トリエチルアミン等の有機塩基ももちいることができる。
【0025】
パラジウム触媒としては例えばパラジウムブロマイド、パラジウムクロライド、パラジウムヨージド、パラジウムシアニド、パラジウムアセテート、パラジウムトリフルオロアセテート、パラジウムアセチルアセトナト[Pd(acac)]、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(OAc)(PPh]、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh]、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム[Pd(CH CN)l2 ]、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム[Pd(PhCN)l2]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2]、ジクロロ[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム[Pd(dppf)Cl2]、ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム〔Pd[P(C11l2〕、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPhl2]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム[Pd(dba)]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(dba) ]、等が挙げられるが、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPhl2]等のホスフィン系触媒が好ましい。
【0026】
上記の他にパラジウム触媒として、反応系中においてパラジウム錯体と配位子の反応により合成されるパラジウム触媒を用いることができる。配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリス(n−ブチル)ホスフィン、トリス(tert−ブチル)ホスフィン、ビス(tert−ブチル)メチルホスフィン、トリス(i−プロピル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(o−トリル)ホスフィン、トリス(2−フリル)ホスフィン、2−ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−メチルビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピル−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−ジフェニルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−メチルビフェニル、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノエチレン、ジフェニルホスフィノフェロセン、エチレンジアミン、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチルエチレンジアミン、2,2’−ビピリジル、1,3−ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデンが挙げられ、これらの配位子のいずれかが配位したパラジウム触媒をクロスカップリング触媒として用いることができる。
【0027】
反応溶媒としては、原料と反応し得るような官能基を有さず、かつ原料を適度に溶解させられることができるようなものが望ましく、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のアルコールおよびエーテル系、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の他、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等をあげることができる。これらの溶媒は単独で用いても、二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。またこれらの溶媒はあらかじめ乾燥、脱気処理を行うことが望ましい。
【0028】
上記反応の温度は、用いる原料の反応性、また、反応溶媒により適宜設定され、通常0℃〜200℃の範囲で行うことが可能であるが、いずれの場合も溶媒の沸点以下に抑えることが好ましい。加えて脱離性基の脱離温度以下に抑えることが収率の観点から好ましく、具体的には室温〜150℃の範囲が好ましく、特に好ましくは室温〜120℃の範囲が好ましく、もっとも好ましくは40〜100℃である。
上記反応における反応時間は、用いる原料の反応性において適宜設定することができ、1〜72時間が好適であり、さらには、1〜24時間がより好ましい。
【0029】
以上のようにして得られた[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物は、反応に使用した触媒、未反応の原料、又反応時に副生するボロン酸塩、有機スズ誘導体等の不純物を除去して使用される。これらの精製は再沈澱法、カラムクロマト法、吸着法、抽出法(ソックスレー抽出法を含む)、限外濾過法、透析法、触媒を除くためのスカベンジャーの使用等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
【0030】
上記した製造方法により得られる本発明の特定化合物を薄膜とするには、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、真空蒸着、スパッタ等の公知の製膜方法を用いることができる。これにより、クラックのない、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能である。さらに前記の製膜方法により塗布した本発明の前駆体の膜に外部刺激を加えることによって、溶解性の置換基を脱離し、本発明の特定化合物の膜を形成することも可能であり、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子用材料として好適に用いることができる。
【0031】
このようにして得られる請求項1乃至4に記載の本発明の特定化合物とその前駆体の具体例を以下に示す。
【0032】
また、一般式(I)乃至(VII)中のX、Y、R乃至R中において、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基の具体的としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0033】
また、炭素数1以上の直鎖または分岐のアルコキシル基または炭素数1以上の直鎖または分岐のチオアルコキシル基である場合は、上記に例示した官能基中で、ハロゲン原子を含まないアルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0034】
直鎖または脂環式のアルケニル基としては、上記した炭素数2以上のアルキル基および炭素数2以上の脂環式のアルキル基の任意の炭素―炭素単結合を1つ以上二重結合としたものがあげられる。具体的には、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2−メチル−2―ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、1―ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1―ヘプテニル基、2―ヘプテニル基、3―ヘプテニル基、4―ヘプテニル基、1―オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1―シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1-シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1―シクロヘプテニル基、2―シクロヘプテニル基、3―シクロヘプテニル基、4―シクロヘプテニル基等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス体及びシス体が存在する場合は、トランス体及びシス体の何れであってもよく、またそれらの任意の割合の混合物であってもよい。
【0035】
前記一般式(II)乃至(VII)中の、Arが二価の官能基を表わす場合、Arとしては、以下のものを挙げることができる。
ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、フルオレン、9,9−ジメチルフルオレン、アズレン、トリフェニレン、クリセン、9−ベンジリデンフルオレン、H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン、[2,2]−パラシクロファン、トリフェニルアミン、チオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ジチエニルベンゼン、(フラン、ベンゾフラン、カルバゾール)、ベンゾジチアゾール等の2価基が挙げられ、これらはアルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、ハロゲン基を置換基として有していてもよい。
【0036】
アルキル基としては、炭素数が1以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
【0037】
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
また、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
さらに、詳細な本発明の特定化合物の構造を以下に例示する。
【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
さらに、詳細な前駆体の構造を例示するが、本発明の前駆体はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
上記前駆体は脱離性基を有するが、ここで脱離性基とはエネルギーの印加により、特定の化合物を脱離した結果、構造変化を生じる官能基を指す。
上記脱離性基を有する前駆体にエネルギーを印加することにより、脱離性基の構造変化に伴い、本発明の化合物を得ることができる。
上記脱離性基としては、炭酸エステル、カルボン酸エステル、キサントゲン酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステルに代表わされるエステル類およびβ水素を有するアミンオキシドおよびスルホキシドおよびセレノキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
脱離性基の形成方法については、ホスゲンとアルコールを反応させ炭酸エステルを得る方法、アルコールと酸クロライドを反応させカルボン酸エステルを得る方法、アルコールに塩基と二硫化炭素を加えた後、ヨウ化アルキルを反応させキサントゲン酸エステルを得る方法、三級アミンと過酸化水素あるいはカルボン酸を反応させアミンオキシドを得る方法、アルコールにオルトセレノシアノニトロベンゼンを反応させセレノキシドを得る方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
上記前駆体より脱離される化合物としては、二酸化炭素、アルコール類、カルボン酸類、スルホン酸類、チオール類および硫化カルボニル、オレフィン構造を有する誘導体等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0049】
上記脱離成分を脱離することによって得られる化合物が有する官能基は、アルケニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基等が挙げられる。
【0050】
脱離反応を行なうために印加するエネルギーとしては、熱、光、電磁波が挙げられるが、反応性および収率、後処理の観点から、熱エネルギーあるいは光エネルギーが望ましく、特に熱エネルギーが好ましい。反応の触媒として、酸塩基等を添加することも効果的である。これらを直接添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で反応を行ってもよい。
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、蟻酸、リン酸等、2‐ブチルオクタン酸を用いることができる。
また塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
脱離反応を行なうための加熱の方法には、支持体上で加熱する方法、オーブン内で加熱する方法、マイクロ波の照射による方法、レーザーを用いて光を熱に変換して加熱する方法、光熱変換層を用いる等種々の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
脱離反応を行なうための加熱温度については、室温〜500℃の範囲を用いることが可能であり、エネルギー効率や化合物自体の安定性等を考慮すると、中でも50〜300℃の範囲が好ましく、特に好ましくは50℃〜200℃の範囲である。
上記加熱の時間については、前駆体の反応性、量にもよるが、通常0.5〜120分、好ましくは1〜60分、特に好ましくは1分〜30分である。
【0052】
脱離反応を行なう際の雰囲気については、大気下においても行なうことが可能であるが、酸化等の副反応および水分の影響を除くため、加えて脱離した成分の系外への排除を促すために、不活性ガス雰囲気下また減圧下で行なうことが望ましい。
【0053】
[電子デバイス]
本発明の特定化合物は、例えば、電子デバイスに用いることができる。電子デバイスの例を挙げると、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置などが挙げられる。また、例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子などが挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
【0054】
現在シリコン等の無機半導体で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等の光素子も挙げることができる。
【0055】
本発明の特定化合物を適用するのに好適な電子デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。以下、このFETについて詳細に説明する。
【0056】
「トランジスタ構造」
図5の(A)〜(D)は本発明に係わる有機薄膜トランジスタの概略構造である。本発明に係わる有機薄膜トランジスタの有機半導体層(1)は、本発明の特定化合物を含有する。本発明の有機薄膜トランジスタには、空間的に分離されたソース電極(2)、ドレイン電極(3)およびゲート電極(4)が設けられており、ゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁膜(5)が設けられていてもよい。有機薄膜トランジスタはゲート電極(4)への電圧の印加により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされる。
【0057】
本発明の有機薄膜トランジスタは、支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
【0058】
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0059】
「製膜方法:有機半導体層」
本発明に係わる有機半導体材料は、真空蒸着法等の気相製膜が可能である。加えて、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解して、支持体上に塗布することによって薄膜を形成することができるほか、前駆体からなる膜に対してエネルギーを印加し、特定化合物の膜に変換することによっても形成することができる。これら有機半導体薄膜の作製方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられ、材料に応じて、適した上記製膜方法と、上記溶媒から適切な溶媒が選択される。
【0060】
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。
有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、上記化合物を成分として形成される有機半導体層は、ソース電極、ドレイン電極及び絶縁膜に接して形成される。
【0061】
「電極」
本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるゲート電極、ソース電極、ゲート電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。
【0062】
ソース電極及びドレイン電極は、上記導電性の中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0063】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。
【0064】
「絶縁膜」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0065】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
【0066】
さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0067】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0068】
「有機半導体/絶縁膜界面修飾」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜と有機半導体層の接着性を向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けてもよい。有機薄膜は有機半導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
【0069】
有機分子膜としては、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン、フェニルトリクロロシラン等を具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよい。
【0070】
「保護層」
本発明の有機トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0071】
「応用デバイス」
本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
以下、実施例においても、本発明の[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン化合物を[特定化合物]と称する。また、前記特定化合物の前駆体を単に「前駆体」と称す。
【0074】
〈合成例1〉
(特定化合物中間体の合成)

