説明

荷電粒子線装置

【課題】荷電粒子線の光学系の光軸に垂直な平面内、もしくは少し傾斜した平面内における回転機構をもった装置の回転操作に伴って発生する観察・加工位置の移動の補正を簡便かつ高精度に実現すること。
【解決手段】荷電粒子線装置における試料ホルダー、絞り装置、バイプリズムなどの、当該回転機構の2次元位置検出器とコンピュータ制御による駆動機構を利用し、さらにコンピュータの演算能力を利用することによって該平面内の回転に伴う移動量を演算によって求め、これを相殺させる様に駆動、制御を行なう。また、ひとつの入力によって複数の回転機構を互いに関連をもって操作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡、イオンビーム加工装置など荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置では、試料の観察もしくは加工を行なう際には、荷電粒子線光学系の光軸に対して、その観察・加工に供する試料の位置、バイプリズム等の位置を、観察・加工に好適な状況に設定することが必要である。それには試料等が位置する平面内での回転を必要とすることもある。そのため、荷電粒子線の光学系の光軸に垂直なXY平面内、もしくは、少し傾斜した平面内において回転可能な機構をもった装置として、電子顕微鏡等における回転型試料ホルダー、電子線ホログラフィー顕微鏡等における回転型電子線バイプリズムホルダーなどの回転型ホルダーが実用化されている。試料の位置、バイプリズム等の位置を調整する場合は、操作者は、これら回転型ホルダーを荷電粒子線光学系の光軸に対して所定の関係になるように、X軸、Y軸方向(荷電粒子線装置の光学系の光軸をZ軸とする)に観察画面を見ながら、微動させることで容易に調整することができる。
【0003】
しかし、観察・加工を行ないたい試料の位置や、バイプリズム等の位置の調整が回転を伴うときは、調整は煩雑である。なぜなら、荷電粒子線光学系では観察・加工を行ないたい部分を光軸上に配置するように調整することが通常であり、一般に、この位置は回転型ホルダーの回転機構の回転中心とは一致しない。このような光学系に於いて回転を伴う操作を行なった場合には、この回転操作に伴って回転平面内で、試料やバイプリズムの着目している位置の移動が発生し、観察・加工を行ないたい試料の位置や、バイプリズム等の位置がずれることになる。このずれに対しては、操作者は、目視により当該部分が観察視野、あるいは、加工位置から外れないように、試料ホルダーやバイプリズムホルダーの回転操作を行なうたびに、回転操作に伴う位置ずれをXY平面内でX軸、Y軸方向に移動させ補正している。
【0004】
この回転操作に伴う補正操作は手間のかかる操作ではあるが、荷電粒子線装置では回転操作自体があまり頻度の高い操作ではないため、回転操作とXY平面内での補正操作とは互いに関連をもって制御された例は無く、操作者が当然行なう調整作業として受け入れられているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
荷電粒子線で試料を観察し、あるいは、加工する場合に、単に観察・加工を要する試料位置が荷電粒子線光学系の光軸に対してずれていると言う場合には、上述したように、光軸に垂直な平面内でX軸、Y軸方向に移動させ補正すれば良い。しかしながら、電子線ホログラフィーを考えると容易に分かるように、例えば、試料ホルダーの参照波の通路となる位置に塵が付着している場合には、単純にX軸、Y軸方向に移動させただけでは、適当な試料位置が選べず、回転を伴う操作が必要となる場合がある。この場合には、試料ホルダーの回転に伴うX軸、Y軸方向の修正操作が必要となるだけでなく、場合によっては後述するように、他の電子線バイプリズム、対物絞り、制限視野絞り等の荷電粒子線調整装置にも回転操作が必要となる。
【0006】
その他、例えば、本願の発明者らにより紹介されたAPPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.84, No. 17, 26 April 2004や、本願の発明者らによる特願2004−027274号に開示された2段電子線バイプリズム干渉法による干渉縞の方位角コントロール、あるいは本願の発明者らによる特願2004−046633号に開示された3段電子線バイプリズム干渉法のように、電子線バイプリズムが多段となると、上述した回転操作に伴うXY平面内での移動の補正は煩雑かつ多数回必要な操作となる。
【0007】
このような現状に鑑み、操作者が電子線バイプリズム等を回転させる等の回転操作を行ったとき、その回転操作の指令角度、または実際に回転させた角度を検出して、その回転にともなって必要となるXY平面での補正を自動的に行なえるものとすることが望まれる。さらに、これに伴って、他の電子線バイプリズム等の回転、さらに、その補正が必要なら、これらを連動して操作できるものとすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
近年開発・製造される荷電粒子線装置における試料ホルダー、可動絞り装置、電子線バイプリズムなどは、2次元位置検出器とステップモータなど駆動部を備え、コンピュータ制御により使用する機構となっていることが多い。このことに着目して、位置検出器とコンピュータ制御による駆動機構を利用し、さらにコンピュータの演算能力を利用して、平面内の回転操作に伴う位置ずれを相殺するように必要な回転機構のXY平面内での位置の補正動作を行なわせる。また、ひとつの入力によって複数の回転機構を互いに関連をもって操作させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、荷電粒子線装置の操作者が、回転型試料ホルダー等回転機構を持った装置において回転操作に伴う位置ずれを煩雑な操作によって動作させることが必要なくなるので、回転機構を持った装置の操作性と操作精度を向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下は試料ホルダーを例に説明を行なうが、他の回転機構を持った装置においても同様である。
【0011】
図1(A)−(C)は試料ホルダーの回転操作とこれに伴って必要となる補正操作を説明する図である。10は試料ホルダーである。試料ホルダー10は、ホルダー板1と端部に設けられた回転可能な試料保持部2とよりなる。3は試料保持部2の回転中心である。4は試料保持部2に載置された試料である。5は試料4の観察、あるいは、加工点である。ここで、一点鎖線で示す光学系の光軸6をZ軸として荷電粒子線装置に固定された座標系をX軸,Y軸で表す。また、この試料ホルダー10に固定されて、ホルダーと共に水平移動する座標系をx軸,y軸で表わす。試料ホルダー10のXY平面内の移動は回転機構とは独立して行なわれるものとする。また、簡単のため荷電粒子線装置に固定された座標系のXY平面(Z=0の平面)と試料ホルダー10とともに移動する座標系のxy平面(z=0の平面)は光軸上同じ高さに位置しているとする。言い換えれば、蛍光板、もしくはモニター等の画像観察・記録装置の中心がXY平面の原点に位置して不動であり、試料位置が相対的にxy座標とともに移動できると考えればよい。
