説明

薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置

【課題】帯状可撓性基板を縦姿勢で横方向に往復搬送させつつ成膜を行う薄膜積層体製造装置において、各搬送方向に対応した搬送高さ制御を低コストかつ簡単な操作で実施可能な基板位置制御装置を提供する。
【解決手段】帯状の可撓性基板1の縁部を挟持する一対の挟持ローラ(31,32)と、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構(33〜36)と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに挟圧力を付与するスプリング42と、を備え、前記基板の縁部に、前記一対の挟持ローラの挟圧力に応じた展張力を作用させるものにおいて、前記スプリングの付勢力を前記支持機構にトルクとして伝達する伝達部材(37〜39)と、前記一対の挟持ローラの挟圧力を調整すべく、前記スプリングの支持点(41b)を前記伝達部材との連結点(39a)の周りで角変位させる操作部材(41)と、前記操作部材を所定の角変位に保持可能な保持手段(44〜46)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状可撓性基板上に複数の薄膜を形成して、薄膜光電変換素子などの薄膜積層体を製造する装置における基板位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜などの薄膜積層体の基板には、通常、剛性基板が用いられるが、軽量でロールを介した取り扱いの利便性による生産性向上やコスト低減を目的として、プラスチックフィルムなどの可撓性基板が用いられる場合がある。例えば、特許文献1〜3には、巻出しロールから供給される帯状可撓性基板(ポリイミドフィルム)を所定のピッチで間欠的に搬送しながら、前記可撓性基板の搬送方向に配列された複数の成膜ユニットで、前記可撓性基板上に性質の異なる複数の薄膜を積層形成し、製品ロールとして巻取る薄膜積層体の製造装置が開示されている。
【0003】
このような薄膜積層体の製造装置には、横姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を水平方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプと、縦姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を上下方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプがある。後者は、前者に比べて設置面積が小さく、基板表面が汚染されにくい等の利点があるが、搬送スパンが長くなると、重力に抗して搬送高さを一定に維持するのが困難になり、可撓性基板の表面に皺が発生したり、可撓性基板が垂れ下がったりする傾向が顕著になる。
【0004】
そこで、特許文献1〜3では、薄膜積層体製造装置を構成する各成膜ユニット間に、可撓性基板の上下の縁部を挟持するグリップローラ対を配設し、可撓性基板の縁部に上方および下方に向かう展張力を作用させ、可撓性基板を上下幅方向に展張しつつ搬送高さを調整できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−38276号公報
【特許文献2】特開2009−38277号公報
【特許文献3】特開2009−57632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記装置は、可撓性基板を上下に展張しかつ可撓性基板の搬送高さを制御するうえで有利であるが、可撓性基板の逆方向への搬送を含む往復成膜プロセスには直ちに適用できない。可撓性基板を逆方向に搬送する場合には、グリップローラの傾斜角に応じた展張力が逆方向に作用するので、グリップローラの傾斜角を反転させる必要がある。加えて、帯状可撓性基板に搬送張力を付与するフィードロールの回転方向が反転する際に、張力バランスに変化を生じ、正逆共通の設定では適切な搬送高さ制御を行えない場合がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、帯状可撓性基板を縦姿勢で横方向に往復搬送させつつ成膜を行う薄膜積層体製造装置において、各搬送方向に対応した搬送高さ制御を低コストかつ簡単な操作で実施可能な基板位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することを目的として、本発明は、
