説明

艶消しブロー成形品の製法およびそれによって得られる艶消しブロー成形品

【課題】表面の少なくとも一部が艶消し面になっている艶消しブロー成形品を、その形状を良好に保った状態で得ることのできる製法と、それによって得られる艶消しブロー成形品を提供する。
【解決手段】耐熱温度が80℃以下の熱可塑性樹脂Aと、耐熱温度が80℃を超える熱可塑性樹脂Bとを所定割合で含有する樹脂組成物を用いてブロー成形を行い、得られた樹脂成形品である容器本体10に、艶消し塗料を塗工して加熱乾燥することにより艶消し皮膜12を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の少なくとも一部が艶消し面になっている艶消しブロー成形品の製法およびそれによって得られる艶消しブロー成形品に関するものである。
【0002】
従来から、化粧水や乳液等の容器として、図2に示すような、ボトル形状の容器が汎用されている。この容器は、容器本体1と、その口部にら合されるキャップ2とで構成されており、上記容器本体1としては、ガラス製のびんや、樹脂製のボトルが用いられている。
【0003】
上記ガラス製のびんは、重くて割れやすい反面、繰り返し使用しても美麗な外観が保たれ、耐候性や耐熱性にも優れているため、比較的高級な商品に適用されている。一方、樹脂製ボトルは、容器表面が汚れやすく、耐候性や耐熱性が弱い反面、軽量で取り扱いやすく、しかも安価であることから、主としてコンビニエンスストアや量販店で販売される商品に適用されている。
【0004】
ところで、最近、上記ガラス製ビンの表面に特殊なウレタン系塗料を塗工して艶消し皮膜で覆うことにより、ガラスを割れにくくするとともに、温かみのある触感、美感を付与することが提案され、実用化されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−70092公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、このような艶消し皮膜を、樹脂製ボトルにも適用して、外観に高級感を与え、しっとりとした触感によりすべり止め等の機能を付加することが検討されている。
【0006】
しかしながら、上記樹脂製ボトルは、一般に、熱可塑性樹脂をブロー成形して得られるものであり、熱変形しやすいため、艶消し用塗料を塗工した後、これを皮膜化するために加熱乾燥すると、その熱でボトル形状が歪むという問題があり、実用化できないのが実情である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、表面の少なくとも一部が艶消し面になっている艶消しブロー成形品を、その形状を良好に保った状態で得ることのできる製法と、それによって得られる艶消しブロー成形品の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、樹脂成分として、耐熱温度が80℃以下の熱可塑性樹脂Aと、耐熱温度が80℃を超える熱可塑性樹脂Bとを、重量基準でA:Bが8:1〜1:8となる割合で含有する樹脂組成物を準備する工程と、上記樹脂組成物を用いてブロー成形により所定形状の樹脂成形品を得る工程と、上記樹脂成形品表面の少なくとも一部に艶消し塗料を塗工し、加熱乾燥することにより艶消し皮膜を形成する工程とを備えた艶消しブロー成形品の製法を第1の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記熱可塑性樹脂Aがポリエステルであり、上記熱可塑性樹脂Bがポリアリレートおよびポリエチレンナフタレートの少なくとも一方である艶消しブロー成形品の製法を第2の要旨とし、上記艶消し塗料が、ウレタン系塗料である艶消しブロー成形品の製法を第3の要旨とし、上記艶消し皮膜の厚みが、10〜70μmに設定されている艶消しブロー成形品の製法を第4の要旨とする。
【0010】
そして、本発明は、上記いずれかの艶消しブロー成形品の製法によって得られる艶消しブロー成形品を第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明の艶消しブロー成形品の製法によれば、耐熱温度が異なる2種類の熱可塑性樹脂A、Bを、特定割合で含有する樹脂組成物を用いてブロー成形を行うため、良好に成形できるだけでなく、艶消し塗料塗工後の乾燥加熱によっても、その形状が変形せず、艶消し面を有する美麗な外観のブロー成形品を得ることができる。
【0012】
そして、上記樹脂組成物において、熱可塑性樹脂Aとしてポリエステルを用い、熱可塑性樹脂Bとしてポリアリレートおよびポリエチレンナフタレートの少なくとも一方を用いた場合には、特に優れた保形性を奏する。
【0013】
また、上記艶消し塗料として、ウレタン系塗料を用いた場合には、特に、しっとりとした美麗な艶消し面を得ることができ、その艶消し皮膜の厚みを、10〜70μmに設定した場合には、最小限の加熱乾燥条件で、充分にしっとりとした美麗な艶消し面を得ることができる。
【0014】
そして、本発明の艶消しブロー成形品は、美麗な艶消し面を有し、高級感あふれる外観を備えているだけでなく、そのしっとりとした触感によって、手に持ったときに滑りにくいという利点を有する。そして、軽量で耐久性にも優れていることから、運搬、保管にも好都合である。さらに、透明成形品を艶消し皮膜で被覆することにより、光反射率を高め、内容物が光から受ける影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の最良の形態である艶消しブロー成形品を、ボトルタイプの化粧料容器の容器本体に適用した例の縦断面図を示している。このものは、ブロー成形によって、容器本体10の形状が賦形されており、その口部11を除く表面全体に、艶消し皮膜12が形成されている。
