説明

船舶用減速逆転装置

【課題】船舶用減速逆転装置において入力軸ピニオンの軸受の潤滑を改良する。
【解決手段】歯車機構を収容するケーシングを備え、歯車機構は、前進用入力軸31に固定された前進用入力ギア32と、前進用入力軸31が挿通される前進用ピニオン33と、前進用ピニオン33の軸方向2箇所の第1の軸受331,332と、前進用入力ギア32と前進用ピニオン33間の前進用クラッチ34と、後進用入力軸と、後進用入力ギアと、後進用ピニオンと、後進用ピニオンの軸方向2箇所の第2の軸受と、後進用クラッチと、前、後進用ピニオンに噛む出力ギアと、出力ギアに接続されるプロペラとを備え、前、後進用入力軸には油供給路314と、少なくとも1つの分岐路3141〜3144とが形成され、分岐路からの油を軸受331,332に案内する受け部225を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に取り付けられる減速逆転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用の減速逆転装置としては、種々のものが提案されているが、例えば、特許文献1に記載のものがある。この文献に記載の減速逆転装置は、駆動源からの動力を受ける入力軸に対して、出力用のピニオンを回転自在に挿通させるとともに、入力軸とピニオンとを油圧クラッチにより断続自在に接続している。そして、ピニオンの軸方向の両端部を軸受によって支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭59−163232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ピニオンは、装置下部の油溜まりから離れているため、潤滑油の飛沫が期待できず、ピニオンの軸受を十分に潤滑することが難しかった。また、一方の軸受は、装置の筐体の壁から離れた位置に配置されているため、壁からの潤滑油の供給も難しい。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、入力軸に相対回転可能に取り付けられたピニオンを有し、これらを油圧クラッチで接続した構造において、ピニオンの軸受を十分に潤滑することが可能な船舶用減速逆転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船舶用減速逆転装置は、駆動源からの動力を伝達する歯車機構と、前記歯車機構を収容するケーシングと、を備え、前記歯車機構は、前記駆動源からの動力を受ける前進用入力軸と、前記前進用入力軸に固定された前進用入力ギアと、前記前進用入力軸が相対回転可能に挿通される前進用ピニオンと、前記前進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第1の軸受と、前記前進用入力ギアと前進用ピニオンとを連結可能な前進用油圧クラッチと、前記前進用入力軸と平行に延びる後進用入力軸と、前記後進用入力軸に固定され、前記前進用入力ギアと噛み合う後進用入力ギアと、前記後進用入力軸が相対回転可能に挿通される後進用ピニオンと、前記後進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第2の軸受と、前記後進用入力ギアと後進用ピニオンとを連結可能な後進用油圧クラッチと、前記前進用ピニオン及び後進用ピニオンの両者に噛み合う出力ギアと、前記出力ギアに固定される出力軸と、前記出力軸に接続されるプロペラと、を備え、前記ケーシングは、前記前進用及び後進用入力軸を上下からそれぞれ挟む第1ケーシング部材と、第2ケーシング部材とが合わされることで形成され、前記前進用及び後進用入力軸の内部には、軸方向に延び、油が通過する潤滑油供給路と、当該潤滑油供給路から径方向外方に分岐し前記各軸受に油を供給する少なくとも1つの分岐路と、がそれぞれ形成されており、前記前進用及び後進用入力軸の分岐路から排出された油を受けて、前記軸受の少なくとも1つに油を案内する受け部をさらに備えている。
【0007】
この構成によれば、各入力軸に油が通過する供給路と分岐路とを設け、この入力軸から径方向外方に油が吐出するようにされている。また、吐出された油を受けて、ピニオンの軸受に案内する受け部を設けているため、各軸受に潤滑油を確実に供給することができる。したがって、装置の高寿命化が可能になる。
【0008】
また、上記装置において、各ピニオンの内周面に、周方向に延びて、油を受ける凹状の油溜部を設け、さらに、油溜部からピニオンの歯底に連通する連通路を設けることができる。このようにすると、ピニオンと入力軸との間の隙間に流入する油を油溜部に貯めることができる。また、こうして貯められた油は連通路を介してピニオンの歯底に供給されるため、ピニオンと出力ギアとの噛み合わせ部分を十分に潤滑させることができる。
