説明

薄膜製造装置及び薄膜製造方法

【課題】熱処理方法としてレーザーを使用して薄膜を製造する薄膜製造装置であって、最適なレーザー条件を算出、制御することができる薄膜製造装置を提供すること。
【解決手段】基板上に機能性インクを所定のパターンで塗布する塗布手段と、塗布された前記機能性インクを加熱して結晶化するための1つ又は2つ以上のレーザー光源と、前記機能性インクの結晶状態を測定するためのX線回折装置と、前記X線回折装置により測定された前記機能性インクの前記結晶状態の情報を記録する記録部と、前記レーザー光源のレーザー照射条件を制御する制御装置と、を有し、前記制御部は、前記記録部に記録された、事前の前記レーザー光源によるレーザー照射した前記機能性インクの前記結晶状態の情報に基づいて、前記レーザー光源のレーザー照射条件を調整するようにする、基板上に薄膜を形成する薄膜製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜製造装置及び薄膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動センサ、圧電スピーカ、各種駆動装置などの装置は、電気機械変換膜などの薄膜を積層した電気機械変換素子を具備している。駆動装置において、例えば、インクジェット用記録装置の液体吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室と、圧電素子などの電気機械変換素子とを含み、加圧室内のインクを加圧することでノズルからインク滴を吐出させる。
【0003】
電気機械変換膜の作製方法としては、スピンコート法などの方法がある。この方法は、スピンコート方式により基板全面に電気機械変換膜成分の前駆体を有するゾルゲル液を塗布し、熱処理(乾燥・熱分解・結晶化)することにより、均一な電気機械変換膜を形成する方法である。
【0004】
前駆体の熱処理方法としては、一般的に、ハロゲンランプ、赤外線又はレーザーを使用して加熱する方法が知られている。この中でも、エネルギー変換効率に優れ、タクトタイムが速く、急加熱・急冷却が可能であるレーザー照射装置を用いて、加熱する方法が広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1などのレーザー照射装置を使用して加熱する方法では、レーザー条件(例えばレーザー出力)の制御が困難である。例えば、レーザー出力が大き過ぎると、電気機械変換膜にヒビが入ることがある。一方、レーザー出力が小さ過ぎると、前駆体の溶媒が完全に蒸発しない、又は電気機械変換膜が完全に結晶化せず、電気機械変換素子の機能が低下することがある。さらに、前駆体の光吸収率は、前駆体の相状態及び膜厚に応じて変更するため、前駆体の相状態及び膜厚に応じて、レーザー条件を制御する必要がある。
【0006】
そこで本発明は、熱処理方法としてレーザーを使用して薄膜を製造する薄膜製造装置であって、最適なレーザー条件を算出、制御することができる薄膜製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、
基板上に機能性インクを所定のパターンで塗布する塗布手段と、
塗布された前記機能性インクを加熱して結晶化するための1つ又は2つ以上のレーザー光源と、
前記機能性インクの結晶状態を測定するためのX線回折装置と、
前記X線回折装置により測定された前記機能性インクの前記結晶状態の情報を記録する記録部と、
前記レーザー光源のレーザー照射条件を制御する制御装置と、
を有し、
前記制御部は、前記記録部に記録された、事前の前記レーザー光源によるレーザー照射した前記機能性インクの前記結晶状態の情報に基づいて、前記レーザー光源のレーザー照射条件を調整するように制御する、
基板上に薄膜を形成する薄膜製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱処理方法としてレーザーを使用して薄膜を製造する薄膜製造装置であって、最適なレーザー条件を算出、制御することができる薄膜製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、液体吐出ヘッドの構造の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、SAM膜のパターニング工程の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る薄膜製造方法の一例を説明するための、フロー図である。
【図4】図4は、レーザー照射による結晶化前のXRD計測結果の一例を示す図である。
【図5】図5は、レーザー照射による結晶化後のXRD計測結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係る薄膜製造装置の構成例を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明に係る薄膜製造方法を説明するための概略図である。
【図8】図8は、本発明に係る薄膜製造方法を説明するための他の概略図である。
【図9】図9は、複数の電気機械変換素子を有する液体吐出ヘッドの構造を示す模式図である。
【図10】図10は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の例を示す概略図である。
