説明

薄膜の被覆率測定方法及び薄膜の膜厚変化検出方法

【課題】 薄膜と薄膜が形成されている基板の材料とが同じ材料を含んでいても、薄膜の微小領域における被覆率の測定を行うことができる薄膜の被覆率評価方法を提供する。
【解決手段】 検量線作成用の、シランカップリング膜2を形成したシリコン基板5をS−SIMS測定法で測定し、シランカップリング膜2に含まれる有機系のPFPEイオン強度値と、シリコンイオン強度値との検量線用イオン強度比(PFPEイオン強度値/シリコンイオン強度値)を取得する。検量線用イオン強度比を基にして被覆率を求めるための検量線を作成する。次に、実際のシランカップリング膜2が形成されたシリコン基板5をS−SIMS測定法で測定し、シランカップリング膜2に含まれるPFPEイオンの強度値とシリコンイオン強度値の試料イオン強度比を取得する。作成した検量線を用いて、試料イオン強度比から被覆率を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の被覆率測定方法に関し、特に薄膜とその薄膜を形成している基板との材料が同一のものを含む場合の被覆率の測定方法及び膜厚変化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜の被覆率評価方法としては、以下に示す方法がある。
1.XPSを用いた角度依存測定により被覆率を測定する方法(特許文献1及び特許文献2参照)。
2.蒸気を基板に結露させ、結露した液滴を観察することにより測定する方法(特許文献3参照)。
3.測定基板に腐食性ガスを暴露させ、その基板から腐食生成物を抽出し、ICP分析を行うか、または、表面分析装置により成分検出を行う測定方法(特許文献4参照)。
4.ISS(イオン散乱分光)測定法を用いた被覆率測定方法(非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−192255号公報
【特許文献2】特開平8−94555号公報
【特許文献3】特開2003−337108号公報
【特許文献4】特開2001−349821号公報
【非特許文献1】H.H Brongersma , A.Gildenpfenniig et al. "Insight in the Outside : New application of low-energy ion scattering" Nucl. Instr. and Meth.B 190 11-18 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの方法では、薄膜の微小領域を測定することが困難であり、かつ、薄膜と薄膜が形成される基体の材料とが同じ材料を含む場合には、さらに定量分析することが難しくなる。
【0005】
本発明の目的は、薄膜と薄膜が形成されている基板の材料とが同じ材料を含んでいても、薄膜の微小領域における被覆率の測定を行うことができる薄膜の被覆率評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る方法は、薄膜の被覆率の測定を行うための第1の測定基板の材料の成分を有する前記薄膜が形成されている、少なくとも前記薄膜が形成された表面には前記薄膜が有する成分をほとんど有さない材料で形成された第1のブランク基板の表面の材料をイオン化して、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)と、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)とをS−SIMS測定法で測定する第1のS−SIMS測定工程と、前記薄膜が形成されていない、前記第1のブランク基板と同じ材料で形成されている第2のブランク基板の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とをS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、前記薄膜のみから検出される前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(膜)及び第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)の撥液膜イオン強度比(A(膜)/B(膜))を算出する薄膜イオン強度比算出工程と、前記薄膜イオン強度比算出工程で得られる前記薄膜イオン強度比を、前記薄膜の被覆率の測定を行うための任意の基体に形成されている薄膜の被覆率を1とする定量化基準点を規定する被覆率規定工程と、S−SIMS測定法による測定で取得される前記薄膜の被覆率を測定するための、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第2の測定基板に形成されている前記薄膜が有する前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値Aと前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、前記薄膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線であって、原点及び前記定量化基準点とが直線で結ばれた一次関数で規定した前記SIMS検量線を作成するSIMS検量線作成工程と、前記薄膜の被覆率の測定を行うための前記薄膜が形成されている、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第3の測定基板の表面の材料をイオン化して、前記薄膜が有する前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)及び前記薄膜が有する前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第3のS−SIMS測定工程と、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、前記SIMS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する薄膜の被覆率の測定方法であることを要旨とする。
【0007】
本発明に係る方法によれば、第1のS−SIMS測定工程では、少なくとも表面には薄膜の成分をほとんど有さない材料で形成されたブランク基板を用いて、薄膜が形成されたブランク基板の表面をS−SIMS測定法で測定し、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)、測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)及びブランク基板の表面の材料のイオン強度値C(1)を得る。次の第2のS−SIMS測定工程では、薄膜が形成されていないブランク基板の表面をS−SIMS測定法で測定し、ブランク基板に微小に含まれている可能性がある測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、ブランク基板の表面の材料のイオン強度値C(0)を得る。次の薄膜イオン強度比算出工程では、薄膜だけから発生する、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(膜)と、同じく薄膜が有する測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)との比、すなわち薄膜イオン強度比を算出する。薄膜イオン強度比は、S−SIMSの測定原理上、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料の成分と、測定基板と同じ材料の成分との比に比例する。薄膜中の成分が一定であるとき、薄膜イオン強度比も一定の値をとる。次の被覆率規定工程では、この一定の値をとる薄膜イオン強度比を薄膜の被覆率が1であるとして、定量化基準点として規定する。次のSIMS検量線作成工程では、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値Aと測定基板の材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、薄膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線を、原点と定量化基準点とを直線で結んだ1次関数で規定する。第3のS−SIMS測定工程では、実際に薄膜が形成されている測定基板をS−SIMS測定法で測定し、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板の材料のイオン強度値B(試料)とを取得する。次の試料イオン強度比算出工程では、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板の材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、SIMS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、被覆率を取得する。SIMS検量線を作成することにより、薄膜が形成されている測定基板の表面における、薄膜の被覆率の測定をS−SIMS測定法を用いて測定することができる。また、S−SIMS測定法は微小領域の測定が可能であるので、測定基板における微小領域の薄膜の被覆率を測定することができる。また、S−SIMS測定法だけを用いて、薄膜の被覆率を測定することができるので、被覆率の測定にあまり手間がかからない。
