説明

自由回転環状体型動力伝達制動装置

【課題】駆動力を伝達しあるいは遮断するクラッチ機能と出力軸の回転を制動する機能とを併せ持つ自由回転環状体型動力伝達制動装置を提供する。
【解決手段】アクセルペダルを踏み込むと遠心錘41が軸線方向に変位し、クラッチ機構30のハウジング31を一体に回転すると同時に、クラッチ機構30がハウジング31を出力軸12に接続する。ブレーキペダルを踏み込むと、制動手段60が作動してハウジング31の回転を制動すると同時に第2押動手段50が作動してハウジング31と出力軸12を接続するので自動車の車輪の回転を制動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の内燃機関やモータと車輪との間に介装される動力伝達制動装置に関し、より詳しくは、自由回転環状体の作用によって車両の発進および制動を滑らかにかつ少ない発熱量で実行できるように改良する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明の発明者らは、自動車や鉄道車両等の各種交通機関および工作機械等における回転軸の回転を制動するための新規な構造のブレーキ装置を開発し、先に出願している(下記、特許文献1を参照)。
【0003】
図13〜図16を参照し、この先願に係るブレーキ装置1の構造について概説すると、例えば自動車の変速機から駆動力が入力する入力軸2は、切換装置3の作用により、出力軸4に直結された状態と、増速用の遊星歯車機構5を介して出力軸4に接続される状態とを取ることができる。
【0004】
また、図14に示したように、自動車のエンジン101から出力された回転駆動力は、変速機102において変速された後、変速機102に連設されたトランスファケース103に内蔵されているこのブレーキ装置1を介してプロペラシャフト104に伝達される。
そして、プロペラシャフト104に入力した回転駆動力は、終減速機105において減速された後に内蔵されている図示されない差動歯車機構を介して左右の駆動輪106L,106Rに分配される。
【0005】
ところで、自動車の運転者がアクセルペダルの踏み込みを止めて自動車が惰性で走行している状態のときには、左右一対の駆動輪106L,106Rが、終減速機105およびプロペラシャフト104を介して出力軸4を回転駆動する。
【0006】
このとき、図16に示したように、切換手段3によって入力軸2と出力軸4とが直結されている場合には、遊星歯車機構5のうち入力軸2に接続されているプラネタリキャリヤ5aが回転駆動されるので、プラネタリキャリヤ5aとリングギヤの連設部分5bが相対回転し、同時にリングギヤの連設部分5bとケーシング9の蓋体9aとが相対回転する。
【0007】
この状態において、押動手段8のレバー8aを揺動させると、カムプレート8b,8cの作用によってプッシュロッド8dがケーシング9の内部に押し込まれ、図16に示したように、その先端に設けられている摩擦体8eが第2環状体7を介して第1環状体6をプラネタリキャリヤ5aに押圧する。
これに伴い、リングギヤの連設部分5bと一体に回転する第2環状体7と、第1環状体6およびプラネタリキャリヤ5aとの間に摺動摩擦が発生するから、リングギヤの連設部分5bとプラネタリキャリヤ5aとが摩擦係合し、遊星歯車機構5のリングギヤとプラネタリキャリヤとの相対回転が抑制される。
【0008】
すなわち、このブレーキ装置1は、エンジン101が出力する回転駆動力によって左右一対の駆動輪106L,106Rを駆動するときには、直結走行あるいはオーバードライブ走行を可能とするオーバードライブ装置として機能する。
これに対して、自動車が惰性走行しているときには、押動手段8のレバー8aを操作することにより、左右一対の駆動輪106L,106Rの回転を制動するブレーキ装置として機能する。
【0009】
また、このブレーキ装置1が発生させる制動力は、終減速機105に内蔵されている差動歯車機構によって左右の駆動輪106L,106Rに等しく分配される。
これにより、このブレーキ装置1によって左右の駆動輪106L,106Rを制動することができるから、各駆動輪106L,106Rにブレーキ装置を個別に設ける必要がない。
【0010】
さらに、第1環状体6が備えている軸線方向に積層された複数の自由回転環状体6a,6b,6c,6dは、硬度が高いものと低いものとが軸線方向に交互に並ぶように配設されている。
これにより、押動手段8によってプラネタリキャリヤ5aに向けて押動されて軸線方向に圧縮されたときに、隣接する環状部材同士の馴染み具合がそれぞれ異なるから、隣接する複数の自由回転環状体同士が固着して一体に回転することはなく、それぞれ異なる回転数で相対回転する。
【0011】
したがって、第1環状体6の複数の自由回転環状体6a,6b,6c,6dは、プラネタリキャリヤ5aとリングギヤの連設部分5bとの間の大きな回転速度差を滑らかに吸収することができる。
さらに、隣接する自由回転環状体同士の間の相対速度が小さいことに起因してそれらの間に発生する摩擦熱も少ないから、第1環状体6における発熱量も小さい。
加えて、プラネタリキャリヤ5aとリングギヤの連設部分5bとの間に多くの摩擦摺動面が存在するから、プラネタリキャリヤ5aとリングギヤの連設部分5bとを摩擦係合させるための摩擦力を増大させることができる。
【0012】
【特許文献1】特開2007−255695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した従来のブレーキ装置1は、エンジン101が発生させた駆動力を変速機102を介して受け入れるものであった。これにより、エンジン101が発生させた駆動力を受け入れあるいは遮断する機能は、変速機102に設けられているクラッチあるいはトルクコンバータが受け持っている。
しかしながら、上述したブレーキ装置1が、制動機能ばかりでなく、駆動力を受け入れあるいは遮断するクラッチ機能をも併せ持てば、その適用範囲を大きく拡げることができる。
【0014】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術をさらに改良し、駆動力を伝達しあるいは遮断するクラッチ機能と出力軸の回転を制動する機能とを併せ持つ、車両や工作機械等に用いて好適な自由回転環状体型動力伝達制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するための請求項1に記載した手段は、
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置(100)であって、
前記出力軸(12)の軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する内側環状ディスク(36a,36b,36c)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)の周囲に前記出力軸(12)と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材(33)、