【図11】図11は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、電気機械変換素膜などの薄膜の製造装置、製造された電気機械変換膜を備える液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドを備えるインクジェット記録装置などの画像形成装置などに適用することができる。
【0011】
インクジェット記録装置は、通常、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能である。また、インクジェット記録装置は、インクの自由度が高く、安価な普通紙を使用できるなどの多くの利点を有する。そのため、プリンタ、ファクシミリ、複写装置などの画像記録装置又は画像形成装置として広く利用されている。
【0012】
図1に、液体吐出ヘッドの構造の一例を示す模式図を示す。インクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッド10は、インク滴を吐出するノズル11と、このノズルが連通する圧力室21(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する電気機械変換素子40、インク流路の壁面を形成する振動板30とを備えている。電気機械変換素子40は上部電極44と、電気機械変換膜43と、下部電極42とからなり、圧力室は圧力室基板20と振動板30と、ノズル板10とから構成される。前記エネルギー発生手段で発生したエネルギーを受けて、振動板30が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室21内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。なお、下部電極42と振動板30との密着性を良くするために、振動板30上には、例えばTi、TiO、TiN、Ta、Ta、Ta等の密着層41を設けても良い。
【0013】
[電気機械変換膜]
本実施の形態においては、電気機械変換膜の材料として、PZTを主に使用した。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体である。例えば、PbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O、一般にはPZT(53/47)と示されるPZTなどを使用することができる。PbZrOとPbTiOの比率によって、PZTの特性が異なる。
【0014】
電気機械変換膜としてPZTを使用する場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を使用し、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、PZT前駆体溶液を作成する。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物の混合量は、所望のPZTの組成(PbZrOとPbTiOの比率)に応じて、当業者が適宜選択できるものである。
【0015】
なお、金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に分解する。そのため、PZT前駆体溶液に、安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定剤を添加しても良い。
【0016】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、 Ba)(Zr、 Ti)O、(Pb1−x、 Sr)(Zr, Ti)O、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
【0017】
[下部電極]
下部電極の材料としては、高い耐熱性を有し、下記に示すアルカンチオールとの反応により、SAM膜を形成する金属などを使用することができる。具体的には、低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料などを使用することができる。また、これらの金属層を作製した後に、導電性酸化物層を積層して使用することも可能である。導電性酸化物としては、具体的には、化学式ABOで記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuOやCaRuO、これらの固溶体である(Sr1−x Ca)Oのほか、LaNiOやSrCoO、さらにはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Co)O (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuOも挙げられる。
【0018】
下部電極の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜法などの方法により作製することができる。
【0019】
[振動板]
下部電極は、電気機械変換素子に信号入力する際の共通電極として電気的接続をするので、その下部にある振動板は絶縁体又は導体を絶縁処理したものを使用することができる。
【0020】
振動板の具体的な材料としては、例えば、厚さ略数ミクロンのシリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜又はこれらの膜を積層した膜などを使用することができる。また、熱膨張差を考慮した酸化アルミニウム膜、ジルコニア膜などのセラミック膜も使用することができる。
【0021】
振動板の成膜方法としては、例えば、シリコン系絶縁膜は、CVD又はシリコン系膜を熱酸化処理することにより得ることができる。金属酸化膜は、スパッタリング法などにより成膜することができる。
