説明

薄膜成膜装置および薄膜成膜方法

【課題】薄膜成膜装置および薄膜成膜方法において、塗布液の蒸発を抑制する設備を設けなくても、高精度な膜厚を有する薄膜を形成できるようにする。
【解決手段】塗布液8を被成膜体4に供給する塗布液供給部6と、被成膜体4を保持する保持部2と、塗布液8を薄膜化する回転駆動部3と、薄膜化された塗布液8の膜厚を測定する膜厚測定部6と、膜厚の変化から薄膜化された塗布液8の粘度および密度を算出する塗布液特性算出部と、回転駆動部3の回転制御を行う回転制御部と、を備え、回転制御部は、回転を開始し塗布液8が有効塗布領域Eまで拡がったことを検出してから、塗布液8の拡がりが停止する第1の回転速度に回転駆動部3の回転速度を制御し、塗布液8の粘度および密度が算出された後に、これに基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出して、回転駆動部の回転速度を第2の回転速度に切り換える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜成膜装置および薄膜成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学薄膜を形成する場合、真空蒸着法やスパッタ法などのドライプロセスが用いられている。しかし、レンズなど有限の曲率を持った被成膜体に薄膜を形成する場合、ドライプロセスでは薄膜を形成する薄膜形成粒子の入射角度が被成膜面の曲率によって変化するため、膜厚が均一な薄膜を形成することが難しいという問題がある。また、大面積の成膜を行う場合にも薄膜形成粒子の分布にバラツキが生じやすいため、膜厚が不均一になりやすいという問題がある。さらに、ドライプロセスでは、大気雰囲気で成膜することができないため、真空チャンバーなどが必要となり、装置が大型化するという問題もある。
このため、ドライプロセスに代えて、有限の曲率を有する被成膜面や大面積の被成膜面でも膜厚の均一性が得られやすく、大気雰囲気でも成膜が可能な湿式法(ウエットプロセス)を用いた薄膜成膜方法が提案されている。ウエットプロセスとは、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ロールコート法などにより、液体を基板に塗布して乾燥・熱処理することにより成膜する方法である。
このようなウエットプロセスでは、塗布液の粘度が膜厚の精度に顕著に影響するため、例えば、塗布液の蒸発による粘度変化によって、膜厚のバラツキが発生しやすいという問題がある。特に塗布液の溶媒として揮発性溶媒を使用する場合には蒸発量が大きいため、粘度変化も大きく、塗布時の雰囲気によって膜厚のバラツキが発生しやすい。
このため、ウエットプロセスにおいて、塗布膜厚のバラツキを抑制する技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載のスピン・コーティング法および装置は、基板に塗布されるフォトレジストの量を最適化するための技術であって、フォトレジストをスピンコートする際に雰囲気を溶媒蒸気で満たすことで溶媒の蒸発を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−262125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の薄膜成膜装置および薄膜成膜方法には以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、揮発性の高い溶媒蒸気雰囲気内で塗布を行うため、爆発等が起こらないように防爆構造を有する密閉容器内で塗布作業を行う必要がある。また、蒸発量を制御するには溶媒蒸気圧を制御する必要があるため、蒸気発生機構、蒸気供給機構、蒸気圧測定機構、蒸気排出機構などの設備が必要となる。
このため、大掛かりで高価な薄膜成膜装置になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、塗布液の蒸発を抑制する設備を設けなくても、高精度な膜厚を有する薄膜を形成できる薄膜成膜装置および薄膜成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の薄膜成膜装置は、溶媒に薄膜形成材料を溶かした塗布液を被成膜体に供給する塗布液供給部と、前記被成膜体を保持する保持部と、該保持部を回転させて前記被成膜体に供給された前記塗布液を薄膜化する回転駆動部と、該回転駆動部によって薄膜化された前記塗布液の膜厚を測定する膜厚測定部と、該膜厚測定部によって測定された前記膜厚の変化から前記薄膜化された前記塗布液の粘度および密度を算出する塗布液特性算出部と、前記回転駆動部の回転制御を行う回転制御部と、を備え、該回転制御部は、回転を開始し前記被成膜体に供給された前記塗布液が一定の予備塗布領域まで拡がったことを検出してから、前記塗布液の拡がりが停止する第1の回転速度に前記回転駆動部の回転速度を制御し、前記塗布液特性算出部によって前記塗布液の粘度および密度が算出された後に、前記塗布液の粘度および密度に基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出して、前記回転駆動部の回転速度を前記第2の回転速度に切り換える構成とする。
【0007】
また、本発明の薄膜成膜装置において、前記塗布液特性算出部は、前記膜厚測定部によって測定された前記膜厚の変化から、前記溶媒の蒸発速度を算出し、該蒸発速度と、前記塗布液供給部からの前記塗布液の供給開始時からの経過時間とに基づいて、前記粘度および密度を算出することが好ましい。
【0008】
