説明

自己造形性電子放出BN薄膜を使用してなる発光・表示デバイスとその製作方法。

【課題】 電子放出閾値の低い、高出力、長寿命の冷陰極型電子源による発光・表示デバイスを提供する。
【解決手段】 アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成し、反応終了後、生成物を基板ごと取出し、冷陰極型発光・表示デバイスにおける電界電子放出電子源として組み立てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式BNで示され、少なくともsp3結合を有した窒化ホウ素を電子放出
用冷陰極型電子源とする発光・表示デバイスに関する。前記電子源は、詳しくは、電界電子放出性に優れた先端の尖った形状を呈した表面形状の窒化ホウ素による電子源であって、これによって電子放出閾値の低い、高出力、長寿命を可能とする発光・表示デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、車載ディスプレイ、電子機器の表示部などには液晶、VFD(Vacuum Fluorescent Display)等が使用され、又、有機ELも有力な選択肢として研究開発が進んでいるが、それぞれに難点がある。即ち、(1)液晶の場合、自発光でないためバックライトを必要とする分デバイスが複雑化し、究極的な薄型設計が得られにくい、(2)VFDの場合、本質的に表示分解能が低く、単純な表示しか得られない、(3)有機ELでは寿命の問題が解決されておらず、製品として市場に出るまでに至っていない。又、(4)照明・表示デバイスとしてのLEDには、LED自体を多量に束ねた構造が必要になり、簡便でない、等の問題がある。
【0003】
最近、この方式に代わるディスプレイとして、電界電子放出方式によるディスプレイが盛んに研究され、開発されている。具体的には、FED(Field Emission
Display)、あるいはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display)等が挙げられる。これらのデバイスおよびデバイス関連システムは、今後ますます重要性が増すことが予想され、さらに優れたデバイスとシステムの向上を目指して、日夜研究がなされている。電界電子放出材料自体に関する研究についてもその例外ではなく、盛んに研究がされている。
【0004】
ここに、このような電界電子放出材料としては、電界電子放出閾値が低く、耐電圧強度の高い、また電流密度の大なる材料が求められているが、その一つとして、近年注目されている、カーボンナノチューブが挙げられる。しかし、この材料に基づいて電子放出材料を設計するにおいては、さらに電子放出性を高め、電流密度を向上させる工夫が必要である。そのため、ナノチューブをパターン化して薄膜成長させたり、プリント転写技術を利用して、電子放出性に適った形状に形成したりするなどの加工を施したりするなどの試みがなされている。
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブは、その製造方法自体が、完全に確立されているとは言えず、その加工技術に至っては、研究はまだ緒についたばかりで極めて困難な状況にある。また、このような手間のかかる困難な加工を施しても、その結果得られる性能は、電流密度がせいぜいmA/cm2オーダーにとどまっているにすぎないものであった。
そこには使用電界強度には限界があり、これを超えたところでは、材料の劣化、剥落が生じ、高電圧、長時間にわたる使用には耐えられないものであった。最近、カーボンナノチューブを用いたディスプレイが試作段階にこぎつけてとの報告もあるが、基本的に上記困難な状況にあることには変わりがない。
【0006】
電界電子放出技術の重要性は、この技術の影響力が、単に特定技術分野だけの狭い領域にとどまらず、いまや、一般社会、日常生活に深く浸透していることは、縷々説明するまでもなく明らかであり、その開発動向は、今後、ますます盛んになることが予想される。そのため、高い耐電界強度を有し、長時間使用して電子を大きな電流密度で安定して放出
することができ、しかも材料の劣化、損傷のない安定した高い電界電子放出を可能とする材料が強く求められている。
【0007】
本発明者らにおいても、上記要請に応えるべく、耐熱、耐摩耗性材料として使用され、また、最近では新規創生材料として注目を浴びている窒化ホウ素について着目し、この材料に基づいて電子放出材料を設計すべく鋭意研究した結果、特定の条件下で製作した窒化ホウ素の中には、これを膜状に生成した場合、電界電子放出特性に優れた表面形状を呈してなるものが生成し、強い耐電界強度を有することを見いだした。
