説明

薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置

【課題】塗工面の反対面を支持できない場合でも精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特に両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置を提供すること。
【解決手段】フィルム状の被塗工体5を支持する支持ロール10の搬送下流側の近傍位置に前記ノズル部4の先端吐出孔3を配設した構成とし、このノズル部4の先端吐出孔3の搬送下流側に、エアを吹き付けてフィルム振動を抑制する非接触式振動抑制機構Dを設けた構成とした薄膜塗工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスリット状の先端吐出孔から塗工液を吐出するノズル部に対して、フィルム状の被塗工体を搬送して表面に薄膜を塗工形成するように構成した薄膜塗工装置,並びに被塗工体の片面に塗工した後、これを乾燥する前に反対面にも塗工し、この両面を塗工した後に乾燥して被塗工体の両面に薄膜を塗工形成する両面薄膜塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液供給部から供給された塗工液をスリット状の先端吐出孔から吐出するノズル部を有し、このノズル部の先端吐出孔から塗工液を吐出しながら、このノズル部に対向するフィルム状の被塗工体をこのノズル部に対して搬送させることで、このフィルム状の被塗工体に塗工液を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、このフィルム状の被塗工体の塗工面と反対面を支承できる場合は、この反対面を塗工用支持ロールなどで支承して、このフィルム振動がない支承状態でノズル部を近接させて塗工することができるが、反対面を支承できない場合には、たとえ搬送上流側の塗工面を支承ロールで支持しても、搬送下流側で生じる振動,例えば熱風乾燥やIR乾燥など乾燥工程、特に熱風乾燥の場合に顕著となるフィルム振動が伝わり均一に塗工できず膜厚を精度良く管理できない。
【0003】
また、片面に第一塗工機構により塗工した後、熱風乾燥やIR乾燥などの乾燥を行う前に第二塗工機構により反対面も塗工し、この両面塗工した後に乾燥機構により乾燥することで装置の小型化や量産性を向上できる両面薄膜塗工装置の前記反対面を塗工する第二塗工機構においては、塗工面と反対側の前記片面は既に前記第一塗工機構によって塗工されていてこれがまだ乾燥していないため、この片面からは支承できず前述のような問題が生じる。
【0004】
一方、ノズル部の先端接触部をこのフィルム状の被塗工体に押圧接触すれば、このフィルム振動が減衰され、非接触式に比べれば均一な厚さの薄膜を精度良く塗工形成できることとなる。
【0005】
特に1mm以下のオーダーの薄膜を均一に塗工形成する場合には、塗工面と反対側の反対面を支承できない場合は、ノズル部を近接させて(押圧接触させないで)塗工する方式より前記押圧接触させる接触式のノズル部の方が望ましい。
【0006】
しかしながら、前記接触式のノズル部を用いると、フィルム振動を抑えることができる反面、被塗工体とこのノズル部の先端接触部との摺動接触により被塗工体を傷付ける場合があり、またこの被塗工体へのダメージを抑えるためにノズル部の先端接触部の材質を樹脂など硬度の低いものにした場合にはこのダメージは抑えられても先端接触部が摩耗し易くなり、この摩耗した先端接触部の摩耗粉が塗工薄膜に混入するおそれもある。
【0007】
また、特にアルミ製又は銅製などの金属フィルムを被塗工体とし、この表面にコバルト酸リチウムなどの正極活性物質又はグラファイトなどの負極活性物質にバインダーなどを混合しこれを塗工液として、100μmオーダーの薄膜を塗工形成するリチウムイオン電池形成材を作製する場合、この被塗工体に傷がつき易く不良となるおそれがあり、またノズル部の先端接触部が摩耗してこの摩耗粉が混入してしまうとこれも不良となるので接触式のノズル部は実用化しにくい問題があった。
【0008】
そのため、このようなリチウムイオン電池形成材、特に両面塗工して小型化,高出力化を図るリチウムイオン電池形成材を作製する場合は、片面塗工後これを乾燥する前に反対面を塗工して装置の小型化や量産性を上げる前述の両面塗工を実現しがたい。
【0009】