また、本発明の薄膜成膜装置において、前記回転制御部は、前記第2の回転速度を回転角速度ωで表すとき、ωを次式によって算出することが好ましい。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、hは目標塗布膜厚、hは第2の回転速度による塗り拡げ開始時の塗布液の膜厚、tは供給開始時から目標塗布膜厚を得るまでの経過時間、tは供給開始時から第2の回転速度による塗り拡げ開始時までの経過時間、μは塗布液の平均粘度、ρは塗布液の平均密度である。
【0011】
また、本発明の薄膜成膜装置において、前記予備塗布領域は、前記塗布液を前記目標塗布膜厚に薄膜化する有効塗布領域であることが好ましい。
【0012】
本発明の薄膜成膜方法は、溶媒に薄膜形成材料を溶かした塗布液を被成膜体に供給する塗布液供給工程と、前記塗布液の供給開始時からの計時を開始する計時開始工程と、前記被成膜体を回転し、前記被成膜体に供給された前記塗布液が一定の予備塗布領域まで拡がったことを検出してから、前記塗布液の拡がりが停止する第1の回転速度に前記被成膜体の回転速度を制御する予備回転工程と、前記成膜体が第1の回転速度で回転している間に、前記予備塗布領域で薄膜化された前記塗布液の膜厚の変化を測定し、該膜厚の変化から前記薄膜化された前記塗布液の粘度および密度を算出する塗布液特性算出工程と、該塗布液特性算出工程で算出された前記粘度および密度に基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出する本回転速度算出工程と、該本回転速度算出工程で算出された前記第2の回転速度で前記成膜体を回転して、前記塗布液を目標塗布膜厚に薄膜化する本回転工程と、を備える方法とする。
【0013】
また、本発明の薄膜成膜方法において、前記塗布液特性算出工程では、前記膜厚変化測定工程によって測定された前記膜厚の変化から、前記溶媒の蒸発速度を算出し、該蒸発速度と前記経過時間とに基づいて、前記粘度および密度を算出することが好ましい。
【0014】
また、本発明の薄膜成膜方法において、前記本回転速度算出工程では、前記第2の回転速度を回転角速度ωで表すとき、ωを次式によって算出することが好ましい。
【0015】
【数2】

【0016】
ここで、hは目標塗布膜厚、hは第2の回転速度による塗り拡げ開始時の塗布液の膜厚、tは供給開始時から目標塗布膜厚を得るまでの経過時間、tは供給開始時から第2の回転速度による塗り拡げ開始時までの経過時間、μは塗布液の平均粘度、ρは塗布液の平均密度である。
【0017】
また、本発明の薄膜成膜方法において、前記予備塗布領域は、前記塗布液を前記目標塗布膜厚に薄膜化する有効塗布領域であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の薄膜成膜装置および薄膜成膜方法によれば、予備塗布領域で薄膜化された塗布液の膜厚を測定し、この膜厚の変化から薄膜化された塗布液の粘度および密度を算出し、これらの粘度および密度に基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出して、この第2の回転速度によってさらなる薄膜化を行うため、塗布液の蒸発を抑制する設備を設けなくても、高精度な膜厚を有する薄膜を形成できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置の構成を示す模式的な装置構成図、およびそのA視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置の制御ユニットの機能構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る薄膜成膜方法を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る薄膜成膜方法の工程を説明する工程説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る薄膜成膜方法における回転速度の変化および膜厚の変化の一例を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置の構成を示す模式的な装置構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置で成膜される被成膜体と測定位置との関係を示す模式的な平面図である。図3は、本発明の実施形態に係る薄膜成膜装置の制御ユニットの機能構成を示す機能ブロック図である。
【0021】
本実施形態の薄膜成膜装置1は、図1に示すように、薄膜を形成する固形成分である薄膜形成材料を溶媒に溶かした塗布液8を被成膜体4に供給し、被成膜体4を回転させて塗布液8を塗り拡げて薄膜化する装置である。薄膜化された塗布液8は乾燥させることで、被成膜体4上に薄膜形成材料による薄膜が形成される。以下では、薄膜形成材料による薄膜の完成後の膜厚の目標値を、目標膜厚Hと称する。
なお、本実施形態で形成する薄膜は単層膜でも多層膜でも可能である。多層膜は単層膜を重ねて形成すればよいため、以下では、単層膜の例で説明する。
【0022】
被成膜体4の形状は、被成膜面4aが、供給された塗布液8を遠心力によって塗り拡げることができる面形状を有していれば特に限定されない。例えば、被成膜面4aとして平滑な平面を有する基板や、被成膜面4aとして曲率半径が大きい凸面や凹面のレンズ面、反射面、透過面等が形成された光学素子基材を採用することができる。曲率半径の大きさとしては、例えば、3mmから無限大(平面)が好適である。
また被成膜体4の外形状は特に限定されない。
また、被成膜体4の材質としては、例えば、ガラスや合成樹脂などが好適である。
以下では、被成膜体4の一例として、図1(b)に示すように、外径がD、有効塗布領域Eの径がD、厚さがdの円板状のガラス基板の例で説明する。有効塗布領域Eとは、塗布液8を塗布して目標膜厚Hの薄膜を形成する領域である。例えば、薄膜が光学素子の光学性能に係る薄膜である場合には、光学有効径を意味する。
【0023】