前記筒状部材(33)の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材(33)と一体に回転する外側環状ディスク(35a〜35d)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35a〜35d)との間に相対回転自在に介装された、前記出力軸(12)と同軸な複数の自由回転環状体(37)、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構(30)と、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35a〜35d)を前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35a〜35d)との間に前記自由回転環状体(37)を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材(33)に支持された押動手段(40)と、
前記筒状部材(33)の回転を制動する制動手段(60)と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材(22)と、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35a〜35d)を前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35a〜35d)との間に前記自由回転環状体(37)を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材(33)に支持された第2押動手段(50)と、
前記駆動側部材(22)と一体に回転しつつその回転速度が高まるにつれて前記出力軸(12)の軸線に対して半径方向外側に変位し、前記駆動側部材(22)に設けられているカム面の作用により前記軸線方向に変位する遠心錘(41)と、を備え、
前記遠心錘(41)は、前記軸線方向に変位すると、前記押動手段(40)と摩擦係合して前記駆動側部材(22)の回転を前記クラッチ機構(30)に伝達しつつ、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35a〜35d)を前記軸線方向に押動するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項1に記載した自由回転環状体型動力伝達制動装置(100)においては、駆動側部材(22)が、例えば自動車の内燃機関あるいはモータ等の駆動力発生手段に接続されて一体に回転する。
そして、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことにより駆動側部材(22)の回転数が高まると、遠心錘(41)が半径方向外側に変位しつつ、駆動側部材(22)に設けられているカム面(22a)の作用によって軸線方向に変位し、押動手段(40)と摩擦係合してクラッチ機構(30)の筒状部材(33)を一体に回転させると同時に、内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは外側環状ディスク(35a〜35d)を軸線方向に押動し、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間に自由回転環状体(37)を挟持し摩擦係合させる。
すると、筒状部材(33)と出力軸(12)とがクラッチ機構(30)を介して接続されるから、駆動力発生手段による駆動力を出力軸(12)から出力して自動車の車輪を回転駆動することができる。
このとき、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間に介装されている複数の自由回転環状体(37)は、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0017】
一方、自動車の運転手がアクセルペダルの踏み込みを止めると駆動側部材(22)の回転数が低下し、遠心錘(41)が半径方向内側に変位するから、遠心錘(41)と押動手段(40)との摩擦係合が解除されると当時に、内側環状ディスクあるいは外側環状ディスクの軸線方向への押動がなくなって筒状部材(33)と出力軸(12)とのクラッチ機構(30)を介した接続が解除される。
これにより、自動車は惰性によって走行することができる。
【0018】
他方、自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、制動手段(60)が作動して筒状部材(33)の回転を制動する。
同時に、第2押動手段(50)が作動して筒状部材(33)と出力軸(12)とをクラッチ機構(30)を介して接続するので、出力軸(12)の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間に介装されている複数の自由回転環状体(37)は、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置(100)によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキ装置を個別に設ける場合に比較してその全体構造を簡単なものとすることができる。
【0019】
また、上記の課題を解決するための請求項2に記載した手段は、
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置(200)であって、
前記出力軸(12)の軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する内側環状ディスク(36a,36b,36c)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)の周囲に前記出力軸(12)と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材(33)、
前記筒状部材(33)の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材(33)と一体に回転する外側環状ディスク(35b〜35d)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35a,35b)との間に相対回転自在に介装された、前記出力軸(12)と同軸な複数の自由回転環状体(37)、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構(30)と、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35b〜35d)を前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35b〜35d)との間に前記自由回転環状体(37)を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材(33)に支持された第2押動手段(50)と、
前記筒状部材(33)の回転を制動する制動手段(60)と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材(22)と、
前記駆動側部材(22)と一体にかつ前記軸線方向に変位自在に回転する第2外側環状ディスク(73)と、
前記筒状部材(33)と一体に回転する第2内側環状ディスク(72)と、
前記第2内側環状ディスク(72)と前記第2外側環状ディスク(73)との間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体(75a,75b)と、