【0012】
試料ホルダー10には、図1(A)に模式的に示すように、ホルダー板1をX軸,Y軸のそれぞれの方向に移動させるための駆動装置7,8が設けられ、さらに、回転可能な試料保持部2には、これを回転させるための駆動装置9が設けられる。それぞれの駆動装置は、操作者の与える信号に応じてコンピュータによって駆動される。また、ホルダー板1と荷電粒子線装置の間には位置検出器7’,8’が付加されていて、ホルダー板1の位置が検出される。必要に応じて、駆動装置9には回転角検出器9’が付加されていて、試料保持部2の回転角が検出される。すなわち、試料ホルダー10が荷電粒子線装置に装着され、あるいは、駆動装置7,8により移動されたときのXY平面内の位置が位置検出器7’,8’で検出される。試料保持部2の回転角は駆動装置9に付加された回転角検出器9’により検出される。このとき試料内の観察・加工に供される位置は常にXY平面の原点を中心に含む領域であるため、試料内の観察・加工に供される位置は改めてホルダーに固定された座標系の位置(x,y)で表記するのが都合よい。
【0013】
図1(A)において、試料4の観察、あるいは、加工点5が、ホルダーに固定されたxy座標系の点(x,y)にあり、試料保持部2の回転中心3はxy座標系の点(x,y)にあるとする。これは、より一般化のため、xy座標系の原点(0,0)と回転中心軸とは一致しないとしたからである。
【0014】
図1(B)は、駆動装置9によって試料保持部2に回転角θの回転を与えた結果を示す図である。観察・加工点5の位置(x,y)は、試料等の回転機構の回転中心3(x,y)を中心として回転し、xy座標系における点(x,y)に移動する。
【0015】
図1(C)は、回転角θの回転に伴う移動をX軸方向、Y軸方向への移動による補正で相殺するために、ベクトル量Δ=(x−x,y−y)の移動を行なった結果を示す図である。それぞれの方向への成分(Δx,Δy)は、式(1)、式(2)にて表される。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
さらに、XY座標系におけるXY平面と回転機構のxy平面とが、角度を持っている場合に一般化しておく。図2(A)は、図1(A)と同じ図である。図2(B)は、この状態から、例えば、サイドエントリー型試料ホルダー10のホルダー板1の傾斜を想定し、xy平面がy軸を中心に、角度ψだけ傾斜している場合を考えた図である。図に破線で示すのは傾斜角ψが0の状態である。図2(C)は、図2(B)に示すように傾斜したホルダー板10を回転させた結果を示す図であり、図1(C)と対応する図である。この場合、回転による位置ずれの補正のためのy軸方向の移動量Δygは上述と変わらないが、x軸方向の移動量Δxgには傾斜角ψ分だけ修正が必要となる。これを式(3)、式(4)に表す。
【0019】
【数3】

【0020】
【数4】

【0021】
ここで、光軸上の位置、すなわち観察・加工位置(x,y)のZ軸方向の位置(高さ)も変化するが、これはフォーカス(焦点)を合わせることにより光学系で補正するものとする。また、荷電粒子線と観察・加工位置(x,y)との成す角は、回転の前後で異なることに注意を要する。すなわち、傾斜角ψが0であれば、荷電粒子線は常に試料4の平面に垂直に入射するのに対して、傾斜角ψが0でなければ、回転の前後において、荷電粒子線は試料4の平面に垂直からずれた互いに異なる角度で入射することになる。この角度の違いは原理的なもので、これを補償するためには、荷電粒子線が試料4に入射するよりも前方において荷電粒子線に対して偏向を与えることが必要となる。
【0022】
本発明による回転に対する補正の手順を列挙すると、以下のようになる。
(1)回転機構の回転中心座標(x,y)の検出:上述したように、回転機構の回転中心3の座標(x,y)は荷電粒子線の光学系の光軸と一致している保証は無い。したがって、試料ホルダー10の試料保持部2に試料を載置した後、試料保持部2に対して適当に回転操作を行って回転機構の回転中心3の座標(x,y)を求める。例えば、試料4がセットされたときの試料の画像内に任意に2点A,Bを定め、θだけ回転させたときの試料の画像内の同じ2点をA’,B’とするとき、線分AA’と線分BB’の垂直二等分線の交差する位置を見つければ、この点が回転中心3の座標(x,y)となるので、操作者は試料4がセットされたときの試料の画像内の任意の2点A,Bをカーソルを移動させるなどして指定して画面に表示し、この点の座標をコンピュータに読み込ませる。次いで、試料保持部2をθだけ回転させた後、先に指定した試料の画像内の任意の2点A,Bの回転後の位置点A’,B’を指定して画面に表示し、これの座標をコンピュータに読み込ませる。このようにして得られた4点の座標データからコンピュータは回転中心3の座標(x,y)を計算できる。表示した各点や線分AA’などの補助線は必要があれば画面上に図示すればよいし、不要となれば消去すればよい。
(2)光軸(荷電粒子線の透過点)に一致している観察もしくは加工点(x,y)の検出:表示されたモニター上の試料像が研究もしくは作業目的に応じて、観察・加工を行ないたい場所であるとき、位置検出器7’,8’が与える位置信号が観察もしくは加工点(x,y)となる。
(3)回転角θの入力、もしくは、実際に回転した後の回転角θの検出:駆動装置9に意図する試料保持部2の回転角θを与える。または、回転角検出器9’の信号を利用して動作後の回転角θを検出すればよい。
【0023】
ここまでの手順により、(x,y)、(x,y)、θのそれぞれの値が既知となる。ただし、回転角検出器9’を用いるときは、θは動作後に検出する。これに続けて、以下の手順により、回転に伴う位置補正が完了する。
(4)上記、式(1)、式(2)による補正移動量をコンピュータにより演算する。
(5)上記(4)に基づいた結果によりコンピュータから駆動装置7,8に信号を送って補正のための移動を行なう。この結果、回転後の位置(x,y)が当初の光軸の位置(x,y)に一致する。
(6)上記回転・補正移動後の点(x,y)を新たな光軸の位置(x,y)とみなす。
【0024】
新たな回転操作が必要となったときは、そのたびに、上記(3)から(6)の手順を順次繰り返せばよい。この手順を踏めば、いかなる方位角の回転に対しても観察・加工位置を常に荷電粒子線が透過する点(光軸と試料平面との交点)に一致させることができる。以上の操作は回転機構を持った装置各々において共通である。この操作を、荷電粒子線の流れの方向(Z軸方向)に備えられる複数の回転機構装置に連続して作用させれば、結果的にそれらの装置を連動させることが可能となる。
【0025】
