説明

航空機用ラジアルタイヤ

【課題】耐圧性と耐久性とを両立させ、さらにはタイヤ重量のさらなる軽量化も図りうる航空機用ラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】カーカス2が、一対のビードコア1の周りにタイヤ幅方向内側から外側へ巻上げられた少なくとも一層の内側カーカスプライ2Aと、内側カーカスプライ2Aを巻上げ部分も含め外包みして、ビードコアの少なくとも直下まで延在する少なくとも一層の外側カーカスプライ2Bと、を含み、内側カーカスプライおよび外側カーカスプライを構成する有機繊維コードが同一の材質からなるとともに、この有機繊維コードの、下記式(I)、
α=tanθ=0.001×N×√(0.125×D/ρ) (I)
(式中、Nは撚り数(回/10cm)であり、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)であり、ρはコードに用いられる繊維の比重である)で示される撚り係数αの値が、外側カーカスプライよりも内側カーカスプライにおいて小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航空機用ラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、有機繊維コードを用いた複数枚のカーカスプライを備える航空機用ラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用ラジアルタイヤは、10気圧を超える非常に高い規定内圧が公的規格により定められている上、高度な信頼性要求を満たすために、タイヤ強度メンバーは規定内圧の4倍も耐圧性を有することが必要とされる。このため、タイヤのカーカスには、有機繊維からなるプライを多数枚積層することで、上記耐圧性能を満足させている。
【0003】
また、航空機用ラジアルタイヤは、その負担する荷重が大きいため、使用状態でのタイヤのたわみが非常に大きく設定されている。すなわち、走行時のタイヤカーカス部の変形量が大きいため、繰り返しの屈曲に耐えうる素材および構造の採用が必須となっている。かかる観点から、航空機用ラジアルタイヤに求められる代表的な性能は、十分な耐圧性および耐疲労性である。
【0004】
さらに、航空機用ラジアルタイヤのカーカス構造としては、一対のビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側へ巻き上げられて、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨る内側カーカスプライと、この内側カーカスプライを巻上げ部分も含め外包みして、ビードコアの直下まで延在する外側カーカスプライとを備える構造が一般的である。さらにこの場合、内側カーカスプライと外側カーカスプライとのコード構造としては、通常、同一のものが使用される。
【0005】
ここで、航空機用ラジアルタイヤに求められる耐圧性および耐久性のさらなる向上を考えた場合、例えば、有機繊維コードでは、コードの撚り数を調節するのが一般的である。コードの撚り数を減らせば、コード破断強力が上昇するため、タイヤ破壊圧の向上が可能となるが、その一方、繰り返し伸張に対するコード疲労性が低下するため、タイヤ耐久性が悪化してしまう。したがって、コードの撚り数の調整だけでは、タイヤの耐圧性と耐久性との両立は困難である。
【0006】
また、従来は、カーカスプライの有機繊維コードとして、主に脂肪族ポリアミドからなる、通称ナイロン繊維を使用していた。この繊維は、耐疲労性および熱収縮性に優れ、カーカスプライ素材として信頼性の高い素材である。しかし、破断強力が比較的小さく、耐圧性を確保するためには多数枚のカーカスプライを配設する必要があり、さらなるタイヤ軽量化を目指す上での妨げとなっていた。
【0007】
これに対し、上記問題点を解決するためには破断強力の高い有機繊維を採用することが有利であるとの観点から、芳香族ポリアミドからなる、通称アラミド繊維について、カーカスプライ素材としての検討がなされてきている。このアラミド繊維は、ナイロン繊維と比較して1.5〜2倍の強力を有することから、使用部材の大幅な低減、すなわち、大幅なタイヤ重量の軽減が期待されるものである。また、カーカスプライに係る改良技術としては、例えば、特許文献1,2に、所定の熱収縮応力および弾性率の条件を満足する有機繊維コードをカーカスプライに用いた航空機用空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−162494号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2007−190963号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、種々検討を重ねる中で、カーカスプライへのアラミド繊維の適用には、いくつかの問題が内包されることが明らかになった。
