説明

自己始動型永久磁石同期電動機及びこれを用いた圧縮機

【課題】電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、これを用いた圧縮機、空気調和機を提供すること。
【解決手段】回転子の軸方向の鉄心の両端面と前記導電性のエンドリングの間に端板を設け、該端板に設けたスロット数は前記回転子鉄心のスロット数より少なく設けられ、前記回転子鉄心に設けた多数のスロットの一部を非導電性材(空孔含む)で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己始動型永久磁石同期電動機及びそれを用いた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己始動式永久磁石同期電動機において、回転子の永久磁石の脱落を防止するための端板を付ける方法について、例えば特開2001−95183号公報(特許文献1)に記載されているように、回転子鉄心の外周付近に位置する複数の導体バーと回転子軸方向の両端面に位置する短絡環とをアルミダイキャストで一体成型して始動用かご形導体を形成する。導体バーの内側に複数個の永久磁石が鉄心に埋設され、磁石の脱落の防止用端板を固定するために、回転子鉄心に数個貫通穴を空け、ダイキャストでアルミを貫通穴に注入し凸起部が形成され、凸起部を押し潰し端板を固定する。
【0003】
また、鉄心端部の短絡環の内周に凹部を設けるようにダイキャストで形成し、端板の外周に短絡環の凹部が嵌合うような凸部の設けて、端板を嵌め合わせ後短絡環の内周に凹部周辺を回転子の軸方向に押し潰し端板を固定する。
【0004】
自己始動型永久磁石同期電動機は、誘導電動機と同様に商用電源での直入れ始動が可能であり、インバータを付加することなく駆動部を構成できる上、定常運転時の二次銅損が僅少となるため、誘導電動機に対し駆動システムの高効率化に大きく貢献できるメリットがある。
【0005】
一方、自己始動型永久磁石同期電動機の短所として、かご型導体の内周側に永久磁石が配置されているため、回転子の磁束軸がすでに固定されていることが挙げられる。すなわち、始動時に回転子に生じる始動トルクは、かご型導体に生じる誘導トルク、永久磁石磁束と電源印加によって生じる回転磁界との吸引力の両者の合成となる。商用電源による直入れ始動では、インバータ駆動時のように回転子位置を特定できない(電圧位相を制御できない)ことから、始動時に印加される電圧の位相によっては、磁石磁束と回転磁界とが反発する場合や、正規の回転方向と逆方向に吸引され、負のトルクを生じる場合がある。このことから、投入される電圧の位相、すなわち固定子磁束が発生する位置によって、始動時のトルクに大きな差異が生じる問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−95183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己始動型永久磁石同期電動機の始動時において、投入される電圧の位相により、始動トルクに差異が生じることは上述した。この理由と問題点について、下記に述べる。
【0008】
電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し遅れ側に発生した場合、回転子には正規の回転方向と逆方向に吸引される磁石トルクが生じる。回転子は軸受けにより回転自在に支持されていることから、負の回転方向へと移動する。この場合、固定子回転磁界は正転方向に回転をしているため、誘導電動機のすべり-トルク特性としてみると、すべりが1以上の領域から始動を開始するため、誘導トルクとしては所望の値に対し過大に発生する。
【0009】
この場合、電動機の軸受けに過大な応力がかかり、軸受け寿命が短くなってしまう問題や、出力軸端に取り付けられた機器に対し、大きなねじり応力が加えられ破壊に至るなど多大な悪影響を及ぼす恐れがある。
【0010】
一方、電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し進み側に発生した場合については、回転子には正転方向の磁石トルクが生じることから、かご型導体生ずる誘導トルクへの影響は比較的小さく、始動に対する大きな問題は発生しない。このような原理由により、電源の投入位相によって、発生し得る始動トルクに大きな差異が生じる。
【0011】
