説明

薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタを作製する方法

【課題】既知のTFTの性能を改良する。
【解決手段】半導体層が、式(I)または式(II):


(式中、Mは、三価の金属原子でり、mは、0〜6の整数であり、Rは、独立に、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、かつXは、ハロゲン原子である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、様々な実施形態の電子デバイス、例えば薄膜トランジスタ(「TFT」)での使用に適した組成物および方法に関する。本開示はまた、このような組成物および方法を用いて製造される構成部品または層、ならびにこのような材料を含む電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、一般に、支持基板、3つの導電性電極(ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極)、チャネル半導体層、および、ゲート電極を半導体層と分離する電気的に絶縁性のゲート誘電体層から構成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Toshihiko Kaji, Shiro Entani, Susumu Ikeda and Koichiro Saiki, "Origin of Carrier Types in Intrinsic Organic Semiconductors", 2008 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co KGaA, Weinheim; 2008; pp.1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知のTFTの性能を改良することが望ましい。性能は、少なくとも3つの特性:移動度、電流オン/オフ比、および閾値電圧によって測定することができる。移動度は、cm/V・秒の単位で測定され、高い移動度が望ましい。高い電流オン/オフ比も望ましい。閾値電圧は、電流を流すために、ゲート電極に印加するのに必要なバイアス電圧に関する。一般に、できる限りゼロ(0)に近い閾値電圧が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、半導体層を含む薄膜トランジスタであって、前記半導体層が、式(I)または式(II):
【化1】


式(I) 式(II)
(式中、Mは、三価の金属原子であり、各々のmは、フェニルもしくはナフチル環のR置換基の数を表し、かつ、独立に、0〜6の整数であり、各々のRは、独立に、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、−CN、および−NOからなる群より選択され、かつXは、ハロゲン原子である。)で示されるハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む、薄膜トランジスタである。
【0006】
また、前記薄膜トランジスタにおいて、前記ハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体が、式(1)〜(11):
【化2】


式(1) 式(2)
【化3】


式(3) 式(4)
【化4】


式(5) 式(6)
【化5】


式(7) 式(8)
【化6】


式(9) 式(10)
【化7】


式(11)
から選択されることが好ましい。
【0007】
また、前記薄膜トランジスタにおいて、前記三価の金属原子Mがインジウムであり、前記ハロゲン原子Xが塩素であり、各々のmがゼロであることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、薄膜トランジスタを作製する方法であって、液体組成物を基板の上に堆積させて半導体層を形成する段階を含み、前記液体組成物が溶媒、ポリマ、および式(I)または式(II):
【化8】