以下、電子顕微鏡を例に解説する。
【0026】
図3は本発明を適用した2段電子線バイプリズムを備える電子顕微鏡の構成を示す模式図である。10は試料ホルダー、20は対物絞りホルダー、30は制限視野絞りホルダー、40は第1電子線バイプリズムホルダー、50は第2電子線バイプリズムホルダー、60は観察面であり、電子線の流れ(Z軸6)に沿って、順次配置されるが、煩雑を避けるため複数の拡大レンズ等電子光学上の部品を省略して描いている。試料ホルダー10の前段に荷電粒子線源120および照射光学系130が設けられており、光源(クロスオーバ)100を形成している。試料ホルダー10の後段に対物レンズ71が、制限視野絞りホルダー30の後段に第1拡大レンズ72が、第1バイプリズムホルダー40の後段に第2拡大レンズ73が、それぞれ、設けられている。110は真空容器であり、この中に上述の各種ホルダー、荷電粒子線源、照射光学系、各種レンズ、観察面等が設けられる。
【0027】
試料ホルダー10については、図1、図2で説明したが、対物絞りホルダー20、制限視野絞りホルダー30、第1電子線バイプリズムホルダー40、第2電子線バイプリズムホルダー50のそれぞれも、試料ホルダー10と同様に、参照番号1および2に対応するホルダー板と回転部とを備える。また、XY座標系のXY平面で、ホルダー板をX軸、Y軸方向に駆動し、回転部を回転させる参照番号7,8および9に対応する駆動装置と参照番号7’,8’および9’に対応する位置検出器および回転角検出器とを備える。なお、本明細書中で「ホルダーを回転させる」あるいは「ホルダーの回転中心」と言うときは、ホルダーの回転部を回転させること、あるいは、ホルダーの回転部の回転中心を意味する。
【0028】
図3では、図が煩雑となるので駆動装置と位置検出器、回転角検出器の表示は省略し、これに代わるものとして、ボックス201−205を表示し、各ボックス201−205と各ホルダーとを3本の線で結んだ。ここで、3本の線としたのは、X軸、Y軸方向に駆動する2つの駆動装置と回転部を回転させる1つの駆動装置、およびこれらの位置検出器の3要素がそれぞれ独立であり、独立に動作することを意味するものとするためである。これら駆動装置と位置検出器、回転角検出器を代表するボックス201−205は制御用コンピュータ300から駆動系マイコン310−310を介して与えられる操作信号を駆動装置に伝え、ホルダーを駆動すると共に、位置検出器、回転角検出器の検出する信号を制御用コンピュータ300に戻す機能を果たす。320,330は制御用コンピュータ300の入力手段、表示装置である。
【0029】
なお、ここでは、図2(B)で説明したような試料ホルダー10がψだけ傾いている場合については省略した。この傾きに対応するものとする場合には、ホルダー板1の傾きを制御する駆動装置とその回転角検出器を備えるものとし、他の駆動装置とその位置検出器、回転角検出器による制御と同様に、制御用コンピュータ300により制御すればよい。
【0030】
観察面60に対して画像入力装置(例えばカメラ)410が配置され、この出力は画像観察モニター420に表示され操作者が見ることができるとともに、画像記録装置(例えばビデオ等)430により、データとして記録できるものとされる。さらに、画像観察モニター420には、操作者が表示画面上に、入力手段、例えば、マウスを使用して任意の位置に点を指定して表示することができ、制御用コンピュータ300は、この座標を読み取ることができる機能が備えられる。
【0031】
操作者は試料をセットした状態で画像観察モニター420を見ながら、観察の目的が達成できるように、制御用コンピュータ300の入力手段320を介して操作信号を入力する。制御用コンピュータ300には、必要なプログラムが備えられ、操作信号に応じた操作量を演算して駆動装置に送る。また、駆動装置の動作結果は位置検出器、回転角検出器により検出されてフィードバックされる。さらに、画像観察モニター420の表示画面上のデータが、上述した回転中心の検出のように、必要により、制御用コンピュータ300に導入される。制御用コンピュータ300の表示装置330には、操作者が与えた信号や電子顕微鏡の動作条件、電子顕微鏡の動作状況が表示され、操作者の操作により画像観察モニター420に現れた変化に対応した次の操作のための情報として利用される。
【0032】
図4は操作者の操作に関連する制御用コンピュータ300と各ホルダー10−50との関係をより具体的に説明するためのブロック図である。制御用コンピュータ300の入力手段320は、ここでは、一般的なキーボードおよびマウスに加え、各ホルダーの回転指令を操作者の回転操作で与えるための、また水平移動にもつまみ操作を用いるための操作つまみを備えるものとした。340は読み取り用のマイコンであり、操作者が操作つまみを操作した結果を制御用コンピュータ300が利用できる信号に変換する。制御用コンピュータ300の本体は、中央演算処理装置(CPU)とプログラム格納メモリ、情報格納メモリおよびワークメモリがバスで接続され、操作者の与える信号に応じた処理を行って操作量を演算する。得られた操作量は駆動系マイコン310−310を介して駆動装置に送られる。ここではホルダーとして試料ホルダー10と第1電子線バイプリズム40のみを示した。試料ホルダー10については図1、図2で具体的に説明した。第1電子線バイプリズム40を簡単に説明すると、試料ホルダー10と同様に、ホルダー板1と回転部2’とよりなる。回転部2’の内部は中空にされ、この中空部を電子線が通過できる。中空部の中央に電子線バイプリズムのフィラメント電極41が設けられ、両端部にフィラメント電極41に平行の接地電極42,43が設けられる。フィラメント電極41と、接地電極42,43とは、回転部2’が回転するとき、一体として回転させられる。フィラメント電極41に外部より電圧を与えて電子線を偏向させる。
【0033】
表示装置330と操作者による回転操作について基本的なことについて説明する。ここでは、操作者による回転操作がなされるときの制御用コンピュータ300の表示画面330および画像観察モニター420の表示例を示す。表示画面330では回転操作の対象となるホルダーが、実際の電子顕微鏡の配置と同じ順序で、試料ホルダー、対物絞りホルダー、制限視野絞りホルダー、第1電子線バイプリズムホルダー、第2電子線バイプリズムホルダーの順に表示される。それぞれのホルダーごとに、回転角度とその値の増減(例えば、図1で左回りを増(+)、右回りを減(−)とする)が指定できるようにし、これに対応した表示をする。ここでは、初期設定として、すべてのホルダーが回転角度5°とされている状態を表示した。操作者は、回転角度を別の値にしたいときは、変更するホルダーの回転角度の値を入力手段320から希望の値に変更できる。回転角度の増減については表示されている四角の表示をクリックして指定し、クリックに応じて増減することもできる。1クリックに対応する回転角度の増減の変化量は別に任意に設定できる。回転操作は、操作者の回転操作で与えるための操作つまみにより行なうこともできる、この場合には、例えば操作者は回転の「任意」を選択して操作つまみを操作すれば、操作角がマイコン340により読み取られて、制御用コンピュータ300に与えられる。