第一の問題は、タイヤ製造に関わるものである。ラジアルタイヤの成型においては、カーカス部は最初円筒状のドラム上にて積層され、その後、拡張されてトロイド状に変形させられるが、その際、積層されたカーカスプライの内外層間にペリフェリ長の変化が生ずる。このため、加硫工程において、加熱する前のグリーンタイヤの状態で特にタイヤ軸方向外側に位置するカーカスプライにたるみが生じる。従来のナイロン製カーカスの場合、加硫時の加熱により繊維に熱収縮が発生するため、このたるみは是正されて、製品タイヤにおいては問題ない性状が得られる。しかし、アラミド繊維を適用した場合には、熱収縮性が極めて小さいため、製造時に生じるカーカスプライのたるみを加硫工程において除去することが難しく、目的とするカーカスの耐久性を達成することが困難となる場合があった。
【0010】
また、第二の問題は、コードの疲労性に関わるものである。アラミド繊維は、圧縮方向の応力に対する耐疲労性が比較的小さいため、タイヤの耐久試験において、回転中にカーカス部へ繰り返しの歪みを負荷した際に、繊維が長手方向への圧縮応力を受け、コード疲労によりCBU(カーカスプライの切断)が発生してしまい、所期の性能を満足することができない場合があった。
【0011】
したがって、従来の、カーカスプライコードの撚り数の調整や、コード材質としてのアラミド繊維の適用のみでは、タイヤの耐圧性と耐久性とを両立させつつ、タイヤ軽量化を図ることはできず、さらなる改良技術の確立が望まれていた。
【0012】
そこで本発明の目的は、上記問題点を解消して、耐圧性と耐久性とを両立させ、さらにはタイヤ重量のさらなる軽量化も図りうる航空機用ラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、タイヤの設計上必要とされる物性につき詳細に検討した結果、タイヤ性能面と製造面との両面を満足しうる最適なカーカスコード条件を見出した。
【0014】
内側カーカスプライおよび外側カーカスプライの機能を考えると、外側カーカスプライは、内側カーカスプライに比べて、特に、ビード部外側におけるコードの繰り返し伸張が大きいため、耐疲労性が求められる。一方、内側カーカスプライは、外側カーカスプライ対比、張力負担割合が高いため、耐疲労性よりも耐圧性が求められる。
【0015】
内側カーカスプライおよび外側カーカスプライのかかる機能から、本発明者は、外側カーカスプライについて、コードの撚り数を上昇させることで耐疲労性を向上することができることを見出し、一方で、それだけでは外側カーカスプライのコード破断強力が低下してしまい、タイヤ耐圧性に劣ることになるため、併せて内側カーカスプライに用いるコードの撚り数を減少させることで、耐圧性についても確保できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の航空機用ラジアルタイヤは、一対のビードコア間にトロイド状に延在し、タイヤ赤道面に対して70°〜90°のコード角度で配列した複数本の有機繊維コードからなるカーカスを骨格とする航空機用ラジアルタイヤにおいて、
前記カーカスが、前記一対のビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側へ巻上げられた少なくとも一層の内側カーカスプライと、該内側カーカスプライを巻上げ部分も含め外包みして、前記ビードコアの少なくとも直下まで延在する少なくとも一層の外側カーカスプライと、を含み、
前記内側カーカスプライおよび前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードが同一の材質からなるとともに、該有機繊維コードの、下記式(I)、
α=tanθ=0.001×N×√(0.125×D/ρ) (I)
(式中、Nは撚り数(回/10cm)であり、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)であり、ρはコードに用いられる繊維の比重である)で示される撚り係数αの値が、前記外側カーカスプライよりも前記内側カーカスプライにおいて小さいことを特徴とするものである。
【0017】
本発明においては、前記内側カーカスプライを構成する有機繊維コードの撚り係数αiに対する前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードの撚り係数αoの比αo/αiが、1.15より大きいことが好ましい。また、前記内側カーカスプライおよび前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードとしては、ポリケトンからなるフィラメント束を複数本撚り合わせてなり、下記式(II),(III)、
σ≧−0.01E+1.2 (II)
σ≧0.02 (III)
(式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である)で示される条件を満足するポリケトン繊維コードを用いることが好ましい。ここで、上記有機繊維コードの177℃における熱収縮応力σは、一般的なディップ処理を施した加硫前の補強コードの25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する応力であり、また、上記有機繊維コードの25℃における49N荷重時の弾性率Eは、JISのコード引張り試験によるSSカーブの49N時の接線から算出した単位cN/dtexでの弾性率である。
