説明

芳香族カルボン酸の製造法におけるエネルギー回収方法

本発明では、芳香族供給原料の発熱液相酸化による芳香族カルボン酸の製造方法が提供される。より詳細には、本発明では、芳香族供給原料の液相酸化により生ずる発熱量の効率的なエネルギー回収方法が提供される。芳香族供給原料の発熱液相酸化による芳香族カルボン酸の製造からエネルギーを有効に回収する装置は、その主要なエネルギー回収手段が、中圧蒸気を高めることによって行われるものである。これは、通常、固有ランキンサイクルとして知られているプロセス及び/又は熱ポンプを用いて低温エネルギーを回収する方法と組み合わされる。これらエネルギー回収方法を組み合わせると、全体としてのエネルギー回収が増大し、かつ熱回収(蒸気)又は仕事のいずれか、あるいはその両者の組み合わせとしての反応エネルギーの回収が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族供給原料の発熱液相酸化による芳香族カルボン酸濃厚流の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、芳香族供給原料の液相酸化により生ずる発熱量の効率的なエネルギー回収に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸のような芳香族カルボン酸は、有益な化合物であり、ポリエステルの製造原料である。テレフタル酸の場合には、単一の製造設備でもって、ポリエチレンテレフタレート(PET)施設用の供給原料として1年につき100,000メートルトンを超える量の生産が可能である。
【0003】
テレフタル酸(TPA)は、パラキシレンのような好適な芳香族供給原料を高圧、発熱酸化することによって製造することができる。典型的には、これらの酸化は、金属触媒又は促進剤化合物の存在下に、空気又はこれに代わる分子酸素源を用いて液相で実施される。パラキシレン及び他の芳香族化合物、例えばm−キシレン及びジメチルナフタレンを酸化する方法は、当該分野で周知である。これらの酸化反応では、典型的に、一酸化炭素、二酸化炭素、及び臭化メチルのような酸化反応生成物を一般に含む反応ガスが生成する。更に、酸素源として空気が用いられる場合には、反応ガスには窒素や過剰酸素も含まれる。
【0004】
また、大部分のTPAの製造方法には、反応溶剤の一部として、酢酸のような低分子量カルボン酸も使われている。更に、また、酸化溶媒中には、いくらかの水も、同様に酸化副生物として生成されて、存在している。
【0005】
このタイプの酸化は、一般に、高度に発熱性であり、そしてこれらの反応温度をコントロールするには多くの方法があるが、普通で便利な方法は、反応時に、溶剤の一部を蒸発させることによって熱を取り除くことである。反応ガスと揮発溶剤の組み合わせは、気体混合物と言われている。この気体混合物には、相当量のエネルギーが含まれている。
【0006】
水は、酸化副生物として生成されるため、少なくともガス混合物の一部は、蒸気又は凝縮物のいずれかとして、通常、分離装置、典型的には蒸留塔に送られて、反応器内に水濃縮物が集積しないように一次溶剤(例えば、酢酸)から水が分離される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的では、芳香族カルボン酸を製造する高度の発熱酸化反応の結果として発生するエネルギーを回収する、効率的で経済的なエネルギーの回収方法が提供される。本発明のその他の目的では、低分子量カルボン酸溶剤と水とを化学的に分離しながら、同時にエネルギーを回収する、エネルギーの回収方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施態様によれば、以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸濃厚流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流及び溶剤濃厚流とする段階、及び
c)熱回収ゾーン内で、排ガス流の一部を凝縮して凝縮混合物とし、当該凝縮混合物を選択的に分離ゾーンに戻し、その熱エネルギーの一部を作動流体に回収し、そして当該作動流体のエンタルピーの一部を動力サイクルに回収することで、排ガス流の少なくとも一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、前記作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、
を含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法が提供される。
【0009】
本発明のその他の実施態様によれば、以下の段階、
a)分離ゾーン内で、ガス混合物から酸化溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流とする段階、及び
b)選択的に、第一の熱回収装置内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
c)第二の熱回収装置内で、動力サイクルを通過する作動流体を用いて排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここでは、作動流体におけるエンタルピーの一部が動力サイクルに回収され、また、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、及び