【0017】
上記容器本体10は、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、成形材料となる樹脂組成物を調製する。
【0018】
上記樹脂組成物としては、樹脂成分として、耐熱温度が80℃以下の熱可塑性樹脂Aと、耐熱温度が80℃を超える熱可塑性樹脂Bとを組み合わせたものが用いられる。上記熱可塑性樹脂Aとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等があげられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。そして、成形性と、艶消し塗料との密着性の点から、特にポリエステルを用いることが好適である。
【0019】
また、上記熱可塑性樹脂Bとしては、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン等があげられ、上記熱可塑性樹脂Aと同様、単独で用いても2種以上を併用してもよい。そして、樹脂組成物中における均一分散性、成形性、艶消し塗料との密着性の点で、特にポリアリレート、ポリエチレンナフタレートを用いることが好適である。
【0020】
そして、上記熱可塑性樹脂A、Bの配合割合は、重量基準でA:Bが8:1〜1:8となるよう設定しなければならない。ただし、熱可塑性樹脂Bとして、ポリアリレートを用いた場合は、熱可塑性樹脂Aに対するポリアリレートの割合を、1:1より多く配合することは容易ではない。一方、熱可塑性樹脂Bとして、ポリエチレンナフタレートを用いた場合は、熱可塑性樹脂Aに対するポリエチレンナフタレートの割合を、1:8まで多くすることができる。上記範囲よりも熱可塑性樹脂Bが少なすぎると、後述する艶消し皮膜形成時の加熱乾燥時に、ブロー成形品の形状が熱変形するおそれがあり、逆に、上記範囲よりも熱可塑性樹脂Bが多すぎると、ブロー成形時の成形性が悪くなり実用的でない。
【0021】
なお、本発明の樹脂組成物には、上記樹脂成分である熱可塑性樹脂A、Bの外、必要に応じて、充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、結晶化促進剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤等、各種の添加剤を配合することができる。
【0022】
つぎに、上記樹脂組成物を用いてブロー成形を行い、所定形状(この例では、図1に示す容器本体10の形状)の樹脂成形品を得る。ブロー成形の方法は、特に限定するものではなく、一般的なブロー成形法を適宜選択することができる。例えば、ダイレクトブロー成形、インジェクションブロー成形等があげられる。また、中間体であるパリソン(プリフォーム)に対して延伸処理を施し、成形品の強度等を向上させる延伸ブロー成形等を用いることも好適である。
【0023】
そして、得られたブロー成形品に対し、艶消し塗料を塗工し、加熱乾燥することにより、目的とする艶消しブロー成形品を得ることができる。
【0024】
上記艶消し塗料としては、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料、アクリル系塗料、ゴム系塗料等、各種のものがあげられるが、熱可塑性樹脂との密着性、仕上がり面の美麗さ等において、ウレタン系塗料が好適であり、特に、特許第2889991号公報に記載されているガラス用被覆組成物を、本発明のブロー成形品に適用すると、優れた仕上がり面を得ることができる。
【0025】
上記艶消し塗料の塗工方法も、特に限定するものではなく、スプレー法、ディップ法、等、適宜の方法を選択することができる。そして、その層の厚みは、乾燥後の艶消し皮膜が10〜70μmになるよう設定することが好適である。すなわち、艶消し皮膜の厚みが10μm未満では、仕上がり面における艶消し効果が弱くなるおそれがあり、逆に、70μmを超えると、仕上がり面の外観にそれ以上の変化はない反面、加熱乾燥に時間がかかってブロー成形品に熱変形が生じるおそれがあるからである。
【0026】
上記艶消し塗料の塗工後の加熱乾燥温度は、ブロー成形品の樹脂組成や、上記艶消し塗料の塗工層の厚みにもよるが、通常、50〜70℃に設定することが好適である。すなわち、50℃未満では、乾燥に時間がかかり、生産効率が悪くなるおそれがあり、逆に、70℃より高温では、ブロー成形品が熱変形するおそれがあるからである。
【0027】
このようにして得られるブロー成形品は、美麗な艶消し面を有し、高級感あふれる外観を備えているだけでなく、そのしっとりとした触感によって、手に持ったときに滑りにくいという利点を有する。そして、軽量で耐久性にも優れていることから、運搬、保管にも好都合である。さらに、透明成形品を艶消し皮膜で被覆すると、表面の光反射率を高めることができるため、内容物に対する光の影響を低減して内容物を守ることができる。
【0028】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
まず、下記の組成の樹脂組成物を調製した。
<樹脂組成物の組成>
ポリエステル(IFG−8L、カネボウ合繊社製) 70重量部