(1) [1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンユニットの合成
本発明の化合物を製造する際に用いられる[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのジハロゲン誘導体は、Zh.Org.Khim.,16,2,383(1980)およびJ.Am.Chem.Soc.128,12604(2006)を参考にして下記のスキーム1の手順で行ない、誘導体7のジハロゲン体を得た。(収量5g、収率30.5%)
【0075】
〈スキーム1〉
【0076】
【化17】

【0077】
(化13)のジハロゲン誘導体7の分析結果を示す。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.62 (d, 2H, J =8.4 Hz), 7.75 (dd, 2H, J1 =8.4 Hz J2 =1.4 Hz), 8.26 (d, 2H, J =1.4 Hz)
質量分析:GC-MS m/z = 492 (M+)
元素分析値:C, 34.40; H, 1.19 (実測値) C, 34.17; H, 1.23(計算値)
融点300℃以上
【0078】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体7の構造と矛盾がないことを確認した。
【0079】
(2)(溶解性の脱離性基ユニットの合成)
本発明の特定化合物を製造する際に用いられる溶解性の脱離性基ユニットは、Chem. Mater. 16, 4783(2004)およびJ.Am.Chem.Soc.126,1596(2006)を参考にして下記の〈スキーム2〉乃至〈5〉に従って合成を行なった。
【0080】
〈スキーム2〉
トリブチルスズ誘導体11の合成(8→11)
【0081】
【化18】