【0008】
すなわち、窒化ホウ素を気相からの反応によって基盤(その幾何学形状は問わず、平板のみならず、針金状、球状などを含み、基盤と呼ぶ)上に生成堆積する場合、基盤近傍にエネルギの高い紫外光を照射すると基盤上に結合性窒化ホウ素が膜状に形成され、且つ膜表面上には、先端が尖った状態を呈した形状のsp3結合性窒化ホウ素が適宜間隔を置い
て光方向に自己組織的に生成、成長すること、そしてその得られてなる膜は、これに電界をかけると容易に電子を放出し、しかもこれまでのこの種材料から考えると、破格といってもいい大電流密度を保ちながら、材料の劣化、損傷、脱落のない極めて安定した状態、性能を維持し得る、極めて優れた電子放出材料であることを確認、知見し、その成果を先に特許出願した(特許文献1、2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−35301号公報
【特許文献2】特願2003−209489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記先の特許出願に係る発明を先行技術とし、これをさらに発展させて、電界電子放出性に優れた表面形状を有し、電子放出閾値の低い、高出力、長寿命の冷陰極型電子源による発光・表示デバイスを提供しよう言うものである。すなわち、先行技術によって作製された、気相からの反応によって自己造形的に形成され、先端の尖ったBNで示される、sp3結合性BN、または、これとsp2結合性BNとの混合物からなる電子放出性に優れた材料を使用して、電子放出閾値の低い、高出力、長寿命の冷陰極型電子源による発光・表示デバイスを提供しようと言うものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのため、本発明者らにおいては鋭意研究した結果、上記した先行技術によって提供される特有な物理的表面状態を有し、これにより電子放出性において優れた性質を有し、発現する窒化ホウ素を、FED用、SED用、あるいは照明、その他発光表示一般用電界電子放出材料として使用することを試みた。これによって、電子放出閾値の低い、高出力、長寿命の発光・表示デバイスが実現可能ではないかとの期待のもとにデバイスの開発を進めた。その結果、従来水準を超えるデバイスを作製することが十分に可能である、との知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その構成は、以下(1)〜(10)に記載したとおりである。
【0012】
(1) 素子基板に形成されてなる先端の尖った形状を有するBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料を、蛍光体を励起して発光させるのに必要な電界電子放出電子源とすることを特徴とする、冷陰極型発光・表示デバイス。
(2) 前記電界電子放出源が、先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料を、電子放出に適した間隔、密度で自己造形的に電子基板に形成されてなるものである、(1)項に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
(3) 前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、sp3結合性
BN、または、sp3結合性BNとsp2結合性BNとの混合物からなる、(1)又は(2
)項に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
(4) 前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、紫外光によって励起され、気相からの反応によって形成されてなる、(1)ないし(3)の何れか1項に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
(5) 前記電界電子放出電子源が、窓を備えた容器内に、蛍光体に直接に、あるいは対向、離間して設定されてなり、蛍光体から発光する光を窓から取り出すようにした、(1)ないし(4)記載の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
(6) 前記容器が真空に設定した真空容器である、(5)記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