言い換えると、乾燥する前に両面塗工しようとすると、片面を塗工した後の反対面の塗工に際して、この片面は支承できないし、反対面の塗工面はこの塗工していない搬送上流側でしか支持できないから、搬送下流側の熱風乾燥などの乾燥工程などによるフィルム振動のために、非接触式の(近接させて塗工する)ノズル部によっては、均一な膜厚を塗工形成できない。
【0010】
また従来のように片面塗工後に一旦乾燥してから反対面を塗工する場合には、塗工面の温度変化によって膜厚に変化が生じるおそれがあるため、片面塗工して乾燥した後に再びクーリング装置で冷却しなければならず、そのため一旦巻き取りしない連続塗工を行う場合には、この二度の乾燥とクーリング工程を行う装置を配置しなければならず、装置が大型化し量産性に劣る。
【0011】
そこで、前述のように乾燥する前に両面を塗工できる両面塗工装置が要望されており、特に小型化・高出力化のために両面塗工することが要望されている前記リチウムイオン電池形成材においては、装置の小型化やこのリチウムイオン電池形成材の作製のスピードアップによる量産化を図るために、このような両面塗工が行える両面薄膜塗工装置が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題点を解決し、塗工面の反対面を支承できない場合でも精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかもこの両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0014】
液供給部1から供給された塗工液2をスリット状の先端吐出孔3から吐出するノズル部4を有し、このノズル部4の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4と対向するフィルム状の被塗工体5をこのノズル部4に対して搬送させることで前記被塗工体5に塗工液2を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、前記フィルム状の被塗工体5を支持する支持ロール10の搬送下流側の近傍位置に前記ノズル部4の先端吐出孔3を配設した構成とし、このノズル部4の先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送下流側に、前記フィルム状の被塗工体5にエアを吹き付けてフィルム振動を抑制するエア噴出部12を前記フィルム状の被塗工体5を挟んで対設した非接触式振動抑制機構Dを設けた構成としたことを特徴とする薄膜塗工装置に係るものである。
【0015】
また、前記非接触式振動抑制機構Dは、前記フィルム状の被塗工体5の両面に平行にして前記エア噴出部12を近接させて対設し、この各エア噴出部12の対向側表面にエアを噴出する多数のエア噴出孔16を形成した構成としたことを特徴とする請求項1記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0016】
また、前記ノズル部4を細長形状若しくは先細り形状に構成し、且つ前記支持ロール10側へ傾斜配設若しくは傾斜した形状に構成することで、前記ノズル部4の前記先端吐出孔3を前記支持ロール10の近傍位置の前記フィルム状の被塗工体5に対向配設したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0017】
また、前記フィルム状の被塗工体5の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構Aと、反対面に更に塗工する第二塗工機構Bと、この両面塗工を終えたフィルム状の被塗工体5を乾燥する乾燥機構Cとを備え、前記第二塗工機構Bとして前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置を用いたことを特徴とする両面薄膜塗工装置に係るものである。
【0018】
また、前記被塗工体5として金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液2としてリチウムイオン電池の正極活性物質若しくは負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成したことを特徴とする請求項4記載の両面薄膜塗工装置に係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように構成したから、塗工面の反対面を支承できない場合でも精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかもこの両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置となる。
