説明

荷電粒子ビーム装置

【課題】本発明は可変成形形電子ビーム描画装置に関して、第1の成形開口板3(又は絞り)上の電流密度分布を均一にするために、球面収差係数を減少させる手法とは異なる方法により球面収差起因の電流密度むらを解消することを目的としている。
【解決手段】
荷電粒子源、照明レンズ群、絞り、投影レンズ群、及び材料面の順にこれらが配置され、前記荷電粒子源から出射される荷電粒子ビームが前記照明レンズ群を介 して前記絞り上に照射され、更に投影レンズにより前記絞りの像が材料面上に結像される状態で絞りを通過したビームが材料上に照射される荷電粒子ビーム装置 において、前記照明レンズ群は、前記荷電粒子源の像が前記絞り上に結像しないように配置され、かつ前記照明レンズ群のうちの一つのレンズが、前記絞りの位置と光学的に共役関係にある位置に配置されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム装置に関し、更に詳しくは球面収差に起因する電流密度むらの低減を図った荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置は、電子ビーム等の荷電粒子ビームを用いた装置である。例えば、電子顕微鏡や電子ビーム描画装置等は代表的な荷電粒子ビーム装置である。
【0003】
図7は荷電粒子ビーム装置として、現在一般に用いられている可変成形電子ビーム描画装置の従来例(光学系)を示す図である。図において、電子ビーム1の行路は真空に保たれている。
【0004】
先ず図7に示すように、光源4から出射された電子ビーム1が照射レンズ2を介して第1の成形開口板3に照射される。光源4としては、一般的にはLaB6エミッタを備えた熱電子放出型電子銃が用いられる。光源4の像5は第1の成形開口板3の下に結ばれる。次いで、第1の成形開口板(又は絞りと称す)3の像が成形レンズ6に より第2の成形開口板7上に投影され、第1の成形開口板3の開口の像と第2の成形開口板7の開口との重なり(論理積)で決定される図形が、縮小レンズ8と 対物レンズ9を介して、レジスト(感光材料)を塗布した材料10に投影される。
【0005】
その結果、レジストが感光する。即ち、投影図形11が材料10に転写される。従って、投影図形11の形状と寸法及び位置を制御することで、材料10に所 望のパターンを描画することができる。パターン描画後、材料10を現像すると、レジストの型により、感光部或いは非感光部が溶解し、材料10上に所望のパ ターンが現れる。
【0006】
投影図形11の形状と寸法を制御するには、成形偏向器12を用いる。成形偏向器12により電子ビーム1を偏向し、第1の成形開口板3の開口の像を第2の 成形開口板7の開口に対して移動させる。投影図形11の位置を制御するには、対物偏向器13と材料ステージ14を併用する。対物偏向器13の偏向可能領域 (偏向フィールド)には制限があるため、先ず材料ステージ14によりステップの大きな位置決めを行い、そのうえで対物偏向器13よりステップの小さな位 置決めを行う。なお、成形偏向器12及び対物偏向器13としては、偏向速度を速くするため、静電偏向器が用いられる。
【0007】
投影図形11が常時材料10に投影されていては一筆書きの図形しか描画できないため、一般の図形の描画には、電子ビーム1の遮断制御(ブランキング)が 必要となる。図7の光学系では、ブランカー15によりこの遮断制御を行っている。より詳細には、先ずブランカー15を働かせ、電子ビーム1をブランキン グ開口板16で遮断してから、成形偏向器12と対物偏向器13を働かせ、投影図形11の形状と寸法及び位置を決定した後に、ブランカー15による電子ビー ム1の遮断を解除し、投影図形11を材料10上に投影する。そして、所定の時間だけ露光を行うと、再び電子ビーム1を遮断する。この所定の時間分の露光 は、通常「ショット」と呼ばれる。
【0008】
材料10の現像後に得られるレジストパターンの寸法精度を維持し、更には向上させるには、第1の成形開口板3上の電流密度分布をできるだけ均一にすることが重要である。第1の成形開口板3上の電流密度分布は、材料10上における電流密度分布に直接反映されるから、第1の成形開口板3上の電流密度にむらが あると、それは投影図形11内の電流密度のむら、即ち露光量の部分的な過不足となり、レジストパターンの寸法誤差として表れる。
第1の成形開口板3上の電流密度均一性を向上させるには、図7に示すように、像5の位置を第1の成形開口板3の位置から離せばよい。理想的には、像5の 結像位置は無限遠方とするのがよい。そのためには、図8及び図9に示すように、光源4を、或いは別に設けられた第1のレンズ17により結ばれる像4’を、照射レ ンズ2の物側焦点面に位置させる。この時、第1の成形開口板3に入射する電子ビーム1は平行ビームとなる。
【0009】
このように像5(図8及び図9には図示せず)の結像位置を無限遠方とすると、若し光源4及び像5の電流密度にむらがあっても、そのむらは第1の成形開口 板3上の電流密度分布には反映されなくなる。この種の照明は一般にケーラー照明と呼ばれる。ただし、ケーラー照明に基づく光学系には、通常被照射面(図8 及び図9においては第1の成形開口板3)の位置と光学的に共役の関係にある位置に視野絞りを挿入するが、図8及び図9の光学系には、挿入していない。ここで光学的に共役とは2つの面が互いに物面と像面の関係にあることをいう。また、第1の成形開口板3上の電流密度均一性が十分良い限り、像5の結像位置は必ずしも無限遠方とする必要はない。
【0010】
しかしながら、このように像5を第1の成形開口板3の位置から離すだけでは、第1の成形開口板3上における電流密度均一性が十分に高くなるとは限らな い。これは図8の照射レンズ2或いは図9の第1のレンズ17に関する球面収差のためである。球面収差は光線の開き角の3乗に比例して大きくなる収差である。 必要なビーム電流が大きいと、必要な開き角が大きくなり、その結果、球面収差が大きくなる。
電流密度均一性が球面収差により悪化するのは、球面収差の非線形性のため、光線間の間隔が変化することによる。電流密度は、光線間の間隔が小さくなると 高くなり、同間隔が大きくなると低くなる。これを図10を用いて説明すると、次のようになる。ただし、簡単のために、球面収差以外には電流密度むらの原因 はないものとする。
【0011】
光源4において、即ち物面において中心軸(Z軸)に対する傾きu0'がΔu0' の整数倍となっている光線群を図10に示す。このような光線群は、球面収差のない限り図10に示すように、照射レンズ2の通過前後に関わらず、中心軸の周りに同心円状に等間隔を隔てて並ぶ(実線)。そして、第1の成形開口板3においても、光線間の間隔は等間隔となる。しかしながら、実際には球面収差が存在 するから、同光線群は球面収差の分だけ軌道を変える(破線)。
【0012】
そして、球面収差の非線形性のために、中心軸から見て外側にある光線ほど、非線形的に大きな軌道の変化を示す。その結果、図10から分かるように、第1の成形開口板3における光線間の間隔は等間隔ではなくなり、中心軸からの距離と共に狭くなる。即ち、第1の成形開口板3における電流密度は、中心軸からの距離と共に高くなる。
【0013】
光源4として電界放出型電子銃或いはショットキー型電子銃(熱電界放出型電子銃とも呼ばれる)を用いると、電子を大きく発散する性質から、開き角u0’が大きくなり、球面収差が大きくなる。これらの電子銃は、高い輝度が得られる電子銃として、電子顕微鏡やスポット電子ビーム描画装置に用いられる有用な電子銃である。
【0014】
これらの電子銃を可変成形電子ビーム描画装置に適用すれば、電流密度の高いビームが得られる。材料10上における電流密度が高くなればショット時間が短縮され、描画スループットが向上するため、同電流密度の向上は、可変成形電子ビーム描画装置の開発における重要な課題である。現時点ではこれらの電子銃を 用いた可変成形電子ビーム描画装置は実用化されていないが、球面収差起因の電流密度むらが低減されれば、その実用化を促進することができる。
【0015】
球面収差を低減する手法は、これまでにいくつか知られている。これらの手法は、主に電子顕微鏡やスポット電子ビーム描画装置においてスポットビームの径を小さくする、つまり像面における球面収差を小さくすることを目的としているが、同手法を可変成形電子ビーム描画装置の照明光学系に適用し、その球面収差 係数を小さくすれば、球面収差起因の電流密度むらが低減される。
【0016】
像面における球面収差、及び物面における球面収差は、球面収差係数を用いて、それぞれ
dUi=mCcu0’3 (1)
dU0=dUi/m=Ccu0’3 (2)
と表される。ここで、mは倍率、Ccは物側球面収差係数、u0’は物面における光線の傾きである。物面における球面収差とは、像面における球面収差の、物面への写像である。(2)式より、球面収差係数Ccは、u0’を1とした場合の、物面における球面収差と捉えることができる。従って、球面収差係数Ccは、倍率mによらずレンズの性能を示す指標として有用である。
(1)式及び(2)式におけるu0’の最大値即ち開き角は、次の関係から決定される。
0’max=(I/ΠJΩ)1/2 (3)
ここで、Iは必要なビーム電流、JΩは物面における角電流密度である。ビーム電流Iは、材料10(図7参照)上における電流密度と、投影図形11の外接円の面積との積とすればよい。(3)式から分かるように、u0’maxは、照射レンズ2或いは第1のレンズ17(図9参照)の倍率や収差係数には依存しない。つまり、I及びJΩが一定である限り、u0’maxは一定であるから球面収差を小さくするには、球面収差係数Ccを小さくする必要がある。
【0017】
球面収差係数Ccをできるだけ小さくするには、初段レンズ、即ち図8の照射レンズ2或いは図9の第1のレンズ17をできるだけ光源4の近くに置き、早い段階で電子ビーム1を集束するとよい。これは、図11に示すように、照射レンズ2(或いは第1のレンズ17)のZ座標をz1からz2に変え、同レンズを光源4に近付けることにより、レンズ主面におけるh(z)軌道の高さ(Z軸からの距離)がh(z1)からh(z2)に減少するからである。ここで、h(z)軌道とは、光源4の位置する面を物面、光軸をZ軸とすると、物面Z=Z0において、h(z0)=0、かつh’(z0)=dh(z0)/dz=1(つまりu0’=1)となる近軸軌道である。
