説明

薄膜製造方法および装置

【課題】十分緻密な薄膜を成膜することが可能な薄膜製造方法および装置を提供する。求める成膜特性、あるいはプロセス条件に応じた薄膜を成膜することが可能な薄膜製造方法および装置を提供する。
【解決手段】原料ガスからプラズマを生成し、該プラズマ中からイオンを抽出し、該イオンにより被成膜基板の片面または両面に薄膜を成膜する薄膜製造方法である。該方法は、該プラズマを発生させるプラズマ室と、被成膜基板を収容する成膜室と、該プラズマ室から該成膜室まで該イオンを輸送するためのイオン輸送路と、該イオン輸送路から分岐する分岐管と、該分岐管に接続された排気系統とを有する装置内で実施される。該イオン以外の原料ガスを該分岐管から排気しながら薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被成膜基板上への薄膜製造方法および装置、特にコンピュータなどの情報処理機器の情報記録装置または民生機器に搭載される記録装置(特にハードディスク装置)等に用いられる薄膜製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータなどの情報処理機器で取り扱う情報量の増加および情報処理機器の小型化に伴って、情報記録装置の記録容量の増大が図られ、情報記録装置に使用される磁気記録媒体に求められる記録容量は増加の一途を辿っている。磁気記録媒体の記録容量を増加させ記録性能を向上させるには、磁気ヘッドの読み出し・書き込み素子と磁気記録媒体の磁性層との距離、すなわち磁気的スペーシングを極限まで低下させる必要がある。磁気的スペーシングは、磁気ヘッドの保護層厚さ、磁気ヘッドの浮上量、磁気記録媒体の保護層・潤滑層厚さ等により決定されている。
【0003】
磁気記録媒体側の開発課題は、保護層の厚さの低減である。磁気記録媒体の保護層は、一般的にDLC(ダイアモンドライクカーボン)が適用されており、主に化学気相蒸着法(以下CVD)等の技術により形成されている。磁気記録媒体の保護層の膜厚は、3nm程度まで薄膜化されているが、将来的にはこれをさらに低減させることが必要とされている。
【0004】
DLC保護層を形成するための別法として、フィルタードカソーディックアーク(以下FCA)法の改良法が提案されている(特許文献1参照)。FCA法においては、アーク放電によって生成された炭素イオンのみをマスフィルタを用いて選択して被成膜基板に導き、DLC膜が形成される。前述の改良法においては、アーク放電に代えて、気相プラズマを発生させることによって炭素イオンを生成している。FCA法において大量に発生するパーティクルを、イオン輸送路の途中で捕捉する方法もまた提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−209929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Surface and coatings 163‐164(2003)P.368‐373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気記録媒体の保護層の厚さを低減するには、従来の初期成長層に関する問題点を解決する必要がある。以下に説明する。
【0008】
磁気記録媒体では、磁性層の上にDLCからなる保護層を成膜する。このように異種材料の下地界面に成膜する場合、その初期成長過程では、まず下地界面に点状に複数の核が生成され、その後これらの複数の核が島状に成長する。この段階までを初期成長層と呼び、その膜厚は0.5〜1.0nm程度と考えられている。やがてこれらの島状の核が連なり一様な定常層になってゆく。初期成長層は、定常層と比較すると緻密性に劣る。前述のように、磁気記録媒体の保護層の場合、その膜厚は3nm程度と非常に薄い。例えば膜厚を現状の2/3、すなわち2nm程度まで薄膜化すると、現状の初期成長層が1nm程度のとき、保護層の半分が緻密性に劣る初期成長層となる。この場合、保護層として耐食性および耐摩耗性を満たすことが出来ない。
【0009】