d)選択的に、第三の熱回収装置内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
を含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法が提供される。
【0010】
本発明の更なるその他の実施態様によれば、以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流とする段階、及び
c)選択的に、第一の熱回収装置内で、排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
d)第二の熱回収装置内で、動力サイクルを通過する作動流体を用いて排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、及び
e)選択的に、第三の熱回収装置内で、排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
を含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法が提供される。
【0011】
本発明の更なるその他の実施態様によれば、以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流とする段階、
c)第一の熱回収装置内で、排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
d)第二の熱回収装置内で、動力サイクルを通過する作動流体を用いて排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、及び
e)第三の熱回収装置内で、排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
をこの順序で含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一の実施態様では、排ガス流145からのエネルギー回収方法は、図1に示されている。この方法には、以下の段階が含まれる。
【0013】
段階(a)には、反応ゾーン115内で、芳香族供給原料105を液相反応混合物110と酸化させて、芳香族カルボン酸濃厚流120及びガス混合物125を生成させることが含まれる。
【0014】
当該液相反応混合物110には、水、溶剤、金属酸化触媒及び分子酸素源が含まれる。当該反応ゾーン115には、少なくとも一つの酸化反応器が含まれる。この酸化は、芳香族カルボン酸濃厚流120及びガス混合物125を生ずる反応条件下で完了する。典型的には、当該芳香族カルボン酸濃厚流120は、粗原料テレフタル酸のスラリーである。
【0015】
粗原料のテレフタル酸は、普通、重金属酸化触媒の存在下での、パラキシレンの液相空気酸化を経て製造される。好適な触媒には、選定された触媒に可溶性である、コバルト、マンガン及び臭化化合物が含まれるが、これらに限定されない。好適な溶剤には、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸、又は安息香酸及びそれらの混合物及びそれら化合物と水との混合物が含まれるが、これらに限定されない。溶剤は、約5:1〜約25:1の、好ましくは約10:1〜約15:1の比で、酢酸と水とが混合されているものが、好ましい。しかしながら、他の好適な溶剤、例えば本明細書に記載されるものが用いられてもよいことが、理解されねばならない。導管125には、揮発溶剤、ガス副生物、窒素及び芳香族供給原料から芳香族カルボン酸に至る発熱液相酸化反応の結果として生ずる未反応窒素を含むガス混合物が含まれる。米国特許第4,158,738号及び同第3,996,271号明細書のような、テレフタル酸の製造を開示する特許は、これを参照することにより本明細書に含める。
【0016】
段階(b)には、分離ゾーン130内で、ガス混合物125から溶剤の実質的一部を取り除き、排ガス流135及び溶剤濃厚流140とすることが含まれる。
【0017】
当該排ガス流135には、水、ガス副生物、及び少量の溶剤が含まれる。当該溶剤が低分子量のカルボン酸溶剤であるときには、その低分子量カルボン酸溶剤に対する水の比は、質量で、約80:20〜約99.99:0.01の範囲である。当該ガス副生物には、酸素、酸素副生物、例えば一酸化炭素及び二酸化炭素が含まれ、そして空気が分子酸素として使われるときには、窒素が含まれる。排ガス流135の少なくとも一部又は排ガス流135の全ては、導管145を経て熱回収ゾーンに送られる。
【0018】
典型的に、当該排ガス流145の温度及び圧力条件は、約130〜約220℃及び約3.5〜約18バールの範囲である。好ましくは、排ガス流145の温度及び圧力条件は、約90〜約200℃及び約4〜約15バールの範囲である。最も好ましくは、排ガス流145の温度及び圧力条件は、約130〜約180℃及び約4〜約10バールの範囲である。
【0019】