【0022】
[薄膜製造方法]
本発明に係る電気機械変換膜などの薄膜の製造方法について、図を参照して説明する。
【0023】
《SAM膜のパターニング形成方法》
まず、電気機械変換膜を作成するための、基板の表面処理方法について説明する。
【0024】
図2に、基板上へのSAM(Self Assembled Monolayer)膜のパターニング工程の一例を示す模式図を示す。
【0025】
図2(a)は、例えば、下部電極である基板1である。本実施の形態では、下部電極としては白金(Pt)を使用した。
【0026】
基板1上に、アルカンチオールなどから成るSAM材料を用いて浸漬処理させる(図2(b))。これにより、基板1表面には、SAM材料が反応しSAM膜2が付着し、基板1表面を撥水化することができる。アルカンチオールは、分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性が異なるが、通常、炭素数6〜18の分子を、アルコール、アセトン又はトルエンなどの有機溶媒に溶解させて作成する。通常、アルカンチオールの濃度は数モル/リットル程度である。
【0027】
所定時間後に基板1を取り出し、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し、乾燥する。
【0028】
次に、公知のフォトリソグラフィーによりフォトレジスト3をパターン形成する(図2(c))。その後、ドライエッチングによりSAM膜を除去し、フォトレジスト3を除去してSAM膜のパターニングを終了する(図2(d))。
【0029】
他にも、図2(a)の状態から、先にフォトレジストパターンを形成し(図2(b'))、SAM処理を行い(図2(c''))、レジストを除去してSAM膜2のパターニングを行っても良い。
【0030】
さらに他にも、図2(b)の状態から、フォトマスク4を介して紫外線又は酸素プラズマを基板表面に照射することで(図2(c'))、露光部のSAM膜2を除去してSAM膜2のパターニングを行っても良い。
【0031】
なお、パターニング後、SAM膜が残っている領域は、表面が疎水性となる。一方、ドライエッチングなどによりSAM膜が除去され、表面が電極材料となっている領域は、表面が親水性となる。この表面エネルギーのコントラストを利用して、下記で詳述するPZT前駆体液の塗り分けが可能となる。
【0032】
《電気機械変換膜の形成方法》
次に、表面処理された基板上に、電気機械変換膜などの薄膜を製造する方法について、図を参照して、説明する。図3に、本発明に係る薄膜製造方法の一例を説明するための、フロー図を示す。
【0033】
電気機械変換膜は、PZT前駆体溶液を使用して、スピンコート法、インクジェット法などの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化などの熱処理を施すことにより得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように、前駆体溶液濃度を調整する。
【0034】
また、液体吐出装置の電気機械変換素子としてPZT膜を使用する場合、PZT膜の膜厚は1μm〜2μmであることが要求される。そのため、通常、塗膜、熱処理の工程を繰り返して、所望の膜厚を得る。
【0035】
図3に示すように、まず、基板上に、機能性インク(例えば、PZT前駆体溶液)を、インクジェットヘッドを用いたインクジェット法(又はスピンコート法)により均一に塗布する(ステップ1(S1))。この時、表面エネルギーのコントラストにより、機能性インクの塗布領域は、親水性の領域のみとなる。新水面の領域のみにPZT前駆体溶液を吐出させることにより、塗布する溶液の使用量をスピンコート法等のプロセスよりも減らすことができると共に、工程を簡略化することが可能である。
【0036】
次に、塗布された機能性インクの膜を完全に結晶化するまで熱処理する(ステップ2(S2))。ここで言う熱処理とは、ゾルゲル液膜に含まれる溶媒成分を乾燥させる工程と、乾燥させたゾルゲル液膜を熱分解させる工程と、熱分解されたゾルゲル液膜を結晶化させる工程と、を含む。これにより、PZT前駆体溶液は、結晶化し、PZT膜となる。加熱手段としては、通常、オーブンや高速加熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)装置などを使用することができるが、本実施の形態では、レーザー装置400(Dilas社製)を使用した。
【0037】
次に、機能性インクの膜の結晶性をX線回折装置(XRD)により計測する(ステップ3(S3))。XRD装置としては特に限定はなく、例えば、Bruker Axs社のD8 Discover with Vantec 2000などを使用することができる。この装置を使用した場合、出力45kV、100mA、X線照射エリアφ50μ、軸角度(2θ)を20〜50度、角度分解能0.02度に設定し、2048Pixelの受光素子、Timestep0.5secの条件で、1フレームあたりおよそ10minで計測することが可能である。
【0038】
図4及び図5に、各々、レーザー照射による結晶化前後のXRD計測結果の一例を示す。結晶化前後で結晶性が変化し、各々で特徴的なピークが見受けられる。
【0039】
次に、目標とする結晶ピークの目標値を設定する((ステップ4(S4)))。即ち、所定の配向に対応する結晶ピークに対して、強度(Intensity)値の目標値を設定する。ここでは具体的な例を挙げる。例えば、PZT膜の(110)配向の結晶性を重視する場合、(110)の配向は2θでは略31度の結晶ピークを有する。そのため、本実施の形態では、2θの略31度の強度値が、例えば700以上となるように設定する。