【0018】
レンズ場の非線形成分はZ軸からの距離と共に大きくなるから、h(z1)又はh(z2)の値が小さいことは、光線がレンズ場の非線形成分の小さな領域を通過することに相当する。球面収差係数はレンズ場の非線形成分に由来しているため、h(z1)或いはh(z2)の値を小さくすれば球面収差係数Ccも小さくなる。
【0019】
初段レンズをできるだけ光源4に近づけるには、簡単には初段レンズを静電レンズとすればよい。静電レンズはコイルを必要とせず、電極のみで構成できるため、真空への特別な配慮なしに容易に真空中に設置することができる。これとは別に、初段レンズを磁界レンズとする方法も知られている(例えば特許文献1参照)。その場合、レンズコイルは大気中に置かれ、非磁性材料を介して、レンズ磁場が光源近くに局所的に印加される。また、磁界レンズとして永久磁石を真空 中に設ける手法も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第4146103号公報(段落0022〜0023、図1)
【特許文献2】US2007/0057617−A1号公報(段落0019〜0020、図1)
【特許文献3】特開2010−21462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前述した手法により球面収差係数を小さくすることは原理的には可能であるが、実際にはその改善の程度は技術的困難による制限を受ける。先ず、初段レンズを静電レンズとした場合は、それを引出電極(電界放射型電子銃或いはショットキー型電子銃においてエミッタの直後に設けられる)より光源4側に寄せること はできない。初段レンズを磁界レンズとした場合は、高真空及び高電圧に配慮しつつ局所的な磁界を光源4付近に印加することが難しい。また、永久磁石を真空 中に設ける場合は、永久磁石からの脱ガスが問題となる。
【0022】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は球面収差係数を減少させることとは別の手法により球面収差起因の電流密度むらを解消することである。そして、これにより、可変成形電子ビーム描画装置において、電界放出型電子銃又はショットキー型電子銃を用いつつ、電流密度均一性の高い ビームを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
【0024】
(1)請求項1記載の発明は、荷電粒子源、照明レンズ群、絞り、投影レンズ群、及び材料面の順にこれらが配置され、前記荷電粒子源から出射される荷電粒 子ビームが前記照明レンズ群を介して前記絞り上に照射され、更に投影レンズにより前記絞りの像が材料面上に結像される状態で絞りを通過したビームが材料上 に照射される荷電粒子ビーム装置において、前記照明レンズ群は、前記荷電粒子源の像が前記絞り上に結像しないように配置され、かつ前記照明レンズ群のうち の一つのレンズが、前記絞りの位置と光学的に共役関係にある位置に配置されることを特徴とする。
【0025】
(2)請求項2記載の発明は、前記絞りの位置と光学的に共役関係にある位置に配置されたレンズは、前記照明レンズ群の前記荷電粒子源に最も近いレンズであることを特徴とする。
【0026】
(3)請求項3記載の発明は、荷電粒子源、照明レンズ群、絞り、投影レンズ群及び材料面の順にこれらが配置され、前記荷電粒子源から出射される荷電粒子ビームが前記照明レンズ群を介して前記絞り上に照射され、更に投影レンズ群により前記絞りの像が材料面上に結像される状態で絞りを通過したビームが材料上に照射される荷電粒子ビーム装置において、前記照明レンズ群は、前記荷電粒子源の像が前記絞り上に結像しないように配置され、かつ前記照明レンズ群の位置及び強度は、前記荷電粒子源の位置する面を物面、光軸をZ軸とし、該物面の位置z=z0で、前記物面において前記光軸と交わる点を起点とし、
h(z0)=0かつh’(z0)=dh(z0)/dz=1
となる近軸軌道h(z)からのずれを表わす球面収差軌道をs(z)とした時、
前記絞りの位置z=zaで、
s(za)=0
を満足するように設定されることを特徴とする。
【0027】
(4)請求項4記載の発明は、前記荷電粒子源の像が、前記照明レンズ群の絞り側に最も近いレンズの物側焦点面の位置に結像されることを特徴とする。
【0028】
(5)請求項5記載の発明は、前記照明レンズ群の前記荷電粒子源に最も近いレンズ群は、静電レンズであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の荷電粒子ビーム描画装置用の照明光学系は、第1の成形開口板の位置における球面収差軌道の高さ、即ち、Z軸からの隔たりを無くすことで、球面収差起因の電流密度むらを解消することができる。
【0030】
また、本発明の荷電粒子ビームの裾部のビームを遮蔽する制限絞りを設けた荷電粒子ビーム描画装置用の照明光学系は、ビームブランキング時の漏れビームを抑制することができ、かつ球面収差起因の電流密度むらを解消することができる。
【0031】
また、本発明の散乱電子を遮蔽する制限絞りを設けた荷電粒子ビーム描画装置用の照明光学系は、光源の電極からの散乱電子に由来する収差を除去することができ、かつ球面収差起因の電流密度むらを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1となるの照明光学系の構成例を示す図である。
【図2】図1の構成例におけるh(z)及びs(z)軌道を示す図である。
【図3】図1の構成例におけるu(z,u0’)の軌道を示す図である。
【図4】本発明の実施例2となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図5】本発明の実施例3となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図6】図5の構成例におけるh(z)及びs(z)軌道を示す図である。
【図7】可変成形電子ビーム描画装置の従来例を示す図である。
【図8】第1の成形開口板3を照明する光学系の構成例を示す図である。
【図9】第1の成形開口板3を照明する光学系の構成例を示す図である。
【図10】光線間の間隔が変化する様子を示す図である。
【図11】レンズ主面におけるh(z)軌道の高さh(z)及びh(z)を示す図である。
【図12】ビームブランキングの様子を示す図である。
【図13】ブランキング開口板16における光源の像50の電流密度分布を示す図である。
【図14】本発明の実施例5となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図15】光源の詳細構成例を示す図である。
【図16】図14の構成例におけるh(z)、k(z)及びs(z)軌道を示す図である。
【図17】図14の構成例におけるh(z)、k(z)、及び|h(z)/k(z)|をzに対して表したグラフである。
【図18】第1の成形開口3板付近の構成を示す図である。
【図19】漏れビーム(光源裾に由来するビーム)を遮蔽する様子を示す図である。
【図20】本発明の実施例6となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図21】図20の構成例におけるh(z)、k(z)及びs(z)軌道を示す図である。
【図22】引出電極に由来する散乱電子の軌道と虚光源24を示す図である。
【図23】本発明の実施例8となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図24】散乱電子の遮蔽原理を説明する図である。
【図25】射出瞳の位置を説明する図である。
【図26】散乱電子が遮蔽されない様子を説明する図である。
【図27】(20)式の左辺S1と同式の右辺S2を示すグラフである。
【図28】散乱電子を遮蔽する様子を示す図である。
【図29】本発明の実施例9となる照明光学系の構成例を示す図である。
【図30】本発明の実施例10における散乱電子制限開口板30の開口径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の構成は、照明光学系、即ち光源4から光源の像5までの構成を除き図7の構成と同じである。従って、図7と同一のものは、同一の符号を付して示す。
[実施例1]
本発明で提案する荷電粒子ビーム装置用の照明光学系、つまり光源4から第1の成形開口板3までを図1に示す。図1に示すように、同照明光学系は、光源 4、第1のレンズ17、第2のレンズ18、照射レンズ2とからなる照明レンズ群、第1の成形開口板3及びブランカー15から構成される。尚、光源4を構成する電子銃は、ショットキー型電子銃である。
【0034】
なお、第1のレンズ17は静電レンズ、第2のレンズ18及び第3のレンズ2は磁界レンズである。第1のレンズ17を静電レンズとするのは、前述したように、真空中への設置が容易なためである。但し、第1のレンズ17を磁界レンズとしてもよい。
このように構成された装置の動作を説明するために、以下に第1の成形開口板3における電流密度分布が均一となる条件、即ち光線間の間隔が均一となる条件を導く。但し、簡単のために球面収差以外には、電流密度むらの原因は存在しないものとする。
【0035】
先ず、第1の成形開口板3における光線の軌道を数式で表す。光源における光線の傾きu0'を用いれば、上述の近軸軌道h(z)即ち物面において光軸と交わる点を起点とし、Z軸に対する傾きが1(h’(z0)=1)である近軸軌道と、上述の球面収差軌道s(z)即ち近軸軌道h(z)からのずれを表わす収差軌道とを合成した軌道は、
u(z,u0’)=u0’h(z)+u0’3s(z) (4)
と表せる。第1の成形開口板3の位置z=zaにおいては、(4)式は、
u(za,u0’)=u0'h(za)+u0’3s(za) (5)
となる。
【0036】
図1の光学系におけるh(z)軌道及びs(z)軌道を図2に、(4)式のu(z,u0')軌道を図3に示す。像面のZ座標(像4’或いは像5のZ座標)をzi、倍率をmとすれば、s(zi)=mCcである。
【0037】
次に、z=zaにおける光線間の間隔
Δu(za,u0’)=u(za,u0’+Δu0’)−u(za,u0’
のu0’への依存性を調べる。そのため、u(za,u0’)の偏導関数
【0038】
【数1】

