説明

自動変速機の油圧供給装置

【課題】機械式ポンプと電動ポンプとを備えた自動変速機の油圧供給装置において、アイドルストップ制御によるエンジン停止中に自動変速機に作動油を供給する電動ポンプを効率的に作動させつつ、エンジン再始動時のトルクショックの発生を防止する。
【解決手段】自動変速機3の油圧供給装置4は、エンジン1により駆動される機械式ポンプ41及び電気モータ42aにより駆動される電動ポンプ42を含む。ECU10は、アイドルストップ制御によるエンジン1の停止中に電気モータ42aを作動させるとともに、エンジン1を再始動させる再始動要求の発生後に停止条件が満たされることによって電気モータ42aを停止させる。また、ECU10は、エンジンの再始動要求の発生タイミング及び該再始動要求の発生時における機械式ポンプ41の作動状態に応じて前記停止条件を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の油圧供給装置に関し、特に運転条件に応じてエンジンの停止及び再始動を行うアイドルストップ制御を実施する車両に適用され、前記エンジンに接続された自動変速機に油圧を供給する油圧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アイドルストップ制御を実施する車両において、エンジンによって駆動される機械式オイルポンプの他に電気モータによって駆動される電動オイルポンプを設け、アイドルストップ制御によるエンジンの停止中(アイドルストップ中)においては電動オイルポンプを駆動して自動変速機に油圧を供給するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−221980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の車両においては、アイドルストップ条件が非成立となってエンジン始動指令を出力した後、エンジン回転数が所定回転数となったときに電気モータの作動を停止させて電動オイルポンプ停止するようにしている。
しかし、このように電動オイルポンプの停止条件を一律に設定してしまうと、エンジンの停止要求によってエンジンが実際に停止するまでの間にエンジン始動指令が出力された場合に自動変速機に供給される油圧が不足して再始動時のトルクショックが発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、エンジンにより駆動される機械式ポンプと電気モータにより駆動される電動ポンプとを備えた自動変速機の油圧供給装置において、アイドルストップ制御によるエンジン停止中に自動変速機に作動油を供給する電動ポンプを効率的に作動させつつ、エンジン再始動時のトルクショックの発生を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面による自動変速機の油圧供給装置は、運転条件に応じてエンジンの停止及び再始動を行うアイドルストップ制御を実施する車両に適用され、前記エンジンに連結された自動変速機に油圧を供給する。この自動変速機の油圧供給装置は、前記エンジンにより駆動されて前記自動変速機に作動油を供給する機械式ポンプと、電気モータにより駆動されて前記自動変速機に作動油を供給する電動ポンプと、前記アイドルストップ制御による前記エンジンの停止中に前記電気モータを作動させるとともに、前記エンジンを再始動させる再始動要求の発生後に停止条件が満たされることによって前記電気モータを停止させる電動ポンプ制御手段と、を備え、前記電動ポンプ制御手段は、前記再始動要求の発生タイミング及び該再始動要求の発生時における前記機械式ポンプの作動状態に応じて前記停止条件を変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明による自動変速機の油圧供給装置によれば、アイドルストップ制御が実施された際に、機械式ポンプによって自動変速機に必要油圧を供給できる状態になると電動ポンプを停止させることで電動ポンプを効率的に作動させることができる。また、特にエンジンの再始動失敗時に電動ポンプが停止することを抑制し、エンジンが再始動した時に自動変速機の油圧不足によってトルクショックが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態による自動変速機の油圧供給装置を含む車両の動力伝達系の概略構成を示す図である。
【図2】上記実施形態におけるアイドルストップ制御及び電動オイルポンプの制御のフローチャートである。
【図3】上記実施形態におけるアイドルストップ制御及び電動オイルポンプの制御のタイムチャートである。
【図4】上記実施形態におけるアイドルストップ制御及び電動オイルポンプの制御のタイムチャートである。
【図5】上記実施形態におけるアイドルストップ制御及び電動オイルポンプの制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態ついて説明する。
図1は、本発明の一実施形態による油圧供給装置を含む車両の動力伝達系の概略構成を示している。図1において、エンジン(ENG)1の出力は、トルクコンバータ2を介して自動変速機3に入力され、その後、図示省略した車両の駆動輪に伝達される。
【0010】