【0082】
〈スキーム2〉に記載の手順で、無色の液体として、トリブチルスズ誘導体11を収量5.8g、収率77%で得た。
【0083】
トリブチルスズ誘導体11の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.13 (d, 1H, J =2.9 Hz), 7.00 (d, 1H, J =3.5 Hz), 6.03 (t, 1H, J =4 Hz), 2.29-2.36 (m, 1H), 1.89-2.05 (m, 2H), 1.50-1.64 (m, 6H), 1.37-1.45 (m, 2H), 1.31-1.36(m, 6H), 1.11-1.28 (m, 12H), 1.08 (t, J=8.0 Hz , 6H), 0.95 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 0.78-0.90 (m, 15 H)
質量分析:GC-MS m/z = 614 (M+)
【0084】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体11の構造と矛盾がないことを確認した。
【0085】
〈スキーム3〉
ボロン酸エステル誘導体15の合成(12→15)
【0086】
【化19】

【0087】
淡黄色の粘稠液体として、ボロン酸エステル誘導体15を収量7.38g、収率94.0%で得た。
【0088】
ボロン酸エステル誘導体15の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.77 (d, J = 8 .0 Hz, 2H,), 7.31 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 5.68 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 2.32-2.38 (m, 1H), 1.85-1.93 (m, 1H), 1.78-1.84 (m, 1H), 1.53-1.62 (m, 2H), 1.37-1.47 (m, 2H), 1.33 (s, 12H), 1.1-1..32 (m, 12H), 0.79-0.91 (m, 9H)
質量分析:GC-MS m/z = 444 (M+)
【0089】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体15の構造と矛盾がないことを確認した。
【0090】
〈スキーム4〉
トリブチルスズ誘導体20の合成(16→20)
【0091】
【化20】

【0092】
黄色の粘性液体として、トリブチルスズ誘導体20を収量8.6g、収率95%で得た。誘導体20の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.25 (d, J = 3.4 Hz, 1H,), 7.04 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 6.92 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 5.92 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 2.31-2.37 (m, 1H), 1.88-2.05 (m, 2H), 1.54-1.64 (m, 6H), 1.38-1.47 (m, 2H), 1.31-1.38 (m, 6H), 1.14-1.28 (m, 12H), 1.11 (t, J = 8.0 Hz, 6H), 0.97 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 0.90 (t, J = 7.5 Hz, 6H), 0.78-0.86 (m, 9H)
質量分析:GC-MS m/z = 696 (M+)
【0093】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体20の構造と矛盾がないことを確認した。
【0094】
〈スキーム5〉
トリブチルスズ誘導体22の合成(9→22)
【0095】
【化21】

【0096】
スキーム5に記載の手順で、黄色の液体としてトリブチルスズ誘導体22を収量3.33g、収率81%で得た。
【0097】
誘導体22の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.08 (d, 1H, J =3.2 Hz), 6.97 (d, 1H, J =3.2 Hz), 5.01 (t, 1H, J =4 Hz), 2.99 (td, J1 =7.2 Hz, J2 = 2.0 Hz, 2H), 2.03-2.10 (quint, J = 7.2 Hz, 2H), 1.52-1.64 (m, 6 H), 1.28-1.43 (m, 10 H), 1.08 (t, J=8.0 Hz , 6H), 0.99 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 0.87-0.94 (m, 12 H)
質量分析:GC-MS m/z = 564 (M+)
【0098】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体22の構造と矛盾がないことを確認した。
【0099】
(3)アルケニル基を有するユニットの合成
アルケニル基を有するボロン酸エステルユニットは下記の〈スキーム6〉に従って合成を行なった。
【0100】
〈スキーム6〉
アルケニルボロン酸エステル誘導体の合成(23→26)
【0101】
【化22】

【0102】
淡黄色の液体として、ボロン酸エステル誘導体26を収量2.61g、収率68.0%で得た。
ボロン酸エステル誘導体26の分析結果を示す。
【0103】
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.75 (d, J = 8 .1 Hz, 2H,), 7.23 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.28 (s, 1H), 1.93 (dd, J1= 19.4, 1.5 Hz, J2= 1.5 Hz, 6H), 1.34 (s, 12H)
質量分析:GC-MS m/z = 258 (M+)
【0104】
以上の分析結果から、合成したものが、誘導体26の構造と矛盾が無いことを確認した。
【0105】
上記スキーム1乃至6中において、DMFはジメチルホルムアミド、THFはテトラヒドロフラン、LAHはリチウムアルミニウムハイドライド、LDAはリチウムジイソプロピルアミド、DMAPはN,N−ジメチルアミノピリジン、DMSOはジメチルスルホキシド、AcOKは酢酸カリウム、PdCl(dppf)はジクロロ[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムを表わす。
【0106】
上記合成例で合成した各ユニットを用いて、下記の実施例を行なった。
【実施例1】
【0107】
[前駆体の合成1]
スキーム7に従って下記前駆体Precursor1の合成を行なった。
〈スキーム7〉
【0108】
【化23】