ところで上記のような薄膜が成膜されるとき、そこには主に2種類のメカニズムが存在する。1つはラジカルによる成膜であり、もう1つはイオンによる成膜である。前者のラジカル成膜の場合、ラジカルが大きなエネルギを持たないため、いわゆる表面反応により膜が構成され、先に述べた島状成長となる。一方で後者のイオン成膜の場合、電場などより付与されるエネルギによりイオンが被成膜基板表面内部に打ち込まれ、いわゆるイオンボンバードメント効果により表面下で析出という形で膜を形成する。すなわち、イオン成膜の場合は島状成長のような初期成長層がなく、エネルギを適切に与えることにより、例えばDLCの場合にダイアモンド構造であるsp3構造成分リッチな緻密な膜を形成することが可能である。イオンによる成膜を行えば、保護層を緻密化することにより、その膜厚を低減することが可能となるのである。
【0010】
しかしながら、通常のプラズマCVD法では、生成されるプラズマ中にイオンの他にラジカルも多く含まれるため、純粋なイオン成膜とならずイオン成膜とラジカル成膜とが混在する混成的成膜状態となり、結果的に初期成長層が形成される。そのため薄膜化が難しかった。またFCA法は、純粋なイオン成膜により初期成長層を含まないDLC層を形成する方法として既に知られているものの、アーク放電に伴う大量のパーティクルが発生するため、磁気記録媒体の保護層の成膜に適用することが難しかった。
【0011】
本発明の課題は、十分緻密な薄膜を成膜することが可能な薄膜製造方法および装置を提供することにある。本発明の他の課題は、求める成膜特性、あるいはプロセス条件に応じて薄膜を成膜することが可能な薄膜製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 原料ガスからプラズマを生成し、該プラズマ中からイオンを抽出し、該イオンにより被成膜基板の片面または両面に薄膜を成膜する薄膜製造方法であって、該方法は、該プラズマを発生させるプラズマ室と、被成膜基板を収容する成膜室と、該プラズマ室から該成膜室まで該イオンを輸送するためのイオン輸送路と、該イオン輸送路から分岐する分岐管と、該分岐管に接続された排気系統とを有する装置内で実施され、該イオン以外の原料ガスを該分岐管から排気しながら薄膜を形成する。
(2) 好ましくは、該イオン輸送路は、屈曲または湾曲した管で構成されている。
(3) また、好ましくは該イオン輸送路に磁界発生手段が取り付けられており、該プラズマ室から該成膜室に至る磁束が形成される。
(4) さらに、好ましくは該磁界発生手段が、該イオン輸送路を構成する管の断面を囲むように該管の外側あるいは内側に配置された電磁コイルまたは磁石である。
(5) さらに、好ましくは該分岐管は、該プラズマ室からイオンを抽出する方向と直線的に配置されている。
(6) また、好ましくは該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを1つ有し、該イオン輸送路が該成膜室の1つの面に接続され、被成膜基板の片面に薄膜を成膜する。
(7) あるいは、好ましくは該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを2つ有し、該イオン輸送路のそれぞれが該成膜室の対向する面に接続され、被成膜基板の両面に薄膜を成膜する。
(8) そしてこの時、好ましくは該イオン輸送路のそれぞれに同一方向の磁束が形成される。
(9) あるいは、好ましくは該イオン輸送路のそれぞれに逆方向の磁束が形成される。
(10) また、好ましくは該プラズマが1010/cm3以上の密度を有する。
(11) また、好ましくは1回あるいは複数回の成膜毎に、酸素、窒素酸化物、アルゴンまたはヘリウムからなる群から選択されるガスのプラズマを発生させ、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管および該成膜室の堆積物および塵埃を除去する。
(12) あるいは、原料ガスからプラズマを発生させるプラズマ室と、被成膜基板を収容する成膜室と、該プラズマ室から該成膜室まで該イオンを輸送するためのイオン輸送路と、該イオン輸送路から分岐する分岐管と、該分岐管に接続された排気系統とを有することを特徴とする薄膜製造装置である。
(13) このとき、好ましくは該イオン輸送路は、屈曲または湾曲した管によって構成されている。
(14) また、好ましくは該イオン輸送路に、該プラズマ室から該成膜室に至る磁束を発生させるための磁界発生手段が取り付けられている。
(15) また、好ましくは該磁界発生手段が、該イオン輸送路を構成する管の断面を囲むように該管の外側あるいは内側に電磁コイルまたは磁石である。