エンジン1における各種制御は、エンジンコントロールユニット(ECU)10によって実行される。このため、ECU10には、エンジン回転数、車速、運転者によるブレーキ操作やアクセル操作などを検出する各種センサ、スイッチ(いずれも図示省略)からの情報が入力される。また、ECU10は、運転者によってブレーキが操作されている状態にあり(ブレーキON)、かつ、車速が0(km/h)である等のアイドルストップ条件が成立するとエンジン停止要求を発生してエンジン1を停止させ、その後、運転者によるブレーキ操作が解除され(ブレーキOFF)又はアクセルが操作される(アクセルON)等の再始動条件が成立するとエンジン再始動要求を発生してエンジン1を再始動させるアイドルストップ制御を実施する。
【0011】
自動変速機3は、締結要素としての発進クラッチ(前進クラッチ+後進クラッチ)31と、変速機構としての無段変速機32と、油圧制御バルブ(C/V)33と、を備える。
【0012】
発進クラッチ31は、例えば湿式多板クラッチであり、図示省略した前進用クラッチ板及び後進用クラッチ板を含む。前進用クラッチ板及び後進用クラッチ板は、油圧シリンダのピストンによって駆動されてその締結状態(締結力)が制御される。具体的には、油圧シリンダの油圧を制御して、前進時には解放状態にある前進用クラッチ板を締結し、前進駆動力に見合った前進クラッチ圧に制御することで前進駆動力を伝達することができ、後進時には解放状態にある後進用クラッチ板を締結し、後進駆動力に見合った後進クラッチ圧に制御することで後進駆動力を伝達することができる。
【0013】
無段変速機32は、入力側のプライマリプーリ34と、出力側のセカンダリプーリ35と、プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35に巻回されるベルト部材36と、プライマリプーリ34の有効径を変更させる油圧シリンダ37と、セカンダリプーリ35の有効径を変更させる油圧シリンダ38と、を備える。この無段変速機32は、油圧シリンダ37,38の油圧を制御してプーリ比(セカンダリプーリ35の有効径/プライマリプーリ34の有効径)を変化させることで変速比を無段階に変化させることができる。
【0014】
油圧制御バルブ(C/V)33は、トランスミッションコントロールユニット(TCU)20によって制御され、油圧供給装置4から供給された作動油の流量等を調整して発進クラッチ31(の油圧シリンダ)、無段変速機32の油圧シリンダ37及び油圧シリンダ38のそれぞれに油圧を供給する。TCU20は、ECU10と相互に通信可能に接続されており、油圧制御バルブ(C/V)33を介して、シフトレンジの選択位置に応じた発進クラッチ31の締結制御を行うとともに、車両の運転状態に応じて無段変速機32の変速制御を実行する。
【0015】
油圧供給装置4は、機械式オイルポンプ(O/P)41と、電動オイルポンプ(ELOP)42と、を備えており、オイルパン43に貯留した作動油を吸い上げて自動変速機3(更に言えば、油圧制御バルブ(C/V)33)に供給する。
機械式オイルポンプ(O/P)41は、トルクコンバータ2と自動変速機3との間に接続されており、エンジン1によって駆動される。一方、電動オイルポンプ(ELOP)42は、図示省略したバッテリから供給される電力によって作動する電気モータ42aによって駆動され、この電気モータ42a(すなわち、電動オイルポンプ42)はTCU20によって制御される。もちろん、TCU20とは別にポンプコントロールユニットを設け、このポンプコントロールユニットが電動オイルポンプ(ELOP)42(電気モータ42a)を制御するように構成してもよい。
【0016】
ここで、油圧供給装置4における油路の接続関係を説明する。
機械式オイルポンプ(O/P)41の吸引側は、第1油路51によってオイルパン43内に配置されたストレーナ44に接続され、吐出側は、第2油路52によって自動変速機3の油圧制御バルブ(C/V)33に接続されている。第1油路51は途中で分岐しており、この分岐した第3油路53は電動オイルポンプ(ELOP)42の吸引側に接続されている。電動オイルポンプ(ELOP)42の吐出側は、第4油路54によって第2油路52の途中に接続されており、第4油路54は、第5油路55によって第3油路53に接続されている。また、第4油路54には、機械式オイルポンプ(O/P)41から吐出された作動油が電動オイルポンプ(ELOP)42側に流れ込まないように逆止弁56が設けられており、第5油路55には、第4油路54内の作動油圧が所定値以上になると開放されるリリーフ弁57が設けられている。さらに、第2油路52には、自動変速機3(油圧制御バルブ(C/V)33)に供給される作動油圧を検出する油圧センサ58が設けられている。
【0017】
以上のように構成された油圧供給装置4において、エンジン1によって機械式オイルポンプ(O/P)41が駆動されているときは、この機械式オイルポンプ(O/P)41によってオイルパン43内の作動油が吸い上げられて自動変速機3の油圧制御バルブ(C/V)33に供給される。一方、アイドルストップ制御によってエンジン1が停止している間は、電気モータ42aを作動させて電動オイルポンプ(ELOP)42によってオイルパン43内の作動油を吸い上げて自動変速機3の油圧制御バルブ(C/V)33に供給する。