【0109】
3つ口フラスコに、7(492.5mg、1mmol)、11(1299mg、2.1mmol)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)/トルエン(10mL、1/1=v/v)を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd(dba)(2mol%、18.3mg)、P(o‐toly)(8mol%、24.4mg)、DMF/トルエン(4mL)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、80℃(±5℃)で12時間加熱を行なった。室温に戻し、トルエン100mLを加え、飽和食塩水200mLを加え、有機層を分液、水層をトルエン(50mL)で3回抽出し、合わせた有機層をフッ化カリウム飽和水溶液200mLで洗浄し、さらに飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。
カラム精製(溶離液:トルエン)を行ない、オレンジ色の固体(収量800mg)を得た。さらに、リサイクルGPC(溶離液:テトラヒドロフラン(以下THF)、日本分析社製)により精製を行ない、黄色の結晶(収量500mg、収率56.5%)を得た。
【0110】
得られた前駆体Precursor1の分析結果を示す。
【0111】
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):8.09 (d, 2H, J =0.85 Hz), 7.84 (d, 1H, J = 4.2 Hz), 7.4(dd, 2H, J1 = 0.85 Hz, J2 = 4.2 Hz), 7.25 (d, 2H, J = 1.9 Hz), 7.04 (d, 2H, J = 1.9 Hz), 5.97 (t, 2H, J = 6.9 Hz), 2.34-2.37 (m, 2H), 1.96-2.07 (m, 4H), 1.60-1.67 (m, 4H), 1.40-1.46 (m, 4H), 1.13-1.34 (m, 24H), 1.01 (t, 6H, J =7.2 Hz), 0.78-0.85 (m, 12H)
質量分析:GC-MS m/z = 884 (M+)
元素分析値:C, 70.40; H, 7.94;S,14.2 (実測値) C, 70.54; H, 7.74; S, 14.49(計算値)
融点:93.2―94.2 ℃
【0112】
以上の分析結果から、合成したものが、前駆体Precursor1の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例2】
【0113】
[前駆体の合成2]
スキーム8に従って下記前駆体Precursor2の合成を行なった。
【0114】
〈スキーム8〉
【0115】
【化24】

【0116】
3つ口フラスコに、7(1968mg、4.0mmol)、15(4089mg、9.2mmol)、KP0・nHO(13.6g)、DMF(80mL),を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd(PPh)(0.4mmol、368mg)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、85℃(±5℃)で9時間加熱を行なった。室温に戻し、内容物をセライト濾過し、セライトをトルエン(100mL)で洗浄した。濾液を飽和塩化アンモニウム水溶液(400mL)に注ぎ込み、トルエン200mLを加え有機層を分液した。水層をトルエン(50mL)で3回抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾液を濃縮し、赤色の固体(収量1020mg)を得た。
カラム精製(溶離液:トルエン/ヘキサン(6/4→10/0))を行ない、黄色の固体 (収量2.38g、収率66.0%)を得た。このうち800mgをリサイクルGPC(溶離液:THF、日本分析社製)により精製を行ない、淡黄色の結晶(収量708mg、収率88.5%)を得た。
【0117】
得られた前駆体Precursor2の分析結果を示す。
【0118】
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):8.12 (d, J= 1.2 Hz, 2H), 7.94 (d, J= 8.0 Hz, 2H), 7.69 (dd, J=8.6 and 1.7 Hz), 7.66 (d, J= 8.0 Hz, 4H), 7.44 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 5.74 (t, J= 7.4 Hz, 2H), 2.36-2.42 (m, 2H), 1.95-2.25 (m, 2H), 1.83-1.91 (m, 2H), 1.57-1.68 (m, 4H), 1.40-1.50 (m, 4H), 1.14-1.36 (m, 24H), 0.96 (t, J= 7.50 Hz, 6H), 0.82-0.88 (m, 12H)
質量分析:GC-MS m/z = 872 (M+)
元素分析値:C, 76.90; H, 8.54; S, 7.20 (実測値) C, 77.02; H, 8.31; S, 7.34 (計算値)
融点:87.5―90.0℃
【0119】
以上の分析結果から、合成したものが、前駆体Precursor2の構造と矛盾が無いことを確認した。
【実施例3】
【0120】
[前駆体の合成3]
スキーム9に従って下記前駆体Precursor3の合成を行なった。
【0121】
〈スキーム9〉
【0122】
【化25】

【0123】
3つ口フラスコに、7 (492.5 mg, 1 mmol), 20 (1460 mg, 2.1 mmol), DMF/トルエン (10 mL, 1/1=v/v)を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd2(dba)3 (2 mol %, 18.3 mg), P(o‐toly)3 (8 mol%, 24.4 mg)、DMF/トルエン (6 mL, 1/1=v/v)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、80 °C(±5℃)で9時間加熱を行なった。室温に戻し、沈殿を濾取し、メタノール、ヘキサンで洗浄した。沈殿をクロロホルムに溶かし直し、シリカゲルパッドを通した濾液を乾固させることで、オレンジ色の結晶を得た。(収量840 mg, 収率80.0 %)
【0124】
得られた前駆体Precursor3の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):8.17 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 7.87 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.70 (dd, J1 = 1.7 Hz, J2 = 8.0 Hz, 2H), 7.32 (d, J = 4.0 Hz, 2H), 7.15 (d, J = 3.4 Hz, 2H), 7.07 (d, J = 3.4 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 3.4 Hz, 2H), 5.94 (t, J = 6.9 Hz, 2H), 2.32-2.39 (m, 2H), 1.91-2.08 (m, 4H), 1.57-1.66 (m, 4H), 1.40-1.49 (m, 4H), 1.11-1.36 (m, 24H), 0.99 (t, J = 6.9 Hz,6H), 0.81-0.90 (m, 12H)
質量分析:GC-MS m/z = 1050 (M+)
元素分析値:C, 68.26; H, 6.91; S, 18.93 (実測値) C, 68.19; H, 6.71; S, 18.83 (計算値)
融点:134.0―135.4 ℃
【0125】
確認した。
以上の分析結果から、合成したものが、前駆体Precursor3の構造と矛盾がないことを
【実施例4】
【0126】
[前駆体の合成4]
〈スキーム10〉に従って下記前駆体Precursor4の合成を行った。
【0127】
〈スキーム10〉
【0128】
【化26】

