説明

自動変速機の制御装置

【課題】車両の走行状態を適切に検出し、該走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】ECUは、従動輪である各後輪の車輪速度差REVdiffを算出し、該車輪速度差REVdiffが旋回開始判定閾値STthを超える場合に、車両が旋回中であると判定する(第2のタイミングt2)。そして、ECUは、プレシフト変速段を自動変速機の現時点の変速段よりも低速側の変速段に設定し、ダウンシフト側へのプレシフト制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの動力を断・接制御するためのクラッチ及び該クラッチに動力伝達可能な状態で連結される変速機構を有する動力伝達系を複数備える自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される自動変速機として、例えば特許文献1に記載の自動変速機が提案されている。この自動変速機は、所謂デュアルクラッチ式の自動変速機であって、2系統の動力伝達系を備えている。第1の動力伝達系には、第1のクラッチと、該第1のクラッチに動力伝達可能な状態で連結され、且つ奇数段(1速段、3速段及び5速段)の歯車列を有する第1の変速機構とが設けられている。また、第2の動力伝達系には、第2のクラッチと、該第2のクラッチに動力伝達可能な状態で連結され、且つ偶数段(2速段、4速段及び6速段)の歯車列を有する第2の変速機構とが設けられている。例えば変速段を1速段にして車両を走行させる場合は、第1の変速機構を1速段に設定し、第1のクラッチを係合状態にすることにより、駆動源であるエンジンからの動力が第1の動力伝達系を介して駆動輪に伝達され、車両が走行する。なお、変速段が1速段である場合、第2の動力伝達系の第2のクラッチは解放状態になっており、第2の動力伝達系にはエンジンからの動力が伝達されない。
【0003】
また、特許文献1に記載の自動変速機の制御装置では、カーナビゲーションシステムなどの外部装置から受信した車両の走行状態を示す走行情報に応じたプレシフト制御が実行される。例えば車両がコーナーを旋回中である旨の走行情報がカーナビゲーションシステムから受信した場合、自動変速機の制御装置は、現時点の自動変速機の変速段(例えば3速段)を特定し、現時点で動力が伝達されていない第2の動力伝達系における変速段を、第1の動力伝達系で設定される変速段(例えば3速段)よりも低速側の変速段(この場合、2速段)で準備させるべくプレシフト制御を実行する。すなわち、車両の旋回時には、ダウンシフト側にプレシフト制御が実行される。その結果、車両の旋回中に自動変速機の変速段を3速段から2速段にダウンシフトさせる場合には、第1のクラッチを解放状態にして第2のクラッチを係合状態にするだけで、エンジンからの動力が第2の動力伝達系を介して駆動輪に伝達される。したがって、プレシフト制御が実行されない場合又はアップシフト側にプレシフト制御が実行される場合に比して、速やかなダウンシフトが提供可能とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−232047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の自動変速機の制御装置は、カーナビゲーションシステムから送信される車両の走行情報に応じたプレシフト制御を実行する。しかしながら、カーナビゲーションシステムは、本来、運転手に対して道案内を行なうための装置であって、車両の走行自体を補助する装置ではない。そのため、カーナビゲーションシステムからの走行情報は、必ずしも正確な情報であるとは限らない。
【0006】
また、特許文献1に記載の自動変速機の制御装置では、カーナビゲーションシステムを搭載していない車両では走行情報を受信できないため、走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できないおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の走行状態を適切に検出し、該走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できる自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、自動変速機の制御装置にかかる請求項1に記載の発明は、駆動源からの動力を断・接制御するためのクラッチ及び該クラッチに動力伝達可能な状態で連結される変速機構を有する動力伝達系を2系統備え、車両走行時には、前記各動力伝達系の何れか一方の動力伝達系に前記駆動源からの動力が伝達されるように前記一方の動力伝達系が備える一方のクラッチを係合状態にさせると共に、他方の動力伝達系が備える他方のクラッチを解放状態にさせる制御を実行する自動変速機の制御装置であって、車両の進行方向と交差する方向に沿って配置される複数の車輪の車輪速度差を算出する車輪速度差算出手段と、該車輪速度差算出手段によって算出される車輪速度差が旋回開始判定閾値を超える場合に、車両が旋回中であると判定する旋回開始判定手段と、前記一方の動力伝達系に前記一方のクラッチを介して前記駆動源から動力が伝達されて車両が走行する場合において、前記旋回開始判定手段によって車両が旋回中であると判定されるときに、前記他方の動力伝達系の変速段を、前記一方の動力伝達系の変速機構で選択される変速段よりも低速側の変速段で準備させるべくプレシフト制御を実行するプレシフト制御手段と、を備えることを要旨とする。
【0009】
一般に、車両の旋回時には、内輪の車輪速度と外輪の車輪速度との間に車輪速度差が発生する。そこで、本発明では、車両の進行方向と交差する方向に沿って配置される複数の車輪の車輪速度差を算出し、該車輪速度差が旋回開始判定閾値を超える場合に、車両が旋回中であると判定される。そして、こうした判定結果に基づき、プレシフト制御が実行される。したがって、カーナビゲーションシステムなどの外部装置からの情報を受信しなくても、車両の走行状態を適切に検出し、該走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、前記旋回開始判定手段によって車両が旋回中であると判定される場合において、前記車輪速度差算出手段によって算出される車輪速度差が旋回終了判定閾値以下となったときに、車両の旋回が終了したと判定する旋回終了判定手段をさらに備え、前記プレシフト制御手段は、前記旋回終了判定手段によって車両の旋回が終了したと判定される場合に、前記他方の動力伝達系の変速段を、前記一方の動力伝達系の変速機構で選択される変速段よりも高速側の変速段で準備させるべくプレシフト制御の実行を許可することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、車両の旋回中において車輪速度差が旋回終了判定閾値以下になった場合には、車両の旋回が終了したと判定され、非旋回時に応じた適切なプレシフト制御が実行される。そのため、カーナビゲーションシステムなどの外部装置からの情報を受信しなくても、車両の旋回終了が適切に検出され、結果として、走行状態に応じた適切なプレシフト制御の実行が許可される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の自動変速機の制御装置において、前記旋回終了判定閾値は、前記旋回開始判定閾値よりも小さい値に設定されることを要旨とする。
