説明

蒸散量計測装置

【課題】水ストレス下にある植物体が示す低蒸散状態での変化を精度よく連続的にモニタリングする蒸散量計測装置を提供する。
【解決手段】蒸散量計測装置は、水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質材料の一表面に対向電極を形成し、電極間に電圧を印加した状態で電極面とは反対側から蒸散する水蒸気を透過させることで、蒸散する水蒸気量の時間的変化を電極間電流値の変化として示す蒸散水蒸気量センサ素子と、対向電極に電圧を印加し電流の計測を行なう測定信号変換回路と、信号処理回路から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の蒸散状態を葉において直接連続的に高感度にモニタリングする蒸散量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小規模経営、温暖化に伴う栽培環境の変化、品質管理や生産管理のための経済的負担、従事者・後継者の不足、輸入農産物との価格競争など厳しい状況に置かれる日本の農業では、食糧供給、農業生産による地域経済への貢献、一次産業分野への雇用の促進、環境保全機能など農業の持つ多面的な機能を今後も維持強化するために、生産性や作業効率を向上させる有効な方法の開発が強く望まれている。また海外においては農産物市場のグローバル化に合わせた生産規模の巨大化に伴って、農業に利用する資源の消費が急激に拡大していることで、資源の慢性的な不足や枯渇が起こることが危惧されており、これを防止するために何らかの方策を講じておく必要が指摘されはじめている。今後の農業の持続的な発展にはこうした諸問題に対応するための技術の開発が急務となっている。
【0003】
農業生産に関する作業や栽培における資源利用の精度と効率を高める方法として、生産現場で作物の生育状況や栽培環境のセンシングを基にした情報システムの活用が提案されている。栽培作物の生育に関わる植物生理を常時モニタリングし、その結果を基に潅水や施肥を行なうことによって、高品質作物を高い確率で収穫可能にしたり、水や肥料の必要十分量を把握することで、農業生産資源の有効利用や環境負荷の低減を促進することが考えられている。またモニタリングよって高効率な栽培に関する諸条件が明らかになれば、情報通信技術の活用によって農作業の自動化や遠隔化が可能となり、これによって人材や後継者不足などの諸問題の解決や、異分野からの就農を促進するなどの効果がもたらされると期待されている。
【0004】
こうしたモニタリングシステムの導入実現が望まれている例として、潅水制御による果実や野菜の高糖度化がある。これは収穫期のある一定期間、潅水量を制御し植物体に水ストレスを与えることで、糖度が高い高付加価値の作物を収穫するものであり、高効率に高糖度作物を収穫するための適切な潅水量やストレス付加量の把握に植物の水蒸気蒸散量のモニタリングの有効性が示唆されている。
【0005】
植物体の水蒸気蒸散の大半は葉に存在する気孔を通して行なわれる。したがって蒸散状態の計測は葉で直接行なうのが最も確度が高い。現在植物生理学や環境科学研究目的に専用の計測器が供されているが、この計測器では、葉に自立した状態で装着できるように検出部位を小型軽量化すること、蒸散量の変化を時間的に連続して計測すること、計測部位と検出部位間の距離を十分に長くすることが計測原理や装置構造上困難であり、計測は植物が生育している現場に計測器を持ち込み人手によって行う方法に限られている。またこうした計測器は非常に高価であることから、多点同時計測が可能で農業の生産現場に普及が容易な経済性に優れる蒸散量のモニタリング装置を組み上げることは不可能である。
【0006】
発明者は、微細孔が三次元的に高密度に分布する多孔質材料を支持媒体として、孔の内部表面を水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料を適量付着させた基板の片側に金属電極対を形成した素子を用いることによって、多孔質材料を透過する水蒸気量の増減を電圧印加した電極間の電流値の増減として実時間で計測が可能であること見出し特許出願(「水蒸気センサおよび製造方法、水蒸気測定装置、蒸散量測定方法」特願2005−027557)している。この蒸散水蒸気量の実時間計測原理を基にすれば、多孔質材料として柔軟性の高いフィルム状の高分子多孔質膜を用い、かつ半導体材料の付着加工を可溶性の半導体材料の溶液で行なうことによって、センサ素子の軽量化と柔軟性の付与、及び製造コストの低減を図ることができ、軽量フィルム化したセンサ素子により、葉に自立して密着添付することで、葉から直接、連続的に蒸散量の変化が計測できる蒸散水蒸気量センサ素子の作製が可能となる。
【特許文献1】特開2006−214858