【0009】
ここで、各ピニオンの内周面、またはこれらピニオンに挿通される各入力軸の外周面に、これら入力軸の端部から連通路に向かって軸方向に延び、ピニオンと入力軸との隙間の油を連通路に移動させる螺旋状の供給溝を形成することができる。これにより、ピニオンと入力軸との隙間の油を確実に連通路に供給することができ、ピニオンと出力ギアとの噛み合わせ部分の潤滑を確実に行うことができる。
【0010】
上記装置においては、第1及び第2ケーシング部材はそれぞれ、第1及び第2の軸受を支持する円弧状の支持面を有するように構成することができる。この構成によれば、第2ケーシング部材の支持面に、各入力軸及び軸受を配置した後に、第1ケーシング部材を配置することで、ケーシングを形成することができるため、入力軸及び軸受の取付が容易になる。すなわち、入力軸及び軸受を、上から第2ケーシング部材に配置するため、例えば、軸穴に入力軸を挿入する場合に比べ、位置決めが容易になり、取付を容易に行うことができる。
【0011】
また、次のように構成することもできる。例えば、第2ケーシング部材に、第1及び第2の軸受を支持する円弧状の支持面を設け、第1ケーシング部材に、第1及び第2の軸受のうち、駆動源とは反対側に配置された軸受を支持する円弧状の支持面を設ける。そして、第1及び第2の軸受のうち、駆動源側に配置された軸受を、第2ケーシング部材との間に挟む押圧部材をさらに設けることができる。
【0012】
このようにすると、第1ケーシング部材と第2ケーシング部材とを固定する前に、第2ケーシング部材と押圧部材とを固定することで、軸受を第2ケーシング部材に固定することができる。そのため、第1ケーシング部材と第2ケーシング部材とにより、軸受を固定するのに比べ、軸受の固定時の位置決めが容易になる。また、取付用のボルトを短くすることもできる。
【0013】
また、駆動源から、油圧クラッチ、ピニオンを、この順で配置し、出力軸において、プロペラによる前後進のスラストを受ける軸受を、駆動源側に配置することができる。このようにすると、油圧クラッチの下方のスペースに、スラスト用の軸受を配置することができる。したがって、出力ギアの近傍にスラスト用の軸受を配置する場合に比べ、ケーシングをコンパクトにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る船舶用減速逆転装置によれば、入力軸に相対回転可能に取り付けられたピニオンを有し、これらを油圧クラッチで接続した構造において、ピニオンの軸受を十分に潤滑することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る船舶用減速逆転装置の断面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1の一部拡大図である。
【図6】本実施形態に係る船舶用減速逆転装置の油圧回路図である。
【図7】図1の船舶用減速逆転装置におけるケーシングの内部の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る船舶用減速逆転装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は減速逆転装置の断面図であり、図2は図1の側面図、図3は図2のA−A線断面図である。なお、本明細書では、船体の船首側を「前」と称し、船尾側を「後」と称することとする。また、「左右方向」または「幅方向」とは、右舷から左舷に向かう方向またはその反対方向を意味する。
【0017】
図1〜図3に示すように、この船舶用減速逆転装置は、船舶本体1の後端部に取り付けられたケーシング2を有しており、このケーシング2内に、プロペラへ動力を伝達する歯車機構が配置されている。船舶本体1には図示を省略するエンジン、このエンジンの回転軸に接続されるフライホイール11が収納されている。そして、フライホイール11には、弾性継手12を介して前進用入力軸31が取り付けられており、ケーシング2内に延びている。この前進用入力軸31は、ケーシング2の後端部から後方へ突出しており、PTO軸50へ動力を伝達するPTO出力ギア4が取り付けられている。そして、この突出部分及びPTO出力ギア4は第1油圧ブロック5によって覆われている。また、前進用入力軸31は、ケーシング2の前端の壁に取り付けられた軸受311、及び第1油圧ブロック5内に取り付けられた軸受312によって支持されている。
【0018】