(7) 前記蛍光体が、粉末または膜状である、(5)または(6)記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
(8) 前記蛍光体が、窓に塗布されてなる、(5)ないし(7)記載の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
(9) 前記蛍光体が、RGB発光する三色蛍光体である、(5)ないし(8)の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【0013】
(10) アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成し、反応終了後、生成物を基板ごと取出し、冷陰極型発光・表示デバイスにおける電界電子放出電子源として組み立てることを特徴とする、冷陰極型発光・表示デバイスの製作方法。
【発明の効果】
【0014】
従来の冷陰極型発光・表示デバイスは、蛍光体を発光させる電子源を起動するためには、大きな電圧を印加する必要であった。すなわち、電子放出閾値の高い電子放出材料に依存していた。本発明は、電子部材を構成する基板に、紫外光を照射することによって生成した、先端の尖った形状を有し、一般式BNで示され、主としてsp3結合よりなる、またはこれとsp2結合との混合物による電界電子放出特性に優れた薄膜であって、未加工(as grown)のままでも、電子放出閾値の低い、電圧を印加するだけで大気中でも安定して容易に電界電子を放出することができる材料を電界電子放出材料とすることから、起動しやすく、その分省エネ設計が可能である。
【0015】
すなわち、前記材料を、冷陰極型発光・表示デバイスにおける電子源とすることは、それ自体、上記した点で優れていることから、格別の意義が認められるものであることに加え、BN自体が安定な化合物であるため、長時間の激しい使用によっても材料劣化のない、デバイスの長寿命化に大きく寄与するものであり、あるいは、薄膜上に自己造形的に形成されたままのものを、そのまま電子放出エミッターとしてデバイスに組み込むことができるため、デバイス設計において、構造の簡素化、作製プロセスの簡素化に直結し、コスト的に有利である。さらにまた、エミッターを含む薄膜部が数μm〜数10μmで済むため、極薄型デバイス化が可能となる、等の数々の作用効果が奏せられ、期待される。
【0016】
ここに、本発明において、電界電子放出特性に優れた表面形状が自己造形的に形成されるためには、気相からの反応の際、紫外光の照射が必要である。このことは、本発明者らの発明になる先の特許出願においてすでに明らかにしているところである。そして、その理由としては、前示先の特許出願でも言及しているが、次のように考えることができる。すなわち、自己組織化による表面形態形成はイリヤ・プロゴジン(ノーベル賞受賞者)等
による指摘によれば、「チューリング構造」として把握され、前駆体物質の表面拡散と表面化学反応とが競合するある種の条件において出現する。ここでは、紫外光照射がその両者の光化学的促進に関わり、初期核の規則的な分布に影響していると考えられる。紫外光照射により表面での成長反応が促進されるが、これは光強度に反応速度が比例することを意味する。初期核が半球形であると仮定すると、頂点付近では光強度が大きく、成長が促進されるのに対して、周縁部分では光強度が弱まり成長が遅れる。これが先端の尖った表面形成物の形成要因の一つであると考えられる。何れにしても紫外光照射が極めて重要な働きをなしており、これが重要なポイントであることは否定できない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、図面および実施例に基づいて詳細に説明する。
本発明の電界電子放出特性に優れたsp3結合、またはこれとsp2結合との混合物を得るためには、図1に示す構造のCVD反応容器を使用することができる。
図1において、反応容器1は、反応ガス及びその希釈ガスを導入するためのガス導入口2と、導入された反応ガス等を容器外へ排気するためのガス流出口3とを備え、真空ポンプに接続され、大気圧以下に減圧維持されている。容器内のガスの流路には窒化ホウ素析出基板4が設定され、その基板に面した反応容器の壁体の一部には光学窓5が取り付けられ、この窓を介して基板に紫外光が照射されるよう、エキシマ紫外光レーザー装置6が設定されている。
【0018】