薄膜の種類の例としては、例えば、被成膜面4aの反射率、透過率、偏光特性等の光学特性を変更するために形成される光学薄膜、例えば、反射防止膜、反射膜、半透過膜、波長選択膜、偏光膜、光吸収膜等を挙げることができる。
また、薄膜の種類と他の例としては、被成膜面4aの機械的、物理的、電磁気的な特性を変更する薄膜であって、高精度な膜厚管理を行う必要がある薄膜を挙げることができる。このような薄膜の例としては、光学素子において、機能上、光を透過させたり反射させたりする光学面に用いられるハードコート膜、帯電防止膜、導電膜、撥水膜、撥膜油、磁性膜等を挙げることができる。
【0024】
塗布液8の材質は、溶媒が蒸発した後に、被成膜面4aに目的とする薄膜を形成する材料であれば特に限定されず、スピンコート法を用いた塗布に好適となる適宜の塗布液を採用することができる。また、薄膜形成材料は、溶媒に分散されていれば、溶媒に溶解しない微粒子を含んでいてもよい。
例えば、反射防止膜を形成する目的では、塗布液8として、薄膜形成材料であるアクリル樹脂が、溶媒であるイソプロピルアルコール(IPA)に溶かされ、この溶液に微量の光重合開始剤を添加した構成を採用することができる。
【0025】
この他の薄膜形成材料としては、光、熱等のエネルギー硬化型樹脂、あるいは熱可塑性樹脂材料が挙げられ、エネルギー硬化型樹脂としてはフルオレン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートのほか、ウレタンアクリレートのオリゴマーやポリマーを挙げることができる。
(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタアクリレートの少なくともいずれか一方を含有するものを意味する。
また、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、シクロオレフィン系ポリマーを挙げることができる。高屈折率を発現させる微粒子としては、Ti、Nb、Zrの酸化物が挙げられる。低屈折率を発現させる微粒子としては中空シリカが挙げられる。
【0026】
また、溶媒の例としては、揮発が早すぎると塗付材料が濡れ拡がる時間の確保が難しく、揮発が遅すぎると塗付材料が固体化するまでの時間が長くなってしまう。従って、沸点が70℃〜150℃のものが作業性の点で好ましく、例えばプロピレングリコールモノプロピルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、エチルラクテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2−メトキシエタノール、ハイドロフルオロエーテル類などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、混合して用いても良い。
光重合開始剤としてはイルガキュア(登録商標)184およびイルガキュア(登録商標)907(長瀬産業(株)製)を挙げることができる。
【0027】
薄膜成膜装置1の概略構成は、図1(a)に示すように、保持部2、回転駆動部3、回転計9、塗布液供給部5、膜厚測定部6、および制御ユニット7を備える。
【0028】
保持部2は、被成膜体4を位置合わせして保持するものであり、回転駆動部3によって、鉛直軸回りに回転可能に支持されている。被成膜体4の保持位置は、被成膜体4の中心Oが、回転駆動部3の回転中心に一致するように保持される。
被成膜体4の保持機構は、塗布時の回転速度において被成膜体4が移動することなく保持できれば特に限定されない。例えば、機械的なチャック機構や、吸引吸着機構などを好適に採用することができる。
【0029】
回転駆動部3は、保持部2を鉛直軸回りに回転させて、被成膜体4に供給された塗布液8を遠心力の作用により塗り拡げて薄膜化するものであり、本実施形態では、DCサーボモーターを採用している。回転駆動部3は、制御ユニット7と電気的に接続され、制御ユニット7からの制御信号に基づいて、回転駆動の開始および停止の制御、ならびに回転速度の制御が可能になっている。
なお、ACサーボモーター等他のモーターも適用可能であるが、高速回転と回転速度精度を両立させるにはDCサーボモーターが適している。
【0030】
回転計9は、保持部2の回転速度を計測し、計測された回転数を制御ユニット7に送出するもので、制御ユニット7に電気的に接続されている。
回転計9は、保持部2を回転させる回転駆動部3に内蔵されたエンコーダにより回転駆動部3の回転数を計測するものであってもよいが、本実施形態では、例えば保持部2上に設けられた光学的または磁気的なパターンを非接触で読み取って回転数を計測する構成としている。
【0031】
塗布液供給部5は、保持部2に保持された被成膜体4の被成膜面4a上に塗布液8を供給するものであり、保持部2の上方に図示略の支持部材によって支持されている。
塗布液供給部5の構成は、塗布液8を貯留する材料貯留部5bと、材料貯留部5b内の塗布液8を被成膜面4aの中心Oに向けて一定量だけ滴下して供給する材料供給部5aとを備える。
なお、塗布液8の供給形態は、正確な一定量が供給できれば、滴下には限定されない。例えば、吐出したり、押し出したりして供給してもよい。
塗布液供給部5は、制御ユニット7に電気的に接続され、制御ユニット7からの制御信号に基づいて、塗布液8の供給開始および停止が制御されるようになっている。
【0032】
膜厚測定部6は、被成膜体4上に塗り拡げられた塗布液8の膜厚を測定するもので、例えば、レーザ干渉式の膜厚計(変位計)などの非接触で膜厚を測定できる機器を採用することができる。
特に、発光部と受光部とが一体で小型化が可能なレーザ干渉式の膜厚計を用いると、膜厚測定に要するスペースが小さくて済むため、小型の被成膜体4に対する対応が容易となる。また、発光部と受光部とが一体であると、有限の屈折力を有する基板等、被成膜体4が湾曲面を有する場合にも、膜厚計の設置角度の設定などが容易となる。
