説明

芳香族ポリアミド延伸フィルム

【課題】ガスバリア性及び透明性の良好な芳香族ポリアミド延伸フィルムを提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミド樹脂をMD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸して得られた芳香族ポリアミド延伸フィルムであり、前記芳香族ポリアミド樹脂がメタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン構成単位と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を80〜97モル%及びイソフタル酸単位を3〜20モル%含むジカルボン酸構成単位を含み、かつ、前記芳香族ポリアミド樹脂の最短半結晶化時間が40〜2000秒の範囲である芳香族ポリアミド延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性芳香族ポリアミド延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア包装材料としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアミド等のガスバリア性樹脂をガスバリア層に利用した多層フィルムが使用されている。ポリアミドの中でも、メタキシリレンジアミンとアジピン酸を重縮合して得られるポリメタキシリレンアジパミド(以下ナイロンMXD6という)は、他のガスバリア性樹脂に対して、ボイル処理やレトルト処理を行った場合のガスバリア性の低下が少なく、また、ガスバリア性の回復も速いという特徴を有している。この特徴を活かして最近包装分野での利用が進んでいる。例えば、ナイロンMXD6等の芳香族ポリアミドに、不飽和カルボン酸類でグラフト変性したポリオレフィン類等を混合した層を含む積層二軸延伸フィルムを包装用フィルムとして使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ナイロンMXD6からなるフィルムは優れたガスバリア性を有しているが、無延伸状態では耐衝撃性、柔軟性が低いという欠点がある。また、吸湿や加熱により白化するという欠点がある。延伸することにより、耐衝撃性、柔軟性をある程度改善できることはすでに知られている。延伸により白化しなくなることも知られている。しかし、ナイロンMXD6をMDもしくはTD方向のどちらか一方だけでも4倍を超える倍率で延伸すると、フィルムが破断したり、透明性やガスバリア性が悪化するため、ガスバリア性・透明性の良好なフィルムが得られないという問題がある。
【0004】
一方、ポリプロピレンの延伸フィルムはMD/TD方向に、おのおの5〜10倍の倍率で延伸されて生産されている。ポリプロピレンにガスバリア性を付与するため、各種ガスバリア性樹脂との多層化が検討されているが、ナイロンMXD6と多層化する場合、ポリプロピレンに適した延伸温度・延伸倍率では、ナイロンMXD6フィルムが破断したり、透明性やガスバリア性が悪化するため、ガスバリア性・透明性の良好なフィルムが得られないという問題がある。
【特許文献1】特許第3021854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ガスバリア性・透明性の良好な芳香族ポリアミド延伸フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ナイロンMXD6系フィルムの延伸倍率の向上に関して検討した結果、イソフタル酸を共重合させ、半結晶化時間を特定の範囲に制御した芳香族ポリアミド樹脂は、実用レベルの透明性、ガスバリア性を確保しながら、破断することなく高倍率で延伸することが出来ることを見いだし、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、芳香族ポリアミド樹脂をMD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸して得られた芳香族ポリアミド延伸フィルムであり、前記芳香族ポリアミド樹脂がメタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン構成単位と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を80〜97モル%及びイソフタル酸単位を3〜20モル%を含むジカルボン酸構成単位を含み、かつ、脱偏光強度法による定温結晶化によって測定した場合、ガラス転移点以上〜融点未満の測定温度範囲内での前記芳香族ポリアミド樹脂の最短半結晶化時間が40〜2000秒の範囲である芳香族ポリアミド延伸フィルムを提供する。
更に本発明は、前記芳香族ポリアミド延伸フィルムを少なくとも一層含む多層構造体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