【0008】
また、本発明に係る方法によれば、上記発明の方法であって、前記薄膜イオン強度比算出工程における前記薄膜イオン強度比の算出は、
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−((C(1)/C(0))×B(0))
(1)
ただし、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値をC(基板)とした場合に、前記第1のS−SIMS測定工程で得られた前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度B(1)及び前記第1のブランク基板材料のイオン強度C(1)を、
A(1)=A(膜) (2)
B(1)=B(膜)+B(基板) (3)
C(1)=C(基板) (4)
と規定し、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)を、前記第2のS−SIMS測定工程で得られた前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、
B(基板)=(C(1)/C(0))×B(0) (5)
で算出し、前記(2)式〜前記(5)式を用いて導かれる、前記(1)式で算出する薄膜の被覆率測定方法であることを要旨とする。
【0009】
本発明に係る方法によれば、第1のS−SIMS測定工程及び第2のS−SIMS測定工程で得られた各種イオン強度のデータを用いて、最終的に上記(1)式で薄膜イオン強度比を求めることができる。
【0010】
また、本発明に係る方法は、上記発明の前記定量化基準点として規定された条件を満たす前記薄膜が形成された基準試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている前記薄膜の原子によって散乱される第1の1次イオン数を測定する第1のISS測定工程と、前記第1のISS測定工程で得られた前記第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定するISS定量化基準規定工程と、少なくとも1種類以上の被覆率が1未満である薄膜が形成された第1の測定基板を用いた、検量線を作成するための第1の検量線作成用試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている薄膜の原子によって散乱される第2の1次イオン数を測定する第2のISS測定工程と、前記第2の1次イオン数を前記ISS定量化基準値で除した値を用いて、前記第1の検量線作成用試料の薄膜の被覆率としてのISS被覆率を少なくとも1つ以上算出するISS被覆率算出工程と、前記第1の検量線作成用試料の被覆率と略同一の第2の検量線作成用試料の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)と、S−SIMS測定法で測定をする第1のS−SIMS測定工程と、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と前記測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を少なくとも1つ以上求める検量線用イオン強度比算出工程と、少なくとも1つ以上の前記ISS被覆率と、少なくとも1つ以上の前記検量線イオン強度比とを、前記ISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された前記定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成するISS検量線作成工程と、薄膜の被覆率の測定を行うための第2の測定基板に前記薄膜を形成した試料の表面の材料をイオン化して、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)及び前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、前記ISS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する薄膜の被覆率の測定方法であることを要旨とする。
【0011】
本発明に係る方法によれば、第1のISS測定工程では上記の発明で得られた定量化基準点として規定された条件を満たす基準試料の表面の材料をISS測定法で測定し、第1の1次イオン数を得る。次のISS定量化基準規定工程では、第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定する。すなわち、第1の1次イオン数をISS測定におけるISS被覆率が1であると規定する。次の第2のISS測定工程では、少なくとも1種類以上の検量線作成用試料としての被覆率が1未満の薄膜が形成された測定基板の表面の材料をISS測定法で測定し、第2の1次イオン数を得る。次のISS被覆率算出工程では、第2の1次イオン数をISS定量化基準値で除して、その値をISS被覆率とする。次の第1のS−SIMS測定工程では、第2のISS測定工程で測定した検量線作成用試料とほぼ同一の第2の検量線作成用試料の表面をS−SIMSで測定して、前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と、測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)とを得る。次の検量線用イオン強度比算出工程では、薄膜に含まれる第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を算出する。次の検量線作成工程では、少なくとも1つ以上のISS被覆率と、少なくとも1つ以上の検量線イオン強度比とを、及びISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成する。次の第2のS−SIMS測定工程では、実際に薄膜の被覆率を測定したい試料について、S−SIMS測定法で前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)の測定をする。次の試料イオン強度比算出工程では、前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、ISS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、試料の薄膜の被覆率を得る。検量線作成用試料を用いてISS測定法で被覆率を定量化し、ほぼ同じ検量線作成用試料を用いてS−SIMS測定法にて検量線用イオン強度比を求めて、ISS検量線を作成することにより、SIMS検量線よりもさらに試料の被覆率測定を正確に行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る方法は、有機系の材料の成分、及び撥液膜の被覆率の測定を行うための第1の測定基板の材料の成分を有する前記撥液膜が形成されている、少なくとも前記撥液膜が形成された表面には前記撥液膜が有する成分をほとんど有さない材料で形成された第1のブランク基板の表面の材料をイオン化して、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の有機系の材料のイオン強度値A(1)と、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)とをS−SIMS測定法で測定する第1のS−SIMS測定工程と、前記撥液膜が形成されていない、前記第1のブランク基板と同じ材料で形成されている第2のブランク基板の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とをS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、前記有機系の材料のイオン強度値A(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、前記撥液膜のみから検出される有機系の材料のイオン強度値A(膜)及び第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)の撥液膜イオン強度比(A(膜)/B(膜))を、
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−((C(1)/C(0))×B(0))
(1)
ただし、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値をC(基板)とした場合に、前記第1のS−SIMS測定工程で得られた前記有機系材料のイオン強度値A(1)、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度B(1)及び前記第1のブランク基板材料のイオン強度C(1)を、
A(1)=A(膜) (2)