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した水ストレス付与による高糖度作物栽培において、適切な潅水量を蒸散量から把握するには、水ストレス下にある植物体が示す低蒸散状態での変化を精度よく連続的にモニタリングする必要がある。一方、農業生産現場での使用を前提とした場合、電力事情や使用時の安全性を考慮すると、電極間には数ボルト程度の低電圧印加状態で使用することが想定される。従って水ストレス下で蒸散抑制状態にある植物の低蒸散状態の変化を連続的にモニタリング可能にする蒸散量計測装置を前記フィルム状蒸散水蒸気量センサ素子を基に構成するには、葉から蒸散される微量水蒸気の拡散を阻害することなく高効率に多孔質感応膜を透過させるような機能を蒸散量センサ素子に付与することに加え、低電圧印加状態で低蒸散状態を計測する際に生じる微小電流を精度よく高感度に計測するための、入出力系と組み合わせることが必要であり、農業の生産現場に広く普及させるためには、この入出力系に関しても回路構成の経済性に優れることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、水ストレス下にある植物体が示す低蒸散状態での変化を精度よく連続的にモニタリングする蒸散量計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蒸散量計測装置は、水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質材料の一表面に対向電極を形成し、電極間に電圧を印加した状態で電極面とは反対側から蒸散する水蒸気を透過させることで、蒸散する水蒸気量の時間的変化を電極間電流値の変化として示す蒸散水蒸気量センサ素子と、対向電極に電圧を印加し電流の計測を行なう測定信号変換回路と、信号処理回路から構成する。
蒸散水蒸気量センサ素子は、空隙率の高いフィルム状の高分子多孔質薄膜に分子状半導体材料を分子層一層程度付着させた感応膜から構成し、
測定信号変換回路は、蒸散水蒸気量センサ素子からの出力電流を電圧変換し、オペアンプを負帰還動作させて、前記電圧信号を増幅し高感度、高精度に計測する。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明は、水分の存在に対して電子特性を変化させる半導体材料が付着した多孔質材料の一表面に対向電極を形成し、電極間に電圧を印加した状態で電極面とは反対側から蒸散する水蒸気を透過させることで、蒸散する水蒸気量の時間的変化を電極間電流値の変化として示す蒸散水蒸気量センサ素子と、対向電極に電圧を印加し電流の計測を行なう入出力部からなる蒸散量計測装置であり、空隙率の高い高分子多孔質薄膜に分子状半導体材料を分子層一層程度付着させた感応膜からなるフィルム状蒸散水蒸気量センサ素子、及び蒸散水蒸気量センサ素子からの出力電流検出に、オペアンプを負帰還電流入力動作をさせ、負帰還電流入力回路側に既知抵抗を挿入することで、発生する電圧信号を増幅し電流値を高感度、高精度に計測する入出力部からなる蒸散量計測装置を構成することにより、比較的安価な装置構成であっても、低蒸散状態にある植物の蒸散状態の変化を低電圧駆動したセンサ素子の微小出力電流の変化として感度・高精度に計測およびモニタリングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、植物の葉で蒸散状態を計測する蒸散量計測装置構成の概略を示す図である。
図1において蒸散水蒸気量センサ素子(110)は、空隙率の高い高分子多孔質薄膜に分子状半導体材料を分子層一層程度付着させた感応膜からなるフィルム状蒸散水蒸気量センサ素子であり、前記のフィルム状の高分子多孔質膜を母材とし、それを可溶性の分子性半導体の溶液で加工した感応膜、および感応膜上に形成した対向電極からなるフィルム状の蒸散水蒸気量センサ素子で、植物の葉(120)に添付した状態で蒸散量の計測を行う。蒸散水蒸気量センサ素子(110)は、両電極間の葉表面に沿って流れる電流が葉表面からの蒸散水蒸気の量に応じて変化する状態を測定する、換言すると、両電極間の蒸散水蒸気に基づく抵抗変化を電流値の変化として計測する。
蒸散水蒸気量センサ素子(110)はリード線(130)を介して測定信号変換回路(140)に接続される。
【0012】
測定信号変換回路(140)は、センサ素子(110)の両電極間に電圧を印加すると供に、センサ素子(110)の出力電流の変化を電圧信号に変換し、信号増幅を行うことで出力電流値を計測する。
測定信号変換回路(140)は、用いるセンサ素子の数だけ使用する形でもかまわないが、入出力部位で複数個のセンサへの入出力を行なえるように設計をすることもできる。またUSBやシリアル伝送、イーサネット(登録商標)等適当な有線又は無線のインターフェース(150)を介して信号処理装置パーソナルコンピュータ(160)と接続し、ソフトウエア上で電圧の設定や蒸散量計測値に対する取り込み時間間隔の設定や測定電流値の実時間変化の表示、測定値のロギング等を行えるように設計するとモニタリング装置として好都合である。
信号処理装置(160)は、少なくとも、中央演算装置(CPU)、メモリ、入出力装置(I/Oインターフェース)からなり、例えば、パーソナルコンピュータから構成される。
【0013】