帯状の可撓性基板(1)を縦姿勢で横方向に搬送し、前記基板の搬送経路に設置された成膜部(20)にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置(30,30′)であって、前記基板の縁部を挟持する一対の挟持ローラ(31,32)と、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構(33〜36)と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに挟圧力を付与するスプリング(42,52)と、を備え、前記基板の縁部に、前記一対の挟持ローラの挟圧力に応じた展張力を作用させるものにおいて、前記スプリングの付勢力を前記支持機構にトルクとして伝達する伝達部材(37〜39)と、前記一対の挟持ローラの挟圧力を調整すべく、前記スプリングの支持点(41b,51b)を前記伝達部材との連結点(39a)の周りで角変位させる操作部材(41,51)と、前記操作部材を所定の角変位に保持可能な保持手段(44,46,52,54f,54r)とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成により、正逆各搬送方向における挟持ローラ対の適正な挟圧力を事前に求め、それに対応した操作部材の角変位を予め保持手段に設定しておき、薄膜積層体製造装置における搬送方向の切替時に、操作部材を操作して保持手段により設定位置に保持することで、正逆各搬送方向に対応した展張力が得られ、正逆各搬送方向に対応した搬送高さ制御を低コストかつ簡単な操作で実施可能である。
【0010】
本発明の好適な態様では、前記操作部材(41)は、前記伝達部材との連結点(39a)を通りかつ前記伝達部材の回動軸(37)と平行な軸(41a)を中心として回動可能に設けられ、前記スプリング(42)の弾性変位を一定に維持しつつ前記スプリングの支持点(41b)を角変位させるように構成されている。
【0011】
この構成により、スプリングの弾性変位を一定に維持した状態でも、挟持ローラ対の挟圧力に寄与する付勢力の角度成分、すなわち、スプリング連結点の回動半径方向と直交する成分を、スプリング支持点の角変位に応じて増減させることができ、操作部材の切替操作を少ない操作力で容易に行えるとともに、保持手段に要求される保持力が小さくて済み、その構造を簡素化できる。
【0012】
本発明の好適な態様では、前記操作部材(51)は、前記伝達部材との連結点(39a)とずれた軸(51a)を中心として回動可能に設けられ、かつ、前記操作部材を、前記連結点と前記軸を結ぶ線の延長上にある中立点(m)の各側で所定の角変位に規制するストッパー(54f,54r)を有し、前記スプリング(52)が前記保持手段を兼ねている。
【0013】
この態様では、中立点の各側で角変位に応じた付勢力が作用するとともに、スプリング自体の付勢力によって、操作部材が規制手段による各側の設定位置に保持されるので、別途保持手段を設ける必要はなく、搬送方向の切替時に、操作部材の切替操作を簡単に行うことができる。
【0014】
本発明の他の好適な態様は、
帯状の可撓性基板(1)を縦姿勢で横方向に搬送し、前記基板の搬送経路に設置された成膜部(20)にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置(30,30′)であって、前記基板の縁部を挟持する一対の挟持ローラ(31,32)と、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構(33〜36)と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに挟圧力を付与するスプリング(68)と、を備え、前記基板の縁部に、前記一対の挟持ローラの挟圧力に応じた展張力を作用させるものにおいて、前記一対の挟持ローラの挟圧力を調整すべく、前記スプリングの支持点(68b,69a)を変位させるカム(67a)と、前記カムを回動操作する操作部材(61)と、前記操作部材を所定の角変位に保持可能な保持手段(44,46)とを備えたことを特徴とする。
【0015】
この態様では、カムの輪郭によって、スプリングの変位に対して操作部材の角変位を大きく確保でき、精細な挟圧力調整を行えるとともに、搬送方向の切替時における操作部材の切替操作を簡単に行うことができる。また、カムの輪郭に中立点を設け、中立点の各側に変位が得られるようにするとともに、各側における操作部材の角変位を規制するストッパーを設けることもできる。
【0016】