イソフタル酸が共重合され、特定の範囲の半結晶化時間を有する芳香族ポリアミドは破断を起こすことなく高倍率で延伸することができ、透明性、ガスバリア性が優れた芳香族ポリアミド延伸フィルムを効率良く生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いる芳香族ポリアミド樹脂は、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上(100モル%を含む)含むジアミン構成単位と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位(α,ω−ジカルボン酸単位)を80〜97モル%、イソフタル酸単位を3〜20モル%含むジカルボン酸構成単位を含む。ジアミン構成単位中のメタキシリレンジアミン単位の含有割合は、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上(それぞれ100モル%を含む)である。ジカルボン酸構成単位中のα,ω−ジカルボン酸単位の含有割合は、好ましくは85〜97モル%、さらに好ましくは85〜95モル%であり、イソフタル酸単位の含有割合は、好ましくは3〜15モル%、さらに好ましくは5〜15モル%である。ジアミン構成単位/ジカルボン酸構成単位は0.99〜1.01(モル比)であるのが好ましい。
【0010】
上記芳香族ポリアミド樹脂は溶融重縮合法により製造される。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタル酸からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を取り除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸、イソフタル酸混合物に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系が固化しないように、メタキシリレンジアミンを連続的に加えて、反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミド樹脂の融点以上となるように反応系を昇温しつつ、重縮合を進めるのが好ましい。
【0011】
溶融重縮合によって得られる比較的低分子量の芳香族ポリアミド樹脂(溶融重縮合ポリアミド樹脂)の相対粘度は、通常、1.8〜2.28である。溶融重縮合ポリアミド樹脂の相対粘度が前記範囲内であると、ゲル状物質の生成が少なく、色調が良好な高品質の芳香族ポリアミド樹脂が得られる。しかし、低粘度であるため芳香族ポリアミド樹脂単層フィルム、シートや、フィルム、シート、ボトル等の芳香族ポリアミド樹脂層を含む多層構造物を作製する際、ドローダウンや、シート端部への芳香族ポリアミド樹脂の偏り、ボトルプリフォーム中の芳香族ポリアミド樹脂層の偏り等が起こる場合があり、均一な厚さのフィルム、シート、多層構造物を得る事が困難となる。そこで必要に応じて、溶融重合ポリアミド樹脂は次いで固相重合される。固相重合は、溶融重合ポリアミド樹脂をペレットあるいは粉末状にして、これを減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下に、150℃〜ポリアミド樹脂の融点の温度範囲で加熱することにより実施される。作製する多層構造物がシートやフィルム、延伸ブローボトル形状等である場合、固相重合で得られる芳香族ポリアミド樹脂(固相重合ポリアミド樹脂)の相対粘度は、好ましくは2.3〜4.2、より好ましくは2.4〜3.8である。この範囲であれば、ドローダウンやフィルム、シート端部への芳香族ポリアミド樹脂層の偏り等の少ない、良好な多層構造物が得られる。
尚、ここで言う相対粘度は、樹脂1gを96%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96%硫酸そのものの落下時間(t0)の比であり、次式で示される。
相対粘度=(t)/(t0)
【0012】
芳香族ポリアミド樹脂製造のためのジアミン成分は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上(それぞれ100モル%を含む)含む。
【0013】
前記ジアミン成分中に、メタキシリレンジアミン以外の他のジアミンが含まれていてもかまわない。他のジアミンとして、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
芳香族ポリアミド樹脂製造のためのジカルボン酸成分は、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸(α,ω−ジカルボン酸)を80〜97モル%、好ましくは85〜97モル%、さらに好ましくは85〜95モル%含み、イソフタル酸を3〜20モル%、好ましくは3〜15モル%、更に好ましくは5〜15モル%含む。α,ω−ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が例示できるが、特にアジピン酸を使用することが好ましい。
【0015】