【0018】
ところで、電動オイルポンプ(ELOP)42は、アイドルストップ制御によるエンジン1の停止中に自動変速機3に油圧を供給するために設けられるものであり、可能な限り消費電力を抑制することが望まれる。このため、本実施形態においては、エンジン1が再始動して機械式オイルポンプ(O/P)41によって作動油圧を自動変速機3に供給できるようになったときに電動オイルポンプ42を停止するようにしている。具体的には、エンジン1の再始動要求が発生した後、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が所定の判定値以上となると(すなわち、停止条件を満たすと)電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を停止する。これにより、電動オイルポンプ(ELOP)42を必要以上に作動させてしまうことを抑制でき、電動オイルポンプ(ELOP)42を効率的に作動させることができる。
【0019】
しかし、この場合であっても次のような課題がある。すなわち、エンジン1の停止要求によってエンジン1が実際に停止するまでの間にエンジン1の再始動要求が発生した場合に、エンジン1が再始動に失敗してエンジン1が再始動していないにもかかわらず電動オイルポンプ(ELOP)42を停止して、自動変速機3に供給される油圧が不足するおそれがある。より具体的に言えば、前記再始動要求の発生時における機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上であると電動オイルポンプ(ELOP)42は直ちに停止することになる。このときエンジン1が再始動を失敗するとエンジン回転数は更に低下してほぼ0(rpm)となり、また、電動オイルポンプ(ELOP)42も停止しているので、自動変速機3にはほとんど油圧が供給されない状態となる。エンジン1は再始動に失敗しても繰り返し再始動を試みるから、その結果、自動変速機3の前進クラッチが完全に解放された状態でエンジン1が再始動することになる。そうすると、エンジン1の再始動時において、トルクが発生してから前進クラッチが締結されることとなってトルクショック(前進クラッチの締結ショック)が発生する。
【0020】
そこで、本実施形態においては、エンジン1の再始動要求の発生タイミング及び該再始動要求の発生時における機械式オイルポンプ(O/P)41の作動状態に応じて電動オイルポンプ(ELOP)42の停止条件を変更することで、上述のトルクショックの発生を抑制するようにしている。ここで、機械式オイルポンプ(O/P)41はエンジン1によって駆動されて作動油を供給するものであるから、機械式オイルポンプ(O/P)41の作動状態には、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧はもちろん、機械式オイルポンプ(O/P)41の回転数(すなわち、エンジン回転数)も含まれる。但し、作動油の温度特性等によって同じ回転数であっても機械式オイルポンプ(O/P)41から吐出される作動油圧が変動するおそれがあることから、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧を用いるのが好ましい。このため、以下では、機械式オイルポンプ(O/P)41の作動状態として機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧を用いた場合を例に説明する。
【0021】
図2は、ECU10及びTCU20によって実行されるアイドルストップ制御及び電動オイルポンプ42の制御のフローチャートである。このフローチャートは、アイドルストップ許可条件が成立すると実行される。
なお、本実施形態におけるアイドルストップ許可条件は、(1)運転者によるブレーキが操作されており、かつ、(2)車速が所定速度(例えば10km/h)である、ことである。但し、これに限られるものではなく、車両が停止する直前又は停止後の状態をアイドルストップ許可条件とすることができる。
【0022】
ステップS1では、電気モータ42aを起動して電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を開始する。ここでは、例えば定格最大出力に相当するモータ駆動指令を電気モータ42aに出力し、吐出する作動油圧が最大圧力(MAX圧)となるように電動オイルポンプ(ELOP)42を作動させる。
【0023】
ステップS2では、電気モータ42aの起動から所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過したらステップS3に進む。なお、本実施形態における前記所定時間は、電動オイルポンプ42からの作動油によって電動オイルポンプ42から自動変速機3に至る油路内を満たすことのできる時間として予め設定されたものである。
【0024】
ステップS3では、運転者によるブレーキ操作が解除されたか(ブレーキON→OFF)否かを判定する。ブレーキ操作が解除されていなければステップS4に進み、ブレーキ操作が解除されていればステップS14に進む。
【0025】