前記駆動側部材(22)と一体に回転しつつその回転速度が高まるにつれて半径方向外側に変位し、前記駆動側部材(22)に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘(41)と、を備え、
前記遠心錘(41)は、その回転速度が高まるにつれて前記第2外側環状ディスク(73)を前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスク(73)と前記第2内側環状ディスク(72)との間に前記第2自由回転環状体(75a,75b)を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする。
【0020】
すなわち、請求項2に記載した自由回転環状体型動力伝達制動装置(200)においては、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことにより駆動側部材(22)の回転数が高まると、遠心錘(41)が半径方向外側に変位しつつ、駆動側部材(22)に設けられているカム面(22a)の作用によって軸線方向に変位し、第2外側環状ディスク(73)を軸線方向に押動し、第2内側環状ディスク(72)との間に自由回転環状体(75b)を挟持し摩擦係合させる。
すると、駆動側部材(22)と第2内側環状ディスク(72)とが摩擦係合して一体に回転するから、駆動側部材(22)によって筒状部材(33)を回転駆動することができる。
同時に、第2押動手段(50)を電気的にあるいは油圧を用いて作動させ、筒状部材(33)と出力軸(12)とをクラッチ機構(30)を介して接続すると、出力軸(12)が駆動側部材(22)に接続されるから自動車の車輪を回転駆動することができる。
このとき、第2内側環状ディスクと第2外側環状ディスクとの間に介装されている複数の自由回転環状体(75)と、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間に介装されている複数の自由回転環状体(37)とが、第2内側環状ディスクと第2外側環状ディスクとの間、および内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転をそれぞれ滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0021】
他方、自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、制動手段(60)が作動して筒状部材(33)の回転を制動する。
同時に、第2押動手段(50)を電気的にあるいは油圧を用いて作動させ、筒状部材(33)と出力軸(12)とをクラッチ機構(30)を介して接続することにより、出力軸(12)の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク(36a,36b,36c)と外側環状ディスク(35a,35b)との間に介装されている複数の自由回転環状体(37)は、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置(200)によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキを個別に設ける場合に比較して構造を簡単なものとすることができる。
【0022】
また、上記の課題を解決するための請求項3に記載した手段は、
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置(300)であって、
前記出力軸(12)の軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する内側環状ディスク(36a,36b,36c)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)の周囲に前記出力軸(12)と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材(33)、
前記筒状部材(33)の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材(33)と一体に回転する外側環状ディスク(35b〜35d)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35b〜35d)との間に相対回転自在に介装された、前記出力軸(12)と同軸な複数の自由回転環状体(37)、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構(30)と、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35b〜35d)を前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35b〜35d)との間に前記自由回転環状体(37)を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材(33)に支持された第2押動手段(50)と、
前記筒状部材(33)の回転を制動する制動手段(60)と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材(22)と、
前記駆動側部材(22)と一体に回転しつつその回転速度が高まると半径方向外側に変位し、前記駆動側部材(22)に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘(41)と、
前記軸線方向に変位自在に前記駆動側部材(22)と一体に回転する第2外側環状ディスク(73)と、
前記軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する第3内側環状ディスク(81)と、
前記第3内側環状ディスク(81)と前記第2外側環状ディスク(73)との間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体(75a,75b)と、を備え、
前記遠心錘(41)は、前記第2外側環状ディスク(73)を前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスク(73)と前記第3内側環状ディスク(81)との間に前記第2自由回転環状体(75a,75b)を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項3に記載した自由回転環状体型動力伝達制動装置(300)においては、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことにより駆動側部材(22)の回転数が高まると、遠心錘(41)が半径方向外側に変位しつつ、駆動側部材(22)に設けられているカム面(22a)の作用によって軸線方向に変位し、第2外側環状ディスク(73)を軸線方向に押動し、第3内側環状ディスク(81)と第2外側環状ディスク(73)との間に自由回転環状体(75b)を挟持し摩擦係合させる。
すると、駆動側部材(22)と第3内側環状ディスク(81)とが摩擦係合して一体に回転するから、駆動側部材(22)によって出力軸(12)を回転駆動することができる。
このとき、第3内側環状ディスク(81)と第2外側環状ディスク(73)との間に介装されている複数の自由回転環状体(75)が、第3内側環状ディスクと第2外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0024】