【0034】
さらに、それぞれのホルダーの回転に対してどのホルダーを連動させるかはリンクの「全」または「下」を選定することにより指定することができる。リンクを設定しないとき、あるいは、解除するときは、いずれも選択しなければ良い。なお、リンクで指定されたホルダーは、操作の対象となったホルダーの回転に対応して連動するものとすれば良いが、リンクは上段から下段へリンクするのみで下段から上段へはリンクしないものとしても良い。このためには、例えば、配列の順によらず全てを連動させるときはリンクの表示の「全」を選び、上段から下段へ配列順を持っているもののみリンクするのみとする場合には「下」を選ぶものとすれば良い。このようにすれば、例えば、「下」でリンクAが選定されているとき、試料ホルダー10の回転指令に対して制限視野絞りホルダー20、第1電子線バイプリズム40は連動するが、制限視野絞りホルダー20の回転指令に対しては第1電子線バイプリズム40のみが連動し、試料ホルダー10は連動しない。このようにすれば、回転に対する各要素の影響を個別に判断することができるだけでなく、1つのリンク表示で事実上複数のリンクを取り扱うことが可能となり、表示モニターのスペース節約と表示の煩雑を避けることができる。
【0035】
ここでは、リンクはA,B,CおよびDが選定できる例を示す。リンクAは試料ホルダー、制限視野絞りホルダーおよび第1電子線バイプリズムホルダーが連動するものであることが丸印の表示により明示されている。同様に、リンクBは試料ホルダー、第1電子線バイプリズムホルダーおよび第2電子線バイプリズムホルダーが、リンクCは試料ホルダー、対物絞りホルダーおよび制限視野絞りホルダーが、それぞれ、連動するものであることが丸印の表示により明示されている。リンクの設定は、よく行なう可能性が高い連動操作については、例えばA〜Cの様に初期設定とすればよいが、すべてを表示させるのが画面を見にくくする場合には、代表的なものに限り、その他の連動は、操作者が設定できるようにすれば良い。そのためには、例えば、リンクDを選択し、角度の増減の指定と同様に連動させるホルダーを指定できるようにすれば良い。それぞれの回転機構を個別に操作したい場合には、すなわち、リンクを設定しなければ良い。リンクの選定を操作者が入力手段320から入力したときは、リンクA−Dのいずれか、選定されたリンクの文字の背景の色を変えるなどして、明示できるようにすれば良い。
【0036】
回転操作に先行して回転機構の回転中心座標(x,y)の検出をするが、そのためには、上述したように、画像観察モニター420画像を利用して行なえばよい。
【0037】
以上、表示装置330、および各操作の方法は一例であり、ここに記載した限りではない。
【0038】
以下、ホルダーの回転に関するリンクに関して、操作者の操作とコンピュータとの動作の関係を説明する。ここでは、試料ホルダー10に試料が載置されて、試料ホルダー10、対物絞りホルダー20、制限視野絞りホルダー30、第1電子線バイプリズムホルダー40および第2電子線バイプリズムホルダー50が、観察のために、電子顕微鏡の鏡体内に挿入され、荷電粒子線源120および照射光学系130、対物レンズ71、第1拡大レンズ72、および、第2拡大レンズ73が、それぞれ、初期状態に設定されて電子顕微鏡が正常に動作する状態からスタートするものとする。
【0039】
(回転中心の決定)
図5は試料ホルダーの回転中心の決定のためのフローを示す図である。図5において、ステップ501,503および505は、上述した手順(1)から(3)を実行する処理である。ここでは、試料ホルダーの回転中心を求める処理であるが、全てのホルダーについて回転中心位置(x,y)を求めることが必要である。そのため、リンクを設定して連動させる場合には、事前に全てのホルダーについて回転中心を求める処理を纏めて実行する。この場合、ホルダーごとに、試料像と同様に、モニター画面420に現れる各ホルダーの像に着目した2点を画面に表示してコンピュータに入力、回転操作、回転後の像に着目した2点を画面に表示してコンピュータに入力することを繰り返すことになる。なお、この段階では、連動は解除しておくことが必要である。
【0040】
(リンク1:試料回転の場合)
所定の電子回折波を狙って結像を行なう場合、通常は対物絞りのみを回転させればよいが、例えば、観察面60に置く検出器(フィルムなど)側に方向依存性がある場合には、試料形状をそれに合わせなければならないため、試料、絞りの双方を連動させなければならない可能性が生じる。
【0041】
[I]単結晶試料の場合
試料、対物絞り、制限視野絞りが、光軸上に挿入済みであるとともに、上述したように、試料ホルダー10の回転中心(x,y)、対物絞りホルダー20の回転中心(x,y)および制限視野絞りホルダー30の回転中心(x,y)が求められているとする。ここで、回転中心(x,y)の表現は図1、図2で試料ホルダー10について説明しただけであるが、その他のホルダーについても、同じ座標表現が適用できるので、同じ表現とする。他の座標についても同様である。以下、図6を参照しながら説明する。連動に関係しない、例えば電子線バイプリズム等は、以下の作業を妨げない適切な位置に配されているものとする。
(1)操作者は画像モニター420の画像を見ながら、試料ホルダー10をXY平面で移動させて観察したい場所、すなわち、観察に供する試料の位置(x,y)を定め、例えば、エンターキーを押して、試料の位置(x,y)をコンピュータに入力する(ステップ601)。
(2)操作者は観察記録する倍率を定め、入力手段320を介して制御用コンピュータ300に入力する(ステップ603)。これにて光学系各レンズの使用条件(倍率、焦点距離等)が定まる。
(3)用いる電子線の波長と対物レンズの焦点距離により、対物絞りホルダー20の回転による位置ずれ補正等の移動距離が定まる(ステップ605)。
(4)ステップ603にて対物レンズの倍率が定まっているので、試料ホルダーの水平移動距離に対する、制限視野絞りホルダーの移動距離の比が定まる(ステップ607)。なお、ステップ607と同じ結果はレンズの倍率からではなく、機械的に求めることも可能である。すなわち、操作者が画像モニター320を見ながら、試料像内のある1点を視野中の定まった距離を動かすのに要した試料ホルダー10の機械的な移動量と、操作者が画像モニター320を見ながら、制限視野絞りの像上に定めた任意の1点が、視野内の同一距離を移動するのに要した制限視野絞りホルダー30の機械的な移動量より、制御用コンピュータ300が各座標系の相対的な倍率を求める。但し、この場合、各ホルダーの微動機構は等価であると仮定している。