導管125内のガス混合物は、分離ゾーン130に向かっている。典型的に、当該分離ゾーン130には、約20〜約50理論段を有する高圧蒸留塔及び単一の凝縮器又は複数の凝縮器が含まれる。分離ゾーン130では、溶剤濃厚流が導管140を経て回収される。分離ゾーン130の目的は。そこで、溶剤の少なくとも一部が回収され、過剰の水が取り除かれる分離を行うことである。一般に、最適なエネルギー回収の目的のためには、導管125と導管135及び145との内容物間の圧力減少は潜在的な回収エネルギーの損失を示すので、当該圧力減少が最小となるべきである。したがって、当該分離ゾーン130は、導管125からのガス混合物のそれと同じ又はそれに近い温度及び圧力条件で操作されなければならない。排ガス流135の少なくとも一部又は全部は、導管145を経て熱回収ゾーンに送られ、そしてその排ガス流の残部137が、芳香族カルボン酸の製造プロセス内のいずれかで利用される。
【0020】
段階(c)には、熱回収ゾーン150内で、排ガス流145の少なくとも一部から熱エネルギーを回収することが含まれる。当該熱回収ゾーン150では、排ガス流145の一部が凝縮されて、凝縮混合物155が生成され、そしてこの凝縮混合物155は、選択的に分離ゾーンに戻される。その熱エネルギーを回収するために、作動流体が用いられる。一般に、当該作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物である。
【0021】
熱回収ゾーン150内での排ガス流145からの熱エネルギーの回収は、当該分野で知られているいかなる手段によって行われてもよい。しかしながら、一般には、動力サイクルが使用される。動力サイクルは、当該分野で周知である。動力サイクルは、熱を取り入れ、それを用いて周囲の状況に関し仕事をするサイクルである。当該分野で周知な動力サイクルは、多数ある。動力サイクルの具体例には、固有ランキンサイクル(ORC)、カリーナサイクル、又はWO02/063141(当該文献を引用したことにより、これを本願明細書中に含める)に記載されるような動力サイクルが含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
使用できる動力サイクルの他の具定例は、Energy(エネルギー)、第22巻、第7号、661〜667頁、1997年、Elsevier Science社、英国に「A Review of Organic Rankine Cycles (ORC) for the Recovery of Low-Grade Waste Heat(低級廃熱の回収に関する固有ランキンサイクルについての考察)」の表題で、及びEnergy(エネルギー)、第21巻、第1号、21〜27頁、1996年、Elsevier Science社、英国に「Absorption Power Cycles(吸収動力サイクル)」の表題で開示されている(当該文献を引用したことにより、これを本願明細書中に含める)。
【0023】
これら具体例間の一つの共通な特徴は、低温蒸発作業流体を用いることである。典型的に、低温蒸発作業流体は、高動力回収効率のための水や蒸気に代わる、比較的低温下(例えば、一般に、150℃より低い温度下)での熱エネルギーを回収するための動力サイクルに使用されている。等温沸騰/凝縮プロセスに特徴を有する一つのかかるサイクルは、ランキンサイクルである。蒸気タービンプラントは、通常、作動流体が実質的に水であるランキンサイクルプロセスに極めて近い。しかしながら、通常は、受け入れられているが、低温下で(例えば、一般に、150℃より低い温度下)水/蒸気を用いるランキンサイクルの動力回収は、一般に、効率が悪い。
【0024】
当該作動流体は、それが実質的に水を含まない限り(実質的に水を含まないとは、略、20重量%未満である)、いかなる流体であってもよい。本発明のその他の実施態様では、当該作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物である。その他の範囲では、当該作動流体は、約−100℃〜約60℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であってよい。
【0025】
本発明のその他の実施態様では、当該作動流体は、プロパン、イソプロパン、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、アンモニア、R134a、R11、R12、及びそれらの混合物からなる群より選定される。R134a、R11、R12は、当該分野で知られており、市販されている冷媒である。
【0026】
本発明の第二の実施態様では、導管245を経て、排ガス流235の少なくとも一部からの熱エネルギーの回収方法は、図2に示されている。当該方法には、以下の段階が含まれる。
【0027】
段階(a)には、分離ゾーン230内で、ガス混合物225から溶剤の実質的な一部を取り除いて、排ガス流235及び溶剤濃厚流240とすることが含まれる。
【0028】
当該第二の実施態様における段階(a)は、本発明の第一の実施態様における段階(b)と実質的に同じである。分離ゾーンに、蒸留塔が含まれる場合には、当該排ガス流245は、導管245及び237を通って蒸留塔の頂部を出る。当該排ガス流245には、ガス反応副生物、窒素、未反応酸素が含まれる。また、当該溶剤、典型的には酢酸及び水は、飽和条件下の量、あるいはそれに近い量でも存在する。酢酸に対する水の割合は、大雑把に、質量で、80:20〜99.99:0.01の範囲、好ましくは質量で、99.5:0.5〜98.5:1.5の範囲である。導管245の内容物で表される、この排ガス流の一部は、一連の熱回収ゾーン260、270、及び280を通過してよい。排ガス流245の一部は、凝縮され、そして導管255を経て還流として分離ゾーン230の蒸留塔に向かうか、あるいは導管285を経て液体凝集物として向かう。