【0040】
なお、強度値は、PZT膜の厚みに依存し、通常PZT膜が厚いほど強度値が大きくなる。また、強度値は測定領域にも大きく依存する。XRDの測定領域が、PZT膜のパターン形状の領域と、ほぼ同じ又はXRDの測定領域の方が狭い方が、測定時のノイズが小さく、より効率的に強度値を測定することができる。PZT膜は、後述するように重ね塗りする。したがって、重ね塗りの層数に応じて、当業者は目標を適宜設定することができる。この時、XRDの結晶性の測定は、通常、レーザー照射中にリアルタイムに行うため、数msecから数十msec程度である。測定時間が短い場合、受光素子に入るX線量が少なくなり、強度が低く計測される。そのため、ステップ3での事前計測も、リアルタイム測定と同程度の計測時間(数msecから数十msec程度)に設定することが好ましい。
【0041】
具体的な配向の例としては、(100)配向の場合、2θでは23度から25度あたりの結晶ピークに対して強度値の目標値を設定することが好ましい。(111)配向の場合、2θでは38度から40度あたりの結晶ピークに対して強度値の目標値を設定することが好ましい。また、目標値を設定する配向は、複数選択しても良い。その場合、各々の配向の結晶ピークの強度比がわかっていれば、複数の強度ピークの目標値を、その比率と略同じ割合にして、目標を設定しても良い。
【0042】
さらに、目標とする結晶ピークは、例えば図5の略31度のピークのように、2θ軸に対してピーク幅を有する。そのため、このピーク幅が、例えば30.5度〜31.5度まで狭くなること、といったピーク幅に関する条件を、目標値設定の条件に追加しても良い。なお、通常、ピーク幅が狭いほど結晶性が良好であり(例えば、PZTの場合、ペロブスカイト構造)、電気機械変換素子としての特性に優れている。逆に、ピーク幅が広いほど結晶性が悪く(例えば、PZTの場合、パイロクロア構造)、電気機械変換素子としての特性が悪くなる傾向にある。
【0043】
次のステップ5(S5)工程では、目標とする2θでの角度と、それに対応する結晶ピークの強度の目標値などのレンジ情報を、後述する記録部に記録する。次に基板上に、機能性インク(例えば、PZT前駆体溶液)を、インクジェットヘッド300を用いたインクジェット法(又はスピンコート法)により均一に塗布する(ステップ6(S6))。なお、加熱工程において、SAM膜が消失した場合、後の機能性インクの塗布で毎回SAM膜を形成する。2回目以降、SAM膜は酸化膜上には形成されず、フォトリソグラフィーの工程は不要となる。2回目以降のプロセスで、PZT前駆体溶液の消費量を低減したい場合は、インクジェット法又は凸版印刷によりPZTのパターンを形成する。なお、この方法によるパターン化は、通常PZT膜の膜厚が5μm程度まで好ましくは形成することができる。
【0044】
その後、塗布したPZT膜をレーザー加熱する(ステップ7(S7))。さらに、XRDによりPZT膜の結晶性を測定し、リアルタイムにステップ5で記録された結晶ピークの強度の目標値と比較し、同等の結晶性が得られるまでレーザー加熱を続ける(ステップ8(S8)。
【0045】
リアルタイム計測において、結晶性を高速かつ高精度に計測する方法の一例について、下記に説明する。例えば、受光素子を必要な2θレンジ内でアレイ化することで、単一の受光素子をある角度に駆動する方式よりも高精度かつ高速に測定することができる。他にも、測定する2θレンジを限定することでも、高精度かつ高速測定が実現される。前述の通り、狙いとする配向が決定されると、その配向に対応する2θの角度範囲の情報が必要となる。そのため、所定の角度のみを測定することにより、高精度かつ高速計測が可能となる。
【0046】
レーザー加熱条件で変えることが調整(変更)可能なパラメータとしては、例えば、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数などが挙げられる。レーザーパワーは通常、レーザー制御装置のパワーを制御する入力電圧を変更することで、リアルタイムに調整可能である。レーザー照射時間は、例えば連続照射型レーザーの場合、基板を保持するステージの移動速度を変えることで調整可能である。パルスレーザーの場合は、発光時間を変えることで調整可能である。さらに、レーザー照射回数は、基板を複数回、レーザーの照射下に搬送することで、同じパターンに複数回照射することができる。このように、レーザー加熱条件をリアルタイムに変更することで、良質かつ均一な特性を有するPZTのパターン膜を製造することができる。また、上述のように、XRDの測定領域が、レーザー照射エリア(即ち、PZT膜のパターン形状の領域)と、ほぼ同じ又はXRDの測定領域の方が小さい方が、測定時のノイズが小さく、より高精度の制御が可能となる。
【0047】
なお、レーザーを用いた加熱(蒸発)プロセスは、O濃度が50%以上の雰囲気で行うことが、より良質な膜が形成できるため好ましい。O濃度が50%以上の雰囲気で行うことにより、有機化合物の化学結合を切断するときに、Cが膜から抜けやすくなる。この時、Cは、雰囲気中のOと結合して抜けていく。さらに、レーザーを用いた結晶化プロセスにおいて、N濃度が50%以上の雰囲気で行うことが、より良質な膜を形成できるため好ましい。N濃度が50%以上の雰囲気で行うことにより、結晶化時の膜中のPbが雰囲気のOと結合し、脱離することを低減することができる。この効果は、雰囲気のO濃度を下げるために、N濃度を50%以上にすることで達成される。