(5)操作者が画像モニター320を見ながら、試料形状を確認し、適切な形状(方向)の制限視野絞りを選定(ステップ608)の上、制限視野絞りを回転および水平移動させ、試料形状に合わせこむ(ステップ609)。これにて、制限視野絞りの水平位置(x,y)が定まる。
(6)操作者は回折像観察に切り替え(ステップ614)、画像モニター420を見ながら、電子回折像にて方位を確認し、適切な形状(方向)の対物絞りを選定(ステップ610)の上、電子回折像方位に合わせて対物絞りを回転および、水平移動させ、電子回折像に合わせ込む(ステップ611)。これにて、対物絞りの水平位置(x,y)が定まる。
【0042】
上記(1)−(6)の手順により試料、対物絞り、制限視野絞りの相対関係が確定する。(7)操作者は試料像の観察状態に戻し(ステップ612)、図4に示すリンクCを設定(ステップ613)して、モニター画面420を見ながら、これらを、観察目的にとって、もっとも有効な方位となるべく、3つを連動して回転・水平移動させることができる。すなわち、試料像観察に対して必要な回転角度を入力(ステップ615)すれば、すべての作業が自動的に終了する。
【0043】
なお、図3では、制限視野絞りおよび対物絞りの選定は説明しなかったが、通常電子顕微鏡には、これらが複数個設けられており、試料の形状等に応じて選択して使用される。上述の説明で、ステップ608およびステップ610で行なわれる制限視野絞りおよび対物絞りの選定は、この通常良く行なわれる作業のひとつである。
【0044】
[II]上記単結晶試料の場合で、観察場所を変更する場合
モニター画面420を見ながら、操作者は新しい観察場所を求めて、試料ホルダー10をX,Y平面で移動させて、新しい観察に供する試料の位置(x,y)を定める(ステップ601)。よほど大きく観察倍率を変更しない限り、対物レンズの倍率は変更する必要がない(ステップ607は不要)。試料の形状に合わせて、制限視野絞りのサイズおよび/あるいは形状を変更(ステップ608)し、回転・移動により合わせ込み(ステップ609)をやり直す。単結晶試料の場合、試料の結晶方位は観察場所によらないので、観察場所が変わっても対物絞りの変更は不要(上記[I]単結晶試料の場合の手順(6)の操作(ステップ610,611))は不要である。以降ステップ613,615を行なって作業を完了する。
【0045】
対物レンズ71の倍率を大きく変更して観察する場合には、ステップ603以降の処理を全て行なう。
【0046】
[III]多結晶試料の場合で、観察場所を変更する場合
上述した単結晶試料に代えて、多結晶試料を観察する場合の手順は、図6を参照しながら説明したのと同様である。ここでは、観察している多結晶試料が、上述した手順で観察された後、観察場所を変更する場合について述べる。
【0047】
多結晶試料では、試料位置によって結晶方位が異なるので、対物絞りの形状、サイズも見直しの対象となる。したがって、試料のモニター画面420を見ながら、操作者は新しい観察場所を求めて、試料ホルダー10をXY平面で移動させて、新しい観察に供する試料の位置(x,y)を定めた後(ステップ601)、ステップ608以降の処理を実行すれば良い。よほど大きく観察倍率を変更しない限り、対物レンズの倍率は変更する必要がない(ステップ607は不要)のは、[II]単結晶の試料の観察場所変更と同じである。
【0048】
対物レンズ71の倍率を大きく変更して観察する場合には、ステップ603以降の処理を全て行なうのも単結晶の試料の位置変更と同じである。
【0049】
(リンク2:干渉光学系の場合)
3段電子線バイプリズム干渉計の場合に関して、図7を参照して説明する。試料は、あらかじめ挿入してあり、モニター画面420には、電子顕微鏡の観察画面としてのおよその観察位置の試料像が表示されていて、倍率は確定している状態から始めるものとする。また、各々の電子線バイプリズムの回転補正は、回転中心が求まれば、実行可能な状態にあるとする。なお、説明しない対物絞り等が以下の作業を妨げない位置に配されているのは、上述の(リンク1)の場合と同様である。
【0050】
[I]3つの電子線バイプリズムが機械的に同等とみなせるものの場合
3つの電子線バイプリズムは同等の状態(triplicate)で、電子線への偏向特性、フィラメント電極の太さ、微動機構の初期設定などはすべて同じとする。
【0051】
まず、上段電子線バイプリズムを試料の像面に挿入し、図5で説明したステップ501,503および505を実行して回転中心(x,y)を求める(ステップ701)。この際、操作者が与える画像上の任意の2点はフィラメント電極上に付着したごみなどを手がかりとする。次いで、中段電子線バイプリズムを試料の像面に挿入し、同様にして、回転中心(x,y)を求める(ステップ703)。さらに、下段電子線バイプリズムを、例えば試料の像面と光源の像面の間に挿入し、同様にして、回転中心(x,y)を求める(ステップ705)。下段電子線バイプリズムのフィラメント電極へは、フォーカスは合わないが、影を見ながらフォーカスの合っている、上段、中段電子線バイプリズムと同様の作業は可能である。
【0052】
次いで、フィラメント径が同じと仮定しているので、モニター画面420に現れているフィラメントの影の像のサイズ(径)を求めて、コンピュータに入力する(ステップ707)。これにより各々の相対倍率が定まり、コンピュータは上中下3段の電子線バイプリズム各々の水平移動距離の相対比を求めることができる(ステップ709)。
【0053】
次いで、操作者はモニター画面420を見ながら、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極の観察に供したい場所を見つけコンピュータに入力(ステップ711)して、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極の観察に供する場所(x,y)を定める。
【0054】
次いで、操作者はモニター画面420上の中段電子線バイプリズムのフィラメント電極の、上段電子線バイプリズムのフィラメントに対する角度を定めてコンピュータに入力(ステップ713)する。これは、先の特願2004−046633号で説明したように、90度とするのが最もよいが、この限りではない。その後、モニター画面420を見ながら、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極の観察に供したい場所を見つけ(ステップ715)、観察に供する中段フィラメント電極の場所(x,y)を定める。
【0055】
次いで、操作者はモニター画面420を見ながら、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極の、上段電子線バイプリズムのフィラメント、または中段電子線バイプリズムのフィラメントに対する角度を定める(ステップ717)。(下段電子線バイプリズムのフィラメント電極の角度は、先の特願2004−046633号で説明したように、干渉領域の大きさの縦横比を定めるので、試料サイズによって変更することがあるが、一旦、ここで定めておく。)その後、モニター画面420を見ながら、観察に供したい場所を見つけ(ステップ719)、観察に供する下段フィラメント電極の場所(x,y)を定める。