発明者は蒸散水蒸気量センサ素子(110)に関して、半導体材料の支持媒体となる高分子多孔質膜の膜形成材料、平均孔径、空隙率、材料表面親和性、及び分子性半導体材料の化学構造や多孔質膜への付着量などを検討し、支持媒体として平均孔径が0.1ミクロンから1ミクロン、膜厚が200ミクロン以下、空隙率が75%以上で表面親水性処理が施されたポリテトラフルオロエチレンないしはポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂を典型とするように、有機溶剤に対する耐性が高く、それ自身は水分の吸収や吸着が起こりづらい高分子多孔質膜を用い、ポリチオフェンやポリフルオレンなどを主鎖とし側鎖としてヘキシル基、オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子性半導体の希薄溶液に浸漬、乾燥することでこれらの分子が表面に一層程度付着した感応膜に、電極として0.5mmから1mmの長さの細線状金属電極を20ミクロンから50ミクロンの間隔をおいて並行に一対ないしは複数対形成したものが、葉全体からの蒸散を阻害することなく密着添付するのに都合がよく、極低蒸散状態における微量蒸散水蒸気を効率よく透過、拡散させ、5 V以下の低印加電圧においても極低蒸散状態における微量水蒸気蒸散に対しても出力電流の変化を示し、かつ蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジに優れるセンサ素子作製条件であることを突き止めた。パイ共役高分子の支持媒体への付着量は溶液の濃度を調整することにより行なわれる。なお蒸散量センサ素子は支持媒体と同様の平均孔径と空隙率を有し、基材表面が高疎水性の柔軟なフィルム状の多孔質膜と気体透過性を阻害しないように張り合わせて用いることにより、水滴がセンサ官能部へ侵入、浸透するのを防ぎ、水蒸気のみを選択的に透過させるのに好都合である。
【0014】
一方、前記作製条件で作製される蒸散水蒸気量センサ素子は、水蒸気の透過効率を高め微量な水蒸気蒸散の変化に対する検出の実時間性を確保するため、センサ素子の空隙率が高いことに加え、計測のダイナミックレンジを確保するために支持媒体に付着させる半導体分子の量が極めて少ない。このことから電極間に電流が流れる際のセンサ感応膜内での電荷輸送経路の形成は極めて制限されるため、多孔質膜中に存在する水蒸気密度が小さい場合には電極間は高抵抗状態となる。従って潅水制御による高糖度作物の栽培現場では、低電圧印加でセンサを駆動した状態で低密度の水蒸気をセンサ素子から出力される微小電流値としてモニタリングしなければならない事態が想定される。このことより出力部位(140)に関しては微小電流を低ノイズで信号変換と増幅させる機能を持たせる必要がある。
【0015】
電圧印加状態にある検体に流れる電流を計測するための経済性に優れる回路構成法として、広く市販されているオペアンプを利用する方法がある。オペアンプを用いた電流計測は、電流が流れる検体を含む閉回路に対して直接抵抗(シャント抵抗)を挿入し、その両端に発生する電圧値をオペアンプによって適宜増幅することによって行なわれる。これに対し、本蒸散水蒸気量センサ素子を低電圧印加状態で、低蒸散状態にある植物の蒸散量変化をモニターする場合には、センサ素子に流れる電流が微小であることから、前記回路構成で電流計測を行なうと微少電流によって挿入抵抗両端に生じる電位が極めて小さいこと、抵抗挿入による電位降下によりセンサに本来かかるべき電位が影響を受けること、信号電位が小さいことを補償するためアンプのゲインを高めると、同時に増幅されるノイズや回路に寄生する電流によって微小電流信号が覆われる等の理由により精度の高い計測が困難となることが予想される。またこうした影響を避けるため高精度、低ノイズ、高効率な検出・増幅回路を用いると蒸散量モニタリング装置として製造コストを押し上げる要因となる。
【0016】
こうした状況を鑑み、当該蒸散水蒸気量センサ素子による蒸散量計測装置に関し、回路形成の経済性に優れるオペアンプを利用した比較的単純な電流検出回路を形成するあたり、発明者は前記センサ素子の電流出力特性に対応する回路構成を種々検討した結果、オペアンプを負帰還電流で動作させ、負帰還電流回路側に既知抵抗を挿入することで、見かけ上シャント抵抗の影響を相殺する形で電流−電圧変換と信号増幅を行なうことによって、低電圧印加状態で低蒸散状態を計測中の蒸散水蒸気量センサ素子の微小電流出力を低ノイズ、高分解能で高効率検出できることを見出した。
【0017】
本発明を図2に示す電気的等価回路を用いて説明する。図2は、蒸散量計測装置を構成する蒸散水蒸気量センサ素子とセンサに電圧を印加し出力電流を計測する入出力部位の電気的等価回路図である。
図2おいて蒸散水蒸気量センサ素子(111)は、支持媒体として平均孔径が0.1ミクロンから1ミクロン、膜厚が200ミクロン以下、空隙率が75%以上で表面親水性処理が施されたポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂を典型とするように、有機溶剤に対する耐性が高く、それ自身は水分の吸収や吸着が起こりづらい高分子多孔質膜を用い、ポリチオフェンやポリフルオレンなどを主鎖とし側鎖としてヘキシル基、オクチル基などの直鎖アルキル基を持つパイ共役高分子からなる分子性半導体の希薄溶液に浸漬、乾燥することでこれらの分子が表面に一層程度付着された感応膜に、電極として0.5mmから1mmの長さの細線状金属電極を20ミクロンから50ミクロンの間隔をおいて並行に一対ないしは複数対形成することで作製される。蒸散水蒸気は電極面とは反対側から感応膜を透過させる。蒸散水蒸気量センサ素子(111)には電池やポテンショスタットなどの印加電圧源(141)から一定の低電圧が印加される。