【0048】
上述の工程では、一度の工程で100nm以下の膜厚の電気機械変換膜が得られる。電気機械変換膜を液体吐出装置の電気機械変換素子として使用する場合、1μm〜2μmが要求される。そのため、上記ステップ1から8までのステップは、目標の膜厚に到達するまで繰り返される。
【0049】
第1の実施の形態では、上記手法を繰り返し、厚さ約1〜2μm程度の、PZTからなる圧電素子を製造した。なお、本実施の形態では、レーザー照射エリア1000μm×50μm、レーザー波長980nm、レーザービームプロファイルはトップハット(フラット)、基板スキャン速度100mm/sとした。この時、20乃至40W付近に最適なレーザーパワーが観察され、初期的に設定した。第1の実施形態では、1層あたり70nm程度の膜を形成し、上記手法を略28回から29回繰り返すことにより、略2μmの膜を形成した。通常、膜厚が厚くなるにつれ、Intensityの絶対値は上昇する。したがって、Intensityの目標値は、徐々に上げていった。このとき、得られる膜厚のIntensityは、膜厚に対して線形的に変化すると考え、Intensityの目標値を設定した(具体的には、1層70nm時にIntensityは略500であり、略2μmの膜厚時にIntensityは1E6(100万〜1000万)以上であった)。他の実施形態でも同様の手順でIntensityの目標値を設定した。
【0050】
上記レーザー加熱条件で製造した機能性インク膜(電気機械変換膜)はクラックが無く、結晶性も良好であった。また、得られた電気機械変換膜の圧電素子特性も良好であった。
【0051】
得られた電気機械変換膜の具体的な圧電素子特性としては、比誘電率が1000以上であり、圧電歪定数(d31方向)が100pm/V以上であった。また、2μmの膜厚を有する膜の結晶配向は主に(111)配向で、2θで38度から40度の範囲におけるIntensityは1E6(100万〜1000万)以上であった。他にも(100)配向も有しており、2θで23度から25度の範囲におけるIntensityは1E4(1万〜10万)以上であった。
【0052】
[薄膜製造装置]
次に、本発明の薄膜製造方法を実施できる、薄膜製造装置について、図を参照して説明する。
【0053】
《第1の実施形態》
次に、電気機械変換膜の形成方法を実施するための薄膜製造装置の装置構成について、説明する。図6に、本発明に係る薄膜製造装置の構成例を示す概略図を示す。図7に、本発明に係る薄膜製造方法を説明するための概略図を、図8に、本発明に係る薄膜製造方法を説明するための他の概略図を示す。なお、本発明におけるX軸方向、Y軸方向及びZ軸などの方向は、説明のためであり、本発明を限定するものではない。
【0054】
本発明に係る薄膜製造装置は、架台700上に、Y軸駆動手段201が設置されている。Y軸駆動手段201上には、基板1を搭載するステージ203が、Y軸方向に駆動可能なように設置されている。なお、ステージ203には通常、真空又は静電気などを利用した図示しない吸着手段が付随されており、これにより基板1を固定することができる。また、ステージ203には、Z軸を中心に回転する図示しない駆動手段が搭載され、後述するインクジェット塗布装置又はレーザー照射システムと、基板との相対的な傾きを補正できる構成であっても良い。
【0055】
また、架台700上には、X軸駆動手段705を支持するためのX軸支持部材704が設置されている。X軸駆動手段705には、Z軸駆動手段711が設置され、Z軸駆動手段711上にはヘッドベース706が取り付けられ、X軸及びZ軸方向に移動できるようになっている。Z軸駆動手段711は、インクジェット塗布装置又はレーザー照射システムと、基板との距離を制御することができる。ヘッドベース706の上には、機能性インク(例えば、PZT前駆体溶液)を吐出させるインクジェット(IJ)ヘッド300が搭載されている。インクジェットヘッド300には、各インクタンク707から図示しないインク供給用パイプから機能性インクが供給される。
【0056】
X軸駆動手段705には、他のZ軸駆動手段711'が取り付けられ、レーザー及びXRD支持部材708が取り付けられる。XRD支持部材708には、レーザー光源400(及び実施の形態によっては500、600)、X線管602、X線受光素子603が取り付けられる。なお、X線管602及びX線受光素子603は、各々、部材位置調整機構709、709'上に設置されている。図7に示すように、X線管602から角度606で照射されたX線604は、溶媒蒸発、熱分解した機能性インク402に照射され、反射したX線605がX線受光素子により検出される(図3のS3、S8参照)。部材位置調整機構709とは、X線管602、X線受光素子603の位置及び角度を調整可能である調整機構である。レーザー光源400、500及び600もまた、図示しない調整機構にて、X線管602及びX線受光素子603との相対的な位置及び角度を調整可能となっている。
【0057】
Z軸駆動手段711(711')を複数設置することにより、レーザー光源、インクジェットヘッドを、容易に複数設置することができる。
【0058】
なお、図6は、基板1がY方向の1軸の自由度を有し、インクジェットヘッド300及びレーザー光源400、500、600がX方向の1軸の自由度を有する構成を示しているが、本発明はこの点において限定されない。例えば、基板1がX及びY方向の2軸の自由度を有し、インクジェットヘッド300及びレーザー光源400、500、600を固定する構成であっても良い。また、基板1を固定し、インクジェットヘッド300及びレーザー光源400、500、600がX及びY方向の2軸の自由度を有する構成であっても良い。また、X軸及びY軸は、X軸及びY軸ベクトルにより、1平面を表現できれば直交する必要はなく、例えば、X軸ベクトルとY軸ベクトルは30度、45度、60度の角度を有しても良い。