一方、自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、制動手段(60)が作動して筒状部材(33)の回転を制動する。
同時に、第2押動手段(50)を電気的にあるいは油圧を用いて作動させ、筒状部材(33)と出力軸(12)とをクラッチ機構(30)を介して接続することにより、出力軸(12)の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク(36a,36b,36c)と外側環状ディスク(35b〜35d)との間に介装されている複数の自由回転環状体(37)は、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置(300)によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキを個別に設ける場合に比較して構造を簡単なものとすることができる。
【0025】
また、上記の課題を解決するための請求項4に記載した手段は、
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置(400)であって、
前記出力軸(12)の軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する内側環状ディスク(36a,36b,36c)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)の周囲に前記出力軸(12)と同軸に配設され、かつ前記出力軸(12)を回転自在に支持する静止部分に支持された筒状部材(33)、
前記筒状部材(33)の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材(33)と一体に回転する外側環状ディスク(35b〜35d)、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35b〜35d)との間に相対回転自在に介装された、前記出力軸(12)と同軸な複数の自由回転環状体(37)、
を有する第2自由回転環状体型クラッチ機構(90)と、
前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)あるいは前記外側環状ディスク(35b〜35d)を前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスク(36a,36b,36c)と前記外側環状ディスク(35b〜35d)との間に前記自由回転環状体(37)を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材(33)に支持された第2押動手段(50)と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材(22)と、
前記駆動側部材(22)と一体に回転しつつその回転速度が高まると半径方向外側に変位し、前記駆動側部材(22)に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘(41)と、
前記軸線方向に変位自在に前記駆動側部材(22)と一体に回転する第2外側環状ディスク(73)と、
前記軸線方向に変位自在に前記出力軸(12)と一体に回転する第3内側環状ディスク(81)と、
前記第3内側環状ディスク(81)と前記第2外側環状ディスク(73)との間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体(75a,75b)と、を備え、
前記遠心錘(41)は、前記第2外側環状ディスク(73)を前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスク(73)と前記第3内側環状ディスク(81)との間に前記第2自由回転環状体(75a,75b)を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする。
【0026】
すなわち、請求項4に記載した自由回転環状体型動力伝達制動装置(400)においては、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことにより駆動側部材(22)の回転数が高まると、遠心錘(41)が半径方向外側に変位しつつ駆動側部材(22)に設けられているカム面(22a)の作用によって軸線方向に変位し、第2外側環状ディスク(73)を軸線方向に押動し、第3内側環状ディスク(81)と第2外側環状ディスク(73)との間に自由回転環状体(75b)を挟持し摩擦係合させる。
すると、駆動側部材(22)と第3内側環状ディスク(81)とが摩擦係合して一体に回転するから、駆動側部材(22)によって出力軸(12)を回転駆動することができる。
このとき、第3内側環状ディスク(81)と第2外側環状ディスク(73)との間に介装されている複数の自由回転環状体(75)が、第3内側環状ディスクと第2外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0027】
一方、自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、第2押動手段(50)が電気的にあるいは油圧により操作されて、静止している筒状部材(33)と出力軸(12)とをクラッチ機構(90)を介して接続するので、出力軸(12)の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク(36a,36b,36c)と外側環状ディスク(35b〜35d)との間に介装されている複数の自由回転環状体(37)は、内側環状ディスクと外側環状ディスクとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置(400)によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキを個別に設ける場合に比較して構造を簡単なものとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、駆動力を伝達しあるいは遮断するクラッチ機能と出力軸の回転を制動する機能とを併せ持つ、車両や工作機械等に用いて好適な自由回転環状体型動力伝達制動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図9を参照し、本発明に係る自由回転環状体型動力伝達制動装置の各実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、出力軸12の軸線が延びる方向を「軸線方向」と、それに対して垂直な方向を「半径方向」と言う。
さらに、同一の部分には同一の符号を用いて重複した説明を省略する。
【0030】
第1実施形態
まず最初に図1〜図3を参照し、請求項1に対応する第1実施形態の自由回転環状体型動力伝達制動装置について説明する。
【0031】
この自由回転環状体型動力伝達制動装置100は、例えば自動車のエンジン本体や電動モータのハウジングに複数のボルトBを用いて固定されるケース10と、このケース10に軸受11を介して回転自在に支持された出力軸12とを備えている。