【0039】
を導く。これを用いれば、
【0040】
【数2】

【0041】
と表せる。
【0042】
Δu(za,u0’)がu0'に依存することは、z=zaにおいて光線間の間隔が等間隔ではなく、電流密度むらがあることに相当する。逆に言えば、z=zaにおいて電流密度むらを小さくするには、Δu(za,u0’)がu0’に依存しないようにすればよい。そのためには、(6)式から分かるように、s(za)を小さくすればよい。
【0043】
そこで、s(za)=0となるように球面収差軌道s(z)を決定すれば、(5)式は
u(za,u0’)=u0’h(za) (7)
となり、(6)式は
Δu(za,u0’)=h(za)Δu0’ (8)
となる。この時、Δu(za,u0’)はu0'に依存しないから、z=zaにおいて電流密度は均一である。即ち、球面収差起因の電流密度むらは第1の成形開口板3上には現れない。そして、第1の成形開口板3と光学的に共役の関係にある面、即ち第2の成形開口板7及び材料10(図7参照)上にも、球面収差
起因の電流密度むらは現れない。
【0044】
像面z=zi(像4’或いは像5)においてs(zi)=0となることはない、即ち、Cc=s(zi)/m=0となることはないが、第1の成形開口板3の位置z=zaにおいて、s(za)=0となる条件は存在する。s(za)=0とするには、第1のレンズの主面と、第1の成形開口板3とを互いに光学的に共役な位置に配置するべく、各レンズの位置と強度を決定するとよい。図1の光学系はそのように構成されている。
【0045】
このような構成のもとで、第1のレンズ17は十分に薄く、同レンズに関する球面収差は同レンズの主面で発生すると仮定し、更に第2のレンズ18及び第 3のレンズ2により生じる球面収差は十分に小さいと仮定すれば、図2から分かるように、球面収差軌道s(z)は第1のレンズの位置から大きくなり、その 後、第2のレンズ18及び第3のレンズ2により集束され、z=zaにおいてs(za)=0となる。
【0046】
一方、近軸軌道h(z)は、前記構成において、図2から分かるように、第2のレンズ18と第3のレンズ2との間においてZ軸と交わる。そのZ座標は、図1における像4’の位置に相当する。
【0047】
実際には、第1のレンズ17には厚さがあり、かつ第2のレンズ18及び第3のレンズ2により生じる球面収差は零でないため、前記構成のもとでは、厳密にはs(za)=0とはならない。厳密にs(za)=0とするためには、数値計算により球面収差軌道s(z)を求め、s(za)=0となる条件を探せばよい。即ち、第1のレンズ17、第2のレンズ18及び照射レンズ2の位置及び強度の最適条件を見つけるべく、各レンズの電場或いは磁場分布を反映させた近軸軌道方程式及び収差軌道方程式を、収束条件をs(za)=0として繰り返し解けばよい。
【0048】
但し、その際、s(za)=0のほか、h(zi)=0及びh(za)=ra/u0’maxも収束条件とするとよい。ここで、ziは像5のZ座標、raは第1の成形開口板3の開口を照明するのに必要な照射領域の半径、即ち、投影図形11(図7参照)の外接円の第1の成形開口板3への写像(後述の図18に示す円25に相当する)の半径であり、h(zi)=0であることは、像5がz=ziの位置にあることに相当し、h(za)=ra/u0’maxであることは、必要なビーム電流が第1の成形開口板3を通過することに相当する。これらの条件は、図1の照明光学系と、第1の成形開口板3以降の光学系とを整合させるために必要である。
【0049】
これら3つの収束条件が満たされる解を得るには、前記計算において、第1のレンズ17、第2のレンズ18及び照射レンズ2の位置及び強度という合計6つの変数のうち、3つを固定とし、残りの3つを可変とする。例えば、第1のレンズ17の位置と、照射レンズ2の位置及び強度を固定とし、第1のレンズ17(静電レンズ)への印加電圧と第2のレンズ18の位置及び強度とを可変とすればよい。
【0050】
このように本発明によれば、球面収差軌道s(z)が、第1成形開口板上においてs(za)=0となるので、球面収差起因の電流密度むらが解消される。
[実施例2]
実施例2は基本的には実施例1と構成を同じくする。実施例2の動作は、以下の通りである。
【0051】
実施例2では、実施例1と同様に、球面収差軌道s(z)が第1の成形開口板3の位置z=zaにおいてs(za)=0となるようにするが、図4に示すように、像4’の位置を第3のレンズ2の物側焦点面位置に一致させる。この時、第1の成形開口板3に入射するビームは平行ビームとなり、h’(za)=0となる。
【0052】
このようにすれば、光源の像5の結像位置が無限遠方となるため、第1の成形開口板3上における電流密度分布への光源4及び光源の像5の電流密度むらの影響が小さくなる。前記計算の際には、前記3つの収束条件s(za)=0、h(zi)=0及びh(za)=ra/u0’maxのうち、h(zi)=0をh’(za)=0に置き換えればよい。
[実施例3]
実施例3は基本的に実施例1及び実施例2と構成を同じくするが、実施例3では、図5に示すように第2のレンズ18を省いたものである。その動作も基本的に実施例1、実施例2の構成と同じである。即ち、図6に示すように、球面収差軌道s(z)が第1の成形開口板3の位置z=zaにおいて、s(za)=0となるようにする。但し、第2のレンズ18を省いた分だけ、その効果を補うべく、第1のレンズ17の強度を強くする必要がある。
[実施例4]
実施例4は基本的には実施例1から実施例3と構成を同じくするが、実施例4では、電子ビームの代わりにイオンビームを用いる。その動作は実施例1から実施例3の動作と同じである。
[実施例5]
本実施例で提案する光学系は実施例1で提案された荷電粒子ビーム装置用の照明光学系の構成にビームブランキング時の漏れビームを抑制する絞りを設けたものである。図7にその照明光学系の構成を示す。
【0053】
図7に示すような可変成形電子ビーム描画装置で図形を描画する場合、先ず、ブランカー15を働かせ、電子ビーム1を遮断(ビームブランキング)してから、成形偏向器12と材料ステージ14及び対物偏向器13とを働かせ、投影図形11の形状、寸法、及び位置を決定した後に、ブランカー15による電子ビーム1の遮断を解除し、投影図形11を材料10上に投影し、所定の時間だけ露光を行う一連の動作を繰り返す。
【0054】
このとき、前記ビームブランキング時には、図12に示すように、光源の像50がブランキング開口板16に対して移動し、電子ビーム1が該開口板16に遮られる。
【0055】
この際、電子ビーム1が完全に遮断されなければ、材料10上に電子ビーム1が照射され、レジストへの露光量が過多と成り、その結果、レジストパターンの線幅が増加する。または、その露光量が非常に多くなれば、漏れビームの痕がレジストに残る。
【0056】
この漏れビームは、光源の像50の裾に由来する。光源の像50の電流密度分布は、クロスオーバ、即ち、光源4の電流密度分布(例えばガウス分布)を反映しており、一般に、図13(a)において実線で示すように、その中央部(光軸上)において電流密度が最も高く、光軸からの半径が大きくなるにつれ徐々に低下する。
【0057】
前記ビームブランキング時には、図13(b)に示すように、ブランキング開口板16の開口部から光源の像50が移動し、該開口板16によって光源の像50が遮断されるが、このとき、移動距離が十分でないと、光源の像50の裾が該開口板50のブランキング開口部16にかぶさり、該開口部を通過した電流成分が漏れビームとなる。
【0058】
図14は、本発明の実施例5となる漏れビームを抑制する荷電粒子ビーム装置用の照明光学系の構成を示す一概略図である。図14中、図1にて使用した記号と同一記号は同一構成要素を示す。
【0059】
図14において、実施例1の荷電粒子ビーム描画装置の照射光学系と異なるのは、ビームブランキング時の漏れビームを抑制する漏れビーム制限開口板19をブランカー15より前段(光源4側)、かつ、光源の像4´より前段(光源4側)に備えた点である。
【0060】
ここで、漏れビーム制限開口板19の挿入位置をブランカー15より前段とする理由は、ビームブランキングに伴い第1の成形開口いた3上の電流密度分布が変わるのを防ぐためである。もし、後段に配置すると、ビームブランキングに伴い漏れビーム制限開口板19の開口に対する電子ビーム1の位置が変わり、該制限開口板の開口を通過する電子ビーム1の電流密度分布が変化することで、第1の成形開口板3上の電流密度分布が変わることがある。第1の成形開口板3上の電流密度変化は描画誤差の原因となる(特許文献3の段落0010から0012を参照)。
【0061】
そして、該制限開口板19の挿入位置を光源の像4'より前段とする理由は、光源の像が結ばれる前、つまりビーム径が小さくなる前に電子ビーム1の電流を削減することで、ベルシェ効果(特許文献3の段落0023を参照)による電子のエネルギー分散(速度分散)の増大を抑制するためである。
【0062】
なお、前記制限開口板19の開口は円形である。また、前記ブランカー15の偏向支点100の高さ位置は第1の成形開口板3の高さ位置と一致させる。この目的は、ビームブランキングに伴い第1の成形開口板上の電流密度分布が変化するのを防ぐためである。
【0063】
また、前記光源4を構成する電子銃はショットキー型(熱電界放出型)で図15に示すようにカソード電極(以降、エミッタ電極と称する)20、引出電極23、アノード電極22から成る。エミッタ電極20はZrO/Wエミッタで、ZrO(酸化ジルコニウム)によりW(タングステン)の見かけの仕事関数を低くすることで高輝度が得られるようにしたエミッタである。
【0064】
このように構成された荷電粒子ビーム描画装置用の照射光学系において、漏れビーム制限開口板19の挿入位置と開口径を如何に決定すべきかについて、以下に説明する。
【0065】
先ず、荷電粒子ビーム装置用の照明光学系の光源4から光源の像5までの近軸軌道h(z)、近軸軌道k(z)及び球面収差軌道s(z)を図16に示す。前記近軸軌道h(z)は、既出の通り、h(z)=0かつdh(z)/dz=1となる近軸軌道、前記k(z)軌道は、k(z)=1かつk(z)=0となる近軸軌道である。前記s(z)軌道は、既出の通り、h(z)軌道からのずれに相当する収差軌道である。なお、zは光源4のZ座標、zは第1の成形開口板3のZ座標(実施例1から実施例4においてはz)である。
【0066】
実際には、引出電極23の前後及びアノード電極22の前後においては、近軸軌道h(z)、近軸軌道k(z)及び球面収差軌道s(z)軌道は、厳密には直線的とはならないが、図16では、第1のレンズ17の作用を分かりやすくするため、同領域におけるこれらの軌道が直線的に表されている。そして、光源4は仮想光源である。
【0067】
本照明光学系において、光源4の裾の制限が強くなる条件、即ち、クロスオーバーの見かけの最大径(有効径)a0maxが小さくなる条件は、特許文献3の記載の光学系における条件と同じで、漏れビーム制限開口板19の挿入位置をzとすれば、|h(z)/k(z)|が小さくなることである(特許文献3の段落0070を参照。なお、近軸軌道k(z)は、同特許文献3においてはs(z)と表記されている。)。これは、同条件を導くための数式、即ち特許文献3記載の(1)式(段落0046を参照)、(7)式(段落0055を参照)、(9)式(段落0065を参照)、(10)式(段落0067を参照)に、h(z)及びk(z)軌道の形に関する制約がないことによる。そこで、以下で、|h(z)/k(z))|のZへの依存性を見る。
【0068】
本照明光学系に対して具体的な寸法を与えて求めた近軸軌道h(z)、近軸軌道k(z)、及び|h(z)/k(z)|を、zを横軸にとって描いたグラフを図17に示す。図17中のZの範囲は、図14における光源4から第1の成形開口板3までの範囲で、光源4、第1のレンズ17、第2のレンズ18、光源の像4´、照射レンズ2、第1の成形開口板3、及び光源の像5の位置を表すZ座標は、それぞれ、0.0、5.0、35.5、69.0(=zi1)、140.0、169.5(=z)、192.0(単位:mm)である。ただし、第1のレンズ17及び照射レンズ2に由来する球面収差は無視し、第1のレンズ17を第1の成形開口板3と光学的に共役な位置に配置した。
【0069】
図17において、|h(z)/k(z)|は、第1のレンズ17及び第1の成形開口板3付近にて大きくなり、光源4及び光源の像4´の付近にて小さくなる。これは、第1の成形開口板3の位置と光学的に共役となる位置、即ち、第2のレンズ18及び照射レンズ2に由来する球面収差を無視すれば第1のレンズ17の位置にて|k(zl1)|=0、第1の成形開口板3の位置にて|k(z)|=0、光源4の位置にてh(z)=0、光源の像4´の位置にてh(zil)=0 となることによる。ここで、zl1は第1のレンズ17のZ座標、zi1は光源の像4´のZ座標である。
つまり、|h(z)/k(z)|の大きさから、本光学系において、漏れビーム制限開口板19の挿入位置の候補となりうるのは、光源4或るいは光源の像4´の付近となる。
このことの一般性を確認するため、以下で、|h(z)/k(z)|の導関数を求め、その符号を判定する。そのため、光源4から第1の成形開口板3までの区間を3つの区間に分け、第1の区間を、光源4からk(z)軌道がZ軸と交わる点までの区間、即ち光源4から第1のレンズ17までの区間、第2の区間を、k(z)軌道がZ軸と交わる点から光源の像4´までの区間、そして第3の区間を、光源の像4´から第1の成形開口板3までの区間とする。ただし、便宜上、h(z)=0または、k(z)=0となる点は、これらの区間には含めない。
図17に示すように、第1の区間にてh(z)>0かつk(z)>0、第2の区間にてh(z)>0かつk(z)<0、第3の区間にてh(z)<0かつk(z)<0である。従って、
【0070】
【数3】

