説明

薬剤混合機器

【課題】
肝癌等の癌塞栓化学療法に用いられる2種類以上(複数種類)の薬剤を混合する、乳化液剤又は懸濁液剤の調製において、調製する人によらず一定の物性の乳化液剤又は懸濁液剤の調製を達成することを目的とする。
【解決手段】
乳化液剤又は懸濁液剤の調製において、設定した回数、速度及び圧力の条件に応じて接続器具により接続した2本のシリンジを交互にパンピングさせる薬剤混合調製機を用いて、密封系において機械的に乳化液剤又は懸濁液剤を自動調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類以上(複数種類)の薬剤を混合して乳化液剤又は懸濁液剤を調製する方法およびそれに用いる混合機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2種類以上(複数種類)の薬剤を混合して乳化液剤又は懸濁液剤を調製する方法としては、大別して機械的(物理的)方法及び化学的方法の2種類が挙げられる。そのうち機械的方法には、用いる機器により、攪拌法、超音波法、振動法、滴下法、パンピング法などの手法がある。シリンジを用いたパンピング法は、高圧ホモジナイザー、ミル、ミキサーなど大掛かりな機器を必要としないこと、また小容量での調製において比較的薬液の損失が少ないことなどの利点から、簡便に乳化液剤又は懸濁液剤を調製できる方法として研究、臨床現場において汎用されている。
従来のパンピング法は、用時に2種類の薬剤を2本のシリンジにそれぞれ分取し、三方活栓やダブルハブニードル等の接続器具で2本のシリンジの筒先どうしを接続したのち、手動で交互にパンピングして内容物を往復移動させることにより、乳化液剤又は懸濁液剤を混合調製するものであった(例えば、特許文献1参照)。また、2本のシリンジの接続部に多孔体を設けることにより粒子径の均一なエマルションを生成するデバイスも考案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2577239号公報
【特許文献2】特開2005−186026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、肝癌等の癌の化学塞栓療法などにおいて、2種類以上の薬剤を混合した乳化液剤及び懸濁液剤が使用されている。その際、乳化液剤又は懸濁液剤は、必要となる物性及び使用量が患者毎に異なっているため、用時に患者の状態に合わせて混合調製する必要がある。
上記の器具を用いて薬剤を混合調製する場合には、パンピングを手動で行うため、調製者により回数、速度、圧力といった調製条件が異なり、調製される乳化液剤又は懸濁液剤の物性にばらつきがでるというような問題があった。
この問題を解決すべく、2本のシリンジの接続部に多孔体を設けることにより粒子径の均一なエマルションを生成するデバイスも考案されているが(例えば、特許文献2参照)、手動による操作であることや多孔体の径に限りがあることから、患者の状態に合わせた物性を実現できない問題は依然として残っている。
また、この問題を解決すべく、パンピングを機械的に行うためには、従来のシリンジポンプのように流量が低い機械では、薬剤を混合調製するのに必要な圧入速度が得られず、接続器具で接続した2本のシリンジを交互にスムースにパンピングすることができない。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされ、ディスポーザブルシリンジ等、汎用されるシリンジを用いた小容量の乳化液剤又は懸濁液剤の調製において、調製者によらず均一な物性の乳化液剤又は懸濁液剤の調製を達成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記(1)から(7)の本発明により達成される。
(1)接続器具により筒先どうしを連通可能に接続した少なくとも一方が液状である2本の薬剤が充填されたシリンジの押し子を所定の混合条件で交互にパンピングし、前記薬液を往復移動させて乳化液剤又は懸濁液剤を自動的に調製することのできる薬剤混合方法。
(2)前記薬剤は、抗癌剤の散剤を予め溶解してある水性造影剤と油性造影剤、抗癌剤の水溶液と油性造影剤、または抗癌剤の散剤と油性造影剤の組み合わせである上記(1)記載の薬剤混合方法。