ステップS4では、車速が0(km/h)になったか否かを判定し、車速が0(km/h)になっていればステップS5に進み、車速が0(km/h)になっていなければステップS3に戻る。
ステップS5では、エンジン停止要求を発生する。これにより、燃料噴射が停止されてエンジン回転数が下降し始める。
【0026】
以上のように、アイドルストップ許可条件が成立した後、エンジン停止要求を発生する前に電気モータ42aを起動しておくことにより、電動オイルポンプ(ELOP)42から自動変速機3に至る油路内を予め作動油で満たすことができ、エンジン1が停止されて機械式オイルポンプ(O/P)41から油圧が供給されなくなったときに、電動オイルポンプ42から速やかに必要油圧を供給することができる。
【0027】
ステップS6では、エンジン1の再始動条件が成立したか否かを判定する。本実施形態における再始動条件は、例えば、エンジン停止要求の発生後に運転者によるブレーキ操作が解除されたこと(ブレーキON→OFF)である。そして、再始動条件が成立していなければステップS7に進み、再始動条件が成立していればステップS15に進む。
【0028】
ステップS7では、エンジン1が実際に停止したか否か、すなわち、エンジン回転数が0(rpm)となったか否かを判定する。そして、エンジン回転数が0(rpm)となっていればステップS8に進み、エンジン回転数が0(rpm)となっていなければステップS6に戻る。
【0029】
ステップS8では、電気モータ42aに出力するモータ駆動指令を変更し、電動オイルポンプ(ELOP)42の作動状態を変更する。具体的には、電動オイルポンプ(ELOP)42からの作動油圧をスタンバイ圧とする。このスタンバイ圧は、例えば自動変速機3の前進クラッチのストロークをつめた状態(換言すれば、締結直前の状態)を保持し得る油圧として予め設定したものである。これにより、アイドルストップ制御によるエンジン1の停止中においても電動オイルポンプ42から供給される作動油(油圧)によって自動変速機3の前進クラッチのストロークをつめた状態に保持することができ、エンジン1の再始動時のトルクショック(クラッチ締結ショック)を低減できる。
【0030】
ステップS9では、エンジン1の再始動条件が成立したか否かを再び判定する。このステップS9の処理は、ステップS6の処理と同じである。そして、エンジン1の再始動条件が成立していればステップS10に進み、成立していなければステップS8に戻る。
ステップS10では、エンジン再始動要求を発生する。このエンジン再始動要求が発生されると、燃料噴射が再開されるとともに所定の時期に点火が行われてエンジン1の再始動が行われることになる。
【0031】
ステップS11では、電気モータ43に出力するモータ駆動指令を変更し、電動オイルポンプ(ELOP)42の作動状態を変更する。具体的には、電動オイルポンプ(ELOP)42からの作動油圧を発進時圧とする。この発進時圧は、前記スタンバイ圧よりも高い値であり、前記MAX圧とすることもできる。これにより、スタンバイ圧によってストロークをつめた状態(締結直前の状態)に保持されている前進クラッチの締結力を増大させてより大きな駆動力を伝達することができ、速やかに車両を発進(前進)させることができる。
【0032】
ステップS12では、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧を検出する。この検出は、油圧センサ58によって検出された油圧及び電動オイルポンプ41からの作動油圧(モータ駆動指令)に基づいて行うことができる。但し、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧は、電動オイルポンプ(ELOP)41からの作動油圧に比べてかなり大きいので、油圧センサ58によって検出された油圧を機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧とみなしてもよい。説明の便宜上、このステップS12で検出される作動油圧を「第1作動油圧」という。
【0033】
ステップS13では、ステップS12で検出された作動油圧(第1作動油圧)が予め設定された判定値以上であるか否かを判定する。この判定値は、電動オイルポンプ(ELOP)41からの作動油圧(発進時圧)よりも高い油圧として予め設定されたものであり、自動変速機3の前進クラッチを締結するとともにその締結力を増大させて前進駆動力を伝達し得る油圧である。
そして、第1作動油圧が前記判定値以上であれば、機械式オイルポンプ(O/P)41から十分な作動油圧が供給される状態になったと判断し、ステップS14に進んで電気モータ42aを停止させて電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を停止する。第1作動油圧が前記判定値未満であればステップ12に戻る。
【0034】
一方、ステップS6でエンジン1の再始動条件が成立した場合、すなわち、エンジン停止要求が発生してからエンジン1が実際に停止する(エンジン回転数が0(rpm)となる)までの間に再始動条件が成立した場合には、ステップS15に進んでエンジン再始動要求を発生する。このステップS15の処理はステップS10の処理と同じである。
【0035】