一般に、車両の旋回開始時における車輪速度差と車両の旋回終了時における車輪速度差とではヒステリシスが生じる。そこで、本発明では、旋回終了判定閾値を旋回開始判定閾値よりも小さい値に設定することにより、車両の旋回終了のタイミングを適切に検出することが可能になる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の自動変速機の制御装置において、車両の車体速度を算出する車体速度算出手段と、該車体速度算出手段によって算出される車体速度が高速であるほど、旋回開始判定閾値を大きな値に設定する旋回開始判定閾値設定手段と、をさらに備えることを要旨とする。
【0014】
一般に、車両旋回時における内輪と外輪との車輪速度差は、車両のステアリングホイールの転舵角が同一角度であっても、車両の車体速度が高速であるほど大きくなる傾向がある。そこで、本発明では、旋回開始判定閾値は、車体速度が高速であるほど大きな値に設定される。そのため、車両の車体速度に関係なく、車両の旋回開始タイミングが適切に検出される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態における自動変速機が搭載された車両のブロック図。
【図2】本実施形態の自動変速機を示すスケルトン図。
【図3】プレシフト判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図4】旋回判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図5】旋回開始判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図6】旋回終了判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図7】ワインディング判定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図8】各後輪の車輪速度差とプレシフト変速段との関係を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を車両に搭載される自動変速機の制御装置に具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両は、走行時に路面に接触する複数(本実施形態では4つ)の車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能し、且つ後輪RR,RLが従動輪として機能する所謂前輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の踏込み操作量に応じた動力(トルク)が発生する駆動源としてのエンジン12が設けられ、該エンジン12で発生する動力は、自動変速機13などを介して前輪FR,FLに伝達される。本実施形態の車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作態様などに応じてエンジン12の駆動態様を制御する電子制御装置(以下、「エンジンECU」という。)14が設けられ、該エンジンECU14には、アクセルペダル11の開度(「アクセル開度」ともいう。)を検出するためのアクセルセンサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジンECU14は、アクセルセンサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を算出し、該算出結果に関する情報などを後述する自動変速機13用のECU40に送信する。
【0017】
次に、自動変速機13について図2に基づき説明する。
図2に示すように、本実施形態の自動変速機13は、所謂デュアルクラッチ式の前進7段後進1段の変速機である。こうした自動変速機13は、複数(本実施形態では2つ)のクラッチC1,C2と、第1のクラッチC1に連結される第1入力軸15と、第2のクラッチC2に連結される第2入力軸16と、奇数段(1速段、3速段、5速段及び7速段)用の第1歯車変速機構17と、偶数段(2速段、4速段、6速段)及び後進段用の第2歯車変速機構18と、各入力軸15,16と同軸回転可能な出力軸19とを備えている。この出力軸19からは、図示しないディファレンシャルなどを介して前輪FR,FLに動力が伝達される。
【0018】
第1入力軸15は、第1のクラッチC1から所定方向(図2では左右方向)に沿って延びる棒状の部材であって、クラッチ用アクチュエータ20の駆動によって第1のクラッチC1が係合状態になった場合に、所定方向に沿って延びる回転軸線(図示略)を中心に回転する。また、第2入力軸16は、第2のクラッチC2から所定方向に沿って延びる円筒状の部材であって、該第2入力軸16内には、第1入力軸15の第1のクラッチC1側の部位が収容される。そして、第2入力軸16は、クラッチ用アクチュエータ20の駆動によって第2のクラッチC2が係合状態になった場合に、第1入力軸15と同軸で回転する。なお、クラッチC1,C2の係合とは、クラッチC1,C2の入力側と出力側との係合のことをいい、クラッチC1,C2の解放とは、クラッチC1,C2の入力側と出力側とが離間して動力伝達不能になることをいう。
【0019】
第1歯車変速機構17は、第1入力軸15に相対回転可能な状態で保持され、且つ所定方向に沿って順に配置される1速段用変速ギヤ211、7速段用変速ギヤ217、3速段用変速ギヤ213と、出力軸19に一体回転可能な状態で保持される5速段用変速ギヤ215とを備えている。また、第1歯車変速機構17には、各入力軸15,16及び出力軸19に平行に配置されるカウンタ軸22に一体回転可能な状態で固定され、且つ奇数段用の各変速ギヤ211,213,215,217に個別に噛合する複数(本実施形態では4つ)のカウンタギヤ231,233,235,237が設けられている。
【0020】
また、第1歯車変速機構17には、1速段用変速ギヤ211又は7速段用変速ギヤ217を選択する第1変速段選択機構25と、3速段用変速ギヤ213又は5速段用変速ギヤ215を選択する第2変速段選択機構26とが設けられている。各変速段選択機構25,26には、第1入力軸15の外周側において該第1入力軸15と一体回転可能な円筒状のスリーブ24がそれぞれ設けられている。これらスリーブ24は、所定方向における一方側に位置する変速ギヤ(例えば1速段用変速ギヤ211)と所定方向における他方側に位置する変速ギヤ(例えば7速段用変速ギヤ217)との間をそれぞれ移動可能である。