【0020】
また、請求項2,3記載の発明においては、簡易な構成で本発明を容易に実現できる一層実用性に優れた薄膜塗工装置となる。
【0021】
また、請求項4記載の発明においては、片面に塗工する第一塗工機構と、反対面に更に塗工する第二塗工機構と、この両面塗工を終えた被塗工体を乾燥する乾燥機構とを備え、二度の乾燥工程と乾燥後のクーリング工程を要しないで連続して両面塗工を行え、装置の小型化や両面塗工のスピードを上げて量産性を向上できる両面塗工が、前記第二塗工機構として前記薄膜塗工装置を用いることで実現でき、実用化が図れる画期的な両面薄膜塗工装置となる。
【0022】
特に請求項5記載の発明においては、このような装置の小型化や製作量産化が図れる両面塗工のリチウムイオン電池形成材の作製が実現できる画期的な両面薄膜塗工装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施例の概略構成説明図である。
【図2】本実施例の要部の拡大説明図である。
【図3】本実施例の要部の更に拡大した拡大説明図である。
【図4】本実施例の非接触式振動抑制機構を示す説明図である。
【図5】本実施例の非接触式振動抑制機構の概略構成斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0025】
ノズル部4のスリット状の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4に対してフィルム状の被塗工体5を搬送することで、被塗工体5の表面に薄膜が塗工形成されるが、この塗工面と反対面を支承できない場合には、例えば熱風乾燥などの乾燥機構Cなどによるフィルム振動によって精度良く均一な薄膜を形成できない前述の問題が生じる。
【0026】
例えば前述のように乾燥する前に両面を塗工する場合、片面について塗工を行う第一塗工機構Aでは、反対面を支承できるため、従来通りの薄膜塗工装置を用いて構成して、塗工用支持ロール15で反対面を支承してノズル部4の先端吐出孔3を近接されば均一な薄膜を塗工形成できるが、この片面塗工後に反対面を塗工する第二塗工機構Bにおいては、片面は塗工済みであってまだ乾燥処理していないため支承することができず、たとえ支持ロール10で搬送上流側を支持しても搬送下流側からのフィルム振動により均一に薄膜を塗工形成できない前述の問題が生じる。
【0027】
この点本発明は、搬送上流側を支持ロール10で支持し、この支持ロール10の近傍位置にノズル部4の先端吐出孔3を配設し、この搬送下流側には、このフィルム状の被塗工体5にエアを吹き付けてフィルム振動を抑制するエア噴出部12をこのフィルム状の被塗工体5を挟んで対設した非接触式振動抑制機構Dを設けて、乾燥機構Cなどによる搬送下流側からのフィルム振動を抑制している。
【0028】
即ち、フィルム状の被塗工体5をエア噴出部12で挟むように対設し、このエア噴出部12からフィルム状の被塗工体5にエアを吹き付けることで、この被塗工体5を非接触で押さえつつ被塗工体5のフィルム振動を抑制し減衰させ、できるだけこのフィルム振動が搬送上流側のノズル部4の先端吐出孔3と対向する位置の被塗工体5にまで伝わりにくいようにしている。
【0029】
また、このようにしてフィルム振動を抑制減衰させると共に、このフィルム振動が小さい支持ロール10の近傍位置でノズル部4の先端吐出孔3を配設(近接あるいは押圧接触させないで配設)させ、これによりフィルム振動の影響をより小さくすることで、たとえ塗工面と反対面を支承できない場合、例えば前述のような乾燥前に両面を塗工する第二塗工機構Bの場合のように反対面を支承できない状態での塗工の場合でも、搬送上流側に支持ロール10を設け、この支持ロール10の搬送下流側近傍位置で先端吐出孔3から被塗工体5を吐出させて塗工すると共に、前記搬送下流側に設けた非接触式振動抑制機構Dによってフィルム状の被塗工体5を非接触で押さえることでフィルム振動を抑制することで、このフィルム振動の影響を極めて小さくできるから、このような場合でも均一な薄膜を精度良く塗工形成できることとなる。
【0030】
例えばノズル部4を幅狭く先細りにして、またこれを支持ロール10側へ傾けるなどしてできるだけ支持ロール10と被塗工体5との摺動接触位置に先端吐出孔3を近づける構成とし、この先端吐出孔3より搬送下流側に前記乾燥機構Cにはフィルム振動を減ずることのできる前記非接触式振動抑制機構Dを配設した構成とする。