(3)薬液を35×10−8〜31×10−5/s(流量)で往復移動する上記(1)記載の薬剤混合方法。
(4)往復移動される薬剤が0.1mL〜50mLである上記(1)記載の薬剤混合方法。
(5)薬剤を8×10−7〜14×10−5/s(流量)で往復移動する上記(1)記載の薬剤混合方法。
(6)往復移動される薬剤が1mL〜20mLである上記(1)記載の薬剤混合方法。
(7)接続器具により筒先どうしを連通可能に接続した2本の薬液が充填されたシリンジの押し子を交互にパンピングする駆動部と、該駆動部がパンピングする際の混合条件を入力する制御部とを有し、該制御部が前記駆動部を入力された混合条件でシリンジの押し子をパンピングさせることにより前記薬剤を往復移動させて乳化液剤又は懸濁液剤を自動的に調製することのできる薬剤混合機器。
【発明の効果】
【0006】
以上述べたごとく、本発明の薬剤混合機器を用いて、機械的に乳化液剤又は懸濁液剤を自動調製する方法によれば、設定した所定の混合条件に応じて調製者によらず癌の化学塞栓療法等に適した一定の物性の乳化液剤又は懸濁液剤が調製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の薬剤混合機器は、接続器具により筒先どうしを接続した2本のシリンジを把持し、シリンジ押子の押出と解除(引き戻し)を交互に繰り返すことのできる機器であって、ポンピング回数、速度及び圧力などの条件を設定する制御部と、設定条件に応じて2本のシリンジを交互にポンピングさせる駆動部を有する。
【0008】
本発明の薬剤混合機器に用いられるシリンジは、臨床現場で汎用されているもので、先端ノズル(筒先)を有する外筒と、薬液の圧入による液漏れを起こさない十分な耐圧性能のガスケットを有する押し子から構成されたシリンジが好ましく、衛生面からディスポーザブルであること及び安全面からルアーロックタイプであることがより好ましい。
また、本発明の薬剤混合機器に用いられる接続器具は、シリンジと同様、臨床現場で汎用されているもので、薬液の圧入に対する十分な耐圧性能を有する仕様の三方活栓が好ましい。
【0009】
駆動部は、油圧シリンダ、エアシリンダ、電動シリンダなどを選択できるが、電動シリンダがより好ましく、電動シリンダであれば、多点位置決め、速度及び加速・減速の設定などが可能であり、乳化液剤又は懸濁液剤の物性をより細かく制御することが出来る。また電源装置さえあれば、圧搾空気などのように大掛かりな設備を必要とせず、どのような場所にでも設置可能であるため、動力源は電気が好ましい。
【0010】
本発明の薬剤混合機器で混合される薬剤としては、例えば、抗癌剤及び造影剤の組合せが挙げられる。混合される抗癌剤は液剤あるいは散剤のいずれでもよい。
抗癌剤の液剤と油性造影剤を混合した乳化液剤、あるいは、抗癌剤の散剤を予め小容量の水性造影剤に溶解した後、これを油性造影剤と混合した乳化液剤、あるいは、抗癌剤の散剤と油性造影剤を混合した懸濁液剤、などが挙げられる。
【0011】
混合される抗癌剤としては、例えば、シスプラチン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC、ネオカルチノスタチン、ミリプラチンなどが挙げられる。上記の抗癌剤と混合される造影剤としては、例えば、油性あるいは水性の造影剤が用いられる。該油性造影剤としては、ヨード化油の不飽和脂肪酸及びそのエステル、さらにこれらを含む植物及び動物性油脂類のヨード化物が挙げられる。具体的にはヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルなどが挙げられる。また、該水性造影剤としては、非イオン性造影剤が好ましく、例えばイオヘキソール、イオパミドール、イオキシラン、イオメプロール、イオプロミド、イオベルソールなどが挙げられる。
【0012】
2種類の薬剤を2本のシリンジにそれぞれ分取し、圧入に耐えうる接続器具で2本のシリンジの筒先どうしを接続したのち、薬剤混合機器に固定する。制御部に、パンピング回数、押し子の押出し速度、押出し加・減速度、圧力、等必要な項目を入力し、プログラムをスタートさせ、薬剤を交互にパンピングして内容物を往復移動させることにより、乳化液剤又は懸濁液剤を混合調製する。
【0013】