ステップS16では、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧を検出する。すなわち、エンジン1の再始動要求の発生時における作動油圧を検出する。このステップS16の処理はステップS12と同じである。なお、このステップS16で検出される作動油圧を「第2作動油圧」という。
【0036】
ステップS17では、ステップS16で検出された作動油圧(第2作動油圧)、すなわち、再始動要求の発生時における作動油圧が前記判定値以上であるか否かを判定する。そして、検出された第2作動油圧が前記判定値以上であればステップS18に進み、判定値未満であればステップS20に進む。
【0037】
ステップS18では、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧をモニタし、
機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上である状態を所定の判定時間以上継続しているか否かを判定する。本実施形態における判定時間は、エンジン1が再始動を失敗した場合に再び再始動を行うまでの時間、すなわち、再始動実行間隔に基づいて設定された時間である。具体的には、前記再始動実行間隔又はそれよりも僅かに長い時間を前記判定時間として設定する。そして、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上である状態を前記判定時間以上継続していれば、エンジン1が再始動し、かつ、機械式オイルポンプ(O/P)41から十分な作動油圧が供給される状態になったと判断し、ステップS14に進んで電気モータ4aを停止させて電動オイルポンプ42の作動を停止する。一方、前記判定時間が経過する前に機械式オイルポンプ41からの作動油圧が前記判定値を下回ったらエンジン1が再始動に失敗した可能性が高いと判断してステップS19に進む。
【0038】
ステップS19では、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値未満となった後に前記判定値以上となったか否かを判定する。そして、前記判定値未満となり、その後、前記判定値以上となるとステップS14に進んで電動オイルポンプ42の作動を停止する。これにより、エンジン1が再始動に失敗した場合であっても、その後にエンジン1が再始動し、かつ、機械式オイルポンプ(O/P)41から十分な作動油圧が供給される状態になってから電動オイルポンプ(ELOP)の作動を停止することができる。
【0039】
ステップS20では、ステップS18、S19と同様、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧をモニタし、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上となったか否かを判定する。そして、前記判定値以上となると、機械式オイルポンプ(O/P)41から十分な作動油圧が供給される状態になったと判断し、ステップS14に進んで電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を停止する。
【0040】
図3〜図5は、上記アイドルストップ制御及び電動オイルポンプの制御のタイムチャートである。図3において、運転者がブレーキ操作を行うことにより車速が低下し始める。この段階では電動オイルポンプ(ELOP)42は停止している(フェーズ0)。その後、車速が所定速度(例えば10km/h)以下となるとアイドルストップ許可条件が成立し、電動オイルポンプ(ELOP)42はその吐出圧が最大(MAX圧)となるように駆動される。これにより、電動オイルポンプ(ELOP)42から自動変速機3へと至る油路に作動油が供給され、所定時間が経過すると当該油路内が電動オイルポンプ(ELOP)42から供給された作動油で満たされる(フェーズ1)。
【0041】
前記所定時間の経過後、車速が0(km/h)となるとエンジン停止要求が発生する。これにより、燃料噴射が停止され、エンジン回転数が低下するとともに機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧も低下する。(フェーズ2)。そして、エンジン回転数が0(rpm)になると、電動オイルポンプ(ELOP)42はその吐出圧がスタンバイ圧となるように駆動される(フェーズ3)。これにより、機械式オイルポンプ(O/P)41から作動油圧が供給されないエンジン1の停止中においても、電動オイルポンプ(ELOP)42からの作動油圧によって自動変速機3の前進クラッチはそのストロークをつめた状態(締結直前の状態)に保持される。
【0042】
その後、運転者がブレーキ操作を解除するとエンジン1の再始動条件が成立し、エンジン再始動要求が発生する。すると、通常はエンジン1が再始動して、エンジン回転数及び機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が上昇する(フェーズ4)。そして、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上となると、電動オイルポンプ(ELOP)42が停止される(フェーズ0)。
【0043】