【0029】
蒸留の観点からすれば、熱回収ゾーン260、270、及び280の役割は、搭上の排ガス流245からの物質を十分に凝縮させて、分離ゾーン230における蒸留塔に対して溶剤と水とを分離させる適当な還流を与えることである。しかしながら、当該凝縮を行うのに必要な熱効率は、また、芳香族供給材料から芳香族カルボン酸への酸化反応によって発生する熱を除くことにも役立っている。
【0030】
エネルギーを回収することは、一般に、有効でありかつ効率的である。効率的なエネルギー回収に対する一つの障害は、導管245及び237中に非凝縮性のガスが存在することである。この非凝縮性ガス、例えば、窒素、酸素、一酸化炭素、及び二酸化炭素は、蒸気の生成を難しくする凝縮熱曲線を生じさせる。
【0031】
このことは、図3の具体例によって説明される。図3には、温度関数としての凝縮器又は分縮器の熱効率を記載する「凝縮曲線」が示されている。このケースでは、当該凝縮器は、蒸気の導入口温度約139℃及び出口温度約45℃をもつ分縮器である。
【0032】
仮に、単一の分縮器装置において、約15psig(即ち、1バール)の蒸気を発生させることを望むならば、そのときには、図3では、凝縮器の全効率の単に55%を用いて15psigの蒸気を発生させればよい、ことが示されている。この理由は、15psigの蒸気は約121℃の飽和温度を有するからである。この分縮器の例では、単に全効率の55%の熱効率でもって、121℃で、あるいはこれを超える温度で蒸気に転換することが可能である。これは、温度「不足」として、熱交換技術において通常知られていることを説明しており、当該系に係る熱力学限界を示している。
【0033】
仮に、発生する蒸気の圧力(及び温度)が低ければ、より多くの熱を回収することが可能である。しかしながら、当該カルボン酸の製造工程内の他の場所において、加熱目的でこの蒸気を利用するためには、当該蒸気が十分な温度でなければならないという理由のため、これは限界値である。
【0034】
段階(b)には、選択的に、第一の熱回収ゾーン260内で、排ガス流245の一部から熱エネルギーを回収して低圧蒸気を生成させることが含まれる。
【0035】
段階(c)には、第二の熱回収ゾーン270内で、動力サイクルを通過する作動流体を用いて排ガス流245の一部から熱エネルギーを回収すること、ここで、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、が含まれる。
【0036】
段階(d)には、第三の熱回収ゾーン280内で、排ガス流245の一部から熱エネルギーを回収することが含まれる。
【0037】
段階(b)、段階(c)及び段階(d)の目的は、熱エネルギーの効率的な回収である。熱回収ゾーン260、270及び280には、排ガス流145から熱エネルギーを回収する少なくとも一つの装置が含まれる。第一の熱回収ゾーン260には、熱交換が約121℃より高い温度で達成される単一の熱回収装置又は複数の熱回収装置が含まれる。第二の熱回収ゾーン270には、熱交換が90℃より高い温度で達成される単一の熱回収装置又は複数の熱回収装置が含まれる。第三の熱回収ゾーン280には、熱交換が25℃より高い温度で達成される単一の熱回収装置又は複数の熱回収装置が含まれる。当該熱回収装置は、当該分野で知られるいかなる装置であってもよい。
【0038】
当該熱回収温度の関連性は、それらの温度で回収される熱の効率及び有効性において明らかである。121℃より高い温度の場合には、熱媒体として、芳香族カルボン酸の製造のような工業的用途に有効である約15psig(約1バール)の飽和蒸気を発生させることが可能である。より低い温度下で、より大量の蒸気を発生させることは可能であるが、かかる蒸気の有用性には限界がある。更に、低温流体への熱交換用熱媒体として蒸気を使用することは、熱力学的には非常に有効である。
【0039】
第一の熱回収ゾーン260には、典型的に、分縮器が含まれるが、それに限定されない。
【0040】
第二の熱回収ゾーン270には、典型的に、熱を「作動流体」、通常は、冷媒化合物又は炭化水素又は炭化水素の混合物に移動する、凝縮器又は分縮器のような熱交換装置が含まれるが、それらに限定されない。90℃に近い又はこの温度を超える温度下での熱及びエネルギー回収の場合には、いくつかの方法が、当該分野で知られている。
【0041】
当該作動流体は、それが実質的に水を含まない(実質的に約20重量%未満の水しか含まない)限り、いかなる流体であってもよい。本発明のその他の実施態様では、当該作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物である。その他の範囲では、当該流体は、約−100℃〜約60℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であってよい。
【0042】
本発明のその他の実施態様では、当該作動流体は、プロパン、イソプロパン、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、アンモニア、R134a、R11、R12、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる。R134a、R11、R12は、当該分野で知られ、通常、冷媒として市販されている。
