説明

薬剤徐放剤、吸着剤、機能性食品、マスク及び吸着シート

【課題】逆オパール構造を有する炭素材料(多孔質炭素材料)から成る薬剤徐放剤、を提供する。
【解決手段】薬剤徐放剤は、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成り、あるいは又、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成り、あるいは又、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料から構成された薬剤徐放剤、多孔質炭素材料から構成された吸着剤、並びに、係る吸着剤を用いた機能性食品、マスク及び吸着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なナノ構造を有する炭素材料、例えば、カーボンナノチューブやカーボンナノホーン、ゼオライト、メソポーラスシリカ等の規則的な微細構造を有する炭素材料が多くの注目を集めている。また、単分散シリカ微粒子やポリスチレン微粒子等から成るコロイド結晶体を鋳型として用いて合成された、所謂逆オパール構造を有する材料も注目を集めている。そして、これまでに、炭素、チタニア、シリカ、酸化スズ、高分子材料等から成る逆オパール構造を有する材料が報告されており、様々な応用の可能性が検討されている。例えば、逆オパール構造を有する炭素材料が、"Carbon Structures with Three-Dimentional Periodicity at Optical Wavelengths", Anvar A. Zakhidov, et. al., Science, No. 282, 1998, pp 897 (非特許文献1)に報告されており、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ、燃料電池、構造色を利用した光学材料としての用途等が検討されている。
【0003】
また、例えば、特開2005−262324号公報には、空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料において、空孔がマクロ的に結晶構造を構成する配置で配列していることを特徴とする多孔質炭素材料や、空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料において、空孔がマクロ的に材料表面に面心立方格子の(1,1,1)面配向で配列していることを特徴とする多孔質炭素材料、更には、これらの多孔質炭素材料の製造方法が開示されている。
【0004】
ところで、肝疾患や腎疾患の患者のために、血液透析による有毒物質の除去が行われている。しかしながら、血液透析は、特殊な装置及び専門技術者を必要とするだけでなく、患者への肉体的、精神的苦痛も大きい。このような背景の下、生体に対して安全性や安定性の高いクレメジンのような活性炭経口吸着剤が注目を集めている(特公昭62−11611号公報参照)。また、活性炭を用いた抗肥満剤、抗糖尿病剤、抗炎症性腸疾患剤、プリン体の吸着剤等も提案されており、活性炭の医療分野での応用、研究開発が広く進められている。
【0005】
あるいは又、薬剤を人体内で有効に作用させるためには、適切な量の薬剤を、適切な時間、作用させることが望ましい。そして、そのためには、薬剤の放出速度を制御できる担持体を用いることが好ましい。係る担持体に薬剤を吸着させれば、一定量の薬剤を連続的に放出することが可能となる。このような担持体/薬剤の複合体は、例えば、皮膚を通じて薬剤を伝達する経皮吸収局所作用を有する経皮剤や、経口剤として用いることができる。担持体は、例えば、非毒性、耐薬品性を有する炭素、アルミナ、シリカ等の無機材料や、セルロース、ポリエチレンオキシド等の有機材料から構成されている。ところで、近年、炭素材料を担持体として使用した例も幾つか報告されている(例えば、特開2005−343885号公報参照)。また、活性炭を用いた肥料の徐放に関する報告もある(例えば、特許第3694305号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−262324号公報
【特許文献2】特公昭62−11611号公報
【特許文献3】特開2005−343885号公報
【特許文献4】特許第3694305号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"Carbon Structures with Three-Dimentional Periodicity at Optical Wavelengths", Anvar A. Zakhidov, et. al., Science, No. 282, 1998, pp 897
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の非特許文献1には、逆オパール構造を有する炭素材料を薬剤徐放剤や吸着剤に適用することに関しては、何らの言及もなされていない。また、特開2005−262324号公報には、多孔質炭素材料が、キャパシタやリチウムイオン電池、燃料電池等の電極材料、種々の導電性材料、特定の波長を選択反射する光学材料として有用である旨は記載されている。しかしながら、多孔質炭素材料を薬剤徐放剤や吸着剤、機能性食品、その他の分野に適用することに関しては、何らの言及もなされていない。
【0009】
従って、本発明の目的は、逆オパール構造を有する炭素材料(多孔質炭素材料)から成る薬剤徐放剤及び吸着剤、係る多孔質炭素材料を用いた機能性食品、並びに、係る吸着剤を用いたマスク及び吸着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る薬剤徐放剤(薬剤放出速度を適切に制御し得る担持体/薬剤の複合体)、あるいは、有機物を吸着する吸着剤、あるいは、医療用の吸着剤、経口投与用の吸着剤、あるいは、アレルゲンを吸着する吸着剤は、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状(略球状を含む)の空孔を備え、しかも、表面積が3×1022/グラム以上、好ましくは、1×1032/グラム以上の多孔質炭素材料から成る。空孔の平均直径が1×10-9m(1nm)未満では、空孔が小さすぎて、バルクの炭素材料と顕著な特性上の差が見られない。一方、1×10-5m(10μm)を越えると、空孔が全体的に大きくなりすぎて、多孔質炭素材料の機械的強度が低下する虞がある。また、表面積が3×1022/グラム以上未満では、多孔質炭素材料の特性が十分に満足できる特性ではなくなる虞がある。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る薬剤徐放剤、あるいは、有機物を吸着する吸着剤、あるいは、医療用の吸着剤、経口投与用の吸着剤、あるいは、アレルゲンを吸着する吸着剤は、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る薬剤徐放剤、あるいは、有機物を吸着する吸着剤、あるいは、医療用の吸着剤、経口投与用の吸着剤、あるいは、アレルゲンを吸着する吸着剤は、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る。尚、多孔質炭素材料をその表面と平行な仮想平面で切断した場合、仮想切断面にあっては、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて空孔が配列されている。
【0013】