また、本実施形態の膜厚測定部6は、後述する予備回転工程において低速回転で塗り拡げられる塗布液8の先端の膜厚変化の検知と、拡がりが停止した状態の塗布液8の膜厚測定とが行える程度の応答速度を備えていればよく、後述する本回転工程の高速回転時の膜厚変化を高精度に測定するような高速応答性は必要ない。
また、本実施形態の膜厚測定部6は、後述する予備回転工程の膜厚、例えば、500nm〜50000nm程度を測定できればよいため、後述する本回転工程においてより薄膜化された際の膜厚、例えば、10nm〜400nmの膜厚までは測定できなくてもよい。
本実施形態では、膜厚測定部6は、有効塗布領域Eの外周上の点Pでの膜厚を測定できるように保持部2の上方に配置され、図示略の支持部材で支持されている。
また、膜厚測定部6は、制御ユニット7と電気的に接続され、制御ユニット7からの制御信号に基づいて、膜厚の検出を行うとともに、膜厚の検出結果を、制御ユニット7に送出できるようになっている。
【0033】
制御ユニット7は、薄膜成膜装置1の装置動作を制御するもので、図2に示すように、制御対象となる各装置部分である塗布液供給部5、回転駆動部3、および膜厚測定部6と電気的に接続されている。また、例えば、操作パネル、キーボード、マウスなどからなる操作入力部7aが接続され、制御動作を行うための操作入力、制御に必要な情報を入力することができるようになっている。
制御ユニット7の機能構成としては、制御部70(回転制御部)と、制御部70に通信可能に設けられた演算処理部71、計時部72、および記憶部73とを備える。
【0034】
制御部70は、操作入力部7aからの操作入力に基づいて薄膜成膜装置1の動作を制御するものである。制御部70が行う制御動作としては、例えば、以下の制御動作を挙げることができる。
制御部70は、操作入力部7aからの入力に応じて、塗布液供給部5に制御信号を送出し、塗布液8の供給を実行させる制御を行うとともに、計時部72に供給開始時からの計時を開始させる。制御部70は、計時部72による時間経過の情報をモニタしており、この計時に基づいて、制御動作を行ったり、経過時間を取得したりする。
また、制御部70は、操作入力部7aから入力された情報や、制御部70が取得した情報を記憶部73に記憶させ、必要に応じて記憶部73から読み出す。記憶部73に記憶される情報としては、薄膜形成材料の粘度μおよび密度ρ、溶媒の粘度μおよび密度ρ、薄膜形成材料の体積濃度CS0、有効塗布領域Eの直径D(ただし、D<D)、形成する薄膜の目標膜厚H、後述する第1の回転速度を維持する予備回転時間tpreの設定値、第1の回転速度から後述する第2の回転速度に切り換えてから目標塗布膜厚h(ただし、h>H)を得るまでの時間である本回転時間textの設定値などを挙げることができる。
ここで、目標塗布膜厚hとは、薄膜成膜装置1によって塗り拡げられる塗布液8の膜厚の目標値である。すなわち、目標塗布膜厚hは、塗布液8の塗り拡げを停止した状態で乾燥を行うことで、目標膜厚Hの薄膜形成材料からなる薄膜が得られる塗布液8の膜厚値である。
制御部70によって読み出されたこれらの情報は、演算処理部71に演算処理を行わせる際に、必要に応じて演算処理部71に送出される。
また、制御部70は、回転駆動部3に制御信号を送出して、回転の開始、停止、回転速度の変更を制御する。具体的な制御については後述する。制御部70は、回転駆動部3の回転制御を行う回転制御部を構成している。
また、制御部70は、膜厚測定部6により膜厚測定を行わせ、膜厚測定部6から膜厚の測定結果を取得し、特に膜厚測定終了時の膜厚hを演算処理部71に送出する。
【0035】
演算処理部71は、制御部70から送出された情報に基づいて、膜厚測定部6によって測定された膜厚の変化から薄膜化された塗布液8の粘度および密度を算出する演算を行う。このため、演算処理部71は、塗布液特性算出部を構成している。
また、演算処理部71は、目標塗布膜厚hを得るための第2の回転速度Nを算出する。このため、演算処理部71は、回転制御部の一部も構成している。
【0036】
記憶部73は、制御部70から送出された情報を、制御部70から参照可能に記憶するものである。
【0037】
制御ユニット7の装置構成は、本実施形態では、適宜のハードウェアと、CPU、メモリ、入出力インターフェース、外部記憶装置などからなるコンピュータとで構成される。上記の演算機能および制御機能は、それぞれに対応した演算プログラムおよび制御プログラムをこのコンピュータで実行することにより実現している。
【0038】
次に、薄膜成膜装置1の動作について、本実施形態の薄膜成膜方法を中心として説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る薄膜成膜方法の工程を説明する工程説明図である。図5(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る薄膜成膜方法における回転速度の変化および膜厚の変化の一例を示す模式的なグラフである。図5(a)の横軸は時間t、縦軸は回転速度Nである。図5(b)の横軸は時間t、縦軸は膜厚hである。
【0039】
被成膜面4a上に目標膜厚Hの薄膜を成膜するには、薄膜成膜装置1によって被成膜面4a上に塗布液8を供給し、塗布液8を塗り拡げて目標塗布膜厚hにした後、乾燥させる。本実施形態では、一例として、薄膜成膜装置1上で自然乾燥させている。
【0040】
本実施形態の薄膜成膜方法は、図3に示すフローチャートにしたがって、ステップS1〜S7の各ステップを実行することにより行う。
以下では、一例として、塗布液8が、薄膜形成材料であるアクリル樹脂を溶媒であるイソプロピルアルコール(IPA)に溶かし、微量の微量の光重合開始剤を添加した場合の例で説明する。