そして、この出力軸12の図示左端部分は、自動車エンジンのクランクシャフトや電動モータの出力軸等の駆動力発生手段に接続される筒状の入力部材21に対し、ニードル軸受13を介して相対回転自在に支持されている。
また、入力部材21にはフライホイール(駆動側部材)22がボルトによって締結されて一体に回転するようになっている。
さらに、フライホイール22には環状の接続部材23が同軸に締結されており、次述する押動手段40の押動板43を軸線方向に変位自在に支持している。
【0032】
クラッチ機構30は、フライホイール22の回転を出力軸12に伝達するためのもので、そのハウジング31は軸受32a,32bにより出力軸12に対して相対回転自在に支持されている。
また、ハウジング31を構成している筒状部分33の内周面には、この筒状部分33と一体に回転する外側環状ディスク35a〜35dが軸線方向に変位自在に取り付けられている。
そして、出力軸12の外周面には、出力軸12と一体に回転する内側環状ディスク36a,36b,36cが軸線方向に変位自在に取り付けられている。
さらに、外側環状ディスク35a〜35dと内側環状ディスク36a,36b,36cとの間の各隙間には、自由回転環状体37がそれぞれ相対回転自在に介装されている。
【0033】
フライホイール22とクラッチ機構30との間には押動手段40が介装されている。
この押動手40は、外側環状ディスク35aを軸線方向に押動し、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間に自由回転環状体37を挟持して摩擦係合させるためのもので、フライホイール22と一体に回転する遠心錘41を有している。
この遠心錘41は、円周方向に分割された複数の部材から構成され、環状ばね42によって常に半径方向内側に向かって付勢されている。
これにより、遠心錘41は、フライホイール22の回転速度が高まると遠心力の作用によって半径方向外側に変位するが、フライホイール22に設けられているカム面22aの作用により、クラッチ機構30に向かって軸線方向に変位する。
【0034】
すると、支持部材23の外周面上に軸線方向に変位自在に、かつフライホイール22と一体に回転するように支持されている環状の押動板43が遠心錘41によって押動されて軸線方向に変位する。
そして、ハウジング31を軸線方向に貫通している複数の押動ピン44によって支持されている環状の摩擦体45と押動板43とが摩擦係合すると、フライホイール22の回転は、支持部材23、押動板43、摩擦体45、および押動ピン45を介してクラッチ機構30のハウジング31に伝達され、ハウジング31はフライホイール22と一体に回転することになる。
【0035】
一方、複数の押動ピン44の先端は、ハウジング31の内側にある内側環状ディスク35aに植設されている。
これにより、遠心錘41が軸線方向に変位すると外側環状ディスク35aが軸線方向に押動されるので、外側環状ディスク35a〜35dと内側環状ディスク36a〜36cの間で自由回転環状体37が摩擦係合し、クラッチ機構30のハウジング31と出力軸12とが一体に回転することになる。
【0036】
他方、クラッチ機構30のハウジング31とケース10のカバー10aとの間には、第2押動手段50が介装されている。
この第2押動手段50は、外側環状ディスク35dを出力軸12の軸線方向に押動し、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間に自由回転環状体37を摩擦係合させて、クラッチ機構30のハウジング31と出力軸12とを一体に回転させるためのものである。
そのため、ケース10のカバー10aには、一対のくさび状部材51,52が支持されている。
そして、一方のくさび状部材51を油圧を用いて半径方向内側に変位させると、他方のくさび部材52が軸線方向に変位する。
すると、このくさび部材52は、ハウジング31を軸線方向に貫通している複数の押動ピン53によって支持されている環状の摩擦体54と摩擦係合する。
【0037】
また、複数の押動ピン53の先端は、クラッチ機構30の外側環状ディスク35dに植設されている。
これにより、第2押動手段50を操作して外側環状ディスク35dを軸線方向に変位させると、外側環状ディスク35a〜35dと内側環状ディスク36a〜36cの間に自由回転環状体37が摩擦係合するので、クラッチ機構30のハウジング31と出力軸12とを一体に回転させることができる。
【0038】
さらに、クラッチ機構30のハウジング31のうち筒状部分33の周囲には、バンドブレーキ(制動手段)60が配設されている。
このバンドブレーキ60は、筒状部分33の外周面にほぼ全周にわたって巻き付けられる制動帯61と、この制動帯61を筒状部分33の外周面に強固に巻き付けるための図示されない油圧シリンダとを有している。
これにより、自動車の運転者がブレーキペダルを踏むと、油圧シリンダに油圧が作用して制動帯61が筒状部分33の外周面に強固に巻き付けられるため、クラッチ機構30のハウジング31とケース10との間の相対回転を制動し、ハウジング31を回転不能に固定することができる。
【0039】
次に、図2および図3を参照し、上述した構造を有する本第1実施形態の自由回転環状体型動力伝達制動装置10の作動について説明する。
【0040】
自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことにより、フライホイール22の回転速度が高まると、遠心力の作用によって遠心錘41が軸線方向に変位し、押動手段40を作動させる。
すると、フライホイール22とクラッチ機構30の筒状部分33とが一体に回転するとともに、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間に複数の自由回転環状体37がそれぞれ挟持されて摩擦係合する。
これにより、筒状部材33と出力軸12とがクラッチ機構30を介して接続されるから、図2中に矢印で示したように、フライホイール22の回転を出力軸12から出力して自動車の車輪を回転駆動することができる。
このとき、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37は、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0041】
自動車の運転手がアクセルペダルの踏み込みを止めると、フライホイール22の回転数が低下して遠心錘41が半径方向内側に変位するから、遠心錘41と押動手段40との係合が解除されると当時に、筒状部材33と出力軸12との接続が解除される。
これにより、自動車は惰性によって走行することができる。
【0042】
自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、バンドブレーキ60が作動して筒状部材33の回転を制動すると同時に、第2押動手段50が作動して筒状部材33と出力軸12とがクラッチ機構30を介して接続される。
これにより、図3中に矢印で示したように、出力軸12の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37は、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35a〜35dとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置100によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキ装置を個別に設ける場合に比較してその全体構造を簡単なものとすることができる。