反応容器に導入された反応ガスは、基板表面において照射される紫外光によって励起され、反応ガス中の窒素源とホウ素源とが気相反応し、電子部材を構成する基板上に、一般式;BNで示され、sp3結合、またはこれとsp2結合との混合物が生成し、膜状に成長する。その場合の反応容器内の圧力は、0.001〜760Torrの広い範囲において実施可能であり、また、反応空間に設置された基板の温度は、室温〜1300℃の広い範囲で実施可能であることが実験の結果明らかとなったが、目的とする反応生成物を高純度で得るためには、圧力は低く、高温度で実施した方が好ましい。なお、基板表面ないしその近傍空間領域に対して紫外光を照射して励起する際、プラズマを併せて照射する態様も一つの実施の態様である。図1において、プラズマトーチ7は、この態様を示すものであり、反応ガス及びプラズマが基板に向けて照射されるよう、反応ガス導入口と、プラズマトーチとが基板に向けて一体に設定されている。
【0019】
前記合成反応を終了後、反応装置から生成物を基板ごと取り出し、そのまま電子放出エミッターとして、発光・表示デバイス設計に使用することができる。
【0020】
この出願の冷陰極型発光・表示デバイスにおける、電界電子放出電子源は、以上の反応容器を用いて作製されるが、本発明の発光・表示デバイスを、以下さらに図面及び具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、以下に開示する実施例は、これによって本発明は限定さる趣旨ではない。すなわち、本発明は、特定の材料からなる電子放出電子源を用いた冷陰極型発光・表示ディスプレイを提供するもので、その目的が達成しうる限りにおいて、反応条件等は適宜変更、設定することができることはいうまでもない。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。これらの実施例は、発明を容易に理解しうるために開示するものであって、発明を限定する趣旨ではない。
【0022】
実施例1;
(1)25mm径の円盤状Si基板を用いて、以下の手順でBN電子放出薄膜を自己造形的に作製した。アルゴン流量3SLMの希釈ガス流中にジボラン流量2.5sccm及び、アンモニア流量12sccmを導入し、同時にポンプにより排気することで圧力10Torrに保った雰囲気中にて、加熱により900℃に保持した直径25mmの円盤状のSi基板上に、エキシマレーザー紫外光を照射した(図1参照)。この際、同上ガスは、図のように、13.56MHzの電界により誘導結合的にプラズマ化されている。
プラズマ化されない場合にも同様なモルフォロジーが得られ、優れた電界電子放出特性が得られるが、薄膜の成長速度などに差が出、生成物の形状にも影響を与えることから、プラズマ化されていることが望ましい。
60分の合成時間により、目的とする物質を得た。X線回折法により決定したこの試料の結晶系は六方晶であり、sp3結合による5H型多形構造で、格子定数は、a=2.5
0Å、c=10.40Åであった。その結果を、走査型電子顕微鏡によって観察した結果(図2)、得られた薄膜体は、電界集中の生じやすい先端の尖った円錐状の高アスペクト比の突起構造物(数ミクロンから数十ミクロンメーターの長さ)によって覆われた特異な表面が自己造形的に形成されていることが確認された。
【0023】
(2)上記試料面に蛍光表示管用蛍光体(ZnO:Zn粉体)を10μm程度の厚さに塗布した。
【0024】
(3)次に、以下の図3aに示す構造のデバイスを作製した。まず、上記蛍光体を塗布した薄膜試料の面上に厚さ50μmのマイカを電極間ギャップ形成用絶縁層として用い、その上に、ITOガラスをITO面を試料面に相対する形で載せた。ITO面を陽極、試料側を陰極とした。陰極上に直接塗布された蛍光体面と陽極のITO面との間に約40μm程のギャップを設定した。
【0025】
(4)上記作製されたデバイスの真空中における電流電圧特性を図4に示す。デバイス保護のため、測定時に1MΩの抵抗を直列に接続している。縦軸は電流値の対数で、横軸がデバイス電圧である。この時、デバイス電圧100〜200Vの範囲で発光が見られ、図中点線で囲んだ領域が対応していることが確認された。また、図4のデータを、Fowler−Nordheimプロットしたものを図5に示す。これは、横軸が1/V、縦軸がLog[I/V^2]で、I=デバイス電流、V=デバイス電圧である。測定点が直線に乗っており、量子力学的トンネル効果による電界電子放出が真空中で起きていることが理解される。
【0026】
実施例2;
実施例1と同等の基板を用い、その上に同様の反応条件で試料を作製し、用意した。次に、ITOガラスを用意し、蛍光物質をITOガラス側に塗布し、これを、マイカ絶縁スペーサーを介して発光デバイスを組み立て、試料側を陰極、ITOガラスを陽極として、実施例1と同じ電流−電圧条件で通電した結果、同等の発光がみられた。
【0027】
実施例3;