芳香族ポリアミド樹脂のジカルボン酸構成単位がイソフタル酸単位を3〜20モル%含有することにより、α,ω−ジカルボン酸のみの場合に比べ、得られる芳香族ポリアミド樹脂の融点が低く、より低温で成形できるため、延伸時の成形加工性が向上する。また、該樹脂の結晶化速度が遅延するので4倍を超える高倍率での延伸が可能になる。イソフタル酸単位含量が3モル%未満では、ガスバリア性能を維持しつつ、結晶化速度の遅延による延伸倍率の向上を図ることが困難である。一方、イソフタル酸含量が20モル%を超える場合、融点が低下し過ぎ、結晶化速度も大きく遅延する。このため、成形加工性や二次加工性は向上するが、結晶性が低下するために吸水によりガラス転移点が低下し、熱水処理時に芳香族ポリアミド樹脂層が軟化して単層フィルム及び多層構造物が変形したり、芳香族ポリアミド樹脂が一部溶け出す可能性があるので好ましくない。また、イソフタル酸含量が20モル%を超えて、結晶性を過度に低下させると、単層フィルム及び多層構造物の強度、靱性等の機械物性が低下するので好ましくない。
【0016】
本発明の効果を損なわない範囲で、前記ジカルボン酸構成単位中に、α,ω−ジカルボン酸やイソフタル酸以外のジカルボン酸が含まれていてもかまわない。具体的には、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が例示できるが、これらに限定されるものではない。また、前記芳香族ポリアミド樹脂は、分子量調節剤として使用される少量のモノアミンやモノカルボン酸に由来する単位を含んでいても良い。
【0017】
本発明において使用される芳香族ポリアミド樹脂は結晶性である。前記結晶性は、特定の最短半結晶化時間により表される。すなわち、脱偏光強度法による定温結晶化によって測定したときの、測定温度範囲(芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移点以上、融点未満)内での最短半結晶化時間が40〜2000秒、好ましくは40〜1000秒である。上記のような結晶性を有すると、熱水処理等において単層フィルム及び多層構造物の変形や収縮が抑制される。また最短半結晶化時間が40秒以上であると、延伸時の結晶化による白化や成形不良を抑制する事が出来る。前記最短半結晶化時間が2000秒を超えると、即ち、測定温度範囲内全域で半結晶化時間が2000秒を超える場合、二次加工性は向上するが、結晶性が過度に低下し、熱水処理時の芳香族ポリアミド樹脂層の軟化により単層フィルム及び多層構造物が変形する可能性があるため好ましくない。結晶性を過度に低下させると、単層フィルム及び多層構造物の強度、靱性等の機械物性が低下するので好ましくない。
【0018】
前記の脱偏光強度法とは、結晶化により樹脂を透過する光が複屈折を起こす現象を利用して樹脂の結晶化の進行度を測定する方法である。直交した1対の偏光板の間で非晶または溶融状態の樹脂を結晶化させると、結晶化の進行度に比例して偏光板を透過する光量が増加する。透過光量(透過光強度)は受光素子により測定される。また定温結晶化とは、非晶状態または溶融状態の樹脂を融点未満且つガラス転移点以上である任意の温度で等温的に結晶化させる条件である。半結晶化時間は、樹脂を非晶状態または溶融状態にした後、透過光強度が(I−I)/2(Iは非晶状態または溶融状態のときの透過光強度、Iは一定値に達したときの透過光強度を表す)に達するまでの時間、すなわち結晶化が半分進行する迄にかかる時間を示し、結晶化速度の指標となる値である。脱偏光強度法は、例えば、高分子化学 (Kobunshi Kagaku), Vol. 29, No. 323, pp. 139-143 (Mar., 1972)、または、高分子化学 (Kobunshi Kagaku), Vol. 29, No. 325, pp. 336-341 (May, 1972)に記載の方法に準じて実施することができる。
【0019】
本発明において使用される芳香族ポリアミド樹脂の融点は、180〜235℃が好ましく、より好ましくは180〜220℃である。ナイロンMXD6に比べて融点が低いので、より低温で押出可能となり、その結果、延伸倍率を高めることが出来る。更に融点が他の熱可塑性樹脂の融点に近いので、多層構造物成形時の樹脂劣化による臭気や着色の発生を低減する事が可能となる。また、芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移点は、85〜110℃が好ましく、85〜100℃がより好ましい。
【0020】
本発明の芳香族ポリアミド延伸フィルムの23℃、相対湿度60%条件下での酸素ガス透過係数は、好ましくは0.01〜0.15cc・mm/m・day・atmである。酸素ガス透過係数が0.15cc・mm/m・day・atmを超えると、実用上必要なバリア性を得るためにポリアミド樹脂層を厚くする必要があり、延伸不良を起こしやすくなる。
【0021】
芳香族ポリアミド延伸フィルムの柔軟性や耐衝撃性を改善するため、芳香族ポリアミド樹脂に必要に応じてナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−66等の脂肪族ポリアミドを添加してもかまわない。また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の熱可塑性樹脂を添加してもよく、必要に応じて、帯電防止剤、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等を加えてもかまわない。任意に用いられる樹脂等は、ドライブレンド、または、単軸あるいは二軸押出機を用いた溶融混練により芳香族ポリアミド樹脂に添加することができる。