【0043】
第2実施形態
次に図4〜図6を参照し、請求項2に対応する第2実施形態の自由回転環状体型動力伝達制動装置について説明する。
【0044】
上述した第1実施形態の装置100においては、遠心錘41と押動手段40との間の摩擦係合によってフライホイール22からクラッチ機構30へと駆動力を伝達する構造であった。
これに対し、本第2実施形態の装置200においては、フライホイール22からクラッチ機構30へと駆動力を伝達する経路の途中に第2内側環状ディスク72、第2外側環状ディスク73、および第2自由回転環状体75a,75bを有する発進用クラッチ部70が介装されている。
【0045】
具体的に説明すると、クラッチ機構30のハウジング31には、発進用クラッチ部70の第2内側環状ディスク72が取り付けられて一体に回転するようになっている。
また、フライホイール22の外周端部には、第2筒状部材24とカム面25aを有した連設部材25が設けられている。そして、第2筒状部材24の内周面には、第2外側環状ディスク73が軸線方向に変位自在にかつ一体に回転するように取り付けられている。なお、この第2外側環状ディスク73は、フライホイール22から離間するようにコイルばね74によって軸線方向に常に付勢されている。
さらに、第2内側環状ディスク72と第2外側環状ディスク73およびフライホイール22との間の隙間には、それぞれ第2自由回転環状体75a,75bが介装されている。
【0046】
これにより、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことによりフライホイール22の回転数が高まると、遠心錘41が軸線方向に変位し、コイルばね74の付勢力に抗して第2外側環状ディスク73を軸線方向に押動し、フライホイール22および第2内側環状ディスク72との間に第2自由回転環状体75a,75bを挟持して摩擦係合させる。
すると、フライホイール22と第2内側環状ディスク72とが摩擦係合して一体に回転するから、フライホイール22によってクラッチ機構30の筒状部材33を回転駆動することができる。
【0047】
同時に、第2押動手段50を電気的にあるいは油圧を用いて作動させ、筒状部材33と出力軸12とをクラッチ機構30を介して接続すると、図5中に矢印で示したように、フライホイール22から出力軸12へと駆動力が伝達され、自動車の車輪を回転駆動することができる。
【0048】
このとき、第2内側環状ディスク72とフライホイール22および第2外側環状ディスク73との間に介装されている第2自由回転環状体75a,75bが、フライホイール22と第2内側環状ディスク72との間の相対回転をそれぞれ滑らかに吸収する。
同時に、クラッチ機構30の内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37が、筒状部材33と出力軸12との間の相対回転をそれぞれ滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0049】
自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、バンドブレーキ60が作動して筒状部材33の回転を制動すると同時に、第2押動手段50が作動して筒状部材33と出力軸12とがクラッチ機構30を介して接続される。
これにより、図6中に矢印で示したように、出力軸12の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37は、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置200によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキ装置を個別に設ける場合に比較してその全体構造を簡単なものとすることができる。
【0050】
第3実施形態
次に図7〜図9を参照し、請求項3に対応する第3実施形態の自由回転環状体型動力伝達制動装置について説明する。
【0051】
上述した第2実施形態の装置200においては、発進用クラッチ部70の第2内側環状ディスク72が、クラッチ機構30のハウジング31に接続されていた。
これに対し、本第3実施形態の装置300においては、発進用クラッチ部80の第3内側環状ディスク81が出力軸12に対し、軸線方向に変位自在にかつ一体に回転するように接続されている。
【0052】
具体的に説明すると、フライホイール22の外周端部には、第2筒状部材24とカム面25aを有した連設部材25が設けられている。そして、第2筒状部材24の内周面には、第2外側環状ディスク73が軸線方向に変位自在にかつ一体に回転するように取り付けられている。なお、この第2外側環状ディスク73は、フライホイール22から離間するようにコイルばね74によって軸線方向に常に付勢されている。
また、出力軸12には、第3内側環状ディスク81が軸線方向に変位自在にかつ一体に回転するように接続されている。
さらに、第3内側環状ディスク81と第2外側環状ディスク73およびフライホイール22との間の隙間には、それぞれ第2自由回転環状体75a,75bが介装されている。
【0053】
これにより、自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことによりフライホイール22の回転数が高まると、遠心錘41が軸線方向に変位し、コイルばね74の付勢力に抗して第2外側環状ディスク73を軸線方向に押動し、フライホイール22および第3内側環状ディスク81との間に第2自由回転環状体75a,75bを挟持して摩擦係合させる。
すると、フライホイール22と第3内側環状ディスク81とが摩擦係合して一体に回転するから、図8中に矢印で示したように、フライホイール22によって出力軸12を回転駆動することができる。
【0054】
このとき、第3内側環状ディスク81とフライホイール22および第2外側環状ディスク73との間に介装されている第2自由回転環状体75a,75bが、フライホイール22と第3内側環状ディスク81との間の相対回転をそれぞれ滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0055】
自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、バンドブレーキ60が作動して筒状部材33の回転を制動すると同時に、第2押動手段50が作動して筒状部材33と出力軸12とがクラッチ機構30を介して接続される。
これにより、図9中に矢印で示したように、出力軸12の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
このとき、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37は、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置300によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキ装置を個別に設ける場合に比較してその全体構造を簡単なものとすることができる。
【0056】
第4実施形態
次に図10〜図12を参照し、請求項4に対応する第4実施形態の自由回転環状体型動力伝達制動装置について説明する。
【0057】