【0018】
センサ素子の微小出力電流は図中の電流経路に従い電流経路非反転入力端子(143)を接地したオペアンプ(141)の反転入力端子(142)に導かれるが、既知抵抗(170)を介してオペアンプの出力端子(145)から出力される電流の一部を反転入力端子に負帰還入力させる回路を構成し微小電流の電圧信号への変換と増幅を行う。発明者は微小電流の電圧信号への変換を行う既知抵抗を印加電圧源(141)と蒸散水蒸気量センサ(111)に対して直列に挿入し、その両端に生じる電位差をオペアンプで増幅することで電流検出を行う方法と本方法とで3V以下の低電圧を印加した蒸散量センサの流速1ミリモルm−2−1以下の水蒸気流に対する出力電流に関して詳細に検討した結果、本方法が出力ノイズや蒸散量変化に対する分解能においてきわめて優れていることを確認した。
【0019】
なお本方法では接点1(181)と接点2(182)間の出力電位が計測上不十分であればこの電位をさらに別のオペアンプにて必要十分な電位まで多段に増幅してもよい。また既知抵抗(170)は必要に応じて可変可能なものを用いることによってセンサ出力微小電流値の大きさに応じた適切な増幅効率を選択することも可能となる。さらに既知抵抗(170)に対して並列に適切な容量を持つコンデンサを挿入することによって、印加電圧源(141)に起因する出力電流値の周期的な変動の影響を減ずる効果を付与することが可能である。
【実施例】
【0020】
上述の蒸散量計測装置に関する発明の効果を下記の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0021】
(実施例1)
表面親水性処理が施された厚さ125ミクロン、平均孔径0.45ミクロン、空隙率80%のポリテトラフルエチレン製多孔質膜を重量濃度0.006%となるように調製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)のクロロホルム溶液に浸漬した後、クロロホルムを乾燥除去することで、前記分子性半導体材料を多孔質膜支持媒体表面に部分的付着させた蒸散水蒸気量センサ素子の感応膜を作製した。この感能膜の片方の表面に線幅100ミクロン、長さ1ミリメートル、厚さ0.35ミクロンの細線状の金薄膜を40ミクロンの間隔をおいて正極と負極合わせて20対となる櫛型対向電極を金属製のシャドウマスクを介して真空蒸着で形成し、水蒸気透過性を持つ蒸散水蒸気量センサ素子1を作製した。
【0022】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜を重量濃度0.012%となるように調製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)のクロロホルム溶液に浸漬した後、クロロホルムを乾燥除去することで、前記分子性半導体材料を多孔質膜支持媒体表面にほぼ一層均一に付着させた蒸散水蒸気量センサ素子の感応膜を作製した。この感応膜の片方の表面に実施例1と同様に線幅100ミクロン、長さ1ミリメートル、厚さ0.35ミクロンの細線状の金薄膜を40ミクロンの間隔をおいて正極と負極合わせて20対となる櫛型対向電極を金属製のシャドウマスクを介して真空蒸着で形成し、水蒸気透過性を持つ蒸散水蒸気量センサ素子2を作製した。
【0023】
(実施例3)
実施例1で用いたものと同じポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜を重量濃度0.12%となるように調製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)のクロロホルム溶液に浸漬した後、クロロホルムを乾燥除去することで、前記分子性半導体材料を多孔質膜支持媒体表面に多層に付着させた蒸散水蒸気量センサ素子の感応膜を作製した。この官能膜の片方の表面に実施例1と同様に線幅100ミクロン、長さ1ミリメートル、厚さ0.35ミクロンの細線状の金薄膜を40ミクロンの間隔をおいて正極と負極合わせて20対となる櫛型対向電極を金属製のシャドウマスクを介して真空蒸着で形成し、水蒸気透過性を持つ蒸散水蒸気量センサ素子3を作製した。
【0024】
(実施例4)
実施例1、実施例2、実施例3で作製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)の多孔質膜表面付着密度が異なる感応膜を持つ蒸散量水蒸気量センサ素子1、2、及び3の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら、室温で電極と反対側から蒸散速度約5ミリモルm−2−1から200ミリモルm−2−1に相当する水蒸気流を透過させた場合の各蒸散量センサの電流出力特性を比較した。図3にその結果を示す。