具体的には、アクリル樹脂の体積濃度CS0がCS0=1.0(体積%)である。また、IPAの粘度μは、μ=1.77(mPa・s)、アクリル樹脂の粘度μは、μ=10000(mPa・s)である。このため、塗布液8の初期粘度μは、μ=101.75(mPa・s)である。
また、IPAの密度ρは、ρ=0.786(g/cm)、アクリル樹脂の密度ρは、ρ=1.190(g/cm)である。このため、塗布液8の初期密度ρは、ρ=0.7900(g/cm)である。
また、被成膜体4の形状は、D=30(mm)、D=20(mm)、d=1(mm)とする。
薄膜の目標膜厚Hは、H=100(nm)とする。
なお、本実施形態では、予備回転時間tpre、本回転時間textを予め設定する。以下では、tpre=2(s)、text=15(s)とする。
【0041】
ステップS1では、塗布液供給工程を行う。本工程は、塗布液8を被成膜体4に供給する工程である。
まず、図1に示すように、被成膜体4を被成膜面4aが鉛直上向きとなるようにして保持部2に保持する。このとき、被成膜面4aの中心Oが、回転駆動部3の回転中心に一致するように位置決めして配置する。
また、制御部70は、膜厚測定部6に膜厚測定を開始する制御信号を送出する。膜厚測定部6の測定結果は、逐次、制御部70に送出される。
次に、制御部70から塗布液供給部5に制御信号を送出して、図4(a)に示すように、予め定められた量の塗布液8Aを材料供給部5aから被成膜体4の中心O上に滴下する。
このときの滴下量は、目標膜厚Hの薄膜に含まれる薄膜形成材料以上の薄膜形成材料が塗布液8A内に含まれていればよい。
すなわち、有効塗布領域E内に厚さHの薄膜を形成するために必要な薄膜形成材料の体積Vは、V=π・(D/2)・Hであるから、塗布液8Aの体積Vは、V≧V/(0.01・CS0)であればよい。
以上で、ステップS1が終了する。
【0042】
ステップS2では、計時開始工程を行う。本工程は、塗布液8Aの供給開始時からの計時を開始する工程である。
ステップS1で滴下された塗布液8Aは、材料供給部5aから外部に出ると外気に触れて溶媒の蒸発が始まる。このため、塗布液8A中の薄膜形成材料の体積濃度が上昇し、結果として塗布液8Aの粘度および密度が増大していく。
本実施形態では、このような塗布液8における粘度、密度の変化を捕捉するため、滴下後の経過時間を計測する。
このため、制御部70は、ステップS1において塗布液供給部5に滴下を開始させる制御信号を送出した直後のタイミングで、計時部72に計時を開始させる制御信号を送出する。
以後、計時部72は、計時終了の制御信号または再度計時開始の制御信号を受信するまで、計時を継続し、制御部70によってモニタされる。
以上で、ステップS2が終了する。
【0043】
次にステップS3では、予備回転工程を行う。本工程は、被成膜体4を回転し、被成膜体4に供給された塗布液8(8A)が一定の予備塗布領域まで拡がったことを検出してから、塗布液8(8B、図4(b)参照)の拡がりが停止する第1の回転速度に被成膜体4の回転速度を制御する工程である。
本実施形態では、予備塗布領域は有効塗布領域Eと一致させる。このため、有効塗布領域Eの外周で膜厚を測定する膜厚測定部6の測定値が0からステップ状に増大することで、塗布液8が予備塗布領域まで拡がったことを検出できる。
【0044】
まず、制御部70は、滴下開始(図5(a)、(b)におけるt=0)からΔtだけ時間が経過した後、回転駆動部3に回転を開始するとともに回転速度を増大させる制御信号を送出する。これにより、図5(a)の曲線100に示すように、回転駆動部3の回転速度が増大される。
ここで、Δtは、塗布液8Aが被成膜面4a上に着地し終えるのに必要な時間である。
また、このときの回転速度Nの目標値は、塗布液8Aを予備塗布領域まで拡げることができればよいため、後述する本回転の回転速度より小さい回転速度でよい。
本実施形態の具体例では、例えば、100rpm〜500rpm程度を目標として回転させればよい。特に被成膜面4aの形状が中心から外側に向かって高くなる凹形状の場合は300rpm〜500rpm程度であることが好適である。
【0045】
回転駆動部3の回転速度が増大すると、塗布液8Aに作用する遠心力によって、塗布液8Aが中心Oから径方向外側に塗り拡げられていく。このとき、塗布液8Aは、滴下後、あまり時間が経過していないため、溶媒の蒸発量が少なく、塗布液8Aとしての粘度が小さいため、低速でも迅速に塗り拡げられる。塗布液8Aの拡大に伴って、膜厚も減少するが、塗布液8Aの先端が有効塗布領域Eの外周に達しない間は、図5(b)に曲線101で示すように、膜厚測定部6で測定される膜厚値は0のままである。
【0046】
時刻t(ただし、t>Δt)において、塗布液8Aの径方向の先端が有効塗布領域Eの外周上の点Pに到達すると、図4(b)に示すように、塗布液8Aは直径D、膜厚hの円状に塗り拡げられた状態の塗布液8Bに薄膜化される。
このとき、図5(b)に示すように、膜厚測定部6は、膜厚が0からhまで略ステップ状に増大したことを検知する。この膜厚測定結果が制御部70に送出されると、制御部70は、計時部72から時刻tを取得するとともに、回転計9からこのときの回転速度Nを取得し、時刻t、回転速度N、および膜厚hを記憶部73に記憶させる。
次に、制御部70は、回転駆動部3の回転速度を、回転速度N以下の第1の回転速度Nに固定して塗布液8Bの拡がりを停止させる。拡がりを停止させるためには、N=Nとしてもよい。ただし本実施形態では、塗布液8Bの拡がりをより確実に停止するため、一例として第1の回転速度Nを回転速度Nよりわずかに減速した回転速度に制御している。
回転速度Nは、後述する本回転の回転速度よりも低速であるため、膜厚hの検知および回転速度の減速または加速停止の制御に要する時間程度では、塗布液8Aの拡がりはほとんど発生しない。