【0031】
従って、このように構成することで塗工面の反対面を支持できない場合でも精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかもこの両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な両面薄膜塗工装置となる。
【実施例】
【0032】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0033】
本実施例は、反対面を支承できない状態でフィルム状の被塗工体5に薄膜を塗工するのに極めて有用な薄膜塗工装置を用いたもので、片面塗工後にこれを乾燥する前に連続して反対面も塗工する際にこの本発明に係る薄膜塗工装置を用いて両面薄膜塗工装置を構成したものであり、特にフィルム振動の問題を解決して実用化を可能としたものである。
【0034】
即ち、本実施例は、フィルム状の被塗工体5の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構Aと、反対面に更に塗工する第二塗工機構Bと、この両面塗工を終えた被塗工体5を乾燥する乾燥機構Cとを備え、前記第二塗工機構Bとして本発明に係る以下の薄膜塗工装置を用いたもので、前記第二塗工機構Bとして支持ロール10を第一塗工機構Aの搬送下流側に配置し、非接触式振動抑制機構Dを乾燥機構Cの搬送上流側に配置し、この間にノズル部4を配設し、更にこのノズル部4を前記支持ロール10の搬送下流側に近づけて先端吐出孔3を支持ロール10とフィルム状の被塗工体5との摺動接触位置に近づけた構成とした両面薄膜塗工装置としている。
【0035】
また、本実施例は、前述のように両面塗工に際してのフィルム振動の問題を接触式のノズル部4を用いずに解決し、これまで容易に実現できないとされていた両面塗工のリチウムイオン電池の作製における装置の小型化が図れ且つスピーディーに作製できる両面薄膜塗工装置を実現したものである。
【0036】
即ち、前記被塗工体5としてアルミ製フィルムや銅製フィルムなどの金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液2として例えばコバルト酸リチウムなどのリチウムイオン電池の正極活性物質若しくはグラファイトなどの負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成した両面薄膜塗工装置としている。
【0037】
具体的には、例えば被塗工体5は厚さ10〜20μmで幅650mmの金属製フィルムとし、このフィルムの両面にコバルト酸リチウムなどの正極活性物質若しくはグラファイトなどの負極活性物質にバインダーを混合した塗工液2を用いて100μmオーダーの薄膜を、プラスマイナス2μmの誤差で均一に塗工形成するもので、液供給部1から液溜め部13を介して供給された塗工液2をスリット状の先端吐出孔3から吐出するノズル部4を前記フィルム状の被塗工体5に対向配設し、このノズル部4の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4と対向するフィルム状の被塗工体5をこのノズル部4に対して搬送させることで前記被塗工体5に塗工液2を薄膜状に塗工するように構成している。
【0038】
本実施例では、このようなフィルム状の被塗工体5の片面に先ず塗工液2により塗工する第一塗工機構Aは、供給ロール14に巻き取ってあるフィルム状の被塗工体5を引き出し、塗工面と反対面を塗工用支持ロール15で支持しながら、片面に前記ノズル部4の先端吐出孔3を近接させて片面に薄膜を塗工形成する従来の薄膜塗工装置で構成し、この第一塗工機構Aにより片面塗工を終え、乾燥工程もクーリング工程も経ることなく、まだ乾燥処理しないこのフィルム状の被塗工体5に、この既に塗工済みの片面を支持することなく第二塗工機構Bにより塗工し、この両面塗工を終えた後に、例えばIRや熱風で乾燥する乾燥機構Cを設けている。
【0039】
本実施例では、このような両面薄膜塗工装置の前記第二塗工機構Bに本発明に係る薄膜塗工装置を適用したもので、前述のように、支持ロール10を第一塗工機構Aの搬送下流側に配置し、非接触式振動抑制機構Dを乾燥機構Cの搬送上流側に配置し、この間にノズル部4を配設し、更にこのノズル部4を支持ロール10の搬送下流側に近づけて先端吐出孔3を支持ロール10とフィルム状の被塗工体5との摺動接触位置に近づけて、フィルム振動を非接触式振動抑制機構Dによりできるだけ抑え込んだ状態で且つできるだけこのフィルム振動の影響が小さい支持ロール10の近傍位置で片面に続き反対面を塗工する構成とし、これにより二つの乾燥工程やクーリング工程も不要となり連続して両面塗工が行え、リチウムイオン電池の作製にあたって装置の小型化や作製スピードの向上による量産化が図れるようにしている。