本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る薬剤徐放剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る医療用の吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る経口投与用の吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤、後述する本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る機能性食品、後述する本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るマスク、後述する本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る吸着シートにおいて、多孔質炭素材料の表面には、化学処理が施され、又は、分子修飾されていることが好ましい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシ基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシ基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1000゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、加熱温度は、多孔質炭素材料の原料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよいが、好ましくは、800゜C以上、950゜C以下である。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
【0014】
上記の好ましい形態を含む本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る薬剤徐放剤にあっては、多孔質炭素材料100重量部に対して1重量部乃至200重量部の薬剤が多孔質炭素材料に吸着あるいは担持されていることが好ましく、これによって、薬剤放出速度が適切に制御された担持体/薬剤の複合体から成る薬剤徐放剤を得ることができる。ここで、薬剤として、有機分子、ポリマー分子、蛋白質を挙げることができる。具体的には、例えば、イブプロフェン、ペントキシフィリン、プラゾシン、アシクロビル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、フェンチアザック、吉草酸エストラジオール、メトプロロール、スルピリド、カプトプリル、シメチジン、ジドブジン、ニカルジピン、テルフェナジン、アテノロール、サルブタモール、カルバマゼピン、ラニチジン、エナラプリル、シムバスタチン、フルオキセチン、アルプラゾラム、ファモチジン、ガンシクロビル、ファムシクロビル、スピロノラクトン、5−asa、キニジン、ペリンドプリル、モルフィン、ペンタゾシン、パラセタモール、オメプラゾール、メトクロプラミド、アスピリン、メトフォルミンを挙げることができるし、全身性及び局所性の治療の観点から、各種のホルモン(例えば、インスリン、エストラジオール等)、喘息の治療薬(例えば、アルブテロール等)、結核の治療薬(例えば、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジド、ピラジンアミド等)、癌の治療薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、アドリアマイシン、5−FU、パクリタキセル等)、高血圧の治療薬(例えば、クロニジン、プラゾシン、プロプラノロール、ラベタロール、ブニトロロール、レセルピン、ニフェジピン、フロセミド等)を挙げることができるが、これらに限定するものではない。そして、これらの薬剤を溶解可能な有機溶剤に溶解し、その溶液中に本発明における多孔質炭素材料を浸漬し、次いで、溶媒及び余分な溶質を除去することで、多孔質炭素材料/薬剤の複合体から成る薬剤徐放剤を得ることができる。具体的な溶媒として、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、2−クロロメタン、1−クロロメタン、へキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン等を挙げることができる。
【0015】
本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤あるいは医療用の吸着剤あるいは経口投与用の吸着剤を、体内の様々な不要な分子を選択的に吸着するために用いることができる。即ち、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を、疾患の治療及び予防に有用な医薬内服薬等の経口投与吸着剤あるいは医療用吸着剤として用いることができる。具体的には、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を経口投与吸着剤あるいは医療用吸着剤の分野に適用する場合、また、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る医療用の吸着剤あるいは経口投与用の吸着剤においては、吸着すべき有機物として、インドール、クレアチニン、尿酸、アデノシン、アリザリンシアニングリーン、リゾチーム、α−アミラーゼ、アルブミン、3−メチルインドール(スカトール)、トリプトファン、インジカン、テオフィリン、イノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩、アデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩を挙げることができるし、数平均分子量が1×102乃至1×105の有機物(例えば、有機分子、若しくは、蛋白質)、好ましくは1×102乃至5×104、より好ましくは1×102乃至2×104、一層好ましくは1×102乃至1×104の有機物(例えば、有機分子、若しくは、蛋白質)を挙げることもできるし、更には、アンモニア、尿素、ジメチルアミン、メチルグアニジンといったグアニジン化合物、含硫アミノ酸、フェノール、p−クレゾール、蓚酸、ホモシステイン、グアジニノコハク酸、ミオイノシトール、インドキシル硫酸、プソイドウリジン、環状アデノシン一リン酸、β−アミノイソ酪酸、オクトパミン、α−アミノ酪酸、副甲状腺ホルモン、β2−ミクログロブリン、リボヌクレアーゼ、ナトリウム利尿ホルモンや、アスパラギン酸、アルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質を挙げることができるし、プリン又はプリン誘導体、プリン塩基であるアデニンやグアニン、プリンヌクレオシドであるグアノシンやイノシン、プリンヌクレオチドであるアデニル酸、グアニル酸、イノシン酸を挙げることができるし、低分子又は高分子核酸であるオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドを挙げることができるし、ポリアミン類、3−デオキシグルコソン、種々のペプチドホルモン、顆粒球抑制タンパク(GIP)、脱顆粒球抑制タンパク(DIP)、化学遊走抑制タンパクを挙げることもできるし、カルバミル化ヘモグロビン、糖化終末産物、顆粒球・単球機能阻害物質、酸化作用促進物質等を挙げることもできる。あるいは又、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を、血液浄化カラム用の充填剤(吸収剤)として用いることができる。あるいは又、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を、水を浄化する水浄化用吸着剤に用いることもできる。
【0016】
本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤において、アレルゲンとして、ダニに起因したアレルゲン(Der p 1)、あるいは、杉の花粉に起因したアレルゲン(Cry j 1)を挙げることができるが、これに限定するものではない。ここで、アレルゲン(Allergen)とは、アレルギー疾患を持っている人の抗体と特異的に反応する抗原を指し、一般には、そのアレルギー症状を引き起こす原因となるものを云い、あるいは又、アレルギーの原因によくなり得る物質を指す。尚、その他のアレルゲンとして、室内塵(ヒョウダニの虫体や糞等の所謂ハウスダスト) 、皮屑(イヌ、ネコ等のペットのフケ等) 、花粉(ヤシャブシ花粉、イネ科花粉、キク科花粉等) 、真菌を挙げることができる。