【0129】
3つ口フラスコに、7 (492.5 mg, 1 mmol), 22 (1183 mg, 2.1 mmol)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)/トルエン (10 mL, 1/1=v/v)を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd2(dba)3(2mol %、18.3mg), P(o‐toly)3(8 mol%, 24.4 mg)、DMF/トルエン (4mL)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、80 °C(±5℃)で12時間加熱を行った。室温に戻し、トルエン100mLを加え、飽和食塩水200mLを加え、有機層を分液、水層をトルエン(50mL)で3回抽出し、合わせた有機層をフッ化カリウム飽和水溶液 200mLで洗浄し、さらに飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。
カラム精製(溶離液:トルエン)を行ない、オレンジ色の固体(収量590 mg)を得た。さらに、リサイクルGPC(溶離液:テトラヒドロフラン(以下THF)、日本分析社製)により精製を行ない、黄色の結晶(収量435mg、収率57.8 %)を得た。
得られた前駆体Precursor4の分析結果を示す。
【0130】
質量分析:GC-MS m/z = 614 (M+)
元素分析値:C, 60.15; H, 5.68; S, 29.30 (実測値) C, 60.60; H, 5.35; S, 29.80 (計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、前駆体Precursor4の構造と矛盾が無いことを確認した。
【実施例5】
【0131】
[特定化合物の合成1]
スキーム11に従って前駆体Precursor1から下記特定化合物OSC1の合成を行なった。
【0132】
〈スキーム11〉
【0133】

【0134】
前駆体Precursor1(1.5 g, 1.7 mmol)を石英ボート(横20×縦92×高さ11 mm)に入れ、230℃に加熱したホットプレート上で3時間加熱し、得られた固体を乳鉢で砕き、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、メタノールで洗浄した後、真空乾燥を行なうことで黄褐色の固体(収量700 mg)を得た。最後に、得られた固体を温度勾配昇華法(ソース温度:330℃、 圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、黄色の結晶として特定化合物OSC1を得た。(収量100 mg, 収率12.1 %)
得られた特定化合物OSC1の分析結果を示す。
【0135】
質量分析:GC-MS m/z = 484 (M+)
元素分析値:C, 69.38; H, 4.16;S, 26.46 (実測値) C, 69.22; H, 4.26; S, 26.52(計算値)
分解点:406℃
【0136】
以上の分析結果から、合成したものが、特定化合物OSC1の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例6】
【0137】
[特定化合物の合成2]
〈スキーム12〉に従って前駆体Precursor2から特定化合物OSC2の合成を行なった。
【0138】
〈スキーム12〉
【0139】
【化27】

前駆体Precursor2(1.5 g, 1.7 mmol)を石英ボート(横20×縦92×高さ11 mm)に入れ、220℃に加熱したホットプレート上で3時間加熱し、得られた固体を乳鉢で砕き、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、メタノールで洗浄した後、真空乾燥を行なうことで黄褐色の固体(収量655 mg)を得た。最後に、得られた固体を温度勾配昇華法(ソース温度:340℃, 圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、黄色の結晶として特定化合物OSC2を得た(収量160 mg, 収率19.3 %)。
得られた特定化合物OSC2の分析結果を示す。
【0140】
質量分析:GC-MS m/z = 472 (M+)
元素分析値:C, 81.11; H, 5.26;S, 13.51 (実測値) C, 81.31; H, 5.12; S, 13.57(計算値)
分解点:382℃
【0141】
以上の分析結果から、合成したものが、特定化合物OSC2の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例7】
【0142】
[特定化合物の合成3]
スキーム13に従って前駆体Precursor3から特定化合物OSC3の合成を行なった。
【0143】
〈スキーム13〉
【0144】
【化28】

【0145】
前駆体Precursor3(500 mg、0.48 mmol)を石英ボート(横20×縦92×高さ11 mm)に入れ、220℃に加熱したホットプレート上で3時間加熱し、得られた固体を乳鉢で砕き、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、メタノールで洗浄した後、真空乾燥を行なうことで黄褐色の固体(収量290 mg)を得た。最後に、得られた固体を温度勾配昇華法(ソース温度:370 ℃, 圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、黄色の結晶として特定化合物OSC3を得た。(収量70 mg, 収率 22.7 %)
得られた特定化合物OSC3の分析結果を示す。
【0146】
質量分析:GC-MS m/z = 648 (M+)
元素分析値:C, 66.43; H, 3.92; S, 29.45 (実測値) C, 66.63; H, 3.73; S, 29.65 (計算値)
分解点:402 ℃
【0147】
以上の分析結果から、合成したものが、特定化合物OSC3の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例8】
【0148】
[特定化合物の合成4]
スキーム14に従って下記特定化合物OSC4の合成を行なった。
【0149】
〈スキーム14〉
【0150】
【化29】

【0151】
3つ口フラスコに、7 (984 mg, 2.0 mmol), 26(1135 mg, 4.4 mmol)、 KP0・nHO(6.8 g)、 DMF (40 mL)を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd(PPh) (0.2 mmol、 184 mg)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、85℃(±5℃)で10時間加熱を行なった。室温に戻し、内容物を飽和塩化アンモニウム水溶液(200 mL)に注ぎ込み、沈殿を濾取し、メタノールで洗浄し、これを真空乾燥することで黄色の固体を得た(収量900mg)
最後に、得られた固体を温度勾配昇華法(ソース温度:340℃, 圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、黄色の結晶として特定化合物OSC4を得た。(収量120 mg、 収率12.0 %)
得られた特定化合物OSC4の分析結果を示す。
【0152】
質量分析:GC-MS m/z = 500 (M+)
元素分析値:C, 81.41; H, 5.76;S, 12.51 (実測値) C, 81.56; H, 5.64; S, 12.81 (計算値)
分解点:414℃
以上の分析結果から、合成したものが、特定化合物OSC4の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例9】
【0153】
[特定化合物の合成5]
スキーム15に従って下記特定化合物OSC5の合成を行なった。
【0154】
〈スキーム15〉
【0155】
【化30】