図3は、実施例1、2、及び3で作製した蒸散水蒸気量センサ1、2、3の電極に2Vの電圧を印加して駆動した場合の、5ミリモルm−2−1から200ミリモルm−2−1の水蒸気流に対する出力電流特性を示す図である。図3の縦軸は出力電流(A)、横軸は水蒸気流速度(ミリモルm−2―1)。蒸散水蒸気量センサ2に対して分子性半導体材料ポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)が部分付着した蒸散水蒸気量センサ素子(図中蒸散量センサと表示)1では、未付着部の支持媒体の親水性表面への水分の吸着が起こりオフセット電流が上昇し、水蒸気流速が低速域での計測分解能が低下することを確認した。一方支持媒体に分子性半導体材料が多層吸着した蒸散量センサ3では多孔質膜中の水蒸気密度とは関係なく流れる電流が支配的となり、水蒸気流速が低速域での分解能が低下する他、計測のダイナミックレンジが小さくなることを確認した。この結果から支持媒体である親水性処理が施された空隙率の大きいフッ素樹脂製多孔質膜の表面にアルキル基を側鎖に有するパイ共役高分子を分子層一層程度均一に付着させた感応膜からなる蒸散水蒸気量センサ素子2において、蒸散量の変化に対する電流変化のダイナミックレンジに優れることを確認した。
【0025】
(実施例5)
表面親水性処理が施された厚さ125ミクロン、平均孔径0.22ミクロン、空隙率75%のポリテトラフルエチレン製多孔質膜を重量濃度0.012%に調製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)のクロロホルム溶液に浸漬した後、クロロホルムを乾燥除去することで、前記分子性半導体材料を多孔質膜支持媒体表面にほぼ一層均一に付着させた蒸散水蒸気量センサ素子の感応膜を作製した。この官能膜の片方の表面に線幅100ミクロン、長さ1ミリメートル、厚さ0.35ミクロンの細線状の金薄膜を40ミクロンの間隔をおいて正極と負極合わせて20対となる櫛型対向電極を金属製のシャドウマスクを介して真空蒸着で形成し、水蒸気透過性を持つ蒸散水蒸気量センサ素子4を作製した。
【0026】
(実施例6)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.06 ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ4の出力電流を、電圧源、及び蒸散量水蒸気量センサ素子4に対して直列に挿入した既知抵抗を介して電圧に変換後、オペアンプにて電圧信号増幅を行う電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図4にその結果を示す。
図4は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の連続出力電流を、電圧源、及び蒸散水蒸気量センサ素子4に対して直列に挿入した既知抵抗を介して電圧に変換後、オペアンプにて電圧信号増幅を行う電流計測回路1と接続して2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。縦軸は出力電流(10−10A)、横軸は時間(分)。以下、図5〜13、図15,16の縦軸横軸は図4と同じ次元となる。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流8.65×10−10A対して最大振幅8.22×10−11A、標準偏差1.10×10−11Aが得られた。
【0027】
(実施例7)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極正負極間に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から実施例2の場合と同様に0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、オペアンプを負帰還電流で動作させ、負帰還電流回路側に既知抵抗を挿入することで、見かけ上シャント抵抗の影響を相殺する形で電流−電圧変換と信号増幅を行なう電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間記録した300点の計測値に対して評価を行なった。図5にその結果を示す。
図5は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、オペアンプを負帰還電流で動作させ、負帰還電流回路側に既知抵抗を挿入することで、見かけ上シャント抵抗の影響を相殺する形で電流−電圧変換と信号増幅を行なう電流計測回路2と接続して、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流7.91×10−10Aに対して最大振幅3.34×10−11A、標準偏差は5.97×10−12Aとなり実施例6で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認した。
【0028】
(実施例8)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.22 ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図6にその結果を示す。