本発明の好適な態様では、前記一対の挟持ローラ(31,32)を構成する各ローラが、軸方向に対して傾斜した周面を有する円錐ローラであり、前記各円錐ローラの小径側が前記基板の幅方向中央側に位置しかつ前記基板の挟持面における回転方向が前記基板の搬送方向(F,R)と同方向になるように、前記支持機構によって支持されている。
【0017】
この態様では、挟持ローラ対の設置角度および挟持を維持した状態で、搬送方向の切替が可能であり、挟持ローラの正逆各搬送方向における挟圧力の差を最小限に抑えるとともに、挟圧力の設定値に切替操作に係る他の要因が介入するのを排除できる。
【発明の効果】
【0018】
上述したように、本発明は、帯状可撓性基板を縦姿勢で横方向に往復搬送させつつ成膜を行う薄膜積層体製造装置において、可撓性基板の搬送高さ制御を、低コストかつ簡単な操作で、正逆各方向の搬送条件に適合した展張力にて実施可能であり、可撓性基板の下垂や皺の発生を正逆双方向において効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】薄膜積層体製造装置の一部を示す概略平断面図(a)、概略側断面図(b)、およびそのA−A断面図(c)である。
【図2】本発明第1実施形態に係る基板位置制御装置を示す要部側断面図(a)およびそのB−B断面図(b)である。
【図3】本発明第1実施形態に係る基板位置制御装置を示す要部平断面図(a)およびその操作部を示す平面図(b)である。
【図4】本発明第2実施形態に係る基板位置制御装置を示す要部側断面図(a)およびその操作部を示す平面図(b)である。
【図5】本発明第3実施形態に係る基板位置制御装置を示す要部側断面図(a)およびそのB−B断面図(b)、C−C断面図(c)である。
【図6】本発明第3実施形態に係る基板位置制御装置の変形例を示す図5(b)に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、本発明を太陽電池用の薄膜光電変換素子を構成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置に実施する場合を例にとり、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において、各実施形態に共通または対応する構成には、共通または対応する符号を付すことで説明を省略する場合がある。
【0021】
図1(a)〜(c)は、本発明が実施される薄膜積層体製造装置の概要を示している。図において、薄膜積層体製造装置は、長手方向の各端に配設された搬送室10a,10bと、それらの間に一定間隔で列設された複数の成膜室20,20を備え、帯状の可撓性基板1(フレキシブルフィルム)を、一方の搬送室10a内のロール1aから巻出し、各成膜室20,20の長さに応じた一定のピッチでステップ搬送し、その停止期間中に各成膜室20,20の内部に設置された成膜ユニット23,23で成膜を行い、他方の搬送室10b内のロール1bに巻取るものであり、このような成膜プロセスを、可撓性基板1の搬送方向を切り替えて正逆双方向(F,R)で実施することで、可撓性基板1の表面に薄膜を積層形成可能である。
【0022】
薄膜積層体製造装置を構成する搬送室10a,10bおよび各成膜室20,20は、気密に連結され、かつ、それらの内部が所定の真空度に維持され、全体として共通真空室を構成している。また、薄膜積層体製造装置は、帯状の可撓性基板1を、縦姿勢すなわち幅方向を上下方向にして水平方向に搬送しつつ成膜工程を実施できるように、各搬送室10a,10b内に設置された巻出し/巻取りロールコア(1a,1b)、駆動ロール11a,11b、テンションロール12a,12b、その他ガイドロール(アイドルロール)は、何れも軸方向を縦方向(鉛直上下方向)にして配設されている。
【0023】
各成膜ユニット23,23は、プラズマCVDなどの化学蒸着(CVD)や、スパッタなどの物理蒸着(PVD)を行なうための真空蒸着ユニットで構成される。例えば、プラズマCVDの場合、各成膜ユニット23,23は、可撓性基板1の搬送経路を挟んでその両側に対向配置された電極21(表面に多数の原料ガス噴出孔を有する高周波電極)と、ヒータを内蔵した接地電極22で構成され、それぞれが、可撓性基板1に向かって開口した開閉可能なチャンバー内に収容されている。
【0024】