【0156】
3つ口フラスコに、7 (984mg、2.0mmol), シス-1-プロペニルボロン酸 (1135 mg、 4.4 mmol), KP0・nHO(6.8 g)、 DMF (40 mL)、を取り、30分間アルゴンガスでバブリングを行なった後、Pd(PPh) (0.2 mmol、 184 mg)を加え、アルゴンガスで10分間バブリングし、85 ℃(±5℃)で8時間加熱を行なった。室温に戻し、内容物をセライト濾過し、セライトをトルエン(100 mL)で洗浄した。濾液を飽和塩化アンモニウム水溶液(200 mL)に注ぎ込み、トルエン200mLを加え有機層を分液した。水層をトルエン(50 mL)で3回抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。
さらにカラム精製(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン(1/3)を行ない、無色の固体 (収量380 mg)を得た。この固体を酢酸エチル溶液から再結晶することにより、淡黄色の結晶を得た(収量300 mg)。
最後に、得られた結晶を温度勾配昇華法(ソース温度:185℃, 圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、黄色の結晶として特定化合物OSC5を得た。(収量100 mg、 収率15.6 %)
得られた特定化合物OSC5の分析結果を示す。
【0157】
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.81 (d, J = 1.2 Hz, 2H,), 7.76 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.46 (dd, J = 8.3 Hz and 1.2 Hz, 2H), 6.52 (dd, J = 16 Hz and 1.7 Hz, 2H), 6.35 (dq, J = 6.3 Hz and 2.6 Hz, 2H), 1.94 (dd, J = 6.3 Hz and 1.7 Hz, 6H)
質量分析:GC-MS m/z = 320 (M+)
元素分析値:C, 81.41; H, 5.76;S, 12.51 (実測値) C, 81.56; H, 5.64; S, 12.81 (計算値)
融点:246.0―246.6 ℃
【0158】
以上の分析結果から、合成したものが、特定化合物OSC5の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例10】
【0159】
[特定化合物の合成6]
スキーム16に従って前駆体Precursor4から下記特定化合物OSC1の合成を行なった。
【0160】
〈スキーム16〉
【0161】
【化31】