本発明の目的は、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機、及びこれを用いた圧縮機、空気調和機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、回転子鉄心の外周部近傍に設けた多数のスロットと、これらスロット内に埋設した導電性のバーとこれらのバーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとで構成されたかご型導体と、前記スロットの内周側に配置した少なくとも1つ以上の磁石挿入孔と、該磁石挿入孔に埋設した永久磁石を有し、該永久磁石で界磁極を構成した回転子を備えた自己始動型永久磁石同期電動機において、前記回転子の軸方向の鉄心の両端面と前記導電性のエンドリングの間に端板を設け、該端板に設けたスロット数は前記回転子鉄心のスロット数より少なく設けられ、前記回転子鉄心に設けた導電性バーの埋設用のスロットの一部が非導電性材(空孔含む)で構成されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、回転子鉄心の外周部近傍に設けた多数のスロットと、これらスロット内に埋設した導電性のバーとこれらのバーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとで構成されたかご型導体と、前記スロットの内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、該磁石挿入孔に埋設した永久磁石を有し、該永久磁石で界磁極を構成した回転子を備えた自己始動型永久磁石同期電動機において、前記回転子鉄心に設けた多数のスロットの一部が非導電性材(空孔含む)で構成され、その他のスロットに導電性バーを鉄心の端面から突き出すよう埋設し、前記導電性エンドリングを前記回転子鉄心の両端面から突き出した導電性バーと摩擦攪拌接合によって電気的及び機械的に接合したことを特徴とする。
【0014】
また、前記非導電材で構成されるスロットは、前記回転子鉄心のシャフトを中心に対をなす少なくとも一対のスロットで構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1には本発明の実施例1による自己始動型永久磁石同期電動機の構成を、回転子の径方向断面で示す。図1において、回転子1はシャフト6上に設けられた回転子鉄心2の外周部近傍に位置させて鉄心内部に、多数の回転子スロット8とこのスロット8内部に埋設された始動用導電性バー3を備えている。回転子スロット8は導電性バー埋設用のスロットである。また、回転子1は回転子鉄心2の前記スロットの内周側に配置された複数の磁石挿入孔7と、この挿入穴7に永久磁石4が埋設されて磁極数が2極となるように構成されている。
【0018】
ここで、永久磁石4は、希土類を主成分とする焼結磁石であり、厚み方向の断面形状が略台形状をなしており、複数のセグメント(図では4枚:4A、4B、4C、4C)に分けて磁石挿入孔7に各々埋設されている。
【0019】
なお、永久磁石4のセグメント数は、少なくとも1つ以上であれば構成可能であるので、図1に示す4枚より以下、あるいは以上でもよく、断面形状が図1に示す略台形状以外に略方形状や略円弧状となるものでも構成可能である。また、磁石の主成分としてフェライト系でも構成できるが、希土類が好ましく、焼結磁石の他にボンド磁石で形成することも可能である。また、磁極間には空孔5(5A、5Bからなる)を施し、磁極間に生ずる漏洩磁束の防止に配慮している。
【0020】
同図1において、永久磁石4によって構成された磁極中心軸をd軸とし、このd軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とした場合、d軸最寄でかつ回転方向に対し遅れ側に位置し、かつ磁極ピッチで対となる導電性バー埋設用のスロット8aを空孔(非導電性材)としている。ここで、本実施例では3対を空孔としたが、少なくとも一対以上を設ければ良いため、3対よりも多く、または少なく構成させても良い。また、スロット8aは空孔としているが、非導電性部位として構成させれば良いので、樹脂等の非導電性材料を埋設して形成しても良い。
【0021】
図2には、本発明の実施例1による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子のダイキャスト軸方向断面、およびダイキャスト湯の注入口の形状を示す。図2(1)において、前記回転子鉄心2を構成する鉄板を一定積厚に積層した回転子鉄心2Aの両端面に、ダイキャスト湯込み側を端板9Aとし、その反対側を端板9Bとして、それぞれ回転子鉄心2Aの外周スロット8とダイキャスト湯の注入口44の中心同士を合わせて配置する。
【0022】