(16) また、好ましくは該分岐路は、該プラズマ室からイオンを抽出する方向と直線的に配置されている。
(17) この時、好ましくは該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを1つ有し、該イオン輸送路が該成膜室の1つの面に接続され、被成膜基板の片面に薄膜を成膜する。
(18) あるいは、好ましくは該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを2つ有し、該イオン輸送路のそれぞれが該成膜室の対向する面に接続され、被成膜基板の両面に薄膜を成膜する。
【発明の効果】
【0013】
上述の発明の構成により、被成膜基板にイオンを主体とする成膜を行うことができるので、十分緻密な保護層を得ることができる。本発明と異なり、従来技術におけるように排気系統が分岐管を介してイオン輸送路に接続されていない場合、あるいは該イオン以外の原料ガスを該分岐管から排気しながら薄膜を形成していない場合は、パーティクルが壁面に付着して、長期の使用により付着したパーティクルが剥がれて被成膜基板に付着し、表面欠陥を生じる。そのため、本発明によれば、従来技術と比較して表面欠陥をより少なく成膜できる。
【0014】
なお、本発明の装置においては、分岐管に排気系統が接続されている点が特に重要である。また、本発明の方法においては、抽出されたイオン以外の原料ガスを分岐管から排気しながら薄膜を形成する点が特に重要である。典型的には、プラズマ室からイオンを抽出する方向と同じ方向で直進的に、抽出されたイオン以外の原料ガス(特にラジカルおよびパーティクル)を排気する。そのため、例えばDLC層を成膜する場合、ラジカル成膜に起因した島状成長のような初期成長層が排除され、緻密な膜を形成することができ、その分保護層の薄膜化を実現することができる。また、ラジカルおよびパーティクルが少ない状態でDLC層の成膜を行うことができる。
【0015】
また、該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを2つ(すなわち一対)有し、該イオン輸送路のそれぞれが該成膜室の対向する面に接続され、被成膜基板の両面に薄膜を成膜することにより、被成膜基板の両面で、求める成膜特性、あるいはプロセス条件に応じた成膜状態を得ることができる。
【0016】
ここで、該イオン輸送路のそれぞれに同一方向の磁束が形成されることにより、輸送されたイオンは被成膜基板に高い効率で届き、高い成膜レートを得ることができる。
【0017】
あるいはまた、該イオン輸送路のそれぞれに逆方向の磁束が形成されることにより、被成膜基板で磁束が広がり、成膜分布の改善が期待できる。
【0018】
該プラズマが1010/cm3以上の密度を有することにより、プラズマ中に十分なイオンが存在し、十分な膜質、成膜レートを得ることができる。
【0019】
さらに、1回あるいは複数回の成膜毎に、酸素、窒素酸化物、アルゴンまたはヘリウムからなる群から選択されるガスのプラズマを発生させ、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管および該成膜室の堆積物および塵埃を除去すれば、パーティクルのさらに少ない成膜を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法および装置の第1の例を示した模式図である。
【図2】本発明の方法および装置の第1の例の動作原理を示した模式図である。
【図3】本発明の方法および装置の第2の例を示した模式図である。
【図4】本発明の方法および装置の第3の例を磁束とともに示した図である。
【図5】本発明の方法および装置の第3の例を磁束とともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明の方法に好適に用いられる成膜装置の第1の例を示す。
【0022】
成膜装置は、プラズマが発生するプラズマ室1、成膜室2、および該プラズマ室1と成膜室2とを繋ぐ屈曲したイオン輸送路3を有する。イオン輸送路3は、屈曲または湾曲した管によって構成されている。
【0023】
プラズマ室1には、原料ガスGが導入される。DLCの成膜であれば、例えばエチレン、アセチレン等の炭化水素系のガスが導入される。プラズマ室1には、図示しない適当な励起手段によりプラズマ11が生成される。励起手段は、用途に応じて熱フィラメント方式、誘導結合型方式、ECR方式等適当な方式を選択することができる。