制御部70は、記憶部73から予備回転時間tpreを読み出して、第1の回転速度Nによる回転を予備回転時間tpreの間、続けるように回転駆動部3を制御する。
このため、時刻tから時刻t(=t+tpre)までは、第1の回転速度Nが維持される。
以上で予備回転工程が終了する。
【0047】
次に、ステップS4では、塗布液特性算出工程を行う。本工程は、被成膜体4が第1の回転速度で回転している間に、予備塗布領域で薄膜化された塗布液8Bの膜厚の変化を測定し、この膜厚の変化から塗布液8Bの粘度および密度を算出する工程である。
【0048】
塗布液8Bは、ステップS3において塗り拡げが停止され、面積の拡大による膜厚の変化がなくなり、溶媒の蒸発が進むことによって、図5(b)に示すように、時間経過とともに膜厚が減少する。このため、予備回転領域での膜厚の変化は、塗布液8Bの溶媒の蒸発速度と対応している。
本実施形態では、制御部70が、計時部72から送出される経過時間をモニタして、時刻tから予備回転時間tpreが経過した時刻t(ただし、t>t)のタイミングで膜厚測定部6から膜厚hを取得し、時刻tおよび膜厚hを記憶部73に記憶する。これにより、予備回転時間tpre内での膜厚の変化が、Δh=h−hとして測定されたことになる。
予備回転時間tpreは、膜厚の変化を精度よく測定でき、かつ、さらなる薄膜化を容易に行える程度な粘度を保つことができるように、塗布液8の溶媒の蒸発速度や塗布量を考慮して予め設定する。本実施形態では、一例として、tpre=2(s)に設定している。
【0049】
次に、本工程で算出する粘度および密度について説明する。
スピンコート法において、被成膜体の回転角速度ωで時間tだけ回転させたときの膜厚hは、ニュートン流体を仮定した次式(2)、(3)がEmslieらによって求められている(JOURNAL OF APPLIED PHYSICS Vol.29-No.5 参照))。
【0050】
【数3】

【0051】
ここで、hiniは、回転開始時の膜厚、μは流体の粘度、ρは流体の密度である。
【0052】
本実施形態では、後述するステップS6において、予備塗布領域の範囲で膜厚hに薄膜化された塗布液8Bをさらに高速で回転させることにより塗り拡げて、目標塗布膜厚hにする。しかし、この場合の回転速度に相当する回転角速度ωを、上記式(2)、(3)を用いて算出すると、本実施形態のように溶媒の蒸発が無視できない場合には、塗布前の初期粘度μ、初期密度ρを用いた計算では誤差が大きくなりすぎ、正確な膜厚を形成することができない。これは、塗布を行う間に塗布液8の溶媒の蒸発によって、塗り拡げられる間に、塗布液8の粘度および密度が変化するためである。
本発明者は、上記式(3)におけるμ、ρに代えて、塗り拡げの開始時の粘度および密度と塗り拡げの終了時の粘度および密度の平均値である平均粘度μ、平均密度ρを用いて回転角速度ωを算出することによって、目標膜厚Hに対する誤差が少ない膜厚の薄膜が得られることを見出し、本発明に到った。
【0053】
ここで本実施形態における平均粘度μ、平均密度ρの算出方法について説明する。
まず、溶媒の蒸発による体積減少速度U(蒸発速度)は、滴下開始時から一定であると仮定する。すると、膜厚hから膜厚hへの変化から、体積減少速度Uは、次式(4)によって算出される。
【0054】
U=π・(D/2)・(h−h)/(t−t) ・・・(4)
【0055】
また、膜厚hの塗布液8Bの体積Vt1は、次式(5)で表される。
【0056】
t1=π・(D/2)・h ・・・(5)
【0057】
これにより、塗布液8Aの初期体積Vと、この初期体積中に含まれる薄膜形成材料の体積Vと、溶媒の初期体積VL0と、時刻tの時点での溶媒の体積VLt1とが、次式(6)〜(9)のように算出される。
【0058】
=Vt1+U・t ・・・(6)
=V・CS0 ・・・(7)
L0=V−V ・・・(8)
Lt1=Vt1−V ・・・(9)
【0059】
一方、塗布液8Bが塗り拡げられ、時刻t(ただし、t>t)において目標塗布膜厚hになるとする。時刻tの時点での溶媒の体積VLt2は、溶媒の初期体積VL0から時刻0からtまでの間に溶媒が蒸発することを考慮すると、次式(10)で表される。
【0060】
Lt2=VL0−U・t ・・・(10)
【0061】
ここで、時刻tは、予め決めることはできないが、本実施形態では予め、予備回転時間tpre、本回転時間textを設定しているため、tは、次式(11)、(12)で表される。
【0062】
=t+text ・・・(11)
=t+tpre ・・・(12)
【0063】
このように膜厚hから目標塗布膜厚hまで塗布液8Bを塗り拡げる間に、溶媒体積がVLt1からVLt2に減少するため、この間の平均樹脂濃度Cを次式(13)から求めることができる。
【0064】
=V/{V+(VLt1+VLt2)/2} ・・・(13)
【0065】
本実施形態では、この平均樹脂濃度Cを用いることにより、次式(14)、(15)から平均粘度μ、平均密度ρを算出する。
【0066】
μ=μ・C+μ(1−C) ・・・(14)
ρ=ρ・C+ρ(1−C) ・・・(15)
【0067】
本工程では、制御部70は、記憶部73から、上記式(4)〜(15)の計算に必要な情報を演算処理部71に送出し、演算処理部71によって、上記式(4)〜(15)の計算を行って、μ、ρを算出する。
例えば、本実施形態の具体例においては、h=0.002(mm)、h=0.1(mm)、h=0.09(mm)である。これにより、V=32.99(mm)、V=0.33(mm)、VLt1=27.94(mm)、VLt2=2.81(mm)、C=0.023である。
したがって、式(12)、(13)より、μ=235.1(mPa・s)、ρ=0.795(g/cm
以上で、ステップS4が終了する。
【0068】
次に、ステップS5では、本回転速度算出工程を行う。本工程は、塗布液特性算出工程で算出された平均粘度μおよび平均密度ρに基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度Nを算出する工程である。