式(I) 式(II)
(式中、Mは、三価の金属原子であり、各々のmは、フェニルもしくはナフチル環のR置換基の数を表し、かつ、独立に、0〜6の整数であり、各々のRは、独立に、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、−CN、および−NOからなる群より選択され、かつXは、ハロゲン原子である。)で示されるハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む、薄膜トランジスタを作製する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本開示のTFTの第1の例となる実施形態を示す図である。
【図2】本開示のTFTの第2の例となる実施形態を示す図である。
【図3】本開示のTFTの第3の例となる実施形態を示す図である。
【図4】本開示のTFTの第4の例となる実施形態を示す図である。
【図5】本開示のTFTの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、様々な実施形態において、特定の種類の半導体材料を含む半導体層を有する有機薄膜トランジスタ(「OTFT」)に関する。
【0011】
実施形態に開示されるものは、半導体層を含む薄膜トランジスタであり、ここで、該半導体層は、上記式(I)または式(II)のハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む。
【0012】
Mは、インジウム、アンチモン、鉄、チタン、マンガン、ガリウム、およびアルミニウムからなる群より選択され得る。具体的な実施形態では、ハロゲン原子Xは塩素である。その他の具体的な実施形態では、三価の金属原子Mはインジウムであり、ハロゲン原子Xは塩素であり、各々のmはゼロである。
【0013】
具体的なフタロシアニン錯体には、上記式(1)〜(11)のフタロシアニン錯体が含まれる。
【0014】
また、実施形態に開示されるものは、液体組成物を基板の上に堆積させて半導体層を形成することを含む、薄膜トランジスタを作製する方法であり、該液体組成物は、溶媒、ポリマ、および上記式(I)または式(II)のハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む。
【0015】
具体的な用語が、以下の説明中で明確にする目的で用いられているが、これらの用語は、図面での説明のために選択される実施形態の特定の構造のみを言及することが意図されるものであり、本開示の範囲を規定または限定することを意図するものではない。図面および下記の次の説明において、同様の数字表示が同様の機能の構成部品をさすことは当然理解される。
【0016】
図1は、第1のOTFTの実施形態または構成を図解する。OTFT10は、ゲート電極30および誘電体層40に接触している基板20を含む。ここではゲート電極30が基板20の内部に描かれているが、これは必須でない。しかし、誘電体層40がゲート電極30をソース電極50、ドレイン電極60、および半導体層70から分離することは重要である。ソース電極50は半導体層70に接触する。ドレイン電極60も半導体層70に接触する。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60の上面および両者の間に延びている。任意選択の界面層80は、誘電体層40と半導体層70の間に設置される。
【0017】
図2は、第2のOTFTの実施形態または構成を図解する。OTFT10は、ゲート電極30および誘電体層40に接触している基板20を含む。半導体層70は、誘電体層40の上方または上面に設置され、誘電体層40をソース電極50およびドレイン電極60から分離している。任意選択の界面層80は、誘電体層40と半導体層70の間に設置される。
【0018】
図3は、第3のOTFTの実施形態または構成を図解する。OTFT10は、ゲート電極としても作用し、かつ、誘電体層40に接触している基板20を含む。半導体層70は、誘電体層40の上方または上面に設置され、誘電体層40をソース電極50およびドレイン電極60から分離している。任意選択の界面層80は、誘電体層40と半導体層70の間に設置される。
【0019】
図4は、第4のOTFTの実施形態または構成を図解する。OTFT10は、ソース電極50、ドレイン電極60、および半導体層70に接触している基板20を含む。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60の上面および両者の間に延びている。誘電体層40は半導体層70の上にある。ゲート電極30は誘電体層40の上にあり、半導体層70に接触していない。任意選択の界面層80は、誘電体層40と半導体層70の間に設置される。
【0020】
半導体層は、上記式(I)または式(II)のハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む。なお、式(II)の錯体は、ナフタロシアニンとしても公知である。
【0021】
R置換基に関して、アルキルおよびアルコキシ基は、一般に1〜約12個の炭素原子を含み、一方、アリール基は、約6〜約20個の炭素原子を含む。それらは、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、および−OH基、ならびにそれらの組合せで置換されていてもよい。
【0022】
ある種の実施形態では、三価の金属原子Mは、インジウム、マンガン、アンチモン、鉄、ガリウム、チタン、およびアルミニウムからなる群より選択されてもよい。具体的な実施形態では、ハロゲン原子Xは塩素である。より具体的な実施形態では、三価の金属原子Mはインジウムであり、ハロゲン原子Xは塩素であり、各々のmはゼロである。
【0023】
一部の実施形態では、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、p型半導体である。例となるp型のハロゲンで配位された金属フタロシアニンとしては、上記式(1)〜(8)のものが挙げられる。
【0024】
さらなる実施形態では、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、n型半導体である。例となるn型のハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、上記式(9)〜(11)に示されるものである。
【0025】
これまでに、二価の金属原子、例えば銅を含む金属フタロシアニンが、薄膜トランジスタ用途に半導体として使用された。しかし、この金属フタロシアニンにはいくつか欠点がある。第1に、この金属フタロシアニンは電界効果移動度(field effect mobility)が低く、一般に0.05cm/V・秒未満である。第2に、この金属フタロシアニンは、置換されていない場合には溶解度が非常に低く、それにより溶液処理の可能性が除外される。
【0026】
他方では、本明細書に開示されるような三価の金属原子を含有する、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンが劇的に移動度を向上させた。結果として得られるトランジスタの移動度は、0.5cm/V・秒以上を含む、約0.1cm/V・秒以上である。その他の実施形態では、トランジスタの電流オン/オフ比は、10以上を含む、約10以上である。理論に制限されるものではないが、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンの移動度の向上は、半導体層中の様々な分子パッキングに起因すると考えられる。フタロシアニン環の中心でのハロゲン原子の配位に起因して、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、半導体層において2次元の相互にかみ合ったパッキング(interlocking packing)の形を取りやすい。この2次元の相互にかみ合ったパッキングを、下に示される構造(A)および(B)で説明する。この相互にかみ合った2次元のパッキングにより、異なる層のフタロシアニン分子の間で十分なπ−πの重なりがもたらされ、従ってより効率的な電荷移動が可能となる。
【0027】
【化9】