【0071】
とおくと、(9)式は、第1及び第3の区間では
【0072】
【数4】

【0073】
となり、第2の区間では
【0074】
【数5】

【0075】
となる。
そして、(10)式と(11)式の両辺をzで微分すれば、r(z)の導関数
【0076】
【数6】

【0077】
【数7】

【0078】

が得られる。ここで、φ(z)は軸上電位を表す。
(12)、(13)式において、
【0079】
【数8】

【0080】


は、近軸軌道h(z)及びk(z)が互いに一次独立であることから、近軸不変量(paraxial invariant)である。即ち、zに依存しない。(14)式を用いると
、(12)式と(13)式は、それぞれ、
【0081】
【数9】

【0082】
【数10】

【0083】

となる。
【0084】
(15)と(16)式より、r(z)はzの増加と共に、第1の区間及び第3の区間では単調に増加し、第2の区間では単調に減少する。この結果は、図17のグラフが示す傾向と一致する。従って、r(z)=|h(z)/k(z)|を小さくするには、漏れビーム制限開口板19の挿入位置Zを、第1及び第3の区間ではZの負の側に寄せ、第2の区間ではZの正の側に寄せるとよい。即ち、漏れビーム制限開口板19は、第1の区間では光源4に対して近づけ、第2及び第3の区間では光源の像4´に対して近づけるのが良い。しかし、第3の区間は、ベルシェ効果及びブランカー15の電極長の観点より、漏れビーム制限開口板19を挿入する区間の候補から外れる。なお、ブランカー15の電極長については後述する。
そこで、残る2つの区間を比較すると、第1の区間よりも第2の区間において、漏れビーム制限開口板19を挿入するための空間的余裕が大きいうえに、r(z)=|h(z)/k(z)|が小さくなるZの範囲も広いことから、漏れビーム制限開口板19を挿入する区間として適当なのは、第2の区間となる。第1の区間よりも第2の区間において、|h(z)/k(z)|が小さくなるZの範囲が広いのは、第2の区間自体が第1の区間自体より大きいことに加え、図17に示すように、第1の区間よりも第2の区間において|k(z)|が大きくなることによる。つまり、|h(z)|を同じとすれば、|k(z)|が大きいほうが、r(z)=|h(z)/k(z)|は小さくなる。
【0085】
以上の検討結果を一旦ここでまとめると、本光学系において、光源の裾の制限を強めるには、漏れビーム制限開口板19の挿入位置を、光源の像4´より前段としたうえで、同挿入位置を光源の像4´に対し近づければ、即ち、光源の像4´から漏れビーム制限開口板19までの距離を短くすればよい。ただし、前記距離を決定し、更に漏れビーム制限開口板19の挿入位置を決定するには、
1)漏れビーム制限開口板19によるビーム電流の制限
2)光源の像4´の位置
3)光源の像5の位置や第1の成形開口板3上の電流密度などへの影響
を考慮する必要がある。
【0086】
先ず、1)制限開口板によるビーム電流の制限を考慮する必要があるのは、漏れビーム制限開口板19が光源の裾の制限とビーム電流の制限の両方を担っていることによる。漏れビーム制限開口板19によるビーム電流の制限は、前記距離が短くなるほど、即ち、光源の裾の制限が強くなるほど弱くなる。これは、a1minが|h(z)|とともにが小さくなることの結果として、aがa1minに対して大きくなることによる。ここで、aは漏れビーム制限開口板19の開口半径、a1minは、特許文献3記載の(2)式(段落0047を参照)の表すaの最小値である。
及びa1minの数値例を二つ、a0max及びD3minの数値例と共に、以下に示す。ここで、D3minは、特許文献3記載の(13´)式に示すブランキング開口板16の位置zにおけるブランキング偏向距離|d(z)V|の最小値である。
それらの計算には、図17に示す近軸軌道h(z)及び近軸軌道k(z)を用いる。ただし、図18に示す円25を通過する電流を1μA、エミッション電流、即ち、漏れビーム制限開口板19より前段における電子ビーム1の電流を100μAとする。
【0087】
ここで、前記円25は、開口21の外接円である。そして、開口21は第2の成形開口板7の開口の第1の成形開口板3への写像7´と、第1の成形開口板3の開口3´との重なりにより生じる開口(論理積)である。
一つ目の数値例として、漏れビーム制限開口板19の位置を、光源の像4´の位置zi1=69.0mm に対し20mm離し、z=49.0mmとする場合を考える。この場合、|h(z)/k(z)|=0.65、|k(z)|=6.1となる。
【0088】
このとき、a=30μm、a=30μm、h(z)=0、|k(z)/k(z)|=1/3とすると、特許文献3記載の(7)式(段落0055を参照)より、a=30μm、a1min=20μmとなる。ここで、aは円25の半径、aはブランキング開口板16の開口半径である。これらの数値を特許文献3の記載の(9)式(段落0065を参照)、特許文献3の記載の(13´)式(段落0087を参照)に代入すると、a0max=8.1μm、D3min=177μmとなる。
【0089】
そして、漏れビーム制限開口板19を通過するビーム電流は、面積比(a1min/aから単純に計算すると、2.3μAとなる。即ち、漏れビーム制限開口板19によりエミッション電流の98%が遮蔽される。この例においては、光源の裾の制限とビーム電流の制限は十分と言える。
【0090】
2つ目の数値例として、漏れビーム制限開口板19の位置を、光源の像4´の位置zil=69.0mmに対し非常に近く、z=67.8mmとする場合を考える。この場合、a=11μm、a1min=1.2μm、a0max=2.0μm、D3min=67μmとなる。即ち、光源の裾の制限が強くなり、必要なブランキング偏向距離は小さくなる。
【0091】
しかし、漏れビーム制限開口板19を通過するビーム電流は、面積比 (a1min/aから単純に計算すれば、86μAと大きくなる。これは一つ目の数値例におけるビーム電流値の約40倍である。このとき、漏れビーム制限開口板19により遮蔽されるエミッション電流の割合は、14%と小さくなる。この場合、漏れビーム制限開口板19はビーム電流の制限の役目をほとんど果たしていない。
【0092】
2)光源の像4´の位置を考慮する必要があるのは、ブランカー15が漏れビーム制限開口板19より後段に配置されるため、ブランカー15の電極長によって漏れビーム制限開口板19の挿入位置が制限を受けることによる。言い換えると、光源の像4´の位置が、間接的にブランカー15の電極長を決定する。そのため、仮に漏れビーム制限開口板19が前記第2の区間内にあったとしても、光源の像4´の位置によっては、前記電極長が短くなる。
【0093】
そして、ブランキング偏向距離を確保すべく、ブランカー15の対向する電極間の距離を小さくすることが必要と成り、このことが、電極の表面へのコンタミネーションの付着やその帯電と言った問題点を増長する。つまり、光源の像4´から漏れビーム制限開口板19までの距離を短くしつつも、ブランカー15の電極長を長くすることが求められる。
【0094】
そのようにするには、漏れビーム制限開口板19と共に、光源の像4´を光源4側に寄せればよい。つまり、本光学系においては、光源の像4´の位置が第2のレンズ18から光源の像4´までの距離を光源の像4´から照射レンズ2までの距離より短くするとよい。
【0095】
この考えを押し進めれば、光源の像4´の位置と、光源の像4´から漏れビーム制限開口板19までの距離とを決定するのは、ブランカー15の電極長を決定した後とするのがよい。即ち、ブランカー15の上端は第2のレンズ18の直後、またはブランカー15の下端は照射レンズ2の直前として、ブランカー15の電極長を極力長くした後に、光源の像4´及び漏れビーム制限開口板19の位置を決定するとよい。その結果、場合によっては、漏れビーム制限開口板19の挿入位置は、第2のレンズ18の中、あるいはそれより光源4側とな得る。
【0096】
3)光源の像5の位置などへの影響を考慮する必要があるのは、光源の像4´の位置を変えるために第1のレンズ17、第2のレンズ18の強度などの光学パラメータを変更すると、それに連動して光源の像5の位置なども変わることによる。言い換えると、本光学系を設計することは、その光学パラメータを、光源の像4´の位置や光源の像5の位置などの各々に関する条件を満たすように決定することである。
【0097】
より詳細には、本光学系において、光学パラメータの決定のための条件が付される項目は、A) 光源の像4´の位置、B) 光源の像5の位置、C) ブランキング偏向支点位置、D) 球面収差軌道がZ軸と交わる位置、及びE)第1の成形開口板3上における電流密度の5項目である。これら5項目に関する条件を以下で述べる。
【0098】
先ず、A)源の像4´の位置に関する条件は、該位置が、光源の裾の制限の強さとビーム電流制限との観点から最適となる位置に一致することである。その位置をzilを用いれば、同条件は|h(zil)|=0となる。次に、B)源の像5の位置に関する条件は、同位置が、図7或いは図12の光学系における光源の像5の位置に一致することである。その位置zi2とすると、同条件は|h(zi2)|=0となる。
【0099】
次に、C)ランキング偏向支点位置、及びD)球面収差軌道がZ軸と交わる位置に関する条件は、それらの位置が、第1の成形開口板3の位置に一致することである。これらの条件は、それぞれ、|d(z)|=0及び|s(z)|=0となる。ここで、d(z)は単位ブランキング偏向電圧に対するブランキング偏向軌道を表す。
【0100】
そして、次に、E)1の成形開口板3上における電流密度に関する条件は、同電流密度が、投影図形11の電流密度と、第1の成形開口板3を基準とした投影図形11の投影倍率とから決まる電流密度に等しくなることである。
ここで、第1の成形開口板3上における電流密度の目標値をJ、投影図形11の電流密度をJ、第1の成形開口板3を基準とした投影図形11の投影倍率をmとおくと、J=mJの関係がある。
【0101】
ただし、第1の成形開口板3上における電流密度に関する前記条件は、図18中の円25の内部を電流密度Jで照射するのに必要な電流
【0102】
【数11】