【0021】
また、各変速段選択機構25,26には、スリーブ24を所定方向に沿って移動させるための駆動部27が設けられており、該各駆動部27は、選択用アクチュエータ28A,28Bから駆動力がそれぞれ付与される。そして、駆動部27の駆動によって、スリーブ24が所定方向における一方側(図2では左側)に位置する変速ギヤと係合する第1係合位置又は所定方向における他方側(図2では右側)に位置する変速ギヤと係合する第2係合位置に配置された場合、スリーブ24と係合した変速ギヤは、第1入力軸15と一体回転可能になる。例えば、第2変速段選択機構26のスリーブ24が第2係合位置に配置される場合、5速段用変速ギヤ215には、第1入力軸15からの動力がスリーブ24を介して伝達される。一方、スリーブ24が所定方向における両側に位置する両変速ギヤの間の中立位置に配置される場合、各変速ギヤ211,213,215,217には、第1入力軸15を介して動力が伝達されない。
【0022】
第2歯車変速機構18は、第2入力軸16に相対回転可能な状態で保持され、所定方向に沿って順に配置される偶数段用の各変速ギヤ(2速段用変速ギヤ212、4速段用変速ギヤ214、6速段用変速ギヤ216)及び後進段用変速ギヤ21Rを備えている。また、第2歯車変速機構18には、カウンタ軸22に一体回転可能な状態で固定され、且つ各変速ギヤ212,214,216,21Rに個別対応する複数(本実施形態では4つ)のカウンタギヤ232,234,236,23Rが設けられている。前進偶数段用の各カウンタギヤ232,234,236は、個別対応する各変速ギヤ212,214,216にそれぞれ噛合している。また、後進段用変速ギヤ21Rとカウンタギヤ23Rとの間には、後進段用変速ギヤ21R及びカウンタギヤ23Rに噛合するアイドラギヤ29が設けられ、該アイドラギヤ29は、後進段用変速ギヤ21Rからの動力をカウンタギヤ23Rに伝達可能である。
【0023】
また、第2歯車変速機構18には、2速段用変速ギヤ212又は4速段用変速ギヤ214を選択する第3変速段選択機構31と、6速段用変速ギヤ216又は後進段用変速ギヤ21Rを選択する第4変速段選択機構32とが設けられている。これら各変速段選択機構31,32は、上記第1及び第2変速段選択機構25,26と同様に、第2入力軸16の外周側に配置されるスリーブ24と、選択用アクチュエータ28C,28Dからの駆動力が付与される駆動部27とをそれぞれ備えている。すなわち、第3及び第4変速段選択機構31,32において各スリーブ24は、駆動部27の駆動によって、第1係合位置、第2係合位置及び中立位置の何れかの位置にそれぞれ配置される。そして、スリーブ24と係合した変速ギヤ(例えば2速段用変速ギヤ212)は、第2入力軸16と一体回転可能になる。
【0024】
こうした自動変速機13において変速段を1速段に設定して車両を走行させる場合、各選択用アクチュエータ28A,28Bの駆動によって、第1変速段選択機構25のスリーブ24は、第1係合位置に配置されて1速段用変速ギヤ211に係合する一方、第2変速段選択機構26のスリーブ24は、中立位置に配置される。続いて、クラッチ用アクチュエータ20の駆動によって、第1のクラッチ(一方のクラッチ)C1が係合状態にされると共に、第2のクラッチ(他方のクラッチ)C2が解放状態にされる。すると、エンジン12からの動力は、第1のクラッチC1、第1入力軸15、1速段用変速ギヤ211、カウンタギヤ231、カウンタ軸22、カウンタギヤ235、5速段用変速ギヤ215及び出力軸19などを介して前輪FR,FLに伝達され、車両が走行する。したがって、本実施形態では、第1のクラッチC1、第1入力軸15及び第1歯車変速機構17により、第1の動力伝達系が構成される。
【0025】
また、自動変速機13の変速段を2速段に設定して車両を走行させる場合、各選択用アクチュエータ28C,28Dの駆動によって、第3変速段選択機構31のスリーブ24は、第1係合位置に配置されて2速段用変速ギヤ212に係合する一方、第4変速段選択機構32のスリーブ24は、中立位置に配置される。続いて、クラッチ用アクチュエータ20の駆動によって、第2のクラッチ(一方のクラッチ)C2が係合状態にされると共に、第1のクラッチ(他方のクラッチ)C1が解放状態にされる。すると、エンジン12からの動力は、第2のクラッチC2、第2入力軸16、2速段用変速ギヤ212、カウンタギヤ232、カウンタ軸22、カウンタギヤ235、5速段用変速ギヤ215及び出力軸19などを介して前輪FR,FLに伝達され、車両が走行する。したがって、本実施形態では、第2のクラッチC2、第2入力軸16及び第2歯車変速機構18により、上記第1の動力伝達系と並列に設けた第2の動力伝達系が構成される。
【0026】
次に、自動変速機13の駆動を制御する制御装置としての電子制御装置(以下、「ECU」という。)40について図1及び図2に基づき以下説明する。
図1及び図2に示すように、ECU40のインターフェースには、後輪RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE2,SE3、各クラッチC1,C2の温度を検出するための温度センサSE4,SE5、車両の車体速度を検出するための車体速度センサSE6、及び車両の図示しないブレーキペダルが操作されたか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1が電気的に接続されている。また、ECU40のインターフェースには、クラッチ用アクチュエータ20及び各選択用アクチュエータ28A〜28Dが電気的に接続されている。また、ECU40には、エンジンECU14から送信されるアクセル開度などに関する各種情報が受信される。
【0027】
また、ECU40は、CPU41、ROM42及びRAM43などから構築されるデジタルコンピュータを有している。ROM42には、各アクチュエータ20,28A〜28Dを駆動させて自動変速機13を制御するための各種の制御プログラム(後述するプレシフト判定処理等)、及び各種閾値(後述する周期時間、開始用速度閾値、終了用速度閾値、旋回開始判定閾値、旋回終了判定閾値、旋回開始判定時間、走行距離閾値、回数閾値、基準時間、ワインディング用時間、下限変速段等)などが記憶されている。また、RAM43には、車両の図示しないイグニッションスイッチの「オン」中に適宜書き換えられる各種の情報(後述する車輪速度差、旋回終了後走行距離、車体速度、各経過時間、ワインディングカウンタ、旋回終了判定時間、旋回フラグ、旋回開始フラグ、旋回終了フラグ、ワインディング判定フラグ、プレシフト変速段等)などがそれぞれ記憶される。
【0028】