そして回転子鉄心2Aをダイキャスト金型42にセットし、両端面にエンドリング10Aと10Bを形成する金型41と43をそれぞれ設置した後、さらにダイキャスト湯を流出防止のため軸方向に型を締める力を加え、溶かしたアルミ(または銅)を図2(2)に示している複数のダイキャスト湯込み口44A〜44Hに高圧で注入する。この注入により、始動用導電性バー3とエンドリング10Aと10Bが一体的に形成され、始動用導電性バー3の両端をエンドリング10Aと10Bで周方向に短絡した構成のかご型導体が形成される。
【0023】
図3には本発明の実施例1による回転子端板形状を示す。図4には本発明の実施例1による回転子鉄心2の磁石挿入口の断面を示す。図3において、端板9A、9Bは回転子鉄心2と断面形状において相違部がある。異なる点は、回転子鉄心2には図1に示すように外周部近傍に多数の回転子スロット8を設けているが、端板9A、9Bには前記多数の回転子スロット8の中で、磁極中心軸のd軸最寄でかつ回転方向遅れ側に位置する磁極ピッチでシャフト6を中心に対をなすスロット8aの位置に該当する部分のみにスロット8を設けていない。
【0024】
また、他の異なる点は、端板9Bには回転子鉄心2のスロット8での空孔で構成されたスロット8aに対応して、スロット8aに連通する空気抜き孔としての切欠き21を設けていることである。このように構成した端板をd軸、q軸各々の位置関係を整合させて回転子鉄心2の両端面へ配置し、これを介してダイカストすることで、スロット8への導電性材料の流入を防ぐことができ、空孔とすべきスロット8aを形成できる。
【0025】
ここで、同図(2)に示す出力軸側に配置される端板9Bと、同図(1)に示す反出力軸側に配置する端板9Aとの構造上にも違いがあり、出力軸側に配置する端板9Bにのみ磁石挿入孔7を設けている点にある。このように構成することで、出力軸側からの磁石挿入が可能となり、かつダイキャスト時の導電性材料の反出力軸側から磁石挿入孔7への流入を防止できる。また、端板9の材質は、金属材料で、かつ非磁性材料で構成することが望ましい。
【0026】
また、電動機を圧縮機に組込んで運転の場合は、機内に高温、高圧の冷媒があるため、回転子1の空孔で構成されるスロット8aが密封されると内外には圧力差が生じる。実施例1では前述のように端板9Bに切欠き21を設けており、切欠き21は図4に示すように、端板9Bを回転子鉄心2に密着させ状態でスロット8aの一部と重なるように、磁石挿入孔7に一部切欠いた形で21A、21Bのように設けている。この重なり部分でスロット8aの内外が連通され、圧力差によるスロット8aの破損を防ぐことができる。
【0027】
図5には本発明の実施例1による磁石脱落防止の端板形状を示す。永久磁石4を回転子鉄心2の磁石挿入孔7に挿入し、この磁石挿入孔7を閉じるようにその外側に端板9Cを設けて、磁石4の脱落を防止するようにしたものである。端板9Cに設けた穴22A、22Bをダイキャストで回転子端面に形成した凸部23A、23B(図6参照)に嵌め込み、前記凸部23A、23Bを軸方向に潰すことにより端板9Cが固定される。
【0028】
図6には本発明の実施例1による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子軸方向の断面の構成図を示す。図6において、エンドリング10は、出力軸側のエンドリング10Bと、反出力軸側のエンドリング10Aで異なる形状をしており、具体的には反出力軸側のエンドリング10Aの軸方向長L2に対し、出力軸側のエンドリング10Bの軸方向長L1を短くすると共に、エンドリング断面積が出力軸側で小、反出力軸側で大となるように構成している。これにより、反出力軸側のエンドリング10Aに冷却用のフィンやバランスウェイト(いずれも図示せず)を取り付ける寸法を確保できる。
【0029】
自己始動型永久磁石同期電動機の回転子を上記のように構成した場合、次のような効果がある。図7には本発明の実施例1による電源投入位相に対する始動トルク測定結果を示す。図7において、電源の投入位相による始動トルクの関係を測定したところ、図中点線で示すように、従来構造では発生する始動トルクは、投入位相によって大きな差異が生じるこが分かった。すなわち、投入位相0°近傍が顕著であり、必要始動トルク(図で100で示す)の約2倍以上のトルクが発生するのである。
【0030】
この理由は、電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し遅れ側に発生し、回転子には正転方向と逆方向に吸引される磁石トルクが生じていることが挙げられる。つまり、回転子は軸受けにより回転自在に支持されていることから、負の回転方向へと移動を始めるため、誘導電動機のすべり−トルク特性としてみると、すべりが1以上の領域から始動を開始することとなり、誘導トルクとして過大に発生するためである。この場合、過大な誘導トルクにより回転子が起動されるため、この回転子を支える電動機の軸受けに過大な応力がかかり、軸受け破損や寿命の短縮等の問題がある。