以上のような基本構成をなす薄膜積層体製造装置の各成膜ユニット23,23の間には、各成膜ユニット23,23を通って搬送される可撓性基板1の上下方向の位置を制御し搬送高さを一定に維持するとともに、可撓性基板1を幅方向すなわち上下方向に展張するために、搬送経路の上部および下部に位置制御ユニット30,30′が配設されている。以下、位置制御ユニット30,30′の各実施形態について説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図2〜図3は、本発明に係る第1実施形態の位置制御ユニット30(上側のみ)を示しており、図において、位置制御ユニット30は、可撓性基板1の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラ31,32と、各挟持ローラ31,32を回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構(33〜36)、該支持機構を介して挟持ローラ31,32に挟圧力を付与するスプリング42、該スプリング42の付勢力を前記支持機構にトルクとして伝達する伝達部材(37〜39)、および、スプリング42の付勢力を調整するとともに正逆各搬送方向F,Rに応じて切り替える操作部40からなる。また、操作部40は、挟持ローラ31,32の挟圧力を調整すべくスプリング42の支持点(41b)を伝達部材(37〜39)との連結点(39a)の周りで角変位させる操作アーム41と、該操作アーム41を所定の角変位に保持可能な保持手段(44〜46)を備えている。
【0026】
各挟持ローラ31,32は、図2(b)に示されるように、同形状の円錐ローラで構成され、各円錐ローラの小径側が、可撓性基板1の幅方向中央側(図中下側)に位置しかつ挟持面における回転方向が可撓性基板1の搬送方向(F,R)と同方向になるように支持部材33,34に軸支されている。この構成により、可撓性基板1が駆動ロール10b(または駆動ロール10a)による搬送力で正方向F(または逆方向R)に搬送される際、各挟持ローラ31,32は可撓性基板1の縁部を挟持した状態で従動回転され、それに伴い、可撓性基板1の縁部が、各挟持ローラ31,32の大径側に誘導され、可撓性基板1は幅方向に展張される。
【0027】
各挟持ローラ31,32によって付与される展張力は、摩擦力として可撓性基板1に伝達されるので、基本的に挟持ローラ31,32による挟圧力に比例する。したがって、スプリング42による挟持ローラ31,32の挟圧力を調整することで、可撓性基板1の上側縁部の位置を調整可能である。
【0028】
挟持ローラ31,32を支持する支持部材33,34のうち、一方の支持部材34は、ブラケット36に固定された固定支持部材であるのに対し、他方の支持部材33は、ブラケット36の軸受部36aに回動可能に支持された延長アーム35の軸部35aに取り付けられ、延長アーム35と一体的に揺動可能な可動支持部材である。延長アーム35の上端部は、回動軸37の下端に固定された第2アーム37aの先端部に係合している。
【0029】
回動軸37は、成膜室20の外部に配設されたスプリング42の付勢力を、成膜室20内にトルクとして伝達する伝達部材であり、成膜室20の天井部に設けたシール軸受38を介して気密かつ回動自在に支持されている。また、成膜室20の外部に位置した回動軸37の上端には、入力部としての第1アーム39が固定されている。
【0030】
第1アーム39の先端には、連結ピン39aが回動可能に支持され、該連結ピン39aにスプリング42の一端が連結され、該スプリング42の他端は、調整ネジ43を介して、操作アーム41の支持ピン41bに連結されている。スプリング42は、連結ピン39aと支持ピン41bとの間に、予め伸長された状態で張架されており、調整ネジ43を回動することにより、スプリング42の初期張力を調整可能である。
【0031】
一方、操作アーム41は、図示しない支持構造を介して成膜室20の天井部に固定されたブラケット45(操作盤)に、回動軸41aを介して回動可能に支持されている。この回動軸41aは、図2(a)および図3(a)に示すように、挟持ローラ31,32が相互に当接する第1アーム39の回動原点において、第1アーム39の連結ピン39aと同一軸線上に配設されている。
【0032】
これにより、図3(a)に示すように、操作アーム41が第1アーム39と整列する最小挟圧力位置41xと、操作アーム41が第1アーム39に対して直角になる最大挟圧力位置41yとの間で、操作アーム41の角変位に応じて、スプリング42の張力の直交成分が、第1アーム39を図中反時計方向に回動させる付勢力として連結ピン39aに負荷される。この付勢力は、回動軸37を介して第2アーム37aにトルクとして伝達され、延長アーム35およびそれと一体の支持部材33を介して挟持ローラ31に伝えられ、挟持ローラ31が挟持ローラ32に圧接されるように構成されている。