次に、本実施形態のECU40が実行するプレシフト判定処理ルーチンについて図3〜図7に示す各フローチャート及び図8に示すタイミングチャートに基づき説明する。なお、図8に示すタイミングチャートは、アクセルペダル11が操作される場合のチャートである。
【0029】
さて、車両の図示しないイグニッションスイッチが「ON」に設定されると、ECU40は、プレシフト判定処理ルーチンを実行する。このプレシフト判定処理ルーチンにおいて、ECU40は、車両が旋回中であるか否かを示す旋回フラグFLGcを「OFF」にセットする(ステップS10)。この旋回フラグFLGcは、車両が旋回中である場合には「ON」にセットされる一方、車両が旋回中ではない場合には「OFF」にセットされるフラグである。続いて、ECU40は、車両が旋回していないと仮定した場合の車両の走行状態に応じたプレシフト変速段を通常プレシフト変速段として設定する(ステップS11)。プレシフト変速段とは、現時点でエンジン12から動力が伝達されていない歯車変速機構において、入力軸と一体回転可能な状態で準備される変速段のことである。例えば、ECU40は、エンジンECU14から運転手がアクセルペダル11を操作中である旨の情報を受信する場合、現時点で設定される変速段(例えば4速段)よりも1段だけ高速側の変速段(この場合5速段)を通常プレシフト変速段として選択する。また、ECU40は、ブレーキスイッチSW1からの検出信号に基づき運転手がブレーキペダルを操作中であることを検出した場合、現時点で設定される変速段(例えば4速段)よりも1段だけ低速側の変速段(この場合3速段)を通常プレシフト変速段として選択する。
【0030】
そして、ECU40は、車両が旋回中であるか否かを判定する旋回判定処理(図4にて詳述する。)を実行する(ステップS12)。この旋回判定処理において、車両が旋回中であると判定された場合には旋回フラグFLGcが「ON」にセットされる一方、車両が旋回中ではないと判定された場合には旋回フラグFLGcが「OFF」にセットされる。続いて、ECU40は、旋回フラグFLGcが「ON」であるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13の判定結果が否定判定(FLGc=OFF)である場合、ECU40は、プレシフト変速段をステップS11で算出された通常プレシフト変速段に設定し(ステップS14)、その処理を後述するステップS16に移行する。一方、ステップS13の判定結果が肯定判定(FLGc=ON)である場合、ECU40は、プレシフト変速段を、自動変速機13において現時点で選択される変速段よりも1段だけ低速側の変速段に設定し(ステップS15)、その処理を次のステップS16に移行する。
【0031】
ステップS16において、ECU40は、プレシフト制御を実行する。なお、自動変速機13において現時点で選択される変速段が4速段である場合において、プレシフト変速段が3速段である場合のプレシフト制御について説明する。すなわち、ECU40は、第2変速段選択機構26のスリーブ24を第1係合位置に移動させるべく選択用アクチュエータ28Bを駆動させる。すると、3速段用変速ギヤ213がスリーブ24を介して第1入力軸15と一体回転可能になる。したがって、本実施形態では、ECU40が、現時点でエンジン12からの動力が伝達される一方の動力伝達系とは異なる他方の動力伝達系の変速段を、一方の動力伝達系の歯車変速機構で選択される変速段よりも低速側の変速段で準備させるべくプレシフト制御を実行するプレシフト制御手段としても機能する。なお、自動変速機13において現時点で選択される変速段よりも低速側の変速段で準備させるプレシフト制御のことを「ダウンシフト側へのプレシフト制御」ともいい、高速側の変速段で準備させるプレシフト制御のことを「アップシフト側へのプレシフト制御」ともいう。
【0032】
そして、ECU40は、車両の図示しないイグニッションスイッチが「OFF」であるか否かを判定する(ステップS17)。この判定結果が否定判定(スイッチ=ON)である場合、ECU40は、その処理を前述したステップS11に移行する。一方、ステップS17の判定結果が肯定判定(スイッチ=OFF)である場合、ECU40は、プレシフト判定処理ルーチンを終了する。
【0033】
次に、上記ステップS12の旋回判定処理(旋回判定処理ルーチン)について図4に示すフローチャートに基づき説明する。
さて、旋回判定処理ルーチンにおいて、ECU40は、各車輪速度センサSE2,SE3からの検出信号に基づき従動輪である各後輪RR,RLの車輪速度をそれぞれ算出し、該算出結果に基づき各後輪RR,RLの車輪速度差REVdiffを算出する(ステップS20)。したがって、本実施形態では、車両の旋回状態を数値として表す旋回量として、車両の進行方向とほぼ直交(交差)する方向に沿って配置される各後輪RR,RLの車輪速度差REVdiffを算出するECU40が、車輪速度差算出手段及び旋回量取得手段としても機能する。続いて、ECU40は、旋回フラグFLGcが「OFF」であるか否かを判定する(ステップS21)。この判定結果が否定判定(FLGc=ON)である場合、ECU40は、旋回中であった車両の旋回が終了したか否かを判定するための旋回終了判定処理(図6にて詳述する。)を実行する(ステップS22)。この旋回終了判定処理において、車両の旋回が終了したと判定された場合には旋回終了フラグFLGeが「ON」にセットされる一方、車両の旋回が継続中であると判定された場合には旋回終了フラグFLGeが「OFF」にセットされる。
【0034】
そして、ECU40は、旋回終了フラグFLGeが「ON」であるか否かを判定する(ステップS23)。この判定結果が否定判定(FLGe=OFF)である場合、ECU40は、旋回判定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS23の判定結果が肯定判定(FLGe=ON)である場合、ECU40は、旋回フラグFLGcを「OFF」にセットし(ステップS24)、旋回判定処理ルーチンを終了する。
【0035】
その一方で、ステップS21の判定結果が肯定判定(FLGc=OFF)である場合、ECU40は、車両が旋回を開始したか否かを判定するための旋回開始判定処理(図5にて詳述する。)を実行する(ステップS25)。この旋回開始判定処理において、車両が旋回を開始したと判定された場合には旋回開始フラグFLGsが「ON」にセットされる一方、車両が旋回を開始していないと判定された場合には旋回開始フラグFLGsが「OFF」にセットされる。
【0036】
そして、ECU40は、旋回開始フラグFLGsが「ON」であるか否かを判定する(ステップS26)。したがって、本実施形態では、ECU40が、旋回開始判定手段としても機能する。ステップS26の判定結果が否定判定(FLGs=OFF)である場合、ECU40は、前回の旋回が終了してからの車両の走行距離として旋回終了後走行距離Trpを更新する(ステップS27)。具体的に、ECU40は、旋回終了後走行距離TrpをRAM43から読み出し、該読み出した旋回終了後走行距離Trpに対して、車両の車体速度VSを周期時間Tで除算した値を加算し、該加算結果を最新の旋回終了後走行距離TrpとしてRAM43に上書き記憶させる。なお、周期時間Tは、前回にステップS27の処理が実行されてからの経過時間であり、車体速度VSは、後述するステップS40,S50で算出される。したがって、本実施形態では、ECU40が、走行距離取得手段としても機能する。その後、ECU40は、旋回判定処理ルーチンを終了する。