多くの場合、アイドルストップ制御によるエンジン1の停止中、すなわち、エンジン回転数が0(rpm)となった後に運転者がブレーキ操作を解除することによってエンジン再始動要求が発生し、エンジン1が再始動する。この場合、図3に示すように、フェーズ0→1→2→3→4→0の順に移行し、上記フローチャートのステップS1〜S14が実行される。すなわち、エンジン停止要求の発生前に起動された電動オイルポンプ(ELOP)42は、エンジン1の再始動要求の発生後、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が判定値以上になると停止される。
【0044】
一方、エンジン停止要求の発生後であってエンジン回転数が0(rpm)となる前に運転者がブレーキ操作を解除(ブレーキOFF)すると、その時点でエンジン再始動要求が発生してフェーズ2からフェーズ4へと移行することになる。この場合には、エンジン再始動要求の発生時における機械式オイルポンプ(O/P)41の作動状態(ここでは、作動油圧)に応じて電動オイルポンプ(ELOP)42の停止条件を変更する。
【0045】
具体的には、図4に示すように、エンジン再始動要求の発生時(ブレーキOFF時)における機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧(第2作動油圧)が前記判定値よりも小さい場合には、その後、前記判定値以上の作動油圧を検出したときに電動オイルポンプ(ELOP)42が停止される。この場合、フェーズ0→1→2→4→0の順に移行し、上記フロ−チャート(図2)のステップS1〜S6、S15〜S17及びS20が実行される。これにより、電動オイルポンプ(ELOP)42は、エンジン1が再始動した後、機械式オイルポンプ(O/P)41から自動変速機3に十分な作動油圧が供給されるようになってから停止される。
【0046】
また、図5に示すように、エンジン再始動要求の発生時(ブレーキOFF時)における機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧(第2作動油圧)が前記判定値以上である場合には、その状態でエンジン再始動要求の発生から前記判定時間が経過したとき(図中、実線で示す)、又は、前記判定値未満の作動油圧を検出した後に再び前記判定値以上の作動油圧を検出したとき(図中、一点鎖線で示す)に電動オイルポンプ(ELOP)42が停止される。この場合、フェーズ0→1→2→4→0の順に移行し、上記フローチャート(図2)のステップS1〜S6、S15〜S19が実行される。これにより、電動オイルポンプ(ELOP)42は、エンジン1が再始動し、機械式オイルポンプ(O/P)41から自動変速機3に十分な作動油圧が供給されるようになってから停止される。
【0047】
以上の制御により、本実施形態によれば、アイドルストップ制御時に自動変速機3に作動油を供給する電動オイルポンプ(ELOP)42を効率的に作動させつつ、特にエンジン1が再始動に失敗した場合において、機械式オイルポンプ(O/P)41と電動オイルポンプ(ELOP)42の両方から自動変速機3に作動油圧が供給されない事態を避けることができる。これにより、エンジン1の再始動時に、自動変速機3(前進クラッチ)への油圧不足に起因するトルクショック(前進クラッチの締結ショック)の発生を抑制できる。
【0048】
なお、上記実施形態では、機械式オイルポンプ(O/P)41の作動状態として油圧センサ58によって検出される作動油圧を用いているが、上述したように、作動油圧に代えてエンジン回転数を用いてもよい。この場合は、前記判定値を、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が電動オイルポンプ(ELOP)41からの作動油圧(発進時圧)よりも高くなるエンジン回転数として設定すればよい。
また、上記実施形態では、機械式オイルポンプ(O/P)41からの作動油圧が前記判定値以上である状態を前記判定時間以上継続した場合に電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を停止しているが(ステップS18参照)、作動油圧が上昇傾向にあることを確認したときに電動オイルポンプ(ELOP)42の作動を停止させるようにしてもよい。例えば、ステップS18において作動油圧が第2作動油圧(再始動要求の発生時における作動油圧)を超えたか否かを判定し、第2作動油圧を超えた場合にステップS14に進むようにすればよい。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
ここで、上記実施形態およびその変形例から把握し得る請求項以外の技術思想について、以下にその効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動変速機の油圧供給装置であって、
前記電動ポンプ制御手段は、アイドルストップ制御に移行するためのアイドルストップ許可条件が成立した後、前記エンジンを停止させる停止要求が発生する前に前記電気モータを起動する。
上記(イ)によれば、エンジンが停止する前に電動オイルポンプから自動変速機に至る油路内を作動油で満たすことができるので、電動オイルポンプによる油圧の供給遅れを抑制又は防止できる。
【0050】
(ロ)請求項2に記載の自動変速機の油圧供給装置であって、