【0017】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る機能性食品は、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上、好ましくは、1×1032/グラム以上の多孔質炭素材料を含む機能性食品であり、上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る機能性食品は、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料を含む機能性食品であり、上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る機能性食品は、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を含む機能性食品である。尚、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様に係る機能性食品においては、その他、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、矯味剤、保存剤、安定化剤、着色剤、香料、ビタミン類、発色剤、光沢剤、甘味料、苦味料、酸味料、うまみ調味料、発酵調味料、酸化防止剤、酵素、酵母エキス、栄養強化剤が含まれていてもよい。また、機能性食品の形態として、粉末状、固形状、錠剤状、粒状、顆粒状、カプセル状、クリーム状、ゾル状、ゲル状、コロイド状を挙げることができる。
【0018】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様に係るマスクのそれぞれは、本発明の第1の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第2の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を備えている。ここで、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様に係るマスクとして、例えば、花粉症対策マスクを例示することができ、吸着剤によって、例えば、蛋白質を吸着する。あるいは又、アレルゲンを吸着する。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様に係る吸着シートのそれぞれは、本発明の第1の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第2の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤から成るシート状部材、並びに、シート状部材を支持する支持部材から構成されている。
【0020】
本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る薬剤徐放剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る医療用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る経口投与用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る機能性食品を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るマスクを構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る吸着シートを構成する多孔質炭素材料を総称して、『本発明における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。また、本発明の第1の態様に係る薬剤徐放剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係る医療用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係る経口投与用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係る機能性食品を構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係るマスクを構成する多孔質炭素材料、本発明の第1の態様に係る吸着シートを構成する多孔質炭素材料を総称して、以下、『本発明の第1の態様における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。更には、本発明の第2の態様に係る薬剤徐放剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係る医療用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係る経口投与用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係る機能性食品を構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係るマスクを構成する多孔質炭素材料、本発明の第2の態様に係る吸着シートを構成する多孔質炭素材料を総称して、以下、『本発明の第2の態様における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。また、本発明の第3の態様に係る薬剤徐放剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係る医療用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係る経口投与用の吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係る機能性食品を構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係るマスクを構成する多孔質炭素材料、本発明の第3の態様に係る吸着シートを構成する多孔質炭素材料を総称して、以下、『本発明の第3の態様における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。
【0021】
本発明における多孔質炭素材料においては、多孔質を形成する空孔が、ナノ・スケールにおいて3次元的規則性を有しているが、即ち、3次元的に規則正しく配列しているが、云い換えれば、ナノ・レベルにて構造上の3次元的規則性及び多孔性を備えているが、この多孔質炭素材料は、例えば、後述するように、特開2005−262324号公報に開示された方法に基づき製造することができる。
【0022】
本発明における多孔質炭素材料は、例えばナノ・スケールの無機粒子(鋳型となる無機材料粒子、無機化合物粒子)を単量体若しくは単量体を含む溶液に含浸させた状態で単量体を重合させた後、得られた重合体を炭素化し、その後、無機粒子を取り除くことによって製造することができる。ここで、空孔は、無機粒子が取り除かれた跡の空隙に相当する。空孔は、3次元的規則性を有すれば、炭素材料で一部が閉鎖された空隙であってもよいが、隣接する空孔と貫通(連通)する部分を有していることがより好ましい。本発明における多孔質炭素材料にあっては、異なる大きさの空孔を含んでいてもよく、この場合には、複雑な規則性を有する空孔の配置パターンを得ることも可能である。後述する多孔質炭素材料の製造方法においては、無機粒子の充填配列により空孔の配列が決定されるので、無機粒子の配列状態、配列構造が空孔の配列の規則性に反映される。
【0023】
本発明の第1の態様における多孔質炭素材料において、空孔は1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有しているが、平均直径は、水銀圧入法、窒素吸着法、SEM観察(但し、鋳型となる無機微粒子の大きさは光散乱法で測定)といった方法に基づき測定することができる。また、本発明の第1の態様における多孔質炭素材料の表面積は3×1022/グラム以上であるが、表面積は、窒素吸着によるBET法に基づき測定することができ、所謂、比表面積である。
【0024】