【0018】
また、本発明の航空機用ラジアルタイヤの製造方法は、上記本発明の航空機用ラジアルタイヤを製造するにあたり、製品タイヤの内面形状に対応する外面形状を有する分割タイプの剛性コア上で生タイヤを成型し、成型された該生タイヤを、該剛性コアとともにモールド内に挿入して加硫することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カーカスプライの有機繊維コードの撚り係数の値が、外側カーカスプライよりも内側カーカスプライにおいて小さくなるものとしたことで、耐疲労性、すなわち耐久性と、耐圧性とを両立した航空機用ラジアルタイヤを実現することが可能となった。また、カーカスプライを構成する有機繊維コードの材質として、高い破断強力を有するポリケトン繊維を使用することで、要求される耐圧性を満足した上で必要部材を減少することができ、タイヤ重量の大幅な低減を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一例の航空機用ラジアルタイヤを示す幅方向断面図である。
【図2】本発明の航空機用ラジアルタイヤのビード部近傍を示す拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一例の航空機用ラジアルタイヤの幅方向断面図を示す。図示するように、本発明の航空機用ラジアルタイヤは、一対のビード部11と、それに連なる一対のサイドウォール部12と、両サイドウォール部12間にトロイド状をなして連なるトレッド部13とを備えており、一対のビード部11内にそれぞれ埋設された一対のビードコア1間にトロイド状に延在し、タイヤ赤道面に対して70°〜90°のコード角度で配列した複数本の有機繊維コードからなるカーカス2と、カーカス2とトレッドゴム3との間に配置された複数層のベルト層よりなるベルト4とを備えている。
【0022】
図2の拡大図に示すように、本発明の航空機用ラジアルタイヤにおいては、カーカス2が、一対のビードコア1の周りにタイヤ幅方向内側から外側へ巻上げられた少なくとも一層、好適には1〜3層の内側カーカスプライ2Aと、この内側カーカスプライ2Aを巻上げ部分も含め外包みして、ビードコア1の少なくとも直下まで延在する少なくとも一層、好適には1〜5層の外側カーカスプライ2Bと、を備えている。
【0023】
本発明においては、これら内側カーカスプライ2Aおよび外側カーカスプライ2Bを構成する有機繊維コードが同一の材質からなるとともに、この有機繊維コードの、下記式(I)、
α=tanθ=0.001×N×√(0.125×D/ρ) (I)
(式中、Nは撚り数(回/10cm)であり、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)であり、ρはコードに用いられる繊維の比重である)で示される撚り係数αの値が、外側カーカスプライ2Bよりも内側カーカスプライ2Aにおいて小さく設定されている点が重要である。これにより、外側カーカスプライ2Bについてはコード撚り数を大きくして耐疲労性を向上させるとともに、内側カーカスプライ2Aについてはコード撚り数を小さくして耐圧性を確保することができ、航空機用ラジアルタイヤにおける要求性能である耐久性と耐圧性とをバランス良く得ることが可能となった。
【0024】
かかる内側カーカスプライ2Aと外側カーカスプライ2Bとの撚り数の比率としては、内側カーカスプライ2Aを構成する有機繊維コードの撚り係数αiに対する外側カーカスプライ2Bを構成する有機繊維コードの撚り係数αoの比αo/αiが、1.15より大きくなるよう設定することが好ましく、これにより、耐圧性と耐久性をより高度に両立させることが可能となる。上記の比αo/αiの値は、より好適には、1.3〜1.7の範囲内である。この比αo/αiが大きすぎて、すなわち、内側カーカスプライと外側カーカスプライとのコード撚り数の差が大きくなりすぎると、コード弾性率の差も大きくなり、内側カーカスプライと外側カーカスプライとの剛性差が顕著となり、タイヤ耐久性が低下してしまう。
【0025】
本発明において、内側カーカスプライ2Aおよび外側カーカスプライ2Bを構成する有機繊維コードの材質としては、特に制限されず、綿、レーヨン、セルロース等の天然高分子繊維や、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリベンゾアゾール、ポリケトン(PK)等の合成高分子繊維を用いることができ、これらの繊維は、単独で、または、複数の繊維を混合して使用することができる。
【0026】
本発明においては、上記の中でも特に、ポリケトンからなるフィラメント束を複数本撚り合わせてなり、かつ、下記式(II),(III)、
σ≧−0.01E+1.2 (II)
σ≧0.02 (III)