【0031】
そこで、図1〜6にて述べた構成の回転子を適用した電動機に対し、同様の試験を実施したところ、図7中の実線で示す特性となり、投入位相に対する始動トルクの差異を大幅に低減することができた。この現象は、図1で述べたようにd軸最寄に位置するスロットを非導電性とすることで生じる事が分かった。
【0032】
この理由は、この非導電性としたスロットについては始動時に誘導される電流が発生しないため、始動時にかご型巻線に発生する誘導磁界を一時的に低減でき、投入位相0°近傍における始動トルクを低減できることにある。
【0033】
また、非導電性とすするスロットの配置や本数について、始動トルクが増大する傾向にある電源投入位相の条件下で、種々実験によるパラメータサーベイを実施したところ、次のことが確認された。
【0034】
(1)非導電性材で構成された回転子スロットは、d軸最寄に位置し、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した場合に始動トルクは最も低減され、q軸に近付けるに従って増加傾向を示し、q軸最寄に位置させ、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した場合に最も大きくなる。
【0035】
(2)d軸最寄に位置し、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した非導電性材で構成されるスロットは、その本数を増やすにつれ、始動トルクが低減する。
【0036】
この結果を鑑み、図6に示す回転子の構造とすることで、電源投入位相に対する始動トルクの差異を低減でき、安定した始動トルクを発生させることができる。そして、非導電性材で構成されるスロットの配置位置や本数を変更することで、機器に応じた始動トルクを調整できる自己始動型永久磁石同期電動機を提供できる。
【実施例2】
【0037】
図8には本発明の実施例2に係る同期電動機の回転子外観を示す。本実施例と実施例1と異なる点は、かご型導体の形成方法としてダイキャスト法を用いていない点にある。図8において、回転子スロットに埋設された導電性バー3aとエンドリング10a、10bをそれぞれ、ダイキャスト、あるいは鍛造の製法で予め製作し、エンドリング10a、10bには、前記導電性バー3aの両端が嵌め合いできるように、それぞれ複数穴3b、3cを設けておく。
【0038】
次いで、回転子鉄心2Aの外周スロット8に、前記導電性バー3aを挿入して回転子鉄心2Aの両端面に突き出るようにセットする。前記エンドリング10a、10bの穴3b、3cに、それぞれ前記回転子2Aの両端面に突き出した導電性バー3aの両端を嵌め合わせる。摩擦攪拌接合ツール51を嵌め合わされた接合部に押し付けることによって摩擦攪拌接合が行われる。接合ツール51の先端部は硬い金属材(例えばモリブデン)からなる棒状の回転ツールである。
【0039】
まず、前記導電性バー3aとエンドリング10aとの接合を行い、接合の際には接合ツール51を回転しながら、導電性バー3aとエンドリング10aの嵌め合部に押し付け、導電性バー3aの中心付近を回転子の中心に対して同心で移動させる。接合ツール51と導電性バー3a、エンドリング10aとの摩擦により発生する熱によって導電性バー3aとエンドリング10aの接合付近が軟化し、接合ツール51を取り去った後に冷され電気的及び機械的に接合される。導電性バー3aとエンドリング10bとの接合も同様な方法で行う。
【0040】
上述したように回転子を構成すれば端板を排除でき、かつ、ダイカスト時に生ずる巣が生じないため、かご型導体の電気的な機能を安定化できる。製作した回転子は前記実施例1と同等な特性が得られる。
【実施例3】
【0041】
図9は本発明の実施例3による圧縮機の断面構造図である。図9において、圧縮機82の構造について以下説明する。圧縮機構部83は、固定スクロール部材60の端板61に直立する渦巻状ラップ62と、旋回スクロール部材63の端板64に直立する渦巻状ラップ65とを噛み合わせて形成されている。そして、旋回スクロール部材63をクランクシャフト6によって旋回運動させることで圧縮動作を行う。
【0042】
固定スクロール部材60及び旋回スクロール部材63によって形成される圧縮室66(66a、66b、……)のうち、最も外径側に位置している圧縮室66は、旋回運動に伴って両スクロール部材60、63の中心に向かって移動し、容積が次第に縮小する。両圧縮室66a、66bが両スクロール部材60、63の中心近傍に達すると、両圧縮室66内の圧縮ガスは圧縮室66と連通した吐出口67から吐出される。吐出された圧縮ガスは、固定スクロール部材60及びフレーム68に設けられたガス通路(図示せず)を通ってフレーム68下部の圧力容器69内に至り、圧力容器69の側壁に設けられた吐出パイプ70から圧縮機外に排出される。