【0040】
具体的には、この支持ロール10の搬送下流側の近傍位置に前記ノズル部4の先端吐出孔3を配設した構成とし、このノズル部4の先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送下流側に、前記フィルム状の被塗工体5にエアを吹き付けてフィルム振動を抑制するエア噴出部12を前記フィルム状の被塗工体5を挟んで対設した非接触式振動抑制機構Dを設けた構成としているが、この前記非接触式振動抑制機構Dは、前記フィルム状の被塗工体5の両面に平行にして前記エア噴出部12を近接させて対設し、この各エア噴出部12の対向側表面にエアを噴出する多数のエア噴出孔16を形成した構成としている。
【0041】
更に説明すると、この非接触式振動抑制機構Dは、フィルム状の被塗工体5を非接触状態で挟むように板状のエア噴出部12を対向配設し、このエア噴出部12に設けた多数のエア噴出孔16からエアを噴出して被塗工体5をエア圧で押さえ、これにより被塗工体5の振動,特に熱風乾燥などの乾燥機構Cにより生じるフィルム振動を抑制減衰させるように非接触支持するもので、具体的には、フィルム状の被塗工体5の所定範囲、例えば被塗工体5の幅が650mmであるとすれば、これよりやや大きい幅、例えば800mmとして、長さは例えば600mmとし、少なくともエア噴出部12間を被塗工体5が通過するのに1秒位かかる範囲をエアで押さえ込むように構成している。
【0042】
また本実施例では、このエア噴出部12の表面には0.2φの多数のエア噴出孔16を設け、このエア噴出部12内にはエア供給源から供給されたエアを整流均一化する多孔板17(邪魔板)を内装し、最終的に内部に供給されたエアが表面の前記エア噴出孔16から均一に噴出するように構成している。
【0043】
このエアの噴出量は多く且つエア噴出速度が遅い方が、被塗工体5のフィルム振動を抑制減衰させるフィルム保持効果が良好となる。
【0044】
本実施例では、このように非接触式振動抑制機構Dを介在して、できるだけ乾燥機構Cによるフィルム振動を抑えた上で押圧接触しない非接触式のノズル部4を用いた本発明に係る薄膜塗工装置による第二塗工機構Bによって、片面を支承できない状態での反対面を塗工する両面塗工においても、精度良く均一に薄膜を塗工形成できるようにしている。
【0045】
また本実施例では、前記ノズル部4を幅狭く先細り形状に構成し、且つこのノズル部4を前記支持ロール10側へ傾斜配設することで、このノズル部4の先端吐出孔3を前記支持ロール10の近傍位置の前記フィルム状の被塗工体5に近接配設した構成としている。
【0046】
具体的には、ノズル部4は間隙を介してスリット形成部8を対設し、この先端部を先端吐出孔3として構成するが、このノズル部4には前記先端吐出孔3と連通して塗工液2を供給する液供給部1を設けると共に、均一に塗工できるようにこの液供給部1の途中には液溜め部13を設け、この液溜め部13を介して先端吐出孔3へ塗工液2が供給されるように構成し、またこのような構成としながらも液圧による変形防止のための強度を確保する構成としている。そのため従来ノズル部4は幅広な構成となっているが、本実施例ではこの点を考慮しつつも、ノズル部4自体を幅狭く設計して細長に構成し、更にこの幅狭く細長に設計したノズル部4の先端部も更に細長く先細り形状に設計することで、支持ロール10とフィルム状の被塗工体5との摺動接触位置に、できるだけノズル部4の先端吐出孔3を近接できるようにし、更にこの先細りさせたノズル部4を支持ロール10側へ傾斜させることで一層近接できるようにしている。
【0047】
例えばカラス口のようなノズル形状にノズル部4を構成し、これを傾けることで支持ロール10と被塗工体5との摺動接触位置に先端吐出孔3を更に近づけることができる。
【0048】
従って、例えば液溜め部13を確保し液圧による変形防止を図る強度を確保すべく従来は100mm幅が必要であったノズル部4の形状を、40mmにスリム化した上で、更にこの先端部分を従来の広角60度に対して広角20度にしてカラス口のように細長くすることで、半径15mmの支持ロール10に対して従来70mmくらい離れた位置にしか先端吐出孔3を近づけられなかったが、20mmくらいまで近づけることが可能で、更にこのカラス口のように形成したノズル部4を支持ロール10へ傾斜させることで10mm以下にまで近づけることが可能となる。