B(1)=B(膜)+B(基板) (3)
C(1)=C(基板) (4)
と規定し、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)を、前記第2のS−SIMS測定工程で得られた前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、
B(基板)=(C(1)/C(0))×B(0) (5)
で算出し、前記(2)式〜前記(5)式を用いて導かれる、前記(1)式で算出する撥液膜イオン強度比算出工程と、前記撥液膜イオン強度比算出工程で得られる前記撥液膜イオン強度比を、前記撥液膜の被覆率の測定を行うための任意の基体に形成されている撥液膜の被覆率を1とする定量化基準点を規定する被覆率規定工程と、S−SIMS測定法による測定で取得される前記撥液膜の被覆率を測定するための、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第2の測定基板に形成されている前記撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値Aと前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、前記撥液膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線であって、原点及び前記定量化基準点とが直線で結ばれた一次関数で規定した前記SIMS検量線を作成するSIMS検量線作成工程と、前記撥液膜の被覆率の測定を行うための前記撥液膜が形成されている、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第3の測定基板の表面の材料をイオン化して、前記撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値A(試料)及び前記撥液膜が有する前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第3のS−SIMS測定工程と、前記有機系の材料のイオン強度値A(試料)と前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、前記SIMS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する撥液膜の被覆率の測定方法であることを要旨とする。
【0013】
本発明に係る方法によれば、第1のS−SIMS測定工程では、少なくとも表面には撥液膜の成分をほとんど有さない材料で形成されたブランク基板を用いて、撥液膜が形成されたブランク基板の表面をS−SIMS測定法で測定し、撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値A(1)、測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)及びブランク基板の表面の材料のイオン強度値C(1)を得る。次の第2のS−SIMS測定工程では、撥液膜が形成されていないブランク基板の表面をS−SIMS測定法で測定し、ブランク基板に微小に含まれている可能性がある測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、ブランク基板の表面の材料のイオン強度値C(0)を得る。次の撥液膜イオン強度比算出工程では、撥液膜だけから発生する、撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値A(膜)と、同じく撥液膜が有する測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)との比、すなわち撥液膜イオン強度比を最終的に、上記の(1)式を用いて算出する。撥液膜イオン強度比は、S−SIMSの測定原理上、撥液膜中の有機系の材料の成分と、測定基板と同じ材料の成分との比に比例する。撥液膜中の成分が一定であるとき、撥液膜イオン強度比も一定の値をとる。次の被覆率規定工程では、この一定の値をとる撥液膜イオン強度比を撥液膜の被覆率が1であるとして、定量化基準点として規定する。次のSIMS検量線作成工程では、有機系の材料のイオン強度値Aと測定基板の材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、撥液膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線を、原点と定量化基準点とを直線で結んだ1次関数で規定する。第3のS−SIMS測定工程では、実際に撥液膜が形成されている測定基板をS−SIMS測定法で測定し、有機系の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板の材料のイオン強度値B(試料)とを取得する。次の試料イオン強度比算出工程では、有機系の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板の材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、SIMS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、被覆率を取得する。SIMS検量線を作成することにより、撥液膜が形成されている測定基板の表面における、撥液膜の被覆率の測定をS−SIMS測定法を用いて測定することができる。また、S−SIMS測定法は微小領域の測定が可能であるので、測定基板における微小領域の撥液膜の被覆率を測定することができる。また、S−SIMS測定法だけを用いて、撥液膜の被覆率を測定することができるので、被覆率の測定にあまり手間がかからない。
【0014】
また、本発明に係る方法は、上記の発明に記載の前記定量化基準点として規定された条件を満たす前記撥液膜が形成された基準試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている前記撥液膜の原子によって散乱される第1の1次イオン数を測定する第1のISS測定工程と、前記第1のISS測定工程で得られた前記第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定するISS定量化基準規定工程と、少なくとも1種類以上の被覆率が1未満である撥液膜が形成された第1の測定基板を用いた、検量線を作成するための第1の検量線作成用試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている撥液膜の原子によって散乱される第2の1次イオン数を測定する第2のISS測定工程と、前記第2の1次イオン数を前記ISS定量化基準値で除した値を用いて、前記第1の検量線作成用試料の撥液膜の被覆率としてのISS被覆率を少なくとも1つ以上算出するISS被覆率算出工程と、前記第1の検量線作成用試料の被覆率と略同一の第2の検量線作成用試料の表面の材料をイオン化して有機系材料のイオン強度値A(検量線)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)と、S−SIMS測定法で測定をする第1のS−SIMS測定工程と、前記有機系材料のイオン強度値A(検量線)と前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を少なくとも1つ以上求める検量線用イオン強度比算出工程と、少なくとも1つ以上の前記ISS被覆率と、少なくとも1つ以上の前記検量線イオン強度比とを、及び前記ISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された前記定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成するISS検量線作成工程と、撥液膜の被覆率の測定を行うための第2の測定基板に前記撥液膜を形成した試料の表面の材料をイオン化して、有機系の材料のイオン強度値A(試料)及び前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、前記有機系の材料のイオン強度値A(試料)と前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、前記ISS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率評価工程と、を有する撥液膜の被覆率の測定方法であることを要旨とする。
【0015】