【0024】
成膜室2には被成膜基板5が設置され、プラズマ11中のイオンがイオン輸送路3を通って輸送され、被成膜基板5の表面上に成膜される。
【0025】
イオン輸送路3は、例えば円形、矩形等の断面を持つ管構造で形成されており、その屈曲部に分岐した分岐管7が取り付けられている。分岐管7の一方の端部はイオン輸送路3に、分岐管7の他方の端部は図示しない排気ポンプ等の排気装置を含む排気系統Pに繋がっている。分岐管7は、プラズマ室1からイオンを抽出する方向と直線的に配置されている。排気系統Pは、プラズマ室1から、イオンを抽出する方向と同じ方向で直進的に、該イオン以外の原料ガス(特にラジカルおよびパーティクル)を排気する。抽出されたイオンは、分岐管7内に導入されずに成膜室2に誘導される。このときエネルギーを持ったイオンを効率良く成膜室まで到達させるには、圧力は例えば0.01〜0.4Pa程度とすることが望ましい。
【0026】
イオン輸送路3の管外側には管断面を囲むように磁界発生手段としての電磁コイル41〜44が配設されている。電磁コイル41〜44は、イオン輸送路3の管内部にプラズマ室1から成膜室2に至る磁束を作り出している。このとき電磁コイル41〜44は、例えば互いの磁束が打ち消し合うことなく、強めあうように、同じ流れの向きに磁束を生じさせている。磁束の大きさは例えば、数mT〜数百mTとすることができる。高密度の磁束を適用するため電磁コイルに大きな電流を投入する場合、電磁コイルには水冷等の強制冷却機構を適用してもよい。設置する電磁コイルの数については本例では4としているが、装置構成、取り出すイオンの種類、量、電磁コイルの性能などに応じて適宜決めることができる。
【0027】
次に図2を参照してイオンの輸送原理について説明する。
【0028】
4つの電磁コイルに同じ回転方向に電流を流せば、図2のようにプラズマ室1から成膜室2に至る屈曲した磁束4をイオン輸送路3内に形成することができる。イオン輸送路3は、全体として直角に屈曲して(又は直角に折り曲げられて)いるが、本発明は方法および装置の構成に応じて好適な角度でイオン輸送路3が屈曲している構成を含む。イオン輸送路3を構成する管のうち、プラズマ室1から延在する管部分の中心軸線と、成膜室2から延在する管部分の中心軸線との間の角度が、直角又は好適な角度で屈曲している構成が好ましい。
【0029】
プラズマ11中からイオン輸送路3に流入したイオン111は、磁束に沿ってローレンツ力によりラーマ円運動を伴いながら被成膜基板5に輸送される。詳細には、プラズマ室2からイオンを抽出する方向と同じ方向で直進的に抽出されたイオン111は、イオン輸送路3内を直進し、分岐管7のところで直角に屈曲し、成膜室2内の被成膜基板5に到達する。このとき、流入するイオンの(運動)エネルギが不十分であると、被成膜基板5への到着時間が長くなり、壁面への衝突、粒子同士の衝突によりイオン消失の可能性が高まる。このため例えばプラズマ室1とイオン輸送路3との間に、例えば格子状の電極6を配置し、通常の正イオンの場合にプラズマ11の電位よりも低い例えば0〜−200V程度の電位を与えることにより、プラズマ11中よりイオンを引き出し、十分な運動エネルギを持った状態でイオン輸送路3に供給することができる。
【0030】
一方プラズマ11中にはイオン111だけでなく、ラジカル112も存在する。ラジカル112は電荷を持たないため屈曲路を磁束4に導かれて被成膜基板5に到達することは基本的にできない。ラジカル112のうち、ダクトとしての分岐管7内に流入し直進するラジカル1121は、そのまま排気系統(具体的には排気ポンプ)Pより排出される。また活性なラジカルは、壁面に衝突すると基本的にはその場で堆積し、反射して被成膜基板5まで到達するものは少ないと考えられるので、イオンを主体とする成膜が可能となる。
【0031】
なおイオンを主体とした成膜を行う場合、十分な膜質、成膜レートを得るためには、プラズマ11中には十分なイオンが存在する必要があり、プラズマ密度としては1010/cm3以上あることが望ましい。
【0032】
以上の例では、プラズマ室1から被成膜基板5に至るイオン輸送路3の形状を屈曲形状としているが、イオン輸送路3の形状は、曲率を持った一部又は全部の湾曲形状であっても良い。イオン輸送路3を構成する管の少なくとも一部の中心軸線が、湾曲していて、あるいは曲率を持って曲がっていて、あるいは弓形に曲がっている構成が好ましい。