【0049】
このようにノズル部4の形状(幅)やこの先端部の形状(先細り形状)及びこれを傾斜させるあるいは傾斜させたような形状などノズル部4の形状設定によって、支持ロール10と被塗工体5との接触点にノズル部4の先端吐出孔3を近づけて、支持ロール10の搬送下流側の近傍位置の被塗工体5に、ノズル部4の先端吐出孔3を近接することができるので、前記非接触式振動抑制機構Dによる搬送下流側からのフィルム振動を抑制し、且つこのように支持ロール10の近傍位置に先端吐出孔3を配設し、更に前述のようにノズル部4の形状設定や傾斜配置によって支持ロール10の更なる近傍位置で塗工できるように構成することで、フィルム振動が小さい、即ちフィルム振動による影響が極めて少ない位置で塗工できるため、均一な薄膜塗工がこのような反対面の支承なくして可能となり前述のように両面塗工が容易に実現可能となる構成としている。
【0050】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0051】
1 液供給部
2 塗工液
3 先端吐出孔
4 ノズル部
5 被塗工体
10 支持ロール
16 エア噴出孔
A 第一塗工機構
B 第二塗工機構
C 乾燥機構
D 非接触式振動抑制機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液供給部から供給された塗工液をスリット状の先端吐出孔から吐出するノズル部を有し、このノズル部の先端吐出孔から塗工液を吐出しながら、このノズル部と対向するフィルム状の被塗工体をこのノズル部に対して搬送させることで前記被塗工体に塗工液を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、前記フィルム状の被塗工体を支持する支持ロールの搬送下流側の近傍位置に前記ノズル部の先端吐出孔を配設した構成とし、このノズル部の先端吐出孔に対して前記被塗工体の搬送下流側に、前記フィルム状の被塗工体にエアを吹き付けてフィルム振動を抑制するエア噴出部を前記フィルム状の被塗工体を挟んで対設した非接触式振動抑制機構を設けた構成としたことを特徴とする薄膜塗工装置。
【請求項2】
前記非接触式振動抑制機構は、前記フィルム状の被塗工体の両面に平行にして前記エア噴出部を近接させて対設し、この各エア噴出部の対向側表面にエアを噴出する多数のエア噴出孔を形成した構成としたことを特徴とする請求項1記載の薄膜塗工装置。
【請求項3】
前記ノズル部を細長形状若しくは先細り形状に構成し、且つ前記支持ロール側へ傾斜配設若しくは傾斜した形状に構成することで、前記ノズル部の前記先端吐出孔を前記支持ロールの近傍位置の前記フィルム状の被塗工体に対向配設したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置。
【請求項4】
前記フィルム状の被塗工体の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構と、反対面に更に塗工する第二塗工機構と、この両面塗工を終えたフィルム状の被塗工体を乾燥する乾燥機構とを備え、前記第二塗工機構として前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置を用いたことを特徴とする両面薄膜塗工装置。
【請求項5】
前記被塗工体として金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液としてリチウムイオン電池の正極活性物質若しくは負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成したことを特徴とする請求項4記載の両面薄膜塗工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−92915(P2011−92915A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252441(P2009−252441)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(592037077)クリーン・テクノロジー株式会社 (22)
【Fターム(参考)】