実施例1と同等なデバイスにおいて、緑色、青色、赤色の三色の蛍光体を用いたものを結合して、RGB素子を設計した。電圧を印加した結果、RGB発光が得られた。
【0028】
実施例4;
実施例2と同等なデバイスにおいて、緑色、青色、赤色の三色の蛍光体を用いたものを結合し、RGB素子を作り、RGB発光が得られた。
【0029】
実施例5;
上記実施例において、ITOガラスの代わりに厚さ0.5mmの銅メッシュ板(電極)を用い、同様の発光を得た。
【0030】
実施例1で得られた試料面に10μm程度の厚さでZnO:Zn蛍光体を塗布し、さらにその表面から40μm程離して、ITOガラスを陽極として対面させて電界放出ディス
プレイFED(Field Emission Display)を作製した。試料を陰極として電圧をかけ、大気中、1気圧の下で電子放出量を測定した。ここでも、ITO電極に多量の電流が流れるのを防ぐために、測定デバイスと直列に1MΩの抵抗を挿入した。その結果は、大気中でも良好な電子放出が見られる。
【0031】
以上述べたとおり、本発明は、電界電子放出特性に優れた表面形状、すなわち、先端の尖った状態を呈した形状が自己造形的に形成されてなる特異な構成を有してなるsp3
結合、あるいはこれとsp2結合との混合物を含む材料を、電界電子放出電子源とする発
光・表示デバイスとその製造方法提供するものであって、これによって、電界電子放出閾値が低く、電流密度の高い、また、電子放出寿命の長い極めて良好な電界電子放出素子を提供することができ、デバイス設計において薄型化、軽量化に寄与し、今後大いに利用されるものと期待される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
従来の電子放出素子に比し、1000倍以上の電流密度で電子線を放出することにより超高輝度かつ高効率な照明システムの構築、微少電子放出面積で十分な電流値が得られることを利用した超高精細ディスプレイ等の実現(携帯電話、ウアラブルコンピューターなどへの応用)、成長時における紫外光照射面のみが電子放出特性に優れることを利用した、特有な電子放出パターンの形成、あるいは、超高輝度ナノ電子源としての利用、さらにまた、超小型電子ビーム源、等等への道を実際に示したものである。
【0033】
その結果、本発明は、照明、ディスプレイをはじめ現代の日常生活の隅々に行き渡っている各種電気機器・デバイスの革新につながることが考えられ、そのため、その利用可能性は極めて広く、総じて人間生活のあらゆる範囲に関係し、その技術的、経済的効果はグローバルかつ膨大である。
【0034】
さらに述べると、本発明は、光照射下の薄膜の自己組織的成長現象において特有な形状のものが自然に発現すると言う特有な現象を見いだし、かつこの現象を利用したもので、成長薄膜自体が未加工(as grown)のままでも、電界電子放出特性の著しい促進効果のある表面形態を持つものであり、しかも、薄膜材料自体の物理的特性により、大電流密度を保ちながら、材料の放電による損傷がほとんど無く、上記目的に応用される場合の機能の寿命が半永久的であることを考慮すると、これを電界電子放出に適った形状やパターンにする工程を要していたこれまでの水準と比較するとその意義は、単にプロセスの違いだけでは済まされない、本質的に大きな違いによる意義が認められる。すなわち、本発明によって表面形状の自己造形効果と材料自体の卓越した物理的特性の相乗効果により、電界電子放出の電流密度が、定常的に従来の1000倍以上のA/cm2オーダーであり、かつ耐久性に優れた薄膜と、その製造方法及びその用途を提供したことは、現状の技術水準に対してその壁を一気に越える画期的とも言える意義、作用効果をもたらしたものと確信する。
【0035】
本発明は、前述した構成によって、電界電子放出閾値の低い、(2)電流密度の高い、そして、(3)電子放出寿命の長い電界電子放出素子を提供し、これを冷陰極型発光・表示デバイスにおける電子源として取り入れることによって、前記利点は言うに及ばず、起動しやすい、デバイスの軽量化、薄型化、組み立てプロセスの簡素化、低コスト化に寄与し、今後は、この種デバイス設計に大いに利用されるものと期待される。その起動動作は、大気中でも十分に機能し、可能であることからもきわめて優れ、性能は従来水準をはるかに超える。その中でも特に(2)及び(3)において際だった優秀な特性(従来の1000倍以上の電流密度とBNに特有の極めて優れた構造的強度・耐久性)を有するため、高輝度発光が求められる、長時間の激しい使用に条件においても材料劣化のない、安定した作動が求められる各種ランプ型光源デバイス、フィールドエミッション型ディスプレイ、SED用等に画期的な技術的ブレークスルーをもたらすことが予測され、その意義は極めて大きい。今後、これらの電子機器分野をはじめ、各種応用技術分野に大いに利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】反応装置の概略図と概要を示す図。