【0028】
ハロゲンで配位された金属フタロシアニンのもう一つの利点は、それらの向上した溶解度であり、それにより非置換フタロシアニン(各々のmが0の場合)にさえ液体堆積法が実現可能となる。銅フタロシアニンと比較して、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは改良された溶解度、例えば少なくとも50%、または少なくとも100%を有する。実施形態では、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンの溶解度は、適した溶媒中、特に、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエンなどの塩素系溶剤中、約0.01〜約20重量%である。その他の適した溶媒には、トルエン、キシレン、テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロナフテレン(tetrahydronaphthelene)、メシチレン、芳香族エステル類などが含まれる。
【0029】
半導体層は、ポリマをさらに含んでもよい。このようなポリマは当技術分野で公知であり、それには、例えば、絶縁および半導体ポリマ、例えばトリアリールアミンポリマ、ポリインドロカルバゾール、ポリカルバゾール、ポリアセン類、ポリフルオレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ(桂皮酸ビニル)、ポリ(ビニルフェノール)、ポリカーボネート、またはポリチオフェン類およびそれらの置換誘導体が含まれる。
【0030】
一部の実施形態では、界面層は、半導体層と誘電体層の間に位置する。界面層は、トランジスタの移動度により改良され得る。特定の実施形態では、誘電体層は、約6〜約18個の炭素原子を含む、約4〜約24個の炭素原子を有するアルキルトリクロロシラン類から形成される。例となるアルキルトリクロロシラン類としては、オクチルトリクロロシランおよびドデシルトリクロロシランが挙げられる。
【0031】
式(I)のハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体は、当分野で公知の方法を用いて合成されてもよい。このような錯体はAldrichより市販されており、それらは次に昇華などの任意の適した方法を用いて精製されてもよい。実施形態では、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、1.0×10−3mbar以下の減圧で少なくとも2回昇華される。
【0032】
半導体層は、約5nm〜約1000nmの厚さ、特に約10nm〜約100nmの厚さである。半導体層は、任意の適した方法、例えば、真空蒸着または液体堆積法により形成することができる。液体堆積法には、スピンコーティング、浸漬被覆、ブレードコーティング、ロッドコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、インクジェット印刷など、および当技術分野で公知のその他の従来法が含まれる。
【0033】
ある種の実施形態では、半導体層は溶液堆積される。一部の実施形態では、半導体層は、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンを含んで構成される。ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、溶液から堆積される。その他の実施形態では、半導体層は、ハロゲンで配位された金属フタロシアニンおよびポリマを含む。半導体層は、溶媒、ハロゲンで配位された金属フタロシアニン、および該ポリマを含む液体組成物の溶液堆積により形成される。ポリマは、液体組成物中の溶媒に溶解する。ハロゲンで配位された金属フタロシアニンは、部分的にこの溶媒に溶解することができ、部分的にこの溶媒中に分散する。
【0034】
ハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体の部分的に分散した部分は、例えば、約20〜約1000ナノメートルを含む、約10ナノメートル〜約2000ナノメートルの粒径を有し得る。フタロシアニン錯体の部分的に溶解した部分と部分的に分散した部分の間の重量比は、約10:90〜約50:50を含む、約5:95〜約80:20であってもよい。ポリマとハロゲンで配位された金属フタロシアニンの重量比は、約3:97〜約10:90を含む、約1:99〜約45:55であってもよい。さらなる実施形態では、ポリマとハロゲンで配位された金属フタロシアニンの両方が溶媒に溶解する。
【0035】
基板は、限定されるものではないが、シリコン、ガラスプレート、または、プラスチックフィルムもしくはシートを含む材料で構成されてもよい。構造上柔軟な装置である、プラスチック基板、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドシートなどを用いてもよい。
【0036】
ゲート電極は、導電性材料で構成される。ゲート電極は、真空蒸発、金属または導電性の金属酸化物のスパッタリング、従来のリソグラフィーおよびエッチング、化学気相成長、スピンコーティング、キャスティングまたは印刷、またはその他の堆積法により作製され得る。ゲート電極の厚さは、金属膜に関しては約10〜約500ナノメートル、導電性ポリマに関しては約0.5〜約10マイクロメートルの範囲である。
【0037】