以下に本発明の薬剤混合機器について、薬剤混合機器に適用した1つの好適な実施形態について添付の図面を参照して詳細に述べるが、以下に説明する装置構成に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0014】
(実施例1) 図1は後述するステップS103の注入開始位置の状態にあるシリンジ(11、12)と接続器具(10)を装着した薬剤混合機器(A)の平面図である。薬剤混合機器(A)は、各部品を設置するテーブル(1)、シリンジを固定する治具を設置する台(2)、三方活栓(10)でL字型に接続した2本のシリンジ(11、12)を固定する治具(3、4)、各シリンジの押し子を押す電動シリンダ(5、6)、シリンダを制御するコントローラ(7)、プログラムをセットするティーチングボックス(8)、電源(9)で構成されている。そして、薬剤混合機器(A)の治具(3、4)にシリンジ(11、12)を各々のシリンジの筒先(ノズル)に接続器具である三方活栓を接続した状態で装着してある。
【0015】
シリンジ固定台(2)はテーブル(1)の所定位置に設置されている。三方活栓(10)でL字型に接続した2本のシリンジ(11、12)を用意し、シリンジ固定台(2)上にシリンジ固定治具(3、4)を用いて固定する。2本の電動シリンダ(5、6)(RCP2−RA4C、株式会社IAI)をそれぞれ2本のシリンジの押し子を交互に押すことの出来る位置に十字型かつ立体的に交差させて設置する。各シリンダを制御するコントローラ(7)(PSEL、株式会社IAI)を所定位置に設置し、2本の電動シリンダ(5、6)とティーチングボックス(8)(X−SEL、株式会社IAI)をコントローラ(7)に接続する。その後、コントローラより電源を投入する。
【0016】
プログラム工程の詳細について、添付の図2を参照にして述べる。シリンダの移動条件を設定するため、各工程における電動シリンダのポジションデータ(シリンダの移動距離、シリンダの移動速度・加速度・減速度)を入力し、これらを組み合わせることでパンピングを機械的に行うプログラムを作成する。
電動シリンダを原点復帰する(ステップS101)。なお、原点はパンピング時に押し子の当たらない遠位側の点をプログラム上で定めておく。電動シリンダ5をシリンジ11の押し子後部(ステップS103注入開始位置)に移動し、電動シリンダ6をステップS103にてシリンジ11の薬液が注入された後のシリンジ12の押し子後部(ステップS105注入開始位置)に移動する(ステップS102)。電動シリンダ5を移動し、シリンジ11の薬液をシリンジ12へ注入する(ステップS103)。電動シリンダ5を注入開始位置に戻す(ステップS104)。電動シリンダ6を移動し、シリンジ12の薬液をシリンジ11へ注入する(ステップS105)。電動シリンダ6を注入開始位置に戻す(ステップS106)。指定回数までステップS103〜106を繰り返す(ステップS107)。
【0017】
薬剤混合機器による乳化液剤の調製(試験例1〜3)
ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル注射液(リピオドール(登録商標)ウルトラフルイド、ゲルベ・ジャパン株式会社)5mLを10mL容量のディスポーザブルシリンジ(テルモシリンジ(登録商標)、10mL、テルモ株式会社)にとり、非イオン性造影剤(オムニパーク(登録商標)240、第一三共株式会社)5mLを5mL容量のディスポーザブルシリンジ(テルモシリンジ、5mL、テルモ株式会社)にとった。2本のシリンジを三方活栓(テルフュージョン(登録商標)、テルモ株式会社)でL字型に接続し、シリンジ固定治具にセットした。
ステップS103〜S106のポジションデータを表1の試験例1〜3の欄の通りにそれぞれ設定し、プログラムのステップS107を30回に設定した後、プログラムを実行し、乳化液剤を作製した。得られた乳化液剤の粒度分布を粒度分布測定装置(LS230、ベックマン・コールター株式会社)で測定し、最頻径(単位:μm)を求めた。試験例1〜3の結果を表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

1) 5mLシリンジ及び10mLシリンジにおける流量
【0020】
手動による乳化液剤の調製(比較例1)
ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル注射液(リピオドールウルトラフルイド、ゲルベ・ジャパン株式会社)5mLをディスポーザブルシリンジ(テルモシリンジ、10mL、テルモ株式会社)にとり、非イオン性造影剤(オムニパーク240、第一三共株式会社)5mLをディスポーザブルシリンジ(テルモシリンジ、5mL、テルモ株式会社)にとった。2本のシリンジを三方活栓(テルフュージョン、テルモ株式会社)でL字型に接続した。被験者10名につき、両手で交互に30回パンピングを行い、乳化液剤を作製した。得られた乳化液剤の粒度分布を粒度分布測定装置(LS230、ベックマン・コールター株式会社)で測定し、最頻径(単位:μm)を求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0021】
【表3】

【0022】
上述の通り、薬剤混合機器を使用した試験例1〜3(表2)及び手動で行った比較例1(表3)について、得られた乳化液剤の粒度分布を粒度分布測定装置で測定し、最頻径を求めた。その結果、パンピング回数を30回に設定したとき、薬剤混合機器を使用した試験例1〜3では、最頻径の標準偏差が0.00〜1.40であったのに対し、手動で行った比較例1では6.92であった。薬剤混合機器を使用する場合には、パンピングの速度・圧力が一定であるため、従来のパンピング法で見られた最頻径のバラツキの問題は起こりにくい。
一定の調製精度が求められる乳化液剤や懸濁液剤にとって、薬剤混合機器を用いた調製方法は有用なシステムであると考える。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の薬剤混合調製用機器及び調製方法は、例えば癌の化学塞栓療法に用いられる抗癌剤と造影剤の懸濁液剤あるいは乳化液剤の調製など、複数種類の薬剤を小容量で混合して懸濁液剤又は乳化液剤を調製する際に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1はシリンジ(11、12)と接続器具(10)を装着した薬剤混合機器(A)の平面図である。
【図2】図2はプログラム工程の詳細について示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
A 薬剤混合調製機器
1 テーブル
2 シリンジ固定台
3、4 シリンジ固定治具
5、6 シリンダ
7 コントローラ
8 ティーチングボックス
9 電源
10 三方活栓
11、12 シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続器具により筒先どうしを連通可能に接続した少なくとも一方が液状である2本の薬剤が充填されたシリンジの押し子を所定の混合条件で交互にパンピングし、前記薬液を往復移動させて乳化液剤又は懸濁液剤を自動的に調製することのできる薬剤混合方法。
【請求項2】
前記薬剤は、抗癌剤の散剤を予め溶解してある水性造影剤と油性造影剤、抗癌剤の水溶液と油性造影剤、または抗癌剤の散剤と油性造影剤の組み合わせである請求項1に記載の薬剤混合方法。
【請求項3】
薬液を35×10−8〜31×10−5/s(流量)で往復移動する請求項1に記載の薬剤混合方法。
【請求項4】
往復移動される薬剤が0.1mL〜50mLである請求項1に記載の薬剤混合方法。
【請求項5】
薬剤を8×10−7〜14×10−5/s(流量)で往復移動する請求項1に記載の薬剤混合方法。
【請求項6】
往復移動される薬剤が1mL〜20mLである請求項1に記載の薬剤混合方法。
【請求項7】
接続器具により筒先どうしを連通可能に接続した2本の薬液が充填されたシリンジの押し子を交互にパンピングする駆動部と、該駆動部がパンピングする際の混合条件を入力する制御部とを有し、該制御部が前記駆動部を入力された混合条件でシリンジの押し子をパンピングさせることにより前記薬剤を往復移動させて乳化液剤又は懸濁液剤を自動的に調製することのできる薬剤混合機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75508(P2010−75508A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248028(P2008−248028)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】