さらに、図1に示すように、第1油圧ブロック5の壁の内部には、油圧ポンプ81によりくみ上げられた油の2つ流路、つまり前進用油路8bと潤滑油路8eとが形成されている。作動油は、油圧ポンプ81からケーシング内部の油路及び外部の通路を通って、継手251を介して前進用油路8bに供給される。そして、前進用油路8bは、前進用入力軸31の後端部に形成された開口を介して後述する入力軸31内の作動油供給路313へ連通し、油を供給するようになっている。潤滑油も、油圧ポンプ81により、油圧ブロック81内の潤滑油路8eに供給される。潤滑油路8eは、前進用油路8bよりもさらに後端側から、前進用入力軸31の後端部に形成された開口を介して後述する潤滑油供給路314へ連通しており、ここから油が供給される。
【0019】
図1に示すように、ケーシング2内の上部は、仕切り壁211によって、前側収納室212と後側収納室213の2つに仕切られている。そして、前進用入力軸31において、前側収納室212に配置される部分には、前進用入力ギア32が固着されており、後側収納室213に配置される部分には、前進用ピニオン33が回転自在に取り付けられている。すなわち、前進用ピニオン33は、前進用入力軸31に対して相対回転可能となっている。そして、この前進用ピニオン33の前端部及び後端部は、仕切り壁211、及びケーシング2の後端の壁に取り付けられた軸受331,332によって支持されている。また、前進用入力ギア32と前進用ピニオン33との間には、両者を連結する前進用油圧クラッチ34が設けられている。この油圧クラッチ34は、公知の湿式多板クラッチであり、前進用ピニオン33の前端部にスプライン結合されたインナードラム341と、前進用入力ギア32に一体形成されたアウタードラム342とを備えている。そして、インナードラム341に固定された複数枚のクラッチディスクが、アウタードラム342に固定された複数のプレッシャープレートの隙間にそれぞれ配置されており、これらディスクとプレートが油圧ピストンの押圧により密着することで、動力が伝達される。
【0020】
ケーシング2の下方には、前後方向に延びる出力軸6が配置されている。この出力軸6の後端部は、ケーシング2の後端から突出しており、この突出部分にブラケット61を介してプロペラ(図示省略)が取り付けられる。また、この出力軸6は、ケーシング2の前端の壁に設けられたスラスト用軸受62、及びケーシング2の後端の壁に設けられた軸受63によって回転自在に支持されている。そして、出力軸6の後部には、出力ギア64が固着されており、この出力ギア64が前進用ピニオン33と噛み合っている。これにより、エンジンからの動力をプロペラに伝達するようになっている。
【0021】
図2に示すように、ケーシング2は、上下方向に並ぶ3つの部材、つまり、上部ケーシング部材(第1ケーシング部材)21、中間ケーシング部材(第2ケーシング部材)22、及び下部ケーシング部材(第2ケーシング部材)23で構成されている。上述したケーシング上部の仕切り壁211は、上部ケーシング部材21の内部に取り付けられている。下部ケーシング部材23は、出力軸6の下半分を収容するカップ状に形成されており、潤滑油の油溜まり83になっている。また、下部ケーシング部材23の前端及び後端の壁には、軸受62,63を支持するための円弧状の支持面がそれぞれ形成されている。中間ケーシング部材22は、上部及び下部が開放された枠側に形成されており、下端部は下部ケーシング部材23に固定されるように水平に形成されているが、上端部は、斜めに切り取られるように形成されている。中間ケーシング部材22の上端部を構成する斜めの端縁は、前進用入力軸31の中心及び後述する後進用入力軸71の中心を通るように形成されている。図2に示すように、前進用入力軸31は、ケーシング2の左右方向のほぼ中心に位置するが、後進用入力軸71は、前進用入力軸31の左斜め下側に配置されている。これは、後述するように、後進用入力軸71に取り付けられる後進用ピニオン73が出力ギア64に噛み合うようにするためである。すなわち、前進用入力軸31と後進用入力軸71が、それぞれ出力軸6から等距離にあるようにするためである。
【0022】
中間ケーシング部材22について、さらに説明する。中間ケーシング部材22の下端部には、前端及び後端の壁に円弧状の支持面が形成されており、この支持面は、下部ケーシング部材23の支持面とともに、円形の貫通孔を形成する。そして、この貫通孔に軸受62,63が配置される。図3に示すように、中間ケーシング部材22には、幅方向に延びる仕切り壁221が設けられており、この仕切り壁221に、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の前側の軸受331,731が配置される円弧状の支持面が形成されている。この仕切り壁221は、上述したケーシング上部の仕切り壁211と対応する位置に配置されている。また、中間ケーシング部材22の上端部の後部には、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の後側の軸受332,732がそれぞれ配置される円弧状の支持面が形成されている。そして、上部ケーシング部材21の仕切り壁211と、中間ケーシング部材22の仕切り壁221とは、図4に示すように固定されている。すなわち、両仕切り壁211,221は、2つの軸受331,731の間と、その側部の3箇所でボルト25によって固定されている。このとき、上部ケーシング部材21の仕切り壁211は高さがあるので、上部ケーシング部材21には深いボルト穴26が形成されている。