【0103】
を有するビームの、第1の成形開口板3の位置における断面の半径
´=|h(z)|αが、円25の半径に一致すること、つまり
【0104】
【数12】

【0105】
となることと等価である。即ち、第1の成形開口板3上における電流密度に関する前記条件は、(17)、(18)式より、
【0106】
【数13】

【0107】
と表せる。ここで、αは光源4(仮想光源)における電子放出角(開き角)、
Ωは、光源4の角電流密度である。 一方、本光学系において決定すべき光学パラメータは、電子銃の輝度及び角電流密度、光源4の位置、第1のレンズ17の位置と強度、第2のレンズ18の位置と強度、照射レンズ2の位置と強度、ブランカー15の位置及び偏向角比(特許文献3の段落0010を参照)、及び第1の成形開口板3の位置である。前記5項目に関する条件を満たすには、これらの光学パラメータのうち、5つを可変とし、本光学系の自由度を5とすれば良い。
【0108】
前記光学パラメータのうち、どの5つを可変とするかは、それらに関する物理的制約から判断するとよい。本実施例では、前記光学パラメータのうち、a)第1のレンズ17の強度、b)第2のレンズ18の位置、c)第2のレンズ18の強度、d)照射レンズ2の強度、及びe)ブランカー15の偏向角比の5つを可変パラメータとし、残りを固定パラメータとする。これら固定パラメータの具体的数値は、それらに関する物理的制約や目標とする装置仕様に基づき決定する。
【0109】
なお、前記5条件が満たされるように前記可変パラメータを決定するには、Z軸上の磁場・電場分布を求めたうえで、前記5条件を収束条件とし、近軸軌道h(z)、近軸軌道k(z)、ブランキング偏向軌道d(z)及び球面収差軌道s(z)軌道を求めるべく、前記可変・固定パラメータと磁場・電場分布を反映させた近軸軌道方程式及び収差軌道方程式を、数値計算により、解が収束するまで、可変パラメータの値を変えながら繰り返し解けばよい。ただし、前記実施例の図17で示した前記近軸軌道h(z)及び前記近軸軌道k(z)は、各レンズを薄レンズ近似したうえで、レンズの公式l−1+l−1=f−1を用いることで簡単に求めたものである。lは物面からレンズ主面までの距離、lはレンズ主面から像面までの距離、fは焦点距離である。図17において、第2のレンズ18及び照射レンズ2に由来する球面収差は無視し、第1のレンズ17を第1の成形開口板3と光学的に共役な位置に配置したことから、球面収差軌道に関する条件|s(z)|=0を|k(zl1)|=0に置き換えた。
【0110】
前記5つの可変パラメータの内、a)第1のレンズ17の強度、c)第2のレンズ18の強度、及びd)照射レンズ2の強度の3つは、本光学系を設計、構築、調整し、その運用を開始した後でも、可変とすることが容易である。即ち、装置運用の際には、これら3つを可変パラメータとすることができる。ここで、残りの2つ、即ちレンズ18の位置及びブランカー15の偏向角比の2つは固定パラメータとする。
【0111】
そのようにすれば、装置運用時の自由度は3となり、例えば、光源の像4´の位置及びブランキング偏向支点100の位置の変化が許容範囲内に収まることを前提に、光源の像5の位置、第1の成形開口板3上における電流密度、及び球面収差軌道がZ軸と交わる位置の3項目が独立に設定できる。或いは、光源の像4´の位置及び球面収差軌道がZ軸と交わる位置の変化が許容範囲内に収まることを前提に、光源の像5の位置、第1の成形開口板3上における電流密度、及びブランキング偏向支点位置の3項目が独立に設定できる。補足すると、ブランキング偏向支点位置を第1の成形開口板3の位置に保つことは、照射レンズ2の強度をブランキング偏向支点位置に対し最適化したまま、変えないことに相当する。つまり、このとき、照射レンズ2の強度は、実質的には固定パラメータとなる。
【0112】
以上のようにして本発明の実施例5となる荷電粒子ビーム描画装置用の照明光学系に対し、上記光学パラメータと共に漏れビーム制限開口板19の挿入位置及び開口径が決められる。
【0113】
図19は、本光学系において、光源の裾部に由来する漏れビームが遮蔽される様子を示す。図中において、実線で示すように、光源4の中央部から出射され、第1の成形開口板3上の円25の内部に向かう電子は制限開口板19の開口部を通過するのに対して、破線で示すように、光源4の裾部から出射され、円25の内部に向かう電子は第1のレンズ17により大きく曲げられ制限開口板19にけられるので、ビームブランキング時にブランキング開口板16からの漏れビームがなくなる。
【0114】
このように本発明に基づく漏れビームを抑制する荷電粒子ビーム装置用の照明光学系においては、漏れビーム制限開口板19をブランカー15より前段、かつ、光源の像4´より前段に配置させたことにより、漏れビーム制限開口板19に対する荷電粒子ビームの位置がビームブランキングと共に変わるのを防ぎつつ、更に、光源の像4´におけるベルシェ効果を抑制しつつ、光源4の裾部に由来するビームブランキング時の漏れビームを抑制することができる。
[実施例6]
実施例6は基本的には実施例5と構成を同じくするが、実施例6では、図20に示すように第2のレンズ18を省く。図20の照明光学系における光源4から光源の像5までの近軸軌道h(z)、近軸軌道k(z)、及び球面収差軌道s(z)を図21に示す。
実施例6の動作及び効果は基本的に実施例5のそれらと同じであるが、第2のレンズ18が省かれたことから、可変とすべき光学パラメータが実施例5のそれとは異なる。
【0115】
本実施例では、装置設計時及び調整時には、光源4の位置、第1のレンズ17の強度、照射レンズ2の位置及び強度、及びブランカー15の偏向角比の5つを可変パラメータとする。そして、電子銃の輝度及び角電流密度、光源4から第1のレンズ17までの距離、ブランカー15の位置、及び第1の成形開口板3の位置を固定パラメータとする。
【0116】
装置運用時には、前記5つの可変パラメータの内、光源4の位置、照射レンズ2の位置、及びブランカー15の偏向角比の3つを固定パラメータとし、残りの2つ、即ち、第1のレンズ17の強度及び照射レンズ2の強度を可変パラメータとする。その結果、装置運用時の自由度は2となり、例えば、光源の像4´の位置、ブランキング偏向支点100位置、及び球面収差軌道s(z)がZ軸と交わる位置の変化が許容範囲内に収まることを前提に、光源の像5の位置及び第1の成形開口板3上における電流密度の2つが独立に設定できる。
[実施例7]
実施例7は基本的には実施例5から実施例6と構成を同じくするが、実施例7では、電子ビームの代わりにイオンビームを用いる。その動作及び効果は実施例5及び実施例6のそれらと同じである。
[実施例8]
実施例8で提案する光学系は、実施例1で提案された荷電粒子ビーム装置用の照明光学系の構成に散乱電子を遮蔽する絞りを設けたものである。
【0117】
光源4を構成する電子銃はショットキー型(熱電界放出型)電子銃で、図15に示すように、エミッタ電極20と引出電極23とアノード電極22からなる。引出電極23は、エミッタ電極20の先端における電界を高くし、より多くの電子をエミッタ電極20から引き出すための電極である。引出電極23及びそれ以降の空間における電位はエミッタ電極20の電位より高いため、エミッタ電極20から放出された電子ビーム1は、引出電極23の開口の縁に衝突する。
【0118】
その結果、図22(a)に示すように、引出電極23の開口の縁で電子が散乱される。この散乱電子の軌道を光源4側に延長すると、図22(b)に示すように、光源の位置において、光源4に重なるように、それより大きな広がりを持つ虚光源24が作られる。即ち、前記散乱電子は、引出電極23以降の地点から見れば、虚光源24に由来するように見える。そして、虚光源24に起点を持つ光線は、光源の像4´、5、及び50の位置に、更には対物レンズ9内に結ばれる光源の像(図示せず)の位置に、虚光源24の像を構成する。即ち、前記散乱電子は、これらの光源の像像4´、5の位置において、本来の像よりも大きな広がりを持つビーム成分となる。
【0119】
このビーム成分は、露光時において、収差の大きなビーム成分となり、光源の像4´の位置に結ばれる虚光源24の像のために、対物レンズ9に対する開き角が大きくなり、開き角に依存する収差(幾何収差及び色収差)が大きくなる。更には、引出電極23の開口部の縁により散乱された電子は、散乱の過程で運動エネルギーを失った結果、大きなエネルギー分散を示し、該散乱電子は色収差を大きくする原因となり得る。
【0120】
図23は本実施例で提案する光学系、即ち光源の電極から発生する散乱電子を遮蔽する荷電粒子ビーム装置用の照明光学系の構成を示す一概略図である。図23中、図1にて、使用した記号と同一記号は同一構成要素を示す。
【0121】
図23の光学系が図1の光学系、即ち、実施例1の荷電粒子ビーム描画装置用の照射光学系と異なるのは、引出電極23に由来する散乱電子を遮蔽する散乱電子制限開口板30を備えた点である。その位置は、散乱電子に対して第1の成形開口板3と光学的に共役関係にある面31より第1の成形開口板側である。
【0122】
なお、図23の照明光学系において、第1のレンズ17、第2のレンズ18、及び照射レンズ2は磁界レンズとし、ブランキング開口板16の開口は円形とし、光源4の中心、エミッタ電極20、引出電極23及びアノード電極22の開口の中心、第1のレンズ17、照射レンズ2、及び成形レンズ6の中心、ブランキング開口板16の開口の中心、円25(図18を参照)の中心、及び第2の成形開口板7への円25の写像の中心は、Z軸上にあるものとする。
【0123】
このように構成された本発明の実施例8とする照射光学系に対し、散乱電子制限開口板30の挿入位置と開口径を如何に決定すべきかについて以下で説明する。
【0124】
引出電極23からの散乱電子を遮蔽するには、散乱電子が第1の成形開口板3上の円25(図18)を通過しないようにすれば良い。この要件を満たすための条件は、引出電極23の縁を起点とし、円25を通過する光線が、散乱電子制限開口板30で遮蔽されることである。
前記条件は、言い換えれば、図24(a)に示すように、引出電極23の開口に関する射出瞳23´ の縁を起点とし、第1の成形開口板3上の円25を通過する光線が、散乱電子制限開口板30に関する射出瞳30´により遮られることである。
【0125】
ここで、前記射出瞳とは、学術的に開口絞りより像側の光学系で結像された開口絞りの像として定義される。
【0126】
本発明の荷電粒子ビーム描画装置用の照射光学系における射出瞳の位置は、
引出電極23及び散乱電子制限絞り30の位置、そして散乱電子のエネルギーに依存し、する。図25では、射出瞳23´は第1の成形開口板3より光源4側に、射出瞳30´は該第1の成形開口板3より光源の像5側に位置しているが、前記理由のため、これらの射出瞳の位置は、該第1の成形開口板3より光源4側にも、光源の像5側にもなりうる。
【0127】
図24(a)において、第1の成形開口板3上の円25と射出瞳23´、30´との幾何学的関係から、前記条件は、
【0128】
【数14】