本発明に係る方法によれば、第1のISS測定工程では上記の発明で得られた定量化基準点として規定された条件を満たす基準試料の表面の材料をISS測定法で測定し、第1の1次イオン数を得る。次のISS定量化基準規定工程では、第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定する。すなわち、第1の1次イオン数をISS測定におけるISS被覆率が1であると規定する。次の第2のISS測定工程では、少なくとも1種類以上の検量線作成用試料としての被覆率が1未満の撥液膜が形成された測定基板の表面の材料をISS測定法で測定し、第2の1次イオン数を得る。次のISS被覆率算出工程では、第2の1次イオン数をISS定量化基準値で除して、その値をISS被覆率とする。次の第1のS−SIMS測定工程では、第2のISS測定工程で測定した検量線作成用試料とほぼ同一の第2の検量線作成用試料の表面をS−SIMSで測定して、有機系材料のイオン強度値A(検量線)と、測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)とを得る。次の検量線用イオン強度比算出工程では、有機系材料のイオン強度値A(検量線)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を算出する。次の検量線作成工程では、少なくとも1つ以上のISS被覆率と、少なくとも1つ以上の検量線イオン強度比とを、及びISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成する。次の第2のS−SIMS測定工程では、実際に撥液膜の被覆率を測定したい試料について、S−SIMS測定法で有機系材料のイオン強度値A(試料)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)の測定をする。次の試料イオン強度比算出工程では、有機系材料のイオン強度値A(試料)と測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、ISS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、試料の撥液膜の被覆率を得る。検量線作成用試料を用いてISS測定法で被覆率を定量化し、ほぼ同じ検量線作成用試料を用いてS−SIMS測定法にて検量線用イオン強度比を求めて、ISS検量線を作成することにより、SIMS検量線よりもさらに試料の被覆率測定を正確に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る方法は、上記発明のISS検量線を用いて撥液膜の膜厚変化を検出する方法であって、S−SIMS測定法の測定深さとISS測定法の測定深さとの差と、前記撥液膜が形成された前記第3の測定基板の試料の試料イオン強度比と、請求項2で作成された前記ISS検量線とを用いて取得される前記ISS被覆率と、前記第3の測定基板の試料をISS測定法で測定し、請求項2に記載のISS被覆率算出工程を用いて算出されたISS被覆率との差と、を利用して前記撥液膜の膜厚変化を検出する膜厚変化検出工程と、を有する撥液膜の膜厚変化検出方法であることを要旨とする。
【0017】
本発明に係る方法によれば、上記発明におけるISS検量線と、S−SIMS測定法における測定深さと、ISS測定法による測定深さの差を利用することにより、撥液膜の膜厚の変化を検出することができる。すなわち、撥液膜の膜厚が薄くなり、S−SIMS測定法の測定深さよりも薄くなると、測定基板の材料のイオン強度値が高くなるため、試料イオン強度値は小さくなる。ほぼ同じ条件の試料をISS測定法で測定すると、ISS測定法の測定深さは、S−SIMS測定法の測定深さよりも小さいので、撥液膜の膜厚が薄くなっても、ほぼ正確に被覆率を測定できる。したがって、ISS被覆率に対応する試料イオン強度比と、実際に測定した試料イオン強度値に差がある場合には、撥液膜の膜厚が変化していることがわかる。すなわち、撥液膜の膜厚変化を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態における薄膜の被覆率評価方法について、図1〜図4を用いて説明する。本実施形態で被覆率を評価する薄膜は、撥水機能を有する發液膜を用いている。
【0019】
図1は、本実施形態の撥液膜の被覆率の測定方法の流れを示すフローチャートを示す。
ステップS100は、第1のS−SIMS測定工程を行う。ここで、S−SIMS(Static-Secondary Ion Mass Spectrometry)測定法について説明する。S−SIMS測定法は、固体試料の最表面にどのような成分(原子、分子)が存在するかを調べるための測定方法である。また、S−SIMS測定法は、無機物だけでなく有機物を分析することができる。
【0020】
次に、S−SIMS測定法の測定原理ついて説明する。本実施形態ではS−SIMS測定法の1つの方法として、TOF−SIMS(Time Of Flight-SIMS)法を用いている。
【0021】
高真空中で、高速のイオンビーム(1次イオン)を固体試料表面にぶつけると、スパッタリング現象によって表面の構成成分がはじき飛ばされる。このとき発生する正または負の電荷を帯びたイオン(2次イオン)を電場によって一方向に飛ばして、一定距離離れた検出器3により検出する。スパッタリングの際に、試料表面の組成に応じて様々な質量をもった2次イオンが発生するが、軽いイオンほど早く、反対に重いイオンほど遅い速度で飛んでいくので、2次イオンが発生してから検出されるまでの時間を測定することにより、発生した2次イオンの質量を計算することができる。なお、S−SIMS測定法では、単位面積あたりの1次イオン照射量を抑えることにより、試料表面の分子構造の破壊を抑制し、分子自体を2次イオン化させるような条件で測定を行う。したがって、試料表面に形成された有機材料系の分子構造等の情報を取得することができる。なお、S−SIMS測定法の利点として、Gaイオン源等の1次イオンビーム径を微小に絞ることができる1次イオン源を用いることにより、微小領域まで測定することができることが挙げられる。本実施形態では、測定領域、すなわち1次イオンを照射する範囲を100μm×100μmとしている。ここで、本実施形態で使用しているS−SIMS装置においては、一次イオンを照射するためのビーム径は2μmφであり、この一次イオンビームをスキャンすることにより、測定範囲が決定されている。したがって、2μmφまで測定領域を絞ることが可能である。また、使用するS−SIMS装置や測定モードによっては、さらに一次イオンビーム径を小さくすることができるので、さらなる微小領域の測定が可能である。また、S−SIMS測定法で使用する試料の測定深さは、およそ1nmである。
図2(a)は、第1のS−SIMS測定を説明するための模式断面図を示す。第1のS−SIMS測定では、撥液膜2が形成された第1のブランク基板1の測定を行う。ここで、ブランク基板とは、少なくとも撥液膜を形成する表面において、撥液膜2が主成分として含有していない材料で形成されている基板をいう。本実施形態において、第1のブランク基板1は、シリコン基板の表面に100nm程度のアルミニウム膜が形成された基板(以下、ブランク基板を「アルミニウム基板」という)を用いている。
【0022】
また、本実施形態での撥液膜2は、パーフロロポリエーテル(以下「PFPE」という)系シランカップリング剤を用いて形成した膜である。すなわち、この撥液膜としてのシランカップリング膜2は、無機系のシリコン原子と有機系のPFPE分子を主成分としている。同図における2次イオンは、Aイオンが有機系イオンとしてのPFPE分子のイオンであり、Bイオンがシリコンイオンである。本実施形態において、撥液膜2を形成して、その被覆率を測定する第1の測定基板ははシリコン基板である。
【0023】
本実施形態では、シランカップリング膜2が形成されたアルミニウム基板1をS−SIMS測定法で測定し、PFPEイオンの強度値A(1)と、シリコンイオン強度値B(1)と、アルミニウムイオン強度値C(1)のデータを取得する。なお、これら各イオンの強度値には、第1のアルミニウム基板1の表面から放出されたイオンと、シランカップリング膜2から放出されたイオンとが混在している。
【0024】
ステップS110では、第2のS−SIMS測定工程を行う。
図2(b)は、第2S−SIMS測定を説明するための模式断面図を示す。測定する試料は、第2のブランク基板4である。第2のブランク基板4も、第1のブランク基板1と同じ材料で形成された基板、すなわち、シリコン基板の表面に100nm程度のアルミニウム膜が形成された基板を用いている。ただし、第2のブランク基板4の表面には、撥液膜2が形成されていない。
【0025】
本実施形態では、アルミニウム基板1から放出される2次イオンとしてのシリコンイオンB及びアルミニウムイオンCを検出器3で検出し、シリコンイオン強度値B(0)及びアルミニウムイオン強度値C(0)のデータを取得する。
【0026】
ステップS120では、薄膜イオン強度比算出工程としての、撥液膜イオン強度比算出工程を行う。
この工程では、ステップS100及びステップS110でのS−SIMS測定法により取得されたイオン強度値を用いて、検量線を作成するためのイオン強度比を算出する。撥液膜イオン強度比(PFPEイオン強度値/シリコンイオン強度値)は、ステップS100及びステップS110で得たそれぞれのイオン強度値を用いて算出される。
【0027】
まず、シランカップリング膜2からは、A(膜)イオンとしてのPFPE分子イオンと、B(膜)イオンとしてのシリコンイオンが放出される。一方、第1のアルミニウム基板1からは、アルミニウムが含有しているB(基板)イオンとしてのシリコンイオンと、C(基板)イオンとしてのアルミニウムイオンが放出される。これらのイオンを検出器3が受け取って、それぞれのイオン強度値、PFPE分子イオン強度値としてのA(1)、シリコンイオン強度値としてのB(1)及びアルミニウムイオン強度値としてのC(1)データを取得する。このS−SIMS測定によるイオン強度値と、シランカップリング膜2から放出された各イオンの強度値と、アルミニウム基板1から放出された各イオンの強度値との関係は、以下の式で表すことができる。