【0022】
芳香族ポリアミド延伸フィルムは、通常のTダイ法、円筒ダイ法(インフレーション法)等の製膜法により得られた単層未延伸フィルムを、MD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸することにより得られる。
未延伸フィルムは、好ましくは250〜290℃、より好ましくは250〜270℃で芳香族ポリアミド樹脂を溶融押出して得るのがよい。押出温度が高いと、分解やゲル発生、着色、発泡が起こる。
未延伸フィルムの延伸方法としては、一軸延伸法、同時二軸延伸法あるいは逐次二軸延伸法を用いることが出来る。延伸は、好ましくは90〜160℃、より好ましくは110〜150℃で行う。延伸温度が低いと、延伸不良が起こりやすくなり、延伸温度が高いと、延伸不良や白化が起こりやすくなる。芳香族ポリアミド延伸フィルムの厚みは5〜40μmが好ましい。これより薄い延伸フィルムを製造しようとすると、延伸時に破断が起こったり、透明性が悪化したりする。これより厚い延伸フィルムを製造しようとすると、均一に延伸されずに厚みムラが発生することがある。
【0023】
ナイロンMXD6単独では、MD方向及び/又はTD方向に4倍以上の倍率で延伸すると、フィルムが破断したり、透明性・ガスバリア性が悪化する。本発明で使用する芳香族ポリアミドは、イソフタル酸が共重合されており、特定範囲の最短半結晶化時間を有するので、4倍を超える倍率で延伸しても破断、透明性・ガスバリア性の悪化がない。延伸倍率(線倍率)は、好ましくは4.1倍〜10倍、より好ましくは4.5〜10倍、更に好ましくは5.1〜9倍である。
【0024】
芳香族ポリアミド樹脂は、他の熱可塑性樹脂と組み合わせて多層構造体としてもよい。例えば、脂肪族ポリアミドと組み合わせると、耐衝撃性、柔軟性が改善された多層構造体を得ることが出来る。多層構造体は、以下に示すラミネート法や多層延伸法によって製造することができる。
【0025】
ラミネート法による多層構造体は、例えば、本発明の芳香族ポリアミド延伸フィルムに熱可塑性樹脂フィルムをラミネートすることにより製造される。ラミネートに際しては、接着剤を使用してもよい。また、芳香族ポリアミド延伸フィルムの両面にラミネートしてもよい。熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、これらの共重合体およびアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられ、これらは単独でも混合物でも使用できる。該熱可塑性樹脂フィルムは、単層でも多層でもよく、延伸フィルムでも未延伸フィルムでもよい。また、接着剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの各々の無水マレイン酸グラフト変性物、又はこれらを主体とする組成物等からなるものを使用することが出来る。
【0026】
多層延伸法による多層構造体は、芳香族ポリアミド樹脂、接着性樹脂、および熱可塑性樹脂を、それぞれ溶融押出して得た多層未延伸フィルムを、MD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸することにより製造される。多層未延伸フィルムは、前記単層延伸フィルムの製造と同様に、共押出Tダイ法、共押出円筒ダイ法(インフレーション法)等の製膜法により得ることができる。この多層未延伸フィルムを、前記単層延伸フィルムの製造と同様の延伸条件(延伸温度、延伸倍率等)で一軸延伸、同時二軸延伸あるいは逐次二軸延伸することにより本発明の芳香族ポリアミド延伸フィルムを含む多層構造体が得られる。
【0027】
多層延伸法に用いられる熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、これらの共重合体及びアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられ、これらは単独でも混合物でも使用できる。接着剤樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの各々の無水マレイン酸グラフト変性した物、又はこれらを主体とする組成物等を使用することが出来る。
【0028】
前記多層構造体において、芳香族ポリアミド延伸フィルムはガスバリア層として機能する。多層構造体は、本発明の芳香族ポリアミド延伸フィルムを少なくとも一層含んでいればよく、その層構成は特に限定されない。ガスバリア層(A)、接着剤層(B)、熱可塑性樹脂層(C)が、(A)/(B)/(C)の順で積層された3種3層フィルムや、(C)/(B)/(A)/(B)/(C)の順で積層された3種5層フィルムの構成が好ましいが、(A)/(B)/(A)/(B)/(C)のような構成も可能である。
【0029】