【0037】
一方、ステップS26の判定結果が肯定判定(FLGs=ON)である場合、ECU40は、旋回フラグFLGcを「ON」にセットし(ステップS28)、車両がワインディング状態であるか否かを判定するワインディング判定処理(図7にて詳述する。)を実行する(ステップS29)。ワインディング状態とは、コーナーが連続する所謂ワインディングロードを車両が走行する場合のように、車両の旋回が短期間で連続する状態のことである。続いて、ECU40は、車両が旋回中であるため、旋回終了後走行距離Trpを「0(零)」にリセットし(ステップS30)、旋回判定処理ルーチンを終了する。
【0038】
次に、上記ステップS25の旋回開始判定処理(旋回開始判定処理ルーチン)について、図5に示すフローチャート及び図8に示すタイミングチャートに基づき説明する。
さて、旋回開始判定処理ルーチンにおいて、ECU40は、車体速度センサSE6からの検出信号に基づき車両の車体速度VSを算出する(ステップS40)。したがって、本実施形態では、ECU40が、車体速度算出手段としても機能する。続いて、ECU40は、ステップS40で算出された車体速度VSが予め設定された開始用速度閾値VSth1(例えば、30km/h(時速30キロメータ))を超えたか否かを判定する(ステップS41)。なお、開始用速度閾値VSth1未満の車体速度VSで車両が走行する場合には、車両が旋回したとしても後輪RR,RLの車輪速度差REVdiffが小さく、旋回に関する判定の正確性が低下することがある。そこで、本実施形態では、車体速度VSが開始用速度閾値VSth1を超える場合に、車輪速度差REVdiffを用いて車両が旋回中であるか否かが判定される。
【0039】
ステップS41の判定結果が肯定判定(VS>VSth1)である場合、ECU40は、自動変速機13において現時点で選択される変速段が予め設定された所定の変速段としての下限変速段(例えば1速段)よりも高速側の変速段であるか否かを判定する(ステップS42)。この下限変速段は、自動変速機13において現時点で選択される変速段からダウンシフトされる可能性が低い、又は可能性がないと判断される変速段である。ステップS42の判定結果が肯定判定である場合、ECU40は、自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段よりも高速側の変速段であるため、上記ステップS20で算出された車輪速度差REVdiffが予め設定された旋回開始判定閾値STthを超えたか否かを判定する(ステップS43)。この旋回開始判定閾値STthは、各後輪RR,RLの車輪速度差REVdiffから車両が旋回を開始したか否かを判定するための基準値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。したがって、本実施形態では、ECU40が、車両が旋回中であるか否かを判定する旋回開始判定手段としても機能する。ステップS43の判定結果が肯定判定(REVdiff>STth)である場合、ECU40は、車両の旋回が開始されてからの経過時間である第1経過時間T1を更新し(ステップS44)、その処理を後述するステップS46に移行する。
【0040】
その一方で、ステップS41,S42,S43の各判定処理のうち少なくとも一つが否定判定(VS≦VSth1、自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段、又はREVdiff≦STth)である場合、ECU40は、車両が旋回中であるか否かの判定が不能、ダウンシフトの実行が不能及び車両が旋回中ではないのうち少なくとも一つの状態であると判断し、第1経過時間T1を「0(零)」にリセットする(ステップS45)。その後、ECU40は、その処理を次のステップS46に移行する。
【0041】
ステップS46において、ECU40は、第1経過時間T1が予め設定された旋回開始判定時間T1th(例えば2秒)を超えたか否かを判定する。この旋回開始判定時間T1thは、ステップS44が複数回連続して肯定判定となった場合に車両の旋回が開始したと判断するための値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。この判定結果が否定判定(T1≦T1th)である場合、ECU40は、旋回開始フラグFLGsを「OFF」にセットし(ステップS47)、旋回開始判定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS46の判定結果が肯定判定(T1>T1th)である場合、ECU40は、旋回開始フラグFLGsを「ON」にセットし(ステップS48)、旋回開始判定処理ルーチンを終了する。
【0042】
すなわち、図8のタイミングチャートに示すように、第1のタイミングt1では、車輪速度差REVdiffが旋回開始判定閾値STthを超えても、第1経過時間T1が旋回開始判定時間T1th以下であるため、旋回開始フラグFLGs及び旋回フラグFLGcが共に「OFF」にセットされる。そのため、プレシフト変速段は、自動変速機13において現時点で選択される変速段(4速段)よりも高速側の変速段(5速段)に設定され、アップシフト側へのプレシフト制御が継続される。その後、第1経過時間T1が旋回開始判定時間T1thを超えると、旋回開始フラグFLGs及び旋回フラグFLGcが共に「ON」にセットされる(第2のタイミングt2)。そして、プレシフト変速段は、自動変速機13において現時点で選択される変速段(4速段)よりも低速側の変速段(3速段)に変更され、ダウンシフト側へのプレシフト制御が実行される。
【0043】
次に、上記ステップS22の旋回終了判定処理(旋回終了判定処理ルーチン)について、図6に示すフローチャート及び図8に示すタイミングチャートに基づき説明する。
さて、旋回終了判定処理ルーチンにおいて、ECU40は、車体速度センサSE6からの検出信号に基づき車両の車体速度VSを算出する(ステップS50)。続いて、ECU40は、ステップS50で算出された車体速度VSが予め設定された終了用速度閾値VSth2(例えば、30km/h)を超えたか否かを判定する(ステップS51)。この終了用速度閾値VSth2を設定する理由は、上記開始用速度閾値VSth1の場合と同様である。ステップS51の判定結果が肯定判定(VS>VSth2)である場合、ECU40は、自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段(例えば1速段)よりも高速側の変速段であるか否かを判定する(ステップS52)。