【0028】
A(1)=A(膜) (2)
B(1)=B(膜)+B(基板) (3)
C(1)=C(基板) (4)
したがって、式(2)〜式(4)を用いると撥液膜としてのシランカップリング膜から検出されるA(膜)とB(膜)との撥液膜イオン強度比は、以下の式で表せる。
【0029】
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−B(基板)) (6)
また、シランカップリング膜2が形成された第1のアルミニウム基板1から放出されるシリコンイオン強度値B(基板)は、シリコンイオン強度B(0)、アルミニウムイオン強度C(1)及びC(0)を用いて以下の式で表すことができる。
【0030】
B(基板)=C(1)/C(0)×B(0) (5)
したがって、式(5)を式(6)に代入することにより、以下の式が得られる。
【0031】
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−((C(1)/C(0))×B(0))) (1)
式(1)の右辺は、第1のS−SIMS測定及び第2のS−SIMS測定によって得られる各々のイオン強度値である。したがって、第1のシランカップリング膜2だけから放出されるAイオンとしての有機系のPFPEイオンとシリコンイオンとの撥液膜イオン強度比を算出することができる。
【0032】
ステップS130では、被覆率規定工程を行う。
この工程では、前のステップS120で算出された撥液膜イオン強度比は、撥液膜の被覆率が1(100%)のときの撥液膜の有機系の成分から放出される有機系イオンのイオン強度値と、撥液膜の成分である測定基板の材料と同じ成分から放出される測定基板のイオンのイオン強度値との比(有機系イオン強度値/測定基板のイオン強度値)と規定することができる。撥液膜の被覆率が1のときのこのイオン強度比の値を定量化基準点と規定する。撥液膜イオン強度比は、S−SIMSの測定原理上、撥液膜中の有機系の材料の成分と、測定基板と同じ材料の成分との比に比例し、撥液膜中の成分が一定であるとき、撥液膜イオン強度比も一定の値をとるからである。なお、本実施形態での撥液膜イオン強度比とは、シランカップリング膜2だけから放出されるPFPEイオンの強度値とシリコンイオンの強度値の比である。
【0033】
ステップS140では、SIMS検量線作成工程を行う。
図3は、本工程で作成したSIMS検量線を表したグラフを示す。縦軸は、S−SIMS測定におけるPFPEイオン強度値とシリコンイオン強度値のイオン強度比(PFPEイオン強度値/シリコンイオン強度値)である。すなわち、撥液膜としてのシランカップリング膜2が形成されている第2の測定基板としてのシリコン基板(図示せず)をS−SIMS測定法で測定したときに得られるイオン強度比を縦軸としている。横軸は、基板上に形成された撥液膜としてのシランカップリング膜の被覆率である。
【0034】
ステップS130で説明したように、撥液膜イオン強度比は、任意の基体に撥液膜を形成しても、変化しない。その理由は、上記に説明したように、撥液膜2が有する成分の比に比例するからである。その撥液膜イオン強度比に対して被覆率を1として、図3に示すグラフにプロットする。このプロットされた点がステップS130で規定した定量化基準点である。また、イオン強度比が0の場合には、シランカップリング膜2の被覆率も0であるとして、原点と被覆率1の点を直線で結び、これを被覆率を求めるためのSIMS検量線とする。
【0035】
ステップS150では、第3のS−SIMS測定工程を行う。
図4は、被覆率を評価する試料のS−SIMS測定を説明するための模式断面図を示す。第3の測定基板としてのシリコン基板5の表面に被覆率が1未満であるシランカップリング膜2が形成されている試料を用いる。試料にイオンビーム(1次イオン)を照射し、試料から放出される2次イオンとしてのPFPEイオンA及びシリコンイオンBを検出器3で検出し、PFPEイオン強度値A(試料)及びシリコンイオン強度値B(試料)を測定する。
【0036】
ステップS160では、試料イオン強度比算出工程を行う。試料イオン強度比は、前のステップS150の第3のS−SIMS測定で得られたPFPEイオンの強度値A(試料)と、シリコンイオンの強度値B(試料)との比である。すなわち、PFPEイオンの強度値A(試料)/シリコンイオンの強度値B(試料)で算出される。
【0037】
ステップS170では、試料の被覆率取得工程を行う。図3のグラフにおけるSIMS検量線から、試料イオン強度比の値と対応する被覆率を取得する。
【0038】
第1実施形態の効果を以下に記載する。
【0039】
(1)第1のS−SIMS測定工程では、シランカップリング膜2の成分をほとんど有さないアルミニウム基板1を用いて、シランカップリング膜2が形成されたアルミニウム基板1の表面をS−SIMS測定法で測定し、シランカップリング膜が有するPFPEイオン強度値A(1)、シリコンイオン強度値B(1)及びアルミニウムイオン強度値C(1)を得る。次の第2のS−SIMS測定工程では、シランカップリング膜2が形成されていないアルミニウム基板4の表面をS−SIMS測定法で測定し、アルミニウム基板4に微小に含まれている可能性があるシリコンイオン強度値B(0)と、アルミニウムイオン強度値C(0)を得る。次の撥液膜イオン強度比算出工程では、シランカップリング膜2だけから発生する、シランカップリング膜2が有するPFPEイオン強度値A(膜)と、シリコンイオン強度値B(膜)との比、すなわち撥液膜イオン強度比を最終的に、上記の(1)式を用いて算出する。撥液膜イオン強度比は、S−SIMSの測定原理上、撥液膜中の有機系の材料の成分と、測定基板と同じ材料の成分との比に比例する。撥液膜中の成分が一定であるとき、撥液膜イオン強度比も一定の値をとる。次の被覆率規定工程では、この一定の値をとる撥液膜イオン強度比をシランカップリング膜2の被覆率が1であるとして、定量化基準点として規定する。次のSIMS検量線作成工程では、PFPEイオン強度値Aとシリコンイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、シランカップリング膜2の被覆率との関係を表すSIMS検量線を、原点と定量化基準点とを直線で結んだ1次関数で規定する。第3のS−SIMS測定工程では、実際にシランカップリング膜2が形成されているシリコン基板5をS−SIMS測定法で測定し、PFPEイオン強度値A(試料)とシリコンイオン強度値B(試料)とを取得する。次の試料イオン強度比算出工程では、有機系の材料のイオン強度値A(試料)と測定基板の材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、SIMS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、被覆率を取得する。SIMS検量線を作成することにより、シランカップリング膜2が形成されているシリコン基板5の表面における、シランカップリング膜2の被覆率の測定をS−SIMS測定法を用いて測定することができる。また、S−SIMS測定法は微小領域の測定が可能であるので、シリコン基板5における微小領域のシランカップリング膜2の被覆率を測定することができる。また、S−SIMS測定法だけを用いて、シランカップリング膜2の被覆率を測定することができるので、被覆率の測定にあまり手間がかからない。
【0040】
(第2実施形態)
第2実施形態について図5及び図6を用いて説明する。本実施形態で被覆率を評価する薄膜は、撥水機能を有する發液膜を用いている。
図5は、本実施形態の撥液膜の被覆率の測定方法の流れを示すフローチャートを示す。
【0041】
ステップS200では、第1のISS測定工程を行う。
この工程では、基準試料の表面を、ISS測定法で測定し、第1の1次イオン数を取得する。
【0042】
ここで、基準試料とは、第1実施形態での被覆率規定工程で規定した定量化基準点、すなわち被覆率が1である試料と定義する。本実施形態での基準試料は、測定基板としてのシリコン基板に撥液膜としてのシランカップリング膜が被覆率1で形成されているものを使用する。
【0043】
ここで、ISS(Ion Scattering Spectroscopy)測定について説明する。ISS測定の原理は、まず、測定したい試料の表面に希ガス等をイオン化させた1次イオンが入射される。入射された1次イオンは試料表面で弾性散乱を起こし、散乱角θの方向に散乱される。散乱角θの方向に散乱された1次イオンを検出器で検出し、弾性散乱により変化した1次イオンの運動エネルギー分布を測定する。この運動エネルギー分布から、試料表面の原子層等の組成を分析できる。また、ISS測定法は、試料の測定深さはおよそ0.1nm程度であり、試料表面のみの情報を精度良く得ることができる。ただし、S−SIMS測定法のように、微小領域を測定することができない。ISS測定法での、最小測定範囲はおよそ1mmφである。
【0044】