【0033】
操作アーム41には、作業者が操作するためのハンドル41hが取り付けられている。また、ブラケット45には、操作アーム41を所定の角変位に保持する保持手段として、複数の位置決め孔46が等角度間隔で穿設されており、所望の位置決め孔46に位置決めピン44を貫通した状態で、該位置決めピン44の先端を、操作アーム41の穴に係合することで、その角位置に操作アーム41を保持可能となっている。
【0034】
上記構成に基づいて可撓性基板1の位置制御を実施するに際しては、事前に、薄膜積層体製造装置に可撓性基板1を導入して搬送試験を行い、調整ネジ43でスプリング42の初期張力を調整してから、正逆それぞれの搬送方向F,Rに適した操作アーム41の角位置を決定しておく。そして、成膜工程を実施する際に、正逆各搬送方向F,Rに応じて、操作アーム41の角位置を、例えば、図3(b)に実線で示される正方向位置f、2点差線で示される逆方向位置rに切り替えることで、正逆各搬送方向F,Rに最適なスプリング42の付勢力および挟持ローラ31,32の挟圧力が得られ、可撓性基板1に対する適正な展張力が得られる。
【0035】
また、上述したように、本実施形態では、スプリング42の張力の直交成分が、第1アーム39を回動させる付勢力として連結ピン39aに負荷されるので、操作アーム41が第1アーム39に対して直角になる最大挟圧力位置41y、すなわち、図3(b)に符号「m」で示される中立点を中心として、操作アーム41の振れ角(f′,r′)が等しい位置ではスプリング42の付勢力が等しくなる。したがって、中立点mを挟んでその両側に、正逆各搬送方向F,Rに応じた設定値(f′,r′)を割り当てることで、操作アーム41の切り替え操作が平易になる。この場合、中立点mの各側に、操作アーム41の回動範囲(f′,r′)を規制するストッパ(後述する)を設けることで、さらに切り替え操作が容易になる。
【0036】
但し、本実施形態のスプリング42は、操作アーム41をトグル位置41t(46t)に回動操作すると、第1アーム39が、図3(a)に実線で示される圧接位置(39)と、2点差線で示される離反位置(39t)の二位置で安定となるようなトグルスプリングとして機能するので、上述した操作アーム41のr′側の回動範囲は、トグル位置46tから適度に離間されることが好ましい。
【0037】
すなわち、操作アーム41をトグル位置41t(46t)とした状態では、可動側挟持ローラ31を、固定側挟持ローラ32から手操作で離反させれば、可動側挟持ローラ31はスプリング42の付勢力で離反位置に保持されるので、可撓性基板1の導入作業を容易に行うことができ、かつ、可撓性基板1の導入後に可動側挟持ローラ31を圧接位置(39)に戻せば、直ちに挟圧力が負荷され、挟持ローラ31,32によって可撓性基板1の縁部が挟持された状態となる。
【0038】
以上述べたような操作部40の構成は一例に過ぎず、操作部材(41)や保持手段(44,46)には同様の機能を有する種々の実施形態が存在する。その全てを列挙することはできないが、以下、その変形例について述べる。
【0039】
(第2実施形態)
図4(a)(b)は、本発明の第2実施形態に係る位置制御ユニット30とその操作部50(上側のみ)を示している。この第2実施形態では操作部50のみが第1実施形態と異なり、位置制御ユニット30(挟持ローラ31,32)の基本構造は第1実施形態と同様であるので、同様の部材には同様の符号を付すことで説明を省略し、以下、変更点について述べる。
【0040】
第2実施形態に係る操作部50は、第1アーム39が、第1実施形態に対して90度回転した角度位置に固定されている。また、操作アーム51(ハンドルは省略されている)の回動軸51aは、第1アーム39の連結ピン39aとずれて配設されており、連結ピン39aと回動軸51aを結ぶ線の延長上にある中立点の各側(f,r)で、操作アーム51を所望の角変位に規制するストッパー54f,54rを備えている。この態様では、スプリング52は、操作アーム51の角変位を各ストッパー54f,54rに当接した位置に保持するトグルスプリング(保持手段)として機能する。
【0041】
ストッパー54f,54rは、ブラケット55に設けたネジ孔に螺合する螺合部材からなり、それぞれの側でスプリング52の付勢力を決定する螺合位置を無段階に設定可能であり、各ストッパー54f,54rに、正逆各搬送方向F,Rの設定値(Lf,Lr)を割り当てることで、操作アーム51を何れかの側(f,r)に回動操作するだけで、設定値(Lf,Lr)の切り替えと保持が同時に行える。
【0042】
(第3実施形態)