前記機械式ポンプによって供給される作動油圧を検出する油圧検出手段を備え、
前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記油圧検出手段によって検出される作動油圧である。
(ハ)請求項2に記載の自動変速機の油圧供給装置であって、
エンジン回転数を検出する回転数検出手段を備え、
前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記回転数検出手段によって検出されるエンジン回転数である。
上記(ロ)、(ハ)によれば、機械式ポンプの作動状態を検出するための手段を新たに設けることなく、エンジン制御や自動変速機の制御にために設けられているセンサを利用することができる。
【0051】
(ニ)請求項2に記載の自動変速機の油圧供給装置であって、
前記電動ポンプ制御手段は、前記エンジンを停止させる停止要求が発生してから前記エンジンが実際に停止するまでの間に前記エンジン再始動要求が発生し、かつ、該再始動要求の発生時における前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記判定値以上である場合において、その後、前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記再始動要求の発生時における値を超えたときに前記電動モータを停止させる。
上記(ニ)においても、エンジンの再始動が行われて機械式ポンプから自動変速機3に十分な作動油圧が供給されるようになってから電動ポンプを停止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…エンジン(ENG)、2…トルクコンバータ、3…自動変速機、4…油圧供給装置、10…エンジンコントロールユニット(ECU)、20…トランスミッションコントロールユニット(TCU)、31…発進クラッチ(前進クラッチ+後進クラッチ)、32…無段変速機、33…油圧制御バルブ(C/V)、41…機械式オイルポンプ(O/P)、42…電動オイルポンプ(ELOP)、42a…電気モータ、58…油圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転条件に応じてエンジンの停止及び再始動を行うアイドルストップ制御を実施する車両に適用され、前記エンジンに連結された自動変速機に油圧を供給する油圧供給装置であって、
前記エンジンにより駆動され、前記自動変速機に作動油を供給する機械式ポンプと、
電気モータにより駆動され、前記自動変速機に作動油を供給する電動ポンプと、
前記アイドルストップ制御による前記エンジンの停止中に前記電気モータを作動させるとともに、前記エンジンを再始動させる再始動要求の発生後に停止条件が満たされることによって前記電気モータを停止させる電動ポンプ制御手段と、を備え、
前記電動ポンプ制御手段は、前記再始動要求の発生タイミング及び前記再始動要求の発生時における前記機械式ポンプの作動状態に応じて前記停止条件を変更する、自動変速機の油圧供給装置。
【請求項2】
運転条件に応じてエンジンの停止及び再始動を行うアイドルストップ制御を実施する車両に適用され、前記エンジンに連結された自動変速機に油圧を供給する油圧供給装置であって、
前記エンジンにより駆動され、前記自動変速機に作動油を供給する機械式ポンプと、
電気モータにより駆動され、前記自動変速機に作動油を供給する電動ポンプと、
前記アイドルストップ制御による前記エンジンの停止中に前記電気モータを作動させるとともに、前記エンジンを再始動させる再始動要求の発生後、前記機械式ポンプの作動状態を示す値が、前記機械式ポンプからの作動油圧が前記電動ポンプからの作動油圧を超えた状態を示す値として設定された判定値以上であるときに前記電気モータを停止させる電動ポンプ制御手段と、
を備え、
前記電動ポンプ制御手段は、前記エンジンを停止させる停止要求が発生してから前記エンジンが実際に停止するまでの間に前記再始動要求が発生し、かつ、該再始動要求の発生時における前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記判定値以上である場合には、該機械式ポンプの作動状態を示す値が前記判定値未満となり、その後、前記判定値以上となったときに前記電気モータを停止させる、自動変速機の油圧供給装置。
【請求項3】
前記電動ポンプ制御手段は、前記エンジンを停止させる停止要求が発生してから前記エンジンが実際に停止するまでの間に前記再始動要求が発生し、かつ、該再始動要求の発生時における前記機械式ポンプの作動状態を示す値が前記判定値以上である場合において、該機械式ポンプの作動状態を示す値が前記判定値以上である状態を予め設定された判定時間以上継続したときに前記電気モータを停止させる、請求項2に記載の自動変速機の油圧供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196501(P2011−196501A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65763(P2010−65763)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】