【0059】
レーザー光源400、500、600としては、半導体レーザーやYAGレーザーなど連続照射レーザー装置又はパルス照射レーザー装置などを使用することができる。レーザー装置の構成については、下記で詳細に説明する。
【0060】
本発明に係る薄膜製造装置は、図示しない装置制御部を有し、インクジェットヘッド300の機能性インクの吐出条件及びレーザー光源400、500、600のレーザー照射条件を制御する。また、装置制御部は図示しない記録部を有し、上で詳細に説明した、機能性インクの結晶状態、レーザーの最適な照射条件が記録されている。
【0061】
《第2の実施形態》
第2の実施の形態では、第1の実施の形態における、レーザー光源400として連続照射レーザー装置400が、レーザー光源500としてパルス照射レーザー装置500が配置されている。
【0062】
図8左に示されるように、基板1上の親水部に着弾した機能性インク301、302は、時間とともに濡れ広がる。その後、ステージをY軸及び/又はX軸へ駆動することにより、機能性インクがパターニングされた基板は、前述の図3の方法により、レーザー加熱される。この時、ステージ203をY軸及び/又はX軸に駆動し、連続照射レーザー装置400により機能性インクのパターンにレーザー光401を照射する(図8中央参照)。照射された機能性インクは、溶媒が蒸発し、熱分解され、熱分解された機能性インク402となる。連続照射レーザー400としては、通常、半導体レーザーやYAGレーザーを用いることができる。
【0063】
具体的なレーザー加熱条件としては、波長400nm〜10000nm、基板移動速度10mm/s〜1000mm/sで、レーザーパワーは、数Wから数十Wの範囲で行った。なお、連続照射レーザー装置400によるレーザー光は、SAM膜が存在する領域もレーザー照射する。しかしながら、上記設定条件では基板の温度が500℃以下にとどまるため、SAM膜は消失しない。その後、パルス照射レーザー装置500を用いたレーザー光501により、熱分解した機能性インク402膜上を照射し、機能性インクを結晶化する(図8右側参照)。結晶化された機能性インク502は、例えば、電気機械変換膜として使用されるPZT膜である。パルス照射レーザー装置500としては、半導体ファイバーカプリングレーザー装置又は半導体レーザースタック装置などを使用することができる。レーザー加熱条件は、図3などで上述した通り、ステップ4での結晶性の目標値設定に適合するように選択される。
【0064】
具体的には、レーザーパワーは、数Wから数十W、レーザー照射時間数μ秒〜数百μ秒、発光周波数は機能性インクのパターンと基板の移動速度により調整した。例えば、パターン間隔が100μmで、基板移動速度が100mm/sの場合、パルスレーザーの発光周波数は1kHzである。パルスレーザー発光中に基板が移動することで、例えば照射時間が100μ秒、基板移動速度が100mm/sの場合、10umレーザー照射する範囲が広がる。そのため、レーザー照射の範囲を考慮してパターン形状に合った照射タイミングを制御し、SAM膜領域に照射しないことが好ましい。
【0065】
《第3の実施形態》
上述の第2の実施形態では、連続照射レーザー装置400とパルス照射レーザー装置500を別々の装置として使用した構成であった。第3の実施形態では、通常の半導体ファイバーカプリングレーザー装置又は半導体レーザースタック装置などのパルス照射レーザー装置を使用して、パルスレーザー装置と連続照射レーザー装置の両方の機能を持たせる。これにより、1台のレーザー装置で機能性インクの溶媒蒸発、熱分解、結晶化までのプロセスと行うことができる。また、本実施の形態のような構成とすることで、ステージ駆動手段のY軸方向の長さを短くすることができる。そのため、Y軸方向の移動精度が向上するだけでなく、装置がコンパクトとなるため、装置の低コスト化が可能となる。
【0066】
なお、連続照射型レーザーを使用して、溶媒蒸発、熱分解、結晶化までの全ての加熱プロセスを行っても良い。この場合、装置コストの削減につながるが、加熱プロセス後SAM膜が消失する。そのため、レーザー加熱後にSAM膜を形成する工程を行う必要がある。
【0067】
《第4の実施形態》
通常、レーザー加熱によるレーザー照射エリアの形状は円形であり、ビームプロファイルはGaussianである。そのため、基板がY軸方向に移動し、円形のレーザー照射エリアで機能性インクを照射する場合、円中央領域と円端部分では実照射時間が異なる。即ち、円中央の方が長い時間照射され、円端の方は短い時間照射される。そのため、本実施の形態では、レーザー照射エリアを機能性インクのパターンと同じ又はそれよりも大きい形状にする。それにより、所定の形状にパターニングされた機能性インクを、均一に加熱することができる。さらに、例えば、パルス照射レーザー装置及び連続照射型レーザー装置によるレーザー照射のビームプロファイルを、照射エリア内でフラット形状又はトップハット形状にすることで、機能性インクをより均一に加熱することが可能となる。なお、照射エリアの形状とビームプロファイルの調整は、連続照射レーザー装置及びパルス照射レーザー装置のいずれの装置にも搭載することが可能である。
【0068】