【0023】
続いて、上部ケーシング部材21について説明する。上部ケーシング部材21の下端部は、中間ケーシング部材22と合わさるように、斜めに切りかかれている。そして、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の軸受331,332,731,732を支持するための円弧状の支持面が、仕切り壁211の下端部、及び上部ケーシング部材21の後端部にそれぞれ形成されている。また、上部ケーシング部材21には、後述する油圧ポンプ81、クラッチ作動油を制御する油圧回路などを内蔵する油圧制御ユニット8が取り付けられている。この油圧制御ユニット8には、油圧回路を構成する前後進切換弁84、二位置切換弁86、緩嵌入弁85,及びリリーフ弁88などが装着されている。
【0024】
次に、後進用の歯車機構について説明する。図3に示すように、後進用の歯車機構は、上述した前進用の機構とほぼ同じである。すなわち、ケーシング2の内部には、前進用入力軸31と平行に延びる後進用入力軸71が配置されており、前側収納室212に位置する部分に、後進用入力ギア72が固着されている。この後進用入力ギア72は、前進用入力ギア32と噛み合っており、前進用入力ギア32の回転により、後進用入力ギア72と後進用入力軸71とが一体となって回転する。後進用入力軸71の後端部は、前進用入力軸31と同様にケーシング2から突出しており、この突出部分に、ギアポンプからなる油圧ポンプ81が取り付けてられている。入力軸71の後端部及び油圧ポンプ81は、第2油圧ブロック9により覆われている。また、後進用入力軸71において、後側収納室213に位置する部分には、後進用ピニオン73が回転自在に挿通されており、この後進用ピニオン73の前端部及び後端部は、軸受731,732を介してケーシング2内に支持されている。そして、この後進用ピニオン73は、上述した出力ギア64に噛み合っている。さらに、この後進用ピニオン73と後進用入力ギア72との間には、上述した前進用と同様の油圧クラッチ74が配置されている。また、図示は省略するが、第2油圧ブロック9にも、第1油圧ブロック5と同様の流路が形成されており、油圧ポンプ81によって、作動油及び潤滑油が、後進用入力軸71の内部にも供給されるようになっている。
【0025】
次に、この歯車機構における潤滑油の流れについて、図5を参照しつつ説明する。図5は、前進用入力軸及びその近傍の拡大図である。ここでは、前進用入力軸31を例に説明をするが、同じ構造が後進用入力軸71にも設けられているため、後進用入力軸71については説明を省略する。まず、前進用入力軸31の内部には、軸方向に延びる2本の油路が形成されている。1つは、油圧クラッチ34の作動油が供給される作動油供給路313であり、もう一つは、油圧クラッチ34、前進用ピニオン33の軸受331、332、前進用入力軸31の後側の軸受312に潤滑油を供給する潤滑油供給路314である。潤滑油供給路314には、径方向外方へ延びる5つの分岐路が形成されている。より詳細には、油圧クラッチ34へ延びる第1分岐路3141、前進用ピニオン33の前端部付近に延びる第2分岐路3142、前進用ピニオン33の中間部付近に延びる第3分岐路3143、前進用ピニオン33の後端部付近に延びる第4分岐路3144、及び前進用入力軸31の後側の軸受32の後側付近に延びる第5分岐路3145が形成されている。各分岐路3141〜3145は、前進用入力軸31の周方向に沿って複数設けられている。
【0026】
中間ケーシング部材22の仕切り壁221の上端には、支持面に沿って断面L字型の受け部225が形成されている。この受け部225は、前側収納室212側に取り付けられており、上方から落下する潤滑油が収納室212側に流れるのを防止し、軸受331側に案内するようになっている。同様の構造の受け部215が、上部ケーシング部材21の仕切り壁211の支持面に沿っても設けられている。したがって、軸受331が配置される支持面の全周に亘って円形の受け部225,215が形成されている。また、油圧クラッチ34のインナードラム341には、第2分岐部3142と対応する位置に貫通孔3411が形成されており、第2分岐部3142から排出された潤滑油は、インナードラム341の貫通孔3411を介して受け部225に流れ落ちるようになっている。
【0027】