本実施形態では、撥液膜が形成されている試料を測定することから、その撥液膜に多く含まれる原子が試料表面に存在するとみなした場合、その原子によって散乱される希ガスイオンの運動エネルギーは、原子によって一義的に決定される。したがって、散乱角θ方向に散乱されてきた1次イオン数を測定することにより、試料表面に形成された撥液膜の被覆率を測定することができる。すなわち、試料表面にその原子が少ない場合には、散乱された1次イオン数は少なくなり、原子が多ければ、散乱された1次イオン数も多くなる。
【0045】
本実施形態では、撥液膜としてシランカップリング膜を用いており、そのシランカップリング膜に多く含まれている原子はフッ素なので、フッ素原子によって散乱される散乱角θにおける1次イオン数を測定する。このときのISS測定を行う測定範囲は、1mmφである。
【0046】
ステップS210では、定量化基準規定工程を行う。
この工程では、第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定する。第1の1次イオン数は、第1のISS測定工程で測定した定量化基準点となる基準試料の1次イオン数であるので、測定原理上、最大となる値だからである。
【0047】
ステップS220では、第2のISS測定工程を行う。
この工程では第1の測定基板としてのシリコン基板に形成された被覆率が1未満の撥液膜としてのシランカップリング膜を形成する。この試料を第1の検量線作成用試料とする。第1の検量線作成用試料としてのシランカップリング膜が形成されているシリコン基板をISS測定法で測定し、第2の1次イオン数を取得する。ここで、第1の検量線作成用試料は、少なくとも1種類、できれば違う被覆率を有する数種類の試料があるのが望ましい。なお、第2のISS測定工程の測定条件は、第1のISS測定工程の測定条件と同じにしている。
【0048】
ステップS230では、ISS被覆率算出工程を行う。
この工程では、第2の1次イオン数をISS定量化基準値で除する。その値をISS被覆率として規定する。ISS測定法の測定原理から、第1の検量線作成用試料の表面のシランカップリング膜の被覆率に第2の1次イオン数は比例するとみなせる。したがって、被覆率が1であるときの第1の1次イオン数、すなわちISS定量化基準値で除した値はそのままシランカップリング膜の被覆率とみなすことができる。
【0049】
ステップS240では、第1のS−SIMS測定工程を行う。
【0050】
この工程では、第2のISS測定工程で用いた第1の検量線作成用試料とほぼ同一の第2の検量線作成用試料を用いる。この試料をS−SIMS測定法で測定し、PFPEイオンのイオン強度値A(検量線)及びシリコンイオンのイオン強度値B(検量線)を取得する。S−SIMS測定法による測定は、第1実施形態の図4と同様である。このときのS−SIMSの測定範囲は、第1のISS測定工程及び第2のISS測定工程と同じ面積とする。なお、第2の検量線作成用試料の代わりに、第1の検量線作成用試料を用いて測定してもよい。しかし、ISS測定法による測定で、測定する試料におけるシランカップリング膜の被覆率が変化するおそれがある。したがって、本実施形態では、同一条件でシリコン基板にシランカップリング膜を形成した第1の検量線作成用試料を分割して、第2の検量線作成用試料を作製している。
【0051】
ステップS250では、検量線用イオン強度比算出工程を行う。
【0052】
この工程では、第1のS−SIMS測定工程で取得したPFPEイオンのイオン強度値A(検量線)とシリコンイオンのイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を算出する。
【0053】
ステップS260では、ISS検量線作成工程を行う。
【0054】
この工程では、ISS被覆率算出工程で得たISS被覆率と、検量線用イオン強度比算出工程で得た検量線用イオン強度比とを、及びISS定量化基準値と第1実施形態で得られた定量化基準点とを対応させてISS検量線を作成する。
【0055】
図6は、本工程で作成したISS検量線を表したグラフを示す。縦軸は、S−SIMS測定におけるPFPEイオン強度値とシリコンイオン強度値のイオン強度比(PFPEイオン強度値/シリコンイオン強度値)である。横軸は、シランカップリング膜の被覆率(%)である。被覆率が1(100%)には、第1実施形態で求めた定量化基準点としてのイオン強度比を対応させている。同図では、黒丸で示している。また、白丸で示している点は、ISS被覆率算出工程で取得したISS被覆率と、検量線用イオン強度比算出工程で取得した検量線イオン強度比とを対応させている。原点、白丸及び黒丸を曲線で結んでいくと、同図のようなISS検量線を得ることができる。このISS検量線は、シランカップリング膜が形成されているシリコン基板の試料をISS測定法で被覆率を測定しているので、第1実施形態のSIMS検量線よりも検量線の精度を高めることができる。同図では、3点の場合を示しているが、さらに被覆率の異なる試料をISS測定法及びS−SIMS測定法で測定して、ISS被覆率と検量線用イオン強度比を得ることによって、検量線の精度を高めることができる。
【0056】
ステップS270では、第2のS−SIMS測定工程を行う。
【0057】
この工程は、第1実施形態での第3のS−SIMS測定工程と同様である。
【0058】
ステップS280では、試料イオン強度比算出工程を行う。
【0059】
この工程では、試料イオン強度比の算出を行う。試料イオン強度比は、第2のS−SIMS測定工程で得られたPFPEイオンの強度値A(試料)と、シリコンイオンの強度値B(試料)との比である。すなわち、PFPEイオンの強度値A(試料)/シリコンイオンの強度値B(試料)で算出される。
【0060】
ステップS290では、試料被覆率取得工程を行う。図6のグラフにおけるISS検量線から、試料イオン強度比の値と対応する被覆率を取得する。
【0061】
第2実施形態の効果を以下に記載する。
【0062】
(2)第1のISS測定工程では、定量化基準点として規定された条件を満たす基準試料の表面の材料をISS測定法で測定し、第1の1次イオン数を得る。次のISS定量化基準規定工程では、第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定する。すなわち、第1の1次イオン数をISS測定におけるISS被覆率が1であると規定する。次の第2のISS測定工程では、少なくとも1種類以上の検量線作成用試料としての被覆率が1未満の撥液膜が形成された測定基板の表面の材料をISS測定法で測定し、第2の1次イオン数を得る。次のISS被覆率算出工程では、第2の1次イオン数をISS定量化基準値で除して、その値をISS被覆率とする。次の第1のS−SIMS測定工程では、第2のISS測定工程で測定した検量線作成用試料とほぼ同一の第2の検量線作成用試料の表面をS−SIMSで測定して、PFPEイオン強度値A(検量線)と、シリコンイオン強度値B(検量線)とを得る。次の検量線用イオン強度比算出工程では、PFPEイオン強度値A(検量線)とシリコンイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を算出する。次の検量線作成工程では、少なくとも1つ以上のISS被覆率と、少なくとも1つ以上の検量線イオン強度比とを、及びISS定量化基準値と定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成する。次の第2のS−SIMS測定工程では、実際にシランカップリング膜の被覆率を測定したい試料について、S−SIMS測定法でPFPEイオン強度値A(試料)とシリコンイオン強度値B(試料)の測定をする。次の試料イオン強度比算出工程では、PFPEイオン強度値A(試料)とシリコンイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する。次の試料被覆率評価工程では、ISS検量線に試料イオン強度比を当てはめることにより、試料の撥液膜の被覆率を得る。これにより、検量線作成用試料を用いてISS測定法で被覆率を定量化し、ほぼ同じ検量線作成用試料を用いてS−SIMS測定法にて検量線用イオン強度比を求めて、ISS検量線を作成することにより、SIMS検量線よりもさらに試料の被覆率測定を正確に行うことができる。
【0063】
(変形例)
(1)第2実施形態で作成されたISS検量線を用いて、シランカップリング膜の膜厚変化を検出することができる。
【0064】
図7は、ISS検量線を用いてシランカップリング膜の膜厚変化を検出する方法を説明するグラフを示す。同図におけるISS検量線から外れた点Aは、被覆率が0.8(80%)のシランカップリング膜が形成されているシリコン基板を、350℃の温度でアニールした試料Aである。
【0065】
まず、この試料をS−SIMS測定法で測定し、PFPEイオンのイオン強度値A(試料)とシリコンイオンのイオン強度値B(試料)の試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を求める。この試料Aをアニールする前に、S−SIMS測定における試料イオン強度比を得ている場合には、アニール前とアニール後の試料イオン強度比を比較することにより、膜厚変化を検出することができる。ただし、S−SIMS測定法によって、試料の表面のシランカップリング膜等にダメージが入るのを極力避けたいので、S−SIMS測定法による測定を行わない場合が多い。