図5(a)〜(c)は、本発明の第3実施形態に係る位置制御ユニット30とその操作部60(上側のみ)を示している。この第3実施形態では、挟持ローラ31,32に挟圧力を付与するスプリング68が、成膜室20内にスパイラルスプリングとして配設されている点、および、スプリング68の支持点(68b)がカム67aによって変位される点、回動軸67を介してカム67aを回動操作する操作力(角変位)が伝達される点が異なっている。
【0043】
挟持ローラ31,32を支持する支持部材33,34のうち、可動側支持部材33は、ブラケット36の軸受部36aに回動可能に支持された回動軸65の軸部65aに取り付けられ、回動軸65と一体的に回動(揺動)可能である。回動軸65の中央にはフランジ部(大径部)が設けられ、該フランジ部を挟んで軸部65aと反対側に延出した軸端部には、第2操作アーム66の基部が回動自在に支持されており、この第2操作アーム66と前記フランジ部との間にスプリング68が支承されている。
【0044】
スプリング68の一端68bは第2操作アーム66に掛止され、スプリング68の他端は回動軸65のフランジ部に掛止されており、第2操作アーム66の角変位に応じたスプリング68の付勢力がトルクとして回動軸65に伝達され、それにより挟持ローラ31,32に挟圧力が付与される。
【0045】
一方、第2操作アーム66の上端部66aは、カム67aのフォロワとなっており、真空室20の外部に配設された操作部60の操作アーム61(第1操作アーム)により、回動軸67を介して回動操作されるカム67aの角変位に応じた変位が第2操作アーム66の上端部66aに与えられる。操作アーム61には、第1実施形態と同様にハンドル61hが設けられており、かつ、ブラケット45の位置決め孔(46)と、位置決めピン44とで所望の角位置に保持可能である。
【0046】
なお、図示例のカム67aは、フォロワ(66a)を最小変位(最小半径)から最大変位(最大半径)まで変位させる1つの輪郭(第1の輪郭)のみを有しているが、例えば、図示例の最小変位の反対側に最大変位に至る対称形状をなす第2の輪郭を形成しておき、それぞれの輪郭を、正逆各搬送方向F,Rに割り当て、かつ、先述したようなストッパーを設けることで、各搬送方向に対応した挟持ローラ31,32の挟圧力の切り替えを容易に行うことができる。
【0047】
(第3実施形態の変形例)
図6は、第3実施形態に係る位置制御ユニット30の変形例を示す、図5(b)に相当する断面図である。上述した第3実施形態では、スプリング68としてスパイラルスプリングを用いる場合を示したが、この変形例では、スプリング69としてコイルスプリングを用いている。スプリング69の基端は、第1実施形態と同様に可動側支持部材33に剛結され一体的に回動する延長アーム35の上端部に固定され、スプリング69の先端には、カム67aのフォロワ69aが取り付けられている。
【0048】
この変形例では、カム67aの回動操作によるスプリング69の弾性変形に応じたトルクが延長アーム35を介して可動側支持部材33に伝達され、それにより挟持ローラ31,32に挟圧力が付与される。なお、この例では、フォロワ69aの変位が直線的な変位に拘束されるように、フォロワ69aを摺動可能に案内する案内部材が配設されることが好ましい。
【0049】
上記各実施形態では、可撓性基板1の搬送経路の上部に設置された位置制御ユニット30について述べたが、可撓性基板1の搬送経路の下部に設置される位置制御ユニット30′も、上下逆向きに配置される点を除いては基本的に同構造であり、上下の位置制御ユニット30,30′は、構造的には上下対称である。しかし、可撓性基板1の自重の作用方向に対して、挟持ローラ31,32による展張力の作用方向は上下逆向きであるので、搬送スパンが長く自重の影響が無視できない場合は、1ないし複数の上部位置制御ユニット30の展張力を、下部の位置制御ユニット30′の展張力より大きく設定することが好ましい。
【0050】
したがって、各成膜ユニット23,23の間に設置される上下の位置制御ユニット30,30′の全ての展張力を、可撓性基板1の搬送方向F,Rに応じて切替可能としても良いが、上述した1ないし複数の上部位置制御ユニット30の一部または全てを切替可能とし、それ以外は搬送方向に共通のプリセット値を適用することもできる。
【0051】