【図2】実施例1で作製した、先端の尖ったBN結晶が薄膜を背景に適宜密度、分散状態で析出し、特有な表面形状を呈している様子を示した走査型電子顕微鏡像。
【図3a】実施例1の発光・表示デバイス(蛍光体;ZnO・Zn粉体)構造を示す概念図。
【図3b】実施例2の発光・表示デバイス(蛍光体;ZnO・Zn粉体)構造を示す概念図。
【図3c】実施例3の発光・表示デバイス(RGB発光素子)構造を示す概念図。
【図3d】実施例4の発光・表示デバイス(RGB発光素子)構造を示す概念図。
【図4】実施例1のデバイスの電流電圧特性を示す図。
【図5】図4のデータのFowler−Nordheimプロット図。
【符号の説明】
【0037】
1. 反応容器(反応炉)
2. ガス導入口
3. ガス流出口
4. 窒化ホウ素析出基板
5. 光学窓
6. エキシマ紫外レーザー装置
7. プラズマトーチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板に形成されてなる先端の尖った形状を有するBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料を、蛍光体を励起して発光させるのに必要な電界電子放出電子源とすることを特徴とする、冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項2】
前記電界電子放出源が、先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料を、電子放出に適した間隔、密度で自己造形的に電子基板に形成されてなるものである、請求項1に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項3】
前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、sp3結合性BN、ま
たは、sp3結合性BNとsp2結合性BNとの混合物からなる、請求項1または2に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項4】
前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、紫外光によって励起され、気相からの反応によって形成されてなる、請求項1ないし3の何れか1項に記載する冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項5】
前記電界電子放出電子源が、窓を備えた容器内に、蛍光体に直接に、あるいは対向、離間して設定されてなり、蛍光体から発光する光を窓から取り出すようにした、請求項1ないし4記載の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項6】
前記容器が真空に設定した真空容器である、請求項5に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項7】
前記蛍光体が、粉末状または膜状である、請求項5または6記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項8】
前記蛍光体が、窓に塗布されてなる、請求項5ないし7記載の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項9】
前記蛍光体が、RGB発光する三色蛍光体である、請求項5ないし8の何れか1項に記載の冷陰極型発光・表示デバイス。
【請求項10】
アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成し、反応終了後、生成物を基板ごと取出し、冷陰極型発光・表示デバイスにおける電界電子放出電子源として組み立てることを特徴とする、冷陰極型発光・表示デバイスの製作方法。


【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−172797(P2006−172797A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361150(P2004−361150)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】