【0129】
と表せる。(20)式の両辺に|l|を乗じれば
【0130】
【数15】

【0131】
となる。ここで、a´は引出電極23に関する射出瞳23´の半径、a´は散乱電子制限開口板30に関する射出瞳30´の半径、aは第1の成形開口板3上の円25の半径、lは第1の成形開口板3から(円25から)射出瞳23´までの距離、lは第1の成形開口板3から射出瞳30´までの距離である。a´及びa´は、散乱電子制限開口板30の開口に対する射出瞳30´の倍率をm、引出電極23の開口に対する射出瞳23´の倍率をmとすれば、それぞれ、a´=|m|a及びa´=|m|aと表せる。aは引出電極23の開口の半径、aは散乱電子制限開口板30の開口の半径である。l及びlの符号は、射出瞳23´、30´が第1の成形開口板3よりもZの正の側(材料側)にあれば正とする。以降の説明では、便宜上、(20)式ではなく、(21)式を主に用いる。
【0132】
この(21)式が成立するための必要条件は3条件ある。その内の第1の条件は、l≠0となること、即ち射出瞳30´のZ座標が第1の成形開口板3のZ座標に一致しないこと、第2の条件は、θ>θとなること(図24(b)を参照)、第3の条件は、l=0となる場合にa´≧aとなることである。なお、θ= a´/|l|(>0)は第1の成形開口板3の円25の中心から射出瞳23´を見込む角度、θ= a´/|l|(>0)は同じく円25の中心から射出瞳30´を見込む角度を示す。 前記第1の条件が満たされない場合、即ち、l=0となる場合は、(21)式の左辺は−|l|a(<0)となるが、右辺は|l|a´(>0)であるため、(21)式は成立しない。
【0133】
また、前記第2の条件が満たされない場合、即ち、θe≦θ1である場合は、|l|a´ ≦|l|a´となり、この両辺から|l −l|aを引くと、
|l|a´−|l-l|a ≦ |l|a´−|l-l|a < |l|a´となることから分かるように、
この場合も(21)式は成立しない。
【0134】
そして、前記第3の条件が満たされない場合、即ち、l=0となる場合にa´<aとなる場合、(21)式の左辺は|l|a´−|l|a=|l|(a´−a)(<0)となるが、
同じく(21)式の右辺は零となるから、この場合も(21)式は成立しない。
ただし、前記量m、m、l、l、及びa´=|m|a、a´=|m|aは、電子のエネルギーに依存するため、電子のエネルギー分散の大きさ、及び前記量の電子のエネルギーへの依存性によっては、前記3条件は成立しないことがある。逆に言えば、前記3条件は、電子のエネルギーによらず成立する必要がある。
続いて、本発明の荷電粒子ビーム描画装置の照射光学系における電子のエネルギー分散について説明する。なお、以降において、電子のエネルギーは、エミッタ電極20に対する電位、即ち対エミッタ電圧Vとして表す。従って、前記量m、m、l、l、a´、a´は対エミッタ電圧Vの関数である。 引出電極23への印加電圧、即ち引出電圧をV(>0)とすると、引出電極23で散乱され、かつ、Zの正の向きに速度ベクトルを持つ電子のエネルギ−V=V+ΔVは、0<V+ΔV≦Vと表せる。即ち、
【0135】
【数16】

【0136】
の関係が成り立つ。なお、ΔVは、エネルギーの変化分を表す。引出電極23による電子の散乱には二次電子の発生を伴うが、この二次電子を含めても(22)式は成り立つ。
【0137】
ここで、ΔV≦0となるのは、電子は散乱過程においてエネルギーを失うことを意味している。引出電圧は一般に数kVであることから、ΔVの範囲の幅即ちエネルギー分散の大きさVは、同じく数kVと大きい。そこで、以降では、散乱により生じるエネルギー分散以外のエネルギー分散は無視する。そのようなエネルギー分散は、エミッタ電極20から放出された時点で電子が持っているエネルギー分散と、その後にベルシェ効果により増加したエネルギー分散とによるもので、その大きさは、ベルシェ効果を考慮したとしても、数V程度と小さいからである。
上述したようにVは数kV以上となりうるため、Vの大きさによっては、前記エネルギー分散は無視できない程度に大きな色収差を生む。ここで、Vはアノード電極22及びそれ以降の空間における電位である。特に、第1のレンズ17は引出電極23とアノード電極22の間にあることから、第1レンズ17の位置において軸上電位はV<V<Vの範囲にあるため、前記エネルギー分散は第1のレンズ17に対し、非常に大きな色収差を生む。
【0138】
次に、(22)式を満たす電子に対し前記3条件を満たす条件について説明する。ただし、第1の成形開口板3上の円の半径aは、投影図形11の投影倍率と寸法とから決まる量であるため、以降では固定とする。
【0139】
前記第一の条件l≠0を満たすためには、即ち、射出瞳30´のZ座標が第1の成形開口板3のZ座標に一致しないようにするためには、(22)式を満たす電子に対して、散乱電子制限開口板30の位置を、第1の成形開口板3と光学的に共役関係にあり、かつ、第1の成形開口板3に最も近い面31(図23を参照)の位置よりも第1の成形開口板3側とすればよい。そのためには、最も厳しい条件として、ΔV=−Vを満たす電子に対して、散乱電子制限開口板30の位置が面31の位置よりも第1の成形開口板3側となるという条件が満たされればよい。そのようにすれば、l>0となる。これは、射出瞳30´の位置はΔVの増加とともにZの正の向きに移動することによるものである。
【0140】
前記第2の条件θ>θを満たすためには、投影図形11の電流密度及びその分布に影響が出ない範囲で、(22)式を満たす電子に対して、できるだけa´を小さく、かつ|l|を大きくしたうえで、引出電極23の開口の半径aeを大きくすると良い。ここで、できるだけa´を小さく、かつ|l|を大きくするには、同じく投影図形11の電流密度及びその分布に影響が出ない範囲で、できるだけ散乱電子制限開口板30の開口の半径aを小さく、そしてできるだけzをZの正の側に大きくするとよい。
【0141】
特許文献3によれば、散乱電子制限開口板30が投影図形11の電流密度及びその分布に影響を与えない条件は、
【0142】
【数17】