【0056】
上記ステップ701−ステップ719により3つの電子線バイプリズムの相対関係が確定する。したがって、操作者は図4に示すリンクを3つの電子線バイプリズム間に設定(ステップ721)して、モニター画面420を見ながら、これらを、観察目的にとって、最も有効な方位となるべく、3つの電子線バイプリズムを連動して回転・水平移動させることができる。すなわち、試料のモニター画面420を見ながら上段電子線バイプリズムのフィラメントに対して必要な回転角度を入力(ステップ723)すれば、すべての作業が自動的に終了する。
【0057】
図8はステップ721でリンク設定が指示された後、操作者による回転角度の入力(ステップ723)に対応して連動処理がコンピュータにより実行される状況を説明するフロー図である。まず、リンクの指定が、リンクで指定されたホルダーは、操作の対象となったホルダーの回転に対応して全て連動するものとする表示の「全」が選定されているか否か判定される(ステップ801)。「全」が選定されていれば、図6−図7の手順により得られたデータを基礎にリンクで指定された全てのホルダーを、操作者が操作もしくは指令したホルダーの回転角に応じて回転させ、位置の補正を行なう。「下」が選定されていれば、当該ホルダーより下段にあるリンクで指定されたホルダーを操作者が操作もしくは指令したホルダーの回転角に応じて回転させ、位置の補正を行なう。
【0058】
上述の説明は、電子線バイプリズムのフィラメント電極の太さが等しいとの前提の下になされたが、電子線バイプリズムのフィラメント電極の太さが等しくない場合、さらにはその値が未知の場合の実行手順を説明する。
【0059】
[II]フィラメント電極の太さが既知である場合
操作者は、フィラメント電極の太さが既知である場合は、ステップ707の前の段階で、これをコンピュータに入力する。コンピュータは、ステップ709の処理で、各々の太さが異なるが、各々のフィラメントの影の像のサイズ(径)より、上中下3段の電子線バイプリズム各々の水平移動距離の相対比を求める。ステップ711以下の処理は図7の通りである。
【0060】
[III]フィラメント電極の太さが未知で各々の太さが異なる場合
フィラメント電極の太さが未知で各々の太さが異なる場合には、使用する電子線バイプリズムホルダーの微動機構の初期設定がすべて同じと仮定し、操作者は、ステップ707の前の段階で、モニター画面420を見ながら、各々の電子線バイプリズムホルダーを移動させ、視野中の一定距離を移動するのに要した電子線バイプリズムホルダーの機械的な移動量(操作量)をコンピュータに入力する。コンピュータは、ステップ709の処理で、この機械的な移動量(操作量)より上中下3段の電子線バイプリズム各々の水平移動距離の相対比を求める。基本的に制限視野絞りに行なった処理(手順[I]単結晶試料の場合の(4))と同じ方法である。ステップ711以下の処理は図7の通りである。
【0061】
上記の他、コンピュータは、ステップ709の処理で、電子光学系より各々のフィラメント電極が挿入された位置の倍率が設定値として知られていれば、その値を元に相対比を求められる。
【0062】
なお、ステップ723に達して、電子線バイプリズム間のリンクが完成した後の観察で、試料形状により干渉領域の縦横比を変更したい場合は、操作者はステップ721の各々のバイプリズム間のリンクを解除した後、ステップ717の下段電子線バイプリズムのフィラメント電極の角度の設定からやり直せばよい。
【0063】
また、図3には表示しなかったが、実際の電子顕微鏡では、光学系に多数の電子レンズが配置される。ステップ723に達して、各電子線バイプリズム間のリンクが完成した後の観察で、これらの電子レンズにより倍率を変更する場合、下段電子線バイプリズムよりも2つ以降観察面60側にある電子レンズにて倍率を変更した場合には、各電子線バイプリズムの相対関係はほぼ不変とみなせるから、そのまま観察を続ければよい。しかし、各電子線バイプリズム間または電子線バイプリズムの直上、直下のレンズによって倍率を変更した場合には、各々の電極間の相対倍率が変化する。したがって、操作者はステップ721の電子線バイプリズム間のリンクを解除した後、ステップ707以降の全ての処理を経て、再立ち上げすることが必要である。
【0064】
(リンク3:試料回転および干渉光学系)
試料に対して回転操作を行ないながら、3段電子線バイプリズム干渉計による観察を行なう場合には、上述のリンク1、およびリンク2の両方を立ち上げ、それぞれを用いなければならない。もしくは両方を1つのリンクとしてまとめて取り扱わねばならない。すなわち、操作者は図6および図7に示す処理を実行して観察箇所を定め、干渉計の条件を定めた後に、ステップ613およびステップ721のリンクの設定を1つのリンクとしてコンピュータに入力する。
【0065】
上述したように、本発明によれば、試料ホルダー、可動絞りや電子線バイプリズム等の荷電粒子線調整装置を、荷電粒子線の光学系の光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で回転させる際に、原理的に発生する荷電粒子線の照射位置の移動を、当該装置の位置検出器、駆動装置を利用することによって相殺するように補正し、該平面内のいかなる回転を行なう場合においても、同一箇所を荷電粒子線が透過できる。さらにこれら複数の装置の回転機構を連動させることによって、より簡便かつ高精度に、複数の回転機構をコントロールすることが可能となり、これら複数の回転機構によって構成される荷電粒子線装置が持つ利点を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(A)−(C)は試料ホルダーの回転操作とこれに伴って必要となる補正操作を説明する図である。
【図2】(A)は図1(A)と同じ図、(B)は(A)の状態からホルダー板10のxy平面がy軸を中心に、角度ψだけ傾斜している場合を考えた図、(C)は傾斜したホルダー板10を回転させた結果を示す図であり、図1(C)と対応する図である。
【図3】本発明を適用した2段電子線バイプリズムを備える電子顕微鏡の構成を示す模式図である。
【図4】操作者の操作に関連する制御用コンピュータ300と各ホルダー10−50との関係をより具体的に説明するためのブロック図である。
【図5】試料ホルダーの回転中心の決定のためのフローを示す図である。
【図6】試料ホルダーおよび絞りホルダーを連動させる処理フローを単結晶試料について示す図である。
【図7】3段電子線バイプリズム干渉計のバイプリズムを連動させる処理フローを3つのバイプリズムホルダーが等価な場合について示す図である。