【0043】
動力サイクルの具体例には、固有ランキンサイクル、カリーナサイクル、又はWO02/063141に記載されるような動力サイクルが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
当該固有ランキンサイクル(ORC)は、工業的な廃熱から機械的仕事及び/又は電気を有効かつ経済的に回収するものとして知られてきた。実際上は、熱力学的系の不可逆性に起因して、利用可能な熱エネルギーの全てを有効な仕事に転換することは不可能である。しかしながら、低圧蒸気の有用性には限界があるため、発生蒸気以外のある他の手段によってエネルギーを回収する方が、はるかに経済的に好都合である。
【0045】
エネルギーの回収にORCシステムを利用する工業的方法には、数種の例がある。当該OCRの主たる利点は、低温から中温の廃熱を回収するその優れた能力である。90℃〜120℃の範囲のエネルギーを回収するORCシステムの場合には、当該システムは、3〜20%の効率を有する。システム効率は、ORCシステムから派生する全仕事を全送入廃熱で割ったものと定義される。システム効率を決定する主要な要因は、廃熱流に係る仕事温度、凝縮器温度及び作動流体の熱力学的特性である。
【0046】
これに代わって、第二の熱回収ゾーン270は、熱をヒートポンプシステムへ伝達するのに役立っている。多数のヒートポンプシステムが、当該分野では知られている。したがって、低温の熱からエネルギーを効率的に回収できるいかなるシステムも、利用可能である。
【0047】
第三の熱回収ゾーン280には、熱交換が25℃を超える温度で又はそれに近い温度で達成される単一の熱回収装置又は複数の熱回収装置が含まれる。典型的に、第三の熱回収ゾーン280には、水冷又は空冷の凝縮器又は分縮器が含まれる。
【0048】
本発明の第三の実施態様では、排ガス流235からの熱エネルギーの回収方法は、図2に示されている。当該方法には、以下の段階が含まれる。
【0049】
段階(a)には、反応ゾーン215内で、芳香族供給原料205を液相反応混合物210と酸化させて、芳香族カルボン酸濃厚流220及びガス混合物225を生成させることが含まれる。
【0050】
本発明の第三の実施態様における段階(a)は、第一の実施態様における段階(a)と同じである。
【0051】
段階(b)には、分離ゾーン230内で、ガス混合物225から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流235及び溶剤濃厚流240とすることが含まれる。
【0052】
第三の実施態様における段階(b)は、本発明の第一の実施態様における段階(b)と実質的に同じである。
【0053】
段階(c)には、選択的に、第一の熱回収ゾーン260内で、排ガス流245の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させることが含まれる。
【0054】
段階(d)には、第二の熱回収ゾーン270内で、動力サイクルにおける作動流体(ここでの作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物である)を用いて、排ガス流245の一部から熱エネルギーを回収することが含まれる。
【0055】
段階(e)には、第三の熱回収ゾーン内280で、排ガス流245の少なくとも一部から熱エネルギーを回収することが含まれる。
【0056】
本発明の第三の実施態様における段階(c)、段階(d)及び段階(e)は、本発明の第二の実施態様における段階(b)、段階(c)及び段階(d)のそれぞれと実質的に同じである。
【実施例】
【0057】
本発明について、その好ましい実施態様である以下の実施例によって更に説明するが、この実施例は、本発明を説明する目的のためにのみ含まれ、他に特に指示がない限り、本発明の技術的範囲を限定するものでないことが理解されよう。
【0058】
図4に、動力回収システムについての実施例を示す。温度及び圧力は、テレフタル酸の製造と一致している。このシステムでは、固有ランキンサイクルのシステム用の作動流体は、n−ペンタンである。ASPEN Plus(登録商標)コンピューターシミュレーションに基づく結果を、表2に示す。モデルに使用した装置についての詳細は、表1に示している。なお、この実施例では、約55%の全熱効率を用いて、15psigの蒸気を生成させている。付加的な38%の全熱効率には、エネルギーの回収を増進させるORCシステムを用いる。ORCシステムの全体の熱効率は、大雑把に約7.3%である。有意な改善は、作動流体の選定を最適化すること、及びORCシステムの温度及び圧力条件を最適化することによってなされる、と仮定する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】排ガス流から熱エネルギーを回収する本発明の一実施態様を示す。
【図2】排ガス流から熱エネルギーを回収する本発明のその他の一実施態様を示す。
【図3】本発明での凝縮器又は分縮器における温度を関数とした熱効率を記載する「凝縮曲線」を示す。
【図4】本発明による動力回収システムの一具体例を示す。
【符号の説明】
【0062】
105 芳香族供給原料
110 液相反応混合物