ポリアリレート(U−ポリマー、ユニチカ社製) 30 〃
【0030】
そして、延伸ブロー成形法により、図1に示すような形状のブロー成形品を作製し、その表面に、ウレタン系艶消し塗料(ハニソフトン、ハニー化成社製)を塗工し、60℃×40分の加熱乾燥を行うことにより、厚み25μmの艶消し皮膜で被覆された艶消しブロー成形品を得た。
【0031】
〔実施例2、比較例1〕
樹脂組成物において、ポリエステルAとポリアリレートBの含有割合(A:B、重量基準)を、後記の表1に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、2種類のブロー成形品を得た。
【0032】
また、実施例1と同様のポリエステルAと、ポリエチレンナフタレートB′(テオネックス、帝人化成社製)の含有割合(A:B′)を、後記の表1に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、2種類のブロー成形品を得た。
【0033】
そして、これらの実施例品および比較例品に対し、ブロー成形時の成形性、艶消し塗料加熱乾燥時の熱安定性、艶消し皮膜による外観の3項目について、下記の方法に従って評価した。これらの結果を、後記の表1に併せて示す。
【0034】
〔ブロー成形時の成形性〕
得られた成形品に、厚みのばらつきや表面平滑性等のトラブルが生じていないかどうかを肉眼で観察し、良好な成形状態であれば○、わずかにトラブルが生じているが実用上問題がなければ△、実用上問題があれば×とした。
【0035】
〔艶消し塗料加熱乾燥時の熱安定性〕
艶消し塗料塗工後の加熱乾燥後の成形品に、反りや歪み等の熱変形が生じていないかどうかを肉眼で観察し、全く熱変形が生じていなければ○、わずかに熱変形が生じているが実用上問題がなければ△、実用上問題があれば×とした。
【0036】
〔艶消し皮膜による外観〕
艶消し皮膜が形成された成形品の外観を肉眼で観察し、艶消しによりしっとりとした美感が付与されていれば○、やや劣る外観であれば△、艶消しがはっきりしない状態であれば×とした。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例4〜7〕
艶消し塗料の塗工厚みを変えることにより、得られる艶消し皮膜の厚みを、下記の表2に示すように変えた。そして、上記塗工厚みに応じて、その加熱乾燥条件を適宜変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、4種類のブロー成形品を得た。これらの実施例品に対し、艶消し塗料加熱乾燥時の熱安定性、艶消し皮膜による外観の2項目について、前記と同様にして評価した。これらの結果を、下記の表2に併せて示す。
【0039】
【表2】

【0040】
〔実施例8、比較例3,4〕
下記の表3に示すように、樹脂組成物の樹脂成分の組成を変えた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、3種類の艶消しブロー成形品を得た。これらの実施例品および比較例品に対し、前記と同様にして、ブロー成形時の成形性、艶消し塗料加熱乾燥時の熱安定性、艶消し皮膜による外観の3項目について評価した。これらの結果を、下記の表3に併せて示す。
【0041】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例の縦断面図である。
【図2】従来のブロー成形品の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 容器本体
12 艶消し皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分として、耐熱温度が80℃以下の熱可塑性樹脂Aと、耐熱温度が80℃を超える熱可塑性樹脂Bとを、重量基準でA:Bが8:1〜1:8となる割合で含有する樹脂組成物を準備する工程と、上記樹脂組成物を用いてブロー成形により所定形状の樹脂成形品を得る工程と、上記樹脂成形品表面の少なくとも一部に艶消し塗料を塗工し、加熱乾燥することにより艶消し皮膜を形成する工程とを備えたことを特徴とする艶消しブロー成形品の製法。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂Aがポリエステルであり、上記熱可塑性樹脂Bがポリアリレートおよびポリエチレンナフタレートの少なくとも一方である請求項1記載の艶消しブロー成形品の製法。
【請求項3】
上記艶消し塗料が、ウレタン系塗料である請求項1または2記載の艶消しブロー成形品の製法。
【請求項4】
上記艶消し皮膜の厚みが、10〜70μmに設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の艶消しブロー成形品の製法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載された製法によって得られることを特徴とする艶消しブロー成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−110855(P2006−110855A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300283(P2004−300283)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】