【0143】
である。ここで、aはブランキング開口板16の開口半径、zはブランキング開口板16のZ座標、h(z)及びk(z)は既出の近軸軌道である。
【0144】
(23)式より、散乱電子制限開口板30の開口半径aを小さくするには、h(z)を小さくすればよいことが分かる。そのためには、散乱電子制限開口板30の位置を光源の像4´の位置に近づければよい。
【0145】
前記第3の条件、即ちl=0となる場合にa´≧aとなる条件を満たすには、(22)式を満たす電子の内、射出瞳23´の位置を第1の成形開口板3の位置に一致させるエネルギー、即ち、引出電極23の像を第1の成形開口板3上に結ぶエネルギーを持つ電子に対し、射出瞳23´の半径a´ = |m|aが円25の半径aより大きくなるように、引出電極23の開口の半径aを大きくするとよい。
【0146】
ただし、l≠0であってもlとlの符号が異なれば、a´≦aとなる場合に、図26に示すように、射出瞳23´の縁を起点とし、第1の成形開口板3上の円25を通過し、さらに射出瞳30´を通過する光線が、lやaの大きさによらず必ず存在する。つまり、引出電極23で散乱された電子の一部が散乱電子制限開口板30により遮蔽されず、円25を通過する。このことは、避けなくてはならないから、l=0となるエネルギーを持つ電子に限らず(22)式を満たす全ての電子に対してa´>aとするのが良い。即ち、前記第3の条件をこれに置き換えるのがよい。
【0147】
図23の本発明の照射光学系において、lとl1の符号が異なるときは、図24から図26に示すように、l>0かつl<0となるときである。ここで、l>0となるのは、先述のように ΔV=−Vを満たす電子に対して、射出瞳30´の位置を面31位置よりも第1の成形開口板3側とした結果である。
【0148】
以上のような方策によりl≠0、θ>θ、かつa´>aの前記3条件が満たされた後、最後に、(22)式を満たす電子に対し(21)式が成立することを確認する。これは、前記3条件は、(21)式が成立するための必要条件であるが、前記3条件が満たされても(21)式が成立しないことがあり得るからである。例えば、a=0であれば、前記第2の条件θ>θが満たされている限り、(21)式は成立するが、a2≠0であれば、同条件が満たされていても、(21)式は成 立するとは限らない。
【0149】
ここで、第1の成形開口板3上の円25の半径a2の大きさは、ΔVが負の向きに大きくなると、無視できなくなる。これは、(20)式を用いて説明すれば、ΔVが負の向きに大きくなると、(20)式において、|l/l|とa´=|m|aとの両方が小さくなり得ることによる。その結果、(20)式の第1項|l/l|a´が小さくなり、同式の第2項−|1−l/l|aが相対的に大きくなる。
【0150】
この問題を解消すべく、(20)式の第1項|l/l|a´をできるだけ大きくするには、lを正の向きにできるだけ大きく、つまり散乱電子制限開口板30の位置zを正の向きにできるだけ大きくしたうえで、引出電極23の開口の半径aを大きくするとよい。更には、散乱電子制限開口板30の位置zを正の向きに大きくする際、投影図形11の電流密度、及びその分布に影響が出ない範囲で散乱電子制限開口板30の開口の半径aを小さく、即ち(23)式に従いaを小さくするとよい。このようにすることで、(20)式の右辺a=|m|a が小さくなるから、(20)式がより成立しやすくなる。その結果、(20)式が成立する範囲内で引出電極23の開口の半径aをできるだけ小さくし、引出電極23以降におけるベルシェ効果をより強く抑制することができる。
【0151】
ただし、本実施例では、前記散乱電子制限開口板30がブランカー15より前段(光源側)にあるから、zを正の向きに大きくすると、ブランカー15の電極長が短くなる。言い換えると、zの上限は、ブランカー15に必要な電極長により決まる。これは、本実施例にて、前記散乱電子制限開口板30の位置をブランカー15より前段とするのは、(21)式が成立する条件をビームブランキングにより崩さないようにするためである。
【0152】
次に、本発明の荷電粒子ビーム装置用の照射光学系を実際の電子ビーム描画装置に適用させるため、上記の量m、m、l、l、θ、θを近軸軌道から求める方法について説明する。
【0153】
先ず、上述の量の内、m 、m、l、l は、本光学系における近軸軌道t(z)、近軸軌道t(z)、近軸軌道w(z)、及び近軸軌道w(z)を用いた関係式
=(dt(z)/dz)l
=(dt(z)/dz)l
=−w(z)/(dw(z)/dz)、
=−w(z)/(dw(z)/dz)、
から求めることができる。
【0154】
そして、θ及びθは、幾何学的関係から
|dt(z)/dz|=|m/l|、|dt(z)/dz|=|m/l
となることを利用すれば、次の関係式
【0155】
【数18】

【0156】
から求めることができる。
【0157】
ここで、t(z)は引出電極23の位置z=zにおいてt(z)=1かつ第1の成形開口板3の位置z=zにおいてt(z)=0となる近軸軌道、t(z)はt(z)=1かつt(z)=0となる近軸軌道、w(z)はw(z)=0かつdw(z)/dz=1となる近軸軌道、w(z)はw(z)=0かつdw(z)/dz=1となる近軸軌道とする。
(24)式と(25)式にから分かるように、θ及びθは、倍率me及びm1を求めることなく、それぞれ、dt(z)/dz及びdt(z)/dzから求めることができる。ここで、t(z)はt(z)を用いてt(z)=t(z)/t(z)と表せることから、dt(z)/dzはdt(z)/dz=|(dt(z)/dz)/t(z)|とすればよい。つまり、(25)式のθはθ=|(dt(z)/dz)/t(z)|aと表せる。この関係を用いれば、上述の条件θ>θは、|dt(z)/dz|a>|(dt(z)/dz)/t(z)|a、即ち、a>a/|t(z)|に置き換え可能である。
【0158】
前記4つの近軸軌道を得るには、本光学系における軸上電位V(z)及び軸上磁界B(z)を反映した軌道方程式を解けばよい。その際、前記軌道方程式にΔVを反映させるには、軸上電位V(z)をV(z)+ΔVに置き換えればよい。ただし、前記軌道方程式はV(z)+ΔV=0を満たす電子に対して解くことはできないため、引出電極23にて散乱された直後で0≦V+ΔV<δV即ち−V≦ΔV<−V+δVを満たす電子を無視し、δV≦V+ΔV≦V即ち−V+δV≦ΔV≦0を満たす電子について計算を実施すればよい。ここで、0≦δV<<Vとする。
【0159】
本光学系について具体的な寸法を与え、(20)式の左辺S1=|l/l|a´−|1−l/l|a及び同式の右辺S2=a´をΔVの関数として計算して得られた結果を図27に示す。図中のS1とS2は上記の手順に従って求めたものである。
【0160】
ここで、光源4、引出電極23、第1のレンズ17、アノード電極22、第2のレンズ18、散乱電子制限開口板30、光源の像4´、照射レンズ2、及び第1の成形開口板3、光源の像5のZ座標は、それぞれ、z=0、0.5、2.0、20.0、52.5、90、108.6、170.0、200.0、及び220 (単位:mm)、引出電極23の開口、散乱電子制限開口板30の開口、及び円25の半径は、a=100、a=20、及びa=14(単位:μm)、引出電極23及びアノード電極20への印加電圧(共に対エミッタ電圧)はV=8及びV=50 (単位:kV)である。第1のレンズ17、光源の像4´、光源の像及び照射レンズ2の強度は、光源の像4´及び5が前記Z座標で結ばれると共に、球面収差軌道が第1の成形開口板3のZ座標にて零となるように定められている。
【0161】
図27に示されたS1とS2の関係から、S1がS2より大きいので、前記条件のもとで、本光学系は、(21)式を満たすことが分る。引出電極23に散乱された電子は、第1の成形開口板3上の円25を通過しない。図27中からΔV=−5(単位:kV) 付近の領域でS1が極端に大きくなるのは、同領域で第1の成形開口板3から射出瞳23´までの距離lが零に近づくことによる。
【0162】
図28は、本発明の光学系において、引出電極23からの散乱電子が遮蔽される様子を示す。図中の実線は光源4から出射された電子ビームの軌道を示し、破線は引出電極23で散乱された電子の軌道を示す。図に示すように、光源4の中央から出射され、第1の成形開口板3上の円25に向かう電子は、散乱電子制限開口板30の開口部を通過するのに対し、引出電極23で散乱された電子は、第1のレンズ17により大きく曲げられ、散乱電子制限開口板30上にけられる。そのため、散乱電子に由来する収差が除去される。
【0163】
このように本発明の荷電粒子ビーム装置用の照明光学系において、散乱電子制限開口板30を散乱電子に対して第1の成形開口板3と光学的に共役関係にある位置より第1の成形開口板側に配置し、散乱電子制限開口板30の位置及び開口径と引出電極23の開口径とを散乱電子に対して、前記引出電極23の開口に関する射出瞳23´を円25の中心から見込む角度が、散乱電子制限開口板30の開口に関する射出瞳30´を円25の中心から見込む角度より大きく、かつ、前記引出電極23の開口に関する射出瞳23´の大きさが、前記円25の大きさより大きくなるように決定したたことにより、引出電極23からの散乱電子を遮蔽し、該散乱電子に由来する収差を除去することができる。
[実施例9]
実施例9は基本的に実施例8と構成を同じくするが、実施例9では、図29に示すように、第1のレンズ17を磁界レンズから静電レンズに変更する。その動作及び効果は基本的に実施例8のそれらと同じである。なお、前記第1のレンズ17は減速型の静電レンズとして働く。
【0164】
実施例9においても、引出電極23で散乱され、Zの正の向きに速度ベクトルを持つ電子は前記(22)式を満たすが、その全ての電子が第1のレンズ17を通過するわけでなない。言い換えると、第1のレンズ17は、散乱電子に対してフィルターの機能を有し、該第1のレンズ17を通過する散乱電子の量を減らす。
【0165】
ここで、引出電極23からの散乱電子が第1のレンズ17を通過しない(該第1のレンズ17に反射される)条件は、該第1のレンズ17に由来する軸上電位の最小値をVminとすれば、V=V+ΔV−(V−Vmin)= ΔV+Vmin≦0即ちΔV≦−Vminとなる。一方、前記散乱電子が第1のレンズ17を通過する条件は、V=ΔV+Vmin>0即ちΔV>−Vminとなる。この式と(22)式より、第1のレンズ17を通過する電子に対して、
【0166】
【数19】