誘電体層は、一般に無機金属膜、有機高分子膜、または有機無機複合膜であってもよい。適した有機ポリマの例としては、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド類、ポリスチレン、ポリメタクリレート類、ポリアクリレート類、エポキシ樹脂などが挙げられる。誘電体層の厚さは、用いる材料の誘電率によって決まり、例えば、約10ナノメートル〜約500ナノメートルであり得る。誘電体層は、例えば、約10−12ジーメンス/センチメートル(S/cm)未満の導電率を有し得る。
【0038】
所望であれば、界面層は、誘電体層と半導体層の間に配置されてもよい。有機薄膜トランジスタの中で電荷輸送はこれら2つの相の界面で起こるので、界面層はTFTの特性に影響を及ぼし得る。
【0039】
ソースおよびドレイン電極としての使用に適した典型的な材料としては、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマ、および導電性インクなどのゲート電極材料が挙げられる。具体的な実施形態では、電極材料は低い接触抵抗を半導体にもたらす。典型的な厚さは、例えば、約40ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、より具体的な厚さは、約100〜約400ナノメートルである。本開示のOTFT装置は、半導体チャネルを含む。半導体チャネル幅は、例えば、約5マイクロメートル〜約5ミリメートルであってもよく、具体的なチャネル幅は、約100マイクロメートル〜約1ミリメートルであってもよい。半導体チャネル長は、例えば、約1マイクロメートル〜約1ミリメートルであってもよく、より具体的なチャネル長は、約5マイクロメートル〜約100マイクロメートルであってもよい。
【0040】
ソース電極は接地され、例えばp型半導体用の約0ボルト〜約80ボルトのバイアス電圧がドレイン電極に印加されて、例えば約+10ボルト〜約−80ボルトの電圧がゲート電極に印加される場合に、半導体チャネルを超えて運搬される電荷担体が収集される。電極は、当技術分野で公知の従来法を用いて形成または堆積されてもよい。
【0041】
所望であれば、TFTの上面にバリヤ層を堆積して、環境条件、例えばその電気的性質を低下させ得る、光、酸素および湿度などからそれを保護してもよい。このようなバリヤ層は当技術分野で公知であり、単にポリマから成ってもよい。
【0042】
ハロゲンで配位された金属フタロシアニン半導体の1つの利点は、周囲条件下でのその優れた安定性である。実施形態では、半導体は、雰囲気酸素および周囲湿度下で、1ヶ月にわたり、または3ヶ月にわたり、または6ヶ月にわたり安定している。
【0043】
OTFTの様々な構成部品は、図に示されるように、任意の順序で基板の上に堆積されてもよい。用語「基板の上」は、各々の構成部品が直接に基板に接触することを必要とすると解釈されるべきではない。この用語は、基板に対する構成部品の位置を説明すると解釈されるべきである。しかし、一般に、ゲート電極および半導体層は双方とも誘電体層に接触しているべきである。さらに、ソース電極およびドレイン電極は双方とも半導体層に接触しているべきである。本開示の方法により形成される半導体ポリマは、有機薄膜トランジスタの任意の適当な構成部品の上に堆積されてそのトランジスタの半導体層を形成することができる。
【実施例】
【0044】
塩化インジウムフタロシアニンを合成し、使用前に一度昇華させた。図3に類似した実験用のボトムゲートトランジスタを、基板およびゲート電極の役目をするnドープされたシリコンウエハの上に誘電体層として200nmの厚さの熱酸化シリコン(SiO)層を構築した。SiO表面を、最初に、清潔なウエハ基板を0.1M OTS−18のトルエン溶液に60℃にて20分間浸漬することにより、オクタデシルトリクロロシラン(OTS−18)の自己組織化単分子膜(SAM)で改質した。OTS−18 SAMを用いて、半導体堆積の間の分子自己組織化を指示および促進した。60nmの厚さの塩化インジウムフタロシアニンの半導体層を、OTS−18界面層に、160℃の基板温度で0.5オングストローム/秒の速度にて真空蒸発により堆積した。その後に、金製のソース−ドレイン電極対を、シャドーマスクを介して半導体層の上に堆積し、従って様々なチャネル長さ(L)および幅(W)寸法をもつ一組のOTFTを作製した。チャネル長さが90または190μmで、チャネル幅が1または5mmのパターン化されたトランジスタを、電流/電圧測定に使用した。
【0045】
図5は、幅5mmおよび長さ90μmの典型的なOTFT装置の伝達曲線(transfer curve)を示す。実線(左側)は、ドレイン電流の平方根であり、破線(右側)は、ドレイン電流である。ドレイン電流のy軸が対数であるのに対して、ドレイン電流の平方根が線形であることに注意されたい。このトランジスタは、10より大きい電流オン/オフ比とともに、0.52cm/V・秒までの電界効果移動度を示した。移動度の値は、銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンよりも1桁以上大きい。理論に制限されるものではないが、この差は、銅フタロシアニンが平面的であるのに対して、本開示のハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体は平面的でないためであろう。この差は半導体層の分子パッキングに影響を及ぼす。
【符号の説明】
【0046】
10 OTFT、20 基板、30 ゲート電極、40 誘電体層、50 ソース電極、60 ドレイン電極、70 半導体層、80 界面層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を含む薄膜トランジスタであって、前記半導体層が、式(I)または式(II):
【化1】