本発明の第2の態様における多孔質炭素材料において、空孔の配列は、巨視的に結晶構造に相当する配置状態であれば特に限定されず、例えば、このような結晶構造として、面心立方構造、体心立方構造、単純立方構造等を例示することができるが、特に、面心立方構造、即ち、最密充填構造が、多孔質炭素材料の表面積を増加させるといった観点から望ましい。空孔が結晶構造に相当する配置状態で配列されているとは、結晶における原子の配置位置に空孔が位置している状態を意味する。結晶構造は、単結晶構造であることが一層好ましい。ここで、「巨視的に」とは、微小領域(例えば、10μm×10μmの大きさの領域)でのみ結晶構造に相当する配置状態が見られることを除外することを意図しており、例えば、10μm×10μmを越える大きさの領域で結晶構造に相当する配置状態が見られることを意味し、また、後述する反射スペクトルが、多孔質炭素材料のどの部分においても、ほぼ単一波長の吸収を示し、多孔質炭素材料全体が単色である場合を意味する。本発明の第3の態様における多孔質炭素材料における「巨視的に」も、同様である。
【0025】
本発明の第3の態様における多孔質炭素材料においては、空孔が、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて配列されているが、具体的には、面心立方構造における(111)面に位置する原子の配置位置に空孔が位置している状態を意味する。
【0026】
本発明の第2の態様若しくは第3の態様における多孔質炭素材料において、空孔の形状は特に限定されず、例えば、その製造方法において用いられる無機粒子の形状によって、空孔の形状が或る程度決定される。尚、多孔質炭素材料の機械的強度、ナノ・スケールでの無機粒子の形状制御を考慮すると、空孔の形状を球状(略球状を含む)とすることが好ましい。ここで、空孔の平均直径は、1×10-9m乃至1×10-5mであることが好ましい。空孔の平均直径が1×10-9m(1nm)未満では、空孔が小さすぎて、バルクの炭素材料と顕著な特性上の差が見られない。一方、1×10-5m(10μm)を越えると、空孔が全体的に大きくなりすぎて、多孔質炭素材料の機械的強度が低下する虞がある。
【0027】
本発明における多孔質炭素材料の製造方法は、基本的には、特開2005−262324号公報に開示された方法に基づいている。
【0028】
即ち、本発明における多孔質炭素材料は、
(A)重合性単量体又は重合性単量体を含む組成物の溶液に、この溶液に不溶であるコロイド結晶体(粒子状物質である)を浸漬させ、次いで、単量体を重合させて重合体を得た後、
(B)不活性ガス雰囲気下、800〜3000゜Cで重合体を炭素化し、その後、
(C)コロイド結晶体が可溶な溶媒に浸漬して、コロイド結晶体を溶解、除去する、
各工程を備えた製造方法に基づき製造することができる。
【0029】
ここで、コロイド結晶体とは、コロイド粒子が集合して、結晶構造に相当する配置状態にあるものを指し、3次元的規則性を有する。即ち、結晶における原子の配置位置にコロイド粒子が位置している状態を意味する。
【0030】
係るコロイド結晶体は、
(1)基板上又はフラスコ内にコロイド溶液を滴下した後、コロイド溶液から溶媒を留去する方法
(2)コロイド溶液を吸引濾過して溶媒を除去する方法
(3)コロイド溶液に基板を浸積した後、コロイド溶液から基板を引き上げ、コロイド溶液から溶媒を蒸発させる方法
によって得ることができる。あるいは又、コロイド結晶体は、例えば、
(4)コロイド溶液に電場を加えた後、溶媒を除去する方法
(5)固形分濃度が1重量%乃至5重量%の比較的希薄なコロイド溶液に、平滑な2枚の基板を数十μmの間隔を開けて対向させて配置し、これらの基板の下部をコロイド溶液に浸漬させることで、毛細管現象によりコロイド溶液が基板間を上昇すると共に、溶媒を蒸発、除去させることにより、2枚の基板の間にコロイド結晶体を析出させる方法
(6)分散したコロイド溶液を静置し、コロイド粒子を自然沈降させて堆積させた後、溶媒を除去する方法
(7)移流集積法
等の公知の方法によって得ることができる。
【0031】
コロイド結晶体を用いて得られる多孔質炭素材料は、巨視的に空孔の配列に3次元的規則性及び連続性を有し、多孔質炭素材料に光を照射したとき、反射光の反射率ばらつきが少なく、しかも、反射光の反射スペクトルは単峰性を有する吸収特性を示す。
【0032】
上述した(1)の方法において、溶媒の留去は、室温において行うこともできるが、用いられる溶媒の沸点と同じ温度又は沸点以上の温度に加熱することにて行うことが好ましい。尚、基板上にコロイド溶液を滴下した後、基板を加熱して溶媒を留去してもよいし、予め加熱した基板上にコロイド溶液を滴下して溶媒を留去してもよい。コロイド溶液を滴下する際、又は、滴下した後、基板を回転してもよい。コロイド溶液の滴下、溶媒留去の操作を繰り返すことにより、また、コロイド溶液の濃度を調整することにより、また、滴下するコロイド溶液の量を調整することにより、また、以上の操作を適宜組み合わせることにより、得られるコロイド結晶体の膜厚、面積を制御することができる。特に、3次元的規則性を保持したまま、大面積化が容易に可能である。具体的には、固形分濃度として10重量%以上のコロイド溶液を用いることができることから、一度の滴下にて相当の厚さのコロイド結晶体を基板上に形成することができ、滴下、留去(乾燥)を繰り返すことにより、膜厚を制御することができる。更には、例えば、単分散コロイド溶液を用いることにより、得られるコロイド結晶体を単結晶構造とすることができる。
【0033】
上述した(2)の方法として、具体的には、吸引ロートを用いてコロイド粒子を含むコロイド溶液を減圧吸引することによって溶媒を吸引除去し、吸引ロート上の濾紙又は濾布の上にコロイド結晶体を堆積させる方法を挙げることができる。この方法においても、例えば、単分散コロイド溶液を用いることにより、得られるコロイド結晶体を単結晶構造とすることができる。吸引濾過に用いるコロイド溶液の濃度は、一度の操作で得ようとするコロイド結晶体の容積に基づき、適宜、選択することができる。また、一旦、全ての溶媒を吸引除去した後、再度、コロイド溶液を追加して同様の操作を繰り返すことにより、所望の容積のコロイド結晶体を得ることができる。このような上述した(2)の方法によっても、3次元的規則性を保持したまま、大面積化、大容積化が可能である。尚、溶媒を吸引する方法は特に限定されず、アスピレータやポンプ等により吸引する方法を挙げることができる。吸引する速度も特に限定されないが、具体的には、40mmHg程度の減圧度でロート内の溶液界面が一定に降下する速度を、好ましく例示することができる。
【0034】
上述した(3)の方法にあっても、用いるコロイド溶液の濃度の調整や、繰り返しの操作を行なうことによって、所望の面積、容積のコロイド結晶体を得ることができる。基板を引き上げる速度は特に限定されないが、コロイド溶液と大気との界面においてコロイド結晶体が成長するため、遅い速度で引き上げることが好ましい。また、溶媒を蒸発させる速度も特に限定されないが、同様の理由から遅い方が好ましい。例えば、単分散コロイド溶液を用いることにより、得られるコロイド結晶体を単結晶構造とすることができる。用いる基板の表面の性状は特に限定されないが、表面が平滑である基板を用いることが好ましい。
【0035】
多孔質炭素材料の製造に用いられる粒状物質であるコロイド粒子の形状は、真球又は略球形であることが好ましく、例えば、弗化水素酸等の弗素化合物溶液やアルカリ性溶液、酸性溶液に溶解する無機粒子を用いることが望ましい。具体的には、無機粒子を構成する無機材料(無機化合物)として、アルカリ土類金属の炭酸塩、珪酸塩、リン酸塩;金属酸化物;金属水酸化物;その他の金属珪酸塩;その他の金属炭酸塩等を例示することができる。ここで、より具体的には、アルカリ土類金属の炭酸塩として、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネウムを例示することができるし、アルカリ土類金属の珪酸塩として、珪酸カルシウム、珪酸バリウム、珪酸マグネシウムを例示することができるし、アルカリ土類金属のリン酸塩として、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウムを例示することができる。また、金属酸化物として、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化アルミニウムを例示することができるし、金属水酸化物として、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロムを例示することができる。更には、その他の金属珪酸塩として、珪酸亜鉛、珪酸アルミニウムを例示することができるし、その他の金属炭酸塩として、炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅を例示することができる。また、天然物では、シラスバルーン、パーライト等を例示できる。