【0043】
圧力容器69内に、図1〜図8にて説明したように、固定子12と回転子1とで構成される自己始動型永久磁石同期電動機18が内封されており、一定速度で回転し、圧縮動作を行う。電動機18の下部には、油溜め部71が設けられている。油溜め部71内の油は回転運動により生ずる圧力差によって、クランクシャフト6内に設けられた油孔72を通って、旋回スクロール部材63とクランクシャフト6との摺動部、滑り軸受け73等の潤滑に供される。
【0044】
このように、圧縮機駆動用電動機として、図1〜8で述べた自己始動型永久磁石同期電動機を適用すれば、一定速圧縮機の高効率化を実現できるとともに、電源投入位相によって過大に生じる始動トルクが軽減できるため、軸受け73や旋回スクロール部材63の応力破壊を防止できるなど、信頼性の向上に寄与することができる。
【実施例4】
【0045】
図10は本発明の実施例4による空気調和機の冷凍サイクルを示す図である。図において、80は室外機、81は室内機、82は圧縮機であり、圧縮機82内には自己始動型永久磁石同期電動機18と圧縮機構部83が封入されている。84は凝縮器、85は膨張弁、86は蒸発器である。冷凍サイクルは冷媒を矢印の方向に循環させ、圧縮機82は冷媒を圧縮して凝縮器84、膨張弁85からなる室外機60と、蒸発器86からなる室内機81間で熱交換を行って冷房機能を発揮する。
【0046】
本発明で示した自己始動型永久磁石同期電動機18を空気調和機、冷蔵および冷凍装置などの圧縮機に使用すると、自己始動型永久磁石同期電動機18の効率向上により入力を低減できることから、地球温暖化につながるCO2の排出を削減できる効果がある。また、信頼性の向上にも寄与できる。
【0047】
以上、本発明実施例によれば、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、あるいはこれを用いた圧縮機、空気調和機、冷蔵、冷凍装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図2】同じく実施例1による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子のダイキャストの軸方向断面図およびダイキャスト湯注入口の説明図。
【図3】同じく実施例1による回転子の端板形状図。
【図4】同じく実施例1による磁石挿入側の回転子断面図。
【図5】同じく実施例1による磁石脱落防止の端板形状図。
【図6】同じく実施例による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子軸方向の断面の構成図。
【図7】電源投入位相に対する始動トルク測定結果の説明図。
【図8】本発明の実施例2による同期電動機の回転子の外観図。
【図9】本発明の実施例3による圧縮機の断面構造図。
【図10】本発明の実施例4による空気調和機の冷凍サイクル構成図。
【符号の説明】
【0049】
1…回転子、2…回転子鉄心、3…始動用導体バー、4…永久磁石、5…空孔、6…シャフト又はクランクシャフト、7…磁石挿入孔、8…回転子スロット、8a…空孔、非導電性材、9…回転子端板、10…エンドリング、11…固定子、12…固定子鉄心、17…絶縁部、18…自己始動型永久磁石同期電動機、21…空気抜き穴、22…穴、23…凸部、41〜43…ダイキャスト金型、44…ダイキャスト湯込み口、51…接合ツール、60…固定スクロール部材、61…端板、62…渦巻状ラップ、63…旋回スクロール部材、64…端板、65…渦巻状ラップ、66…圧縮室、67…吐出口、68…フレーム、69…圧力容器、70…吐出パイプ、71…油溜部、72…油孔、73…滑り軸受け、80…室外機、81…室内機、82…圧縮機、83…圧縮機構部、84…凝縮機、85…膨張弁、86…蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心の外周部近傍に設けた多数のスロットと、これらスロット内に埋設した導電性バーとこれらのバーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとで構成されたかご型導体と、前記スロットの内周側に配置した少なくとも1つ以上の磁石挿入孔と、該磁石挿入孔に埋設した永久磁石を有し、該永久磁石で界磁極を構成した回転子を備えた自己始動型永久磁石同期電動機において、