式(I) 式(II)
(式中、Mは、三価の金属原子であり、
各々のmは、フェニルもしくはナフチル環のR置換基の数を表し、かつ、独立に、0〜6の整数であり、
各々のRは、独立に、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、−CN、および−NOからなる群より選択され、かつ
Xは、ハロゲン原子である。)
で示されるハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記ハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体が、式(1)〜(11):
【化2】


式(1) 式(2)
【化3】


式(3) 式(4)
【化4】


式(5) 式(6)
【化5】


式(7) 式(8)
【化6】


式(9) 式(10)
【化7】


式(11)
から選択される、請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記三価の金属原子Mがインジウムであり、前記ハロゲン原子Xが塩素であり、各々のmがゼロである、請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
薄膜トランジスタを作製する方法であって、
液体組成物を基板の上に堆積させて半導体層を形成する段階を含み、前記液体組成物が溶媒、ポリマ、および式(I)または式(II):
【化8】


式(I) 式(II)
(式中、Mは、三価の金属原子であり、
各々のmは、フェニルもしくはナフチル環のR置換基の数を表し、かつ、独立に、0〜6の整数であり、
各々のRは、独立に、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、−CN、および−NOからなる群より選択され、かつ
Xは、ハロゲン原子である。)
で示されるハロゲンで配位された金属フタロシアニン錯体を含む、薄膜トランジスタを作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−141318(P2010−141318A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275030(P2009−275030)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】