【0044】
ステップS51,S52の各判定処理のうち少なくとも一つが否定判定(VS≦VSth2、又は自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段)である場合、ECU40は、車両が旋回中であるか否かの判定が不能、又はダウンシフトの実行が不能であると判断し、その処理を次のステップS58に移行する。
【0045】
一方、ステップS52の判定結果が肯定判定である場合、ECU40は、自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段よりも高速側の変速段であるため、上記ステップS20で算出された車輪速度差REVdiffが予め設定された旋回終了判定閾値ENDth未満であるか否かを判定する(ステップS53)。この旋回終了判定閾値ENDthは、各後輪RR,RLの車輪速度差から車両の旋回が終了したか否かを判定するための基準値であって、旋回開始判定閾値STthよりも小さい値に予め設定される。したがって、本実施形態では、ECU40が、旋回終了判定手段としても機能する。ステップS53の判定結果が肯定判定(REVdiff<ENDth)である場合、ECU40は、車両の旋回が終了してからの経過時間である第2経過時間T2を更新し(ステップS54)、その処理を後述するステップS56に移行する。一方、ステップS53の判定結果が否定判定(REVdiff≧ENDth)である場合、ECU40は、第2経過時間T2を「0(零)」にリセットし(ステップS55)、その処理を次のステップS56に移行する。
【0046】
ステップS56において、ECU40は、第2経過時間T2が予め設定された旋回終了判定時間T2thを超えたか否かを判定する。この旋回終了判定時間T2thは、ステップS53が複数回連続して肯定判定となった場合に車両の旋回が終了したと判断するための値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。ステップS56の判定結果が否定判定(T2≦T2th)である場合、ECU40は、車両の旋回が継続中であるため、旋回終了フラグFLGeを「ON」にセットし(ステップS57)、旋回終了判定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS56の判定結果が肯定判定(T2>T2th)である場合、ECU40は、その処理を次のステップS58に移行する。
【0047】
ステップS58において、ECU40は、旋回終了フラグFLGeを「OFF」にセットし、その後、旋回終了判定処理ルーチンを終了する。
すなわち、図8のタイミングチャートに示すように、第3のタイミングt3では、車輪速度差REVdiffが旋回終了判定閾値ENDth未満であっても、第2経過時間T2が旋回終了判定時間T2th以下であるため、旋回終了フラグFLGeが「OFF」にセットされ、旋回フラグFLGcが「ON」にセットされる。そのため、プレシフト変速段は、自動変速機13において現時点で選択される変速段(4速段)よりも低速側の変速段(3速段)に設定され、ダウンシフト側へのプレシフト制御が継続される。その後、第2経過時間T2が旋回終了判定時間T2thを超えると、旋回終了フラグFLGeが「ON」にセットされ、旋回フラグFLGcが「OFF」にセットされる(第4のタイミングt4)。そして、プレシフト変速段は、自動変速機13において現時点で選択される変速段(4速段)よりも高速側の変速段(5速段)に変更され、アップシフト側へのプレシフト制御が実行される。
【0048】
次に、上記ステップS29のワインディング判定処理(ワインディング判定処理ルーチン)について、図7に示すフローチャート及び図8に示すタイミングチャートに基づき説明する。
【0049】
さて、ワインディング判定処理ルーチンにおいて、ECU40は、ステップS27で更新された旋回終了後走行距離Trpが予め設定された走行距離閾値Trpth未満であるか否かを判定する(ステップS60)。この走行距離閾値Trpthは、車両の前回の旋回が終了してから今回の旋回が開始されるまでの走行距離が短距離であるか否かを判断するための基準値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。ステップS60の判定結果が否定判定(Trp≧Trpth)である場合、ECU40は、車両がワインディング状態ではないと判断し、ワインディングカウンタCwを「0(零)」にリセットし(ステップS61)、ワインディング判定フラグFLGwを「OFF」にセットする(ステップS62)。その後、ECU40は、その処理を後述するステップS66に移行する。
【0050】
一方、ステップS60の判定結果が肯定判定(Trp<Trpth)である場合、ECU40は、車両がワインディング状態である可能性があるため、ワインディングカウンタ(回数)Cwを「1」だけインクリメントする(ステップS63)。したがって、本実施形態では、ECU40が、回数計数手段としても機能する。続いて、ECU40は、ステップS63で更新したワインディングカウンタCwの値が予め設定された回数閾値Cwth(例えば3回)以上であるか否かを判定する(ステップS64)。この回数閾値Cwthは、車両の旋回が短期間で連続する状態であるか否かを判断するための基準値であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。ステップS64の判定結果が否定判定(Cw<Cwth)である場合、ECU40は、その処理を後述するステップS66に移行する。一方、ステップS64の判定結果が肯定判定(Cw≧Cwth)である場合、ECU40は、車両がワインディング状態であると判断し、ワインディング判定フラグFLGwを「ON」にセットし(ステップS65)、その処理を次のステップS66に移行する。
【0051】
ステップS66において、ECU40は、ワインディング判定フラグFLGwが「ON」であるか否かを判定する。したがって、本実施形態では、ECU40が、ワインディング判定手段としても機能する。ステップS66の判定結果が否定判定(FLGw=OFF)である場合、ECU40は、旋回終了判定時間T2thを基準時間T2baseに設定し(ステップS67)、ワインディング判定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS66の判定結果が肯定判定(FLGw=ON)である場合、ECU40は、車両がワインディング状態であると判断し、旋回終了判定時間T2thを基準時間T2baseよりも長時間に予め設定されたワインディング用時間T2wに設定し(ステップS68)、ワインディング判定処理ルーチンを終了する。したがって、本実施形態では、ECU40が、判定時間設定手段としても機能する。
【0052】