上述した第3実施形態の装置300においては、バンドブレーキ60を用いて筒状部材33の回転を制動するようになっていた。
これに対し、本第4実施形態の装置400においては、第2クラッチ機構90の筒状部材33がケース10に支持され、出力軸12に対して全く相対回転しない構造となっている。
また、筒状部材33の回転を制動するためのバンドブレーキ60が取り除かれている。
【0058】
具体的に説明すると、第2クラッチ機構90のハウジング31のうち筒状部分33を支持している円盤状部分91は、その外周部分がケース10および蓋体10aに挟持されて固定されている。
これにより、前述した第1〜第3実施形態とは異なり、第2クラッチ機構90のハウジング31は自動車のエンジンや電動モータの本体部分に支持されて出力軸12に対して全く相対回転しない。
そこで、筒状部材33の回転を制動するためのバンドブレーキ60は設けられていない。
【0059】
自動車の運転手がアクセルペダルを踏み込むことによりフライホイール22の回転数が高まると、遠心錘41が軸線方向に変位し、コイルばね74の付勢力に抗して第2外側環状ディスク73を軸線方向に押動し、フライホイール22および第3内側環状ディスク81との間に第2自由回転環状体75a,75bを挟持して摩擦係合させる。
すると、フライホイール22と第3内側環状ディスク81とが摩擦係合して一体に回転するから、図11中に矢印で示したように、フライホイール22によって出力軸12を回転駆動することができる。
このとき、第3内側環状ディスク81とフライホイール22および第2外側環状ディスク73との間に介装されている第2自由回転環状体75a,75bが、フライホイール22と第3内側環状ディスク81との間の相対回転をそれぞれ滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに発進させることができる。
【0060】
また、自動車の運転手がブレーキペダルを踏み込むと、第2押動手段50が作動して筒状部材33と出力軸12とが第2クラッチ機構90を介して接続される。
このとき、筒状部材33はケース10に支持されて静止しているから、図12中に矢印で示したように、出力軸12の回転を制動して自動車の車輪の回転を制動することができる。
また、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間に介装されている複数の自由回転環状体37は、内側環状ディスク36a〜36cと外側環状ディスク35b〜35dとの間の相対回転を滑らかに吸収するから、自動車を滑らかに停止させることができるばかりでなく、制動に伴う発熱を抑制することができる。
さらに、この自由回転環状体型動力伝達制動装置400によって全ての駆動車輪の回転を制動することができるから、各駆動車輪にブレーキ装置を個別に設ける場合に比較してその全体構造を簡単なものとすることができる。
【0061】
以上、本発明に係る自由回転環状体型動力伝達制動装置の各実施形態について詳しく説明したが、本発明は上述した実施形態によって限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した各実施形態においては、いずれも自動車のエンジンあるいは電動モータに取り付けた場合を例にとって説明したが、本発明の装置は自動車に限定されず、工作機械にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施形態の動力伝達制動装置を模式的に示す半断面図。
【図2】図1に示した装置の動力伝達状態を模式的に示す半断面図。
【図3】図1に示した装置の制動状態を模式的に示す半断面図。
【図4】第2実施形態の動力伝達制動装置を模式的に示す半断面図。
【図5】図4に示した装置の動力伝達状態を模式的に示す半断面図。
【図6】図4に示した装置の制動状態を模式的に示す半断面図。
【図7】第3実施形態の動力伝達制動装置を模式的に示す半断面図。
【図8】図7に示した装置の動力伝達状態を模式的に示す半断面図。
【図9】図7に示した装置の制動状態を模式的に示す半断面図。
【図10】第4実施形態の動力伝達制動装置を模式的に示す半断面図。
【図11】図10に示した装置の動力伝達状態を模式的に示す半断面図。
【図12】図10に示した装置の制動状態を模式的に示す半断面図。
【図13】従来の装置を示す全体斜視図。
【図14】図13に示した装置を車両に適用した状態で示す平面図。
【図15】図13に示した装置の作動を説明する半断面図。
【図16】図13に示した装置の作動を説明する半断面図。
【符号の説明】
【0063】
1 従来の装置
10 ケース
11 軸受
12 出力軸
22 フライホイール(駆動側部材)
30 クラッチ機構
35 外側環状ディスク
36 内側環状ディスク
37 自由回転環状体
40 押動手段
41 遠心錘
50 第2押動手段
51,52 くさび状部材
60 制動手段
70 発進用クラッチ部
72 第2内側環状ディスク
73 第2外側環状ディスク
75 第2自由回転環状体
80 発進用クラッチ部
81 第3内側環状ディスク
90 第2クラッチ機構
100 第1実施形態の動力伝達制動装置
200 第2実施形態の動力伝達制動装置
300 第3実施形態の動力伝達制動装置
400 第4実施形態の動力伝達制動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置であって、
前記出力軸の軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する内側環状ディスク、
前記内側環状ディスクの周囲に前記出力軸と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材、
前記筒状部材の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材と一体に回転する外側環状ディスク、
前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に相対回転自在に介装された、前記出力軸と同軸な複数の自由回転環状体、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構と、
前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に前記自由回転環状体を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材に支持された押動手段と、
前記筒状部材の回転を制動する制動手段と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材と、
前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に前記自由回転環状体を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材に支持された第2押動手段と、
前記駆動側部材と一体に回転しつつその回転速度が高まるにつれて前記出力軸の軸線に対して半径方向外側に変位し、前記駆動側部材に設けられているカム面の作用により前記軸線方向に変位する遠心錘と、を備え、
前記遠心錘は、前記軸線方向に変位すると、前記押動手段と摩擦係合して前記駆動側部材の回転を前記クラッチ機構に伝達しつつ、前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動するように構成されていることを特徴とする自由回転環状体型動力伝達制動装置。