【図8】リンク設定が指示された後、操作者による回転角度の入力に対応して連動処理がコンピュータにより実行される状況を説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0067】
1…ホルダー板、2…試料保持部、3…試料保持部の回転中心、4…試料、5…試料の観察あるいは加工点、6…光学系の光軸、7,8,9…駆動装置、7’,8’…位置検出器、9’…回転角検出器、10…試料ホルダー、20…対物絞りホルダー、30…制限視野絞りホルダー、40…第1電子線バイプリズムホルダー、50…第2電子線バイプリズムホルダー、60…観察面、71…対物レンズ、72…第1拡大レンズ、73…第2拡大レンズ、110…真空容器、120…荷電粒子線源、130…照射光学系、201−205…ボックス、300…制御用コンピュータ、320…制御用コンピュータの入力手段、330…制御用コンピュータの表示装置、310−310…駆動系マイコン、410…画像入力装置、420…画像観察モニター、430…画像記録装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の観察、もしくは、加工に使用される荷電粒子線装置であって、前記荷電粒子線装置の光学系の光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で前記試料を回転可能に保持するとともに前記XY平面内で移動可能に保持する試料ホルダーを備えるとともに、該試料ホルダーを前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させる駆動装置とX方向、Y方向の移動量を検出する位置検出器および前記試料を光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で回転させる駆動装置とを備え、前記試料を回転させた角度θに応じて前記試料ホルダーを前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させて、前記試料の回転に伴う前記試料に対する光学系の光軸位置のずれを補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記荷電粒子線装置の試料を回転可能に保持する試料ホルダーにおいて、前記試料の前記回転角θを検出する回転検出器を備える請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記試料回転に伴う観察もしくは加工に供する試料位置の光学系の光軸位置に対するずれの補正が、
(1)試料回転機構の回転中心座標の検出、
(2)前記試料に対する光軸位置の検出、
(3)前記試料回転角θの入力およびそれによる回転動作、もしくは、実際に回転した後の回転角θの検出、
を基礎として実行される請求項1または2に記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
試料の観察、もしくは、加工に使用される荷電粒子線装置であって、前記荷電粒子線装置の光学系の光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で前記試料を前記XY平面内で移動可能に保持する試料ホルダーを備えるとともに、荷電粒子線の流れの方向に、前記荷電粒子線装置の光学系の光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で荷電粒子線調整装置を回転可能に保持するとともに前記XY平面内で移動可能に保持し、前記荷電粒子線調整装置を前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させる駆動装置とX方向、Y方向の移動量を検出する位置検出器および前記荷電粒子線調整装置を光軸に垂直なXY平面内、もしくは少し傾斜した平面内で回転させる駆動装置とを備え、前記荷電粒子線調整装置を回転させた角度θに応じて前記荷電粒子線調整装置を前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させて、前記荷電粒子線調整装置の回転に伴う前記荷電粒子線調整装置に対する光学系の光軸位置のずれを補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記荷電粒子線装置の荷電粒子線調整装置において、前記荷電粒子線調整装置の前記回転角θを検出する回転検出器を備えることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記荷電粒子線調整装置とは、対物絞り、もしくは制限視野絞りなどの可動絞りに代表される、荷電粒子線光学系上の荷電粒子線の角度分布、空間分布を制限、もしくは変更せしめる単数もしくは複数の装置または機構であることを意味する請求項4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記荷電粒子線調整装置とは、バイプリズムなどの単数もしくは複数の荷電粒子線偏向装置であることを意味する請求項4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記荷電粒子線調整装置が、ホルダー型に構築され、光軸上への着脱、もしくは荷電粒子線装置の真空状態からの着脱を容易ならしめる機構であることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記荷電粒子線調整装置の回転に伴う、前記荷電粒子線調整装置に対する光学系の光軸位置のずれの補正が、
(1)荷電粒子線調整装置の回転機構の回転中心座標の検出、
(2)前記荷電粒子線調整装置に対する光軸位置の検出、
(3)前記荷電粒子線調整装置の回転角θの入力およびそれによる回転動作、もしくは、実際に回転した後の回転角θの検出、
を基礎として実行される請求項4または5に記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記試料ホルダーに加えて、単数もしくは複数の前記荷電粒子線調整装置を備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
前記試料ホルダーと、単数もしくは複数の前記荷電粒子線調整装置を備えた荷電粒子線装置のそれぞれの回転機構において、それら回転機構の全部もしくは選択されたいくつかの回転機構における回転動作と、その回転に伴う光軸からのずれの補正が互いに連動して行なわれることを特徴とする請求項10に記載の荷電粒子線装置。
【請求項12】
前記試料ホルダーと単数もしくは複数の前記荷電粒子線調整装置の回転機構の連動が、
(1)前記各回転機構の回転中心座標の検出、
(2)光学系各レンズの使用条件(倍率、焦点距離等)の確定、
(3)該光学条件における各回転機構の水平移動距離の相対比の算出、