(式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である)で示される条件を満足するポリケトン繊維コードを、内側カーカスプライ2Aおよび外側カーカスプライ2Bのコードとして用いることが好ましい。かかる条件を満足するポリケトン繊維コードは高い破断強力を有するので、カーカスコードとして上記ポリケトン繊維コードを使用することで、航空機用ラジアルタイヤに要求される耐圧性を満足した上で、従来のナイロン繊維コードをカーカスプライに適用した場合よりも必要部材を減らすことが可能となり、タイヤ重量の大幅な低減を達成することが可能となる。また、ポリケトン繊維は、高い破断強力と同時に優れた熱収縮性および耐疲労性を有することから、従来のアラミド繊維コードを用いた場合において見られたカーカスプライのたるみや走行中のコード疲労に起因するカーカスプライの切断の問題についても解消することができるので、上述のように、内側カーカスプライと外側カーカスプライとでコードの撚り係数を変えることと併せて、従来より使用されているナイロン繊維と同等かあるいはより優れたタイヤ耐久性を確保することが可能となる。
【0027】
上記ポリケトン繊維コードの原料のポリケトンとしては、下記式、

(式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分であり、各繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい)で表される繰り返し単位から実質的になるものが好適であり、その中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1−オキソトリメチレン[−CH−CH−CO−]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
【0028】
かかるポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基とが交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0029】
また、上記式において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン、ブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、アセチレン、アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、スルニルホスホン酸のジエチルエステル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドンおよび塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
【0030】
さらに、上記ポリケトンの重合度としては、下記式、

(上記式中、tおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、cは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である)で定義される極限粘度[η]が、1〜20dL/gの範囲内にあることが好ましく、3〜8dL/gの範囲内にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時および延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間およびコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性および物性に悪影響が出ることがある。
【0031】
さらにまた、ポリケトン繊維は、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が95%以上の結晶構造を有することが好ましい。結晶化度が50%未満の場合、繊維の構造形成が不十分であって十分な強度が得られないばかりか加熱時の収縮特性や寸法安定性も不安定となるおそれがある。このため、結晶化度としては50〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%である。
【0032】
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度および倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)または(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
【0033】
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載されているようなヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載されているような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
【0034】
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
【0035】
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、さらに脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0036】