【0036】
重合性単量体又は重合性単量体を含む組成物(具体的には、多孔質炭素材料に変換し得る高分子)は、炭素化によって炭素材料に変換し得る高分子であれば、特に限定されない。具体的には、フルフリルアルコール樹脂、フェノール・アルデヒド樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、フルフリルアルコール・フェノール樹脂を例示することができる。炭素化の温度を適切に選択することにより、多孔質炭素材料として、ガラス状の(アモルファスの)難黒鉛化炭素あるいは易黒鉛化炭素あるいは黒鉛(黒鉛化炭素)が得られるような高分子を用いることが、より好ましい。
【0037】
3次元的に規則正しく配列させたコロイド結晶体といった粒状物質の存在下、炭素化の前に、単量体を重合させて重合体を得るためには、単量体の濃度を0.1重量%〜99.9重量%とし、必要に応じて加える架橋剤濃度を0.001重量%〜50重量%とすることが好ましい。また、重合開始剤の濃度や重合方法等の反応条件は、単量体に適した重合開始剤の濃度や反応条件を適宜選択すればよい。例えば、単量体、触媒、重合開始剤、架橋剤等を窒素置換した有機溶媒に溶解して得られた溶液に、3次元的に規則正しく配列させたコロイド結晶体を浸漬し、その後、適切な温度に加熱するか、又は、光等のエネルギー線を照射することで、単量体を重合させて重合体を得ることができる。具体的には、例えば、ラジカル重合法、酸による重縮合法等の公知の方法、逆相懸濁重合等に基づき、例えば、重合温度0゜C〜100゜C、重合時間10分〜48時間にて、重合体を得ることができる。
【0038】
コロイド結晶体と重合体との複合化物からコロイド結晶体を溶解、除去するためには、例えば、コロイド結晶体が無機材料(無機化合物)である場合、弗素化合物の酸性溶液やアルカリ性溶液、酸性溶液等を用いればよい。例えば、コロイド結晶体がシリカ、シラスバルーン、珪酸塩から成る場合、弗化水素酸水溶液、弗化アンモニウム、弗化カルシウム、弗化ナトリウム等の酸性溶液あるいは水酸化ナトリウム等のアルカリ性溶液に複合化物を浸漬するだけでよい。溶液にあっては、複合化物の珪素元素に対して弗素元素が4倍量以上であればよく、濃度は10重量%以上であることが好ましい。また、アルカリ性溶液はpH11以上であれば、特に限定されない。コロイド結晶体が金属酸化物や金属水酸化物である場合、塩酸等の酸性溶液に複合化物を浸漬するだけでよい。酸性溶液はpH3以下であれば、特に限定されない。
【0039】
コロイド結晶体の溶解、除去は、得られた重合体の炭素化の前に行ってもよいし、後に行ってもよく、不活性ガス雰囲気下、800〜3000゜Cの範囲の温度で行えばよい。炭素化の温度までの昇温速度は、局部的な加熱により重合体の構造が崩壊しない範囲であれば、特に限定されない。
【0040】
ここで、炭素化とは、一般に、有機物質を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、有機物質を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る薬剤徐放剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る医療用の吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る経口投与用の吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る機能性食品、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係るマスク、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る吸着シートにおいては、多孔質炭素材料における球状の空孔の平均直径及び配列状態が規定され、あるいは又、多孔質炭素材料における球状の空孔の配列状態が規定されているので、薬剤徐放剤、有機物を吸着する吸着剤、医療用の吸着剤、経口投与用の吸着剤、アレルゲンを吸着する吸着剤、機能性食品、マスク、吸着シートにおける使用に適した、高い性能、特性を有する多孔質炭素材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、実施例1及び比較例1において、各時間におけるイブプロフェンの濃度の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例4の花粉症対策マスクの模式図、及び、花粉症対策マスクの本体部分の模式的な断面構造を示す図である。
【図3】図3は、参考例2−4のクレメジン原体1グラム当たりの吸着量を「1.0」としたときのインドール吸着量、クレアチニン吸着量、尿酸吸着量、アデノシン吸着量、アリザリンシアニングリーン吸着量、リゾチーム吸着量、アルブミン吸着量の規格化された値を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2−3A、実施例2−5B、及び、参考例2−4におけるインドールの水溶液(水溶液A)での吸着量と吸着時間の関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0044】
実施例1は、本発明の第1の態様〜第3の態様に係る薬剤徐放剤に関する。実施例1にあっては、先ず、以下に説明する方法に基づき多孔質炭素材料を製造した。
【0045】
即ち、鋳型として、株式会社日本触媒製の単分散シリカ球状微粒子(商品名:シーホスターKE)、又は、日産化学工業株式会社製のシリカ球状微粒子(商品名:スノーテックス)を用いて、固形分濃度3重量%乃至40重量%の水溶液から成る単分散シリカコロイド懸濁水溶液を調製した。尚、コロイド粒子径は6nm乃至1μmである。そして、濾布を敷いた径30mmのSPCフィルターホルダー(柴田科学株式会社製)に単分散シリカコロイド懸濁水溶液を投入し、アスピレータを用いて減圧吸引した。尚、減圧度を約40mmHgとした。その結果、濾布上にシリカコロイド層を得ることができた。尚、濾布として、ワットマン(Whatman)社製のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いた。そして、濾布を剥がした後、空気中にて1000゜Cで2時間、焼結し、コロイド結晶体の薄膜(薄膜状のシリカコロイド単結晶体)を得た。
【0046】
その後、ポリテトラフルオロエチレン製のシートの上に薄膜状のシリカコロイド単結晶体を置き、フルフリルアルコール10.0グラム及び蓚酸六水和物0.05グラム(いずれも和光純薬工業株式会社製)の混合物をシリカコロイド単結晶体の上に滴下し、薄膜状のシリカコロイド単結晶体から溢れ出た余分の混合物を軽く拭き取った。そして、デシケーター内に入れ、数回、真空引きを行い、混合物を確実に結晶内へ含浸させた。その後、空気中にて80゜Cで48時間、重合させた。
【0047】
そして、得られたシリカ・ポリマー樹脂複合体(重合体/コロイド結晶体の複合体)を、管状炉にて、アルゴン雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下、200度で1時間、加熱して、水分の除去及びポリマー樹脂の再硬化を行った。次いで、アルゴン雰囲気下、5゜C/分で昇温して、800゜C乃至1300゜Cの一定温度にて1時間、炭素化させた後、冷却することで、シリカ・炭素複合体(炭素材料/コロイド結晶体の複合体)を得た。
【0048】
その後、46%弗化水素酸溶液に、室温で24時間浸漬させ、シリカコロイド単結晶体を溶解させた。その後、中性になるまで純水とエチルアルコールで洗浄を繰り返し、多孔質炭素材料を得た。
【0049】