115 反応ゾーン
120 芳香族カルボン酸濃厚流
125 ガス混合物
130 分離ゾーン
135 排ガス流
137 排ガス流の残部
140 溶剤濃厚流
145 排ガス流の一部
150 熱回収ゾーン
155 凝縮混合物
205 芳香族供給原料
210 液相反応混合物
215 反応ゾーン
220 芳香族カルボン酸濃厚流
225 ガス混合物
230 分離ゾーン
235 排ガス流
237 排ガス流の残部
240 溶剤濃厚流
245 排ガス流の一部
255 分離ゾーンへの導管
260 第一熱回収ゾーン
270 第二熱回収ゾーン
280 第三熱回収ゾーン
285 液体蒸留物の導管
321 蒸気発生器
322 蒸発器
500 タービン
510 凝縮器
520 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸濃厚流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、前記ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流及び溶剤濃厚流とする段階、及び
c)熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部を凝縮して凝縮混合物とし、当該凝縮混合物を選択的に分離ゾーンに戻し、その熱エネルギーを作動流体に回収し、そして当該作動流体のエンタルピーの一部を動力サイクルに回収することで、前記排ガス流の少なくとも一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、前記作動流体は、約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、
を含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法。
【請求項2】
前記排ガス流からの熱エネルギーの一部を用いて蒸気を生成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動流体が、プロパン、イソプロパン、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、アンモニア、R134a、R11、R12、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作動流体が、プロパン、イソプロパン、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、アンモニア、R134a、R11、R12、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記分離ゾーンが蒸留塔を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留塔が約130℃〜約220℃の温度下で操作される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記蒸留塔が約3.5バール〜約15バールの圧力下で操作される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記動力サイクルが固有ランキンサイクル又はカリーナサイクルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
以下の段階、
a)分離ゾーン内で、ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流及び溶剤濃厚流とする段階、及び
b)選択的に、第一の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
c)第二の熱回収ゾーン内で、作動流体を用いて前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここでは、前記作動流体におけるエンタルピーの一部は動力サイクルに回収され、また、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、及び
d)選択的に、第三の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
を含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法。
【請求項10】
前記動力サイクルが固有ランキンサイクル又はカリーナサイクルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記作動流体が、プロパン、イソプロパン、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、アンモニア、R134a、R11、R12、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記作動流体が約−100℃〜約60℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第一の熱回収ゾーンが約−100℃〜約60℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第二の熱回収ゾーンが約80℃〜約120℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第三の熱回収ゾーンが約20℃〜約120℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第一の熱回収ゾーンが分縮器を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第二の熱回収ゾーンが凝縮器及び分縮器からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第三の熱回収ゾーンが水冷装置及び空冷装置からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、前記ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流及び溶剤濃厚流とする段階、及び
c)選択的に、第一の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
d)第二の熱回収ゾーン内で、動力サイクル内の作動流体を用いて前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、
e)選択的に、第三の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
を含む排ガス流からの熱エネルギーの回収方法。
【請求項20】
前記第一の熱回収ゾーンが約100℃〜約160℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の熱回収ゾーンが約80℃〜約120℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第三の熱回収ゾーンが約20℃〜約100℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第一の熱回収ゾーンが分縮器を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第二の熱回収ゾーンが凝縮器及び分縮器からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第三の熱回収ゾーンが水冷装置及び空冷装置からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記動力サイクルが固有ランキンサイクル又はカリーナサイクルである、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
以下の段階、
a)反応ゾーン内で、芳香族供給原料を液相反応混合物と酸化させて、芳香族カルボン酸流及びガス混合物を生成させる段階、
b)分離ゾーン内で、前記ガス混合物から溶剤の実質的一部を取り除いて、排ガス流及び溶剤濃厚流とする段階、及び
c)第一の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収して、低圧蒸気を生成させる段階、
d)第二の熱回収ゾーン内で、動力サイクル内の作動流体を用いて前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、ここで、当該作業流体は約−100℃〜約90℃の標準沸点を有する化合物又は当該化合物の混合物であること、及び
e)第三の熱回収ゾーン内で、前記排ガス流の一部から熱エネルギーを回収する段階、
をこの順序で含む、排ガス流からの熱エネルギーの回収方法。
【請求項28】
前記第一の熱回収ゾーンが約100℃〜約160℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第二の熱回収ゾーンが約80℃〜約120℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第三の熱回収ゾーンが約20℃〜約100℃の温度で操作される熱回収装置を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第一の熱回収ゾーンが分縮器を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第二の熱回収ゾーンが凝縮器及び分縮器からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第三の熱回収ゾーンが水冷装置及び空冷装置からなる群より選ばれる熱回収装置を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記動力サイクルが固有ランキンサイクル又はカリーナサイクルである、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−527309(P2007−527309A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518691(P2006−518691)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/020646
【国際公開番号】WO2005/007606
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】