【0069】
上記式(3)の、μ、ρに、μ、ρ、上記式(2)のtに、(t−t)をそれぞれ代入して、上記式(2)からKを消去すると、目標塗布膜厚hを得るための回転角速度ωが、次式(1)によって求められる。
【0070】
【数4】

【0071】
演算処理部71は、ステップS4で、算出した平均粘度μおよび平均密度ρを式(1)に代入して回転角速度ωを求める。回転速度ωと第2の回転速度Nとの関係は、第2の回転速度Nの単位として(rpm)を採用すると、次式(16)で表される。
【0072】
=60・ω/2π ・・・(16)
【0073】
例えば、本実施形態の具体例においては、式(1)、(16)より、ω=382.0(rad/s)、N=3648(rpm)が得られる。
以上で、ステップS5が終了する。
【0074】
次にステップS6では、本回転工程を行う。本工程は、本回転速度算出工程で算出された第2の回転速度Nで被成膜体4を回転して、塗布液8Bを目標塗布膜厚hに薄膜化する工程である。
制御部70は、回転駆動部3に回転速度をNに切り換える制御信号を送出し、図5(a)に示すように、第2の回転速度Nにより、t=tまで本回転を行う。
このような本回転を行うと、図5(b)に示すように、時刻tにおいて、塗布液8Bの溶媒が蒸発するとともに、塗布液8Bが遠心力の作用を受けることにより、有効塗布領域Eの範囲を越えて塗り拡げられて、さらに薄膜化が進む。
時刻tに達したら、制御部70は、回転駆動部3の回転を停止する。これにより、塗布液8の拡がりが停止する。このため、時刻t以後は、蒸発のみによって膜厚が減少していく。
【0075】
上記の具体例で、時刻tの点Pにおける膜厚を膜厚測定部6によって測定したところ、膜厚は、0.002mmになっていた。
以上で、ステップS6が終了する。
【0076】
次にステップS7では、乾燥工程を行う。本工程は、薄膜化された塗布液8をこれ以上塗り拡げることなく溶媒を乾燥させて、薄膜形成材料による薄膜を形成する工程である。
本実施形態では、第2の回転速度Nから減速した時刻tから、本工程が始まる。
本工程では、溶媒が蒸発するため、被成膜面4a上の塗り拡げられた薄膜形成材料の体積に対応する膜厚まで、膜厚が減少する。
また、本実施形態では、塗布液8中に微量の光重合開始剤が添加されているため、溶媒が蒸発した薄膜形成材料同士は、光エネルギーを得て、重合反応を開始して硬化する。
このようにして、本実施形態の具体例では、被成膜体4を保持部2に保持したまま、12秒放置する間に乾燥が終了した。
このときの膜厚は、0.0001mm(100nm)となり、目標膜厚Hの薄膜を得ることができた。
以上で、ステップS7が終了する。
これにより、本実施形態の薄膜成膜方法が終了する。
【0077】
本実施形態の作用を確かめるため、比較例として、溶媒の蒸発を考慮せず、平均粘度μ、平均密度μの代わりに、初期粘度μ、初期密度ρから算出される回転速度で、上記と同様にして薄膜形成を試みた。
この場合、算出された回転速度は、2466rpmとなり、塗布時間Tにおける塗布膜厚は、0.0133mmであった。この結果、乾燥後の薄膜の膜厚は、0.00015mm(150nm)となり、目標膜厚100nmに対する50%の誤差が発生した。
したがって、上記実施形態の平均粘度μ、平均密度μを用いた算出方法が有効であることが確認できた。
【0078】
以上に説明したように、本実施形態の薄膜成膜装置および薄膜成膜方法によれば、予備塗布領域で薄膜化された塗布液8Bの膜厚を測定し、この膜厚の変化から薄膜化された塗布液8Bの平均粘度μおよび平均密度ρを算出し、これら平均粘度μおよび平均密度ρに基づいて目標塗布膜厚hを得るための第2の回転速度Nを算出する。そして、このように溶媒の蒸発による粘度および密度の変化を考慮した第2の回転速度Nで被成膜体4を回転させてさらなる薄膜化を行うため、塗布液の蒸発を抑制する設備を設けなくても、高精度な膜厚を有する薄膜を形成できる。
【0079】
特に、本実施形態では、薄膜成膜装置1内を溶媒蒸気雰囲気にしないため、蒸発する溶媒の濃度が低く、また、開放雰囲気で成膜を行える。このため、揮発性や反応性の高い溶媒を用いても安全であり、溶媒蒸気雰囲気を形成するためのチャンバーや防爆構造、蒸気雰囲気制御機構など大掛かりな設備を設けなくてもよい。
【0080】
なお、上記の実施形態の説明では、予備塗布領域と、有効塗布領域Eを一致させた場合の例で説明したが、予備塗布領域は、有効塗布領域Eの内側に設定してもよい。
【0081】
また、上記の実施形態の説明では、乾燥工程として、自然乾燥を行う場合の例で説明したが、第2の回転速度の回転終了時点で溶剤が残存している場合は、さらに乾燥を促進する乾燥手段を用いた乾燥工程を行ってもよい。
例えば、加温したり、送風して乾燥を促進したり、第2の回転速度より低速で回転を継続することで乾燥を促進してもよい。
また、薄膜形成材料の樹脂成分によって、薄膜形成後に薄膜を硬化させるための加熱工程や紫外線照射工程が必要となる場合には、乾燥工程後あるいは乾燥工程と並行して、これらの工程を行うことも可能である。
【0082】
また、上記の実施形態の説明では、塗布液が予備塗布領域まで拡がったことを膜厚測定部6による膜厚測定で検出した場合の例で説明したが、検知手段は専用の検知手段をもうけてもよい。
例えば、光センサ等の非接触センサによって、予備塗布領域まで拡がったことを検知するようにしてもよい。
また、塗布液の拡がりを撮像して、画像処理によって、予備塗布領域まで拡がったことを検知してもよい。この場合、予備塗布領域の面積を正確に検出することができるため、予備塗布領域の形状が円形からずれた場合でも精度よく粘度や密度の算出を行うことができる。
【0083】