【0066】
したがって、アニール後の試料をISS測定法で測定し、ISS被覆率を求める。ISS測定法は、測定に使用する測定深さはおよそ0.1nmであるので、シランカップリング膜が0.1nm以上シリコン基板に残存していれば、正確な被覆率を求めることができる。一方、S−SIMS測定法では、測定に使用する測定深さは1nmである。シランカップリング膜の膜厚が1nm未満になると、シリコン基板の内部まで測定されることになるため、シリコンイオンのイオン強度値が高くなり、その結果、試料イオン強度値は小さくなる。このように、ISS測定法の測定深さと、S−SIMS測定法の測定深さとからくるこの測定結果の差異によって、膜厚変化を検出することができる。同図における点Aは、ISS測定法によって得られたISS被覆率が0.8(80%)であり、一方、S−SIMS測定法では50%の被覆率となる。このように、両者の測定法によって、結果に差異が生じる場合には、シランカップリング膜の膜厚が変化していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1実施形態における撥液膜の被覆率評価の流れを示すフローチャート。
【図2】(a)、(b)は第1実施形態のS−SIMS測定法を説明する模式断面図。
【図3】第1実施形態で作成される検量線の一例を示すグラフ。
【図4】第1実施形態のS−SIMS測定法を説明する模式断面図。
【図5】第2実施形態における撥液膜の被覆率評価の流れを示すフローチャート。
【図6】第2実施形態で作成される検量線の一例を示すグラフ。
【図7】変形例における膜厚変化の検出方法を説明するための検量線のグラフ。
【符号の説明】
【0068】
1…第1のブランク基板としてのアルミニウム基板、2…撥液膜としてのシランカップリング膜、3…S−SIMS測定装置の検出器、4…第2のブランク基板としてのアルミニウム基板、5…第3の測定基板としてのシリコン基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の被覆率の測定を行うための第1の測定基板の材料の成分を有する前記薄膜が形成されている、少なくとも前記薄膜が形成された表面には前記薄膜が有する成分をほとんど有さない材料で形成された第1のブランク基板の表面の材料をイオン化して、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)と、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記薄膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)とをS−SIMS測定法で測定する第1のS−SIMS測定工程と、
前記薄膜が形成されていない、前記第1のブランク基板と同じ材料で形成されている第2のブランク基板の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とをS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、
前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、前記薄膜のみから検出される前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(膜)及び第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)の撥液膜イオン強度比(A(膜)/B(膜))を算出する薄膜イオン強度比算出工程と、
前記薄膜イオン強度比算出工程で得られる前記薄膜イオン強度比を、前記薄膜の被覆率の測定を行うための任意の基体に形成されている薄膜の被覆率を1とする定量化基準点を規定する被覆率規定工程と、
S−SIMS測定法による測定で取得される前記薄膜の被覆率を測定するための、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第2の測定基板に形成されている前記薄膜が有する前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値Aと前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、前記薄膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線であって、原点及び前記定量化基準点とが直線で結ばれた一次関数で規定した前記SIMS検量線を作成するSIMS検量線作成工程と、
前記薄膜の被覆率の測定を行うための前記薄膜が形成されている、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第3の測定基板の表面の材料をイオン化して、前記薄膜が有する前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)及び前記薄膜が有する前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第3のS−SIMS測定工程と、
前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、
前記SIMS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する薄膜の被覆率の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜の被覆率測定方法であって、
前記薄膜イオン強度比算出工程における前記薄膜イオン強度比の算出は、
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−((C(1)/C(0))×B(0))
(1)
ただし、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値をC(基板)とした場合に、前記第1のS−SIMS測定工程で得られた前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(1)、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度B(1)及び前記第1のブランク基板材料のイオン強度C(1)を、
A(1)=A(膜) (2)
B(1)=B(膜)+B(基板) (3)
C(1)=C(基板) (4)
と規定し、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)を、前記第2のS−SIMS測定工程で得られた前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、
B(基板)=(C(1)/C(0))×B(0) (5)
で算出し、前記(2)式〜前記(5)式を用いて導かれる、前記(1)式で算出する薄膜の被覆率測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の前記定量化基準点として規定された条件を満たす前記薄膜が形成された基準試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている前記薄膜の原子によって散乱される第1の1次イオン数を測定する第1のISS測定工程と、
前記第1のISS測定工程で得られた前記第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定するISS定量化基準規定工程と、
少なくとも1種類以上の被覆率が1未満である薄膜が形成された第1の測定基板を用いた、検量線を作成するための第1の検量線作成用試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている薄膜の原子によって散乱される第2の1次イオン数を測定する第2のISS測定工程と、
前記第2の1次イオン数を前記ISS定量化基準値で除した値を用いて、前記第1の検量線作成用試料の薄膜の被覆率としてのISS被覆率を少なくとも1つ以上算出するISS被覆率算出工程と、
前記第1の検量線作成用試料の被覆率と略同一の第2の検量線作成用試料の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)と、S−SIMS測定法で測定をする第1のS−SIMS測定工程と、
前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(検量線)と前記測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を少なくとも1つ以上求める検量線用イオン強度比算出工程と、
少なくとも1つ以上の前記ISS被覆率と、少なくとも1つ以上の前記検量線イオン強度比とを、前記ISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された前記定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成するISS検量線作成工程と、