【0167】
が成り立つ。このことから本実施例では、(26)式の表す範囲において、(21)式が満たされることを確認すればよい。そのためには、実施例8で示した手法を用いればよい。ただし、減速型の静電レンズにおいては、軸外電位(Z軸から離れた半径位置における電位)は軸上電位より小さくなるため、ある軸外軌道を通る電子の感ずる電位の最小値をVmin´(>0)とすれば、0<Vmin´<Vmin、すなわち−Vmin <−Vmin´<0の関係が成立する。これより、同電子が第1のレンズ17の軸外を通過するための条件−Vmin´<ΔV≦0は、前記条件−Vmin<ΔV≦0より厳しくなる。つまり、軸外軌道に対しては、該第1のレンズ17を通過する電子のΔVの幅が小さくなる。しかし、軸外軌道に対しても、電子が該レンズ17を通過するための条件を−Vmin<ΔV≦0とすれば、Vmin−Vmin´の分だけ(21)式を評価する範囲が広くなるから、その分だけ、前記m、m、l、lはより厳しく求まる。即ち、散乱電子制限開口板30は余裕を持って軸上軌道を通る散乱電子を遮蔽する。
[実施例10]
実施例10は基本的に実施例8と構成を同じくするが、実施例10では、図29に示すように、散乱電子制限開口板30の位置を、ΔV=−Vを満たす電子に対する照射レンズ2の物側焦点面位置とする。 実施例8で説明したように、本発明の荷電粒子ビーム装置用の照射光学系では、前記3条件l≠0、θ>θ、かつa´>aが満たされていても、ΔVが負の向きに大きいときには、aの大きさによっては (20)式及び(21)式が成立しない。その理由は、先述のようにΔVが負の向きに大きいときには、(20)式において、a´と|l/l|が同時に小さくなることである。
【0168】
この問題を軽減するため、実施例8では、ブランカー15の電極が短くなり過ぎない程度に|l|を大きくし、|l/l|を大きくすることを考えた。 本実施例では、この考えを発展させ、ΔVが負の向きに大きくなり、a´が小さくなるときに、それを補うように|l|を大きくすることを考える。これを実現するためには、散乱電子制限開口板30の位置を ΔV=−Vを満たす電子に対する照射レンズ2の物側焦点面位置とすればよい。そのようにすれば、ΔV=−Vを満たす電子に対し、射出瞳30´が無限遠にでき、それと共に|l|=∞となる。
【0169】
この効果を確認するため、(20)式を|l|で除すと、
【0170】
【数20】

【0171】
となる。(27)式において、|l|→∞のとき、その右辺は発散せず、左辺は、
´/|l|−|1/l−1/l|a→a´/|l|−|−1/l|a=(a´−a)/|a|となる。即ち、1/lの絶対値が小さくなる分だけ、(27)式の第2項−|1/l−1/l|aも小さくなり、(27)式が成り立ちやすくなる。
【0172】
ただし、本発明の照射光学系において、そのようにすることは、散乱電子制限開口板30の位置を光源の像4´(ΔV=0)よりZの正側とすることを意味する。これは、本照射光学系では、照射レンズ2により光源の像5が第1の成形開口板3の後段に結ばれているから、光源の像4´は、ΔV=0に対する、照射レンズ2の物側焦点面の位置よりZの負側にあることによる。
【0173】
このように散乱電子制限開口板30の位置が光源の像4´の位置よりZの正側となると、散乱電子制限開口板30により電子ビーム1のビーム電流が削減される前に光源の像4´が結ばれるから、光源の像4´の位置における電流密度が高くなる。その結果、光源の像4´の位置においてベルシェ効果が促進される。これを防ぐため、散乱電子制限開口板30とは別の制限開口板を、光源の像4´より前段に設け、ビーム電流を削減するのがよい。
【0174】
例えば、前記実施例5で示した漏れビーム制限開口板19をブランカー15より前段、かつ光源の像4´より前段に配置させ、その開口径を(23)式に基づき十分に小さくすれば、漏れビーム制限開口板19でビーム電流を削減し、ビームブランキング時の漏れビームを抑制しつつ、散乱電子制限開口板30で引出電極23からの散乱電子を遮蔽することができる。
【0175】
その際、散乱電子制限開口板30の開口径を大きくし、同開口径に余裕を持たせれば、ブランカー15により電子ビーム1が偏向されても、同ビーム、即ち、本来第1の成形開口板3を照射すべきビームが散乱電子制限開口板30により遮蔽されないようにすることができる。そのためには、散乱電子制限開口板30の位置におけるブランキング偏向距離をD1とすれば図30に示すように、前記余裕を持たせた散乱電子制限開口板30の開口の直径をd=2a+Dとし、そのうえで、散乱電子制限開口板30の中心をD1/2の距離だけブランキング偏向の向きにずらせばよい。このとき、(21)式における散乱電子制限開口板30の開口半径はa+Dとすればよい。ここで、aは余裕を持たせない散乱電子制限開口板30の開口の半径である。
【0176】
このように本発明の照明光学系において、散乱電子制限開口板30の位置をΔV=−Vを満たす電子に対する照射レンズ2の物側焦点面位置としたことにより、ΔVが負の向きに大きくなり、射出瞳23´の大きさa´が小さくなるとき、それを補うように第1の成形開口板5から射出瞳30´までの距離lが大きくなるため、その分だけ(20)式及び(21)式が満たさやすくなる。即ち、その分だけ引出電圧23の開口径を小さくし、同電極以降におけるベルシェ効果をより強く抑制する。
[実施例11]
実施例11は基本的に実施例9と構成を同じくするが、実施例11では、図29に示すように、散乱電子制限開口板30の位置を、ΔV=−Vminを満たす電子に対する照射レンズ2の物側焦点面の位置とする。
【0177】
実施例11の動作及び効果は、実施例10のそれらと基本的に同じであるが、実施例11においては、第1のレンズ17を通過する電子は前記(26)式を満たす。
[実施例12]
実施例12は基本的には実施例8から実施例11と構成を同じくするが、実施例12では、第2の成形開口板7の開口形状を単純な矩形でなく、より複雑な図形とし、キャラクタープロジェクションを実施する。実施例12の動作及び効果も実施例8から実施例11のそれらと同じである。
[実施例13]
実施例13は基本的には実施例8から実施例12の構成と同じであるが、実施例13では、電子ビームの代わりにイオンビームを用い、その動作及び効果は実施例8から実施例12の同じである。
【符号の説明】
【0178】
1 電子ビーム
2 照射レンズ
3 第1の成形開口板
4 光源
4´、5、16、50 光源の像
6 成形レンズ
7 第2の成形開口板
8 縮小レンズ
9 対物レンズ
10 材料
11 投影図形
12 成形偏向器
13 対物偏向器
14 材料ステージ
15 ブランカー
16 ブランキング開口板
17 第1のレンズ
18 第2のレンズ
19 漏れビーム制限開口板
20 エミッタ電極
22 アノード電極
23 引出電極
30 散乱電子制限開口板
23´ 引出電極に関する射出瞳
30´ 散乱電子制限開口板に関する射出瞳

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源、照明レンズ群、絞り、投影レンズ群、及び材料面の順にこれらが配置され、前記荷電粒子源から出射される荷電粒子ビームが前記照明レンズ群を介して前記絞り上に照射され、更に投影レンズにより前記絞りの像が材料面上に結像される状態で絞りを通過したビームが材料上に照射される荷電粒子ビーム装置において、前記照明レンズ群は、前記荷電粒子源の像が前記絞り上に結像しないように配置され、かつ前記照明レンズ群のうちの一つのレンズが、前記絞りの位置と光学的に共役関係にある位置に配置されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記絞りの位置と光学的に共役関係にある位置に配置されたレンズは、前記照明レンズ群の前記荷電粒子源に最も近いレンズであることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
荷電粒子源、照明レンズ群、絞り、投影レンズ群及び材料面の順にこれらが配置され、前記荷電粒子源から出射される荷電粒子ビームが前記照明レンズ群を介して前記絞り上に照射され、更に投影レンズ群により前記絞りの像が材料面上に結像される状態で絞りを通過したビームが材料上に照射される荷電粒子ビーム装置において、前記照明レンズ群は、前記荷電粒子源の像が前記絞り上に結像しないように配置され、かつ前記照明レンズ群の位置及び強度は、前記荷電粒子源を物面、
光軸をZ軸とし、
該物面の位置z=z0で、
前記物面において前記光軸と交わる点を起点とし、
h(z0)=0かつh’(z0)=dh(z0)/dz=1
となる近軸軌道h(z)からのずれを表わす球面収差軌道をs(z)とした時、
前記絞りの位置z=zaで、
s(za)=0
を満足するように設定されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記荷電粒子源の像を、前記照明レンズ群の絞り側に最も近いレンズから見て物面側に焦点位置に結像されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記照明レンズ群の前記荷電粒子源に最も近いレンズ群は、静電レンズであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記照明レンズ群は第1レンズ、第2レンズ、第3レンズの順にこれらが配置され、かつ前記第2レンズと前記第3レンズとの間にブランカーが配置され、記2レンズと前記第3レンズとの間に前記荷電粒子源の像を結び、前記ブランカーより前記荷電粒子源側、かつ前記荷電粒子源の像より前記荷電粒子源側に制限絞りを設け、前記ブランカーによるブランキング時の漏れビームを抑制することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記照明レンズ群は第1レンズ、第2レンズの順にこれらが配置され、かつ前記第1レンズと前記第2レンズとの間にブランカーが配置され、前記第1レンズと前記第2レンズとの間に前記荷電粒子源の像を結び、前記ブランカーより前記荷電粒子源側、かつ前記荷電粒子源の像より前記荷電粒子源側に制限絞りを設け、前記ブランカーによるブランキング時の漏れビームを抑制することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
前記絞りは少なくとも初段の絞りとそれより後段の絞りを有する複数枚の絞りからなり、
前記荷電粒子源の引出電極に由来する散乱電子を遮蔽する制限絞りを、
前記荷電粒子源の引出電極の開口に関する射出瞳を構成しうるエネルギーを持つ散乱電子に対して、前記初段絞りより前記荷電粒子源側の光学的に共役関係にある位置より前記初段絞り側に配置させ、かつ、
前記制限絞りの開口径を、前記荷電粒子源の引出電極の開口に関する射出瞳を前記初段の絞りの前記初段以外の絞りの開口の前記初段の絞りへの写像と前記初段の絞りの開口との重なり部分の外接円の中心から見込む角度が前記制限絞りの開口に関する射出瞳を前記外接円の中心から見込む角度より大きくなるように決定し、かつ、
前記荷電粒子源の引出電極の開口径を、前記荷電粒子源の引出電極の開口に関する射出瞳が前記初段の絞りの外接円より大きくなるように決めたことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
前記散乱電子を遮蔽する制限絞りの位置を、前記エネルギーを持つ散乱電子にうち、最小のエネルギーを持つ電子に対して、前記初段の絞りの前記荷電粒子源側に位置するレンズの物側焦点位置とすることを特徴とする請求項8記載の荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−49120(P2012−49120A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166918(P2011−166918)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】