また、上記の実施形態の説明では、本回転時間textを予め設定して第2の回転速度Nを求める場合の例で説明したが、第2の回転速度Nおよびこれに対応する回転角速度ωを予め設定しておき、演算処理部71では、式(1)から本回転時間textに相当する(t−t)を求め、制御部70は、回転駆動部3に対して第2の回転速度Nによる回転時間を制御するようにしてもよい。
【0084】
また、上記の実施形態で説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 薄膜成膜装置
2 保持部
3 回転駆動部
4 被成膜体
4a 被成膜面
5 塗布液供給部
6 膜厚測定部
7 制御ユニット
7a 操作入力部
8、8A、8B 塗布液
70 制御部(回転制御部)
71 演算処理部(塗布液特性算出部、回転制御部)
72 計時部
E 有効塗布領域
H 目標膜厚
目標塗布膜厚
第1の回転速度
第2の回転速度
T 塗布時間
U 体積減少速度U(蒸発速度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に薄膜形成材料を溶かした塗布液を被成膜体に供給する塗布液供給部と、
前記被成膜体を保持する保持部と、
該保持部を回転させて前記被成膜体に供給された前記塗布液を薄膜化する回転駆動部と、
該回転駆動部によって薄膜化された前記塗布液の膜厚を測定する膜厚測定部と、
該膜厚測定部によって測定された前記膜厚の変化から前記薄膜化された前記塗布液の粘度および密度を算出する塗布液特性算出部と、
前記回転駆動部の回転制御を行う回転制御部と、
を備え、
該回転制御部は、
回転を開始し前記被成膜体に供給された前記塗布液が一定の予備塗布領域まで拡がったことを検出してから、前記塗布液の拡がりが停止する第1の回転速度に前記回転駆動部の回転速度を制御し、
前記塗布液特性算出部によって前記塗布液の粘度および密度が算出された後に、前記塗布液の粘度および密度に基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出して、
前記回転駆動部の回転速度を前記第2の回転速度に切り換える
ことを特徴とする薄膜成膜装置。
【請求項2】
前記塗布液特性算出部は、
前記膜厚測定部によって測定された前記膜厚の変化から、前記溶媒の蒸発速度を算出し、
該蒸発速度と、前記塗布液供給部からの前記塗布液の供給開始時からの経過時間とに基づいて、前記粘度および密度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜成膜装置。
【請求項3】
前記回転制御部は、前記第2の回転速度を回転角速度ωで表すとき、ωを次式によって算出する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成装置。
【数5】

ここで、hは目標塗布膜厚、hは第2の回転速度による塗り拡げ開始時の塗布液の膜厚、tは供給開始時から目標塗布膜厚を得るまでの経過時間、tは供給開始時から第2の回転速度による塗り拡げ開始時までの経過時間、μは塗布液の平均粘度、ρは塗布液の平均密度である。
【請求項4】
前記予備塗布領域は、前記塗布液を前記目標塗布膜厚に薄膜化する有効塗布領域である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜成膜装置。
【請求項5】
溶媒に薄膜形成材料を溶かした塗布液を被成膜体に供給する塗布液供給工程と、
前記塗布液の供給開始時からの計時を開始する計時開始工程と、
前記被成膜体を回転し、前記被成膜体に供給された前記塗布液が一定の予備塗布領域まで拡がったことを検出してから、前記塗布液の拡がりが停止する第1の回転速度に前記被成膜体の回転速度を制御する予備回転工程と、
前記成膜体が第1の回転速度で回転している間に、前記予備塗布領域で薄膜化された前記塗布液の膜厚の変化を測定し、該膜厚の変化から前記薄膜化された前記塗布液の粘度および密度を算出する塗布液特性算出工程と、
該塗布液特性算出工程で算出された前記粘度および密度に基づいて目標塗布膜厚を得るための第2の回転速度を算出する本回転速度算出工程と、
該本回転速度算出工程で算出された前記第2の回転速度で前記成膜体を回転して、前記塗布液を目標塗布膜厚に薄膜化する本回転工程と、
を備えることを特徴とする薄膜成膜方法。
【請求項6】
前記塗布液特性算出工程では、
前記膜厚変化測定工程によって測定された前記膜厚の変化から、前記溶媒の蒸発速度を算出し、
該蒸発速度と前記経過時間とに基づいて、前記粘度および密度を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の薄膜成膜方法。
【請求項7】
前記本回転速度算出工程では、前記第2の回転速度を回転角速度ωで表すとき、ωを次式によって算出する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の薄膜形成方法。
【数6】

ここで、hは目標塗布膜厚、hは第2の回転速度による塗り拡げ開始時の塗布液の膜厚、tは供給開始時から目標塗布膜厚を得るまでの経過時間、tは供給開始時から第2の回転速度による塗り拡げ開始時までの経過時間、μは塗布液の平均粘度、ρは塗布液の平均密度である。
【請求項8】
前記予備塗布領域は、前記塗布液を前記目標塗布膜厚に薄膜化する有効塗布領域である
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄膜成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206051(P2012−206051A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74791(P2011−74791)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】