薄膜の被覆率の測定を行うための第2の測定基板に前記薄膜を形成した試料の表面の材料をイオン化して、前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)及び前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、
前記薄膜に含まれる前記第1の測定基板の材料以外の材料のイオン強度値A(試料)と前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、
前記ISS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する薄膜の被覆率の測定方法。
【請求項4】
有機系の材料の成分、及び撥液膜の被覆率の測定を行うための第1の測定基板の材料の成分を有する前記撥液膜が形成されている、少なくとも前記撥液膜が形成された表面には前記撥液膜が有する成分をほとんど有さない材料で形成された第1のブランク基板の表面の材料をイオン化して、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の有機系の材料のイオン強度値A(1)と、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記撥液膜及び前記第1のブランク基板表面の前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)とをS−SIMS測定法で測定する第1のS−SIMS測定工程と、
前記撥液膜が形成されていない、前記第1のブランク基板と同じ材料で形成されている第2のブランク基板の表面の材料をイオン化して前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とをS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、
前記有機系の材料のイオン強度値A(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(1)と、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値C(1)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、前記撥液膜のみから検出される有機系の材料のイオン強度値A(膜)及び第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(膜)の撥液膜イオン強度比(A(膜)/B(膜))を、
A(膜)/B(膜)=A(1)/(B(1)−((C(1)/C(0))×B(0))
(1)
ただし、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)、前記第1のブランク基板の材料のイオン強度値をC(基板)とした場合に、前記第1のS−SIMS測定工程で得られた前記有機系材料のイオン強度値A(1)、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度B(1)及び前記第1のブランク基板材料のイオン強度C(1)を、
A(1)=A(膜) (2)
B(1)=B(膜)+B(基板) (3)
C(1)=C(基板) (4)
と規定し、前記第1のブランク基板に含まれる前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値をB(基板)を、前記第2のS−SIMS測定工程で得られた前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(0)と、前記第2のブランク基板の材料のイオン強度値C(0)とを用いて、
B(基板)=(C(1)/C(0))×B(0) (5)
で算出し、前記(2)式〜前記(5)式を用いて導かれる、前記(1)式で算出する撥液膜イオン強度比算出工程と、
前記撥液膜イオン強度比算出工程で得られる前記撥液膜イオン強度比を、前記撥液膜の被覆率の測定を行うための任意の基体に形成されている撥液膜の被覆率を1とする定量化基準点を規定する被覆率規定工程と、
S−SIMS測定法による測定で取得される前記撥液膜の被覆率を測定するための、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第2の測定基板に形成されている前記撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値Aと前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値Bとのイオン強度比(A/B)と、前記撥液膜の被覆率との関係を表すSIMS検量線であって、原点及び前記定量化基準点とが直線で結ばれた一次関数で規定した前記SIMS検量線を作成するSIMS検量線作成工程と、
前記撥液膜の被覆率の測定を行うための前記撥液膜が形成されている、第1の測定基板と同じ材料で形成されている第3の測定基板の表面の材料をイオン化して、前記撥液膜が有する有機系の材料のイオン強度値A(試料)及び前記撥液膜が有する前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第3のS−SIMS測定工程と、
前記有機系の材料のイオン強度値A(試料)と前記第3の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、
前記SIMS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する撥液膜の被覆率の測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の前記定量化基準点として規定された条件を満たす前記撥液膜が形成された基準試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている前記撥液膜の原子によって散乱される第1の1次イオン数を測定する第1のISS測定工程と、
前記第1のISS測定工程で得られた前記第1の1次イオン数をISS定量化基準値として規定するISS定量化基準規定工程と、
少なくとも1種類以上の被覆率が1未満である撥液膜が形成された第1の測定基板を用いた、検量線を作成するための第1の検量線作成用試料の表面の材料をISS測定法で、当該基準試料に形成されている撥液膜の原子によって散乱される第2の1次イオン数を測定する第2のISS測定工程と、
前記第2の1次イオン数を前記ISS定量化基準値で除した値を用いて、前記第1の検量線作成用試料の撥液膜の被覆率としてのISS被覆率を少なくとも1つ以上算出するISS被覆率算出工程と、
前記第1の検量線作成用試料の被覆率と略同一の第2の検量線作成用試料の表面の材料をイオン化して有機系材料のイオン強度値A(検量線)と、前記第1の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)と、S−SIMS測定法で測定をする第1のS−SIMS測定工程と、
前記有機系材料のイオン強度値A(検量線)と前記測定基板と同じ材料のイオン強度値B(検量線)との検量線用イオン強度比(A(検量線)/B(検量線))を少なくとも1つ以上求める検量線用イオン強度比算出工程と、
少なくとも1つ以上の前記ISS被覆率と、少なくとも1つ以上の前記検量線イオン強度比とを、及び前記ISS定量化基準値と請求項1の被覆率規定工程で規定された前記定量化基準点とを対応させることにより、ISS検量線を作成するISS検量線作成工程と、
撥液膜の被覆率の測定を行うための第2の測定基板に前記撥液膜を形成した試料の表面の材料をイオン化して、有機系の材料のイオン強度値A(試料)及び前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)をS−SIMS測定法で測定する第2のS−SIMS測定工程と、
前記有機系の材料のイオン強度値A(試料)と前記第2の測定基板と同じ材料のイオン強度値B(試料)との試料イオン強度比(A(試料)/B(試料))を算出する試料イオン強度比算出工程と、
前記ISS検量線を用いて、前記試料イオン強度比から試料の被覆率を取得する試料被覆率取得工程と、を有する撥液膜の被覆率の測定方法。
【請求項6】
請求項5のISS検量線を用いて撥液膜の膜厚変化を検出する方法であって、
S−SIMS測定法の測定深さとISS測定法の測定深さとの差と、前記撥液膜が形成された前記第3の測定基板の試料の試料イオン強度比と、請求項5で作成された前記ISS検量線とを用いて取得される前記ISS被覆率と、前記第3の測定基板の試料をISS測定法で測定し、請求項4に記載のISS被覆率算出工程を用いて算出されたISS被覆率との差と、を利用して前記撥液膜の膜厚変化を検出する膜厚変化検出工程と、を有する撥液膜の膜厚変化検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−78309(P2006−78309A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261988(P2004−261988)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】