連続照射レーザー装置及びパルス照射レーザー装置のいずれの場合でも、基板が同時に移動できる方向が1方向である場合、照射エリアは長方形で、かつ、長方形の傾きと基板の移動方向の傾きがそろっていることが好ましい。上述のような構成にすることで、基板移動方向の照射時間が、基板移動方向と直角の方向(例えば、図8でのX軸方向)で同一となる。即ち、均一なレーザー加熱が可能となり、信頼性の高い機能性インク膜を形成することができる。更に、特に連続照射レーザー装置において、照射エリアのX軸方向の長さと、パターンのX軸方向長さとを同じにし、また、照射エリアのZ軸の長さと、パターンのZ軸方向長さとを同じにすることにより、より効率的に機能性インクを加熱することができるため、好ましい。
【0069】
《第5の実施形態》
第5の実施の形態では、機能性インクを結晶化のためにレーザー加熱する前に、エキシマレーザーを用いてレーザー照射を行う。金属成分を含む有機化合物は、含まれる金属成分によって金属有機化合物が異なる温度で分解されるため、材料によって結晶粒の形成方法が異なる。そのため、エキシマレーザーを用いてレーザー照射することで、それぞれの金属有機化合物の化学結合を切断し、結晶粒の形成方法を統一させる。それにより、緻密で粒径が揃った結晶膜を形成することができ、得られた結晶膜の圧電素子特性が向上する。エキシマレーザーによって切断された化学結合については、赤外吸収スペクトルなどを用いて確認することができる。具体的には、連続照射レーザー装置にて溶媒を蒸発させた後,例えば波長が300nm以下のエキシマレーザーなどを照射する。より具体的には、例えば,連続照射型KrFエキシマレーザー装置を用いて、波長230−280nm、100mJ/cm以上の照射条件でエキシマレーザーを照射することで、得られる機能性インク膜の特性を向上させることができる。
【0070】
[インクジェット用記録装置]
本発明に係るインクジェット用記録装置について、図と共に説明する。図9は、図1の液滴吐出ヘッドを複数個配置した例を示し、図10及び図11は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の例を示す概略図である。
【0071】
なお、図10はインクジェット用記録装置の斜視説明図を示し、図11はインクジェット用記録装置の機構部の側面説明図を示す。
【0072】
本発明に係るインクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した本発明の一実施形態であるインクジェット用記録ヘッド94、インクジェット用記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0073】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェット用記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93は、インクジェット用記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0074】
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット用記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット用記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、インクジェット用記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0075】
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
【0076】
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106、を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット用記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0077】
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。さらに、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
【0078】
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0079】
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0080】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。また、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。さらに、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0081】
本発明に係るインクジェット記録装置においては、本発明を実施したインクジェットヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 SAM膜
3 フォトレジスト
4 フォトマスク
10 ノズル板
11 ノズル
20 圧力室基板
21 圧力室
30 振動板
40 電気機械変換素子
41 密着層
42 下部電極
43 電気機械変換膜
44 上部電極
400 レーザー源(連続照射レーザー装置)