前進用ピニオン33の後端側には、隙間をおいて、上述した第1油圧ブロック5及び入力軸31の軸受312が位置されている。第4分岐路3144から排出された潤滑油は、前進用ピニオン33と第1油圧ブロック5との隙間を通過して前進用ピニオン33の後端側の軸受332に供給される。なお、この潤滑油は、第1油圧ブロック5によって後方への経路が遮断され、軸受332側に流れるようにされている。また、第5分岐路3145は、PTO出力ギア4の軸受に潤滑油を供給するようになっている。
【0028】
続いて、第3分岐路3143からの潤滑油の供給について説明する。第3分岐路3143は、前進用ピニオン33の軸方向の中央付近に形成されているが、ピニオン33の内周面において、第3分岐路3143と対応する位置には、周方向に延びる凹状の油溜部335が形成されている。そして、この油溜部335には、径方向外方に貫通する連通路336が形成されており、潤滑油をピニオン33の歯底に供給できるようになっている。さらに、図3に示すように、前進用入力軸31の表面には、第2分岐路3142から第3分岐路3143までの間に、螺旋状に延びる溝316が形成されており、ピニオン33と、入力軸31との隙間の潤滑油を、入力軸31の回転によって第2分岐路3142から第3分岐路3143側へ運ぶことができる。なお、図5に示すように、この潤滑油が第4分岐路3144側に運ばれないように、第3分岐路3143から第4分岐路3144との間には、ピニオン33と入力軸31との隙間にオイルシール338が取り付けられている。また、後進用入力軸71にも螺旋状の溝716が形成されているが、前進用入力軸31とは回転方向が反対であるため、溝716の向きも反対に形成されている(図3参照)。
【0029】
次に、作動油の供給について、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態に係る減速逆転装置の作動油供給回路を示す図である。
【0030】
図6に示すように、油圧ポンプ81によってフィルタ82を介して油溜まり83からくみ上げられた圧油は、油供給路8aを通過し、前後進切換弁84を介して前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cへ送られる。前後進切換弁84にはシフトレバー841が取り付けられており、このシフトレバー841を操作することで前後進切換弁84のスプールが移動し、前進位置、後進位置、及び中立位置に切り換えられる。そして、この圧油により、前進用油圧クラッチ34または後進用油圧クラッチ74が接続され、プロペラに前後いずれかの推進回転力を伝えるようにされている。
【0031】
また、この油圧回路には、前後進切換弁84を切り換えた時に前進用又は後進用油圧クラッチ34,74が急激に接続状態となるのを防止するために緩嵌入弁85が設けられている。そして、緩嵌入弁85は、油供給路8aから分岐した分岐路8d上に設けられており、一種の圧力調整弁として、二位置切換弁86によって制御される。また、分岐路8dには、緩嵌入弁85を経た圧油が通過するオイルクーラー87、及びリリーフ弁88が設けられるとともに、オイルクーラー87とリリーフ弁88との間には、各油圧クラッチ34,74で使用された後の潤滑油が通過する潤滑油路8eが接続されている。そして、緩嵌入弁85から潤滑油路8eへと逃がされる油圧はリリーフ弁88により所定の低圧に制限されている。また、潤滑油路8eは、上述したように、前進用入力軸31及び後進用入力軸71の潤滑油供給路314,714へ接続されている。
【0032】
続いて、二位置切換弁86について説明する。この二位置切換弁86は、上記前進用作動油路8b、または後進用作動油路8cと接続され、これらの油路の油圧をパイロット圧として作動するものである。そして、シリンダ861、直列配置された2つのピストン862、863、及び復帰ばね864を備えている。そして、上記前進用作動油路8b、または後進用作動油路8cの油圧により、いずれかのピストン862、863が移動すれば、二位置切換弁86のスプールが図5の初期状態から左側へスライドして油路が切り換えられる。
【0033】
続いて、この油圧回路の動作について説明する。図6に示すように、前後進切換弁84が中立位置にあるときは、二位置切換弁86のピストン862、863に油圧が加わらない。したがって、二位置切換弁86のスプールは、復帰ばね864に付勢されて図5の位置にあり、緩嵌入弁85の背室へ圧油が供給されない。このとき緩嵌入弁85のスプールは大きく後退していてリリーフ圧の低いリリーフ弁と同じ役目をしている。そして、油圧ポンプ81から供給される圧油の一部が緩嵌入弁85からオイルクーラー87を経て潤滑油路8eへと逃がされている。
【0034】