を基礎として実行される請求項11に記載の荷電粒子線装置。
【請求項13】
電子線源、該電子線源から放出される電子線が照射光学系を介して形成する光源、試料を保持し該試料へ該光源から電子線を照射するための試料ホルダー、該試料ホルダーの後段に設けられる対物レンズ、該対物レンズの後段に設けられる対物絞り、該対物絞りの後段に設けられる第1の電子線バイプリズム、該第1の電子線バイプリズムと同段もしくは後段に設けられる第1の制限視野絞り、該制限視野絞りの後段に設けられる第1拡大レンズ、該第1拡大レンズの後段に設けられる第2の電子線バイプリズム、さらに該第2の電子線バイプリズムと同段、もしくは、より後段に設けられる第2の制限視野絞り、その後段にシリーズに配される拡大レンズ系、そしてこれら結像系の最終段に設けられる観察面と、この観察面を観察もしくは記録するための機構を備える電子顕微鏡において、
前記第1もしくは第2、もしくはその両方の電子線バイプリズムが前記電子顕微鏡の光学系の光軸に垂直なXY平面内で移動可能に保持されるとともに、前記XY平面内もしくは少し傾いた平面内に於いて回転可能に保持され、前記第1もしくは第2、もしくはその両方の電子線バイプリズムをそれぞれの位置する前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させる駆動装置とX方向、Y方向の位置を検出する位置検出器を備え、およびそれぞれの電子線バイプリズムを回転させる駆動装置を備え、前記それぞれの電子線バイプリズムを回転させた角度θに応じて前記それぞれの電子線バイプリズムをそれぞれの前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させて、それぞれの前記電子線バイプリズムの回転に伴う前記電子線バイプリズムに対する光学系のそれぞれの光軸位置のずれを補正することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項14】
前記電子顕微鏡の前記それぞれの電子線バイプリズムにおいて、前記それぞれの電子線バイプリズムの前記回転角θを検出する回転検出器をそれぞれ別個に備えることを特徴とする請求項13に記載の荷電粒子線装置。
【請求項15】
前記電子顕微鏡に於いて、対物レンズが複数段のレンズに分離して構成され、該それぞれの対物レンズがそれぞれ独立して焦点距離等レンズ条件を制御できることを特徴とする請求項13に記載の電子顕微鏡。
【請求項16】
前記、複数段に分離された対物レンズ系に於いて、該それぞれの対物レンズの間に、電子線の流れる方向に沿って順に、対物絞り、電子線バイプリズム、制限視野絞りの全て、もしくはこれらのうちのいずれか1つもしくは2つが設置され、それぞれ独立に位置の移動が制御可能であることを特徴とする請求項15に記載の電子顕微鏡。
【請求項17】
前記、複数段に分離された対物レンズの間に設けられた対物絞り、電子線バイプリズム、制限視野絞りの全て、もしくはこれらのうちのいずれかが請求項13に記載の回転可能な機構で構成され、それぞれ他の回転機構とは独立に回転が制御可能であることを特徴とする請求項16に記載の電子顕微鏡。
【請求項18】
前記回転角θを検出する回転検出器を前記それぞれの回転機構がそれぞれ別個に備えることを特徴とする請求項17に記載の荷電粒子線装置。
【請求項19】
前記電子線バイプリズムの回転に伴う該電子線バイプリズムに対する光学系の光軸位置のずれの補正が、それぞれの機構において、
(1)電子線バイプリズムの回転機構の回転中心座標の検出、
(2)前記電子線バイプリズムに対する光軸位置の検出、
(3)前記電子線バイプリズムの回転角θの入力およびそれによる回転動作、もしくは、実際に回転した後の回転角θの検出、
を基礎として実行される請求項13から18のいずれかに記載の電子顕微鏡。
【請求項20】
前記複数のそれぞれに回転機構を備えた電子線バイプリズムのうち、それら全部もしくは選択されたいくつかの電子線バイプリズムにおいて、それぞれの回転機構の回転動作と、その回転に伴う光軸からのずれの補正が互いに連動して行なわれることを特徴とする請求項19に記載の電子顕微鏡。
【請求項21】
前記複数のそれぞれに回転機構を備えた電子線バイプリズムの回転機構の連動が、
(1)前記各回転機構の回転中心座標の検出、
(2)光学系各レンズの使用条件(倍率、焦点距離等)の確定、
(3)該光学条件における各回転機構の水平移動距離の相対比の算出、
を基礎として実行される請求項20に記載の電子顕微鏡。
【請求項22】
電子線源、該電子線源から放出される電子線が照射光学系を介して形成する光源、試料を保持し該試料へ該光源から電子線を照射するための試料ホルダー、該試料ホルダーの後段に設けられる対物レンズ、該対物レンズの後段に設けられる対物絞り、該対物絞りの後段に設けられる第1の制限視野絞り、該制限視野絞りの後段に設けられる第1拡大レンズ、その後段にシリーズに配される拡大レンズ系、そしてこれら結像系の最終段に設けられる観察面と、この観察面を観察もしくは記録するための機構を備える電子顕微鏡において、
前記試料ホルダーが前記電子顕微鏡の光学系の光軸に垂直なXY平面内で移動可能に保持されるとともに、前記XY平面内もしくは少し傾いた平面内に於いて回転可能に保持され、前記試料ホルダーの位置する前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させる駆動装置とX方向、Y方向の位置を検出する位置検出器を備え、および試料ホルダーを回転させる駆動装置を備え、前記試料ホルダーを回転させた角度θに応じて前記試料ホルダーをそれぞれの前記XY平面内でX方向、Y方向に独立して移動させて、前記試料ホルダーの回転に伴う前記試料ホルダーに対する光学系の光軸位置のずれを補正することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項23】
前記電子顕微鏡の前記試料ホルダーにおいて、前記試料ホルダーの前記回転角θを検出する回転検出器を備えることを特徴とする請求項22に記載の電子顕微鏡。
【請求項24】
前記試料ホルダーの回転に伴う該試料ホルダーに対する光学系の光軸位置のずれの補正が、
(1)試料ホルダーの回転機構の回転中心座標の検出、
(2)前記試料ホルダーに対する光軸位置の検出、
(3)前記試料ホルダーの回転角θの入力およびそれによる回転動作、もしくは、実際に回転した後の回転角θの検出、
を基礎として実行される請求項22または23に記載の電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−318734(P2006−318734A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139495(P2005−139495)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】