500 レーザー源(パルス照射レーザー装置)
600 レーザー装置
601 レーザー光
602 X線管
603 X線受光素子
604 X線
605 反射したX線
606 角度(2θ)
700 架台
704 X軸支持部材
705 X軸駆動手段
711 Z軸駆動手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特許4353145号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に機能性インクを所定のパターンで塗布する塗布手段と、
塗布された前記機能性インクを加熱して結晶化するための1つ又は2つ以上のレーザー光源と、
前記機能性インクの結晶状態を測定するためのX線回折装置と、
前記X線回折装置により測定された前記機能性インクの前記結晶状態の情報を記録する記録部と、
前記レーザー光源のレーザー照射条件を制御する制御装置と、
を有し、
前記制御部は、前記記録部に記録された、事前の前記レーザー光源によるレーザー照射した前記機能性インクの前記結晶状態の情報に基づいて、前記レーザー光源のレーザー照射条件を調整するように制御する、
基板上に薄膜を形成する薄膜製造装置。
【請求項2】
基板上に機能性インクを所定のパターンで塗布する工程と、
塗布された前記機能性インクを、1つ又は2つ以上のレーザー光源によりレーザー照射を行うことで加熱して、結晶化する工程と、
X線回折装置により前記機能性インクの結晶状態を測定する工程と、
前記基板上に前記機能性インクを前記所定のパターンで塗布する工程と、
前記測定する工程により得られた前記機能性インクの結晶状態に基づいて、前記レーザー光源のレーザー照射条件を決定し、前記機能性インクを熱処理する工程と、
を有する、基板上に薄膜を形成する薄膜製造方法。
【請求項3】
前記X線回折装置による前記機能性インクに対する測定領域は、
前記基板上に形成された前記機能性インクのパターン領域と同じ又は前記測定領域の方が狭く、
前記レーザー光源による前記レーザー照射の照射領域と同じ又は記測定領域の方が狭い、
請求項2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記測定する工程における前記X線回折装置によるX線照射角度の範囲は、前記機能性インクの所定の結晶ピークに対応する角度である、請求項2又は3に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記レーザー照射条件とは、前記レーザー光源の、照射出力、照射回数又は照射時間のいずれかを含む、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記熱処理とは、前記機能性インク中の溶媒を蒸発する工程と、前記機能性インクを結晶化する工程とを含み、
前記溶媒を蒸発する工程では、連続照射レーザー装置を使用してレーザー照射を行い、
前記結晶化する工程では、パルス照射レーザー装置を使用してレーザー照射を行う、
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記連続照射レーザー装置の光強度分布はトップハット形状である、請求項6に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記連続照射レーザー装置による前記レーザー照射は、前記基板を一の方向にスキャンしながら照射するものであり、
前記連続照射レーザー装置による前記レーザー照射の照射形状は、前記一の方向の幅が、前記機能性インクの前記一の方向の幅と同じ又は該一の方向の幅より大きく、
前記連続照射レーザー装置による前記レーザー照射の照射形状は、前記基板の深さ方向の幅が、前記機能性インクの前記基板の深さの方向の幅と同じ又は該基板の深さの方向の幅より大きい、
請求項6又は7に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
前記溶媒を蒸発する工程で、前記パルス照射レーザー装置を使用する、請求項6に記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
前記パルス照射レーザー装置の光強度分布はトップハット形状である、請求項6乃至9のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。
【請求項11】
前記パルス照射レーザー装置によるレーザー照射の照射領域は、前記基板上に形成された前記機能性インクのパターン領域と同じ又は前記照射領域の方が広い、請求項6乃至10のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。
【請求項12】
前記パルス照射レーザー装置によるレーザー照射の照射形状は矩形である、請求項6乃至11のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。
【請求項13】
前記結晶化する工程の前に、紫外線により前記機能性インクを照射する工程を含む、請求項6乃至12のいずれか一項に記載の薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−65637(P2013−65637A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202426(P2011−202426)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】