以上のようにして得られた多孔質炭素材料においては、コロイド粒子径50nmとした場合、平均直径50nmの球形の空孔が形成されており、隣接する空孔とは、ほぼ20nmの貫通孔をもって連結しており、多孔質炭素材料の表面積(比表面積)は、1121m2/グラムであった。280nmのシリカ微粒子(シーホスターKEP30)を用いて作製した多孔質炭素材料を走査型電子顕微鏡で観察したところ、巨視的に結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されており、あるいは又、巨視的に面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて多孔質炭素材料の表面に空孔が配列されていた。また、多孔質炭素材料を暗所に置き、視斜角0度で白色光の光を照射し、反射光の波長を測定した。得られた反射スペクトルは、450nm付近のみに単峰性の吸収を示していた。このことから、多孔質炭素材料の内部においても、空孔が3次元的に規則正しく配列していることが判った。
【0050】
単分散シリカ球状微粒子の粒径を変えて、上述したと同様の方法で多孔質炭素材料を製造した。得られた多孔質炭素材料における空孔の平均直径は、それぞれ、1μm、10nm及び6nmであった。尚、便宜上、空孔の平均直径が1μmである多孔質炭素材料を、「多孔質炭素材料−A」と呼び、空孔の平均直径が10nmである多孔質炭素材料を、「多孔質炭素材料−B」と呼び、空孔の平均直径が6nmである多孔質炭素材料を、「多孔質炭素材料−C」と呼ぶ。多孔質炭素材料−A、多孔質炭素材料−B、多孔質炭素材料−Cのそれぞれにあっては、多孔質炭素材料の表面積(比表面積)は、
多孔質炭素材料−A:320m2/グラム
多孔質炭素材料−B:1488m2/グラム
多孔質炭素材料−C:1493m2/グラム
であった。
【0051】
こうして得られた多孔質炭素材料−A、多孔質炭素材料−B、多孔質炭素材料−Cのそれぞれの0.01グラムを、イブプロフェン(非ステロイド系消炎鎮痛剤,NSAID)0.10グラム/へキサン10ミリリットル溶液に一晩含浸させた後、メンブレンフィルターにより濾過し、40゜Cにおいて真空乾燥を行った。
【0052】
比較例1として、市販の活性炭(和光純薬工業株式会社製)0.01グラムをイブプロフェン0.10グラム/へキサン10ミリリットル溶液に一晩含浸させ、メンブレンフィルターにより濾過し、40゜Cにおいて真空乾燥を行った。
【0053】
こうして得られた各種の多孔質炭素材料/イブプロフェンから成る実施例1の薬剤徐放剤−A、薬剤徐放剤−B、薬剤徐放剤−C、並びに、活性炭/イブプロフェンから成る比較例1の薬剤徐放剤のそれぞれを、40ミリリットルのリン酸バッファー水溶液(pH7.3)に混ぜ、各時間におけるイブプロフェンの濃度を紫外線分光により測定し、算出した。実施例1の薬剤徐放剤−A、薬剤徐放剤−B、薬剤徐放剤−C、並びに、比較例1の活性炭/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤における測定結果を図1に示す。尚、図1において、多孔質炭素材料−A/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤−Aにおける測定結果を「A」で示す。また、多孔質炭素材料−B/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤−Bにおける測定結果を「B」で示す。更には、多孔質炭素材料−C/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤−Cにおける測定結果を「C」で示す。また、比較例1の活性炭/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤における測定結果を「D」で示す。図1から、実施例1の多孔質炭素材料/イブプロフェンから成る薬剤徐放剤にあっては、多孔質炭素材料の空孔の平均直径が大きいほど、徐放量は大きい値を示した。また、比較例1と比べて、格段に大きな徐放量を示した。
【実施例2】
【0054】
実施例2は、本発明の第1の態様〜第3の態様に係る有機物を吸着する吸着剤、本発明の第1の態様乃至第3の態様に係る医療用の吸着剤、及び、発明の第1の態様乃至第3の態様に係る経口投与用の吸着剤に関する。実施例2にあっては、実施例1において説明したと同様の方法に基づき、多孔質炭素材料−D、多孔質炭素材料−E、多孔質炭素材料−F、多孔質炭素材料−G及び多孔質炭素材料−Hを作製した。尚、多孔質炭素材料−D、多孔質炭素材料−E及び多孔質炭素材料−Fには化学処理としての硝酸処理を施し、多孔質炭素材料−F及び多孔質炭素材料−Gには水蒸気による賦活処理を施した。炭素化温度、硝酸処理の有無、賦活処理の有無を表1に纏めた。そして、種々の物質において、多孔質炭素材料の単位重量当たりの吸着量を測定した。尚、硝酸処理として、200ミリリットルの濃硝酸中にて3グラムのサンプルを12時間攪拌し、その後、メンブレンフィルターで濾過し、純水で洗浄した後、乾燥する方法を採用した。また、水蒸気賦活として、900゜Cの窒素雰囲気の焼成炉内に水蒸気を1リットル/分の割合で3時間、流す方法を採用した。
【0055】
吸着量の測定にあっては、先ず、14種類の数平均分子量の異なる物質、インドール(数平均分子量:117)、クレアチニン(数平均分子量:131)、尿酸(数平均分子量:168、アデノシン(数平均分子量:267)、アリザリンシアニングリーン(数平均分子量:623)、リゾチーム(数平均分子量:14307)、α−アミラーゼ(数平均分子量:約50000)、アルブミン(数平均分子量:約66000)、3−メチルインドール(数平均分子量:131)、テオフィリン(数平均分子量:180)、L−トリプトファン(数平均分子量:204)、インジカン(数平均分子量:295)、イノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩(数平均分子量:392)、アデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩(数平均分子量:551)とpH7.3のリン酸緩衝液とを用いて、以下の表4に示す濃度の各水溶液(水溶液A、水溶液B、水溶液C、水溶液D、水溶液E、水溶液F、水溶液G、水溶液H、水溶液I、水溶液J、水溶液K、水溶液L、水溶液M、水溶液N)を調製した。尚、吸着前の各水溶液濃度は任意に決めた。そして、調製した水溶液40.0ミリリットルのそれぞれに、0.010グラムの多孔質炭素材料を添加し、37±2゜Cにて1時間振とうした。振とう後、500μmの細孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルターを用いて、水溶液から多孔質炭素材料を除去した。そして、濾液の吸光度をUV可視吸光度測定により測定し、水溶液モル濃度を求めた。尚、吸着前の初期水溶液モル濃度と比較することにより、吸着量を算出した。多孔質炭素材料1グラム当たりの吸着量を、以下の式に基づき算出した。尚、インドール、3−メチルインドール、L−トリプトファン、インジカンは、腎臓疾患毒素であり、クレアチニンは腎臓疾患・肝臓疾患毒素である。また、尿酸は、腎臓疾患毒素であるし、高尿酸血症から痛風や動脈硬化、尿酸結石を引き起こす原因となる物質である。更には、アデノシン、イノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩、アデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩は、プリン体及び類似物質に相当する。また、テオフィリン及びアリザリンシアニングリーンは、薬物中毒のモデルであり(但し、テオフィリンは呼吸器系疾患の治療薬、アリザリンシアニングリーンは食品合成着色料)、リゾチーム、α−アミラーゼ、アルブミンは、クローン病等を引き起こす炎症性サイトカインような蛋白質の吸着特性を調べるためのモデル(擬似的な炎症性サイトカイン)である。
【0056】
(多孔質炭素材料1グラム当たりの吸着量)=
(溶質の分子量)×{(吸着前の水溶液モル濃度)−(吸着後の水溶液モル濃度)}/
(1000ミリリットル当たりの多孔質炭素材料の量)
【0057】
また、参考のために、参考例2−1、参考例2−2、参考例2−3、参考例2−4として、以下の表2に示す活性炭を用いて、1グラム当たりの吸着量を測定した。尚、実施例2及び参考例2の多孔質炭素材料、活性炭の表面積(比表面積)の測定結果、細孔容積の測定結果を表3に示す。
【0058】
[表1]