図6は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.22ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流3.01×10−9A対して最大振幅2.15×10−10A、標準偏差3.20×10−11Aが得られた。
【0029】
(実施例9)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の低温で、電極と反対側から実施例8の場合と同様に0.22ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図7にその結果を示す。
図7は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.22ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流3.26×10−9Aに対して最大振幅1.43×10−10A、標準偏差は2.27×10−11Aとなり、実施例8で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認した。
【0030】
(実施例10)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散量水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図8にその結果を示す。
図8は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流1.40×10−9A対して最大振幅2.12×10−10A、標準偏差2.44×10−11Aが得られた。
【0031】
(実施例11)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側から実施例10の場合と同様に0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図9にその結果を示す。
図9は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流1.36×10−9Aに対して最大振幅1.11×10−10A、標準偏差は1.78×10−11Aとなり実施例10で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認した。
【0032】
(実施例12)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図10にその結果を示す。
図10は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流4.79×10−10A対して最大振幅1.86×10−10A、標準偏差2.57×10−11Aが得られた。
【0033】
(実施例13)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側から実施例12の場合と同様に0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図11にその結果を示す。
図11は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流4.39×10−10Aに対して最大振幅4.01×10−11A、標準偏差は8.21×10−12Aとなり実施例12で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認した。
【0034】
(実施例14)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ4の出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図12にその結果を示す。
図12は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流1.14×10−10A対して最大振幅9.55×10−10A、標準偏差1.20×10−11Aが得られた。
【0035】
(実施例15)
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側から実施例14の場合と同様に0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図13にその結果を示す。
図13は、実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流9.30×10−11Aに対して最大振幅3.00×10−11A、標準偏差は5.31×10−12Aとなり実施例14で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認した。
【0036】
(実施例16)