また、上記各実施形態では、可撓性基板1をステップ搬送しつつその停止期間中に成膜を行う薄膜積層体製造装置の各成膜ユニット23,23間に設置された位置制御ユニット30,30′について述べたが、本発明は、可撓性基板1を正逆双方向に連続的に搬送しつつ成膜を行う薄膜積層体製造装置にも実施可能である。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。例えば、本発明に係る基板位置制御装置は、有機ELの半導体薄膜など、太陽電池以外の薄膜積層体製造装置にも実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 可撓性基板
20 成膜室
23 成膜ユニット
30,30′ 位置制御装置
31,32 挟持ローラ
33,34 支持部材
35 延長アーム
37,65,67 回動軸
37a 第2アーム
38 シール軸受
39 第1アーム
39a 連結ピン
40,50,60 操作部
41,51,61 操作アーム
41b,51b 支持ピン
41h,61h ハンドル
42,52,68,69 スプリング
43,53 調整ネジ
44 位置決めピン
45,55 ブラケット
46 位置決め孔
54f,54r ストッパー
66 第2操作アーム
67a カム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の可撓性基板を縦姿勢で横方向に搬送し、前記基板の搬送経路に設置された成膜部にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置であって、前記基板の縁部を挟持する一対の挟持ローラと、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに挟圧力を付与するスプリングと、を備え、前記基板の縁部に、前記一対の挟持ローラの挟圧力に応じた展張力を作用させるものにおいて、
前記スプリングの付勢力を前記支持機構にトルクとして伝達する伝達部材と、前記一対の挟持ローラの挟圧力を調整すべく、前記スプリングの支持点を前記伝達部材との連結点の周りで角変位させる操作部材と、前記操作部材を所定の角変位に保持可能な保持手段とを備えたことを特徴とする薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項2】
前記操作部材は、前記伝達部材との連結点を通りかつ前記伝達部材の回動軸と平行な軸を中心として回動可能に設けられ、前記スプリングの弾性変位を一定に維持しつつ前記スプリングの支持点を角変位させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項3】
前記操作部材は、前記伝達部材との連結点とずれた軸を中心として回動可能に設けられ、かつ、前記操作部材を、前記連結点と前記軸を結ぶ線の延長上にある中立点の各側で所定の角変位に規制するストッパーを有し、前記スプリングが前記保持手段を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項4】
帯状の可撓性基板を縦姿勢で横方向に搬送し、前記基板の搬送経路に設置された成膜部にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置であって、前記基板の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラと、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに挟圧力を付与するスプリングと、を備え、前記基板の上側縁部に、前記一対の挟持ローラの挟圧力に応じた持ち上げ力を作用させるものにおいて、
前記一対の挟持ローラの挟圧力を調整すべく、前記スプリングの支持点を変位させるカムと、前記カムを回動操作する操作部材と、前記操作部材を所定の角変位に保持可能な保持手段とを備えたことを特徴とする薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項5】
前記一対の挟持ローラを構成する各ローラが、軸方向に対して傾斜した周面を有する円錐ローラであり、前記各円錐ローラの小径側が前記基板の幅方向中央側に位置しかつ前記基板の挟持面における回転方向が前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記支持機構によって支持されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1768(P2012−1768A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138507(P2010−138507)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】