【0059】
[表2]

【0060】
[表3]

【0061】
[表4]

【0062】
実施例2における多孔質炭素材料あるいは参考例の活性炭1グラム当たりのインドール吸着量(ミリグラム)、クレアチニン吸着量(ミリグラム)、尿酸吸着量(ミリグラム)、アデノシン吸着量(ミリグラム)、アリザリンシアニングリーン吸着量(ミリグラム)、リゾチーム吸着量(ミリグラム)、α−アミラーゼ吸着量(ミリグラム)、及び、アルブミン吸着量(ミリグラム)、3−メチルインドール吸着量(ミリグラム)、テオフィリン吸着量(ミリグラム)、L−トリプトファン吸着量(ミリグラム)、インジカン吸着量(ミリグラム)、イノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩吸着量(ミリグラム)、アデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩吸着量(ミリグラム)を、以下の表5、表6、表7、表8、表9、表10、表11、表12、表13、表14、表15、表16、表17、表18に示す。表5から表18に示すように、実施例2−1A〜実施例2−5Bの試料の吸着量は、参考例2−1〜参考例2−4の試料の吸着量よりも多いことが判った。また、表5〜表18に示した結果に基づき、参考例2−4のクレメジン原体1グラム当たりの吸着量を「1.0」としたときのインドール吸着量、クレアチニン吸着量、尿酸吸着量、アデノシン吸着量、アリザリンシアニングリーン吸着量、リゾチーム吸着量、α−アミラーゼ吸着量の規格化された値を、表19に示し、3−メチルインドール吸着量、テオフィリン吸着量、L−トリプトファン吸着量、インジカン吸着量、イノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩吸着量、アデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩吸着量の規格化された値を、表20に示す。また、参考例2−4のクレメジン原体1グラム当たりの吸着量を「1.0」としたときのインドール吸着量、クレアチニン吸着量、尿酸吸着量、アデノシン吸着量、アリザリンシアニングリーン吸着量、リゾチーム吸着量、アルブミン吸着量の規格化された値を示すグラフを図3に示し、更には、実施例2−3A、実施例2−5B、及び、参考例2−4におけるインドールの水溶液(水溶液A)での吸着量と吸着時間の関係を調べた結果を示すグラフを図4に示す。表19、表20及び図3からも、実施例2における吸着剤は、数平均分子量が、1×102乃至5×104、好ましくは1×102乃至2×104、より好ましくは1×102乃至1×104の有機物を効果的に吸着することが判る。
【0063】
[表5]

【0064】
[表6]

【0065】
[表7]

【0066】
[表8]

【0067】
[表9]

【0068】
[表10]

【0069】
[表11]

【0070】
[表12]

【0071】
[表13]

【0072】
[表14]

【0073】
[表15]

【0074】
[表16]

【0075】
[表17]

【0076】
[表18]

【0077】
[表19]

【0078】
[表20]