【0033】
図3に本発明の方法に好適に用いられる成膜装置の第2の例を示す。
【0034】
図3に示されているように、例えばイオン輸送路30の内壁に多数のフィン31を配設し、フィン31間で余分なラジカルを捕らえ吸着すれば、前例と同様ラジカルを排したイオン成膜を行うことが可能である。なお、図3は、トラップ用のフィンを付加した例であり、例えば屈曲したイオン輸送路の管内壁にもトラップ用のフィンを付加することもできる。
【0035】
図4および図5に、本発明の方法に好適に用いられる成膜装置の第3の例を示す。
【0036】
被成膜基板5の両側にイオン輸送路(ここでは第1イオン輸送路3aと第2イオン輸送路3b)を設けた場合、目的に応じて、第1イオン輸送路3aの第1磁束4aの方向と、第2イオン輸送路3bの第2磁束4bの方向の組み合わせを選択することができる。図4の例は第1磁束4aと第2磁束4bの向きを揃えた場合であり、第1磁束4aと第2磁束4bは一方向に流れ、被成膜基板5での磁束の広がりが少ないので、輸送されたイオンは被成膜基板5に高い効率で届き、高い成膜レートを得ることができる。
【0037】
しかしながら、例えば磁束密度が高い場合などは、被成膜基板5の中央付近にイオンが集まり成膜分布が不均一になる場合がある。このような場合、図5に示すように第1磁束4aと第2磁束4bの方向が逆向きになるように電磁コイル41a、42a、43a、44a、41b、42b、43b、44bに電流を印加すれば、被成膜基板5で磁束が大きく広がり、成膜分布の改善が期待できる。
【0038】
このように、図4および5に示された例に依れば、求める成膜特性や、プロセス条件に応じて2つのイオン輸送路に流れる磁束の向きを適宜選択することにより、望む成膜状態を得ることができる。
【0039】
以上のように、本発明の成膜方法および装置に依れば、発生したプラズマからイオン粒子を選択的に取り出し成膜できる。本発明と異なり、従来技術におけるように排気系統が分岐管を介してイオン輸送路に接続されていない場合は、直進したパーティクルが壁面に付着して、長期の使用により付着したパーティクルが剥がれて被成膜基板に付着し、表面欠陥を生じるため、本発明によれば、従来技術と比較して表面欠陥をより少なく成膜できる。例えばDLC膜を成膜する場合、ラジカルに起因した島状成長のような初期成長層を排除し、緻密な膜を形成することができるので、その分保護層の薄膜化を実現することができる。またFCA法のようにドロップレット等の塵埃が発生し易いアーク放電を使うことなく、ガス原料よりプラズマを生成するので、パーティクルが少ない状態で媒体成膜を行うことができる。さらに、1回あるいは複数回の成膜毎に定期的に酸素、窒素酸化物、あるいはアルゴン、ヘリウム等のガスでプラズマを発生させれば、装置内に堆積した膜、塵埃を除去し、よりパーティクルが出難い環境を作ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 プラズマ室
11 プラズマ
111 イオン粒子
112、1121 ラジカル粒子
2 成膜室
3、3a、3b イオン輸送路
31 フィン
4、4a、4b 磁束
41、41a、41b、42、42a、42b、43、43a、43b、44、44a、44b 電磁コイル
5 被成膜基板
6 電極
7、7a、7b 分岐管
G、G1、G2 原料ガス
P、P1、P2 排気ポンプ(排気系統)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスからプラズマを生成し、該プラズマ中からイオンを抽出し、該イオンにより被成膜基板の片面または両面に薄膜を成膜する薄膜製造方法であって、該方法は、該プラズマを発生させるプラズマ室と、被成膜基板を収容する成膜室と、該プラズマ室から該成膜室まで該イオンを輸送するためのイオン輸送路と、該イオン輸送路から分岐する分岐管と、該分岐管に接続された排気系統とを有する装置内で実施され、該イオン以外の原料ガスを該分岐管から排気しながら薄膜を形成することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
該イオン輸送路は、屈曲または湾曲した管で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