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、さらに、かかる未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲内が好ましく、総延伸倍率は、好適には10倍以上とする。
【0037】
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留は大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
【0038】
また、ポリケトン繊維コードの高い熱収縮特性を最も効果的に活用するには、加工時の処理温度や使用時の成型品の温度が、最大熱収縮応力を示す温度(最大熱収縮温度)と近い温度であることが望ましい。具体的には、必要に応じて行われる接着剤処理におけるRFL処理温度や加硫温度等の加工温度が100〜250℃であること、また、繰り返し使用や高速回転によってタイヤ材料が発熱した際の温度は100〜200℃にもなることなどから、最大熱収縮温度は、好ましくは100〜250℃の範囲内、より好ましくは150〜240℃範囲内である。
【0039】
ポリケトン繊維コードは、例えば、上記ポリケトンからなるフィラメント束を2本または3本撚り合わせてなるものであり、これは例えば、ポリケトンからなるフィラメント束に下撚りをかけ、次いで、これを複数本合わせて、逆方向に上撚りをかけることで、双撚り構造の撚糸コードとして得ることができる。
【0040】
本発明に用いるポリケトン繊維コードは、好ましくはディップ処理済みコードとしての最大熱収縮応力が0.1〜1.8cN/dtex、より好ましくは0.4〜1.6cN/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.4cN/dtexの範囲である。最大熱収縮応力が0.1cN/dtex未満の場合には、タイヤ製造時の加熱による引き揃え効率が低下し、タイヤとしての強度が不十分となる傾向がある。一方、1.8cN/dtexを超える場合には、タイヤ製造時の加熱によりコードが収縮するため、加硫後のタイヤの形状が悪化する傾向がある。
【0041】
本発明の航空機用ラジアルタイヤにおいては、内側カーカスプライ2Aおよび外側カーカスプライ2Bに関して上記条件を満足するものであればよく、それ以外のタイヤ構造の詳細や各部材の材質等については、特に制限されず、従来公知のもののうちから適宜選択して構成することができる。例えば、各カーカスプライのコード打ち込み数は、通常、25〜40本/50mmの範囲内である。
【0042】
また、ベルト4を構成するベルト層は、図示例では4層であるが、その枚数は特に限られるものではない。ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、複数枚のベルト層は、ベルト層を構成する各コードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト4を構成する。あるいはまた、タイヤ周方向に螺旋巻きしてなるスパイラルベルトを2〜8枚、タイヤ周方向に対し5〜10°でジグザグ周方向に設けるエンドレスベルトを2〜8枚、波型に設ける保護層5を1〜2枚にて配置してもよい。
【0043】
さらに、本発明のタイヤにおいて、トレッド部13の表面には適宜トレッドパターンが形成されており、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されている。さらにまた、本発明の航空機用空気入りラジアルタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の又は酸素分圧を変えた空気、もしくは窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【0044】
本発明の航空機用ラジアルタイヤを製造するにあたっては、製品タイヤの内面形状に対応する外面形状を有する分割タイプの剛性コア上で生タイヤを成型し、成型されたこの生タイヤを、剛性コアとともにモールド内に挿入して加硫する方法を好適に用いることができる。この製造方法を用いることで、生タイヤの成型開始から加硫の終了に至るまで、タイヤまたはその構成部材に変形を加えることなく製品タイヤを得ることができ、タイヤ各部の寸法精度を大幅に向上させることが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示す構造を有するタイヤサイズ46×17R20 30PRの航空機用ラジアルタイヤを、下記表中に示す条件に従い作製した。カーカス2は、タイヤ赤道面に対して90°のコード角度で配列したコード層から構成した。得られた各供試タイヤにつき、タイヤ重量、タイヤ耐圧性およびドラム耐久性を、下記に従い評価した。その結果を、下記表中に併せて示す。
【0046】
<タイヤ重量>
各供試タイヤの重量を測定し、比較例1のタイヤの重量を100としたときの指数値にて示した。この数値が小さいほど軽量であって性能が良いことを示す。
【0047】
<タイヤ耐圧性>