【0162】
前駆体Precursor4 (0.5g、0.664mmol)を石英ボート(横20×縦92×高さ11mm)に入れ、160℃に加熱したホットプレート上で2時間加熱し、得られた固体を乳鉢で砕き、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、メタノールで洗浄した後、真空乾燥を行なうことで黄褐色の固体(収量200mg)を得た。最後に、得られた固体を温度勾配昇華法(ソース温度:330℃、圧力:〜10‐4Pa)により精製することで、実施例5と同様に黄色の結晶として特定化合物OSC1を得た。(収量53mg、収率16.5%)
得られた特定化合物OSC1の分析結果を示す。
【0163】
質量分析:GC-MS m/z = 484 (M+)
元素分析値:C, 69.28; H, 4.39;S, 26.42 (実測値) C, 69.22; H, 4.26; S, 26.52(計算値)
分解点:407 ℃
【0164】
以上の分析結果から、合成したものが、実施例5で合成したのと同様に特定化合物OSC1の構造と矛盾が無いことを確認した。
【0165】
以上の実施例1乃至10より、本発明の前駆体分子を加熱することで本発明の特定化合物へと変換が可能であることが明らかとなった。
【実施例11】
【0166】
[実施例1で作成した前駆体の脱離挙動の観察]
実施例1で合成した前駆体Precursor1(5mg)を、シリコンウェハを介して200℃および330℃のホットプレート上でそれぞれ30分間加熱し、サンプル調整を行なった。上記サンプルおよび加熱前の前駆体、加えて脱離反応によって発生する、2―ブチルオクタン酸のIRスペクトル(KBr法、パーキンエルマー社製)を測定した。その結果を、図1に示す。
200℃の加熱により、―O―の吸収(1166 cm−1)が消失し、C=Oの吸収のシフト(1730cm-1から1707 cm−1への)が見られた。このことより、前駆体分子中より2−ブチルオクタン酸が遊離していることが分かる。
また、330℃の加熱により、2−ブチルオクタン酸由来のC=Oの吸収(1707 cm−1)が消失し、芳香族とオレフィンのピークのみとなった。
また、前駆体Precursor1の熱分解挙動を、TG-DTA(サンプル量5mg、リファレンスAl 5mg、窒素雰囲気下、SII社製)を用いて観察した。その結果を図2に示す。
290〜330℃にかけて、2-ブチルオクタン酸2分子に相当する割合の重量減少が確認された。これにより、前駆体Precursor1から特定化合物OSC1への変換が確認された。
【実施例12】
【0167】
[実施例2で作成した前駆体の脱離挙動の観察]
実施例2で合成した前駆体Precursor2(5mg)を、シリコンウェハを介して任意の温度(150, 160, 170, 180, 200, 220, 270, 330℃)に設定したホットプレート上でそれぞれ30分間加熱し、サンプル調整を行なった。
上記サンプルおよび加熱前の前駆体、加えて脱離反応によって発生する、2―ブチルオクタン酸のIRスペクトル(KBr法、パーキンエルマー社製)を測定した。その結果を、図3に示す。
図3において、180℃を閾値として―O―の吸収(1166 cm−1)が消失し、C=Oの吸収のシフト(1730cm-1から1707 cm−1への)が見られた。
これにより、TG‐DTAの重量減少量のみだけでは見積りが難しかった前駆体分子から2−ブチルオクタン酸が遊離する温度を求めることができた。
また末端オレフィンのピーク(800cm‐1付近)が2つ存在(cis体およびtrans体)することも分かる。
また、330℃の加熱により、2−ブチルオクタン酸由来のC=Oの吸収(1707 cm−1)が消失し、オレフィンのピークが1つとなった。
これにより、前駆体Precursor2から特定化合物OSC2への変換が確認された。
【実施例13】
【0168】
〔実施例1で合成した前駆体Precursor1の製膜化〕
実施例1で合成した前駆体Precursor1を、クロロホルム、トルエン、THFにそれぞれ1.0, 5.0 wt%の濃度になるように溶解させ、フィルターに通し、溶液を調製した。溶媒・濃度に関わらず、溶液を室温で一晩放置した後においても、溶質の析出は全く見られなかった。
次に、それぞれの溶液から、スピンコート(回転条件:500回転/分,5秒 +3000回転/分, 30秒により、シリコン基板上に製膜を行なった。
いずれの溶液を用いても、平滑で均質な連続膜が得られた。膜の観察は、光学顕微鏡およびAFM(SII製、コンタクトモード)によって行なった。
また、膜の耐溶剤性試験として製膜した膜を、大気下のホットプレート上で200℃で30分間アニールした後、ベンコットン(M−3、 旭化成せんい社製)にクロロホルム、トルエン、THFを染みこませたもので、往復一回擦った後の膜の剥離状態を観察したところ、いずれの溶媒においても膜は溶解、剥離することなく、製膜時の状態を維持していた。
また、アニール処理前後の偏光顕微鏡像を図4に示した。アニール前は一面が暗い像が得られ、等方的な膜であった。従って、アニール処理を施す前の膜は非晶質であることが分かる。
一方アニール処理後は、色のついたドメインが複数観測された。従って、アニール処理を施した膜は結晶質であることが分かる。これは、前駆体が、溶解性基を脱離することにより、本発明の特定化合物に変換され、結晶質になったためである。
【実施例14】
【0169】
〔実施例2で合成した前駆体Precursor2の製膜化〕
実施例13の前駆体Precursor1を、実施例2で合成した前駆体Precursor2に変えた以外は以下同様にして溶液の調整、製膜化を行ない、膜の耐溶剤性試験を行なった。
【実施例15】
【0170】
〔実施例3で合成した前駆体Precursor3の製膜化〕
実施例13の前駆体Precursor1を、実施例3で合成した前駆体Precursor3に変えた以外は以下同様にして溶液の調整、製膜化を行ない、膜の耐溶剤性試験を行なった。
【実施例16】
【0171】
〔実施例4で合成した前駆体Precursor4の製膜化〕
実施例13の前駆体Precursor1を、実施例4で合成した前駆体Precursor4に変えた以外は以下同様にして溶液の調整、製膜化を行ない、膜の耐溶剤性試験を行なった。
【0172】
〔比較例1〕
比較例1として、実施例13の前駆体Precursor1を2,7―ジフェニル[1]ベンゾチエノ[3, 2‐b][1]ベンゾチオフェンに変えた以外は以下同様にして溶液の調整、製膜化を行ない、膜の耐溶剤性試験を行った。
【0173】
〔比較例2〕
比較例1として、実施例13の前駆体Precursor1を2,7―ジオクチル[1]ベンゾチエノ[3, 2‐b] [1]ベンゾチオフェンに変えた以外は以下同様にして溶液の調整、製膜化を行い、膜の耐溶剤性試験を行った。
実施例13乃至16および比較例1、2の結果を表1に示す。
【0174】
【表1】

【0175】
上記表1中で、溶解性における○は各溶媒に対して5wt%の濃度で溶解後、室温で12時間おいても溶質の析出が見られなかったことを示し、△は1wt%の濃度で各溶媒に対して溶解後、室温で12時間放置しても溶質の析出が見られなかったことを示し、×は1wt%の濃度で各溶媒に溶解後、室温12時間放置して溶質の析出が見られたことを示す。
【0176】
製膜性の○は連続膜が得られていることを示し、×は不連続な膜になっていることを示す。耐溶剤性における○は膜が製膜時に用いた溶媒に不溶かつ剥離が無いことを表わし、△は前記のいずれか一方が欠落していることを示し、×は前記二つが欠落していることを示す。
【0177】
以上の結果から、本発明の前駆体は、汎用有機溶媒への高い溶解性と溶媒に影響されない製膜性を有し、加熱処理を行い溶解性基を脱離させることで、非晶質から結晶質の特定化合物の膜へ変換された。さらに、変換後の本発明の特定化合物を有する膜は結晶性が高く、同時に高い耐溶剤性を示すことが示唆された。
【実施例17】
【0178】
(真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価)
実施例5で作製した作製した特定化合物OSC1を用いて、以下の要領で、図5‐(A)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。
濃硫酸に24時間浸漬洗浄した膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板をフェニルトリクロロシランのトルエン溶液 (濃度1 mM、液量8mL)に浸漬し、容器を密封し、容器に超音波を30分当てたのち、基板をトルエン、アセトンで超音波洗浄することでシリコン酸化膜表面を単分子膜処理した。
上記で作製した基板に対して、実施例5で得られた特定化合物OSC1を真空蒸着(背圧〜10‐4Pa、蒸着レート1〜2Å/s、半導体膜厚:60nm)することにより、有機半導体層を形成した。
この有機半導体層上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧 〜10‐4Pa、 蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I―V)特性を図6に示す。この飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
【0179】
【数1】