そして、シフトレバー841を操作して前後進切換弁84を前進または後進位置に切り換えると、前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cに作動油が流れ始める。これにより、この作動油の油圧をパイロット圧として、二位置切換弁86のピストン862、863が図の左側へ移動し始め、スプールも図5の中立位置から左側へ移動する。これによって絞り867で流量が制御された作動油が油路を経て緩嵌入弁85の背室へ圧入される。そして、この圧入により緩嵌入弁85のスプールが前進し、リリーフ圧が徐々に高められ、潤滑油路8eが徐々に閉じ、その反射的作用として前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cの作動油圧が徐々に高められる。このように、徐々に油圧を高めることで、クラッチ34,74が急激に接合されるのを防止するようにされている。そして最終的にクラッチ34、74を高い圧力で完全に押圧して動力を完全に伝達するようにされている。
【0035】
次に、上記のように構成された減速逆転装置の動作について説明する。まず、エンジンからの動力は、前進用入力軸31、前進用入力ギア32、後進用入力ギア72、及び後進用入力軸71の順に伝達され、前後進切換弁84が中立位置にある場合でもこれらは回転している。そして、上記のように、シフトレバー841を前進位置に配置すると、前後進切換弁84を介して作動油が前進用油圧クラッチ34に供給され、前進用入力ギア32と前進用ピニオン33とが連結される。これにより、前進用入力軸31からの動力は、前進用ピニオン33を介して出力ギア64に伝達され、プロペラが前進する方向に回転する。このとき、作動油は後進用油圧クラッチ74には供給されないため、後進用ピニオン73には動力は伝達されず、出力ギア64と連れ廻りするだけである。一方、シフトレバー841を後進位置に配置すると、前後進切換弁84を介して作動油が後進用油圧クラッチ74に供給され、後進用入力ギア72と後進用ピニオン73とが連結される。これにより、後進用入力軸71から動力が伝達されて後進用ピニオン73が回転し、プロペラが後進する方向に回転する。このとき、作動油は前進用油圧クラッチ34には供給されないため、前進用ピニオン33には動力は伝達されず、出力ギア64と連れ廻りするだけである。
【0036】
続いて、油の供給について説明する。後進用入力軸71が回転すると、その後端部に取り付けられている油圧ポンプ81も駆動し、油溜まり83から油を吸い上げる。この油は、上述した作動油回路に供給されるほか、各入力軸31,71の潤滑油供給路にも供給される。潤滑油供給路に供給された油は各分岐路を経て、各ピニオン33,73の歯底、軸受などに供給され、潤滑油として作用する。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、各入力軸31,71に油が通過する潤滑油供給路314と分岐路3141〜3145とを設け、入力軸31,71から径方向外方に油が吐出するように構成されるとともに、吐出された油を受けて、ピニオン33,73の軸受331,731に案内する受け部225を設けているため、各軸受331,731に潤滑油を確実に供給することができる。したがって、装置の高寿命化が可能になる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、上部ケーシング部材21の内部に、仕切り壁221を設け、この仕切り壁221によってピニオン33,73の軸受331,731を上方から押圧している。これに対して、図7に示すように、別の部材によってピニオンの軸受331、731を押圧することもできる。同図に示すように、この例では、上部ケーシング部材21に仕切り壁を設けず、押圧部材10によって両ピニオン33,73の前側の軸受331,731を中間ケーシング部材22の仕切り壁221に押圧している。具体的には、押圧部材10をボルト26によって仕切り壁221に固定している。この押圧部材10は、中間ケーシング部材22の仕切り壁221と対応するように、ケーシング22の幅方向に延びており、前進用ピニオン33の軸受331に対応する円弧状の第1部101と、後進用ピニオン73の軸受731に対応する円弧状の第2部102とを連結することで形成されている。この押圧部材10の上面の前端側及び後端側には、低い壁103が設けられており、上方から飛散する油をこの上面に保持できるようにしている。そして、押圧部材10の第1部101には、前進用ピニオン33側へ延びる貫通孔104が形成されており、押圧部材10の上面に飛散した油を前進用ピニオン33へ案内するようになっている。また、円弧状の第1部101と第2部102との連結部105には窪みが形成されており、油が溜まるようになっているが、この連結部105には、後進用ピニオン73側へ延びる貫通孔106が形成されている。これにより、連結部105に溜まった油を後進用ピニオン73側へ案内するようになっている。