各供試タイヤをリムに組み付けて、タイヤ内を水で満たして内圧を上昇させた際にタイヤが破壊する圧力と、TRAで定められた規定内圧との比を求めて、比較例1のタイヤの値を100としたときの指数値にて示した。FAAの定めるTSOでは、航空機用タイヤについては安全率4倍以上が規定されている。この数値が大きいほど耐圧性が高く性能が良いことを示す。
【0048】
<ドラム耐久性>
各供試タイヤにつき、ドラム試験機上にて、規定内圧および規定荷重の条件下でタクシー試験(10分走行、110分冷却)を繰り返し実施した際に、タイヤ故障が発生するまでの試験回数により評価した。結果は、比較例1のタイヤの試験回数を100としたときの指数値にて示した。この数値が大きいほど耐久性が高く性能が良いことを示す。
【0049】
【表1】

*1)前記式(I)に従う撚り係数の値である。
*2)熱収縮応力σ(177℃における最大熱収縮応力):島津製作所製オートグラフにより、各コードをサンプル長250mmで固定し、177℃の恒温槽で放置したときに得られる最大の応力を測定したものである。
*3)弾性率E:島津製作所製オートグラフにより、各コードを25℃においてサンプル長250mmで300mm/minの速度にて引っ張ったときに得られる荷重−伸度曲線より、49N時の接線の傾きを測定したものである。
【0050】
【表2】

【0051】
上記表中から、各実施例のタイヤは、比較例対比で耐圧性と耐久性とをバランスよく有していることがわかる。また、ポリケトン繊維コードをカーカスプライに使用することで、耐圧性と耐久性とを両立させつつ、タイヤ重量の大幅な低減が図れることが確かめられた。これに対し、比較例2,4では、耐圧性を要求される内側カーカスプライに片撚りコードを使用したことで、カーカス強力が高くなり、その結果タイヤ耐圧性は向上しているが、コード表面が滑らか(コード断面が真円)であるために、接着力が低下し、タイヤ耐久性の確保が不十分となっていることがわかる。
【符号の説明】
【0052】
1 ビードコア
2 カーカス
2A 内側カーカスプライ
2B 外側カーカスプライ
3 トレッドゴム
4 ベルト
5 保護層
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードコア間にトロイド状に延在し、タイヤ赤道面に対して70°〜90°のコード角度で配列した複数本の有機繊維コードからなるカーカスを骨格とする航空機用ラジアルタイヤにおいて、
前記カーカスが、前記一対のビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側へ巻上げられた少なくとも一層の内側カーカスプライと、該内側カーカスプライを巻上げ部分も含め外包みして、前記ビードコアの少なくとも直下まで延在する少なくとも一層の外側カーカスプライと、を含み、
前記内側カーカスプライおよび前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードが同一の材質からなるとともに、該有機繊維コードの、下記式(I)、
α=tanθ=0.001×N×√(0.125×D/ρ) (I)
(式中、Nは撚り数(回/10cm)であり、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)であり、ρはコードに用いられる繊維の比重である)で示される撚り係数αの値が、前記外側カーカスプライよりも前記内側カーカスプライにおいて小さいことを特徴とする航空機用ラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記内側カーカスプライを構成する有機繊維コードの撚り係数αiに対する前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードの撚り係数αoの比αo/αiが、1.15より大きい請求項1記載の航空機用ラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記内側カーカスプライおよび前記外側カーカスプライを構成する有機繊維コードが、ポリケトンからなるフィラメント束を複数本撚り合わせてなり、かつ、下記式(II),(III)、
σ≧−0.01E+1.2 (II)
σ≧0.02 (III)
(式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である)で示される条件を満足するポリケトン繊維コードである請求項1または2記載の航空機用ラジアルタイヤ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項記載の航空機用ラジアルタイヤを製造するにあたり、製品タイヤの内面形状に対応する外面形状を有する分割タイプの剛性コア上で生タイヤを成型し、成型された該生タイヤを、該剛性コアとともにモールド内に挿入して加硫することを特徴とする航空機用ラジアルタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31666(P2011−31666A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177741(P2009−177741)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】