前記芳香族ポリアミド延伸フィルム及び多層構造体は、ボイル処理あるいはレトルト処理を行っても、ガスバリア性の低下が少なく、また回復も速いので、加工肉食品、ボイル物食品、レトルト食品等の食品用包装材料、その他各種の包装材料として使用できる。包装材料はヒートシール或いはクリップ等の金属による結紮などにより密封することができ、その方法に特に制限はない。
【実施例】
【0030】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。本実施例及び比較例において、以下に示す測定法及び評価法を採用した。
(1)くもり価
日本電色工業(株)製色差・濁度測定器(型式:COH−300A)を用いて、ASTM D1003に準じて測定した。
(2)酸素透過係数
モダンコントロールズ社製酸素透過率測定装置(型式:OX−TRAN 10/50A)を用い、23℃、相対湿度60%の測定条件で、ASTM D3985に準じて測定した。
(3)最短半結晶化時間
結晶化速度測定装置((株)コタキ製作所製、型式:MK701)を用い、以下の条件で脱偏光強度法により測定した。
試料溶融温度:260℃
試料溶融時間:3分
結晶化浴温度(測定温度):160℃
測定温度をポリアミド樹脂のガラス転移点以上、融点未満の範囲で変化させて半結晶化時間を測定し、最短半結晶化時間を求めた。
(4)融点およびガラス転移点
(株)島津製作所製流速示差走査熱量計DSC−50により、以下の条件にて測定した。
標準物質:α−アルミナ
試料量:10mg
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:25〜300℃
雰囲気:窒素ガス 30mL/分
【0031】
参考例1(ポリアミド1の製造)
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、アジピン酸とイソフタル酸(モル比で96:4)を投入し、十分窒素置換した。次いで、窒素気流下で170℃まで昇温してジカルボン酸成分を流動状態とした後、メタキシリレンジアミンを撹拌下に滴下した。この間、内温を連続的に245℃まで昇温させ、またメタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。
メタキシリレンジアミン滴下終了後(総滴下量:ジカルボン酸成分の0.994倍モル)、内温を連続的に255℃まで昇温し、15分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600mmHgまで10分間で連続的に減圧し、40分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。
反応終了後、反応系内圧を窒素ガスにて0.2MPaにし、ポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷し、切断し、ペレット形状のポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂の相対粘度は2.1、融点は234℃であった。
次にこのペレットをステンレス製の回転ドラム式の加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換した後、少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1Torr以下まで減圧し、更に系内温度を110分間で180℃まで昇温し、同温度に180分間保持して、固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出した。
得られた固相重合ポリアミド樹脂(ポリアミド1)の相対粘度は2.5、融点は234℃、ガラス転移点は91℃、最短半結晶化時間は、47秒であった。また、ジアミン構成単位の100%がメタキシリレンジアミン単位であり、ジカルボン酸構成単位の96モル%はアジピン酸単位、4モル%はイソフタル酸単位であり、ジアミン構成単位/ジカルボン酸構成単位は0.994(モル比)であった。
【0032】
参考例2(ポリアミド2の製造)
ジカルボン酸成分を、アジピン酸94モル%、イソフタル酸6モル%とした以外は、参考例1と同様に固相重合ポリアミド樹脂を製造した。
得られたポリアミド樹脂(ポリアミド2)の相対粘度は2.5、融点は232℃、ガラス転移点は92℃、最短半結晶化時間は62秒であった。また、ジアミン構成単位の100%がメタキシリレンジアミン単位であり、ジカルボン酸構成単位の94モル%はアジピン酸単位、6モル%はイソフタル酸単位であり、ジアミン構成単位/ジカルボン酸構成単位は0.994(モル比)であった。
【0033】
実施例1
ポリアミド1をシリンダー径が20mmの押出機(東洋精機製作所製 ラボプラストミル)から250〜260℃で押し出して、Tダイ−冷却ロール法により未延伸フィルムを作製した。異なる倍率で延伸した後のフィルム厚みがほぼ同じになるように、未延伸フィルムの厚みを変えて作製した。各未延伸フィルムを、(株)東洋製作所製の二軸延伸装置(テンター法)を用いて、延伸温度130℃でMD方向に、4.5、5又は6倍に延伸して単層延伸フィルムを得た。第1表に得られた延伸フィルムの透明性(くもり価)、酸素透過係数を示した。