【0039】
上記実施形態においては、潤滑油を受ける受け部225,215として、L字型のものを例示したが、潤滑油を受けて軸受に案内する観点からは、第1油圧ブロック5も受け部の一形態といえる。したがって、受け部としては、飛沫する潤滑油を受けて軸受に案内する構造であれば、特には限定されない。
【符号の説明】
【0040】
2 ケーシング
21 上部ケーシング部材(第1ケーシング部材)
22 中間ケーシング部材(第2ケーシング部材)
23 下部ケーシング部材(第2ケーシング部材)
31 前進用入力軸
32 前進用入力ギア
33 前進用ピニオン
34 前進用油圧クラッチ
6 出力軸
64 出力ギア
71 後進用入力軸
72 後進用入力ギア
73 後進用ピニオン
74 後進用油圧クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を伝達する歯車機構と、
前記歯車機構を収容するケーシングと、を備え、
前記歯車機構は、
前記駆動源からの動力を受ける前進用入力軸と、
前記前進用入力軸に固定された前進用入力ギアと、
前記前進用入力軸が相対回転可能に挿通される前進用ピニオンと、
前記前進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第1の軸受と、
前記前進用入力ギアと前進用ピニオンとを連結可能な前進用油圧クラッチと、
前記前進用入力軸と平行に延びる後進用入力軸と、
前記後進用入力軸に固定され、前記前進用入力ギアと噛み合う後進用入力ギアと、
前記後進用入力軸が相対回転可能に挿通される後進用ピニオンと、
前記後進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第2の軸受と、
前記後進用入力ギアと後進用ピニオンとを連結可能な後進用油圧クラッチと、
前記前進用ピニオン及び後進用ピニオンの両者に噛み合う出力ギアと、
前記出力ギアに固定される出力軸と、
前記出力軸に接続されるプロペラと、を備え、
前記ケーシングは、前記前進用及び後進用入力軸を上下からそれぞれ挟む第1ケーシング部材と、第2ケーシング部材とが合わされることで形成され、
前記前進用及び後進用入力軸の内部には、軸方向に延び、油が通過する潤滑油供給路と、当該潤滑油供給路から径方向外方に分岐し前記各軸受に油を供給する少なくとも1つの分岐路と、がそれぞれ形成されており、
前記前進用及び後進用入力軸の分岐路から排出された油を受けて、前記軸受の少なくとも1つに油を案内する受け部をさらに備えている、船舶用減速逆転装置。
【請求項2】
前記各ピニオンの内周面には、周方向に延び、油を受ける凹状の油溜部が設けられており、
前記油溜まりから前記ピニオンの歯底に連通する連通路が設けられている、請求項1に記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項3】
前記各ピニオンの内周面、または当該ピニオンに挿通される前記各入力軸の外周面には、当該入力軸の端部から前記連通路に向かって軸方向に延び、前記ピニオンと入力軸との隙間の油を前記連通路へ移動させる螺旋状の供給溝が形成されている、請求項2に記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項4】
前記第1及び第2ケーシング部材はそれぞれ、前記第1及び第2の軸受を支持する円弧状の支持面を有している、請求項1から3のいずれかに記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項5】
前記第2ケーシング部材は、前記第1及び第2の軸受を支持する円弧状の支持面を有しており、
前記第1ケーシング部材は、前記第1及び第2の軸受のうち、前記駆動源とは反対側に配置された軸受を支持する円弧状の支持面を有し、
前記第1及び第2の軸受のうち、前記駆動源側に配置された軸受を、前記第2ケーシング部材との間に挟む押圧部材をさらに備えている、請求項1から3のいずれかに記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項6】
前記駆動源から、前記油圧クラッチ、ピニオンが、この順で配置され、
前記出力軸において、前記プロペラによる前後進のスラストを受ける軸受が、前記駆動源側に配置されている、請求項1から5のいずれかに記載の船舶用減速逆転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77872(P2012−77872A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225064(P2010−225064)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】