図14は、流速0.02ミリモルm−2−1から0.11ミリモルm−2−1の範囲で段階的に変化する水蒸気流の時間変化(a)、及び実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側の面から水蒸気を透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流値の変化を実施例6で用いた電流計測回路1、及び実施例7で用いた電流計測回路2に接続し、2秒間隔で連続計測した結果(b、c)を示す図である。
実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側の面から図14−aに示すように流速0.02ミリモルm−2−1から0.11ミリモルm−2−1の範囲で段階的に変化する水蒸気流を透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流値の変化を実施例6で用いた電流計測回路1、及び実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。各電流計測回路からの電流出力信号を2秒間隔で連続計測した結果を図14−b、及び図14−cに示す。蒸散量センサ4は水蒸気流の時間変化に応じた電流値の時間変化を示したが、実施例7で用いた電流計測器2と組み合わせた場合の方がノイズによる変動が小さく高分解濃で水蒸気流速を計測できることを確認した。図14の縦軸は水蒸気流速度(ミリモルm−2―1)、横軸は時間(分)。
【0037】
(実施例17)
実施例5と同じ表面親水性処理が施された厚さ125ミクロン、平均孔径0.22ミクロン、空隙率75%のポリテトラフルエチレン製多孔質膜を重量濃度0.012%に調製したポリ(3−ノルマルヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)のクロロホルム溶液に浸漬した後、クロロホルムを乾燥除去することで、前記分子性半導体材料を多孔質膜支持媒体表面にほぼ一層均一に付着させた蒸散水蒸気量センサ素子の感応膜を作製した。この官能膜の片方の表面に線幅100ミクロン、長さ1ミリメートル、厚さ0.35ミクロンの細線状の金薄膜を40ミクロンの間隔をおいて正極と負極合わせて10対となる櫛型対向電極を金属製のシャドウマスクを介して真空蒸着で形成し、水蒸気透過性を持つ蒸散水蒸気量センサ素子5を作製した。
【0038】
(実施例18)
実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、電極と反対側から0.15 ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図15にその結果を示す。
図15は、実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流1.05×10−9A対して最大振幅3.22×10−10A、標準偏差5.16×10−11Aが得られた。
【0039】
(実施例19)
実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側から実施例19の場合と同様に0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して計測した。電流計測回路からの出力電流信号の変動を2秒間隔で10分間取り込んだ300点の計測値に対して評価を行なった。図16にその結果を示す。
図16は、実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
計測した300のデータ点に関して、平均出力電流1.01×10−9Aに対して最大振幅2.81×10−11A、標準偏差は5.16×10−12Aとなり実施例19で電流計測回路1を用いて同条件で計測した場合より計測値の変動が小さいことを確認すると同時に、有効電極面積を減少させても電流計測回路2が蒸散量センサの低ノイズでの計測に有効であることを確認した。
【0040】
なお、本発明は、以上の実施例に限定されることなく、本発明の技術範囲にしたがって種々の設計変更をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】植物の葉で蒸散状態を計測する蒸散量計測装置構成の概略を示す図である。
【図2】蒸散量計測装置を構成する蒸散水蒸気量センサ素子とセンサに電圧を印加し出力電流を計測する入出力部位の電気的等価回路図である。
【図3】実施例1、2、及び3で作製した蒸散水蒸気量センサ1、2、3の電極に2Vの電圧を印加して駆動した場合の、5ミリモルm−2−1から200ミリモルm−2−1の水蒸気流に対する出力電流特性を示す図である。