(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
【実施例18】
【0180】
真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価
実施例17の特定化合物OSC1を実施例6で得られた特定化合物OSC2に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例17と同様のp型の半導体特性を示した。
また、作製した上記化合物の蒸着膜の面外および面内のX線回折パターンを図8および図9に示す。
【実施例19】
【0181】
真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価
実施例17の特定化合物OSC1を実施例7で得られた特定化合物OSC3に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例17と同様のp型の半導体特性を示した。
【実施例20】
【0182】
真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価
実施例17の特定化合物OSC1を実施例8で得られた特定化合物OSC4に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例17と同様のp型の半導体特性を示した。
【実施例21】
【0183】
真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価
実施例17の特定化合物OSC1を実施例9で得られた特定化合物OSC5に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例17と同様のp型の半導体特性を示した。
【0184】
実施例17乃至21の電界効果移動度および電流オンオフ比を表2に示す。
【0185】
【表2】

【実施例22】
【0186】
(溶液プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価)
実施例1で合成した前駆体Precursor1を用いて、以下の要領で、図5−(D)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。
実施17に記載の方法で単分子膜処理を施したシリコン基板上に、前駆体Precursor1のクロロホルム溶液(0.2t%)を滴下し、クロロホルムが蒸発することで、厚さ100nmの連続した前駆体膜が形成された。
この基板を200℃ホットプレート上で加熱することで、前駆体膜を有機半導体膜へと変換した。
この有機半導体膜上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10‐4Pa、蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I―V)特性を図7に示す。この飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
【0187】
【数2】

(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
【実施例23】
【0188】
(溶液プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価)
実施例22の前駆体Precursor1を実施例2で得られた前駆体Precursor2に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例22と同様のp型の半導体特性を示した。
【実施例24】
【0189】
(溶液プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価)
実施例22の前駆体Precursor1を実施例3で得られた前駆体Precursor3に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例22と同様のp型の半導体特性を示した。
【実施例25】
【0190】
(溶液プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価)
実施例22の前駆体Precursor1を実施例4で得られた前駆体Precursor4に変えた以外は同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。
その結果、いずれも実施例22と同様のp型の半導体特性を示した。
実施例22乃至25の電界効果移動度および電流オンオフ比を表3に示す。
【0191】
溶液プロセスによって作製した電界効果トランジスタの特性
【0192】
【表3】

【0193】
表1および表2より、真空プロセスあるいは溶液プロセスによって作製した本発明の電界効果トランジスタはいずれも高いホール移動度、電流オンオフ比を有し、有機トランジスタとして優れた特性を有していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の特定化合物は、各種有機溶剤への溶解性に優れた前駆体からエネルギーの印加による脱離反応により合成することが可能であるため、プロセスアビリティーに優れており、また脱離反応後は有機溶剤に対して不溶化するためこのような化合物およびその前駆体を用いた有機電子デバイスへの応用が考えられ、特に半導体などの電子デバイス、EL発光素子などの光学−電子デバイスに応用が考えられる。
また、本発明の化合物を用いた有機トランジスタは、高い移動度、大きな電流オンオフ比を有しているため、液晶表示素子、EL発光素子、電子ペーパー、各種センサー、RFIDs(radio frequency identification)などに応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0195】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0196】
【特許文献1】特開平5−055568号公報
【特許文献2】WO2006/077888
【非特許文献】
【0197】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.72,p1854 (1998)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.128,p12604 (2006)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.129,p15732 (2007)
【非特許文献4】Science 270巻(1995)p972
【非特許文献5】Optical Materials 12(1999)p189
【非特許文献6】J.Appl.Phys.79, p2136 (1996)
【非特許文献7】J.Appl.Phys.100, p034502(2006)
【非特許文献8】Appl.Phys.Lett.84,12,p2085(2004)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
【化1】

(ここで、X、Yは水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基、直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基のいずれかを部分構造として有する官能基のいずれかから選択され、X、Yは同一であってもそれぞれ異なっていても良いが、少なくともX、Yのいずれか一つ以上は直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基からなる群より選択される基を部分構造として有する。)
【請求項2】
前記直鎖または分岐の脂肪族アルケニル基および脂環式のアルケニル基、カルボキシル基、チオール基を有する官能基が下記一般式(II)乃至(IV)に記載される構造であることを特徴とする請求項1に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物
【化2】

【化3】

【化4】

(ここでArは二価の官能基であり、nは0以上の整数であり、nが2以上の場合、Arはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基から選択される基である。)
【請求項3】
前記一般式(II)乃至(IV)において、Arが置換基を有していても良い、ベンゼン、チオフェン、ナフタレン、チエノチオフェンで構成される群から選択されることを特徴とする請求項1および2に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
【請求項4】
前記nが0〜2の範囲である請求項1乃至3に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物。
【請求項5】
脱離性基を有する[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物前駆体から変換させることを特徴とする請求項1乃至4に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記脱離性基が、下記一般式(V)乃至(VII)で表わされる部分構造を有する基から選択されるものであることを特徴とする請求項5に記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物の製造方法。
【化5】

【化6】

【化7】

(ここで、nは0以上の整数であり、Arは置換基を有していても良い二価の基であり、nが2以上の整数の場合、Arはそれぞれ同一であっても異なっていても良く、Zは酸素原子または硫黄原子であり、R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖または分岐の脂肪族アルキル基及び脂環式のアルキル基、Rは水素原子、ハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上の脂肪族アルキル基および脂環式のアルキル基、炭素数1以上の直鎖または分岐のアルコキシル基、炭素数1以上の直鎖または分岐のチオアルコキシル基から選択される基であり、Rは炭素数1以上の直鎖または分岐のアルコキシル基である。)
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物を含有することを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の製造法により得られた[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン化合物を含有することを特徴とする請求項7に記載の有機電子デバイス。
【請求項9】
有機電子デバイスが有機薄膜トランジスタである請求項7又は8に記載の有機電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−275032(P2009−275032A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61749(P2009−61749)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】