前記回転子の軸方向の鉄心の両端面と前記導電性のエンドリングの間に端板を設け、該端板に設けたスロット数は前記回転子鉄心のスロット数より少なく設けられ、前記回転子鉄心に設けた導電性バーの埋設用のスロットの一部が非導電性材(空孔含む)で構成されたことを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項2】
請求項1の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記回転子軸方向の鉄心の両端面と前記導電性のエンドリングの間に端板を設け、前記かご型導体をダイキャストで形成することを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項3】
回転子鉄心の外周部近傍に設けた多数のスロットと、これらスロット内に埋設した導電性のバーとこれらのバーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとで構成されたかご型導体と、前記スロットの内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、該磁石挿入孔に埋設した永久磁石を有し、該永久磁石で界磁極を構成した回転子を備えた自己始動型永久磁石同期電動機において、
前記回転子鉄心に設けたスロットの一部が非導電性材(空孔含む)で構成され、その他のスロットに導電性バーを鉄心の端面から突き出すよう埋設し、前記導電性エンドリングを前記回転子鉄心の両端面から突き出した導電性バーと摩擦攪拌接合によって電気的及び機械的に接合したことを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項4】
請求項1または3に記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記非導電材で構成されるスロットは、前記回転子鉄心のシャフトを中心に対をなす少なくとも一対のスロットで構成されたことを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項5】
請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記非導電材で構成されたスロットは空孔で構成され、この空孔に連通する空気抜き穴を前記端板に設けたことを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項6】
請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記端板は一枚または数枚の薄板金属で構成されていることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項7】
請求項1、2、4〜6の何れかに記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記端板の材質は非磁性材料金属であることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項8】
請求項1、2、4〜6の何れかに記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記端板の一方の材質は非磁性材料で、他方の材質は磁性材料の金属であることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項9】
請求項1、2、4〜6の何れかに記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記端板の材質は磁性材料であることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の自己始動型永久磁石同期電動機において、前記かご型導体の材質はアルミまたは銅で形成されたことを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項11】
冷媒を吸い込んで圧縮して吐き出する圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動する電動機部とからなる圧縮機において、請求項1乃至10の何れかに記載された自己始動式永久磁石同期電動機を搭載したことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−284588(P2009−284588A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131781(P2008−131781)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】