該イオン輸送路に磁界発生手段が取り付けられており、該プラズマ室から該成膜室に至る磁束が形成されることを特徴とする請求項2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
該磁界発生手段が、該イオン輸送路を構成する管の断面を囲むように該管の外側あるいは内側に配置された電磁コイルまたは磁石であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
該分岐管は、該プラズマ室からイオンを抽出する方向と直線的に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを1つ有し、該イオン輸送路が該成膜室の1つの面に接続され、被成膜基板の片面に薄膜を成膜することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを2つ有し、該イオン輸送路のそれぞれが該成膜室の対向する面に接続され、被成膜基板の両面に薄膜を成膜することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
該イオン輸送路のそれぞれに同一方向の磁束が形成されることを特徴とする請求項7に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
該イオン輸送路のそれぞれに逆方向の磁束が形成されることを特徴とする請求項7に記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
該プラズマが1010/cm3以上の密度を有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項11】
1回あるいは複数回の成膜毎に、酸素、窒素酸化物、アルゴンまたはヘリウムからなる群から選択されるガスのプラズマを発生させ、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管および該成膜室の堆積物および塵埃を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項12】
原料ガスからプラズマを発生させるプラズマ室と、被成膜基板を収容する成膜室と、該プラズマ室から該成膜室まで該イオンを輸送するためのイオン輸送路と、該イオン輸送路から分岐する分岐管と、該分岐管に接続された排気系統とを有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項13】
該イオン輸送路は、屈曲または湾曲した管で構成されていることを特徴とする請求項12に記載の薄膜製造装置。
【請求項14】
該イオン輸送路に、該プラズマ室から該成膜室に至る磁束を発生させるための磁界発生手段が取り付けられていることを特徴とする請求項13に記載の薄膜製造装置。
【請求項15】
該磁界発生手段が、該イオン輸送路を構成する管の断面を囲むように該管の外側または内側に配置された電磁コイルまたは磁石であることを特徴とする請求項14に記載の薄膜製造装置。
【請求項16】
該分岐路は、該プラズマ室からイオンを抽出する方向と直線的に配置されていることを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の薄膜製造装置。
【請求項17】
該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを1つ有し、該イオン輸送路が該成膜室の1つの面に接続され、被成膜基板の片面に薄膜を成膜することを特徴とする請求項12から16のいずれかに記載の薄膜製造装置。
【請求項18】
該装置が、該プラズマ室、該イオン輸送路、該分岐管の組み合わせを2つ有し、該イオン輸送路のそれぞれが該成膜室の対向する面に接続され、被成膜基板の両面に薄膜を成膜することを特徴とする請求項12から16のいずれかに記載の薄膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97328(P2012−97328A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246359(P2010−246359)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】