すなわち、図8のタイミングチャートに示すように、第5のタイミングt5では、車両の前回の旋回が終了してから今回の旋回が開始するまでの旋回終了後走行距離Trpが走行距離閾値Trpthを超えるため、ワインディングカウンタCwは、「0(零)」にリセットされる。また、ワインディング判定フラグFLGwは、「OFF」にセットされる。続いて、第6のタイミングt6では、旋回終了後走行距離Trpが走行距離閾値Trpth未満であるため、ワインディングカウンタCwが「1」だけインクリメントされる。しかし、第6のタイミングt6では、ワインディングカウンタCwが回数閾値Cwth(=3)未満であるため、ワインディング判定フラグFLGwは「ON」にセットされない。そして、第7のタイミングt7では、第6のタイミングt6と同様に、旋回終了後走行距離Trpが走行距離閾値Trpth未満であるため、ワインディングカウンタCwが「1」だけインクリメントされる。しかし、第7のタイミングt7でも、ワインディングカウンタCwが回数閾値Cwth未満であるため、ワインディング判定フラグFLGwは未だ「ON」にセットされない。
【0053】
続いて、第8のタイミングt8では、旋回終了後走行距離Trpが走行距離閾値Trpth未満であるため、ワインディングカウンタCwが「1」だけインクリメントされる。しかも、第8のタイミングt8では、ワインディングカウンタCwが回数閾値Cwthと等しくなるため、ワインディング判定フラグFLGwは「ON」にセットされる。そのため、旋回終了判定時間T2thは、ワインディング用時間T2wに設定される。その結果、車両のワインディング状態が継続される間は、車両が旋回していない場合でもダウンシフト側へのプレシフト制御が継続される。例えば、コーナーとコーナーとの間の短い直線で車両を加速させるためにダウンシフトが実行される場合、第2のクラッチC2を解放状態にして第1のクラッチC1を係合状態にするだけで、ダウンシフトが完了する。
【0054】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両がワインディング状態である場合、ダウンシフト側へのプレシフト制御が継続される。そのため、ダウンシフト側へのプレシフト制御とアップシフト側へのプレシフト制御とが交互に繰り返されることが抑制され、ECU40の制御負荷を低減できる。また、例えば、自動変速機13において現時点で選択される変速段が4速段である場合において、コーナーとコーナーとの間の短い直線で車両を加速させるためにダウンシフトが実行されたときには、第2のクラッチC2を解放状態にして第1のクラッチC1を係合状態にするだけでダウンシフトが完了する。すなわち、車両がワインディング状態であると判定された場合には、該走行状況に応じた適切なプレシフト制御を実行できる。
【0055】
(2)車両の旋回が連続する場合において、車両の前回の旋回が終了してから次の旋回が開始するまでの車両の旋回終了後走行距離Trpが走行距離閾値Trpth未満であることが3回連続する場合に、ワインディング状態であると判定される。すなわち、カーナビゲーションシステムなどの外部装置からの情報を利用することなく、従動輪である後輪RR,RL用の車輪速度センサSE2,SE3からの検出信号を用いることで、車両がワインディング状態であることを検出できる。したがって、カーナビゲーションシステムなどの特別な装置を車両に搭載させることなく、車両のワインディング状態を検出できる。
【0056】
(3)車両がワインディング状態であると判定された場合には、旋回終了判定時間T2thが基準時間T2baseよりも長時間であるワインディング用時間T2wに設定される。このように旋回終了判定時間T2thが設定された状態では、旋回終了判定時間T2thが基準時間T2baseに設定される場合に比して、車輪速度差REVdiffが旋回終了判定閾値ENDth未満になっても旋回終了フラグFLGeが「ON」にセットされ難くなる。そのため、車両がワインディング状態である場合に、アップシフト側へのプレシフト制御が実行される可能性を低減できる。
【0057】
(4)一般に、車両の旋回開始時における車輪速度差REVdiffと車両の旋回終了時における車輪速度差REVdiffとではヒステリシスが生じる。そこで、本実施形態では、旋回終了判定閾値ENDthを旋回開始判定閾値STthよりも小さい値に設定することにより、車両の旋回終了のタイミングを適切に検出できる。
【0058】
(5)また、もし仮に旋回終了判定閾値ENDthを旋回開始判定閾値STth又は旋回開始判定閾値STthよりも大きな値に設定したとすると、車両の旋回が開始されたと判定された直後に、車両の旋回が終了したと判定される可能性がある。その点、本実施形態では、旋回終了判定閾値ENDthが旋回開始判定閾値STthよりも小さい値に設定されるため、車両の旋回時には、旋回中であると適切に判定することができる。
【0059】
(6)自動変速機13において現時点で選択される変速段が下限変速段(1速段)である場合、ダウンシフト不能であると判定され、アップシフト側へのプレシフト制御が実行される。したがって、自動変速機13において現時点で選択される変速段をも加味した適切なプレシフト制御を実行できる。
【0060】
(7)一般に、車両の旋回時には、内輪の車輪速度と外輪の車輪速度との間に車輪速度差REVdiffが発生する。そこで、本実施形態では、従動輪である各後輪RR,RLの車輪速度差REVdiffを算出し、該車輪速度差REVdiffが旋回開始判定閾値STth以上である場合に、車両が旋回中であると判定される。したがって、カーナビゲーションシステムなどの外部装置からの情報を受信しなくても、車両の走行状態を適切に検出し、該走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できる。
【0061】
(8)車両の旋回中において車輪速度差REVdiffが旋回終了判定閾値ENDth以下になった場合には、車両の旋回が終了したと判定され、非旋回時に応じた適切なプレシフト制御が実行される。そのため、カーナビゲーションシステムなどの外部装置からの情報を受信しなくても、車両の旋回終了を適切に検出できると共に、走行状態に応じた適切なプレシフト制御を実行できる。
【0062】
(9)本実施形態では、車輪速度差REVdiffが旋回開始判定閾値STthを超えてからの第1経過時間T1が旋回開始判定時間T1thを超えた場合に、車両の旋回が開始されたと判定される。また、車両の旋回中において車輪速度差REVdiffが旋回終了判定閾値ENDth未満になってからの第2経過時間T2が旋回終了判定時間T2thを超えた場合に、車両の旋回が終了したと判定される。したがって、各車輪速度センサSE2,SE3からの検出信号にノイズなどの外乱が入ることなどによる旋回に関する誤判定を抑制できる。
【0063】