【0034】
実施例2
ポリアミド1の代わりにポリアミド2を使用した以外は、実施例1と同様にして単層延伸フィルムの作製を行った。第2表に得られた延伸フィルムの透明性(くもり価)、酸素透過係数を示した。
【0035】
実施例3
シリンダー径が45mmの押出機からポリプロピレン(C層を構成、日本ポリプロ(株)製、商品名:ノバテックPP FL6CK、PPと略記することがある)、シリンダー径が40mmの押出機から接着性樹脂(B層を形成、三菱化学(株)製、商品名:モディックP513V、Tieと略記することがある)及びシリンダー径が30mmの押出機からポリアミド1(ガスバリアA層を構成)をそれぞれ、200〜210℃、190〜200℃、250〜260℃で押出し、層構成がC層/B層/A層の順になるようにフィードブロックを介して多層溶融状態を形成させ、Tダイ−冷却ロール法により多層未延伸フィルムを作製した。異なる倍率で延伸した後のフィルム厚みが同じになるように、多層未延伸フィルムの厚みを変えて作製した。各多層未延伸フィルムを、ロール式一軸延伸機により延伸温度150℃でMD方向に、5、6又は8倍一軸延伸し、更に熱固定を行って多層延伸フィルムを得た。第3表に作製した多層延伸フィルムの層構成、厚さ、透明性(くもり価)、酸素透過係数を示した。
【0036】
比較例1
ポリアミド1の代わりにナイロンMXD6(三菱ガス化学(株)製、商品名MXナイロン6007)を使用した以外は、実施例1と同様にして単層延伸フィルムを作製した。第1、2表に得られた延伸フィルムの透明性(くもり価)、酸素透過係数を示した。
【0037】
比較例2
ガスバリアA層用の樹脂として、ナイロンMXD6(三菱ガス化学(株)製、商品名MXナイロン6007)を用いた以外は実施例3と同様にして多層延伸フィルムを作製した。第3表に作製した多層延伸フィルムの層構成、厚さ、透明性(くもり価)、酸素透過係数を示した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の芳香族ポリアミド延伸フィルムはボイル処理あるいはレトルト処理によるガスバリア性の低下が少なく、また、その回復も早いので、単層または多層構造体を形成する少なくとも一層として、食品、医薬、工業薬品、化粧品類、インキ等の包装材料として好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド樹脂をMD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸して得られた芳香族ポリアミド延伸フィルムであり、前記芳香族ポリアミド樹脂がメタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン構成単位と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を80〜97モル%及びイソフタル酸単位を3〜20モル%を含むジカルボン酸構成単位を含み、かつ、脱偏光強度法による定温結晶化によって測定した場合、ガラス転移点以上〜融点未満の測定温度範囲内での前記芳香族ポリアミド樹脂の最短半結晶化時間が40〜2000秒の範囲である芳香族ポリアミド延伸フィルム。
【請求項2】
23℃、相対湿度60%条件下での酸素ガス透過係数が、0.01〜0.15cc・mm/m・day・atmである請求項1記載の芳香族ポリアミド延伸フィルム。
【請求項3】
前記芳香族ポリアミド樹脂の融点が180〜235℃である請求項1又は2記載の芳香族ポリアミド延伸フィルム。
【請求項4】
前記芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移点が85〜110℃である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミド延伸フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミド延伸フィルムが、多層構造体の少なくとも一層を形成する多層構造体であって、該多層構造体が前記芳香族ポリアミド延伸フィルムに少なくとも一層の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートして得られたものである多層構造体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミド延伸フィルムが、多層構造体の少なくとも一層を形成する多層構造体であって、該多層構造体が前記芳香族ポリアミド樹脂の層、接着性樹脂の層及び熱可塑性樹脂の層をそれぞれ少なくとも一層含む未延伸多層フィルムをMD方向及び/又はTD方向に4倍を超える倍率で延伸して得られたものである多層構造体。

【公開番号】特開2006−152288(P2006−152288A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322697(P2005−322697)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】