【図4】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の連続出力電流を、電圧源、及び蒸散水蒸気量センサ素子4に対して直列に挿入した既知抵抗を介して電圧に変換後、オペアンプにて電圧信号増幅を行う電流計測回路1と接続して2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図5】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に3Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、オペアンプを負帰還電流で動作させ、負帰還電流回路側に既知抵抗を挿入することで、見かけ上シャント抵抗の影響を相殺する形で電流−電圧変換と信号増幅を行なう電流計測回路2と接続して、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図6】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.22ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図7】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.22ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図8】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図9】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図10】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図11】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図12】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら20℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図13】実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4に1.5Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.06ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図14】流速0.02ミリモルm−2−1から0.11ミリモルm−2−1の範囲で段階的に変化する水蒸気流の時間変化(a)、及び実施例5で作製した蒸散水蒸気量センサ素子4の櫛型電極の正負極間に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の定温で、電極と反対側の面から水蒸気を透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子4の出力電流値の変化を実施例6で用いた電流計測回路1、及び実施例7で用いた電流計測回路2に接続し、2秒間隔で連続計測した結果(b、c)を示す図である。
【図15】実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の連続出力電流を、実施例6で用いた電流計測回路1に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【図16】実施例18で作製した蒸散水蒸気量センサ素子5に2Vの一定電圧を連続的に印加しながら30℃の一定温度で、0.15ミリモルm−2−1の一定速度の水蒸気流を連続的に透過させた場合の蒸散水蒸気量センサ素子5の連続出力電流を、実施例7で用いた電流計測回路2に接続して、2秒間隔、10分間計測を行なったときの計測値の変動を示した図である。
【符号の説明】
【0042】
110,111 蒸散水蒸気量センサ素子
120 葉
130 リード線
140 測定信号変換回路
141 印加電圧源
142 オペアンプ
143 非反転入力端子
144 反転入力端子
150 インターフェース
160 信号処理装置
170 既知抵抗
180 接地
181 接点1
182 接点2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉表面から蒸散する葉の水分を計測する蒸散水蒸気量センサと、該蒸散水蒸気量センサの測定信号を変換する測定信号変換回路と、該測定信号変換回路の出力信号を必要な測定データにするために処理する信号処理装置からなる蒸散量計測装置であって、
前記蒸散水蒸気量センサは、
少なくとも半導体材料が付着した多孔質状の薄膜上に対向電極を有し、
空隙率の高い高分子多孔質薄膜に分子状半導体材料を分子層一層程度付着させたフィルム状の感応膜と、該感応膜上に設けた対向電極からなることを特徴とする蒸散量計測装置。
【請求項2】
前記測定信号変換回路は、オペアンプを有し、前記蒸散量水蒸気量センサの出力電流を電圧信号に変換し、該電圧信号を前記オペアンプにより増幅して計測することを特徴とする請求項1記載の蒸散量計測装置。
【請求項3】
前記オペアンプを負帰還動作するように接続したことを特徴とする請求項2記載の蒸散量計測装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−115671(P2009−115671A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290275(P2007−290275)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】