(10)また、車両の車体速度VSが開始用速度閾値VSth1未満である場合には、車輪速度差REVdiffを用いて車両の旋回が開始されたか否かの判定結果の正確性が低下することがあるため、車両が旋回していないものと判定される。そのため、車輪速度差REVdiffを用いて車両の旋回が開始されたと判定した場合における判定精度の向上に貢献できる。同様に、車両の車体速度VSが終了用速度閾値VSth2未満である場合には、車輪速度差REVdiffを用いて車両の旋回が終了したか否かの判定結果の正確性が低下することがあるため、車両が旋回していないものと判定される。そのため、車輪速度差REVdiffを用いて車両の旋回が終了したと判定した場合における判定精度の向上に貢献できる。
【0064】
なお、本実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、旋回開始判定閾値STthを、車両の車体速度VSが大きいほど大きな値に設定してもよい。この場合、ECU40が、旋回開始判定閾値設定手段としても機能する。一般に、車両の図示しないステアリングホイールの転舵角が同一角度であっても、内輪と外輪との車輪速度差は、車両の車体速度VSが高速であるほど大きくなる傾向がある。そのため、旋回開始判定閾値STthを車体速度VSに応じて設定することにより、車両の車体速度VSに関係なく、車両の旋回開始タイミングを適切に検出できる。
【0065】
同様に、旋回終了判定閾値ENDthを、車両の車体速度VSが大きいほど大きな値に設定してもよい。この場合、車両の車体速度VSに関係なく、車両の旋回が終了したタイミングを適切に検出できる。
【0066】
・実施形態において、旋回終了判定閾値ENDthを、旋回開始判定閾値STthと同等にしてもよい。この場合、旋回開始フラグFLGsが「OFF」である間、旋回終了判定処理(ステップS22)を実行させないようにしてもよい。
【0067】
・実施形態において、下限変速段を、その時点の車両の車体速度VSに応じて変更してもよい。例えば、車体速度VSが50km/h未満である場合には下限変速段を1速段に設定し、車体速度VSが50km/h以上である場合には下限変速段を2速段に設定してもよい。これは、車体速度VSが50km/h以上である場合に、変速段を2速段や1速段にして車両を走行させる可能性が低いためである。
【0068】
・実施形態において、ワインディング判定フラグFLGwが「ON」である場合において、車両の前回の旋回から次の旋回までの旋回終了後走行距離Trpを算出し、該旋回終了後走行距離Trpが所定距離以上であるときに、ワインディング状態が解消されたと判定してもよい。なお、所定距離は、走行距離閾値Trpthよりも大きな値であることが望ましい。
【0069】
・実施形態において、回数閾値Cwthを、「3」以外の任意の複数回(例えば4回)に設定してもよい。
・実施形態において、車両を、後輪駆動の車両に具体化してもよい。この場合、従動輪である各前輪FR,FLの車輪速度差を算出することになる。
【0070】
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記旋回開始判定手段は、予め設定された旋回開始判定時間の間、前記車輪速度差算出手段によって算出される車輪速度差が前記旋回開始判定閾値以上であることが継続される場合に、車両が旋回中であると判定することを特徴とする。
【符号の説明】
【0071】
12…駆動源としてのエンジン、13…自動変速機、15,16…動力伝達系を構成する入力軸、17,18…動力伝達系を構成する歯車変速機構、40…制御装置、ワインディング判定手段、プレシフト制御手段、旋回量取得手段、旋回開始判定手段、旋回終了判定手段、走行距離取得手段、回数計測手段、判定時間設定手段、車輪速度差算出手段、車体速度算出手段、旋回開始判定閾値設定手段としてのECU、C1,C2…動力伝達系を構成するクラッチ、Cw…回数としてのワインディングカウンタ、Cwth…回数閾値、ENDth…旋回終了判定閾値、FR,FL,RR,RL…車輪、REVdiff…旋回量としての車輪速度差、STth…旋回開始判定閾値、T1th…旋回開始判定時間、T2th…旋回終了判定時間、T2base…基準時間、Trp…旋回終了後走行距離、Trpth…走行距離閾値、VS…車体速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を断・接制御するためのクラッチ及び該クラッチに動力伝達可能な状態で連結される変速機構を有する動力伝達系を2系統備え、車両走行時には、前記各動力伝達系の何れか一方の動力伝達系に前記駆動源からの動力が伝達されるように前記一方の動力伝達系が備える一方のクラッチを係合状態にさせると共に、他方の動力伝達系が備える他方のクラッチを解放状態にさせる制御を実行する自動変速機の制御装置であって、
車両の進行方向と交差する方向に沿って配置される複数の車輪の車輪速度差を算出する車輪速度差算出手段と、
該車輪速度差算出手段によって算出される車輪速度差が旋回開始判定閾値を超える場合に、車両が旋回中であると判定する旋回開始判定手段と、
前記一方の動力伝達系に前記一方のクラッチを介して前記駆動源から動力が伝達されて車両が走行する場合において、前記旋回開始判定手段によって車両が旋回中であると判定されるときに、前記他方の動力伝達系の変速段を、前記一方の動力伝達系の変速機構で選択される変速段よりも低速側の変速段で準備させるべくプレシフト制御を実行するプレシフト制御手段と、を備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記旋回開始判定手段によって車両が旋回中であると判定される場合において、前記車輪速度差算出手段によって算出される車輪速度差が旋回終了判定閾値以下となったときに、車両の旋回が終了したと判定する旋回終了判定手段をさらに備え、
前記プレシフト制御手段は、前記旋回終了判定手段によって車両の旋回が終了したと判定される場合に、前記他方の動力伝達系の変速段を、前記一方の動力伝達系の変速機構で選択される変速段よりも高速側の変速段で準備させるべくプレシフト制御の実行を許可することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記旋回終了判定閾値は、前記旋回開始判定閾値よりも小さい値に設定されることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
車両の車体速度を算出する車体速度算出手段と、
該車体速度算出手段によって算出される車体速度が高速であるほど、旋回開始判定閾値を大きな値に設定する旋回開始判定閾値設定手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236633(P2010−236633A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85859(P2009−85859)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】