【請求項2】
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置であって、
前記出力軸の軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する内側環状ディスク、
前記内側環状ディスクの周囲に前記出力軸と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材、
前記筒状部材の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材と一体に回転する外側環状ディスク、
前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に相対回転自在に介装された、前記出力軸と同軸な複数の自由回転環状体、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構と、
前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に前記自由回転環状体を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材に支持された第2押動手段と、
前記筒状部材の回転を制動する制動手段と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材と、
前記駆動側部材と一体にかつ前記軸線方向に変位自在に回転する第2外側環状ディスクと、
前記筒状部材と一体に回転する第2内側環状ディスクと、
前記第2内側環状ディスクと前記第2外側環状ディスクとの間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体と、
前記駆動側部材と一体に回転しつつその回転速度が高まるにつれて半径方向外側に変位し、前記駆動側部材に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘と、を備え、
前記遠心錘は、その回転速度が高まるにつれて前記第2外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスクと前記第2内側環状ディスクとの間に前記第2自由回転環状体を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする自由回転環状体型動力伝達制動装置。
【請求項3】
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置であって、
前記出力軸の軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する内側環状ディスク、
前記内側環状ディスクの周囲に前記出力軸と同軸にかつ相対回転自在に配設された筒状部材、
前記筒状部材の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材と一体に回転する外側環状ディスク、
前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に相対回転自在に介装された、前記出力軸と同軸な複数の自由回転環状体、
を有する自由回転環状体型クラッチ機構と、
前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に前記自由回転環状体を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材に支持された第2押動手段と、
前記筒状部材の回転を制動する制動手段と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材と、
前記駆動側部材と一体に回転しつつその回転速度が高まると半径方向外側に変位し、前記駆動側部材に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘と、
前記軸線方向に変位自在に前記駆動側部材と一体に回転する第2外側環状ディスクと、
前記軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する第3内側環状ディスクと、
前記第3内側環状ディスクと前記第2外側環状ディスクとの間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体と、
を備え、
前記遠心錘は、前記第2外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスクと前記第3内側環状ディスクとの間に前記第2自由回転環状体を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする自由回転環状体型動力伝達制動装置。
【請求項4】
駆動力発生手段から出力軸に駆動力を伝達するとともに前記出力軸の回転を制動する動力伝達制動装置であって、
前記出力軸の軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する内側環状ディスク、
前記内側環状ディスクの周囲に前記出力軸と同軸に配設され、かつ前記出力軸を回転自在に支持する静止部分に支持された筒状部材、
前記筒状部材の内周面に前記軸線方向に変位自在に支持されて前記筒状部材と一体に回転する外側環状ディスク、
前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に相対回転自在に介装された、前記出力軸と同軸な複数の自由回転環状体、
を有する第2自由回転環状体型クラッチ機構と、
前記内側環状ディスクあるいは前記外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記内側環状ディスクと前記外側環状ディスクとの間に前記自由回転環状体を挟持して摩擦係合させる、前記筒状部材に支持された第2押動手段と、
前記駆動力発生手段と一体に回転する駆動側部材と、
前記駆動側部材と一体に回転しつつその回転速度が高まると半径方向外側に変位し、前記駆動側部材に設けられているカム面と係合して前記軸線方向に変位する遠心錘と、
前記軸線方向に変位自在に前記駆動側部材と一体に回転する第2外側環状ディスクと、
前記軸線方向に変位自在に前記出力軸と一体に回転する第3内側環状ディスクと、
前記第3内側環状ディスクと前記第2外側環状ディスクとの間に同軸にかつ相対回転自在に介装された複数の第2自由回転環状体と、を備え、
前記遠心錘は、前記第2外側環状ディスクを前記軸線方向に押動し、前記第2外側環状ディスクと前記第3内側環状ディスクとの間に前記第2自由回転環状体を挟持して摩擦係合させるように構成されていることを特徴とする自由回転環状体型動力伝達制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−275805(P2009−275805A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127263(P2008−127263)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(591173383)ホンマ科学株式会社 (2)
【Fターム(参考)】