【実施例3】
【0079】
実施例3は、本発明の第1の態様〜第3の態様に係るアレルゲンを吸着する吸着剤に関する。実施例3においては、多孔質炭素材料として、実施例2−3Bの試料を用いた(表1参照)。また、参考例として、参考例2−1の試料を用いた(表2参照)。そして、実施例2−3B及び参考例2−1の試料、1グラム当たりのダニに起因したアレルゲン(Der p 1)及び杉の花粉に起因したアレルゲン(Cry j 1)の吸着量を測定した。吸着量を測定は、基本的に、実施例2と同様の方法で行った。Der p 1 の分子量は3万6千乃至4万、Cry j 1 の分子量は5万である。参考例2−1の試料における吸着量を「1」としたときの実施例2−3Bの吸着量は、以下の表21のとおりであった。このように、実施例3における吸着剤は、アレルゲンを効果的に吸着することが判る。
【0080】
[表21]
Der p 1 2.94倍
Cry j 1 1.50倍
【実施例4】
【0081】
実施例4は本発明の第1の態様〜第3の態様に係るマスク及び吸着シートに関する。花粉症対策マスクの模式図を図2の(A)に示し、花粉症対策マスクの本体部分(吸着シート)10の模式的な断面構造を図2の(B)に示すが、この花粉症対策マスクの本体部分10は、セルロースから成る不織布11と不織布11との間に、シート状にした多孔質炭素材料12が挟み込まれた構造を有する。
【0082】
実施例1において説明した多孔質炭素材料をシート状とするためには、例えば、カルボキシニトロセルロースをバインダーとした多孔質炭素材料/ポリマー複合体を形成するといった方法を採用すればよい。一方、実施例4の吸着シートは、実施例1において説明した多孔質炭素材料から成るシート状部材(具体的には、カルボキシニトロセルロースをバインダーとした多孔質炭素材料/ポリマー複合体)、並びに、シート状部材を支持する支持部材(具体的には、シート状部材を挟み込んだ支持部材である不織布)から構成されている。花粉症対策マスク等の各種のマスクにおける吸着剤に、本発明における多孔質炭素材料を適用することで、例えば、花粉の蛋白部位が多孔質炭素材料に吸着され、花粉を効果的に吸着することができると考えられる。あるいは又、アレルゲンを効果的に吸着することができる。
【実施例5】
【0083】
実施例5は、実施例1〜実施例4の変形である。実施例5にあっては、実施例1において説明した単分散シリカ球状微粒子を用いて、固形分濃度15%の水溶液から成る単分散シリカコロイド懸濁水溶液を調製した。そして、ポリテトラフルオロエチレン製の3cm×3cm×0.5cmの容積を有する容器又はビーカー中に単分散シリカコロイド懸濁水溶液を注入して、100゜Cにて溶媒を蒸発させ、シリカ微粒子から成るコロイド結晶体を得た。
【0084】
その後、フルフリルアルコール10.0グラム及び蓚酸六水和物0.05グラム(いずれも和光純薬工業株式会社製)の混合物を容器内のコロイド結晶体に注入し、コロイド結晶体から溢れ出た余分な混合物を軽く拭き取った。そして、デシケーター内に入れ、数回、真空引きを行い、混合物を確実に結晶内へ含浸させた。その後、空気中にて80゜Cで48時間、重合させた。
【0085】
そして、得られたシリカ・ポリマー樹脂複合体(重合体/コロイド結晶体の複合体)を容器から取り出し、管状炉にて、アルゴン雰囲気下、200度で1時間、加熱して、水分の除去及びポリマー樹脂の再硬化を行った。次いで、アルゴン雰囲気下、5゜C/分で1000゜Cまで昇温して、1000゜Cで1時間、炭素化させた後、自然冷却することで、シリカ・炭素複合体(炭素材料/コロイド結晶体の複合体)を得た。
【0086】
その後、46%弗化水素酸溶液に、室温で24時間浸漬させ、シリカコロイド単結晶体を溶解させた。その後、中性になるまで純水とエチルアルコールで洗浄を繰り返し、多孔質炭素材料を得た。
【0087】
こうして得られた多孔質炭素材料も、実施例1にて得られた多孔質炭素材料とほぼ同じ構造のものであることが判った。
【0088】
そして、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例1と同様の薬剤徐放剤を得た。得られた薬剤徐放剤は、実施例1における薬剤徐放剤と同様の特性を示した。また、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例2と同様の有機物を吸着する吸着剤を得た。得られた有機物を吸着する吸着剤は、実施例2における有機物を吸着する吸着剤と同様の特性を示し、また、実施例3におけるアレルゲンを吸着する吸着剤と同様の特性を示した。更には、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例4と同様のマスク及び吸着シートを得ることができた。
【実施例6】
【0089】
実施例6も、実施例1〜実施例4の変形である。実施例6にあっては、シリカ・ポリマー樹脂複合体(重合体/コロイド結晶体の複合体)を得た後、弗化水素酸溶液を用いてシリカコロイド単結晶体を溶解させ、その後、炭素化する以外、実施例1と同様の操作を行い、多孔質炭素材料を得た。こうして得られた多孔質炭素材料も、実施例1にて得られた多孔質炭素材料とほぼ同じ構造のものであることが判った。
【0090】
そして、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例1と同様の薬剤徐放剤を得た。得られた薬剤徐放剤は、実施例1における薬剤徐放剤と同様の特性を示した。また、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例2と同様の有機物を吸着する吸着剤を得た。得られた有機物を吸着する吸着剤は、実施例2における有機物を吸着する吸着剤と同様の特性を示し、また、実施例3におけるアレルゲンを吸着する吸着剤と同様の特性を示した。更には、得られた多孔質炭素材料に基づき、実施例4と同様のマスク及び吸着シートを得ることができた。
【実施例7】
【0091】
実施例7は、本発明の第1の態様〜第3の態様に係る機能性食品に関する。実施例7にあっては、実施例1において説明した多孔質炭素材料−A、多孔質炭素材料−B、及び、多孔質炭素材料−Cに基づき、これらの多孔質炭素材料を含む機能性食品を製造した。具体的には、多孔質炭素材料、微結晶セルロースにカルボキシメチルセルロースナトリウムをコーティングした微結晶セルロース製剤、甘味料、及び、調味料を混合し、水に分散させ、混錬、成型するといった方法に基づき、機能性食品を製造した。
【0092】
以上、好ましい実施例に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施例における多孔質炭素材料の原料や製造条件等は例示であり、適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0093】
10・・・花粉症対策マスクの本体部分(吸着シート)、11・・・不織布、12・・・多孔質炭素材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る薬剤徐放剤。
【請求項2】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る薬剤徐放剤。
【請求項3】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る薬剤徐放剤。
【請求項4】
多孔質炭素材料の表面には、化学処理が施され、又は、分子修飾されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤徐放剤。
【請求項5】
多孔質炭素材料100重量部に対して1重量部乃至200重量部の薬剤が多孔質炭素材料に吸着あるいは担持されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤徐放剤。
【請求項6】
薬剤としてイブプロフェンが多孔質炭素材料に吸着あるいは担持されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤徐放剤。
【請求項7】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る、有機物を吸着する吸着剤。
【請求項8】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る、有機物を吸着する吸着剤。
【請求項9】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る、有機物を吸着する吸着剤。
【請求項10】
多孔質炭素材料の表面には、化学処理が施され、又は、分子修飾されている請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項11】
有機物はインドールである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項12】
有機物はクレアチニンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項13】
有機物は尿酸である請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項14】
有機物はアデノシンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項15】
有機物はリゾチームである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項16】
有機物はα−アミラーゼである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項17】
有機物はアルブミンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項18】
有機物は3−メチルインドールである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項19】
有機物はトリプトファンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項20】
有機物はインジカンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項21】
有機物はテオフィリンである請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項22】
有機物はイノシン−5−1燐酸2ナトリウム塩である請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項23】
有機物はアデノシン−5−3燐酸2ナトリウム塩である請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項24】
有機物は数平均分子量が1×102乃至5×104の有機物である請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の有機物を吸着する吸着剤。
【請求項25】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る医療用の吸着剤。
【請求項26】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る医療用の吸着剤。
【請求項27】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る医療用の吸着剤。
【請求項28】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る経口投与用の吸着剤。
【請求項29】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る経口投与用の吸着剤。
【請求項30】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料成る経口投与用の吸着剤。
【請求項31】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る、アレルゲンを吸着する吸着剤。
【請求項32】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る、アレルゲンを吸着する吸着剤。
【請求項33】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る、アレルゲンを吸着する吸着剤。
【請求項34】
アレルゲンは、ダニに起因したアレルゲンである請求項31乃至請求項33のいずれか1項に記載のアレルゲンを吸着する吸着剤。
【請求項35】
アレルゲンは、杉の花粉に起因したアレルゲンである請求項31乃至請求項33のいずれか1項に記載のアレルゲンを吸着する吸着剤。
【請求項36】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料を含む機能性食品。
【請求項37】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料を含む機能性食品。
【請求項38】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を含む機能性食品。
【請求項39】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成る吸着剤を備えているマスク。
【請求項40】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る吸着剤を備えているマスク。
【請求項41】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成る吸着剤を備えているマスク。
【請求項42】
多孔質炭素材料の表面には、化学処理が施され、又は、分子修飾されている請求項39乃至請求項41のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項43】
1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料から成るシート状部材、並びに、シート状部材を支持する支持部材から構成されている吸着シート。
【請求項44】
巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されている多孔質炭素材料から成るシート状部材、並びに、シート状部材を支持する支持部材から構成されている吸着シート。
【請求項45】
巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料から成るシート状部材、並びに、シート状部材を支持する支持部材から構成されている吸着シート。
【請求項46】
多孔質炭素材料の表面には、化学処理が施され、又は、分子修飾されている請求項43乃至請求項45のいずれか1項に記載の吸着シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−106007(P2010−106007A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180534(P2009−180534)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】